説明

平版印刷版用支持体の製造方法ならびに平版印刷版用支持体および平版印刷版用原版

【課題】耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板およびその製造方法、ならびに、それを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版、特に機上現像可能な平版印刷版原版の提供。
【解決手段】平版印刷版用支持体を製造する平版印刷版用支持体の製造方法であって、
Feを0.08〜0.45質量%含有し、Siを0.05〜0.20質量%含有し、残部が不可避不純物とAlとからなるアルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する半連続鋳造工程と、
半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)、冷間圧延工程後の板厚(Y)、面削工程における面削量(A)、粗面化処理による粗面化処理量(B)、および、陽極酸化皮膜の膜厚(C)が、下記式(i)を満たす各処理工程とを具備する平版印刷版用アルミニウム支持体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体およびその製造方法ならびにそれを用いた平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年進展が目覚ましいコンピュータ・ツウ・プレート(CTP)システムについては、多数の研究がなされている。中でも、一層の工程合理化と廃液処理問題の解決を目指すものとして、露光後、現像処理することなしにそのまま印刷機に装着して印刷できる平版印刷版原版が研究され、種々の方法が提案されている。
【0003】
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、平版印刷版原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。即ち、平版印刷版原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する方式である。このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な画像記録層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに明室取り扱い性を有することが必要とされる。
【0004】
例えば、特許文献1には、親水性バインダーポリマー中に熱可塑性疎水性重合体の微粒子を分散させた感光層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が記載されている。この特許文献1には、平版印刷版原版をレーザー露光し、画像記録層中の熱可塑性疎水性重合体粒子を熱により合体させて画像形成した後、印刷機の版胴上に版を取付け、湿し水および/またはインキにより未露光部を除去する(機上現像)できることが記載されている。この平版印刷版原版は感光域が赤外線域であることにより、明室取り扱い適性も有している。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性基を有するポリマー微粒子および熱反応性基を有する化合物を内包するマイクロカプセルのうち少なくとも何れかを含有する画像記録層を有する平版印刷版原版が、機上現像性が良好であり、高感度かつ高耐印刷性を有することが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の平版印刷版原版は、長期間保存した場合に、非画像部表面の一部にインキが付着しやすい箇所が発生し、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れ(以下、「ポツ状汚れ」ともいう。)が生じることがあった。
【0007】
【特許文献1】特許第2938397号公報
【特許文献2】特開2001−293971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、このポツ状汚れが発生する原因について検討したところ、まず、特許文献1および2等に記載のいわゆる機上現像型の平版印刷版原版は、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能な画像記録層を設けているため、画像記録層中に多くの親水性成分が存在しており、その結果、外気等の影響により画像記録層中に水分を包含しやすいものとなっていることに着目した。そして、特許文献1および2等に記載のいわゆる機上現像型の平版印刷版原版は、外気等の影響により画像記録層中に包含する水分や、その水分によりアニオン化した親水性成分(以下、単に「アニオン」という。)の存在により、アルミニウム合金板の腐食が生じ、それによりポツ状汚れが生じていることを明らかとした。
また、本発明者は、アニオンの中でも、ハロゲン化物イオンからなるアニオンおよび/またはPF6の存在が、アルミニウム合金板の腐食を生じさせやすいことを明らかとした。
【0009】
一方、平版印刷版用支持体を製造する方法に関して、本出願人は、特開平7−81260号公報において、「アルミニウム99.7%以上のアルミニウムインゴットを溶解して鋳塊を作製し、その鋳塊に面削を行った後、前記鋳塊を冷間圧延によって0.5〜0.1mmに圧延した後、さらに矯正を行なったアルミニウム支持体を、粗面化することを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」を提案している。
また、本出願人は、特開平8−209313号公報において、「Fe:0.05〜1.0重量%、Si:1.0重量%以下、Cu:0.2重量%以下、残部がAlと不可避的不純物とから成るアルミニウム合金の溶湯を連続的に鋳造圧延して厚み25mm以下の帯状鋳造板にしたのち、前記帯状鋳造板に少なくとも1回の冷間圧延処理を行って所望厚みの圧延板にする際に、最終の冷間圧延処理は30%以上の圧下率で行い、また、冷間圧延処理の過程では、圧延板に対し、50℃/分以上の昇温速度で350〜620℃の温度域まで加熱し、その温度域に10分間以内の時間保持し、ついで、50℃/分以上の降温速度で150℃以下の温度域にまで冷却する焼鈍処理を少なくとも1回行うことを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金支持体の製造方法。」を提案している。
しかしながら、これらの特許文献には、CTPシステムへの適用や機上現像型の平版印刷版原版への適用については、何ら記載されていない。
【0010】
そこで、本発明は、耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板およびその製造方法、ならびに、それを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版、特に機上現像可能な平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、SiおよびFeを特定の含有量とするアルミニウム合金溶湯を用い、半連続鋳造や冷間圧延等の各処理を特定のパラメータを満たすように施して得られる平版印刷版用支持体を用いることにより、耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供する。
【0012】
(1)平版印刷版用支持体を製造する平版印刷版用支持体の製造方法であって、
Feを0.08〜0.45質量%含有し、Siを0.05〜0.20質量%含有し、残部が不可避不純物とAlとからなるアルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する半連続鋳造工程と、
上記半連続鋳造工程で形成される上記鋳塊に面削を施す面削工程と、
上記面削工程後の上記鋳塊に圧延を施して圧延板を得る熱間圧延工程と、
上記熱間圧延工程後の圧延板の厚さを減じさせてアルミニウム合金板を得る冷間圧延工程と、
上記冷間圧延工程後のアルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理および陽極酸化処理をこの順で施して平版印刷版用支持体を得る表面処理工程とを具備し、
上記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)、上記冷間圧延工程後の板厚(Y)、上記面削工程における面削量(A)、上記粗面化処理による粗面化処理量(B)、および、陽極酸化皮膜の膜厚(C)が、下記式(i)を満たす平版印刷版用支持体の製造方法。
【0013】
【数1】

【0014】
(2)上記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)が300〜800mmであり、
上記冷間圧延工程後の板厚(Y)が0.1〜0.5mmであり、
上記面削工程における面削量(A)が1〜15mmであり、
上記粗面化処理による粗面化処理量(B)が1〜10μmであり、
上記陽極酸化皮膜の膜厚(C)が0.1〜2.5μmである、上記(1)に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に記載の平版印刷版用支持体の製造方法により得られる平版印刷版用支持体。
【0016】
(4)上記(3)に記載の平版印刷版用支持体上に画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。
【0017】
(5)上記画像記録層が、ハロゲン化物イオンからなるアニオンおよび/またはPF6を有する上記(4)に記載の平版印刷版原版。
【0018】
(6)上記画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である上記(4)または(5)に記載の平版印刷版原版。
【発明の効果】
【0019】
以下に説明するように、本発明によれば、耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板およびその製造方法、ならびに、それを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版、特に機上現像可能な平版印刷版原版を提供するこができる。
また、本発明によれば、画像記録層のアニオン濃度(ハロゲン化物イオン濃度、PF6濃度)に左右されず、耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができるため、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体の製造方法]
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法は、Feを0.08〜0.45質量%含有し、Siを0.05〜0.20質量%含有し、残部が不可避不純物とAlとからなるアルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する半連続鋳造工程と、
上記半連続鋳造工程で形成される上記鋳塊に面削を施す面削工程と、
上記面削工程後の上記鋳塊に圧延を施して圧延板を得る熱間圧延工程と、
上記熱間圧延工程後の圧延板の厚さを減じさせてアルミニウム合金板を得る冷間圧延工程と、
上記冷間圧延工程後のアルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理および陽極酸化処理をこの順で施して平版印刷版用支持体を得る表面処理工程とを具備し、
上記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)、上記冷間圧延工程後の板厚(Y)、上記面削工程における面削量(A)、上記粗面化処理による粗面化処理量(B)、および、陽極酸化皮膜の膜厚(C)が、下記式(i)を満たす平版印刷版用支持体の製造方法である。
【0021】
【数2】

