説明

射出成形機

【課題】成形動作を停止することなく、又、逆流防止弁を取り外すことなくバレル内部の部品の摩耗状態を推定できるようにした射出成形機を得る。
【解決手段】スクリューが前進するとき、樹脂のバックフローが生じる。このバックフローがスクリューに作用しスクリューに回転力を与える。スクリュー前進時、逆流防止弁等が摩耗していない状態では、図3(a)に示すようなスクリュー回転力が発生する。逆流防止弁等が摩耗すると、バックフローが増大し、逆流防止弁の閉鎖が遅れ、図3(b)に示すようなスクリュー回転力が発生する。摩耗しているか否かで、スクリュー回転力のピーク値の大きさ、ピーク発生時点、そのときのスクリュー位置が変化する。これらの物理量の変化量によって逆流防止弁等の摩耗状態を推定する。バレル内部の逆流防止弁、スクリューヘッド、チェックシート等の摩耗状態を推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆流防止弁、スクリュー、バレル内壁等の摩耗状態を検出するようにした射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、溶融された樹脂をバレルの前方に蓄え、スクリュー又はプランジャーを前進移動させることによって、この溶融樹脂を金型内に射出するものである。スクリューを回転させて樹脂を溶融し、溶融樹脂をスクリューの前方に送り出し、スクリューをこの樹脂圧で後退させて計量を行い、その後スクリューを前進させて溶融樹脂を金型内に射出するインラインスクリュー式の射出成形機においては、射出時の樹脂の逆流を防止するためにスクリュー先端に逆流防止弁を備えている。
【0003】
図1は、従来から用いられている逆流防止弁機構の一例である。スクリュー1はバレル7内に挿入され、該スクリュー1の先端には、スクリューヘッド2とスクリュー1の本体部分間の縮径された部分にスクリュー軸方向に移動可能に逆流防止弁3が配置され、この縮径された部分のスクリュー1の本体側には、この逆流防止弁3と当接密着し、樹脂通路を閉鎖するチェックシート4を備える。
【0004】
計量工程においては、スクリュー1が回転し、スクリュー1の後方から供給される樹脂ペレット8はスクリュー1の回転によって発生するせん断熱とスクリュー1が挿入されているバレル7の外側に設けられたヒータからの熱により溶融される。溶融された樹脂は逆流防止弁3の後方の樹脂圧力を上昇させ、逆流防止弁3を前方に押す力を発生させる。逆流防止弁3が前方に押されると後方の溝部6の樹脂が逆流防止弁3と縮径された部分の間隙を通り逆流防止弁3の前方に流れ込みスクリューヘッド2前方のバレル7内の圧力を上昇させる。
【0005】
逆流防止弁3の前方の樹脂圧力が所定の圧力(背圧)を超えるとスクリュー1が後方に押されて逆流防止弁3の前方の圧力が減圧される。さらにスクリュー1が回転することで逆流防止弁3の後方の圧力が逆流防止弁3の前方の圧力よりも高くなるので継続して溶融された樹脂が逆流防止弁3の前方に送り込まれる。所定の量(計量位置)までスクリュー1が後退するとスクリュー回転を停止させ、計量工程を終了する。
【0006】
次に射出工程に入り、樹脂を金型に充填するためにスクリュー1が前進(図1中右から左方向へ)すると、スクリューヘッド2の前方にたまった樹脂圧力が上昇するので、逆流防止弁3が後退しチェックシート4と密着して樹脂通路を閉鎖し、溶融樹脂がスクリュー後退方向に逆流することを防止する。
射出開始から逆流防止弁が樹脂通路を閉鎖するまでの間には逆流防止弁前方から後方に向かって樹脂の逆流(バックフロー)が生じる。このバックフローは樹脂通路中に生じるが、逆流防止弁3の外径とバレル7の内径との差のギャップを通っても発生する。長い期間、射出成形機を使用し続けると、逆流防止弁3やバレルが摩耗し、バックフロー量が変化することになる。このバックフロー量は、金型に充填される樹脂量に影響を与えることから、成形品の品質に影響を与える。
【0007】
そこで、この樹脂の漏れ量(バックフロー量)を検出する各種方法が知られている。
例えば、保圧中のスクリュー前進距離に基づいて(特許文献1参照)、又は、保圧中のスクリュー前進速度に基づいて(特許文献2参照)、バックフロー量を検出して、成形不良を未然に防止したり、逆流防止弁の摩耗等を検出する方法が知られている。
【0008】
又、金型ゲート部とノズル部との間に樹脂流動停止手段を設け、樹脂の流動を停止した状態で所定の圧力をかけ、スクリューの前進状態に基づいてバックフロー量を検出する手法も知られている(特許文献3、4参照)。
【0009】
さらには、図1に示すように、スクリュー1を前進させたときに樹脂のバックフローが生じると、バックフローした樹脂が、樹脂圧力(射出圧力)に応じた力でスクリュー1のフライト5を押す。この押す力Fは、スクリュー軸線方向の力(後方に押す力)Fxとスクリュー回転方向の力(計量時とは逆方向に回転させる力)Fθに分力される。従って、バックフローにより、スクリュー1には射出圧力に応じたスクリュー回転力Fθが作用する。そこで、このスクリュー回転力Fθが所定値を超えると、逆流防止弁に異常が発生としたとして検知する方法も知られている(特許文献5参照)。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−3916号公報
【特許文献2】特開平1−281912号公報
【特許文献3】特開平4−28519号公報
【特許文献4】特開平4−263917号公報
【特許文献5】特開平1−168421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
逆流防止弁の外径が摩耗で減少したときや、バレルの内径が摩耗で拡大したときは、上述したようにバックフロー量が増大することから、このバックフロー量によって、逆流防止弁やバレルの摩耗状態を推定することが可能である。特許文献1,2に記載された発明では、保圧中でのスクリュー前進距離又は前進速度によって、バックフロー量を検出するものであることから、この検出バックフロー量によって逆流防止弁やバレルの摩耗状態を推定することが想定できるが、しかし、保圧中に成形品は収縮し、この収縮によりスクリューは前進するため、この方法ではスクリュー前進がバックフローによるものなのか、成形品の収縮によるものなのか判別することができず、正確にバックフロー量が検出できない。そのため、逆流防止弁やバレルの摩耗状態も正確に推定できない。
【0012】
又、特許文献3,4に記載された発明では、成形品の収縮によるスクリュー移動は発生しないが、樹脂流動を停止するための特別な機構を必要とするという欠点がある。
又、特許文献5に記載された発明は、樹脂のバックフローによるスクリュー回転力により逆流防止弁の摩耗等の異常を検出するものであるが、この異常が発生する前に現在の摩耗の度合いを推定したり、現在までの摩耗度合いから寿命を予測したりすることはできない。
そこで、本発明は、成形動作を停止することなく、又、逆流防止弁を取り外すことなくバレル内部の部品の摩耗状態を推定できるようにした射出成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1に係る発明は、逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段と、射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段とを備えた射出成形機において、前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、検出された回転力のピーク時点の前記物理量検出手段で検出される物理量に基づいてスクリュー先端部品および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたことを特徴とするものである。又、請求項2に係る発明は、前記摩耗状態推定手段は、前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点における前記物理量の所定の成形サイクル間における統計的なばらつきを求め、該ばらつきに基づいて、スクリュー先端部品および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する。
【0014】
