説明

室温で自己付着性のPt触媒による付加架橋性のシリコーン組成物

【課題】室温で迅速に架橋するPt触媒によるシリコーン組成物であって、基材に対するシリコーン接着結合の作成に際して、工業法における短いサイクル時間を可能にするシリコーン組成物を提供する。
【解決手段】(i)(A)脂肪族多重結合を有する少なくとも2つの基を有する有機ケイ素化合物、(C)少なくとも2つのSi結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(K)脂肪族の多重結合とSi結合した水素原子とを有する有機ケイ素化合物と、(ii)触媒量での少なくとも1つの白金触媒(E)と、(iii)一般式(I)の少なくとも1つのα−シラン(H)を含有する付加架橋性のシリコーン組成物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温で自己付着性のPt触媒による付加架橋性のシリコーン組成物、その製造並びに架橋によって得られた材料に関する。本発明によるシリコーン組成物は、そのうえ、前処理されていない基材上でさえ付着を構成する。
【0002】
以下に挙げる概念は、以下のように解される:
基材と硬化されたシリコーンとの間の付着は、例えば剪断試験及び/又は剥離試験によって測定される。その際、"凝集破壊挙動と接着破壊挙動"との間で差異があり、その挙動は、上述の試験における負荷後の2つの基材の接着結合の亀裂形成の現象を示している。接着亀裂形成の場合には、シリコーン層は基材下地からきれいに分離されうるが、一方、凝集現象の場合には、亀裂形成はもっぱらシリコーン層もしくは基材中で生ずる。
【0003】
表現"未処理の表面"並びに"前処理されていない基材"とは、全く前処理なく使用される基材表面も、シリコーン組成物の適用前に、ほこり、不純物及び油脂を洗い取った基材表面も指す。斯かる洗浄は、例えば蒸発する溶剤でのみ行われる。シリコーン組成物の塗布前に、基材表面の追加の処理あるいは基材表面のシリコーン樹脂、シリコーン層もしくはシラン層での下塗りは行われない。
【0004】
"迅速硬化性"とは、混合後に最大4時間、好ましくは2時間以内、特に好ましくは30分以内の速度で室温で硬化する斯かるPt触媒による付加架橋性のシリコーン組成物を表す。UV活性化可能な系の場合には、"迅速"硬化性のシリコーン組成物とは、混合とUV光での活性化の後に30分の最大時間で、好ましくは20分の最大時間で、特に好ましくは最大10分で硬化するものを表す。
【0005】
その際、"硬化"とは、必ずしも、機械的な最終特性の完全な達成を表すわけではない。むしろ、この概念は、少なくとも材料の非破壊的な機械的圧力負荷を可能にする凝集特性の達成の状態を説明している。
【0006】
"室温"とは、22〜28℃の範囲の基材表面もしくはシリコーンの温度を表す。
【背景技術】
【0007】
技術水準から公知のPt触媒による付加架橋性のシリコーン組成物は、通常は、前処理されていない基材上で、それが室温で架橋される場合には、十分な付着を示さない。付着を達成するためには、しばしば官能性のプロピルトリアルコキシシランが付着媒介剤(Haftvermittler)として使用される。それは、一連の基材上で付着をもたらすが、それは、例えばUS5,164,461号に記載されるように、熱処理が、少なくとも70℃、好ましくは少なくとも100℃の温度で実施されることを前提とする。US5,416,144が示すように、熱処理によって、付着は短時間ですでに形成されうる。それに対して、室温での架橋に際して、US5,468,794号及びUS5,380,788号に記載されるように、凝集付着は、数日後にはじめて達成される。
