説明

導波路型光デバイス

【課題】絶縁層上の導波路型光デバイスのコアに蓄積されるキャリア濃度を高くして、その変調効率を高くする。
【解決手段】絶縁性の第1のクラッド層4と、前記第1のクラッド層4の一面に設けられた半導体の光導波層6と、前記光導波層6を覆う絶縁性の第2のクラッド層8とを有し、前記光導波層6は、一方向に延在するコア14と、前記コア14の一方の側面に接し前記コア14より薄い第1のスラブ部18と、前記コア14の他方の側面に接し前記コア14より薄い第2のスラブ部22とを有し、前記第1のスラブ部18は、前記コア14に沿うn型領域16を有し、前記第2のスラブ部22は、前記コア14に沿うp型領域20を有し、前記n型領域16と前記p型領域20の間の領域には、バンドギャップが前記n型領域16及び前記p型領域20より狭くなるように、n型不純物及びp型不純物がドーピングされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路型光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SOI(Silicon on Insulator)基板に形成された光導波路を有する導波路型光デバイスが注目されている。この光デバイスは、LSI(Large Scale Integration)のプロセス技術により製造できるので、大量生産に適している。
【0003】
この導波路型光デバイスは、絶縁層上の半絶縁性シリコン層に形成されたリッジ構造のコアと、コアの一方の側面に接するn型スラブ部と、コアの他方の側面に接するp型スラブ部とを有している。そして、上記導波路型光デバイスでは、n型スラブ部及びp型スラブ部がコアに供給するキャリアの量が変調され、コアに蓄積されるキャリア量が変化する。このキャリア量の変化に従って、コアを伝搬する光(以下、伝搬光と呼ぶ)が変調される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−325914号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Klaassen et.al.,“Unified apparent bandgap narrowing in n- and p-type silicon,” Solid-state electronics, Elsevier Science, 1992, vol.35, pp.125-129.
【非特許文献2】Soref et.al.,“Electrooptical effects in silicon,” IEEE Journal of Quantum Electronics, 1987, vol. 23, pp. 123-129.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記光デバイスは、pinホモ接合によりキャリアをコアに蓄積して、伝搬光を変調する。しかし、ホモ接合に大量のキャリアを蓄積することは困難である。このため、絶縁層上に形成された導波路型光デバイスの変調効率(又は消光比)は低い。
【0007】
そこで、本発明の目的は、絶縁層上の導波路型光デバイスのコアに蓄積されるキャリア濃度を高くして、その変調効率(又は消光比)を高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本デバイスの第1の観点によれば、絶縁性の第1のクラッド層と、前記第1のクラッド層の一面に設けられた半導体の光導波層と、前記光導波層を覆う絶縁性の第2のクラッド層とを有し、前記光導波層は、一方向に延在するコアと、前記コアの一方の側面に接し前記コアより薄い第1のスラブ部と、前記コアの他方の側面に接し前記コアより薄い第2のスラブ部とを有し、前記第1のスラブ部は、前記コアに沿うn型領域を有し、前記第2のスラブ部は、前記コアに沿うp型領域を有し、前記n型領域と前記p型領域の間の領域には、バンドギャップが前記n型領域及び前記p型領域より狭くなるように、n型不純物及びp型不純物がドーピングされている導波路型光デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本デバイスによれば、絶縁層上の導波路型光デバイスのコアに蓄積されるキャリア濃度を高くして、その変調効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1の導波路型光デバイスの平面図である。
【図2】図1のII-II線に沿った断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿った光導波層のエネルギー帯構造である。
【図4】実施の形態1の導波路型光デバイスに供給される電気信号の消費電力とコアのキャリア密度の関係を説明する図である。