請求項3に係る発明は、逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、該回転力のピークが検出されてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力に基づいて、逆流防止弁の外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段を備えるものである。請求項4に係る発明は、さらに、射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段を備え、前記摩耗状態推定手段は、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの回転力が所定値より大きい場合は、逆流防止弁の外周およびバレル内壁の摩耗が進行していると判断し、前記物理量検出手段で検出された回転力がピークとなる時点における前記物理量に基づいて逆流防止弁の外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定し、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの回転力が所定値より小さい場合は、逆流防止弁の端面および又はスクリューヘッドの端面の摩耗が進行していると判断し、前記物理量検出手段で検出された回転力がピークとなる時点において前記物理量に基づいて逆流防止弁の端面又はスクリューヘッドの端面の摩耗状態を推定するものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段と、射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段とを備えた射出成形機において、前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、検出された回転力のピーク時点の前記物理量検出手段で検出される物理量を表示する表示手段とを備えたものである。又、請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、さらに、前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点における前記物理量の所定の成形サイクル間における統計的なばらつきを算出する手段を備え、前記表示手段は、該算出されたばらつきを表示するものである。
【0016】
請求項7に係る発明は、逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、該回転力のピークが検出されてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力の平均値、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力の積分値、回転力にピークが生じてから所定時間経過後の回転力、回転力にピークが生じてから所定距離スクリューが前進した時点の回転力、又はスクリュー前進完了時点の回転力のいずれか1以上を求める手段と、該手段で求めた値を表示する手段とを備えるものである。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1、2、4、5、6に係る発明において、前記物理量検出手段を、スクリュー位置を検出する手段とし、前記物理量をスクリュー位置又はスクリュー前進開始時点から回転力のピーク時点までのスクリュー移動距離としたものである。 請求項9に係る発明は、請求項1、2、4、5、6に係る発明において、前記物理量検出手段を、経過時間を検出する手段とし、前記物理量をスクリュー前進開始時点から回転力のピークを検出する時点までの経過時間とした。
請求項10に係る発明は、請求項1、2、4、5、6に係る発明において、前記物理量検出手段を、前記回転力検出手段とし、前記物理量を回転力又はスクリュー前進開始時点から回転力のピーク時点までの回転力の時間積分値とした。
請求項11に係る発明は、請求項1、2、4、5、6に係る発明において、前記物理量検出装置を、スクリュー位置を検出する手段とし、前記物理量をスクリュー前進開始時点から回転力ピーク時点までの回転力をスクリュー位置に関して積分した値とした。
請求項12に係る発明は、請求項1、2、4、5、6に係る発明において、前記物理量検出手段を、樹脂圧力を検出する手段とし、前記物理量を樹脂圧力とした。
【0018】
請求項13に係る発明は、フライトを有するプランジャーと、該プランジャーに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、前記プランジャーを前進移動させる際に、前記プランジャーに作用する回転力を前記回転力検出手段で検出し、該検出した回転力に基づいてプランジャーの外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたものとした。
請求項14に係る発明は、スクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、前記スクリューを前進移動させる際に、前記スクリューに作用する回転力を前記回転力検出手段で検出し、該検出した回転力に基づいてスクリューフライトの摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたものとした。
【発明の効果】
【0019】
成形運転を停止してバレルを分解することなく、逆流防止弁やバレル内壁、さらには、スクリューやプランジャーの摩耗状態を推定できる。逆流防止弁が閉鎖不良に陥る前に、逆流防止弁等を交換し、成形不良を未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図2は、本発明の各実施形態の射出成形機の要部ブロック図である。
スクリュー1が挿入されたバレル7の先端には、ノズル9が装着され、バレル7の後端部には樹脂ペレットをバレル7内に供給するホッパ15が取り付けられている。スクリュー1は、その先端に逆流防止弁3、チェックシート4等からなる逆流防止弁機構を備えている。該スクリューは、回転駆動手段としてのスクリュー回転用のサーボモータ10と、ベルト、プーリ等で構成される伝動機構12により回転駆動されるようになっている。さらに該スクリュー1は、スクリューを軸方向に駆動する駆動手段としての射出用サーボモータ11、伝動機構13及びボールネジ/ナット等の回転運動を直線運動に変換する変換機構14によって軸方向に駆動され、射出及び背圧制御がなされるように構成されている。スクリュー回転用のサーボモータ10、射出用サーボモータ11にはその回転位置速度を検出する位置・速度検出器16,17が取り付けられており、この位置・速度検出器によって、スクリュー1の回転速度、スクリュー1の位置(スクリュー軸方向の位置)、移動速度(射出速度)を検出できるようにしている。又、溶融樹脂からスクリュー1に加わるスクリュー軸方向の圧力を樹脂圧力として検出するロードセル等の圧力センサ18が設けられている。
【0021】
この射出成形機を制御する制御装置20は、数値制御用のマイクロプロセッサであるCNCCPU22、プログラマブルマシンコントローラ用のマイクロプロセッサであるPMCCPU21、サーボ制御用のマイクロプロセッサであるサーボCPU25とがバス36で接続されている。
【0022】
PMCCPU21には射出成形機のシーケンス動作を制御するシーケンスプログラム等を記憶したROM26および演算データの一時記憶等に用いられるRAM27が接続され、CNCCPU22には、射出成形機を全体的に制御する自動運転プログラム等を記憶したROM28および演算データの一時記憶等に用いられるRAM29が接続されている。
【0023】
また、サーボCPU25には、位置ループ、速度ループ、電流ループの処理を行うサーボ制御専用の制御プログラムを格納したROM31やデータの一時記憶に用いられるRAM32が接続されている。さらに、サーボCPU25には、該CPU25からの指令に基いて、スクリュー回転用のサーボモータ10を駆動するサーボアンプ34や、スクリューを軸方向に駆動し射出等を行う射出用のサーボモータ11を駆動するサーボアンプ35が接続され、各のサーボモータ10、11には位置・速度検出器16、17がそれぞれ取り付けられており、これらから位置・速度検出器16、17からの出力がサーボCPU25に帰還されるようになっている。サーボCPU25は、CNCCPU22から指令される各軸(スクリュー回転用のサーボモータ10又は射出用のサーボモータ11)への移動指令と位置・速度検出器16、17からフィードバックされる検出位置、速度に基づいて位置、速度のフィードバック制御を行うと共に、電流のフィードバック制御をも実行して、各サーボアンプ34,35を介して、各サーボモータ10,11を駆動制御する。又、位置・速度検出器17からの位置フィードバック信号により、スクリュー1の前進位置(軸方向位置)を求める現在位置レジスタが設けられており、該現在位置レジスタにより、スクリュー位置を検出できるようにされている。
