説明

導電部材、その製造方法、燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池

【課題】優れた導電性及び耐食性を有する導電部材、その製造方法、並びにこれを用いた燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層と、を有する導電部材であって、該中間層が、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む。
金属基材の酸化皮膜を除去する工程(1)と、該工程(1)の後に実施され、該金属基材上に中間層を形成する工程(2)と、該工程(2)の後に実施され、該中間層上に導電層を形成する工程(3)と、を含む導電部材の製造方法であって、該工程(2)において、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材、その製造方法、燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池に関する。
更に詳細には、本発明は、金属基材と、金属基材上に形成された所定の中間層と、中間層上に形成された導電層とを有する導電部材、その製造方法、並びにこれを用いた燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。各単セルは、(1)高分子電解質膜、(2)これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層(「電極触媒層」とも称される。)、(3)更にこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層(GDL)、を含む膜電極接合体(MEA)を有する。
そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータを介して隣接する単セルのMEAと電気的に接続される。このようにして単セルが積層・接続されることにより、燃料電池スタックが構成される。
そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能し得る。このような燃料電池スタックにおいて、セパレータは、上述したように、隣接する単セル同士を電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノード及びカソードに燃料ガス及び酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。
【0003】
PEFCの発電メカニズムを簡単に説明すると、PEFCの運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば水素ガス。)が供給され、カソード側に酸化剤ガス(例えば大気、酸素。)が供給される。その結果、アノード及びカソードのそれぞれにおいて、下記(1)及び(2)の反応式で表される電気化学反応が進行し、電気が生み出される。
【0004】
アノード側:H→2H+2e・・・(1)
カソード側:2H+2e+(1/2)O→HO・・・(2)
【0005】
金属セパレータはカーボンセパレータや導電性樹脂セパレータと比較して強度が高いため、厚みを比較的小さくすることが可能である。また、導電性にも優れることから、金属セパレータを用いるとMEAとの接触抵抗を低減させ得るという利点もある。その反面、金属材料では腐食(例えば、生成水や運転時に生じる電位差などに起因するもの。)による導電性の低下や、これに伴うスタックの出力の低下という問題が生じる場合がある。よって、金属セパレータでは、その優れた導電性を確保しつつ、耐食性を向上させることが求められている。
【0006】
これに対して、金属セパレータの基材と導電性薄膜との間に基材の酸化皮膜を形成する技術が開示されている(特許文献1参照。)。これにより、導電性を確保すると共に基材を構成する金属の溶解が抑制され、導電性及び耐久性に優れた燃料電池用セパレータが提供され得る、ということが記載されている。また、特許文献1には、基材の酸化皮膜と導電性薄膜との間に密着性を高める中間層を形成することが開示されている。これにより、基材の酸化皮膜と導電性薄膜との密着性を高めることができる、ということが記載されている。ここで、中間層はスパッタリング法で作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−185998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術においては、基材表面に配置される酸化皮膜自体が絶縁性の高いものであるため、セパレータの厚み方向の導電性が低下してしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。
そして、その目的とするところは、優れた導電性及び耐食性を有する導電部材、その製造方法、並びにこれを用いた燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。
そして、その結果、金属基材と導電層との間に所定の中間層を形成することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の導電部材は、金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層と、を有する導電部材であって、該中間層が、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む。
【0012】
また、本発明の導電部材の製造方法は、金属基材の酸化皮膜を除去する工程(1)と、該工程(1)の後に実施され、該金属基材上に中間層を形成する工程(2)と、該工程(2)の後に実施され、該中間層上に導電層を形成する工程(3)と、を含む導電部材の製造方法であって、該工程(2)において、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を形成する。
【0013】
更に、本発明の燃料電池セパレータは、金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層とを有する導電部材を、該導電層が電解質側に位置するように配置して用いる燃料電池用セパレータであって、該中間層が、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む。
【0014】
更にまた、本発明の固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層及びカソード触媒層、並びにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を有する膜電極接合体と、該膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータ及びカソードセパレータと、を備えた固体高分子形燃料電池であって、該アノードセパレータ及び該カソードセパレータのうち少なくとも一方が、金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層とを有する導電部材を、該導電層が膜電極接合体側に位置するように配置して用いる燃料電池用セパレータであり、該中間層が、該金属基材の構成成分と該導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属基材と導電層との間に、金属基材の構成成分と導電層の構成成分と中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を形成することなどとしたため、優れた導電性及び耐食性を有する導電部材、その製造方法、並びにこれを用いた燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)の一例の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る導電部材の一例の概略構成を示す断面図である。
【図3】R=1.0〜1.2の導電層を有する導電部材(導電部材A)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)(a)、及びR=1.6の導電層を有する導電部材(導電部材B)の断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)(b)である。
【図4】(ラマン散乱分光分析の回転異方性測定における、平均ピークの3回対称パターンを示す模式図(a)、平均ピークの2回対称パターンを示す模式図(b)、及び平均ピークの対称性を示さないパターンを示す模式図(c)である。
【図5】導電部材Bを測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°、及び180°としたときのラマンスペクトルを示すグラフ(a)、及び導電部材Bについての回転異方性測定の平均ピークを示すグラフ(b)である。
【図6】スパッタリング法で、バイアス電圧及び成膜方式を変化させることにより導電性炭素層のビッカース硬度を異ならせたいくつかの導電部材における、導電性炭素層のビッカース硬度と導電性炭素層におけるsp3比の値との関係を示す図である。
【図7】R値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電性薄膜層を有するいくつかの導電部材について、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。
【図8】実施例1において作製した導電部材の断面を、TEMにより画像解析を行った結果を示す写真である。
【図9】実施例1において作製した導電部材の断面を、EDXにより組成分析を行った結果を示すグラフ(a)、(b)及び(c)である。
【図10】実施例2において作製した導電部材の断面を、TEMにより画像解析を行った結果を示す写真である。
【図11】実施例2において作製した導電部材の断面を、EDXにより組成分析を行った結果を示すグラフ(a)、(b)、(c)及び(d)である。
【図12】実施例3において作製した導電部材の断面を、TEMにより画像解析を行った結果を示す写真である。
【図13】実施例1で作製した中間層の断面を、TEMにより画像解析を行った結果を示す写真である。
