説明

導電性パターン基板およびその製造方法

【課題】本発明は、ポリチオフェン誘導体を用いた導電性パターンを有する導電性パターン基板およびその製造方法であって、ポリチオフェン誘導体の特性が劣化しにくい導電性パターン基板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、基板と、上記基板上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層とを有し、上記ポリチオフェン層が、導電性を有する導電性部と、導電性を有さない非導電性部とを有することを特徴とする導電性パターン基板を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池、有機半導体、有機薄膜トランジスタ等に適用され、ポリチオフェン誘導体を用いた導電性パターン基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリチオフェン誘導体に代表される導電性高分子は、様々な分野で用いられている。特に、導電性高分子は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンスをELと略す場合がある。)、有機半導体、有機薄膜トランジスタ(以下、薄膜トランジスタをTFTと略す場合がある。)、太陽電池などの電子デバイスへ導入するべく、多くの研究がなされている。
【0003】
導電性高分子を電子デバイスにおける電極等に用いる場合、導電性高分子をパターン状に成膜する必要がある。従来、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェットなどの印刷技術を用いて、導電性高分子膜のパターニングが検討されてきた。しかしながら、それらの印刷技術では、線幅10μm以下のような高精細なパターンを形成することは非常に困難であった。
【0004】
導電性高分子の中でも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)などのポリチオフェン誘導体は、成膜しやすいため、有機EL素子における正孔注入層や、有機EL素子、太陽電池、有機半導体、有機TFT等における電極などに広く利用されている。
【0005】
ポリチオフェン誘導体の膜をパターニングする方法としては、例えば、基板の全面に可溶性のポリチオフェン誘導体を成膜し、ポリチオフェン膜に紫外線またはレーザーを照射してポリチオフェン膜の照射部分を不溶化させ、ポリチオフェン膜の未照射部分を除去してパターンを形成し、ポリチオフェン誘導体を鉄塩もしくは金塩で酸化させることによりパターンに導電性を付与する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、鉄塩、金塩といった酸化剤が高価であること、またレーザーを用いる場合には複雑な装置が必要であることなどの問題がある。
【0006】
また、ポリチオフェン誘導体の膜をパターニングする方法としては、例えば、基板上にポリ(3,4−置換チオフェン)および光反応開始剤を含有する組成物を成膜し、ポリチオフェン膜に紫外線を照射してポリチオフェン膜の照射部分を硬化させ、ポリチオフェン膜の未照射部分を除去してパターンを形成する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法では、酸化剤およびレーザーを用いる必要がないため、上記の問題を解決することができる。しかしながら、この方法では、特殊な光反応開始剤が必要であるという問題がある。
【0007】
さらに、上記いずれの方法においても、酸化剤や光反応開始剤を添加していること、および、パターンが形成される部分に紫外線等を照射していることから、ポリチオフェン誘導体の特性が劣化するおそれがある。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5561030号明細書
【特許文献2】特表2003−509869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ポリチオフェン誘導体を用いた導電性パターンを有する導電性パターン基板およびその製造方法であって、ポリチオフェン誘導体の特性が劣化しにくい導電性パターン基板およびその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、ポリチオフェン誘導体、例えばポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)に電磁波を照射すると、電磁波の照射によってPEDOT/PSSが光化学的に反応して、照射部分の溶剤に対する溶解性および導電性が変化することを見出した。具体的には、電磁波の照射によってPEDOT/PSSが光化学的に反応して変性し、PEDOT/PSSの照射部分が水、エタノール等より極性の低い溶剤にも溶解するようになること、および、PEDOT/PSSの照射部分の導電性が低くなることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、基板と、上記基板上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層とを有し、上記ポリチオフェン層が、導電性を有する導電性部と、導電性を有さない非導電性部とを有することを特徴とする導電性パターン基板を提供する。
【0012】
本発明によれば、上述したような電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の導電性の変化を利用して、電磁波が照射されて導電性が低下した領域(導電性を有さない非導電性部)と、電磁波が照射されずに導電性が維持された領域(導電性を有する導電性部)とを有するポリチオフェン層を得ることができる。このポリチオフェン層では、導電性部が電気を伝導する導電性パターンを構成するので、添加剤を必要とすることなく、また導電性パターンが形成される部分に電磁波を照射することなく、導電性パターンを得ることができる。したがって、ポリチオフェン誘導体の特性の劣化を防ぐことができる。
また、基板上にポリチオフェン層が面一に形成されているため、導電性部と非導電性部とで段差が生じないので、段差のない導電性パターン基板とすることができる。したがって、本発明の導電性パターン基板を電子デバイス等に用いる場合には、ポリチオフェン層上に均一に他の層を形成することができる。
