説明

平版印刷版のカール量測定方法、平版印刷版のカール矯正方法及び平版印刷版のカール矯正装置。

【課題】 カール量の測定をより正確に行うことの可能な平版印刷版のカール量測定方法と、このカール量測定方法を適用してカール矯正をより確実に行うことの可能な平版印刷版のカール矯正方法及びカール矯正装置を得る。
【解決手段】 カール量測定具56を使用し、平版印刷版30全体を鉛直下方へと吊り下げて、保持辺(上端辺)と対向辺(下端辺)の距離Aを測定し、吊るしカール量(A−B)を得る。平版印刷版30を水平な平台においてカール量を測定しないので、正確且つ0mm付近での高感度の測定が可能となる。この吊るしカール量の値に基づいてカール矯正装置13をフィードバック制御するので、より確実にカール矯正できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版のカール量測定方法、平版印刷版のカール矯正方法及び平版印刷版のカール矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、一般にコイル状のアルミニウム板等の金属ウエブに、例えば、砂目立て、陽極酸化、化成処理等の表面処理を単独又は適宜組み合わせて行い、次いで、感光液の塗布、乾燥処理を行った後、所望のサイズに裁断、包装することで製造される。そして、この平版印刷版は光又は熱等の作用を利用し、画像形成、現像処理、ガム引き等の製版処理が施され、印刷機にセットされ、印刷が行われるものである。
【0003】
ところで、平版印刷版はコイル状の金属ウエブを裁断したものであるため、巻き癖が残っており、又、搬送手段としてのロールを通過するときに負荷される応力で、カールと呼ばれる曲がりが発生する。このような曲がりがあると、製版機、現像機、また自動搬送装置に送られるときに、平版印刷版が蛇行する等の問題が発生する。
【0004】
このため、例えば特許文献1には、定盤上に載置した場合の反りの量として、定盤から最も浮いた部分の高さが30mm以下である感光性印刷版とすることで、不良品発生を減らす構成が記載されている。
【0005】
しかしながら、このように平版印刷版を定盤上に載置すると、実際には平版印刷版にカールが生じていても、平版印刷版が自重で平坦になってしまう場合があり、カールを測定できない場合がある。
【0006】
また、カールを測定できる場合でも、平版印刷版が平坦化してしまうことで0mm付近の測定感度が鈍くなっているので、正確なカール量の測定が難しい。
【特許文献1】特開平5−188586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、カール量の測定をより正確に行うことの可能な平版印刷版のカール量測定方法と、このカール量測定方法を適用してカール矯正をより確実に行うことの可能な平版印刷版のカール矯正方法及びカール矯正装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明では、平版印刷版の一辺を保持して平版印刷版を鉛直下方に吊り下げ、保持辺と対向する対向辺と保持辺との水平方向の距離を測定することを特徴とする。
【0009】
このように平版印刷版を鉛直下方に吊り下げることで、従来のように、平版印刷版が自重で平坦化されることがなくなる。したがって、保持辺と対向辺との水平方向の距離を測定し、これをカール量とすれば、従来よりも正確に平版印刷版のカール量を測定することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の平版印刷版のカール量測定方法によって測定されたカール量を基にカール矯正を行うことを特徴とする。
【0011】
したがって、平版印刷版のカールをより確実に矯正することができる。たとえば、平版印刷版の搬送中でのトラブル発生もより少なくする(好ましくはトラブルを発生させない)ことも可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、コイル状の原反から巻きだされたウエブを裁断装置で裁断して得られたシート状の平版印刷版のカールを矯正するカール矯正部、を備え、このカール矯正部が、請求項1に記載の平版印刷版のカール量測定方法で測定されたカール量に基づいてカール矯正の条件を変更可能とされていることを特徴とする。
【0013】
コイル状の原反から、裁断部によって裁断さえて得られたシート状の平版印刷版には、カールが残っていることが一般的である。そこで、カール矯正部によってこのカールを矯正する。
【0014】