【図14】接触抵抗を測定するのに用いた測定装置の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の導電部材、その製造方法、燃料電池用セパレータ及び固体高分子形燃料電池について詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施形態(導電部材の例、燃料電池用セパレータの例)
2.第2の実施形態(導電部材の製造方法の例)
3.第3の実施形態(固体高分子形燃料電池の例)
【0018】
<1.第1の実施形態>
本発明の一実施形態に係る導電部材は、金属基材と、金属基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された導電層とを有するものである。
そして、中間層が、金属基材の構成成分と導電層の構成成分と中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含むものである。
【0019】
燃料電池用セパレータの金属基材は、一般的に、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、これらの合金などによって作製されている。金属基材は、ある程度の耐食性はあるものの、長期間且つ電位にさらされた状態では、徐々に水により腐食されるため、耐食性に改善の余地があった。
そこで、特許文献1においては、金属基材に水を到達させないように、金属基材の表面に酸化皮膜を配置することが提案されている。また、金属基材の酸化皮膜と導電層との密着性を高めるために、これらの層間に、中間層をスパッタリング法によって設けている。特許文献1におけるスパッタリング法によって中間層を形成する場合には、中間層が結晶配向性が高い柱状構造を呈し、結晶(柱)間には隙間が多く生じるため、水の通過を抑制することは困難である。
したがって、金属基材の耐食性を考慮すると、絶縁性が高い酸化皮膜であっても除去することができない。
【0020】
これに対して、本発明は、酸化皮膜が除去された金属基材と導電層との間に、金属基材の構成成分と導電層の構成成分と当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を配置したものである。
これにより、金属基材と導電層との密着性が確保される。また、例えば燃料電池の電極側で生成した水は、導電層を通過する場合はあるものの、結晶化が抑制された中間層ではピンホールなどの欠陥を大幅に減らすことができるため、殆ど通過しない。このため、中間層を超えて通過する水分子は殆ど存在しない。すなわち、金属基材は水にさらされることが殆どない。
このため、本発明の導電部材は、長期間かつ電位にさらされた状態であっても、水による腐食を殆ど受けない。このため、本発明の導電部材は、優れた導電性及び耐食性を発揮することができる。
なお、結晶化抑制成分によってピンホールなどの欠陥が大幅に減少するのは以下のようなメカニズムによるものと考えている。
結晶化抑制成分である原子が金属基材の構成成分と導電層の構成成分とから構成される結晶構造における原子配列を乱すため、結晶性が低下し、非晶質構造となりやすい。これにより、結晶粒界自体が減少するため、結晶粒界を基点に発生しやすいピンホールなどの欠陥を大幅に減少することができる。但し、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、上記のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る導電部材を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)の一例の概略構成を示す断面図である。PEFC1は、固体高分子電解質膜11と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層13a及びカソード触媒層13c)とを有する。
そして、固体高分子電解質膜11と触媒層(13a、13c)との積層体は、さらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層15a及びカソードガス拡散層15c)により挟持されている。
このように、固体高分子電解質膜11、一対の触媒層(13a、13c)及び一対のガス拡散層(15a、15c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
【0023】
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ20a及びカソードセパレータ20c)により挟持されている。
図1において、セパレータ(20a、20c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。
なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(20a、20c)と固体高分子電解質膜11との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
【0024】
セパレータ(20a、20c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(20a、20c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(20a、20c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ20aのガス流路GPaには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ20cのガス流路GPcには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0025】
一方、セパレータ(20a、20c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路CPとされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。このような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度を確保することができる。
【0026】
図2は、図1のうち、セパレータ20の部分の概略構成を示す断面図である。つまり、図2は、本発明の一実施形態に係る導電部材の一例の概略構成を示す断面図である。
同図に示すように、セパレータ20を構成する導電部材は、金属基材21と、金属基材21上に形成された中間層23と、中間層23上に形成された導電層25とを有する。
また、中間層23は、金属基材21の構成成分と導電層25の構成成分と該中間層23における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含むものである。
【0027】
以下、本実施形態の導電部材(セパレータ20)の各構成要素について詳細に説明する。
【0028】
[金属基材]
金属基材21は、導電部材(セパレータ20)を構成する基材であり、導電性及び機械的強度の確保に寄与する。
【0029】
金属基材21を構成する金属については特に制限されるものではなく、従来、金属セパレータの構成材料として用いられているものを適宜用いることができる。
金属基材の構成材料としては、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、これらの合金を挙げることができる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンス、加工容易性などの観点から用いることが好ましい。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。
【0030】
中でも、金属基材はステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金などから構成されることが好ましい。更に、特にステンレスやアルミニウム合金を金属基材として用いると、ガス拡散層の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性を十分に確保することができる。また、アルミニウムやアルミニウム合金は、比重が小さいため、軽量化を図ることができるという利点もある。
【0031】
アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、アルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などを挙げることができる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)などがアルミニウム合金に含まれ得る。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1085P、A1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。一方で、燃料電池用セパレータとしては、機械的な強度や成形性が求められる場合があるため、上記の合金種に加えて、合金の調質を適宜選択することができる。なお、金属基材21がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上である。
【0032】
一方、ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などを挙げることができる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317などが挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420などが挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXなどが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。
【0033】
中でも、SUS304、SUS316などのオーステナイト系ステンレスを用いることがより好ましい。また、ステンレス中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。更に、ステンレス中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
【0034】
