説明

導電体の形成装置、導電体の形成方法、および半導体装置の製造方法

【課題】微細でアスペクト比の高い孔や溝あるいは凹部等の内部に超臨界流体を用いて導電体を設ける際にその制御性を向上させることができる導電体の形成装置を提供する。
【解決手段】導電体形成装置1を反応容器2、供給装置3、排出装置4などから構成する。反応容器は、その内部に導電体が設けられる凹部が表面に形成された被処理体が収容されるとともに導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体が供給される。供給装置により超臨界流体を反応容器内に連続的に供給するとともに、排出装置により凹部内に導電体を設けるプロセスに供しない超臨界流体を反応容器の外部に連続的に排出して反応容器内の超臨界流体の量を調整しつつ、超臨界流体中の金属化合物を被処理体の表面に接触させて凹部内に導入する。凹部内の金属化合物を凝集させて金属化合物から金属を析出および固化させて凹部内に導電体を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部内に導電体を設ける技術に係り、特に微細でアスペクト比の高い孔や溝等の内部にいわゆる超臨界流体を用いて導電体を設けるための導電体の形成装置および形成方法、ならびにこれらの装置または方法を用いて微細な配線やプラグ、あるいは電極等を半導体基板上に設けるための半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路やマイクロエレクトロニクス素子等の微細な構造物を形成するためには、微細な配線やプラグ、あるいは電極等を形成しなければならない。このためには、配線形成用溝やプラグ形成用孔、あるいは電極形成用凹部などの微細でアスペクト比の高い凹部の内部に金属等の導電体を充填する工程が実質的に必須である。現在、このような埋め込み工程においては、例えば蒸着法、めっき法、CVD法、あるいはPVD法等を用いて金属薄膜を凹部内に埋め込む方法が一般的である。その一方で、近年、LSI等の半導体装置をはじめとする様々な電子デバイスの微細化および高集積化が著しく進んでいる。そして、近い将来には100nm以下の超微細なサイズの構造物を形成する必要に迫られることは必至である。ところが、前述した各埋め込み方法は既に埋め込み性の限界に近づいており、100nm以下の超微細な凹部内を隙間なく埋め込むことは極めて困難であることが明らかになっている。
【0003】
このような問題を克服するために、最近、いわゆる超臨界流体を用いて金属薄膜を凹部内に埋め込む方法が提案されている。このような技術は、例えば非特許文献1、2に開示されている。超臨界流体とは、一般的には気体(気相)とも液体(液相)とも区別がつかない状態の高密度流体を指す。例えば二酸化炭素(CO2 )の場合、圧力が約7.4MPa、温度が約31℃以上で超臨界流体となる。超臨界流体は、溶媒能やナノレベルの浸透性など様々な特徴を有している。このような超臨界流体中に金属薄膜の原料となる有機金属錯体を溶解させた後、必要に応じて例えばガス状の反応補助剤と反応させて金属を析出させることにより、金属薄膜を堆積させることができる。ひいては、超臨界流体の浸透性や高密度性を利用して微細構造内に金属薄膜を充填することができる。ただし、超臨界流体を用いる埋め込みプロセスは前述したように高圧下で行われるのが一般的である。このため、通常は金属薄膜が埋め込まれる部材を収容した封止容器内に金属薄膜の原料を超臨界流体に溶解させた状態で充填して反応を完結させる。このような密閉された雰囲気の中で行われる処理は、バッチ式処理とも称される。
【非特許文献1】クリーンテクノロジー 2004.6 日本工業出版(2004)、55〜58ページ
【非特許文献2】Semiconductor FPD World 2004.8, p.44-47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述したバッチ式処理では、原料の流入経路を除いては容器が密閉されているため反応が進行している最中の反応容器内の状態が不安定になり易く、成膜する金属薄膜の膜厚や膜質の制御性に乏しい、という欠点がある。具体的には、バッチ式処理では、反応容器内の温度、圧力、原料濃度、あるいは成膜反応を助ける各種添加剤の濃度等、成膜反応に寄与する各種の成膜パラメータの制御が困難である。このため、バッチ式処理では、反応容器内で成膜される金属薄膜の膜厚や膜質を所望の状態に設定することが困難である。また、反応容器の容積が不変であるため反応容器内への原料の連続供給および被成膜部材上への金属薄膜の連続堆積について原理的に限界があり、成膜する金属薄膜の膜厚にも自ずと上限が設定されてしまう、という欠点もある。さらには、固体原料を用いる場合には超臨界流体への溶解度の制御性が困難である、という欠点もある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、微細でアスペクト比の高い孔や溝あるいは凹部等の内部に超臨界流体を用いて導電体を設ける際にその制御性を向上させることができる導電体の形成装置および形成方法を提供することにある。それとともに、そのような装置または方法を用いて微細な配線やプラグ、あるいは電極等を半導体基板上に設ける際にその制御性を向上させることができる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る導電体の形成装置は、導電体が設けられる凹部が表面に少なくとも一個形成された被処理体が内部に収容されるとともに前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体が前記内部に供給されて前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスが行われる反応容器と、前記超臨界流体を前記反応容器の外部から内部に供給する供給装置と、前記プロセスに供しない前記超臨界流体を前記反応容器の内部から外部に排出する排出装置と、を具備してなり、前記供給装置により前記超臨界流体を前記反応容器の内部に連続的に供給するとともに前記排出装置により前記プロセスに供しない前記超臨界流体を前記反応容器の外部に連続的に排出することにより前記反応容器内の前記超臨界流体の量を調整しつつ、前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記被処理体の表面に接触させて前記凹部内に導入し、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、さらに前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設けることを特徴とするものである。
【0007】
この導電体の形成装置においては、被処理体の表面に形成された凹部内に設けられる導電体の原料となる金属を含む金属化合物を、超臨界流体中に溶解させて流動性に富んでいる状態で被処理体の表面に接触させる。これにより、金属化合物を被処理体の表面上で滑らかに流動させて、被処理体の表面よりも低い位置に下げられた構造からなる凹部内に優先的に導入することができる。また、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、その流動性により、凹部が微細でアスペクト比が高くても、その内側に空洞を作ることなく底部から上部に向けて順次凹部内に導入される。さらに、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、凹部の内側の表面の材質に拘らず、被処理体の表面上から凹部内に優先的に流れ込む。これにより、導電体の原料となる金属は、その下地の材質に拘らず、凹部内で優先的に析出して固化されて導電体を形成する。したがって、本発明の一態様に係る導電体の形成装置によれば、導電体を、その下地の材質に拘らず、微細でアスペクト比の高い孔や凹部あるいは溝等の内部に効率よく選択的に、かつ、容易に設けることができる。
【0008】
また、この導電体の形成装置においては、前述した導電体形成プロセスを行う際に、供給装置により金属化合物が溶解した超臨界流体を反応容器の内部に連続的に供給するとともに排出装置により導電体形成プロセスに供しない超臨界流体を反応容器の外部に連続的に排出することにより、反応容器の内部の超臨界流体の量を調整する。これにより、導電体形成プロセスが進行している間、その進行状況に応じて所望の状態に設定された超臨界流体によって反応容器の内部を満たすことができるので、導電体形成プロセスの制御性を向上させることができる。
【0009】
また、前記課題を解決するために、本発明の他の態様に係る導電体の形成方法は、導電体が設けられる凹部が表面に少なくとも一個形成された被処理体に向けて前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体を連続的に供給するとともに、前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスに供しない前記超臨界流体を前記被処理体の周囲から連続的に排除することにより、前記被処理体の周囲の前記超臨界流体の量を調整し、前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記被処理体の表面に接触させて前記凹部内に選択的に導入するとともに、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設ける、ことを特徴とするものである。
【0010】
この導電体の形成方法においては、被処理体の表面に形成された凹部内に設けられる導電体の原料となる金属を含む金属化合物を、超臨界流体中に溶解させて流動性に富んでいる状態で被処理体の表面に接触させる。これにより、金属化合物を被処理体の表面上で滑らかに流動させて、被処理体の表面よりも低い位置に下げられた構造からなる凹部内に優先的に導入することができる。また、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、その流動性により、凹部が微細でアスペクト比が高くても、その内側に空洞を作ることなく底部から上部に向けて順次凹部内に導入される。さらに、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、凹部の内側の表面の材質に拘らず、被処理体の表面上から凹部内に優先的に流れ込む。これにより、導電体の原料となる金属は、その下地の材質に拘らず、凹部内で優先的に析出して固化されて導電体を形成する。したがって、本発明の他の態様に係る導電体の形成方法によれば、導電体を、その下地の材質に拘らず、微細でアスペクト比の高い孔や凹部あるいは溝等の内部に効率よく選択的に、かつ、容易に設けることができる。
【0011】
また、この導電体の形成方法においては、前述した導電体形成プロセスを行う際に、金属化合物が溶解した超臨界流体を被処理体に向けて連続的に供給するとともに導電体形成プロセスに供しない超臨界流体を被処理体の周囲から連続的に排除することにより、被処理体の周囲の超臨界流体の量を調整する。これにより、導電体形成プロセスが進行している間、その進行状況に応じて所望の状態に設定された超臨界流体によって被処理体を包むことができるので、導電体形成プロセスの制御性を向上させることができる。
【0012】
さらに、前記課題を解決するために、本発明のまた他の態様に係る半導体装置の製造方法は、基板本体およびこの基板本体の上方に設けられた絶縁膜のうちの少なくとも一方に導電体が設けられる凹部が少なくとも一個形成された半導体基板に向けて前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体を連続的に供給するとともに、前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスに供しない前記超臨界流体を前記半導体基板の周囲から連続的に排除することにより、前記半導体基板の周囲の前記超臨界流体の量を調整し、前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記半導体基板の表面に接触させて前記凹部内に選択的に導入するとともに、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設ける、ことを特徴とするものである。
【0013】
この半導体装置の製造方法においては、半導体基板の基板本体およびこの基板本体の上方に設けられた絶縁膜のうちの少なくとも一方に形成された凹部内に設けられる導電体の原料となる金属を含む金属化合物を、超臨界流体中に溶解させて流動性に富んでいる状態で半導体基板の表面に接触させる。これにより、金属化合物を半導体基板の表面上で滑らかに流動させて、半導体基板の表面よりも低い位置に下げられた構造からなる凹部内に優先的に導入することができる。また、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、その流動性により、凹部が微細でアスペクト比が高くても、その内側に空洞を作ることなく底部から上部に向けて順次凹部内に導入される。さらに、超臨界流体中に溶解している金属化合物は、凹部の内側の表面の材質に拘らず、半導体基板の表面上から凹部内に優先的に流れ込む。これにより、導電体の原料となる金属は、その下地の材質に拘らず、凹部内で優先的に析出して固化されて導電体を形成する。したがって、本発明のまた他の態様に係る半導体装置の製造方法によれば、微細な配線やプラグ、あるいは電極等を効率よく、かつ、容易に設けることができる。
【0014】
また、この半導体装置の製造方法においては、前述した導電体形成プロセスを行う際に、金属化合物が溶解した超臨界流体を半導体基板に向けて連続的に供給するとともに導電体形成プロセスに供しない超臨界流体を半導体基板の周囲から連続的に排除することにより、半導体基板の周囲の超臨界流体の量を調整する。これにより、導電体形成プロセスが進行している間、その進行状況に応じて所望の状態に設定された超臨界流体によって半導体基板を包むことができるので、導電体形成プロセスの制御性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る金属体の形成装置によれば、微細でアスペクト比の高い孔や溝あるいは凹部等の内部に超臨界流体を用いて導電体を設ける際にその制御性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の他の態様に係る金属体の形成方法によれば、微細でアスペクト比の高い孔や溝あるいは凹部等の内部に超臨界流体を用いて導電体を設ける際にその制御性を向上させることができる。
【0017】
さらに、本発明のまた他の態様に係る半導体装置の製造方法によれば、微細な配線やプラグ、あるいは電極等を半導体基板上に設ける際にその制御性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る各実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
先ず、本発明に係る第1実施形態について図1〜図9を参照しつつ説明する。本実施形態においては、気体とも液体とも区別がつかない流体の一種である、いわゆる超臨界流体を用いて、微細でアスペクト比の高い凹部の内部に導電体を優先的に設ける技術について説明する。以下、具体的かつ詳細に説明する。
【0020】
先ず、図1〜図3を参照しつつ、本実施形態に係る導電体の形成装置1について説明する。
【0021】
図1に示すように、導電体の形成装置1は、大別して反応容器2、供給装置3、および排出装置4などから構成されている。
【0022】
図2に示すように、反応容器2の内部には、後述する導電体33が設けられる微細かつ高アスペクト比の凹部5が表面6aに複数個形成された被処理体6が収容される。被処理体6は、耐圧反応容器2の内部に設けられている図示しない被処理体支持部の上に各凹部5を上方に向けた姿勢で配置される。それとともに、反応容器2の内部には、導電体33の原料となる金属32を含む金属化合物7が溶解した超臨界流体8が供給装置3から供給される。これにより、反応容器2の内部において超臨界流体8を用いて凹部5内に導電体33を設けるプロセスが行われる。以下の説明において、このプロセスを単に導電体形成プロセスと称することとする。
【0023】
超臨界状態は、一般的には大気圧よりも高圧の環境下で実現される。このため、反応容器2には、そのような高圧に耐えることができるように耐圧性を高められた構造からなる耐圧容器が用いられる。また、導電体形成プロセスは、一般的には室温よりも高温の環境下で実現される。このため、反応容器2には、そのような高温に耐えることができるように耐熱性および断熱性を高められたホットウォールタイプの容器が用いられる。また、反応容器2には、その内部が全体的に万遍なく加熱されるように、いわゆる管状炉型の容器が用いられる。なお、図示は省略するが、耐圧反応容器2にはその内部を観察するための覗き窓が設けられている。
【0024】
また、図2中実線矢印で示すように、供給装置3から供給される超臨界流体8は、供給口9を介して耐圧反応容器2の外部から内部に供給される。それとともに、導電体形成プロセスに供しない耐圧反応容器2内の超臨界流体8は、同じく図2中実線矢印で示すように、供給口9とは別体に設けられている排出口10を介して排出装置4により耐圧反応容器2の内部から外部に排出される。このような構成によれば、耐圧反応容器2内への金属化合物7および超臨界流体8の供給と耐圧反応容器2内からの金属化合物7および超臨界流体8の排出とを、供給装置3および排出装置4を用いて連続して行うことができる。
【0025】
また、排出口10は、供給口9を経て耐圧反応容器2内に導入された超臨界流体8の流れに沿って供給口9の下流側に設けられることが好ましい。より好ましくは、図2に示すように、排出口10は、供給口9を経て耐圧反応容器2内に導入された超臨界流体8の流れに沿って供給口9と一直線上に位置して設けられるとよい。さらに好ましくは、図2に示すように、被処理体6は、供給口9と排出口10とを結ぶ直線上に乗らない位置に配置されるとよい。このような構成によれば、超臨界流体8の流れが被処理体6により遮られるおそれを無くして超臨界流体8を耐圧反応容器2に円滑に出入りさせることができる。これにより、反応容器2内の雰囲気を迅速かつ容易に全体的に均一な状態に設定したり、あるいは安定した状態に設定したりすることができる。この結果、導電体形成プロセスを行う際に、その制御性を向上させることができる。
【0026】
また、図1および図2に示すように、耐圧反応容器2の周囲には、耐圧反応容器2の内部温度を導電体形成プロセスが進行し易い温度に調節するための第1の温度調節装置11が設けられている。導電体形成プロセスは、前述したように一般的には室温よりも高温の環境下で実現される。このため、第1の温度調節装置11には、耐圧反応容器2の内部を加熱する加熱装置として、例えばマントルヒータユニットが用いられる。マントルヒータユニット11は、耐圧反応容器2の内部をその上方から加熱する上部マントルヒータ11a、および耐圧反応容器2の内部をその下方から加熱する下部マントルヒータ11bの2つのヒータから構成されている。上部マントルヒータ11aおよび下部マントルヒータ11bは互いに独立に作動して、耐圧反応容器2の内部をその上部または下部から個別に加熱することができる。
【0027】
