巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法
【課題】コイル間の線材に保護のためのチューブを嵌入させて渡り線を保護する。
【解決手段】巻線用線材供給機は、被巻線部材13に供給する線材17が間に挿通された一対の側壁81,82を備える。一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、一対の側壁81,82は相対移動して線材17に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する接近状態とチューブ19の通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成される。その製造方法は、チューブ嵌入工程と、チューブ19の通過を禁止する接近状態にある一対の側壁81,82の間に線材17を挿通させて第1コイル16aaを得る第1巻線工程と、線材17をチューブ19により被覆するチューブ被覆工程と、第2巻線工程とを含む。
【解決手段】巻線用線材供給機は、被巻線部材13に供給する線材17が間に挿通された一対の側壁81,82を備える。一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、一対の側壁81,82は相対移動して線材17に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する接近状態とチューブ19の通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成される。その製造方法は、チューブ嵌入工程と、チューブ19の通過を禁止する接近状態にある一対の側壁81,82の間に線材17を挿通させて第1コイル16aaを得る第1巻線工程と、線材17をチューブ19により被覆するチューブ被覆工程と、第2巻線工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルに装着されて回転するボビンのような被巻線部材に巻線のための線材を供給する巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法に関する。更に詳しくは、線材保護のためのチューブをコイル間の線材に嵌入させ得る巻線用線材供給機及びそれを用いた連続コイルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータは、放射状に並んで内径方向に突出する複数のティース(磁極)及びその間に開口する複数のスロットを有する円筒状のステータコアを備える。そして、各ティースには線材を巻回する巻線が行われ、その巻回された線材からなるステータコイルが各スロットに納められる。このようなステータの製造方法として、ステータコアをティース毎に円周方向に分割して複数のコア片とし、そのコア片におけるティースに絶縁用のボビンを装着し、その被巻線部材であるボビンに巻線をしてコイルとし、そのようなコイルがそれぞれ設けられた複数のコア片をその後に組み立てる方法が知られている。
【0003】
このように、ステータコアを複数のコア片に分割することにより、巻線機のノズルの移動に必要な軌道を確保してコイルを巻線できるため、コイルの整列性が良くなり、高いコイル占積率を得ることができるとされている。また、磁気的な無効部分であるコイルエンドが小さくなり、回転電機の軸長を短縮し、かつ銅損を小さくすることができるともされている。このような理由から、回転電機の小型化と高効率化が実現できるため、近年では搭載空間や重量に制限のある自動車用の回転電機などに採用が進んでいる。
【0004】
そして、このようなステータを小型化、低コスト化するため、直列の同相コイルを連続して巻線し、コイル端末の接続点数を極力減らす試みがなされており、その場合の直列に連続して巻線された各コイル間の渡り線処理のため、ボビンの外周にガイドを一体的に設け、そのガイドにコイル間の渡り線を引き回す構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−18331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、直列に連続して巻線された各コイル間の渡り線を引き回す作業は手作業で行わなければならず、その渡り線はコイル間で外部に表出するためその引き回し作業中に渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコアと接触するようなことがあればその表面が損傷してその信頼性が低下するおそれがあった。このため、その作業には細心の注意が必要となり、その引き回し作業の効率を上げるには限界が生じていた。よって、その渡り線を巻線の段階で予め保護できれば、その引き回し作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率が向上し、ステータを低コスト化し得るとともに、その信頼性を著しく高めることが期待できる。
【0007】
本発明の目的は、コイルとコイルの間の線材に保護のためのチューブを嵌入させ得る巻線用線材供給機を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、コイル間の線材である渡り線をチューブにより保護しつつコイルを連続して巻線し得る連続コイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の巻線用線材供給機は、被巻線部材に供給する線材が間に挿通された一対の側壁を備え、一対の側壁のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、一対の側壁は相対移動して線材に嵌入された保護チューブの通過を禁止する接近状態とチューブの通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成されたことを特徴とする。
【0010】
ここで、接近状態で線材の挿通方向に直交する方向の線材の移動を制限する制限部材を一対の側壁のいずれか一方又は双方に設けることが好ましい。
【0011】
本発明の連続コイルの製造方法は、線材に保護チューブを嵌入するチューブ嵌入工程と、チューブの通過を禁止する接近状態にある一対の側壁の間に線材を挿通させて回転する被巻線部材に供給し被巻線部材に線材を巻回させて第1コイルを得る第1巻線工程と、一対の側壁を開いて離間状態とした一対の側壁の間にチューブを通過させ被巻線部材から引き出された線材をそのチューブにより被覆するチューブ被覆工程と、一対の側壁を再び接近状態として一対の側壁の間に挿通された線材を回転する別の被巻線部材に供給し別の被巻線部材に線材を巻回させて第2コイルを得る第2巻線工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法では、保護チューブの通過を禁止する接近状態とチューブの通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成された一対の側壁を備えるので、予め線材に保護チューブを嵌入して一対の側壁を接近状態とし、チューブを繰出すことなく線材のみを繰出して第1コイルを巻線した後にその一対の側壁を離間状態としてチューブを引き出し、その後第2コイルを巻線することにより、コイルとコイルの間の線材に保護のためのチューブを嵌入させた連続コイルを得ることが可能となる。
【0013】
このような連続コイルでは、各コイル間の保護チューブで保護された線材からなる渡り線を引き回す作業中にその渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコアと接触しても、その線材の表面が損傷するようなことはない。よって、このような巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法により連続コイルを得ることにより、その引き回し作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率を向上させることができ、ステータを低コスト化するとともに、得られたステータの信頼性を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明実施形態の線材供給機を用いて連続コイルを製造した状態を示す上面図である。
【図2】そのチューブで被覆された渡り線を係止突起に係止させる状態を示す図1に対応する上面図である。
【図3】その第1コイルの巻き終わりにチューブを引き出した状態を示す図1に対応する上面図である。
【図4】その連続コイルの巻き始めの状態を示す図1に対応する上面図である。
【図5】その線材供給機の接近状態を示す正面図である。
【図6】その線材供給機の離間状態を示す図5に対応する正面図である。
【図7】その線材にチューブを嵌入させる線材供給機の側面図である。
【図8】その線材を繰出して巻線している状態を示す図7に対応する側面図である。
【図9】その線材に嵌入されたチューブを引き出している状態を示す図7に対応する側面図である。
【図10】その供給機を用いて得られた連続コイルを示す平面図である。
【図11】そのステータのコイル片を示す斜視図である。
【図12】そのステータの中心軸に直交する平面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図12に、本発明により得られる連続コイルを用いた分割コア式ステータ10の断面を示す。このステータ10は、ティース11a毎に円周方向に分割された複数のコア片11から成るステータコアと、そのコア片11におけるティース11aに被巻線部材である絶縁用のボビン13を装着し、そのボビン13に巻線が成されたコイル16とを備える。具体的に、このコア片11は、円弧状部分11bと、この円弧状部分11bの内周面から当該内周面の円弧中心に向けて突出しているティース11aとを備えた磁性材料からなり、この実施の形態におけるコア片11は、一定厚さの円弧状部分11b及びティース11aを備えた形状のコア積層板を、所定の厚さとなるように積層して固定することにより構成された積層型のものを示す。