その後、請求項1に記載のカール量測定方法で平版印刷版のカール量を測定し、その結果に基づいてカール矯正部のカール矯正の条件を変更する。このようにカール矯正部をフィードバック制御することで、平版印刷版のカールをより確実に矯正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、カール量の測定をより正確に行うことができ、また、カール矯正をより確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1には、本発明の第1実施形態に裁断ライン50が示されている。また、図2にも、この裁断ライン50が、一部の構成を簡略化して示されている。裁断ライン50では、金属ウエブ12を所定の搬送方向に搬送しつつ裁断して、シート状の平版印刷版30を得る。以下では、単に「上流」、「下流」というときは、この搬送方向の上流及び下流を意味するものとする。
【0017】
裁断ライン50の上流側には、コイル状に巻かれた金属ウエブ12を送り出す送出機14が配設されている。送出機14から巻き戻された金属ウエブ12は、後述するカール矯正装置13により巻きくせ等を起因とするカールが矯正される。
【0018】
送出機14の下流には送りローラ16が配置されており、ここで、合紙18が重ね合わされ帯電接着し、ノッチャー20に至る。ノッチャー20は、金属ウエブ12の耳部又は中央部を打ち抜き、スリッタ10のトリミング上刃22及びトリミング下刃24が、打ち抜き位置で金属ウエブ12の幅方向へ移動できるようにする。これにより、連続裁断しながら(合紙とウエブを裁断)、金属ウエブ12のトリミング幅(幅サイズ)を変更することができる。また、必要に応じて、センタ刃26が金属ウエブ12の中央部をスリットして、2状の金属ウエブとすることができる。
【0019】
このようにして、所定のトリミング幅とされた金属ウエブ12は、測長装置42で送り長が検出され、指示されたタイミングでカッタ32が金属ウエブ12を切断して、設定されたサイズの平版印刷版30を製造する。
【0020】
製品サイズとなった平版印刷版30は、振分け装置44で合格品と不良品に振り分けられる。そして、合格品はコンベア49に載せられ、集積装置46(図1では、1つの集積場所しか図示していないが、実際には複数箇所ある)所定枚数積み重ねられる。集積束は所定枚数単位で、ダンボール等で梱包されて出荷される。また、不良品は排出コンベア48で廃棄場所に送られる。
【0021】
図4に示すように、振分け装置44の下流には、さらにもう1つの振分け装置53が配置され、搬送ラインから特定の平版印刷版30を取り出して、サンプルトレイ54に送ることができるようになっている。サンプルトレイ54内の平版印刷版30は、作業者が後述するカール量測定具56まで運ぶ。
【0022】
図2に示すように、カール矯正装置13は、カール強制部13Aと、このカール強制部13Aの条件設定を行う条件設定器13Bと、で構成されている。
【0023】
カール強制部13Aは、上側に配置され傷防止のためウレタンゴム等で被覆された金属製のローラ28と、下側に配置されるローラ38とで構成されている。ローラ径は、カールを矯正できる寸法、例えばφ30〜φ150の任意の径が選択できる。このローラ28とローラ38のローラ軸は、金属ウエブ12の搬送方向に沿ってズレており、ローラ28とローラ38の間を通過する金属ウエブ12のカールを矯正する。
【0024】
このように、ローラ28とローラ38で金属ウエブ12を互い違いにかみこみ搬送させることにより、繰り返し曲げで金属ウエブ12を変形させ、巻きくせによる内部応力を低下細分化させ、平坦化させると共に所定の方向にカールさせるものである。
【0025】
ここで、ローラ38を支持する軸受け(図示省略)をハンドル操作して持ち上げ、ローラ38がローラ28の間に食い込む量を大きくすることでカールの矯正量を大きくすることができる。また、下流側のローラの食い込み量を上流側にかけて徐々に小さくすることで(チルト量を変化させる)で矯正量を変えることができる。カール矯正装置13は、条件設定器13Bよる条件設定によって、この矯正量を調整できるようになっている。
【0026】
なお、図3に示すように、ロールのピッチを広げ、ロール51へのラップ量を大きくしたデカーラと呼ばれる方式を採用することも可能である。ロール52はロール51の撓みを防止するためのバックアップロールである。これらは対になって上下動し、ロール51へのラップ量を変えることで矯正量を変えることができる。
【0027】