【図5】実施の形態1の導波路型光デバイスの製造方法を説明する工程断面図である(その1)。
【図6】実施の形態1の導波路型光デバイスの製造方法を説明する工程断面図である(その2)。
【図7】実施の形態2の導波路型光デバイスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。尚、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
(実施の形態1)
本導波路型光デバイス2は、入力光の強度を減衰させることで、出力光の強度を変調する可変減衰器型の光スイッチである。
【0013】
(1)構 造
図1は、本実施の形態の導波路型光デバイス2の平面図である。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
【0014】
―導波路構造―
本導波路型光デバイス2は、図1及び2に示すように、絶縁性の第1のクラッド層4と、第1のクラッド層4の一面に設けられた半導体の光導波層6と、光導波層6を覆う絶縁性の第2のクラッド層8を有している。ここで、第1のクラッド層4は、シリコン基板10の一面に設けられた絶縁層である。このシリコン基板10及び第1のクラッド層4は、それぞれSOI基板12の基板及び絶縁層である。
【0015】
ところで、上記光導波層6は、結晶シリコンで形成されている。一方、第1のクラッド層4及び第2のクラッド層8は、例えば厚さ1μmのSiO層で形成されている。ここで、本導波路型光デバイス2の動作波長は、1.3μmまたは1.55μmである。従って、光導波層6及びクラッド層4,8は、動作波長において透明である。また、光導波層6の屈折率は、第1のクラッド層4及び第2のクラッド層8より高くなっている。故に、導波路型光デバイス2に入射した光は、光導波層6に閉じ込められる。
【0016】
次に、光導波層6は、図1及び2に示すように、一方向(所定の方向)に延在するコア14を有している。また、光導波層6は、コア14の一方の側面に接し、コア14より薄い第1のスラブ部18を有している。更に、光導波層6は、コア14の他方の側面に接し、コア14より薄い第2のスラブ部22を有している。
【0017】
すなわち、本導波路型光デバイス2は、光導波層6に設けられたリッジ構造を有している。そして、光導波層6に閉じ込められた光は、このリッジ構造の凸部すなわちコア14を伝搬する。
【0018】
尚、コア14の厚さ及び幅は、例えば、それぞれ250nm及び500nmである。また、コア14の長さLは、例えば1mmである。一方、第1のスラブ部18及び第2のスラブ部22の厚さは、例えば50nmである。
【0019】
因みに、本実施の形態の光導波層6は、上述したように結晶シリコンで形成されている。このため、(コアにキャリアが供給されない時の)伝搬損失は、1cm-1以下と小さい。但し、光導波層6を、非晶質シリコンや多結晶シリコンで形成することもできる。しかし、よく知られてように、非晶質シリコンや多結シリコンは、その不均一性により光を強く散乱する。このため、非晶質シリコンや多結晶シリコンで光導波層6を形成すると、伝送損失が大きくなってしまう。すなわち、光導波層6の材料としては、結晶半導体が好ましい。
【0020】
―キャリア閉じ込め構造―
第1のスラブ部18は、図2に示すように、コア14に沿うn型領域16を有している。また、第2のスラブ部22は、図2に示すように、コア14に沿うp型領域20を有している。
【0021】
ここで、n型領域16には、濃度1×1019cm−3のn型不純物(例えば、ホウ素)がドーピングされている。また、p型領域20には、濃度1×1019cm−3のp型不純物(例えば、燐)がドーピングされている。
【0022】
そして、n型領域16とp型領域20の間の領域23(図1の細い破線で囲われた領域)は、1×1019cm−3の濃度でn型不純物(例えば、ホウ素)がドーピングされ、且つ1×1019cm−3の濃度でp型不純物(例えば、燐)がドーピングされている。すなわち、領域23には、n型不純物とp型不純物が高濃度にドーピングされている。
【0023】
この高濃度ドーピングにより、コア14を含む領域23のバンドギャップは狭くなっている。その結果、ダブルヘテロ接合が形成され、コア14に閉じ込められる(すなわち、蓄積される)キャリアの濃度が高くなる。
【0024】
図3は、図2のIII-III線に沿った光導波層6のエネルギー帯構造である。横軸は、III-III線に沿った座標である。縦軸は、電子のエネルギーである。Eは、伝導帯の底である。Eは、価電子帯の頂上である。波線は、不純物がドーピングされる前の、伝導帯の底E´及び価電子帯の頂上E´である。
【0025】
