説明

布帛および防振ゴム材

【課題】固着性にも摺動性にも優れた布帛を提供する。
【解決手段】一方の表面を有する層がフッ素系繊維を含んでなり、他方の表面を有する層がフッ素系繊維以外の繊維に予め樹脂が被覆してなるディップ糸を含んでなることを特徴とする布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振材の摺動部等に使用可能な布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動及び異音を防止するために各種用途において、ゴム弾性体や樹脂組成物にフィーラーを充填させた防振材などが使用され、防振、防音対策が図られている。
【0003】
例えば自動車には、車体のロール(車体の傾き)を抑えて走行安定性を向上させるために、スタビライザーが装備されている。自動車用のスタビライザーは、左右のサスペンションアームをコの字型をしたバネ鋼からなるバー(スタビライザーバー)で連結し、左右のサスペンションの沈み込みに差異が生じた時に、連結したバーにねじれが生じてバネ反力が発生、そのバネ反力が左右のサスペンションの動きを制御して車体の傾きを減少させる構造をしている。そして、タイヤが路面から受ける振動やスタビライザーのねじれから生じる摩擦を吸収し、異音等を抑制するため、前記スタビライザーバーが車体に固定される部分において、ゴム弾性体などからなるスタビライザーブッシュ(車両用防振ゴム材)が使用される。
【0004】
スタビライザーブッシュの軸受摺動面には、摺動性向上のためにフッ素系繊維等からなる布帛状のライナーを用いることが開示されている(特許文献1,2)。スタビライザーブッシュ用ライナーには、摺動性の他に、ゴム弾性体との接着性も要求される。
【0005】
例えば特許文献1には、ライナーに接着剤を塗布することにより、ゴム弾性体から剥離しないように強固に結合させることが開示されている。しかし接着剤をライナーに塗布すると、スタビライザーブッシュの軸受摺動面側にも接着剤が染み出してしまい、摺動性が阻害されるという問題があった。
【0006】
また例えば特許文献2には、ライナーに樹脂加工を施すことが開示されている。しかしこの手段によっても、強固な固着を得ようとして多量の樹脂を塗布するとスタビライザーブッシュの軸受摺動面側にも樹脂が染み出してしまい、近年の車内静音性等の要求に伴いさらに要求が高くなっている摺動性が阻害されるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−221284号公報
【特許文献2】特開2005−88828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固着性にも摺動性にも優れた布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、一方の表面を有する層がフッ素系繊維を含んでなり、他方の表面を有する層がフッ素系繊維以外の繊維に予め樹脂が被覆してなるディップ糸を含んでなることを特徴とする布帛である。
【0009】
また本発明は、本発明の布帛とゴム弾性体とを有し、当該ゴム弾性体に前記ディップ糸を含んでなる層の側の面が固着されてなることを特徴とする車両用防振ゴム材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固着性にも摺動性にも優れた布帛を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の布帛は、一方の表面を有する層がフッ素系繊維を含んでなることが重要であり、当該層が主としてフッ素系繊維からなることが好ましい。ここで「主としてなる」とは、例えばダブルラッセルにおける他層の繊維が本層に出てきたり、積層不織布において他層の繊維の一部がニードルパンチなどにより本層に出てきたりすることで他の繊維や糸が混ざることは許容されるという趣旨である。フッ素系繊維を含んでなる層の表面が摺動性を発揮する。また、低摩擦性能を付与するためフッ素系樹脂などのコーティング剤を塗布するのではなく、フッ素系繊維で構成することにより、樹脂コーティング剤の剥離または摩滅など、樹脂コーティング剤の消失による摩擦性能低化を生じることなく、長時間の使用にも耐えうる耐久性を得ることができる。
【0012】
本発明に使用されるフッ素系繊維は、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含む繰り返し構造単位を有する重合体からなり、フッ素原子数の多い繰り返し構造単位で構成されたものが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−4フッ化エチレン共重合体(ETFE)などを挙げることができ、中でも、表面低摩擦特性に優れるPTFE繊維を用いることがさらに好ましい。
【0013】
また、上記のような単重合体あるいは共重合体に対して、他の成分を繰り返し構造の個数の10%以下程度共重合してなるものでもよい。
