説明

工作機械及び加工方法

【課題】微細加工用工具を用いて、精度よくかつ実用的に微細精密加工を行なうことのできる工作機械及び加工方法の提供を目的とする。
【解決手段】工具6を工作機械1の主軸5に取り付ける工具取付け工程(S4)と、主軸5を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程(S5)と、主軸5の位置を安定化させる安定化工程(ステップS6)と、工具6を被加工体7の近辺まで接近させて、工具6と被加工体7との間の放電現象を検知する放電検知工程(S7)と、放電された位置データより被加工体7の加工原点を算出する原点算出工程(S8)と、算出された被加工体7の加工原点に基づいて加工位置へ主軸6を移動させ加工を開始する加工工程(S9)と、加工条件が変化しているときは、主軸回転工程(S5)から加工工程(S9)までの工程を再度実行する方法としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械及び加工方法に関し、特に、加工時の回転数で回転している工具を非接触式の測定プローブとして被加工体に接近させ、被加工体と回転している工具との間の微小放電現象を生じたとき、このときの工具位置から加工原点を算出して加工を開始する工作機械及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンドミル等の加工工具(適宜、工具と略称する。)を使用するマシニングセンター等の工作機械は、加工精度の向上が要求されてきた。加工精度を向上させるには、工具をも含めた工作機械の各要素や動作方法等において、たとえば、工具寸法を精度よく計測したり、加工原点を精度よく位置決めする必要があった。
このため、様々な技術が開発されてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1には、工作機械の主軸とテーブルとの間に電位差を与えておき、主軸に取り付けた工具とテーブルに固定した測定子との相対位置を電気導通により検出して、工具の寸法を測定する工具寸法の測定方法の技術が開示されている。
この技術は、工具が測定子と干渉しない基準位置から、主軸に取り付けた工具を回転させながら測定子方向に微小送りし、工具と測定子との間に非接触状態における放電現象を検出した主軸方向の位置や主軸の径方向の位置に基づいて、工具長や工具径を測定することを特徴としている。
上記技術によれば、工具を加工状態と同様の状態で測定子に接触することなく、工具寸法である工具長や工具径を実用的な非接触方式により精度よく測定することができる。
【0004】
また、特許文献2には、工作機械の主軸とテーブルとの間に電位差を与えておき、主軸に取り付けた工具とテーブルに固定した測定子とを接近させて、工具と測定子との間に形成された微細な隙間における非接触状態で発生する放電現象を検出し、この位置における工具と測定子との相対位置から工具の寸法を測定する工具寸法の測定方法の技術が開示されている。
この技術は、測定子が鉛直方向及び水平方向に沿って配置された測定面を有し、該測定面に対して垂直な方向から工具と測定面とを相対的に接近させて、放電現象を検出した時点の工具と測定子との相対位置に基づいて工具の寸法を演算して求めることを特徴としている。
上記技術によれば、簡素な工程を採用して、短時間で精密に工具寸法を測定することができる。
【0005】
また、特許文献3には、回転駆動される研削工具と、工作物固定装置と、研削工具と工作物との相対位置を変更する制御自在の移動装置を有する研削装置の技術が開示されている。
この技術は、研削工具と、工作物または参照要素とに接続可能な放電発生器を備え、移動装置は、接触に際して放電電流を制御パラメータとする制御回路によって制御され、研削工具及び放電加工を行なう工具が、工作物の同一セット状態で使用可能に配されている。また、研削工具は導電性材料から成り、放電発生器とその制御回路が、放電加工を行なう工具に接続され、制御回路は機械的研削操作中、移動装置を、プログラム記憶装置に基づいて及び/又は制御電流としてのみ利用される放電電流に基づいて研削工具と工作物の間の距離に関して制御することを特徴としている。
上記技術によれば、二つの全く異なった加工方法(研削加工及び放電加工)を施す際に、工作物を同じ固定(セット)状態で行なうことができ、工程の短縮のみならず、精度の向上を併せて実現することができる。
【0006】
さらに、この特許文献3には、研削工具によって接触位置を決定して、工作物を研削する研削方法の技術が開示されている。
この技術は、研削工具を工作物または参照要素に接触させ、これらの間に放電電圧を印加して、この接触位置を基準として機械的研削のための所定の位置決め運動およびまたは送り運動を行なう方法としてある。また、研削工具として導電性研削工具を用いること、工作物を同一のセット状態において、第1段として第1の工具により放電加工又は放電研削加工により加工し、次いで第2段として研削工具を放電電流に基づき工作物に対し機械的切除に適する接触位置にもたらして機械的研削加工を行なうこと、該接触のための放電電流は工作物の放電加工又は放電研削加工の間に用いる対応制御回路により形成すること、次いで、第2段機械研削加工のため、放電電圧をオフするか又は本質的に機械的材料切除のための数値に調節することを特徴としている。
この技術によれば、第1工具を用いた第1段の放電加工に続く第2段の、第2工具を用いた機械的研削加工において制御された放電電流を介して、自動的にかつ迅速に工作物に対する第2工具の正確な位置決め、送りが実現され、必要に応じ第2段の機械的研削加工中にも連続的に調節することができる。
【0007】
また、特許文献4には、工作機械において、移動位置を検出可能な移動装置により刃具と被接触物とを相対的に移動させて両者を接触させ、接触時における移動装置の移動位置に基づいてその後の刃具と被加工物との相対移動を制御する刃具位置制御方法の技術が開示されている。
この技術は、刃具と被接触物との接触を検出する接触検出装置が、刃具と被接触物とが接触すればそれを検出し得る状態にあることを確認する正常確認工程と、その正常確認工程の後にあるいは正常確認工程を実施しつつ刃具と被接触物とを移動装置により互に接近させ、刃具が被接触物に接触したことを検出する接触検出工程とを含むことを特徴としている。
上記技術によれば、刃具を被接触物に接触させることにより、接触位置を検出し、その接触位置に基づいて刃具と被加工物との相対位置を制御する場合に、刃具と被接触物との接触の検出の信頼性を向上させることができる。
【0008】
また、特許文献5には、工具あるいは被加工物を主軸に取り付け、この主軸を回転駆動するとともに、工具を被加工物に接触させて加工する工作機械における工具と被加工物との接触を検出する工作機械用接触検出方法の技術が開示されている。
この技術は、対向電極を主軸に容量結合するように配置するとともに、環状回路用コイルを介して工作機械本体に接続し、主軸、対向電極、環状回路用コイル、工作機械本体、被加工物および工具で、工具と被加工物とが接触状態のときに閉じ、工具と被加工物とが非接触状態のときに開く環状回路を構成し、この環状回路が貫通するように励起コイルおよび検出コイルを配置し、環状回路に誘導起電力を発生すべく励起コイルに交流電流を流し、環状回路に流れる交流電流によって検出コイルに発生した電圧を検出することを特徴としている。
