説明

導電性ポリマー組成物およびそれから作製されたフィルム

本開示は、導電性ポリマー組成物、およびそれらの電子デバイス中での使用に関する。本発明の組成物は:(i)非フッ素化ポリマー酸でドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーと;(ii)少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーと;(iii)電気絶縁性酸化物ナノ粒子とを含む水性分散体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、添加剤を含有する導電性ポリマーの水性分散体、およびそれらの電子デバイス中における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、本明細書にその記載内容全体が参照として援用される2009年4月24日に出願された米国仮特許出願第61/172,396号明細書の優先権を主張する。
【0003】
電子デバイスは、活性層を含む製品の分類の1つである。有機電子デバイスは少なくとも1つの有機活性層を有する。このようなデバイスは、発光ダイオードなどのように電気エネルギーを放射線に変換したり、電子的過程を介して信号を検出したり、光起電力セルなどのように放射線を電気エネルギーに変換したり、1つ以上の有機半導体層を含んだりする。
【0004】
有機発光ダイオード(OLED)は、エレクトロルミネッセンスが可能な有機層を含む有機電子デバイスである。導電性ポリマーを含有するOLEDは、以下の構成を有することができ:
アノード/正孔注入層/EL材料/カソード
電極の間に追加の層を有する。通常、アノードは、たとえば、インジウム/スズ酸化物(ITO)などの、EL材料中に正孔を注入する能力を有するあらゆる材料である。場合により、アノードは、ガラスまたはプラスチックの基体上に支持されている。EL材料としては、蛍光化合物、蛍光性およびリン光性の金属錯体、共役ポリマー、ならびにそれらの混合物が挙げられる。通常、カソードは、EL材料中に電子を注入する能力を有するあらゆる材料(たとえばCaまたはBaなど)である。ITOなどの導電性無機酸化物アノードと直接接触する正孔注入層としては、10-3〜10-7S/cmの範囲内の低伝導率を有する導電性ポリマーが一般に使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
改善された有機導電性材料が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(i)少なくとも1種類の非フッ素化ポリマー酸でドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーと;(ii)少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーと;(iii)電気絶縁性酸化物ナノ粒子とを含む水性分散体を提供する。
【0007】
別の一実施形態においては、上記分散体から形成されたフィルムを提供する。
【0008】
別の一実施形態においては、上記フィルムを含む少なくとも1つの層を含む電子デバイスを提供する。
【0009】
本発明を、添付の図面において例として説明するが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】有機電子デバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
当業者であれば理解しているように、図面中の物体は、平易かつ明快にするために示されており、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。たとえば、実施形態を理解しやすいようにするために、図面中の一部の物体の寸法が他の物体よりも誇張されている場合がある。
【0012】
(i)少なくとも1種類の非フッ素化ポリマー酸でドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーと;(ii)少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーと;(iii)電気絶縁性酸化物ナノ粒子とを含む水性分散体を提供する。本明細書において、上記分散体は「新規複合分散体」と記載される。ある実施形態においては、本発明の新規複合分散体は、(i)少なくとも1種類の非フッ素化ポリマー酸でドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーと;(ii)少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーと;(iii)電気絶縁性酸化物ナノ粒子とから実質的になる。
【0013】
多数の態様および実施形態が本明細書で説明されるが、これらは単に例示的で非限定的なものである。本明細書を読めば、本発明の範囲から逸脱しない他の態様および実施形態が実現可能であることが、当業者には分かるであろう。
【0014】
いずれか1つまたは複数の本発明の実施形態のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。この詳細な説明は、最初に用語の定義および説明を扱い、続いて、ドープした導電性ポリマー、高フッ素化酸ポリマー、電気絶縁性酸化物ナノ粒子、新規複合分散体の調製、正孔注入層、電子デバイス、および最後に実施例を扱う。
【0015】
1.明細書および特許請求の範囲の中で使用される用語の定義および説明
以下に説明する実施形態の詳細を扱う前に、一部の用語について定義または説明を行う。
【0016】
用語「酸ポリマー」は、酸性基を有するポリマーを意味する。
【0017】
用語「酸性基」は、イオン化することによって水素イオンをブレンステッド塩基に供与することができる基を意味する。
【0018】
用語「水性」は、かなりの部分が水である液体を意味し、一実施形態においては少なくとも約60重量%が水である。
【0019】
材料に言及する場合の用語「伝導性」または「導電性」は、カーボンブラックや導電性金属粒子を加えなくても、本来または本質的に導電性となることができる材料を意味することを意図している。
【0020】
用語「導体」およびその変形は、電位が実質的に降下することなく層材料、部材、または構造に電流が流れるような電気的性質を有する層材料、部材、または構造を意味することを意図している。この用語は、半導体を含むことを意図している。ある実施形態においては、導体は、少なくとも10-7S/cmの導電率を有する層を形成する。
【0021】
導電性ポリマーに言及する場合の用語「ドープした」は、導電性ポリマーが、その導電性ポリマー上の電荷のバランスをとるためのポリマー対イオンを有することを意味することを意図している。
【0022】
用語「ドープした導電性ポリマー」は、導電性ポリマーとそれに会合したポリマー対イオンとを意味することを意図している。
【0023】
酸化物ナノ粒子に言及する場合の用語「電気絶縁性」は、任意の量のそのようなナノ粒子を組成物またはフィルムに加えても、そのような組成物またはフィルムの導電性が増加しないことを意味することを意図している。
【0024】
層、材料、部材、または構造に言及する場合の用語「電子輸送」は、そのような層、材料、部材、または構造が、そのような層、材料、部材、または構造から、別の層、材料、部材、または構造への負電荷の移動を推進または促進することを意味する。
【0025】
接頭語「フルオロ」は、1つ以上の利用可能な水素原子がフッ素原子で置換されていることを示している。用語「完全フッ素化」および「過フッ素化」は、同義に使用され、炭素に結合する利用可能な水素のすべてがフッ素で置換されている化合物を意味する。用語「高フッ素化」は、炭素に結合した利用可能な水素の少なくとも80%がフッ素で置換されている化合物を意味する。このような材料は、少なくとも80%がフッ素化されていると記載される。用語「非フッ素化」は、炭素に結合した利用可能な水素の25%未満がフッ素で置換されている化合物を意味する。このような材料は、25%未満がフッ素化されていると記載される。
【0026】
層、材料、部材、または構造に言及する場合の用語「正孔輸送」は、そのような層、材料、部材、または構造が、比較的効率的かつ少ない電荷損失で、そのような層、材料、部材、または構造の厚さを通過する正電荷の移動を促進することを意味することを意図している。
【0027】
用語「層」は、用語「フィルム」と同義に使用され、希望する領域を覆うコーティングを意味する。この用語は大きさによって限定されない。この領域は、デバイス全体の大きさであってもよいし、実際の視覚的表示などの特殊な機能の領域の小ささ、または1つのサブピクセルの小ささであってもよい。層およびフィルムは、気相堆積、液相堆積(連続的技術および不連続な技術)、および熱転写などの従来のあらゆる堆積技術によって形成することができる。
【0028】
用語「ナノ粒子」は、累積50%の体積分布において50nm未満の粒度を有する材料を意味する。
【0029】
用語「有機電子デバイス」は、1つ以上の半導体層または半導体材料を含むデバイスを意味することを意図している。有機電子デバイスとしては:(1)電気エネルギーを放射線に変換するデバイス(たとえば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、ダイオードレーザー、または照明パネル)、(2)電子的過程を介して信号を検出するデバイス(たとえば、光検出器 光導電セル、フォトレジスタ、光スイッチ、光トランジスタ、光電管、赤外(「IR」)検出器、またはバイオセンサー)、(3)放射線を電気エネルギーに変換するデバイス(たとえば、光起電力デバイスまたは太陽電池)、および(4)1つ以上の有機半導体層を含む1つ以上の電子部品(たとえば、トランジスタまたはダイオード)を含むデバイスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
用語「ポリマー」は、少なくとも1種類の繰り返しモノマー単位を有する材料を意味することを意図している。この用語は、1つのみの種類または化学種のモノマー単位を有するホモポリマー、および、異なる化学種のモノマー単位から形成されるコポリマーなどの2つ以上の異なるモノマー単位を有するコポリマーを含んでいる。
【0031】
用語「半導性」は、半導体の特性、すなわち絶縁体を超えるが良導体未満の導電率を有する材料を意味することを意図している。
【0032】
フィルムに言及する場合の用語「ぬれ性」は、有機溶媒がフィルム表面全体に均一に広がることを意味することを意図している。
【0033】
用語「仕事関数」は、電子を伝導性または半導体材料の表面から無限遠点まで引き離すのに必要な最小エネルギーを意味することを意図している。仕事関数は、一般にUPS(紫外光電子分光法)、ケルビンプローブ接触電位差測定、または低強度X線光電子放出分光法(LIXPS)によって求めることができる。LIXPSは、本明細書中実施例において排他的に使用された。
【0034】
発光材料もある程度の電荷輸送特性を有することがあるが、用語「正孔輸送層、材料、部材、または構造」および「電子輸送層、材料、部材、または構造」は、主要な機能が発光である層、材料、部材、または構造を含むことを意図していない。
【0035】
本明細書において使用される場合、用語「含んでなる」、「含んでなること」、「含む」、「含むこと」、「有する」、「有すること」、またはそれらの他のあらゆる変形は、非排他的な包含を扱うことを意図している。たとえば、ある一連の要素を含むプロセス、方法、物品、または装置は、それらの要素にのみに必ずしも限定されるわけではなく、そのようなプロセス、方法、物品、または装置に関して明示されず固有のものでもない他の要素を含むことができる。さらに、反対の意味で明記されない限り、「または」は、包含的な「または」を意味するのであって、排他的な「または」を意味するのではない。たとえば、条件AまたはBが満たされるのは、Aが真であり(または存在し)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在せず)Bが真である(または存在する)、ならびにAおよびBの両方が真である(または存在する)のいずれか1つによってである。
【0036】
また、本発明の要素および成分を説明するために「a」または「an」も使用されている。これは単に便宜的なものであり、本発明の一般的な意味を提供するために行われている。この記述は、1つまたは少なくとも1つを含むものと読むべきであり、明らかに他の意味となる場合を除けば、単数形は複数形も含んでいる。
【0037】
元素周期表中の縦列に対応する族の番号は、CRC Handbook of Chemistry and Physics、第81版(2000−2001)に見ることができる「新表記法」(New Notation)の規則を使用している。
【0038】
特に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。式中、文字Q、R、T、W、X、Y、およびZは、それらに定義されている原子または基を表すために使用されている。他のすべての文字は、従来の原子記号を表すために使用されている。元素周期表中の縦列に対応する族の番号には、CRC Handbook of Chemistry and Physics、第81版(2000)中に見ることができる「新表記法」(New Notation)の規則を使用している。
【0039】
本明細書に記載されていない程度の、具体的な材料、処理行為、および回路に関する多くの詳細は従来通りであり、それらについては、有機発光ダイオードディスプレイ、光源、光検出器、光電池、および半導体要素の技術分野の教科書およびその他の情報源中に見ることができる。
【0040】
2.ドープした導電性ポリマー
ドープした導電性ポリマーは、導電性ポリマーの電荷のバランスをとるために、非フッ素化ポリマー酸から誘導されるポリマー対イオンを有する。
【0041】
a.導電性ポリマー
あらゆる導電性ポリマーを本発明の新規複合分散体中に使用することができる。ある実施形態においては、導電性ポリマーから、1×10-3〜1×10-7S/cmを超える導電率を有するフィルムが形成される。従って、本明細書に記載の新規複合分散体を使用して、約1×10-7S/cmを超えるが、1×10-3S/cm以下の導電率を有するフィルムを形成することができる。
【0042】
本発明の新規複合分散体に適した導電性ポリマーは、単独で重合させた場合に導電性ホモポリマーを形成する少なくとも1種類のモノマーから製造される。このようなモノマーを本明細書では「導電性前駆体モノマー」と呼ぶ。単独で重合させた場合に導電性ではないホモポリマーを形成するモノマーは、「非導電性前駆体モノマー」と呼ぶ。導電性ポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであってよい。本発明の新規複合分散体に適した導電性コポリマーは、2種類以上の導電性前駆体モノマーから、または1種類以上の導電性前駆体モノマーと1種類以上の非導電性前駆体モノマーとの組み合わせから製造することができる。
【0043】
ある実施形態においては、導電性ポリマーは、チオフェン類、ピロール類、アニリン類、および多環式芳香族類から選択される少なくとも1つの導電性前駆体モノマーから製造される。用語「多環式芳香族」は、2つ以上の芳香環を有する化合物を意味する。これらの環は、1つ以上の結合によって連結している場合もあるし、互いに縮合している場合もある。用語「芳香環」は、複素環式芳香環を含むことを意図している。「多環式複素環式芳香族」化合物は、少なくとも1つの複素環式芳香環を有する。
【0044】
ある実施形態においては、導電性ポリマーは、チオフェン類、セレノフェン類、テルロフェン類、ピロール類、アニリン類、および多環式芳香族類から選択される少なくとも1つの前駆体モノマーから製造される。これらのモノマーから製造されたポリマーは、本明細書において、それぞれ、ポリチオフェン類、ポリ(セレノフェン)類、ポリ(テルロフェン)類、ポリピロール類、ポリアニリン類、および多環式芳香族ポリマー類と呼ぶ。用語「多環式芳香族」は、2つ以上の芳香環を有する化合物を意味する。これらの環は、1つまたは複数の結合によって連結している場合もあるし、互いに縮合している場合もある。用語「芳香環」は、複素環式芳香環を含むことを意図している。「多環式複素環式芳香族」化合物は、少なくとも1つの複素環式芳香環を有する。ある実施形態においては、多環式芳香族ポリマーはポリ(チエノチオフェン)である。
【0045】
ある実施形態においては、新規複合分散体中の導電性ポリマーを形成するために使用が考慮されるモノマーは、以下の式Iを含み:
【0046】
【化1】

