説明

導光板及び導光板の平面度を向上させる方法

【課題】薄く且つある程度の大きさを有しながら、厚みムラの小さい導光板を提供する。
【解決手段】本発明の導光板は、厚みが0.1mm以上1mm以下であり、画面サイズ(L)と厚み(T)との比(L/T)が70以上の平板状でありながら、レーザー顕微鏡を用いて導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%とした場合に、転写率が95%以上になる。本発明の導光板は、例えば、射出加速度制御部、最大射出速度制御部、減速度調整部、型締め力制御部を備える射出成形機を用いて製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導光板及び導光板の平面度を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明性に優れた樹脂である、環状オレフィン系樹脂やメタクリル酸メチル系樹脂等の熱可塑性樹脂は、導光板の原料として使用されている(特許文献1、2参照)。これらの熱可塑性樹脂は成形加工性に優れるため、所望の形状の導光板を製造しやすい。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、導光板に求められる機械的性質を有するものもある。このため、熱可塑性樹脂は導光板を製造するための原料として好ましい。
【0003】
近年、携帯電話や携帯ゲーム機等に使われる導光板は、薄型化が進んでいる。例えば、携帯電話や携帯ゲーム機等の用途では、厚さ1mm未満の導光板が要望されている。導光板は、射出成形により製造されることが多いが、このような薄型化の導光板は、射出成形し難い。
【0004】
また、ノートパソコンや液晶モニター等においても、比較的大きな画面を薄くする必要が出てきている。しかし、薄く且つある程度の大きさを有する導光板の製造は非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−113969号公報
【特許文献2】特開2010−175744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、薄く且つある程度の大きさを有する導光板を製造することは非常に難しい。加えて、薄く且つある程度の大きさを有する導光板の製造を試みて、成形不良が発生した導光板を確認しても、成形不良が発生した導光板から、解決策を見出し、所望の導光板を製造することは困難である。特に問題となる成形不良の一つとして厚みムラがある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、薄く且つある程度の大きさを有しながら、厚みムラの小さい導光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、環状オレフィン系樹脂組成物を射出成形してなる導光板であって、厚みが0.1mm以上1mm以下であり、画面サイズ(L)と厚み(T)との比(L/T)が70以上の平板状でありながら、レーザー顕微鏡を用いて導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%とした場合に、転写率が95%以上になる程度に厚みムラが低減された導光板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1) 環状オレフィン系樹脂組成物を射出成形してなる導光板であって、前記導光板は厚みが0.1mm以上1mm以下であり、導光板に対して光が入射する方向の幅(L)と厚み(T)との比(L/T)が70以上の平板状をなしており、前記導光板は、レーザー顕微鏡を用いて導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%として、転写率が95%以上である。
【0010】
(2) 前記導光板は、固定型取り付け板に取り付けられた固定型と可動型取り付け板に取り付けられた可動型とから構成される金型構造体を備える射出成形機を用いて製造され、前記射出成形機は、前記環状オレフィン系樹脂組成物を前記金型構造体内に充填後、前記金型構造体に負荷された型締力を制御する型締力制御部と、射出速度の最大値である最大射出速度以降の射出速度の減速度を調整する減速度調整部と、を備え、前記金型構造体は、前記固定型取り付け板と前記固定型との間及び前記可動型取り付け板と前記可動型との間に、射出圧力による前記固定型の変形及び前記可動型の変形を抑える緩衝部を有する(1)に記載の導光板。
【0011】
(3) 前記導光板を製造するための射出成形機は、射出速度の最大値である最大射出速度を制御する射出速度制御部と、射出開始から前記最大射出速度に到達するまでの間の射出加速度を制御する射出加速度制御部とを備える(1)又は(2)に記載の導光板。
【0012】
(4) 前記射出速度制御部は、前記最大射出速度を300mm/sec以上に制御し、前記射出加速度制御部は、前記射出加速度を20000mm/sec以上に制御する(3)に記載の導光板。
【0013】
(5) 前記型締力制御部は、前記環状オレフィン系樹脂組成物を金型構造内体に充填後15秒以内に、金型構造体に負荷された型締力を低下させる(2)又は(3)に記載の導光板。
【0014】