例えば、上下各マントルヒータ11a,11bのうち上部マントルヒータ11aだけを所定の間隔で周期的に作動させる。すると、耐圧反応容器2の内部は、その上側から所定の間隔で周期的に偏って加熱される。すると、耐圧反応容器2の内部はその上部が下部よりも所定の間隔で周期的に高温となり、耐圧反応容器2の内部に温度むらが生じる。耐圧反応容器2の内部温度が所定の間隔で周期的に不均一になると、耐圧反応容器2内の雰囲気の温度および圧力も所定の間隔で周期的に不均一になる。すると、耐圧反応容器2内の雰囲気に所定の間隔で周期的に対流が生じ、耐圧反応容器2内の雰囲気の上部および下部に所定の間隔で周期的に密度の差が生じる。すなわち、耐圧反応容器2内の雰囲気にパルス状の密度の揺らぎが生じる。この結果、耐圧反応容器2内に供給された超臨界流体8の密度にパルス状の揺らぎを生じさせることができる。
【0028】
超臨界流体8の密度に揺らぎが生じると、超臨界流体8を溶媒としてこれに溶解する溶質としての金属化合物7の溶解度が増大する。したがって、上部マントルヒータ5aだけを所定の間隔で周期的に作動させることにより、供給装置3からの金属化合物7の供給量を増やすことなく、耐圧反応容器2内における金属化合物7の濃度を実質的に高めることができる。この結果、導電体形成プロセスを行う際に、その制御性を向上させることができる。ひいては、金属化合物7の無駄な消費を抑制して、省原料、省エネルギー、省コストを図ることができるとともに、環境に優しいプロセスを実現することができる。なお、このような現象は、上部マントルヒータ11aのみならず、下部マントルヒータ11bだけを断続的に作動させることによっても実現させることができるのはもちろんである。あるいは、上下各マントルヒータ11a,11bを交互に、かつ、断続的に作動させることによっても同様の現象を実現させることができる。すなわち、上下各マントルヒータ11a,11bを個別に、かつ、断続的に作動させることによって、耐圧反応容器2内の雰囲気の状態を部分的に所定の間隔で周期的に不均一にして、耐圧反応容器2内の雰囲気にパルス状の密度の揺らぎを生じさせることができる。
【0029】
これに対して、上下各マントルヒータ11a,11bを共に作動させると、耐圧反応容器2内の雰囲気はその上下から均等に加熱されるので、加熱むらは殆ど生じない。すなわち、上下各マントルヒータ11a,11bを共に作動させると、耐圧反応容器2内の雰囲気は全体的に万遍なく加熱されるので、その密度にパルス状の揺らぎは殆ど生じない。また、上下各マントルヒータ11a,11bを共に作動させることにより、耐圧反応容器2内の雰囲気の温度や圧力を全体的に所定の値で安定させて保持することができる。
【0030】
また、図1に示すように、供給装置3は、超臨界流体供給装置12、原料供給装置13、および反応促進剤供給装置14などから構成されている。これら超臨界流体供給装置12、原料供給装置13、および反応促進剤供給装置14は、互いに独立して作動可能である。
【0031】
超臨界流体供給装置12は、超臨界流体貯蔵装置15、液化装置16、および超臨界流体送出装置17から構成されている。超臨界流体供給装置12は、供給装置3から耐圧反応容器2を経て排出装置4へと向かう導電体形成装置1の超臨界流体8の流れ(流路)において、その最上流部に設けられている。超臨界流体供給装置12は、超臨界流体8の原料を耐圧反応容器2に向けて供給する。ここでは、超臨界流体8の原料として二酸化炭素(CO2 )を用いる。二酸化炭素は、約31℃かつ約7.4MPaの雰囲気下において、気相(気体)とも液相(液体)とも区別がつかず、および気相および液相の両方の性質を併せ持つ、流体の一種である超臨界流体(Super Critical Fluid)8となる。この二酸化炭素からなる超臨界流体8は、一般的に次に述べるような特性を有している。第1に、液体の状態に近い高い密度および強い溶解力を有しており、溶媒として作用する。第2に、気体の状態に近い高拡散性および低粘性を有している。第3に、表面張力が略ゼロである。第4に、気体や液体の状態から超臨界状態となる際の臨界圧力および臨界温度が低く、容易に超臨界流体状態に相変化させることができる。第5に、溶媒能を有している。第6に、ナノレベルの浸透性を有している。第7に、二酸化炭素は安定、安価、低コストであるとともに、リサイクル性も高く、かつ、フッ素等に比べて環境等に与える影響も小さい。
【0032】
二酸化炭素は、超臨界流体貯蔵装置としてのサイホン式ボンベ15の中に略液体の状態で貯えられている。ボンベ15から取り出された二酸化炭素は、先ず、液化装置としての冷却装置16により冷却されて略完全に液化される。この後、液化された二酸化炭素は、超臨界流体送出装置としての超臨界流体送出ポンプ17により昇圧されて耐圧反応容器2に向けて送液される。ここでは、超臨界流体送出ポンプ17として高圧ポンプを用いて、液体状の二酸化炭素を例えば約10MPaまで昇圧する。このような構成からなる超臨界流体供給装置12によれば、二酸化炭素からなる超臨界流体8を耐圧反応容器2に向けて連続して供給することができる。以下の説明においては、超臨界状態となっている二酸化炭素を超臨界CO2 流体(CO2(SC))8と称して、液体状の二酸化炭素(CO2(liq))または気体状の二酸化炭素(CO2(gas))と区別する。
【0033】
また、図1に示すように、原料供給装置13は、原料貯蔵装置18、原料送出装置19、および原料送出バルブ20から構成されている。原料供給装置13は、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路に対して、耐圧反応容器2よりも上流、かつ、超臨界流体供給装置12よりも下流で接続されている。原料供給装置13は、導電体33の原料となる金属32を含む金属化合物7を超臨界CO2 流体8中に溶解させて供給する。後述するように、本実施形態では銅(Cu)を用いて導電体33を形成する。そこで、ここでは、金属化合物7として銅を含む金属化合物7を用いる。具体的には、固体の有機金属錯体(プリカーサ)の一種であるジイソブチリルメタナート銅(Cu(C71522 ;Cu(dibm)2 )を用いる。ジイソブチリルメタナート銅7は、原料貯蔵装置としてのプリカーサリザーバ18の中に貯えられている。より具体的には、図3に示すように、ジイソブチリルメタナート銅7は、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解し易くする補助溶媒21中に溶質として溶解させられた状態でプリカーサリザーバ18内に貯えられている。ここでは、補助溶媒21として、有機溶媒の一種であるアセトン(CH3COCH3 )を用いる。
【0034】
ここで、図4〜図6を参照しつつ、補助溶媒21としてアセトンを選択する理由について説明する。図4〜図6は、本発明者らが行った実験の結果をグラフにして示すものである。先ず、図4は、1mlの各種溶媒に対するジイソブチリルメタナート銅7の溶解量を測定した結果をグラフにして示すものである。この図4に示すグラフによれば、ジイソブチリルメタナート銅7の溶解量は、シクロヘキサンが飛び抜けて高くなっていることが分かる。次いで、アセトンとヘキサンが高くなっている。次に、図5は、背景技術において説明したバッチ式処理によってCu膜を成膜した場合のCu膜の膜厚を各種溶媒ごとにグラフにして示すものである。この図5に示すグラフによれば、アセトンを補助溶媒として用いた場合に最も厚いCu膜を得ることができることが分かる。そして、図6は、同じくバッチ式処理によってCu膜を成膜した場合のCu膜の(1 1 1)/(2 0 0)相対強度比を各種溶媒ごとにグラフにして示すものである。この図6に示すグラフによれば、アセトンを補助溶媒として用いた場合に(1 1 1)/(2 0 0)相対強度比が最も高いCu膜を得ることができることが分かる。これに対して、シクロヘキサンを補助溶媒として用いた場合にCu膜の(1 1 1)/(2 0 0)相対強度比が最も低くなることが分かる。この(1 1 1)/(2 0 0)相対強度比が高い程、半導体装置等の電子デバイスに用いられる金属薄膜としての信頼性が高くなることが一般的に知られている。
【0035】
本発明者らは、図4〜図6のグラフに示されている結果を総合的に判断して、ジイソブチリルメタナート銅7にふさわしい補助溶媒21としてアセトンを選択した。なお、図示を伴う具体的かつ詳細な説明は省略するが、本発明者らがさらに行った追加実験の結果によれば、アセトンを補助溶媒21として用いた場合、ヘキサンやシクロヘキサン等のアセトン以外の物質を補助溶媒21として用いた場合に比べて成膜速度を高めることができるとともに、結晶性を向上させることができることも分かった。また、アセトンはヘキサンやシクロヘキサン等に比べて安価である。したがって、補助溶媒21としてアセトンを用いることにより、導電体形成プロセスのスループット速度や導電体形成プロセスにより形成される導電体33の品質や信頼性を向上させることができるとともに、導電体形成プロセスに掛かるコストを低減もしくは抑制させることができる。ただし、本発明者らが行った追加実験の結果によれば、単位量当たりの超臨界CO2 流体8中にアセトンを10%以上混合すると、超臨界CO2 流体8はCO2 とアセトンとの二相に分離してしまい、均一相ではなくなってしまうことも確認された。したがって、本発明者らは、単位量当たりの超臨界CO2 流体8中に混合するアセトンの割合は10%未満とすることとした。
【0036】
プリカーサリザーバ18内に貯えられているジイソブチリルメタナート銅7は、図3中実線矢印で示すように、先ず、原料送出装置としての原料送出ポンプ19によりアセトン21中に溶解させられたままの状態でプリカーサリザーバ18内から取り出される。次いで、図1に示すように、原料送出バルブ20を開くことにより、プリカーサリザーバ18内から取り出されたジイソブチリルメタナート銅7およびアセトン21は超臨界流体供給装置12から送られてくる超臨界CO2 流体8中に供給される。すなわち、ジイソブチリルメタナート銅7は、アセトン21に溶解させられた状態でさらに超臨界CO2 流体8中に溶解させられる。これにより、導電体33の原料となる銅32を含むジイソブチリルメタナート銅7が超臨界CO2 流体8とともに耐圧反応容器2の内部に向けて供給される。このような構成からなる原料供給装置13によれば、アセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に連続して供給することができる。ひいては、原料供給装置13によれば、耐圧反応容器2をはじめとする導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路(ライン)内にアセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を連続して供給することができる。なお、プリカーサリザーバ18、原料送出ポンプ19、および原料送出バルブ20からなる原料供給装置13は、原料添加ユニットとも称される。
【0037】
また、供給装置3は、超臨界流体供給装置12による超臨界CO2 流体8の耐圧反応容器2内への供給を行いつつ、原料供給装置13による超臨界CO2 流体8中へのジイソブチリルメタナート銅7の供給を停止することができる。これにより、ジイソブチリルメタナート銅7が溶解した超臨界CO2 流体8に代えてジイソブチリルメタナート銅7が溶解していない超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2内に供給することができる。このためには、原料供給装置13は、原料送出ポンプ19および原料送出バルブ20を共に停止させる必要は無い。原料供給装置13は、原料送出ポンプ19および原料送出バルブ20のいずれか一方を停止させれば十分である。例えば、原料送出ポンプ19の作動を停止させるか、あるいは原料送出バルブ20を完全に閉めることにより、ジイソブチリルメタナート銅7を含まない超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2内に供給することができる。ひいては、原料送出ポンプ19の出力や稼働率を調節するか、あるいは原料送出バルブ20の開度を調節することにより、耐圧反応容器2内のジイソブチリルメタナート銅7もしくは銅32の量および濃度を適宜、適正な状態に設定することができる。
【0038】
また、図1に示すように、反応促進剤供給装置14は、反応促進剤貯蔵装置22および混合装置(ミキシングユニット)23から構成されている。反応促進剤供給装置14は、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路に対して、原料供給装置13よりも上流、かつ、超臨界流体供給装置12よりも下流で接続されている。図1において図示は省略するが、反応促進剤供給装置14は、金属化合物7からの金属32の析出を促進させる反応促進剤31を超臨界流体8中に供給する。本実施形態では、反応促進剤供給装置14は、ジイソブチリルメタナート銅7からの銅32の析出を促進させる反応促進剤31を超臨界CO2 流体8中に供給する。ここでは、そのような反応促進剤として水素(H2 )31を用いる。水素31には、超臨界CO2 流体8中に溶解したジイソブチリルメタナート銅7に含まれる銅32を還元して析出させる作用がある。
【0039】
なお、水素31には、超臨界CO2 流体8に対するジイソブチリルメタナート銅7の飽和溶解度を高める作用(エントレーナ効果)も期待される。水素31がこのエントレーナ効果を有しているならば、超臨界CO2 流体8中に水素31を混入することにより、超臨界CO2 流体8中に水素31を混入させない場合に比べて、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に過剰に溶解させることができる。超臨界CO2 流体8中に過剰に溶解したジイソブチリルメタナート銅7に含まれる銅32は、少なくとも導電体形成プロセスが進行している間は過剰に溶解した分だけ析出し易くなる。したがって、水素31を超臨界CO2 流体8中に混入することにより、各凹部5内を銅32で埋め込む工程に掛かる時間を短縮できる効果が期待できる。すなわち、導電体形成プロセスのスループット速度を高める効果が期待できる。
【0040】
図1に示すように、水素31は、反応促進剤貯蔵装置としてのサイホン式ボンベ22の中に貯えられている。ボンベ22から取り出された水素31は、反応促進剤供給装置14と超臨界流体供給装置12から耐圧反応容器2に向かう超臨界CO2 流体8の流路との接続部に設けられているミキシングユニット23により、超臨界CO2 流体8中に混入される。このような構成からなる反応促進剤供給装置14によれば、水素31を超臨界CO2 流体8中に連続して注入することができる。ひいては、反応促進剤供給装置14によれば、耐圧反応容器2をはじめとする導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路(ライン)内に水素31を連続して注入することができる。
【0041】
また、前述したように、反応促進剤供給装置14は原料供給装置13よりも上流側で超臨界CO2 流体8の流路に接続されている。このため、水素31は、アセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7が超臨界CO2 流体8中に溶解させられるのに先立って、超臨界CO2 流体8中に混入される。超臨界CO2 流体8中の水素31の量および濃度は、超臨界CO2 流体8に対する水素31の混合比をミキシングユニット23で調節することにより適宜、適正な状態に設定することができる。ひいては、超臨界CO2 流体8中の水素31の量および濃度をミキシングユニット23で調節することにより、超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の溶解度も適宜、適正な状態に設定することができる。例えば、ミキシングユニット23を完全に閉めることにより、超臨界CO2 流体8中への水素31の注入を停止する。これにより、超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の溶解度を低減させることができる。それとともに、水素31を含まない超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2内に供給することができる。
【0042】
また、図1に示すように、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路において、原料供給装置13よりも上流、かつ、ミキシングユニット23よりも下流には、超臨界流体送出バルブ24が設けられている。この超臨界流体送出バルブ24を開くことによって、超臨界CO2 流体8または水素31が注入された超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2の内部に向けて供給することができる。また、超臨界流体送出バルブ24の開度を調節することにより、超臨界CO2 流体8または水素31が注入された超臨界CO2 流体8の耐圧反応容器2への供給量を適宜、適正な状態に設定することができる。ひいては、前述したように原料供給装置13が備える原料送出ポンプ19および原料送出バルブ20を調節するのみならず超臨界流体送出バルブ24の開度を調節することによっても、耐圧反応容器2内のジイソブチリルメタナート銅7もしくは銅32の濃度を適宜、適正な状態に設定することができる。
【0043】
また、図1に示すように、排出装置4は、圧力計25、圧力調節バルブ26、圧力調整装置27、および分離器28から構成されている。排出装置4は、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路において、耐圧反応容器2の下流側の最下流部に設けられている。排出装置4は、導電体形成プロセスに供しない超臨界CO2 流体8などを耐圧反応容器2の内部から外部に排出する。具体的には、圧力調節バルブとしての背圧弁26を開くとともに圧力調整装置としての背圧調整装置(Back Pressure Regulator:BPR)27を作動させる。これにより、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路のうち、耐圧反応容器2から下流側の流路の圧力を耐圧反応容器2の内部圧力よりも低く設定する。この結果、耐圧反応容器2内の導電体形成プロセスに供しない超臨界CO2 流体8などは耐圧反応容器2の内部から外部に排出される。この際、耐圧反応容器2から下流側の流路の圧力は、圧力計(圧力センサ)25により監視しつつ背圧弁26および背圧調整装置27により自動的に適正な状態に維持できる設定とすることが好ましい。
【0044】
また、背圧弁26および背圧調整装置27は、前述した超臨界流体送出ポンプ17、原料送出ポンプ19、原料送出バルブ20、および超臨界流体送出バルブ24とともに、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路全体の圧力を随時、適正な値に制御する役割を有している。特に、背圧弁26および背圧調整装置27は、超臨界流体送出ポンプ17、原料送出ポンプ19、原料送出バルブ20、および超臨界流体送出バルブ24とともに、導電体形成プロセスが進行している間の耐圧反応容器2内の圧力を、導電体形成プロセスが進行状況に応じて適宜、適正な値に調整して保持する役割を有している。また、背圧弁26、背圧調整装置27、超臨界流体送出ポンプ17、原料送出ポンプ19、原料送出バルブ20、および超臨界流体送出バルブ24をそれぞれ調節して、導電体形成プロセスが進行している間の耐圧反応容器2内の圧力を所定の値で安定させて保持することもできるのはもちろんである。これらにより、導電体形成プロセスを適正に進行させることができる。