【0017】
図11に示すように、被巻線部材であるボビン13はインシュレータ12の一部として形成され、このインシュレータ12はコア片11を覆う絶縁性樹脂からなる。このインシュレータ12の一部を構成するボビン13は、ティース11aが挿入される筒状胴部13aと、この筒状胴部13aにおける円弧状部分11b側の端部に一体形成された外周側フランジ13bと、筒状胴部13aにおけるステータ10内周側の端部に一体形成された内周側フランジ13cとを備える。外周側及び内周側フランジ13b,13cは、筒状胴部13aの中心軸線に対して直交する方向に沿って外側に延びた矩形枠であり、外周側フランジ13bが内周側フランジ13cに比べて広幅とされる。
【0018】
ボビン13の外周側フランジ13bには、コア片11の円弧状部分11bにおけるステータ10の中心軸線方向の両側の端面を覆う一対の円弧状板部材14,14が一体的に形成される。円弧状板部材14,14におけるコア片11の連結方向(ステータ10の円周方向)の両端面はコア片11における円弧状部分11bの両端面と面一とされ、コア片11を円環状に連結した図12に示す状態において、隣接するコア片11の端面にそれぞれ接合する接合面になるように構成される。このボビン13と一対の円弧状板部材14,14を有するこの実施の形態におけるインシュレータ12は、コア片11を樹脂成形型に入れて絶縁性樹脂を注入するアウトサート成形により形成されたものであり、このインシュレータ12におけるボビン13に線材17(図1)が巻回されてコイル16(図12)が形成される。そして、本発明の巻線用線材供給機20(図1〜図9)は、このようなボビン13に巻線のための線材17を供給するのに適したものであり、この実施の形態における線材17は、表面に絶縁皮膜が形成された断面円形の丸線である場合を示す。
【0019】
図1〜図4に示すように、本発明の巻線用線材供給機20は、被巻線部材であるボビン13を装着して回転するスピンドル21に対して3軸方向に移動する移動台22を備える。スピンドル21には、複数のボビン13がその軸方向に所定の間隔を空けて設けられ、図では2個のボビン13,13が設けられる例を示す。このスピンドル21は、図示しないモータにより中心軸を回転中心として回転する断面円形の棒状部材である回転軸21aと、その回転軸21aの分断された中間の端部にそれぞれ設けられてボビン13,13を挟持する一対の挟持部材21b,21bと、複数のボビン13の間に設けられた補助具21cを備える。補助具21cはボビン13とボビン13の間の所定の間隔を保持するためのものであり、この実施の形態では2個のボビン13,13の間に介装され、この状態で両側のボビン13,13が一対の挟持部材21b,21bにより挟持される場合を示す。
【0020】
ボビン13はコア片11にアウトサート成形されたものであり(図11)、図示しないが、挟持部材21b,21b及び補助具21cにはコア片11における円弧状部分11bとティース11aの内端部分を収容可能な凹部がそれぞれ形成され、その凹部にそれらを収容することによりスピンドル21はコア片11とともにボビン13を装着可能に構成される。そして、ボビン13とボビン13の間に位置する補助具21cには、それらのボビン13に巻回されたコイル16とコイル16の間に掛け渡される線材17を係止する係止突起21eが形成され、一方のボビン13の近傍の挟持部材21bには線材17の端部が挿入されて係止される端部保持具21fが設けられる。
【0021】
図7〜図9に示すように、移動台22はボビン13を装着して回転するスピンドル21に対して3軸方向に移動するものである。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の線材供給機20について説明する。すると、スピンドル21はY軸方向に延びて設けられ、移動台22は移動装置31を介して基台20aに取付けられる。この移動装置31は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成される。これらの伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールネジ32b〜34bと、このボールネジ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c〜34c等によって構成される。
【0022】
この実施の形態では、移動台22をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32の従動子32cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32をZ軸方向に移動可能にZ方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cに取付け、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ34をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33が基台20aに取付けられる。それらの各伸縮アクチュエータ32〜34におけるサーボモータ32a〜34aは、この移動装置31及びスピンドル21の回転を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、この移動装置31は、図示しないコントローラからの指令に基づいて移動台22をスピンドル21に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0023】
線材17はリール18に巻回され、このリール18が線材17の供給源となる。このリール18は線材供給機20と別な場所の例えば基台20aの上等に置かれ、その基台20aには、供給源であるリール18から繰出された線材17を真直ぐに伸ばす癖取り装置41が設けられる。この癖取り装置41はリール18から繰出された線材17を八の字状に繰り回す一対の繰り回しプーリ42,43と、その一対の繰り回しプーリ42,43を通過した線材17をS字状に旋回させる固定プーリ44と可動プーリ46とを備える。固定プーリ44と可動プーリ46を旋回した線材17が移動台22方向に向かうように構成され、可動プーリ46はコイルスプリング47により移動台22より遠ざかる方向に付勢される。コイルスプリング47は、その可動プーリ46を付勢することにより移動台22が移動する際に線材17が弛むようなことを防止するように構成される。
【0024】
移動台22には通過板61が設けられ、通過板61には癖取り装置41を介してリール18から供給された線材17が通過する孔が形成される。この図示しない孔を介して通過板61を通過した線材17が後述する一対の側壁の間に挿通するように構成される。また、この通過板61を通過した線材17を把持可能なチャック装置62がその通過板61に設けられる。そして、通過板61には、この通過板61を通過した線材17に嵌入されたチューブ19を繰出し可能な繰出し装置63が設けられる。この繰出し装置63は、線材17を跨いてチューブ19の端部に当接する出没軸64aをZ軸方向に出没させるZ軸方向出没アクチュエータ64と、その出没アクチュエータ64をX軸方向に移動させるX軸方向移動アクチュエータ66とを有する。
【0025】
また移動装置31と別に基台20aにはチューブ挿入機71が設けられる。この実施の形態における挿入機71は、チューブ19を保持可能に構成されたチューブ保持具72と、チューブ19を所定の長さに切断してチューブ保持具72に供給する図示しないチューブ供給機と、チューブ保持具72に保持されたチューブ19を移動させる移動具73と、その移動具73をX軸方向に移動させるX軸方向挿入アクチュエータ74とを備える。チューブ保持具72は図示しない供給機から所定の長さに切断されて供給されたチューブ19をX軸方向に延びて保持し、線材17の端部をそのチューブ19に案内するようにその端部が漏斗状に形成される。そして、このチューブ保持具72は線材17がチューブ19に挿入された後にY軸方向に分断してそのチューブ19の保持を解除するように構成され、移動具73は分断されたチューブ保持具72の間に残存するチューブ19に係止するように構成される。その状態で、X軸方向挿入アクチュエータ74によりその移動具73をX軸方向に移動させると、後述する一対の側壁81,82と通過板61の間にまでそのチューブ19を移動可能に構成される。なお、このチューブ挿入機71は一例であって、線材17にチューブ19を嵌入できる限り、他の形式のものであっても良い。
【0026】
図1に示すように、移動台22にはスピンドル21の中心軸と平行に移動可能な一対の側壁81,82が設けられる。一対の側壁81,82の間には通過板61を通過した線材17が挿通される。この実施の形態では一対の側壁81,82の双方が移動可能である場合を示すけれども、一対の側壁81,82のいずれか一方のみを移動可能に移動台22に設けても良い。図5に示すように、この例ではエア圧により移動可能な一対の移動子83a,83bを有するエアシリンダ83の、その一対の移動子83a,83bに一対の側壁81,82が取付けられ、これにより一対の側壁81,82の双方が移動可能な場合を示す。そして、一対の側壁81,82は相対移動して線材17に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する図1及び図5に示す接近状態と、チューブ19の通過を許容する図3及び図6に示す離間状態の双方を形成可能に構成される。なお、図における符号83c,83dは、一対の側壁81,82を離間状態にする一対の移動子83a,83bの必要以上の移動を禁止するストッパ部材を示し、離間状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔はチューブ19の通過を許容する必要があるので、その所定の間隔がチューブ19の外径より広くなるようにストッパ部材83c,83dが取付けられる。