【0022】
次に、半連続鋳造工程、面削工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程および表面処理工程ならびに所望により施す各種処理等について詳述する。
【0023】
<清浄化処理>
まず、所定の合金成分含有量に調製したアルミニウム合金溶湯に、常法に従い、必要に応じて清浄化処理を施すことができる。
清浄化処理としては、例えば、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するための脱ガス処理(例えば、アルゴンガス、塩素ガス等を用いたフラックス処理等);セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタなどのいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボールなどをろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタなどを用いるフィルタリング処理;このような脱ガス処理とフィルタリング処理とを組み合わせた処理;等が挙げられる。
【0024】
(アルミニウム合金溶湯)
本発明においては、上記アルミニウム合金溶湯は、Feを0.08〜0.45質量%含有し、Siを0.05〜0.20質量%含有し、残部が不可避不純物とAlとからなる溶湯を用いる。
次に、上記アルミニウム合金溶湯に含有する合金成分について詳述する。
【0025】
Feは、アルミニウム合金の機械的強度を高める作用があり、平版印刷版用支持体の強度に大きな影響を与える。Feの含有量が少なすぎると、機械的強度が低すぎて、平版印刷版を印刷機の版胴に取り付ける際に、版切れを起こしやすくなる。また、高速で大部数の印刷を行う際にも、同様に版切れを起こしやすくなる。一方、Feの含有量が多すぎると、必要以上に高強度となり、平版印刷版を印刷機の版胴に取り付ける際に、フィットネス性に劣り、印刷中に版切れを起こしやすくなる。
【0026】
本発明においては、上記アルミニウム合金溶湯におけるFeの含有量は、上述したように、0.08〜0.45質量%であり、0.08〜0.35質量%であるのが好ましい。
Feの含有量がこの範囲であると、必要以上に高強度とならず、平版印刷版を印刷機の版胴に取り付ける際のフィットネス性に優れ、印刷中の版切れを防止できる。
【0027】
また、Feは、Al−Fe系金属間化合物、Al−Fe−Si系金属間化合物を形成する。
ここで、Al−Fe系金属間化合物は、Al−Fe−Si系金属間化合物よりも電気化学的溶解性が高く、ピットの起点としての作用が強い。また、Al−Fe系金属間化合物は、Al−Fe−Si系金属間化合物よりもピット起点となりやすく、Al−Fe系金属間化合物の中でも、安定層よりも準安定相のAl−Fe系金属間化合物がピット起点となりやすい。
【0028】
本発明者は、Al−Fe系金属間化合物がアルミニウム合金板の腐食の起点となることを知見している。
そのため、本発明においては、平版印刷版の耐ポツ状汚れ性を向上させる観点からも、上記アルミニウム合金溶湯におけるFeの含有量を0.45質量%以下とし、また、Al−Fe系金属間化合物の含有量を0.05質量%以下とするのが好ましく、0.02質量%以下とするのがより好ましく、0.015質量%以下とするのが更に好ましい。
【0029】
ここで、本発明においては、Al−Fe系金属間化合物の含有量は、以下の式により算出している。
Al−Fe系金属間化合物含有量(質量%)={Fe含有量(質量%)−Fe固溶量(質量%)}×{(XRDにより検出されたAl−Fe系金属間化合物相ピークの積分回折強度の合計)/(XRDにより検出されたFe系各相ピークの積分回折強度の合計)}
【0030】
また、Al−Fe系金属間化合物とは、Al3FeおよびAl6Feを示し、Fe系各相とは、Al3Fe、Al6Feおよびα−AlFeSiを示す。
【0031】
また、XRDによる積分回折強度は、X線回折装置RAD−rR(12kW回転対陰極型、リガク社製)にアルミニウム合金板をセットし、以下の条件により測定し、検出されたFe系金属間化合物相(Al3Fe、Al6Fe、α−AlFeSi)を代表するピークの積分回折強度値(単位:Kcounts)を算出した値である。なお、ピークが現れない場合、積分回折強度は0.1として算出した。
・設定管電圧 50kV
・設定管電流 200mA
・サンプリング間隔 0.01°
・スキャン速度 1°/分
・2θ走査範囲 10°〜70°
・グラファイトモノクロメータ使用
【0032】
また、Fe固溶量は、アルミニウム合金板を熱フェノールによって溶解し、溶解されたマトリックスおよび溶解残残渣としての金属間化合物をろ過し、更にろ液中の微細な金属間化合物を10%クエン酸溶液を用いた抽出により分離し、その後のろ液中のFe量をICP発光分析装置によって測定した値である。
【0033】
Siは、アルミニウム中に固溶し、またはAl−Fe−Si系金属間化合物もしくはSi単独の析出物を形成して存在する。
アルミニウム中に固溶したSiは、電気化学的粗面を均一にする作用と電気化学的粗面化処理で生じるピットの主として深さを深くかつ均一にする作用とを有する。
【0034】
本発明においては、上記アルミニウム合金溶湯におけるSiの含有量は、上述したように、0.05〜0.20質量%であり、0.07〜0.15質量%であるのが好ましい。
Siの含有量がこの範囲であると、後述する電気化学的粗面化処理の均一性を損なわず、また、得られるアルミニウム合金板を用いた平版印刷版の耐ポツ状汚れ性が優れる。
【0035】
本発明者は、上述したように、Al−Fe系金属間化合物がアルミニウム合金板の腐食の起点となることを知見すると同時に、Al−Fe−Si系金属間化合物およびSi単独析出物は、Al−Fe系金属間化合物と比較して、アルミニウム合金板の腐食の起点となり難いことを見出している。
そのため、本発明においては、アルミニウム合金板の金属間化合物の主成分が、例えば、Al−Fe−Si系金属間化合物であるα−AlFeSiであるのが好ましい。ここで、主成分とは、金属間化合物のうち最も多く含有する成分をいい、50質量%超であるのが好ましい。
そして、このようにAl−Fe−Si系金属間化合物の析出量を増やす観点からも、上記アルミニウム合金溶湯におけるSiの含有量を0.05質量%以上とし、また、後述するように、アルミニウム合金溶湯から形成した鋳塊に面削を施した後に、500〜550℃の温度範囲で均熱処理を施すのが好ましい。
【0036】
Znは、電気化学的粗面化処理で生成するピットの径を小さくする作用を有するので、所望のピット形状を設計するために添加することができる。多く添加すると、ピット径を小さくすることができる。
本発明においては、上記アルミニウム合金溶湯におけるZn含有量は、0.01質量%以下であるのが好ましい。
【0037】
Mgは、Alの再結晶組織を微細にする作用や、引張強度、耐力、疲労強度、折り曲げ強度、耐熱軟化性等の機械的強度を向上させる作用を有する。
また、Mgは、適当量添加することで電解粗面化時のピットの分散を均一にする作用も有する。
本発明においては、上記アルミニウム合金溶湯におけるMg含有量は、0.20質量%以下であるのが好ましい。
【0038】
Cuは、比較的アルミニウム中に固溶しやすく、平版印刷版用支持体の電気化学的粗面化性に大きく影響を及ぼす元素である。
本発明においては、Cuは、上記アルミニウム合金溶湯において0.001〜0.040質量%の範囲で適宜含有させてもよい。
【0039】
アルミニウム合金板の残部は、Alと不可避不純物からなる。
この不可避不純物としては、例えば、Mn、Cr、Zr,V,Be等が挙げられ、これらはそれぞれ0.05質量%以下含まれていてもよい。
また、不可避不純物の大部分は、Al地金中に含有される。不可避不純物は、例えば、Al純度99.5%の地金に含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。
不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structure and properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0040】
<半連続鋳造工程>
上記半連続鋳造工程は、所望により上記清浄化処理を施した後の上記アルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する工程である。
【0041】
本発明においては、上記で例示した種々のアルミニウム合金溶湯に対して半連続鋳造を施すことにより、例えば、固定鋳型を用いて、所望の板厚(X)の鋳塊を製造することができる。
ここで、鋳塊の板厚(X)は、300〜800mmであるのが好ましく、350〜700mmであるのがより好ましく、400〜650mmであるのが特に好ましい。
【0042】
<面削工程>
上記面削工程は、上記半連続鋳造工程で形成される上記鋳塊に面削を施す工程である。
本発明においては、常法に従って面削を行うことができる。
ここで、面削により削る表層の面削量(A)は、1〜15mmであるのが好ましく、3〜10mmであるのがより好ましい。面削量(A)がこの範囲であると、表層の不均一層を除去するとともに、所望の板厚のアルミニウム合金の板状体を得ることができる。
【0043】
<加熱処理>
本発明においては、上記面削工程により得られたアルミニウム合金の板状体は、後述する熱間圧延工程の前に、加熱炉で熱間圧延の開始温度以上まで加熱されるのが好ましい。
【0044】
<均熱処理>
本発明においては、所望により施される上記加熱処理と後述する熱間圧延工程との間に、更に、所定温度で所定時間保持する均熱処理が行なわれるのが好ましい。
【0045】
上記均熱処理は、金属間化合物を粗大化しないこと、Al−Fe−Si系金属間化合物を析出させる観点から、500〜550℃の温度範囲に保持するのが好ましく、500〜540℃の温度範囲がより好ましく、510〜540℃の温度範囲が更に好ましい。上記均熱処理の温度範囲がこの範囲であると、Al3Fe等のAl−Fe系金属間化合物の析出が抑制される。
また、上記均熱処理は、上記温度範囲で1〜48時間保持することにより行うのが好ましい。
【0046】
<熱間圧延工程>
上記熱間圧延工程は、所望により施される上記均熱処理の後に、上記面削工程後の鋳塊に圧延を施し、板厚を減じた圧延板を得る工程である。
ここで、上記熱間圧延処理の圧延条件は特に限定されないが、例えば、一対のロール間にアルミニウム合金の板状体を挿通させることにより、板厚を10mm以下まで圧延するのが好ましく、2.6〜7.0mmまで圧延するのがより好ましく、3.0〜5.0mmまで圧延するのが更に好ましい。また、開始温度は350〜500℃であるのが好ましい。
【0047】
<焼鈍処理>
本発明においては、後述する冷間圧延工程の前もしくは後、またはその途中において、焼鈍処理を施すことができる。
この焼鈍処理を施す場合の条件としては、具体的には、バッチ式焼鈍炉を用いて280〜600℃で2〜20時間、好ましくは350〜500℃で2〜10時間加熱する条件や、連続焼鈍炉を用いて連続的に450℃以上の温度で数十秒から数分間加熱する条件が好適に例示される。
【0048】
<冷間圧延工程>
上記冷間圧延工程は、上記熱間圧延工程後の圧延板の厚さを更に減じさせてアルミニウム合金板を得る工程である。
本発明においては、上記冷間圧延工程は、従来公知の方法により行うことができ、具体的には、特開平6−220593号、特開平6−210308号、特開平7−54111号、特開平8−92709号の各公報等に記載されている方法を使用することができる。
図1は、冷間圧延に用いられる冷間圧延機の例を示す模式図である。図1に示される冷間圧延機10は、送り出しコイル12および巻き取りコイル14の間で搬送されるアルミニウム合金板20に、それぞれ支持ローラ18により回転される一対の圧延ローラ16により圧力を加えて、冷間圧延を行う。
また、本発明においては、上記冷間圧延工程後のアルミニウム合金板の板厚(Y)は、0.1〜0.5mm程度であり、0.15〜0.4mmであるのが特に好ましい。板厚(Y)がこの範囲であると、得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版のハンドリング性が良好となる。
【0049】
(アルミニウム合金板(圧延アルミ))
本発明においては、以上の各工程および各処理によって、所定の厚さ(例えば、0.1〜0.5mm)に仕上げられたアルミニウム合金板は、更に、ローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。
平面性の改善は、アルミニウム合金板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させるためには、連続したコイルの状態で行うのが好ましい。
また、所定の板幅に加工するため、スリッタラインを通してもよい。
更に、アルミニウム合金板同士の摩擦による傷の発生を防止するために、アルミニウム合金板の表面に薄い油膜を設けてもよい。油膜には、必要に応じて、揮発性のものや、不揮発性のものが適宜用いられる。
【0050】
<表面処理工程>
上記表面処理工程は、上記冷間圧延工程により得られたアルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理および陽極酸化処理をこの順で施して平版印刷版用支持体を得る工程である。
次に、上記表面処理工程における各処理について詳述する。
【0051】
(粗面化処理)
上記粗面化処理は、少なくとも電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理であれば特に限定されず、電気化学的粗面化処理のみを施してもよく、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理および/または化学的粗面化処理とを組み合わせて施してもよい。
機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせる場合には、機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理を施すのが好ましい。
【0052】
本発明においては、電気化学的粗面化処理は、硝酸や塩酸の水溶液中で施すのが好ましい。
【0053】
機械的粗面化処理は、所望により、アルミニウム合金板の表面を一般的には表面粗さRa0.35〜1.0μmとする目的で施される。
本発明においては、機械的粗面化処理の諸条件は特に限定されないが、特公昭50−40047号公報に記載されている方法に従って施すことができる。機械的粗面化処理は、パミストン懸濁液を使用したブラシグレイン処理により施したり、転写方式で施したりすることができる。
また、化学的粗面化処理も特に限定されず、公知の方法に従って施すことができる。
【0054】
機械的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を施すのが好ましい。
機械的粗面化処理の後に施される化学エッチング処理は、アルミニウム合金板の表面の凹凸形状のエッジ部分をなだらかにし、印刷時のインキの引っかかりを防止し、平版印刷版の耐汚れ性を向上させるとともに、表面に残った研磨材粒子等の不要物を除去するために行われる。
化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理(以下、「アルカリエッチング処理」ともいう。)が挙げられる。
【0055】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、カセイカリ、メタケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、グルコン酸ソーダ等が好適に挙げられる。
また、各アルカリ剤は、アルミニウムイオンを含有してもよい。アルカリ溶液の濃度は、0.01質量%以上であるのが好ましく、3質量%以上であるのがより好ましく、また、30質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましい。
更に、アルカリ溶液の温度は室温以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
【0056】
エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、1g/m2以上であるのがより好ましく、また、20g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのがより好ましい。
また、処理時間は、エッチング量に対応して2秒〜5分であるのが好ましく、生産性向上の点から2〜10秒であるのがより好ましい。
【0057】
本発明においては、機械的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を施した場合、アルカリエッチング処理により生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(以下、「デスマット処理」ともいう。)を施すのが好ましい。
酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。また、酸性溶液の温度は、20〜80℃であるのが好ましい。酸性溶液の濃度および温度がこの範囲であると、得られる本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐ポツ状汚れ性がより向上する。
【0058】
本発明においては、上記粗面化処理は、所望により機械的粗面化処理および化学エッチング処理を施した後に、電気化学的粗面化処理を施す処理であるが、機械的粗面化処理を行わずに電気化学的粗面化処理を施す場合にも、電気化学的粗面化処理の前に、カセイソーダ等のアルカリ水溶液を用いて化学エッチング処理を施すことができる。これにより、アルミニウム合金板の表面近傍に存在する不純物等を除去することができる。
【0059】
電気化学的粗面化処理は、アルミニウム合金板の表面に微細な凹凸(ピット)を付与することが容易であるため、印刷性の優れた平版印刷版を作るのに適している。
電気化学的粗面化処理は、硝酸または塩酸を主体とする水溶液中で、直流または交流を用いて行われる。
【0060】
電気化学的粗面化処理により、アルミニウム合金板の表面に、平均直径約0.5〜20μmのクレーター状またはハニカム状のピットを30〜100%の面積率で生成することができる。適当な性状のピットは、平版印刷版の耐苛酷汚れと耐刷性を向上させる作用がある。本発明の平版印刷版用支持体においては、この電気化学的粗面化処理の諸条件は、特に限定されず、一般的な条件で行うことができる。
【0061】
また、電気化学的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を行うのが好ましい。電気化学的粗面化処理後のアルミニウム合金板の表面には、スマットや金属間化合物が存在する。電気化学的粗面化処理の後に行われる化学エッチング処理においては、特にスマットを効率よく除去するため、まず、アルカリ溶液を用いて化学エッチング処理(アルカリエッチング処理)をするのが好ましい。アルカリ溶液を用いた化学エッチング処理の諸条件は、処理温度は20〜80℃であるのが好ましく、また、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。また、アルカリ溶液中にアルミニウムイオンを含有するのが好ましい。
【0062】
更に、電気化学的粗面化処理後にアルカリ溶液を用いる化学エッチング処理を行った後、それにより生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(デスマット処理)を行うのが好ましい。
デスマット処理の諸条件は、処理温度は20〜80℃であるのが好ましく、また、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。酸性溶液としては、硝酸、塩酸、硫酸等を主体とする液が用いられる。
【0063】
また、電気化学的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を行わない場合においても、スマットを効率よく除去するため、デスマット処理を行うのが好ましい。
デスマット処理の諸条件は、処理温度は20〜80℃であるのが好ましく、また、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。酸性溶液としては、硝酸、塩酸、硫酸等を主体とする液が用いられ、中でも塩酸を主体とする液が好ましい。
【0064】
本発明においては、上述した化学エッチング処理は、いずれも浸せき法、シャワー法、塗布法等により行うことができ、特に限定されない。
【0065】
本発明においては、上記粗面化処理における粗面化処理量(B)は、1〜10μmであるのが好ましく、2〜8μmであるのがより好ましく、3〜6μmであるのが特に好ましい。粗面化処理量(B)が、この範囲であると、粗面化が十分となり、性能(例えば、耐刷性)が良好となり、また、後述する下記式(i)を満たしやすくなる。
ここで、粗面化処理量(B)とは、上記粗面化処理を施す前のアルミニウム合金板の板厚と上記粗面化処理後のアルミニウム合金板の板厚との差、すなわち、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、エッチング処理、デスマット処理等を含む上記粗面化処理によって減じる板厚の和である。
【0066】
(陽極酸化処理)
上記陽極酸化処理に使用される電解質は、多孔質酸化皮膜を形成することができるものであれば特に限定されず、一般には、硫酸、リン酸、シュウ酸、クロム酸、またはこれらの混合物が用いられる。
また、電解質の濃度は、電解質の種類等によって適宜決められる。
更に、陽極酸化処理の条件は、電解質によってかなり変動するので特に限定されないが、一般的には電解質の濃度が1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度1〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜300秒であればよい。
【0067】
本発明においては、上記陽極酸化処理により形成される陽極酸化皮膜の膜厚(C)は、0.1〜2.5μmであるのが好ましく、0.3〜1.5μmであるのがより好ましい。陽極酸化皮膜の膜厚がこの範囲であると、得られるアルミニウム合金板を用いた平版印刷版の耐キズ性が良好となり、また、後述する下記式(i)を満たしやすくなる。
【0068】
(親水化処理)
本発明においては、上記陽極酸化処理を施した後に、親水化処理を施すのが好ましい。
親水化処理としては、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、米国特許第3,860,426号明細書に記載されているように、水溶性金属塩(例えば、酢酸亜鉛)を含む親水性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)の下塗層を設ける処理、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有する水溶性重合体を下塗りする処理が挙げられる。
【0069】
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を用いた下塗りによる処理も挙げられる。
更に、特開昭60−64352号公報に記載されている酸性染料による着色を行うこともできる。
【0070】
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0071】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記
載されている方法および手順に従って行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0072】
アルカリ金属ケイ酸塩処理によって吸着するSi量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は1.0〜30mg/m2であるのが好ましい。
このアルカリ金属ケイ酸塩処理により、平版印刷版用支持体の表面のアルカリ現像液に対する耐溶解性向上の効果が得られ、アルミニウム成分の現像液中への溶出が抑制されて、現像液の疲労に起因する現像カスの発生を低減することができる。
【0073】
また、親水性の下塗層の形成による親水化処理は、特開昭59−101651号公報および特開昭60−149491号公報に記載されている条件および手順に従って行うこともできる。
この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホ基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホ基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基およびスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0074】
一方、本発明においては、上述したアルミニウム合金板に対して、以下のA〜C態様に示す各処理を以下に示す順に施して得られる平版印刷版用支持体であるのが好ましい。なお、以下の各処理の間に水洗を行うことが望ましい。ただし、連続して行う2つの工程(処理)が同じ組成の液を使用する場合は水洗を省いてもよい。
【0075】
(A態様)
(1)機械的粗面化処理
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(4)硝酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(7)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(8)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(9)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第3デスマット処理)
(10)陽極酸化処理
(11)親水化処理
【0076】
(B態様)
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(12)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(10)陽極酸化処理
(11)親水化処理
【0077】
(C態様)
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(4)硝酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(7)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(8)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(9)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第3デスマット処理)
(10)陽極酸化処理
(11)親水化処理
【0078】
ここで、上記(1)〜(12)における機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、化学エッチング処理、陽極酸化処理および親水化処理は、上述した処理方法、条件と同様の方法で行うことができるが、以下に説明する処理方法、条件で施すのが好ましい。
また、本発明の平版印刷版用支持体に特有のピット形状を形成させるには、以下に説明する硝酸水溶液中で電気化学的粗面化処理を行った後、塩酸水溶液中で電気化学的粗面化処理を行う必要がある。
【0079】
機械的粗面化処理は、毛径が0.2〜1.61mmの回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給されるスラリー液で機械的に粗面化処理するのが好ましい。
研磨剤としては公知の物が使用できるが、珪砂、石英、水酸化アルミニウムまたはこれらの混合物が好ましい。特開平6−135175、特公昭50−40047に詳しく記載されている。
スラリー液の比重は1.05〜1.3が好ましい。勿論、スラリー液を吹き付ける方式、ワイヤーブラシを用いる方式、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方式などを用いてもよい。その他の方式としては、特開昭55−074898、特開昭61ー162351、特開昭63−104889等に記載されている。
【0080】
アルカリ水溶液中での化学エッチング処理に用いるアルカリ水溶液の濃度は1〜30質量%が好ましく、アルミニウムはもちろんアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜10質量%含有していてよい。
アルカリ水溶液としては、特に苛性ソーダを主体とする水溶液が好ましい。液温は常温〜95℃で、1〜120秒間処理するのが好ましい。
エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0081】
第1アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.5〜30g/m2であるのが好ましく、1.0〜20g/m2であるのがより好ましく、3.0〜15g/m2であるのが更に好ましい。
第2アルカリエッチング処理においては、アルミニウム板の溶解量は0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.1〜4g/m2であるのがより好ましく、0.2〜1.5g/m2であるのが更に好ましい。
第3アルカリエッチング処理においては、アルミニウム板の溶解量は0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.01〜0.8g/m2であるのがより好ましく、0.02〜0.3g/m2であるのが更に好ましい。
【0082】
酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1〜第3デスマット処理)では、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2以上の酸を含む混酸が好適に用いられる。
酸性水溶液の濃度は0.5〜60質量%が好ましい。
また、酸性水溶液中にはアルミニウムはもちろんアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜5質量%が溶解していてもよい。
また、液温は常温から95℃で実施され、処理時間は1〜120秒が好ましい。デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0083】
電気化学的粗面化処理に用いられる水溶液について説明する。
第1電気化学的粗面化処理で用いる硝酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/リットルの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/リットル〜飽和まで添加して使用することができる。
また、硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/リットルとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
【0084】
一方、第2電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/リットルの塩酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/リットル〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/リットルとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。次亜塩素酸を添加してもよい。
【0085】
一方、塩酸水溶液中での電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/リットルの塩酸水溶液に、硫酸を0〜30g/リットル添加して使用することができる。また、この溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/リットル〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中に、アルミニウムイオンが3〜50g/リットルとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。次亜塩素酸を添加してもよい。
【0086】
電気化学的粗面化処理の交流電源波形は、サイン波、矩形波、台形波、三角波などを用いることができる。周波数は0.1〜250Hzが好ましい。
【0087】
図2は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図2において、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流が0からピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流である。台形波において、電流が0からピークに達するまでの時間tpは1〜10msecが好ましい。電源回路のインピーダンスの影響のため、tpが1未満であると電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる。10msecより大きくなると、電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり均一な粗面化が行われにくくなる。電気化学的な粗面化に用いる交流の1サイクルの条件が、アルミニウム板のアノード反応時間taとカソード反応時間tcの比tc/taが1〜20、アルミニウム板がアノード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaの比Qc/Qaが0.3〜20、アノード反応時間taが5〜1000msec、の範囲にあるのが好ましい。tc/taは2.5〜15であるのがより好ましい。Qc/Qaは2.5〜15であるのがより好ましい。電流密度は台形波のピーク値で電流のアノードサイクル側Ia、カソードサイクル側Icともに10〜200A/dm2が好ましい。Ic/Iaは0.3〜20の範囲にあるのが好ましい。電気化学的な粗面化が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和は25〜1000C/dm2が好ましい。
【0088】
本発明においては、交流を用いた電気化学的な粗面化に用いる電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型など公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液はアルミニウムウェブの進行とパラレルでもカウンターでもよい。ひとつの電解槽には1個以上の交流電源が接続することができる。電解槽は2個以上を用いることもできる。
【0089】
交流を用いた電気化学的な粗面化には図3に示した装置を用いることができる。
図3は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図3において、50は主電解槽、51は交流電源、52はラジアルドラムローラ、53a,53bは主極、54は電解液供給口、55は電解液、56は補助陽極、60は補助陽極槽、Wはアルミニウム板である。電解槽を2つ以上用いるときには電解条件は同じでもよいし異なっていてもよい。
アルミニウム板Wは主電解槽50中に浸漬して配置されたラジアルドラムローラ52に巻装され、搬送過程で交流電源51に接続する主極53a、53bにより電解処理される。電解液55は電解液供給口54からスリット56を通じてラジアルドラムローラ52と主極53a、53bとの間の電解液通路57に供給される。主電解槽50で処理されたアルミニウム板Wは次いで補助陽極槽60で電解処理される。この補助陽極槽60には補助陽極58がアルミニウム板Wと対向配置されており、電解液55が補助陽極58とアルミニウム板Wとの間の空間を流れるように供給される。
【0090】
一方、電気化学的粗面化処理(第1および第2電気化学的粗面化処理)では、アルミニウム板とこれに対向する電極間に直流電流を加え、電気化学的に粗面化する方法であってもよい。
電解液は、公知の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に使用するものを用いることができる。温度は10〜80℃が好ましい。直流を用いた電気化学的な粗面化に用いる処理装置は公知の直流を用いたものを使用することができるが、特開平1−141094に記載されているように一対以上の陽極と陰極を交互に並べた装置を用いるのが好ましい。公知の装置の一例としては特願平5−68204、特願平6−205657、特願平6−21050、特開昭61−19115、特公昭57−44760などに記載されている。また、アルミニウム板に接触するコンダクタロールと、これに対向する陰極との間に、直流電流を加え、アルミニウム板を陽極にして電気化学的な粗面化処理を行ってもよい。電解処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。電気化学的な粗面化に使用する直流はリップル率が20%以下の直流を用いるのが好ましい。電流密度は10〜200A/dm2が好ましく、アルミニウム板が陽極時の電気量は25〜1000C/dm2が好ましい。陽極はフェライト、酸化イリジウム、白金、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウムなどのバルブ金属にクラッドまたはメッキしたものなど公知の酸素発生用電極から選定して用いることが出来る。陰極はカーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレスや燃料電池用陰極に用いる電極から選定して用いることができる。
【0091】
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法は、上述した各処理工程における処理が、下記式(i)を満たす製造方法である。
【0092】
【数3】

