説明

密閉型圧縮機

【課題】油循環率を低減することができるとともに、返油パイプを大径化して潤滑油の返油性を確保しながら、モータ性能への影響を排除することができる密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】密閉ハウジング10内の上部に設けられた圧縮機構3の所要潤滑部位に、回転軸7内の給油孔14を介して密閉ハウジング10下部の油溜まり12に充填されている潤滑油13が給油され、所要潤滑部位を潤滑した潤滑油が、返油パイプを介して油溜まり12に戻されるように構成されている密閉型圧縮機1において、返油パイプが変形性を有する樹脂製返油パイプ42とされるとともに、該樹脂製返油パイプ42が密閉ハウジング10と電動モータ4のステータ5との間の隙間に変形して挿通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル側に循環される潤滑油の油循環率(OCR)を低減することができる密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
密閉ハウジング内の上部に圧縮機構が配設され、その下部に電動モータが配設されている密閉型の圧縮機では、一般的に、圧縮機構の軸受部等の所要潤滑部位に、電動モータにより駆動される回転軸(クランク軸)内に設けられている給油孔を介して密閉ハウジング下部の油溜まりに充填されている潤滑油を給油し、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑する強制潤滑方式が採用されている。
【0003】
このような密閉型圧縮機では、冷媒ガスに伴われて圧縮機から冷凍サイクル側に循環される潤滑油の油循環率(OCR)[全質量流量(冷媒流量+潤滑油流量)に対する潤滑油の質量流量の比]が増大すると、冷凍サイクル側では熱交換が阻害されてシステム効率が低下するとともに、圧縮機側では潤滑油不足に陥るリスクが増大し、圧縮機および冷凍・空調機の信頼性が損なわれる。そこで、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を、返油パイプを介して油溜まりに戻す構成とし、密閉ハウジング内を流動して圧縮機構に吸入される冷媒ガスと潤滑油とを接触させないようにすることにより、油循環率を低減するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、上記のように、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を、返油パイプを介して密閉ハウジング下部の油溜まりに戻すように構成したものにおいて、返油パイプとして金属製のパイプ以外に、樹脂製のパイプを用いたものが、例えば特許文献3,4等により提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3608401号公報
【特許文献2】特開2005−163637号公報
【特許文献3】特開2006−97517号公報
【特許文献4】特開2006−132419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1−4に示されたものでは、密閉ハウジング内での冷媒ガスと潤滑油との接触を減らし、油循環率(OCR)を低減することができる。しかしながら、返油パイプを余り太くできないという問題があった。つまり、粘度を持っている潤滑油を長いパイプを通して円滑に流下させるには、パイプ径をできるだけ太くすることが望ましいが、返油パイプは、密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間を通して配設されているため、パイプ径を太くすると、隙間を大きくしなければならなくなる。
【0007】
上記隙間は、通常、モータステータの外周にカット面を設けて形成しているため、返油パイプを太くすると、それに伴ってモータステータのカット面を大きくしなければならなくなり、これによって、モータ性能への影響が懸念される。このことから、モータ性能に影響を及ぼさないようにしながら、潤滑油の返油性を確保しなければならないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、油循環率を低減することができるとともに、返油パイプを大径化して潤滑油の返油性を確保しながら、モータ性能への影響を排除することができる密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明の密閉型圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる密閉型圧縮機は、密閉ハウジング内の上部に設けられている圧縮機構の所要潤滑部位に、電動モータにより駆動される回転軸内の給油孔を介して前記密閉ハウジング下部の油溜まりに充填されている潤滑油が給油され、前記所要潤滑部位を潤滑した