説明

導電性基板とそれを用いた半導体素子、それらの製造方法

【課題】容易且つ正確にパターニングが行えると共にそのパターニング後に容易且つ正確に異種金属の合金化を行うことができる導電性基板とそれを用いた半導体素子、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁性の樹脂からなるバインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を適宜量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、その成膜パターンの2以上の複数の異種金属微粒子を構成する金属結晶子に効率よく応力を印加し、結晶格子に歪みを発生させ、2以上の複数の異種金属微粒子表面にできる絶縁性の酸化膜を破壊することにより2以上の複数の異種金属微粒子間の導電性接合を形成する手段を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に導電パターンを形成した導電性基板、特に異種金属を主成分とする導電パターンを形成した導電性基板とそれを用いた半導体素子、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日までに、数多くのメカニカルアロイング法(機械的合金化法)が提案され、電池の電極材料や、半導体材料の製造に利用されている(特許文献1、2参照)。これらは、複数の材料を粉末状態で混合し、ボールミルなどを利用して機械的に圧力を印加し合金化する手法が主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−030100号公報
【特許文献2】特開2004−146159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にメカニカルアロイング法は粉末状態の材料に適応される。メカニカルアロイング法では、ボールミル等を用いて材料に局所的に高圧力を印加するようにして材料間で合金化を行う。一方、印刷でパターニングされた導電ペーストに高圧力を印加する場合には、パターンが崩れたり、基板が損傷したりする問題が発生する。また、導電ペースト中にはバインダー樹脂があるため、加圧しても樹脂に応力が分散してしまい、金属微粒子同士が接触し圧力により合金化することは非常に困難である。
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、容易且つ正確にパターニングが行えると共にそのパターニング後に容易且つ正確に異種金属の合金化を行うことができる導電性基板とそれを用いた半導体素子、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、絶縁性の樹脂からなるバインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を適宜量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、その成膜パターンの2以上の複数の異種金属微粒子を構成する金属結晶子に効率よく応力を印加し、結晶格子に歪みを発生させ、2以上の複数の異種金属微粒子表面にできる絶縁性の酸化膜を破壊することにより2以上の複数の異種金属微粒子間の導電性接合を形成する手段を採用する。
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために下記の解決手段を採用する。
(1)導電性基板は、基板と、基板上に設けた導電パターンからなり、導電パターンは、基板側とは反対側の表面及びその近傍を除いて全体的にバインダー中に2以上の複数の異種金属微粒子が分散された構造を有し、表面及びその近傍には2以上の複数の異種金属微粒子が圧延され微粒子同士の導電性接合が形成された表面導電合金層が形成されていることを特徴とする。
(2)表面導電合金層は、バインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を任意量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、2以上の複数の異種金属微粒子を含む成膜パターン表面に対し水平方向と垂直方向への圧力印加と、加熱とを行って形成したものとしたことを特徴とする。
(3)基板をプラスチック基板としたことを特徴とする。