【0093】
上記式(i)中、Xは、上記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(mm)を表し、Yは、上記冷間圧延工程後の板厚(mm)を表し、Aは、上記面削工程における面削量(mm)を表す。また、Bは、上記粗面化処理による粗面化処理量(μm)を表し、Cは、陽極酸化皮膜の膜厚(μm)を表す。なお、Bは、上記粗面化処理を施す前後のアルミニウム合金板の厚さの差から算出した値である。
【0094】
ここで、上記式(i)中、「(X−A)/Y」は、上記熱間圧延工程および上記冷間圧延工程で圧延した圧延率を表し、これと「(B+C)×10-3」との積は、上記冷間圧延処理工程の後に施した処理に由来する粗面化処理量および陽極酸化皮膜の圧延前の厚さに相当する値を表す。
そのため、「(X−A)/Y」×「(B+C)×10-3」+「A」で表わされるZは、陽極酸化皮膜およびアルミニウム合金板(素地)の界面と、上記半連続鋳造工程後の鋳塊表面との距離に相当するものとなる。
【0095】
[平版印刷版用支持体]
本発明の平版印刷版用支持体は、上述した本発明の平版印刷版用支持体の製造方法により得られる平版印刷版用支持体であり、上述した各処理工程における処理が上記式(i)を満たすことにより、得られる本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐ポツ状汚れ性が良好となる。
これは、上記半連続鋳造工程後の鋳塊表面から4〜20mmは金属間化合物粒子が小さく、得られる本発明の平版印刷版用支持体における陽極酸化皮膜およびアルミニウム合金板の界面に存在するAl−Fe系金属間化合物の密度が低く、具体的には3000個/mm2程度以下になり、アルミニウム合金板の腐食の起点が減少するためであると考えられる。
【0096】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版用支持体は、画像記録層を設けることにより本発明の平版印刷版原版とすることができる。
【0097】
<画像記録層>
本発明の平版印刷版原版に用いることができる画像記録層は、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能なものであり、具体的には、赤外線吸収剤と、重合開始剤と、重合性化合物を有し、赤外線の照射により記録可能な画像記録層であるのが好ましい。
本発明の平版印刷版原版においては、赤外線の照射により画像記録層の露光部が硬化して疎水性(親油性)領域を形成し、かつ、印刷開始時に未露光部が湿し水、インキまたは湿し水とインキとの乳化物によって支持体上から速やかに除去される。
以下、画像記録層の各構成成分について説明する。
【0098】
(赤外線吸収剤)
本発明の平版印刷版原版を、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源として画像形成する場合には、通常、赤外線吸収剤を用いる。
赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)に電子移動/エネルギー移動する機能を有する。
本発明において使用することができる赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料または顔料である。
【0099】
染料としては、市販の染料や、例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。
具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等の公報に記載されているシアニン染料;特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の各公報に記載されているナフトキノン染料;特開昭58−112792号公報等に記載されているスクワリリウム色素;英国特許第434,875号明細書に記載されているシアニン染料;等を挙げることができる。
【0100】
また、染料として好ましい別の例として、米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)および(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0101】
一方、染料として好ましい別の例として、米国特許第5,156,938号明細書に記載されている近赤外吸収増感剤も好適に用いることができ、具体的には、米国特許第3,881,924号明細書に記載されている置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩;特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号明細書)に記載されているトリメチンチアピリリウム塩;特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号の各公報に記載されているピリリウム系化合物;特開昭59−216146号公報に記載されているシアニン色素;米国特許第4,283,475号明細書に記載されているペンタメチンチオピリリウム塩;特公平5−13514号、同5−19702号の各公報に記載されているピリリウム化合物;等も好適に用いることができる。
【0102】
また、染料として好ましい別の例として、赤外線吸収色素も好適に用いることができ、その具体例としては、以下に例示するような特開2002−278057号公報に記載されている特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0103】
【化1】

