説明

導電性弾性ロールおよびその製造方法

【課題】導電性弾性材層の厚みがきわめて薄く小径である上、芯金への電圧印加時に感光体ドラムへの電流のリークが生じない導電性弾性ロールを提供する。
【解決手段】導電性弾性ロールRは、ステンレス製の芯金1の両端縁際以外の表層に、約5μmの厚みの絶縁性接着剤層2が設けられている。さらに、その絶縁性接着剤層2の外側には、約5μmの厚みのベース保持用接着剤層3が設けられており、そのベース保持用接着剤層3の外側には、四級アンモニウム塩を充填したNBRからなる約100μmの厚みの導電性弾性材層4が設けられている。また、導電性弾性ロールRの芯金1の両端縁際の表層にも、約10μmの厚みの絶縁性接着剤層2が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ等に用いられる導電性弾性ロールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機やプリンタ等には、電圧を印加した状態で感光体ドラムの表面に押し付けられて回転することにより感光体ドラムを帯電させる帯電ロールや、表面にトナーを保持した状態で感光体ドラムに押し付けられて回転することにより静電潜像の現像を行なう現像ロール等が設置される。それらの帯電ロールや現像ロール等は、感光体ドラムに押し付けられた状態で感光体ドラムとともに回転しなければならないため、適度な弾性を有していることが必要とされる。また、トナーや感光体ドラムを帯電させなければならないため、適度な導電性を有していることも必要とされる。そのため、帯電ロールや現像ロール等としては、導電材料を充填したゴム等の導電性弾性材を円柱状の金属製芯金の外周面に巻き付けた導電性弾性ロールが用いられる。
【0003】
近年、複写機やプリンタの小型化に伴い、上記した導電性弾性ロールの小径化が要求されるようになってきており、それに伴って、導電性弾性材層の厚みを薄くする必要が生じている。ところが、単純に導電性弾性材層の厚みを低下させると、芯金が露出している部分(導電性弾性材層が巻き付けられていない芯金の端縁際の部分)と感光体ドラムとの間で放電現象が生じてしまい、導電性弾性ロールへの電圧印加による電流が感光体ドラムへリークしてしまい、電子写真の画像に乱れが生じることがある。そのような不具合を防止するための方法として、芯金の露出部分に絶縁スリーブを取り付ける技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−3294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の如き芯金の露出部分に絶縁スリーブを取り付ける方法は、絶縁スリーブを別途作製して取り付けなければならないため、導電性弾性ロールの製造に手間が掛かる上、製造コストも高くなってしまう。また、導電性弾性ロールを非常に小径のものとする場合には、導電性弾性材層の厚みをきわめて薄くする(たとえば、約500μm以下にする)必要があるが、そのように導電性弾性材層の厚みを薄くした場合には、感光体ドラムと芯金との間隔もきわめて小さくなるため、絶縁スリーブを取り付けることができなくなる。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、導電性弾性材層の厚みがきわめて薄く小径であるにも拘わらず、芯金への電圧印加時に感光体ドラムへの電流のリークが生じない導電性弾性ロールを提供することにある。また、そのような実用性の高い導電性弾性ロールを安価、かつ、容易に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載の発明は、円柱状に形成された導電性の芯金の端縁際以外の外周面に導電性弾性材を積層してなる導電性弾性ロールであって、前記芯金の端縁際以外の外周面に絶縁性の接着剤層が設けられており、その絶縁性の接着剤層の外側に、0.05mm以上0.50mm以下の厚みを有する導電性弾性材層が設けられているとともに、前記芯金の端縁際の前記導電性弾性材を積層していない外周面に、前記絶縁性の接着剤層とは別個に、絶縁性の接着剤層が設けられていることにある。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載された発明において、絶縁性の接着剤層の膜厚が1μm以上20μm以下であることにある。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、導電性弾性材層の中央部分が両端部分より30〜200μm厚くなっていることにある。
【0010】