【0024】
又、サーボCPU25には、圧力センサ18での検出信号をA/D変換器33でデジタル信号に変換した樹脂圧力(スクリューにかかる樹脂圧力)が入力されている。また、樹脂の逆流によって生じるスクリュー1を回転させる回転力を検出するためにスクリュー回転用のサーボモータ10の駆動制御処理には、周知の外乱推定オブザーバが組み込まれ、該外乱推定オブザーバによってスクリュー1に加わる回転方向の力(回転力)を検出するようにしている。
【0025】
なお、型締機構やエジェクタ機構を駆動するサーボモータやサーボアンプ等も設けられているものであるが、これらのものは本願発明と直接関係していないことから、図2では省略している。
【0026】
液晶やCRTで構成される表示装置付き入力装置30は表示回路24を介してバス36に接続されている。さらに、不揮発性メモリで構成される成形データ保存用RAM23もバス36に接続され、この成形データ保存用RAM23には射出成形作業に関する成形条件と各種設定値、パラメータ、マクロ変数等を記憶する。
【0027】
以上の構成により、PMCCPU21が射出成形機全体のシーケンス動作を制御し、CNCCPU22がROM28の運転プログラムや成形データ保存用RAM23に格納された成形条件等に基いて各軸のサーボモータに対して移動指令の分配を行い、サーボCPU25は各軸(スクリュー回転用のサーボモータ10や射出用サーボモータ11等の各駆動軸のサーボモータ)に対して分配された移動指令と位置・速度検出器で検出された位置および速度のフィードバック信号等に基いて、従来と同様に位置ループ制御、速度ループ制御さらには電流ループ制御等のサーボ制御を行い、いわゆるディジタルサーボ処理を実行する。
【0028】
上述した構成は従来の電動式射出成形機の制御装置と変わりはなく、従来の制御装置と異なる点は、スクリュー前進時のスクリュー回転力等に基づいて、バレル内部の各部品の摩耗状態を推定するための機能が付加されている点で相違するものである。
【0029】
・本発明の第1の実施形態
この第1の実施形態は、スクリュー前進時のバックフローによって生じるスクリュー回転力のピーク時の物理量に基づいて、バレル内部の各部品の摩耗状態を推定するものである。
射出保圧工程においてスクリューを前進させたとき、又は計量完了から射出開始までの間に逆流防止弁の閉鎖等を目的としてスクリュー1を先進させたとき、前述したように、樹脂のバックフローが生じる。このバックフローによる樹脂圧力がスクリュー1のフライト5に作用するから、バックフローの大きさに応じたスクリュー回転力が生じる。逆流防止弁3が樹脂通路を閉鎖すると、樹脂通路を介してのバックフローが無くなり、逆流防止弁3とバレル内壁間の隙間を介するわずかなバックフローだけとなり、スクリュー回転力は減少する。よって、スクリュー回転力がピークとなる時点は逆流防止弁3の閉鎖を表す。
【0030】
図3は、スクリュー前進時のスクリュー位置X、スクリュー回転力Qの時間変化を説明する説明図である。横軸はスクリュー前進開始時点を原点とした時間軸であり、縦軸はスクリュー位置、スクリュー回転力を表す。
図3(a)は逆流防止弁等が摩耗していない状態の場合であり、図3(b)は摩耗している状態の場合である。
逆流防止弁3の外周が摩耗していない場合、スクリュー1が前進して逆流防止弁3が閉鎖する際に、逆流防止弁3にはバレル7の内壁との間で樹脂を介在した粘性抵抗がはたらき、逆流防止弁3をスクリュー1に対して後方に動かす作用を及ぼす。
一方、逆流防止弁3の外周が摩耗すると、逆流防止弁3とバレル7内壁との間のクリアランスが大きくなる。すると、逆流防止弁3とバレル7の内壁との間で、樹脂を介在した粘性抵抗が小さくなり、逆流防止弁3をスクリュー1に対して後方に動かす作用が弱くなる。従って、逆流防止弁3の外周が摩耗すると、逆流防止弁3がスクリュー1に対して後方に移動する速度が遅くなり、逆流防止弁3の閉鎖が遅れる。又、スクリュー前進中(射出中)は樹脂圧力(射出圧力)が上昇し続けているので、逆流防止弁3の閉鎖するまでの間、樹脂圧力は増大し、バックフローによるスクリュー回転力も増大する。逆流防止弁が閉鎖すると、樹脂通路を介してのバックフローは無くなり、逆流防止弁3のバレル7の内壁との間の間隙より漏れるわずかなバックフローだけとなり、スクリュー回転力は小さくなる。よって、逆流防止弁3が樹脂通路を閉鎖する点でスクリュー回転力はピークとなる。
【0031】
図3(a)、(b)において、スクリュー回転力のピーク時の回転力をQ1、Q2、この時の時間をt1、t2、スクリュー位置をX1、X2とすると、逆流防止弁3の外周が摩耗している場合は、逆流防止弁3の閉鎖が遅れることから、Q1<Q2、t1<t2、X1>X2となる。したがって、スクリュー回転力のピーク時の回転力と時間は、摩耗していないときよりも摩耗しているときの方が大きい値となり、スクリュー位置は摩耗していないときよりも摩耗しているときの方が小さい値となる。
【0032】
そこで、スクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点(スクリュー回転力がピークとなる時点)までの経過時間を計測し、その経過時間の値を逆流防止弁3の摩耗量の指標とすることができる。又、スクリュー前進開始時のスクリュー位置から逆流防止弁閉鎖時点までの移動距離を逆流防止弁3の摩耗量の指標とすることができる。さらに、スクリュー前進開始時点からスクリュー回転力を測定し、該回転力がピークとなるとき(逆流防止弁閉鎖時点)の回転力の値を逆流防止弁3の摩耗量の指標とすることができる。
また、逆流防止弁3の摩耗がない状態で、スクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値を計測して記憶しておき、その後、成形運転を行って逆流防止弁が摩耗した状態で、経過時間、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値を計測し、摩耗がない状態に対する摩耗している状態における、経過時間、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値の増加分を求め、その増加分の値を逆流防止弁の摩耗量の指標とすることができる。又、スクリュー前進中(射出中)は樹脂圧力(射出圧力)が上昇し続けているので、逆流防止弁3の閉鎖が遅れると、閉鎖時点の圧力が大きくなる。従って、前記閉鎖時点の圧力の値を測定し、摩耗していないときに測定した閉鎖時点の樹脂圧力と、その後のスクリュー前進時での逆流防止弁閉鎖時点の検出樹脂圧力の差の値を逆流防止弁の摩耗量の指標とすることができる。
【0033】
また、逆流防止弁3は、スクリューヘッド2とチェックシート4間を移動して樹脂通路を開放、閉鎖するものであることから、逆流防止弁3の端面、スクリューヘッド2の逆流防止弁3が当接する端面、チェックシート4の逆流防止弁3が当接する端面が摩耗している場合、逆流防止弁3が開いている状態から閉鎖するまでに移動する逆流防止弁3の移動距離が長くなる。従って、逆流防止弁3、スクリューヘッド2、チェックシート4の端面が摩耗すると、逆流防止弁3が閉鎖するまでに必要な逆流防止弁の移動距離が長くなり、逆流防止弁3の閉鎖が遅れる。従って、この場合も、逆流防止弁が摩耗してその外径が小さくなったときと同様に、Q1<Q2、t1<t2、X1>X2となる。又、逆流防止弁閉鎖時の樹脂圧力も増大することから、スクリュー回転力のピーク時の回転力、時間、樹脂圧力は、摩耗していないときよりも摩耗しているときの方が大きい値となり、スクリュー位置は摩耗していないときよりも摩耗しているときの方が小さい値となる。したがって前述したように、スクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間や、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値、逆流防止弁閉鎖時点の樹脂圧力を逆流防止弁の摩耗量の指標とすることができる。
【0034】
上記説明では、逆流防止弁3の外周が摩耗することで、逆流防止弁とバレル内壁との間のクリアランスが大きくなる場合について説明したが、逆流防止弁3の外周は摩耗せずにバレル7の内壁が摩耗して、逆流防止弁3とバレル7の内壁との間のクリアランスが大きくなったときも、上述した逆流防止弁3の外周が摩耗したときと同じ現象が生じるものであることから、同じようにスクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間や、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値、樹脂圧力によって、このバレル7の内壁の摩耗量を判別することができる。