(4)導電パターンの抵抗率を、1×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値としたことを特徴とする。
(5)導電パターンの抵抗率が1×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値、導電パターンの仕事関数が3eV以上で5eV以下の範囲内の任意の値をとることを特徴とする。
(6)半導体素子は、導電パターンの基板側と反対側の上部表面上に接して半導体層もしくは絶縁層もしくは誘電体層、またこれらすべての層を任意の順番で組み合わせたものを設け、その上に上部電極を設けたことを特徴とする。
(7)導電性基板の製造方法は、絶縁性の樹脂からなるバインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を適宜量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、2以上の複数の異種金属微粒子を含む成膜パターン表面に対し水平方向と垂直方向への圧力印加処理と、加熱処理を行うことを特徴とする。
(8)基板をプラスチック基板としたことを特徴とする。
(9)導電パターンを作製するときのプロセス温度を150℃以下で0℃を超える値の範囲内の任意の値としたことを特徴とする。
(10)半導体素子の製造方法は、上記(1)乃至(5)のいずれか1項記載の導電パターンの基板側と反対側の上部表面上に接して半導体層もしくは絶縁層もしくは誘電体層、またこれらすべての層を任意の順番で組み合わせたものを設け、その上に上部電極を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、2以上の複数の異種金属微粒子を構成する金属結晶子に効率よく応力を印加し、結晶格子に歪みを発生させ、2以上の複数の異種金属微粒子表面にできる絶縁性の酸化膜を破壊することにより2以上の複数の異種金属微粒子間の導電性接合を形成することができる。
具体的には、微粒子表面に絶縁性金属酸化物を作りやすい金属を用いた導電ペースト(バインダーを含む)により成膜(例えば、印刷)パターンを形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、この成膜パターン表面に対し水平方向および垂直方向への圧力印加と加熱とを施すことにより、2以上の複数の異種金属微粒子表面にできる絶縁性の酸化膜を破壊し、2以上の複数の異種金属微粒子間の良好な導電性接合を形成する。
本発明の導電性基板は、導電パターンが、基板側とは反対側の表面及びその近傍を除いて全体的にバインダー中に2以上の複数の異種金属微粒子が分散された構造を有する。このため、導電パターンは、実質的に、基板側にバインダー樹脂中に2以上の複数の異種金属微粒子が分散された層が形成され、表面及びその近傍には2以上の複数の異種金属微粒子が圧延され微粒子同士の導電性接合が形成された表面導電合金層が形成されるので、表面導電合金層で確実に導電体層を形成することができ、バインダー樹脂中に2以上の複数の異種金属微粒子が分散された層で確実に半導電体層を形成することができる。
このような2以上の複数の異種金属微粒子を主成分とする導電パターンを形成した導電性基板とその製造方法は、対象を選ばず、デバイスの電極や金属配線、アンテナ等の様々な導電部を有する装置に適用して良好な導電性接合を形成することができる。
また、本発明の導電パターンを下地電極とすることにより、仕事関数を適宜選択することができるので、仕事関数の値を任意に設計した半導体素子を構成でき、また仕事関数の値を設計できる半導体素子を容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における印刷合金導電パターンの断面を示す模式図である。
【図2】本発明における印刷合金導電パターンを作製する方法を説明する模式図である。
【図3】本発明における印刷合金導電パターン内の固溶状態をX線回折スペクトルより評価する方法を説明する模式図である。
【図4】本発明における印刷合金導電パターン内の金属比率と仕事関数の関係を説明する模式図である。
【図5】本発明の実施例で用いたアルミニウム−スズペーストに加熱加圧処理を施したときのX線回折ピークのシフトを示す図である。