金属基材21の厚みは、特に限定されるものではない。例えば、燃料電池のセパレータとして用いる場合、加工容易性及び機械的強度、並びにセパレータ自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点から、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、更に好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の金属基材21の厚みは、好ましくは100〜300μmである。一方、構成材料としてステンレスを用いた場合の金属基材21の厚みは、好ましくは80〜150μmである。上記した範囲内の場合、セパレータとして十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
【0035】
[中間層]
中間層23は、金属基材21上に配置される。この層の存在によって、金属基材21と導電層25との密着性を向上させることができる。また、例えば燃料電池の電極で生成した水が金属基材21側に入り込むことを抑制・防止できる。したがって、中間層23の配置により、導電部材(セパレータ20)は、金属基材、酸化皮膜、中間層及び導電性薄膜を有する導電部材に比して、優れた導電性及び耐食性を発揮することができる。
本明細書において、「中間層」とは、金属基材と導電層との間に配置され、金属基材の構成成分と導電層の構成成分と中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む層を意味する。
このような中間層においては、導電層の構成成分が予め含まれているため、導電層に含まれる構成成分が金属基材内に拡散することによって生じる悪影響を小さくすることができる。
【0036】
結晶化が抑制された中間層の好適例としては、非晶質構造並びに金属基材及び導電層のそれぞれの結晶子径より小さい結晶子径を有する準結晶構造のうち少なくとも一方を有するものを挙げることができる。
このような構造をとることによって、結晶粒界を起点に発生し易いピンホールなどの欠陥を抑制することができるため、中間層は例えば燃料電池の電極側で生成した水分子を通しにくい構造となる。
ここで、本発明において、「非晶質構造」とは、原子又は分子が規則正しい空間的配置をもつ結晶をつくらずに集合した構造をいう。このような構造は、例えば、X線回折装置にて測定した場合、ピークが観察されないときに、非晶質構造であると判断できる。
また、本発明において、「準結晶構造を有する中間層」とは、金属基材及び導電層のそれぞれの結晶子径より小さい結晶子径を有する中間層をいう。
なお、「結晶子径」とは、X線回折法におけるScherreの方法によって算出される結晶子のサイズを意味する。
【0037】
更に、上述した構造を有する中間層においては、上記3成分が層内において混合された状態(分散した状態)となっている場合が多く、結晶化が抑制されやすいため望ましい。
また、上述した構造を有する中間層においては、耐食性の向上という観点から、金属基材の成分が導電層側に露出しないように、金属基材側における存在比率を高くすることが好ましい。
【0038】
中間層が、非晶質構造や準結晶構造を有する場合において、このような中間層を形成する方法は、特に制限されるものではない。例えば、中間層の形成方法を適宜選択することによって、適宜調節できる。より具体的には、中間層の平均結晶子径を、金属基材及び導電層のそれぞれの平均結晶子径に比して小さくすることによって、本発明における上記中間層が形成できる。
ここで、中間層の平均結晶子径と、金属基材及び導電層のそれぞれの平均結晶子径との大小関係は、中間層における結晶化の抑制が達成し得る限り特に制限されるものではない。好ましくは、中間層の平均結晶子径[D(nm)]に対する金属基材及び導電層のそれぞれの平均結晶子径[D(nm)]の比(D/D)が、0.1以上1未満であり、より好ましくは0.1〜0.5である。このような範囲であれば、水分子が金属基材に実質的に到達しない程度にまで、中間層の結晶化を抑制することができる。また、各層の平均結晶子径も、上記大小関係を満たす限り特に制限されるものではない。なお、本明細書における「平均結晶子径」は、マック・サイエンス社製のX線回折装置にて測定した。好ましくは、中間層の平均結晶子径[D(nm)]は、10〜30nm、より好ましくは10〜20nmである。
【0039】
中間層を構成する材料は、金属基材の構成成分と、導電層の構成成分と、当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含むものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、中間層を構成する材料としては、金属基材の構成成分として、鉄(Fe)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、これらの合金などを挙げることができ、導電層の構成成分として、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)、錫(Sn)、炭素(C)などを挙げることができ、結晶化抑制成分として、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)などの長周期周期律表の18族の元素や、ホウ素(B)、リン(P)、ケイ素(Si)、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)などの半金属元素などを挙げることができる。
【0040】
また、上記導電層の構成成分は、導電性の向上という観点から、金属基材の主構成成分以外の成分であることが望ましい。主構成成分とは、50質量%以上含まれる構成成分をいう。
なお、導電層の構成成分のうち、クロム(Cr)やチタン(Ti)といったイオン溶出の少ない金属、又はこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物などが好ましく用いられる。より好ましくは、クロム(Cr)やチタン(Ti)、又はこれらの炭化物や窒化物が用いられる。特に、このようなイオン溶出の少ない金属や、その炭化物、窒化物などを用いた場合、セパレータの耐食性を有意に向上させることができる。
【0041】
また、上記結晶化抑制成分は、金属基材や導電層の機能を損なうことなく、中間層を非晶質化、又は金属基材及び導電層のそれぞれの結晶子径より小さい結晶子径を有するようにする(微粒子化)ことができる。例えば、アルゴンが存在することにより、上記3成分が混合された中間層において原子配列が乱され、結晶性が低下し、非晶質構造を有し易くなる。
更に、金属基材や導電層の構成成分と結晶化抑制成分とが反応して化合物を形成してしまうと、化合物結晶となり、非晶質構造を有し難くなる。したがって、結晶化抑制成分としては、各層の構成成分と化合物を形成し難いものを適宜選択することが望ましい。
また、格子定数が両層の構成成分に近い場合、結晶構造を乱す効果が小さくなるため、格子定数の差が大きい結晶化抑制成分であることが望ましい。更にまた、結晶化抑制成分は、金属基材及び導電層の構成成分の原子半径に比べて、原子半径が大きいものであることが、導電性及び耐食性の向上の観点から好ましい。
【0042】
中間層23における結晶化抑制成分の割合については、特に限定されるものではない。好ましくは、1〜10原子%である。中間層23における結晶化抑制成分の割合がこのような範囲内であると、優れた導電性及び耐食性を発揮することができる。一方、中間層23における結晶化抑制成分の割合が1原子%未満又は10原子%超であると、中間層23における結晶化を十分に抑制することができないことがある。
【0043】
中間層23の厚みは、特に限定されるものではない。ただし、燃料電池セパレータとして用いる場合の導電部材をより薄膜化することにより、燃料電池のスタックのサイズをできるだけ小さくするという観点からは、中間層23の厚みは、好ましくは20〜200nmである。中間層23の厚みがこのような範囲内であると、中間層23において高い導電性を保持することができる。また、金属基材の構成成分の溶出抑制に高い効果を発揮する。一方、中間層23の厚みが20nm未満であると、金属基材との密着力効果が小さく、膜応力による割れやそれによる腐食が進行し易くなる。また、中間層23の厚みが200nmを超えると、結晶性が小さい分、電気抵抗が高い影響が顕著に表れてしまうことが考えられる。
【0044】
中間層23の硬さは、特に限定されるものではない。好ましくは、金属基材の硬さと導電層の硬さとの間の硬さを示すことが望ましい。中間層23の硬さがこのような範囲内であると、界面の硬度差を可能なかぎり小さくすることができる。これによって、燃料電池セパレータとして使用する場合にかかる膜応力に対しても歪みが同程度になるため両層に対して高い密着性を確保することができる。具体的には、中間層の硬さがビッカース硬度で100〜1000Hvであることが好ましい。
なお、「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。また、ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷及び除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。
【0045】
また、本実施形態においては、金属基材21のすべてが中間層23により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、中間層23により金属基材21が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。但し、このような形態のみに限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。中間層23による金属基材21の被覆率は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80〜100%であり、更に好ましくは90〜100%であり、最も好ましくは100%である。このような構成とすることにより、中間層23により被覆されていない金属基材21の露出部への水分子の浸入を有効に抑制・防止して、導電部材(特に、金属基材)の導電性・耐食性の低下が効果的に抑制され得る。なお、上記被覆率は、導電部材を積層方向から見た場合に中間層23と重複する金属基材層21の面積の割合を意味するものとする。
【0046】
また、中間層23の導電層25側の表面は、ナノレベルで粗れていることが好ましい。このような形態によれば、中間層23上に配置される導電層25の中間層23に対する密着性をより一層向上させることができる。