【0047】
式中:
Qは、S、Se、およびTeからなる群から選択され;
1は、それぞれ同じかまたは異なるように独立して選択され、そして、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;あるいは両方のR1基が一緒になってアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成して、3、4、5、6、または7員の芳香環または脂環式環を完成させてもよく、その環は場合により、1つまたは複数の二価の窒素原子、セレン原子、テルル原子、硫黄原子、または酸素原子を含んでもよい。
【0048】
本明細書において使用される場合、用語「アルキル」は、脂肪族炭化水素から誘導される基を意味し、非置換の場合も置換されている場合もある線状、分岐、および環状の基を含んでいる。用語「ヘテロアルキル」は、アルキル基中の1つまたは複数の炭素原子が窒素、酸素、硫黄などの別の原子で置き換えられているアルキル基を意味することを意図している。用語「アルキレン」は、2つの結合点を有するアルキル基を意味する。
【0049】
本明細書において使用される場合、用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する脂肪族炭化水素から誘導される基を意味し、非置換の場合も置換されている場合もある線状、分岐、および環状の基を含んでいる。用語「ヘテロアルケニル」は、アルケニル基中の1つまたは複数の炭素原子が窒素、酸素、硫黄などの別の原子で置き換えられているアルケニル基を意味することを意図している。用語「アルケニレン」は、2つの結合点を有するアルケニル基を意味する。
【0050】
本明細書において使用される場合、置換基に関する以下の用語は、以下に示す式を意味する:
「アルコール」 −R3−OH
「アミド」 −R3−C(O)N(R6)R6
「アミドスルホネート」 −R3−C(O)N(R6)R4−SO3
「ベンジル」 −CH2−C65
「カルボキシレート」 −R3−C(O)O−Zまたは−R3−O−C(O)−Z
「エーテル」 −R3−(O−R5p−O−R5
「エーテルカルボキシレート」 −R3−O−R4−C(O)O−Zまたは−R3−O−R4−O−C(O)−Z
「エーテルスルホネート」 −R3−O−R4−SO3
「エステルスルホネート」 −R3−O−C(O)−R4−SO3
「スルホンイミド」 −R3−SO2−NH−SO2−R5
「ウレタン」 −R3−O−C(O)−N(R62
式中、すべての「R」基はそれぞれ同じかまたは異なるものであり
3は単結合またはアルキレン基であり:
4はアルキレン基であり
5はアルキル基であり
6は水素またはアルキル基であり
pは0または1〜20の整数であり
Zは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、N(R54、またはR5である。
上記基はいずれも、さらに非置換の場合も置換されている場合もあり、いずれの基も、過フッ素化基などのように、1つまたは複数の水素がFで置換されていてもよい。ある実施形態においては、上記アルキル基およびアルキレン基は1〜20個の炭素原子を有する。
【0051】
ある実施形態においては、上記モノマー中、両方のR1を合わせたものが−W−(CY12m−W−を形成し、式中、mは2または3であり、Wは、O、S、Se、PO、NR6であり、Y1は、出現するごとに同種または異種であり、水素またはフッ素であり、Y2は、出現するごとに同種または異種であり、水素、ハロゲン、アルキル、アルコール、アミドスルホネート、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択され、Y基は、部分フッ素化または完全フッ素化されていてよい。ある実施形態においては、すべてのYが水素である。ある実施形態においては、上記ポリマーはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(「PEDOT」)である。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が水素ではない。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が、少なくとも1つの水素を置換したFを有する置換基である。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が過フッ素化されている。
【0052】
ある実施形態においては、上記モノマーは式I(a)を含む。
【0053】
【化2】