さらに、高分子材料であるポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層は可撓性を有するため、本発明の導電性パターン基板を用いることにより、フレキシブルな電子デバイスを得ることが可能である。
【0013】
上記発明においては、上記ポリチオフェン誘導体が、酸がドーピングされたポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)であることが好ましい。ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と酸との配合比を変えることによって、容易に導電性を変化させることができるからである。
【0014】
また本発明においては、基板上に、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層を形成する導電層形成工程と、上記導電層にパターン状に電磁波を照射して、上記導電層の照射部分の導電性を低下させ、導電性を有する導電性部および導電性を有さない非導電性部を形成する電磁波照射工程とを有することを特徴とする導電性パターン基板の製造方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、上述したような電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の導電性の変化を利用して、添加剤を要することなく、導電層にパターン状に電磁波を照射することによって、導電性部をパターン状に形成することができる。また、導電層の未照射部分が導電性部となるので、導電性部に直接に電磁波を照射することがない。そのため、添加剤や電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の特性の劣化を回避することが可能である。
【0016】
上記発明においては、上記電磁波照射工程後に、上記導電層を現像して上記導電層の照射部分を除去する現像工程を行ってもよい。上述したような電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の溶剤に対する可溶性の変化を利用して、導電層の照射部分である非導電性部のみを所定の溶剤を用いて現像することができ、これにより、導電層の未照射部分である導電性部のパターン間を完全に絶縁することができるからである。
【0017】
また本発明においては、上記ポリチオフェン誘導体が、酸がドーピングされたポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)であることが好ましい。上述したように、ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と酸との配合比を変えることによって、容易に導電性を変化させることができるからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記電磁波が、500nm以下の可視光、または紫外線であることが好ましい。このような電磁波を照射することにより、ポリチオフェン誘導体の光化学的な反応を良好に進行させることができるからである。
【0019】
また本発明においては、上記電磁波照射工程が、酸素雰囲気下で行われることが好ましい。これにより、ポリチオフェン誘導体の光化学的な反応、特に光分解反応が、酸化作用によって促進されるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、上述したような電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の導電性の変化を利用することで、導電性パターン基板を得ることができ、添加剤や電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の特性の劣化を防ぐことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の導電性パターン基板および導電性パターン基板の製造方法について詳細に説明する。
【0022】
A.導電性パターン基板
まず、本発明の導電性パターン基板について説明する。
本発明の導電性パターン基板は、基板と、上記基板上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層とを有し、上記ポリチオフェン層が、導電性を有する導電性部と、導電性を有さない非導電性部とを有することを特徴とするものである。
【0023】
ポリチオフェン誘導体、例えば下記構造式(1)
【0024】
【化1】

【0025】
に示すポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)は、電磁波が照射されると、照射部分の物性が変化し、例えば導電性が低下する。これは、電磁波の照射によって、PEDOT/PSSが光化学的に反応して変性し、導電性が変化するものと想定される。例えば、Synthetic Metals, 141 (2004) p67, S. Marciniak et al.には、チオフェン骨格が酸化分解されることが示されている。このことから、電磁波の照射によって、PEDOTのチオフェン骨格が光酸化、光分解等されて、導電性が変化するものと思料される。
【0026】
このように、ポリチオフェン誘導体は、電磁波が照射されると、照射部分の導電性が低下するので、ポリチオフェン誘導体を含有する層にパターン状に電磁波を照射することにより、照射部分を、導電性が低下した領域(導電性を有さない非導電性部)、未照射部分を、導電性が維持された領域(導電性を有する導電性部)とすることができる。
【0027】
本発明の導電性パターン基板について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の導電性パターン基板の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、導電性パターン基板1は、基板2と、この基板2上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有し、導電性部4および非導電性部5を有するポリチオフェン層3とを有している。
【0028】