【0008】
Pt触媒によるシリコーン組成物の多くの用途において、熱的架橋もしくは後処理は不可能である。それというのも、このために必要な炉内工程に基づき、付加的なプロセス費用及び投資費用が発生するからであるか、又は使用される基材及び成分がより高い温度を許容しないからである。特に、迅速な硬化を室温(30分未満)で後続の熱処理なく提供するPt触媒によるシリコーン組成物、例えば2成分の系もしくはUV活性化可能な系では、従って今までは、迅速な付着構成の可能性は不足している。
【0009】
WO2006/010763号A1においては、まさに一般的に、UV活性化可能な付加架橋性のシリコーン組成物は、被覆の製造のために記載されている。しかしながら、記載された組成物の付着が達成されるかどうかと、どのように達成されるか、あるいはどの基材上に付着が達成されるかについて全く示唆は見いだせない。
【0010】
UV架橋性の系の一般的な範囲について、EP0356075号B1は、二重のトリアルコキシシラン官能化を有するシランを、縮合反応用の触媒と組み合わせて、UV光開始剤を介して硬化する重合反応において使用することを記載している。凝集亀裂形成は、既に数時間後に確認できる。該系の欠点は、2種の異なる架橋系の使用が必要なことと、光開始剤の照射後に分解産物が存在することである。特に、電子部材の分野での使用においては、分解産物によって問題が生ずることがある。
【0011】
US6,908,682号B2において、中程度のシリコーンゲル組成物の剥離力を達成する注型用材料の分野におけるシリコーン油80%より多くを含有する、Pt触媒によるUV活性化可能な付加架橋性のシリコーンエラストマーが記載されている。この結合は、ポリブチルテレフタレート及びポリカーボネート上での4.0N/100mmまでのデータが示すように、ゲルの弱い物理的な、そのうえ可逆的な接着である。しかし、どれくらい迅速に付着が構成されるかは述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US5,164,461号
【特許文献2】US5,416,144号
【特許文献3】US5,468,794号
【特許文献4】US5,380,788号
【特許文献5】WO2006/010763号A1
【特許文献6】EP0356075号B1
【特許文献7】US6,908,682号B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、室温で迅速に架橋するPt触媒によるシリコーン組成物であって、基材に対するシリコーン接着結合の作成に際して、工業法における短いサイクル時間を可能にするシリコーン組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、前記課題は、以下の(i)、(ii)及び(iii)を含有する付加架橋性のシリコーン組成物であって、
(i)以下の化合物(A)、(C)及び(K)を含む群から選択される少なくとも1つの化合物、
(A)脂肪族の炭素−炭素−多重結合を有する少なくとも2つの基を有する有機ケイ素化合物、
(C)少なくとも2つのSi結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び
(K)脂肪族の炭素−炭素−多重結合とSi結合した水素原子とを有するSiC結合された基を有する有機ケイ素化合物、
(但し、該組成物は、脂肪族の炭素−炭素−多重結合を有する少なくとも1つの化合物と、Si結合された水素原子を有する少なくとも1つの化合物とを含有する)、
