屈折率センサおよび屈折率測定装置
【課題】フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、屈折率センサの素子および屈折率測定装置を小型化し、部品点数についても低減して、低コストとする。
【解決手段】屈折率センサは、励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイを形成し、各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、フォトニック結晶ナノレーザアレイは少なくとも各共振器に被測定媒質を導入自在とする。屈折率測定装置は、屈折率センサと、共振器の近視野像を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から前記被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備える。
【解決手段】屈折率センサは、励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイを形成し、各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、フォトニック結晶ナノレーザアレイは少なくとも各共振器に被測定媒質を導入自在とする。屈折率測定装置は、屈折率センサと、共振器の近視野像を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から前記被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率センサおよびこの屈折率センサを用いた屈折率測定装置に関し、特にフォトニック結晶を用いて屈折率を測定するセンサおよび測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は光の波長程度の長さの周期性を有する結晶構造であり、誘電率の異なる物質を光の波長程度の間隔で周期的に並べることで構成することができる。このフォトニック結晶を用いて物質の屈折率を測定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1には、先行技術としてオプティクスレター(optics letter)29巻1093頁に記載の方法が記載されている。このようなフォトニック結晶には、光がフォトニック結晶中を伝播できないフォトニックバンドギャップと呼ばれる波長領域が存在する。このバンドギャップに相当する波長の光がフォトニック結晶に入射すると、結晶内部で光は伝播できないので境界面で全反射される。
【0004】
フォトニック結晶の周期構造の欠陥により、フォトニックバンドギャップ中に局在欠陥モードが現れ、このモードの光波は結晶の格子定数程度の拡がりで欠陥領域に局在する。また、バンドギャップ中では局在モード以外の光波のモードは存在しないため、不要な自然放出光が抑えられ、欠陥とその周囲のフォトニック結晶は微小共振器を形成し、特定の波長の光が定常状態(共振モードと呼ぶ)を形成し、光は強く閉じ込められる。この共振ピークの波長は、欠陥や周囲のフォトニック結晶を構成する物質の屈折率等に依存して変化する。
【0005】
この先行技術では、フォトニック結晶を構成する薄板に開けられた孔に注入する液体の屈折率の変化とスペクトルのピーク変化と関係から、ピーク波長を測定することで屈折率が検出できるとしている。
【0006】
特許文献1では、上述したフォトニック結晶の微小共振器を用いた屈折率測定法は、共振モードの波長から屈折率を決定するため、広帯域な光源及び回折格子等の分光装置が必要となり、必然的に装置全体の規模が大きくなる。そのため、部品点数が多いのでコストも高くなるという問題を指摘している。
【0007】
そして、この問題点を解決する構成として、単一波長の光源と、位置に依存して共鳴波長の異なる微小共振器と、位置が検出できる光検出器から構成されるマイクロ計測器を提案している。このマイクロ計測器は、被測定物質の屈折率に応じて変化する光の透過位置を検出し、位置情報から屈折率を測定するものである。
【0008】
また、フォトニック結晶レーザの発振波長が、周囲の環境下にある液体によって変化することについては、例えば、非特許文献1,2に示されている。非特許文献2には微小流路を形成する点が示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−24561公報
【非特許文献1】M.Loncar et al. APPLIED PHYSICS LETTRES vol.82, no.26, pp.4648-4650, 2003 Photonic crystal laser sources for chemical detection
【非特許文献2】M.Adams et al. J.Vac.Sci.Technol.B23 (6), Nov/Dec2005 pp3168-3173 American Vacuum Society Lithographically fabricated optical cavities for refractive index sensing
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1,2に示される構成では、発振波長を調べるために分光装置が用いられており、上述した先行技術と同様の課題を有している。
【0011】
一方、特許文献1では、共鳴波長が異なる微小共振器と、この微小共振器に対して所定の一定波長の光を入射するための光源および光導体と、微小共振器を透過した光を検出する光検出器とを備える構成であるため、構成上では、複数の微小共振器を用意すると共に、この微小共振器を挟んで光導体と光検出器との光学装置を対向配置させる必要がある。
【0012】
そのため、分光装置は不要であるが、光導波路と光検出器のペアを微小共振器の個数分だけ用意する必要があり、小型化の効果が制限され、また、複雑な光の入出射結合部も含めて部品点数が逆に増加するという問題がある。
【0013】
また、隣接する微小共振器間において、各微小共振器の共鳴が干渉しないようにすることが求められるため、微小共振器間の距離を十分に開ける必要がある。また、各光検出器は、隣接する微小共振器の光の影響を受けないように、対向する微小共振器を透過した光のみが入射することが求められるため、光検出器の距離についても十分に開ける必要がある。このように、微小共振器および光検出器のいずれにおいても、隣接する素子部材との間の距離を十分に保つ必要があるため、小型化が制限されることになるという問題がある。
【0014】
また、特許文献1の構成では、各微小共振器と測定する屈折率とは一対一であるため、測定可能な屈折率の値の個数は微小共振器の個数に依存する。そのため、多種類の物質についてその屈折率を測定するには、その物質の屈折率に相当する共鳴波長を有する微小共振器を、測定する屈折率の種類の個数分だけ用意しなければならず、しかもそれを1次元的に配置しなければならないため、この点においても小型化が制限されるという問題がある。
【0015】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、屈折率センサの素子および屈折率測定装置を小型化し、部品点数についても低減して、低コストとすることを目的とする。
【0016】
より詳細には、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出可能な構成とすることを目的とし、また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することを目的とする。
【0017】
また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能とすることを目的とする。
【0018】
また、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とする屈折率センサおよび屈折率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、屈折率センサとこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置に係わるものであり、励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイを形成する構成を基本としている。
【0020】
本発明の屈折率センサおよび屈折率測定装置において、フォトニック結晶の共振器は、環境屈折率の変化に応じて発振波長をシフトするという特性を利用するものであり、フォトニック結晶ナノレーザアレイに複数の共振器を設ける。これらの各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトする。
【0021】
本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の少なくとも各共振器に対して被測定媒質を導入自在としている。フォトニック結晶ナノレーザアレイを格子シフト(HO)レーザで形成する場合には、円孔への被測定媒質の導入を自在とする。
【0022】
被測定媒質をフォトニック結晶ナノレーザアレイの各共振器に導入すると、各共振器は導入された被測定媒質による屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、そのシフトは各共振器の各発振波長に応じて異なる。この発振波長のシフトは被測定媒質の屈折率と対応関係があるため、この発振波長のシフトを測定することによって被測定媒質の屈折率を測定する。
【0023】
本発明の屈折率測定装置は、本発明の屈折率センサと、この屈折率センサが備える共振器の近視野像を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、この撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備える構成とする。
【0024】
屈折率測定装置は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの一画像についてその画像変化を観察することによって被測定媒質の屈折率を測定する。そのため、従来の構成のように、各共振器に対して励起光を照射し、また、各共振器に対して光検出器を設けて共振器毎の波長シフトを検出するといった構成を不要とすることができ、構成を簡易化し小型化することができる。
【0025】
本発明の屈折率測定装置は、2つの態様とすることができる。
【0026】
本発明の屈折率測定装置の第1の態様は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上に形成した共振器が互いに発光結合することがなく、独立した発光状態を観察することが容易である場合に好適な構成であり、波長シフトによって発光する共振器の個数変化等に基づいて、屈折率を求める態様である。
【0027】
この屈折率測定装置の第1の態様では、測定部は、屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を予め用意し、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像に基づいて共振器の発振波長シフト状態を求め、対応関係に基づいて、近視野像から求めた共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を求める。
【0028】
共振器の発振波長シフト状態は、所定波長以上のレーザ光を発する共振器の個数変化又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布変化として観察することができる。
【0029】
測定部は、近視野像から所定波長以上のレーザ光を発する共振器を抽出し、この抽出した共振器の個数又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布から被測定媒質の屈折率を求める。
【0030】
さらに、測定部は、所定波長以上のレーザ光を通過させるバンドパスフィルタを備えた構成とし、このバンドパスフィルタによって、所定波長以上のレーザ光を発する共振器を選別する。撮像装置は、このバンドパスフィルタを通過したレーザ光によってフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する。バンドパスフィルタは所定波長未満のレーザ光はカットするため、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像には、所定波長以上のレーザ光を発する共振器のみが含まれることになり、これによって共振器を抽出することができる。
【0031】
また、測定部は、屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を記憶する記憶部と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像から共振器の発振波長シフト状態を求める画像処理部と、画像処理部で求めた共振器の発振波長シフト状態を、記憶部に記憶する共振器の発振波長シフト状態と比較し、一致する共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備える構成とすることができる。
【0032】