本発明においては、上述したように、ポリチオフェン誘導体を含有する層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電性部および非導電性部を有するポリチオフェン層を得ることができる。導電性部は、導電性が維持された領域であり、導電性を有するのに対し、非導電性部は、導電性が低下した領域であり、導電性を有さない。すなわち、導電性部のみが良好に電気を伝導することができる。したがって、本発明の導電性パターン基板においては、ポリチオフェン層の導電性部が電気を伝導する導電性パターンとなる。
【0029】
本発明によれば、基板上に、導電性部および非導電性部を有するポリチオフェン層が面一に形成されているので、導電性部と非導電性部とで段差が生じることがなく、段差のない導電性パターン基板とすることができる。このため、導電性パターンを、例えば有機EL素子、太陽電池、有機半導体、有機TFT等の電子デバイスにおける電極として利用する場合には、ポリチオフェン層表面が平坦であるので、ポリチオフェン層上に、すなわち電極パターン上に、均一に他の層を形成することができる。また、導電性パターンを、例えば有機EL素子における正孔注入層として利用する場合には、上記の場合と同様に、ポリチオフェン層表面が平坦であるので、ポリチオフェン層上に、すなわち正孔注入層のパターン上に、均一に他の層を形成することができるとともに、正孔注入層のパターンによる段差がないので、段差によって電極が断線等するのを回避することができる。
【0030】
また、酸化剤や光反応開始剤のような添加剤を必要とすることなく、ポリチオフェン誘導体を含有する層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電性部をパターン状に形成することができるので、添加剤によるポリチオフェン誘導体の特性の劣化を回避することができる。さらに、照射部分が非導電性部、未照射部分が導電性部となるので、導電性部においては、電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の特性の劣化も回避することができる。
【0031】
さらに、ポリチオフェン誘導体は高分子材料であるので、このポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層は可撓性を有している。このため、導電性パターンを、例えば電子デバイスにおける電極として用いることにより、フレキシブルな電子デバイスを得ることが可能である。
【0032】
以下、本発明の導電性パターン基板における各構成について説明する。
【0033】
1.ポリチオフェン層
本発明に用いられるポリチオフェン層は、基板上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有するものであり、導電性を有する導電性部と導電性を有さない非導電性部とを有するものである。
【0034】
本発明に用いられるポリチオフェン誘導体としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は、酸がドーピングされたポリチオフェン誘導体が用いられる。酸がドーピングされていることによって、ポリチオフェン誘導体の導電性が向上するからである。
【0035】
酸がドーピングされるポリチオフェン誘導体としては、ポリチオフェン単体、および、ポリチオフェン骨格に官能基が付加されている誘導体のいずれであってもよい。ポリチオフェン骨格に官能基が付加されている誘導体としては、例えば、ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)が挙げられる。このポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)におけるアルキレン基としては、エチレン、1,2−シクロへキシレン、フェニルエチレン、プロピルエチレン、メチレン、1,3−プロピレン等を例示することができる。
【0036】
また、ドーピングされる酸としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリパーフルオロスルホン酸等が挙げられる。
【0037】
酸がドーピングされたポリチオフェン誘導体としては、ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)等が好ましく用いられる。このPEDOT/PSSは、市販されており、入手が容易であるからである。また、PEDOTおよびPSSの配合比を変えることによって、容易に導電性を変化させることができるからである。
【0038】
ポリチオフェン層は、導電性を有する導電性部と、導電性を有さない非導電性部とを有している。ここで、非導電性部とは、導電性部よりも導電性が低い領域をいう。
【0039】
導電性部と非導電性部との導電性の差は、特に限定されるものではないが、導電性部における導電率(単位:S/cm)に対する非導電性部における導電率の割合が、導電性部における導電率を100としたときに、70以下であることが好ましく、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0040】
非導電性部は、導電性部よりも導電性が低い領域であれば特に限定されるものではないが、所定の絶縁性を有することが好ましい。具体的には、非導電性部における電気抵抗が、10Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは10Ω・cm以上である。非導電性部の電気抵抗が上記範囲であれば、導電性部のみに電気を伝導させることができ、導電性部から構成される導電性パターンを、例えば電子デバイスにおける電極や、有機EL素子における正孔注入層等として用いる場合に、その機能を十分に発揮させることができるからである。
【0041】
なお、上記の導電率および電気抵抗の測定方法としては、一般的な抵抗率計を用いて、導電性部および非導電性部を構成する材料自体を測定する方法や、層の全面が導電性部である素子と層の全面が非導電性部である素子とを作製し、これらの素子についてソースメーター等を用いて電流−電圧特性を測定して、得られた電流−電圧特性からそれぞれの導電率および電気抵抗を算出する方法を用いることができる。
【0042】
また、非導電性部は、上述したように、導電性部よりも導電性が低い領域であればよく、非導電性部内の導電性が均一であっても不均一であってもよい。
【0043】
導電性部のパターン形状は、本発明の導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択される。
また、導電性部と非導電性部との面積比は、同様に、本発明の導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択される。
