説明

多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法

【課題】熱伝導率の優れた多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ多結晶ダイヤモンド1は、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成された炭素と、炭素以外の複数の不純物とで構成され、複数の不純物の濃度がそれぞれ0.01質量%以下であり、結晶粒径が500nm以下である。上記ナノ多結晶ダイヤモンド1は、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを熱分解して得られる黒鉛に、高圧プレス装置内で熱処理を施してダイヤモンドに変換することで作製可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法に関し、特に、優れた熱伝導率を有し、ナノサイズの結晶粒を持つ多結晶ダイヤモンド(以下、「ナノ多結晶ダイヤモンド」と称する)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ多結晶ダイヤモンド焼結体が、天然の単結晶ダイヤモンドを超える硬さを有し、工具として優れた性質を備えるということが明らかになってきた。該ナノ多結晶ダイヤモンド焼結体の硬度は、ヌープ硬度でおよそ120〜130GPa程度である。このようなナノ多結晶ダイヤモンドの一例が、たとえば特開2003−292397号公報やDiamond and Related Materials,15 (2006) p.1576〜1579に記載されている。
【0003】
また、微小工具や耐摩耗性の高い工具へのニーズも高まっており、より高硬度のダイヤモンド材料が望まれるようになってきている。かかる高硬度ダイヤモンド多結晶体の一例が、たとえば特開2007−55819号公報に記載されている。
【0004】
その一方で、ダイヤモンドの熱伝導率に着目した報告もなされている。たとえば、J.Appl.Phys.69(12),15 June 1991 p.8122〜8125では、同位体濃縮された多結晶ダイヤモンド膜の熱伝導率に関する報告がなされ、Diamond and Related Materials,1 (1992) p.717〜726では、同位体組成を変化させた場合のダイヤモンドの特性が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−292397号公報
【特許文献2】特開2007−55819号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Diamond and Related Materials,15 (2006) p.1576〜1579
【非特許文献2】J.Appl.Phys.69(12),15 June 1991 p.8122〜8125
【非特許文献3】Diamond and Related Materials,1 (1992) p.717〜726
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ナノ多結晶ダイヤモンドは、その結晶粒径が小さいため、フォノンの散乱が大きくなる。このため、ナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率が、単結晶ダイヤモンドや通常の多結晶ダイヤモンドの熱伝導率と比較して、小さくなることが分かってきた。
【0008】
他方、単結晶ダイヤモンドについては、炭素同位体濃度が高くなると、熱伝導率が高くなることが知られている。しかし、CVD(Chemical Vapor Deposition)法で作製された多結晶ダイヤモンドについては、炭素同位体濃度が高くなっても熱伝導率が高くならない。よって、多結晶ダイヤモンドについては、同位体による効果が発現せず、熱伝導率が高くならないと考えられてきた。
【0009】
以上のように、ナノ多結晶ダイヤモンドについては、炭素同位体濃度を高めたとしても、熱伝導率を高めることは困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、熱伝導率の優れた多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドは、特定の炭素同位体で実質的に構成され、従来にないレベルの熱伝導率および結晶粒径を備えたダイヤモンドである。具体的には、該多結晶ダイヤモンドは、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成された炭素と、炭素以外の複数の不純物とで構成され、複数の不純物の濃度がそれぞれ0.01質量%以下であり、結晶粒径(最大長さ)が500nm以下である。
【0012】
上記多結晶ダイヤモンドは、結晶粒径が小さく、かつ高純度の12Cあるいは13Cを含み、全体にわたって不純物濃度の極めて低いものである。本発明の多結晶ダイヤモンドには、従来のような不純物の偏析も見られず、いずれの部分の不純物濃度も極めて低いものである。そのため、結晶粒界における不純物の濃度も、0.01質量%以下程度である。このように不純物濃度が極めて低く、結晶粒径が小さいことから、該多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度も高く、例えばヌープ硬度は140GPa以上である。
【0013】
上記複数の不純物としては、例えば水素、酸素、窒素、シリコン、硼素を挙げることができる。多結晶ダイヤモンド中の水素の濃度は、例えば2×1018/cm以下程度であり、酸素の濃度は、例えば2×1017/cm以下程度であり、窒素の濃度は、例えば4×1016/cm以下程度であり、シリコンの濃度は、例えば1×1016/cm以下程度であり、硼素の濃度は、例えば2×1015/cm以下程度である。
【0014】
上記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素を熱分解して得られた黒鉛(グラファイト)を焼結することで作製可能である。
【0015】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法は、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを熱分解して得られる黒鉛を準備する工程と、高圧プレス装置内で上記黒鉛に熱処理を施して該黒鉛をダイヤモンドに変換する工程とを備える。