請求項4に記載の発明は、円柱状に形成された導電性の芯金の端縁際以外の外周面に導電性弾性材を積層してなる導電性弾性ロールの製造方法であって、前記芯金の端縁際以外の外周面に絶縁性の接着剤を塗布し、その絶縁性の接着剤の外側に導電性弾性材を塗布した後、前記芯金の端縁際の前記導電性弾性材を塗布していない部分に、絶縁性の接着剤を塗布することにある。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の導電性弾性ロールは、芯金の露出部分(導電性弾性材が巻き付けられていない部分)が絶縁性の接着剤によって覆われているので、芯金に電圧を印加した場合でも、芯金から感光体ドラムへの電流のリークが生じない。また、請求項1に記載の導電性弾性ロールは、導電性弾性材の厚みがきわめて小さいので、当該導電性弾性ロールを用いることにより、非常に容易に複写機やプリンタ等を小型化することができる。
【0012】
請求項2に記載の導電性弾性ロールは、絶縁性の接着剤層の膜厚が適度な厚さに調整されているので、芯金からの耐リーク性が安定しているとともに、絶縁性の接着剤の塗布がし易く、安価に製造することができる上、トナーのまわりこみを効果的に防止することができる。
【0013】
請求項3に記載の導電性弾性ロールは、導電性弾性材層の中央部分が両端部分より適度に厚くなっているため、芯金の両端に荷重を加えた状態で使用した際の他ロールとの密着性が良好である。
【0014】
請求項4に記載の導電性弾性ロールの製造方法によれば、芯金への電圧印加時に感光体ドラムへの電流のリークが生じない小径の導電性弾性ロールを、安価、かつ、容易に製造することが可能となる。また、必要に応じて、芯金の端縁際に設ける絶縁性接着剤層の厚みを大きくすることにより、芯金への電圧印加時における感光体ドラムへの電流のリーク防止効果を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る導電性弾性ロールおよびその製造方法の一実施形態を、図面にしたがって詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
[導電性弾性ロールの製造]
図1(a)の如き直径約14mmφで長さ約330mmの円柱状のステンレス材(芯金1)の両端縁際以外の部分(両端縁から約5mm以上内側の部分全体)に、絶縁性の接着剤として機能する塩化ゴムとフェノール樹脂との混合物(LOAD社製)を、図示しない刷毛を利用してコーティングし、乾燥させた(図1(b)参照)。次に、その絶縁性接着剤2の外側に、後述する導電性弾性材を強固に保持するためのベース保持用接着剤であるポリエチレン(LOAD社製)を、ロール塗装法によってコーティングし、乾燥させた(図1(c)参照)。
【0017】
次に、そのベース保持用接着剤3の外側に、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)をMEK(メチルエチルケトン)中に溶解させた樹脂組成物を、ロール塗装法によってコーティングした。さらに、樹脂組成物をコーティングした後の芯金をオーブン中で加熱し、溶剤を蒸発させて、NBRを加硫させることによって、芯金1の両端縁際以外の部分に導電性弾性材層4を形成した(図1(d)参照)。なお、コーティングした樹脂組成物中には、表1の如き組成となるように、導電剤である四級アンモニウム塩、架橋剤、加硫促進剤、架橋助剤等を添加した。
【0018】
【表1】

【0019】
そして、上記の如く芯金1の両端縁際以外の部分に導電性弾性材層4を形成した後、芯金1の両端縁際の部分(樹脂組成物がコーティングされていない部分)に、図示しない刷毛を利用して上記した絶縁性の接着剤であるフェノール樹脂(LOAD社製)をコーティングし、乾燥させることによって、導電性弾性ロールを得た(図1(e)参照)。
【0020】
図2は、得られた導電性弾性ロールを示したものである。導電性弾性ロールRの芯金1の両端縁際以外の部分の表層には、約10μmの厚みの絶縁性接着剤層2が設けられており、その絶縁性接着剤層2の外側に、約10μmの厚みのベース保持用接着剤層3が設けられており、さらに、そのベース保持用接着剤層3の外側に、四級アンモニウム塩を充填したNBRからなる約100μmの厚みの導電性弾性材層4が設けられている。また、導電性弾性ロールRの芯金1の端縁際の表層にも、約10μmの厚みの絶縁性接着剤層2が設けられている。なお、絶縁性接着剤層2の表面抵抗値は、1×1013Ω/cmであり、導電性弾性材層4の表面抵抗値は、1×10Ω/cmである。
【0021】
[導電性弾性ロールの評価]
上記の如く得られた導電性弾性ロールを、電子写真を利用した複写機内に組み込み、5,000枚の複写実験を行い、複写画像に不具合(乱れ)が生じるか否かを調べた。評価結果を表2に示す。