さらに、導電性部のパターンの幅も、同様に、本発明の導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択される。
【0044】
ポリチオフェン層の膜厚としては、電磁波の照射によって光化学的な反応が起こりうる厚みであれば特に限定されるものではなく、本発明の導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択される。具体的には、ポリチオフェン層の膜厚は、10nm〜1μm程度で設定することができる。ポリチオフェン層の膜厚が厚すぎると、電磁波がポリチオフェン層の深部まで到達せず、光化学的な反応が起こりにくくなったり、ポリチオフェン層の深部まで光化学的に反応させるために長時間を要し、生産効率が低下したりする可能性があるからである。また、ポリチオフェン層の膜厚が薄すぎると、例えば導電性部から構成される導電性パターンが電極等として機能しなくなったり、基板上に均一なポリチオフェン層を形成することが困難になったりするおそれがあるからである。
【0045】
2.基板
本発明に用いられる基板としては、本発明の導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択されるものであり、一般的に、有機EL素子、太陽電池、有機半導体、有機TFT等の電子デバイスに用いられる基板を使用することができる。
【0046】
基板は、透明性を有していてもよく有さなくてもよい。基板の透明性については、本発明の導電性パターン基板の用途や、後述する「B.導電性パターン基板の製造方法」の項に記載するように、電磁波照射工程における電磁波の照射方向等に応じて適宜選択される。
例えば、本発明の導電性パターン基板が有機EL素子に適用される場合であって、基板側から光を取り出す場合、基板には透明性が要求される。また、本発明の導電性パターンが太陽電池に適用される場合であって、基板側から受光する場合、基板には透明性が要求される。一方、本発明の導電性パターンが有機半導体や有機TFTに適用される場合、基板には透明性は要求されない。
また例えば、本発明の導電性パターン基板の製造過程にて、基板側から電磁波が照射される場合、基板には透明性が要求される。一方、ポリチオフェン層側(導電層側)から電磁波が照射される場合、基板には透明性は要求されない。
【0047】
基板は、可撓性を有するもの、例えば樹脂製フィルム等であってもよく、可撓性を有さないもの、例えばガラス基板等であってもよい。中でも、基板は可撓性を有するものであることが好ましい。ポリチオフェン層は、高分子材料であるポリチオフェン誘導体からなるものであり、可撓性を有するので、基板が可撓性を有していれば、フレキシブルな導電性パターン基板とすることができるからである。これにより、本発明の導電性パターン基板を用いることによって、フレキシブルな電子デバイスを得ることが可能となる。
【0048】
3.用途
本発明の導電性パターン基板は、例えば、有機EL素子、太陽電池、有機半導体、有機TFT、RFID(Radio Frequency Identification:電波方式認識)、コンピューター・メモリなどの電子デバイスに適用することができる。具体的には、導電性パターンは、有機EL素子、太陽電池、有機半導体、有機TFT等における電極、有機EL素子における正孔注入層、RFIDにおけるタグなどに利用することができる。
【0049】
4.その他の構成
本発明の導電性パターン基板を上述したような用途に用いる場合、基板とポリチオフェン層との間には、用途に応じて種々の層が形成される。
例えば、導電性パターンを有機EL素子における正孔注入層として用いる場合には、基板とポリチオフェン層との間に陽極(下部電極)が形成される。また、導電性パターンを有機EL素子における陰極(上部電極)として用いる場合には、基板とポリチオフェン層との間に、陽極(下部電極)および発光層等が形成される。さらに、導電性パターンを太陽電池における上部電極として用いる場合には、基板とポリチオフェン層との間に、下部電極および半導体層等が形成される。また、導電性パターンを有機TFTにおけるゲート電極、ソース電極およびドレイン電極として用いる場合には、基板とポリチオフェン層との間に、半導体層および絶縁層等が形成される。
【0050】
図2は、本発明の導電性パターン基板を有機EL素子に用いた例であり、導電性パターンを有機EL素子における正孔注入層として利用する例である。図2に例示する有機EL素子11は、基板2と、基板2上にパターン状に形成された陽極(下部電極)12と、陽極12を覆うように基板2の全面に形成され、導電性部4および非導電性部5を有するポリチオフェン層3と、ポリチオフェン層3上に形成された発光層13と、発光層13上に形成された陰極(上部電極)14とを有している。この有機EL素子11では、ポリチオフェン層3における導電性部4を正孔注入層として機能させ、非導電性部5を絶縁層として機能させることができる。
【0051】
なお、本発明の導電性パターン基板の製造方法については、後述する「B.導電性パターン基板の製造方法」の項に詳しく記載するので、ここでの説明は省略する。
【0052】
B.導電性パターン基板の製造方法
次に、本発明の導電性パターン基板の製造方法について説明する。
本発明の導電性パターン基板の製造方法は、基板上に、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層を形成する導電層形成工程と、上記導電層にパターン状に電磁波を照射して、上記導電層の照射部分の導電性を低下させ、導電性を有する導電性部および導電性を有さない非導電性部を形成する電磁波照射工程とを有することを特徴とするものである。
【0053】
ポリチオフェン誘導体は、上記「A.導電性パターン基板」の項に記載したように、電磁波が照射されると、照射部分の導電性が低下するので、ポリチオフェン誘導体を含有する導電層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電性が低下した領域(導電性を有さない非導電性部)と、導電性が維持された領域(導電性を有する導電性部)とを形成することができる。
【0054】