更に、詳しくは後述するが、導電層25の少なくとも最表面層が導電性炭素層であり、且つラマン散乱分光分析により測定されるDバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)が大きい(例えば、R値が2.0を超える)導電性炭素層である場合には、中間層23と導電層25との密着性効果が顕著に発現し得る。
【0047】
[導電層]
導電層25は、中間層23上に配置される。ここで、導電層25を構成する材料は、特に限定されるものではない。具体的には、導電層25としては、金属層や炭素から形成された導電性炭素層などを挙げることができる。このうち、金属層を構成する材料としては、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)、錫(Sn)などが挙げられる。なお、導電性炭素層は、導電性炭素を含む層である。
これらのうち、例えば高い導電性と燃料電池環境下(0〜1.2V)の範囲で高い耐食性を有する金(Au)や銀(Ag)などの貴金属を含む金属層や、導電性炭素層が好ましい。
また、貴金属の使用量を抑え、コスト低減を図るという観点からは、導電層は、金属層と導電性炭素層との積層構造を有していることが望ましい。
このように、導電性炭素層の存在によって、導電部材の導電性を確保しつつ、導電性炭素層を含まない場合と比較して耐食性が改善され得る。以下、導電層25において導電性炭素層を使用した場合の好ましい実施形態を説明する。
【0048】
従来、不活性ガス雰囲気下で金属セパレータ基板に負高電圧を印加しつつ、基板表面に乾式成膜法により炭素系材料を用いて、金属セパレータの金属基材の一方の表面にグラファイト化された炭素からなる炭素層を形成する技術が提案された。この炭素層を有する燃料電池用セパレータは、耐食性及び導電性に優れるとされているものの、炭素層の有する結晶構造は様々であり、炭素層の結晶構造が異なると、これに起因してセパレータ自体の耐食性や導電性も変動し得る。したがって、従来の燃料電池用セパレータは、未だ十分な耐食性・導電性が確保されているとは言えなかった。これに対して、導電性炭素層の結晶構造を特定な構造と調節することによって、導電性炭素層の一方の面から他方の面への導電パスが確保できる。このような導電性炭素層を導電部材(特にセパレータ)に使用することにより、優れた導電性及び耐食性を有する導電部材が提供できる。すなわち、導電性炭素層の結晶構造を、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)により規定する。具体的には、強度比R(I/I)を1.3以上とすることが好ましい。以下、この要件について、より詳細に説明する。
【0049】
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近及び1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される。)。Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本実施形態においては、導電性炭素層の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
【0050】
R(I/I)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(I)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(I)との相対的強度比(ピーク面積比(I/I))を算出することにより求められる。
【0051】
上述したように、本実施形態において、R値は1.3以上であることが好ましい。R値は、より好ましくは1.4〜2.0であり、更に好ましくは1.4〜1.9であり、特に好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。更に、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である中間層との相性が良いため、密着性を一層向上させることができる。
【0052】
なお、本実施形態のようにR値を1.3以上とすることにより上述の作用効果が得られるメカニズムは、以下のように推定されている。但し、以下のメカニズムはあくまでも推定に基づくものである。従って、以下のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような作用効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0053】
上述したように、Dバンドピーク強度が大きくなる(すなわち、R値が大きくなる。)ことは、グラファイト構造における結晶構造欠陥の増加を意味する。換言すれば、ほぼsp2炭素のみからなる高結晶性グラファイトにおいてsp3炭素が増加することを意味する。ここで、R=1.0〜1.2の導電性炭素層を有する導電部材(導電部材A)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)を図3(a)に示す。同様に、R=1.6の導電性炭素層を有する導電部材(導電部材B)の断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)を図3(b)に示す。なお、これらの導電部材A及び導電部材Bは、金属基材としてはSUS316Lを用い、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。また、導電部材Aにおける導電性炭素層の作製時において金属基材に対して印加したバイアス電圧は0Vである。導電部材Bにおける導電性炭素層の作製時において金属基材に対して印加したバイアス電圧は−140Vである。
【0054】
図3(b)に示すように、導電部材Bの導電性炭素層は、多結晶グラファイトの構造を有することがわかる。一方で、図3(a)に示す導電部材Aの導電性炭素層においては、このような多結晶グラファイトの構造は確認できない。
【0055】
ここで、「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンド様カーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。
通常、単結晶グラファイトは、HOPG(高配向熱分解黒鉛)に代表されるような、巨視的にみてもグラフェン面が積層された乱れのない構造を示す。一方、多結晶グラファイトにおいては、個々のクラスターとしてグラファイト構造が存在しており、乱層構造を有している。R値を上述の値に制御することで、この乱れ具合(グラファイトクラスター量、サイズ)が適度に確保され、導電性炭素層の一方の面から他方の面への導電パスを確保することができる。その結果、金属基材に加えて導電性炭素層を別途設けたことによる導電性の低下が防止できると考えられる。
【0056】
多結晶グラファイトにおいては、グラファイトクラスターを構成するsp2炭素原子の結合によりグラフェン面が形成されていることから、当該グラフェン面の面方向に導電性が確保される。また、多結晶グラファイトは実質的に炭素原子のみから構成され、比表面積が小さく、結合した官能基の量も少ない。このため、多結晶グラファイトは酸性水等による腐食に対して優れた耐性を有する。なお、カーボンブラック等の粉末においても、1次粒子を形成しているのはグラファイトクラスターの集合体である場合が多く、これにより導電性が発揮される。しかしながら、個々の粒子が分離しているため、表面に形成されている官能基が多く、酸性水等による腐食が生じやすい。また、カーボンブラックにより導電性炭素層を成膜しても、保護膜としての緻密性に欠けるという問題もある。
【0057】
ここで、本実施形態における導電性炭素層が多結晶グラファイトから構成される場合、多結晶グラファイトを構成するグラファイトクラスターのサイズは特に制限されない。一例を挙げると、グラファイトクラスターの平均直径は、好ましくは1〜50nm程度であり、より好ましくは2〜10nmである。グラファイトクラスターの平均直径がこのような範囲内の値であると、多結晶グラファイトの結晶構造を維持しつつ、導電性炭素層の厚膜化を防止することが可能である。ここで、グラファイトクラスターの「直径」とは、当該クラスターの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、グラファイトクラスターの平均直径の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出され得る。
【0058】
なお、本実施形態では導電性炭素層は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層は多結晶グラファイト以外の材料をも含み得る。導電性炭素層に含まれ得る多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、導電性炭素層に含まれ得る炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0059】
導電層25の厚みは、特に限定されるものではない。但し、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、更に好ましくは5〜200nmである。導電層の厚みがこのような範囲内の値であれば、例えば燃料電池用セパレータとして導電部材を適用した場合に、ガス拡散基材との間に十分な導電性を確保することができる。また、金属基材に対して高い耐食性を持たせることができるという有利な効果を奏し得る。なお、本実施形態では、中間層23及び導電層25は金属基材21の一方の主表面にのみ存在する。但し、場合によっては、金属基材21の他の主表面にも中間層23及び導電層25が存在してもよい。
【0060】
以下、本実施形態における導電層25のより好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
【0061】
まず、導電層25が導電性炭素層である場合のラマン散乱分光分析について、他の観点からは、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示すことが好ましい。以下、回転異方性測定の測定原理について、簡単に説明する。
【0062】