【0016】
上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧プレス装置内で黒鉛に熱処理を施すことが好ましい。また、上記黒鉛を準備する工程は、真空チャンバ内に導入した上記炭化水素ガスを1500℃以上の温度で熱分解して基材上に黒鉛を形成する工程を含むものであってもよい。さらに、黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、上記基材上に形成された黒鉛に7GPa以上の高圧下で1500℃以上の熱処理を施してもよい。上記黒鉛中のかさ密度は、好ましくは、1.4g/cm以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多結晶ダイヤモンドを、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成し、かつ不純物の濃度を0.01質量%以下としているので、従来にない優れた熱伝導率を備えたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。
【0018】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法では、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを熱分解して黒鉛(固体炭素)を準備し、該黒鉛に熱処理を施してダイヤモンドに変換するので、従来にない優れた熱伝導率を備えたナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1つの実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンドを、基材上に形成した黒鉛から作製している様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図1を用いて説明する。
本実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンドは、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成され、不純物量が極めて少ないものである。ここで、本明細書において「不純物」とは、炭素以外の元素をいう。典型的には、ナノ多結晶ダイヤモンドには複数の不可避不純物が含まれるが、本実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンドでは、各不純物の濃度が、それぞれ0.01質量%以下である。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材2上に形成される。該ナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材2上に形成され、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成された黒鉛(グラファイト)10に熱処理を施すことで作製可能である。
【0022】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンド1は、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成されるので、フォノンの散乱を効果的に抑制することができ、熱伝導率を向上することができる。
【0023】
上記黒鉛10は、一体の固体炭素であり、結晶化部分を含む。図1の例では、多結晶ダイヤモンド1および黒鉛10は、平板状の形状を有しているが、任意の形状、厚みとすることが考えられる。基材2上に形成された黒鉛10に熱処理を施してナノ多結晶ダイヤモンド1を作製した場合には、ナノ多結晶ダイヤモンド1と黒鉛10は、基本的に同形状を有することとなる。
【0024】
黒鉛のかさ密度は、たとえば0.8g/cm以上であればよい。好ましくは、黒鉛のかさ密度は、1.4g/cm以上である。この程度の密度とすることにより、高温高圧プロセス時の圧縮による体積変化を小さく抑えることができ、温度制御が容易となるばかりでなく、歩留まりをも向上させることができる。
【0025】
黒鉛中に混入する不純物としては、たとえば窒素、水素、酸素、硼素、シリコン、結晶粒の成長を促進するような遷移金属などが挙げられる。窒素は、結晶粒界への析出量が多く、また該結晶粒界における濃度も、従来例では、通常は数100ppmに及ぶ。これによって結晶粒界で結晶粒が滑り易くなる。水素については、結晶粒界でのsp2結合によって安定するため、結果的に黒鉛の硬度を低下させる。従来の黒鉛を用いて作製したダイヤモンド焼結体では、上述のように黒鉛の原料がコークスやピッチであるため、高純度化処理を行っているにもかかわらず、必ず数100ppm程度の量の水素が黒鉛に混入してしまう。酸素は、炭素と反応しやすい上、硼素と酸化物を形成し、局所的な結晶粒の成長を促す。また、窒素と硼素は、結晶粒界での結晶粒の滑りを引き起こし、硬度を本質的な限界硬さにまで高める際の障害となる。
【0026】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドを作製するために使用する黒鉛では、窒素、水素、酸素、硼素、シリコン、遷移金属等の不純物量が、0.01質量%以下である。つまり、黒鉛中の不純物濃度が、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析での検出限界以下程度である。また、遷移金属については、黒鉛中の濃度が、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析やSIMS分析における検出限界以下程度である。
【0027】
このように、黒鉛中の不純物量をSIMS分析やICP分析での検出限界レベルにまで低下させることで、該黒鉛を用いてダイヤモンドを作製した場合に、極めて高純度で高硬度のダイヤモンドを作製することができる。なお、SIMS分析やICP分析での検出限界より若干多い不純物を含む黒鉛を用いた場合でも、従来と比較すると格段に優れた特性のダイヤモンドが得られる。
