説明

延伸フィルムおよび延伸フィルムを用いた偏光板

【課題】IPSモードおよびOCBモードの液晶ディスプレイに適した偏光子支持基材としての偏光子保護性能と位相差機能とを兼ね備えたフィルムを提供する。
【解決手段】マレイミド窒素に結合する水素原子が1価の芳香族基で置換されたマレイミド類(a)1〜99モル%、ならびにアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー成分(b)1〜99モル%を含む共重合体を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸されてなるフィルムであり、特定の位相差特性及び三次元の屈折率バランスを有する延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差特性に優れた延伸フィルムに関する。更に詳しくは、液晶表示装置の偏光子支持基材として用いるのに好適な延伸フィルムに関する。さらに本発明は、該延伸フィルムを偏光子支持基材とする偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、基本的には液晶セルとその両側に配置された偏光板、偏光板と液晶セルとの間に配置された位相差板から構成される。
近年、液晶表示装置は、表示品位の向上、特に、視野角特性を向上させるために、種々の改良が重ねられてきている。輝度が高く大画面ディスプレイに適したVAモード液晶ディスプレイは、電圧を印加して液晶分子を垂直配向させた黒表示状態において発生する液晶分子自体の屈折率異方性に起因した斜め方向への光漏れを防止するため、偏光板と液晶セルとの間に、位相差板の配置が必要である。位相差板が用いられるのは、液晶素子が有する複屈折によって発生する位相差を小さくし、視野角特性を高めるためである。
【0003】
一方、黒表示の際に液晶分子を垂直配向させないIPSモード液晶ディスプレイや、ベント配向により液晶分子自身で自己の複屈折をキャンセルさせるOCBモード液晶ディスプレイは、液晶分子の複屈折による位相差が発生しにくいため、通常は位相差板を必要としない点が大きな特徴である。しかしながら、黒表示の際にクロスニコル状態になっているべき液晶セル上下の偏光板は、正対時に透過軸が直交するように配置しても、透過軸/吸収軸以外の方向から斜めに見た場合、両偏光板の透過軸は直交しないため、わずかな光漏れが発生する。近年では、液晶ディスプレイのさらなる視野角特性の向上が求められており、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイにおいても、視野角補償のための位相差板が適用されるようになってきている。
【0004】
このように、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイにおいて広い視野角範囲で補償できる位相差板を得るために、例えば特開平05−157911号公報には、位相差板面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内におけるnxと直交する方向の屈折率をny、位相差板厚み方向の屈折率をnzとした際、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1、すなわち、nx>nz>nyである位相差板が開示されている。しかしながら、このように3次元方向の屈折率が精密に制御された位相差特性を得るための位相差板の製造は容易ではなく、樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸して前記樹脂フィルムの延伸方法と直交する方向の収縮力を付与させることが必要であった。また、特開平04−305602号公報には、位相差が190〜320nmの複屈折性を示す偏光子封止フィルムが開示されており、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメチルメタクリレート等の高分子が用いられているが、かかる特性のフィルムを得るためには、電界を印加して分子配向を制御しつつ硬化させ、そのフィルムを延伸処理するなどの特殊な製造方法が必要とする。そこで、従来既存のフィルム製造装置を用いても広い視野角範囲で補償できる位相差特性を発現しうる新規素材が求められている。
【0005】
また、偏光板の役割は偏光方向の光を通過させ、偏光方向以外の光を遮断することであり、ヨウ素をドープした延伸ポリビニルアルコール(PVA)フィルムが偏光子としてその役割を担っている。PVA偏光子は物理的な強度が弱いことから偏光子の両面には保護フィルムが水系接着剤を介して貼り合わされている。そのため保護フィルムとして親水性の高いセルローストリアセテート(TAC)フィルムが用いられている。しかし、TACフィルムは透湿度が高くバリア性に劣るため、長期にわたり特に高温高湿環境下で使用すると、偏光子中のヨウ素がTACフィルムを通して昇華脱離消失してしまい偏光性能が低下するという欠点がある。
【0006】
近年、液晶表示装置の低価格化や薄肉化のために、使用する光学部材の機能を複合化させ、部材数を低減させる試みがなされている。その一つとして、偏光板の保護フィルムとして位相差機能付きフィルムを用い、位相差板なしでも視野角特性に優れた液晶表示装置を得ることが提案されており、例えば上述の特開平04−305602号公報にはポリカーボネートフィルムが開示されている。しかしながら、先にも述べたように所望の位相差特性を有するフィルムを得るためには特殊な製造方法が必要である。
【0007】
このように、偏光子支持基材としての偏光子保護性能と、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに適した視野角補償を発現する位相差機能とを兼ね備え、しかも従来既存のフィルム製造装置を用いても簡単にその位相差特性を発現しうる新規素材が求められているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平05−157911号公報