ラマン散乱分光分析の回転異方性測定は、測定サンプルを水平方向に360度回転させながら、ラマン散乱分光測定を実施することにより行なわれる。具体的には、測定サンプルの表面に対してレーザー光を照射し、通常のラマンスペクトルを測定する。次いで、測定サンプルを10°回転させて、同様にラマンスペクトルを測定する。この操作を、測定サンプルが360°回転するまで行なう。そして、それぞれの角度での測定において得られたピーク強度の平均値を算出し、中心がピーク強度ゼロとなる、1周360°の極座標表示とすることにより、平均ピークが得られる。そして、例えば、グラフェン面がサンプルの面方向と平行となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図4(a)に示すような3回対称パターンが見られる。一方、グラフェン面がサンプルの面方向と垂直となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図4(b)に示すような2回対称パターンが見られる。なお、明確な結晶構造が存在しない非晶質(アモルファス)状の炭素層がサンプル表面に存在する場合には、図4(c)に示すような対称性を示さないパターンが見られる。したがって、回転異方性測定により測定された平均ピークが2回対称パターンを示すということは、導電性炭素層を構成するグラフェン面の面方向が、導電性炭素層の積層方向とほぼ一致していることを意味する。このような形態によれば、導電性炭素層における導電性が最短のパスによって確保されることとなるため、好ましいのである。
【0063】
ここで、当該回転異方性測定を行なった結果を図5(a)及び図5(b)に示す。図5(a)は、導電部材Bを測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°及び180°としたときのラマンスペクトルを示す。また、図5(b)は、上述した手法により得られた、導電部材Bについての回転異方性測定の平均ピークを示す。図5(b)に示すように、導電部材Bの回転異方性測定においては、0°及び180°の位置にピークが見られた。これは、図4(b)に示す2回対称パターンに相当する。なお、本明細書において、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが「2回対称パターンを示す」とは、図4(b)及び図5(b)に示すように、平均ピークにおいて、ピーク強度が0である点を基準として180°対向する2つのピークが存在することを意味する。3回対称パターンで見られるピーク強度と2回対称パターンで見られるピーク強度とは原理的には同程度の値を示すとされているため、このような定義が可能となる。
【0064】
導電層25の硬さは特に限定されるものではない。但し、導電層25のビッカース硬度は、好ましくは1500Hv以下であり、より好ましくは1200Hv以下であり、更に好ましくは1000Hv以下であり、特に好ましくは800Hv以下である。ビッカース硬度がこのような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電層25の導電性の低下を防止することができる。一方、ビッカース硬度の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電層25の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、他の層との密着性にも優れた導電部材を提供することができる。このような観点から、導電層25のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。
【0065】
ここで、導電部材の金属基材としてSUS316Lを準備し、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、バイアス電圧及び成膜方式を制御することにより、導電性炭素層のビッカース硬度を変化させた。これにより得られた導電部材における導電性炭素層のビッカース硬度と導電性炭素層におけるsp3比の値との関係を図6に示す。なお、図6では、ダイヤモンドはsp3比=100%であり、Hv10000となる。図6に示す結果から、導電性炭素層のビッカース硬度が1500Hv以下であると、sp3比の値が大きく低下することがわかる。また、sp3比の値が低下することで、導電部材の接触抵抗の値もこれに伴って低下することが推測される。
【0066】
更に他の観点からは、導電性炭素層に含まれる水素原子の量もまた、考慮することが好ましい。すなわち、導電性炭素層に水素原子が含まれる場合、当該水素原子は炭素原子と結合する。そうすると、水素原子が結合した炭素原子の混成軌道はsp2からsp3へと変化して導電性を喪失し、導電層25の導電性が低下することとなる。また、多結晶グラファイトにおけるC−H結合が増加すると、結合の連続性が失われ、導電層25の硬度が低下し、最終的には導電部材の機械的強度や耐食性が低下してしまう。このような観点から、導電層25における水素原子の含有量は、導電層25を構成する全原子に対して、好ましくは30原子%以下であり、より好ましくは20原子%以下であり、更に好ましくは10原子%以下である。ここで、導電層25における水素原子の含有量の値としては、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により得られる値を採用するものとする。この方法では、測定サンプルを傾け、ヘリウムイオンビームを浅く入射することによって、前方に弾き出された元素を検出する。水素原子の原子核は、入射されるヘリウムイオンよりも軽いため、水素原子が存在するとその原子核は前方に弾き出される。このような散乱は弾性散乱であることから、弾き出された原子のエネルギースペクトルはその原子核の質量を反映する。したがって、弾き出された水素原子の原子核の数を固体検出器によって測定することにより、測定サンプルにおける水素原子の含有量が測定され得る。
【0067】
ここで、図7は、上述したR値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電層を有するいくつかの導電部材について、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。図7に示すように、導電層における水素原子の含有量が30原子%以下であると、導電部材の接触抵抗の値は顕著に低下する。なお、図7に示す実験において、導電部材の金属基材としてはSUS316Lを用い、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)及び導電層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、成膜方式や炭化水素ガス量を制御することにより、導電層における水素原子の含有量を変化させた。
【0068】
本実施形態においては、金属基材21のすべてが(中間層23を介してではあるものの)、導電層25により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、導電層25により金属基材21が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、このような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。導電層25による金属基材21の被覆率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。このような構成とすることにより、導電層25により被覆されていない、金属基材21の露出部への中間層の形成に伴う導電性・耐食性の低下を効果的に抑制することができる。なお、上記被覆率は、導電部材を積層方向から見た場合に導電層25と重複する金属基材21の面積の割合を意味するものとする。
【0069】
本実施形態の導電部材は、種々の用途に用いられ得る。その代表例が固体高分子形燃料電池(PEFC)のセパレータである。
ただし、本実施形態の導電部材の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)、アルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池用セパレータとしても使用可能である。また、燃料電池用セパレータ以外にも、導電性・耐食性の両立が求められている各種の用途に使用可能である。本実施形態の導電部材が用いられ得る燃料電池用セパレータ以外の用途としては、例えば、他の燃料電池部品(集電板、バスバー、ガス拡散基材、MEA)、電子部品の接点などが挙げられる。他の好ましい形態において、本実施形態の導電部材は、湿潤環境及び通電環境の下で使用される。このような環境下で用いると、導電性及び耐食性の両立を図るという本発明の作用効果を顕著に発現させることができる。
【0070】
<2.第2の実施形態>
本発明の一実施形態に係る導電部材の製造方法は、金属基材の酸化皮膜を除去する工程(1)と、工程(1)の後に実施され、金属基材上に金属基材の構成成分と導電層の構成成分と当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を形成する工程(2)と、工程(2)の後に実施され、中間層上に導電層を形成する工程(3)とを含む導電部材の製造方法である。
【0071】
上述した実施形態の導電部材を製造する方法については特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、導電部材を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態にのみ限定されるものではない。また、導電部材の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
すなわち、下記工程を有する、本発明の導電部材の製造方法が提供される。まず、金属基材の酸化皮膜を除去する[工程(1)]。次に、スパッタリング法やイオンプレーティング法により、酸化皮膜を除去した金属基材(金属基材の主表面)上に中間層を形成する[工程(2)]。更に、スパッタリング法やイオンプレーティング法により、中間層(中間層の主表面)上に導電層を形成する[工程(3)]。
【0073】
[工程(1)]
まず、金属基材の構成材料として、所望の厚みのステンレス板やアルミニウム板などの金属板を準備する。次いで、適当な溶媒(例えば、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレン、苛性アルカリ剤など。)を用いて、準備した金属基材の構成材料の表面の脱脂及び洗浄処理を行う。該処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、及び電力が30〜50W程度である。
【0074】