【0028】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、全体にわたって不純物濃度が極めて低く、従来のような不純物の偏析も見られず、いずれの部分の不純物濃度も極めて低くなる。このため、ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒界における不純物の濃度も、0.01質量%以下程度である。このようにダイヤモンドの結晶粒界における不純物濃度が極めて低いことから、該結晶粒界でのフォノンの散乱を効果的に抑制することができる。また、ダイヤモンドの結晶粒界における不純物濃度が極めて低いので、ダイヤモンドの結晶粒同士が単結晶に近い状態で結合し、従来の多結晶ダイヤモンドと比較すると、フォノンの進行速度を単結晶ダイヤモンドに近いものとすることも可能である。
【0029】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドが、不純物として、たとえば、水素、酸素、窒素、シリコンおよび硼素を含む場合、ナノ多結晶ダイヤモンド中の水素の濃度は2×1018/cm以下程度であり、酸素の濃度は2×1017/cm以下程度であり、窒素の濃度は4×1016/cm以下程度であり、シリコンの濃度は1×1016/cm以下程度であり、硼素の濃度は2×1015/cm以下程度である。好ましくは、ナノ多結晶ダイヤモンド中の水素の濃度は5×1017/cm以下程度であり、酸素の濃度は1×1017/cm以下程度であり、窒素の濃度は1×1016/cm以下程度であり、シリコンの濃度は5×1015/cm以下程度であり、硼素の濃度は7×1014/cm以下程度である。
【0030】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、結晶粒界における不純物濃度が極めて低いので、結晶粒界での結晶粒の滑りをも抑制することができる。その結果、従来のCVD法で作製した多結晶ダイヤモンドと比較して、結晶粒同士の結合を強化することもできる。このことも、フォノンの良好な進行に寄与し得る。その上、多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度を140GPa以上程度と高くすることもできる。
【0031】
さらに、ダイヤモンドの合成時における結晶粒の異常成長をも効果的に抑制することができ、結晶粒のサイズのバラツキも低減することができる。具体的には、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒径(最大長さ)は、500nm以下である。より詳しくは、ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒径(最大長さ)は、10〜100nm程度である。
【0032】
次に、本実施の形態におけるナノ多結晶ダイヤモンドの製造方法について説明する。
本実施の形態に係るナノ多結晶ダイヤモンドは、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを熱分解して得られる黒鉛に、高圧プレス装置内で熱処理を施してダイヤモンドに変換することで作製可能である。つまり、本実施の形態に係るナノ多結晶ダイヤモンドは、真空雰囲気で、12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で実質的に構成され極めて低不純物濃度の固相の炭素に熱処理を施して作製することができる。
【0033】
上記黒鉛は、ナノ多結晶ダイヤモンドの作製前に、真空チャンバ内で作製するようにしてもよく、基材等の上に予め形成した黒鉛を別途準備して保管等するようにしてもよい。
【0034】
上記黒鉛は、真空チャンバ内に導入され、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを1500℃以上3000℃以下程度の温度で熱分解して基材上に形成することができる。このとき、真空チャンバ内の真空度は、20〜150Torr程度とすればよい。それにより、気相の炭化水素から直接基材上に、一体の結晶状あるいは多結晶である固相の黒鉛を形成することができる。また、不純物量の極めて少ない黒鉛を基材上に作製することができる。なお、炭化水素ガスとしては、メタンガスを使用することが好ましい。
【0035】
黒鉛を基材上に作製する際には、真空チャンバ内に設置した基材を1500℃以上の温度に加熱する。加熱方法としては周知の手法を採用することができる。たとえば、基材を直接あるいは間接的に1500℃以上の温度に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置することが考えられる。
【0036】
黒鉛の作製用の基材としては、1500℃から3000℃程度の温度に耐え得る材料であればいかなる固相材料であってもよい。具体的には、金属、無機セラミック材料、炭素材料を基材として使用可能である。黒鉛中への不純物混入を抑制するという観点からは、上記基材を炭素で構成することが好ましい。固相の炭素材料としてはダイヤモンドや黒鉛を挙げることができる。黒鉛を基材として使用する場合、上述の手法で作製した不純物量の極めて少ない黒鉛を基材として使用することが考えられる。基材の材料としてダイヤモンドや黒鉛のような炭素材料を使用する場合、基材の少なくとも表面を炭素材料で構成すればよい。たとえば、基材の表面のみを炭素材料で構成し、基材の残りの部分を炭素材料以外の材料で構成してもよく、基材全体を炭素材料で構成してもよい。
【0037】
上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧プレス装置内で黒鉛に熱処理を施すことが好ましい。ダイヤモンドの合成条件として、温度は1200℃から2500℃程度、圧力は7GPaから25GPa程度とすればよい。好ましくは、合成温度は1900℃以上、合成圧力は12GPa以上である。
【0038】
ダイヤモンドの合成には、一軸性の圧力を加えてもよく、等方的な圧力を加えてもよい。しかし、等方的な圧力によって、結晶粒径や、結晶の異方性の程度を揃えるという観点から、静水圧下での合成が好ましい。
【0039】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0040】