【0027】
また、一方の側壁81には雌ねじ84がスピンドル21の中心軸と平行に形成され、ナット86が螺合された雄ねじ87がその雌ねじ84に螺着され、その雄ねじ87の先端が他方の側壁82に当接して、接近状態にある一対の側壁81,82の間の線材17が挿通された所定の間隔を維持するように構成される。このため、ナット86を緩めて雌ねじ84に対して雄ねじ87を回転させると、一方の側壁81に対して雄ねじ87がスピンドル21の中心軸に平行に移動することになり、接近状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔を線材17の外径に従って変更可能に構成される。即ち、接近状態にある一対の側壁81,82は線材17の通過を許容するけれども、その線材に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する必要がある。従って、その雄ねじ87等により、接近状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔を線材17の外径より広く、かつチューブ19の外径より狭くなるように変更調整可能に構成される。そして、ナット86は一方の側壁81に接触し、その接触抵抗により雄ねじ87の不要な回転を防止して、接近状態にある一対の側壁81,82の間の調整された所定の間隔が変化することを防止するものである。
【0028】
更に、図5及び図6に示すように、一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方には、一対の側壁81,82の間に挿通された線材17の挿通方向に直交する方向の移動を制限する制限部材88が設けられる。この実施の形態では一方の側壁81に制限部材88が設けられる場合を示し、その制限部材88は下制限部材88bと上制限部材88aを備える。図1〜図4に示すように一対の側壁81,82の線材17が挿通する対向面のスピンドル21側の出口における角部には、線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すための丸みを形成するアール加工が施され、下制限部材88bと上制限部材88aは、一方の側壁81のアール加工された出口近傍に設けられる。また、図7〜図9に示すように、その線材17の図の上下方向の移動を外周面に接触させて制限するこの実施の形態における下制限部材88bと上制限部材88aは、その線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すために線材17が接触する外周面が研磨された断面円形の丸ピンが採用される。即ち、図5に示すように、一対の側壁81,82が接近状態で、その上下の制限部材88は線材17を図の上下から挟み、一対の側壁81,82の存在によりスピンドル21の軸方向の移動が禁止された線材17の、スピンドル21の中心軸に直交しかつ線材17の挿通方向に直交する方向の線材17の移動を制限するように構成される。なお、この制限部材88は、他方の側壁82に設けても良く、一対の側壁の双方に制限部材88をそれぞれ設けても良い。
【0029】
次に、このような巻線用線材供給機を用いた連続コイルの製造方法について説明する。
【0030】
巻線が行われる被巻線部材であるボビン13はコア片11にアウトサート成形を行うことにより形成されたものであり、コア片11は、プレス抜きされたコア積層板を積層固定することにより構成される。この実施に形態では、コア片11にアウトサート成形された2個のボビン13を準備し、この2個のボビン13の間に補助具21cを介装して所定の間隔を保持させ、この状態で両側を挟持することによりスピンドル21に装着する。そして、本発明における巻線用線材供給機20を用いて線材17をボビン13に巻回する巻線を行い、以下の手順により連続コイルを得る。
【0031】
<チューブ嵌入工程>
先ず、巻線前の線材17に保護チューブ19を予め嵌入させる。図7に示すように、このチューブ19の嵌入は、チューブ挿入機71により行われる。そのチューブ保持具72には供給機から供給されて所定の長さに切断されたチューブ19がX軸方向に延びて予め保持され、図示しないコントローラはチャック装置62により線材17を把持し、その状態で移動台22を移動させ、一対の側壁81,82の間を通過してX軸方向に突出する線材17の先端をチューブ保持具72の漏斗状に形成された端部に挿入する。これにより線材17の端部は案内されてチューブ19に挿入される。その後、一対の側壁81,82を開いて離間状態とするとともに(図6)、チューブ保持具72をY軸方向に分断してそのチューブ19の保持を解除する(図示せず)。そして、X軸方向挿入アクチュエータ74により移動具73をX軸方向に移動させ、線材17が挿入されたチューブ19をその挿入状態を維持しつつ一対の側壁81,82間を通過させる。このようにして、チューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間にまで移動させ、巻線前の線材17に保護チューブ19を予め嵌入させる。チューブ19を嵌入させた後には、X軸方向挿入アクチュエータ74により移動具73を逆方向に移動させてその移動具73を元の位置に戻し、一対の側壁81,82の間からその移動具73を離脱させる。そして、図4に示すように、一対の側壁81,82を閉じて再び接近状態とし、その線材17に嵌入された保護チューブ19が一対の側壁81,82の間を通過して線材17から抜け出すようなことを防止する。
【0032】
<第1巻線工程>
次に、一対の側壁81,82の接近状態を維持してその線材17に嵌入された保護チューブ19が一対の側壁81,82の間を通過することを禁止しつつ、その一対の側壁81,82の間に挿通された線材17を繰出して、スピンドル21に取付けられた複数のボビン13の内の1つに巻線を行う。即ち、線材17に嵌入された保護チューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間に維持しつつ巻線を行う。この巻線を始めるに当たり、図4に示すように、図示しないコントローラはチャック装置62により線材17を把持しつつ移動台22を移動させ、巻線を行う一方のボビン13の近傍における端部保持具21fに線材17の端部を挿入する。その後、チャック装置62により線材17の把持を解除し、その線材17をその端部保持具21fで折り曲げるように移動台22を移動させ、線材17の先端をその端部保持具21fに係止させる。
【0033】
その後、スピンドル21を回転させ、一対の側壁81,82の間から線材17を回転する一方のボビン13に供給し、巻線を行う。一対の側壁81,82の間に挿通された線材17は、その一対の側壁81,82により移動台22に対するY軸方向の自由な移動は制限されるので、図示しないコントローラは移動台22をスピンドル21の中心軸に平行に所定の速度で移動させることにより、その線材17の供給位置となる一対の側壁81,82をスピンドル21の中心軸に平行に移動させることができる。このように線材17の供給位置となる一対の側壁81,82を移動台22とともに所定の速度で移動させることにより、ボビン13にその線材17を整列に巻回することが可能になる。
【0034】
また、巻線が行われるボビン13の断面形状は方形であるため、巻線時に、巻線が行われているボビン13において線材17はZ軸方向に上下動することになる。一方、この実施の形態では、スピンドル21の中心軸に直交しかつ接近状態で線材17の挿通方向に直交する方向、即ち、図5の上下方向の線材17の移動を制限する制限部材88を一方の側壁81のスピンドル21側の出口近傍に設けたので、一対の側壁81,82の間から線材17が離脱することを防止できる。そして、一対の側壁81,82の間から繰出されてボビン13においてZ軸方向に上下動する線材17は、図8に示すように、その上下の制限部材88a,88bのいずれか一方に接触させて屈折させることにより、その接触する部分を線材17の揺動中心とすることができる。これにより、ボビン13に巻線される線材17の揺動中心はボビン13に近づき、揺動する線材17の長さを短くすることができる。この結果、その線材17の揺動に起因する振れ幅は減少し、制限部材88が設けられた一対の側壁81,82を所定の速度で移動させることにより、ボビン13にその線材17を確実に整列させて巻回させることができる。
【0035】
ボビン13に線材17を巻回させると、図8に示すように、線材17はリール18から癖取り装置41を介して連続的に供給され、その一方のボビン13に所定の回数線材17が巻回された段階でスピンドル21の回転を停止し、これにより図3における第1コイル16aが得られる。
【0036】
<チューブ被覆工程>