【0104】
上記で例示した染料のうち、特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(i)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0105】
【化2】

【0106】
一般式(i)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1または以下に示す基を表す。
ここで、X2は酸素原子、窒素原子、または硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ハロゲン原子、セレン原子を示す。また、X-は、後述するZ-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0107】
【化3】

【0108】
1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1およびR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環または6員環を形成していることが特に好ましい。
【0109】
Ar1およびAr2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環およびナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数12個以下の炭化水素基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が最も好ましい。
また、Y1およびY2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。
また、R3およびR4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられ、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が最も好ましい。
また、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。
また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(i)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl、Br等)、過塩素酸イオン(ClO4)、テトラフルオロボレートイオン(BF4)、ヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6)、およびスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、およびアリールスルホン酸イオンである。
【0110】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(i)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969公報の段落番号[0017]から[0019]に記載されたものを挙げることができる。
また、特に好ましい他の例としてさらに、上述した特開2002−278057号公報に記載されている特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0111】
一方、顔料としては、例えば、市販の顔料およびカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0112】
顔料の種類としては、例えば、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。
具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。
これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。
【0113】
これらの顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。
表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。
上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)および「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0114】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。この範囲で、顔料分散物の画像記録層塗布液中での良好な安定性と画像記録層の良好な均一性が得られる。
【0115】
顔料を分散する方法としては、インキ製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0116】
これらの赤外線吸収剤は、他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよいが、ネガ型平版印刷版原版を作製した際に、画像記録層の波長760nm〜1200nmの範囲における極大吸収波長での吸光度が、反射測定法で0.3〜1.2の範囲にあるように添加する。好ましくは、0.4〜1.1の範囲である。この範囲で、画像記録層の深さ方向での均一な重合反応が進行し、良好な画像部の膜強度と平版印刷版用支持体に対する密着性が得られる。
画像記録層の吸光度は、画像記録層に添加する赤外線吸収剤の量と画像記録層の厚みにより調整することができる。吸光度の測定は常法により行うことができる。測定方法としては、例えば、アルミニウム等の反射性の支持体上に、乾燥後の塗布量が平版印刷版として必要な範囲において適宜決定された厚みの画像記録層を形成し、反射濃度を光学濃度計で測定する方法、積分球を用いた反射法により分光光度計で測定する方法等が挙げられる。
【0117】
(重合開始剤)
上記重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物であり、本発明においては、熱によりラジカルを発生する化合物(熱ラジカル発生剤)を使用するのが好ましい。
上記重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。
【0118】
ラジカルを発生する化合物としては、具体的には、例えば、有機ハロゲン化物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ酸塩化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物等が挙げられる。
【0119】
上記有機ハロゲン化物としては、具体的には、若林等、「Bull Chem.SocJapan」42、2924(1969)、米国特許第3,905,815号明細書、特公昭46−4605号、特開昭48−36281号、特開昭55−32070号、特開昭60−239736号、特開昭61−169835号、特開昭61−169837号、特開昭62−58241号、特開昭62−212401号、特開昭63−70243号、特開昭63−298339号の各公報、M.P.Hutt“Jurnal of Heterocyclic Chemistry”1(No3),(1970)」等に記載されている化合物等が挙げられ、特に、トリハロメチル基が置換したオキサゾール化合物およびS−トリアジン化合物が好適に挙げられる。
【0120】
より好適には、すくなくとも一つのモノ、ジ、またはトリハロゲン置換メチル基がs−トリアジン環に結合したs−トリアジン誘導体、具体的には、例えば、2,4,6−トリス(モノクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2―n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−エポキシフェニル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−〔1−(p−メトキシフェニル)−2,4−ブタジエニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−i−プロピルオキシスチリル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ナトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ベンジルチオ−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(ジブロモメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メトキシ−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン等が挙げられる。
【0121】
上記カルボニル化合物としては、具体的には、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−ヒドトキシ−2−メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル−(p−イソプロピルフェニル)ケトン、1−ヒドロキシ−1−(p−ドデシルフェニル)ケトン、2−メチル(4′−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノ−1−プロパノン、1,1,1−トリクロロメチル−(p−ブチルフェニル)ケトン等のアセトフェノン誘導体;チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸エステル誘導体;等を挙げることができる。
【0122】
上記アゾ系重合開始剤としては、例えば、特開平8−108621号公報に記載されているアゾ化合物等を使用することができる。
【0123】
上記有機過酸化物としては、具体的には、例えば、トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−オキサノイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシオクタノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、ターシルカーボネート、3,3′,4,4′−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
【0124】
上記メタロセン化合物としては、例えば、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報、特開平5−83588号公報に記載されている種々のチタノセン化合物、具体的には、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル;特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報に記載されている鉄−アレーン錯体;等が挙げられる。
【0125】
上記ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、特公平6−29285号公報、米国特許第3,479,185号、同第4,311,783号、同第4,622,286号等の各明細書に記載されている種々の化合物、具体的には、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル))4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイジダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0126】
上記有機ホウ酸塩化合物としては、具体的には、例えば、特開昭62−143044号、特開昭62−150242号、特開平9−188685号、特開平9−188686号、特開平9−188710号、特開2000−131837号、特開2002−107916号の各公報、特許第2764769号明細書、特開2002−116539号公報、および、Kunz,Martin”Rad Tech’98.Proceeding April 19−22,1998,Chicago”等に記載される有機ホウ酸塩;特開平6−157623号公報、特開平6−175564号公報、特開平6−175561号公報に記載されている有機ホウ素スルホニウム錯体あるいは有機ホウ素オキソスルホニウム錯体;特開平6−175554号公報、特開平6−175553号公報に記載されている有機ホウ素ヨードニウム錯体;特開平9−188710号公報に記載されている有機ホウ素ホスホニウム錯体;特開平6−348011号公報、特開平7−128785号公報、特開平7−140589号公報、特開平7−306527号公報、特開平7−292014号公報等に記載されている有機ホウ素遷移金属配位錯体;等が挙げられる。
【0127】
上記ジスルホン化合物としては、例えば、特開昭61−166544号公報、特開2003−328465号公報等に記載されている化合物が挙げられる。
【0128】
上記オキシムエステル化合物としては、例えば、J.C.S. Perkin II (1979 )1653-1660)J.C.S.Perkin II (1979)156-162、Journal of Photopolymer Science andTechnology(1995)202-232、特開2000−66385号公報に記載されている化合物、特開2000−80068号公報に記載されている化合物、具体的には下記の構造式で示される化合物が挙げられる。
【0129】
【化4】