【0045】
さらに、背圧弁26および背圧調整装置27は、前述した上下各マントルヒータ11a,11bと同様に、耐圧反応容器2内の雰囲気にパルス状の密度の揺らぎを生じさせることができる。例えば、耐圧反応容器2内の圧力が約±10%の範囲で、かつ、所定の間隔で周期的に上下するように、耐圧反応容器2から下流側の流路の圧力を圧力センサ25により監視しつつ背圧弁26および背圧調整装置27を作動させる。すると、耐圧反応容器2の内部の雰囲気の圧力も、約±10%の範囲で、かつ、所定の間隔で周期的に上下するこれにより、耐圧反応容器2内の雰囲気の密度が約±10%の範囲で、かつ、所定の間隔で周期的に不均一になる。すなわち、耐圧反応容器2内の雰囲気の密度にパルス状の揺らぎを生じさせることができる。具体的には、耐圧反応容器2内に供給されたジイソブチリルメタナート銅7、アセトン21、および水素31を含む超臨界CO2 流体8の密度にパルス状の揺らぎを生じさせることができる。
【0046】
この結果、供給装置3からの金属化合物7の供給量を増やすことなく、耐圧反応容器2内におけるジイソブチリルメタナート銅7の濃度を実質的に高めたり、あるいは導電体形成プロセスの制御性を向上させたりすることができる。それとともに、ジイソブチリルメタナート銅7の無駄な消費を抑制して、省原料、省エネルギー、省コストを図ることができるとともに、環境に優しいプロセスを実現することができる。なお、背圧弁26および背圧調整装置27のみならず、超臨界流体送出ポンプ17および超臨界流体送出バルブ24を操作することによっても、耐圧反応容器2内の雰囲気にパルス状の密度の揺らぎを生じさせることができるのはもちろんである。
【0047】
耐圧反応容器2内から排出された超臨界CO2 流体8等は、背圧調整装置27お下流側に設けられている分離器(セパレータ)28に送られる。セパレータ28では、超臨界CO2 流体8に含まれている導電体形成プロセスに寄与しなかった未反応のジイソブチリルメタナート銅7が回収される。セパレータ28で回収されたジイソブチリルメタナート銅7の濃度を測定することにより、後述するように導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスにおける原料の使用率を求めることができる。
【0048】
また、図1に示すように、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路において、供給装置3と耐圧反応容器2との間には、超臨界CO2 流体8中に溶解しているジイソブチリルメタナート銅7の濃度を検出する濃度検出装置29がさらに設けられている。より具体的には、耐圧反応容器2内において導電体形成プロセスに供される前の超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度を光学的に検出するための濃度検出装置としての吸光度分析装置(VIS)29が、原料送出バルブ20および超臨界流体送出バルブ24と耐圧反応容器2との間に設けられている。吸光度分析装置29は、導電体形成プロセスに用いられる前の超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度をインライン分析することができる。この吸光度分析装置29によって測定された超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度と、前述したセパレータ28によって測定された超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度との差を求めることにより、導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスにおける原料の使用率を求めることができる。
【0049】
さらに、図1に示すように、超臨界流体供給装置12と反応促進剤供給装置14との接続部から耐圧反応容器2までの超臨界CO2 流体8の流路は、第2の温度調節装置30の内側に設けられている。この第2の温度調節装置30は、超臨界CO2 流体8の原料である二酸化炭素の温度を超臨界状態を保持できる温度に調節するために設置されている。前述したように、二酸化炭素は約31℃で超臨界状態となる。したがって、ここでは、第2の温度調節装置として、二酸化炭素の温度を所定の温度で安定して保持することができる恒温槽30を用いることとする。具体的には、恒温槽30により、その内側を流れる二酸化炭素の温度を約40℃に保持することとする。図1に示すように、恒温槽30の内側には、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路のうちミキシングユニット23、超臨界流体送出バルブ24、原料送出バルブ20、吸光度分析装置29、および耐圧反応容器2までが収容される。
【0050】
次に、図2、図3、図7(a)〜(d)、および図8を参照しつつ、本実施形態に係る導電体の形成方法について説明する。本実施形態の導電体の形成方法とは、具体的には前述した導電体形成装置1を用いて被処理体6の表層部に形成された複数個の微細かつ高アスペクト比の凹部5の内部に優先的に導電体33を設ける方法である。
【0051】
先ず、図2に示すように、耐圧反応容器2の内部に被処理体としてのシリコンウェーハ6を配置する。続けて、導電体形成装置1が備える供給装置3の冷却装置16、超臨界流体送出ポンプ17、ミキシングユニット23、超臨界流体送出バルブ24、原料送出ポンプ19、および原料送出バルブ20を作動させる。これにより、超臨界CO2 流体8および水素31をシリコンウェーハ6が収容された耐圧反応容器11の内部に向けて供給する。それとともに、図3に示すように、アセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を水素31が混入された超臨界CO2 流体8中に溶解させて耐圧反応容器11の内部に向けて供給する。続けて、導電体形成装置1が備える排出装置4の圧力調節バルブ26および圧力調整装置27を作動させるとともに、上下各マントルヒータ11a,11bおよび恒温槽30を作動させる。これにより、耐圧反応容器2内の圧力および温度を導電体形成プロセスが適正に進行できる値に設定して維持する。
【0052】
図7(a)に示すように、液相となったジイソブチリルメタナート銅7aは、少なくともその一部がさらに分子状のジイソブチリルメタナート銅7bとなって超臨界CO2 流体8中にさらに溶解し易くなる。また、前述したように、本実施形態では、導電体形成プロセスが進行している際にジイソブチリルメタナート銅7から銅32が析出し易いように、超臨界CO2 流体8中に水素31を添加してジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に過飽和状態になるまで溶解させる。この方法によれば、耐圧反応容器2内に過剰のジイソブチリルメタナート銅7を導入することなく、水素31のエントレーナ効果により超臨界CO2 流体8中へのジイソブチリルメタナート銅7(7a,7b)の溶解度を増大させることができる。
【0053】
なお、超臨界CO2 流体8は化学反応の観点において極めて安定した物体である。したがって、ジイソブチリルメタナート銅7bが超臨界CO2 流体8に対して過飽和となった状態では、分子状のジイソブチリルメタナート銅7bおよび超臨界CO2 流体8は、それぞれの相が互いに分離した二相分離状態で耐圧反応容器2内の雰囲気中に共存する。すなわち、分子状のジイソブチリルメタナート銅7bと超臨界CO2 流体8とが互いに化学反応を起こして変質するおそれは殆どない。また、超臨界CO2 流体8は気体と同等の高拡散性を有しているので、分子状のジイソブチリルメタナート銅7bは超臨界CO2 流体8中に万遍なく略均一に溶解している。
【0054】
先ず、図7(a)に示すように、分子状のジイソブチリルメタナート銅7b、超臨界CO2 流体8、アセトン21、および水素31が共存する雰囲気中に異質な物体としてのシリコンウェーハ6が存在すると、親和力によって分子状のジイソブチリルメタナート銅7bがシリコンウェーハ6に向けて引き寄せられる。そして、分子状のジイソブチリルメタナート銅7bはシリコンウェーハ6の表面6aに接触して吸着または付着する。しかるに、分子状のジイソブチリルメタナート銅7bは、表面張力が略ゼロに近い超臨界CO2 流体8中に溶解していることにより、その流動性が非常に富んだ高密度状態になっている。このため、シリコンウェーハ6の表面6aに吸着または付着した分子状のジイソブチリルメタナート銅7bは、図7(a)に示すように、シリコンウェーハ6の表面6aに沿って滑らかに流動してシリコンウェーハ6の表面6aから掘り下げられて低い位置に形成された構造からなる各凹部5内に自己整合的に、かつ、選択的に導入される。すなわち、シリコンウェーハ6の表面6aに吸着または付着した分子状のジイソブチリルメタナート銅7bは、各凹部15内に優先的に導入される。
【0055】
次に、図7(b)に示すように、各凹部5内に分子状のジイソブチリルメタナート銅7bが侵入すると、シリコンウェーハ6の表面6a付近で耐圧反応容器2内の雰囲気の密度に揺らぎが生じる。ひいては、超臨界CO2 流体8の密度に揺らぎが生じる。具体的には、耐圧反応容器2内の雰囲気や超臨界CO2 流体8の密度は、耐圧反応容器2内の上部で高く、下部で低くなる。すると、超臨界CO2 流体8中に過飽和状態で溶解していた複数の分子状のジイソブチリルメタナート銅7b同士は、互いに引き寄せ合って毛細管現象により凝集する。この結果、各凹部5内に液体のジイソブチリルメタナート銅7aが析出する。
【0056】
次に、図7(c)に示すように、各凹部5内で析出した液体のジイソブチリルメタナート銅7aは、一般的な液体と同様に、各凹部5の内側をそれらの底部から上部に向けて順次満たしていく。前述したように、超臨界CO2 流体8は高密度性を有しているので、超臨界CO2 流体8中に溶解している分子状のジイソブチリルメタナート銅7bは各凹部5の内側に殆ど隙間を作ることなく入り込むことができる。したがって、各凹部5の内側は、それらの底部から上部に向けて順次隙間なく液体のジイソブチリルメタナート銅7aによって満たされてゆく。
【0057】
そして、各凹部5内で析出した液体のジイソブチリルメタナート銅7aは、水素31と反応して還元される。これにより、導電体33の主成分となる銅32が、液体のジイソブチリルメタナート銅7aから分解されて各凹部5内に析出する。したがって、この導電体形成プロセスにおいては、各凹部5の内側がそれらの底部から上部に向けて順次隙間なく液体のジイソブチリルメタナート銅7aによって満たされるのと併行して、各凹部5の内側にはそれらの底部から上部に向けて順次隙間なく銅32が析出していく。このような銅32の析出反応において、水素31はジイソブチリルメタナート銅7aに対する還元剤として機能する。そして、各凹部5内で析出した銅32は、毛細管凝集により各凹部5内にそれらの底部から上部に向けて順次堆積していく。各凹部5の内側が銅32で殆ど隙間なく満たされるまで、各凹部5内に銅32を析出させる。なお、このような水素31による銅32の還元析出反応において水素31が消費されると、超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7bの溶解度が低下するので、銅32の凝集がますます進行する。
【0058】
本実施形態では、このような導電体形成プロセスが進行している間、供給装置3により超臨界CO2 流体8およびジイソブチリルメタナート銅7等を耐圧反応容器2の内部に連続的に供給するとともに排出装置4により導電体形成プロセスに供しない超臨界CO2 流体8およびジイソブチリルメタナート銅7等を耐圧反応容器2の外部に連続的に排出する。これにより、耐圧反応容器2内の超臨界CO2 流体8およびジイソブチリルメタナート銅7等の量を導電体形成プロセスの進行状況に応じて随時、適正な値に調整して、導電体形成プロセスを適正な状態で進行させすることができる。例えば、導電体形成プロセスが進行している間、供給装置3による超臨界CO2 流体8およびジイソブチリルメタナート銅7等の耐圧反応容器2内部への供給量、ならびに排出装置4による導電体形成プロセスに供しない超臨界CO2 流体8およびジイソブチリルメタナート銅7等の耐圧反応容器2外への排出量を連続的に調整する。これにより、耐圧反応容器2内の圧力、超臨界CO2 流体8の量、ジイソブチリルメタナート銅7の量および濃度等を、導電体形成プロセスが適正な状態で進行するように所定の値で安定させることができる。
【0059】
また、反応促進剤供給装置14による超臨界CO2 流体8中への水素31の供給量および排出装置4による耐圧反応容器2内部からの超臨界CO2 流体8の排出量を調整することにより、耐圧反応容器2内の水素31の濃度を所定の値で安定させることができる。これによっても、導電体形成プロセスを適正な状態で進行させすることができるのはもちろんである。さらには、上下各マントルヒータ11a,11bおよび恒温槽30により、導電体系性装置1の流路を流れる超臨界CO2 流体8や耐圧反応容器2内の温度を随時、適正な値に調整することによっても、導電体形成プロセスを適正な状態で進行させすることができるのはもちろんである。
【0060】
そして、図7(d)に示すように、各凹部5の内側からシリコンウェーハ6の表面6a上に銅32からなる薄膜(Cu薄膜)33が溢れ出すまでCu薄膜33を堆積させた後、供給装置3の冷却装置16、超臨界流体送出ポンプ17、ミキシングユニット23、超臨界流体送出バルブ24、原料送出ポンプ19、および原料送出バルブ20を停止させて、耐圧反応容器2内への超臨界CO2 流体8、水素31、ジイソブチリルメタナート銅7、およびアセトン21の供給を停止する。続けて、耐圧反応容器2内に残存している導電体形成プロセスに寄与しなかった超臨界CO2 流体8、水素31、ジイソブチリルメタナート銅7、およびアセトン21を排出装置4により耐圧反応容器2内から排出し終わったことを確認して、排出装置4の圧力調節バルブ26および圧力調整装置27を停止させる。また、上下各マントルヒータ11a,11bおよび恒温槽30を停止させる。これにより、本実施形態の導電体形成プロセスを終了とする。なお、図7(a)〜図7(d)は、耐圧反応容器2内における導電体形成プロセスを分かり易く説明するために、シリコンウェーハ6に形成された各凹部5付近を拡大して示す断面図である。
【0061】
この結果、図8に示すように、シリコンウェーハ6の表層部に形成された微細で高アスペクト比の複数個の凹部5の内部およびその開口部付近に、導電体としてのCu単体からなる薄膜33が優先的に設けられる。そして、各凹部5の内部は、空乏(ボイド)が形成されることなく、Cu薄膜33によって略隙間なく充填されている。
【0062】
なお、図1に示すように、前述した導電体形成装置1においては、吸光度分析装置29を直接耐圧反応容器2に接続したが、これには限定されない。例えば、図9に示すように、超臨界CO2 流体8からジイソブチリルメタナート銅7が析出する反応を抑制しつつジイソブチリルメタナート銅7が溶解した超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2の内部に導入する反応抑制部34を耐圧反応容器2の直ぐ上流側に接続しても構わない。このような反応抑制部34としては、例えば図9に示すように、ジイソブチリルメタナート銅7が溶解した超臨界CO2 流体8を攪拌しつつ耐圧反応容器2の内部に導入することができる螺旋形状に形成された管状路を用いるとよい。また、これに併せて、反応抑制部34の外側には、反応抑制部34の内部温度を超臨界CO2 流体8からのジイソブチリルメタナート銅7の析出反応を抑制できる温度に調節するための第3の温度調節装置35を設けるとなおよい。この第3の温度調節装置35も、前述した耐圧反応容器2が備える第1の温度調節装置11と同様に、反応抑制部34をその周囲から万遍なく加熱できるように、上下2分式のマントルヒータ35a,35bを用いるとよい。
【0063】
本発明者らが行った実験によれば、反応抑制部34内を流れる超臨界CO2 流体8等の温度を耐圧反応容器2の内部温度よりも低い温度まで加熱することにより、ジイソブチリルメタナート銅7が均一に溶解した超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2の内部に導入できることが分かった。例えば、導電体形成プロセスが行われる際の耐圧反応容器2の内部温度を約280℃に設定したとする。この場合、反応抑制部34内を流れる超臨界CO2 流体8等の温度を約200℃以下に設定する。より好ましくは、反応抑制部34内を流れる超臨界CO2 流体8等の温度を約150℃に設定する。これにより、超臨界CO2 流体8からジイソブチリルメタナート銅7が析出する反応を抑制しつつジイソブチリルメタナート銅7が均一に溶解した超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2の内部に導入できることが分かった。
【0064】
このように、耐圧反応容器2の直ぐ上流側に反応抑制部34および上下各マントルヒータ35a,35bを設けることにより、耐圧反応容器2の内部に導入されるジイソブチリルメタナート銅7の量や濃度をさらに高い精度で制御することができる。この結果、導電体形成プロセスをさらに高い精度で制御して、微細で高アスペクト比の凹部5内をより効率よくCu薄膜33で埋め込むことができる。
【0065】
以上説明したように、この第1実施形態においては、液体と同等の溶解能、気体と同等の高拡散性、略ゼロに近い表面張力、高密度性、ナノレベルの浸透性、および化学的に安定している超臨界CO2 流体8中に、各凹部5内に埋め込むCu薄膜33の原料となるジイソブチリルメタナート銅7を溶解させる。これにより、ジイソブチリルメタナート銅7(7a,7b)は、例えば複数の凹部15の開口幅が100nm以下の微細さ、および約10〜15という高いアスペクト比からなる形状を有していても、その内部に殆ど隙間なく浸透して充填することができる。また、ジイソブチリルメタナート銅(7a,7b)は、Cu薄膜33の下地となる各凹部5の内側表面の材質(化学的性情)に拘らず、シリコンウェーハ6の表面6aよりも低く掘り下げられた構造からなる各凹部5内に自己整合的に、かつ、選択的に流れ込む。すなわち、導電体の主成分となる金属は、その下地の材質に拘らず、下地の構造もしくは物理的形状を利用して、各凹部5内を優先的に満たすことができる。このような原理を利用する導電体の形成方法(導電体薄膜の堆積方法)は、形状敏感堆積法とも称される。
【0066】
そして、各凹部5の内側は、その底部から上部(開口部)に向けて順次ジイソブチリルメタナート銅7(7a,7b)によって殆ど隙間なく充填される。それとともに、各凹部5内を殆ど隙間なく優先的に充填したジイソブチリルメタナート銅7(7a,7b)からは、各凹部5の底部から上部に向けて順次ジイソブチリルメタナート銅7(7a,7b)からCu32が析出する。これにより。各凹部5内はその底部から上部に向けて順次Cu薄膜33によって満たされていく。この結果、各凹部5は、たとえ微細でアスペクト比の高くても、その下地の材質に拘らず、Cu薄膜33によって効率よく選択的に、かつ、容易に殆ど隙間を作らずに埋め込まれる。このように、各凹部5をその底部から上部に向けて順次埋め込んだり、あるいは充填したりしていく成膜方法(堆積方法)は、ボトムアップ成膜法(ボトムアップ堆積法)とも称することができる。