本発明の導電性パターン基板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図3は、本発明の導電性パターン基板の製造方法の一例を示す工程図である。まず、基板2上に導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層3´を形成する(図3(a)、導電層形成工程)。次に、導電層3´側に、必要とされるパターンが描かれたフォトマスク21を配置し、このフォトマスク21を介して紫外線22を照射する(図3(b))。これにより、導電層の照射部分の導電性が低下して、導電性部4および非導電性部5が形成され、導電性部4から構成される導電性パターンを形成することができる(図3(c))。なお、図3(b)および(c)は電磁波照射工程である。
【0055】
本発明においては、上述したように、導電層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電性部および非導電性部を形成することができる。これにより、導電性部をパターン状に形成する、すなわち導電性パターンを形成することができる。
【0056】
本発明によれば、酸化剤や光反応開始剤のような添加剤を要することなく、導電層にパターン状に電磁波を照射することによって、導電層の照射部分の導電性が低下することを利用して、導電性部をパターン状に形成することができる。また、導電層の照射部分が非導電性部、未照射部分が導電性部となるので、導電性部に直接に電磁波を照射することがない。そのため、添加剤や電磁波の照射によるポリチオフェン誘導体の特性の劣化を回避することが可能である。
【0057】
また、高分子材料であるポリチオフェン誘導体を含有する導電層は可撓性を有しているので、フレキシブルな電子デバイスに適用可能な導電性パターン基板を得ることが可能である。
【0058】
さらに、一般に電子デバイスにおける電極等に用いられる金属材料では、成膜方法として真空蒸着法、スパッタリング法等のドライプロセスが用いられるのに対して、ポリチオフェン誘導体では、成膜方法としてスピンコート法や印刷法等のウェットプロセスを用いることができる。したがって、本発明においては、真空設備等の高価な設備を必要とすることなく、導電性パターン基板を量産することが可能である。
【0059】
また、図3に例示するような導電性パターン基板の製造方法においては、非導電性部を除去せずに残存させるので、導電性部と非導電性部とで段差が生じることがなく、段差のない導電性パターン基板を得ることができる。このため、本発明の導電性パターン基板の製造方法を用いて電子デバイスを作製する場合には、導電性部および非導電性部の上に均一に他の層を形成することができる。また、本発明の導電性パターン基板の製造方法を用いて有機EL素子における正孔注入層を形成する場合には、正孔注入層のパターンによる段差がないので、段差によって電極が断線等するのを回避することも可能となる。
【0060】
また、ポリチオフェン誘導体、例えばPEDOT/PSSは、電磁波が照射されると、照射部分の物性が変化し、上述したような導電性だけでなく、例えば溶剤に対する可溶性も変化する。本来、PEDOT/PSSは、水、エタノール等の一部のアルコール類など、非常に極性の高い溶剤にのみ溶解する。しかしながら、PEDOT/PSSは、電磁波が照射されることによって、水、アルコール類より極性の低い溶剤に溶解するようになる。これは、電磁波の照射によって、PEDOT/PSSが光化学的に反応して変性し、溶剤に対する可溶性が変化するものと想定される。具体的には、PEDOTのチオフェン骨格が光酸化、光分解等されて、溶剤に対する可溶性が変化するものと思料される。
【0061】
このように、ポリチオフェン誘導体は、電磁波が照射されると、照射部分の溶剤に対する可溶性が変化するので、照射部分と未照射部分とで溶剤の溶解度に差をつけることができる。これにより、所定の溶剤を用いて現像することによって、照射部分のみを除去することが可能となる。
【0062】
図4は、本発明の導電性パターン基板の製造方法の他の例を示す工程図である。まず、基板2上に導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層3´を形成する(図4(a)、導電層形成工程)。次に、導電層3´側に、必要とされるパターンが描かれたフォトマスク21を配置し、このフォトマスク21を介して紫外線22を照射する(図4(b))。これにより、導電層の照射部分の導電性が低下して、導電性部4および非導電性部5が形成される(図4(c))。このとき、導電層の照射部分の溶剤に対する可溶性も変化し、照射部分(非導電性部5)が、水やアルコール類より極性の低い溶剤に溶解するようになる。なお、図4(b)および(c)は電磁波照射工程である。次いで、現像液として例えばアセトンを用いて、照射部分である非導電性部5のみを溶解させる(図4(d)、現像工程)。
【0063】
本発明においては、図4に例示するように、電磁波照射工程後に、導電層を現像して導電層の照射部分を除去する現像工程を行ってもよい。上述したように、照射部分と未照射部分とで溶剤の溶解度に差をつけることができるので、所定の溶剤を用いて現像することにより、照射部分のみを除去することができる。これにより、非導電性部を除去して、導電性部間を完全に絶縁することが可能となる。
【0064】
また、本発明においては、導電層にパターン状に電磁波を照射することによって、導電性部をパターン状に形成することができ、さらには、所定の溶剤を用いて電磁波照射後の導電層を現像することによって、非導電性部のみを除去することができる。すなわち、フォトリソグラフィー法を利用して、導電性パターンを得ることができる。したがって、従来のような印刷法等によるパターニングと比較して、高精細なパターニングが可能となる。
【0065】
以下、本発明の導電性パターン基板の製造方法における各工程について説明する。
【0066】
1.導電層形成工程
本発明における導電層形成工程は、基板上に、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層を形成する工程である。
【0067】
導電層の形成方法としては、ポリチオフェン誘導体を溶剤に溶解もしくは分散させて導電層形成用塗工液を調製し、この導電層形成用塗工液を基板上に塗布する方法、あるいは、ポリチオフェン誘導体を基板上に電着させる方法等を用いることができる。中でも、生産性の観点から、導電層形成用塗工液を塗布する方法が好ましく用いられる。
【0068】
導電層形成用塗工液に使用される溶剤としては、ポリチオフェン誘導体を溶解もしくは分散させることが可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水、および、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類を挙げることができる。水およびアルコール類は混合して用いてもよい。