潤滑油が、返油パイプを介して前記油溜まりに戻されるように構成されている密閉型圧縮機において、前記返油パイプが変形性を有する樹脂製返油パイプとされるとともに、該樹脂製返油パイプが前記密閉ハウジングと前記電動モータのステータとの間の隙間に変形して挿通されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油が、返油パイプを介して油溜まりに戻されるように構成されている密閉型圧縮機において、返油パイプが変形性を有する樹脂製返油パイプとされるとともに、該樹脂製返油パイプが密閉ハウジングと電動モータのステータとの間の隙間に変形して挿通されているため、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑して排出される潤滑油を、返油パイプを通して油溜まりに返油することにより、密閉ハウジング内を流動して圧縮機構に吸入される冷媒ガスと接触させることなく、油溜まりへと戻すことができ、従って、冷媒ガスに伴われて圧縮機から冷凍サイクル側に循環される潤滑油の油循環率(OCR)を低減し、冷凍サイクル側でのシステム効率を向上することができるとともに、圧縮機側で潤滑油不足に陥るリスクを低減し、圧縮機の信頼性を向上することができる。また、返油パイプが変形性を有する樹脂製パイプとされていることから、密閉ハウジングとモータステータとの間の狭い隙間に太い樹脂製パイプを、例えば扁平状に変形させて挿通することができ、従って、返油パイプを大径化して潤滑油を円滑に油溜まりに戻すことができるとともに、返油パイプを大径化したとしても、それを密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間に変形させて挿通できることから、組み立ての容易性を確保することができる。しかも、密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間を大きくする必要がなく、モータステータの切欠き部を小さいままに維持することができるため、モータ性能への影響を皆無とすることができる。
【0011】
さらに、本発明の密閉型圧縮機は、上記の密閉型圧縮機において、前記樹脂製返油パイプは、フッ素樹脂系パイプとされていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、樹脂製返油パイプが、フッ素樹脂系パイプとされているため、樹脂製返油パイプを耐冷媒性および耐潤滑油性を有し、かつ変形性を有するフッ素樹脂系の、例えばFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))製の太い返油パイプとすることができる。従って、耐冷媒性、耐潤滑油性を確保しながら、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を冷媒ガスと接触させずに、大径化されたフッ素樹脂系パイプの大きな断面流路を介して、スムーズに密閉ハウジング下部の油溜まりに戻すことができる。
【0013】
さらに、本発明の密閉型圧縮機は、上述のいずれかの密閉型圧縮機において、前記樹脂製返油パイプは、下端部が前記密閉ハウジング下部の前記油溜まりまで延長されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、樹脂製返油パイプの下端部が、密閉ハウジング下部の油溜まりまで延長されているため、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を、密閉ハウジング内を流動して冷媒ガスと接触させることなく、油溜まりまで導くことができる。従って、油循環率(OCR)を一層低減することができるとともに、油溜まりの油面を確保し、潤滑性能の信頼性を向上することができる。
【0015】
さらに、本発明の密閉型圧縮機は、上記の密閉型圧縮機において、前記樹脂製返油パイプの下端部は、前記回転軸の下端部を支持する下部軸受の側面にクランプされ、前記密閉ハウジングの内面から離間されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、樹脂製返油パイプの下端部が、回転軸の下端部を支持する下部軸受の側面にクランプされ、密閉ハウジングの内面から離間されているため、密閉ハウジングを構成するロワーハウジングを溶接する際の熱が、密閉ハウジングを介して樹脂製返油パイプに伝達するのを阻止することができる。つまり、密閉型圧縮機の密閉ハウジングは、一般に円筒状ボディーの両端部にアッパーハウジングおよびロワーハウジングを周溶接して構成されているが、この溶接時の熱が円筒状ボディーより樹脂製返油パイプに伝達するのを阻止することができ、従って、樹脂製返油パイプが密閉ハウジングの溶接時に溶融される等の不具合を解消することができる。
【0017】