(6) 熱可塑性樹脂組成物を、金型構造体を備える射出成形機で射出成形してなる導光板の導光特性を向上させる方法であって、射出速度の最大値である最大射出速度以降の射出速度の減速度を大きくし、射出圧力による金型構造体の変形を抑え、前記金型構造体内に前記熱可塑性樹脂組成物を充填後、金型構造体に負荷された型締力を弱めることで導光板の平面度を向上させる方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導光板は、薄く且つある程度の大きさを有しながら、厚みムラが小さい。また、本発明の導光板の平面度を向上させる方法によれば、薄く且つある程度の大きさを有する導光板であっても、導光板の厚みムラを抑え、平面度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の導光板を製造するために用いる射出成形機を模式的に示す図である。
【図2】本発明の導光板を製造するために用いる金型構造体を模式的に示す図である。
【図3】実施例で製造した導光板を示す図である。
【図4】実施例で製造した導光板において、転写率の測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
<導光板>
本発明の導光板は、薄く且つある程度の大きさを有する。「薄い」とは、厚みが0.1mm以上1mm以下である。「ある程度大きい」とは導光板に対して光が入射する方向の幅(L)と厚み(T)との比(L/T)が70以上の平板状をなしていることを指す。さらに、本発明の導光板は、厚みムラが少なく平面度が高い。厚みムラは転写率を用いて表すことができる。
【0019】
導光板の転写率とは、導光板を成形するための金型のキャビティに形成された凹凸形状が導光板に転写される割合を指す。この割合は、レーザー顕微鏡を用いて、導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%として、測定する。より具体的な測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0020】
本発明の導光板は上記転写率が95%以上である。上記転写率が95%以上であれば、厚みムラが非常に少なく、平面度の高い導光板になる。
【0021】
上記の導光板を構成する材料は、環状オレフィン系樹脂組成物である。環状オレフィン系樹脂組成物とは、環状オレフィン系樹脂を主成分として含む樹脂組成物である。環状オレフィン系樹脂としては、特開2010−113969と同様のものを使用することができる。
【0022】
本発明においては、特に以下の式(I)で表される環状オレフィン成分を含む環状オレフィン系樹脂を使用することが好ましい。以下の環状オレフィン成分を含む環状オレフィン系樹脂は、成形加工性、転写性等の点で好ましいからである。例えば、(a1)から(a3)のようなものが挙げられる。
(a1)下記式(I)で表される環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、
(a2)下記式(I)で表される環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、
(a3)下記式(I)で表される環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、を挙げることができる。
また、上記式(I)で表される環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、
(a4)上記(a1)〜(a3)の樹脂に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したものであってもよい。極性基としては、特開2010−113969で列挙した極性基と同様のものを挙げることができる。
【0023】
【化1】

(式中、R’〜R’は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R’とR’、R’とR’は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R’又はR’と、R’又はR’とは、互いに環を形成していてもよい。)
【0024】
一般式(I)におけるR’〜R’は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0025】
R’〜R’の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0026】
また、R’〜R’の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0027】
R’とR’、又はR’とR’とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0028】
R’又はR’と、R’又はR’とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0029】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0030】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記公報に記載の具体例の中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが流動性と光学特性のバランスを取り易い樹脂が得られるという理由で好ましい。
【0031】