上記技術によれば、絶縁された主軸を持つ工作機械においても、工具と被加工物との接触を検出することが可能であり、主軸が回転中の状態であっても、また、静止状態でも、検出可能である。
【特許文献1】特開平11−207573号公報(図2,6と、第2,3,5頁)
【特許文献2】特開2004−243426号公報(図2,5,6と、第2,4,13頁)
【特許文献3】特許2849387号公報(添付の図と、第1から5頁)
【特許文献4】特開2002−120130公報(図2,7,9,10と、第2,3,11,12頁)
【特許文献5】特開2002−233933公報(図1と、第2,3,7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、時計部品などの精密加工分野においては、さらなる小型化や軽量化を行なうために、たとえば、工具径が数十μm〜数μmといったエンドミルなどの微細加工用工具を使用して、微細精密加工を行なうことが要求されている。
このような場合、特許文献1,2に記載された技術を用いて精度よく加工を行なうには、微細加工用工具を加工位置まで移動させる際の移動誤差などを排除する必要があった。
【0010】
また、特許文献3に記載された研削方法の技術は、微細精密加工を効率良く行なうためには、加工後の寸法測定及び必要に応じた修正加工などを行なう必要があり、微細精密加工を精度良くかつ効率よく行なうことができないといった問題があった。
さらに、特許文献4に記載された刃具位置制御方法の技術は、微細精密加工を効率良く行なうためには、加工後の寸法測定及び必要に応じた修正加工などを行なう必要があり、微細精密加工を精度良くかつ効率よく行なうことができないといった問題があった。
【0011】
また、特許文献5の技術は、工具が被加工物と接触する必要があるので、たとえば、工具径が十数μmのエンドミルなどの微細加工用工具を使用する場合、被加工物との接触によって、損傷する危険性が高くなるといった問題があった。
さらに、たとえば、工具径が十数μmのエンドミルなどの微細加工用工具を用いて、精度よく微細精密加工を行なうには、上記各特許文献の技術を単に寄り集めても、実用的な加工を行なうことができないといった問題があった。
【0012】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題を解決するために提案されたものであり、微細加工用工具を用いて、精度よくかつ実用的に微細精密加工を行なうことのできる工作機械及び加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の工作機械は、工具が取り付けられる主軸、この主軸を回転させる駆動手段、被加工体が載置されるテーブル、前記主軸及び/又はテーブルを移動させる移動手段、並びに、前記駆動手段及び移動手段を制御する制御手段を備えた工作機械であって、前記被加工体あるいは基準部材と、実加工状態における前記工具との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知手段を具備し、前記放電検知手段が前記放電検知信号を出力すると、前記制御手段が前記放電現象を生じたときの工具位置から加工原点を算出し、この算出した加工原点に基づいて加工を開始させる構成としてある。
このようにすると、加工回転数で回転している工具を測定プローブとして利用し、主軸及び工具の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差あるいは工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除して、加工原点を精度よく割り出すことができるので、極めて精密な加工を行なうことができる。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明の加工方法は、エンドミルなどの工具を用いて被加工体を加工する工作機械による被加工体の加工方法において、加工に使用する第1の工具を前記工作機械の主軸に取り付ける工具取付け工程と、前記主軸を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程と、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材を接近させて、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程と、前記放電を検知したときの位置データより、前記被加工体の加工原点を算出する原点算出工程と、算出された前記被加工体の加工原点に基づいて加工位置へ前記主軸を配し第1の加工を開始する加工工程と、加工条件の変化に伴って、上記主軸回転工程から加工工程までの工程を再度実行する方法としてある。
このように、本発明は加工方法としても有効であり、加工回転数で回転している工具を測定プローブとして利用し、主軸及び工具の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差あるいは工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除して、加工原点を精度よく割り出すことができるので、極めて精密な加工を行なうことができる。また、加工条件の変化に影響されることなく、精密な加工を行なうことができる。
【0015】
また、前記加工条件の変化は、主軸の回転数の変化である。
このようにすると、主軸及び工具の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差、あるいは、工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除することができる。
【0016】
また、前記加工条件の変化は、前記工作機械を設置した場所の温度等の環境条件の変化である。
このようにすると、室温変化などによる膨張誤差などの悪影響を排除することができる。
【0017】
また、上記目的を達成するため、本発明の加工方法は、エンドミルなどの工具を用いて被加工体を加工する工作機械による被加工体の加工方法において、加工に使用する第1の工具を前記工作機械の主軸に取り付ける工具取付け工程と、前記主軸を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程と、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材を接近させて、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程と、前記放電を検知したときの位置データより、前記被加工体の加工原点を算出する原点算出工程と、算出された前記被加工体の加工原点に基づいて加工位置へ前記主軸を配し第1の加工を開始する加工工程と、第1の加工終了後、前記第一の工具と第2の工具とを交換する工具交換工程と、前記第2の工具に対して、上記主軸回転工程から加工工程までの工程を再度実行する第2の加工を行なう方法としてある。
本発明によれば、工具を交換した場合であっても、精密な加工を行なうことができる。
【0018】
また、好ましくは、前記加工方法が、工作機械の主軸停止状態において、測定器を用いて予め被加工体の原点を計側する原点計測工程を有するとよい。
このように、被加工体の原点を計測することにより、工作機械の機械原点と被加工体の位置関係を得ることができる。