【0035】
以上のように、スクリューヘッド2、逆流防止弁3、チェックシート4(このスクリューヘッド2、逆流防止弁3、チェックシート4をスクリュー先端部品という)やバレルの内壁の摩耗状態を、スクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間や、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値、逆流防止弁閉鎖時点の樹脂圧力によって、推定することができるものである。
【0036】
又、前述したように、逆流防止弁3が開いている間、スクリュー回転力は樹脂圧力の大きさに比例して大きくなるため、閉鎖時点のスクリュー回転力が大きくなる。同時に、閉鎖までの回転力の時間積分値や位置に関する積分値も大きくなる。よって、逆流防止弁3が閉鎖する時点の回転力の時間積分値や位置に関する積分値を、逆流防止弁3の摩耗量の指標とすることもできる。
【0037】
図4は、この第1の実施形態において、CNCCPU22が所定サンプリング周期毎に実施する物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。又、図5は、同第1の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
射出保圧工程が開始される前に、スクリュー位置を記憶する現在位置レジスタによりこの射出開始時のスクリュー位置Xsを読み取り記憶する。又、後述するスクリュー回転力Qを記憶するレジスタR(Q)、スクリュー位置Xを記憶するレジスタR(X)、樹脂圧力Pを記憶するレジスタR(P)を「0」にクリアすると共に、サンプリング時を示す指標iを「0」にセットし、逆流防止弁が閉鎖されたことが検出されていることを示すフラグFを「0」にセットし、図4に示す処理を射出保圧工程中所定サンプリング周期毎に実行する。
【0038】
まず、フラグが「1」か判断し(ステップa1)、最初は「0」にセットされているから、ステップa2に移行し指標iを「1」インクリメントし、サーボCPU25の処理に組み込まれている外乱推定オブザーバによって求められるスクリュー回転力Q、現在位置記憶レジスタに記憶されているスクリュー位置X、A/D変換器を介してサーボCPUに入力される圧力センサ18で検出した樹脂圧力(射出圧力)Pを検出する(ステップa3)。
検出したスクリュー回転力QがレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力Qより大きいか判断し(ステップa4)、最初は、レジスタR(Q)には「0」が記憶されているから、検出したスクリュー回転力QはレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力Qより大きいので、ステップa5に進み、レジスタR(Q)、レジスタR(X)、レジスタR(P)にそれぞれステップa3で検出したスクリュー回転力Q、スクリュー位置X、樹脂圧力Pを記憶し、当該サンプリング周期の処理を終了する。
【0039】
図3に示すように、射出開始後スクリューが前進するにつれてスクリュー回転力Qは上昇することから、検出したスクリュー回転力Qは、レジスタR(Q)に記憶する回転力より大きくなるので、ステップa4からステップa5に移行し、レジスタR(Q)、レジスタR(X)、レジスタR(P)は順次当該サンプリング時に検出された値に書き換えられることになる。
一方、図3に示すように、逆流防止弁3が樹脂通路を閉鎖する時点でスクリュー回転力Qはピークとなり、以後は、スクリュー回転力Qは低下する。そこで、ステップa4で、検出したスクリュー回転力QがレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力(1サンプリング周期前に検出したスクリュー回転力)以下と判断されたときは、逆流防止弁が閉鎖されたとして、フラグFを「1」にセットし(ステップa6)、レジスタR(Q)、レジスタR(X)、レジスタR(P)に記憶されたスクリュー回転力Q、スクリュー位置X、樹脂圧力Pを、及び指標iより1差し引いた値を射出開始から逆流防止弁が閉鎖までの経過時間((i−1)×サンプリング周期によって経過時間が求められる)を、逆流防止弁閉鎖時点の物理量として記憶して(ステップa7)、当該サンプリング周期の処理を終了する。
【0040】
次のサンプリング周期からは、フラグFが「1」にセットされているから、ステップa1で、フラグFが「1」と判断されて、他の処理は実行せず、そのままサンプリング処理周期の処理は終了する。
【0041】
なお、上述した例では、スクリュー回転力Qのピークを検出した周期が、逆流防止弁の閉鎖時点としているが、スクリュー回転力Qが低下を開始した時点、すなわちステップa4で、Q>R(Q)と判断されたサンプリング時を逆流防止弁の閉鎖時点とするならば、ステップa3ではスクリュー回転力Qを検出し、ステップa5では、スクリュー回転力QのみをレジスタR(Q)に格納し、ステップa7で、スクリュー位置X、樹脂圧力Pを検出し、このスクリュー位置X、樹脂圧力P、及びステップa3で検出したスクリュー回転力Qを、及び指標iの値を逆流防止弁の閉鎖時点の物理量として記憶すればよいものである。
【0042】
そして、摩耗量推定指令が入力されると、CNCCPU22は図5に示す摩耗量推定処理を開始する。又は、射出保圧工程が終了する毎にこの摩耗量推定処理を実行してもよい。この第1の実施形態では、スクリュー前進距離Dによってスクリュー先端部品又はバレル内壁の摩耗量を推定する例を示している。
【0043】
まず、ステップa7で記憶した逆流防止弁の閉鎖時点のスクリュー位置Xと、射出開始時に記憶した射出開始時のスクリュー位置Xsとの差のスクリュー前進距離Dを求める(ステップb1)。
【0044】
D=Xs−X
又、予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されているスクリュー前進距離Dsと、求めたスクリュー前進距離Dにより、次の(1)式の演算を行うことによって摩耗量yを求め、表示装置付き入力装置30の表示画面に表示し(ステップb2)、この処理を終了する。
【0045】
y=a(D−Ds) …(1)
なお、aは変換係数である。
【0046】
上述した例では、摩耗状態を推定するための物理量としてスクリュー前進距離Dを用いて推定したが、射出開始から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間tを、摩耗状態を推定するための物理量として推定する場合には、ステップa7で求めた経過時間を示す指標値(i−1)にサンプリング周期を乗じて経過時間tを求め、該経過時間tから予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定された経過時間tsを減じて、変換係数を乗じて、摩耗量を求め表示すればよい。
【0047】
又、摩耗状態を推定するための物理量としてスクリュー回転力のピーク値Qや樹脂圧力Pを用いるときは、スクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されたスクリュー回転力のピーク値Qsや樹脂圧力Psを設定しておき、ステップa7で求められたスクリュー回転力のピーク値Q、樹脂圧力Pから摩耗していないときのスクリュー回転力のピーク値Qs、樹脂圧力Psをそれぞれ減じて、変換係数をかけて摩耗量を求め表示するようにすればよい。
【0048】
上述した第1の実施形態では、スクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定された物理量(スクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値、樹脂圧力)から測定された物理量をそれぞれ減じて、変化量を求めてスクリュー先端部品及びバレル内壁の摩耗量を推定し、表示したが、単に、求めた物理量、すなわち、ステップa7で求めたスクリュー前進開始時点から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間、スクリュー前進距離、スクリュー回転力のピーク値、樹脂圧力を表示装置付き入力装置30の表示画面に表示するだけでもよい。作業員は、この表示された物理量から摩耗状態を推定するようにしてもよいものである。
【0049】