本発明の屈折率測定装置の第2の態様は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上に形成した共振器が互いに発光結合し、独立した発光状態を観察することが難しい場合に好適な構成であり、波長シフトによって変化する発光パターンに基づいて屈折率を求める態様である。
【0033】
この屈折率測定装置の第2の態様では、測定部は、屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を予め用意し、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求め、対応関係に基づいて、求めたフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンに対応する屈折率を求める。
【0034】
この第2の態様において、発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布である。この発光分布は、発光する共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状であり、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から画像処理によって取得することができる。
【0035】
測定部は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光する共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状を抽出し、この抽出した発光共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状を、予め屈折率と対応して用意しておいた発光共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求める。
【0036】
また、測定部は、屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を記憶する記憶部と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求める画像処理部と、画像処理部で求めた発光パターンを記憶部に記憶する発光パターンと比較し、一致する発光パターンに対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とによって構成することができる。
【0037】
この第2の態様によれば、発光パターンは、屈折率に応じて連続的に変化するため、発光パターンの分解能に依存するものの、多数の屈折率を検出することができる。従来の構成では、共振器と検出する屈折率とが一対一で対応しているため、多数の屈折率を検出するには、その屈折率の個数分の検出器が必要となるが、本発明によれば、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像のみを検出し、そのフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から得られる発光パターン変化に基づいて屈折率を求めるため、一つの撮像装置で対応することができる。
【0038】
本発明は、フォトニック結晶上に異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器を設けてフォトニック結晶ナノレーザアレイを構成する点を特徴の一つとし、これによって、装置の小型化、部品点数の低減化、低コス化等を可能とする。また、屈折率による発振波長のシフトをフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を観察することで検出するため、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出可能となり、また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することができる。また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能となり、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、屈折率センサの素子および屈折率測定装置を小型化し、部品点数についても低減して、低コストとすることができる。
【0040】
より詳細には、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出を可能とすることができる。
【0041】
また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することができる。
【0042】
また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能とすることができる。
【0043】
また、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0045】
図1は本発明の屈折率センサの概略構成を説明するための図である。
【0046】
図1において、屈折率センサ10は、複数のレーザユニット12を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイ11によって構成される。図1では、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11は、8個のレーザユニットA〜レーザユニットHを配列した例を示している。各レーザユニット12は共振器を有し、励起光31を照射することでレーザ光32を発光する。
【0047】
これら各レーザユニット12は、それぞれ異なる発振波長を有する。フォトニック結晶レーザは、例えば、格子シフト(H0)レーザにより構成することができ、この格子シフト(H0)レーザの構造パラメータを調整することによって発振波長を調整することができる。
【0048】
本発明の屈折率センサは、フォトニック結晶レーザの発振波長が環境屈折率に応じてシフトすることを利用するものであり、一つのフォトニック結晶内に複数のレーザユニットを形成したフォトニック結晶ナノレーザアレイを用いることで、一つの素子で複数の屈折率の測定を可能とする。
【0049】
図1に示すフォトニック結晶ナノレーザアレイ11において、各レーザユニット12は、フォトニック結晶内に規則的に欠陥を形成することで共振器を形成し、アレイレーザを構成することができる。さらに、これらの各レーザユニットA〜レーザユニットHの各共振器の構造パラメータ(例えば、格子定数、円孔のシフト量等)をすこしずつ変更し集積することによって、異なる発振波長を有するナノレーザアレイ11を構成することができる。
【0050】
このフォトニック結晶ナノレーザアレイ11に対して媒質が導入されると、この媒質の屈折率に応じて各共振器の発振波長がシフトする。この共振器の発振波長シフトの状態は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの発光近視野(NFP)像の変化として画像上で観察することができる。
【0051】
図1(b)はこの屈折率の変化による共振器の発振波長シフトの変化を発光近視野(NFP)像上で示した概略図である。なお、図1(b)では、示す発光近視野(NFP)像は説明上から模式化して示し、屈折率naの媒質による発光近視野(NFP)像20A、屈折率nbの媒質による発光近視野(NFP)像20B、屈折率nhの媒質による発光近視野(NFP)像20Hを示している。
【0052】
ここでは、各レーザユニットA〜レーザユニットHの共振器の近視野像の発光状態が、導入される媒質の屈折率に応じて変化する状態を示し、各屈折率に対して発光近視野(NFP)像20の発光状態が一対一で対応している。
【0053】
したがって、この屈折率と発光近視野(NFP)像20の発光状態との対応関係が予め判っている場合には、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の発光近視野(NFP)像20から、そのときフォトニック結晶ナノレーザアレイ11に導入された媒質の屈折率を求めることができる。また、測定対象の物質が既知であり、屈折率と物質名との対応関係が判っている場合には、その媒質の物質名を知ることができる。
【0054】
図1(c)は、未知の媒質が導入されたときの発光近視野(NFP)像20xが得られたとき、この発光近視野(NFP)像20xから屈折率nxを求める様子を示している。なお、このとき、導入される媒質の屈折率nxと、この媒質によって得られる発光近視野(NFP)像20xの発光状態は予め判っているものとする。
【0055】
図2は、本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の構成例を説明するための図である。ここでは、一チップ上に複数のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11を形成する例を示している。
【0056】
図2(a)は、複数のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11が形成されたチップ13を示している。チップ13は、例えば、200μm×200μmの寸法の基板上に5行×5列の配列によって25個のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11を形成した例を示している。
【0057】
図2(b)は、チップ13上に形成されたフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の構成例として、3×3の格子シフト(H0)レーザアレイと4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構成例を示している。3×3の格子シフト(H0)レーザ(図2(b)中の左方に示す例)は、9個の格子シフトレーザユニット12を3行3列に配列し、4×4の格子シフト(H0)レーザ(図2(b)中の右方に示す例)は、16個の格子シフトレーザユニット12を4行4列に配列している。
【0058】
なお、ここでは、格子シフト(H0)レーザアレイを挟む両側に溝を形成している。この溝は、導入された液体等の媒質を円滑に流すための構成であり、必ずしも必要な構成ではない。
【0059】
図2(c)は格子シフトレーザユニット12の構成例を示している。図2(c)の左方は、3×3の格子シフト(H0)レーザアレイの格子シフトレーザユニット12の構成例を示し、図2(c)の右方は、4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの格子シフトレーザユニットの構成例を示している。
【0060】
ここで、4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構造パラメータについて説明する。表1は4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構造パラメータの一例である。
【0061】
【表1】
【0062】
ここでは、格子定数、円孔直径構造パラメータに加えて、新たにm行n列目の格子シフト量smn(m=1−4,n=1−4)、行方向共振器間隔Nc、列方向共振器間隔Nrを導入して用い、これらの構造パラメータを調整することによって格子シフト(H0)レーザアレイの発振波長を調整する。
【0063】
例えば、各レーザアレイの円孔シフト量smnを5−10nmずつ変更することによって、それぞれの発振波長間隔を5−10nm程度となるように設定する。
【0064】
また、レーザアレイにおいて、各格子シフト(H0)レーザは3×3個、あるいは4×4個を正方格子状、長方格子状、平行四辺形格子状等に並べてアレイ集積化する。なお、平行四辺形格子状に配列することによって、各格子シフト(H0)レーザ間のモード結合の抑制が期待される。
【0065】
また、格子シフト(H0)レーザアレイは、励起光によってレーザ光が励起される。ここで、表1に示す共振器間隔Nc,Nrは、励起光をマルチモードファイバにより導く場合のマルチモードファイバの励起スポット径が〜25nmであることを考慮して設定している。また、フォトニック結晶の領域の大型化による歪みの発生を考慮すると、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11全体の大きさはおよそ23μm角以内としている。
【0066】
なお、上記したフォトニック結晶ナノレーザアレイ11、格子シフトレーザユニット12の構造パラメータや寸法は一例であって、この例に限られるものではない。
【0067】
また、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の基板は、レーザウエハや多重量子井戸(MQW)ウエハを用いることができる。
【0068】
なお、多重量子井戸(MQW)ウエハを用いる場合には、スラブ厚が大きくなる。スラブ厚が大きくなると、透過屈折率が高くなり、バンド端の規格化周波数a/λが下がるため、発振波長らλを固定する場合には、格子定数aを小さく設計する。
【0069】
図3はフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の多重量子井戸(MQW)ウエハの一構造例である。フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の基板として多重量子井戸(MQW)ウエハを用いることによって、QW層に対する光閉じ込め係数を増加させ、屈折率媒質中でモードのQ値が低下した場合であっても発振し易くすることができる。