【図6】本発明の実施例で用いたアルミニウム−銀ペーストの組成比と仕事関数の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例で用いたダイオード素子の断面を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例で用いたダイオード素子の内部のエネルギーダイアグラムを示す模式図である。
【図9】本発明の実施例で用いたダイオード素子の電流電圧特性を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
(印刷導電パターンの構成)
【0011】
図1は本願発明の導電性基板の断面を示す模式図である。
この例では、金属微粒子の種類が2種類の場合を例示する。なお、金属微粒子の種類が3以上の場合には、下記説明において金属微粒子を2種類から3以上の種類に置き換えることにより成り立つ。
図1に示すように、本願発明の導電性基板7は、基板1上に、導電パターン6が設けられている。
導電パターン6は、基板1側とは反対側の「表面及びその近傍」(以下、導電パターンの「加圧面測」と表す)を除いて全体的にバインダー2中にA金属微粒子3およびB金属微粒子4が分散された構造を有し、前記導電パターン6の「加圧面測」には表面導電合金層5が形成されている。但し、前記「A」および「B」は相互に異なる種類を意味する。
バインダー2に対するA金属微粒子3およびB金属微粒子4の比率は、A金属微粒子3およびB金属微粒子4の径や導電率等にもよるが、導電パターン6の導電率や抵抗値等の求める特性に応じて変える。
【0012】
この表面導電合金層5は、以下に述べる本発明に特有の製造方法により形成される。すなわち、絶縁性の樹脂からなるバインダー2中に球状のA金属微粒子3およびB金属微粒子4を必要な量(求める導電パターン6の導電率や抵抗値等に応じた量)分散した導電ペーストにより、基板1上に印刷やコーティング等の成膜手段を用いて成膜パターン(例えば、印刷パターン)を形成し、この成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、A金属微粒子3およびB金属微粒子4を含む成膜パターン(例えば、印刷パターン)表面に対し水平方向(例えば、基板1表面と同じ向き)および垂直方向(例えば、基板1表面に対し垂直方向)への圧力印加と、加熱(微粒子間の焼結を促進するため)とを行う工程により形成する。
上記工程のうち、「成膜手段を用いて成膜パターン(例えば、印刷パターン)を形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥する」工程を「成膜・加熱溶媒除去処理」と定義する。特に、成膜手段を印刷手段とし、成膜パターンを印刷パターンとした場合の上記「成膜・加熱溶媒除去処理」を「印刷・加熱溶媒除去処理」工程と定義する。
【0013】
また、「A金属微粒子3およびB金属微粒子4を含む成膜パターン表面に対し水平方向と垂直方向への圧力の印加」工程を「圧力印加処理」と定義する。
ここでいう、成膜パターン表面に対し水平方向(例えば、基板表面と同じ向き)および垂直方向(例えば、基板表面に対し垂直方向)への圧力印加手段と、加熱(微粒子間の焼結を促進するため)手段については、詳しくは、図2で説明する。
【0014】
バインダー2の層は、基板1の表面に垂直な方向において、基本的に、基板1に接する面側から表面導電合金層5と接する面側までの厚さを有し、且つアルミニウム微粒子3の径以上の厚さになる。
このバインダー2の層内には、基板面と垂直な方向にみた断面において、表面導電合金層5とA金属微粒子3およびB金属微粒子4の層が存在する例が好ましいが、少なくとも、表面導電合金層5のみであってもよい。
表面導電合金層5において、圧力印加面側のA金属微粒子3およびB金属微粒子4は隣接するもの同士が絶縁性の酸化膜を破壊するようにA金属微粒子3およびB金属微粒子4間の導電性接合を形成して(つぶれて)略平坦になっているが、圧力印加面と反対側(基板に近い側)のA金属微粒子3およびB金属微粒子4は元の球形状の一部を保っている傾向を示す。この傾向は圧力の印加程度に応じて異なる傾向を示す。
【0015】
それぞれの構成要素の構成物質とその製造方法を次に示す。
基板1としては、通常用いられるものであれば特に限定されず、いかなる材料の物を用いても良い。一般に好適に用いられる物としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。また、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEEK)等の材料のプラスチックフィルム基板、グリーンシート等のセラミックスフィルムなど、可撓性のあるフィルム基板等を用いることが出来る。基板の厚さは特に限定しないが、素子を安定に保持する強度を有する必要があることと、可撓性を必要とする場合があるため、10μmから1000μmの間の任意の値が好適に用いられる。