【特許文献2】特開平04−305602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、偏光子支持基材としての偏光子保護性能とIPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに適した視野角補償を発現する位相差機能とを兼ね備え、しかも従来既存のフィルム製造装置を用いても簡単に位相差特性を発現しうる新規素材からなるフィルムを提供することにある。本発明の他の目的は、該延伸フィルムを偏光子支持基材とするIPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイにおける視野角特性および耐久性に優れる偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、式(I)で表される特定構造のモノマーユニットを含むアクリレート共重合体を樹脂材料として用いることによって、既存の溶融押出法によるフィルム製造装置を用いて延伸した場合に、マレイミド環および芳香族環がその立体障害のために分子鎖と垂直に近い状態で位置しやすくなるため、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに適した広い視野角を発現し得る位相差特性を有する延伸フィルムが得られ、また偏光子保護性能をも有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明によれば、下記式(I)で表される繰り返し単位(a)1〜99モル%、ならびにアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー成分(b)1〜99モル%を含む共重合体を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸されてなるフィルムであり、
【化1】

(式中、Arは、1価の芳香族残基を示す)
かかるフィルムが下記式(1)〜(3)を満足する延伸フィルムによって達成される。
10nm≦Rp≦400nm ・・・(1)
ny<nz<nx ・・・(2)
0.3≦{(nx−nz)/(nx−ny)}≦0.9 ・・・(3)
(上式中、Rpはフィルム面内方向の550nmにおける最大位相差、nxは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nyは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nzは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ示す)
【0012】
また本発明の延伸フィルムは、その好ましい態様として、下記式(II)で表される繰り返し単位(c)1〜50モル%をさらに含有すること、
【化2】

(式中、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の1価のアルキル基、または1価のアリール基、X、Xは、それぞれ2価の特性基または炭素数1〜5の2価の炭化水素基、Yは二重結合を含む2価の脂肪族残基または2価の芳香族残基、n、m、oはそれぞれ0または1の整数を示す)
透湿度が5〜250g/(m・日)であり、厚みが0.5〜400μmであること、の少なくともいずれかを具備するものを好ましい態様として包含する。
【0013】
また、本発明の延伸フィルムは偏光板の偏光子支持基材として用いられることが好ましい。
本発明は、本発明の延伸フィルムからなる偏光子支持基材および偏光子を含む偏光板、液晶セルおよびその両面に配置された本発明の偏光板からなる液晶表示装置も包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、偏光子支持基材としての偏光子保護性能と特定の位相差機能とを兼ね備え、しかも従来既存の溶融押出法によるフィルム製造装置を用いても簡単に位相差特性を発現するフィルムを提供することができることから、得られたフィルムはIPSモードおよびOCBモードの液晶表示装置の偏光子支持基材として使用でき、視野角の広い液晶ディスプレイを提供できることから、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
<フィルム素材>
本発明のフィルムは、下記式(I)で表される繰り返し単位(a)1〜99モル%、およびアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー成分(b)1〜99モル%を含む共重合体からなる。
【化3】

(式中、Arは、1価の芳香族残基を示す)
【0016】
かかる共重合体は、例えば、マレイミド類と(メタ)アクリル酸エステル、その他必要に応じてエチレン性不飽和結合を有する化合物とのラジカル共重合反応により得ることができる。
上記式(I)で表される繰り返し単位(a)を与える化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリルマレイミド、N−ピリジルマレイミド、N−ピリミジニルマレイミド等のマレイミド窒素に結合する水素原子が1価の芳香族基で置換されたマレイミド類が例示される。これらのうち、モノマーの固有複屈折の点から、さらには耐熱性、機械特性および透明性の点から、特にN−フェニルマレイミドが好ましい。また、これら化合物は1種または2種以上組合せて用いることができる。
【0017】
また、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー(b)として、例えばアルキル基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、およびシクロヘキシル基のうちの少なくとも1つを含むアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0018】