(ii)触媒量での少なくとも1つの白金触媒(E)、及び
(iii)一般式(I)
Y−CH2−SiR′n(OR)3-n (I)
[式中、
Yは、グリシドキシ−、メタクリルオキシ−、ビニル−を意味し、
Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル又は置換アルキル、アセトキシ、プロピオニルオキシを意味し、
R′は、メチル基を意味し、かつ
nは、0もしくは1を意味する]の少なくとも1つのα−シラン(H)
を含有する付加架橋性のシリコーン組成物によって解決できた。
【0015】
本発明によるシリコーン組成物は、種々の基材上でのシリコーン接着結合の作成に際して、迅速な付着構成の利点を有し、こうして工業法における短いサイクル時間を可能にする。迅速な付着構成は、混合後にもしくは混合とUV活性化の後に、最大2時間以内で、好ましくは最大1時間以内で行われる。
【0016】
本発明によるシリコーン組成物の場合に室温で短時間内で形成する付着は、驚くべきことに、本発明により含まれる、付着媒介剤の作用を有する官能性のα−シラン(H)によって達成される。以下に、良好な付着結果が達成された基材についての幾つかの例を挙げる:ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド及びポリカーボネート。
【0017】
化合物(A)は、ビニル含有率0.002〜2質量%(0.2〜3モル%)及び粘度100〜1000000mPasを有するビニル官能化されたポリジオルガノシロキサンである。個々の化合物(A)又は少なくとも2種の異なるビニル官能化されたポリジオルガノシロキサンの混合物を使用してよい。
【0018】
本発明による組成物のために適しているのは、特に、少なくとも1もしくはそれより多くのビニル基を1分子当たりに有する斯かるポリオルガノシロキサン(A)である。本発明の反応のために特に好ましいのは、2つの末端ビニル基を1分子当たりに有する斯かるビニル置換されたポリオルガノポリシロキサンである。メチル基及び/又はフェニル基でケイ素原子が置換されている斯かるポリジオルガノポリシロキサンも使用できる。特に好ましくは、ポリジメチルポリシロキサンである。
【0019】
化合物(C)は、好ましくは、Si−Hを有するポリオルガノシロキサンであって、H含有率0.001〜2質量%、粘度1〜10000mPas及び少なくとも2つのSi結合されたH原子を1分子当たりに有するポリオルガノシロキサンである。斯かる化合物は、技術水準から一般に知られている。2つの末端のSi−H基を有するSi−Hを有するポリオルガノシロキサンが使用される場合に、硬化された配合物の接着特性のために特に好ましいポリマー鎖構造が実現される。通常は、(C)及び(A)からのSiH/Si−ビニル(=Vi)基のモル比は、0.5:1〜10:1である。架橋速度、硬度及び特に付着特性は、さらに、1分子当たりに3個より多くのSi−H基を有するSi−H官能性のポリオルガノシロキサンの相応の含有率によって制御できる。全配合物からのSi−H/Viのモル比は、その際、好ましくは0.5:1〜10:1の範囲にある。
【0020】
個々の化合物(C)又は少なくとも2種の異なる化合物の混合物を使用してよい。好ましい一実施態様においては、例えば1分子当たりに少なくとも2個のH原子を有する(C)1〜50部と一緒に、1分子当たりに少なくとも3個のH原子を有する(C)0〜30部が、100部のAに対して使用される。
【0021】
化合物(K)は、当業者に技術水準から一般に知られている。化合物(K)が使用される場合には、好ましくは、一般式
【化1】