図4には、本実施形態に係るカール量測定具56が示されている。カール量測定具56の台座58からは支柱60が立設され、その上端に保持部62が固定されている。保持部62は、平版印刷版30の1つの辺を、支柱60から水平方向に所定距離Bだけ離した位置で挟持して、平版印刷版30全体を鉛直下方へと吊り下げることができるようになっている。なお、平版印刷版30の最も大きいサイズを考慮して、台座58から保持部62までは、十分な長さ(高さ)が確保されている。
【0028】
支柱60には、変位計64が上下にスライド可能に取り付けられている。変位計64は、平版印刷版30の、保持部62で保持された保持辺(上端辺)と対向する対向辺(下端辺)の、支柱60からの水平方向の距離Aを測定することができる。
【0029】
これらの距離A、Bは、条件設定器13Bに送られる。条件設定器13Bでは、(A−B)を計算して、平版印刷版30を吊り下げた状態でのカール量を算出する。以下、このカール量を「吊るしカール量」ということとする。そして、本実施形態では、このように吊るしカール量を得ることで、従来のように定盤上でカール量を測定していた構成と比較して、より正確なカール量の測定が可能になっている。たとえば、平版印刷版30が定盤上で重力によって平坦になることがないため、わずかなカールであっても、本実施形態ではそのカールの程度を示す指標として吊るしカール量の具体的数値を得ることができる。また、従来では、カール量が僅かであった場合には、0mm付近での測定感度が低く、正確な測定が不可能であったが、本実施形態のように平版印刷版30を吊り下げることで、カール量の絶対値が大きくなるので、より確実にカールの程度を知ることができる。
【0030】
そしてさらに、本実施形態では、このようにして得られた吊るしカール量の値に基づいて、カール矯正部13Aによるカール矯正の設定条件が、あらかじめ設定テーブルとして条件設定器13Bに記憶されている。この設定テーブルを利用し、吊るしカール量の値に基づいてカール強制部13Aをフィードバック制御することで、従来のように定盤上で測定したカール量により制御した構成と比較して、平版印刷版30のカールをより確実に矯正することも可能になっている。
【0031】
表1には、異なる板厚を有する複数種の平版印刷版30について、それぞれ異なるカール量測定法によって測定したカール量の値と、それぞれの場合でのトラブル発生率が示されている。
【0032】
【表1】

この表1において、「平台(直後)」とは、シート状に裁断された直後の平版印刷版30を平坦な台(従来の定盤に相当)に置き、その端部の平台からの浮き上がり量を測定してカール量としたものである。「平台(経時)」とは、シート状に裁断されてから所定時間経過後において、同様に平坦な台(従来の定盤に相当)に置き、その端部の平台からの浮き上がり量を測定してカール量としたものである。「吊るし(直後)」とは、シート状に裁断された直後の平版印刷版30を本実施形態のカール量測定具56で吊るして、その吊るしカール量を測定したものである。カール量のマイナスの数値は、平版印刷版30の本来的な巻き癖方向(原反として巻かれていた方向)とは反対方向にカールが発生していることを示す。
【0033】
また、この表1の「トラブル発生率」とは、それぞれの平版印刷版30の搬送工程での搬送トラブル(蛇行、ジャム、位置決め不良)の発生率を示す。「評価」では、このトラブル発生率が0%の場合のみ「○」とし、わずかでもトラブルが発生していれば「×」とした。
【0034】
なお、図5においても、表1中のいくつかの標本(サンプル)について、吊るしカール量と搬送トラブル発生率との関係をグラフで示している。
【0035】
たとえば、この表1の標本番号A6、B6、C5、C6、D4〜D6、E4〜E6の平版印刷版30では、平台(直後)と平台(経時)の双方でカール量が0になっている。したがって、これらの平版印刷版30を搬送工程で搬送しても、搬送トラブルは発生しないと判断されてしまう。ところが、これらの平版印刷版を搬送工程において搬送すると、実際には搬送トラブルが生じる。
【0036】
これに対し、これらの平版印刷版30での、本実施形態での吊るし(直後)のカール量はそれぞれは0mmではなく、それぞれ固有の数値が得られており、カールが発生していることが確実に測定できている。したがって、これらの平版印刷版30を搬送工程で搬送しないように判断でき、搬送トラブルの発生を防止することができる。
【0037】
また、標本番号A4、B5、C3、D2、E2の平版印刷版30では、平台(直後)と平台(経時)の双方で測定した場合にはカール量が特定の値となっており、搬送トラブルが発生すると判断して、搬送工程に送らないようにしてしまう。ところが、これらの平版印刷版30は、実際には搬送トラブルは発生していない。したがって、平版印刷版30が無駄になってしまう。これに対し、本実施形態のように吊るし(直後)で平版印刷版30のカール量を測定することで、カールの程度をより正確に知ることができるので、得られたカール量の値に基づいて、搬送工程へ送るあるいは送らないの判断を行えば、平版印刷版30の無駄が生じない。