【0070】
図3では、InPの基板21上に、InPのバッファ層(1000nm)22とInPのクラッド層24(100nm)とによって挟まれたGaInAsPの活性層23(トータルで〜240nm)を積層して構成される。
【0071】
図4は、格子シフト(H0)レーザアレイの一例のSEM像であり、図4(a)は3×3の格子シフト(H0)レーザアレイ11と、格子シフトレーザユニット12のSEM像を示し、図4(b)は4×4の格子シフト(H0)レーザアレイ11と格子シフトレーザユニット12のSEM像を示している。図中の白い丸印は欠陥分を示している。なお、図4(a)は正方格子状に並べてアレイ集積化した例であり、図4(b)は平行四辺形格子状に並べてアレイ集積化した例である。
【0072】
図5は、上記した格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルを示している。図5(a)は3×3格子シフト(H0)レーザアレイ11aの例による発光状態とスペクトルを示し、図5(b)は4×4格子シフト(H0)レーザアレイ11bの例による発光状態とスペクトルを示している。
【0073】
この格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルは環境屈折率によって変化し、フォトニック結晶ナノレーザアレイに導入される媒質の屈折率が異なれば異なる発光状態とスペクトルを示す。
【0074】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイを撮像したときの発光近視野像(NFP)と、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間のモード結合の有無との関係について図6を用いて説明する。
【0075】
フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合がなく、各共振器は独立して発振動作を行うと見なせる場合には、発光近視野像(NFP)は屈折率の変化に伴って線形的にシフトする。図6(a)は、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って線形的にシフトする例を示している。左側に示す図は媒体1の発光近視野像(NFP)であり、4個のレーザユニット12について発光が確認される。一方、右側に示す図は媒体2の発光近視野像(NFP)であり、4個のレーザユニット12に加えてさらに2個のレーザユニット12が発光し、合計6個のレーザユニット12の発光が確認される。
【0076】
これにより、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中の発光近視野像(NFP)において発光しているレーザユニットの個数によって、屈折率の変化を定量的に評価することができる。例えば、4個のレーザユニットが発光している場合には媒質1の屈折率であることを検出し、6個のレーザユニットが発光している場合には媒質2の屈折率であることを検出することができる。
【0077】
一方、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在し、各共振器は独立して発振動作を行うと見なせない場合には、発光近視野像(NFP)は屈折率の変化に伴って不規則に変化する。この不規則変化は、発光する共振器の個数に限らず、フォトニック結晶ナノレーザアレイ中の何れの共振器が発光するかについても不規則に変化する。したがって、この場合には前記した共振器間にモード結合がない場合のように発光近視野像(NFP)は規則的に変化しないため、発光数による評価のように定量的に評価することは困難である。
【0078】
図6(b)は、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って不規則に変化する例を示している。左側に示す図は媒体1の発光近視野像(NFP)であり、6個のレーザユニット12について発光が確認され、一方、右側に示す図は媒体2の発光近視野像(NFP)であり、5個のレーザユニット12について発光が確認されるが、その発光位置や強度に単純な規則性は見い出し難い。
【0079】
この発光近視野像(NFP)は、所定波長λcut以上の波長を透過するバンドパスフィルタに通して波長選別を行った後に像を取得した場合であっても、線形的にシフトすることはない。図7は、このバンドパスフィルタのカットオフ特性(図7(b))と、発光近視野像(NFP)(図7(a))とを示している。
【0080】
しかしながら、この発光近視野像(NFP)の発光パターンは、そのときの媒質の屈折率に対応して変化するため、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中の発光近視野像(NFP)の発光パターンによって屈折率の変化を評価することができる。
【0081】
以下、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在しない場合の第1の態様について図8〜図11を用いて説明し、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在する場合の第2の態様について図12〜図14を用いて説明する。
【0082】
はじめに、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合がなく、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って線形的にシフトする第1の態様について説明する。
【0083】
図8は、第1の態様を説明するための概略図である。第1の態様では、図8(a)に示すように、バンドパスフィルタ5を通した後にフォトニック結晶ナノレーザアレイ10の画像を撮像することで発光近視野像(NFP)を取得する。
【0084】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10は、波長がそれぞれある環境屈折率にλ1〜λ8の異なる発振波長となる複数のレーザユニット11を備えるものとする。
【0085】
これらレーザユニット11に励起光を照射して一括で発光させると、各レーザユニット11はそのときに存在する媒質の屈折率に応じて定まる発振波長で発光する。
【0086】
図8(b)は、媒体1が存在するときの発光状態を示し、発振波長はバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutを挟んで、短波長側と長波長側にそれぞれ4波長ずつ分布した場合を示している。この発振波長の分布では、バンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutによって短波長側の4波長分(図中の波長特性中の地模様を設けた波長領域)はカットされ、長波長側の4波長分のみがバンドパスフィルタ5を通過して撮像装置(図示していない)で撮像され、発光近視野像(NFP)が取得される。図9はバンドパスフィルタ5の一例である。なお、図9ではバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutとして1.544μmの例を示しているが、一例であってこの波長に限られるものではない。
【0087】
図8(b)の下方に示す図は、発光近視野像(NFP)を模式的に示しており、長波長側の4個の波長に相当する発光近視野像(NFP)の発光が確認される。
【0088】
一方、図8(c)は、媒体2が存在するときの発光状態を示し、発振波長はバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutを挟んで、短波長側に2波長、長波長側に6波長分布した場合を示している。この発振波長の分布では、バンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutによって短波長側の2波長分(図中の波長特性中の地模様を設けた波長領域)はカットされ、長波長側の6波長分がバンドパスフィルタ5を通過して撮像装置(図示していない)で撮像され、発光近視野像(NFP)が取得される。
【0089】
図8(c)の下方に示す図は、発光近視野像(NFP)を模式的に示しており、長波長側の6個の波長に相当する発光近視野像(NFP)の発光が確認される。
【0090】
この発光近視野像(NFP)の発光状態の変化から媒体の屈折率を特定することができる。
【0091】
図10、図11は、媒質による波長シフトの一例を示している。図10(a)は媒質が空気の場合であって屈折率n=1.000の例を示している。また、図10(b)は媒質がメタノールの場合であって屈折率n=1.329の例を示し、図10(c)は媒質がアセトンの場合であって屈折率n=1.359の例を示している。図10から、媒質の屈折率の変化に伴って、λ1〜λ5でラベリングした各共振器の発振波長のピークがシフトすることが確認される。
【0092】
図11では、図10中の各発振波長のピーク位置の環境屈折率に対する依存性を示している。図11において、各発振波長のピーク位置が環境屈折率に対して線形的に変化なシフトすると仮定すると、平均波長シフトΔλ/Δnは73nmとなり、波長分解能Δλresがレーザ発振時を仮定して0.1nmとすると、屈折率分解能Δnresはおよそ1.4×10−3となる。この図11の特性によれば、各発振波長のピーク位置が環境屈折率に対して線形的に変化なシフトすると仮定したとき、各発振波長のピーク位置のシフトから環境屈折率を算出することが可能となる。
【0093】
次に、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在し、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って不規則に変化する第2の態様について説明する。
【0094】
図12は、第2の態様を説明するための概略図である。第2の態様では、図12(a)に示すように、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10の画像を撮像することで発光近視野像(NFP)を取得する。このとき、第1の態様と異なりバンドパスフィルタ5は不要である。
【0095】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10は、第1の態様と同様に、波長がそれぞれある環境屈折率にλ1〜λ8の異なる発振波長となる複数のレーザユニット11を備えるものとする。
【0096】
これらレーザユニット11に励起光を照射して一括で発光させると、各レーザユニット11はそのときに存在する媒質の屈折率に応じて定まる発振波長で発光する。図12(b)は、媒体1が存在するときの発光パターンを示し、図12(c)は、媒体2が存在するときの発光パターンを示す。各媒体による発光パターンは、媒体の屈折率に対応しており、この発光近視野像(NFP)の発光状態の変化から媒体の屈折率を特定することができる。
【0097】
図13は、異なる媒質中でのスペクトルと発光近視野像(NFP)の発光パターンを示している。図13(a)は媒質が空気の場合であって屈折率n=1.000の例を示し、図13(b)は媒質がメタノールの場合であって屈折率n=1.329の例を示し、図13(c)は媒質がアセトンの場合であって屈折率n=1.359の例を示している。図13から、媒質の屈折率の変化に伴って、λ1〜λ5でラベリングした各共振器の発振波長のピークがシフトし、このとき、発光近視野像(NFP)の発光パターンが変化することが確認される。
【0098】
図14は、各屈折率における発光近視野像(NFP)とその発光パターンの類型化例を示している。
【0099】
図14(a)〜(c)の屈折率nがそれぞれ、1.000,1.329,1.359の場合の発光近視野像(NFP)について、その発光パターンを類型化する類型パターンとして図14(d)〜(f)を定めることができる。ここでの類型化は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中において共振器の発光位置とその発光強度とを円の位置と径とで表している。
【0100】
この類型化パターンは、発光近視野像(NFP)とその発光パターンを識別するために用いることができ、屈折率とこの屈折率に対応する類型化パターンとを予め求めて用意しておき、撮像装置の撮像によって取得されたフォトニック結晶ナノレーザアレイ像を画像処理してパターンを形成し、このパターンと予め用意しておいた類型化パターンとを比較し、合致する類型パターンを抽出する。合致する類型パターンが抽出された場合には、その類型パターンに相当する屈折率から媒質の屈折率を求めることができる。
【0101】
第2の態様において、発光パターンの識別は、上記したようにフォトニック結晶ナノレーザアレイ像中において、共振器の発光位置とその発光強度とを円の位置と径とで表される類型パターンを用いて行う他に、発光強度の分布形状によって行ってもよい。この発光強度の分布形状は、発光パターンを共振器の発光位置とその発光強度で表すのではなく、発光パターンの形状および強度の分布で行うものである。
【0102】