[式中、
5は、1つの基当たりに1〜18個の炭素原子を有する、一価の、置換もしくは非置換の、脂肪族の炭素−炭素−多重結合を含まない炭化水素基を意味し、
4は、1つの基当たりに2〜8個の炭素原子を有する、末端の脂肪族の炭素−炭素−多重結合を有する一価の炭化水素基を意味し、
kは、0、1、2もしくは3を意味し、
mは、0、1もしくは2を意味し、
dは、0、1もしくは2を意味するが、
但し、平均して少なくとも2個の基R4が存在し、かつ平均して少なくとも2個のSi結合された水素原子が存在する]の単位からなる斯かる化合物である。
【0022】
個々の化合物(K)又は少なくとも2種の化合物(K)からなる混合物を使用してよい。
【0023】
本発明による付加架橋性の組成物において、以下の組み合わせ:(A)+(C)又は(A)+(K)又は(C)+(K)又は(A)+(C)+(K)又は(K)単独が可能である。
【0024】
好適な化合物(E)のための例は、とりわけ以下の特許文献US3,814,730号(Karstedt)、US2,823,218号、US3,220,972号、US3,814,731号、US4,276,252号、US4,177,341号並びにDE10 2008 000 156号に開示されている。それらは参照をもって開示されたものとする。Pt触媒(E)は、好ましくは、ヒドロシリル化反応を室温で十分な速度において可能にする触媒的に十分な量で使用されるべきである。典型的には、Pt金属の含有量に対して、0.5〜100ppmの触媒が、全体のヒドロシリル化混合物のために使用される。必要であるか又は目的にかなう場合は、(G)で記載されるような抑制剤の使用も適切である。
【0025】
好ましくは、Pt触媒(E)としては、UV活性化可能なPt触媒が使用される。それらは、光の排除下で不活性であり、かつ波長250〜500nmの光での照射後に室温で活性なPt触媒に変換されうる。斯かる触媒は、技術水準において知られている。好適なUV活性化可能なPt触媒のための例は、例えばEP0146307号B1に開示されるような(η5−シクロペンタジエニル)三脂肪族Pt化合物又はその誘導体である。特に好適なものは、シクロペンタジエニルトリメチル白金、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金並びにその誘導体である。それらは、場合により直接的に又は更なる付加的な基を介してポリマーへと結合されていてよい置換されたシクロペンタジエニル基を有する。更なる好適な光活性なヒドロシリル化触媒(E)は、ビス(アセチルアセトナト)白金化合物並びにその相応の誘導体である。
【0026】
個々の触媒(E)又は少なくとも2種からなる混合物を使用してよい。
【0027】
本発明によるシリコーン組成物は、更に、0〜200部の機械的補強性の充填剤(F)を含有してよい。個々の化合物(F)又は少なくとも2種からなる混合物を使用してよい。本発明の範囲における機械的補強性の充填剤(F)は、例えばあらゆる形態の活性補強性の充填剤、例えば沈降ケイ酸もしくは熱分解法ケイ酸(二酸化ケイ素)などの充填剤あるいはそれらの混合物である。活性補強性の充填剤は、その際、少なくとも50m2/g、好ましくは100〜400m2/gのBET法による比表面積を有する。上述のシリカ充填剤は、親水特性を有してよく、又は公知法により疎水化されていてよい。親水性の充填剤を混入させる場合には、疎水化剤を添加することが必要である。
【0028】
本発明の範囲における更なる添加剤は、色、吸収、蛍光などの特性の変化によって、架橋反応の終わりもしくは架橋のために必要なUV光線量の入射を指示する指示薬である。相応の指示薬は、例えばEP1437392号A1もしくはUS4,780,393号に記載されている。
【0029】
本発明によるシリコーン組成物は、選択的に、成分(G)として更なる添加剤を含有してよい。個々の化合物(G)又は少なくとも2種からなる混合物を使用してよい。その化合物は、好ましくは0〜100部までの割合で使用される。これらの添加剤(G)は、例えば抑制剤、安定剤、不活性充填剤、シロキサン(A)、(C)及び(K)とは異なる樹脂様のポリオルガノシロキサン、(H)と異なるシラン、非補強性の充填剤、付着媒介剤、殺真菌剤、香料、レオロジー添加剤、腐食防止剤、酸化防止剤、光保護剤、難燃化剤及び電気的特性に影響する剤、分散助剤、溶剤、付着媒介剤、顔料、染料、可塑剤、有機ポリマー、熱安定剤などであってよい。これには、添加剤、例えば活性炭、石英粉、珪藻土、クレー、白亜、リトポン、カーボンブラック、グラファイト、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、カルボン酸の金属塩、金属粉、繊維、例えばガラス繊維、カーボン繊維、プラスチック粉末、金属粉、着色剤、顔料などが該当する。
【0030】