【0067】
また、超臨界流体と形状敏感堆積法とを組み合わせた本実施形態の導電体の形成方法は、CVD法に比べて不純物が混入するおそれが低い。また、本実施形態の導電体の形成方法は、PVD法やCVD法に比べてはるかに高密度なプロセスであるので、高アスペクト比で複雑な形状の凹部15を効率よく容易に埋め込んで、複雑な形状の部品をより高速で作成することができる。すなわち、本実施形態の導電体の形成方法は、PVD法やCVD法に比べて高スループットである。例えば、PVD法やCVD法では、凹部のみならず凹部が形成されている層の表面全体に導電体の膜が形成されてしまう。これに対して、本実施形態の導電体の形成方法は、凹部15の内側もしくはその付近にのみ選択的に導電体の膜を形成することができるので、PVD法やCVD法に比べて原料が無駄になり難いとともに、全面CMP工程等の工程を省略することができる。すなわち、本実施形態の導電体の形成方法は、PVD法やCVD法に比べて生産効率が高い。
【0068】
また、液体原料を利用する有機金属CVD法では液体原料が化学的に不安定でプロセスマージンが小さいのに対して、本実施形態の導電体の形成方法は、原料が化学的に安定しておりプロセスマージンが大きい。それとともに、本実施形態の導電体の形成方法は、ルテニウム薄膜21をPVD法やCVD法に比べて低温で成膜可能であるため堆積温度のプロセスマージンが広い。すなわち、本実施形態の導電体の形成方法は、プロセス温度依存性を緩和することもできる。さらに、本実施形態の導電体の形成方法は、PVD法やCVD法に比べて高価で希少な原料の回収率が高く、再利用も容易である。このように、本実施形態の導電体の形成方法は、PVD法やCVD法に比べて省原料、省エネルギーであるので、プロセス効率がよく環境にも優しい。さらには、本実施形態の導電体の形成方法によれば、PVD法やCVD法に比べて工程を省略したり、あるいは原料の使用量を抑制もしくは低減したりすることができるので、PVD法やCVD法に比べて製造コストを容易に抑制もしくは低減することができる。
【0069】
なお、これまで、超臨界流体をCVDのキャリアガスとして用いる技術や、超臨界流体をゾルゲル成膜法の溶媒として利用する技術がいくつか提案されている。しかし、本実施形態と異なり、これらの技術では超臨界流体自体の中で導電体の薄膜を得ることはできない。これに対して、本実施形態においては、前述したように超臨界流体自体の中で導電体32の薄膜33を得ることができるので、導電体32の薄膜33を成膜する際に超臨界流体を除去するなどの余計な工程が必要ない。したがって、このような点においても、導電体の形成方法は生産効率が高いといえる。
【0070】
また、前述した密閉型の反応容器を用いるバッチ式の導電体形成方法では、固体のジイソブチリルメタナート銅を反応容器内において直接超臨界流体中に溶解させていた。固体のジイソブチリルメタナート銅は、蒸気圧が小さく、溶媒に溶解し難い性質を有している。このため、たとえ超臨界流体が高い溶媒能を有していても、ジイソブチリルメタナート銅が溶け残ってしまう場合があった。すなわち、固体のジイソブチリルメタナート銅を直接超臨界流体中に溶解させる方法では、超臨界流体中のジイソブチリルメタナート銅の濃度を精度良く制御することが困難であった。ひいては、ジイソブチリルメタナート銅の使用率を向上させることが困難であり、省原料化および低コスト化を図ることが困難であった。
【0071】
また、このような固体の原料を使うことに起因する短所を克服する技術として、液体の原料を使う技術も提案されている。例えば、固体のジイソブチリルメタナート銅7に代えて、液体状のヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(Cu(C5HF62 )TMVS;Cu(hfac)TMVS)をはじめとする液体の原料を直接超臨界流体中に溶解させる技術も提案されている。しかし、液体の原料は、一般的に安定性が低く、取り扱いが困難である。特に、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅はフッ素を含んでおり、フッ素汚染等の環境への影響が懸念される。
【0072】
これらに対して、本実施形態では、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させて実質的に液体の状態で耐圧反応容器2内に導入する。この際、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させるのに先立って、ジイソブチリルメタナート銅7を予めアセトン21中に溶解させておく。前述したように、固体のジイソブチリルメタナート銅7は、蒸気圧が小さく、溶媒に溶解し難いが、アセトン21のような補助溶媒を用いることにより超臨界CO2 流体8中に容易に溶解させることができる。それとともに、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させるのに先立って、ジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させ易くする水素31を予め超臨界CO2 流体8中に溶解させておく。そして、アセトン21中に溶解させたジイソブチリルメタナート銅7を、水素が溶解した超臨界CO2 流体8中に溶解させた後、耐圧反応容器2内に導入する。
【0073】
このような方法によれば、固体のジイソブチリルメタナート銅7を、超臨界CO2 流体8中に溶解させることができる。ひいては、本来固体のジイソブチリルメタナート銅7を、実質的に液体の状態で耐圧反応容器2内に導入することができる。
【0074】
また、本実施系形態では、前述したようなジイソブチリルメタナート銅7および超臨界CO2 流体8の耐圧反応容器2内への供給と、耐圧反応容器2内からのジイソブチリルメタナート銅7および超臨界CO2 流体8の排出とを、少なくとも各凹部5内にCu薄膜33を埋め込む導電体形成プロセスを行っている間、連続的に並行して行う。さらには、ジイソブチリルメタナート銅7および超臨界CO2 流体8の耐圧反応容器2内への供給量や、耐圧反応容器2内からのジイソブチリルメタナート銅7および超臨界CO2 流体8の排出量などを、導電体形成プロセスを行っている間、その埋め込み状況に応じて随時、適正な大きさに調整する。
【0075】
このような方法によれば、導電体形成プロセスが行われている間、ジイソブチリルメタナート銅7や水素31等を、耐圧反応容器2の内外に連続して流通(フロー)させることができる。すなわち、導電体形成プロセスが行われている間、ジイソブチリルメタナート銅7や水素31等を、耐圧反応容器2内に定量的に連続して供給することができる。具体的には、導電体薄膜33の成膜パラメータである耐圧反応容器2内の温度、圧力、ジイソブチリルメタナート銅7の濃度や量、および水素31の濃度や量等を随時高い精度で制御して、導電体形成プロセスを適正な状態で進行させることができる。また、本実施形態によれば、導電体33の原料となるジイソブチリルメタナート銅7を連続して耐圧反応容器2内へ供給することができる。このため、反応容器内の原料を使い切った時点で導電体形成プロセスが終了となる従来のバッチ式(密閉方式)に対して、フロー方式(流通方式)の本実施系形態の導電体形成プロセスは導電体薄膜33の膜厚の制限が事実上無いに等しい。
【0076】
これらの結果、本実施形態によれば、導電体形成プロセスを高い精度で制御しつつ、適正な状態で進行させて、シリコンウェーハ6の各凹部5内を所望の膜厚からなる導電体薄膜33により迅速かつ容易に埋め込むことができるまで、また、本実施形態で用いるジイソブチリルメタナート銅7はフッ素フリーの金属化合物である。このため、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅等と異なりフッ素汚染等の環境への影響は殆ど心配ない。
【0077】
さらに、本実施形態に係る導電体形成装置1および導電体形成方法は、前述した様々な特徴に加えて、次に述べる効果も有している。例えば、導電体形成装置1の超臨界CO2 流体8の流路は供給装置3から排出装置4までで閉じられているため、流路内に不純物が混入するおそれが殆どない。このため、導電体形成プロセスにより各凹部5内にCu薄膜33が埋め込まれたシリコンウェーハ6の品質が劣化するおそれは殆どない。また、ジイソブチリルメタナート銅7は、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅等の一般的なCVD原料に比べて分解温度が高く、かつ、蒸気圧が低いため、CVD法による金属成膜工程には殆ど用いられない。これに対して、本実施形態ではジイソブチリルメタナート銅7を用いることができる。すなわち、本実施形態では、CVD法などの固体有機金属原料など化学気相蒸着法では用いられない原料も使用することができるので、CVD法に比べて原料の自由度が大きい。さらに、本実施形態は、CVD法などの従来の薄膜形成方法に比べて原料密度が104 〜106 倍と格段に高い。このため、マイクロ電子機械システム(Micro Electronic Mechanical System:MEMS)やナノ電子機械システム(Nano Electronic Mechanical System:NEMS)等のアスペクト比が高く、複雑な構造を有し、かつ、極めて微細な機械や部品を迅速かつ容易に作成することができる。すなわち、本実施形態は、様々なサイズの機械や部品の製造にも応用可能であり、極めてスケーラブルなプロセスである。
【0078】
なお、本発明者らが行った他の実験によれば、二酸化炭素の代わりに、溶媒能のないアルゴン(Ar)等の他の超臨界流体を用いると、本実施形態のような連続したCu薄膜33ではなく、粒状で不純物の多い堆積物しか得ることができなかった。この結果に対する本発明者らの考察では、超臨界CO2 流体8は、各凹部5内に堆積させられるCu薄膜33中の不純物低減など、成膜プロセスに積極的に貢献しているものと推測される。このような点においても、本実施形態の導電体形成プロセスは単なる高圧CVD法などとは原理的に全く異なっていることが分かる。
【0079】
(第2の実施の形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について図10を参照しつつ説明する。なお、前述した第1実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態では、シリコンウェーハ6の各凹部5内に、導電体としてCu32からなるCu薄膜33を設ける場合についてより具体的に説明する。
【0080】
先ず、図10に示すように、本実施形態で用いるシリコンウェーハ6は、具体的には基板本体としてのシリコン層(Si層)41の上に絶縁膜としての二酸化シリコン膜(SiO2 膜)42が設けられた構成を基礎とする。そして、二酸化シリコン膜42の内部に、微細でかつアスペクト比の高い凹部5が複数個形成されている。各凹部5は、その幅が約100nmで、かつ、深さが約500nmに形成されている。すなわち、各凹部5のアスペクト比は、約5である。
【0081】
各凹部5内にCu薄膜33を設けるのに先立って、各凹部5の内側表面をはじめとする二酸化シリコン膜42の表面上に、例えばCVD法によりチタンナイトライド(TiN)の薄膜43を全面的にコーティングしておく。
【0082】
また、Cu薄膜33の原料となるCuを含む金属化合物としては、前述した第1実施形態と同様に、ジイソブチリルメタナート銅7を用いる。また、耐圧反応容器2内の雰囲気の圧力(全圧)は、約8.0MPaに設定する。それとともに、耐圧反応容器2内の雰囲気の温度は、約280℃に設定する。また、水素31の添加圧力は約0.3MPaに設定する。さらに、Cu薄膜33を成膜(堆積)する処理時間は、約15分に設定した。このような条件の下、第1実施形態において説明した導電体形成装置1を用いる導電体形成方法を実行する。この結果、図10に示すように、各凹部5のうちの幾つかの内部およびその上方に選択的にCu薄膜33を堆積させることができた。
【0083】
以上説明したように、この第2実施形態によれば、Cu薄膜33を用いて各凹部5の内側をボトムアップ成膜法(ボトムアップ堆積法)により優先的に埋め込むことができる。また、図10に示すような形状からなるCu薄膜33は、当業者であれば容易に理解できるように、CVD法やPVD法では決して得ることができないものである。
【0084】
(第3の実施の形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について図11〜図17を参照しつつ説明する。なお、前述した第1および第2の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態では、シリコンウェーハ6の各凹部5内に、導電体としてCu32からなる薄膜33を設ける場合について、さらに具体的に説明する。
【0085】
先ず、本実施形態では、前述した第2実施形態と同様の構成からなるシリコンウェーハ6を用いる。また、Cu薄膜33の原料となるCu32を含む金属化合物としては、前述した第1実施形態と同様に、ジイソブチリルメタナート銅7を用いる。そして、耐圧反応容器2内へのジイソブチリルメタナート銅7の供給濃度は、約8.83×10-5 mol%に設定する。また、耐圧反応容器2内の雰囲気の圧力(全圧)は、約8.0MPaに設定する。それとともに、耐圧反応容器2内の雰囲気の温度は、約280℃に設定する。さらに、水素31の添加圧力は約0.3MPaに設定するとともに、耐圧反応容器2内の水素31の濃度は約1.2mol%に設定する。このような条件の下、第1実施形態において説明した導電体形成装置1を用いる導電体形成方法を実行した。ただし、Cu薄膜33を堆積させる時間を約60分間および約90分間の2通りに設定して導電体形成プロセスを実行した。
【0086】
図11(a)および(b)には、Cu薄膜33の堆積時間を約60分間に設定した場合の導電体形成プロセスの結果を示す。なお、図11(b)は図11(a)の各凹部5付近を拡大して示す断面図である。これら図11(a)および(b)から明らかなように、各凹部5の内部は、Cu薄膜33によって埋め込まれていることが分かる。また、各凹部5の外側にあふれ出したCu薄膜33は、二酸化シリコン膜42(シリコンウェーハ6)の表面6aを略全面的に覆って成膜されている。
【0087】
また、図12(a)および(b)には、Cu薄膜33の堆積時間を約90分間に設定した場合の導電体形成プロセスの結果を示す。なお、図12(b)は図12(a)の各凹部5付近を拡大して示す断面図である。これら図12(a)および(b)から明らかなように、各凹部5の内部は、前述したCu薄膜33の堆積時間を約60分間に設定した場合と同様に、Cu薄膜33によって埋め込まれていることが分かる。また、各凹部5の外側にあふれ出したCu薄膜33は、二酸化シリコン膜42(シリコンウェーハ6)の表面6aを略全面的に覆って成膜されている。さらに、二酸化シリコン膜42上のCu薄膜33は、Cu薄膜33の堆積時間を約60分間に設定した場合に比べて堆積時間が約30分間長い分だけ膜厚がより厚くなっている。
【0088】
次に、前述した導電体形成プロセスによるCu薄膜33の成膜特性(堆積特性)について、本発明者らが行った実験の結果を図13〜図17を参照しつつ説明する。ただし、堆積時間の違いによるCu薄膜33の膜厚の変化をより明確にするために、Cu薄膜33の堆積時間は約60分間および約120分間の2通りに設定した。また、堆積時間を約60分間に設定した場合の成膜温度は約240℃に設定した。これに対して、堆積時間を約120分間に設定した場合の成膜温度は、前述した場合と同様に、約240℃に設定した。
【0089】
本発明者らは、先ず、図13に示すように、前述した導電体形成プロセスによりCu薄膜33が堆積されたシリコンウェーハ6を、約10mm×40mmの短冊形状にカットした。この際、短冊形状のシリコンウェーハ6の長手方向が、図13中実線矢印で示す超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿うようにシリコンウェーハ6をカットした。そして、この短冊形状にカットされたシリコンウェーハ6上のCu薄膜33の膜厚分布を調べた。具体的には、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かって、図13中実線で示す複数の位置においてシリコンウェーハ6上のCu薄膜33を削り、その膜厚を段差計を用いて測定した。この際、図13中実線で示す各位置の間隔を約5mmに設定した。それとともに、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かって、図13中破線で示す位置においてシリコンウェーハ6上のCu薄膜33の断面をSEMで観察した。この結果を図14に示す。
【0090】
図14中黒塗りの三角形でプロットされているグラフは、堆積時間を約120分間とした場合のシリコンウェーハ6上のCu薄膜33の膜厚分布を示す。また、図14中黒塗りの四角形でプロットされているグラフは、堆積時間を約60分間とした場合のシリコンウェーハ6上のCu薄膜33の膜厚分布を示す。これらに対して、図14中黒塗りの丸でプロットされているグラフは、Cu薄膜の原料として固体のヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(Cu(C5HF622 ;Cu(hfac)2 )を超臨界CO2 流体8中に溶解させてCu薄膜を形成した場合の膜厚分布を示す。なお、このヘキサフルオロアセチルアセトナート銅を用いた場合の成膜プロセスは、その成膜温度を約300℃に、また成膜時間を約30分間に設定して行われた。
【0091】
図14に示す3本のグラフから明らかなように、Cu薄膜の原料としてヘキサフルオロアセチルアセトナート銅を用いた場合のみ、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かうにつれてCu薄膜の膜厚が薄くなる傾向が表れた。これに対して、Cu薄膜33の原料としてアセトン21に溶解した固体のジイソブチリルメタナート銅7を用いた場合には、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かうにつれてCu薄膜33の膜厚が厚くなる傾向が表れた。また、Cu薄膜33の原料としてアセトン21に溶解した固体のジイソブチリルメタナート銅7を用いた場合には、堆積時間が約60分の場合に比べて堆積時間が約120分の場合の方がCu薄膜33の膜厚がシリコンウェーハ6上で全面的により厚くなっていることが分かる。すなわち、Cu薄膜33の原料としてアセトン21に溶解した固体のジイソブチリルメタナート銅7を用いた場合には、堆積時間が長くなるに連れて膜厚がより厚くなる比例関係があることが分かる。
【0092】
本発明者らが行った研究によれば、このような現象は、Cu薄膜33の原料としてアセトン21に溶解した固体のジイソブチリルメタナート銅7を用いた場合、導電体形成プロセスを行っている間に耐圧反応容器2内にジイソブチリルメタナート銅7の濃度分布に偏りが生じることが大きな理由であることが分かった。このメカニズムを分かり易く簡略化して図示すると、図15のように表すことができる。
【0093】