【0054】
式中:
Qは、S、Se、およびTeからなる群から選択され;
7は、それぞれ同じかまたは異なるものであり、水素、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、ヘテロアルケニル、アルコール、アミドスルホネート、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択され、但し、少なくとも1つのR7が水素ではなく、
mは2または3である。
【0055】
式I(a)のある実施形態においては、mが2であり、1つのR7が、5個を超える炭素原子のアルキル基であり、他のすべてのR7が水素である。式I(a)のある実施形態においては、少なくとも1つのR7基がフッ素化されている。ある実施形態においては、少なくとも1つのR7基が、少なくとも1つのフッ素置換基を有する。ある実施形態においては、そのR7基が完全フッ素化されている。
【0056】
式I(a)のある実施形態においては、モノマー上の縮合脂環式環上のR7置換基によって、モノマーの水に対する溶解性が改善され、フッ素化酸ポリマーの存在下での重合が促進される。
【0057】
式I(a)のある実施形態においては、mが2であり、1つのR7が、スルホン酸−プロピレン−エーテル−メチレンであり、他のすべてのR7が水素である。ある実施形態においては、mが2であり、1つのR7が、プロピル−エーテル−エチレンであり、他のすべてのR7が水素である。ある実施形態においては、mが2であり、1つのR7がメトキシであり、他のすべてのR7が水素である。ある実施形態においては、1つのR7が、スルホン酸ジフルオロメチレンエステルメチレン(−CH2−O−C(O)−CF2−SO3H)であり、他のすべてのR7が水素である。
【0058】
ある実施形態においては、新規複合分散体中の導電性ポリマーを形成するために使用が考慮されるピロールモノマーは以下の式IIを含む。
【0059】
【化3】

【0060】
式IIにおいて:
1は、それぞれ同じかまたは異なるように独立して選択され、そして、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、アミドスルホネート、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;あるいは両方のR1基が一緒になってアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成して、3、4、5、6、または7員の芳香環または脂環式環を完成させてもよく、その環は場合により、1つまたは複数の二価の窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、または酸素原子を含んでもよく;
2は、それぞれ同じかまたは異なるように独立して選択され、そして、水素、アルキル、アルケニル、アリール、アルカノイル、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択される。
【0061】
ある実施形態においては、R1は、それぞれ同じかまたは異なるものであり、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、アミドスルホネート、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、ウレタン、エポキシ、シラン、シロキサン、ならびに、1つまたは複数のスルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、またはシロキサン部分で置換されたアルキルから独立して選択される。
【0062】
ある実施形態においては、R2は、水素、アルキル、ならびに、1つまたは複数のスルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、またはシロキサン部分で置換されたアルキルから選択される。
【0063】
ある実施形態においては、上記ピロールモノマーは置換されておらず、R1およびR2の両方が水素である。非置換ポリピロールは、本明細書中「PPy」と略記される。
【0064】
ある実施形態においては、両方のR1が一緒になって、アルキル、ヘテロアルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択される基でさらに置換された6員または7員の脂環式環を形成する。これらの基は、モノマーおよび結果として得られるポリマーの溶解性を改善することができる。ある実施形態においては、両方のR1が一緒になって、アルキル基でさらに置換された6員または7員の脂環式環を形成する。ある実施形態においては、両方のR1が一緒になって、少なくとも1つの炭素原子を有するアルキル基でさらに置換された6員または7員の脂環式環を形成する。
【0065】
ある実施形態においては、両方のR1が一緒になって−O−(CHY)m−O−を形成し、式中、mは2または3であり、Yは、それぞれ同じかまたは異なるものであり、水素、アルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、アミドスルホネート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択される。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が水素ではない。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が、少なくとも1つの水素がFで置換された置換基である。ある実施形態においては、少なくとも1つのY基が過フッ素化されている。
【0066】
ある実施形態においては、新規複合分散体中の導電性ポリマーを形成するために使用が考慮されるアニリンモノマーは以下の式IIIを含む。
【0067】
【化4】

【0068】
式中:
aは0または1〜4の整数であり;
bは1〜5の整数であり、但しa+b=5であり;
1は、それぞれ同じかまたは異なるように独立して選択され、そして、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;あるいは両方のR1基が一緒になってアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成して、3、4、5、6、または7員の芳香環または脂環式環を完成させてもよく、その環は場合により、1つまたは複数の二価の窒素原子、硫黄原子、または酸素原子を含んでもよい。
【0069】
重合すると、このアニリンモノマー単位は、以下に示す式IV(a)または式IV(b)、あるいは両方の式の組み合わせを有することができる。
【0070】
【化5】

【0071】
(上式中、a、b、およびR1は前出の定義の通りである)
【0072】
ある実施形態においては、アニリンモノマーは非置換であり、a=0である。
【0073】
ある実施形態においては、aは0ではなく、少なくとも1つのR1がフッ素化されている。ある実施形態においては、少なくとも1つのR1が過フッ素化されている。
【0074】
ある実施形態においては、新規複合分散体中の導電性ポリマーを形成するために使用が考慮される縮合多環式複素環式芳香族モノマーは、2つ以上の縮合芳香環を有し、その環の少なくとも1つが複素環式芳香族である。ある実施形態においては、この縮合多環式複素環式芳香族モノマーは式Vを有し:
【0075】
【化6】

【0076】
式中:
Qは、S、Se、Te、またはNR6であり;
6は、水素またはアルキルであり;
8、R9、R10、およびR11は、それぞれ同じかまたは異なるように独立して選択され、そして、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択され;
8とR9、R9とR10、およびR10とR11、のうち少なくとも1つがアルケニレン鎖を形成して5または6員の芳香環を完成させ、その環は、場合により1つまたは複数の二価の窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、または酸素原子を含むことができる。
【0077】
ある実施形態においては、縮合多環式複素環式芳香族モノマーは、式V(a)、V(b)、V(c)、V(d)、V(e)、V(f)、V(g)、V(h)、V(i)、V(j)、およびV(k):
【0078】
【化7】

【0079】
【化8】

【0080】
からなる群から選択される式を有する。
式中:
Qは、S、Se、Te、またはNHであり;
Tは、それぞれ同じかまたは異なるものであり、S、NR6、O、SiR62、Se、Te、およびPR6から選択され;
YはNであり;
6は、水素またはアルキルである。
【0081】
上記縮合多環式複素環式芳香族モノマーは、アルキル、ヘテロアルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択される基でさらに置換されていてもよい。ある実施形態においては、これらの置換基がフッ素化されている。ある実施形態においては、これらの置換基が完全フッ素化されている。
【0082】
ある実施形態においては、上記縮合多環式複素環式芳香族モノマーはチエノ(チオフェン)である。このような化合物は、たとえば、Macromolecules,34,5746−5747(2001);およびMacromolecules,35,7281−7284(2002)において議論されている。ある実施形態においては、このチエノ(チオフェン)は、チエノ(2,3−b)チオフェン、チエノ(3,2−b)チオフェン、およびチエノ(3,4−b)チオフェンから選択される。ある実施形態においては、チエノ(チオフェン)モノマーは、アルキル、ヘテロアルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択される少なくとも1つの基でさらに置換されている。ある実施形態においては、これらの置換基がフッ素化されている。ある実施形態においては、これらの置換基が完全フッ素化されている。
【0083】
ある実施形態においては、新規組成物中のポリマーを形成するために使用が考慮される多環式複素環式芳香族モノマーは式VIを含み:
【0084】
【化9】