本発明においては、環状オレフィン系樹脂(a1)〜(a4)は、1種単独であっても、2種以上を混合使用してもよい。なお、上記環状オレフィン系樹脂の中でも、環状オレフィン系樹脂(a2)が特に好ましい。α−オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量と、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量と、を調整することで、環状オレフィン系樹脂組成物の溶融粘度を後述する好ましい範囲に調整しやすいからである。
【0032】
特に好ましく用いられる(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体の中でも、特に好ましい例としては、〔1〕上記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、〔2〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【0033】
〔1〕の環状オレフィン成分については上記の通りである。〔2〕炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。
【0034】
(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体は、上記の〔1〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、〔2〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0035】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0036】
環状オレフィン系樹脂を製造するための重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の重合方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
【0037】
また、上記の重合方法で用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。本発明に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒やチーグラー・ナッタ系触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0038】
メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58−127728号公報、同58−129013号公報等に記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素−炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0039】
また、(I)の環状オレフィン成分を含む環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、TOPAS(登録商標)(TOPAS Advanced Polymers社製)等を挙げることができる。
【0040】
また、本発明で用いる環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂を主成分とする。環状オレフィン系樹脂の含有量は特に限定されないが、環状オレフィン系樹脂を90質量%以上含む樹脂組成物を使用することが好ましい。より好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは98質量%以上である。
【0041】
環状オレフィン系樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、環状オレフィン系樹脂以外のその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、その他の樹脂、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を例示することができる。
【0042】
続いて、環状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂組成物の物性について説明する。環状オレフィン系樹脂ガラス転移点は100℃以上であることが好ましい。ガラス転移点を上記範囲にすることで、耐熱性の高い導光板を得ることができる。より好ましいガラス転移点は120℃以上190℃以下である。190℃を超えると流動性が不足する場合ある。なお、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0043】
環状オレフィン系樹脂組成物の成形加工性は、環状オレフィン系樹脂組成物の流動性で表すことができる。環状オレフィン系樹脂組成物の流動性は、一定のピストンフロー剪断速度下の条件のもとでの溶融粘度を指標として反映させることができる。Pa・s単位で得られ、数値の低い方が溶融時の流動性に優れ、成形時の流動性に優れ、その結果、薄く且つある程度の大きさの導光板であっても成形することができる。なお、一般には、流動性の指標として、メルトフローレイト(MFR)が用いられるが、MFRの測定は一定荷重下での測定となり、樹脂によりピストンの剪断速度は異なってくる。これに対し、一定のピストンフローの下での溶融粘度測定指標のほうが、実際の射出成形が一定のピストンフローで行われることを考慮すると、実際の流動特性により近い指標であると考えられるため、本発明ではこのような一定剪断速度条件における溶融粘度を流動性の指標とする。