図15は、導電体形成プロセスを行っている間の耐圧反応容器2内におけるジイソブチリルメタナート銅7の濃度勾配を、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってグラフで表したものである。この図15に示すグラフによれば、導電体形成プロセスを行っている間の耐圧反応容器2内におけるジイソブチリルメタナート銅7の濃度は、耐圧反応容器2の供給口9側で最大となっており、耐圧反応容器2の排出口10側に向かうに連れて小さくなっていることが分かる。これは、導電体形成プロセスを行っている間は、耐圧反応容器2内における超臨界CO2 流体8の流れに沿ってその上流側から下流側に向かって順番にジイソブチリルメタナート銅7が消費されているためであると考えられる。すなわち、シリコンウェーハ6に形成された各凹部5は、超臨界CO2 流体8の流れに沿ってその上流側から下流側に向かって順番にCu薄膜33により埋め込まれるものと考えられる。
【0094】
ただし、導電体形成プロセスを行っている間は、ジイソブチリルメタナート銅7は超臨界CO2 流体8の流れに沿ってその上流側から下流側に向かって流されている。このため、超臨界CO2 流体8の流れの下流側から上流側に向かうに連れて、Cu薄膜33は各凹部5の外側に堆積し難くなる。すなわち、超臨界CO2 流体8の流れの下流側から上流側に向かうに連れて、Cu薄膜33はシリコンウェーハ6の表面6a上に堆積し難くなる。そして、超臨界CO2 流体8の流れに沿ってその上流側から下流側に向かって流されたジイソブチリルメタナート銅7は、シリコンウェーハ6の下流側の表面上に付着し易くなる。この結果、Cu薄膜33は、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側(供給口9側)から下流側(排出口10側)に向かうにつれてより厚く堆積する。このようなメカニズムは、図14および図15に示す各グラフの傾向とよく一致する。
【0095】
したがって、本発明者らが行った実験によれば、本実施形態の導電体形成プロセスを行う場合には、耐圧反応容器2内における超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその最上流部に位置する凹部5内を略隙間無く充填できるように耐圧反応容器2内に供給するジイソブチリルメタナート銅7の濃度や量を設定すればよいことが分かる。このような設定によれば、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその最上流部に位置する凹部5のみならず、シリコンウェーハ6に形成されている全ての凹部5内をCu薄膜33により略隙間無く充填することができる。
【0096】
次に、前述した本発明者らが行った実験における導電体形成プロセスの原料使用率について説明する。具体的には、第1実施形態において説明したように、導電体形成プロセスに供される前の超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度を吸光度分析装置29によって測定する。それとともに、導電体形成プロセスに供された後の超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度をセパレータ28によって測定する。そして、これらのジイソブチリルメタナート銅7の濃度差を求める。これにより、導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスにおけるジイソブチリルメタナート銅7の使用率を求める。本発明者らが行った測定結果によれば、導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスにおけるジイソブチリルメタナート銅7の使用率は約90%以上であることが分かった。これはCVDやPVD等の一般的な成膜プロセスに比べて各段に高い値である。すなわち、導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスは極めて効率が良く、かつ、省原料化を図ることができる。
【0097】
また、図16には、導電体形成プロセスに供される前と供された後の超臨界CO2 流体8中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度を、それぞれ写真を用いて示す。図16中左側の試験管45が、導電体形成プロセスに供される前のジイソブチリルメタナート銅7の溶液46が入れられた試験管である。これに対して、図16中右側の試験管47が、導電体形成プロセスに供された後のジイソブチリルメタナート銅7の溶液48が入れられた試験管である。この図16に示す写真において、各試験管45,47の中にはそれぞれの溶液46,48中のジイソブチリルメタナート銅7の濃度が高い程、濃い青色を呈する試薬が入れられている。
【0098】
図16に示す写真から明らかなように、試験管45に入れられているジイソブチリルメタナート銅7の溶液46は色が濃い。これにより、導電体形成プロセスに供される前のジイソブチリルメタナート銅7の溶液46はジイソブチリルメタナート銅7の濃度が高く、ジイソブチリルメタナート銅7が殆ど消費されていないことが分かる。ひいては、導電体形成プロセスに供される前は、ジイソブチリルメタナート銅7は殆ど無反応であり、化学的に安定していることが分かる。これに対して、試験管47に入れられているジイソブチリルメタナート銅7の溶液48は色が薄く、殆ど無色透明である。これにより、導電体形成プロセスに供された後のジイソブチリルメタナート銅7の溶液48はジイソブチリルメタナート銅7の濃度が低く、ジイソブチリルメタナート銅7が殆ど消費されていることが分かる。すなわち、この図16に示す写真によれば、導電体形成装置1を用いる導電体形成プロセスにおけるジイソブチリルメタナート銅7の使用率は極めて高いとともに、ジイソブチリルメタナート銅7は殆ど全て耐圧反応容器2内の導電体形成プロセスで消費されていることが分かる。
【0099】
さらに、本発明者らは、超臨界CO2 流体8中に各種の添加剤を添加した場合のエンタルピーの変化についても計算した。この計算結果を図17に示す。図17に示すグラフは、添加剤が入っていない超臨界CO2 流体8、アセトン21が添加された超臨界CO2 流体8、およびエタノールが添加された超臨界CO2 流体8がそれぞれ耐圧反応容器2内に流入する際のエンタルピーの変化について測定した結果を示すものである。この図17に示すグラフによれば、導電体形成プロセスを実行する際には、超臨界CO2 流体8中にアセトン21を添加した場合、添加剤が入っていない超臨界CO2 流体8に比べて約1,27倍の熱量が必要になることが分かる。
【0100】
本発明者らが行った研究によれば、このようなエンタルピーの急激な変化が図14に示すCu薄膜33の膜厚の分布に関係している可能性があると考えられた。具体的には、アセトン21が添加された超臨界CO2 流体8を用いる場合、超臨界CO2 流体8が耐圧反応容器2内に流入する際に供給口9付近の温度が急激に低下する。これにより、耐圧反応容器2内の供給口9付近におけるCu薄膜堆積反応が鈍くなる。この結果、Cu薄膜33の膜厚は、供給口9付近で薄く、排出口10付近で厚くなる。すなわち、前述したように、超臨界CO2 流体8の流れの上流側から下流側に向かうに連れて、Cu薄膜33の膜厚が厚くなる。
【0101】
以上説明したように、この第3実施形態によれば、前述した第2実施形態と同様の効果得ることができる。また、本実施形態によれば、シリコンウェーハ6に形成された各凹部5内をCu薄膜33により選択的に埋め込むことができるのみならず、通常のCVD法やPVD法と同様にシリコンウェーハ6の表面6a上にも全面的にCu薄膜33を堆積させることができる。
【0102】
(第4の実施の形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について図18〜図23を参照しつつ説明する。なお、前述した第1〜第3の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態においては、第1〜第3の各実施形態と異なり、超臨界CO2 流体等を反応容器の内部に導入するのに先立って予め所定の温度まで温めておく。これにより、より良好な埋め込み状態や成膜結果を得ようとするものである。以下、具体的に説明する。
【0103】
先ず、図18に本実施形態に係る導電体の形成装置101の主要部を簡略化して示す。本実施形態の導電体の形成装置101では、第1実施形態の導電体の形成装置1と異なり、耐圧反応容器2の内部に導入される物質を耐圧反応容器2の内部に導入されるのに先立って予め所定の温度まで温める予備加熱装置(プリヒートシステム、プリヒートユニット)102が耐圧反応容器2の直ぐ上流側に接続されている。なお、図18において図示は省略するが、プリヒートシステム102は供給装置3よりも下流側に接続されるのはもちろんである。このプリヒートシステム102は、予備加熱室(プリヒート室)103および第4の温度調節装置104等からなる。
【0104】
プリヒート室103の内部には、超臨界CO2 流体8、反応促進剤(H2 )31、プリカーサ(ジイソブチリルメタナート)7、および有機溶媒(アセトン)21等が供給装置3から供給される。以下の説明においては、これら供給装置3からプリヒート室103の内部に供給される各物質を、特に断りの無い限り、単に超臨界CO2 流体8と略称する。超臨界CO2 流体8は、プリヒート室103内において予備加熱(プリヒーティング)された後、耐圧反応容器2の内部に導入される。
【0105】
第4の温度調節装置104は、具体的には前述した第1および第3の各温度調節装置11,35と同様に、プリヒート室103の内部をその上方または下方からそれぞれ独立して加熱できる上部マントルヒータ104aおよび下部マントルヒータ104bの2つのヒータからなるマントルヒータユニット104である。プリヒート室103内の温度は、マントルヒータユニット104により加熱されて所定の温度まで高められる。ただし、プリヒート室103内の温度の上限は、導電体形成プロセスが行われる際の耐圧反応容器2内の温度よりも低い値に設定される。例えば、プリヒート室103内の超臨界CO2 流体8の温度は、マントルヒータユニット104によりプリヒーティングされて約180℃以下の所定の温度まで高められる。
【0106】
次に、図18〜図23を参照しつつ、導電体の形成装置101を用いて本発明者らが行った2種類の実験について説明する。1つは耐圧反応容器2の内部温度を測定する実験であり、他の1つはCu薄膜の成膜実験である。
【0107】
先ず、図18および図19を参照しつつ、耐圧反応容器2の内部温度の測定実験について説明する。この実験を行うにあたって、次に述べるように条件を設定した。第1に、プリヒート室103内に供給する超臨界CO2 流体8として、アセトン21を添加していない超臨界CO2 流体、および超臨界CO2 流体中に混入されるアセトン21の流量が約10 vol %に設定された超臨界CO2 流体、の2種類の超臨界CO2 流体を用いる。第2に、図示しない恒温槽30を用いて耐圧反応容器2の外部温度を約250℃に設定する。第3に、耐圧反応容器2とプリヒート室103との容積比を約1:3に設定する。このような設定の下、上下各マントルヒータ104a,104bを用いてプリヒート室103の内部を加熱し、プリヒート室103の内部温度(プリヒート温度)を約50〜約180℃まで変化させた。そして、図18に示すように、プリヒート室103内で加熱された超臨界CO2 流体8が供給された耐圧反応容器2の内部温度を、その入り口(供給口)9付近および中央部付近の2箇所において熱電対105によって測定した。この結果を、図19にグラフにして示す。
【0108】
図19に示すグラフによれば、プリヒート温度が約150℃に到達した時点で、耐圧反応容器2の入り口9付近および中央部付近の2箇所における内部温度の差が殆ど無くなったことが分かる。それとともに、このような現象は、超臨界CO2 流体8中のアセトン21の有無に依存していないことが分かる。
【0109】
次に、図20〜図23を参照しつつ、Cu薄膜の成膜実験について説明する。このCu薄膜の成膜実験では、具体的には、図20に示すように(I),(II),(III),(IV),(V)の5種類の処理条件を設定した上で、導電体の形成装置101を用いて前述した第1実施形態と同様の導電体形成プロセスを行った。この結果を、図20の最下段に示すとともに、図21(a)、(b)にグラフにして示す。なお、図20に示す表において、処理温度とは導電体形成プロセスを行う際の耐圧反応容器2の内部温度を指すとともに、標準偏差とは成膜されたCu薄膜の膜厚のばらつきを指す。また、図21(a)に示す2本のグラフはともにプリヒートを行わなかった場合の成膜結果を示すとともに、図21(b)に示す3本のグラフはそれぞれプリヒートを行った場合の成膜結果を示す。
【0110】
図20に示す表によれば、プリヒートを行わなかった場合には、処理温度が高い程、シリコンウェーハ上に成膜されたCu薄膜の膜厚のばらつきが大きくなっていることが分かる。また、図21(a)に示すグラフによれば、プリヒートを行わなかった場合には、耐圧反応容器2の入り口9付近から中央部そして出口(排出口)10付近へと向かうに連れて、シリコンウェーハ上に成膜されたCu薄膜の膜厚が厚くなっていることが分かる。すなわち、超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かうに連れてCu薄膜がより厚く堆積する傾向があることが分かる。そして、その傾向は処理温度が高い程顕著であることも分かる。さらに、処理温度が高い程、Cu薄膜の膜厚も厚くなっていることも分かる。
【0111】
これに対して、図20に示す表によれば、プリヒートを行った場合には、シリコンウェーハ上に成膜されたCu薄膜の膜厚のばらつきは処理温度の高低には必ずしも比例していないことが分かる。また、プリヒートを行った場合には、プリヒートを行わなかった場合に比べて、Cu薄膜の膜厚のばらつきを最大で約10分の1未満に抑えることができることが分かる。例えば、処理温度を約240℃に設定した場合には、Cu薄膜の膜厚のばらつきを約7分の1に抑えることができることが分かる。また、図21(b)に示すグラフによれば、プリヒートを行った場合には、シリコンウェーハ上に成膜されたCu薄膜の膜厚は耐圧反応容器2の入り口9付近から中央部そして出口付近10にかけて略同じ大きさであり、プリヒートを行わなかった場合に比べて大幅に均一化されていることが分かる。すなわち、超臨界CO2 流体8の流れの位置に拘わらず、略均一な膜厚でCu薄膜が堆積する傾向があることが分かる。ただし、プリヒートを行った場合も、プリヒートを行わなかった場合と同様に、Cu薄膜の膜厚は処理温度が高い程厚くなっていることが分かる。
【0112】
次に、図22(a),(b),(c)には、図20に示す表の(I)〜(V)の各処理条件のうち(II)の処理条件でシリコンウェーハ6上にCu薄膜33を成膜した結果のSEM写真を示す。より具体的には、図22(a)には、耐圧反応容器2の入り口9付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。また、図22(b)には、耐圧反応容器2の中央部付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。さらに、図22(c)には、耐圧反応容器2の出口10付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。なお、本実験で用いたシリコンウェーハ6は、第2実施形態で説明したシリコンウェーハ6と同じ構造からなる。
【0113】
図22(a),(b),(c)に示すSEM写真から明らかなように、耐圧反応容器2の入り口9付近、中央部付近、および出口10付近のそれぞれにおいて、Cu薄膜33がシリコンウェーハ6の表面6a上に全面的に成膜されている。また、シリコンウェーハ6に形成された各凹部5の内部はCu薄膜33により満たされており、埋め込み性は良好であることが分かる。ただし、シリコンウェーハ6の表面6a上の位置に拘わらず、異常成長したCu32からなる粒子状のCu堆積物106がCu薄膜33の表面上に多数観察される。また、Cu薄膜33はシリコンウェーハ6の表面6a上に全面的に連続膜として形成されているが、その表面には凹凸が多数観察される。このように、プリヒーティングを伴わない(II)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合、その膜質は必ずしも全体的に良質に形成されるとは限らない。
【0114】
次に、図23(a),(b),(c)には、図20に示す表の(I)〜(V)の各処理条件のうち(V)の処理条件でシリコンウェーハ6上にCu薄膜33を成膜した結果のSEM写真を示す。より具体的には、図23(a)には、耐圧反応容器2の入り口9付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。また、図23(b)には、耐圧反応容器2の中央部付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。さらに、図23(c)には、耐圧反応容器2の出口10付近におけるシリコンウェーハ6およびその上に成膜されたCu薄膜33の断面のSEM写真を示す。
【0115】
図23(a),(b),(c)に示すSEM写真から明らかなように、図20に示す表の(V)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合も、(II)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合と同様に、耐圧反応容器2の入り口9付近、中央部付近、および出口10付近のそれぞれにおいて、Cu薄膜33がシリコンウェーハ6の表面6a上に全面的に成膜されている。また、(II)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合と同様に、シリコンウェーハ6に形成された各凹部5の内部はCu薄膜33により満たされており、埋め込み性も良好であることが分かる。ただし、(V)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合は、(II)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合と異なり、シリコンウェーハ6の表面6a上の位置に拘わらず、異常成長したCu32からなる粒子状のCu堆積物106がCu薄膜33の表面上に殆ど観察されない。また、Cu薄膜33の表面には凹凸が殆ど観察されない。このように、プリヒーティングを伴う(V)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合、プリヒーティングを伴わない(II)の処理条件でCu薄膜33を成膜した場合に比べて、膜質がより改善されたCu薄膜33を成膜できることが分かる。
【0116】
以上説明したように、この第4実施形態によれば、前述した第1〜第3の各実施形態と同様の効果を得ることができる。また、アセトン21が添加された超臨界CO2 流体8を耐圧反応容器2内に導入するのに先立って予めプリヒーティングを施すことにより、銅の予備還元を行って反応速度を上げる。これにより、Cu薄膜33の膜厚が超臨界CO2 流体8の流れの方向に沿ってその上流側から下流側に向かうにつれてより厚く堆積する傾向を改善することができる。ひいては、耐圧反応容器2内の位置に拘わらず、均質かつ略均一な膜厚からなるCu薄膜33をシリコンウェーハ6の表面6a上に略全面的に成膜できる。