さらに、本発明の密閉型圧縮機は、上述のいずれかの密閉型圧縮機において、前記樹脂製返油パイプは、下端部が前記密閉ハウジングと前記モータステータとの間の隙間の途中位置まで延長されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、樹脂製返油パイプの下端部が、密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間の途中位置まで延長されているため、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油と密閉ハウジング内を流動して冷媒ガスとの接触を十分に減らし、該潤滑油を密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間を通してモータステータの下端部より速やかに油溜まりへと戻すことができる。従って、油循環率(OCR)を確実に低減することができるとともに、油溜まりの油面を確保し、潤滑性能の信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、圧縮機構の所要潤滑部位を潤滑して排出される潤滑油を、返油パイプを通して油溜まりに返油することにより、密閉ハウジング内を流動して圧縮機構に吸入される冷媒ガスと接触させることなく、油溜まりへと戻すことができるため、冷媒ガスに伴われて圧縮機から冷凍サイクル側に循環される潤滑油の油循環率(OCR)を低減し、冷凍サイクル側でのシステム効率を向上することができるとともに、圧縮機側で潤滑油不足に陥るリスクを低減し、圧縮機の信頼性を向上することができる。また、返油パイプが変形性を有する樹脂製パイプとされていることから、密閉ハウジングとモータステータとの間の狭い隙間に太い樹脂製パイプを、例えば扁平状に変形させて挿通することができるため、返油パイプを大径化して潤滑油を円滑に油溜まりに戻すことができるとともに、返油パイプを大径化したとしても、それを密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間に変形させて挿通できることから、組み立ての容易性を確保することができる。しかも、密閉ハウジングとモータステータとの間の隙間を大きくする必要がなく、モータステータの切欠き部を小さいままに維持することができるため、モータ性能への影響を皆無とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る密閉型圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面相当図である。
【図3】図1のB−B断面相当図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る密閉型圧縮機の縦断面図である。
【図5】図4のC−C断面相当図である。
【図6】図4のD−D断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図3を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係る密閉型圧縮機の縦断面図が示され、図2および図3には、図1のA−A断面およびB−B断面相当図が示されている。なお、本実施形態では、低段側の圧縮機構にロータリ圧縮機構2、高段側の圧縮機構にスクロール圧縮機構3を用いた密閉型2段圧縮機(密閉型圧縮機)1の例が示されているが、本発明は、このような密閉型2段圧縮機1に限定されるものでないことはもちろんである。
【0022】
密閉型2段圧縮機1は、密閉ハウジング10を備えている。密閉ハウジング10は、円筒状のボディー10Aと、その上下両端に周溶接されるロワーハウジング10Bおよびアッパーハウジング10Cとから構成されている。この密閉ハウジング10内のほぼ中央部には、ステータ5とロータ6とから構成される電動モータ4が固定設置されている。ロータ6には、回転軸(クランク軸)7が一体に結合されている。この電動モータ4の下方部には、低段側のロータリ圧縮機構2が設置されている。
【0023】
低段側のロータリ圧縮機構2は、シリンダ室20を備え、密閉ハウジング10に固定設置されるシリンダ本体21と、シリンダ本体21の上下に固定設置され、シリンダ室20の上部および下部を密閉する上部軸受22および下部軸受23と、回転軸7のクランク部7Aに嵌合され、シリンダ室20の内周面を回動するロータ24と、シリンダ室20内を吸入側と吐出側とに仕切る図示省略のブレードおよびブレード押えバネ等とを備えた公知のロータリ圧縮機構によって構成されている。
【0024】
この低段側ロータリ圧縮機構2は、アキュームレータ25および吸入管26を経てシリンダ室20内に低圧の冷媒ガス(作動ガス)を吸入し、この冷媒ガスをロータ24の回動により中間圧まで圧縮した後、吐出チャンバ27を介して密閉ハウジング2内に吐き出すように構成されている。密閉ハウジング2内に吐き出された中間圧冷媒ガスは、電動モータ4のロータ6に設けられているガス通路6A等を介して電動モータ4の上部空間に流動され、そこから高段側のスクロール圧縮機構3へと吸入されて2段圧縮されるように構成されている。