次に、第1コイル16aから引き出された線材17をチューブ19により被覆する。この被覆は線材17に予め嵌入されていたチューブ19を手動又は繰出し装置63により引き出すことにより行われる。図示しないコントローラは、チューブ19を引き出す以前に、図9に示すように、第1コイル16aから引き出された線材17が上下の制限部材88の間を通過して通過板61まで真直ぐになるように移動台22を移動させる。そして、一対の側壁81,82を開いて離間状態とし、図3に示すように一対の側壁81,82の間にチューブ19を通過させ、ボビン13から引き出された線材17をそのチューブ19により被覆する。繰出し装置63によるチューブ19の繰出しは、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを突出させてその先端部をチューブ19の端部に当接させ、その状態のZ軸方向出没アクチュエータ64をX軸方向移動アクチュエータ66によりX軸方向に移動させることにより行われる。
【0037】
なお、チューブ19を引き出した後には、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを没入させるとともにそのZ軸方向出没アクチュエータ64をX軸方向移動アクチュエータ66により逆方向に移動させて復元させる。そして、離間状態であった一対の側壁81,82を移動させて図2に示すように再び接近状態に戻す。
【0038】
<第2巻線工程>
次に、スピンドル21に取付けられた複数のボビン13の内の別のボビン13に巻線を行う。この巻線を始めるに当たり、図示しないコントローラは移動台22ととも一対の側壁81,82を移動させ、図2に示すように、補助具21cにおける係止突起21eにチューブ19で被覆された線材17を係止させる。この移動台22の移動により、一対の側壁81,82の間に挿通された線材17が癖取り装置41側に移動するようなことも考えられるが、その癖取り装置41における可動プーリ46はコイルスプリング47により移動台22より遠ざかる方向に付勢されているので、移動台22が移動する際に線材17が弛むようなことは回避される。
【0039】
その後、スピンドル21を再び回転させ、接近状態にある一対の側壁81,82の間から線材17を回転する他方のボビン13に供給し、図1に示すように巻線を行う。このとき、コントローラはボビン13に線材17が整列に巻かれるように一対の側壁81,82とともに移動台22をスピンドル21の中心軸に平行に所定の速度で移動させる。図1には、その他方のボビン13に線材17を巻回させる方向が一方のボビン13の巻回方向と同一の場合を示す。そして、その他方のボビン13に所定の回数線材17が巻回された段階でスピンドル21の回転を停止し、これにより第2コイル16bが得られる。
【0040】
なお、前述したように、上下の制限部材88a,88bのいずれかにその線材17を接触させることにより、その接触する部分を巻線時における線材17の揺動中心として、その線材17の揺動に起因する振れ幅を減少させることができる。よって、図8に示すように、一方のボビン13に線材17を巻回させる際に上下の制限部材88a,88bのいずれか一方にその線材17を接触させた場合、その他方のボビン13に線材17を巻回させる際に上下の制限部材88a,88bのいずれか他方にその線材17を接触させて屈折させることも可能となる。してみると、制限部材88として上下の制限部材88a,88bを設けたこの実施の形態では、他方のボビン13に線材17を巻回させる方向を一方のボビン13の巻回方向と逆方向にすることも可能となり、整列巻きを維持しつつボビン13毎に線材17の巻回方向を異ならせることができる。
【0041】
この実施の形態では、2つのコイル16が連続する場合を示し、第2コイル16から引き出された線材17をカッタ90(図1)等を用いて所定の長さに切断し、その後スピンドル21から取り外すことにより図10に示す2つのコイル16,16がチューブ19により保護された線材17から成る渡り線を介して連続する連続コイルを得る。即ち、チューブ嵌入工程において予めチューブ19を線材17に嵌入し、ボビン13の巻線工程とチューブ被覆工程を交互に繰り返す本発明の製造方法により、所望の数のコイル16がチューブ19により保護された渡り線を介して連なる図10に示すような連続コイルを得ることができる。
【0042】
この連続コイルは、図12に示すように、後に、渡り線で連結された状態で円環状に並べられ、それらを相互に連結固定することになるけれども、各コイル16間の保護チューブ19で保護された線材17からなる渡り線を引き回す作業中にその渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコア片11と接触しても、チューブ19で保護されているのでその線材17の表面が損傷するようなことはない。よって、本発明の巻線用線材供給機20及びそれを用いた連続コイルの製造方法により得られた連続コイルでは、その後の渡り線を引き回す作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率を向上させることができ、ステータ10を低コスト化するとともに、チューブ19で保護することにより渡り線を構成する線材17の表面が損傷することもないので、得られたステータ10の信頼性を十分に高めることができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態では、被巻線部材として、コア片11を樹脂成形型に入れて絶縁性樹脂を注入するアウトサート成形により形成されたインシュレータ12におけるボビン13を用いて説明したが、この被巻線部材は、アウトサート成形により形成されたボビンに限られない。例えば、コア片11と別に樹脂成型品からなる分割形のボビンを準備し、コア片11のティース11aをステータ10の中心軸線方向の両側からその分割形のボビンにより覆うようなものであっても良く、ティース11aに絶縁紙を巻回させたコア片11自体を被巻線部材としても良い。
【0044】
また、上述した実施の形態では、2個のボビン13を準備し、この2個のボビン13に巻線を行い、2個のコイルが連なる連続コイルが製造される例を示したが、連続コイルは3個又は4個又は5個以上のコイルが連なるものであっても良い。この場合、コイルの数に対応する数の被巻線部材13を準備し、この複数の被巻線部材13の間に補助具21cをそれぞれ介装して所定の間隔を保持させ、この状態で両側を挟持することによりスピンドル21に装着する。そして、チューブ嵌入工程において被巻線部材13の個数より1つ少ない数のチューブ19を線材17に直列的に嵌入し、被巻線部材13の巻線工程とチューブ被覆工程を繰り返し行うことにより、所望の数のコイル16が連なる連続コイルを得ることができる。
【0045】
この場合には、チューブ嵌入工程において2本以上のチューブ19を予め線材17に嵌入させることになるけれども、図4に示すように巻線工程においてチューブ19は必ず一対の側壁81,82に当接することになる。従って、チューブ被覆工程において、チューブ19を繰出し装置63により引き出す場合には、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを突出させたときにその先端部が直列的に嵌入されたチューブ19とチューブ19の境に入り込むようにすることにより、被巻線部材側のチューブ19のみを移動させることができる。このため、コイル16から引き出された線材17をチューブ19により被覆した段階で、その他のチューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間に残存させることができる。その残存するチューブは、次に別のコイル16を形成する巻線工程において、一対の側壁81,82に当接するので、その残存するチューブ19を次に形成されたコイル16から引き出された線材17を被覆するチューブ19とすることができる。即ち、本発明では、予め線材17に嵌入された2本以上のチューブ19をコイル16毎に移動させることにより、3個又は4個又は5個以上のコイルが連なる連続コイルであっても、コイル毎に引き出された線材17をそれぞれチューブ19により被覆することが可能となる。
【0046】
また、上述した実施の形態では、制限部材88が下制限部材88bと上制限部材88aを備える場合を説明したが、巻線時に線材17を屈折させて線材17の揺動する部分の長さを短くする必要が無い場合には、この制限部材88を設けることを必要としない。また、この制限部材88を設ける場合であっても、複数の被巻線部材13の全ての巻線方向が同一であるような場合には、その線材17を屈折させる方向も同一とし得るので、下制限部材88b又は上制限部材88aのいずれか一方を制限部材88としても良い。
【0047】
更に、上述した実施の形態では、上下の制限部材88a,88bとして線材17が接触する外周面が研磨された断面円形の丸ピンを例示したが、線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すことができる限り、この制限部材88a,88bは線材17を周囲に掛け回した状態で回転可能に一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方に設けられたプーリであっても良い。
【符号の説明】
【0048】
13 ボビン(被巻線部材)
17 線材
16a 第1コイル
16b 第2コイル
19 保護チューブ
21 スピンドル
22 移動台
81 一方の側壁
82 他方の側壁
88 制限部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルに装着されて回転するボビンのような被巻線部材に巻線のための線材を供給する巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法に関する。更に詳しくは、線材保護のためのチューブをコイル間の線材に嵌入させ得る巻線用線材供給機及びそれを用いた連続コイルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータは、放射状に並んで内径方向に突出する複数のティース(磁極)及びその間に開口する複数のスロットを有する円筒状のステータコアを備える。そして、各ティースには線材を巻回する巻線が行われ、その巻回された線材からなるステータコイルが各スロットに納められる。このようなステータの製造方法として、ステータコアをティース毎に円周方向に分割して複数のコア片とし、そのコア片におけるティースに絶縁用のボビンを装着し、その被巻線部材であるボビンに巻線をしてコイルとし、そのようなコイルがそれぞれ設けられた複数のコア片をその後に組み立てる方法が知られている。