【0014】
フッ素系繊維の形態としては、1本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメント、また、捲縮加工をして所定の長さにカットしてなるステープルのいずれも採用することができる。
【0015】
また本発明の布帛は、(先のフッ素系繊維を含んでなる層の表面に対して)他方の表面を有する層がフッ素系繊維以外の繊維に予め樹脂が被覆してなるディップ糸を含んでなることが重要であり、当該層が主として当該ディップ糸からなることが好ましい。当該ディップ糸を含んでなる層の表面が他の部材との固着性を発揮する。
【0016】
フッ素系繊維は非粘着性の特性を持つために他素材との固着がしにくく、ディップ糸にはフッ素系繊維以外の繊維を用いることが重要である。
【0017】
ディップ糸に使用されるフッ素系繊維以外の繊維としては例えば、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルや、アラミドや、ポリエチレンや、ポリプロピレンや、ポリフェニレンサルファイドなどの繊維を用いることができる。また、熱融着繊維や綿、ウールなどの天然繊維などを用いることもできる。中でも、ポリアミド繊維やポリエステル繊維が、熱安定性が良く、織り編みなどの高次加工性に優れ、汎用性やコストが安いなどの点で好ましい。
【0018】
また上記のような合成樹脂には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために各種添加剤を含ませてもよい。たとえば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有せしめることができる。
【0019】
フッ素系繊維以外の繊維の形態としては、1本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメント、また、捲縮加工をして所定の長さにカットしてなるステープル、紡績糸のいずれも採用することができる。
【0020】
本発明において「ディップ糸」とは、布帛にする前の状態で予め樹脂を被覆させた糸を言う。布帛にする前の状態で予め樹脂を被覆させることにより、固着対象への固着に必要十分な量の樹脂を、繊維断面の全周にわたり繊維の表面に均一に付与することができるので、強力な固着性を得つつも、摺動面側に樹脂が染み出して摺動性が阻害されるのを防ぐことができる。
【0021】
布帛に直接、接着剤や樹脂などを塗布する手法では、接着面以外の繊維部分にも接着剤あるいは樹脂が流れこむため、摺動性を阻害してしまう。
【0022】
ディップ糸における繊維を被覆する樹脂としては、ゴムとの固着性を有するものであることが好ましい。前述のように本発明の布帛は、防振ゴム材等を主な固着対象とするからである。
【0023】
ゴムとの固着性に優れた樹脂としては、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(以下、RFと略す。)とゴムラテックスとの混合物(以下、RFLと略す。)を用いることが好ましい。RFLは、ゴム弾性体の加硫成型の際に繊維表面とゴム弾性体とを強固に固着させることができる。
【0024】
RFLにおいて、RFは通常アルカリ触媒の存在下で反応させて得ることができる。レゾルシンとホルムアルデヒドとの固形分質量比(ホルムアルデヒドの質量/レゾルシンの質量)としては、1/3〜1/1が好ましい。
【0025】
RFL中のゴムラテックスの種類としては例えば、天然ゴムラテックス(NRラテックス)、クロロプレン系ゴムラテックス(CRラテックス)、ポリブタジエンラテックス(PBDラテックス)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合ゴムラテックス(VPラテックス)、クロロスルホン化ポリエチレン系ラテックス(CSMラテックス)、ブチルゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系共重合ゴムラテックス(SBRラテックス)などの合成ゴムラテックス、または、これらの混合ゴムラテックスが使用される。
【0026】
RFLにおけるRFの、ゴムラテックスに対する固形分質量比(RFの質量/ゴムラテックスの質量)としては、1/10〜1/2が好ましい。1/10以上とすることで、ゴムとの固着性向上の実効を得ることができる。一方1/2以下とすることで、ディップ糸の柔軟性が損なわれるのを防ぐことができる。
【0027】
またRFLには、クロロフェノール系化合物を併用することが好ましい。そうすることによって、特にポリエステル繊維とゴム弾性体との固着性を著しく向上させることができる。クロロフェノール系化合物としては、例えばトーマス・スワン社製の“カサボンド(R)E”、ナガセケムテックス社製の“デナボンド(R)”、“デナボンド(R)A”、“デナボンド(R)K”等を挙げることができる。
【0028】