上述した第1の実施形態では、スクリュー回転力のピーク時に検出する物理量をスクリュー回転力のピーク値、該ピーク値が発生するスクリュー位置、経過時間、樹脂圧力としたが、スクリュー前進から、スクリュー回転力のピークが発生するまでの回転力の時間積分値、スクリュー回転力をスクリュー前進開始からピーク発生までのスクリュー位置に関して積分した値を求め、これらの積分値をスクリュー回転力のピーク時の物理量としてもよいものである。この場合は、スクリュー回転力のピークが検出されるまで、各サンプリング周期毎、スクリュー回転力Q、スクリュー位置Xを記憶しておき(ステップa3でスクリュー回転力Q、スクリュー位置Xを記憶)、この記憶したデータに基づいて積分値を求めその積分値を表示して、摩耗量の指標としても、さらには摩耗がない逆流防止弁を使用して求めた同様な積分値との差を求めて表示し、摩耗状態を推定するようにしてもよい。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は、スクリュー先端部品及びバレル7の内壁の摩耗状態を推定する第2の実施形態の原理説明図である。図3と同様に、横軸はスクリュー前進開始時点を原点とした時間軸であり、縦軸はスクリュー位置、スクリュー回転力を表し、図6(a)は、摩耗していない状態、図6(b)は摩耗している状態での動作における、スクリュー回転力、スクリュー位置を表す図である。
【0051】
第1の実施形態について説明したように、逆流防止弁3の外周が摩耗すると逆流防止弁3とバレル7の内壁との間の抵抗が小さくなる。よって、逆流防止弁3がスクリュー1に対して後方に移動するのに際して、バレル内壁との間の抵抗による寄与は小さくなり、主に逆流防止弁3の前後の圧力差による影響が大きくなり、この圧力差によって逆流防止弁は後方に移動することになる。
ここで、弁の前後の圧力差によって逆流防止弁が後方に移動すると、逆流防止弁の内側にある樹脂の流路が狭くなり、弁の前後の圧力差が大きくなることに注目する。ある成形サイクルのスクリュー前進において、外乱等の影響によって弁の前後の圧力差が大きい場合には、逆流防止弁がスクリューに対して後方に移動する速度が速くなり、樹脂の流路は急速に狭まるため、弁の前後の圧力差はますます大きくなる。圧力差が大きくなると、逆流防止弁の移動速度はさらに加速されるため、逆流防止弁が閉鎖するまでの時間が短くなる。逆に、ある成形サイクルのスクリュー前進において、弁の前後の圧力差が小さい場合には、逆流防止弁がスクリューに対して後方に移動する速度が遅くなり、弁の前後の圧力差はなかなか大きくならない。圧力差が大きくならないと、逆流防止弁が閉鎖するまでの時間が長くなる。
【0052】
以上のように、逆流防止弁が摩耗しその外径が小さくなると(又はバレル内壁が摩耗してその内径が大きくなると)、逆流防止弁3の後方への移動速度が遅くなり、逆流防止弁3の閉鎖が遅れると共に、該逆流防止弁を移動させる力において、逆流防止弁3の前後の圧力差による影響が相対的に増大することから、逆流防止弁の前後の圧力差という初期条件のわずかな差が、逆流防止弁が閉鎖する過程で増幅されて、逆流防止弁が閉鎖するまでの時間が大きく変わる結果となる。そのため、逆流防止弁の閉鎖タイミングがばらつきやすい傾向となる。
【0053】
又、逆流防止弁の端面やスクリューヘッドの端面、及びチェックシートの端面が摩耗したときも、上述したように逆流防止弁の閉鎖は遅れる。この逆流防止弁の閉鎖に時間がかかる分、逆流防止弁の閉鎖タイミングのばらつきは大きくなる傾向となる。
【0054】
このことから逆に、逆流防止弁の閉鎖タイミングがばらつく場合は、スクリュー先端部品又はバレル内壁が摩耗していると推定することができる。
【0055】
図6(a)は、スクリュー先端部品又はバレル内壁が摩耗していないときの状態を表し、図6(b)は摩耗したときの状態を表すもので、摩耗していないときは、スクリュー回転力のピーク値、該ピーク値が発生する時点(逆流防止弁が閉鎖する時点)、そのときのスクリュー位置のばらつきは小さい。一方、図6(b)に示すように摩耗している場合には、スクリュー回転力のピーク値も大きくなり、該ピーク値が発生する時点(逆流防止弁が閉鎖する時点)も遅くなり、かつ、スクリュー回転力のピーク値、該ピーク値が発生する時点(逆流防止弁が閉鎖する時点)、そのときのスクリュー位置のばらつきも大きくなっている。なお、スクリュー回転力のピーク値のばらつきが大きいことは、スクリュー回転力のピークが発生するときの樹脂圧力のばらつきも大きいことを意味する。
【0056】
よって、この物理量のばらつきによって、スクリュー先端部品又はバレル内壁の摩耗状態を推定する。
この場合、第1の実施形態と同様に、射出保圧工程時にサンプリング周期毎に図4に示す処理を実行する。ただしこの第2の実施形態では、ステップa7での物理量を記憶するとき、複数のサイクル分を記憶するメモリに循環的に、このスクリュー回転力のピーク時(逆流防止弁が閉鎖する時点)の物理量(スクリュー回転力のピーク値、経過時間、スクリュー位置、樹脂圧力)を記憶するようにする。
【0057】
そして、摩耗状態を判定するには、この複数サイクル分記憶された物理量のばらつきを求めて判定するようにする。例えば、射出開始から逆流防止弁閉鎖までの経過時間の標準偏差を算出し、さらには、標準偏差が所定値より大きい場合は逆流防止弁の外周、バレル内壁の摩耗を判断するようにすればよい。また、その標準偏差の値を逆流防止弁の外周摩耗量の指標としてもよいし、この標準偏差を表示して摩耗量を推定するようにしてもよい。又、標準偏差の代わりに、経過時間の範囲(最大値−最小値)を用いてもよい。他の物理量を用いる場合も同様で、複数成形サイクルにおけるスクリュー回転力のピーク値、スクリュー位置、樹脂圧力の標準偏差や最大値と最小値の差を求めて、これを摩耗量の指標として表示すればよいものである。
【0058】
・本発明の第3の実施形態
この第3の実施形態は、スクリュー回転力のピークが生じた後(逆流防止弁が閉鎖した後)のスクリュー回転力に基づいてスクリューの外周、バレルの内壁の摩耗状態を推定するものである。
逆流防止弁3の外周又はバレルの内壁が摩耗していると、逆流防止弁とバレル内壁との間のクリアランスが大きいため、逆流防止弁3が閉鎖した後も逆流防止弁3の外周からバックフローが生じる。このとき、バックフロー量に応じてスクリュー回転力が生じる。一方で、逆流防止弁3の端面やスクリューヘッドの端面、チェックシートの端面が摩耗している場合は、逆流防止弁3が閉鎖した後はバックフローが小さいため、回転力も小さくなる。よって、逆流防止弁3が閉鎖した後の回転力に注目することで、摩耗箇所を逆流防止弁3の外周に特定して、その摩耗の度合いを推定することができる。
【0059】
図7は、逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているか、逆流防止弁3、スクリューヘッド2、チェックシート4の端面が摩耗しているかをスクリュー回転力のピーク後(逆流防止弁閉鎖後)のスクリュー回転力に違いで判別する説明図である。
【0060】
図7(a)は、摩耗がないときのスクリュー回転力の状態を表し、図7(b)は逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているときのスクリュー回転力の状態を表し、図7(c)は、逆流防止弁3、スクリューヘッド2、チェックシート4の端面が摩耗しているときのスクリュー回転力の状態を表している。
【0061】
図7(b)に示す逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているときは、スクリュー回転力のピーク時点(逆流防止弁閉鎖時点)は、図7(a)と比較して明らかのように、遅れて発生する。又、ピーク時のスクリュー回転力の大きさもスクリュー位置も図7(a)の摩耗がない場合と比較して大きくなっている。しかも、摩耗により、逆流防止弁3の外周とバレル7の内壁間のクリアランスが大きいため、逆流防止弁閉鎖後も逆流防止弁3の外周から生じるバックフローによりスクリュー回転力が発生している。一方、図7(c)に示す逆流防止弁3、スクリューヘッド2、チェックシート4の端面が摩耗している場合は、スクリュー回転力のピーク時点(逆流防止弁閉鎖時点)は遅れているが、逆流防止弁閉鎖後はバックフローが小さいことからスクリュー回転力はほとんど発生していない。よって、逆流防止弁閉鎖後にスクリュー回転力が発生しているか否かによって、逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているか否かが推定できる。
【0062】
図8は、この第3の実施形態において、CNCCPU22が実施する所定サンプリング周期毎に実施する物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。又、図9は、同第3の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0063】