【0003】
このように、ステータコアを複数のコア片に分割することにより、巻線機のノズルの移動に必要な軌道を確保してコイルを巻線できるため、コイルの整列性が良くなり、高いコイル占積率を得ることができるとされている。また、磁気的な無効部分であるコイルエンドが小さくなり、回転電機の軸長を短縮し、かつ銅損を小さくすることができるともされている。このような理由から、回転電機の小型化と高効率化が実現できるため、近年では搭載空間や重量に制限のある自動車用の回転電機などに採用が進んでいる。
【0004】
そして、このようなステータを小型化、低コスト化するため、直列の同相コイルを連続して巻線し、コイル端末の接続点数を極力減らす試みがなされており、その場合の直列に連続して巻線された各コイル間の渡り線処理のため、ボビンの外周にガイドを一体的に設け、そのガイドにコイル間の渡り線を引き回す構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−18331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、直列に連続して巻線された各コイル間の渡り線を引き回す作業は手作業で行わなければならず、その渡り線はコイル間で外部に表出するためその引き回し作業中に渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコアと接触するようなことがあればその表面が損傷してその信頼性が低下するおそれがあった。このため、その作業には細心の注意が必要となり、その引き回し作業の効率を上げるには限界が生じていた。よって、その渡り線を巻線の段階で予め保護できれば、その引き回し作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率が向上し、ステータを低コスト化し得るとともに、その信頼性を著しく高めることが期待できる。
【0007】
本発明の目的は、コイルとコイルの間の線材に保護のためのチューブを嵌入させ得る巻線用線材供給機を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、コイル間の線材である渡り線をチューブにより保護しつつコイルを連続して巻線し得る連続コイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の巻線用線材供給機は、被巻線部材に供給する線材が間に挿通された一対の側壁を備え、一対の側壁のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、一対の側壁は相対移動して線材に嵌入された保護チューブの通過を禁止する接近状態とチューブの通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成されたことを特徴とする。
【0010】
ここで、接近状態で線材の挿通方向に直交する方向の線材の移動を制限する制限部材を一対の側壁のいずれか一方又は双方に設けることが好ましい。
【0011】
本発明の連続コイルの製造方法は、線材に保護チューブを嵌入するチューブ嵌入工程と、チューブの通過を禁止する接近状態にある一対の側壁の間に線材を挿通させて回転する被巻線部材に供給し被巻線部材に線材を巻回させて第1コイルを得る第1巻線工程と、一対の側壁を開いて離間状態とした一対の側壁の間にチューブを通過させ被巻線部材から引き出された線材をそのチューブにより被覆するチューブ被覆工程と、一対の側壁を再び接近状態として一対の側壁の間に挿通された線材を回転する別の被巻線部材に供給し別の被巻線部材に線材を巻回させて第2コイルを得る第2巻線工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法では、保護チューブの通過を禁止する接近状態とチューブの通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成された一対の側壁を備えるので、予め線材に保護チューブを嵌入して一対の側壁を接近状態とし、チューブを繰出すことなく線材のみを繰出して第1コイルを巻線した後にその一対の側壁を離間状態としてチューブを引き出し、その後第2コイルを巻線することにより、コイルとコイルの間の線材に保護のためのチューブを嵌入させた連続コイルを得ることが可能となる。
【0013】
このような連続コイルでは、各コイル間の保護チューブで保護された線材からなる渡り線を引き回す作業中にその渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコアと接触しても、その線材の表面が損傷するようなことはない。よって、このような巻線用線材供給機及び連続コイルの製造方法により連続コイルを得ることにより、その引き回し作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率を向上させることができ、ステータを低コスト化するとともに、得られたステータの信頼性を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明実施形態の線材供給機を用いて連続コイルを製造した状態を示す上面図である。
【図2】そのチューブで被覆された渡り線を係止突起に係止させる状態を示す図1に対応する上面図である。
【図3】その第1コイルの巻き終わりにチューブを引き出した状態を示す図1に対応する上面図である。
【図4】その連続コイルの巻き始めの状態を示す図1に対応する上面図である。
【図5】その線材供給機の接近状態を示す正面図である。
【図6】その線材供給機の離間状態を示す図5に対応する正面図である。
【図7】その線材にチューブを嵌入させる線材供給機の側面図である。
【図8】その線材を繰出して巻線している状態を示す図7に対応する側面図である。
【図9】その線材に嵌入されたチューブを引き出している状態を示す図7に対応する側面図である。
【図10】その供給機を用いて得られた連続コイルを示す平面図である。
【図11】そのステータのコイル片を示す斜視図である。
【図12】そのステータの中心軸に直交する平面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図12に、本発明により得られる連続コイルを用いた分割コア式ステータ10の断面を示す。このステータ10は、ティース11a毎に円周方向に分割された複数のコア片11から成るステータコアと、そのコア片11におけるティース11aに被巻線部材である絶縁用のボビン13を装着し、そのボビン13に巻線が成されたコイル16とを備える。具体的に、このコア片11は、円弧状部分11bと、この円弧状部分11bの内周面から当該内周面の円弧中心に向けて突出しているティース11aとを備えた磁性材料からなり、この実施の形態におけるコア片11は、一定厚さの円弧状部分11b及びティース11aを備えた形状のコア積層板を、所定の厚さとなるように積層して固定することにより構成された積層型のものを示す。
【0017】
図11に示すように、被巻線部材であるボビン13はインシュレータ12の一部として形成され、このインシュレータ12はコア片11を覆う絶縁性樹脂からなる。このインシュレータ12の一部を構成するボビン13は、ティース11aが挿入される筒状胴部13aと、この筒状胴部13aにおける円弧状部分11b側の端部に一体形成された外周側フランジ13bと、筒状胴部13aにおけるステータ10内周側の端部に一体形成された内周側フランジ13cとを備える。外周側及び内周側フランジ13b,13cは、筒状胴部13aの中心軸線に対して直交する方向に沿って外側に延びた矩形枠であり、外周側フランジ13bが内周側フランジ13cに比べて広幅とされる。
【0018】
ボビン13の外周側フランジ13bには、コア片11の円弧状部分11bにおけるステータ10の中心軸線方向の両側の端面を覆う一対の円弧状板部材14,14が一体的に形成される。円弧状板部材14,14におけるコア片11の連結方向(ステータ10の円周方向)の両端面はコア片11における円弧状部分11bの両端面と面一とされ、コア片11を円環状に連結した図12に示す状態において、隣接するコア片11の端面にそれぞれ接合する接合面になるように構成される。このボビン13と一対の円弧状板部材14,14を有するこの実施の形態におけるインシュレータ12は、コア片11を樹脂成形型に入れて絶縁性樹脂を注入するアウトサート成形により形成されたものであり、このインシュレータ12におけるボビン13に線材17(図1)が巻回されてコイル16(図12)が形成される。そして、本発明の巻線用線材供給機20(図1〜図9)は、このようなボビン13に巻線のための線材17を供給するのに適したものであり、この実施の形態における線材17は、表面に絶縁皮膜が形成された断面円形の丸線である場合を示す。
【0019】
図1〜図4に示すように、本発明の巻線用線材供給機20は、被巻線部材であるボビン13を装着して回転するスピンドル21に対して3軸方向に移動する移動台22を備える。スピンドル21には、複数のボビン13がその軸方向に所定の間隔を空けて設けられ、図では2個のボビン13,13が設けられる例を示す。このスピンドル21は、図示しないモータにより中心軸を回転中心として回転する断面円形の棒状部材である回転軸21aと、その回転軸21aの分断された中間の端部にそれぞれ設けられてボビン13,13を挟持する一対の挟持部材21b,21bと、複数のボビン13の間に設けられた補助具21cを備える。補助具21cはボビン13とボビン13の間の所定の間隔を保持するためのものであり、この実施の形態では2個のボビン13,13の間に介装され、この状態で両側のボビン13,13が一対の挟持部材21b,21bにより挟持される場合を示す。