【0016】
バインダー2を構成する材料に関しては、その材料は特に限定されるものではないが、好ましくはアクリル系樹脂、ポリカーボネート、ボリビニルブチラール、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、エポキシ系樹脂、導電性高分子材料、パリレン、シラザン系材料、シロキサン系材料等が用いられる。
金属微粒子3、4に関しては、通常用いられるものであれば特に限定されず、いかなる金属微粒子を用いても良い。微粒子の粒径は特に限定されないが、小さい微粒子ほど表面酸化膜の影響を受けやすいことや、粒径が大きい微粒子では印刷によるパターニングが困難になること等から、1μmから100μmの間の任意の値が好適に用いられる。
バインダー2と金属微粒子3、4の混合方法に関しては、通常用いられる方法であれば特に限定されず、いかなる方法を用いても良い。一般的に好適に用いられる方法としては、ボールミル攪拌法、自公転式攪拌法、超音波攪拌法、三本ローラー法等が挙げられる。
バインダー2と金属微粒子3、4を混合した導電ペーストのパターンを形成する方法としては、通常用いられる方法であれば特に限定されず、いかなる方法を用いても良い。一般的に好適に用いられる方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ドクターブレード法、スリットコーター法、ディスペンシング法、マイクロコンタクトプリント法、ナノインプリント法等が挙げられる。
【0017】
(印刷導電パターンの製造方法)
図2に本願発明の印刷導電合金パターンの断面と加圧方法を示す模式図である。
図2(a)は印刷し乾燥した直後の複数金属種含有導電ペースト、図2(b)は本願発明の加熱加圧法を適応しバインダー樹脂12を除去したときの複数金属種含有導電ペーストの断面の模式図、図2(c)はバインダーが除去されると同時に異種金属微粒子13、14が圧延されて合金化され表面導電合金層15が形成される様子を示す模式図である。
図2(a)(b)(c)に示すように、本願発明の加熱加圧法を用いれば、印刷工程を経た複数金属種含有導電ペーストパターン表面と水平な方向の圧力と鉛直方向の圧力を印加するため、水平方向の圧力成分でバインダー12が取り去られ、金属微粒子13、14の表面が露出したところにさらなる圧力が印加されるため金属微粒子13、14が圧延され微粒子同士が原子レベルで固溶化すると共に導電性接合が形成され、表面導電合金層15が形成される。この際、隣接する金属微粒子内の結晶子同士が圧力により接合を形成するため、その部分に結晶格子の歪が生じ、異種金属原子が格子の歪に入り込む。
【0018】
図2に示す本願発明の加熱加圧法は、まず、図2(a)に示すように、基板11上に設けた、絶縁性の樹脂からなるバインダー12中に球状のA金属微粒子13およびB金属微粒子14を適宜量分散した導電ペーストにより、基板11上に印刷やコーティング等の成膜手段を用いて成膜パターン10を形成し、成膜パターン10を加熱してこの成膜パターン10中の溶媒を除去して乾燥し、図2(b)に示すように、前記A金属微粒子13およびB金属微粒子14を含む成膜パターン(例えば、印刷パターン)10表面に対し水平方向(例えば、基板表面と同じ向き)および垂直方向(例えば、基板表面に対し垂直方向)への圧力Fa印加と、加熱(微粒子間の焼結を促進するため)とを行って、図2(c)に示すように表面導電合金層15を形成する。
ここでいう「水平方向と垂直方向への圧力印加」とは、基本的に、垂直に圧力を印加しながら水平方向へ移動することを意味するが、例えば、成膜パターン10の表面側に図2(b)に示すように弧を描くような力Fbを加えることをも意味し、この場合には、云わば、成膜パターン10の表面側のあるバインダー12およびA金属微粒子13およびB金属微粒子14に弧を描くような力Fbを加える。この加工工程を基本的に成膜パターン10の表面側全体に行う。この工程を行うことにより、図2(c)に示すように、成膜パターン10の表面側に表面導電合金層15が形成される。
【0019】