【0019】
また、好ましくは、前記加工方法において、前記主軸回転工程と、前記主軸を回転させた状態で、前記主軸の位置を所定時間毎に測定し、今回測定値と前回測定値のずれ量が定められた寸法以内になるまで繰り返し測定する安定化工程とを有するとよい。
このようにすると、主軸の熱変位やバランス変動などが安定化するとともに、安定化したことを確認することにより、加工精度の信頼性を向上させることができる。
【0020】
また、好ましくは、前記加工方法が、前記放電現象及び所定の基準器を利用して、実加工状態における前記工具の工具径を測定する工具径測定工程を有するとよい。
このようにすると、加工回転数で回転している工具の測定された工具径を用いることにより、加工精度をさらに向上させることができる。
【0021】
また、好ましくは、前記制御手段が、加工終了後に、前記工具を測定プローブとして、加工寸法を測定し、この測定結果が所定の加工寸法規格から外れているとき、前記測定結果にもとづいて再加工を開始させるとよい。
このようにすると、加工終了後の加工寸法を効率よく測定することができる。また、微小放電現象を利用して、測定プローブが入らない場所に対して、工具を測定プローブとして用いて測定することができる。さらに、測定結果に対して、自動追い込み加工が行なわれるので、生産性を大幅に向上させることができる。
【0022】
また、好ましくは、前記工作機械に設けられた導通検知手段が、加工中に、前記被加工体と前記工具との導通状態を検知しており、非導通を検知すると、非導通検知信号を出力し、前記制御手段が、前記非導通検知信号を入力すると、前記工具が破損したものと認識し、自動停止及び/又は警報を発するとよい。
このようにすると、加工中に工具破損を自動検出し、破損すると自動停止したとえばアラームで知らせるので、ロスタイムを削減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の工作機械及び加工方法によれば、加工回転数で回転している工具を測定プローブとして利用し、主軸及び工具の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差あるいは工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除して、加工原点を精度よく割り出すことができるので、極めて精密な加工を行なうことができる。また、微細加工用工具を使用して、微細精密加工を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[工作機械の一実施形態]
以下、本発明の工作機械の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、構造を説明するための概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は正面図を示しており、(c)は側面図を示している。
同図において、工作機械1は、ベッド2、Yテーブル3、Xテーブル4及び主軸5などを備えたマシニングセンターとしてある。
なお、本発明にかかる工作機械は、マシニングセンターに限定されるものではなく、数値制御装置を有し、電気導通可能な工具を使用して加工する工作機械であればよく、たとえば、ターニングセンター、NC(数値制御)ジグボーラー、NCボール盤などを挙げることができる。
【0025】
ベッド2の後方端部には、支柱(コラム)20が立設してある。この支柱20の上部には、正面方向にアーム21が突出している。
アーム21の先端部には、上下方向に主軸ホルダー51が設けられ、この主軸ホルダー51には、工具6が取り付けられる主軸5、この主軸5を回転させるモータ(図示せず)、及び、主軸5及びモータを昇降させる移動手段(図示せず)が設けられている。
【0026】
また、ベッド2には、Yテーブル3がY軸方向に移動自在に取り付けられており、Yテーブル3上には、Xテーブル4がX軸方向に移動自在に取り付けられている。
Xテーブル4は、被加工体7が載置されるテーブルであり、被加工体7は、このテーブル上に着脱自在に固定される。このため、Xテーブル4は、図示してないが、磁気吸引力により被加工体7を固定するための電磁チャックや、真空吸着力により被加工体7を固定するための真空チャックや、上方から押下して被加工体7を固定するための固定部材などを備えている。
【0027】
制御手段(図示せず)は、NC装置(数値制御装置)11などを有しており、Yテーブル3用の移動手段、Xテーブル4用の移動手段及び主軸5用の移動手段を制御するとともに、モータの回転数などを制御する。また、各移動手段は、図示してないが、通常、リニアベアリング、ボールねじ及びステッピングモータなどからなる。
また、制御手段は、アーム21の先端部側面に設けられたATC(自動工具交換装置)10を制御する。
【0028】
工具6は、エンドミルやドリルなどの回転工具が用いられる。ここで、本実施形態の工具6は、微細加工を行なうためのエンドミルとしてあり、工具径が、約10〜5μmの微細加工用工具としてある。このような微細加工用工具においては、主軸5に取り付けた際、工具先端位置(Z軸方向位置)やX−Y平面における工具軸心位置(X軸方向位置及びY軸方向位置)を、接触方式やレーザー方式の測定方法では測定することができない。その理由は、接触方式では、測定部材に工具先端を接触させると、工具が破損したり損傷を受けるからである。また、レーザー方式では、レーザー光の直径が約30μmもあるため、レーザー光が遮られたか否かを精度よく判定できないからである。
本発明の工作機械1は、上記のような微細加工用工具をも使用可能とするため、放電検出手段8を備えている。
次に、この放電検出手段8について、図面を参照して説明する。
【0029】
図2は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、Z軸方向における放電検知手段を説明するための要部の概略拡大図を示している。
また、図3は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、X軸方向における放電検知手段を説明するための要部の概略拡大図を示している。
図2,3において、工作機械1は、主軸5の下端に工具6が取り付けられている。なお、この工具6は、NC装置(数値制御装置)11の指令によってATC(自動工具交換装置)10から加工内容に応じて選択される。工作機械1は、主軸5に装着された工具6が回転し、NC装置11によってYテーブル3がY軸方向に、Xテーブル4がX軸方向に、主軸5がZ軸方向にそれぞれ制御されて移動することによって、被加工体7に所要の加工を行なう。
【0030】
放電検知手段8は、励起コイル81、検出コイル82及び電位差印加手段83とからなっている。電位差印加手段83は、主軸5とXテーブル4との間に、主軸5を正極に、Xテーブル4を負極にして電位差Vを印加する。放電検知手段8は、工具6と被加工体7との間で、接触する直前の非常に接近した微小な隙間を有する非接触状態で放電が発生すると、閉ループ回路84が形成されて、瞬間的にスパイク電流が流れて放電する。この瞬間的に流れる高周波電流による逆起電力を、放電検知手段8が検出してコントロールアンプ12に伝送し、コントロールアンプ12で増幅してNC装置11に放電検知信号として伝達する。そして、NC装置11は、この放電検知信号を入力することによって、放電した時点の工具6の座標位置を読み取り、記憶装置に記憶する。