【0020】
ボビン13はコア片11にアウトサート成形されたものであり(図11)、図示しないが、挟持部材21b,21b及び補助具21cにはコア片11における円弧状部分11bとティース11aの内端部分を収容可能な凹部がそれぞれ形成され、その凹部にそれらを収容することによりスピンドル21はコア片11とともにボビン13を装着可能に構成される。そして、ボビン13とボビン13の間に位置する補助具21cには、それらのボビン13に巻回されたコイル16とコイル16の間に掛け渡される線材17を係止する係止突起21eが形成され、一方のボビン13の近傍の挟持部材21bには線材17の端部が挿入されて係止される端部保持具21fが設けられる。
【0021】
図7〜図9に示すように、移動台22はボビン13を装着して回転するスピンドル21に対して3軸方向に移動するものである。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の線材供給機20について説明する。すると、スピンドル21はY軸方向に延びて設けられ、移動台22は移動装置31を介して基台20aに取付けられる。この移動装置31は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成される。これらの伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールネジ32b〜34bと、このボールネジ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c〜34c等によって構成される。
【0022】
この実施の形態では、移動台22をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32の従動子32cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32をZ軸方向に移動可能にZ方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cに取付け、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ34をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33が基台20aに取付けられる。それらの各伸縮アクチュエータ32〜34におけるサーボモータ32a〜34aは、この移動装置31及びスピンドル21の回転を制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、この移動装置31は、図示しないコントローラからの指令に基づいて移動台22をスピンドル21に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0023】
線材17はリール18に巻回され、このリール18が線材17の供給源となる。このリール18は線材供給機20と別な場所の例えば基台20aの上等に置かれ、その基台20aには、供給源であるリール18から繰出された線材17を真直ぐに伸ばす癖取り装置41が設けられる。この癖取り装置41はリール18から繰出された線材17を八の字状に繰り回す一対の繰り回しプーリ42,43と、その一対の繰り回しプーリ42,43を通過した線材17をS字状に旋回させる固定プーリ44と可動プーリ46とを備える。固定プーリ44と可動プーリ46を旋回した線材17が移動台22方向に向かうように構成され、可動プーリ46はコイルスプリング47により移動台22より遠ざかる方向に付勢される。コイルスプリング47は、その可動プーリ46を付勢することにより移動台22が移動する際に線材17が弛むようなことを防止するように構成される。
【0024】
移動台22には通過板61が設けられ、通過板61には癖取り装置41を介してリール18から供給された線材17が通過する孔が形成される。この図示しない孔を介して通過板61を通過した線材17が後述する一対の側壁の間に挿通するように構成される。また、この通過板61を通過した線材17を把持可能なチャック装置62がその通過板61に設けられる。そして、通過板61には、この通過板61を通過した線材17に嵌入されたチューブ19を繰出し可能な繰出し装置63が設けられる。この繰出し装置63は、線材17を跨いてチューブ19の端部に当接する出没軸64aをZ軸方向に出没させるZ軸方向出没アクチュエータ64と、その出没アクチュエータ64をX軸方向に移動させるX軸方向移動アクチュエータ66とを有する。
【0025】
また移動装置31と別に基台20aにはチューブ挿入機71が設けられる。この実施の形態における挿入機71は、チューブ19を保持可能に構成されたチューブ保持具72と、チューブ19を所定の長さに切断してチューブ保持具72に供給する図示しないチューブ供給機と、チューブ保持具72に保持されたチューブ19を移動させる移動具73と、その移動具73をX軸方向に移動させるX軸方向挿入アクチュエータ74とを備える。チューブ保持具72は図示しない供給機から所定の長さに切断されて供給されたチューブ19をX軸方向に延びて保持し、線材17の端部をそのチューブ19に案内するようにその端部が漏斗状に形成される。そして、このチューブ保持具72は線材17がチューブ19に挿入された後にY軸方向に分断してそのチューブ19の保持を解除するように構成され、移動具73は分断されたチューブ保持具72の間に残存するチューブ19に係止するように構成される。その状態で、X軸方向挿入アクチュエータ74によりその移動具73をX軸方向に移動させると、後述する一対の側壁81,82と通過板61の間にまでそのチューブ19を移動可能に構成される。なお、このチューブ挿入機71は一例であって、線材17にチューブ19を嵌入できる限り、他の形式のものであっても良い。
【0026】
図1に示すように、移動台22にはスピンドル21の中心軸と平行に移動可能な一対の側壁81,82が設けられる。一対の側壁81,82の間には通過板61を通過した線材17が挿通される。この実施の形態では一対の側壁81,82の双方が移動可能である場合を示すけれども、一対の側壁81,82のいずれか一方のみを移動可能に移動台22に設けても良い。図5に示すように、この例ではエア圧により移動可能な一対の移動子83a,83bを有するエアシリンダ83の、その一対の移動子83a,83bに一対の側壁81,82が取付けられ、これにより一対の側壁81,82の双方が移動可能な場合を示す。そして、一対の側壁81,82は相対移動して線材17に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する図1及び図5に示す接近状態と、チューブ19の通過を許容する図3及び図6に示す離間状態の双方を形成可能に構成される。なお、図における符号83c,83dは、一対の側壁81,82を離間状態にする一対の移動子83a,83bの必要以上の移動を禁止するストッパ部材を示し、離間状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔はチューブ19の通過を許容する必要があるので、その所定の間隔がチューブ19の外径より広くなるようにストッパ部材83c,83dが取付けられる。
【0027】
また、一方の側壁81には雌ねじ84がスピンドル21の中心軸と平行に形成され、ナット86が螺合された雄ねじ87がその雌ねじ84に螺着され、その雄ねじ87の先端が他方の側壁82に当接して、接近状態にある一対の側壁81,82の間の線材17が挿通された所定の間隔を維持するように構成される。このため、ナット86を緩めて雌ねじ84に対して雄ねじ87を回転させると、一方の側壁81に対して雄ねじ87がスピンドル21の中心軸に平行に移動することになり、接近状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔を線材17の外径に従って変更可能に構成される。即ち、接近状態にある一対の側壁81,82は線材17の通過を許容するけれども、その線材に嵌入された保護チューブ19の通過を禁止する必要がある。従って、その雄ねじ87等により、接近状態にある一対の側壁81,82の間の所定の間隔を線材17の外径より広く、かつチューブ19の外径より狭くなるように変更調整可能に構成される。そして、ナット86は一方の側壁81に接触し、その接触抵抗により雄ねじ87の不要な回転を防止して、接近状態にある一対の側壁81,82の間の調整された所定の間隔が変化することを防止するものである。
【0028】
更に、図5及び図6に示すように、一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方には、一対の側壁81,82の間に挿通された線材17の挿通方向に直交する方向の移動を制限する制限部材88が設けられる。この実施の形態では一方の側壁81に制限部材88が設けられる場合を示し、その制限部材88は下制限部材88bと上制限部材88aを備える。図1〜図4に示すように一対の側壁81,82の線材17が挿通する対向面のスピンドル21側の出口における角部には、線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すための丸みを形成するアール加工が施され、下制限部材88bと上制限部材88aは、一方の側壁81のアール加工された出口近傍に設けられる。また、図7〜図9に示すように、その線材17の図の上下方向の移動を外周面に接触させて制限するこの実施の形態における下制限部材88bと上制限部材88aは、その線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すために線材17が接触する外周面が研磨された断面円形の丸ピンが採用される。即ち、図5に示すように、一対の側壁81,82が接近状態で、その上下の制限部材88は線材17を図の上下から挟み、一対の側壁81,82の存在によりスピンドル21の軸方向の移動が禁止された線材17の、スピンドル21の中心軸に直交しかつ線材17の挿通方向に直交する方向の線材17の移動を制限するように構成される。なお、この制限部材88は、他方の側壁82に設けても良く、一対の側壁の双方に制限部材88をそれぞれ設けても良い。