【0085】
式中:
Qは、S、Se、Te、またはNR6であり;
Tは、S、NR6、O、SiR62、Se、Te、およびPR6から選択され;
Eは、アルケニレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンから選択され;
R6は、水素またはアルキルであり;
12は、それぞれ同じかまたは異なるものであり、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、エステルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;あるいは両方のR12基が一緒になってアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成して、3、4、5、6、または7員の芳香環または脂環式環を完成させてもよく、その環は場合により1つまたは複数の二価の窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、または酸素原子を含んでもよい。
【0086】
ある実施形態においては、本発明の導電性ポリマーは、前駆体モノマーと少なくとも1つの第2のモノマーとのコポリマーである。コポリマーに望まれる性質に悪影響を及ぼさないのであれば、あらゆる種類の第2のモノマーを使用することができる。ある実施形態においては、第2のモノマーが、モノマー単位の総数を基準にしてポリマーの50%以下を構成する。ある実施形態においては、第2のモノマーが、モノマー単位の総数を基準にして30%以下を構成する。ある実施形態においては、第2のモノマーが、モノマー単位の総数を基準にして10%以下を構成する。
【0087】
第2のモノマーの代表的な種類としては、アルケニル、アルキニル、アリーレン、およびヘテロアリーレンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第2のモノマーの例としては、限定するものではないが、フルオレン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾチアジアゾール、フェニレンビニレン、フェニレンエチニレン、ピリジン、ジアジン類、およびトリアジン類が挙げられ、これらすべてがさらに置換されていてもよい。
【0088】
ある実施形態においては、本発明のコポリマーは、最初に構造A−B−Cを有する中間前駆体モノマーを形成することによって製造され、式中、AおよびCは、同じかまたは異なっていてもよい前駆体モノマーを表し、Bは第2のモノマーを表す。このA−B−C中間前駆体モノマーは、ヤマモト(Yamamoto)、スティル(Stille)、グリニャール(Grignard)メタセシス、スズキ(Suzuki)、およびネギシ(Negishi)カップリングなどの標準的な合成有機技術を使用して調製することができる。次に、この中間前駆体モノマー単独で酸化重合させる、または1つまたは複数の別の前駆体モノマーとともに酸化重合させることによって、本発明のコポリマーが形成される。
【0089】
ある実施形態においては、導電性ポリマーは、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリマー縮合多環式複素環式芳香族、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0090】
ある実施形態においては、導電性ポリマーは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、非置換ポリアニリン、非置換ポリピロール、ポリ(4−アミノインドール)、ポリ(7−アミノインドール)、ポリ(チエノ(2,3−b)チオフェン)、ポリ(チエノ(3,2−b)チオフェン)、およびポリ(チエノ(3,4−b)チオフェン)からなる群から選択される。
【0091】
b.非フッ素化ポリマー酸
導電性ポリマーをドープすることが可能なあらゆる非フッ素化ポリマー酸を、新規複合分散体の製造に使用することができる。ある実施形態においては、非フッ素化ポリマー酸は10%未満がフッ素化されており;ある実施形態においては1%未満がフッ素化されている。ある実施形態においては、非フッ素化ポリマー酸はフッ素を全く有さない。
【0092】
このような酸をポリチオフェン類、ポリアニリン類、およびポリピロール類などの導電性ポリマーとともに使用することは、当技術分野において周知である。酸性基の例としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、ホスホン酸基、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。酸性基はすべて同じであってもよいし、ポリマーが2種類以上の酸性基を有することもできる。
【0093】
一実施形態においては、酸は、非フッ素化ポリマースルホン酸である。この酸の一部の非限定的な例は、ポリ(スチレンスルホン酸)(「PSSA」)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(「PAAMPSA」)、およびそれらの混合物である。
【0094】
存在する非フッ素化ポリマー酸の量は、一般に、導電性ポリマーの電荷に釣り合わせるために必要な量よりも過剰な量である。ある実施形態においては、非フッ素化ポリマー酸の酸当量の、導電性ポリマーのモル当量に対する比が1〜5の範囲内である。
【0095】
本発明の新規複合分散体中のドープした導電性ポリマーの量は、分散体の全重量を基準にして、一般に少なくとも0.1重量%である。ある実施形態においては、この重量%は0.2〜5である。
【0096】
ドープしたポリマーから作製したフィルムの導電率は1×10-3〜1×10-7S/cmの範囲にある。
【0097】
c.ドープした導電性ポリマーの作製
ドープした導電性ポリマーは、水性媒体中の非フッ素化ポリマー酸の存在下での前駆体モノマーの酸化重合によって形成される。このようなモノマーの酸化重合は周知となっている。過硫酸ナトリウムまたは過硫酸カリウムなどの酸化剤を使用することができる。場合により、硫酸第二鉄などの触媒を使用することもできる。得られる生成物は、ドープした導電性ポリマーの水性分散体となる。
【0098】
ドープした導電性ポリマーの一部は市販されている。例としては、H.C. StarckよりClevios(商標)(以前はBaytron−Pと呼ばれていた)として販売されるPEDOT/PSSA、およびAldrich Chemicalより販売されるPPy/PSSAが挙げられる。
【0099】
3.高フッ素化酸ポリマー
高フッ素化酸ポリマー(「HFAP」)は、本発明の新規複合分散体から作製されるフィルムの仕事関数を高めるために使用される。HFAPは、高フッ素化されていて、酸性プロトンを有する酸性基を有するあらゆるポリマーであってよい。酸性基は、イオン化可能なプロトンを提供する。ある実施形態においては、酸性プロトンは3未満のpKaを有する。ある実施形態においては、酸性プロトンは0未満のpKaを有する。ある実施形態においては、酸性プロトンは−5未満のpKaを有する。酸性基は、ポリマー主鎖に直接結合していてもよいし、ポリマー主鎖上の側鎖に結合していてもよい。酸性基の例としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、ホスホン酸基、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。酸性基はすべてが同じものである場合もあるし、ポリマーが2種類以上の酸性基を有することもできる。ある実施形態においては、酸性基は、スルホン酸基、スルホンアミド基、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0100】
ある実施形態においては、HFAPは少なくとも90%がフッ素化されており;ある実施形態においては少なくとも95%がフッ素化されており;ある実施形態では完全フッ素化されている。
【0101】
ある実施形態においては、HFAPは水溶性である。ある実施形態においては、HFAPは水に対して分散性である。ある実施形態においては、HFAPは有機溶媒に対してぬれ性である。
【0102】
好適なポリマー主鎖の例としては、限定するものではないが、ポリオレフィン類、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリイミド類、ポリアミド類、ポリアラミド類、ポリアクリルアミド類、ポリスチレン類、およびそれらのコポリマーが挙げられ、これらのすべてが高フッ素化されており;ある実施形態においては、完全フッ素化されている。
【0103】
一実施形態においては、酸性基は、スルホン酸基またはスルホンイミド基である。スルホンイミド基は次式を有し:
−SO2−NH−SO2−R
式中、Rはアルキル基である。
【0104】
一実施形態においては、酸性基はフッ素化側鎖上にある。一実施形態においては、フッ素化側鎖は、アルキル基、アルコキシ基、アミド基、エーテル基、およびそれらの組み合わせから選択され、それらすべては完全フッ素化される。
【0105】
一実施形態においては、HFAPは、高フッ素化オレフィン主鎖を有し、高フッ素化アルキルスルホネート基、高フッ素化エーテルスルホネート基、高フッ素化エステルスルホネート基、または高フッ素化エーテルスルホンイミド基のペンダント基を有する。一実施形態においては、HFAPは、パーフルオロ−エーテル−スルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィンである。一実施形態においては、このポリマーは、1,1−ジフルオロエチレンと2−(1,1−ジフルオロ−2−(トリフルオロメチル)アリルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマーである。一実施形態においては、このポリマーは、エチレンと、2−(2−(1,2,2−トリフルオロビニルオキシ)−1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマーである。これらのコポリマーは、対応するフッ化スルホニルポリマーとして製造することができ、後にスルホン酸形態に変換することができる。
【0106】
一実施形態においては、本発明のHFAPは、フッ素化および部分フッ素化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)のホモポリマーまたはコポリマーである。このコポリマーはブロックコポリマーであってよい。
【0107】
一実施形態においては、本発明のHFAPは、式IXを有するスルホンイミドポリマーであり:
【0108】
【化10】

【0109】
式中:
fは、高フッ素化アルキレン、高フッ素化ヘテロアルキレン、高フッ素化アリーレン、および高フッ素化ヘテロアリーレンから選択され、1つ以上のエーテル酸素で置換されていてもよく;
nは少なくとも4である。
【0110】
式IXの一実施形態においては、Rfはパーフルオロアルキル基である。一実施形態においては、Rfはパーフルオロブチル基である。一実施形態においては、Rfはエーテル酸素を含有する。一実施形態においては、nは10を超える。
【0111】
一実施形態においては、本発明のHFAPは、高フッ素化ポリマー主鎖および式Xを有する側鎖を含み:
【0112】
【化11】

【0113】
式中:
15は、高フッ素化アルキレン基または高フッ素化ヘテロアルキレン基であり;
16は、高フッ素化アルキル基または高フッ素化アリール基であり;
aは0または1〜4の整数である。
【0114】
一実施形態においては、本発明のHFAPは式XIを有し:
【0115】
【化12】