【0031】
次に、上記構成の工作機械の加工方法について、図面を参照して説明する。
図4は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、加工方法を説明するための概略フローチャート図を示している。
同図において、工作機械1は、まず、Yテーブル3、Xテーブル4及び主軸5が原点復帰する(ステップS1)。
本実施形態の上記原点(適宜、機械原点と呼称する。)は、Yテーブル3については正面側に移動した位置、Xテーブル4については左側に移動した位置、主軸5については上方に移動した位置としてある。NC装置11は、機械原点座標として、(0,0,0)をリセットする。なお、座標系は、直交座標系としてある。
【0032】
次に、Xテーブル4に被加工体7を固定する(ステップS2)。
本実施形態では、被加工体7は、電磁チャックによって、Xテーブル4のほぼ中央に固定される。
【0033】
次に、被加工体7の原点(適宜、ワーク基準点と呼称する。)を計測する(ステップS3)。すなわち、ダイヤルゲージ、位置顕微鏡、タッチロープなどを用いて、機械原点からワーク基準点までの絶対値を計測し、この絶対値を工作機械1のワーク座標に入力する。
本実施形態では、被加工体7は、板状の直方体としてあり、ワーク基準点は、被加工体7の上面中心としてある。
なお、ワーク基準点は、通常、主軸5が停止した状態で計測される。
【0034】
次に、加工に使用する工具6を主軸5に取り付ける(ステップS4)。
工作機械1は、ATC10を備えており、複数本の工具が搭載されたマガジンから、ATC10を使用して第一の工具6が主軸5に取り付けられる。続いて、レーザー光や位置検出センサなどを用いて、工具6の長さが測定され、この測定値分だけワーク原点を増分させる。
【0035】
次に、主軸5を実加工と同じ条件で回転させる(ステップS5)。
ここで、実加工と同じ条件とは、工具の取り付けられた主軸を、加工する際の所定の加工回転数で回転させることをいう。たとえば、主軸5が毎分数百回転で回転している場合と、毎分数万回転で回転している場合とでは、モータの発熱量が大きく異なるため、各構成部材の熱変位量や変形モードが異なる。すなわち、低速回転状態で、工具6を位置決めしたとしても、高速回転させると、工具6の位置がずれてしまう。このような熱による膨張誤差に対して、主軸5を実加工と同じ条件で回転させることにより、膨張誤差を低減することができ、加工精度を向上させることができる。
【0036】
次に、主軸5を実加工と同じ条件で回転させた状態で、回転中の主軸5の位置を所定時間毎に測定する。そして、今回測定値と前回測定値のずれ量が定められた寸法内に収まり、変位が安定するまで繰り返し測定し、主軸5の位置を安定化させる(ステップS6)。
このように、モータの発熱量に対して、工作機械1の各構成部材の温度が安定したことを確認することによって、主軸5及び工具6などの熱変位やバランス変動などを安定化させることができ、加工精度を向上させることができる。
【0037】
次に、主軸5を実加工と同じ条件で回転させた状態のままで、被加工体7の近辺まで接近させて工具6と被加工体7との間の放電現象を検知する(ステップS7)。
なお、この段階で、ワーク基準点、機械原点、被加工体7の形状、工具6の形状、静止状態における工具6の工具長及び工具径、主軸5の端部における熱変位などが、制御手段に入力されているので、工作機械1は、工具6を被加工体7の近辺まで接近させることができる。また、被加工体7の加工原点は、板状の直方体の上面における中心点としてある。
次に、この放電検知工程(ステップS7)を、図面を参照して説明する。
【0038】
図5は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、放電検知工程を説明するための工具と被加工体の概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は平面図を示しており、(c)は側面図を示している。
同図において、工作機械1は、被加工体7の上面から所定の距離だけ離れた位置に、回転している工具6を移動させ、続いて、たとえば、0.5μmずつ接近する微小送り又は超低速送りを行なう。工具6が被加工体7に徐々に接近し、接触する直前において、工具6と被加工体7との間に放電が発生すると、放電検知手段8がこの放電を検知し、NC装置11に放電検知信号を出力する。NC装置11は、放電検知信号を入力すると、工具6の接近を停止させ、このときの工具6の先端中心のZ座標の加工原点位置zを記憶する。
このように、工具送りを微小距離(たとえば、約0.01mm〜0.005mm)とし、かつ、放電現象を利用した非接触方式とすると、工具6を被加工体7に接触させてしまい、工具6を破損するといったトラブルを回避することができる。
【0039】
次に、XY座標の加工原点を求めるのであるが、前述により求めたZ座標の加工原点zの位置で工具6を被加工体7から上方へ離し、正面側に被加工体7から完全に外れる位置まで移動させ、XY座標測定の為に決定してある測定の深さであるZ座標位置zまで工具6を下げる。そして、被加工体7の正面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
さらに、工作機械1は、同様にして、被加工体7の背面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
続いて、工作機械1は、同様にして、被加工体7の左側面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
さらに、工作機械1は、同様にして、被加工体7の右側面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
なお、x≠x、y≠yとしてある。
【0040】
次に、放電された位置データより被加工体7のXY座標軸の加工原点を算出する(ステップS8)。すなわち、NC装置11は、上記4点の放電現象を生じた際の工具6の位置データから、加工原点のX座標位置(=(x+x)/2)及びY座標位置(=(y+y)/2)を算出する。また、加工原点のZ座標位置zは、上述したようにすでに記憶してあるので、加工原点として((x+x)/2,(y+y)/2,z)を記憶する。
なお、本実施形態の被加工体7は、上面と下面の平行度が精度よく加工されているものとしてある。
【0041】
なお、加工原点の求め方は、上記手順に限定されるものではない。たとえば、加工原点は、被加工体7の形状や設定された加工原点の状況などに応じて、様々な手順で求められる。
また、本実施形態では、被加工体7と工具6との間で放電現象が発生しているが、被加工体7が非導電性材料からなる場合には、被加工体7と工具6との間で放電現象が発生しない。かかる場合には、放電可能な材料からなる基準部材(図示せず)を用いる。この基準部材は、被加工体7を加工するための基準となる、あるいは、この基準を求めるための部材であり、基準部材と工具6との間で放電現象を発生させ、このときの工具6の位置データから被加工体7の加工原点を求める。また、被加工体7をXテーブル4に固定するための固定部材(図示せず)なども基準部材として使用される。
【0042】
次に、工作機械1は、上記加工原点に基づいて加工を開始する(ステップS9)。
