説明

多層セラミックス基板及びその製造方法

【課題】 無収縮焼成技術で作製される多層セラミックス基板において、焼結金属導体のセラミックス基板層に対する接着強度を十分に確保するとともに、めっき不良の発生を抑える。
【解決手段】 複数のセラミックス基板層2a〜2dが積層された積層体の少なくとも一方の表面に焼結金属導体(表面導体5)を有する。焼結金属導体である表面導体5を構成する導電材料が、Agを主体とするとともに、Agと固溶する貴金属を含有する。貴金属は、Au、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種である。また、表面導体5はガラス成分を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に焼結金属導体を有する多層セラミックス基板に関するものであり、さらにはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の分野においては、電子デバイスを実装するための基板が広く用いられているが、近年、電子機器の小型軽量化や多機能化等の要望に応え、且つ高信頼性を有する基板として、多層セラミッスク基板が提案され実用化されている。多層セラミックス基板は、複数のセラミックス基板層を積層することにより構成され、各セラミックス基板層に配線導体や電子素子等を一体に作り込むことで、高密度実装が可能となっている。
【0003】
前記多層セラミックス基板は、複数のセラミックスグリーンシートを積層して積層体を形成した後、これを焼成することにより形成される。そして、前記セラミックスグリーンシートは、この焼成工程における焼結に伴って必ず収縮し、多層セラミックス基板の寸法精度を低下する大きな要因となっている。具体的には、前記収縮に伴って収縮バラツキが発生し、最終的に得られる多層セラミックス基板においては、寸法精度は0.5%程度に留まっている。
【0004】
このような状況から、多層セラミックス基板の焼成工程において、セラミックスグリーンシートの面内方向の収縮を抑制し、厚さ方向にのみ収縮させる、いわゆる無収縮焼成技術が提案されている。焼成温度でも収縮しないシート(拘束層)をセラミックスグリーンシートの積層体に貼り付け、この状態で焼成を行うと、前記面内方向の収縮が抑制され、厚さ方向にのみ収縮する。この方法によれば、多層セラミックス基板の面内方向の寸法精度を例えば0.05%程度にまで改善することが可能である。
【0005】
ところで、前述の多層セラミックス基板では、その外側表面にも配線導体(表面導体)が形成されるが、表面導体を焼結金属により形成する場合、Agを導電材料とする導電ペーストを使用し、且つ使用する導電ペーストにガラスフリットを添加するのが一般的である(例えば、特許文献1等を参照)。導電材料としては、Agを用いるのが製造コスト上有利である。また、焼結金属からなる表面導体(焼結金属導体)とセラミックス基板層との接着強度を確保する上でガラスフリットの添加が有効であり、特許文献1においても、例えば段落番号0051に、Ag粉末に接着強度を高めるためのガラスフリットを加えたものを無機成分とする導電ペーストを用いることが記載されている。
【0006】
しかしながら、表面導体の形成にAgを導電材料とするガラスフリット入りの導電ペーストを用いた場合、めっき不良が発生し易く、はんだ濡れ性を損なうという問題がある。導電ペーストがAgとガラスフリットの両者を含んでいる場合、拘束層が導電ペーストと接した状態で焼成を行うと、導電ペーストに含まれるAgが拘束層に拡散し、同時にガラスフリットも拘束層に入り込んで拘束層の構成成分と反応し、多量の残渣(拘束層の残存物)が発生してしまう。前記残渣が発生すると、めっきが残渣によって阻害され、めっき不良の原因となる。多層セラミックス基板の表面導体を焼結金属で形成する場合、その表面をめっきして信頼性を確保することが広く行われているが、前記めっき不良の発生は信頼性を大きく損なうことになる。
【0007】
ここで、例えばウエットブラスト等の技術により前記残渣を強制的に除去することも考えられるが、セラミックス基板層も大きく削れてしまうため、表面導体に浮きが生ずる等、セラミックス基板と表面導体間の密着性を損なうおそれがある。
【0008】