【0116】
式中:
16は、高フッ素化アルキル基または高フッ素化アリール基であり;
cは独立して0または1〜3の整数であり;
nは少なくとも4である。
【0117】
HFAPの合成は、たとえば、Feiringら,J.Fluorine Chemistry 2000,105,129−135;Feiringら,Macromolecules 2000,33,9262−9271;Desmarteau),J.Fluorine Chem.1995,72,203−208;Applebyら,J.Electrochem.Soc.1993,140(1),109−111;およびDesmarteauの米国特許第5,463,005号明細書に記載されている。
【0118】
一実施形態においては、HFAPは、少なくとも1種類の高フッ素化エチレン系不飽和化合物から誘導される繰り返し単位も含む。パーフルオロオレフィンは2〜20個の炭素原子を含む。代表的なパーフルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ−(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、CF2=CFO(CF2tCF=CF2(式中、tは1または2である)、およびRf’’OCF=CF2(式中Rf’’は1〜約10個の炭素原子の飽和パーフルオロアルキル基である)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態においては、コモノマーはテトラフルオロエチレンである。
【0119】
一実施形態においては、本発明のHFAPはコロイド形成性ポリマー酸である。本明細書において使用される場合、用語「コロイド形成性」は、水に対して不溶性であり、水性媒体中に分散させた場合にコロイドを形成する材料を意味する。コロイド形成性ポリマー酸は、通常、約10,000〜約4,000,000の範囲内の分子量を有する。一実施形態においては、このポリマー酸は約100,000〜約2,000,000の分子量を有する。コロイドの粒度は、通常2ナノメートル(nm)〜約140nmの範囲内である。一実施形態においては、このコロイドは2nm〜約30nmの粒度を有する。酸性プロトンを有するあらゆる高フッ素化コロイド形成性ポリマー材料を使用することができる。本明細書において前述したポリマーの一部は、非酸形態、たとえば、塩、エステル、またはフッ化スルホニルとして形成することができる。後述するように、これらは、導電性組成物を調製するために酸形態に変換される。
【0120】
ある実施形態においては、HFAPは高フッ素化炭素主鎖と、式
−(O−CF2CFRf3a−O−CF2CFRf4SO35
(上式中、Rf3およびRf4は独立に、F、Cl、または1〜10個の炭素原子を有する高フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1または2であり、E5
によって表される側鎖とを含む。場合により、E5はLi、Na、またはKなどの陽イオンであってよく、酸の形態に変換することができる。
【0121】
ある実施形態においては、HFAPは、米国特許第3,282,875号明細書、ならびに米国特許第4,358,545号明細書および第4,940,525号明細書に開示されるポリマーであってよい。ある実施形態においては、HFAPは、パーフルオロカーボン主鎖と、式
−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO35
(式中、E5は前出の定義の通りである)
によって表される側鎖とを含む。この種類のHFAPは、米国特許第3,282,875号明細書に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)と、過フッ素化ビニルエーテルのCF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO2F(パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF))との共重合の後、スルホニルフルオリド基の加水分解によってスルホネート基に変換し、必要に応じてイオン交換することによってそれらを所望のイオン形態に変換することによって製造することができる。米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,940,525号明細書に開示されている種類のポリマーの一例は、側鎖−O−CF2CF2SO35を有し、式中のE5は前出の定義の通りである。このポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)と、過フッ素化ビニルエーテルのCF2=CF−O−CF2CF2SO2F(パーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF))との共重合の後、加水分解し、さらに必要に応じてイオン交換することによって製造することができる。
【0122】
HFAPの一種は、水性Nafion(登録商標)分散体として本件特許出願人より市販されている。
【0123】
本明細書に記載の複合分散体中、HFAPの酸当量の、非フッ素化ドープ酸の酸当量に対する比は少なくとも0.1で、2以下であり;ある実施形態においては、1以下である。
【0124】
ある実施形態においては、HFAPを高沸点溶媒中に溶解または分散させることができる。
【0125】
4.非導電性酸化物ナノ粒子
本発明の酸化物ナノ粒子は、電気絶縁性であり、累積50%の体積分布において50nm以下の粒度を有する。ある実施形態においては、粒度は20nm以下であり;ある実施形態においては10nm以下であり;ある実施形態においては5nm以下である。
【0126】
酸化物は、1種類の酸化物、または2種類以上の酸化物の混合物のいずれであってもよい。ナノ粒子の形状は、たとえば、球状、細長い形状、鎖状、針状、コアシェルナノ粒子、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0127】
電気絶縁性酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化チタン類、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化第二銅、酸化第二スズ、酸化アンチモン、酸化タンタル類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。2種類以上の酸化物ナノ粒子の組み合わせを使用することができる。ある実施形態においては、電気絶縁性酸化物ナノ粒子は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0128】
酸化物ナノ粒子は、選択された酸化物、および多成分酸化物の蒸発によって、または無機化合物、たとえば四塩化ケイ素の気相加水分解によって製造することができる。加水分解性金属化合物、特に種々の元素のアルコキシド類を使用したゾルゲル化学によって、加水分解および重縮合のいずれかで反応させて、多成分および多次元の網目構造酸化物を生成することもできる。
【0129】
本発明の新規分散体中の電気絶縁性酸化物ナノ粒子の重量パーセント値は、分散体の全重量を基準として1〜20重量%の範囲内であり;ある実施形態においては5〜10重量%の範囲内である。他の固体の合計(ドープした導電性ポリマー、HFAP、および場合による添加剤)に対する電気絶縁性酸化物ナノ粒子の重量比は少なくとも0.5であり;ある実施形態においては少なくとも2である。導電性ポリマーに対する電気絶縁性酸化物ナノ粒子の重量比は0.5〜10の範囲内であり;ある実施形態においては2〜5の範囲内である。
【0130】
5.新規複合分散体およびフィルムの作製
以下の考察において、ドープした導電性ポリマー、HFAP、および電気絶縁性酸化物ナノ粒子は、単数形で言及される。しかし、これらのいずれかまたはすべてを2種類以上で使用できることを理解されたい。
【0131】
本発明の新規複合分散体は、ドープした導電性ポリマーを形成し、次にHFAP、電気絶縁性酸化物ナノ粒子、および場合による添加剤を任意の順序で加えることによって調製される。
【0132】
ドープした導電性ポリマーは一般に、水性媒体中、非フッ素化ポリマー酸の存在下での前駆体モノマーの酸化重合によって形成される。これらの材料の多くは市販されている。HFAPは最初に、溶媒または溶媒/水混合物中に溶解または分散させることができる。電気絶縁性酸化物ナノ粒子も同様に水または溶媒/水混合物中に分散させることができる。次にこれらの混合物を、ドープした導電性ポリマー水性分散体に加えることができる。電気絶縁性酸化物ナノ粒子は、HFAPとともに、またはドープした導電性ポリマーとともに分散させることもできる。
【0133】
あるいは、電気絶縁性酸化物ナノ粒子は、ドープした導電性ポリマー分散体に固体として直接加えることができる。HFAPをこの混合物に加えることができる。
【0134】
場合による添加剤が存在する場合、それは任意の時点で加えることができる。添加剤は、水または溶媒/水混合物中の分散体として加えることができるし、固体として直接加えることもできる。
【0135】
ある実施形態においては、電気絶縁性酸化物ナノ粒子、および場合により添加剤を加える前または後のいずれかで、pHを上昇させる。電気絶縁性酸化物ナノ粒子、および場合により添加剤を加える前に、陽イオン交換樹脂および/または塩基性樹脂で処理することによってpHを調整することができる。ある実施形態においては、pHは塩基水溶液を加えることによって調整される。この塩基の陽イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、およびアルキルアンモニウムであってよいが、これらに限定されるものではない。ある実施形態においては、アルカリ土類金属陽イオンよりもアルカリ金属の方が好ましい。
【0136】
本明細書に記載の新規複合水性分散体から作製されるフィルムを、本明細書では以降「本明細書に記載の新規フィルム」と呼ぶ。これらのフィルムは、連続技術および不連続技術などのあらゆる液相堆積技術を使用して作製することができる。連続堆積技術としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、および連続ノズルコーティングが挙げられるが、これらに限定されるものではない。不連続堆積技術としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0137】
こうして形成されたフィルムは、平滑で比較的透明である。
【0138】
少なくとも1種類の非フッ素化ポリマー酸でドープした導電性ポリマーの水性分散体から作製したフィルムは、低い仕事関数を有することが多い。高フッ素化ポリマー酸を加えることで、仕事関数を増加させることができる。しかし、高フッ素化材料を含有するフィルムは、一般に非常に低い表面エネルギーを有し、有機溶媒に対してぬれ性でない。驚くべきことで予期せぬことに、本明細書に記載の新規フィルムは有機溶媒に対してぬれ性である。ある実施形態においては、新規フィルムは50°未満の接触角で非極性有機溶媒に対してぬれ性である。ある実施形態においては、新規フィルムは、40°以下;ある実施形態においては35°以下の接触角でトルエンまたはp−キシレンに対してぬれ性である。ある実施形態においては、新規フィルムは50°以下;ある実施形態においては45°以下の接触角でアニソールに対してぬれ性である。接触角の測定方法は周知である。
【0139】
本明細書に記載の新規フィルムは高い仕事関数を有する。ある実施形態においては、仕事関数は5.3を超え;ある実施形態においては5.5を超える。低強度X線光電子放出分光器(LIXPS)は、Y.YiらによってJournal of Applied Physics 100,093719(2006)に記載されるように、導電率が低いまたはフォトン放射線に対して敏感な試料の仕事関数の測定に非常に有用であることが示されている技術である。従来の仕事関数測定技術である紫外線光電子分光器(UPS)と比較すると、この技術は、充電または光化学反応などの光放射によって誘導されるアーティファクトを回避するために、非常に低強度のX線(元素分析用のXPSの典型的なX線よりも1桁小さく、UPSの市販のUV源よりも2から3桁小さい)を使用しており、そのため仕事関数を正確に測定することができる。
【0140】
6.正孔注入層
有機発光ダイオード(OLED)は、エレクトロルミネッセンスが可能な有機層を含む有機電子デバイスである。OLEDは、以下の構成:
アノード/正孔注入層/EL材料/カソード
を有することができ、電極の間に追加の層を有することができる。10-3〜10-7S/cmの範囲内の低い導電率を有する導電性ポリマーが、ITOなどの導電性無機酸化物アノードと直接接触する正孔注入層として一般に使用される。
【0141】
本発明の別の一実施形態においては、新規複合分散体から堆積される正孔注入層を提供する。用語「正孔注入層」または「正孔注入材料」は、電気伝導性材料または半導体材料を意味することを意図しており、限定するものではないが、下にある層の平坦化、電荷輸送および/または電荷注入特性、酸素または金属イオンなどの不純物の捕捉、ならびに有機電子デバイスの性能を促進または改善する他の特徴などの、1つまたは複数の機能を有機電子デバイス中で有することができる。用語「層」は、用語「フィルム」と同義に使用され、希望する領域を覆うコーティングを意味する。この用語は大きさによって限定されることはない。この領域は、デバイス全体の大きさであってもよいし、実際の視覚的表示などの特殊な機能の領域の小ささ、または1つのサブピクセルの小ささであってもよい。層およびフィルムは、気相堆積、液相堆積(連続技術および不連続技術)、および熱転写などの従来のあらゆる堆積技術によって形成することができる。連続堆積技術としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、および連続ノズルコーティングが挙げられるが、これらに限定されるものではない。不連続堆積技術としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0142】
7.電子デバイス
本明細書に記載の新規フィルムは、高い仕事関数が透明性とともに望まれる電子デバイス中に使用することができる。ある実施形態においては、フィルムは電極として使用される。ある実施形態においては、フィルムは正孔注入層として使用される。
【0143】
電子デバイスの例としては:(1)電気エネルギーを放射線に変換するデバイス(たとえば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、ダイオードレーザー、または照明パネル)、(2)電子的過程を介して信号を検出するデバイス(たとえば、光検出器、光導電セル、フォトレジスタ、光スイッチ、光トランジスタ、光電管、赤外(「IR」)検出器、またはバイオセンサー)、(3)放射線を電気エネルギーに変換するデバイス(たとえば、光起電力デバイスまたは太陽電池)、(4)1つ以上の有機半導体層を含む1つ以上の電子部品(たとえば、トランジスタまたはダイオード)を含むデバイス、(5)電解コンデンサ、または項目(1)〜(5)のデバイスのあらゆる組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0144】
ある実施形態においては、2つの電気接触層の間に配置された少なくとも1つの電気活性層を含み、本発明の新規正孔注入層をさらに含む電子デバイスを提供する。用語層または材料に言及する場合の「電気活性」は、電子的または電気放射的(electro−radiative)性質を示す層または材料を意味することを意図している。電気活性層材料は、放射線を発する場合もあるし、放射線を受けた場合に電子−正孔対の濃度変化を示す場合もある。
【0145】
図1に示されるように、デバイスの一実施形態100は、アノード層110、電気活性層140、およびカソード層160を有する。同じく、正孔注入層120;場合により使用される正孔輸送層130;および場合により使用される電子注入/輸送層150も示されている。
【0146】
このデバイスは、アノード層110またはカソード層160に隣接することができる支持体または基体(図示せず)を含むことができる。ほとんどの場合、支持体はアノード層110に隣接している。支持体は、可撓性の場合も剛性の場合もあるし、有機の場合も無機の場合もある。支持体材料の例としては、ガラス、セラミック、金属、およびプラスチックフィルムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0147】
アノード層110は、カソード層160よりも正孔の注入が効率的な電極である。したがって、アノードは、カソードよりも高い仕事関数を有する。アノードとしては、金属、混合金属、合金、金属酸化物、または混合酸化物を含有する材料を挙げることができる。好適な材料としては、2族元素(すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、11族元素、4族、5族、および6族の元素、ならびに8〜10族の遷移元素の混合酸化物が挙げられる。アノード層110が光透過性となるべき場合には、12族、13族、および14族の元素の混合酸化物を使用することができる。本明細書において使用される場合、「混合酸化物」という語句は、2族元素、あるいは12族、13族、または14族の元素から選択される2種類以上の異なる陽イオンを有する酸化物を意味する。好適な材料の例としては、インジウム−スズ−酸化物(「ITO」)、インジウム−亜鉛−酸化物(「IZO」)、アルミニウム−スズ−酸化物(「ATO」)、アルミニウム−亜鉛−酸化物(「AZO」)、ジルコニウム−スズ−酸化物(「ZTO」)、金、銀、銅、およびニッケルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0148】
ある実施形態においては、混合酸化物層はパターン化される。このパターンは希望通りに変化させることができる。この層は、たとえば不連続堆積技術を使用することによってパターンを形成することができる。あるいは、層は、全体の層として適用することができ(ブランケット堆積とも呼ばれる)、続いて、たとえば、パターン化されたレジスト層と湿式化学エッチングまたはドライエッチング技術とを使用してパターン化することができる。当技術分野において周知の他のパターニング方法を使用することもできる。
【0149】
正孔注入層120は、本明細書に記載の新規フィルムを含む。ある実施形態においては、正孔注入層は、本明細書に記載の水性組成物から作製したフィルムから実質的になる。
【0150】