n型不純物の濃度が1×1017cm−3以下の場合、不純物準位(ドナー準位)は孤立(局在化)している。しかし、n型不純物の濃度が1×1017cm−3より大きくなると、ドナー準位同士が重なり合って、伝導帯の底の近傍に、連続したエネルギー準位を形成する(すなわち、ドナー準位が非局在化する。)。これにより、ミニバンドが形成され、伝導帯の底が低くなる。同様に、p型不純物の濃度が1×1017cm−3より大きくなると、アクセプタ準位が非局在化され、価電子帯の頂上が高くなる。
【0026】
ところで、本実施の形態では、コア14を含む領域23に、1×1019cm−3(>1×1017cm−3)のn型及びp型不純物がドーピングされている。このため、図3に示すように、領域23のバンドギャプEg1は、n型領域16のバンドギャップEg2及びp型領域20のバンドギャップEg3より狭くなっている。すなわち、光導波層6には、領域23を挟むダブルヘテロ接合が形成されている。
【0027】
すなわち、本実施の形態では、コア14を含む領域23は、n型領域16及びp型領域20よりバンドギャップが狭くなるように、n型不純物及びp型不純物がドーピングされ、これにより光導波層6にダブルヘテロ接合が形成されている。
【0028】
因みに、n型及びp型不純物の濃度が共に1×1018cm−3の場合、シリコンのバンドギャップの狭まりは、30meVである。また、当該濃度が共に1×1019cm−3及び1×1020cm−3の場合、シリコンのバンドギャップの狭まりは、それぞれ60meV及び90meVである(非特許文献1参照)。
【0029】
不純物濃度が高くなるほど、バンドギャップの縮小幅は大きくなる。しかし、不純物の濃度が高くなり過ぎると、後述するキャリア補償が困難になる。従って、領域23のn型不純物の濃度は、1×1018cm−3以上1×1020cm−3以下が好ましく、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下が更に好ましい。p型不純物の濃度についても、同様である。
【0030】
尚、本実施の形態では、n型領域16にも1×1019cmのドナーがドーピングされているので、そのバンドギャップEg2も狭くなっている。しかし、このバンドギャップの縮小(狭まり)は、伝導帯の底の低下によるものなので、キャリア(正孔)の閉じ込めを妨げない。同様に、p型領域20のバンドギャップEg3も狭くなっているが、このバンドギャップの縮小は価電子帯頂上の上昇によるものなので、キャリア(電子)の閉じ込めを妨げない。
【0031】
―キャリア補償構造―
コア14を含む領域23には、同濃度のn型不純物とp型不純物がドーピングさていれる。従って、この領域23のn型不純物のキャリア濃度は、p型不純物のキャリア濃度により補償されている(すなわち、領域23におけるn型不純物のキャリアは、p型不純物により補償されている。)。故に、コア14を含む領域23には、キャリアが殆ど存在していない(すなわち、領域23は、半絶縁化されている。)。このため、コア14を伝搬する光は、自由キャリア吸収を殆ど受けない。このため、コア14を伝搬する光の伝搬損失(導波路損失)は、1cm−1以下になる(但し、後述するように、n型領域16及びp型領域20からコア14にキャリアが供給されると、伝送損失は高くなる。)。
【0032】
ここで、領域23のn型不純物濃度とp型不純物濃度は、正確に一致していなくてもよい。例えば、n型不純物とp型不純物の濃度差が、2×1017cm−3以下であれば、自由キャリア吸収損失は、3cm−1であり殆ど問題にならない。因みに、シリコンリッジ導波路の導波路損失は、形状ゆらぎにより1cm−1程度以下にはならない。
【0033】
また、n型不純物とp型不純物の濃度差が1×1017cm−3以下であれば、自由キャリア吸収損失は1.5cm−1である。すなわち、n型不純物とp型不純物の濃度差としては、2×1017cm−3以下が好ましく、1×1017cm−3以下が更に好ましい。
【0034】
ところで、n型領域16とコア14の間の領域24は、n型領域16をコア14から引き離し、n型領域16の自由キャリア吸収による伝搬光の減衰を防止している。同様に、p型領域20とコア14の間に領域26は、p型領域20をコア14から引き離し、p型領域20の自由キャリア吸収による伝搬光の減衰を防止している。これら領域24,26の幅としては、伝播光のしみ出しと同程度の200〜300nmが好ましい。但し、n型領域16及びp型領域20による自由キャリア吸収が問題にならない場合には、これらの領域を設けなくてもよい。
【0035】
―電極構造―
本導波路型光デバイス2は、図2に示すように、n型領域16の一面に設けられた第1の内部電極28と、第2のクラッド層8の表面に設けられ、第1の層間配線36を介してこの第1の内部電極28に接続された第1の外部電極30を有している。
【0036】
同様に、本導波路型光デバイス2は、図2に示すように、p型領域20の一面に設けられた第2の内部電極32と、第2のクラッド層8の表面に設けられ、第2の層間配線38を介してこの第2の内部電極32に接続された第2の外部電極34を有している。