たとえば、加工仕様により、加工原点に深さ50μmの穴を開ける場合、工作機械1は、加工原点から工具6を50μm+補正値(測定が非接触方式なので、微小隙間などの補正値を加算する必要がある。)の距離だけ降下させる。また、加工仕様により、加工原点からX軸方向右側に5mm離れた位置に、深さ50μmの穴を開ける場合、工作機械1は、加工原点から所定の距離(Δ)だけ上昇し、X軸方向右側に5mm移動し、工具6を所定の距離(Δ)+50μm+補正値の距離だけ降下させる。この際、工作機械1は、工具6が加工回転数ですでに回転しており、工具6を含めた各構成部材が熱的にサチレーション(飽和)しており、膨張誤差を低減することができる。また、工具6の回転による振動状態をも考慮して、工具6の位置決めを行なっているので、精度よく加工することができる。
【0043】
次に、工作機械1は、第一の工具6を用いた加工が終了したか否かを判断し(ステップS10)、終了した場合、通常、次の第二の工具6を用いた加工を行なう(ステップS4a〜10a)。
また、加工が終了していない場合、加工条件が変化しているか否かを判断し(ステップS11)、加工条件が変化していないときは、ステップS9にもどり、加工原点に基づいて次の加工を開始する。
また、加工条件が変化しているときは、ステップS5にもどり、主軸を実加工と同じ条件で回転させ、各ステップS6〜9にしたがい次の加工を行なう。
【0044】
ここで、上記加工条件の変化として、主軸5の回転数の変化がある。すなわち、低速回転しているときと、高速回転しているときとでは、主軸5や工具6の振動状態や熱的状態が大きく異なる。このため、主軸5の回転数を変えるときは、再びステップS5にもどり、主軸5を実加工と同じ条件で回転させ、上述した手順により加工を行なうとよい。このようにすると、主軸5及び工具6の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差などの悪影響を排除することができる。
【0045】
また、前記加工条件の変化として、工作機械1を設置した場所の温度等の環境条件の変化がある。すなわち、温度等の環境条件が変化したときは、再びステップS5にもどり、主軸5を実加工と同じ条件で回転させ、上述した手順により加工を行なうとよい。このようにすると、室温変化などによる膨張誤差などの悪影響を排除することができる。
【0046】
次に、工作機械1は、第一の工具6を用いた加工が終了したか否かを判断し(ステップS10)、終了した場合、通常、次の第二の工具6を用いた加工を行なう(ステップS4a〜10a)。
すなわち、工作機械1は、ATC10を使用して第一の工具6を主軸5から取り外し、第二の工具6を主軸5に取り付ける。
なお、各ステップS4a〜10aは、上述したステップS4〜10とほぼ同様としてある。このように、工具交換毎に各ステップを実施することで、振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差などの諸々の悪条件を排除できる。
【0047】
上述したように、本実施形態の工作機械1は、加工回転数で回転している工具6を測定プローブとして利用し、主軸5及び工具6の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差あるいは工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除して、加工原点を精度よく割り出すことができるので、極めて精密な加工を行なうことができる。
また、工作機械1は、複数の工具を交換するためのATC10を備えており、複数使用される工具間の累積誤差を生じるが、本発明によれば、これを排除することができる。すなわち、ATC10を備えた工作機械1であっても、より精密な加工を行なうことができ、工具間誤差による加工段差などを低減することができる。
さらに、工具径約0.1mm以下の工具(微細加工用工具など)を用いた自動加工を、精度よく行なうことができる。
また、上記工作機械1は、工具6を測定プローブとして利用しているが、様々な応用例を有している。
次に、工作機械1の応用例について、図面を参照して説明する。
【0048】
[工作機械の一実施形態の応用例]
以下、本発明の工作機械の一実施形態の応用例について、図面を参照して説明する。
図6は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、構造を説明するための概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は正面図を示しており、(c)は側面図を示している。
同図において、応用例にかかる工作機械1は、上記実施形態の工作機械1と比べて、工具6の工具径などを測定するためのリングゲージ9を、Xテーブル4上に設けてある点が相違する。他の構成要素は、ほぼ工作機械1と同様としてある。
したがって、図6において、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0049】
リングゲージ9は、あらかじめ内径(=d)が精度よく測定された鋼製の円筒状部材としてある。
なお、リングゲージ9は、Xテーブル4の背面側かつ左側の角部に取り付けられているが、取付け位置は、特に限定されるものではない。また、工具径を測定するための基準器として、リングゲージ9を用いているが、この基準器はリングゲージ9に限定されるものではない。
【0050】
次に、上記構成の工作機械1の加工方法(工具径の測定方法などを含む。)について、図面を参照して説明する。
図7は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、加工方法を説明するための概略フローチャート図を示している。
本応用例の加工方法は、上述した加工方法と比べて、工具6の工具径を測定する工程を有する点、及び、加工後、工具6を用いて加工寸法を測定し、必要に応じて再加工を行なう点が相違する。他の方法は、ほぼ工作機械1の方法と同様としてある。
したがって、図7において、図4と同様の方法については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0051】
同図において、工作機械1は、上述したように、まず、Yテーブル3、Xテーブル4及び主軸5が原点復帰し(ステップS1)、Xテーブル4に被加工体7を固定し(ステップS2)、被加工体7の原点を計測し(ステップS3)、工具6を主軸5に取り付け(ステップS4)、主軸5を実加工と同じ条件で回転させ(ステップS5)、さらに、回転を継続させた状態で、主軸5の位置を安定化させる(ステップS6)。
なお、リングゲージ9の原点(リングゲージ9の中心軸とXテーブル4の上面が交差する点)は、予め測定され測定データがNC装置11に記憶されている。
【0052】
次に、主軸5を実加工と同じ条件で回転させた状態で、工具6とリングゲージ9との間の放電現象を利用して、工具6の工具径を測定する(ステップS6.1)。
なお、この段階で、リングゲージ9の原点、機械原点、リングゲージ9の形状、工具6の形状、工具6の静止時における工具長及び工具径、主軸5の端部における熱変位などが、制御手段に入力されているので、工作機械1は、工具6をリングゲージ9の原点近辺まで移動させることができる。
【0053】
次に、放電現象を利用した工具径測定工程(ステップS6.1)を、図8を参照して説明する。