このような状況から、表面導体におけるめっき不良の発生を抑制したり、はんだ濡れ性を改善するための技術が各方面において開発されている(例えば、特許文献2等を参照)。特許文献2には、電極パターン上もしくは表層全面にZn系組成物を含んだペーストの印刷を行い、無収縮焼成を行うことが開示されている。特許文献2記載の発明では、Zn系組成物を含んだペーストを電極パターン上に印刷することで、電極表面のガラス中のSiとZnが結晶化を起こし、はんだ濡れ性を阻害するガラス成分を減少させている。
【特許文献1】特開平5−343851号公報
【特許文献2】特開平7−162152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載されるようなZn系組成物を含むペーストを電極パターン上に印刷する方法では、焼成後にZn系組成物を取り除く必要があり、工程を煩雑化することになる。
【0010】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、製造工程の煩雑化を招くことなく、焼結金属導体のセラミックス基板層に対する接着強度を十分に確保することができ、且つめっき不良の発生のない多層セラミックス基板及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、無収縮焼成技術に適用可能な多層セラミックス基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明の多層セラミックス基板は、複数のセラミックス基板層が積層された積層体の少なくとも一方の表面に焼結金属導体を有する多層セラミックス基板であって、前記焼結金属導体を構成する導電材料が、Agを主体とするとともに、Agと固溶する貴金属を含有し、且つ前記焼結金属導体がガラス成分を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の製造方法は、セラミックスグリーンシートを所定枚数積層して積層体を形成する工程と、前記積層体上に導電材料及びガラス成分を含有する導電ペーストを印刷し所定のパターンを有する導電ペースト層を形成する工程と、前記積層体上に重ねて拘束層を配する工程と、所定の温度で焼成する工程と、前記拘束層を除去する工程とを有し、前記導電ペースト層に含まれる導電材料は、Agを主体とし、Agと固溶する貴金属を含有することを特徴とする。
【0013】
焼結金属導体の形成に用いる導電ペーストに含まれる導電材料をAgを主体とする導電材料とすることで、導電性に優れた焼結金属導体が低コストに形成される。ただし、Agを導電材料とする導電ペーストが拘束層と接した状態で焼成を行うと、前述の通り、導電ペーストに含まれるAgが拘束層に拡散し、同時にガラスフリットも拘束層に入り込んで拘束層の構成成分と反応し、多量の残渣(拘束層の残存物)が発生する。
【0014】
そこで、本発明においては、導電材料として、前記Agの一部を前記貴金属(例えばAuやPd、Pt等)で置換することにより、前記残渣の発生を抑えるようにしている。Agの一部を前記貴金属で置換すると、Agと拘束層との反応が抑制され、拘束層と接した状態で焼成してもAgが拘束層中に拡散し難くなる。その結果、ガラスと拘束層に含まれる構成成分との反応も抑制され、残渣の発生が抑えられる。
【0015】
一方、導電ペーストとしてガラス成分を含有する導電ペーストを用いているので、焼結金属導体とセラミックス基板層とがガラス成分で接着された形になり、焼結金属導体のセラミックス基板層に対する接着強度(密着強度)も十分に確保される。
【0016】
前記焼結金属導体の形成に際しては、導電ペーストに含まれる導電材料を変更するだけでよく、例えば焼成後にZn組成物を除去する工程等は必要なく、製造工程を煩雑化することはない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造工程の煩雑化を招くことなく、焼結金属導体のセラミックス基板層に対する接着強度が高く、且つめっき不良の発生のない多層セラミックス基板を提供することが可能である。また、本発明は無収縮焼成技術にも適用可能であり、寸法精度に優れ、しかも焼結金属導体の接着強度とめっき性とを両立した多層セラミックス基板を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した多層セラミックス基板及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