【0037】
(2)動 作
次に、本導波路型光デバイス(可変減衰器型の光スイッチ)2の動作を説明する。
【0038】
まず、本導波路型光デバイス2の入力口48に波長1.3μm(又は、1.55μm)の光が入力させて、コア14を伝搬する。この状態で、n型領域16とp型領域20間に、外部電極30と外部電極34等を介して電気信号が印加され、コア14を伝搬する光(伝搬光)の強度が変調される。そして、変調された伝搬光が、出力口50から出力される。
【0039】
n型領域16とp型領域20間に電気信号が印加されると、n型領域16から電子がコア14に供給され、p型領域20から正孔がコア14に供給される。このキャリア(電子及び正孔)は、図3を参照して説明したダブルヘテロ接合27に蓄積される。この蓄積されたキャリアによる自由キャリア吸収損失により、コア14を伝搬する光が減衰する。すなわち、上記電気信号にしたがってコア14のキャリア濃度が変化して、伝搬光の強度が変化する。従って、本導波路型光デバイス2は、光強度変調器として用いることができる。或いは、n型領域16とp型領域20間に印加する電圧を適宜変化させることにより、本導波路型光デバイス2を可変光減衰器として用いることもできる。
【0040】
図4は、本導波路型光デバイス2に供給される電気信号の消費電力とコア14のキャリア密度の関係を説明する図である。横軸は、素子長1mm当たりの消費電力である。縦軸は、コア14のキャリア密度(電子及び正孔夫々の密度)である。図4には、比較のため、コア14を含む領域23に不純物をドーピングしない場合(以下、比較例と呼ぶ)のキャリア密度が、破線で示されている。尚、図4は、半導体装置内のキャリア伝導を解析するシミュレーションプログラムにより得られた関係である。
【0041】
図4に示すように、本実施の形態によれば、キャリア密度40は、比較例のキャリア密度42より高くなる。例えば、消費電力が16mWの時、本実施の形態のキャリア密度40は、2.2×1018cm−3である。一方、比較例のキャリア濃度は、1.0×1018cm−3である。すなわち、本実施の形態によれば、キャリア密度が2.2倍になり、その結果、自由キャリア吸収損失は2.2倍になる。
【0042】
自由キャリア吸収損失Δα(cm−1)は、次式で表せることが知られている。
【0043】
Δα=8.5×10-18×n+6.0×10-18×p ・・・・・ (1)
ここで、n及びpは、それぞれ電子及び正孔の密度である(n及びpの単位はcm−3である。)。本実施の形態ではnとpが等しいので、吸収損失Δα(cm−1)は、次式のようになる。
【0044】
Δα=14.5×10-18×N ・・・・・ (2)
ここで、Nは、図4の縦軸に示したキャリア密度(=n=p)である。
【0045】
式(2)によれば、(素子長1mm当たりの)消費電力16mWにおける伝搬光の消光比(電圧印加時と非印加時の出力光強度の比)は、コア14の光閉じ込む係数を1とすると13.9dBになる(Δα=14.5cm-1)。一方、同じ条件における比較例の消光比は、6.3dBである。すなわち、本実施の形態によれば、可変減衰器型の光スイッチ2の消光比が高くなる。
【0046】
ところで、式(1)のキャリア密度n,pの係数は、それぞれ電子及び正孔の移動に反比例することが知られている(非特許文献2)。本実施の形態では、コア14に不純物が高濃度にドーピングされているので、電子及び正孔の移動は小さくなる。従って、キャリア密度n,pの係数は、式(1)より大きくなっている。このため、本導波路型光デバイス2の実際の消光比は、上記値より更に大きくなる。
【0047】
(3)製造方法
図5及び6は、本導波路型光デバイス2の製造方法を説明する工程断面図である。
【0048】
まず、SOI基板12のシリコン層をフォトリソグラフィ技術とドライエッチングにより加工して、コア14を有する光導波層6を形成する。
【0049】
次に、図5(a)に示すように、n型領域16の形成位置にフォトレジスト膜44aを形成する。
【0050】
次に、図5(b)に示すように、このフォトレジスト膜44aをマスクとして、光導波層6にp型ドーパント(例えば、燐)をイオン注入する。イオン注入は、光導波層6におけるp型不純物濃度が1×1019cm−3になる条件で行われる。これにより、コア14を含むp型ドーパント注入領域46が形成される。その後、フォトレジスト膜44aを除去する。
【0051】
次に、図5(c)に示すように、p型領域20の形成位置にフォトレジスト膜44bを形成する。
【0052】
次に、図6(a)に示すように、このフォトレジスト膜44bをマスクとして、光導波層6にn型ドーパント(例えば、ボロン)をイオン注入する。イオン注入は、光導波層6におけるn型不純物濃度が1×1019cm−3になる条件で行われる。その後、フォトレジスト膜44bを除去し、不純物を活性化する熱処理を行う。以上により、n型領域16、p型領域20、及びn型不純物とp型不純物がドーピングされた領域23が形成される。