フッ素系繊維以外の繊維にRFLおよび必要に応じクロロフェノール系化合物(以下、RFL+クロロフェノール系化合物と呼ぶ。)をディップ加工する際に、ポリエポキシド化合物を含有する接着処理助剤で前処理を行うことも、繊維との固着性を補強する上で好ましい。
【0029】
ポリエポキシド化合物とは1分子中に2個以上のエポキシ基を含有する化合物であり、具体的には、
グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類と、エピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシト゛類との反応生成物、
レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂およびレゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂などの多価フェノール類と、エピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、
ビス−(3,4−エポキシ−6−メチル−ジシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシドなどの不飽和結合部分を酸化して得られるポリエポキシド化合物、
ビスフェノールA型エポキシ化合物
およびビスフェノールA型ウレタン変性エポキシ化合物など
が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を混合して使用することができる。なかでも好ましいポリエポキシド化合物は、多価アルコールとエピクロルヒドリンの反応生成物である。
【0030】
また、上記の接着処理助剤は、接着剤成分の総固形分濃度が2〜10質量%、特に4〜7質量%の溶液として使用するのが好適である。
【0031】
糸に樹脂を被覆させてディップ糸とする方法としては、浸漬法、コーティング法、スプレー法等を適宜選択することができる。
【0032】
ディップ法における手順及び温度条件として、フッ素系繊維以外の繊維として例えばポリエステル繊維を用いる場合には、まず、ポリエポキシド化合物を含有する接着処理助剤の溶液にポリエステル繊維を浸漬し、70〜150℃程度の温度で乾燥することが好ましい。
【0033】
次いで、200〜255℃の熱処理を施すことが好ましい。乾燥後にさらに200℃以上の熱処理を施すことで、ゴムとの固着性を十分にすることができる。一方、255℃以下とすることで、接着処理助剤が劣化してゴムとの固着性が不十分になるのを防ぐことができる。
【0034】
引き続いて、前記の接着処理助剤を被覆したポリエステル繊維をRFL+クロロフェノール系化合物の溶液に浸漬する。
【0035】
ディップ用溶液におけるRFL+クロロフェノール系化合物の固形分濃度としては、5〜20質量%が好ましい。
【0036】
浸漬後、70〜150℃程度の温度で乾燥することが好ましく、乾燥温度としてより好ましくは80〜130℃である。ディップ加工直後の乾燥温度を70〜150℃とすることで、RFL+クロロフェノール系化合物の付着ムラを抑制することができる。
【0037】
次いで、150℃〜240℃の熱処理を施すことが好ましく、熱処理温度としてより好ましくは170〜220℃である。乾燥後にさらに150℃以上の熱処理を施すことで、ゴムとの固着性を十分にすることができる。一方、240℃以下とすることで、RFL+クロロフェノール系化合物が劣化してゴムとの固着性が不十分になるのを防ぐことができる。
【0038】
ディップ糸に対する樹脂の固形分濃度換算での付着率としては、接着処理助剤として0.5〜3.0質量%、RFL+クロロフェノール系化合物として1.0〜5.0質量%、総樹脂付着量として1.5〜8.0質量%である。1.5質量%以上とすることでゴムとの固着性に優れる。また8.0質量%以下とすることで、ディップ糸の柔軟性が損なわれるのを防ぎ、また繊維強力の低下を防ぐこともできる。
【0039】
前記フッ素系繊維を含んでなる糸および前記ディップ糸に共通して、本発明の布帛を構成する糸の総繊度としては、1000dtex以下が好ましく、より好ましくは200〜700dtexである。1000dtex以下とすることで、布帛表面の凹凸による摺動性への影響を抑えることができる。また、布帛の剛性を抑え、ゴム部品や固定具などの形状に沿い易くなる。さらに、総繊度が700dtex以下であると、布帛の製織あるいは製編時の工程通過性が良く、歩留まりや加工ロスの発生が抑制されるので好ましい。一方、200dtex以上とすることで、耐磨耗性向上する。
【0040】
また、これら表面を含む層の間にさらに異なる繊維素材からなる層を適宜積層することも好ましい形態の1つである。3層以上の多層構造とすることにより、例えば、布帛の引張強度を向上させたり、布帛自身の厚みを厚くしてクッション性を付与することが容易になる。
【0041】