【0069】
この導電層形成用塗工液の固形分濃度としては、導電層形成用塗工液の塗布方法等に応じて適宜調整される。
【0070】
また、導電層形成用塗工液の塗布方法としては、基板の全面に導電層形成用塗工液を塗布することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、使用されるポリチオフェン誘導体や、導電層形成用塗工液の粘度等に応じて適宜選択される。具体的には、導電層形成用塗工液の塗布方法としては、スピンコート法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷等を挙げることができる。
【0071】
導電層形成用塗工液は、基板の全面に塗布してもよく、基板上にパターン状に塗布してもよいが、後述する電磁波照射工程にて導電層にパターン状に電磁波を照射することによって、導電性部をパターン状に形成することができるため、通常は、基板の全面に導電層形成用塗工液を塗布する。
【0072】
導電層の膜厚としては、電磁波の照射によって光化学的な反応が起こりうる厚みであれば特に限定されるものではなく、導電性パターン基板の用途等に応じて適宜選択される。具体的には、導電層の膜厚は、10nm〜1μm程度で設定することができる。導電層の膜厚が厚すぎると、電磁波が導電層の深部まで到達せず、光化学的な反応が起こりにくくなったり、導電層の深部まで光化学的に反応させるために長時間を要し、生産効率が低下したりする可能性があるからである。また、導電層の膜厚が薄すぎると、例えば導電性部から構成される導電性パターンが電極等として機能しなくなったり、基板上に均一な導電層を形成することが困難になったりするおそれがあるからである。
【0073】
なお、ポリチオフェン誘導体および基板については、上記「A.導電性パターン基板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0074】
2.電磁波照射工程
本発明における電磁波照射工程は、導電層にパターン状に電磁波を照射して、導電層の照射部分の導電性を低下させ、導電性を有する導電性部および導電性を有さない非導電性部を形成する工程である。
【0075】
本発明における電磁波とは、導電層の導電性を変化させることが可能な、いかなる電磁波をも含む概念であり、紫外線および可視光に限定されるものではない。
【0076】
電磁波としては、500nm以下の可視光、または紫外線であることが好ましい。すなわち、電磁波の波長としては、100nm〜500nm程度であることが好ましい。電磁波の波長が上記範囲であれば、ポリチオフェン誘導体の光化学的な反応が良好に進行するからである。中でも、電磁波の波長としては、100nm〜350nmの範囲内または400nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、特に200nm〜300nmの範囲内であることが好ましい。ポリチオフェン誘導体は、これらの波長の光に対して特に感度が高いからである。
【0077】
電磁波の照射方法としては、導電層にパターン状に電磁波を照射することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、フォトマスクを介してパターン状に電磁波を照射する方法であってもよく、レーザーで描画照射する方法であってもよい。
【0078】
電磁波の照射の際に使用される光源としては、ポリチオフェン誘導体を劣化させるおそれがないものであれば特に限定されるものではなく、電磁波の照射方法に応じて適宜選択される。フォトマスクを用いる場合は、光源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等を挙げることができる。また、描画照射する場合は、光源としては、エキシマ、YAG等のレーザーを用いることができる。レーザーを使用する場合は、ポリチオフェン誘導体を劣化させないように、比較的低いエネルギーで描画照射することが好ましい。
【0079】
電磁波の照射量としては、導電層の導電性や溶剤に対する可溶性を変化させるのに必要な照射量であればよい。
【0080】
また、電磁波の照射時間としても、導電層の導電性や溶剤に対する可溶性を変化させるのに必要な時間であればよい。例えば、導電層の膜厚が比較的厚い場合には、電磁波の照射時間を比較的長くすることにより、導電層の深部までポリチオフェン誘導体の光化学的な反応を起こさせることができる。
【0081】
電磁波の照射方向としては、基板側および導電層側のいずれの方向であってもよい。
【0082】
また、電磁波の照射は、通常、大気下(酸素雰囲気下)で行われる。大気下(酸素雰囲気下)であれば、ポリチオフェン誘導体の光化学的な反応、特に光分解反応が、酸化作用によって促進されるからである。
【0083】
本工程においては、導電層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電層の照射部分の導電性を低下させ、導電性を有する導電性部および導電性を有さない非導電性部を形成する。すなわち、導電層にパターン状に電磁波を照射することにより、導電性を変化させ、導電性部をパターン状に形成することができる。
【0084】
本発明においては、電磁波の照射によって導電層の照射部分の導電性が低下するので、導電層の照射部分が非導電性部となり、導電層の未照射部分が導電性部となる。
なお、導電性部および非導電性部については、上記「A.導電性パターン基板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。ただし、後述の現像工程にて非導電性部を除去する場合には、非導電性部における電気抵抗が上記「A.導電性パターン基板」の項に記載した範囲外であってもかまわない。
【0085】
3.現像工程
本発明においては、上記電磁波照射工程後に、導電層を現像して導電層の照射部分を除去する現像工程を行ってもよい。例えば、導電層の照射部分である非導電性部の絶縁性が比較的低い場合には、導電性部だけでなく非導電性部にも電気が伝導される可能性がある。このような場合には、現像工程を行って非導電性部を除去することで、電子デバイスにおける電極等に好適に利用できる導電性パターン基板を得ることができる。
【0086】