続いて、金属基材の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行なう。酸化皮膜を除去するための手法としては、特に制限されないが、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、イオンボンバード処理などが挙げられる。
【0075】
上記処理(金属板の表面の脱脂・洗浄処理や酸化皮膜除去処理)は、金属板の少なくとも中間層を形成する面について行なうことが好ましいが、より好ましくは金属板の両面について行なう。
【0076】
次に、上記処理を施した金属基材の構成材料の表面に、中間層を形成(成膜)する。ここで、中間層の形成(成膜)方法は、上記したように結晶化が抑制されるような方法であれば特に制限されないが、スパッタリング法やイオンプレーティング法が使用される。スパッタリング法が好ましい。
【0077】
中間層を形成(成膜)するのに好適に用いられる手法としては、スパッタリング法又はイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法がある。なお、中間層は、他の方法、例えば、フィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などによっても形成(成膜)することができる。ここで、スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。
このような手法によっても、上記説明した3成分(金属基材の構成成分、導電層の構成成分及び中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分)を含むものであれば、非結晶構造や準結晶構造を有する中間層が形成できる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、金属基材へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、成膜される層の膜質をコントロールできるという利点もある。具体的には、スパッタリング法において、バイアス電圧を高くすることによって、例えば、結晶化抑制成分として気体であるアルゴンやクリプトンなどの18族元素の雰囲気中、導電層の構成成分からなるターゲットのみを用いることによっても、上記説明した3成分を含む中間層を形成することができる。また、スパッタリング法において、通常のバイアス電圧であっても、金属基材の構成成分や導電層の構成成分、結晶化抑制成分などのターゲットを適宜組み合わせることによっても所望の中間層を形成してもよい。
このような方法によって、非晶質構造や準結晶構造を有する中間層が金属基材上に形成できる。
【0078】
[工程(3)]
次に、上記工程(2)で形成(成膜)された中間層上に、導電層を形成(成膜)する。ここで、導電層の形成(成膜)方法は、特に制限されない。例えば、導電層が導電性炭素層である場合には、上述した導電層の構成材料(例えば、グラファイト)をターゲットとして、中間層上に導電性炭素を含む層を原子レベルで積層(成膜)することにより、導電層を形成することができる。これにより、直接付着した導電層と中間層とのあるいは中間層と金属基材の界面及びその近傍は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性を保持することができる。
【0079】
導電性炭素を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法としては、例えば、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、又はフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法やイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。このような手法によれば、水素含有量の少ない炭素層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、優れた導電性を達成することができる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、中間層へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、成膜される層の膜質をコントロールできるという利点もある。
【0080】
ここで、導電層の成膜をスパッタリング法により行なう場合には、スパッタリング時に中間層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。このような形態によれば、イオン照射効果によって、グラファイトクラスターが緻密に集合した構造の導電層を成膜することができる。このような導電層は優れた導電性を発揮することができることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さい導電部材(セパレータ)を提供することができる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電層を成膜可能な電圧を採用することができる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0081】
なお、図2に示す形態の導電部材(セパレータ20)を製造するには、上述した導電性炭素層の成膜工程の前に、金属基材の少なくとも一方の主表面に中間層を成膜する工程を行なう。この際、中間層を成膜する手法としては、導電性炭素層の成膜について上述したのと同様の手法が採用されうる。ただし、ターゲットを中間層の構成材料に変更する必要がある。
【0082】
上述した手法によれば、金属基材21、中間層23及び導電層25が順次形成された導電部材を製造することができる。なお、上記手法では、金属基材21の片面にのみ、中間層23及び導電層25を形成したが、金属基材21の両面に上記各層が形成されてなる導電部材を製造するには、金属基材21の他方の面に対して、上記と同様の手法を適用すればよい。
【0083】
<3.第3の実施形態>
本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層及びカソード触媒層、並びにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータ及びカソードセパレータとを備えた固体高分子形燃料電池である。 そして、アノードセパレータ及びカソードセパレータのうち少なくとも一方が、金属基材と、金属基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された導電層とを有する導電部材を、導電層が膜電極接合体側に位置するように配置して用いる燃料電池用セパレータであり、中間層が、金属基材の構成成分と導電層の構成成分と中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含むものである。
【0084】
上記本発明の一実施形態に係る導電部材は、種々の用途に用いることができる。その代表例が図1に示すPEFCのセパレータである。
以下、図1を参照しつつ、上記本発明の一実施形態に係る導電部材から構成されるセパレータを用いたPEFCの構成要素について説明する。ただし、本発明はセパレータを構成する導電部材に特徴を有するものである。よって、PEFCにおけるセパレータの形状等の具体的な形態や、燃料電池を構成するセパレータ以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施され得る。
【0085】
[高分子電解質層]
高分子電解質層は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜11から構成される。この固体高分子電解質膜11は、PEFC1の運転時にアノード触媒層13aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層13cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜11は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0086】
固体高分子電解質膜11は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0087】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、且つ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0088】
高分子電解質層の厚みは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。高分子電解質層の厚みは、通常は5〜300μm程度である。高分子電解質層の厚みがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御され得る。
【0089】
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層13a、カソード触媒層13c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層13aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層13cでは酸素の還元反応が進行する。
【0090】
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、及び電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
【0091】
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びこれらの合金などから選択することができる。
【0092】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物又は金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分及びカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択され得る。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用及びカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層及びカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択することができる。