上記のような多層構造を有する本発明の布帛は、平織り、綾織り、朱子織りなどの織物や、タテ編み、ヨコ編み、丸編みなどの編物を、積層し縫製したものでもよいし、二重織りの織物や二重編みの編物であってもよい。中でも、ラッセル編み機で編む2重タテ編み(ダブルラッセル編み)が、編密度が高く、肉厚で、クッション性のある布帛を得ることができ、耐久性を向上できる点で、好ましい。
【0042】
また、上述した繊維からなる不織布を積層し、ニードルパンチやウォータージェットパンチなどで一体化して本発明の布帛を得てもよい。なお、この場合、個々の不織布に予めニードルパンチやウォータージェットパンチが施されている方が作業性に優れ好ましい。
【0043】
本発明の防振ゴム材は、本発明の布帛とゴム弾性体とを有し、当該ゴム弾性体に前記ディップ糸を含んでなる層の側の面が固着されてなることが重要である。そうすることで、優れた摺動性を有しつつ、耐久性にも優れる。
【0044】
ゴム弾性体としては例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン・イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレン・酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合ゴム、シリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム等を使用することができる。また、ゴム弾性体の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて複合物として使用してもよい。
【0045】
かかる防振ゴム材の成型方法としては例えば、加硫状のゴム弾性樹脂を押出成型、射出成型、金型成型、押出金型成型、射出金型成型などを挙げることができる。その際、本発明の布帛を、ディップ糸側の面が充填されるゴム弾性体と接する様に金型内に設置することで、ゴム弾性樹脂を射出する際の圧力と熱によって、ディップ糸とゴム弾性体とを強固に固着できる。すなわち、従来の成型方法を変更することなくゴム弾性体との固着性に優れた防振ゴムを成型することが可能となる。
【0046】
車両用の防振ゴム材における本発明の布帛の設置位置の具体例としては、中央部にスタビライザーバーの挿通孔を備えた筒状のゴム弾性体を有し、その挿通孔の内周面全面に、本発明の布帛が、フッ素系繊維を含んでなる層の表面をスタビライザーバーの挿通孔に向けて設置される。このような構成により、スタビライザーを通して伝わってきた衝撃や歪みを吸収し、摩擦やねじれから生じる異音を長期に亘って防止できる。
【実施例】
【0047】
[測定・評価方法]
(1)繊度
JIS L 1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5セット採取し、20℃、60%の環境下で4時間放置後、その質量(g)を測定し、その値に10000/112.5をかけ、繊度(dtex)を求め平均値を算出した。
【0048】
(2)樹脂付着量
上記(1)により、ディップ加工後の繊度(dtex)を求め平均値を算出し、樹脂付着率を以下の算出式にて算出した。
樹脂付着量(質量%)=((F−F)/F)×100
ここに、F:ディップ加工前の繊度
:ディップ加工後の繊度。
【0049】
(3)固着性
幅3cm×長さ15cm×厚さ10mmのSBRの未加硫ゴムの上に幅3cm×長さ15cmの布帛を、長手方向に5cm重なるように布帛の固着面側を重ね合わせ、加硫モールドに入れ、150℃×30分間の加硫プレス成型を行い、放冷し、試験片を得た。
得られた試験片3枚から、JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に準じて、破断強力を測定し、固着性の評価指標とした。
定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度100mm/minで試験したときの固着性(破断強力)を測定し、平均値を算出した。
【0050】
(4)耐摩耗性(ユニバーサル形法:平面法)
JIS L1096:1999 6.17.1 A法(ユニバーサル形法:平面法)に準じて測定した。7cm×7cm角の試験片を3枚採取し、同試験片を試験片固定用布帛(直径11cmで中央部に直径4cmの穴のある布帛)にテープで貼り付けて摩耗試験機の試料ホルダーにセットし、研磨紙を耐水性サンドペーパー#320(幅38mm)、押圧荷重を4.45N、圧力を2.76×10Paに設定して、フッ素系繊維を含む側の表面から摩耗処理を加え、布帛に貫通孔が開くまでの回数を計測し、3回の平均値を算出した。
【0051】
(5)表面摩擦係数
表面性測定機(新東化学社製 ヘイドン・トライボギア TYPE:14DR)を用い、布帛の摺動面側を測定面として平面圧子(面積63mm×63mm)に布帛を、平面圧子の移動方向に対し布帛のタテ方向が並行となるようにビス固定し、20±2℃、60±5%RHの恒温恒湿環境下、荷重9.8N、移動速度100mm/min、移動距離60mmで、ステンレス板(鏡面仕上げ)との摩擦係数を計測し、3回の平均値を算出した。