多層セラミックス基板1は、例えば図1に示すように、複数層のセラミックス基板層2(ここでは4層のセラミックス基板層2a〜2d)が積層された積層体を主体とするものであり、当該積層体において、セラミックス基板層2a〜2dを貫通するビア導体3や内層となるセラミックス基板層2b,2cの両面に形成された内部導体4を形成し、さらには最外層となるセラミックス基板層2a,2dの外側表面に表面導体5を形成することにより構成されるものである。
【0020】
各セラミックス基板層2a〜2dは、例えばガラスセラミックス等から形成され、所定の組成を有するガラス組成物にアルミナ(Al)等のセラミックス材料を加えたものを焼成することにより形成される。ここで、ガラス組成物を構成する酸化物としては、SiOやB、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、TiO、MgO、ZnO、PbO、LiO、NaO、KO等を挙げることができ、これらを適宜組み合わせて用いればよい。多層セラミックス基板1を構成する各セラミックス基板層2a〜2dを前記ガラスセラミックスとすることにより、低温での焼成が可能となる。勿論、これに限らず、各セラミックス基板層2a〜2dにガラスセラミックス以外の各種セラミックス材料を使用することも可能である。
【0021】
また、前記ビア導体3や内部導体4は、いずれも導電ペーストを焼成することにより形成される焼結金属導体である。導電ペーストは、導電材料を主体とし、これを有機ビヒクルと混練することにより調製されるものである。導電材料としては、Ag、Au、Pd、Pt、Cu等を挙げることができるが、これらの中ではAgを用いることが好ましい。導電材料としてAgを用いることで、低抵抗の焼結金属導体の形成が可能であり、また、例えばAuやPd等の貴金属を用いる場合に比べて製造コストを抑えることが可能である。Cuは焼成雰囲気の制御が困難である。なお、導電材料として前記Agを用いる場合、Agを主体とするものであれば他の金属成分を含んでいてもよい。
【0022】
これら焼結金属導体のうち、ビア導体3は、各セラミックス基板層2a〜2dに形成されたビアホールに導電ペーストの焼成により残存する導電材が充填形成された形で形成されており、このビア導体3によって各セラミックス基板層2a〜2dに形成された内部導体4や表面導体5の間を電気的に接続したり、熱を伝導する等の機能を果たしている。ビア導体3の断面形状は、通常は概ね円形であるが、これに限らず、限られた形状スペース範囲において大きな断面積を得るために、例えば楕円形、長円形、正方形等、任意の形状とすることができる。
【0023】
一方、前記表面導体5も導電ペーストを焼成することにより形成される焼結金属導体であるが、この表面導体5は、Agを主体とし、且つAgと固溶する貴金属を含有する導電材料により形成されている。前記表面導体5が、Agのみならず前記貴金属を含有していることで、後述の製造プロセスにおいて、拘束層へのAgの拡散を抑制し、残渣の発生を抑えることができる。
【0024】
ここで、前記貴金属としては、Agと固溶するものであれば任意の貴金属を使用することができるが、例えばAu、Pd、Ptを用いることが好ましい。これら貴金属の1種または2種以上を前記Agと併用することで、拘束層へのAgの拡散を効果的に抑えることができる。
【0025】
この場合、前記貴金属の割合としては、導電材料中、1質量%〜10質量%とすることが好ましい。貴金属の割合が1質量%未満であると、Agの拡散防止効果を十分に得ることができない。逆に、貴金属の割合が10質量%を越えると、焼結金属導体(表面導体5)とセラミックス基板層2a,2dとの密着性が低下し、十分な密着強度を確保することが難しくなるおそれがある。
【0026】
前記貴金属は、表面導体5中において、Agと合金化して存在してもよく、あるいはAgとは別個に存在してもよい。ただし、Agの拡散防止効果を得るためには、少なくともその一部がAgと固溶していることが好ましい。
【0027】
また、前記表面導体5には、ガラス成分が含まれていることが必要である。表面導体5がガラス成分を含有することで、ガラス成分が表面導体5とセラミックス基板層2a,2dとを接着する役割を果たし、表面導体5とセラミックス基板層2a,2d間の接着強度(密着強度)が十分に確保される。
【0028】
表面導体5におけるガラス成分の含有量Aは、2体積%<A≦20体積%とすることが好ましい。表面導体5に含まれるガラス成分の含有量Aが2体積%以下であると、基板(セラミックス基板層2a,2d)との接着強度が不十分になるおそれがある。逆に、表面導体5aに含まれるガラス成分の含有量Aが20体積%を越えると、表面導体5の抵抗値が上昇するおそれがあり、また表面部分へガラス成分が過剰に浸透してガラス浮きが生ずるおそれもある。