【0117】
また、プリヒートシステム102を反応促進媒体として用いる場合には、単にプリヒーティングを行うだけでも熱反応促進や中間反応体生成等の効果を得ることができる。そして、これらの効果は、プリヒーティングを行うのに先立って、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、あるいは銅(Cu)等の触媒物質となる金属を予めプリヒート室103の内部に設けておくことによって、より顕著になる。この場合、図示は省略するが、それら各金属を、例えば板形状やワイヤー形状に形成してプリヒート室103の内部に配置したり、プリヒート室103の内壁面上に蒸着したり、あるいはプリヒート室103の内部に設けられた多孔体等からなる支持体の上に載置または懸架したりすれば良い。
【0118】
また、本実施形態のプリヒートシステム102は第1実施形態で説明した反応抑制部34と併用しても構わない。この場合、反応抑制部34と耐圧反応容器2との間にプリヒートシステム102を設ければよい。このような構成によれば、反応抑制部34の機能とプリヒートシステム102の機能とを互いに矛盾させることなく発揮させることができる。
【0119】
なお、前述したプリヒーティングは、必ずしも導電体形成プロセスが行われる温度付近まで加熱する必要は無い。アセトン21が超臨界状態となる臨界点は温度が約235℃、圧力が約4.76MPaである。したがって、アセトン21が添加された超臨界CO2 流体8を用いる場合、これが耐圧反応容器2内に流入するのに先立ってアセトン21が添加された超臨界CO2 流体8を予め約235℃まで加熱してその圧力を約4.76MPaに到達させておけば十分である。
【0120】
(第5の実施の形態)
次に、本発明に係る第5実施形態について図24および図25を参照しつつ説明する。なお、前述した第1〜第4の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態においては、第1〜第4の各実施形態と異なり、Cu薄膜33に代えてルテニウム(Ru)からなる薄膜を用いてシリコンウェーハ6の各凹部5内を埋め込む場合について説明する。
【0121】
先ず、ここでは、前述した第2および第3の各実施形態で用いたシリコンウェーハ6と略同様の構成からなるシリコンウェーハ6を用いる。ただし、第2および第3の各実施形態で用いたシリコンウェーハ6と異なり、各凹部5の内側表面および二酸化シリコン膜42の表面にはTiN薄膜43を設けない。各凹部5の内側表面および二酸化シリコン膜42の表面には、Au薄膜44を全面的にコーティングするのみである。また、各凹部5は、二酸化シリコン膜42内に形成されている。そして、各凹部5の寸法は、底部の幅が約130nm、開口部の幅が約200nm、そして深さが約2μmに形成されている。すなわち、各凹部5のアスペクト比は、約10〜15である。このような構成からなるシリコンウェーハ6に対して前述したフロー方式の導電体形成プロセスを実行する。
【0122】
ここでは、Ru薄膜の原料として、ジイソブチリルメタナート銅7と同様の有機金属錯体であるシクロペンタジエニルルテニウム(Ru(C552 ;RuCp2 )を用いる。そして、超臨界CO2 流体8中のシクロペンタジエニルルテニウム18の濃度を約25mg/ccに設定するとともに、水素19の添加圧力を約1.0MPaに設定する。また、耐圧反応容器2内の雰囲気の圧力(全圧)を約12MPaに設定する。また、導電体形成プロセスを実行する際の耐圧反応容器2内の温度を約250℃に設定する。そして、導電体形成プロセスの処理時間を、約15分に設定する。このような条件の下、本発明者らは、前述した導電体形成プロセスを行った。この結果を図24および図25にSEM写真を用いて示す。なお、なお、図25は図24の各凹部5付近を拡大して示す断面図である。
【0123】
図24および図25に示すように、シリコンウェーハ6の表面6aを構成するAu薄膜44の上には、各凹部5に沿って選択的にきのこ形状のRu薄膜(ルテニウムアイランド)51が形成できたことが確認された。また、図24に示すように、各凹部5の内部は、前述した第3実施形態と同様に、それらの底部から上部にかけて殆ど隙間なく充填できたことが確認された。
【0124】
以上説明したように、この第5実施形態によれば、Cuの代わりにRuを用いても前述した第1〜第4の各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0125】
(第6の実施の形態)
次に、本発明に係る第6実施形態について図26を参照しつつ説明する。なお、前述した第1〜第5の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態においては、第1実施形態において説明した導電体の形成方法を用いて、半導体装置を製造する技術について説明する。具体的には、前述した導電体の形成方法を用いて、トレンチキャパシタの埋め込み電極を形成する。
【0126】
図26に示すように、本実施形態で用いるシリコンウェーハ6は、その基板本体がP型のシリコン層(Si層)22によって構成されている。また、このP型シリコン層22の表層部はPウェル61となっている。そして、シリコンウェーハ6の表層部でもあるPウェル61の内部に微細かつアスペクト比の高い凹部(トレンチ)62が形成されている。トレンチ62の内側の表層部にはn型の不純物がイオン注入などにより導入されており、トレンチキャパシタ68のカソード63となる。また、トレンチ62の内部には、容量絶縁膜となるシリコン酸化膜(SiO2 膜)64がカソード63の表面を覆って設けられている。さらに、シリコンウェーハ6の表層部には、素子分離領域65や図示しないトランジスタのソース領域またはドレイン領域となるn+ 型の不純物拡散領域66が形成されている。
【0127】
このような構造からなるシリコンウェーハ6を耐圧反応容器2内に収容した後、第1実施形態において説明した導電体形成方法を実行する。この際、トレンチ62内に設ける導電体をCuにより形成する場合には、前述した第2〜第4の各実施形態のうちのいずれかの処理条件を採用すれば良い。また、トレンチ62内に設ける導電体をRuにより形成する場合には、前述した第5実施形態の処理条件を採用すれば良い。ここでは、トレンチ62内をRu薄膜67により埋め込むこととする。これにより、微細でアスペクト比の高いトレンチ62の内部およびその開口部周辺に選択的に、かつ、殆ど隙間を作らずにトレンチキャパシタ68の埋め込み電極となるRu薄膜67を成膜することができる。Ru薄膜67の成膜処理が終了した後、シリコンウェーハ6を耐圧反応容器2の内部から取り出して、エッチング処理などによってRu薄膜67を所望の埋め込み電極の形状に成形する。これにより、シリコンウェーハ6の表層部に、Ru薄膜を用いて所望の形状に形成された埋め込み電極としてのプレート電極67が設けられる。ひいては、シリコンウェーハ6の表層部に、カソード63、容量絶縁膜64、およびプレート電極67からなるトレンチキャパシタ68が設けられる。
【0128】
この後、トレンチキャパシタ68が設けられたシリコンウェーハ6の表面6a上に、周知の技術によってワード69やビット線70、ビット線70と不純物拡散領域66との導通を得るためのコンタクトプラグ71、および層間絶縁膜72などを設ければよい。なお、プレート電極67と同様に、コンタクトプラグ71も第1実施形態において説明した導電体形成方法により形成しても構わないのはもちろんである。これまでの工程により、図26に示す構造からなる半導体装置73を得る。
【0129】
以上説明したように、この第6実施形態によれば、前述した第1〜第5の各実施形態と同様の効果を得ることができる。また、立体的で複雑な形状を有するプレート電極67を備えるトレンチキャパシタ68も効率よく、かつ、容易に形成することができる。ひいては、トレンチキャパシタ68を備える半導体装置73を効率よく、かつ、容易に製造することができる。このような半導体装置73は生産効率が良く、製造工程も簡略化することができるので、安価に製造することができる。
【0130】
(第7の実施の形態)
次に、本発明に係る第7実施形態について図27および図28を参照しつつ説明する。なお、前述した第1〜第6の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態においても、前述した第6実施形態と同様に、第1実施形態において説明した導電体形成方法を用いて、半導体装置を製造する技術について説明する。ただし、本実施形態では、第6実施形態と異なり、前述した導電体形成方法を用いて多層配線構造を形成する。
【0131】
先ず、図27(a)に示すように、配線とプラグとが別体に形成された、いわゆるシングルダマシン構造からなる上層配線を備える多層配線構造を形成する場合について説明する。
【0132】
先ず、シリコンウェーハ6の基板本体41の上に、周知のCVD法により第1層目の層間絶縁膜42aを設ける。続けて、下層配線となる第1層目の配線83を設けるための下層配線形成用凹部81を、周知のエッチング工程などによって第1層目の層間絶縁膜42a中に形成する。続けて、周知のCVD法やCMP法などにより、下層配線用バリアメタル膜82および下層配線となるCu膜83を下層配線形成用凹部81内に埋め込む。これにより、第1層目の層間絶縁膜42a中に下層配線となる第1層目の配線83が設けられる。
【0133】
続けて、下層Cu配線83が設けられた第1層目の層間絶縁膜42aの上に、周知のCVD法により第2層目の層間絶縁膜のうち下層側となる層間絶縁膜42bを設ける。続けて、下層Cu配線83と上層配線99との導通を得るためのヴィアプラグ86を設けるためのヴィアホール84を、周知のエッチング工程などによって第2層目の下層側層間絶縁膜42b中に形成する。続けて、周知のCVD法などにより、ヴィアプラグ用バリアメタル膜85をヴィアホール84の内側表面をはじめとする第2層目の下層側層間絶縁膜42bの表面上に成膜する。
【0134】
続けて、バリアメタル膜85が設けられたシリコンウェーハ6を耐圧反応容器2内に収容する。この後、第1実施形態において説明した導電体形成方法を実行する。この際、ヴィアプラグ86をCuにより形成する場合には、前述した第2〜第4の各実施形態のうちのいずれかの処理条件を採用すれば良い。これにより、微細でアスペクト比の高いヴィアホール84の内部およびその開口部周辺に選択的に、かつ、殆ど隙間を作らずにヴィアプラグとなるCu膜86を成膜することができる。Cu膜86の成膜処理が終了した後、シリコンウェーハ6を耐圧反応容器2の内部から取り出して、周知のCMP処理などによってCu膜86およびバリアメタル膜85をヴィアホール84の内部に埋め込む。これにより、第2層目の下層側層間絶縁膜42b中にCuヴィアプラグ86が設けられる。
【0135】
続けて、Cuヴィアプラグ86が設けられた第2層目の下層側層間絶縁膜42bの上に、周知のCVD法により第2層目の層間絶縁膜のうち上層側となる層間絶縁膜42cを設ける。続けて、上層配線89を設けるための上層配線形成用凹部87を、周知のエッチング工程などによって第2層目の上層側層間絶縁膜42c中に形成する。続けて、周知のCVD法などにより、上層配線用バリアメタル膜88を上層配線形成用凹部87の内側表面をはじめとする第2層目の上層側層間絶縁膜42cの表面上に成膜する。
【0136】
続けて、バリアメタル膜88が設けられたシリコンウェーハ6を再び耐圧反応容器2内に収容する。この後、第1実施形態において説明した導電体形成方法を実行する。この際、上層配線89をCuにより形成する場合には、Cuヴィアプラグ86を形成した場合と同様に、前述した第2〜第4の各実施形態のうちのいずれかの処理条件を採用すれば良い。これにより、微細な上層配線形成用凹部87の内部およびその開口部周辺に選択的に、かつ、殆ど隙間を作らずに上層配線となるCu膜89を成膜することができる。Cu膜89の成膜処理が終了した後、シリコンウェーハ6を再び耐圧反応容器2の内部から取り出して、周知のCMP処理などによってCu膜89およびバリアメタル膜88を上層配線形成用凹部87の内部に埋め込む。これにより、第2層目の上層側層間絶縁膜42c中に、Cuヴィアプラグ86と別体に形成された第2層目の配線89が設けられる。すなわち、いわゆるシングルダマシン構造からなる上層Cu配線89が第2層目の上層側層間絶縁膜42c中に設けられる。
【0137】
これまでの工程により、図27(a)に示すように、シングルダマシン構造からなる上層Cu配線89と下層Cu配線83とが、バリアメタル膜85,88およびCuヴィアプラグ86を介して導通された上下2層の多層配線構造を備える半導体装置90を得る。
【0138】
次に、図27(b)に示すように、配線とプラグとが一体に形成された、いわゆるデュアルダマシン構造からなる上層配線を備える多層配線構造を形成する場合について説明する。
【0139】
先ず、前述した半導体装置90を製造する場合と同様の工程により、第1層目の層間絶縁膜42a中に下層Cu配線83を設ける。
【0140】
続けて、下層Cu配線83が設けられた第1層目の層間絶縁膜83aの上に、周知のCVD法により第2層目の層間絶縁膜42dを設ける。続けて、上層配線を設けるための上層配線形成用凹部91および上層配線と下層Cu配線83との導通を得るためのヴィアプラグを設けるためのヴィアホール92を、周知のエッチング工程などによって第2層目の層間絶縁膜42d中に互いに連通させて一体に形成する。続けて、周知のCVD法などにより、上層配線用バリアメタル膜93をヴィアホール92の内側表面をはじめとする第2層目の層間絶縁膜42dの表面上に成膜する。
【0141】
続けて、バリアメタル膜93が設けられたシリコンウェーハ6を耐圧反応容器2内に収容する。この後、第1実施形態において説明した導電体の選択形成方法を実行する。この際、上層配線およびヴィアプラグをCuにより形成する場合には、前述した半導体装置90を製造する場合と同様に、第2〜第4の各実施形態のうちのいずれか処理条件を採用すれば良い。これにより、微細でアスペクト比の高いヴィアホール92および上層配線形成用凹部91の内部、ならびに上層配線形成用凹部91の開口部周辺に選択的に、かつ、殆ど隙間を作らずにヴィアプラグおよび上層配線となるCu膜を成膜することができる。Cu膜の成膜処理が終了した後、シリコンウェーハ6を耐圧反応容器2の内部から取り出して、周知のCMP処理などによってCu膜およびバリアメタル膜93をヴィアホール92および上層配線形成用凹部91の内部に埋め込む。これにより、第2層目の層間絶縁膜42d中に、Cuヴィアプラグ94と一体に形成された第2層目の配線95が設けられる。すなわち、いわゆるデュアルダマシン構造からなる上層Cu配線95が第2層目の層間絶縁膜42d中に設けられる。
【0142】
これまでの工程により、図27(b)に示すように、デュアルダマシン構造からなる上層Cu配線95と下層Cu配線83とが、バリアメタル膜93およびCuヴィアプラグ94を介して導通された上下2層の多層配線構造を備える半導体装置96を得る。
【0143】
次に、図28に示すように、形状、深さ、幅、およびアスペクト比のうちの少なくとも一つが互いに異なっている複数の凹部5内に導電体を一括して設ける場合について説明する。
【0144】
先ず、前述した半導体装置90,96を製造する場合と同様の工程により、シリコンウェーハ6の基板本体41の上に、周知のCVD法により層間絶縁膜42を設ける。続けて、第1〜第4の配線97a,97b,97c,97dを設けるための第1〜第4の配線形成用凹部5a,5b,5c,5dを、周知のエッチング工程などによって層間絶縁膜42中の複数箇所に形成する。図28に示すように、第2の配線形成用凹部5bは、深さは第1の配線形成用凹部5aと同じだが、第1の配線形成用凹部5aに比べて幅が大きく、かつ、アスペクト比が小さくなっている。また、第3の配線形成用凹部5cは、幅は第1の配線形成用凹部5aと同じだが、第1の配線形成用凹部5aに比べて深さがより深く、かつ、アスペクト比が高くなっている。さらに、第4の配線形成用凹部5bは、深さが第1の配線形成用凹部5aに比べて浅いとともに、開口部および底部ともに幅が第1の配線形成用凹部5aに比べて大きく、かつ、アスペクト比が小さくなっている。また、第1〜第3の各配線形成用凹部5a,5b,5cはそれらの断面形状が長方形状になっているのに対して、第4の配線形成用凹部5bはその断面形状が開口部が底部に比べて広い上下逆の台形状になっている。
【0145】
続けて、第1〜第4の各配線形成用凹部5a,5b,5c,5dが形成されたシリコンウェーハ6を耐圧反応容器2内に収容する。この後、第1実施形態において説明した導電体の選択形成方法を実行する。この際、第1〜第4の配線97a,97b,97c,97dをCuにより形成する場合には、前述した半導体装置90,96を製造する場合と同様に、第2〜第4の各実施形態のうちのいずれか処理条件を採用すれば良い。これにより、形状、深さ、幅、およびアスペクト比のうちの少なくとも一つが互いに異なっている複数の凹部5a,5b,5c,5dの内部、およびそれらの開口部周辺に選択的に、かつ、殆ど隙間を作らずにCu膜97を一括して成膜することができる。Cu膜97の成膜処理が終了した後、シリコンウェーハ6を耐圧反応容器2の内部から取り出して、周知のCMP処理などによってCu膜およびバリアメタル膜93を各凹部5a,5b,5c,5dの内部に埋め込む。
【0146】
これまでの工程により、図28に示すように、形状、深さ、幅、およびアスペクト比のうちの少なくとも一つが互いに異なっている第1〜第4の各配線97a,97b,97c,97dを備える半導体装置98を得る。
【0147】
以上説明したように、この第7実施形態によれば、前述した第1〜第6の各実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち100nm以下のサイズの微細な多層配線構造を有する半導体装置90,96を得ることができる。それとともに、形状、深さ、幅、およびアスペクト比のうちの少なくとも一つが互いに異なっている微細な複数の凹部5内に導電体97を一括して設けることができる。したがって、本実施形態によれば、ナノサイズレベルの微細で複雑な形状の半導体装置90,96,98を効率良く、かつ、容易に製造することができる。なお、上層Cu配線89,95およびCuヴィアプラグ86,94と同様に、下層Cu配線83も第1実施形態において説明した導電体形成方法により形成しても構わないのはもちろんである。
【0148】
(第8の実施の形態)
次に、本発明に係る第8実施形態について図29を参照しつつ説明する。なお、前述した第1〜第7の各実施形態と同一部分には同一符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。本実施形態は、反応容器の内部に配置される被処理体の姿勢が前述した第1実施形態と異なっているだけであり、その他は第1実施形態と同様である。以下、簡潔に説明する。
【0149】
図29に示すように、本実施形態においては、被処理体としての基板6を、その表面6aを下方に向けた姿勢で耐圧反応容器2の内部に配置する。この際、より好ましくは、基板6の表面6aを鉛直下向きに向ける。これにより、補助溶媒21および超臨界CO2 流体8からなる混合物が重力で分離した場合でも、基板6の表面6aや各凹部5の内面に超臨界流体を優先的に接触させることができる。以下、このフェイスダウン( face down )方式の特徴についてより具体的かつ詳細に説明する。