【0029】
次に、このような巻線用線材供給機を用いた連続コイルの製造方法について説明する。
【0030】
巻線が行われる被巻線部材であるボビン13はコア片11にアウトサート成形を行うことにより形成されたものであり、コア片11は、プレス抜きされたコア積層板を積層固定することにより構成される。この実施に形態では、コア片11にアウトサート成形された2個のボビン13を準備し、この2個のボビン13の間に補助具21cを介装して所定の間隔を保持させ、この状態で両側を挟持することによりスピンドル21に装着する。そして、本発明における巻線用線材供給機20を用いて線材17をボビン13に巻回する巻線を行い、以下の手順により連続コイルを得る。
【0031】
<チューブ嵌入工程>
先ず、巻線前の線材17に保護チューブ19を予め嵌入させる。図7に示すように、このチューブ19の嵌入は、チューブ挿入機71により行われる。そのチューブ保持具72には供給機から供給されて所定の長さに切断されたチューブ19がX軸方向に延びて予め保持され、図示しないコントローラはチャック装置62により線材17を把持し、その状態で移動台22を移動させ、一対の側壁81,82の間を通過してX軸方向に突出する線材17の先端をチューブ保持具72の漏斗状に形成された端部に挿入する。これにより線材17の端部は案内されてチューブ19に挿入される。その後、一対の側壁81,82を開いて離間状態とするとともに(図6)、チューブ保持具72をY軸方向に分断してそのチューブ19の保持を解除する(図示せず)。そして、X軸方向挿入アクチュエータ74により移動具73をX軸方向に移動させ、線材17が挿入されたチューブ19をその挿入状態を維持しつつ一対の側壁81,82間を通過させる。このようにして、チューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間にまで移動させ、巻線前の線材17に保護チューブ19を予め嵌入させる。チューブ19を嵌入させた後には、X軸方向挿入アクチュエータ74により移動具73を逆方向に移動させてその移動具73を元の位置に戻し、一対の側壁81,82の間からその移動具73を離脱させる。そして、図4に示すように、一対の側壁81,82を閉じて再び接近状態とし、その線材17に嵌入された保護チューブ19が一対の側壁81,82の間を通過して線材17から抜け出すようなことを防止する。
【0032】
<第1巻線工程>
次に、一対の側壁81,82の接近状態を維持してその線材17に嵌入された保護チューブ19が一対の側壁81,82の間を通過することを禁止しつつ、その一対の側壁81,82の間に挿通された線材17を繰出して、スピンドル21に取付けられた複数のボビン13の内の1つに巻線を行う。即ち、線材17に嵌入された保護チューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間に維持しつつ巻線を行う。この巻線を始めるに当たり、図4に示すように、図示しないコントローラはチャック装置62により線材17を把持しつつ移動台22を移動させ、巻線を行う一方のボビン13の近傍における端部保持具21fに線材17の端部を挿入する。その後、チャック装置62により線材17の把持を解除し、その線材17をその端部保持具21fで折り曲げるように移動台22を移動させ、線材17の先端をその端部保持具21fに係止させる。
【0033】
その後、スピンドル21を回転させ、一対の側壁81,82の間から線材17を回転する一方のボビン13に供給し、巻線を行う。一対の側壁81,82の間に挿通された線材17は、その一対の側壁81,82により移動台22に対するY軸方向の自由な移動は制限されるので、図示しないコントローラは移動台22をスピンドル21の中心軸に平行に所定の速度で移動させることにより、その線材17の供給位置となる一対の側壁81,82をスピンドル21の中心軸に平行に移動させることができる。このように線材17の供給位置となる一対の側壁81,82を移動台22とともに所定の速度で移動させることにより、ボビン13にその線材17を整列に巻回することが可能になる。
【0034】
また、巻線が行われるボビン13の断面形状は方形であるため、巻線時に、巻線が行われているボビン13において線材17はZ軸方向に上下動することになる。一方、この実施の形態では、スピンドル21の中心軸に直交しかつ接近状態で線材17の挿通方向に直交する方向、即ち、図5の上下方向の線材17の移動を制限する制限部材88を一方の側壁81のスピンドル21側の出口近傍に設けたので、一対の側壁81,82の間から線材17が離脱することを防止できる。そして、一対の側壁81,82の間から繰出されてボビン13においてZ軸方向に上下動する線材17は、図8に示すように、その上下の制限部材88a,88bのいずれか一方に接触させて屈折させることにより、その接触する部分を線材17の揺動中心とすることができる。これにより、ボビン13に巻線される線材17の揺動中心はボビン13に近づき、揺動する線材17の長さを短くすることができる。この結果、その線材17の揺動に起因する振れ幅は減少し、制限部材88が設けられた一対の側壁81,82を所定の速度で移動させることにより、ボビン13にその線材17を確実に整列させて巻回させることができる。
【0035】
ボビン13に線材17を巻回させると、図8に示すように、線材17はリール18から癖取り装置41を介して連続的に供給され、その一方のボビン13に所定の回数線材17が巻回された段階でスピンドル21の回転を停止し、これにより図3における第1コイル16aが得られる。
【0036】
<チューブ被覆工程>
次に、第1コイル16aから引き出された線材17をチューブ19により被覆する。この被覆は線材17に予め嵌入されていたチューブ19を手動又は繰出し装置63により引き出すことにより行われる。図示しないコントローラは、チューブ19を引き出す以前に、図9に示すように、第1コイル16aから引き出された線材17が上下の制限部材88の間を通過して通過板61まで真直ぐになるように移動台22を移動させる。そして、一対の側壁81,82を開いて離間状態とし、図3に示すように一対の側壁81,82の間にチューブ19を通過させ、ボビン13から引き出された線材17をそのチューブ19により被覆する。繰出し装置63によるチューブ19の繰出しは、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを突出させてその先端部をチューブ19の端部に当接させ、その状態のZ軸方向出没アクチュエータ64をX軸方向移動アクチュエータ66によりX軸方向に移動させることにより行われる。
【0037】
なお、チューブ19を引き出した後には、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを没入させるとともにそのZ軸方向出没アクチュエータ64をX軸方向移動アクチュエータ66により逆方向に移動させて復元させる。そして、離間状態であった一対の側壁81,82を移動させて図2に示すように再び接近状態に戻す。
【0038】
<第2巻線工程>
次に、スピンドル21に取付けられた複数のボビン13の内の別のボビン13に巻線を行う。この巻線を始めるに当たり、図示しないコントローラは移動台22ととも一対の側壁81,82を移動させ、図2に示すように、補助具21cにおける係止突起21eにチューブ19で被覆された線材17を係止させる。この移動台22の移動により、一対の側壁81,82の間に挿通された線材17が癖取り装置41側に移動するようなことも考えられるが、その癖取り装置41における可動プーリ46はコイルスプリング47により移動台22より遠ざかる方向に付勢されているので、移動台22が移動する際に線材17が弛むようなことは回避される。
【0039】
その後、スピンドル21を再び回転させ、接近状態にある一対の側壁81,82の間から線材17を回転する他方のボビン13に供給し、図1に示すように巻線を行う。このとき、コントローラはボビン13に線材17が整列に巻かれるように一対の側壁81,82とともに移動台22をスピンドル21の中心軸に平行に所定の速度で移動させる。図1には、その他方のボビン13に線材17を巻回させる方向が一方のボビン13の巻回方向と同一の場合を示す。そして、その他方のボビン13に所定の回数線材17が巻回された段階でスピンドル21の回転を停止し、これにより第2コイル16bが得られる。
【0040】
なお、前述したように、上下の制限部材88a,88bのいずれかにその線材17を接触させることにより、その接触する部分を巻線時における線材17の揺動中心として、その線材17の揺動に起因する振れ幅を減少させることができる。よって、図8に示すように、一方のボビン13に線材17を巻回させる際に上下の制限部材88a,88bのいずれか一方にその線材17を接触させた場合、その他方のボビン13に線材17を巻回させる際に上下の制限部材88a,88bのいずれか他方にその線材17を接触させて屈折させることも可能となる。してみると、制限部材88として上下の制限部材88a,88bを設けたこの実施の形態では、他方のボビン13に線材17を巻回させる方向を一方のボビン13の巻回方向と逆方向にすることも可能となり、整列巻きを維持しつつボビン13毎に線材17の巻回方向を異ならせることができる。