図8は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、工具径測定工程を説明するためのリングゲージと工具の概略拡大図であり、(a)はリングの中心軸座標を求める際の平面図を示しており、(b)は工具がリングゲージの中心軸座標に位置する状態の平面図を示しており、(c)は工具径を求める際の平面図を示している。
同図において、工作機械1は、予め測定されNC装置11に記憶されているリングゲージ9の原点の測定データにより、リングゲージ9の原点に、加工回転数で回転している工具6を移動させ、さらに、リングゲージ9の正面側内面から所定の距離だけ離れた位置に工具6を移動させ、続いて、たとえば、0.5μmずつ接近する微小送り又は超低速送りを行なう。工具6がリングゲージ9に徐々に接近し、接触する直前において、工具6とリングゲージ9との間に放電が発生すると、放電検知手段8がこの放電を検知し、NC装置11に放電検知信号を出力する。NC装置11は、放電検知信号を入力すると、工具6の接近を停止させ、このときの工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
【0054】
次に、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の背面側内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
続いて、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の左側面内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
さらに、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の右側面内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x,y,z)を記憶する。
【0055】
次に、放電された位置データよりリングゲージ9の原点を算出する。すなわち、NC装置11は、上記四回の放電現象を生じた際の工具6の位置から、リングゲージ9の原点のX座標位置(=(x+x)/2)及びY座標位置(=(y+y)/2)を算出する。工作機械1は、図8(b)に示すように、算出した原点のX座標位置及びY座標位置に工具6を移動させる。
【0056】
次に、図8(c)に示すように、工作機械1は、リングゲージ9の正面側内面から所定の距離だけ離れた位置に工具6を移動させ、続いて、たとえば、0.5μmずつ接近する微小送り又は超低速送りを行なう。工具6がリングゲージ9に徐々に接近し、接触する直前において、工具6とリングゲージ9との間に放電が発生すると、放電検知手段8がこの放電を検知し、NC装置11に放電検知信号を出力する。NC装置11は、放電検知信号を入力すると、工具6の接近を停止させ、このときの工具6の先端中心の座標((x+x)/2,y16,z)を記憶する。
【0057】
次に、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の背面側内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標((x+x)/2,y17,z)を記憶する。
続いて、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の左側面内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x18,(y+y)/2,z)を記憶する。
さらに、工作機械1は、同様にして、リングゲージ9の右側面内面に対して工具6を接近させ、放電現象が発生した際の、工具6の先端中心の座標(x19,(y+y)/2,z)を記憶する。
【0058】
次に、NC装置11は、測定した座標((x+x)/2,y16,z)及び((x+x)/2,y17,z)から、回転している工具6の工具径D´を、式D´=d−(│y16−y17│)により算出する。また、測定した座標(x18,(y+y)/2,z)及び(x19,(y+y)/2,z)から、回転している工具6の工具径D´´を、式D´´=d−(│x18−x19│)により算出する。そして、算出した二つの工具径を平均して、回転している工具6の工具径D(=(D´+D´´)/2)を求める。そして、NC装置11は、すでに入力されている工具径を新たな値のDと再入力する。
このようにすると、加工回転数で回転している工具6の工具径(熱変動があったり振動している状態における工具径)を精度よく測定することができる。特に、工具6が極めて細いエンドミルやドリルである場合、熱や振動に起因する誤差を補正することができるので、加工精度の向上に有利である。
【0059】
なお、工具径の求め方は、上記手順に限定されるものではない。たとえば、求めたD´を工具径D(=D´)としてもよい。
また、図示してないが、上述したzを求める方法と同様にして、リングゲージ9の上面を利用して、加工回転数で回転している工具6の工具の先端位置を求めることができる。
さらに、工具径を測定するタイミングは、通常、加工前に行なわれるが、必要に応じて、加工中や加工後にも行なってもよい。
【0060】
次に、工作機械1は、主軸5を実加工と同じ条件で回転させた状態で、被加工体7の近辺まで接近させて工具6と被加工体7との間の放電現象を検知し(ステップS7)、放電された位置データより被加工体7の加工原点を算出し(ステップS8)、上記加工原点に基づいて加工を開始する(ステップS9)。
【0061】
次に、工作機械1は、高精度の加工を行なう必要がある場合などに、加工終了後に、工具6を測定プローブとして、加工寸法を測定し、この測定結果が所定の加工寸法規格から外れているとき、測定結果にもとづいて再加工を行なう(ステップS9.1)。
このようにすると、加工終了後の加工寸法を効率よく測定することができる。また、微小放電現象を利用して、測定プローブが入らない場所に対して、工具を測定プローブとして用いて測定することができる。さらに、測定結果に対して、自動追い込み加工が行なわれるので、生産性を大幅に向上させるとともに、加工精度の信頼性を向上させることができる。
【0062】
次に、工作機械1は、第一の工具6を用いた加工が終了したか否かを判断し(ステップS10)、終了した場合、図示してないが、通常、第一の工具6を用いた加工とほぼ同様にして、次の第二の工具6を用いた加工を行なう。
また、加工が終了していない場合、加工条件が変化しているか否かを判断し(ステップS11)、加工条件が変化していないときは、ステップS9にもどり、加工原点に基づいて次の加工を開始する。
また、加工条件が変化しているときは、ステップS5にもどり、主軸を実加工と同じ条件で回転させ、同様の手順により次の加工を行なう。
【0063】
このように、本応用例の工作機械1は、実加工状態における工具径を精度よく測定することができる。また、加工回転数で回転している工具の測定された工具径を用いることにより、加工精度をさらに向上させることができる。
さらに、工具を測定プローブとして用いて、加工終了後の加工寸法を効率よく測定し、測定結果に対して、自動追い込み加工が行なわれるので、生産性を大幅に向上させることができ、また、加工精度の信頼性を向上させることができる。