【0130】
上記オニウム塩化合物としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)に記載されているジアゾニウム塩;米国特許第4,069,055号明細書、特開平4−365049号公報等に記載されているアンモニウム塩;米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載されているホスホニウム塩;欧州特許第104、143号、米国特許第339,049号、同第410,201号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号の各公報に記載されているヨードニウム塩;欧州特許第370,693号、同390,214号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同161,811号、同410,201号、同339,049号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載されているスルホニウム塩;J.V.Crivello et al,Macromolecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載されているセレノニウム塩;C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載されているアルソニウム塩;等のオニウム塩等が挙げられる。
【0131】
これらのオニウム塩のうち、反応性、安定性の面から上記オキシムエステル化合物あるいはジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩が好適なものとして挙げられる。
本発明においては、これらのオニウム塩は酸発生剤ではなく、イオン性のラジカル重合開始剤として機能する。
また、こられのオニウム塩は、下記一般式(RI−I)〜(RI−III)で表されるオニウム塩が好適に用いられる。
【0132】
【化5】

【0133】
式(RI−I)中、Ar11は置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表す。好ましい置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
一方、Z11-は1価のアニオン(陰イオン)を表し、その具体例としては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl、Br等)、過塩素酸イオン(ClO4)、ヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6)、テトラフルオロボレートイオン(BF4)、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。中でも、安定性の観点から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオンであるのが好ましい。
【0134】
式(RI−II)中、Ar21およびAr22は各々独立に置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表す。好ましい置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
一方、Z21-は1価のアニオン(陰イオン)を表し、その具体例としては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl、Br等)、過塩素酸イオン(ClO4)、ヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6)、テトラフルオロボレートイオン(BF4)、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。中でも、安定性、反応性の観点から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンであるのが好ましい。
【0135】
式(RI−III)中、R31、R32およびR33は各々独立に置換基を1〜6有していてもよい炭素数20以下のアリール基またはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、好ましくは反応性、安定性の面から、アリール基であることが望ましい。好ましい置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基またはアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
一方、Z31-は1価のアニオン(陰イオン)を表し、その具体例としては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl、Br等)、過塩素酸イオン(ClO4)、ヘキサフルオロフォスフェートイオン(PF6)、テトラフルオロボレートイオン(BF4)、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。中でも、安定性、反応性の観点から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンであるのが好ましい。より好ましいものとして、特開2001−343742号公報に記載されているカルボン酸イオン、特に好ましいものとして特開2002−148790号公報に記載されているカルボン酸イオンが挙げられる。
以下に、重合開始剤として好適に用いられるオニウム塩の例を挙げるが、本発明はこれら制限されるものではない。
【0136】
【化6】