次に、図15、図16を用いてレーザアレイのスペクトルの依存性について説明する。図15はレーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の励起強度依存性を説明するための図である。図15では、3×3格子シフト(H0)レーザアレイのスペクトルと発光近視野像(NFP)について、励起用のレーザ光源に供給する駆動電流の大きさに対する依存状態を示している。図では、それぞれ駆動電流Iinが600mA〜320mAの例について示している。
【0103】
また、図16はレーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の共振器間隔依存性を説明するための図である。図では、3×3格子シフト(H0)レーザアレイについて、駆動電流Iinを600mAとし、共振器間隔(Nc,Nr)を異なられたときのスペクトルと発光近視野像(NFP)を示している。
【0104】
スペクトルと発光近視野像(NFP)は、励起強度および共振器間隔に対して依存性を有しているため、発光パターンを識別する場合には、同じ励起強度および共振器間隔の条件で比較する。
【0105】
次に、図17〜図19を用いて、本発明の屈折率センサを用いた屈折率測定装置の概略構成について説明する。なお、図17は、本発明の屈折率測定装置1の概略構成図である。また、図18は上述した第1の態様による測定部の概略構成図であり、図19は第2の態様による測定部の概略構成図である。
【0106】
図17において、屈折率測定装置1は、サンプル100に対して励起光を照射する励起光源3、励起光によって励起された発光を撮像する撮像装置4、撮像装置4で撮像した画像に基づいてサンプル100の屈折率を求める測定部2を備える。
【0107】
サンプル100は、液体に限らず気体であってもよく、例えば、媒体ケース内に収納される。媒体ケース内には本発明の屈折率センサが配置され、媒体ケース内にサンプル100の媒体を注入することによって、屈折率センサのフォトニック結晶ナノレーザアレイに媒体を導入することができる。
【0108】
なお、媒体は、媒体ケース内に保持させる構成の他、流路を設けた構成としてもよい。この流路上に本発明の屈折率センサを配置することによって、流下する媒体に付いても連続して屈折率を測定することができる。
【0109】
励起光源は、電源と、この電源からの供給電力で駆動するマルチモードLDと、マルチモードLDで発光した励起光を導くマルチモードファイバとを備える。励起光は、ミラー機構、およびマイクロスコープを通して例えば〜25μm径でサンプルを照射して励起する。励起による発光は、InGaAsのイメージセンサ等の撮像装置4で撮像される。発光の一部はミラー機構を介して光学スペクトルアナライザに導いてスペクトル解析を行ってもよい。なお、InGaAsのイメージセンサの前方にはSiフィルタの他、バンドパスフィルタを設けてもよい。
【0110】
図18は第1の態様による測定部の概略構成図であり、バンドパスフィルタ5を通した画像を撮像し、屈折率の変化に伴って線形的にシフトする発光近視野像(NFP)を判定し、これによって屈折率を求める構成例である。
【0111】
ここで、測定部2は、撮像部4で撮像したフォトニック結晶ナノレーザアレイ画像を画像処理する画像処理部2a、フォトニック結晶ナノレーザアレイ画像に基づいて発光近視野像の発光状態を検出し、発光している共振器を抽出する発光状態検出部2e、発光状態検出部2eで検出した共振器の分布状態を記憶部2cに記憶しておいた発光状態と比較し、この発光状態に対応する屈折率を読み出す屈折率判定部2b、屈折率判定部2bで行う発光状態の比較、および、その比較結果に基づいて読み出す屈折率を記憶しておく記憶部2c、および表示部2dを備える。表示部2dは、屈折率判定部2bによる判定結果を表示する他、画像処理部2aからの画像や発光状態検出部2eからの発光近視野像を表示することができる。
【0112】
また、記憶部2cには、屈折率のデータと共にその屈折率に相当する物質名のデータを格納しておき、屈折率と共に物質名を読み出すようにしてもよい。
【0113】
図19は第2の態様による測定部の概略構成図であり、バンドパスフィルタ5を通すことなくフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像し、屈折率の変化に伴って不規則に変化する発光近視野像(NFP)の発光パターンを判定し、これによって屈折率を求める構成例である。
【0114】
図19に示す構成において、測定部2は、図18に示した構成と同様に、画像処理部2a、屈折率判定部2b、記憶部2c、表示部2dを備える他、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光近視野像(NFP)の発光パターンを抽出する発光パターン抽出部2f、発光パターンの比較を行う発光パターン比較部2gを備える。また、記憶部2cは、発光パターンを記憶する発光パターン記憶部2c1と、発光パターンに対応する屈折率を記憶する発光パターン/屈折率記憶部2c2を備える。
【0115】
発光パターン比較部2gは、発光パターン抽出部2fで抽出した発光パターンと、発光パターン記憶部2c1に記憶されている発光パターンとを比較して、一致する発光パターンを検索する。屈折率判定部2bは、検索結果に基づいて発光パターン/屈折率記憶部2c2から発光パターンに対応する屈折率を読み出す。
【0116】
また、記憶部2c2においても、屈折率のデータと共にその屈折率に相当する物質名のデータを格納しておき、屈折率と共に物質名を読み出すようにしてもよい。
【0117】
なお、上記したフォトニック結晶ナノレーザアレイにおいて、共振器は構造パラメータを調整することで構成しているが、通常、フォトニック結晶ナノレーザアレイの製作時には、この製作に伴ってばらつきが生じる。そこで、この製作に伴って生じるばらつきにより発生する特徴的な発光パターンを利用してもよい。この場合には、各屈折率センサのチップについて、各屈折率媒体内で予め発光パターンを測定して記憶しておき、この発光パターンと実際の測定で得られる発光パターンとを比較することで屈折率を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、化学分析一般に適用することができる他、使い捨て処理が必要な生体分析、医療応用分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の屈折率センサの概略構成を説明するための図である。
【図2】本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイの構成例を説明するための図である。
【図3】フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の多重量子井戸(MQW)ウエハの一構造例である。
【図4】格子シフト(H0)レーザアレイの一例のSEM像である。
【図5】格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルを示す図である。
【図6】発光近視野像(NFP)と共振器間のモード結合の有無との関係を説明するための図である。
【図7】発光近視野像(NFP)およびバンドパスフィルタのカットオフ特性を示す図である。
【図8】本発明の第1の態様を説明するための概略図である。
【図9】バンドパスフィルタの一例を示す図である。
【図10】媒質による波長シフトの一例を示す図である。
【図11】媒質による波長シフトの一例を示す図である。
【図12】本発明の第2の態様を説明するための概略図である。
【図13】異なる媒質中でのスペクトルと発光近視野像(NFP)の発光パターンを示す図である。
【図14】各屈折率における発光近視野像(NFP)とその発光パターンの類型化例を示す図である。
【図15】レーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の励起強度依存性を説明するための図である。
【図16】レーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の共振器間隔依存性を説明するための図である。
【図17】本発明の屈折率測定装置の概略構成図である。
【図18】本発明の第1の態様による測定部の概略構成図である。
【図19】本発明の第2の態様による測定部の概略構成図である。
【符号の説明】
【0120】
1…屈折率測定装置
2…測定部
2a…画像処理部
2b…屈折率判定部
2c…記憶部
2c1…発光パターン記憶部
2c2…発光パターン/屈折率記憶部
2d…表示部
2e…発光状態検出部
2f…発光パターン抽出部
2g…発光パターン比較部
3…励起光源
4…撮像部
5…バンドパスフィルタ
10…屈折率センサ
11…フォトニック結晶ナノレーザアレイ
12…レーザユニット
13…チップ
20,20A〜20H…発光近視野像
21…基板
22…バッファ層
23…活性層
24…クラッド層
25…接触層
26…キャップ層
31…励起光
32…レーザ光
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率センサおよびこの屈折率センサを用いた屈折率測定装置に関し、特にフォトニック結晶を用いて屈折率を測定するセンサおよび測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は光の波長程度の長さの周期性を有する結晶構造であり、誘電率の異なる物質を光の波長程度の間隔で周期的に並べることで構成することができる。このフォトニック結晶を用いて物質の屈折率を測定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1には、先行技術としてオプティクスレター(optics letter)29巻1093頁に記載の方法が記載されている。このようなフォトニック結晶には、光がフォトニック結晶中を伝播できないフォトニックバンドギャップと呼ばれる波長領域が存在する。このバンドギャップに相当する波長の光がフォトニック結晶に入射すると、結晶内部で光は伝播できないので境界面で全反射される。
【0004】
フォトニック結晶の周期構造の欠陥により、フォトニックバンドギャップ中に局在欠陥モードが現れ、このモードの光波は結晶の格子定数程度の拡がりで欠陥領域に局在する。また、バンドギャップ中では局在モード以外の光波のモードは存在しないため、不要な自然放出光が抑えられ、欠陥とその周囲のフォトニック結晶は微小共振器を形成し、特定の波長の光が定常状態(共振モードと呼ぶ)を形成し、光は強く閉じ込められる。この共振ピークの波長は、欠陥や周囲のフォトニック結晶を構成する物質の屈折率等に依存して変化する。
【0005】
この先行技術では、フォトニック結晶を構成する薄板に開けられた孔に注入する液体の屈折率の変化とスペクトルのピーク変化と関係から、ピーク波長を測定することで屈折率が検出できるとしている。
【0006】
特許文献1では、上述したフォトニック結晶の微小共振器を用いた屈折率測定法は、共振モードの波長から屈折率を決定するため、広帯域な光源及び回折格子等の分光装置が必要となり、必然的に装置全体の規模が大きくなる。そのため、部品点数が多いのでコストも高くなるという問題を指摘している。
【0007】
そして、この問題点を解決する構成として、単一波長の光源と、位置に依存して共鳴波長の異なる微小共振器と、位置が検出できる光検出器から構成されるマイクロ計測器を提案している。このマイクロ計測器は、被測定物質の屈折率に応じて変化する光の透過位置を検出し、位置情報から屈折率を測定するものである。
【0008】
また、フォトニック結晶レーザの発振波長が、周囲の環境下にある液体によって変化することについては、例えば、非特許文献1,2に示されている。非特許文献2には微小流路を形成する点が示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−24561公報
【非特許文献1】M.Loncar et al. APPLIED PHYSICS LETTRES vol.82, no.26, pp.4648-4650, 2003 Photonic crystal laser sources for chemical detection
【非特許文献2】M.Adams et al. J.Vac.Sci.Technol.B23 (6), Nov/Dec2005 pp3168-3173 American Vacuum Society Lithographically fabricated optical cavities for refractive index sensing
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1,2に示される構成では、発振波長を調べるために分光装置が用いられており、上述した先行技術と同様の課題を有している。
【0011】
一方、特許文献1では、共鳴波長が異なる微小共振器と、この微小共振器に対して所定の一定波長の光を入射するための光源および光導体と、微小共振器を透過した光を検出する光検出器とを備える構成であるため、構成上では、複数の微小共振器を用意すると共に、この微小共振器を挟んで光導体と光検出器との光学装置を対向配置させる必要がある。
【0012】
そのため、分光装置は不要であるが、光導波路と光検出器のペアを微小共振器の個数分だけ用意する必要があり、小型化の効果が制限され、また、複雑な光の入出射結合部も含めて部品点数が逆に増加するという問題がある。
【0013】