【0150】
一般的に、超臨界流体は圧縮性の高密度流体なので熱対流が発生し易い、という特徴を有している。このため、耐圧反応容器2内の超臨界流体を加熱すると、例えば暖房によって熱せられた室内の空気が下から上に向かって上がるのと同様に、超臨界流体の温熱層が耐圧反応容器2内の上方に存在するようになる。それとともに、超臨界流体は耐圧反応容器2の下方から上方へと主に上下方向に沿って流れるようになるため、制御不可能な揺動や乱流等が低減されて導電体形成プロセスが安定する。したがって、導電体33を堆積させる堆積面となる表面6aを下方(鉛直下向き)に向けた姿勢で基板6を耐圧反応容器2の内部の上方に配置して耐圧反応容器2内の超臨界流体を加熱すると、基板6の表面(堆積面)6aや各凹部5に超臨界流体の温熱層が優先的に、安定して、かつ、均一に接触するため、基板6の加熱効率が良くなる。この結果、導電体33の析出反応が効率よくかつ安定して起きるようになるため、各凹部5の内部や堆積面(表面)6a上に導電体33をより効率良くかつ安定して設けることができる。
【0151】
また、超臨界流体は前述したように高密度流体なので原料濃度が高い。このため、導電体形成プロセス中の微妙な密度の揺らぎによって粒子(パーティクル)を発生させる反応が進むおそれがある。導電体形成プロセス中に粒子が発生すると、導電体33の質が劣化するおそれが高くなる。このようなおそれを未然に防ぐためにも、堆積面6aを下向きにして基板6を耐圧反応容器2内に配置することが好ましい。このような姿勢で基板6を配置することにより、粒子が発生した場合でも粒子が堆積面6a上や各凹部5の内部に溜まるおそれを殆ど無くすことができる。ひいては、堆積面6a上や各凹部5の内部に均質でより良質な導電体33を形成することができる。
【0152】
以上説明したように、この第8実施形態によれば、前述した第1〜第7の各実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、補助溶媒21と超臨界CO2 流体8とを混合して用いる場合には、本実施形態のように各凹部5が形成されている表面6aを下方に向けた姿勢で基板6を耐圧反応容器2の内部に配置することにより、各凹部5の内部により効率良く導電体33を形成することができる。
【0153】
なお、本実施形態においても、前述した第1実施形態と同様に、基板6は供給口9と排出口10とを結ぶ直線上に乗らない位置に配置されるのが好ましい。第1実施形態では、前述したように各凹部5が形成されている表面6aを上方に向けた姿勢で基板6を耐圧反応容器2の内部に配置するので、基板6はその表面6aを供給口9と排出口10とを結ぶ直線上よりも下側に位置して配置されるのが好ましい。これにより、耐圧反応容器2の内部における超臨界流体8の流れを遮ることなく、かつ、基板6の表面6aの上方における空間の容積を十分に確保して、導電体33の原料となる金属化合物7や補助溶媒21および超臨界CO2 流体8等を基板6の表面6aや各凹部5の内面に効率よく供給することができる。
【0154】
これに対して、本実施形態では、前述したように各凹部5が形成されている表面6aを下方に向けた姿勢で基板6を耐圧反応容器2の内部に配置するので、基板6はその表面6aを供給口9と排出口10とを結ぶ直線上よりも上側に位置して配置されるのが好ましい。これにより、第1実施形態と同様に、耐圧反応容器2の内部における超臨界流体8の流れを遮ることなく、かつ、基板6の表面6aの下方における空間の容積を十分に確保して、導電体33の原料となる金属化合物7や補助溶媒21および超臨界CO2 流体8等を基板6の表面6aや各凹部5の内面に効率よく供給することができる。
【0155】
なお、本発明に係る導電体の形成装置、導電体の形成方法、および半導体装置の製造方法は、前述した第1〜第8の各実施形態には制約されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、それらの構成、あるいは製造工程などの一部を種々様々な設定に変更したり、あるいは各種設定を適宜、適当に組み合わせて用いたりして実施することができる。
【0156】
例えば、第1〜第4の各実施形態においては、各凹部5内に設ける導電体として、最も期待されているCu薄膜33を成膜した。また、第5実施形態においては、各凹部5内に設ける導電体として、いわゆるグルー膜として検討されているルテニウム薄膜51を成膜した。また、第6および第7の各実施形態においては、各凹部62,84,87,94,91,5a〜5d内に設ける導電体として、Cu薄膜67,86,89,94,95,97a〜97dを成膜した。しかし、各凹部5,62,84,87,94,91,5a〜5d内に設けられる導電体は、必ずしもRu薄膜51やCu薄膜67,86,89,94,95,97a〜97dには限定されない。各凹部5,62,84,87,94,91,5a〜5d内に設けられる導電体としては、例えばルテニウム以外の白金族に属する金属を主成分とする導電体でも構わない。具体的には、本発明に係る導電体の選択形成処理によれば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、あるいはオスミウム(Os)を主成分とする導電体を各凹部5,62,84,87,94,91,5a〜5d内に設けることもできる。
【0157】
また、Cu32を含む有機金属錯体(プリカーサ)は、前述したジイソブチリルメタナート銅(Cu(C71522 ;Cu(dibm)2 )7には限定されない。Cu32を含む有機金属錯体としては、ジイソブチリルメタナート銅7以外にも、例えばヘキサフルオロアセチルアセトナート銅(Cu(C5HF622 ;Cu(hfac)2 )、Cu+2 (ヘキサフルオロアセチルアセトネート)2 、Cu+2 (アセチルアセトネート)2 、Cu+2 (2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン)2 等を用いることができる。これらの有機金属錯体を用いても、第1〜第4、第6、および第7の各実施形態と同様の効果を得ることができる。同様に、ルテニウムを含む有機金属錯体は、前述したシクロペンタジエニルルテニウム(Ru(C552 ;RuCp2 )には限定されない。ルテニウムを含む有機金属錯体としては、シクロペンタジエニルルテニウム以外にも、例えばRuCpMe,Ru(C5HF622 ;Ru(C111923 等の有機Ru化合物や含酸素Ru錯体などを用いることができる。これらの有機金属錯体を用いても、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。また、これら導電体の主成分となる金属を含む金属化合物(有機金属錯体)は、処理前における相(状態)が必ずしも固相(固体)である必要はない。導電体の主成分となる金属を含む金属化合物の処理前における相(状態)は、液相(液体)であっても構わない。
【0158】
また、各凹部5,62,84,87,94,91,5a〜5d内に設けられる導電体は、必ずしもルテニウムや銅などの単一の金属からなる金属単体には限定されない。例えば、各凹部5,62,84,87,94,91,5a〜5d内に設けられる導電体は、2種類以上の金属からなる合金でも構わない。各凹部15内に設けられる導電体は、少なくとも少なくとも1種類の金属を含んで導電性を有していれば良い。例えば、本発明に係る導電体の選択形成方法において、銅を含む金属化合物としての有機金属錯体およびアルミニウムを含む金属化合物としての有機金属錯体を超臨界流体の二酸化炭素中に溶解させる。このようにすれば、銅とアルミニウムの合金を各凹部15内に設けることも可能である。
【0159】
また、超臨界流体の原料は必ずしも二酸化炭素には限定されない。他の超臨界流体の原料としては、例えばエタン(C26 )、一酸化二窒素(N2O)、ブタン(C38 )、アンモニア(NH3 )、ヘキサン(C614 )、メタノール(CH3OH)、エタノール(C25OH)、あるいは水(H2O)などが挙げられる。これら各材料のうち、エタン(C26 )は超臨界流体となる臨界温度が約32℃であるとともに、臨界圧力が約4.9MPaである。また、一酸化二窒素(N2O)は超臨界流体となる臨界温度が約36℃であるとともに、臨界圧力が約7.2MPaである。すなわち、エタン(C26 )および一酸化二窒素(N2O)は、二酸化炭素と同程度に扱い易い材料である。
【0160】
また、超臨界CO2 流体8中に溶解させるジイソブチリルメタナート銅7の量は、前述した過飽和の状態でなくとも構わない。所望するCu32の析出速度に応じて、超臨界CO2 流体8中に溶解させるジイソブチリルメタナート銅7aの量を亜飽和、もしくは飽和状態に設定しても構わない。
【0161】
また、Cu32の析出を促進させる物質である水素31を必ずしも超臨界CO2 流体8中に混入させる必要はない。超臨界CO2 流体8中に水素31を混入させる代わりに、第1実施形態で説明したように、耐圧反応容器2内の雰囲気の温度および圧力の少なくとも一方を変化させて不均一にすることにより、超臨界CO2 流体8の密度に揺らぎを生じさせても構わない。このような方法によっても、超臨界CO2 流体8の密度を不均一にして密度の揺らぎを生じさせ、ジイソブチリルメタナート銅7aからのCu32の析出を促進させることができる。あるいは、このような方法と超臨界CO2 流体8中への水素31の混入とを併用しても構わない。
【0162】
また、超臨界CO2 流体8中への水素31の混入は、必ずしもアセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させるのに先立って行う必要はない。超臨界CO2 流体8中への水素31の混入は、例えばアセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させるのと同時、もしくはアセトン21に溶解したジイソブチリルメタナート銅7を超臨界CO2 流体8中に溶解させた後に行っても構わない。
【0163】
また、本発明に係る導電体形成方法の応用例は、第6および第7の各実施形態において説明した半導体装置の製造方法には限定されない。本発明に係る導電体の選択形成方法の他の応用例としては、例えば高密度磁気記録媒体(ナノドット磁気記録媒体)や非線形光学素子等の製造方法が挙げられる。あるいは、本発明に係る導電体の選択形成方法は、CMOS等の微細な半導体素子の内部に微細な配線を形成する工程において、配線の基礎となる導電体からなるシード膜を微細かつ高アスペクト比の孔や溝などの凹部の中に形成する工程にも適用可能であるのはもちろんである。
【0164】
さらに、図示を伴う具体的かつ詳細な説明は省略するが、本発明者等が行った実験によれば、本発明に係る導電体の選択形成方法を用いることにより、第2〜第5の各実施形態のように幅が約100nmの凹部はもちろんのこと、幅が約10nm以下の極めて微細な凹部の内側にも、導電体を選択的に設けることが可能であることが分かった。すなわち、本発明に係る導電体の選択形成方法によれば、従来のCVD法やPVD法などでは内部を隙間なく埋め込むことが事実上殆ど不可能である極めて微細で高アスペクト比の凹部の内部にも、効率よく、かつ、容易に導電体を隙間なく埋め込むことができることが分かった。すなわち、本発明に係る導電体の選択形成方法は、今後、さらに微細で複雑な構造や形状を有する導電体を必要とする様々な素子やデバイスの製造工程にも、十分適用できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】第1実施形態に係る導電体の形成装置を簡略化して示すブロック図。
【図2】図1に示す導電体の形成装置が備える反応容器の内部を簡略化して示す断面図。
【図3】図1に示す導電体の形成装置が備える原料供給装置の内部を簡略化して示す断面図。
【図4】第1実施形態に係る補助溶媒の選択条件をグラフにして示す図。
【図5】第1実施形態に係る補助溶媒の選択条件をグラフにして示す図。
【図6】第1実施形態に係る補助溶媒の選択条件をグラフにして示す図。
【図7】第1実施形態に係る導電体の形成方法を示す断面図。
【図8】第1実施形態に係る導電体の形成方法を示す断面図。
【図9】図1に示す導電体の形成装置の変形例を簡略化して示す断面図。
【図10】第2実施形態に係る導電体の形成方法により形成されたCuからなる導電体付近の構造をSEM写真を用いて示す断面図。
【図11】第3実施形態に係る導電体の形成方法により形成されたCuからなる導電体付近の構造をSEM写真を用いて示す断面図。
【図12】第3実施形態に係る導電体の形成方法により形成されたCuからなる導電体付近の構造をSEM写真を用いて示す断面図。
【図13】第3実施形態に係る導電体の形成方法により形成されたCuからなる導電体の膜厚の調べ方を示す図。
【図14】図13に示す方法により調べたCuからなる導電体の膜厚を成膜条件ごとに分けてグラフにして示す図。
【図15】第3実施形態に係る導電体の形成方法における反応容器内の導電体の原料の濃度分布を簡略化してグラフにして示す図。
【図16】第3実施形態に係る導電体の形成方法の実施前および実施後のそれぞれの導電体の原料の消費状態を写真にして示す図。
【図17】第3実施形態に係る導電体の形成方法において超臨界流体が反応容器内に流入する際のエンタルピーの大きさを補助溶媒の有無および補助溶媒の種類ごとに分けてグラフにして示す図。
【図18】第4実施形態に係る導電体の形成装置の一部を簡略化して示す図。
【図19】図18に示す導電体の形成装置のプリヒート室内の温度と反応容器内の温度との関係をグラフにして示す図。
【図20】第4実施形態に係る導電体の形成方法により導電体を形成する際の処理条件と第4実施形態に対する比較例に係る導電体の形成方法により導電体を形成する際の処理条件とを併せて表にして示す図。
【図21】図20に示す表に記載されている各処理条件下でCu膜を成膜した際の反応容器の入り口からの距離と膜厚との関係をグラフにして示す図。
【図22】図20に示す表に記載されている各処理条件のうち(II)の処理条件下でCu膜を成膜した際の反応容器内の所定の場所における成膜状況をSEM写真を用いて示す断面図。
【図23】図20に示す表に記載されている各処理条件のうち(V)の処理条件下でCu膜を成膜した際の反応容器内の所定の場所における成膜状況をSEM写真を用いて示す断面図。
【図24】第5実施形態に係る導電体の形成方法により形成されたRuからなる導電体付近の構造をSEM写真を用いて示す斜視図。
【図25】図24に示すRuからなる導電体付近の構造をSEM写真を用いて拡大して示す断面図。
【図26】第6実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図。
【図27】第7実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図。
【図28】第7実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図。
【図29】第8実施形態に係る導電体の形成方法を示す断面図。
【符号の説明】
【0166】
1,101…導電体の形成装置、2…耐圧反応容器、3…供給装置、4…排出装置、5,5a,5b,5c,5d…導電体が設けられる凹部、6…シリコンウェーハ(被処理体)、6a…シリコンウェーハの表面(被処理体の表面)、7…ジイソブチリルメタナート銅(Cu(C71522 ;Cu(dibm)2 、フッ素フリーの金属化合物)、7a…液体状のジイソブチリルメタナート銅(Cu(C71522 ;Cu(dibm)2 、金属化合物)、7b…分子状のジイソブチリルメタナート銅(Cu(C71522 ;Cu(dibm)2 、金属化合物)、8…超臨界CO2 流体(二酸化炭素を原料とする超臨界流体)、11…マントルヒータ(第1の温度調節装置)、11a…上部マントルヒータ(第1の温度調節装置)、11b…下部マントルヒータ(第1の温度調節装置)、12…超臨界流体供給装置、13…原料供給装置、14…反応促進剤供給装置、15…超臨界流体用サイホン式ボンベ(超臨界流体貯蔵装置、超臨界流体供給装置)、16…冷却装置(液化装置、超臨界流体供給装置)、17…超臨界流体送出ポンプ(超臨界流体送出装置、超臨界流体供給装置)、18…プリカーサリザーバ(原料貯蔵装置、原料供給装置)、19…原料送出ポンプ(原料送出装置、原料供給装置)、20…原料送出バルブ(原料供給装置)、21…アセトン(CH3COCH3 、補助溶媒)、22…反応促進剤用サイホン式ボンベ(反応促進剤貯蔵装置、反応促進剤供給装置)、23…ミキシングユニット(混合装置、反応促進剤供給装置)、25…圧力センサ(圧力計、排出装置)、26…背圧弁(圧力調節バルブ、排出装置)、27…背圧調整装置(Back Pressure Regulator:BPR、圧力調整装置)、28…セパレータ(分離器)、29…吸光度分析装置(VIS、濃度検出装置)、30…恒温槽(第2の温度調節装置)、31…水素(H2 、反応促進剤)、32…Cu(銅、導電体の原料となる金属)、33…Cu薄膜(導電体)、34…螺旋形状に形成された管状路(反応抑制部)、35…マントルヒータ(第3の温度調節装置)、35a…上部マントルヒータ(第3の温度調節装置)、35b…下部マントルヒータ(第3の温度調節装置)、41…シリコン層(シリコン基板本体)、42…SiO2 膜(二酸化シリコン膜、基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、42a…第1層目の層間絶縁膜(基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、42b…第2層目の下層側の層間絶縁膜(基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、42c…第2層目の上層側の層間絶縁膜(基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、42d…層間絶縁膜(基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、43…TiN薄膜(凹部の内側の表面を形成する導電体とは別体の他の導電体)、44…Au薄膜(凹部の内側の表面を形成する導電体とは別体の他の導電体)、51…Ru薄膜(ルテニウムからなる薄膜、導電体)、61…Pウェル(基板本体の表層部)、62…トレンチ(基板本体に形成された導電体を設ける凹部)、67…プレート電極(Ru薄膜、トレンチキャパシタの埋め込み電極)、68…トレンチキャパシタ、72…層間絶縁膜(基板本体の上方に設けられた絶縁膜)、73,90,96,98…半導体装置、82,85,88,93…バリアメタル膜(凹部の内側の表面を形成する導電体とは別体の他の導電体)、84,92…ヴィアホール(基板本体の上方に設けられた絶縁膜に形成された導電体を設ける凹部)、86,94…ヴィアプラグ(導電体)、87,91…上層配線形成用凹部(基板本体の上方に設けられた絶縁膜に形成された導電体を設ける凹部)、89,95…上層Cu配線、97…Cu薄膜(導電体)、97a…第1の配線(Cu薄膜、導電体)、97b…第2の配線(Cu薄膜、導電体)、97c…第3の配線(Cu薄膜、導電体)、97d…第4の配線(Cu薄膜、導電体)、102…予備加熱装置(プリヒートシステム、プリヒートユニット)、103…予備加熱室(プリヒート室)、104…マントルヒータ(第4の温度調節装置)、104a…上部マントルヒータ(第4の温度調節装置)、104b…下部マントルヒータ(第4の温度調節装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体が設けられる凹部が表面に少なくとも一個形成された被処理体が内部に収容されるとともに前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体が前記内部に供給されて前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスが行われる反応容器と、