射出保圧工程が開始される前に、CNCCPU22は、スクリュー回転力Qを記憶するレジスタR(Q)、サンプリング時を示す指標iを「0」にセットし、逆流防止弁が閉鎖されたことが検出されていることを示すフラグFを「0」にセットし、図8に示す処理を射出保圧工程中、所定サンプリング周期毎に実行する。
【0064】
まず、指標iを「1」インクリメントし(ステップc1)、サーボCPU25の処理に組み込まれている外乱推定オブザーバによって求められるスクリュー回転力Qiを求める(ステップc2)。次に、フラグFが「1」か判断し(ステップc3)、最初は「0」にセットされているから、ステップc4に移行し、求めたスクリュー回転力QiがレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力より大きいか判断し(ステップc4)、最初は、レジスタR(Q)には「0」が記憶されているから、検出したスクリュー回転力QiはレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力Qより大きいので、ステップc8に進み、レジスタR(Q)に求めたスクリュー回転力Qiを記憶し、当該サンプリング周期の処理を終了する。
【0065】
前述したように、射出開始後、スクリューが前進するにつれてスクリュー回転力Qは上昇することから、各サンプリング周期毎ステップc1〜ステップc4、ステップc8の処理が実行され、レジスタR(Q)は検出したスクリュー回転力Qに順次書き換えられることになる。
一方、逆流防止弁3が樹脂通路を閉鎖すると、その後は、スクリュー回転力は低下するので、ステップc4で、検出したスクリュー回転力Qiがレジスタに記憶するスクリュー回転力(1サンプリング周期前に検出したスクリュー回転力)以下と判断されたときは、逆流防止弁が閉鎖されたとして、レジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力を逆流防止弁閉鎖時のスクリュー回転力として記憶し(ステップc5)、フラグFを「1」にセットし(ステップc6)かつ、ステップc2で求めたスクリュー回転力を当該周期のスクリュー回転力(ピークを検出した後の1回目のサンプリング時のスクリュー回転力)を記憶し(ステップc7)、当該サンプリング周期の処理を終了する。
【0066】
次のサンプリング周期からは、ステップc1,c2の処理を行い、ステップc3で、フラグFが「1」にセットされていることが判別されるから、ステップc7に移行してステップc2で求めたスクリュー回転力Qiをメモリに記憶し当該周期の処理を終了する。以下、射出保圧工程が終了するまで、各サンプリング周期毎ステップc1、c2、c3、c7の処理を実行し、メモリに、スクリュー回転力がピークとなった後(逆流防止弁閉鎖後)の各サンプリング周期で検出されるスクリュー回転力がメモリに時系列に記憶されることになる。
【0067】
なお、上述した例では、スクリュー回転力Qのピークを検出した周期が、逆流防止弁の閉鎖時点としているが、スクリュー回転力Qiが低下を開始した時点、すなわちステップc4で、Qi>R(Q)と判断されたサンプリング時を逆流防止弁の閉鎖時点とするならば、ステップc5の処理は必要がない。
【0068】
そして、摩耗量推定指令が入力されると、CNCCPU22は図9に示す摩耗量推定処理を開始する。又は、射出保圧工程が終了する毎にこの摩耗量推定処理を実行してもよい。
まず、ステップc7でメモリに記憶しているスクリュー回転力がピークとなった後(逆流防止弁の閉鎖後)の各サンプリングで求めたスクリュー回転力Qの平均値Qavを算出し(ステップd1)、この平均値Qavと、予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されているスクリュー回転力の平均値Qsに基づいて、次の(2)式の演算を行うことによって摩耗量yを推定し、表示装置付き入力装置30の表示画面に表示し(ステップd2)、この処理を終了する。
【0069】
y=b(Qav−Qs) …(2)
なお、bは変換係数である。
【0070】
この第3の実施形態では、上記(2)式によって、スクリュー先端部品及びバレル内壁の摩耗量を推定し、表示したが、ステップd1で求めた逆流防止弁が閉鎖した後からスクリュー前進が完了するまでの間における回転力の平均値を表示して、この平均値をスクリュー先端部品及びバレル内壁の摩耗量の指標としてもよい。
【0071】
さらに、平均値の代わりにスクリュー回転力がピークとなった後の検出スクリュー回転力の積分値を求め、この積分値を摩耗量の指標として表示してもよい。又、スクリュー回転力がピークとなった時点の所定時間経過後からスクリュー前進完了時点までの間において、検出スクリュー回転力の積分値または平均値を求め、摩耗量の指標として表示してもよい。又、(2)式と同様な演算式により、摩耗量yを推定して表示するようにしてもよい。
【0072】
又、平均値Qavや前述した積分値が所定値より大きい場合は、逆流防止弁の外周やバレル内壁が摩耗していると判断してもよい。また、例えば、スクリュー前進完了時の回転力やVP切り替え時(射出保圧工程における速度制御から圧力制御に切り換える時点)の回転力や、回転力ピーク時点から所定時間経過時点の回転力や、所定のスクリュー位置に到達した時点の回転力などを用いて、逆流防止弁の外周やバレル内壁が摩耗を同様に判別してもよく、これらの大きさを表示してスクリュー先端部品及びバレル内壁の摩耗量の指標としてもよい。
【0073】
・本発明の第4の実施形態
図10は、この第4の実施形態において、CNCCPU22が実施する所定サンプリング周期毎に実施する物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。又、図11は、同第4の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0074】
この第4の実施形態は、第3の実施形態と同様に、逆流防止弁が閉鎖した後からスクリュー前進が完了するまでの間における回転力によって、スクリュー先端部品の摩耗を判別し、かつ、逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているのか、逆流防止弁3、スクリューヘッド2、チェックシート4の各端面が摩耗しているのかを判別して、その摩耗量を推定できるようにしたものである。
【0075】
図10は、この第4の実施形態においてCNCCPU22が実施する所定サンプリング周期毎に実施する物理量検出処理のフローチャートであるが第3の実施形態の図8で示す処理と比較し、各サンプリング周期毎にスクリュー回転力Qを求めると共にスクリュー位置Xをも求めて、記憶するようにした点が第3の実施形態の図8で示す処理と相違するものである。又、この第4の実施形態では、スクリューの前進距離で、摩耗量を推定することから、射出保圧工程が開始されるとき、その射出開始時のスクリュー位置Xsを記憶するようにしている。
【0076】
図10に示すステップe1〜e8の処理は、図8のステップc1〜c8に対応し、ステップe2において、スクリュー回転力Qと共に、スクリュー位置Xが求められる点で図8のステップc2と相違し、ステップe5において、レジスタに記憶するスクリュー回転力Qをスクリュー回転力のピーク値として(逆流防止弁閉鎖時のスクリュー回転力として)メモリに共に、レジスタに記憶されているその時のスクリュー位置Xをメモリに記憶するようにした点が相違するだけで、他は図8の処理と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0077】
次に、摩耗量推定指令を入力すると、CNCCPU22は図11に示す摩耗量推定処理を開始する。又は、射出保圧工程が終了する毎にこの摩耗量推定処理を実行してもよい。
【0078】
まず、ステップe5で記憶した逆流防止弁の閉鎖時点のスクリュー位置Xと、射出開始時に記憶した射出開始時のスクリュー位置Xsより、スクリュー前進距離D(=Xs−X)を求める(ステップf1)。次にステップe7でメモリに記憶しているスクリュー回転力がピークとなった後(逆流防止弁の閉鎖後)の各サンプリングで求めたスクリュー回転力Qの平均値Qavを算出し(ステップf2)、該平均値Qavが設定されている所定値以上か判断する(ステップf3)。所定値以上の場合は、図7(b)に示すように、樹脂のバックフローがあり、逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗しているとしてステップf4に移行する。又、平均値Qavが所定値に達していなければ、バックフローが小さく逆流防止弁3の外周又はバレル7の内壁が摩耗していないとして、ステップf5に移行する。
【0079】