【0093】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが採用され得る。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定することができる。
【0094】
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、及び触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
【0095】
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容され得ることを意味する。
【0096】
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gである。触媒担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスを適切に制御することができる。
【0097】
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0098】
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がこのような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御され得る。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定することができる。
【0099】
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照され得る。例えば、上述した高分子電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加され得る。
【0100】
[ガス拡散層]
ガス拡散層(アノードガス拡散層15a、カソードガス拡散層15c)は、セパレータのガス流路(GPa、GPc)を介して供給されたガス(燃料ガス又は酸化剤ガス)の触媒層(13a、13c)への拡散を促進する機能、及び電子伝導パスとしての機能を有する。
【0101】
ガス拡散層(15a、15c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照され得る。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚みは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚みがこのような範囲内の値であれば、機械的強度とガス及び水などの拡散性とのバランスが適切に制御され得る。
【0102】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0103】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0104】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用され得る。中でも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられ得る。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0105】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料を用いることが好ましい。
【0106】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性及び電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚みについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0107】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0108】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができる。中でも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0109】
更に、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0110】
上述したPEFC1や燃料電池スタックは、導電性・耐食性に優れる導電部材から構成されるセパレータ20を用いている。したがって、当該PEFC1や燃料電池スタックは出力特性・耐久性に優れ、長期間にわたって良好な発電性能を維持することができる。なお、図1に示す形態のPEFC1において、セパレータ20は、平板状の導電部材に対してプレス処理を施すことで凹凸状に成形されている。ただし、このような形態のみには制限されない。例えば、平板状の金属板(金属基材)に対して切削処理を施すことによりガス流路や冷媒流路を構成する凹凸形状を予め形成し、その表面に、上述した手法によって中間層及び導電層を形成することで、セパレータとしてもよい。
【0111】
本実施形態のPEFC1やこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載させることができる。上述したPEFC1や燃料電池スタックは出力特性・耐久性に優れるため、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両を提供することができる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を若干の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0113】
(実施例1)
導電部材を構成する金属基材として、アルミニウム合金板(A3003P、厚み:200μm)を準備した。このアルミニウム合金板を用い、前処理としてエタノール水溶液中で3分間超音波洗浄し、洗浄したアルミニウム合金板を真空チャンバ内に配置し、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行って、表面の酸化皮膜を除去した。
なお、上記前処理(洗浄及びイオンボンバード処理)は、いずれもアルミニウム合金板の両面について行った。
【0114】
次いで、アルゴン存在下、アルミニウム合金板に対して250Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したアンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法により、アルミニウム合金板の両面にアルミニウムとクロムとアルゴンを含む中間層(厚み50nm)を形成した。
【0115】
更に、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の中間層の上に厚み0.3μmの第2導電層(クロム層)を形成した。
しかる後、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、固体グラファイトをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の第2導電層の上にそれぞれ0.1μmの厚みの第1導電層を形成した。
これにより、本例の導電部材を作製した。
【0116】
(実施例2)
導電部材を構成する金属基材として、アルミニウム合金板(A3003P、厚み:200μm)を準備した。このアルミニウム合金板を用い、前処理としてエタノール水溶液中で3分間超音波洗浄し、洗浄したアルミニウム合金板を真空チャンバ内に配置し、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行って、表面の酸化皮膜を除去した。
なお、上記前処理(洗浄及びイオンボンバード処理)は、いずれもアルミニウム合金板の両面について行った。
【0117】
次いで、アルゴン存在下、アルミニウム合金板に対して50Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面にアルミニウムとクロムとアルゴンを含む中間層(厚み25nm)を形成した。
【0118】
更に、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の中間層の上に厚み0.3μmの第2導電層(クロム層)を形成した。
しかる後、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、固体グラファイトをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の第2導電層の上にそれぞれ0.1μmの厚みの第1導電層を形成した。
これにより、本例の導電部材を作製した。
【0119】
(実施例3)
導電部材を構成する金属基材として、アルミニウム合金板(A3003P、厚み:200μm)を準備した。このアルミニウム合金板を用い、前処理としてエタノール水溶液中で3分間超音波洗浄し、洗浄したアルミニウム合金板を真空チャンバ内に配置し、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行って、表面の酸化皮膜を除去した。
なお、上記前処理(洗浄及びイオンボンバード処理)は、いずれもアルミニウム合金板の両面について行った。
【0120】
次いで、アルゴン存在下、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面にアルミニウムとクロムとアルゴンを含む中間層(厚み30nm)を形成した。
【0121】
更に、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、クロムをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の中間層の上に厚み0.3μmの第2導電層(クロム層)を形成した。
しかる後、アルミニウム合金板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、固体グラファイトをターゲットとして使用したUBMS法により、アルミニウム合金板の両面の第2導電層の上にそれぞれ0.1μmの厚みの第1導電層を形成した。
これにより、本例の導電部材を作製した。
【0122】
[導電部材の構成成分の測定]
