説明

多重ピースからなる薄肉の金属粉末シリンダライナー

金属粉末シリンダライナーは、端と端をつなげて配された2以上のシリンダライナーピースを含み、かつ、その肉厚に対する長さの比率が12より大きい。ここで、前記ピースにおける肉厚に対する長さの比率は、20未満である。前記粉末金属組成物は、海綿鉄粉末約85%〜99%と、黒鉛約0.1%〜2.0%と、エチレンビス−ステアラミドワックス約0.1%〜2.0%と、を含む。シリンダライナーピースは、従来の金属粉末圧縮焼結法によって製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、米国仮特許出願第60/910,100号(出願日:2007年4月4日)に基づく優先権を主張する。この出願の記載内容は、参考までに本明細書に含まれることとする。
【0002】
本発明は、焼結金属粉末(sintered powder metal)の製造、特に、内燃エンジン用の金属粉末シリンダライナーに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、焼結金属粉末(sintered powder metal;PM)の部材(component)が、その他の金属から形成された部材よりも費用効率的であることから、それ以外の方法によっては製造し難い部材についての使用が活発しつつある。金属粉末の利点として、低価額、高品質、高生産性、及び、優れたデザイン柔軟性(design flexibility)などが挙げられる。これらの利点は、PM部材が、ほとんど廃棄物を生じさせないために、機械加工を除去し、又は、最小化することができるネットシェイプ(net shape)又はほぼネットシェイプに製造されうることから、部分的に得ることができる。それ以外の金属製造方法に比べたPM製造法、そこから製造された部品に伴う更なる利点には、段階的な構造(graded structure)又は複合金属(composite metal)、より軽量の部品、機械加工にける優れた柔軟性、省エネルギー、製造過程における廃棄物の減少、(部品における)高度の寸法安定性、(部品における)優れた表面仕上げ、自己給油又は浸透のための制御された多孔性、強度の増加、耐腐食性の増加、及び、低排出などが含まれる。
【0004】
内燃エンジンメーカは、性能及び/又は安全性を害することなく、エンジンにおけるコスト及び重量を減らすより効率的で、かつ、より費用効率の高い方法を模索してきた。エンジンにおける最も大きくて最も重要な部品は、シリンダブロック(cylinder block)である。過去においては、シリンダブロックは、鋳鉄(cast iron)から形成されていたが、この鋳鉄は強度、耐久性、及び、長期間の寿命を提供する。しかしながら、周知の通り、鋳鉄はかなり重い。また、鋳鉄は、熱伝道性に比較的劣る。結果として、鋳鉄シリンダブロックを代替できるものが求められるようになった。
【0005】
その代案として、アルミニウム合金からブロックを形成することである。アルミニウム合金は、(重量が)非常に軽く、かつ、熱伝道性に優れたものである。かかる特徴は、エンジン産業において求められるものである。しかしながら、アルミニウム合金は、比較的柔軟(soft)で、かつ、傷つき易いために、シリンダブロックにおける使用に(特に、そのブロックにおけるシリンダボアに対する要求事項について)求められる程度の強度、耐久性、及び、寿命を提供することができない。また、アルミニウム合金は、鉄に比較して、比較的高い熱膨張係数を有するので、高温での燃焼の際にシリンダとピストン間のブローバイ(blowby)を増加させ、それにより、排気物(emission)を増加させる。
【0006】
前記問題を解決するために、エンジンメーカは、アルミニウムブロックのシリンダボア内に耐磨耗性シリンダライナーを用いるようになった。シリンダライナーは、通常アルミニウムエンジンブロック内へ鋳造剛性に関して最適ではないために、燃焼の際にボアに歪みが起こり、また、よりひどいブローバイ及び多量の排気物を生じさせる。
【0007】
金属鉄粉末合金部品の空隙は、アルミニウムキャスティングへの鋳造の際に、溶融アルミニウムをPM部品のマトリックスの方に浸透させて、周囲のアルミニウム合金とPM部品間の結合を向上させる。溶融アルミニウム合金をシリンダライナー空隙の方に浸透させることによって、含浸PMマトリックスの望ましい機械加工性を活用することができる。
【0008】