【0053】
次に、図6(b)に示すように、n型領域16及びp型領域20の表面に夫々内部電極28,32を形成する。その後、光導波層6の表面に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりSiO膜を堆積して、第2のクラッド層8を形成する。
【0054】
次に、図6(c)に示すように、第2のクラッド層8に、層間配線36,38と外部電極30,34を形成する。その後、SOI基板12を個々のチップに分割して、導波路型光デバイス2を完成する。
【0055】
(実施の形態2)
本導波路型光デバイス52は、プラズマ効果により分岐光の位相を変化させることで、入力光を変調するマッハツェンダー干渉計型の光スイッチである。
【0056】
(1)構 造
図7は、本実施の形態の導波路型光デバイス52の平面図である。
【0057】
本導波路型光デバイス52は、図7に示すように、第1の入力口48aに入力した光を第1の分岐光54と第2の分岐光56に分岐する分岐器58を有している。この分岐器58は、2入力2出力の多モード干渉導波路(Multi Mode Interference, MMI)である。
【0058】
また、本導波路型光デバイス52は、第1の分岐光54が入射する第1の位相変調器60aと、第2の分岐光56が入射する第2の位相変調器60bを有している。
【0059】
また、本導波路型光デバイス52は、第1の位相器60aから出射した第1の分岐光54と、第2の位相器60bから出射した第2の分岐光56とを結合して、第1の結合光64a及び第1の結合光64bを生成する結合器62を有している。この結合器62も、2入力2出力の多モード干渉導波路MMIである。
【0060】
また、本導波路型光デバイス52は、第1の結合光64aを出力する第1の出力口50a及び第2の結合光64bを出力する第1の出力口50bを有している。
【0061】
また、本導波路型光デバイス52は、第1の光入力口48aと分岐器58の間を接続する光導波路66aを有している。また、本導波路型光デバイス52は、各光学素子(分岐器58、位相変調器60a,60b、結合器62)の間を接続する光導波路66b〜66eを有している。また、本導波路型光デバイス52は、結合器62と第1の光出力口50aの間を接続する光導波路66fと結合器62と第2の光出力口50bの間を接続する光導波路66gを有している。尚、本導波路型光デバイス52は、第2の入力口48bと、この第2の入力口48bと分岐器58の間を接続する光導波路66hを有している。
【0062】
ここで、上記各光学素子及び光導波路は、SOI基板のシリコン層に形成されている。本導波路型光デバイス52は、実施の形態1の導波路型光デバイス52と同様、このシリコン層を覆う絶縁性のクラッド層(例えば、SiO)を有している。
【0063】
第1の位相変調器60a及び第2の位相変調器60bの構造は、図1乃至3を参照して説明した実施の形態1の可変減衰器型の光スイッチ2と略同じである。但し、第1及び第2の位相変調器60a,60bの素子長は、実施の形態1の可変減衰器型の光スイッチ2より短い。例えば、第1及び第2の位相変調器60a,60bの素子長は、100〜200μmである。
【0064】
分岐器58、結合器62、及び光導波路66a〜66hは、実施の形態1の可変減衰器型の光スイッチ2と略同じ導波路構造を有している。但し、これらの光学素子には不純物がドーピングされていない。また、分岐器58及び結合器62のコアは、実施の形態1の可変減衰器型の光スイッチ2のコアより広い幅を有している。
【0065】
(2)動 作
次に、本導波路型光デバイス(マッハツェンダー干渉計型の光スイッチ)52の動作を説明する。
【0066】
本導波路型光デバイス52の動作波長は、例えば、1.3μm又は、1.55μmである。第1の入力口48aに入射した光は、光導波路66aを伝搬して光分岐器58に入射する。光分岐器58に入射した光は、第1の分岐光54と第2の分岐光56に分岐される。第1の分岐光54及び第2の分岐光56は、光導波路66b,66cを伝搬して、それぞれ第1の位相変調器60a及び第2の位相変調器60bに入射する。
【0067】
第1の位相変調器60aに入射した第1の分岐光54は、位相変調された後、第1の位相変調器60aから出射する。一方、第2の位相変調器60bに入射した第2の分岐光56は、伝搬路の光学長が(非変調時の)第1の分岐光54と略同じなるように位相が調整された後、第2の位相変調器60bから出射する。
【0068】