【0137】
【化7】

【0138】
【化8】

【0139】
【化9】

【0140】
【化10】

【0141】
【化11】

【0142】
【化12】

【0143】
【化13】

【0144】
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。
この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。これらの重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの重合開始剤は他の成分と同一の層に添加してもよいし、別の層を設けそこへ添加してもよい。
【0145】
(重合性化合物)
上記重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選択される。
本発明においては、このような化合物は本発明の技術分野において広く知られるものを特に限定無く用いることができる。また、このような化合物は、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態をもつ。
モノマーおよびその共重合体としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類等が挙げられ、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が好適に用いられる。
また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、および単官能もしくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に用いられる。
また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、さらにハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能もしくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。
また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0146】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーとしては、具体的には、例えば、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート等が挙げられる。
【0147】
メタクリル酸エステルとしては、具体的には、例えば、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等が挙げられる。
【0148】
イタコン酸エステルとしては、具体的には、例えば、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等が挙げられる。
クロトン酸エステルとしては、具体的には、例えば、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等が挙げられる。
イソクロトン酸エステルとしては、具体的には、例えば、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等が挙げられる。
マレイン酸エステルとしては、具体的には、例えば、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等が挙げられる。
【0149】
その他のエステルとしては、例えば、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号の各公報に記載されている脂肪族アルコール系エステル類;特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号の各公報に記載されている芳香族系骨格を有するもの;特開平1−165613号公報に記載されているアミノ基を含有するもの;等も好適に用いられる。さらに、上述したエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0150】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーとしては、具体的には、例えば、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等が挙げられる。
その他の好ましいアミド系モノマーとしては、例えば、特公昭54−21726号公報に記載されているシクロへキシレン構造を有すもの等を挙げることができる。
【0151】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、その具体例としては、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0152】
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (A)
(ただし、R4およびR5は、HまたはCH3を示す。)
【0153】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号の各公報に記載されているウレタンアクリレート類;特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号の各公報に記載されているエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類;等も好適に挙げられる。
さらに、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号の各公報に記載されている、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物を得ることができる。
【0154】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号等の各公報に記載されているポリエステルアクリレート類;エポキシ樹脂とアクリル酸もしくはメタクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類;等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。
また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号の各公報に記載されている特定の不飽和化合物;特開平2−25493号公報に記載されているビニルホスホン酸系化合物;等も挙げることができる。
また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。
さらに、日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0155】
これらの付加重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、さらに、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、画像記録層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、付加重合化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。
付加重合性化合物は、画像記録層中の不揮発性成分に対して、好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。そのほか、付加重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、さらに場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も実施しうる。
【0156】
(重合性反応基を有すポリマー微粒子)
本発明においては、画像記録層は、上述した赤外線吸収剤、重合開始剤および重合性化合物の他に、重合性反応基を有すポリマー微粒子を含有することが好ましい。
重合性反応基を有するポリマー微粒子としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基またはアリル基を有するモノマーをポリマー鎖中に導入させたものを挙げることができる。これらの官能基のポリマー微粒子への導入は、重合時に行ってもよいし、重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0157】
重合時に導入する場合は、これらの重合性反応基を有するモノマーを乳化重合、懸濁重合、あるいはウレタン化などの重縮合反応させることが好ましい。必要に応じて、重合性反応基をもたないモノマーを共重合成分として加えてもかまわない。
【0158】
そのような官能基を有するモノマーとしては、具体的には、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート、2−イソシアネートエチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、2官能アクリレート、2官能メタクリレート等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0159】
重合反応性官能基の導入を重合後に行う場合に用いる高分子反応としては、例えば、国際公開第96−034316号パンフレットに記載されている高分子反応を挙げることができる。
【0160】
上記の重合性反応基を有するポリマー微粒子は、ポリマー微粒子同士が熱により合体してもよい。
また、このポリマー微粒子の表面は親水性で、水に分散するものが特に好ましい。ポリマー微粒子表面を親水性にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーあるいはオリゴマー、または親水性低分子化合物をポリマー微粒子表面に吸着させてやればよいが、その方法はこれらに限定されるものではない。
更に、このポリマー微粒子の平均粒径は、0.01〜10μmが好ましいが、その中でも0.05〜2μmがさらに好ましく、特に0.1〜1μmが最適である。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪く、また小さ過ぎると経時安定性が悪くなってしまう。
【0161】
また、重合性反応基を有するポリマー微粒子の形態として、重合性反応基を有する化合物との共有結合を形成せずとも、重合性反応基を有する化合物を内包したマイクロカプセルやミクロゲルであってもよい。
【0162】
すなわち、本発明においては、上述した画像記録層構成成分を画像記録層に含有させる方法として、いくつかの態様を用いることができる。
一つは、例えば、特開2002−287334号公報に記載のごとく、該構成成分を適当な溶媒に溶解して塗布する分子分散型画像記録層である。
もう一つの態様は、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、該構成成分の全てまたは一部をマイクロカプセルに内包させて画像記録層に含有させるマイクロカプセル型画像記録層である。さらに、マイクロカプセル型画像記録層において、該構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。ここで、マイクロカプセル型画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。より良好な機上現像性を得るためには、画像記録層は、マイクロカプセル型画像記録層であることが好ましい。
【0163】
本発明に用いられる重合性反応基を有するポリマー微粒子の形態としてのマイクロカプセルまたはミクロゲルは、重合性反応基を有する化合物を内包する。この重合性反応基を有する化合物としては、上述した重合性化合物を限定なく使用することができる。
【0164】
画像記録層構成成分をマイクロカプセル化する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、マイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2800457号、同第2800458号明細書に記載されているコアセルベーションを利用した方法;米国特許第3287154号の各明細書、特公昭38−19574号、同42−446号の各公報に記載されている界面重合法による方法;米国特許第3418250号、同第3660304号明細書に記載されているポリマーの析出による方法;米国特許第3796669号明細書に記載されているイソシアナートポリオール壁材料を用いる方法;米国特許第3914511号明細書に記載されているイソシアナート壁材料を用いる方法;米国特許第4001140号、同第4087376号、同第4089802号の各明細書に記載されている尿素―ホルムアルデヒド系または尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法;米国特許第4025445号明細書に記載されているメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法;特公昭36−9163号、同51−9079号の各公報に記載されているモノマー重合によるin situ法;英国特許第930422号、米国特許第3111407号明細書に記載されているスプレードライング法;英国特許第952807号、同第967074号の各明細書に記載されている電解分散冷却法;等があるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
本発明に用いられる好ましいマイクロカプセル壁は、3次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、およびこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレアおよびポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に、上記重合性反応基を有する化合物を導入してもよい。
【0166】
上記のマイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜10μmが好ましいが、0.05〜2μmがさらに好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪く、また小さ過ぎると経時安定性が悪くなってしまう。
このようなマイクロカプセルは、カプセル同志が熱により合体してもよいし、合体しなくともよい。
【0167】
(バインダーポリマー)
本発明においては、画像記録層には、画像記録層の皮膜形成性を向上させるためバインダーポリマーを用いることができる。
バインダーポリマーは従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーとしては、具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。
バインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。バインダーポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の主鎖中または側鎖中に導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよい。
分子の主鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーとしては、例えば、ポリ−1,4−ブタジエン、ポリ−1,4−イソプレン等等が挙げられる。
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を有するポリマーとしては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルまたはアミドのポリマーであって、エステルまたはアミドの残基(−COORまたはCONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0168】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)としては、具体的には、例えば、−(CH2nCR1=CR23、−(CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2nNH−CO−O−CH2CR1=CR23、−(CH2n−O−CO−CR1=CR23および(CH2CH2O)2−X(式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1とR2またはR3とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基としては、具体的には、例えば、−CH2CH=CH2(特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2CH2O−CH2CH=CH2、−CH2C(CH3)=CH2、−CH2CH=CH−C65、−CH2CH2OCOCH=CH−C65、−CH2CH2−NHCOO−CH2CH=CH2およびCH2CH2O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基としては、具体的には、例えば、−CH2CH=CH2、−CH2CH2−Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2CH2−OCO−CH=CH2が挙げられる。
【0169】
架橋性を有するバインダーポリマーは、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカルまたは重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接にまたは重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。または、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0170】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と良好な保存安定性が得られる。
【0171】
また、画像記録層未露光部の機上現像性向上の観点から、バインダーポリマーは、インキおよび/または湿し水に対する溶解性または分散性が高いことが好ましい。インキに対する溶解性または分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親油的な方が好ましく、湿し水に対する溶解性または分散性を向上させるためには、バインダーポリマーは、親水的な方が好ましい。このため、本発明においては、親油的なバインダーポリマーと親水的なバインダーポリマーを併用することも有効である。
【0172】
親水的なバインダーポリマーとしては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性基を有するものが好適に挙げられる。
【0173】
具体的には、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、デンプン誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシピロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、加水分解度が60モル%以上、好ましくは80モル%以上である加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、アルコール可溶性ナイロン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンとのポリエーテル等が挙げられる。
【0174】
バインダーポリマーは、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
【0175】
バインダーポリマーは、従来公知の方法により合成することができる。合成する際に用いられる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ジメチルスルホキシド、水が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いられる。
バインダーポリマーを合成する際に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤等の公知の化合物を用いることができる。
【0176】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であり、5〜80質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。
また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で0.5/1〜4/1となる量で用いるのが好ましい。
【0177】
(界面活性剤)
本発明においては、画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0178】
ノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。
【0179】
アニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。
【0180】
カチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。
両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類等が挙げられる。
【0181】
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
【0182】
さらに好ましい界面活性剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。
このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基および親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するウレタン等のノニオン型;が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号および同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
【0183】
界面活性剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0184】
(着色剤)
本発明においては、画像記録層には、さらに必要に応じてこれら以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)、特開昭62−293247号に記載されている染料等を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。
これらの着色剤は、画像形成後、画像部と非画像部の区別がつきやすいので、添加する方が好ましい。なお、添加量は、画像記録材料全固形分に対し、0.01〜10質量%の割合である。
【0185】
(焼き出し剤)
本発明においては、画像記録層には、焼き出し画像生成のため、酸またはラジカルによって変色する化合物を添加することができる。
このような化合物としては、例えばジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、チアジン系、オキサジン系、キサンテン系、アンスラキノン系、イミノキノン系、アゾ系、アゾメチン系等の各種色素が有効に用いられる。
【0186】
具体的には、ブリリアントグリーン、エチルバイオレット、メチルグリーン、クリスタルバイオレット、ベイシックフクシン、メチルバイオレット2B、キナルジンレッド、ローズベンガル、メタニルイエロー、チモールスルホフタレイン、キシレノールブルー、メチルオレンジ、パラメチルレッド、コンゴーフレッド、ベンゾプルプリン4B、α−ナフチルレッド、ナイルブルー2B、ナイルブルーA、メチルバイオレット、マラカイドグリーン、パラフクシン、ビクトリアピュアブルーBOH[保土ケ谷化学(株)製]、オイルブルー#603[オリエント化学工業(株)製]、オイルピンク#312[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッド5B[オリエント化学工業(株)製]、オイルスカーレット#308[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドOG[オリエント化学工業(株)製]、オイルレッドRR[オリエント化学工業(株)製]、オイルグリーン#502[オリエント化学工業(株)製]、スピロンレッドBEHスペシャル[保土ケ谷化学工業(株)製]、m−クレゾールパープル、クレゾールレッド、ローダミンB、ローダミン6G、スルホローダミンB、オーラミン、4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシアニリノ−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノナフトキノン、2−カルボキシステアリルアミノ−4−p−N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノ−フェニルイミノナフトキノン、1−フェニル−3−メチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン、1−β−ナフチル−4−p−ジエチルアミノフェニルイミノ−5−ピラゾロン等の染料やp,p',p"−ヘキサメチルトリアミノトリフェニルメタン(ロイコクリスタルバイオレット)、Pergascript Blue SRB(チバガイギー社製)等のロイコ染料等が挙げられる。
【0187】
上記の他に、感熱紙や感圧紙用の素材として知られているロイコ染料も好適なものとして挙げられる。具体的には、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、2−(N−フェニル−N−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチル)アミノ−フルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−エチル−p−トルイジノ)フルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−5−メチル−7−(N,N−ジベンジルアミノ)−フルオラン、3−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メチルー7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−(4−クロロアニリノ)フルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−クロロフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7−ベンジルアミノフルオラン、3−(N,N−ジエチルアミノ)−7,8−ベンゾフロオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N,N−ジブチルアミノ)−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピロリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−ザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド等が挙げられる。
【0188】
酸またはラジカルによって変色する染料の好適な添加量は、それぞれ、画像記録層固形分に対して0.01〜10質量%の割合である。
【0189】
(重合禁止剤)
本発明においては、画像記録層には、画像記録層の製造中または保存中においてラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するために、少量の熱重合防止剤を重合禁止剤として添加するのが好ましい。
熱重合防止剤としては、具体的には、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が好適に挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.01〜約5質量%であるのが好ましい。
【0190】
(高級脂肪酸誘導体等)
本発明においては、画像記録層には、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、画像記録層の全固形分に対して、約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0191】
(可塑剤)
本発明においては、画像記録層には、機上現像性を向上させるために、可塑剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステル等のグリコールエステル類;トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエート等の脂肪族二塩基酸エステル類;ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチル等が好適に挙げられる。
可塑剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、約30質量%以下であるのが好ましい。
【0192】
(無機微粒子)
本発明においては、画像記録層には、画像部の硬化皮膜強度向上および非画像部の機上現像性向上のために、無機微粒子を含有してもよい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムまたはこれらの混合物が好適に挙げられる。これらは光熱変換性でなくても、皮膜の強化、表面粗面化による界面接着性の強化等に用いることができる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5μm〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲であると、画像記録層中に安定に分散して、画像記録層の膜強度を十分に保持し、印刷時の汚れを生じにくい親水性に優れる非画像部を形成することができる。
上述したような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物等の市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、40質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましい。
【0193】
(低分子親水性化合物)
本発明においては、画像記録層には、機上現像性向上のため、親水性低分子化合物を含有してもよい。
親水性低分子化合物としては、例えば、水溶性有機化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類およびそのエーテルまたはエステル誘導体類;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ類;トリエタノールアミン、ジエタノールアミンモノエタノールアミン等の有機アミン類およびその塩;トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類およびその塩;フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類およびその塩;酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類およびその塩;等が挙げられる。
【0194】
<画像記録層の形成>
画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散、または溶かして塗布液を調製し、塗布される。ここで、使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
画像記録層は、同一または異なる上記各成分を同一または異なる溶剤に分散、または溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
【0195】
また、塗布、乾燥後に得られる平版印刷版用支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/m2が好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0196】
<下塗り層>
本発明の平版印刷版原版においては、画像記録層と平版印刷版用支持体との間に下塗り層を設けてることが望ましい。
【0197】
(基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマー)
本発明においては、下塗り層は、基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーを含有することが好ましい。
基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーとしては、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、および、重合性反応基(架橋性基)を有するモノマーを共重合した下塗り用高分子樹脂を挙げることができる。
【0198】
上記高分子樹脂の必須成分の一つは、基板(親水性支持体表面)への吸着性基である。親水性支持体表面への吸着性の有無に関しては、例えば以下のような方法で判断できる。
試験化合物を易溶性の溶媒に溶解させた塗布夜を作製し、その塗布夜を乾燥後の塗布量が30mg/m2となるように支持体上に塗布・乾燥させる。次に試験化合物を塗布した支持体を、易溶性溶媒を用いて十分に洗浄した後、洗浄除去されなかった試験化合物の残存量を測定して支持体吸着量を算出する。ここで、残存量の測定は、残存化合物量を直接定量してもよいし、洗浄液中に溶解した試験化合物量を定量して算出してもよい。化合物の定量は、例えば蛍光X線測定、反射分光吸光度測定、液体クロマトグラフィー測定などで実施できる。支持体吸着性がある化合物は、上記のような洗浄処理を行っても1mg/m2以上残存する化合物である。
【0199】
親水性支持体表面への吸着性基は、親水性支持体表面に存在する物質(例えば、金属、金属酸化物)あるいは官能基(例えば、ヒドロキシル基)と、化学結合(例えば、イオン結
合、水素結合、配位結合、分子間力による結合)を引き起こすことができる官能基である。吸着性基は、酸基またはカチオン性基が好ましい。
酸基およびカチオン性基の具体例は、キレート剤の金属吸着性基の項で述べた酸基およびカチオン性基の具体例と同じものが挙げられる。
【0200】
吸着性基を有するモノマーの特に好ましい例としては、下記式(III)または(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0201】
【化14】

【0202】
上式において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数が1〜6のアルキル基である。R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数が1〜6のアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素原子数が1〜3のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子またはメチルであることが最も好ましい。R2およびR3は、水素原子であることが特に好ましい。Zは、親水性支持体表面に吸着する官能基である。
【0203】
式(III)において、Xは、酸素原子(−O−)またはイミノ(−NH−)である。Xは、酸素原子であることがさらに好ましい。
式(III)において、Lは、2価の連結基である。Lは、2価の脂肪族基(アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基)、2価の芳香族基(アリレン基、置換アリレン基)または2価の複素環基であるか、あるいはそれらと、酸素原子(−O−)、硫黄原子(−S−)、イミノ(−NH−)、置換イミノ(−NR−、Rは脂肪族基、芳香族基または複素環基)またはカルボニル(−CO−)との組み合わせであることが好ましい。
【0204】
脂肪族基は、環状構造または分岐構造を有していてもよい。脂肪族基の炭素原子数は、1〜20が好ましく、1〜15がさらに好ましく、1〜10が最も好ましい。脂肪族基は、不飽和脂肪族基よりも飽和脂肪族基の方が好ましい。脂肪族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、芳香族基および複素環基を含む。
【0205】
芳香族基の炭素原子数は、6〜20が好ましく、6〜15がさらに好ましく、6〜10が最も好ましい。芳香族基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、脂肪族基、芳香族基および複素環基を含む。
複素環基は、複素環として5員環または6員環を有することが好ましい。複素環に他の複素環、脂肪族環または芳香族環が縮合していてもよい。複素環基は、置換基を有していてもよい。置換基の例は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、オキソ(=O)、チオ(=S)、イミノ(=NH)、置換イミノ基(=N−R、Rは脂肪族基、芳香族基または複素環基)、脂肪族基、芳香族基および複素環基を含む。
【0206】
Lは、複数のポリオキシアルキレン構造を含む二価の連結基であることが好ましい。ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造であることがさらに好ましい。言い換えると、Lは、−(OCH2CH2)n−(nは、2以上の整数)を含むことが好ましい。
式(IV)において、Yは炭素原子または窒素原子である。Y=窒素原子でY上にLが連結し四級ピリジニウム基になった場合、それ自体が吸着性を示す事からZは必須ではなく、Z=Hでもよい。Lは式(III)の場合と同じ2価の連結基または単結合を表す。
【0207】
吸着性の官能基については、前述した通りである。
以下に、式(III)または(IV)で表される代表的な化合物の例を示す。
【0208】
【化15】