【0029】
焼結金属導体として形成される前述の表面導体5の表面には、はんだ付け性を向上し信頼性の高い電気的接続を図ること等を目的に、めっき被膜を形成することが好ましい。例えば、図2に示すように、表面導体5上にNiめっき膜6を形成し、さらにその上にAuめっき膜7を形成する。これに限らず、例えばNiめっき膜6のみを形成してもよいし、Auめっき膜7のみを形成してもよい。さらに、めっき膜の種類も任意であり、例えばはんだめっき膜等とすることも可能である。これらめっき膜を形成することで、表面導体5の信頼性を向上することができる。
【0030】
本実施形態の多層セラミックス基板1では、表面導体5の導電材料としてAgのみならず貴金属を含んでいることから、Agの拘束層への拡散が防止され、残渣の発生が抑えられる。したがって、表面導体5のめっき性が良好なものとなり、前記Niめっき膜6やAuめっき膜7をめっきする際に、めっき不良が発生することがない。また、表面導体5とセラミックス基板層2a,2d間の密着性も十分に確保される。
【0031】
次に、無収縮焼成プロセスを適用して前述の多層セラミックス基板1を製造する方法について説明する。
【0032】
多層セラミックス基板1を作製するには、先ず、図3(a)に示すように、焼成後に各セラミックス基板層2a〜2dとなるセラミックスグリーンシート11a〜11dを用意する。セラミックスグリーンシート11a〜11dは、酸化物粉末(ガラスセラミックス粉末等)と有機ビヒクルとを混合してスラリー状の誘電体ペーストを作り、これを例えばポリエチレンテレフタレート(PET)シート等の支持体上にドクターブレード法等によって成膜することにより形成する。前記有機ビヒクルとしては、公知のものがいずれも使用可能である。
【0033】
前記セラミックスグリーンシート11a〜11dの形成後、所定の位置に貫通孔(ビアホール)を形成する。前ビアホールは、通常は円形の孔として形成され、ここに導電ペースト12を充填することによりビア導体が形成される。さらに、内層となるセラミックスグリーンシート11b,11cの表面に所定のパターンで導電ペーストを印刷し、内部導体パターン13を形成する。
【0034】
前記ビアホールに充填される導電ペースト12や内部導体パターン13の形成に用いられる導電ペーストは、例えばAg、Au、Cu等の各種導電性金属や合金からなる導電材料と有機ビヒクルとを混練することにより調製されるものである。有機ビヒクルは、バインダと溶剤を主たる成分とするものであり、導電材料との配合比等は任意であるが、通常はバインダ1〜15質量%、溶剤が10〜50質量%となるように導電材料に対して配合される。導電ペーストには、必要に応じて各種分散剤や可塑剤等から選択される添加物が添加されていてもよい。
【0035】
一方、最も外側に配置されるセラミックスグリーンシート11a,11dには表面導体パターン14を形成するが、表面導体パターン14の形成には、Agを主体とし、Agと固溶する貴金属(Au、Pd、Pt)を含有する導電材料を含む導電ペーストを用いる。Agと前記貴金属は、例えば予め合金化したものを前記導電材料として用いてもよいし、Ag粉と貴金属粉を混合して導電材料としてもよい。貴金属の配合比率は、導電材料中、1質量%〜10質量%とすることが好ましい。
【0036】
また、前記導電ペーストはガラス成分を含んでいる必要があり、ガラスフリット等を前記導電材料と混合して用いる。使用するガラス成分の種類は任意である。例示するならば、Zn系ガラスやCa系ガラス等を挙げることができる。Zn系ガラスは、ZnO、B、SiO、MnO等の酸化物からなるものであり、Ca系ガラスは、CaO、B、SiO、ZrO等の酸化物からなるものである。
【0037】
前記導電ペーストに含まれるガラス成分の含有量Aは、2体積%<A≦20体積%とすることが好ましい。導電ペーストに含まれるガラス成分の含有量Aが2体積%以下であると、基板(セラミックス基板層2a,2d)との接着強度が不十分になるおそれがある。逆に、導電ペーストに含まれるガラス成分の含有量Aが20体積%を越えると、形成される表面導体5の抵抗値が上昇するおそれがあり、また表面導体5の表面部分へガラス成分が過剰に浸透してガラス浮きが生ずるおそれもある。なお、前記ガラス成分の含有量Aは、導電ペーストに含まれる導電材料とガラス成分の合計量を100体積%としたときの比率である。
【0038】