【0044】
環状オレフィン系樹脂組成物は、ISO11443に準拠して260℃、剪断速度1216/秒に於いて測定した溶融粘度が45Pa・s以上100Pa・s以下であることが好ましい。より好ましくは45Pa・s以上85Pa・s以下である。環状オレフィン系樹脂組成物の溶融粘度が45Pa・s未満になると導光板としての機械的強度が低下して好ましくなく、溶融粘度が100Pa・sを超えると流動性が悪くなり転写性に優れた導光板を得ることが難しくなる傾向にある。
【0045】
<導光板の製造方法>
本発明の導光板の製造方法は特に限定されないが、以下の方法を採用することが好ましい。以下の方法で製造すれば、上記転写率を95%以上に調整しやすく、厚みムラの無い導光板を製造しやすいからである。
【0046】
本発明の導光板の製造に用いる射出成形機は特に限定されないが、例えば、図1に模式的に示される射出成形機1を使用することが好ましい。射出成形機1は、円筒状のシリンダー10と、円筒状のシリンダーの内部に配設されるスクリュー20と、シリンダー10の上流側の端部に設けられるホッパー30と、シリンダー10の下流側の先端に設けられるノズル40と、ノズル40に連結された金型構造体50と、金型構造体50を挟む取り付け板60とを備える。
【0047】
さらに、図1に示す射出成形機1は、射出加速度を制御するための射出加速度制御部2と、最大射出速度を制御するための最大射出速度制御部3と、射出速度の減速度を調整する減速度調整部4と、取り付け板60と金型構造体50との間に配置される緩衝部5とを備える。これらの構成を備える射出成形機を用いれば、本発明の導光板を容易に製造することができる。このような構成を備える射出成形機としては、電動式の射出成形機を例示することができ、さらに具体的には、ファナック社製のROBOSHOT S−2000i−100BHが例示される。
【0048】
ここで、射出成形機1を用いて、導光板を製造する方法の概要を説明する。先ず、原料(上述の環状オレフィン系樹脂組成物)がホッパー30に供給される。この原料は、スクリュー20が回転しながら後退することにより、溶融しながらシリンダー10の先端部まで送られる。シリンダー10の先端に所定量の原料が溜まるように計量された後、溶融状態の原料は、回転するスクリュー20の前進により、型締めされた金型構造体の金型キャビティに射出される。射出完了後、ゲート部分の樹脂が固まるまで、圧力(保圧)がかけられる。そして、金型構造体内で溶融状態の原料が固化することで、導光板が得られる。冷却完了後、金型構造体50を型開きし、導光板を取り出す。
【0049】
薄く且つある程度の大きさを有する導光板を製造しようとすると、成形不良が生じるため、薄く且つある程度の大きさを有する導光板を製造することは困難である。そして成形不良が生じないような製造条件は、各製造条件と成形不良の発生との関係が明確ではないため、特定することが困難である。しかし、射出加速度、最大射出速度、減速度を特定の範囲に調整しつつ、後述する緩衝部5を有する金型構造体を用い、製造時に型締め力を調整することで、薄く且つある程度の大きさを有する導光板であっても転写率を上述の範囲に調整しやすい。
【0050】
射出加速度は、射出成形機1に接続された射出加速度制御部2で調整することができる。射出加速度は、射出開始から射出速度の最大値である最大射出速度に到達するまでの時間で、最大射出速度を割ることで導出される。本発明の導光板を製造するにあたっては、射出加速度を20000mm/sec以上に制御することが好ましい。なお、射出加速度は一定でなくてもよく、上記のようにして導出される射出加速度が上記の範囲にあればよい。
【0051】
最大射出速度は、射出成形機1に接続された最大射出速度制御部3で調整することができる。最大射出速度とは、金型キャビティへの原料の充填開始から充填完了までにおける、最大射出速度を指す。本発明において最大射出速度は、300mm/sec以上に設定されることが好ましい。
【0052】
射出速度の減速度は、減速度調整部4で調整することができる。減速度とは、最大射出圧に到達した時点から最大射出圧の5%に低下するまでの時間で表すことができる。本発明においては、上記減速度を0.3sec以下に設定することが好ましい。なお、減速度は一定でなくてもよい。
【0053】
続いて、金型構造体50について説明する。図2は、金型構造体50の断面を模式的に示す図である。この金型構造体50を使用しつつ、上記の射出加速度、射出速度、減速度を特定の範囲に設定することにより、導光板が薄く且つある程度の大きさを有する場合であっても、厚みムラの問題の発生を大幅に抑制することができる。
【0054】
金型構造体50は、固定型51と、可動型52と、型締め力を調整する型締め力制御部53とを有する。固定型51と可動型52とは型締め状態で、金型構造体50内部に金型キャビティ54を形成する。射出成形時、金型構造体50は取り付け板60に挟まれている。ここで、固定型51に取り付けられる板は、固定型取り付け板61であり、可動型に取り付けられる板は可動型取り付け板62である。
【0055】
固定型51は、上記金型キャビティ54を形成するための面の裏側の面で、緩衝部5を介して、固定型取り付け板61に取り付けられている。固定型51は、ノズル40と金型キャビティ54を連結するための貫通孔であるスプルー511を有する。スプルー511の一端はノズル40と連結されており、スプルー511の他端は金型キャビティ54まで到達している。このスプルー511と金型キャビティ54とが交差する部分がゲートである。なお、固定型取り付け板61には、ノズル40と固定型51とを連結可能にするために表裏を貫通する開口が形成されている。