PM技術は鋳鉄シリンダライナーに基づく幾つかの問題を解決する可能性はあるものの、ネットシェイプ又はほぼネットシェイプへの従来の圧縮法によるPMシリンダライナーの製造は商業的に可能でなかった。その理由の一つに、肉厚に対する長さの高比率が金属粉末で圧縮ダイを充填するに大きな問題をもたらし、かつ、高アスペクト比を有する部品の端部から圧縮することによって、シリンダライナーの長手方向に沿って許容できない密度勾配、及び、前記圧縮物の不十分な生強度をもたらすことがある。これらの問題は、熱間等静圧圧縮法、及び、2次的な製造工程を施すことによって多少回避することができるが、鋳造シリンダライナーに比べて費用がかかり過ぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属粉末から高比率の長さ:肉厚を有するシリンダライナーを製造するに用いられるシリンダライナー構造を提供する。このライナーは、同軸上に端と端をつなげて(即ち、端から端まで)配された多重の金属粉末シリンダライナーピースから製造される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
まず、本発明は、シリンダを形成するべき金属粉末組成物を有するシリンダライナーを提供する。ここで、シリンダは、肉厚(wall thickness)及び長さを有し、そして、その肉厚に対する長さの比率は、12より大きい。一方で、各ピースは、通常20未満の比率を有する。
【0011】
また、本発明は、1以上の燃焼シリンダライナーを有するエンジンブロックを備えた内燃エンジンを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の利点は、低密度金属粉末シリンダライナー(例えば、6.3 g/cc)を可能にし、それにより、シリンダライナーPMマトリックスの孔(porosity)へ溶融アルミニウム合金(シリンダライナーを取り囲んでいる。)が浸透することで、アルミニウム合金とシリンダライナーと間の結合を向上させることである。
【0013】
本発明の別の利点は、前述した結合力の向上によって、外径特性(outside diameter feature)に対する要求事項を軽減し又は減少させることができ、かつ、燃焼室からそれを取り囲むアルミニウムへのより均一な熱伝達を可能にすることである。
【0014】
本発明の更なる別の利点は、許容可能な密度、特に、壁の長さに沿って端から端まで比較的均一な密度を有する金属粉末部材を提供することである。
【0015】
別の利点によれば、最終的に加工された厚さ近くまで焼結金属粉末ライナーピースの製造が可能となり、その結果として、その後に行われる機械加工及び廃棄物を減らすことができる。
【0016】
本発明は、焼結金属粉末シリンダライナーに対し前述した利点をもたらす。
【0017】
本発明に係る前述した利点及びその他の利点については、後述する発明の詳細な説明(図面に基づく。)に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のシリンダライナー(現場打ち)を有する内燃エンジンのシリンダの断面図である。
【図2】図2は、エンジンのシリンダを省略して示した本発明のシリンダライナーの断面図である。
【図3】図3は、図1及び2におけるシリンダライナーを構成する2つのシリンダピースの2つの端部間に設けられたジョイントの断面図である。
【図4】図4は、図1〜3におけるライナーを構成する他方のライナーピースを省略して示した一方のシリンダライナーピースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1によれば、内燃エンジン10は、焼結金属シリンダライナー(sintered power metal cylinder liner)18の外部を取り囲むキャティングアルミニウム合金22によって形成された燃焼シリンダ(combustion cylinder)12を有している。このアルミニウム合金22は、ライナー18における孔に浸透(浸潤)して、それをしっかり保持する。リング16を備えたピストン14は、エンジンが動くにつれて、シリンダの方に往復する。
【0020】
ライナー18は、2つのシリンダライナーピース24で構成され、そのシリンダライナーピース24は、ライナー18と概ね同様の形状を有するがそれより短いシリンダである。2つのピース18は、同軸上に端から端まで(即ち、端と端をつなげて)配置されている。この構成において、これらの端部が当接しているのが好ましい。好ましい例として、図2によれば、その端部には段があり、雄端部(male end)30及び雌端部(female end)32が設けられている。図2に示すように、上部ピース24の下端(雌)は、下部ピース24の上端(雄)にフィットして、密接に係合する。 図3に示すように、ジョイントの外縁(outer edge)において、小さいギャップ(例えば、縁部における050)が生じるが、ろう材(brazing material)がそのギャップに浸透して、2つのピースを保持するようになっている。このろう付け(brazing)は、焼結ろう付け(即ち、焼結過程において行われるろう付け)、又は、焼結後ろう付け(post-sinter brazing)である。或いは、例えば、ピース24が心金(core rod)又は別の装置上に配置されて、それらが端から端まで配列され、かつ、当接され、それにより、シリンダ成型過程においてアルミニウム合金22によって互いに取り付けられるか、又は、ピース24がシリンダ12への成型(casting)の前に互いに圧入され、その後シリンダに成型されるのであれば、シリンダ12に成型する前に、ピース24を互いに結合させる必要はない。