【0025】
高段側のスクロール圧縮機構3は、回転軸(クランク軸)7を支持する軸受部30を備え、密閉ハウジング2に固定設置されている支持部材31(フレーム部材または軸受部材とも云う。)と、それぞれ端板上に立設された渦巻き状ラップを備え、該渦巻き状ラップ同士を噛み合わせて支持部材31上に組み付けられることにより一対の圧縮室34を形成する固定スクロール部材32および旋回スクロール部材33と、該旋回スクロール部材33背面のボス部と回転軸7の軸端に設けられている偏心ピン7Bとを結合し、旋回スクロール部材33を公転旋回駆動する旋回軸受35と、旋回スクロール部材33と支持部材31との間に設けられ、旋回スクロール部材33をその自転を阻止しつつ公転旋回させる自転阻止機構36と、固定スクロール部材32の背面に設けられている吐出弁37と、固定スクロール部材32の背面に固定設置され、固定スクロール部材32との間で吐出チャンバ38を形成している吐出カバー39等とを備えた公知のスクロール圧縮機構によって構成されている。
【0026】
上記の高段側スクロール圧縮機構3は、低段側ロータリ圧縮機構2により圧縮されて密閉ハウジング10に吐き出された中間圧の冷媒ガスを圧縮室34内に吸入し、該中間圧冷媒ガスを旋回スクロール部材33の公転旋回駆動により高温高圧状態に圧縮した後、吐出弁37を経て吐出チャンバ38に吐き出すように構成されている。この高温高圧の冷媒ガスは、吐出チャンバ38から吐出管40を経て密閉型圧縮機1の外部、すなわち冷凍サイクル側に送出されるようになっている。また、高段側スクロール圧縮機構3を構成する上記支持部材31は、密閉ハウジング10内に複数箇所で点溶接され、密閉ハウジング10に固定設置されている。
【0027】
また、回転軸(クランク軸)7の下端部と低段側ロータリ圧縮機構2の下部軸受23との間には、公知の容積形給油ポンプ11が組み込まれている。該給油ポンプ11は、密閉ハウジング10の底部に形成されている油溜まり12に充填されている潤滑油13を汲み上げ、回転軸7内に設けられている給油孔14を介して低段側ロータリ圧縮機構2および高段側スクロール圧縮機構3の軸受部等の所要潤滑部位に潤滑油13を強制給油できるように構成されている。
【0028】
さらに、密閉ハウジング10内の上部に設けられている高段側スクロール圧縮機構3の支持部材31には、旋回軸受35、自転阻止機構36、旋回スクロール部材33のスラスト面等の潤滑部位を潤滑した潤滑油を排出する排油孔41が設けられており、この排油孔41には、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位から排出された潤滑油を密閉ハウジング10底部の油溜まり12に戻す樹脂製の返油パイプ42が接続されている。この樹脂製返油パイプ42は、低段側ロータリ圧縮機構2から吐出されて密閉ハウジング10内を流動している冷媒ガスと、高段側スクロール圧縮機構3から排出された潤滑油とが接触しないようにし、該潤滑油が高段側スクロール圧縮機構3に吸込まれ、圧縮ガスに伴われて冷凍サイクルに循環されるのを低減するためのものである。
【0029】
樹脂製返油パイプ42は、耐冷媒性および耐潤滑油性を有し、かつ変形性を有するフッ素樹脂系の、例えばFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))からなる比較的太いパイプによって構成されている。該樹脂製返油パイプ42の下端部は、図2に示されるように、密閉ハウジング10と電動モータ4のステータ5との間の隙間8、すなわちステータ5の外周に設けられているDカット部を通して電動モータ4の上部側から下部側へと貫通され、密閉ハウジング10の底部に形成されている油溜まり12まで延長されている。
【0030】
また、樹脂製返油パイプ42は、上記隙間8(ステータ5外周のDカット部)の半径方向最大隙間幅よりも太い径を有するパイプとされている。このため、隙間8よりも大径化された樹脂製返油パイプ42は、その変形性を利用して、図2に示されるように、扁平状に変形されて隙間8に挿通され、上下方向に配設されている。更に、この樹脂製返油パイプ42の下端部は、低段側ロータリ圧縮機構2のシリンダ本体21に設けられている打抜き孔21Aに通された後、回転軸7の下端部を支持している下部軸受23の側面にクランプ43を介して固定され、密閉ハウジング10の内面から離間された状態で油溜まり12内へと延長されている。
【0031】
以上に説明の構成により、本実施形態によると、以下の作用効果を奏する。
吸入管26を介して低段側ロータリ圧縮機構2のシリンダ室20に吸入された低温低圧の冷媒ガスは、ロータ24の回動により中間圧まで圧縮された後、吐出チャンバ27に吐き出される。この中間圧冷媒ガスは、吐出チャンバ27から電動モータ4の下部空間内に吐き出された後、電動モータ4のロータ6に設けられているガス通路6A等を流通して電動モータ4の上部空間側に流動される。