真空チャンバー内で12Cを99.999%に高めたメタンガスを1900℃に加熱したダイヤモンド基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、ダイヤモンド基板上に黒鉛(グラファイト)が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0041】
上記の黒鉛を、温度2200℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。
【0042】
このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率を、熱拡散率の測定によって調べたところ、同等の粒径を持つ天然炭素と比較して、1.17倍(265W/mK)であった。また、ヌープ硬度は130GPaであった。
【実施例2】
【0043】
真空チャンバー内で13Cを99.999%に高めたメタンガスを、1900℃に加熱したダイヤモンド基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、ダイヤモンド基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0044】
上記の黒鉛を、温度2200℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。
【0045】
このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、同等の粒径を持つ天然炭素と比較して、約1.2倍(271W/mK)であった。また、ヌープ硬度は140GPaであった。
【実施例3】
【0046】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.9%のメタンガスを、1900℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0047】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は150GPaであった。
【実施例4】
【0048】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.999%のメタンガスを、1900℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0049】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は190GPaであった。
【実施例5】
【0050】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.9%のメタンガスを、1600℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.4g/cmであった。
【0051】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は150GPaであった。
【実施例6】
【0052】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.999%のメタンガスを、1600℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.4g/cmであった。
【0053】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、250W/mKであった。また、ヌープ硬度は190GPaであった。
【実施例7】
【0054】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.9%のメタンガスを、1700℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100〜150Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.8g/cmであった。
【0055】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は160GPaであった。
【実施例8】
【0056】
真空チャンバー内で、12Cの純度が99.999%のメタンガスを、1700℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100〜150Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.8g/cmであった。
【0057】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、220W/mKであった。また、ヌープ硬度は185GPaであった。
【実施例9】
【0058】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.9%のメタンガスを、1900℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0059】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、250W/mKであった。また、ヌープ硬度は150GPaであった。
【実施例10】
【0060】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.999%のメタンガスを、1900℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0061】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は190GPaであった。
【実施例11】
【0062】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.9%のメタンガスを、1600℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.4g/cmであった。
【0063】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、300W/mKであった。また、ヌープ硬度は150GPaであった。
【実施例12】