【0052】
[実施例1〜3]
(摺動面側の層の糸)
丸断面形状を有し、総繊度440dtex、フィラメント数60本のPTFEフィラメント糸(東レ社製“トヨフロン”(R))を、摺動面側の層の糸として用いた。
【0053】
(固着面側の層の糸)
(原糸)
丸断面形状を有し、総繊度560dtex、フィラメント数96本のPETフィラメント糸(東レ社製“テトロン”(R))を、ディップ糸用の原糸として用いた。
【0054】
(接着処理助剤の溶液)
ポリエポキシド化合物6質量部を水94質量部に溶解させ、固形分6質量%の接着処理助剤の溶液を得た。
【0055】
(RFL+クロロフェノール系化合物の溶液)
水酸化ナトリウム水溶液(固形分濃度10%)21質量部、ホルマリン水溶液(固形分濃度37%)23.6質量部、レゾルシン26.8質量部、水522.8質量部を混合し、25℃で2時間熟成させた後、さらにゴムラテックスとしてビニルピリジン・スチレン・ブタジエン コポリマーラテックス(日本ゼオン社製“ニポール(R)”2518GL)(固形分濃度40%)405.8質量部を加え、25℃で20時間熟成し、固形分濃度20質量%のRFL溶液を得た。さらに、RFL溶液(固形分濃度20%)714.3質量部に対し、クロロフェノール系化合物溶液(ナガセケムテックス社製“デナボンド”)(固形分濃度20%)285.3質量部を混合し、固形分20質量%のRFL+クロロフェノール系化合物溶液を得た。
【0056】
(ディップ加工)
コンピュートリーター処理機(リッツラー社製)を用いて、上記原糸を、上記接着処理助剤の溶液中に連続的に走行させて浸漬し、エアワイパーで液切りを行い、120℃で100秒間乾燥し、続いて230℃で60秒間熱処理をした。
さらに、接着処理助剤を付与した糸を、上記RFL+クロロフェノール系化合物の溶液中に、先の接着処理助剤の溶液中と同速度で連続的に走行させて浸漬し、エアワイパーで液切りを行い、120℃で100秒間乾燥し、続いて210℃で60秒間熱処理をし、ディップ糸を得た。
各実施例において走行速度の調節により、それぞれ表1に記載の総樹脂付着量とした。
このディップ糸を、固着面側の層の糸とした。
【0057】
(編み加工)
上記摺動面側の層の糸および上記固着面側の層の糸を用い、耳部のつなぎ糸には上記摺動面側の層の糸を使用し、ダブルラッセル編機にて、コース密度29コース/25.4mm、ウェル密度19ウェル/25.4mm、筒状での幅34mm、内径22mmになるように編み立てをした。
実施例1〜3で得られた布帛は、固着性と表面摩擦係数に優れていた。
【0058】
[実施例4]
(摺動面側の層の糸)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0059】
(固着面側の層の糸)
(原糸)
丸断面形状を有し、総繊度470dtex、フィラメント数72本のナイロン6・6フィラメント糸(東レ社製)を、ディップ糸用の原糸として用いた。
【0060】
(接着処理助剤の溶液)
接着処理助剤は、用いなかった。
【0061】
(RFL+クロロフェノール系化合物の溶液)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0062】
(ディップ加工)
コンピュートリーター処理機(リッツラー社製)を用いて、上記原糸を、上記RFL+クロロフェノール系化合物の溶液中に連続的に走行させて浸漬、エアワイパーで液切りを行い、120℃で100秒間乾燥し、続いて210℃で60秒間熱処理をし、樹脂付着率4.9質量%のディップ加工糸を得た。
【0063】
(編み加工)
上記摺動面側の層の糸および上記固着面側の層の糸を用い、実施例1〜3と同様にして編み立てをした。
得られた布帛は、固着性と表面摩擦係数に優れていた。
【0064】
[比較例1]
(摺動面側の層の糸)
丸断面形状を有し、総繊度560dtex、フィラメント数96本のPETフィラメント糸(東レ社製“テトロン”(R))を、摺動面側の層の糸として用いた。
【0065】
(固着面側の層の糸)
(原糸)
丸断面形状を有し、総繊度560dtex、フィラメント数96本のPETフィラメント糸(東レ社製“テトロン”(R))、すなわち上記摺動面側の層の糸と同様の糸を、ディップ糸用の原糸として用いた。
【0066】
(接着処理助剤の溶液)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0067】
(RFL+クロロフェノール系化合物の溶液)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0068】
(ディップ加工)
上記原糸を用い、実施例1〜3と同様にして、総樹脂付着率3.8質量%のディップ加工糸を得た。
【0069】
(編み加工)
上記摺動面側の層の糸および上記固着面側の層の糸を用い、実施例1〜3と同様にして編み立てをした。
得られた布帛は表面摩擦係数に劣っていた。
【0070】
[比較例2]