また、隣接する微小共振器間において、各微小共振器の共鳴が干渉しないようにすることが求められるため、微小共振器間の距離を十分に開ける必要がある。また、各光検出器は、隣接する微小共振器の光の影響を受けないように、対向する微小共振器を透過した光のみが入射することが求められるため、光検出器の距離についても十分に開ける必要がある。このように、微小共振器および光検出器のいずれにおいても、隣接する素子部材との間の距離を十分に保つ必要があるため、小型化が制限されることになるという問題がある。
【0014】
また、特許文献1の構成では、各微小共振器と測定する屈折率とは一対一であるため、測定可能な屈折率の値の個数は微小共振器の個数に依存する。そのため、多種類の物質についてその屈折率を測定するには、その物質の屈折率に相当する共鳴波長を有する微小共振器を、測定する屈折率の種類の個数分だけ用意しなければならず、しかもそれを1次元的に配置しなければならないため、この点においても小型化が制限されるという問題がある。
【0015】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、屈折率センサの素子および屈折率測定装置を小型化し、部品点数についても低減して、低コストとすることを目的とする。
【0016】
より詳細には、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出可能な構成とすることを目的とし、また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することを目的とする。
【0017】
また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能とすることを目的とする。
【0018】
また、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とする屈折率センサおよび屈折率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、屈折率センサとこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置に係わるものであり、励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイを形成する構成を基本としている。
【0020】
本発明の屈折率センサおよび屈折率測定装置において、フォトニック結晶の共振器は、環境屈折率の変化に応じて発振波長をシフトするという特性を利用するものであり、フォトニック結晶ナノレーザアレイに複数の共振器を設ける。これらの各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトする。
【0021】
本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の少なくとも各共振器に対して被測定媒質を導入自在としている。フォトニック結晶ナノレーザアレイを格子シフト(HO)レーザで形成する場合には、円孔への被測定媒質の導入を自在とする。
【0022】
被測定媒質をフォトニック結晶ナノレーザアレイの各共振器に導入すると、各共振器は導入された被測定媒質による屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、そのシフトは各共振器の各発振波長に応じて異なる。この発振波長のシフトは被測定媒質の屈折率と対応関係があるため、この発振波長のシフトを測定することによって被測定媒質の屈折率を測定する。
【0023】
本発明の屈折率測定装置は、本発明の屈折率センサと、この屈折率センサが備える共振器の近視野像を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、この撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備える構成とする。
【0024】
屈折率測定装置は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの一画像についてその画像変化を観察することによって被測定媒質の屈折率を測定する。そのため、従来の構成のように、各共振器に対して励起光を照射し、また、各共振器に対して光検出器を設けて共振器毎の波長シフトを検出するといった構成を不要とすることができ、構成を簡易化し小型化することができる。
【0025】
本発明の屈折率測定装置は、2つの態様とすることができる。
【0026】
本発明の屈折率測定装置の第1の態様は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上に形成した共振器が互いに発光結合することがなく、独立した発光状態を観察することが容易である場合に好適な構成であり、波長シフトによって発光する共振器の個数変化等に基づいて、屈折率を求める態様である。
【0027】
この屈折率測定装置の第1の態様では、測定部は、屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を予め用意し、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像に基づいて共振器の発振波長シフト状態を求め、対応関係に基づいて、近視野像から求めた共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を求める。
【0028】
共振器の発振波長シフト状態は、所定波長以上のレーザ光を発する共振器の個数変化又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布変化として観察することができる。
【0029】
測定部は、近視野像から所定波長以上のレーザ光を発する共振器を抽出し、この抽出した共振器の個数又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布から被測定媒質の屈折率を求める。
【0030】
さらに、測定部は、所定波長以上のレーザ光を通過させるバンドパスフィルタを備えた構成とし、このバンドパスフィルタによって、所定波長以上のレーザ光を発する共振器を選別する。撮像装置は、このバンドパスフィルタを通過したレーザ光によってフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する。バンドパスフィルタは所定波長未満のレーザ光はカットするため、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像には、所定波長以上のレーザ光を発する共振器のみが含まれることになり、これによって共振器を抽出することができる。
【0031】
また、測定部は、屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を記憶する記憶部と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像から共振器の発振波長シフト状態を求める画像処理部と、画像処理部で求めた共振器の発振波長シフト状態を、記憶部に記憶する共振器の発振波長シフト状態と比較し、一致する共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備える構成とすることができる。
【0032】
本発明の屈折率測定装置の第2の態様は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上に形成した共振器が互いに発光結合し、独立した発光状態を観察することが難しい場合に好適な構成であり、波長シフトによって変化する発光パターンに基づいて屈折率を求める態様である。
【0033】
この屈折率測定装置の第2の態様では、測定部は、屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を予め用意し、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求め、対応関係に基づいて、求めたフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンに対応する屈折率を求める。
【0034】
この第2の態様において、発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布である。この発光分布は、発光する共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状であり、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から画像処理によって取得することができる。
【0035】
測定部は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光する共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状を抽出し、この抽出した発光共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状を、予め屈折率と対応して用意しておいた発光共振器の位置および発光強度、あるいは発光強度の分布形状と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求める。
【0036】
また、測定部は、屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を記憶する記憶部と、撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求める画像処理部と、画像処理部で求めた発光パターンを記憶部に記憶する発光パターンと比較し、一致する発光パターンに対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とによって構成することができる。
【0037】
この第2の態様によれば、発光パターンは、屈折率に応じて連続的に変化するため、発光パターンの分解能に依存するものの、多数の屈折率を検出することができる。従来の構成では、共振器と検出する屈折率とが一対一で対応しているため、多数の屈折率を検出するには、その屈折率の個数分の検出器が必要となるが、本発明によれば、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像のみを検出し、そのフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から得られる発光パターン変化に基づいて屈折率を求めるため、一つの撮像装置で対応することができる。
【0038】
本発明は、フォトニック結晶上に異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器を設けてフォトニック結晶ナノレーザアレイを構成する点を特徴の一つとし、これによって、装置の小型化、部品点数の低減化、低コス化等を可能とする。また、屈折率による発振波長のシフトをフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を観察することで検出するため、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出可能となり、また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することができる。また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能となり、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、屈折率センサの素子および屈折率測定装置を小型化し、部品点数についても低減して、低コストとすることができる。
【0040】
より詳細には、フォトニック結晶を用いた屈折率センサおよびこの屈折率センサを備えた屈折率測定装置において、フォトニック結晶上に形成する複数の共振器の間隔が狭い場合であっても検出を可能とすることができる。
【0041】
また、複数の共振器の光を検出する光検出器の個数を低減することができる。
【0042】
また、共振器間で光の結合が生じた場合であっても、屈折率の測定を可能とすることができる。
【0043】
また、共振器の個数よりも多い数の屈折率値の測定を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0045】
図1は本発明の屈折率センサの概略構成を説明するための図である。
【0046】
図1において、屈折率センサ10は、複数のレーザユニット12を含むフォトニック結晶ナノレーザアレイ11によって構成される。図1では、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11は、8個のレーザユニットA〜レーザユニットHを配列した例を示している。各レーザユニット12は共振器を有し、励起光31を照射することでレーザ光32を発光する。
【0047】
これら各レーザユニット12は、それぞれ異なる発振波長を有する。フォトニック結晶レーザは、例えば、格子シフト(H0)レーザにより構成することができ、この格子シフト(H0)レーザの構造パラメータを調整することによって発振波長を調整することができる。
【0048】
本発明の屈折率センサは、フォトニック結晶レーザの発振波長が環境屈折率に応じてシフトすることを利用するものであり、一つのフォトニック結晶内に複数のレーザユニットを形成したフォトニック結晶ナノレーザアレイを用いることで、一つの素子で複数の屈折率の測定を可能とする。
【0049】