これら本発明の共重合体は、分子構造中に、分極率の大きなマレイミド環および芳香族環部分が、その立体障害のために分子鎖と垂直に近い状態で位置するため、負の固有複屈折を持ち、本発明において規定される光学特性を発現しやすく、また繰り返し単位(b)は、繰り返し単位(a)よりは小さいものの同じく負の固有複屈折を有しており、かつ共重合体に機械特性を付与する機能をそれぞれ有する。
【0019】
繰り返し単位(a)の含有量は、共重合体の繰り返し単位の全モル数を基準として1〜99モル%であり、光学特性および機械特性の点から5〜60モル%が好ましい。繰り返し単位(a)の含有量が上限を越える場合には得られるフィルムが脆くなり、一方下限に満たない場合は得られるフィルムの光学特性が所望の範囲を満たさない。また繰り返し単位(b)の含有量は、共重合体の繰り返し単位の全モル数を基準として1〜99モル%であり、光学特性および機械特性の点から40〜95モル%が好ましい。繰り返し単位(b)の含有量が上限を越える場合には得られるフィルムの光学特性が所望の範囲を満たさなくなり、一方下限に満たない場合は得られるフィルムが脆くなる。
【0020】
これらモノマーの重合は公知の重合法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法のいずれもが採用可能であるが、反応性の面からは、溶液重合法で行うのが好ましい。さらに、共重合体組成のコントロールや分子量の制御の点で、用いるモノマーを重合系に供給しながら反応させる方法を用いるのが好ましい。本発明の共重合体を製造する際、ラジカル重合開始剤、重合条件等としては特に限定されず、重合方法や、共重合する単量体の種類、使用比率等に応じて適宜設定すればよい。ラジカル重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤、例えば、過酸化物、アゾ開始剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明の共重合体は、必要に応じて下記式(II)で表される繰り返し単位(c)
【化4】

(式中、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の1価のアルキル基、または1価のアリール基、X、Xは、それぞれ2価の特性基または炭素数1〜5の2価の炭化水素基、Yは二重結合を含む2価の脂肪族残基または2価の芳香族残基、n、m、oはそれぞれ0または1の整数を示す)
をさらに有してもよい。ここで、X、Xは、n=1、o=1の場合、CH、CH(CH)、C(CH、NH、NCH、O、S、C=CH、C=NH、C=NCH、C=O、CH−CH、C(=O)CH、C(=O)NH、C(=O)Oが例示される。Yは、m=1の場合、CH=CH、CH=N、CH=O、C(=O)CH、C(=O)NH、C(=O)O、C(=O)C(=O)、C(=O)CHC(=O)、C(=O)NHC(=O)、C(=O)OC(=O)、o−フェニレン、1,2−ナフチレン、2,3−ナフチレン、1,8−ナフチレン、9,10−フェナントレンジイルが例示される。共重合体が、さらに繰り返し単位(c)を含有することにより、固有複屈折の正負、絶対値の異なるモノマー成分を組合せて、所望の光学特性を得ることが容易となる。
【0022】
繰り返し単位(c)を与える化合物の例としては、シクロペンタジエン、ピロール、フラン、チオフェン、インデン、インドール、ベンゾフラン、チアナフテン、シクロヘキセン、p−ベンゾキノン、1,4−ジヒドロナフタレン、1,4−ナフトキノン、1,4−アントラキノン、γ−ピラン、γ−ピロン、ベンゾ−1,4−ピロン、クマリン、マレイミド、無水マレイン酸、1,4−オキサジンなどが挙げられる。これらの化合物の特徴としては、分子構造中に、分極率の大きな多重結合または芳香族環部分が分子鎖と平行に位置するため、正の固有複屈折を持ち、負の固有複屈折を持つ繰り返し単位(a)および(b)とからなる共重合体をキャンセルしうるため、延伸により生じるフィルム全体の複屈折を微調整しうる。その一方で、これらの多重結合または芳香族環部分は、分子主鎖内に直接には存在しないので、外部応力によって生じる複屈折変化が小さく、後述する光弾性係数を所望の範囲にすることが容易となる。
【0023】
共重合体が繰り返し単位(c)を含む場合、繰り返し単位(c)の含有量は、共重合体の繰り返し単位の全モル数を基準として1〜50モル%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは1〜30モル%の範囲である。繰り返し単位(c)の含有量が上限を超える場合、所望の位相差特性が得られなくなる場合がある。
【0024】
本発明のフィルムの原料樹脂組成物には、本発明の趣旨を超えない範囲で、その他のポリマー、安定剤、紫外線吸収剤、加工助剤、難燃剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0025】
本発明の共重合体は、数平均分子量が1×10〜1×10であることが好ましい。かかる数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求めることができる。共重合体の数平均分子量が下限に満たない場合、得られるフィルムが脆くなる傾向にあり、一方上限を超える場合、粘度が高すぎて溶融押出性が低下することがある。
【0026】
<位相差>
本発明の延伸フィルムは、下記式(1)〜(3)
10nm≦Rp≦400nm ・・・(1)
ny<nz<nx ・・・(2)
0.3≦{(nx−nz)/(nx−ny)}≦0.9 ・・・(3)
(上式中、Rpはフィルム面内方向の550nmにおける最大位相差、nxは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nyは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nzは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ示す。)