ある実施形態においては、場合により使用される正孔輸送層130が正孔注入層120と電気活性層140との間に存在する。正孔輸送層用の正孔輸送材料の例は、たとえば、Y.WangによりKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Fourth Edition,Vol.18,p.837−860,1996にまとめられている。正孔輸送小分子および正孔輸送ポリマーの両方を使用することができる。一般に使用される正孔輸送分子としては:4,4’,4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(TDATA);4,4’,4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(MTDATA);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD);4−4’ビス(カルバゾール−9−イル)ビペニル(CBP);1−3’ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(mCP);1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC);N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD);テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA);α−フェニル−4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS);p−(ジエチルアミノ)−ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH);トリフェニルアミン(TPA);ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル](4−メチルフェニル)メタン(MPMP);1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP);1,2−trans−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB);N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB);N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス−(フェニル)ベンジジン(α−NPB);および銅フタロシアニンなどのポルフィリン系化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般に使用される正孔輸送ポリマーとしては、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、ポリ(ジオキシチオフェン)類、ポリアニリン類、およびポリピロール類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリスチレンやポリカーボネートなどのポリマー中に、上述のものなどの正孔輸送分子をドープすることによって、正孔輸送ポリマーを得ることもできる。場合により、トリアリールアミンポリマー類、特にトリアリールアミン−フルオレンコポリマー類が使用される。場合により、これらのポリマー類およびコポリマー類は架橋性である。架橋性正孔輸送ポリマー類の例は、たとえば、米国特許出願公開第2005−0184287号明細書および国際公開第2005/052027号パンフレットに見ることができる。ある実施形態においては、正孔輸送層は、テトラフルオロテトラシアノキノジメタンおよびペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物などのp−ドーパントでドープされる。
【0151】
デバイスの用途に依存するが、電気活性層140は、印加電圧によって活性化される発光層(発光ダイオードまたは発光電気化学セル中など)、放射エネルギーに応答し、バイアス電圧の印加を伴ってまたは伴わずに信号を発生する材料の層(光検出器中など)であってよい。一実施形態においては、電気活性材料は、有機エレクトロルミネッセンス(「EL」)材料である。限定するものではないが、小分子有機蛍光化合物、蛍光性およびリン光性の金属錯体、共役ポリマー、ならびにそれらの混合物などのあらゆるEL材料をデバイス中に使用することができる。蛍光化合物の例としては、クリセン類、ピレン類、ペリレン類、ルブレン類、クマリン類、アントラセン類、チアジアゾール類、それらの誘導体、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属錯体の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物;ペトロフ(Petrov)らの米国特許第6,670,645号明細書、ならびに国際公開第03/063555号パンフレットおよび国際公開第2004/016710号パンフレットに開示されるような、フェニルピリジン配位子、フェニルキノリン配位子、またはフェニルピリミジン配位子を有するイリジウムの錯体などのシクロメタレート化イリジウムおよび白金エレクトロルミネッセンス化合物、ならびに、たとえば国際公開第03/008424号パンフレット、国際公開第03/091688号パンフレット、および国際公開第03/040257号パンフレットに記載されるような有機金属錯体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。場合により、加工特性および/または電子特性を改善するために、小分子蛍光材料または有機金属材料がドーパントとしてホスト材料とともに堆積される。共役ポリマーの例としては、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリ(スピロビフルオレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレン)、それらのコポリマー、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0152】
場合により使用される電子輸送層150は、電子の注入/輸送の両方を促進する機能を果たす場合もあるし、層界面における消光反応を防止する閉じ込め層として機能する場合もある。より具体的には、層150は、電子の移動を促進し、この層がなければ層140および160が直接接触する場合の消光反応の可能性を減少させることができる。場合による電子輸送層150中に使用可能な電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(AlQ)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、テトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ハフニウム(HfQ)、およびテトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ジルコニウム(ZrQ)などの金属キノレート誘導体などのなどの金属キレート化オキシノイド化合物;ならびに2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、および1,3,5−トリ(フェニル−2−ベンゾイミダゾール)ベンゼン(TPBI)などのアゾール化合物;2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンなどのキノキサリン誘導体;4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DPA)および2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DDPA)などのフェナントロリン類;ならびにそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態においては、電子輸送層はn−ドーパントをさらに含む。n−ドーパントの例としては、Csまたはその他のアルカリ金属類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0153】
カソード層160は、電子または負電荷キャリアの注入に特に有効な電極である。カソード層160は、第1の電気接触層(この場合はアノード層110)よりも低い仕事関数を有するあらゆる金属または非金属であってよい。カソード160は、電子または負電荷キャリアの注入に特に有効な電極である。カソードは、アノードよりも低い仕事関数を有するあらゆる金属または非金属であってよい。カソード用の材料は、1族のアルカリ金属(たとえば、Li、Cs)、2族(アルカリ土類)金属、12族金属、たとえば希土類元素およびランタニド、ならびにアクチニドから選択することができる。アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウム、サマリウム、およびマグネシウムなどの材料、ならびにそれらの組み合わせを使用することができる。動作電圧を低下させるために、Li含有有機金属化合物、LiF、Li2O、Cs含有有機金属化合物、CsF、Cs2O、およびCs2CO3を有機層とカソード層との間に堆積することもできる。この層は電子注入層と呼ばれる場合がある。
【0154】
通常、カソード層160は、化学蒸着法または物理蒸着法によって形成される。ある実施形態においては、カソード層は、アノード層110に関して前述したように、パターン化することができる。
【0155】
デバイス中の他の層は、そのような層が果たすべき機能を考慮することによってそのような層に有用であることが知られているあらゆる材料でできていてよい。
【0156】
ある実施形態においては、水および酸素などの望ましくない成分がデバイス100内に入るのを防止するために、接触層160の上に封入層(図示せず)が堆積される。このような成分は、有機層140に対して悪影響を及ぼす場合がある。一実施形態においては、封入層は障壁層またはフィルムである。一実施形態においては、封入層はガラス蓋である。
【0157】
図示していないが、デバイス100が追加の層を含むことができることは理解できよう。当技術分野において周知である別の層、またはその他の別の層を使用することができる。さらに、前述のいずれかの層は、2つ以上の副層を含む場合があるし、層状構造を形成している場合もある。あるいは、アノード層110、正孔注入層120、正孔輸送層130、電子輸送層150、カソード層160、および別の層の一部またはすべては、電荷担体輸送効率またはデバイスの他の物理的性質を向上させるために、処理、特に表面処理を行うことができる。各構成層の材料の選択は、デバイスの稼働寿命を考慮して高いデバイス効率を有するデバイスを得ること、製造時間、および複雑な要因、ならびに当業者に認識されている他の問題点の目標の釣り合いを取ることによって、好ましくは決定される。最適な構成要素、構成要素の構成、および組成の決定は、当業者の日常的な作業であることは理解できるであろう。
【0158】
一実施形態においては、種々の層は以下の範囲の厚さを有する:アノード110、500〜5000Å、一実施形態においては1000〜2000Å;正孔注入層120、50〜2000Å、一実施形態においては200〜1000Å;場合による正孔輸送層130、50〜2000Å、一実施形態においては100〜1000Å;電気活性層140、10〜2000Å、一実施形態においては100〜1000Å;場合による電子輸送層150、50〜2000Å、一実施形態においては100〜1000Å;カソード160、200〜10000Å、一実施形態においては300〜5000Å。デバイス中の電子−正孔再結合領域の位置、したがってデバイスの発光スペクトルは、各層の相対厚さによって影響されうる。たとえば、電子−正孔再結合領域が発光層中に存在するように、電子輸送層の厚さを選択すべきである。層の厚さの望ましい比は、使用される材料の厳密な性質に依存する。
【0159】
動作中、適切な電源(図示せず)からの電圧がデバイス100に印加される。したがって、デバイス100の層全体に電流が流れる。電子が有機ポリマー層に入り、フォトンを放出する。アクティブマトリックスOLEDディスプレイと呼ばれる一部のOLEDでは、光活性有機フィルムの個別の堆積物を、電流の流れによって独立に励起させることができ、それによって個別のピクセルを発光させることができる。パッシブマトリックスOLEDディスプレイと呼ばれる一部のOLEDでは、光活性有機フィルムの堆積物は、電気接触層の横列および縦列によって励起させることができる。
【0160】
本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料を使用して、本発明の実施形態の実施または試験を行うことができるが、好適な方法および材料については以下に説明する。本明細書において言及されるあらゆる刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、特に明記しない限り、それらの記載内容全体が参照により援用される。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、および実施例は、単に説明的なものであって、限定を意図したものではない。
【0161】
明確にするため、別々の実施態様の状況で、前述または後述される本発明の特定の特徴は、1つの実施態様において組み合わせて提供することもできることを理解されたい。逆に、簡潔にするため、1つの実施態様の状況で説明される本発明の種々の特徴を、別々に提供したり、あらゆる副次的な組み合わせで提供したりすることもできる。さらに、複数の値が複数の範囲内にあると言及されている場合、そのそれぞれの値がそれらの範囲内に含まれる。
【実施例】
【0162】
電気抵抗の測定および導電率の計算の一般手順:
各分散体試料1滴を、3インチ×1インチの顕微鏡用スライドガラスの上に広げて、スライドガラスの2/3の領域を覆うようにした。過剰の液体は、スライドガラスの一端を傾けて、ティッシュで吸い取った。液体の平滑で均一な層が確保された後、スライドガラスを平坦な表面上に置いて、室温で最初の乾燥を行った。次にスライドガラスを、160℃に設定したホットプレート上に10分間置いた。全体の作業は空気中で行った。フィルムを有するスライドガラスをホットプレートから取り外し、カミソリの刃でフィルムを長いストリップに切断した。ストリップの幅は0.2cm〜0.7cmの範囲であり、長さは約3cmであった。次にストリップの長さ方向に対して垂直に銀ペーストを塗布して、4つの電極を形成した。平行な2つの内部電極は、約0.3cm〜0.5cm離れており、電圧測定用のKeithley model 616電位計に接続し、残りの2つの平行な電極に、Keithley model 225 Current Sourceによって供給される既知の電流を印加した。室温において得られた一連の対応する電流/電圧データを記録して、オームの法則に従うかどうかを調べた。実施例および比較例のすべての試料がオームの法則に従い、対応する電流/電圧データに関してある程度同じ抵抗が得られた。測定を行った後、2つの内側の電極中の領域の厚さをプロフィルメーターで測定した。抵抗、厚さ、2つの内側電極の間の長さ、およびフィルムストリップの幅が既知であるので、導電率が計算される。導電率の単位はS/cm(ジーメンス/センチメートル)で表される。
【0163】
仕事関数測定の一般手順:
最初に、1cm×1cmのITOを水およびイソプロパノールで洗浄し、次に5分間UV−ozneを行い、次に比較例および実施例に記載される各試料をスピンコーティングした。各分散体試料3滴をそれぞれのITO基体上に塗布し、次にスピンコーター上8秒間で4,000rpmにして、その速度で1分間維持した。次に、コーティングされた試料を、空気中140℃で7分間焼き付けした。試料を空気中で冷却した後、低強度X線光電子放出分光法(LIXPS)のチャンバー中に1つずつ入れた。試料を、層流フード(空気中)中のチタン製試料ホルダー上に取り付ける。電気接触は、オーム計で試料の表面(コーナー上)および試料ホルダーを検査することによって確認する。次に試料およびホルダーをロードロック中で大気圧から超高真空(UHV)までポンプで減圧する。試料を、約2×10-11Torrのベース圧力および約1×10-10〜2×10-10Torrの動作圧力の分析チャンバーまで移動させる。
【0164】
本出願において提供されるLIXPS実験は、Mgアノード(Mg Kα、1253.6eV、ガンから試料までの距離約6cm)を有するXR50 X線源を3W(全出力は200W)で使用する市販の一体型超高真空表面分析システム(SEPCS,Berlin,Germany)中で行った。
【0165】
接触角測定の一般手順:
実施例で調製した各組成物液体2滴を3インチ×2インチの顕微鏡用スライドガラスの上に配置して、表面の3分の2を覆った。この液体を空気中で乾燥させて平滑なフィルムを形成した後、空気中120℃で10分間焼き付けした。次に1滴のp−キシレンまたはアニソールをフィルム上に滴下した。液体とフィルム表面との間の接触をディスプレイ画面上に取り込み、ソフトフェアプログラムを使用して接触角を求めた。
【0166】
ナノ粒子サイズ測定の一般手順:
動的光散乱技術に基づくMicrotrac Nanotracを使用して、種々の濃度で液体中に分散させたナノ粒子を測定した。粒度は、体積分布の累積%の単位でまとめられる。
【0167】
比較例A
この比較例では、非フッ素化ポリマー酸でドープした導電性ポリマーを、過フッ素化酸ポリマーとブレンドしたものの調製および性質を示す。
【0168】
Baytron−P(登録商標)AI4083は、H.C.Starck GmbH(Leverkuson,Germany)製のPEDOT−PSSAの水性分散体である。PEDOT/PSSAは、非フッ素化ポリマー酸のポリ(スチレンスルホン酸)でドープしたポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン)の略記である。製品カタログによると、Baytron−P(登録商標)のPEDOT対PSSAの重量比は1:6である。仕事関数を測定すると5.33eVであった。薄いフィルムの導電率を測定すると1.7×10-4S/cmであり、室温においては7.9×10-4S/cmであった。
【0169】
HFAPは、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸(PSEPVE)とのコポリマーであり、p−(TFE−PSEPVE)と記載される。ブレンドに使用したp−(TFE−PSEPVE)は、酸当量(EW)が1000である水性コロイド分散体であった。EWは、スルホン酸基1つ当たりのポリマーのグラムの単位での重量を意味する。温度が約270℃であったことを除けば米国特許第6,150,426号明細書、実施例1、パート2における手順と類似の手順を使用して、水中のp−(TFE−PSEPVE)の25%(w/w)分散体を作製した。さらに使用するために、この分散体を水で希釈して10.93%(w/w)分散体を作製した。
【0170】
1.5099gのp−(TFE−PSEPVE)を10.0085gのAI4083にゆっくりと加えた。得られた分散体は、2.86%の固形分を有し、p−(TFE−PSEPVE)ポリマーとPSSAとの間の酸当量比は0.22である。本明細書において使用される場合「当量比」は、p−(TFE−PSEPVE)ポリマーの酸当量の値と、PSSAの酸当量の値との比を意味することを意図している。2滴のPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)分散体から薄いフィルムを作製した。この仕事関数を測定すると5.94eVであり、これは高い値であり、正孔注入層としてのOLED用途に効果的である。しかし、接触角はp−キシレンの場合で48.5°であった。この接触角は非常に大きく、表面がこれらの有機溶媒に対してぬれ性でないことを意味している。
【0171】
実施例1
この実施例では、非フッ素化ポリマー酸でドープした導電性ポリマーと、高フッ素化酸ポリマーと、電気絶縁性酸化物ナノ粒子との水性分散体の性質を示す。
【0172】
比較例Aで調製した2.4928gのPEDOT−PSSA/TFE−PSEPVEコポリマー分散体を、エチレングリコール中の21.2%(w/w)のシリカ0.3840gに加えた。このエチレングリコールのシリカは、Houston,TexasのNissan Chemical CompanyよりEG−STとして販売されている。このPEDOT−PSSA/TFE−PSEPVEコポリマー/シリカ分散体は、5.31重量%の全固形分を有し、その2.83%がシリカであり、残りの2.48%がPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)である。全固形分に対するシリカの重量%は53.3%である。EG−STに由来して存在するエチレングリコールは、分散体の全重量を基準として10.5重量%である。
【0173】
2滴のPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)/シリカ分散体から薄いフィルムを作製し、その仕事関数を測定すると5.72eVであり、この値は、比較例Aの材料と比較して、シリカを有することでわずかに0.24eV低下しているが、正孔注入層としてのOLED用途として依然として非常に高い。さらに、p−キシレンに対する接触角は、p−キシレンの場合で48.5°から29°に減少した。この接触角の減少は非常に重要であり、これはフィルム表面がこれらの有機溶媒に対して非常に高いぬれ性であることを意味する。
【0174】
エチレングリコール中のシリカ分散体の粒度は、累積50%の体積分布において約3.9ナノメートル(nm)である。この粒度は非常に小さく、そのためPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)フィルム表面をぬれ性にするのに効果的となっている。
【0175】
表1は、3つの濃度におけるエチレングリコール中のシリカ分散体の粒度を示している。累積50%の体積分布において粒度が約3.9ナノメートル(nm)である。
【0176】
【表1】