【0032】
電動モータ4の上部空間側に流動された中間圧冷媒ガスは、高段側スクロール圧縮機構3を構成する支持部材31と密閉ハウジング10との間の隙間等を通り固定スクロール部材32に設けられている高段側スクロール圧縮機構3の吸入口に導かれ、圧縮室34内に吸入される。この中間圧冷媒ガスは、高段側スクロール圧縮機構3により高温高圧状態に2段圧縮された後、吐出弁37を経て吐出チャンバ38内に吐き出され、そこから吐出管40を介して圧縮機外部、すなわち冷凍サイクル側に送出される。
【0033】
一方、回転軸7が回転されることにより給油ポンプ11を介して油溜まり12から潤滑油13が汲み上げられる。この潤滑油13の一部は低段側ロータリ圧縮機構2の軸受部等に給油され、残りの大部分は回転軸7内に設けられている給油孔14を介して高段側スクロール圧縮機構3の旋回軸受35等の所要潤滑部位に給油され、それぞれ潤滑部位を潤滑する。高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油は、支持部材31の油溜めから排油孔41へと排出され、排油孔41に接続されている樹脂製返油パイプ42内を流下して密閉ハウジング10下部の油溜まり12に戻される。
【0034】
このように、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑して排油孔41に排出された潤滑油を、樹脂製返油パイプ42を介して油溜まり12に戻すことにより、密閉ハウジング10内を流動している冷媒ガスとの接触を減らすことができ、潤滑油が冷媒ガスと共に高段側スクロール圧縮機構3に吸入され、圧縮された後、冷凍サイクル側へと循環される油上がり現象を抑制することができる。従って、密閉型2段圧縮機1から冷凍サイクル側に循環される潤滑油の油循環率(OCR)を低減し、冷凍サイクル側でのシステム効率を向上することができるとともに、2段圧縮機1側で潤滑油不足に陥るリスクを低減し、2段圧縮機1およびそれを用いた冷凍・空調機の信頼性を向上することができる。
【0035】
また、返油パイプが変形性を有する樹脂製返油パイプ42とされていることから、密閉ハウジング10とモータステータ5との間の狭い隙間8に、大径化された樹脂製返油パイプ42を、例えば扁平状に変形させて挿通することができる。このため、樹脂製返油パイプ42を大径化して潤滑油をスムーズに油溜まり12に戻すことができるとともに、樹脂製返油パイプ42を大径化したとしても、それを密閉ハウジング10とモータステータ5との間の狭い隙間8に変形させて挿通できるため、組み立ての容易性を確保することができる。しかも、密閉ハウジング10とモータステータ5との間の隙間8を大きくする必要がなく、モータステータ5の切欠き部を小さいままに維持することができるため、モータ性能への影響を排除とすることができる。
【0036】
また、樹脂製返油パイプ42が、フッ素樹脂系パイプとされているため、樹脂製返油パイプ42を耐冷媒性および耐潤滑油性を有し、かつ変形性を有するフッ素樹脂系の、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))製等の太いパイプとすることができる。従って、耐冷媒性、耐潤滑油性を確保しつつ、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を冷媒ガスと接触させずに、大径化されたフッ素樹脂系パイプ42の大きな断面流路を介して、スムーズに密閉ハウジング10下部の油溜まり12に戻すことができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、樹脂製返油パイプ42の下端部が、密閉ハウジング10下部の油溜まり12まで延長された構成とされている。このため、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を、密閉ハウジング10内を流動して冷媒ガスと接触させることなく、そのまま樹脂製返油パイプ42を介して直接油溜まり12まで導くことができる。従って、油循環率(OCR)を一層低減することができるとともに、油溜まり12の油面を確保し、潤滑性能の信頼性を向上することができる。
【0038】