【0209】
下塗り用高分子樹脂の親水性基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ポリオキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホン酸基、リン酸基等が好適に挙げられる。なかでも高親水性を示すスルホン酸基が好ましい。
スルホン酸基を有するモノマーとしては、具体的には、例えば、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アリールスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(3−アクリロイルオキシプロピル)ブチルスルホン酸のナトリウム塩、アミン塩等が挙げられる。なかでも親水性能および合成の取り扱いから2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0210】
下塗り用高分子樹脂は、重合性反応基を有すことが好ましい。重合性反応基によって画像部との密着の向上が得られる。下塗り層用の高分子樹脂に架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の側鎖中に導入したり、高分子樹脂の極性置換基と対荷電を有する置換基とエチレン性不飽和結合を有する化合物で塩構造を形成させたりして導入することができる。
【0211】
分子の側鎖中にエチレン性不飽和結合を導入するためのモノマーとしては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルまたはアミドのモノマーであって、エステルまたはアミドの残基(−COORまたはCONHRのR)がエチレン性不飽和結合を有するモノマーを挙げることができる。
【0212】
エチレン性不飽和結合を有する残基(上記R)としては、具体的には、例えば、−(CH2)nCR1=CR23、−(CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2CH2O)nCH2CR1=CR23、−(CH2)nNH−CO−O−CH2CR1=CR23、−(CH2)n−O−CO−CR1=CR23、および(CH2CH2O)2−X(式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルコキシ基もしくはアリールオキシ基を表し、R1とR2またはR3とは互いに結合して環を形成してもよい。nは、1〜10の整数を表す。Xは、ジシクロペンタジエニル残基を表す。)を挙げることができる。
エステル残基としては、具体的には、例えば、−CH2CH=CH2(特公平7−21633号公報に記載されている。)、−CH2CHO−CH2CH=CH2、−CH2C(CH3)=CH2、−CH2CH=CH−C65、−CH2CH2OCOCH=CH−C65、−CH2CH2NHCOO−CH2CH=CH2、およびCH2CH2O−X(式中、Xはジシクロペンタジエニル残基を表す。)が挙げられる。
アミド残基としては、具体的には、例えば、−CH2CH=CH2、−CH2CH2O−Y(式中、Yはシクロヘキセン残基を表す。)、−CH2CH2OCO−CH=CH2が挙げられる。
【0213】
下塗り層用高分子樹脂中の重合性反応基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、高分子樹脂1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは1.0〜7.0mmol、最も好ましくは2.0〜5.5mmolである。この範囲で、良好な感度と汚れ性の両立、および良好な保存安定性が得られる。
【0214】
下塗り層用の高分子樹脂は、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
下塗り層用の高分子樹脂は、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のいずれでもよいが、ランダムポリマーであるのが好ましい。
【0215】
下塗り用高分子樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよく、キレート剤も単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。下塗り層用塗布液は、上記下塗り用の高分子樹脂とキレート剤を有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンなど)および/または水に溶解して得られる。下塗り層用塗布液には、赤外線吸収剤を含有させることもできる。
下塗り層塗布液を支持体に塗布する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜50mg/m2であるのがより好ましい。
【0216】
<保護層>
本発明の平版印刷版原版においては、画像記録層における傷等の発生防止、酸素遮断、高照度レーザー露光時のアブレーション防止のため、必要に応じて、画像記録層の上に保護層を設けることができる。
本発明においては、通常、露光を大気中で行うが、保護層は、画像記録層中で露光により生ずる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素、塩基性物質等の低分子化合物の画像記録層への混入を防止し、大気中での露光による画像形成反応の阻害を防止する。したがって、保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低いことであり、さらに、露光に用いられる光の透過性が良好で、画像記録層との密着性に優れ、かつ、露光後の機上現像処理工程で容易に除去することができるものであるのが好ましい。
このような特性を有する保護層については、以前より種々検討がなされており、例えば、米国特許第3、458、311号明細書および特公昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
【0217】
保護層に用いられる材料としては、例えば、比較的、結晶性に優れる水溶性高分子化合物が挙げられる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール(PVA)を主成分として用いると、酸素遮断性、現像除去性等の基本的な特性に対して最も良好な結果を与える。ポリビニルアルコールは、保護層に必要な酸素遮断性と水溶性を与えるための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテルまたはアセタールで置換されていてもよく、一部が他の共重合成分を有していてもよい。
【0218】
ポリビニルアルコールとしては、例えば、71〜100モル%加水分解された重合度300〜2400の範囲のものが好適に挙げられる。具体的には、例えば、(株)クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等が挙げられる。
【0219】
保護層の成分(PVAの選択、添加剤の使用等)、塗布量等は、酸素遮断性および現像除去性のほか、カブリ性、密着性、耐傷性等を考慮して適宜選択される。一般には、PVAの加水分解率が高いほど(すなわち、保護層中の未置換ビニルアルコール単位含有率が高いほど)、また、膜厚が厚いほど、酸素遮断性が高くなり、感度の点で好ましい。また、製造時および保存時に不要な重合反応、画像露光時の不要なカブリおよび画線の太り等を防止するためには、酸素遮断性が高くなりすぎないことが好ましい。従って、25℃、1気圧下における酸素透過性Aが0.2≦A≦20(ml/m2・day)であることが好ましい。
【0220】
保護層の好ましい態様として、特開平11−38633号公報等に記載の無機質の層状化合物を含有させた保護層を挙げることができる。無機質の層状化合物と上記バインダーと組み合わせによって良好な酸素遮断性を得ることができる。本発明において用いられる無機質層状化合物とは、薄い平版状の形状を有する粒子であり、例えば、
【0221】
一般式 A(B,C)2-5410(OH,F,O)2
【0222】
〔ただし、AはK,Na,Caの何れか、BおよびCはFe(II),Fe(III),Mn
,Al,Mg,Vの何れかであり、DはSiまたはAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、式3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、リン酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0223】
上記天然雲母としては、具体的には、例えば、白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母および鱗雲母が挙げられる。
また、合成雲母としては、具体的には、例えば、フッ素金雲母KMg3(AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si410)F2等の非膨潤性雲母;NaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、NaまたはLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNaまたはLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2等の膨潤性雲母;等が挙げられる。さらに合成スメクタイトも有用である。
【0224】
本発明においては、上記の無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。
【0225】
本発明で使用する無機質の層状化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は20以上であり、好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、たとえば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0226】
本発明で使用する無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。例えば、無機質の層状化合物のうち、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは厚さが1〜50nm、面サイズが1〜20μm程度である。
【0227】
このようにアスペクト比が大きい無機質の層状化合物の粒子を保護層に含有させると、塗膜強度が向上し、また、酸素や水分の透過を効果的に防止しうるため、変形などによる保護層の劣化を防止する。
【0228】
無機質の層状化合物の保護層に含有される量は、保護層の全固形分量に対し、好ましくは5質量%〜55質量%、より好ましくは10質量%〜40質量%である。5質量%以上とすることで、耐接着性に対して効果が認められ、55質量%以下であれば塗膜形成性が良好で十分な感度が得られる。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これらの無機質層状化合物の合計量が上記の質量%であることが好ましい。
【0229】
保護層に用いる無機質層状化合物の分散は、例えば、下記のようにして行われる。まず、水100質量部に先に無機質層状化合物の好ましいものとして挙げた膨潤性の層状化合物を5〜10質量部添加し、充分水になじませ、膨潤させた後、分散機にかけて分散する。
ここで用いる分散機としては、機械的に直接力を加えて分散する各種ミル、大きな剪断力を有する高速攪拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、サンドグラインダーミル、ビスコミル、コロイドミル、ホモジナイザー、ティゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケディミル、ジェットアジター、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置等が挙げられる。上記の方法で分散した無機質層状化合物の5〜10質量%の分散物は高粘度あるいはゲル状であり、保存安定性は極めて良好である。この分散物を用いて保護層塗布液を調製する際には、水で希釈し、充分攪拌した後、バインダー溶液と配合して調製するのが好ましい。
【0230】
保護層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を水溶性高分子化合物に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を(共)重合体に対して数質量%添加することができる。保護層の膜厚は、0.1〜5μmが適当であり、特に0.2〜2μmが好適である。
【0231】
また、画像部との密着性、耐傷性等も平版印刷版原版の取り扱い上、極めて重要である。すなわち、水溶性高分子化合物を含有するため親水性である保護層を、画像記録層が親油性である場合に、画像記録層に積層すると、接着力不足による保護層のはく離が生じやすく、はく離部分において、酸素による重合阻害に起因する膜硬化不良等の欠陥を引き起こすことがある。
【0232】
これに対して、画像記録層と保護層との間の接着性を改良すべく、種々の提案がなされている。例えば、特開昭49−70702号公報には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルション、水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体等を20〜60質量%混合させ、画像記録層上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。
【0233】
このように調製された保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、米国特許第3,458,311号明細書または特公昭55−49729号公報に記載されている方法など公知の方法を適用することができる。具体的には、例えば、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
【0234】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【0235】
さらに、保護層には、他の機能を付与することもできる。例えば、露光に用いられる赤外線の透過性に優れ、かつ、それ以外の波長の光を効率よく吸収しうる、着色剤(例えば、水溶性染料)の添加により、感度低下を引き起こすことなく、セーフライト適性を向上させることができる。
【0236】
このような画像記録層を設ける本発明の平版印刷版原版は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法により得られた平版印刷版用支持体を用いているため、現像処理を施すことにより、耐ポツ状汚れ性に優れる平版印刷版となる。
【実施例】
【0237】
(実施例1〜9、比較例1〜7)
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0238】
1.アルミニウム合金板の製造
第1表に示す組成のアルミニウム合金溶湯を用いて、半連続鋳造により鋳塊を製造した。
次いで、得られた鋳塊を面削した後、加熱処理、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延および矯正を順次行って、厚さ0.3〜0.4mmのアルミニウム合金板を得た。
半連続鋳造後の鋳塊の板厚(鋳造板厚)、面削した量(面削量)、均熱処理の温度(均熱温度)、2回目の冷間圧延後の板厚(圧延板厚)を第1表に示す。
【0239】
【表1】