【実施例2】
【0022】
芯金1の両端縁際および中央部分の絶縁性接着剤層2の厚みが約1μmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2の導電性弾性ロールを得た。そして、得られた実施例2の導電性弾性ロールを、実施例1と同様に複写機内に組み込んで、複写画像に不具合が生じるか否かを調べた。評価結果を表2に示す。
【実施例3】
【0023】
芯金1の両端縁際および中央部分の絶縁性接着剤層2の厚みが約20μmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例3の導電性弾性ロールを得た。そして、得られた実施例3の導電性弾性ロールを、実施例1と同様に複写機内に組み込んで、複写画像に不具合が生じるか否かを調べた。評価結果を表2に示す。
【0024】
[比較例]
上記実施例と同様な円柱状のステンレス材(芯金)の両端縁際以外の部分(両端縁から約5mm以上内側の部分全体)に、実施例と同様に絶縁性接着剤をコーティングし、乾燥させた。そして、その絶縁性接着剤の外側に、実施例と同様にベース保持用接着剤をコーティングし、乾燥させた後、そのベース保持用接着剤の外側に、実施例と同様に樹脂組成物をコーティングすることによって比較例の導電性弾性ロールを得た(したがって、比較例の導電性弾性ロールの両端際は、芯金が露出した状態になっている)。そして、上記した比較例の導電性弾性ロールを、実施例と同様に複写機内に組み込んで、複写画像に不具合が生じるか否かを調べた。評価結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
[実施例の導電性弾性ロールの効果]
表2から、実施例1〜3の導電性弾性ロールは、5,000枚の複写を行った後でも、複写画像に乱れが生じないことが分かる。これに対して、比較例の導電性弾性ロールは、現像ロールから感光体ドラムへの電流のリークに起因して、複写枚数が少数であっても、複写画像に乱れが生じることが分かる。
【0027】
なお、本発明の導電性弾性ロールの構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、芯金、絶縁性接着剤、ベース保持用接着剤、導電性弾性材の材質・形状等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明の導電性弾性ロールの製造方法の構成も、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。
【0028】
たとえば、導電性弾性ロールは、絶縁性接着剤層と導電性弾性材層との間にベース保持用接着剤層を設けたものに限定されず、ベース保持用接着剤層のないものでも良い。なお、上記実施例の如く、ベース保持用接着剤層を設けた場合には、長期間に亘って使用した場合でも導電性弾性材層が剥離しにくいものとなる、というメリットがある。
【0029】
また、芯金の外側に設ける絶縁性接着剤層、ベース保持用接着剤層、導電性弾性材層の厚みは、上記実施例の厚みに限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。たとえば、芯金の端縁際に設ける絶縁性接着剤層の厚みと、芯金の端縁際以外の部分に設ける絶縁性接着剤層の厚みとを異ならせることも可能である。なお、芯金の端縁際に設ける絶縁性接着剤層の厚みを、芯金の端縁際以外の部分に設ける絶縁性接着剤層の厚みよりも大きくした場合には、芯金への電圧印加時における感光体ドラムへの電流のリークをより効果的に防止することが可能となる。一方、導電性弾性材層の厚みは、0.50mmを上回ると、複写機やプリンターの小型化に寄与しにくくなるので好ましくなく、反対に、0.05mmを下回ると、導電性弾性材層の耐久強度が不十分なものとなるので好ましくない。加えて、導電性弾性材層は、中央部の厚みを両端部の厚みより30〜200μm程度厚くすると、芯金の両端に荷重を加えた状態で使用した際の他ロールとの密着性が良好なものとなるので好ましい。一方、絶縁性接着剤層の厚みは、1〜20μmであると好ましい。特に、芯金からの耐リーク性の安定性、および経済性、塗布のし易さ、トナーのまわりこみ等から2〜5μmが好ましい。
【0030】
また、導電性弾性材層を形成するためのゴムは、NBRに限定されず、エピクロロヒドリンゴム等のその他のゴムに変更することも可能である。加えて、ゴムを溶解させるための溶剤もMEKに限定されないし、ゴムを溶解させた樹脂組成物中に必要に応じて各種の物質を加えることも可能である。一方、絶縁性接着剤層やベース保持用接着剤層を形成するための物質も、実施例のものに限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。