図1に示すフォトニック結晶ナノレーザアレイ11において、各レーザユニット12は、フォトニック結晶内に規則的に欠陥を形成することで共振器を形成し、アレイレーザを構成することができる。さらに、これらの各レーザユニットA〜レーザユニットHの各共振器の構造パラメータ(例えば、格子定数、円孔のシフト量等)をすこしずつ変更し集積することによって、異なる発振波長を有するナノレーザアレイ11を構成することができる。
【0050】
このフォトニック結晶ナノレーザアレイ11に対して媒質が導入されると、この媒質の屈折率に応じて各共振器の発振波長がシフトする。この共振器の発振波長シフトの状態は、フォトニック結晶ナノレーザアレイの発光近視野(NFP)像の変化として画像上で観察することができる。
【0051】
図1(b)はこの屈折率の変化による共振器の発振波長シフトの変化を発光近視野(NFP)像上で示した概略図である。なお、図1(b)では、示す発光近視野(NFP)像は説明上から模式化して示し、屈折率naの媒質による発光近視野(NFP)像20A、屈折率nbの媒質による発光近視野(NFP)像20B、屈折率nhの媒質による発光近視野(NFP)像20Hを示している。
【0052】
ここでは、各レーザユニットA〜レーザユニットHの共振器の近視野像の発光状態が、導入される媒質の屈折率に応じて変化する状態を示し、各屈折率に対して発光近視野(NFP)像20の発光状態が一対一で対応している。
【0053】
したがって、この屈折率と発光近視野(NFP)像20の発光状態との対応関係が予め判っている場合には、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の発光近視野(NFP)像20から、そのときフォトニック結晶ナノレーザアレイ11に導入された媒質の屈折率を求めることができる。また、測定対象の物質が既知であり、屈折率と物質名との対応関係が判っている場合には、その媒質の物質名を知ることができる。
【0054】
図1(c)は、未知の媒質が導入されたときの発光近視野(NFP)像20xが得られたとき、この発光近視野(NFP)像20xから屈折率nxを求める様子を示している。なお、このとき、導入される媒質の屈折率nxと、この媒質によって得られる発光近視野(NFP)像20xの発光状態は予め判っているものとする。
【0055】
図2は、本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の構成例を説明するための図である。ここでは、一チップ上に複数のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11を形成する例を示している。
【0056】
図2(a)は、複数のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11が形成されたチップ13を示している。チップ13は、例えば、200μm×200μmの寸法の基板上に5行×5列の配列によって25個のフォトニック結晶ナノレーザアレイ11を形成した例を示している。
【0057】
図2(b)は、チップ13上に形成されたフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の構成例として、3×3の格子シフト(H0)レーザアレイと4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構成例を示している。3×3の格子シフト(H0)レーザ(図2(b)中の左方に示す例)は、9個の格子シフトレーザユニット12を3行3列に配列し、4×4の格子シフト(H0)レーザ(図2(b)中の右方に示す例)は、16個の格子シフトレーザユニット12を4行4列に配列している。
【0058】
なお、ここでは、格子シフト(H0)レーザアレイを挟む両側に溝を形成している。この溝は、導入された液体等の媒質を円滑に流すための構成であり、必ずしも必要な構成ではない。
【0059】
図2(c)は格子シフトレーザユニット12の構成例を示している。図2(c)の左方は、3×3の格子シフト(H0)レーザアレイの格子シフトレーザユニット12の構成例を示し、図2(c)の右方は、4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの格子シフトレーザユニットの構成例を示している。
【0060】
ここで、4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構造パラメータについて説明する。表1は4×4の格子シフト(H0)レーザアレイの構造パラメータの一例である。
【0061】
【表1】
【0062】
ここでは、格子定数、円孔直径構造パラメータに加えて、新たにm行n列目の格子シフト量smn(m=1−4,n=1−4)、行方向共振器間隔Nc、列方向共振器間隔Nrを導入して用い、これらの構造パラメータを調整することによって格子シフト(H0)レーザアレイの発振波長を調整する。
【0063】
例えば、各レーザアレイの円孔シフト量smnを5−10nmずつ変更することによって、それぞれの発振波長間隔を5−10nm程度となるように設定する。
【0064】
また、レーザアレイにおいて、各格子シフト(H0)レーザは3×3個、あるいは4×4個を正方格子状、長方格子状、平行四辺形格子状等に並べてアレイ集積化する。なお、平行四辺形格子状に配列することによって、各格子シフト(H0)レーザ間のモード結合の抑制が期待される。
【0065】
また、格子シフト(H0)レーザアレイは、励起光によってレーザ光が励起される。ここで、表1に示す共振器間隔Nc,Nrは、励起光をマルチモードファイバにより導く場合のマルチモードファイバの励起スポット径が〜25nmであることを考慮して設定している。また、フォトニック結晶の領域の大型化による歪みの発生を考慮すると、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11全体の大きさはおよそ23μm角以内としている。
【0066】
なお、上記したフォトニック結晶ナノレーザアレイ11、格子シフトレーザユニット12の構造パラメータや寸法は一例であって、この例に限られるものではない。
【0067】
また、フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の基板は、レーザウエハや多重量子井戸(MQW)ウエハを用いることができる。
【0068】
なお、多重量子井戸(MQW)ウエハを用いる場合には、スラブ厚が大きくなる。スラブ厚が大きくなると、透過屈折率が高くなり、バンド端の規格化周波数a/λが下がるため、発振波長らλを固定する場合には、格子定数aを小さく設計する。
【0069】
図3はフォトニック結晶ナノレーザアレイ11の多重量子井戸(MQW)ウエハの一構造例である。フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の基板として多重量子井戸(MQW)ウエハを用いることによって、QW層に対する光閉じ込め係数を増加させ、屈折率媒質中でモードのQ値が低下した場合であっても発振し易くすることができる。
【0070】
図3では、InPの基板21上に、InPのバッファ層(1000nm)22とInPのクラッド層24(100nm)とによって挟まれたGaInAsPの活性層23(トータルで〜240nm)を積層して構成される。
【0071】
図4は、格子シフト(H0)レーザアレイの一例のSEM像であり、図4(a)は3×3の格子シフト(H0)レーザアレイ11と、格子シフトレーザユニット12のSEM像を示し、図4(b)は4×4の格子シフト(H0)レーザアレイ11と格子シフトレーザユニット12のSEM像を示している。図中の白い丸印は欠陥分を示している。なお、図4(a)は正方格子状に並べてアレイ集積化した例であり、図4(b)は平行四辺形格子状に並べてアレイ集積化した例である。
【0072】
図5は、上記した格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルを示している。図5(a)は3×3格子シフト(H0)レーザアレイ11aの例による発光状態とスペクトルを示し、図5(b)は4×4格子シフト(H0)レーザアレイ11bの例による発光状態とスペクトルを示している。
【0073】
この格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルは環境屈折率によって変化し、フォトニック結晶ナノレーザアレイに導入される媒質の屈折率が異なれば異なる発光状態とスペクトルを示す。
【0074】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイを撮像したときの発光近視野像(NFP)と、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間のモード結合の有無との関係について図6を用いて説明する。
【0075】
フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合がなく、各共振器は独立して発振動作を行うと見なせる場合には、発光近視野像(NFP)は屈折率の変化に伴って線形的にシフトする。図6(a)は、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って線形的にシフトする例を示している。左側に示す図は媒体1の発光近視野像(NFP)であり、4個のレーザユニット12について発光が確認される。一方、右側に示す図は媒体2の発光近視野像(NFP)であり、4個のレーザユニット12に加えてさらに2個のレーザユニット12が発光し、合計6個のレーザユニット12の発光が確認される。
【0076】
これにより、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中の発光近視野像(NFP)において発光しているレーザユニットの個数によって、屈折率の変化を定量的に評価することができる。例えば、4個のレーザユニットが発光している場合には媒質1の屈折率であることを検出し、6個のレーザユニットが発光している場合には媒質2の屈折率であることを検出することができる。
【0077】
一方、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在し、各共振器は独立して発振動作を行うと見なせない場合には、発光近視野像(NFP)は屈折率の変化に伴って不規則に変化する。この不規則変化は、発光する共振器の個数に限らず、フォトニック結晶ナノレーザアレイ中の何れの共振器が発光するかについても不規則に変化する。したがって、この場合には前記した共振器間にモード結合がない場合のように発光近視野像(NFP)は規則的に変化しないため、発光数による評価のように定量的に評価することは困難である。
【0078】
図6(b)は、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って不規則に変化する例を示している。左側に示す図は媒体1の発光近視野像(NFP)であり、6個のレーザユニット12について発光が確認され、一方、右側に示す図は媒体2の発光近視野像(NFP)であり、5個のレーザユニット12について発光が確認されるが、その発光位置や強度に単純な規則性は見い出し難い。
【0079】
この発光近視野像(NFP)は、所定波長λcut以上の波長を透過するバンドパスフィルタに通して波長選別を行った後に像を取得した場合であっても、線形的にシフトすることはない。図7は、このバンドパスフィルタのカットオフ特性(図7(b))と、発光近視野像(NFP)(図7(a))とを示している。
【0080】
しかしながら、この発光近視野像(NFP)の発光パターンは、そのときの媒質の屈折率に対応して変化するため、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中の発光近視野像(NFP)の発光パターンによって屈折率の変化を評価することができる。
【0081】
以下、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在しない場合の第1の態様について図8〜図11を用いて説明し、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在する場合の第2の態様について図12〜図14を用いて説明する。
【0082】
はじめに、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合がなく、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って線形的にシフトする第1の態様について説明する。
【0083】
図8は、第1の態様を説明するための概略図である。第1の態様では、図8(a)に示すように、バンドパスフィルタ5を通した後にフォトニック結晶ナノレーザアレイ10の画像を撮像することで発光近視野像(NFP)を取得する。
【0084】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10は、波長がそれぞれある環境屈折率にλ1〜λ8の異なる発振波長となる複数のレーザユニット11を備えるものとする。
【0085】
これらレーザユニット11に励起光を照射して一括で発光させると、各レーザユニット11はそのときに存在する媒質の屈折率に応じて定まる発振波長で発光する。
【0086】