図2に示す本願発明の加熱加圧法を用いれば、成膜パターン表面側に水平方向の圧力と鉛直方向の圧力を印加するため、水平方向の圧力成分でバインダー12が取り去られ、A金属微粒子13およびB金属微粒子14の表面が露出したところにさらなる圧力(力Faの導電ペーストに接する箇所は、線ではなく所定の面積を有するため、同じ箇所に連続的に圧力が作用する)が印加されるためA金属微粒子13およびB金属微粒子14が圧延され微粒子同士の導電性接合が形成され、表面導電合金層15が形成される。
ここで、導電パターンに力Fbを作用させる部材は、図示していないが、例えば、偏心軸に設けたローラー等を用いる。即ち、ローラーが軸支されている回転軸が偏心しているため、ローラー自体は、偏心軸の回転に伴って、図2(b)の力Fbの弧状運動を行う。更に、ローラー自体はバインダー12を取り去る向きに自転しながら図2(b)の力Fbの弧状運動を行うようにしてもよい。
【0020】
パターン幅の変形に関しては、加圧方向を一方向とする一般的な加熱加圧法を適応した場合、複数金属種含有導電ペーストの体積変化は起こらず、膜厚が薄膜化されるため、パターン幅が増加してしまう。
この場合の一般的な加熱加圧法は、まず、絶縁性の樹脂からなるバインダー中に球状の金属微粒子を適宜量分散した導電ペーストの成膜パターンにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、金属微粒子を含む成膜パターン表面に対し垂直方向(例えば、基板表面と垂直方向)に力を印加しながら加熱し、加熱固化する。
【0021】
上記一般的な加熱加圧法を適応した場合、圧力は基板に対し垂直方向のみに印加され、成膜パターン内に発生する応力は金属微粒子に作用する応力とバインダー樹脂に発生する応力に分散されるため、効率的に金属微粒子中の結晶子の結晶格子を歪ませることができない。それ故、金属酸化膜層が金属微粒子の表面に残留してしまい、隣接する金属微粒子間の導電性接合を形成するには至らない。
一方、図2(a)(b)(c)に示すように、本願発明の加熱加圧法を適応した場合、余分なバインダー樹脂が水平方向の圧力により取り去られるため、パターン幅の変化は小さい。
【0022】
図3に複数金属種含有導電ペーストパターンを構成する金属微粒子の内部での原子レベルでの固溶化とX線回折ピークのシフトの関係を示す。
図3(a)は導電ペーストパターンを構成する金属微粒子の内部での結晶子の格子歪み特性を、図3(b)はX線回折ピークのシフトの関係の説明図を示す。図3(a)の横軸は角度2θで、同じく縦軸は回折強度である。
図3の格子図23で示す金属1の結晶格子に格子図24の金属2が固溶化されると格子図25に示すように金属1の結晶格子間に金属2の原子が入り込むため、見かけの結晶格子間隔が減少する。これはX線回折スペクトルでは、元の金属1の結晶格子を示す回折ピーク21から高角側へシフトした回折ピーク22として観察される。
【0023】
複数金属種含有導電ペーストの電子的な特性を見てみると、図4に示すように、仕事関数Φ1を持つ金属1を含む導電ペーストと仕事関数Φ2を持つ金属2を含む導電ペーストを混合し、本願発明の加熱加圧法を適用することにより、混合の比率を制御すれば、仕事関数Φ1と仕事関数Φ2の間の任意の仕事関数をもつ印刷導電パターンを形成することが可能となる。
【0024】
(印刷導電合金パターンを用いた電子素子)
本願発明の方法で作製した印刷導電パターンの上部表面上に接して半導体層もしくは絶縁層もしくは誘電体層、またこれらを組み合わせたものを有する電子素子、特に半導体素子を作製することができる。半導体層としては、例えば、酸化物半導体としては、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化銀、酸化銅、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、IGZO(インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物)、有機半導体としては、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、またはその末端が置換されたこれらの誘導体。α−セクシチオフェン。ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)およびその末端が置換された誘導体。ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)およびその末端が置換された誘導体。銅フタロシアニン及びその末端がフッ素などで置換された誘導体。中心金属がニッケル、酸化チタン、フッ素化アルミニウム等のフタロシアニン系材料。フラーレン、ルブレン、コロネン、アントラジチオフェンおよびそれらの末端が置換された誘導体。ポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリアセチレンおよびこれらの末端もしくは側鎖が置換された誘導体のポリマー等が挙げられる。また、これらを樹脂バインダーに分散したものを用いることも可能である。