【0056】
可動型52は、上記金型キャビティ54を形成するための面の裏側の面で、緩衝部5を介して可動型取り付け板62に取り付けられている。
【0057】
型締め力制御部53は、上記の通り、固定型51と可動型52との型締め力を調整するためのものである。原料を金型キャビティ54に充填する際の型締め力は、金型キャビティ54の形状等に応じて適宜設定することができる。上記厚みムラの発生を抑えるためには、原料を金型キャビティ54に充填後、型締め力制御部53が、型締め力を弱める。どの程度、型締め力を弱めるかについても、金型キャビティ54の形状等に依存する。型締め力をいつ弱めるかについては、金型キャビティ54に原料が充填されてから、0.1秒後から15秒後の間に型締め力を弱めることが好ましい。より好ましくは2秒後から4秒後である。
【0058】
緩衝部5は、射出圧により金型の変形を抑えるためのものである。緩衝部5は上記変形を抑えることができるものであればよく、どのような材料から構成されていてもよい。例えば、板状の真鍮、銅、アルミ等を挙げることができる。緩衝部5の形状、配置場所についても、上記金型の変形を抑えることができるものであれば特に限定されない。なお、「金型の変形を抑える」とは、全く変形させない以外に、変形量を小さくすることも含む。
【0059】
以上の通り、上記好ましい製造方法によれば、厚みムラのほとんど無い導光板になる。厚みムラがほとんど無いとは、レーザー顕微鏡を用いて導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%として、転写率が95%以上であることを指す。
【0060】
また、上記好ましい製造方法によれば、薄く且つある程度の大きさを有する導光板であっても厚みムラがほとんど無い。
【0061】
続いて、上記のような非常に優れた導光板の生産性を高める方法について説明する。上記の通り、導光板の製造において、シリンダー10の先端に所定量の原料が溜まるように計量されるが、この計量の終了直後、スクリュー20を逆回転して(計量時の回転に対して逆回転させることを指す)、スクリュー20の溝内の樹脂圧力を減圧することが好ましい。スクリュー20の溝内が減圧されることで、ノズル40先端からの溶融原料の漏れ(糸引き、ハナタレ)を抑えることができる。また、スクリュー20の溝内からスクリュー20の前方に溶融樹脂が流入し、計量された樹脂量がショット毎にバラツクことを抑えることができる。なお、ここで「計量直後」とは上記の効果が得られればよく、計量後どの程度の時間まで含まれるかについては、導光板の形状や、使用する環状オレフィン系樹脂の種類等によって異なる。
【0062】
上記の通り、スクリュー20を計量直後に逆回転することで、計量安定性が高まる結果、ピーク圧も安定し、クッション量も安定する。このため、金型内に原料が充填され過ぎたり、充填量が不足になったりすることがほとんど無いので、高品質な導光板を安定して製造することができる。特に、導光板の厚み(T)が0.1mm以上1mm以下の本発明においては、微量の過充填、充填不足であっても、厚みムラ等の成形不良の原因となる可能性が高いため、スクリュー20を計量直後に逆回転することは、本発明の導光板の生産性を高める上で非常に有効である。
【0063】
<導光板の平面度を向上させる方法>
本発明の方法は、熱可塑性樹脂組成物を、金型構造体を備える射出成形機で射出成形してなる導光板の導光特性を向上させる方法であり、射出速度の最大値である最大射出速度以降の射出速度の減速度を大きくし、射出圧力による金型構造体の変形を抑え、金型構造体内に上記熱可塑性樹脂組成物を充填後、金型構造体に負荷された型締力を弱めることで導光板の平面度を向上させる方法である。
【0064】
ここで、熱可塑性樹脂組成物とは、上記の環状オレフィン系樹脂組成物に限定されず、メタクリル酸メチル系樹脂等の従来公知の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物も包含する。
【0065】
射出加速度を大きくすることで、上記のような薄く且つある程度の大きさを有する導光板であっても、厚みムラを充分に低減することができる。
【0066】
射出加速度を大きくしつつ、射出速度の最大値である最大射出速度も大きい値に設定することで、さらに、厚みムラの問題を抑えやすくなる。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例等に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
<材料>
環状オレフィン系樹脂:TOPAS 5013L−10(TOPAS Advanced Polymers社製)、ガラス転移点134℃
【0069】
上記の環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネンとエチレンとの共重合体であり、ISO11443に準拠して260℃、剪断速度1216/秒に於いて測定した溶融粘度が80Pa・sである。
【0070】
<導光板の製造>
画面サイズ3.5inch、幅46.2mm、長さ(L)75.4mm、厚さ(D)0.25mm、L/D=302の導光板の光学素子の形状がVカットプリズムの金型を用い、実施例及び比較例の導光板の作製を行った。導光板の形状を図3に示した。