【0021】
従来の金属粉末圧縮焼結法を用いて、各々のピース24を製造することができる。このダイ空洞(die cavity)は、前記ピース24のうち1つの形状を有し、充填(供給)は上部から行われ、圧縮(compaction)は両端から行われる。また、高アスペクト比を有する部分に対し従来の金属粉末圧縮工程を適用すると、概して長さに沿って前記部分の壁には密度の変化(前記部分の中央より端部の方の密度が高い。)が起こる。全体のライナー18よりも各ピース24を短くすることによって、前記部分を通じての密度の分布はより均一なものとなる。
【0022】
ピース24の金属粉末組成物は、海綿鉄粉末(sponge iron powder)約85%〜99%と、黒鉛約0.1%〜2.0%と、合成ワックス(例えば、エチレンビス−ステアラミドワックス:N,N’−エチレンビス−ステアラミド;N,N’−ジステアロイルエチレンジアミン;EBSと同意語である。)約0.1%〜2.0%と、を含むことができる。より具体的に、金属粉末組成物34が、海綿鉄粉末約98.1%と、黒鉛約0.9%と、エチレンビス−ステアラミドワックス約1.0%とを含んでも良い。海綿鉄粉末は高品質の磁鉄鉱鉱石の直接還元によって得られる。この過程で海綿状の粒子(例えば、顕微鏡写真に示すようなもの)が生じるが、その粒子は、圧縮率、生強度(green strength)に優れ、そして、優れたエッジ整合性(edge integrity)を有する部品を生成する。Ancor MH-100は、そのような海綿鉄粒子の例である。
【0023】
合成ワックス粉末は、金属粉末部品の圧縮用の滑剤及び結合剤(例えば、AcrawaxR滑剤) として用いられる。黒鉛は、焼結及び合金制御用の高品質の黒鉛粉末 (例えば、Asbury 3203)である。金属粉末組成物34は、0.5%以下の燐を含むことができる。
【0024】
その結果、金属粉末シリンダライナー22は、シリンダライナー18の長さに沿って比較的均一な密度を有することになる。密度は、約5.8g/cm3 and 6.8g/cm3であり、好ましくは、約6.3g/cm3である。内径(inside diameter)を機械加工する前に、肉厚50は、例えば機械加工後の厚さよりも若干大きく、各々のピース24は、例えば内径(ID)2.608インチ、及び、外径(OD)2.818インチを有し得る。機械加工によって肉厚の約2〜10%が除去され、かかる機械加工は、ライナー18がシリンダブロックに成型される前にされる必要があり得る。ライナー18の長さは、ライナー全体に対し3.582インチであり、各ピース24に対し概ねその半分である。ライナーを製造するために2以上のピースを用いることも可能だが、許容可能な充填(filling)、圧縮(compaction)、及び、密度均一性は、2つのピース24のみを有する場合においても得られるものである。シリンダライナー18における長さ:肉厚50の比率は12より大きく、そして、各ピース24における長さ:肉厚の比率は20未満である。また、各ピース24の金属粉末圧縮物(部)における肉厚(焼結又は加工を施す前)が0.20インチ未満であることが好ましい。
【0025】
生圧縮金属粉末シリンダライナーピース24は、(単独で、又は、組み合わせられて)それを増強するために高温での焼結が必要である。しかしながら、焼結部品がほぼネットシェイプに形状されるので、イン−キャスティング(in-casting)前の機械加工ステップは省略される。よって、焼結PMライナー18がシリンダ12に成型された後に機械加工が行われる。
【0026】
図1は、本発明の内燃エンジン10を示すが、この内燃エンジン10は、ピストン14を有する1以上の燃焼シリンダボアを備えたシリンダ12と、1以上のシリンダライナー18と、を含む。内燃エンジン10は、燃料システム、クランクシャフト、給油システム、冷却システムなどを含んでも良い。前述の通り、シリンダライナー18によって形成されたボア、それに浸透されたアルミニウム合金、及び、シリンダを取り囲むアルミニウムは、ライナーがシリンダ12の方に成型された後、更なる機械加工を受ける必要があり得る。
【0027】
ライナー18は、ピストン14の底部における真ん中において、ピストンのリング16全てがライナー18と軸方向に重なるように(同時に、リング16はピストン14の上部における真ん中において重なるようになる。)十分な長さを有するべきである。
【0028】
本発明の好ましい実施例については詳細に説明した。このような実施例についての様々な変更及び変形が可能であることが、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、前述した実施例に限られるものではない。
【符号の説明】
【0029】
10 内燃エンジン
12 燃焼シリンダ
14 ピストン