また、樹脂製返油パイプ42の下端部を、回転軸7の下端部を支持する下部軸受23の側面にクランプ43を介して固定し、密閉ハウジング10の内面から一定距離離間させるようにしている。このため、密閉ハウジング10を構成するロワーハウジング10Bを溶接する際の熱が、密閉ハウジング10を介して樹脂製返油パイプに伝達するのを阻止することができる。つまり、密閉ハウジング10は、通常、円筒状ボディー10Aの両端部にアッパーハウジング10Cとロワーハウジング10Bとを周溶接して構成されるが、この溶接時の熱が円筒状ボディー10Aより樹脂製返油パイプ42に伝達するのを阻止することができ。これによって、樹脂製返油パイプ42が密閉ハウジング10の溶接時に溶融される等の不具合を解消することができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図4ないし図6を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、樹脂製返油パイプ42Aの長さを短くし、隙間8の途中位置までとしている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油を排出する排油孔41に接続されている樹脂製返油パイプ42Aの下方への延長長さを、密閉ハウジング10とモータステータ5との間の隙間8の途中位置、すなわち隙間8の上下方向長さの略中間位置までとしている。そして、樹脂製返油パイプ42Aの下端からは、潤滑油を隙間8および密閉ハウジング10の内面に沿って油溜まり12まで流下させるようにしている。
【0040】
このように、樹脂製返油パイプ42Aの長さを、密閉ハウジング10とモータステータ5との間の隙間8の途中位置までとし、そこから隙間8を介して油溜まり12へと流下させることによっても、高段側スクロール圧縮機構3の所要潤滑部位を潤滑した潤滑油と密閉ハウジング10内を流動して冷媒ガスとの接触を十分に減らし、該潤滑油を密閉ハウジング10とモータステータ5との間の隙間8を通してモータステータ5の下端部より速やかに油溜まり12へと戻すことができる。従って、これによっても油循環率(OCR)を確実に低減することができるとともに、油溜まりの油面を確保し、潤滑性能の信頼性を向上することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、低段側圧縮機構をロータリ圧縮機構2、高段側圧縮機構をスクロール圧縮機構3とした密閉型2段圧縮機1の例について説明したが、これら圧縮機構の型式は如何なる型式のものであってもよく、また、圧縮機は、2段圧縮機に限らず、単段の密閉型圧縮機であってもよいことはもちろんである。
【0042】
さらに、樹脂製返油パイプ42,42Aは、フッ素樹脂系FEPに限定されるものではなく、耐冷媒性、耐潤滑油性があって、かつ変形性を有する樹脂であれば、他の樹脂であってもよい。また、密閉ハウジング10とモータステータ5との間の隙間8は、Dカット面に限らず、モータステータ5側も円弧面とされた切欠きであってもよく、この場合、樹脂製返油パイプ42,42Aは、内外周面とも湾曲した形状に変形されることになる。
【符号の説明】
【0043】
1 密閉型2段圧縮機(密閉型圧縮機)
2 低段側ロータリ圧縮機構
3 高段側スクロール圧縮機構
4 電動モータ
5 モータステータ
7 回転軸(クランク軸)
8 隙間
10 密閉ハウジング
12 油溜まり
13 潤滑油
14 給油孔
23 下部軸受
41 排油孔
42,42A 樹脂製返油パイプ
43 クランプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉ハウジング内の上部に設けられている圧縮機構の所要潤滑部位に、電動モータにより駆動される回転軸内の給油孔を介して前記密閉ハウジング下部の油溜まりに充填されている潤滑油が給油され、前記所要潤滑部位を潤滑した潤滑油が、返油パイプを介して前記油溜まりに戻されるように構成されている密閉型圧縮機において、
前記返油パイプが変形性を有する樹脂製返油パイプとされるとともに、該樹脂製返油パイプが前記密閉ハウジングと前記電動モータのステータとの間の隙間に変形して挿通されていることを特徴とする密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記樹脂製返油パイプは、フッ素樹脂系パイプとされていることを特徴とする請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記樹脂製返油パイプは、下端部が前記密閉ハウジング下部の前記油溜まりまで延長されていることを特徴とする請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記樹脂製返油パイプの下端部は、前記回転軸の下端部を支持する下部軸受の側面にクランプされ、前記密閉ハウジングの内面から離間されていることを特徴とする請求項3に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
前記樹脂製返油パイプは、下端部が前記密閉ハウジングと前記モータステータとの間の隙間の途中位置まで延長されていることを特徴とする請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57594(P2012−57594A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204548(P2010−204548)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】