前記超臨界流体を前記反応容器の外部から内部に供給する供給装置と、
前記プロセスに供しない前記超臨界流体を前記反応容器の内部から外部に排出する排出装置と、
を具備してなり、前記供給装置により前記超臨界流体を前記反応容器の内部に連続的に供給するとともに前記排出装置により前記プロセスに供しない前記超臨界流体を前記反応容器の外部に連続的に排出することにより前記反応容器内の前記超臨界流体の量を調整しつつ、前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記被処理体の表面に接触させて前記凹部内に導入し、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、さらに前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設けることを特徴とする導電体の形成装置。
【請求項2】
前記供給装置による前記反応容器の内部への前記超臨界流体の供給量および前記排出装置による前記反応容器の内部からの前記超臨界流体の排出量を調整することにより、前記反応容器内の前記超臨界流体の量を安定させることを特徴とする請求項1に記載の導電体の形成装置。
【請求項3】
前記供給装置による前記反応容器の内部への前記超臨界流体の供給量および前記排出装置による前記反応容器の内部からの前記超臨界流体の排出量を調整することにより、前記反応容器内の前記金属化合物の濃度を安定させることを特徴とする請求項1または2に記載の導電体の形成装置。
【請求項4】
前記供給装置による前記反応容器の内部への前記超臨界流体の供給量および前記排出装置による前記反応容器の内部からの前記超臨界流体の排出量を調整することにより、前記反応容器内の圧力を安定させることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項5】
前記供給装置は、少なくとも前記超臨界流体の原料を前記反応容器に向けて供給する超臨界流体供給装置および前記金属化合物を前記超臨界流体中に溶解させて供給する原料供給装置から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項6】
前記供給装置は、前記超臨界流体供給装置による前記超臨界流体の原料の前記反応容器内への供給を行いつつ前記原料供給装置による前記超臨界流体中への前記金属化合物の供給を停止することにより、前記金属化合物が溶解した前記超臨界流体に代えて前記金属化合物が溶解していない超臨界流体を前記反応容器内に供給可能であることを特徴とする請求項5に記載の導電体の形成装置。
【請求項7】
前記超臨界流体供給装置は、前記超臨界流体の原料として液体状の二酸化炭素を前記反応容器に向けて供給することを特徴とする請求項5または6に記載の導電体の形成装置。
【請求項8】
前記原料供給装置は、前記金属化合物として固体の有機金属錯体を前記超臨界流体中に溶解させて供給することを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項9】
前記原料供給装置は、前記固体の有機金属錯体として銅を含む固体の有機金属錯体を前記超臨界流体中に溶解させて供給することを特徴とする請求項8に記載の導電体の形成装置。
【請求項10】
前記原料供給装置は、前記銅を含む固体の有機金属錯体としてジイソブチリルメタナート銅を前記超臨界流体中に溶解させて供給することを特徴とする請求項9に記載の導電体の形成装置。
【請求項11】
前記原料供給装置は、前記金属化合物としてフッ素フリーの金属化合物を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項5〜10のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項12】
前記原料供給装置は、固体の前記金属化合物を前記超臨界流体中に溶解し易くする補助溶媒に溶解させた状態で保持するとともに前記補助溶媒に溶解された前記金属化合物を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項5〜11のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項13】
前記原料供給装置は、固体の前記金属化合物としてジイソブチリルメタナート銅を補助溶媒としてのアセトンに溶解させた状態で保持するとともに前記アセトンに溶解された前記ジイソブチリルメタナート銅を超臨界流体状の二酸化炭素中に供給することを特徴とする請求項12に記載の導電体の形成装置。
【請求項14】
前記供給装置は、前記金属化合物からの前記金属の析出を促進させる反応促進剤を前記超臨界流体中に供給する反応促進剤供給装置をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項15】
前記反応促進剤供給装置は、前記超臨界流体供給装置から前記反応容器に向かう前記超臨界流体の流路において前記原料供給装置よりも上流側で前記流路に接続されており、前記原料供給装置が前記金属化合物を前記超臨界流体中に供給するのに先立って前記反応促進剤を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項14に記載の導電体の形成装置。
【請求項16】
前記反応促進剤供給装置による前記超臨界流体中への前記反応促進剤の供給量および前記排出装置による前記反応容器の内部からの前記超臨界流体の排出量を調整することにより、前記反応容器内の前記反応促進剤の濃度を安定させることを特徴とする請求項14または15に記載の導電体の形成装置。
【請求項17】
前記反応促進剤供給装置は、前記反応促進剤として水素を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項14〜16のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項18】
前記供給装置と前記反応容器との間には、前記超臨界流体中に溶解している前記金属化合物の濃度を検出する濃度検出装置がさらに設けられていることを特徴とする請求項1〜17のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項19】
前記濃度検出装置は、吸光度分析装置であることを特徴とする請求項18に記載の導電体の形成装置。
【請求項20】
前記反応容器の外側には、前記反応容器の内部温度を前記プロセスが進行し易い温度に調節するための第1の温度調節装置がさらに設けられていることを特徴とする請求項1〜19のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項21】
前記超臨界流体供給装置と前記反応促進剤供給装置との接続部から前記反応容器までの前記超臨界流体の流路は、前記超臨界流体の原料の温度を前記原料が超臨界流体の状態を保持できる温度に調節する第2の温度調節装置の内側に設けられていることを特徴とする請求項5〜20のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項22】
前記第2の温度調節装置は、その内部温度を前記超臨界流体の原料が超臨界流体の状態で存在できる温度に安定して保持する恒温槽であることを特徴とする請求項21に記載の導電体の形成装置。
【請求項23】
前記供給装置と前記反応容器との間には、前記超臨界流体中から前記金属化合物が析出する反応を抑制しつつ前記金属化合物が溶解した前記超臨界流体を前記反応容器の内部に導入する反応抑制部がさらに設けられていることを特徴とする請求項1〜22のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項24】
前記反応抑制部の外側には、前記反応抑制部の内部温度を前記析出反応が抑制される温度に調節するための第3の温度調節装置がさらに設けられていることを特徴とする請求項23に記載の導電体の形成装置。
【請求項25】
前記供給装置と前記反応容器との間には、前記超臨界流体を前記反応容器の内部に導入するのに先立って予め所定の温度に温める予備加熱装置がさらに設けられていることを特徴とする請求項1〜24のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項26】
前記予備加熱装置は、前記超臨界流体が導入される予備加熱室およびこの予備加熱室の内部に導入された前記超臨界流体を加熱する第4の温度調節装置からなることを特徴とする請求項25に記載の導電体の形成装置。
【請求項27】
前記排出装置は、前記供給装置から前記排出装置に向かう前記超臨界流体の流路のうち前記反応容器から下流側の流路の圧力を前記反応容器の内部圧力よりも低く設定する圧力調整装置を含むことを特徴とする請求項1〜26のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成装置。
【請求項28】
導電体が設けられる凹部が表面に少なくとも一個形成された被処理体に向けて前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体を連続的に供給するとともに、前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスに供しない前記超臨界流体を前記被処理体の周囲から連続的に排除することにより、前記被処理体の周囲の前記超臨界流体の量を調整し、
前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記被処理体の表面に接触させて前記凹部内に選択的に導入するとともに、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、
前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設ける、
ことを特徴とする導電体の形成方法。
【請求項29】
前記被処理体への前記超臨界流体の供給量および前記被処理体の周囲からの前記超臨界流体の排除量を調整することにより、前記被処理体の周囲の前記超臨界流体の量を安定させることを特徴とする請求項28に記載の導電体の形成方法。
【請求項30】
前記被処理体への前記超臨界流体の供給量および前記被処理体の周囲からの前記超臨界流体の排除量を調整することにより、前記被処理体の周囲の前記金属化合物の濃度を安定させることを特徴とする請求項28または29に記載の導電体の形成方法。
【請求項31】
前記被処理体への前記超臨界流体の供給量および前記被処理体の周囲からの前記超臨界流体の排除量を調整することにより、前記被処理体の周囲の圧力を安定させることを特徴とする請求項28〜30のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項32】
前記金属化合物が溶解した前記超臨界流体に代えて前記金属化合物が溶解していない超臨界流体を前記被処理体に向けて供給することにより、前記被処理体の周囲の前記金属化合物の濃度を調整することを特徴とする請求項28〜31のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項33】
前記超臨界流体の原料として二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項28〜32のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項34】
前記金属化合物として固体の有機金属錯体を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項28〜33のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項35】
前記固体の有機金属錯体として銅を含む固体の有機金属錯体を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項34に記載の導電体の形成方法。
【請求項36】
前記銅を含む固体の有機金属錯体としてジイソブチリルメタナート銅を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項35に記載の導電体の形成方法。
【請求項37】
前記金属化合物としてフッ素フリーの金属化合物を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項28〜36のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項38】
前記金属化合物として固体の金属化合物を用いるとともに、前記固体の金属化合物を前記超臨界流体中に溶解し易くする補助溶媒に溶解させた後、前記補助溶媒に溶解された前記固体の金属化合物を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項28〜37のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項39】
前記固体の金属化合物としてジイソブチリルメタナート銅を用いるとともに、このジイソブチリルメタナート銅を補助溶媒としてのアセトンに溶解させた後、このアセトンに溶解された前記ジイソブチリルメタナート銅を超臨界流体状の二酸化炭素中に供給することを特徴とする請求項38に記載の導電体の形成方法。
【請求項40】
前記金属化合物からの前記金属の析出を促進させる反応促進剤をさらに前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項28〜39のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項41】
前記反応促進剤を前記超臨界流体中に供給した後、前記金属化合物を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項40に記載の導電体の形成方法。
【請求項42】
前記超臨界流体中への前記反応促進剤の供給量および前記被処理体の周囲からの前記超臨界流体の排除量を調整することにより、前記被処理体の周囲の前記反応促進剤の濃度を安定させることを特徴とする請求項40または41に記載の導電体の形成方法。
【請求項43】
前記反応促進剤として水素を前記超臨界流体中に供給することを特徴とする請求項40〜42のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項44】
前記被処理体およびその周囲の温度を前記プロセスが進行し易い温度に調節することを特徴とする請求項28〜43のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項45】
前記超臨界流体の原料の温度を前記原料が超臨界流体の状態で存在できる温度に調節しつつ前記被処理体に向けて供給することを特徴とする請求項28〜44のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項46】
前記超臨界流体が前記被処理体の周囲に到達するまでは前記超臨界流体中から前記金属化合物が析出する反応を抑制しておくことを特徴とする請求項28〜45のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項47】
前記超臨界流体が前記被処理体の周囲に到達するまでは前記超臨界流体の温度を前記析出反応が抑制される温度に調節することを特徴とする請求項46に記載の導電体の形成方法。
【請求項48】
前記超臨界流体を前記反応容器の内部に導入するのに先立って予め所定の温度に温めることを特徴とする請求項28〜47のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項49】
前記所定の温度は、前記反応容器の内部において前記凹部内に前記導電体を設ける際の処理温度以下とすることを特徴とする請求項48に記載の導電体の形成方法。
【請求項50】
前記被処理体を、その前記凹部が形成された面を下方に向けた姿勢で前記反応容器の内部に配置することを特徴とする請求項28〜49のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項51】
前記被処理体の周囲を流れる前記超臨界流体の流れにおいて、前記被処理体よりも下流側の圧力を前記被処理体よりも上流側の圧力に比べて小さくすることにより、前記被処理体の周囲から前記超臨界流体を排除することを特徴とする請求項28〜50のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項52】
形状、深さ、幅、およびアスペクト比のうちの少なくとも一つが互いに異なっている複数の前記凹部内に前記導電体を一括して設けることを特徴とする請求項28〜51のうちのいずれか1項に記載の導電体の形成方法。
【請求項53】
基板本体およびこの基板本体の上方に設けられた絶縁膜のうちの少なくとも一方の表面に導電体が設けられる凹部が少なくとも一個形成された半導体基板に向けて前記導電体の原料となる金属を含む金属化合物が溶解した超臨界流体を連続的に供給するとともに、前記凹部内に前記導電体を設けるプロセスに供しない前記超臨界流体を前記半導体基板の周囲から連続的に排除することにより、前記半導体基板の周囲の前記超臨界流体の量を調整し、
前記超臨界流体中に溶解した前記金属化合物を前記半導体基板の表面に接触させて前記凹部内に選択的に導入するとともに、前記凹部内に導入された前記金属化合物を前記凹部内で凝集させて前記金属化合物から前記金属を析出させ、
前記凹部内に析出した前記金属を固化させることにより前記凹部内に前記導電体を設ける、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項54】
前記基板本体の表層部に形成された前記凹部内に前記導電体を設けてトレンチキャパシタの埋め込み電極を前記基板本体の表層部に形成することを特徴とする請求項53に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項55】
前記基板本体の上方に設けられた前記絶縁膜中に形成された前記凹部内に前記導電体を設けて配線およびプラグの少なくとも一方を前記絶縁膜中に形成することを特徴とする請求項53または54に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−244420(P2008−244420A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211877(P2007−211877)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季 第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】