各セラミックスグリーンシート11a〜11dに導電ペースト12を充填し、内部導体パターン13や表面導体パターン14を形成した後、図4(b)に示すように、これらを重ねて積層体とするが、このとき、積層体の両側(最外層)に収縮抑制用グリーンシート15を拘束層として配し、焼成を行う。
【0039】
拘束層となる収縮抑制用グリーンシート15には、前記セラミックスグリーンシート11a〜11dの焼成温度では収縮しない材料、例えばトリジマイトやクリストバライト、さらには石英、溶融石英、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素等を含む組成物が用いられ、これら収縮抑制用グリーンシート15間に積層体を挟み込み、焼成を行うことで前記積層体の面内方向での収縮が抑えられる。
【0040】
ここで、例えば、収縮抑制材料の1種であるトリジマイトは、例えば平均粒子径50μm以上の石英粒子と炭酸カリウム水溶液とを混合した後、加熱によって水分を除去し、焼成を行うことにより製造する。製造に際して、炭酸カリウム(KCO)を添加物として用いるが、炭酸カリウムを水溶液として石英粒子と混合することで、石英粒子の周囲に均一に炭酸カリウムがコーティングされる。また、前記コーティングの後、例えばマイクロ波加熱を行うことで、水分が速やかに除去される。このような前処理を経た後に焼成を行うと、低温且つ短時間の焼成により効率的にトリジマイト相が生成する。
【0041】
このようにして製造されるトリジマイトにはカリウムが含まれ、当該カリウムの含有に起因してガラス成分との反応が起こり易くなる。本実施形態では、前述のように表面導体パターン14の形成に用いる導電ペーストの導電材料を貴金属で一部置換したAgを用いているので、収縮抑制材料としてトリジマイトを用いた場合にも表面導体パターン14中のAgが拘束層15中に拡散することがなく、残渣の発生が抑えられる。
【0042】
図3(b)は、いわゆる積層体の仮スタックの状態であるが、次に、図3(c)に示すようにプレスを行い、さらに図3(d)に示すように焼成を行う。収縮抑制用グリーンシート15の収縮抑制材料として前記トリジマイトを使用した場合、焼成後には、図3(e)に示すように、熱膨張の差により前記収縮抑制用グリーンシート15は自然剥離され、多層セラミックス基板1が得られる。収縮抑制材料としてトリジマイト以外の材料を使用した場合には、焼成後に残渣を除去する残渣除去工程を追加することにより、同様に多層セラミックス基板1が得られる。
【0043】
得られる多層セラミックス基板1においては、前記セラミックスグリーンシート11a〜11dはガラスセラミックス層2a〜2dとなり、前記ビアホール内の導電ペースト12はビア導体3になる。同様に、内部導体パターン13も内部導体4となる。表面導体パターン14は表面導体5になる。
【0044】
前述の製造方法における通常のプロセスとの変更点は、表面導体パターン14の形成の際に用いる導電ペーストの導電材料を変更することだけであり、工程を何ら追加する必要がない。したがって、製造プロセスを煩雑化することなく、前述の効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0046】
貴金属としてAuを用いた場合(実験1)
先の実施形態に準じて多層セラミックス基板を作製した。作製に際しては、表面導体パターンの形成に用いる導電ペーストの配合を表1に示すように変えて各種多層セラミックス基板を作製した。なお、試料A,F,Kにおいては貴金属を使用しておらず、したがってこれら試料は比較例に相当するものである。
【0047】
作製した各多層セラミックス基板について、残渣除去率、残渣除去性、接着強度、接着性を評価した。なお、残渣除去率は、表面導体の表面を走査電子顕微鏡で観察し、形成面積中の金属が露出している面積の割合を算出した。残渣除去性は、前記残渣除去率が95%以上の場合を○、95%未満の場合を×とした。残渣除去率95%以上ではんだ濡れ性やめっき性が良好なものとなる。
【0048】
接着強度の測定は、次のようにして行った。先ず、セラミックス基板層表面に直径1.0mmの導体を10個形成し、評価用の支持体にはんだ付けした。支持体とセラミックス基板層をそれぞれ治具で固定し、一定速度で引き剥がし、破壊した時の応力を接着強度とした。また、この時、セラミックス基板層と表面導体の界面で破壊したものはセラミックス基板層と表面導体との間の接着性が不十分と判断し、接着性を×とした。その他の部分、例えば支持体やセラミックス基板層自体が破壊された場合には、接着性を○とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、Agの一部をAuで置換することにより、残渣除去性が良好なものとなっている。ただし、Auの置換量が10質量%を越える試料E,Jでは、接着性が低下する傾向にある。