樹脂様のポリオルガノシロキサン(G)が使用される場合に、それらは、好ましくは0〜40部で含まれており、その際、R33SiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)を含み、場合によりR32SiO2/2構造単位及びR3SiO3/2構造単位(T単位)を有するビニル官能化された樹脂が好ましく、かつR3は、互いに無関係に、ビニル基又はメチル基を意味する。斯かるビニル官能化されたMQ樹脂は、ビニル含有率0.05〜4質量%を有する。
【0031】
好適な抑制剤(G)のための例は、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ドデシン−3−オール、ポリメチルビニルシクロシロキサン、例えば1,3,5,7−テトラビニルテトラメチルテトラシクロシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサン、テトラビニルジメチルジシロキサン、トリアルキルシアヌレート、アルキルマレエート、有機スルホキシド、有機アミン、ジアミン、ホスファン及びホスファイト、ニトリル、ジアジリジン及びオキシム アセチレン化合物、ホスファイト、マレエート、アミン又はアルコールであり、それらを用いて、本発明による組成物の加工時間、開始温度及び架橋速度の狙い通りの調整を達成できる。
【0032】
本発明の範囲における非活性の又は官能性の充填剤(G)は、典型的には、熱伝導性の充填剤、例えばAl23、AlN、BN、SiC、ZnO並びに更なる充填剤、例えばTiO2、SiO2、Fe23、Fe34、石英粉、白亜、タルク、珪藻土、ゼオライト、導電性充填剤のAg、カーボンブラック、グラファイト、金属酸化物、機能性ナノ粒子、中空球などである。前述の充填剤は、疎水化されていてよく、例えばオルガノシラン又はオルガノシロキサンを用いた処理によって、ステアリン酸又は別の剤での処理によって、疎水化されていてよい。UV硬化性の組成物のためには、上述の機能性充填剤のうち、特に、波長領域250〜500nmでの光の透過を可能にするものが該当する。最大の充填度は、塗布すべき層厚と、最大で可能なUV光強度からもたらされる。
【0033】
一連の用途のためには、付着の安定性は、熱的要求と湿分要求のもとで必要とされる。この特殊な特性は、例えば技術水準から一般に知られる付着媒介剤(G)の付加的な使用によって達成できる。例えば、好適な付着媒介剤(G)は、トリアルコキシ官能性シラン、例えばメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、トリス(3−プロピルトリメトキシシリル)イソシアヌレート、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、アリルトリメトキシシランを基礎とするものである。
【0034】
化合物(H)は、配合物A)〜G)に対して、0.1〜6質量%、好ましくは0.6〜3質量%で使用される。(H)は一般式(I)
Y−CH2−SiR′n(OR)3-n (I)
[式中、
Yは、グリシドキシ、メタクリルオキシ、ビニルの基を意味し、
Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキルもしくは置換されたアルキル、アセトキシ、プロピオニルオキシを意味し、
R′は、メチル基を意味し、
nは、0もしくは1を意味する]を有するα−シランである。
【0035】
個々の化合物(A)〜(G)の量比は、当業者には技術水準から知られている。本発明によるシリコーン組成物の可能な一実施態様は、100部の(A)と、1〜30部の(C)と、0.5〜100ppmの(E)と、0.1〜12部の(H)を含有する。
【0036】
本発明による付加硬化性のシリコーンエラストマー組成物は、例えば注型用材料、接着剤及び封止剤の分野で使用することができる。
【0037】
本発明による室温架橋性組成物は、接着剤もしくは接着封止材料として、多くの基材上で、これらが硬化過程の前とその間にシリコーン組成物と接触している限りは使用することができる。
【0038】
付着構成の速度は、その際、実質的に、基材表面への付着媒介剤分子の拡散過程と、使用される付着媒介剤の、存在するヒドロキシ基もしくはカルボキシ基などの官能基に対する表面での反応性(並びに表面密度)に依存する。付着媒介剤の基材接続の最適化は、一方で、架橋反応の前又はその間の、付着媒介剤の滞留時間の増大を介して達成できる。しかし、経済的理由から、迅速な加工、架橋、そしてまた迅速な付着構成が望ましい。温度上昇によって、同様に、系中での付着媒介剤の拡散速度、溶解性及びまた反応性を改善できる。しかし、付加架橋性のシリコーンエラストマーの接着剤組成物の多くの工業的用途において、高められた温度又は炉内工程は使用したくなかった。従って、迅速な付着構成のために必須なのは、使用される付着媒介剤の室温での高められた反応性である。本発明により使用されるα−シラン(H)は、前記の要求をその付着媒介剤としての作用によって満たす。特に好ましいのは、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン又はメタクリルオキシメチルトリエトキシシランの使用である。付着は、混合の後であるいは混合とUV照射の後で、2時間以内に、好ましい実施態様においては1時間以内に、室温で達成され、この時点で既に強力なので、負荷下で凝集故障が認められる。