【0177】
比較例B
この比較例では、HFAPが比較例Aよりも高濃度で存在する、非フッ素化ポリマー酸でドープした導電性ポリマーを高フッ素化酸ポリマーとブレンドしたものの水性分散体の性質を示す。
【0178】
この比較例においては、PEDOT/PSSAおよびp−(TFE−PSEPVE)を使用した。2.7817gのp−(TFE−PSEPVE)を10.0137gのBaytron−P(登録商標)AI4083にゆっくりと加えた。得られた分散体は3.66%(w/w)の固形分を含有し、p−(TFE−PSEPVE)ポリマーとPSSAとの間の酸当量比は0.4である。2滴のPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)分散体から薄いフィルムを作製し、その仕事関数を測定すると6.07eVであり、これは高い値であり、正孔注入層としてのOLED用途に効果的である。しかし、p−キシレンの場合の接触角は48.5°であり、アニソールの場合では55.8°であった。これらの接触角は非常に大きく、フィルム表面は有機溶媒に対してぬれ性ではない。
【0179】
実施例2
この実施例では、非フッ素化ポリマー酸でドープした導電性ポリマーと、高フッ素化酸ポリマーと、電気絶縁性酸化物ナノ粒子との水性分散体の性質を示す。
【0180】
比較例2で調製した3.9980gのPEDOT−PSSA/TFE−PSEPVEコポリマー分散体を、エチレングリコール中21.2%(w/w)のシリカ1.3784gに加えた。このPEDOT−PSSA/TFE−PSEPVEコポリマー/シリカ分散体は、8.16w%の全固形分を有し、5.43%がシリカであり、残りの2.73%はPEDOT−PSSA/p(TFE−PSEPVE)である。全固形分に対するシリカの重量%は66.5%である。EG−ST由来で存在するエチレングリコールは、分散体の全重量を基準として20.2重量%である。
【0181】
2滴のPEDOT−PSSA/p−(TFE−PSEPVE)/シリカ分散体から薄いフィルムを作製し、仕事関数を測定すると5.81eVであり、これはシリカを有することでわずかに0.26eV低下しているが、正孔注入層としてのOLED用途に関しては依然として非常に高い。このシリカ含有分散体からキャストした薄いフィルムの導電率を測定すると、1.7×10-4S/cmであり、室温においては9.3×10-5S/cmであった。この導電率は、Baytron−P(登録商標)AI4083の導電率と類似している。これらのデータから、シリカおよびエチレングリコールを加えることによる導電率への影響はないことが示されている。
【0182】
さらに、p−キシレンおよびアニソールに対する接触角は、それぞれ48.5°から30.3°、および55.8°から48.1°に減少した。この接触角の減少は非常に重要であり、これはフィルム表面がこれらの有機溶媒に対して非常に高いぬれ性であることを意味する。
【0183】
すべての実施例のまとめを以下の表2に示す。
【0184】
【表2】