ステップf4では、下記(3)式の演算を行って摩耗量yを求め表示する。すなわち、スクリュー前進距離D(=Xs−X)と、予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されているスクリュー前進距離Dsの差に変換係数aを乗じて逆流防止弁の外周又はバレル内壁の推定摩耗量yを求め、表示装置付き入力装置30の表示画面に表示しこの処理を終了する。
【0080】
y=a(D−Ds) …(3)
ステップf5では、下記(4)式の演算を行って摩耗量yを求め表示する。すなわち、スクリュー前進距離D(=Xs−X)と、予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されているスクリュー前進距離Dsの差に変換係数cを乗じて端面の推定摩耗量yを求め、表示装置付き入力装置30の表示画面に表示しこの処理を終了する。
【0081】
z=c(D−Ds) …(4)
この第4の実施形態では、スクリュー前進距離Dによって、摩耗量を推定したが、他の
物理量を用いて摩耗量を推定してもよい。射出開始から逆流防止弁閉鎖時点までの経過時間を、摩耗状態を推定するための物理量として推定する場合には、ステップe5でサンプリング数を示す指標iの値を記憶しておき、該値から1差し引いて、スクリュー回転力ピーク時のサンプリング時を求め、この値(i−1)にサンプリング周期を乗じて経過時間tを求め、該経過時間tから予め設定されているスクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定された経過時間tsを減じて、変換係数を乗じて、摩耗量を求め表示すればよい。
【0082】
又、摩耗状態を推定するための物理量としてスクリュー回転力のピーク値Qを用いるときは、スクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定されたスクリュー回転力のピーク値Qsを設定しておき、ステップe5で、求められたスクリュー回転力のピーク値Qから摩耗していないときのスクリュー回転力のピーク値Qsを減じて、変換係数をかけて摩耗量を求め表示するようにすればよい。
【0083】
さらに、摩耗状態を推定するための物理量として樹脂圧力Pを用いるときは、スクリュー先端部品及びバレル内壁が摩耗していないときに測定された樹脂圧力Psを設定しておき、ステップe2で樹脂圧力Pを求め、ステップe8で求めた樹脂圧力をレジスタR(P)に記憶し、ステップe5で、このレジスタR(P)に記憶する樹脂圧力Pを回転力ピーク時の樹脂圧力として記憶し、この樹脂圧力Pから摩耗していないときの樹脂圧力Psをそれぞれ減じて、変換係数をかけて摩耗量を求め表示するようにすればよい。
【0084】
なお、検出された回転力QがレジスタR(Q)に記憶するスクリュー回転力より小さくなったサンプリング時をスクリュー回転力ピーク時(逆流防止弁閉鎖時)と判別するとすれば、ステップe5で、スクリュー位置Xや樹脂圧力Pを検出し記憶し、又指標iを記憶し、このスクリュー位置Xや樹脂圧力P、指標iに基づいて摩耗量を推定するようにすればよい。
【0085】
上述した各実施形態は、逆流防止弁やバレル内壁の摩耗状態を推定する例を説明したが、本発明はスクリューフライトの摩耗検知にも使用できるものである。図12は、スクリューフライトの摩耗によって変化するスクリュー回転力の変化を示す説明図である。図12(a)はフライトが摩耗していないときのスクリュー回転力を表す図であり、図12(b)はフライトが摩耗しているときのスクリュー回転力を表すである。フライトが摩耗していないときはスクリュー前進時の樹脂のバックフローによる圧力がフライトに作用してスクリュー回転力はフライトが摩耗しているときよりも大きくはたらく、一方、フライトが摩耗して低くなってくると、スクリュー前進時にバックフローがあっても、スクリューにはたらく回転力が小さくなる。従って、スクリュー前進時にスクリューにはたらく回転力の大きさから、スクリューフライトの摩耗を推定することができる。
【0086】
又、上述した各実施形態では、インラインスクリュー式射出成形機におけるバレル内部の部品の摩耗状態を検出し推定するものであったが、プランジャー式射出成形機についても本発明は適用できるものである。
本発明を適用するために、フライトのない通常のプランジャーの後方部分に、バックフローを検出する目的でフライト溝を加工し、さらにプランジャーに回転力検出装置を付加することで、プランジャーの外周の摩耗を推定するようにする。図13は、このようにプランジャーにフライト溝を加工し、プランジャーの摩耗によって変化するプランジャー回転力の説明図である。図13(a)はプランジャーに摩耗がない状態でのプランジャー前進時の検出回転力を示し、図13(b)は、プランジャーに摩耗が進行した状態でプランジャー前進させたときの検出回転力を表すものであり、プランジャーを前進する際に生じるバックフローによってプランジャーに回転力が生じるが、摩耗がないときは、この回転力は小さく、プランジャー外周の摩耗が進行するにしたがってバックフローが大きくなる。よって、このプランジャー前進時の回転力に基づいて、プランジャー外周の摩耗を推定することができる。
【0087】
上述した各実施形態では、スクリュー回転力を利用して、スクリュー先端部品やスクリューの摩耗状態を推定したり、スクリュー回転力がピークとなる時点でのスクリュー位置やスクリュー回転力、射出開始からの経過時間、樹脂圧力等の物理量を表示して、摩耗状態を推定できるようにしたが、スクリュー回転力のピークにおける物理量を成形サイクル毎に記憶しておくことで、現在までの摩耗の進行具合を割り出すこともできる。又、現在の摩耗度合いと、現在までの摩耗の進行具合から、今後の摩耗の進行を予測することができる。
【0088】
さらに、逆流防止弁がある程度摩耗したときに、その摩耗状態における回転力ピーク時の物理量を記憶しておき、さらにバレルを分解して逆流防止弁の寸法を測定して摩耗量を記憶しておけば、逆流防止弁の摩耗量と物理量との対応がつく。一度この手順を実行すれば、その後同じ成形条件で生産する場合は、回転力ピーク時の物理量から逆流防止弁の摩耗量(寸法)を直接求めることができる。
【0089】
また、予め寸法のわかっている逆流防止弁を装着して、回転力ピーク時の物理量を記憶しておくことで、逆流防止弁の摩耗量と物理量との対応をつけることもできる。
【0090】
上述した実施形態では、射出保圧工程において、スクリュー先端部品等の摩耗状態を表示、推定できるようにしたが、計量完了から射出保圧工程を開始するまでの間に行われるスクリュー前進による逆流防止弁閉鎖動作に対しても、上述した本願発明を適用することによって、スクリュー先端部品等の摩耗状態を表示、推定できるものである。
【0091】
又、上述した各実施形態では、スクリューを回転させる「回転駆動手段」として、電動サーボモータを用いたが、電動サーボモータ以外に、電動モータや油圧モータなどを用いてもよいものである。又、スクリューをスクリュー軸方向に駆動し、射出や背圧を駆動制御する軸方向駆動手段として、各実施形態では、電動サーボモータを用いた例を示したが、この軸方向駆動手段も、電動モータや油圧シリンダ等の油圧機構を用いてもよいものである。
【0092】
又、スクリュー回転力を検出する「回転力検出手段」として、各実施形態では、スクリューを回転駆動させるサーボモータ制御回路中にオブザーバを設けて、該オブザーバでスクリューにかかる回転負荷、すなわち回転力を求めるものとしたが、モータの駆動電流より回転力を検出してもよく、油圧モータを用いる場合にはその油圧によってスクリュー回転力を検出するようにしてもよい。さらには、スクリューに歪センサを設けてスクリューに作用する回転力を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】従来から用いられている逆流防止弁機構の一例の説明図である。
【図2】本発明の各実施形態の射出成形機の要部ブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態において利用するスクリュー先端部品の摩耗状態によって変化するスクリュー回転力の説明図である。
【図4】同第1の実施形態における物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図5】同第1の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態について利用するスクリュー先端部品の摩耗状態によって変化するスクリュー回転力の説明図である。