現像方法としては、導電層の照射部分を除去することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、電磁波の照射後の導電層が形成された基板を現像液に浸漬する方法、電磁波の照射後の導電層が形成された基板に現像液をスプレー状に噴出させる方法等を用いることができる。
【0087】
また、現像時間としては、導電層の未照射部分が溶解されずに、導電層の照射部分のみが溶解されるのに必要な時間であればよい。
【0088】
現像の際に使用される現像液としては、導電層の未照射部分を溶解せずに、導電層の照射部分のみを溶解するものであれば特に限定されるものではなく、用いられるポリチオフェン誘導体等に応じて適宜選択される。具体的には、現像液としては、導電層形成用塗工液に使用される溶剤よりも極性の低い溶剤が用いられ、例えば、水、および、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類よりも極性の低い溶剤が用いられる。このような現像液としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤などを挙げることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0089】
本発明においては、上述したように高精細なパターニングが可能である。具体的には、線幅10μm以下、例えば線幅5μmの導電性パターン(導電性部のパターン)を得ることも可能である。
【0090】
4.その他の工程
本発明においては、導電性パターン基板の用途に応じて、導電層形成工程前に、種々の層を形成する工程を行ってもよい。
なお、導電性パターン基板の用途等については、上記「A.導電性パターン基板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0091】
また、本発明において、例えば図3に示すように、導電層形成工程および電磁波照射工程を行うことにより、上記「A.導電性パターン基板」の項に記載した導電性パターン基板を得ることができる。この場合、図3(c)に示すような、電磁波照射工程後の導電層が、上記「A.導電性パターン基板」の項でいうポリチオフェン層となる。
【0092】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0093】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
【0094】
[実験例1]
(評価用素子1の作製)
透明電極としてITO膜がパターン状に形成された、1インチ□、板厚1.1mmの基板を洗浄した。次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(スタルク社製、Baytron P CH8000)を0.5mlとり、基板の中心部に滴下して、2500rpmで20秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚800ÅのPEDOT/PSS層を形成した。
次に、PEDOT/PSS層に、石英ガラスを介して、高圧水銀灯にて254nmの紫外線を照射した。
次いで、紫外線照射後のPEDOT/PSS層上に、Agを3000Åの厚みで蒸着して、金属電極を形成した。
このようにして、評価用素子を作製した。
【0095】
(評価用素子2の作製)
上記の評価用素子1の作製にて、PEDOT/PSS層に紫外線を照射しなかった以外は、同様にして評価用素子を作製した。
【0096】
(電流−電圧特性の評価)
評価用素子1,2について、ITO電極側を正極、Ag電極側を負極に接続し、ソースメーターにより、直流電流を印加した。0Vから10Vまで電圧を印加し、電流−電圧特性を評価した。結果を図5に示す。
図5より、評価用素子1(照射)と比較して、評価用素子2(未照射)では、電流−電圧特性が高くなった。このことから、紫外線照射によって、PEDOT/PSS層の導電性が低下することがわかった。
【0097】
[実験例2]
100mm□、板厚0.7mmのガラス基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(スタルク社製、Baytron P CH8000)をスピンコーティングにより成膜し、PEDOT/PSS層を形成した。
次いで、分光照射装置(分光計器株式会社製、IUV−25CP)を用いて、240nmから480nmまでの電磁波をPEDOT/PSS層に照射した。照射後、PEDOT/PSS層をアセトンにて処理したところ、240nm〜350nm付近および420nm〜470nm付近の電磁波が照射された部分のPEDOT/PSS層が除去された。
このことから、上記のPEDOT/PSSは、240nm〜350nm付近および420nm〜470nm付近の電磁波に対して感度が高く、そのような電磁波の照射部分のアセトンに対する可溶性が変化することがわかった。
【0098】
[実施例1]
(導電性パターンの形成)
6インチ□、板厚1.1mmの絶縁性基板を準備した。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(スタルク社製、Baytron P CH8000)を、基板の中央部に滴下し、2500rpmで30秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚80nmの導電層を形成した。次いで、この導電層を150℃で10分間乾燥させた。次に、導電層に、10μmのライン&スペースを有するフォトマスクを介して、高圧水銀灯にて254nmの紫外線を照射した。続いて、導電層をアセトンを用いてスピン現像機にて5秒間処理した。得られた導電性パターンを光学顕微鏡で観察したところ、フォトマスクのパターン通りに10μmのライン&スペースが形成されていた。
【0099】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
透明電極としてITO膜がパターン状に形成された、1インチ□、板厚1.1mmの基板を洗浄した。次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(スタルク社製、Baytron P CH8000)を0.5mlとり、基板の中心部に滴下して、2500rpmで20秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚800Åの正孔注入層を形成した。
【0100】