【0039】
本発明の範囲における基材は、複合材料、金属部材、プラスチック部材もしくはセラミック部材、電気用途、電子用途、光学用途などのケーシングあるいは部材の被覆、注型、接着及び封止の分野で使用される基材である。付着構成のために、相応の量の極性基が基材表面上に存在することが必須である。従って、本発明による組成物は、原理的に、下塗り、プラズマ処理、パイロシル(Pyrosil)処理(シラン熱分解)、CO2処理、コロナ処理、オゾン処理、レーザ前処理などの当業者に周知の過程での追加の前処理工程によって活性化された斯かる基材表面上でも使用することができる。幾つかの用途の場合に、基材の追加の前処理は望ましくない。特に、この場合には、本発明による組成物が、迅速な付着構成の達成のために有利に使用できる。基材表面の浄化、脱脂は、本発明の範囲においては、前処理工程として定義されず、こうして使用される表面は原則的に"未処理"と見なされる。
【0040】
本発明による組成物が適用される典型的な基材は、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA);ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂、ポリイミド、セラミック表面、アルミニウム、鋼などである。
【0041】
最も単純な場合には、本発明による室温架橋性のシリコーン組成物は、全ての成分の均一な混合によって得られる。UV活性化なくして室温で迅速な架橋を可能にする本発明による組成物の場合には、2成分の組成物が好ましい。この系の場合に触媒成分(E)とSi−H官能性化合物(B)あるいは(K)が隔離されうるということに基づき、十分な貯蔵安定性の保証と同時に、該系の高い反応性が可能である。それというのも、成分の混合の後に初めて迅速な硬化が起こるからである。該混合は、基材への塗布前に、例えば静的もしくは動的な混合システムを有する公知の2成分配量装置で行われる。
【0042】
UV活性化可能な本発明による組成物は、1成分の組成物としても2成分の組成物としても使用することができる。ここで、触媒の活性化は、UV光での照射によって初めて行われる。
【0043】
UV活性化可能な組成物の場合に、典型的な架橋時間は、特定の組成、該組成物のUV透過性、適用されるシリコーンの層厚、基材の反射性及び可能性のある抑制作用、入射光の波長、触媒系の吸収範囲、作用するUV強度並びに線量などのパラメータに依存する。典型的には、電子素子の分野での接着のためには、ビード型(raupenfoermig)接着剤構造/形状が、0.03〜1.5cm、好ましくは0.03cm〜0.5cmの層厚で塗布される。
【0044】
迅速な架橋とは、UV活性化可能な組成物については、20分未満の、好ましくは10分未満の硬化時間を表す。本発明による組成物の硬化のためには、波長250nm〜500nm、好ましくは250nm〜350nmの光が使用される。入射されるUV強度もしくは線量は、その際、30mW/cm2〜2000mW/cm2あるいは150mJ/cm2〜10000mJ/cm2である。典型的には、UV線量300mJ/cm2及び5000mJ/cm2が使用される。200mJ/cm2未満の線量は、配合に応じて、極めて緩慢にあるいは不完全にのみ硬化がもたらされるにすぎないことがある。高すぎる線量は、一般に、迅速すぎる架橋と、それに伴って接着すべき基材を接合できる短すぎる風乾時間(Offenzeit)をもたらし、並びに場合により付着構成のための付着媒介剤の不十分な反応時間をもたらす。当業者には、選択されるべき最適なUV線量は、配合に応じて、相応して所望される架橋時間と付着に、個別の範囲で合わせることができることは知られている。
【0045】
実施例
以下に記載される実施例では、部と百分率の全ての表記は、特段の記載がない限りは、質量に対するものである。更に、全ての粘度表示は温度25℃に対するものである。特に記載がない限り、以下の実施例は、周囲大気の圧力で、従って約1020hPaで、かつ室温で、従って約20℃で、もしくは反応物を室温で追加の加熱又は冷却をせずに合する場合に生ずる温度で実施される。
【0046】
本発明による実施例1a)
第1表は、本発明による組成物1a)を示す。
【0047】
第1表
【表1】