【図7】本発明の第3、第4の実施形態において利用する摩耗箇所の相違により変化するスクリュー回転力の説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態における物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図9】同第3の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図10】本発明の第4の実施形態における物理量検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図11】同第4の実施形態における摩耗量推定処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図12】スクリューフライトの摩耗によって変化するスクリュー回転力の変化を示す説明図である。
【図13】プランジャーにフライト溝を加工し、該プランジャーの摩耗によって該プランジャーの回転力が変化することを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0094】
1 スクリュー
2 スクリューヘッド
3 逆流防止弁
4 チェックシート
5 フライト
6 溝部
7 バレル
8 樹脂ペレット
9 ノズル
10 スクリュー回転用のサーボモータ
11 射出用サーボモータ
16、17 位置・速度検出器
18 圧力センサ
20 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段と、射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段とを備えた射出成形機において、
前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、検出された回転力のピーク時点の前記物理量検出手段で検出される物理量に基づいてスクリュー先端部品および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記摩耗状態推定手段は、前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点における前記物理量の所定の成形サイクル間における統計的なばらつきを求め、該ばらつきに基づいて、スクリュー先端部品および又はバレル内壁の摩耗状態を推定することを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、
前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、該回転力のピークが検出されてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力に基づいて、逆流防止弁の外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項4】
射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段を備え、
前記摩耗状態推定手段は、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの回転力が所定値以上である場合は、逆流防止弁の外周および又はバレル内壁の摩耗が進行していると判断し、回転力がピークとなる時点における前記物理量検出手段で検出された前記物理量に基づいて逆流防止弁の外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定し、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの回転力が所定値より小さい場合は、逆流防止弁の端面および又はスクリューヘッドの端面の摩耗が進行していると判断し、回転力がピークとなる時点における前記物理量検出手段で検出された前記物理量に基づいて逆流防止弁の端面および又はスクリューヘッドの端面の摩耗状態を推定することを特徴とする請求項3に記載の射出成形機。
【請求項5】
逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段と、射出成形に係る物理量を検出する物理量検出手段とを備えた射出成形機において、
前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、検出された回転力のピーク時点の前記物理量検出手段で検出される物理量を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項6】
前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点における前記物理量の所定の成形サイクル間における統計的なばらつきを算出する手段を備え、前記表示手段は、該算出されたばらつきを表示することを特徴とする請求項5に記載の射出成形機。
【請求項7】
逆流防止弁を備えるスクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、
前記スクリューを前進移動させる際に、前記回転力検出手段で検出される前記スクリューに作用する回転力がピークとなる時点を検出するピーク時点検出手段と、該回転力のピークが検出されてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力の平均値、回転力にピークが生じてからスクリュー前進が完了するまでの検出回転力の積分値、回転力にピークが生じてから所定時間経過後の回転力、回転力にピークが生じてから所定距離スクリューが前進した時点の回転力、又はスクリュー前進完了時点の回転力のいずれか1以上を求める手段と、該手段で求めた値を表示する手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項8】
前記物理量検出手段はスクリュー位置を検出する手段であり、前記物理量はスクリュー位置又はスクリュー前進開始時点から回転力のピーク時点までのスクリュー移動距離であることを特徴とする請求項1、2、4、5、6の内いずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項9】
前記物理量検出手段は経過時間を検出する手段であり、前記物理量はスクリュー前進開始時点から回転力のピークを検出する時点までの経過時間であることを特徴とする請求項1、2、4、5、6のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項10】
前記物理量検出手段は前記回転力検出手段であり、前記物理量は回転力又はスクリュー前進開始時点から回転力のピーク時点までの回転力の時間積分値であることを特徴とする請求項1、2、4、5、6のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項11】
前記物理量検出装置はスクリュー位置を検出する手段であり、前記物理量はスクリュー前進開始時点から回転力ピーク時点までの回転力をスクリュー位置に関して積分した値であることを特徴とする請求項1、2、4、5、6のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項12】
前記物理量検出手段は樹脂圧力を検出する手段であり、前記物理量は樹脂圧力であることを特徴とする請求項1、2、4、5、6のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項13】
フライトを有するプランジャーと、該プランジャーに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、
前記プランジャーを前進移動させる際に、前記プランジャーに作用する回転力を前記回転力検出手段で検出し、該検出した回転力に基づいてプランジャーの外周および又はバレル内壁の摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。
【請求項14】
スクリューと、該スクリューに作用する回転力を検出する回転力検出手段とを備えた射出成形機において、
前記スクリューを前進移動させる際に、前記スクリューに作用する回転力を前記回転力検出手段で検出し、該検出した回転力に基づいてスクリューフライトの摩耗状態を推定する摩耗状態推定手段とを備えたことを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−302527(P2008−302527A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149778(P2007−149778)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】