図8(b)は、媒体1が存在するときの発光状態を示し、発振波長はバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutを挟んで、短波長側と長波長側にそれぞれ4波長ずつ分布した場合を示している。この発振波長の分布では、バンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutによって短波長側の4波長分(図中の波長特性中の地模様を設けた波長領域)はカットされ、長波長側の4波長分のみがバンドパスフィルタ5を通過して撮像装置(図示していない)で撮像され、発光近視野像(NFP)が取得される。図9はバンドパスフィルタ5の一例である。なお、図9ではバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutとして1.544μmの例を示しているが、一例であってこの波長に限られるものではない。
【0087】
図8(b)の下方に示す図は、発光近視野像(NFP)を模式的に示しており、長波長側の4個の波長に相当する発光近視野像(NFP)の発光が確認される。
【0088】
一方、図8(c)は、媒体2が存在するときの発光状態を示し、発振波長はバンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutを挟んで、短波長側に2波長、長波長側に6波長分布した場合を示している。この発振波長の分布では、バンドパスフィルタ5のカットオフ波長λcutによって短波長側の2波長分(図中の波長特性中の地模様を設けた波長領域)はカットされ、長波長側の6波長分がバンドパスフィルタ5を通過して撮像装置(図示していない)で撮像され、発光近視野像(NFP)が取得される。
【0089】
図8(c)の下方に示す図は、発光近視野像(NFP)を模式的に示しており、長波長側の6個の波長に相当する発光近視野像(NFP)の発光が確認される。
【0090】
この発光近視野像(NFP)の発光状態の変化から媒体の屈折率を特定することができる。
【0091】
図10、図11は、媒質による波長シフトの一例を示している。図10(a)は媒質が空気の場合であって屈折率n=1.000の例を示している。また、図10(b)は媒質がメタノールの場合であって屈折率n=1.329の例を示し、図10(c)は媒質がアセトンの場合であって屈折率n=1.359の例を示している。図10から、媒質の屈折率の変化に伴って、λ1〜λ5でラベリングした各共振器の発振波長のピークがシフトすることが確認される。
【0092】
図11では、図10中の各発振波長のピーク位置の環境屈折率に対する依存性を示している。図11において、各発振波長のピーク位置が環境屈折率に対して線形的に変化なシフトすると仮定すると、平均波長シフトΔλ/Δnは73nmとなり、波長分解能Δλresがレーザ発振時を仮定して0.1nmとすると、屈折率分解能Δnresはおよそ1.4×10−3となる。この図11の特性によれば、各発振波長のピーク位置が環境屈折率に対して線形的に変化なシフトすると仮定したとき、各発振波長のピーク位置のシフトから環境屈折率を算出することが可能となる。
【0093】
次に、フォトニック結晶ナノレーザアレイの共振器間にモード結合が存在し、発光近視野像(NFP)が屈折率の変化に伴って不規則に変化する第2の態様について説明する。
【0094】
図12は、第2の態様を説明するための概略図である。第2の態様では、図12(a)に示すように、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10の画像を撮像することで発光近視野像(NFP)を取得する。このとき、第1の態様と異なりバンドパスフィルタ5は不要である。
【0095】
ここで、フォトニック結晶ナノレーザアレイ10は、第1の態様と同様に、波長がそれぞれある環境屈折率にλ1〜λ8の異なる発振波長となる複数のレーザユニット11を備えるものとする。
【0096】
これらレーザユニット11に励起光を照射して一括で発光させると、各レーザユニット11はそのときに存在する媒質の屈折率に応じて定まる発振波長で発光する。図12(b)は、媒体1が存在するときの発光パターンを示し、図12(c)は、媒体2が存在するときの発光パターンを示す。各媒体による発光パターンは、媒体の屈折率に対応しており、この発光近視野像(NFP)の発光状態の変化から媒体の屈折率を特定することができる。
【0097】
図13は、異なる媒質中でのスペクトルと発光近視野像(NFP)の発光パターンを示している。図13(a)は媒質が空気の場合であって屈折率n=1.000の例を示し、図13(b)は媒質がメタノールの場合であって屈折率n=1.329の例を示し、図13(c)は媒質がアセトンの場合であって屈折率n=1.359の例を示している。図13から、媒質の屈折率の変化に伴って、λ1〜λ5でラベリングした各共振器の発振波長のピークがシフトし、このとき、発光近視野像(NFP)の発光パターンが変化することが確認される。
【0098】
図14は、各屈折率における発光近視野像(NFP)とその発光パターンの類型化例を示している。
【0099】
図14(a)〜(c)の屈折率nがそれぞれ、1.000,1.329,1.359の場合の発光近視野像(NFP)について、その発光パターンを類型化する類型パターンとして図14(d)〜(f)を定めることができる。ここでの類型化は、フォトニック結晶ナノレーザアレイ像中において共振器の発光位置とその発光強度とを円の位置と径とで表している。
【0100】
この類型化パターンは、発光近視野像(NFP)とその発光パターンを識別するために用いることができ、屈折率とこの屈折率に対応する類型化パターンとを予め求めて用意しておき、撮像装置の撮像によって取得されたフォトニック結晶ナノレーザアレイ像を画像処理してパターンを形成し、このパターンと予め用意しておいた類型化パターンとを比較し、合致する類型パターンを抽出する。合致する類型パターンが抽出された場合には、その類型パターンに相当する屈折率から媒質の屈折率を求めることができる。
【0101】
第2の態様において、発光パターンの識別は、上記したようにフォトニック結晶ナノレーザアレイ像中において、共振器の発光位置とその発光強度とを円の位置と径とで表される類型パターンを用いて行う他に、発光強度の分布形状によって行ってもよい。この発光強度の分布形状は、発光パターンを共振器の発光位置とその発光強度で表すのではなく、発光パターンの形状および強度の分布で行うものである。
【0102】
次に、図15、図16を用いてレーザアレイのスペクトルの依存性について説明する。図15はレーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の励起強度依存性を説明するための図である。図15では、3×3格子シフト(H0)レーザアレイのスペクトルと発光近視野像(NFP)について、励起用のレーザ光源に供給する駆動電流の大きさに対する依存状態を示している。図では、それぞれ駆動電流Iinが600mA〜320mAの例について示している。
【0103】
また、図16はレーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の共振器間隔依存性を説明するための図である。図では、3×3格子シフト(H0)レーザアレイについて、駆動電流Iinを600mAとし、共振器間隔(Nc,Nr)を異なられたときのスペクトルと発光近視野像(NFP)を示している。
【0104】
スペクトルと発光近視野像(NFP)は、励起強度および共振器間隔に対して依存性を有しているため、発光パターンを識別する場合には、同じ励起強度および共振器間隔の条件で比較する。
【0105】
次に、図17〜図19を用いて、本発明の屈折率センサを用いた屈折率測定装置の概略構成について説明する。なお、図17は、本発明の屈折率測定装置1の概略構成図である。また、図18は上述した第1の態様による測定部の概略構成図であり、図19は第2の態様による測定部の概略構成図である。
【0106】
図17において、屈折率測定装置1は、サンプル100に対して励起光を照射する励起光源3、励起光によって励起された発光を撮像する撮像装置4、撮像装置4で撮像した画像に基づいてサンプル100の屈折率を求める測定部2を備える。
【0107】
サンプル100は、液体に限らず気体であってもよく、例えば、媒体ケース内に収納される。媒体ケース内には本発明の屈折率センサが配置され、媒体ケース内にサンプル100の媒体を注入することによって、屈折率センサのフォトニック結晶ナノレーザアレイに媒体を導入することができる。
【0108】
なお、媒体は、媒体ケース内に保持させる構成の他、流路を設けた構成としてもよい。この流路上に本発明の屈折率センサを配置することによって、流下する媒体に付いても連続して屈折率を測定することができる。
【0109】
励起光源は、電源と、この電源からの供給電力で駆動するマルチモードLDと、マルチモードLDで発光した励起光を導くマルチモードファイバとを備える。励起光は、ミラー機構、およびマイクロスコープを通して例えば〜25μm径でサンプルを照射して励起する。励起による発光は、InGaAsのイメージセンサ等の撮像装置4で撮像される。発光の一部はミラー機構を介して光学スペクトルアナライザに導いてスペクトル解析を行ってもよい。なお、InGaAsのイメージセンサの前方にはSiフィルタの他、バンドパスフィルタを設けてもよい。
【0110】
図18は第1の態様による測定部の概略構成図であり、バンドパスフィルタ5を通した画像を撮像し、屈折率の変化に伴って線形的にシフトする発光近視野像(NFP)を判定し、これによって屈折率を求める構成例である。
【0111】
ここで、測定部2は、撮像部4で撮像したフォトニック結晶ナノレーザアレイ画像を画像処理する画像処理部2a、フォトニック結晶ナノレーザアレイ画像に基づいて発光近視野像の発光状態を検出し、発光している共振器を抽出する発光状態検出部2e、発光状態検出部2eで検出した共振器の分布状態を記憶部2cに記憶しておいた発光状態と比較し、この発光状態に対応する屈折率を読み出す屈折率判定部2b、屈折率判定部2bで行う発光状態の比較、および、その比較結果に基づいて読み出す屈折率を記憶しておく記憶部2c、および表示部2dを備える。表示部2dは、屈折率判定部2bによる判定結果を表示する他、画像処理部2aからの画像や発光状態検出部2eからの発光近視野像を表示することができる。
【0112】
また、記憶部2cには、屈折率のデータと共にその屈折率に相当する物質名のデータを格納しておき、屈折率と共に物質名を読み出すようにしてもよい。
【0113】
図19は第2の態様による測定部の概略構成図であり、バンドパスフィルタ5を通すことなくフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像し、屈折率の変化に伴って不規則に変化する発光近視野像(NFP)の発光パターンを判定し、これによって屈折率を求める構成例である。
【0114】
図19に示す構成において、測定部2は、図18に示した構成と同様に、画像処理部2a、屈折率判定部2b、記憶部2c、表示部2dを備える他、フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光近視野像(NFP)の発光パターンを抽出する発光パターン抽出部2f、発光パターンの比較を行う発光パターン比較部2gを備える。また、記憶部2cは、発光パターンを記憶する発光パターン記憶部2c1と、発光パターンに対応する屈折率を記憶する発光パターン/屈折率記憶部2c2を備える。
【0115】
発光パターン比較部2gは、発光パターン抽出部2fで抽出した発光パターンと、発光パターン記憶部2c1に記憶されている発光パターンとを比較して、一致する発光パターンを検索する。屈折率判定部2bは、検索結果に基づいて発光パターン/屈折率記憶部2c2から発光パターンに対応する屈折率を読み出す。
【0116】
また、記憶部2c2においても、屈折率のデータと共にその屈折率に相当する物質名のデータを格納しておき、屈折率と共に物質名を読み出すようにしてもよい。
【0117】
なお、上記したフォトニック結晶ナノレーザアレイにおいて、共振器は構造パラメータを調整することで構成しているが、通常、フォトニック結晶ナノレーザアレイの製作時には、この製作に伴ってばらつきが生じる。そこで、この製作に伴って生じるばらつきにより発生する特徴的な発光パターンを利用してもよい。この場合には、各屈折率センサのチップについて、各屈折率媒体内で予め発光パターンを測定して記憶しておき、この発光パターンと実際の測定で得られる発光パターンとを比較することで屈折率を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、化学分析一般に適用することができる他、使い捨て処理が必要な生体分析、医療応用分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の屈折率センサの概略構成を説明するための図である。
【図2】本発明のフォトニック結晶ナノレーザアレイの構成例を説明するための図である。
【図3】フォトニック結晶ナノレーザアレイ11の多重量子井戸(MQW)ウエハの一構造例である。
【図4】格子シフト(H0)レーザアレイの一例のSEM像である。
【図5】格子シフト(H0)レーザアレイによる発光状態とスペクトルを示す図である。
【図6】発光近視野像(NFP)と共振器間のモード結合の有無との関係を説明するための図である。
【図7】発光近視野像(NFP)およびバンドパスフィルタのカットオフ特性を示す図である。
【図8】本発明の第1の態様を説明するための概略図である。
【図9】バンドパスフィルタの一例を示す図である。
【図10】媒質による波長シフトの一例を示す図である。