次に、正孔注入層に、発光領域が遮光されたフォトマスクを介して、高圧水銀灯にて254nmの紫外線を照射した。続いて、正孔注入層をアセトンにて現像した。これにより、発光領域にのみ正孔注入層を形成した。
【0101】
次に、赤色発光層形成用塗工液(ポリビニルカルバゾール 70重量部、オキサジアゾール 30重量部、ジシアノメチレンピラン誘導体 1重量部、モノクロロベンゼン 4900重量部)を1mlとり、正孔注入層が形成された基板の中心部に滴下して、2000rpmで10秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚800Åの発光層を形成した。続いて、100℃で1時間乾燥させた。
【0102】
次いで、発光層上に、Caを500Åの厚みで蒸着し、さらにAgを2500Åの厚みで蒸着して、金属電極を形成した。
このようにして、有機EL素子を作製した。
【0103】
(有機EL素子の発光特性の評価)
ITO電極側を正極、Ag電極側を負極に接続し、ソースメーターにより、直流電流を印加した。10V印加時に発光層より発光が認められた。紫外線照射工程(電磁波照射工程)を含む全パターニング工程を経ても、素子特性の劣化は見られなかった。
【0104】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
透明電極としてITO膜がパターン状に形成された、1インチ□、板厚1.1mmの基板を洗浄した。次に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)の水分散体(スタルク社製、Baytron P CH8000)を0.5mlとり、基板の中心部に滴下して、2500rpmで20秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚800Åの正孔注入層を形成した。
【0105】
次に、正孔注入層に、発光領域が遮光されたフォトマスクを介して、高圧水銀灯にて254nmの紫外線を照射した。
【0106】
次に、赤色発光層形成用塗工液(ポリビニルカルバゾール 70重量部、オキサジアゾール 30重量部、ジシアノメチレンピラン誘導体 1重量部、モノクロロベンゼン 4900重量部)を1mlとり、正孔注入層が形成された基板の中心部に滴下して、2000rpmで10秒間のスピンコーティングを行った。これにより、膜厚800Åの発光層を形成した。続いて、100℃で1時間乾燥させた。
【0107】
次いで、発光層上に、Caを500Åの厚みで蒸着し、さらにAgを2500Åの厚みで蒸着して、金属電極を形成した。
このようにして、有機EL素子を作製した。
【0108】
(有機EL素子の発光特性の評価)
ITO電極側を正極、Ag電極側を負極に接続し、ソースメーターにより、直流電流を印加した。10V印加時に発光層より発光が認められた。このとき、正孔注入層が紫外線照射されなかった領域では発光が認められたが、正孔注入層が紫外線照射された領域では発光が認められなかった。また、紫外線照射工程(電磁波照射工程)を含む全パターニング工程を経ても、素子特性の劣化は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の導電性パターン基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の導電性パターン基板を用いた有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の導電性パターン基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図4】本発明の導電性パターン基板の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図5】実験例1における素子の電流−電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0110】
1 … 導電性パターン基板
2 … 基板
3 … ポリチオフェン層
3´ … 導電層
4 … 導電性部
5 … 非導電性部
21 … フォトマスク
22 … 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成され、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有するポリチオフェン層とを有し、
前記ポリチオフェン層が、導電性を有する導電性部と、導電性を有さない非導電性部とを有することを特徴とする導電性パターン基板。
【請求項2】
前記ポリチオフェン誘導体が、酸がドーピングされたポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする請求項1に記載の導電性パターン基板。
【請求項3】
基板上に、導電性を有するポリチオフェン誘導体を含有する導電層を形成する導電層形成工程と、
前記導電層にパターン状に電磁波を照射して、前記導電層の照射部分の導電性を低下させ、導電性を有する導電性部および導電性を有さない非導電性部を形成する電磁波照射工程と
を有することを特徴とする導電性パターン基板の製造方法。
【請求項4】
前記電磁波照射工程後に、前記導電層を現像して前記導電層の照射部分を除去する現像工程を行うことを特徴とする請求項3に記載の導電性パターン基板の製造方法。
【請求項5】
前記ポリチオフェン誘導体が、酸がドーピングされたポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の導電性パターン基板の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波が、500nm以下の可視光、または紫外線であることを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれかに記載の導電性パターン基板の製造方法。
【請求項7】
前記電磁波照射工程が、酸素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれかに記載の導電性パターン基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−91265(P2008−91265A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272879(P2006−272879)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】