【0240】
得られたアルミニウム合金板の強度および平面性ならびにFe固溶量(質量%)、金属間化合物およびAl−Fe系金属間化合物の含有量を以下に示す方法により測定した。その結果を第2表に示す。
【0241】
<強度(引張応力)>
得られたアルミニウム合金板について、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に基づき、オートグラフ(AGS−H、島津製作所製)を用い、引張速度を2mm/分とし、幅25mm×長さ100mmの試験片を用いて引張試験を行った。
次いで、得られた応力−歪曲線から最大応力を読み取り、平均値(2点平均)を断面積(断面積は、試料の厚さを実測し、その値に25mmを乗じることによって算出した。)で割って、引張応力を計算した。
その結果、引張応力が145〜180MPaであるものは、平版印刷版を印刷機の版胴に取り付ける際のフィットネス性に優れ、印刷中の版切れを防止できる。
【0242】
<平面性>
得られたアルミニウム合金板の平面性を目視により確認し、面削屑が残っていないものを平面性に優れるものとして「○」と評価し、面削屑が残っているものを実用上問題がない平面性を有するものとして「△」と評価した。
【0243】
<Fe固溶量>
Fe固溶量は、得られたアルミニウム合金板を熱フェノールによって溶解し、溶解されたマトリックスおよび溶解残残渣としての金属間化合物をろ過し、更にろ液中の微細な金属間化合物を10%クエン酸溶液を用いた抽出により分離し、その後のろ液中のFe量をICP発光分析装置によって測定した。
【0244】
<金属間化合物およびAl−Fe系金属間化合物の含有量>
上記アルミニウム合金中の含有金属間化合物をXRDにより測定した。
具体的には、X線回折装置RAD−rR(リガク社製)を用い、以下に示す測定条件により検出されたFe系金属間化合物相(Al3Fe、Al6Fe、α−AlFeSi)の積分回折強度値(単位:Kcounts)を算出した。
・設定管電圧 50kV
・設定管電流 200mA
・サンプリング間隔 0.01°
・スキャン速度 1°/分
・2θ走査範囲 10°〜70°
・グラファイトモノクロメータ使用
【0245】
測定にて得られたX線チャートから、Al3Fe:24.0°、Al6Fe:18.0°、α−AlFeSi:42.0°の積分回折強度値を用いた。
続いて、以下の式により、Al−Fe系金属間化合物の含有量を算出した。
【0246】
Al−Fe系金属間化合物含有量(質量%)={Fe含有量(質量%)−Fe固溶量(質量%)}×{(XRDにより検出されたAl−Fe系金属間化合物相ピークの積分回折強度の合計)/(XRDにより検出されたFe系各相ピークの積分回折強度の合計)}
【0247】
ここで、Al−Fe系金属間化合物とは、Al3FeおよびAl6Feを示し、Fe系各相とは、Al3Fe、Al6Feおよびα−AlFeSiを示す。また、ピークが現れない場合、積分回折強度は0.1として算出した。
【0248】
【表2】

【0249】
2.平版印刷版用支持体の製造
上記で製造した各アルミニウム合金板に対し、下記(a)〜(j)の処理を施し、平版印刷版用支持体を製造した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラで液切りを行った。
【0250】
(a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図4に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。図4において、1はアルミニウム板、2および4はローラ状ブラシ(本実施例において、束植ブラシ)、3は研磨スラリー液、5、6、7および8は支持ローラである。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0251】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0252】
(c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0253】
(d)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0254】
(e)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、第3表に示す通りであった。
【0255】
(f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、60℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0256】
(g)電気化学的粗面化処理
塩酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図3に示すものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2であり、塩酸電解における電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0257】
(h)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/m2であった。
【0258】
(i)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0259】
(j)陽極酸化処理
図5に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行い、平版印刷版用支持体を得た。第一および第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン5g/Lであった。平均電流密度20A/dm2で直流電解を行った。液温は40℃、電圧は5〜30V、時間は10秒であった。
【0260】
ここで、上記式(i)で表されるX(上記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(mm))、Y(上記冷間圧延工程後の板厚(mm))、A(面削量(mm))、B(上記粗面化処理による粗面化処理量(μm))、C(陽極酸化皮膜の膜厚(μm))およびZの値を第3表に示す。
【0261】
得られた平版印刷版用支持体の耐キズ性(傷付きにくさ)を以下に示す方法により評価した。その結果を第3表に示す。
【0262】
<耐キズ性>
平版印刷版用支持体の耐キズ性は、得られた平版印刷版用支持体表面の引っ掻き試験により評価した。
引っ掻き試験は、連続加重式引っ掻き強度試験器(SB−53、新東科学社製)を用いて、サファイヤ針0.4mmφ、針の移動速度10cm/秒の条件下、加重100gで行った。
その結果、針によるキズがアルミニウム合金板(素地)の表面に達していないものを耐キズ性に優れるものとして「○」と評価し、達しているものを多少耐キズ性に劣るが実用上問題がないものとして「△」と評価した。なお、加重値が100gで耐キズ性に優れる平版印刷版用支持体は、平版印刷版原版にしたときの巻き取り時および積層中における画像記録層へのキズの転写を抑制でき、非画像部の汚れを抑制することができる。
【0263】
【表3】

【0264】
3.平版印刷版原版の製造
上記で製造した各平版印刷版用支持体に対し、下記下塗り液を乾燥塗布量が28mg/m2になるよう塗布して、下塗り層を設けた。
【0265】
<下塗り層用塗布液>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0266】
【化16】

【0267】
次いで、上記のようにして形成された下塗り層上に、画像記録層塗布液をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/m2の画像記録層を形成した。
全ての画像記録層塗布液は、各感光液およびミクロゲル液を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0268】
<感光液>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造:(E)成分〕 0.24g
・赤外線吸収剤(1)〔下記構造:(A)成分〕 0.030g
・ラジカル重合開始剤(1)〔下記構造:(B)成分〕 0.162g
・重合性化合物〔(C)成分〕トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(NKエステルA−9300、新中村化学社製) 0.192g
・低分子親水性化合物トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート
0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.052g
・感脂化剤
ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・ベタイン誘導体(C−1) 0.010g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・メチルエチルケトン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0269】
<ミクロゲル液>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0270】
上記のバインダーポリマー(1)、赤外線吸収剤(1)、ラジカル重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)およびフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0271】
【化17】

【0272】
【化18】

【0273】
上記に記載のミクロゲル(1)は、以下のようにして合成されたものである。
【0274】
<ミクロゲル(1)の合成>
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(タケネートD−110N、三井武田ケミカル社製)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート〔(C)成分〕(SR444、日本化薬社製)3.15g、およびパイオニンA−41C(竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分および水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを上記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0275】
次いで、上記のようにして形成された画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液をバー塗布した後、120℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/m2の保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0276】
<保護層用塗布液>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(CKS50、スルホン酸変性、けん化度99モル%以上、重合度300、日本合成化学工業社製)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール(PVA−405、けん化度81.5モル%重合度500、クラレ社製)6質量%水溶液 0.03g
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン社製)1質量%水溶液
8.60g
・イオン交換水 6.0g
【0277】
上記に記載の無機質層状化合物分散液(1)は、以下のようにして調製されたものである。
【0278】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0279】
4.ポツ状汚れの評価
得られた平版印刷版原版を、25℃、70%RHの環境下で1時間、合紙と共に調湿し、アルミクラフト紙で包装した後、60℃に設定したオーブンで5日間加熱を行った。
その後、室温まで温度を下げてから、現像処理することなく、印刷機LITHRONE26(小森コーポレーション社製)の版胴に取り付けた。
Ecolity−2(富士フイルム社製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業社製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を500枚行った。
【0280】
500枚目の印刷物を目視により確認し、100cm2当たりの、20μm以上の印刷汚れの個数を算出した。その結果を第4表に示す。
汚れ個数が100cm2当たり200個以下であれば、耐苛酷汚れに優れるものとして評価できる。
【0281】
【表4】

【0282】
第1表〜第4表に示すように、SiおよびFeの含有量が特定の範囲であり、上記式(i)で表わされるZ(陽極酸化皮膜およびアルミニウム合金板の界面と、上記半連続鋳造工程後の鋳塊表面との距離)が特定の範囲であると、耐ポツ状汚れ性が改善されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0283】
【図1】冷間圧延工程に用いられる冷間圧延機の例を示す模式図である。
【図2】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図4】本発明の平版印刷版用支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図5】本発明の平版印刷版用支持体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0284】
1 アルミニウム板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
ta アノード反応時間
tc カソード反応時間
tp 電流が0からピークに達するまでの時間
Ia アノードサイクル側のピーク時の電流
Ic カソードサイクル側のピーク時の電流
10 冷間圧延機
12 送り出しコイル
14 巻き取りコイル
16 圧延ローラ
18 支持ローラ
20 アルミニウム合金板
50 主電解槽
51 交流電源
52 ラジアルドラムローラ
53a,53b 主極
54 電解液供給口
55 電解液
56 補助陽極
60 補助陽極槽
W アルミニウム板
610 陽極酸化処理装置
612 給電槽
614 電解処理槽
616 アルミニウム板
618、626 電解液
620 給電電極
622、628 ローラ
624 ニップローラ
630 電解電極
632 槽壁
634 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版用支持体を製造する平版印刷版用支持体の製造方法であって、
Feを0.08〜0.45質量%含有し、Siを0.05〜0.20質量%含有し、残部が不可避不純物とAlとからなるアルミニウム合金溶湯から鋳塊を形成する半連続鋳造工程と、
前記半連続鋳造工程で形成される前記鋳塊に面削を施す面削工程と、
前記面削工程後の前記鋳塊に圧延を施して圧延板を得る熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の圧延板の厚さを減じさせてアルミニウム合金板を得る冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後のアルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理および陽極酸化処理をこの順で施して平版印刷版用支持体を得る表面処理工程とを具備し、
前記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)、前記冷間圧延工程後の板厚(Y)、前記面削工程における面削量(A)、前記粗面化処理による粗面化処理量(B)、および、陽極酸化皮膜の膜厚(C)が、下記式(i)を満たす平版印刷版用支持体の製造方法。
【数1】

【請求項2】
前記半連続鋳造工程後の鋳塊の板厚(X)が300〜800mmであり、
前記冷間圧延工程後の板厚(Y)が0.1〜0.5mmであり、
前記面削工程における面削量(A)が1〜15mmであり、
前記粗面化処理による粗面化処理量(B)が1〜10μmであり、
前記陽極酸化皮膜の膜厚(C)が0.1〜2.5μmである、請求項1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体の製造方法により得られる平版印刷版用支持体。
【請求項4】
請求項3に記載の平版印刷版用支持体上に画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。
【請求項5】
前記画像記録層が、ハロゲン化物イオンからなるアニオンおよび/またはPF6を有する請求項4に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である請求項4または5に記載の平版印刷版原版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−58315(P2010−58315A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224638(P2008−224638)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】