【0185】
概要または実施例において前述したすべての行為が必要なわけではなく、特定の行為の一部は不要である場合があり、1つまたは複数のさらに別の行為が、前述の行為に加えて実施される場合があることに留意されたい。さらに、行為が列挙されている順序は、必ずしもそれらが実施される順序ではない。
【0186】
以上の明細書において、具体的な実施形態を参照しながら本発明の概念を説明してきた。しかし、当業者であれば、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱せずに種々の修正および変更を行えることが理解できよう。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく説明的なものであると見なすべきであり、すべてのこのような修正は本発明の範囲内に含まれることを意図している。
【0187】
特定の実施形態に関して、利益、その他の利点、および問題に対する解決法を以上に記載してきた。しかし、これらの利益、利点、問題の解決法、ならびに、なんらかの利益、利点、または解決法を発生させたり、より顕著にしたりすることがある、あらゆる特徴が、特許請求の範囲のいずれかまたはすべての重要、必要、または本質的な特徴であるとして解釈すべきではない。
【0188】
別々の実施形態の状況において、明確にするために本明細書に記載されている特定の複数の特徴は、1つの実施形態の中で組み合わせても提供できることを理解されたい。逆に、簡潔にするため1つの実施形態の状況において説明した種々の特徴も、別々に提供したり、あらゆる副次的な組み合わせで提供したりすることができる。
【0189】
本明細書において明記される種々の範囲内の数値が使用される場合、記載の範囲内の最小値および最大値の両方の前に単語「約」が付けられているかのように近似値として記載されている。この方法では、記載の範囲よりもわずかに上およびわずかに下のばらつきを使用して、その範囲内の値の場合と実質的に同じ結果を得ることができる。また、これらの範囲の開示は、ある値の一部の成分を異なる値の一部の成分と混合した場合に生じうる分数値を含めて、最小平均値と最大平均値との間のすべての値を含む連続した範囲であることを意図している。さらに、より広い範囲およびより狭い範囲が開示される場合、ある範囲の最小値を別の範囲の最大値と一致させること、およびその逆のことが本発明の意図の範囲内となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)非フッ素化ポリマー酸でドープした少なくとも1種類の導電性ポリマーと;
(ii)少なくとも1種類の高フッ素化酸ポリマーと;
(iii)電気絶縁性酸化物ナノ粒子と
を含む水性分散体。
【請求項2】
前記導電性ポリマーがポリチオフェン類、ポリ(セレノフェン)類、ポリ(テルロフェン)類、ポリピロール類、ポリアニリン類、多環式芳香族ポリマー類、それらのコポリマー類、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、縮合多環式複素環式芳香族ポリマー、それらのコポリマー類、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の分散体。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、非置換ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、非置換ポリピロール、ポリ(4−アミノインドール)、ポリ(7−アミノインドール)、ポリ(チエノ(2,3−b)チオフェン)、ポリ(チエノ(3,2−b)チオフェン)、およびポリ(チエノ(3,4−b)チオフェン)からなる群から選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
前記高フッ素化酸ポリマーが、少なくとも90%フッ素化されている、請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
前記高フッ素化酸ポリマーがスルホン酸およびスルホンイミドから選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項7】
前記高フッ素化酸ポリマーがパーフルオロ−エーテル−スルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィンである、請求項1に記載の分散体。
【請求項8】
前記高フッ素化酸ポリマーが、1,1−ジフルオロエチレンと2−(1,1−ジフルオロ−2−(トリフルオロメチル)アリルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマー、およびエチレンと2−(2−(1,2,2−トリフルオロビニルオキシ)−1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項9】
前記高フッ素化酸ポリマーが、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸)とのコポリマー、およびテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホン酸)とのコポリマーから選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項10】
前記高フッ素化酸ポリマー対前記非フッ素化ポリマー酸の酸当量比が2以下である、請求項1に記載の分散体。
【請求項11】
前記電気絶縁性酸化物ナノ粒子が50nm以下の粒度を有する、請求項1に記載の分散体。
【請求項12】
非導電性酸化物が、酸化ケイ素、酸化チタン類、酸化ジルコニウム、三酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化サマリウム、酸化イットリウム、酸化セシウム、酸化第二銅、酸化第二スズ、酸化アンチモン、酸化タンタル類、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項13】
前記電気絶縁性酸化物が、二酸化ケイ素、二酸化チタン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の分散体。
【請求項14】
請求項1に記載の分散体から作製されたフィルム。
【請求項15】
請求項1に記載の分散体から作製された少なくとも1つの層を含む電子デバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524834(P2012−524834A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507410(P2012−507410)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/032175
【国際公開番号】WO2010/124166
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】