16 リング
18 シリンダライナー
22 キャティングアルミニウム合金22
24 シリンダライナーピース
30 雄端部
32 雌端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結鉄金属粉末で製造され、かつ、内燃エンジンのシリンダ壁に成型される内燃エンジン用シリンダライナーであって、前記ライナーを取り囲むシリンダの少なくとも一部が、アルミニウム合金で構成され、そして、前記シリンダライナーには、前記シリンダ壁への成型の際に、同軸上にある2以上のシリンダライナーピースが設けられていることを特徴とするシリンダライナー。
【請求項2】
前記シリンダライナーピースの端には段が設けられて、その端と端との接続部において前記ピースが互いに結合できるようになっていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダライナー。
【請求項3】
前記ライナーピースが、互いにろう付けされていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダライナー。
【請求項4】
前記ピース間のろう付けが、焼結の際に行われたことを特徴とする請求項3に記載のシリンダライナー。
【請求項5】
前記ライナーの肉厚に対する長さの比率が、12より大きく、そして、前記各々のシリンダライナーピースの肉厚に対する長さの比率が、20未満であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダライナー。
【請求項6】
前記金属粉末圧縮物の肉厚のうち10%未満が、圧縮後、かつ、前記ライナーから前記シリンダ壁への成型の前に、除去されることを特徴とする請求項1に記載のシリンダライナー。
【請求項7】
前記各ピースの平均密度が、5.8〜6.8g/cm3であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダライナー。
【請求項8】
請求項1に記載のシリンダライナーの製造の用に供されるシリンダライナーピース圧縮物。
【請求項9】
請求項1に記載の2以上のシリンダライナーピースを有するシリンダライナーを含むエンジン。
【請求項10】
端と端をつなげて同軸上に配され、金属粉末組成物から形成され、かつ、シリンダに成型される2以上のシリンダライナーピースを含むシリンダライナーであって、
前記各々のピースにおける肉厚に対する長さの比率が、20未満であり、そして、
前記粉末金属組成物が、海綿鉄粉末約95%〜99%と、黒鉛約0.1%〜2.0%と、滑剤約0.1%〜2.0%と、を含む
ことを特徴とするシリンダライナー。
【請求項11】
前記海綿鉄粉末約98.1%と、黒鉛約0.9%と、エチレンビス−ステアラミドワックス約1.0%と、を含むことを特徴とする請求項10に記載のシリンダライナー。
【請求項12】
前記シリンダライナーが、燐0.5%未満を含むことを特徴とする請求項10に記載のシリンダライナー。
【請求項13】
前記各ピースの密度が、約5.8g/cm3〜6.8g/cm3であることを特徴とする請求項10に記載のシリンダライナー。
【請求項14】
前記密度が、約6.3g/cm3であることを特徴とする請求項13に記載のシリンダライナー。
【請求項15】
前記各ライナーピースの製造の用に供される圧縮物の肉厚が、約0.20インチ未満であることを特徴とする請求項10に記載のシリンダライナー。
【請求項16】
1以上の燃焼シリンダボアを含むエンジンブロックと、前記燃焼シリンダボアの方に挿入された1以上のシリンダライナーと、を含む内燃エンジンであって、
前記シリンダライナーが、金属粉末組成物を含み、
前記シリンダライナーにおける肉厚に対する長さの比率が、12より大きく、
前記シリンダライナーが、端と端をつなげて同軸上に配置された2以上シリンダライナーピースを含み、そして、
前記各々のシリンダライナーにおける肉厚に対する長さの比率が、20未満である
ことを特徴とする内燃エンジン。
【請求項17】
前記粉末金属組成物が、海綿鉄粉末約95%〜99%と、黒鉛約0.1%〜2.0%と、エチレンビス−ステアラミドワックス約0.1%〜2.0%と、を含むことを特徴とする請求項16に記載の内燃エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−505513(P2011−505513A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502278(P2010−502278)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/059207
【国際公開番号】WO2008/124464
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(507341356)ジーケーエヌ シンター メタルズ、エル・エル・シー (20)
【Fターム(参考)】