(摺動面側の層の糸)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0071】
(固着面側の層の糸)
実施例1〜3で固着面側の層の糸の原糸として用いたのと同様のものを、ディップ加工をせずに、固着面側の層の糸として用いた。
【0072】
(編み加工)
上記摺動面側の層の糸および上記固着面側の層の糸を用い、実施例1〜3と同様にして編み立てをした。
得られた布帛は固着性に劣っていた。
【0073】
[比較例3]
(塗布加工)
比較例2で得られたのと同様の布帛の固着面側に、実施例1〜3で用いたのと同様の接着処理助剤の溶液を刷毛にて直接布帛に塗布し、120℃で100秒間乾燥し、続いて230℃で60秒間熱処理をした。さらに、実施例1〜3で用いたのと同様のRFL+クロロフェノール系化合物の溶液を刷毛にて直接布帛に塗布し、120℃で100秒間乾燥し、続いて210℃で60秒間熱処理をし、樹脂を含む布帛全体に対する総樹脂付着率7.3質量%の布帛を得た。
得られた布帛は、熱収縮による寸法変化が大きくまた、表面摩擦係数に劣っていた。
【0074】
[比較例4]
(摺動面側の層の糸)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0075】
(固着面側の層の糸)
(原糸)
丸断面形状を有し、総繊度440dtex、フィラメント数60本のPTFEフィラメント糸(東レ社製“トヨフロン”(R))、すなわち上記摺動面側の層の糸と同様の糸を、ディップ糸用の原糸として用いた。
【0076】
(接着処理助剤の溶液)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0077】
(RFL+クロロフェノール系化合物の溶液)
実施例1〜3で用いたのと同様のものを用いた。
【0078】
(ディップ加工)
上記原糸を用い、実施例1〜3と同様にして、総樹脂付着率4.3質量%のディップ加工糸を得た。
【0079】
(編み加工)
上記摺動面側の層の糸および上記固着面側の層の糸を用い、実施例1〜3と同様にして編み立てをした。得られた布帛は、樹脂とPTFE繊維との固着が悪く、固着性に劣るものであった。
【0080】
【表1】

【0081】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜4の布帛は比較例2,4よりも固着性に優れ、比較例1,3よりも表面摩擦係数が低く優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の布帛は、振動及び異音を防止する各種用途に適用が可能であり、自動車等の防振ゴム用布帛として好適に用いられる。例えば、自動車の走行時や旋回時に発生するロール(車体の傾き)を抑制するスタビライザー(別名アンチロールバー)の防振ゴム材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態を示す自動車のスタビライザー用防振ゴムの概略模式正面図である。
【図2】図1のスタビライザー用防振ゴム材4のA−A´矢視断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 布帛
2 フッ素系繊維を含む繊維で構成された層
3 フッ素系繊維以外の繊維を含む繊維で構成された層
4 スタビライザー用防振ゴム
5 ゴム弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面を有する層がフッ素系繊維を含んでなり、他方の表面を有する層がフッ素系繊維以外の繊維に予め樹脂が被覆してなるディップ糸を含んでなることを特徴とする布帛。
【請求項2】
前記樹脂がゴムとの固着性を有するものである、請求項1記載の布帛。
【請求項3】
前記樹脂がレゾルシン・ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスとの混合物である、請求項1または2記載の布帛。
【請求項4】
前記ディップ糸に対する樹脂の付着量が1.5〜8.0質量%である、請求項1〜3のいずれか記載の布帛。
【請求項5】
前記フッ素系繊維を含んでなる糸の総繊度および前記ディップ糸の総繊度がいずれも1000dtex以下である、請求項1〜4のいずれか記載の布帛。
【請求項6】
前記布帛が2重編物である、請求項1〜5のいずれか記載の布帛。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の布帛とゴム弾性体とを有し、当該ゴム弾性体に前記ディップ糸を含んでなる層の側の面が固着されてなることを特徴とする防振ゴム材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−35827(P2009−35827A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198583(P2007−198583)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】