上記各実施例において作製した導電部材について、金属基材、中間層及び導電層の構成成分の測定を行った。導電部材の断面を、TEMにより画像解析を行った結果及びEDXにより組成分析を行った結果を、図8〜図12に示す。図8〜図12から、中間層は、金属基材の構成成分であるアルミニウムと導電層の構成成分であるクロムと中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分であるアルゴンとを含む。
なお、実施例1の中間層におけるアルゴンの割合は、5原子%であった。また、実施例2においては、EDXによる組成分析の結果では、アルゴンの割合が2原子%である中間層のような部分が形成されていることが分かる。更に、実施例3においては、EDXによる組成分析の結果では、アルゴンの割合が3原子%である中間層のような部分が形成されていることが分かる。
【0123】
[中間層の構造の観察]
上記実施例1において作製した導電部材について、中間層の構造の観察を行った。中間層の断面をTEMにより画像解析を行った結果を、図13に示す。図8、図9及び図13から、中間層は、金属基材の構成成分であるアルミニウムと導電層の構成成分であるクロムと中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分であるアルゴンとを含む混合層を形成しており、結晶構造とは異なる、非晶質構造又は準結晶構造を有することが分かる。
なお、上記実施例2及び3において作製した導電部材についても、中間層の構造の観察を行ったが、結晶構造とは異なる、非晶質構造又は準結晶構造を有することが確認できなかった。また、50Vの大きさの負のバイアス電圧を印加した実施例2においては、中間層ができるものの、粒界を起点にピンホール発生が生じ始めている。一方、実施例1においては、粒界を起点にした亀裂は生じていない。
【0124】
[R値の測定]
上記各実施例において作製した導電部材について、導電性炭素層のR値の測定を行なった。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、導電性炭素層のラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(I)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(I)とのピーク面積比(I/I)を算出して、R値とした。得られた結果を下記の表1に示す。
【0125】
表1に示すように、各実施例において作製した導電部材における導電性炭素層のラマン散乱分光分析により測定されたDバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)値(表1では、「D/G」として表記している。以下では、単に「R値」とも略記する。)は、いずれも1.3以上であった。
【0126】
[導電性炭素層における水素原子の含有量の測定]
上記各実施例において作製した導電部材について、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により、導電性炭素層における水素原子の含有量を測定した。得られた結果を下記の表1に示す。
【0127】
[金属基材、中間層及び導電性炭素層のビッカース硬度(Hv)の測定]
上記各実施例において作製した導電部材について、ナノインデンテーション法により、金属基材、中間層及び導電性炭素層のビッカース硬度(Hv)の測定を行なった。得られた結果を下記の表1に示す。
【0128】
表1に示すように、各実施例において作製した導電部材において、中間層のビッカース硬度の値は金属基材のビッカース硬度の値と導電性炭素層のビッカース硬度の値との間であることが分かる。
また、表1に示すように、各実施例において作製した導電部材における導電性炭素層のビッカース硬度(Hv)は、いずれも1500Hv以下であった。
【0129】
[接触抵抗の測定]
上記各例において作製した導電部材について、導電部材の積層方向の接触抵抗の測定を行なった。具体的には、図14に示すように、作製した導電部材(セパレータ20)の両側を一対のガス拡散基材(ガス拡散層15a、15b)で挟持し、得られた積層体の両側を更に一対の電極(触媒層13a、13b)で挟持し、その両端に電源を接続し、電極を含む積層体全体に1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。この測定装置に1Aの定電流を流し、1MPaの荷重をかけた時の通電量及び電圧値から、当該積層体の接触抵抗値を算出した。
【0130】
また、上記で接触抵抗値を測定した後、酸性水に対する浸漬試験を行ない、同様に接触抵抗値を測定した。なお、具体的には、上記各例において作製した導電部材(セパレータ20)を30mm×30mmのサイズに切り出し、80℃の温度の酸性水(pH6以下)に100時間浸漬する浸漬試験を行った。
得られた結果を下記の表1に示す。なお、表1中の「接触抵抗相対値」とは、初期における接触抵抗値を1としたときの、浸漬後における接触抵抗値を示す相対値である。
【0131】
【表1】

【0132】
表1に示すように、本発明の範囲に属する各実施例において作製した導電部材は、浸漬試験後であっても、接触抵抗が極めて小さい値に抑えられる。これにより、結晶化抑制成分が中間層に含まれると、ピンホールなどの欠陥が大幅に減少して、耐食性が向上し、また、耐久後(浸漬後)の密着性が向上していることが分かる。
すなわち、本発明の導電部材は、優れた導電性及び耐食性を有することが分かる。また、導電性・耐食性に優れる導電部材から構成されるセパレータを用いると、PEFCは出力特性・耐久性に優れ、長期間にわたって良好な発電性能を維持することができる。
【0133】
また、導電性が要求される燃料電池用セパレータの構成材料としては、従来、金属、カーボン、導電性樹脂などが知られている。これらのうち、カーボンセパレータや導電性樹脂セパレータでは、ガス流路形成後の強度をある程度確保するため、厚みを比較的大きく設定する必要がある。一方、金属セパレータは強度が比較的高いため、厚みを比較的小さくすることが可能である。従って、本発明の導電部材やそれを用いた燃料電池用セパレータは、燃料電池スタックの小型化が求められている車載用PEFCなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 固体高分子形燃料電池(PEFC)
10 膜電極接合体(MEA)
11 固体高分子電解質膜
13a アノード触媒層
13c カソード触媒層
15a アノードガス拡散層
15c カソードガス拡散層
20 セパレータ
20a アノードセパレータ
20c カソードセパレータ
21 金属基材
23 中間層
25 導電層
GPa アノードガス流路
GPc カソードガス流路
CP 冷媒流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層と、を有する導電部材であって、
上記中間層が、上記金属基材の構成成分と上記導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む、ことを特徴とする導電部材。
【請求項2】
上記中間層が、非晶質構造、並びに上記金属基材及び上記導電層のそれぞれの結晶子径より小さい結晶子径を有する準結晶構造のうち少なくとも一方を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
上記金属基材が、アルミニウム又はアルミニウム合金である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電部材。
【請求項4】
上記結晶化抑制成分が、ヘリウム、アルゴン、クリプトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の18族元素並びにホウ素、リン、ケイ素、炭素及びゲルマニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の半金属元素のうち少なくとも一方を含む、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の導電部材。
【請求項5】
金属基材の酸化皮膜を除去する工程(1)と、
上記工程(1)の後に実施され、上記金属基材上に中間層を形成する工程(2)と、
上記工程(2)の後に実施され、上記中間層上に導電層を形成する工程(3)と、
を含む導電部材の製造方法であって、
上記工程(2)において、上記金属基材の構成成分と上記導電層の構成成分と当該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む中間層を形成する、ことを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項6】
金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層とを有する導電部材を、該導電層が電解質側に位置するように配置して用いる燃料電池用セパレータであって、
上記中間層が、上記金属基材の構成成分と上記導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む、ことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層及びカソード触媒層、並びにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を有する膜電極接合体と、
上記膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータ及びカソードセパレータと、
を備えた固体高分子形燃料電池であって、
上記アノードセパレータ及び上記カソードセパレータのうち少なくとも一方が、金属基材と、該金属基材上に形成された中間層と、該中間層上に形成された導電層とを有する導電部材を、該導電層が膜電極接合体側に位置するように配置して用いる燃料電池用セパレータであり、
上記中間層が、上記金属基材の構成成分と上記導電層の構成成分と該中間層における結晶化を抑制する結晶化抑制成分とを含む、ことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−21208(P2012−21208A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161610(P2010−161610)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】