【0038】
なお、吊るし(直後)のカール量が、実際にどの程度の範囲となっていれば、搬送トラブルが発生しないか、という点は、金属ウエブの状態(厚み、履歴、処理方法、コイルの外周部側か巻き芯部側か)、平版印刷版30の種類(材料、サイズ、厚み)、裁断ライン50の構成等によって異なるが、表1に挙げた例では、概ね、
−3mm≦吊るしカール量≦60mm
の範囲であれば、搬送トラブルは発生しないといえる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態では、平版印刷版30をカール量測定具56で吊るし、その状態でのカール量(吊るしカール量)を測定するので、平版印刷版30のカールの程度をより正確に知ることができる。
【0040】
特に、近年ではいわゆるCTP版と呼ばれる、コンピュータ等からの画像データのレーザ光等による直接書き込みがなされる平版印刷版があるが、このようなCTP版では、従来の平版印刷版と比較して、搬送工程のみならず、画像書き込み(露光)や製版の工程においてもより厳密な平面性が要求される。しかしながら、CTP版に対し、定盤(平台)上に載置してカール量を測定した場合には正確なカール量を知ることができず、場合によっては作業者の勘に頼ったカール矯正装置13の調整(条件設定)が行われるため、製品としても平版印刷版30の平面性にバラツキが生じる。
【0041】
しかしながら、本実施形態では、特に、0mm付近でのカール量測定の感度が高いので、より厳密にカールを矯正した平版印刷版30を使用して露光や製版を行うことができ、これらの工程でのトラブルを防止できる。また、カール矯正装置13の調整(条件設定)を作業者に依存することなく、正確に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態のカール矯正装置を備えた裁断ラインを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態のカール矯正装置の概略構成を示す正面図である。
【図3】本発明の第1実施形態のカール矯正装置の他の例の概略構成を示す正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態のカール矯正装置を備えた裁断ラインを示す正面図である。
【図5】本発明での吊るしカール量と搬送トラブル発生率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
10 スリッタ
12 金属ウエブ
13 カール矯正装置
13A カール矯正部
13B 条件設定器
14 送出機
16 ローラ
18 合紙
20 ノッチャー
22 トリミング上刃
24 トリミング下刃
26 センタ刃
28 ローラ
30 平版印刷版
32 カッタ
38 ローラ
42 測長装置
44 振分け装置
46 集積装置
48 排出コンベア
49 コンベア
50 裁断ライン
51 ロール
52 ロール
53 振分け装置
54 サンプルトレイ
56 カール量測定具
58 台座
60 支柱
62 保持部
64 変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版の一辺を保持して平版印刷版を鉛直下方に吊り下げ、保持辺と対向する対向辺と保持辺との水平方向の距離を測定することを特徴とする平版印刷版のカール量測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の平版印刷版のカール量測定方法によって測定されたカール量を基にカール矯正を行うことを特徴とする平版印刷版のカール矯正方法。
【請求項3】
コイル状の原反から巻きだされたウエブを裁断装置で裁断して得られたシート状の平版印刷版のカールを矯正するカール矯正部、
を備え、
このカール矯正部が、請求項1に記載の平版印刷版のカール量測定方法で測定されたカール量に基づいてカール矯正の条件を変更可能とされていることを特徴とする平版印刷版のカール矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−90993(P2006−90993A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280674(P2004−280674)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】