第1の位相変調器60aから出射した第1の分岐光54及び第2の位相変調器60bから出射した第2の分岐光56は、光導波路66d,66eを伝搬して、光結合器62に入射する。光結合器62に入射した、第1の分岐光54及び第2の分岐光56は、結合されて第1の結合光64a及び第2の結合光64bになる。その後、第1の結合光64aは、光導波路66fを伝搬して、第1の出力口50aから出力される。同様に、第2の結合光64bは、光導波路66gを伝搬して、第2の出力口50bから出力される。
【0069】
ここで、第1の位相変調器60aは、その外部電極30a,34aを介して、n型領域16とp型領域20の間に電気信号が印加され、コア14に蓄積されたキャリアのプラズマ効果により、そのコア14を伝搬する第1の分岐光54の位相を変調する。位相の変化量は、例えば0またはπ(rad)である。
【0070】
一方、第2の位相変調器60bは、その外部電極30b,34bを介してn型領域16とp型領域20の間に所定の電圧が印加される。ここで、第2の位相変調器60bは、非変調時の第1の分岐光54の伝搬路の光学長と第2の分岐光56の伝搬路の光学長が略同じになるように、第2の分岐光56の位相を調整する。従って、第1の結合光64a及び第2の結合光64bは、第1の位相変調器60aに印加された電気信号に従って点滅する。
【0071】
第1の結合光64aと第2の結合光64bの点滅のタイミングは、半周期ずれている。従って、第1の結合光64a及び第2の結合光64bのいずれか一方又は双方を、出力光として用いることができる。
【0072】
本実施の形態の第1の位相変調器60a及び第2の位相変調器60bは、実施の形態1の可変減衰器型の光スイッチ2と同じキャリア閉じ込め構造を有している。従って、n型領域16とp型領域20の間の領域23に不純物をドーピングしない場合より、コア14に閉じ込められるキャリアの密度が高くなる。その結果、プラズマ効果による屈折率変化が大きくなり、位相変調効率が高くなる。
【0073】
実施の形態1で説明したように、素子長1mm当たり16mWの電力を入力した場合、コア14に閉じ込められるキャリア密度は、上記領域23に不純物をドーピングしない場合より2.2倍高くなる。従って、第1の位相変調器60a及び第2の位相変調器60bの素子長を、1/2.2に短縮することができる。因みに、この場合の屈折率変化は、−5.9×10−3である。
【0074】
上述したように、本実施の形態の光分岐器58及び光結合器62は、MMIである。しかし、光分岐器58及び光結合器62は、他の光学素子、例えば方向性結合器やY分岐導波路であってもよい。また、本導波路型光デバイス52は、位相変調器を2つ有している。しかし、位相変調器は一つだけであってもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、位相変調器60a,60bは、マッハツェンダー干渉計型の光スイッチ58の一部である。しかし、位相変調器60a,60bは、単独の光デバイスとしても用いることができる。
【0076】
以上の実施の形態では、光導波層6は結晶シリコンである。しかし、光導波層6は、他の結晶半導体層、例えば、結晶GaAs層や結晶InP層であってもよい。
【0077】
また、以上の実施の形態では、SOI基板のシリコン層に光導波層6を形成している。しかし、他の基板、例えば石英基板にシリコン層を設け、このシリコン層に光導波層6を形成してもよい。
【0078】
また、以上の実施の形態では、第1のクラッド層4及び第2のクラッド層8はSiO層である。しかし、第1のクラッド層4及び第2のクラッド層8は、他の絶縁層、例えば、シリコン窒化酸化層(SiNO層)やシリコン窒化層(SiN層)であってもよい。
【0079】
また、以上の実施の形態では、SOI基板のシリコン層には、光導波路と光学素子だけが設けられている。しかし、SOI基板のシリコン層に、導波路型光デバイス2,52の駆動回路等の電子回路を形成してもよい。
【0080】
以上の実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0081】
(付記1)
絶縁性の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層の一面に設けられた半導体の光導波層と、
前記光導波層を覆う絶縁性の第2のクラッド層とを有し、
前記光導波層は、一方向に延在するコアと、前記コアの一方の側面に接し前記コアより薄い第1のスラブ部と、前記コアの他方の側面に接し前記コアより薄い第2のスラブ部とを有し、
前記第1のスラブ部は、前記コアに沿うn型領域を有し、
前記第2のスラブ部は、前記コアに沿うp型領域を有し、
前記n型領域と前記p型領域の間の領域には、バンドギャップが前記n型領域及び前記p型領域より狭くなるように、n型不純物及びp型不純物がドーピングされている
導波路型光デバイス。
【0082】
(付記2)
付記1に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記領域の前記n型不純物のキャリア濃度は、前記p型不純物のキャリア濃度により補償されていることを、