【0064】
[加工方法の第一実施形態]
また、本発明は、加工方法としても有効であり、本実施形態の加工方法は、上記工作機械1による被加工体7の加工方法としてある。
本実施形態の加工方法は、図4に示すように、加工に使用する第1の工具6を工作機械1の主軸5に取り付ける工具取付け工程(ステップS4)と、主軸5を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程(ステップS5)と、主軸5を回転させた状態で、主軸5の位置を所定時間毎に測定し、今回測定値と前回測定値のずれ量が定められた寸法以内になるまで繰り返し測定する安定化工程(ステップS6)と、工具6を被加工体7の近辺まで接近させて、工具6と被加工体7との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程(ステップS7)と、放電された位置データより被加工体7の加工原点を算出する原点算出工程(ステップS8)と、算出された被加工体7の加工原点に基づいて加工位置へ主軸6を移動させ加工を開始する加工工程(ステップS9)と、加工条件が変化しているときは、主軸回転工程(ステップS5)から加工工程(ステップS9)までの工程を再度実行する方法としてある。
【0065】
さらに、第一の工具6を用いた加工が終了すると、第二の工具6を主軸5に取り付ける工具取付け工程(ステップS4a)と、主軸5を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程(ステップS5a)と、主軸5を回転させた状態で、主軸5の位置を所定時間毎に測定し、今回測定値と前回測定値のずれ量が定められた寸法以内になるまで繰り返し測定する安定化工程(ステップS6a)と、第二の工具6を被加工体7の近辺まで接近させて、第二の工具6と被加工体7との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程(ステップS7a)と、放電された位置データより被加工体7の加工原点を算出する原点算出工程(ステップS8a)と、算出された被加工体7の加工原点に基づいて加工位置へ主軸6を移動させ加工を開始する加工工程(ステップS9a)を有する方法としてある。
【0066】
上記加工条件の変化として、主軸5の回転数の変化や、工作機械1を設置した場所の温度等の環境条件の変化を挙げることができるが、この方法のようにすると、主軸及び工具の振動による振動誤差などの悪影響を排除したり、工作機械1の各構成部材の温度などによる膨張誤差などの悪影響を排除することができる。
【0067】
また、安定化工程(ステップS6,6a)によって、主軸5の熱変位やバランス変動などが安定化するとともに、安定化したことを確認することにより、加工精度の信頼性を向上させることができる。
【0068】
また、好ましくは、ステップS3において、工作機械1の主軸5が停止しているとき、測定器を用いて予め被加工体7の原点を計側する原点計測工程を有するとよい。このように、被加工体7の原点を計測することにより、工作機械1の機械原点と被加工体7の位置関係を得ることができ、加工を効率よく進めることができる。
【0069】
このように、本実施形態の加工方法によれば、加工回転数で回転している工具6を測定プローブとして利用し、主軸5及び工具6の振動による振動誤差や回転等による機械各部の温度などによる膨張誤差あるいは工具交換時の変位や回転バランスの変動などの悪影響を排除して、加工原点を精度よく割り出すことができるので、極めて精密な加工を行なうことができる。また、加工条件の変化に影響されることなく、精密な加工を行なうことができる。さらに、工具6を交換した場合であっても、精密な加工を行なうことができる。すなわち、複数使用される工具間の累積誤差を効果的に排除することができ、工具間誤差による加工段差などを低減することができる。
【0070】
[加工方法の第二実施形態]
本実施形態の加工方法は、上記応用例にかかる工作機械1による被加工体7の加工方法としてある。
本実施形態の加工方法は、図7に示すように、第一実施形態の加工方法と比べて、工具6の工具径を測定する工具径測定工程(ステップS6.1)を有する点、及び、加工後、工具6を用いて加工寸法を測定し、必要に応じて再加工を行なう追加工工程(ステップS9.1)を有する点が相違する。他の方法は、ほぼ第一実施形態の加工方法と同様としてある。
したがって、図7において、図4と同様の方法については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0071】
本実施形態では、工作機械1の制御手段が、放電現象及び所定の基準器(リングゲージ9など)を利用して、実加工状態における工具6の工具径を測定する工具径測定工程(ステップS6.1)を有している。このようにすると、加工回転数で回転している工具6の測定された工具径を用いることにより、加工精度をさらに向上させることができる。
【0072】
また、好ましくは、加工終了後に、工具6を測定プローブとして、加工寸法を測定し、この測定結果が所定の加工寸法規格から外れているとき、測定結果にもとづいて再加工を開始させる追加工工程(ステップS9.1)を有するとよい。このようにすると、加工終了後の加工寸法を効率よく測定することができる。また、微小放電現象を利用して、測定プローブが入らない場所に対して、工具6を測定プローブとして用いて測定することができる。
【0073】
このように、本実施形態の加工方法によれば、実加工状態における工具径を精度よく測定することができる。また、加工回転数で回転している工具6の測定された工具径を用いることにより、加工精度をさらに向上させることができる。
さらに、工具6を測定プローブとして用いて、加工終了後の加工寸法を効率よく測定し、測定結果に対して、自動追い込み加工が行なわれるので、生産性を大幅に向上させることができ、また、加工精度の信頼性を向上させることができる。
【0074】
以上、本発明の工作機械及び加工方法について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係る工作機械及び加工方法は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した工作機械1の工具6と被加工体7の間に、導通検知手段(図示せず)を設け、加工中に、被加工体7と工具6との導通状態を検知し、非導通を検知すると、非導通検知信号を出力し、制御手段が、非導通検知信号を入力すると、工具6が破損したものと認識し、自動停止及び/又は警報を発するようにしてもよい。このようにすると、加工中に工具6の破損を自動検出し、破損すると自動停止し、たとえばアラームで知らせるので、ロスタイムを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明の工作機械及び加工方法は、被加工体を精度よく加工する場合に有効であるが、加工に限定されるものではなく、たとえば、工具の測定装置及び工具の測定方法などとしても有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、構造を説明するための概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は正面図を示しており、(c)は側面図を示している。