【0041】
この実施の形態では、2つのコイル16が連続する場合を示し、第2コイル16から引き出された線材17をカッタ90(図1)等を用いて所定の長さに切断し、その後スピンドル21から取り外すことにより図10に示す2つのコイル16,16がチューブ19により保護された線材17から成る渡り線を介して連続する連続コイルを得る。即ち、チューブ嵌入工程において予めチューブ19を線材17に嵌入し、ボビン13の巻線工程とチューブ被覆工程を交互に繰り返す本発明の製造方法により、所望の数のコイル16がチューブ19により保護された渡り線を介して連なる図10に示すような連続コイルを得ることができる。
【0042】
この連続コイルは、図12に示すように、後に、渡り線で連結された状態で円環状に並べられ、それらを相互に連結固定することになるけれども、各コイル16間の保護チューブ19で保護された線材17からなる渡り線を引き回す作業中にその渡り線が他の部材、例えば隣接する金属製のコア片11と接触しても、チューブ19で保護されているのでその線材17の表面が損傷するようなことはない。よって、本発明の巻線用線材供給機20及びそれを用いた連続コイルの製造方法により得られた連続コイルでは、その後の渡り線を引き回す作業に払う注意力が減少してその引き回し作業の効率を向上させることができ、ステータ10を低コスト化するとともに、チューブ19で保護することにより渡り線を構成する線材17の表面が損傷することもないので、得られたステータ10の信頼性を十分に高めることができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態では、被巻線部材として、コア片11を樹脂成形型に入れて絶縁性樹脂を注入するアウトサート成形により形成されたインシュレータ12におけるボビン13を用いて説明したが、この被巻線部材は、アウトサート成形により形成されたボビンに限られない。例えば、コア片11と別に樹脂成型品からなる分割形のボビンを準備し、コア片11のティース11aをステータ10の中心軸線方向の両側からその分割形のボビンにより覆うようなものであっても良く、ティース11aに絶縁紙を巻回させたコア片11自体を被巻線部材としても良い。
【0044】
また、上述した実施の形態では、2個のボビン13を準備し、この2個のボビン13に巻線を行い、2個のコイルが連なる連続コイルが製造される例を示したが、連続コイルは3個又は4個又は5個以上のコイルが連なるものであっても良い。この場合、コイルの数に対応する数の被巻線部材13を準備し、この複数の被巻線部材13の間に補助具21cをそれぞれ介装して所定の間隔を保持させ、この状態で両側を挟持することによりスピンドル21に装着する。そして、チューブ嵌入工程において被巻線部材13の個数より1つ少ない数のチューブ19を線材17に直列的に嵌入し、被巻線部材13の巻線工程とチューブ被覆工程を繰り返し行うことにより、所望の数のコイル16が連なる連続コイルを得ることができる。
【0045】
この場合には、チューブ嵌入工程において2本以上のチューブ19を予め線材17に嵌入させることになるけれども、図4に示すように巻線工程においてチューブ19は必ず一対の側壁81,82に当接することになる。従って、チューブ被覆工程において、チューブ19を繰出し装置63により引き出す場合には、Z軸方向出没アクチュエータ64の出没軸64aを突出させたときにその先端部が直列的に嵌入されたチューブ19とチューブ19の境に入り込むようにすることにより、被巻線部材側のチューブ19のみを移動させることができる。このため、コイル16から引き出された線材17をチューブ19により被覆した段階で、その他のチューブ19を一対の側壁81,82と通過板61の間に残存させることができる。その残存するチューブは、次に別のコイル16を形成する巻線工程において、一対の側壁81,82に当接するので、その残存するチューブ19を次に形成されたコイル16から引き出された線材17を被覆するチューブ19とすることができる。即ち、本発明では、予め線材17に嵌入された2本以上のチューブ19をコイル16毎に移動させることにより、3個又は4個又は5個以上のコイルが連なる連続コイルであっても、コイル毎に引き出された線材17をそれぞれチューブ19により被覆することが可能となる。
【0046】
また、上述した実施の形態では、制限部材88が下制限部材88bと上制限部材88aを備える場合を説明したが、巻線時に線材17を屈折させて線材17の揺動する部分の長さを短くする必要が無い場合には、この制限部材88を設けることを必要としない。また、この制限部材88を設ける場合であっても、複数の被巻線部材13の全ての巻線方向が同一であるような場合には、その線材17を屈折させる方向も同一とし得るので、下制限部材88b又は上制限部材88aのいずれか一方を制限部材88としても良い。
【0047】
更に、上述した実施の形態では、上下の制限部材88a,88bとして線材17が接触する外周面が研磨された断面円形の丸ピンを例示したが、線材17にダメージを与えることなく滑らかに繰出すことができる限り、この制限部材88a,88bは線材17を周囲に掛け回した状態で回転可能に一対の側壁81,82のいずれか一方又は双方に設けられたプーリであっても良い。
【符号の説明】
【0048】
13 ボビン(被巻線部材)
17 線材
16a 第1コイル
16b 第2コイル
19 保護チューブ
21 スピンドル
22 移動台
81 一方の側壁
82 他方の側壁
88 制限部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被巻線部材(13)に供給する線材(17)が間に挿通された一対の側壁(81,82)を備え、
前記一対の側壁(81,82)のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、
前記一対の側壁(81,82)は相対移動して前記線材(17)に嵌入された保護チューブ(19)の通過を禁止する接近状態と前記チューブ(19)の通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成された
ことを特徴とする巻線用線材供給機。
【請求項2】
接近状態で線材(17)の挿通方向に直交する方向の前記線材(17)の移動を制限する制限部材(88)が一対の側壁(81,82)のいずれか一方又は双方に設けられた請求項1記載の巻線用線材供給機。
【請求項3】
線材(17)に保護チューブ(19)を嵌入するチューブ嵌入工程と、
前記チューブ(19)の通過を禁止する接近状態にある一対の側壁(81,82)の間に前記線材(17)を挿通させて回転する被巻線部材(13)に供給し前記被巻線部材(13)に前記線材(17)を巻回させて第1コイル(16a)を得る第1巻線工程と、
前記一対の側壁(81,82)を開いて離間状態とした前記一対の側壁(81,82)の間に前記チューブ(19)を通過させ前記被巻線部材(13)から引き出された線材(17)を前記チューブ(19)により被覆するチューブ被覆工程と、
前記一対の側壁(81,82)を再び接近状態として前記一対の側壁(81,82)の間に挿通された前記線材(17)を回転する別の被巻線部材(13)に供給し前記別の被巻線部材(13)に前記線材(17)を巻回させて第2コイル(16b)を得る第2巻線工程と
を含む連続コイルの製造方法。
【請求項1】
被巻線部材(13)に供給する線材(17)が間に挿通された一対の側壁(81,82)を備え、
前記一対の側壁(81,82)のいずれか一方又は双方が移動可能に設けられ、
前記一対の側壁(81,82)は相対移動して前記線材(17)に嵌入された保護チューブ(19)の通過を禁止する接近状態と前記チューブ(19)の通過を許容する離間状態の双方を形成可能に構成された
ことを特徴とする巻線用線材供給機。
【請求項2】
接近状態で線材(17)の挿通方向に直交する方向の前記線材(17)の移動を制限する制限部材(88)が一対の側壁(81,82)のいずれか一方又は双方に設けられた請求項1記載の巻線用線材供給機。
【請求項3】
線材(17)に保護チューブ(19)を嵌入するチューブ嵌入工程と、
前記チューブ(19)の通過を禁止する接近状態にある一対の側壁(81,82)の間に前記線材(17)を挿通させて回転する被巻線部材(13)に供給し前記被巻線部材(13)に前記線材(17)を巻回させて第1コイル(16a)を得る第1巻線工程と、
前記一対の側壁(81,82)を開いて離間状態とした前記一対の側壁(81,82)の間に前記チューブ(19)を通過させ前記被巻線部材(13)から引き出された線材(17)を前記チューブ(19)により被覆するチューブ被覆工程と、
前記一対の側壁(81,82)を再び接近状態として前記一対の側壁(81,82)の間に挿通された前記線材(17)を回転する別の被巻線部材(13)に供給し前記別の被巻線部材(13)に前記線材(17)を巻回させて第2コイル(16b)を得る第2巻線工程と
を含む連続コイルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−259212(P2010−259212A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106005(P2009−106005)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
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