【0071】
具体的には、射出成形機として、FANAUC ROBOSHOT S−2000iBHを用い、以下のシリンダー温度、金型温度の条件で導光板の製造を行った(シリンダー温度、金型温度以外の製造条件については表1〜5に示した)。
(製造条件)
シリンダー温度:325−330−330−325−300−280℃
金型温度 :100℃
【0072】
表1〜3に示す製造条件の減速度は、最大射出圧に到達した時点から最大射出圧の5%に低下するまでの時間で表し、その単位は「秒」である。また、型締め力調整の条件において、「型締め力低下率」は、原料を金型キャビティに充填時の型締め力を100%としたときの、減少させた型締め力の割合を表す。「開始遅延温度」とは、原料が金型キャビティ内に充填されてから、型締め力を低下させ始めるまでの時間を表す。ここで、原料が金型キャビティに充填されていることは、目視で確認した。「移動速度」とは、型締め力が減少する速度を表す。具体的には、固定型と可動型とが離れることで型締め力を調整しており、この固定型と可動型とが離れる速度で、型締め力が減少する速度を表す。
【0073】
<転写率>
転写率はレーザー顕微鏡(キーエンス製)を用いて、図4に示すゲート側、反ゲート側、中心部分の凸部の高さをそれぞれ測定した。100%転写された場合は3.0μmであることから、転写率を求め、結果を表1〜3に示した。なお、凸部の高さは5回測定の平均を用いた。
【0074】
【表1】

【表2】

【表3】

【0075】
表1の結果から、射出加速度を大きくすることで、転写率が高まることが確認された。また、表3の結果から、最大射出速度を大きくすることで、転写率が高まることが確認された。また、表2及び3の結果から、本発明の効果を奏するためには、射出加速度、最大射出速度のいずれも調整をすることが有効である点も確認された。
【0076】
表3の結果から、緩衝部の有無は、転写率に大きな影響を与えないことが確認された。表3の結果から、原料を金型キャビティに充填してから型締め力を減少させ始める時間が、転写率に若干の影響を与えることが確認された。表3に記載の実施例6及び実施例7の結果から、減速度が転写率に影響を与えることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
1 射出成形機
10 シリンダー
20 スクリュー
30 ホッパー
40 ノズル
50 金型構造体
51 固定型
511 スプルー
52 可動型
53 型締め力制御部
54 金型キャビティ
60 取り付け板
61 固定型取り付け板
62 可動型取り付け板
2 射出加速度制御部
3 最大射出速度制御部
4 減速度調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂組成物を射出成形してなる導光板であって、
前記導光板は厚みが0.1mm以上1mm以下であり、導光板に対して光が入射する方向の幅(L)と厚み(T)との比(L/T)が70以上の平板状をなしており、
前記導光板は、レーザー顕微鏡を用いて導光板中心部分の凸部の高さを測定し完全充填されている場合の高さを転写率100%として、転写率が95%以上である。
【請求項2】
前記導光板は、固定型取り付け板に取り付けられた固定型と可動型取り付け板に取り付けられた可動型とから構成される金型構造体を備える射出成形機を用いて製造され、
前記射出成形機は、前記環状オレフィン系樹脂組成物を前記金型構造体内に充填後、前記金型構造体に負荷された型締力を制御する型締力制御部と、射出速度の最大値である最大射出速度以降の射出速度の減速度を調整する減速度調整部と、を備え、
前記金型構造体は、前記固定型取り付け板と前記固定型との間及び前記可動型取り付け板と前記可動型との間に、射出圧力による前記固定型の変形及び前記可動型の変形を抑える緩衝部を有する請求項1に記載の導光板。
【請求項3】
前記導光板を製造するための射出成形機は、射出速度の最大値である最大射出速度を制御する射出速度制御部と、射出開始から前記最大射出速度に到達するまでの間の射出加速度を制御する射出加速度制御部とを備える請求項1又は2に記載の導光板。
【請求項4】
前記射出速度制御部は、前記最大射出速度を300mm/sec以上に制御し、
前記射出加速度制御部は、前記射出加速度を20000mm/sec
以上に制御する請求項3に記載の導光板。
【請求項5】
前記型締力制御部は、前記環状オレフィン系樹脂組成物を金型構造内体に充填後15秒以内に、金型構造体に負荷された型締力を低下させる請求項2又は3に記載の導光板。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物を、金型構造体を備える射出成形機で射出成形してなる導光板の導光特性を向上させる方法であって、
射出速度の最大値である最大射出速度以降の射出速度の減速度を大きくし、
射出圧力による金型構造体の変形を抑え、
前記金型構造体内に前記熱可塑性樹脂組成物を充填後、金型構造体に負荷された型締力を弱めることで導光板の平面度を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−255816(P2012−255816A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127258(P2011−127258)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】