【0031】
さらに、導電性弾性材層中に充填する導電剤は、四級アンモニウム塩に限定されず、多価金属塩等のその他のイオン導電剤や、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン等の電子導電剤に変更することも可能であるが、導電性弾性ロールの電圧依存性を良好なものとし通電耐久性を高めるためには、イオン導電剤を用いるのが好ましい。
【0032】
また、絶縁性接着剤層や導電性弾性材層の表面抵抗値も、上記実施例の数値に限定されず、必要に応じて適宜調整することができる。なお、絶縁性接着剤層の表面抵抗値は、1×1012〜1×1014Ω/cmであると好ましく、導電性弾性材層の表面抵抗値は、1×10〜1×1010Ω/cmであると好ましい。
【0033】
さらに、導電性弾性ロールは、上記実施例の如く、芯金の端縁際と端縁際以外の部分とに同一の絶縁性接着剤を塗布したものに限定されず、芯金の端縁際と端縁際以外の部分とに異なる絶縁性接着剤を塗布したものでも良い。
【0034】
加えて、導電性弾性ロールは、上記実施例の如く、外周面のみに絶縁性接着剤層を設けたものに限定されず、左右両側面(長手方向と垂直な面)にも絶縁性接着剤層を設けたものでも良い。そのように構成した場合では、芯金への電圧印加時における感光体ドラムへの電流のリークを一層効果的に防止することが可能となる。
【0035】
一方、芯金の外周面に接着剤層や導電性弾性材層を設けるための方法は、上記実施例の如き刷毛によるコーティングやロール塗装法によるコーティングに限定されず、浸漬法によるコーティングやスプレーによる吹き付け塗装等に変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の導電性弾性ロールは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、電子写真を利用した複写機やプリンタ等の帯電ロールや現像ロール等として、広汎に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】導電性弾性ロールの製造工程を示す説明図である。
【図2】導電性弾性ロールを示す説明図である(なお、(a)は導電性弾性ロールの正面図であり、(b)は(a)におけるA−A線断面図であり、(c)は(a)におけるB−B線断面図である)。
【符号の説明】
【0038】
1・・芯金、2・・絶縁性接着剤(層)、3・・ベース保持用接着剤(層)、4・・導電性弾性材(層)、R・・導電性弾性ロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状に形成された導電性の芯金の端縁際以外の外周面に導電性弾性材を積層してなる導電性弾性ロールであって、
前記芯金の端縁際以外の外周面に絶縁性の接着剤層が設けられており、その絶縁性の接着剤層の外側に、0.05mm以上0.50mm以下の厚みを有する導電性弾性材層が設けられているとともに、
前記芯金の端縁際の前記導電性弾性材を積層していない外周面に、前記絶縁性の接着剤層とは別個に、絶縁性の接着剤層が設けられていることを特徴とする導電性弾性ロール。
【請求項2】
絶縁性の接着剤層の膜厚が1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性弾性ロール。
【請求項3】
導電性弾性材層の中央部分が両端部分より30〜200μm厚くなっていることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の導電性弾性ロール。
【請求項4】
円柱状に形成された導電性の芯金の端縁際以外の外周面に導電性弾性材を積層してなる導電性弾性ロールの製造方法であって、
前記芯金の端縁際以外の外周面に絶縁性の接着剤を塗布し、その絶縁性の接着剤の外側に導電性弾性材を塗布した後、
前記芯金の端縁際の前記導電性弾性材を塗布していない部分に、絶縁性の接着剤を塗布することを特徴とする導電性弾性ロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−98755(P2006−98755A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285014(P2004−285014)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】