【0048】
本発明によるものではない例1b)
第2表は、本発明によるものでない組成物1b)を示す。
【0049】
第2表
【表2】

【0050】
本発明による実施例1c)
第3表は、本発明による組成物1c)を示す。
【0051】
第3表
【表3】

【0052】
本発明によるものでない例1d)
第4表は、本発明によるものでない組成物1d)を示す。
【0053】
第4表
【表4】

【0054】
本発明による実施例2a)
第5表は、本発明による組成物2a)を示す。
【0055】
第5表
【表5】

【0056】
本発明によるものでない例2b)
第6表は、本発明によるものでない組成物2b)を示す。
【0057】
第6表
【表6】

【0058】
本発明による実施例2c)
第7表は、本発明による組成物2c)を示す。
【0059】
第7表
【表7】

【0060】
第1表〜第7表に示される組成物の製造:
その製造は、ビニル含有のシロキサン(A)と疎水化されたケイ酸(F)とからなる予備混合物の使用によって行われた。他の成分の添加によって、研究室用ミキサによって均質な混合物を作成した。その際、Pt触媒(E)は、2成分混合物の場合には、ビニルポリマー(A)との予備混合を介して、適用直前にはじめて混加される。第1表〜第7表に示される混合物は、適用される混合物のそれぞれの組成を表す。
【0061】
加工
それらの混合物を、へらで、予備洗浄され乾燥された基材(小板形2.5×5cm)上に室温で塗布し、こうしてまず層厚0.5〜1cmが生ずる。基材の予備洗浄は、イソプロパノールでの基材の洗浄と、引き続いての乾燥によって行われる。
【0062】
室温架橋性の2成分の系
被覆された基材を、直ちに、2.5×1cmの表面上で、相応の他の基材で覆う(得られた層厚は約0.5mm)。約30分後に、負荷による破断像の測定を開始する。このために、(1組成物につき6〜8サンプルで)、全10分間、それぞれ上記のように調製されたサンプルの1つで、基材の2つの突出した端部を、互いに相対的に直角になるまで手動で剥離運動(Schaelbewegung)において負荷してから、破断挙動を調査する。
【0063】
室温で架橋性のUV活性な系
6〜8つの基材を、上記のように被覆し、そして140mW/cm2のUV光(Fe放射器250〜350nm)で室温で10秒間照射する。照射後に、基材を、直ちに相応の対向小板と接合させ、こうして約0.5mmのシリコーン層厚が得られる。照射の約10分後に、基材の手動による剥離負荷を、破断挙動の評価のために開始する。
【0064】
第8表〜第9表において、以下のことを意味する:
A − 接着破断像
C + 凝集破断像
第8表において、PBT(ポリブチレンテレフタレート)上での付着試験の結果が示されている。
【0065】
第8表
【表8】

【0066】
第9表において、PA(ポリアミド)上での付着試験の結果が示されている。
【0067】
第9表
【表9】

【0068】
第8表及び第9表から、一義的に、本発明による組成物1a)、1c)、2a)及び2c)のみが、遅くとも60分後に、凝集破断像に至り、それに加えて基材上での相応して固い結合に至ることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)、(ii)及び(iii)を含有する付加架橋性のシリコーン組成物であって、
(i)以下の化合物(A)、(C)及び(K)を含む群から選択される少なくとも1つの化合物、
(A)脂肪族の炭素−炭素−多重結合を有する少なくとも2つの基を有する有機ケイ素化合物、
(C)少なくとも2つのSi結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び
(K)脂肪族の炭素−炭素−多重結合とSi結合した水素原子とを有するSiC結合された基を有する有機ケイ素化合物、
(但し、該組成物は、脂肪族の炭素−炭素−多重結合を有する少なくとも1種の化合物と、Si結合された水素原子を有する少なくとも1種の化合物とを含有する)、
(ii)触媒量での少なくとも1種の白金触媒(E)、及び
(iii)一般式(I)
Y−CH2−SiR′n(OR)3-n (I)
[式中、
Yは、グリシドキシ−、メタクリルオキシ−、ビニル−を意味し、
Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル又は置換アルキル、アセトキシ、プロピオニルオキシを意味し、
R′は、メチル基を意味し、かつ
nは、0もしくは1を意味する]の少なくとも1種のα−シラン(H)
を含有する付加架橋性のシリコーン組成物。
【請求項2】
更なる成分(iv)として、少なくとも1種の機械的補強性の充填剤(F)を含有することを特徴とする、請求項1に記載の付加架橋性のシリコーン組成物。
【請求項3】
更なる成分(v)として、不活性充填剤、シロキサン(A)、(C)及び(K)とは異なる樹脂様ポリオルガノシロキサン、(H)とは異なるシラン、抑制剤、安定剤、補強性充填剤及び非補強性充填剤、殺真菌剤、香料、レオロジー添加剤、腐食防止剤、酸化防止剤、光保護剤、難燃化剤及び電気的特性に影響する剤、分散助剤、溶剤、付着媒介剤、顔料、染料、可塑剤、有機ポリマー、熱安定剤又はそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1種の化合物(G)を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の付加架橋性のシリコーン組成物。
【請求項4】
白金触媒(E)がUV光によって活性化されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン組成物の製造方法において、全ての成分を一様に混合することを特徴とする付加架橋性のシリコーン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の付加架橋性のシリコーン組成物を、接着剤、注型材料、封止材料として用いる使用。

【公開番号】特開2010−242087(P2010−242087A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87674(P2010−87674)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】