絶縁体層や誘電体層を形成する材料としては、その材料は特に限定されるものではないが、一般的には好適にアクリル系樹脂、ポリカーボネート、ボリビニルブチラール、ポリスチレン、ポリイミド、ポリエステル、エポキシ系樹脂、導電性高分子材料、パリレン、シラザン系材料、シロキサン系材料等が用いられる。
【0025】
(実施例1)
アルミニウム粉末としてAlfa Aesar(登録商標)製、粒子径:325メッシュ以下、純度99.5%(metals basis)とスズ粉末としてナカライテスク株式会社製とを用いた。これらの金属粉末を東洋紡績株式会社製バイロマックス(登録商標)に30重量%混合し、自公転式攪拌装置ARE−310にて3分間攪拌を行った。この複数金属種含有導電ペーストを用いて、マイクロ・テック株式会社製スクリーン印刷装置MT−320TVと東京プロセスサービス株式会社製スクリーンマスクとを組み合わせてスクリーン印刷を行った。基板は東レ・デュポン株式会社製カプトン(登録商標)300H(膜厚:75μm)。印刷パターンを150℃(プロセス温度)にて乾燥した後、本願発明の加熱加圧法を行い、それぞれの処理前後の特性の比較を行った。前記プロセス温度は、150℃以下で0℃を超える値の範囲内の任意の値を採り得る。
【0026】
図5に複数金属種含有導電ペーストを用いたパターンに関する加熱加圧処理前後のX線回折スペクトルを示す(株式会社リガク製 試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IVを用いて測定)。
特性Aは「Al+Sn(加圧前)」特性を、特性Bは「Al+Sn(本発明の加熱加圧方適応後)」特性を示す。
図5の角度「2θ/°」と「Intensity(回折強度)」のサンプリングデータを下記表1に示す。
【0027】
【表1】

また、観測されたこれらの回折ピークを用いて算出した結晶子サイズと格子間隔、歪、応力を表2に示す。
【0028】
【表2】

図5と表2から解かるように、加熱加圧処理後、X線回折ピークは高角側にシフトし、格子間隔が狭まる。
このときに下記数1の式
(数1)
σ(Pa)=εE(Pa)
σ:応力、ε:歪、E:ヤング率(Alの場合69GPa)
【0029】
を用いて、算出された応力は、約598MPaで、この値は印加圧力から考えると大きすぎるため、この加熱加圧処理を行ったときに、アルミニウム結晶自身の格子が歪むとともに、スズ原子の固溶化がおこり結晶格子が狭まる。ゆえに見かけ上の応力が実際に発生した応力より大きく評価されたものと考えられる。逆に考えれば、この現象が本発明の方法で導電ペーストの固溶化を可能にしたことを示している。また、このときのシート抵抗は表2に示すように1.0Ω以下となった。これらのパターンの断面写真から観察される表面導電合金層の膜厚が約1μmであることから、ここから算出される抵抗率は約1×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値となり素子の電極として十分に利用できる値である。抵抗率の下限は、少なくとも用いる金属によって抵抗値が異なることから、金属の抵抗率で最も低い値の銀の1.6×10−6Ω・cm以上の値とする。
このことから、抵抗率は約1.0×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値がとれる。
【0030】
(実施例2)
銀粉末としてSigma−Aldrich(登録商標)(≧99.9% trace metals basis:平均粒子径5〜8μm)、アルミニウム粉末としてAlfa Aesar(登録商標)製、粒子径:325メッシュ以下、純度99.5%(metals basis)を用いた。これらの金属粉末を様々な混合比で東洋紡績株式会社製バイロマックス(登録商標)に30重量%混合し、自公転式攪拌装置ARE−310にて3分間攪拌を行った。この複数金属種含有導電ペーストを用いて、マイクロ・テック株式会社製スクリーン印刷装置MT−320TVと東京プロセスサービス株式会社製スクリーンマスクとを組み合わせてスクリーン印刷を行った。基板は東レ・デュポン株式会社製カプトン(登録商標)300H(膜厚:75μm)。印刷パターンを150℃にて乾燥した後、本願発明の加熱加圧法を行い、製品を製造した。その製品について仕事関数の測定を行った。測定は理研計器株式会社FAC−1を用いた。