【0051】
貴金属としてPdを用いた場合(実験2)
Auの代わりにPdを用い、他は先の実験1と同様に多層セラミックス基板を作製し、残渣除去率、残渣除去性、接着強度、接着性を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から明らかなように、Auの場合と同様、Agの一部をPdで置換することにより残渣除去性が良好なものとなっている。また、Pdの置換量が10質量%を越える試料Oでは、接着性が低下している。
【0054】
貴金属としてPtを用いた場合(実験3)
Auの代わりにPtを用い、他は先の実験1と同様に多層セラミックス基板を作製し、残渣除去率、残渣除去性、接着強度、接着性を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3から明らかなように、Auの場合と同様、Agの一部をPtで置換することにより残渣除去性が良好なものとなっている。また、Ptの置換量が10質量%を越える試料Sでは、接着性が低下している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】多層セラミックス基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】表面導体の構成例を示す要部概略断面図である。
【図3】多層セラミックス基板の製造プロセスを示す模式的な断面図であり、(a)はガラスセラミックスグリーンシート及び内部導体形成工程、(b)は仮スタック工程、(c)はプレス工程、(d)は焼成工程、(e)は収縮抑制用グリーンシート剥離工程を示す。
【符号の説明】
【0058】
1 多層セラミックス基板、2a〜2d セラミックス基板層、3 ビア導体、4 内部導体、5 表面導体、6 Niめっき膜、7 Auめっき膜、11a〜11d セラミックスグリーンシート、12 導電ペースト、13 内部導体パターン、14 表面導体パターン、15 収縮抑制用グリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス基板層が積層された積層体の少なくとも一方の表面に焼結金属導体を有する多層セラミックス基板であって、
前記焼結金属導体を構成する導電材料が、Agを主体とするとともに、Agと固溶する貴金属を含有し、且つ前記焼結金属導体がガラス成分を含有することを特徴とする多層セラミックス基板。
【請求項2】
前記貴金属は、Au、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の多層セラミックス基板。
【請求項3】
前記導電材料における貴金属の含有量が1質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の多層セラミックス基板。
【請求項4】
前記ガラス成分の含有量が2体積%〜20体積%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の多層セラミックス基板。
【請求項5】
前記焼結金属導体表面にめっき膜が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の多層セラミックス基板。
【請求項6】
セラミックスグリーンシートを所定枚数積層して積層体を形成する工程と、
前記積層体上に導電材料及びガラス成分を含有する導電ペーストを印刷し所定のパターンを有する導電ペースト層を形成する工程と、
前記積層体上に重ねて拘束層を配する工程と、
所定の温度で焼成する工程と、
前記拘束層を除去する工程とを有し、
前記導電ペースト層に含まれる導電材料は、Agを主体とし、Agと固溶する貴金属を含有することを特徴とする多層セラミックス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−112786(P2008−112786A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293763(P2006−293763)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】