【図2】図2は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、Z軸方向における放電検知手段を説明するための要部の概略拡大図を示している。
【図3】図3は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、X軸方向における放電検知手段を説明するための要部の概略拡大図を示している。
【図4】図4は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、加工方法を説明するための概略フローチャート図を示している。
【図5】図5は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の、放電検知工程を説明するための工具と被加工体の概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は平面図を示しており、(c)は側面図を示している。
【図6】図6は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、構造を説明するための概略図であり、(a)は斜視図を示しており、(b)は正面図を示しており、(c)は側面図を示している。
【図7】図7は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、加工方法を説明するための概略フローチャート図を示している。
【図8】図8は、本発明の工作機械にかかる一実施形態の応用例の、工具径測定工程を説明するためのリングゲージと工具の概略拡大図であり、(a)はリングの中心軸座標を求める際の平面図を示しており、(b)は工具がリングゲージの中心軸座標に位置する状態の平面図を示しており、(c)は工具径を求める際の平面図を示している。
【符号の説明】
【0077】
1 工作機械
2 ベッド
3 Yテーブル
4 Xテーブル
5 主軸
6 工具
7 被加工体
8 放電検知手段
9 リングゲージ
10 ATC(自動工具交換装置)
11 NC装置(数値制御装置)
12 コントロールアンプ
13 導通センサ
20 支柱
21 アーム
51 主軸ホルダー
81 励起コイル
82 検出コイル
83 電位差印加手段
84 閉ループ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が取り付けられる主軸、この主軸を回転させる駆動手段、被加工体が載置されるテーブル、前記主軸及び/又はテーブルを移動させる移動手段、並びに、前記駆動手段及び移動手段を制御する制御手段を備えた工作機械であって、
前記被加工体あるいは基準部材と、実加工状態における前記工具との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知手段を具備し、
前記放電検知手段が前記放電検知信号を出力すると、前記制御手段が前記放電現象を生じたときの工具位置から加工原点を算出し、この算出した加工原点に基づいて加工を開始させることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
エンドミルなどの工具を用いて被加工体を加工する工作機械による被加工体の加工方法において、
加工に使用する第1の工具を前記工作機械の主軸に取り付ける工具取付け工程と、
前記主軸を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程と、
前記工具と前記被加工体あるいは基準部材を接近させて、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程と、
前記放電を検知したときの位置データより、前記被加工体の加工原点を算出する原点算出工程と、
算出された前記被加工体の加工原点に基づいて加工位置へ前記主軸を配し第1の加工を開始する加工工程と、
加工条件の変化に伴って、上記主軸回転工程から加工工程までの工程を再度実行することを特徴とする加工方法。
【請求項3】
前記加工条件の変化は、主軸の回転数の変化であることを特徴とする請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記加工条件の変化は、前記工作機械を設置した場所の温度等の環境条件の変化であることを特徴とする請求項2に記載の加工方法。
【請求項5】
エンドミルなどの工具を用いて被加工体を加工する工作機械による被加工体の加工方法において、
加工に使用する第1の工具を前記工作機械の主軸に取り付ける工具取付け工程と、
前記主軸を実加工と同じ条件で回転させる主軸回転工程と、
前記工具と前記被加工体あるいは基準部材を接近させて、前記工具と前記被加工体あるいは基準部材との間の放電現象を検知し、放電検知信号を出力する放電検知工程と、
前記放電を検知したときの位置データより、前記被加工体の加工原点を算出する原点算出工程と、
算出された前記被加工体の加工原点に基づいて加工位置へ前記主軸を配し第1の加工を開始する加工工程と、
第1の加工終了後、前記第一の工具と第2の工具とを交換する工具交換工程と、
前記第2の工具に対して、上記主軸回転工程から加工工程までの工程を再度実行する第2の加工を行なうことを特徴とする加工方法。
【請求項6】
前記加工方法が、工作機械の主軸停止状態において、測定器を用いて予め被加工体の原点を計側する原点計測工程を有することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項7】
前記加工方法において、前記主軸回転工程と、前記主軸を回転させた状態で、前記主軸の位置を所定時間毎に測定し、今回測定値と前回測定値のずれ量が定められた寸法以内になるまで繰り返し測定する安定化工程とを有することを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項8】
前記加工方法が、前記放電現象及び所定の基準器を利用して、実加工状態における前記工具の工具径を測定する工具径測定工程を有することを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項9】
前記制御手段が、加工終了後に、前記工具を測定プローブとして、加工寸法を測定し、この測定結果が所定の加工寸法規格から外れているとき、前記測定結果にもとづいて再加工を開始させることを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれか1項に記載の加工方法。
【請求項10】
前記工作機械に設けられた導通検知手段が、加工中に、前記被加工体と前記工具との導通状態を検知しており、非導通を検知すると、非導通検知信号を出力し、
前記制御手段が、前記非導通検知信号を入力すると、前記工具が破損したものと認識し、自動停止及び/又は警報を発することを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれか1項に記載の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−105134(P2008−105134A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290356(P2006−290356)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】