図6に本発明の実施例で用いたアルミニウム−銀ペーストの組成比と仕事関数の関係を示す。図6のサンプリングデータを下記表3に示す。
【0031】
【表3】

図6に示すように、金属の混合比率を変えることにより、表面導電合金層の仕事関数をアルミニウムペーストの仕事関数3.5eVと銀ペーストの仕事関数4.8eVの間で変化させることができる。これらの様々な仕事関数の電極を用いて、図7に示すようなフレキシブルダイオードを作製した。
仕事関数として最も広い範囲を示すものとしては、金属としてマグネシウムを用いたときに約3eVと、金属として金を用いたとき約5eVとの組み合わせからなるため、表面導電合金層の仕事関数として3eV以上で5eV以下の範囲内の任意の値をとることができる。
【0032】
本発明の導電パターンを設けた導電性基板の技術を用いると、種々の半導体素子を構成することができる。導電パターンの層を構成する異種金属の導電性接合が広範囲のエネルギーレベルを形成し、他のエネルギーレベルの異なる素子形成層との組み合わせで特徴のある半導体素子が構成できる。代表例を図7に示す。
図7は本発明の導電性基板の技術を用いた実施例であるダイオード素子の断面を示す模式図である。
図7のダイオードは、基板34上に、本発明を導電パターンの下部電極33を設け、この下部電極33の表面導電合金層に接して半導体層32を設け、この半導体層32の上に上部銀ペースト電極31を設けて構成する。
更に、一般的な半導体素子としては、下部電極33の上部表面上に接して半導体層32もしくは絶縁層(図示省略)もしくは誘電体層(図示省略)、またこれらを任意の順番で組み合わせたもの(図示省略)を設け、その上に上部電極31を設けることもできる。
半導体層32としてはSigma−Aldrich(登録商標)レジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)(純度99.995% trace metals basis)の3重量%のクロロホルム溶液を作製し、合金電極となる下部電極33上にキャスティング法により製膜した。半導体層32の膜厚は約1μmであった。上部銀ペースト電極31はスクリーン印刷法により作製した(面積1mm)。下部電極33をアルミニウム電極にした場合、銀電極にした場合、アルミニウムと銀の合金電極にした場合のP3HT(Sigma−Aldrich(登録商標)レジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン)との関係を表すエネルギーダイアグラムを図8に示す。銀、合金、アルミニウムの順にP3HTへの正孔注入障壁が増加することがわかる。
【0033】
図8は本発明の実施例で用いたダイオード素子の内部のエネルギーダイアグラムを示す模式図で、P3HTの半導体層32を中央にして、その右側に上部銀ペースト電極31、その左側に合金(下部)電極33を配置した構成で表示してある。
図9は本発明の実施例で用いたダイオード素子の電流電圧特性を示す模式図である。
図9の組み合わせ(Ag/P3HT/Al、Ag/P3HT/合金、Ag/P3HT/Ag)毎のサンプリングデータを以下の表4に示す。
特性Dは「Ag/P3HT/Al」特性を、特性Eは「Ag/P3HT/合金」特性を、特性Fは「Ag/P3HT/Ag」特性をそれぞれ表す。
【0034】
【表4】

図9の実際のダイオードの電流電圧特性でも、銀−銀電極の組み合わせでは整流性が観察されず、合金−銀電極、アルミニウム−銀電極を用いたときに高い整流性が観察されている。また、電流電圧特性から評価される障壁高さも図8のダイアグラムから予測されるものと良く一致した。
上記ダイオードに代表されるように、本発明の導電パターンを設けた導電性基板の技術、特に合金電極に関する技術を用いた場合の半導体素子の特徴は、以下のようになる。
(1)真空プロセスやフォトリソグラフィー等の方法を用いずに、大気中で印刷法により半導体素子を作製できる。
(2)150℃以下の低温で作成できるため、可撓性のプラスチック基板上に柔軟な半導体素子を作製できる。