【0064】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.999%のメタンガスを、1600℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.4g/cmであった。
【0065】
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、230W/mKであった。また、ヌープ硬度は190GPaであった。
【実施例13】
【0066】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.9%のメタンガスを、1700℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100〜150Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.8g/cmであった。
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、300W/mKであった。また、ヌープ硬度は160GPaであった。
【実施例14】
【0067】
真空チャンバー内で、13Cの純度が99.999%のメタンガスを、1700℃に加熱したTa基板上に吹きつけた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100〜150Torrとした。すると、基板上に黒鉛が堆積した。黒鉛のかさ密度は1.8g/cmであった。
上記の黒鉛を、温度2300℃、圧力15GPaの条件下で直接多結晶ダイヤモンドに変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜100nm程度の大きさであった。上記多結晶ダイヤモンドのX線回折パターンから、多結晶ダイヤモンド中にはダイヤモンド以外の成分は見られなかった。このナノ多結晶ダイヤモンドの熱伝導率は、200W/mKであった。また、ヌープ硬度は185GPaであった。
【0068】
以上の実施例では、12Cまたは13Cの純度が99.9%以上の炭化水素ガスを熱分解して作製され、固相で、かさ密度が1.4g/cmから2.0g/cm程度である極めて高純度の黒鉛に、2200℃〜2300℃程度の温度、15GPa程度の圧力で熱処理を行うことで、ヌープ硬度が130GPaから190GPa程度であり、優れた熱伝導性を有し、高純度のナノ多結晶ダイヤモンドを作製できることを確認できた。しかし、これ以外の範囲の条件であっても、本願の特許請求の範囲に記載の範囲であれば、同等の特性を有するナノ多結晶ダイヤモンドを作製できるものと考えられる。
【0069】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 ナノ多結晶ダイヤモンド、2 基材、10 黒鉛。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
12Cあるいは13Cのいずれかの炭素同位体で構成された炭素と、
前記炭素以外の複数の不純物とで構成され、
前記複数の不純物の濃度がそれぞれ0.01質量%以下であり、結晶粒径が500nm以下である、多結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
前記多結晶ダイヤモンドの結晶粒界における前記不純物の濃度がそれぞれ0.01質量%以下である、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
ヌープ硬度が140GPa以上である、請求項1または請求項2に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
前記複数の不純物は、水素、酸素、窒素、シリコンおよび硼素を含み、
前記水素の濃度が2×1018/cm以下であり、
前記酸素の濃度が2×1017/cm以下であり、
前記窒素の濃度が4×1016/cm以下であり、
前記シリコンの濃度が1×1016/cm以下であり、
前記硼素の濃度が2×1015/cm以下である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
前記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素を熱分解して得られた黒鉛を焼結することで作製される、請求項1から請求項4のいずれかに記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項6】
12Cあるいは13Cの炭素同位体の純度が99.9質量%以上である炭化水素ガスを熱分解して得られる黒鉛を準備する工程と、
高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施して前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程と、
を備えた、多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、前記高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施す、請求項6に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項8】
前記黒鉛を準備する工程は、前記真空チャンバ内に導入した前記炭化水素ガスを1500℃以上の温度で熱分解して基材上に黒鉛を形成する工程を含む、請求項6に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項9】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、前記基材上に形成された前記黒鉛に7GPa以上の高圧下で1500℃以上の熱処理を施す、請求項8に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項10】
前記黒鉛のかさ密度が1.4g/cm以上である、請求項6に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−28496(P2013−28496A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165745(P2011−165745)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】