【図11】媒質による波長シフトの一例を示す図である。
【図12】本発明の第2の態様を説明するための概略図である。
【図13】異なる媒質中でのスペクトルと発光近視野像(NFP)の発光パターンを示す図である。
【図14】各屈折率における発光近視野像(NFP)とその発光パターンの類型化例を示す図である。
【図15】レーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の励起強度依存性を説明するための図である。
【図16】レーザアレイのスペクトルの発光近視野像(NFP)の共振器間隔依存性を説明するための図である。
【図17】本発明の屈折率測定装置の概略構成図である。
【図18】本発明の第1の態様による測定部の概略構成図である。
【図19】本発明の第2の態様による測定部の概略構成図である。
【符号の説明】
【0120】
1…屈折率測定装置
2…測定部
2a…画像処理部
2b…屈折率判定部
2c…記憶部
2c1…発光パターン記憶部
2c2…発光パターン/屈折率記憶部
2d…表示部
2e…発光状態検出部
2f…発光パターン抽出部
2g…発光パターン比較部
3…励起光源
4…撮像部
5…バンドパスフィルタ
10…屈折率センサ
11…フォトニック結晶ナノレーザアレイ
12…レーザユニット
13…チップ
20,20A〜20H…発光近視野像
21…基板
22…バッファ層
23…活性層
24…クラッド層
25…接触層
26…キャップ層
31…励起光
32…レーザ光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイとして形成し、
前記各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、
前記フォトニック結晶ナノレーザアレイは少なくとも各共振器に被測定媒質を導入自在とすることを特徴とする屈折率センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の屈折率センサと、
前記共振器の近視野像を含む前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から前記被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備えることを特徴とする、屈折率測定装置。
【請求項3】
前記測定部は、
屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を予め用意し、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像に基づいて共振器の発振波長シフト状態を求め、
前記対応関係に基づいて、前記近視野像から求めた共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を求めることを特徴とする、請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項4】
前記共振器の発振波長シフト状態は、所定波長以上のレーザ光を発する共振器の個数変化又は当該共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布変化であり、
前記測定部は、前記近視野像から所定波長以上のレーザ光を発する共振器を抽出し、この抽出した共振器の個数又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布から被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項3に記載の屈折率測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記所定波長以上のレーザ光を通過させるバンドパスフィルタを備え、
前記撮像装置は、前記バンドパスフィルタを通過したレーザ光によってフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像することにより前記所定波長以上のレーザ光を発する共振器の抽出を行うことを特徴とする、請求項4に記載の屈折率測定装置。
【請求項6】
前記測定部は、
屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を記憶する記憶部と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像から共振器の発振波長シフト状態を求める画像処理部と、
前記画像処理部で求めた共振器の発振波長シフト状態を、前記記憶部に記憶する共振器の発振波長シフト状態と比較し、一致する共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備えることを特徴とする、請求項3から5の何れか一つに記載の屈折率測定装置。
【請求項7】
前記測定部は、
屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を予め用意し、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求め、
前記対応関係に基づいて、前記求めたフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンに対応する屈折率を求めることを特徴とする、請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項8】
前記発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布であり、
前記測定部は、前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光する共振器の位置および発光強度を抽出し、この抽出した発光共振器の位置および発光強度を、予め屈折率と対応して用意した発光共振器の位置および発光強度と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項7に記載の屈折率測定装置。
【請求項9】
前記発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布であり、
前記測定部は、前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光強度の分布形状を抽出し、この抽出した発光強度の分布形状を、予め屈折率と対応して用意した発光強度の分布形状と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項7に記載の屈折率測定装置。
【請求項10】
前記測定部は、
屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を記憶する記憶部と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求める画像処理部と、
前記画像処理部で求めた発光パターンを、前記記憶部に記憶する発光パターンと比較し、一致する発光パターンに対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備えることを特徴とする、請求項7から9の何れか一つに記載の屈折率測定装置。
【請求項1】
励起光によってそれぞれ異なる発振波長でレーザ発振する複数の共振器をフォトニック結晶上にフォトニック結晶ナノレーザアレイとして形成し、
前記各共振器は屈折率の変化に応じて発振波長をシフトし、
前記フォトニック結晶ナノレーザアレイは少なくとも各共振器に被測定媒質を導入自在とすることを特徴とする屈折率センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の屈折率センサと、
前記共振器の近視野像を含む前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像変化を求め、この画像変化から前記被測定媒質の屈折率を測定する測定部とを備えることを特徴とする、屈折率測定装置。
【請求項3】
前記測定部は、
屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を予め用意し、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像に基づいて共振器の発振波長シフト状態を求め、
前記対応関係に基づいて、前記近視野像から求めた共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を求めることを特徴とする、請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項4】
前記共振器の発振波長シフト状態は、所定波長以上のレーザ光を発する共振器の個数変化又は当該共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布変化であり、
前記測定部は、前記近視野像から所定波長以上のレーザ光を発する共振器を抽出し、この抽出した共振器の個数又は共振器のフォトニック結晶ナノレーザアレイ上の分布から被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項3に記載の屈折率測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記所定波長以上のレーザ光を通過させるバンドパスフィルタを備え、
前記撮像装置は、前記バンドパスフィルタを通過したレーザ光によってフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像を撮像することにより前記所定波長以上のレーザ光を発する共振器の抽出を行うことを特徴とする、請求項4に記載の屈折率測定装置。
【請求項6】
前記測定部は、
屈折率と共振器の発振波長シフト状態との対応関係を記憶する記憶部と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像中に含まれる近視野像から共振器の発振波長シフト状態を求める画像処理部と、
前記画像処理部で求めた共振器の発振波長シフト状態を、前記記憶部に記憶する共振器の発振波長シフト状態と比較し、一致する共振器の発振波長シフト状態に対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備えることを特徴とする、請求項3から5の何れか一つに記載の屈折率測定装置。
【請求項7】
前記測定部は、
屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を予め用意し、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求め、
前記対応関係に基づいて、前記求めたフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンに対応する屈折率を求めることを特徴とする、請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項8】
前記発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布であり、
前記測定部は、前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光する共振器の位置および発光強度を抽出し、この抽出した発光共振器の位置および発光強度を、予め屈折率と対応して用意した発光共振器の位置および発光強度と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項7に記載の屈折率測定装置。
【請求項9】
前記発光パターンは、フォトニック結晶ナノレーザアレイ上の共振器の発光分布であり、
前記測定部は、前記フォトニック結晶ナノレーザアレイの画像から発光強度の分布形状を抽出し、この抽出した発光強度の分布形状を、予め屈折率と対応して用意した発光強度の分布形状と比較することによって、被測定媒質の屈折率を求めることを特徴とする、請求項7に記載の屈折率測定装置。
【請求項10】
前記測定部は、
屈折率とフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンとの対応関係を記憶する記憶部と、
前記撮像装置が撮像するフォトニック結晶ナノレーザアレイの画像からフォトニック結晶ナノレーザアレイの発光パターンを求める画像処理部と、
前記画像処理部で求めた発光パターンを、前記記憶部に記憶する発光パターンと比較し、一致する発光パターンに対応する屈折率を読み出すことにより屈折率を求める比較判定部とを備えることを特徴とする、請求項7から9の何れか一つに記載の屈折率測定装置。
【図3】
【図9】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図9】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−232925(P2008−232925A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74947(P2007−74947)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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