(3)合金電極の仕事関数を調節することにより、半導体素子の特性を制御できる。例えば、ダイオードの片側に合金電極を用いて仕事関数を調節することにより、電荷注入障壁の高さを制御できるため、整流特性を自由に制御できる。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 バインダー樹脂
3 A金属微粒子1
4 B金属微粒子2
5 表面導電合金層
6 導電パターン
7 導電性基板
10 成膜パターン
11 基板
12 バインダー樹脂
13 A金属微粒子1
14 B金属微粒子2
15 表面導電合金層
21 金属1の回折ピーク
22 固溶化した金属1+2の回折ピーク
23 金属1の結晶格子
24 金属2の結晶格子
25 固溶化した金属1+2の結晶格子
31 上部電極
32 半導体層
33 下部電極
34 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けた導電パターンからなり、前記導電パターンは、基板側とは反対側の表面及びその近傍を除いて全体的にバインダー中に2以上の複数の異種金属微粒子が分散された構造を有し、前記表面及びその近傍には前記2以上の複数の異種金属微粒子が圧延され微粒子同士の導電性接合が形成された表面導電合金層が形成されていることを特徴とする導電性基板。
【請求項2】
前記表面導電合金層は、前記バインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を任意量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、前記2以上の複数の異種金属微粒子を含む前記成膜パターン表面に対し水平方向と垂直方向への圧力印加と、加熱とを行って形成したものとしたことを特徴とする請求項1記載の導電性基板。
【請求項3】
前記基板をプラスチック基板としたことを特徴とする請求項1又は2記載の導電性基板。
【請求項4】
前記導電パターンの抵抗率を、1.0×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の導電性基板。
【請求項5】
前記導電パターンの抵抗率が1.0×10−4Ω・cm以下で1.6×10−6Ω・cm以上の範囲内の任意の値、前記導電パターンの仕事関数が3eV以上で5eV以下の範囲内の任意の値をとることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の導電性基板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記導電パターンの基板側と反対側の上部表面上に接して半導体層もしくは絶縁層もしくは誘電体層、またはこれらすべての層を任意の順番で組み合わせたものを設け、その上に上部電極を設けたことを特徴とする半導体素子。
【請求項7】
絶縁性の樹脂からなるバインダー中に球状の2以上の複数の異種金属微粒子を適宜量分散した導電ペーストにより、基板上に成膜手段を用いて成膜パターンを形成し、成膜パターンを加熱してこの成膜パターン中の溶媒を除去して乾燥し、前記2以上の複数の異種金属微粒子を含む前記成膜パターン表面に対し水平方向と垂直方向への圧力印加処理と、加熱処理を行うことを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板をプラスチック基板としたことを特徴とする請求項7記載の導電性基板の製造方法。
【請求項9】
前記導電パターンを作製するときのプロセス温度を150℃以下で0℃を超える値の範囲内の任意の値としたことを特徴とする請求項7又は8記載の導電性基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の前記導電パターンの基板側と反対側の上部表面上に接して半導体層もしくは絶縁層もしくは誘電体層、またこれらすべての層を任意の順番で組み合わせたものを設け、その上に上部電極を設けることを特徴とする半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−113999(P2011−113999A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266083(P2009−266083)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】