特徴とする導波路型光デバイス。
【0083】
(付記3)
付記1または2に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記n型領域と前記p型領域の間に電気信号が印加され、前記コアを伝搬する光の強度が変調されることを、
特徴とする導波路型光デバイス。
【0084】
(付記4)
付記1または2に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記n型領域と前記p型領域の間に電気信号が印加され、前記コアを伝搬する光の位相が変調されることを、
特徴とする導波路型光デバイス。
【0085】
(付記5)
絶縁性の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層の一面に設けられた半導体の光導波層と、
前記光導波層を覆う絶縁性の第2のクラッド層とを有し、
前記光導波層は、一方向に延在するコアと、前記コアの一方の側面に接し前記コアより薄い第1のスラブ部と、前記コアの他方の側面に接し前記コアより薄い第2のスラブ部とを有し、
前記第1のスラブ部は、前記コアに沿うn型領域を有し、
前記第2のスラブ部は、前記コアに沿うp型領域を有し、
前記n型領域と前記p型領域の間の領域には、1×1018cm−3以上1×1020cm−3以下の濃度でn型不純物がドーピングされ、且つ1×1018cm−3以上1×1020cm−3以下の濃度でp型不純物がドーピングされている
導波路型光デバイス。
【0086】
(付記6)
付記5に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記領域の前記n型不純物と前記p型不純物の濃度差が、2×1017cm−3以下であることを、
特徴とする導波路型光デバイス。
【符号の説明】
【0087】
2・・・実施の形態1の導波路型光デバイス
4・・・第1のクラッド層
6・・・光導波層
8・・・第2のクラッド層
14・・・コア
16・・・n型領域
18・・・第1のスラブ部
20・・・p型領域
22・・・第2のスラブ部
23・・・n型領域とp型領域の間の領域
52・・・実施の形態2の導波路型光デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層の一面に設けられた半導体の光導波層と、
前記光導波層を覆う絶縁性の第2のクラッド層とを有し、
前記光導波層は、一方向に延在するコアと、前記コアの一方の側面に接し前記コアより薄い第1のスラブ部と、前記コアの他方の側面に接し前記コアより薄い第2のスラブ部とを有し、
前記第1のスラブ部は、前記コアに沿うn型領域を有し、
前記第2のスラブ部は、前記コアに沿うp型領域を有し、
前記n型領域と前記p型領域の間の領域には、バンドギャップが前記n型領域及び前記p型領域より狭くなるように、n型不純物及びp型不純物がドーピングされている
導波路型光デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記領域の前記n型不純物のキャリア濃度は、前記p型不純物のキャリア濃度により補償されていることを、
特徴とする導波路型光デバイス。
【請求項3】
絶縁性の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層の一面に設けられた半導体の光導波層と、
前記光導波層を覆う絶縁性の第2のクラッド層とを有し、
前記光導波層は、一方向に延在するコアと、前記コアの一方の側面に接し前記コアより薄い第1のスラブ部と、前記コアの他方の側面に接し前記コアより薄い第2のスラブ部とを有し、
前記第1のスラブ部は、前記コアに沿うn型領域を有し、
前記第2のスラブ部は、前記コアに沿うp型領域を有し、
前記n型領域と前記p型領域の間の領域には、1×1018cm−3以上1×1020cm−3以下の濃度でn型不純物がドーピングされ、且つ1×1018cm−3以上1×1020cm−3以下の濃度でp型不純物がドーピングされている
導波路型光デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の導波路型光デバイスにおいて、
更に、前記領域の前記n型不純物と前記p型不純物の濃度差が、2×1017cm−3以下であることを、
特徴とする導波路型光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−242487(P2011−242487A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112741(P2010−112741)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】