を満たす。
Rpは、好ましくは100〜400nm、より好ましくは200〜350nmである。Rpがかかる範囲をはずれる場合、視感強度が最も高い550nmの波長における光学補償が十分ではない。
また、三次元の屈折率バランスを示す上式(3)で表されるnx、ny、nzの関係は、0.35≦{(nx−nz)/(nx−ny)}≦0.8であることがより好ましい。
【0027】
Rp、nx、ny、nzをそれぞれ上述の式(1)〜(3)を満たす範囲とすることで、IPSモードやOPSモードの液晶ディスプレイに使用される偏光板としての光学補償、すなわち、液晶セル上下の偏光板の透過軸が、正対時に透過軸が直交するように配置しても、透過軸/吸収軸以外の方向から斜めに見た場合に直交しないために発生するわずかな光漏れを補償することが可能となる。また、液晶素子の厚み方向複屈折によっては、液晶素子の光学補償も可能である。さらに本発明の延伸フィルムを偏光子支持基材として用いた液晶表示装置は優れた視野角を発現することが可能となる。
【0028】
これらの位相差特性を得るためには、溶融押出キャスティングにより製膜したフィルムを延伸する際に、Tg〜(Tg+40℃)の温度で、5〜5000%/minの延伸速度で行い、縦方向の延伸倍率(以下、RMDと略記することがある。)および横方向の延伸倍率(以下、RTDと略記することがある。)の関係がRMD>RTDまたはRTD>RMDであることが好ましい。これは、RMDとRTDが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。さらに好ましくは、|RMD/RTD|または|RTD/RMD|が、1.0を超え5.0以下の範囲である。
本発明の共重合体を用い、かつこのような延伸方法でフィルムを得ることにより、本発明の位相差特性を有するフィルムを得ることが可能となる。
【0029】
<透湿度>
本発明の延伸フィルムの透湿度は、JIS−Z−0208に準拠し、塩化カルシウムカップ法により、40℃、90%RHの温湿度条件において、5〜250g/(m・日)、好ましくは、10〜200g/(m・日)の範囲である。透湿度が250g/(m・日)を超える場合、バリア性に劣り、経時で偏光子中のヨウ素が延伸フィルムを通して昇華脱離消失してしまい偏光板の偏光性能が低下することがある。一方、透湿度が5g/(m・日)未満では、ポリビニルアルコール(PVA)中の残留水分を逃がすことができず、ヨウ素が水溶液の状態で存在するため、経時で偏光子中のヨウ素が分解消失してしまい、偏光板の偏光性能が経時で低下することがある。かかる透湿度は、本発明の共重合体を用いることによって達成される。
【0030】
<光弾性係数>
本発明の延伸フィルムは、光弾性係数が20×10−12Pa−1未満であることが好ましい。光弾性係数が上述の範囲にある場合、後工程で加えられる種々の応力履歴に起因する位相差の変化が極めて少なく、同一ディスプレイ領域中における位相差のばらつきを防止することができるため、テレビのような大画面ディスプレイにおいても高品位の映像を与えることが可能となる。
かかる光弾性係数は、共重合体の分子主鎖内に二重結合を含まないことにより、発現されるものである。
【0031】
<フィルム厚み>
本発明における延伸フィルムの厚みは、0.5〜400μmであることが好ましく、より好ましくは5〜200μm、特に好ましくは10〜150μmである。フィルム厚みが上限を超える場合はディスプレイの軽量薄膜化、低コスト化の傾向に逆行するだけでなく、吸光、散乱などによる光線透過率の低下の原因ともなりうる。また、下限に満たない場合は、ハンドリング性が低下することがある。
【0032】
<フィルムの製造方法>
(溶融押出キャスティング)
本発明の延伸フィルムは、樹脂組成物を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸して得られる。
溶融押出には、従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した前述の樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
【0033】
冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−30)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
冷却ロールへのキャスティングの際に、溶融樹脂が冷却ロール上へ着地する位置近傍に金属ワイヤーを張り、電流を流すことで静電場を発生させ樹脂を帯電させて、冷却ロールの金属表面上への密着性を高めることも、フィルムの平面性を高める観点から有効である。その際、樹脂組成物中に、本発明の趣旨を超えない範囲で、電解質性物質を添加してもよい。
【0034】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸することにより、フィルムの位相差特性を発現させ、製品収量の歩留を向上させることが可能となる。本発明の延伸フィルムは、二軸延伸によって製膜されることがより好ましい。
かかる延伸の方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、縦方向(製膜方向、長手方向、MDと記載することがある。)に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
【0035】
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップ把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
【0036】
また、幅方向(製膜方向と垂直な方向、横方向、TDと記載することがある。)に延伸する場合は、クリップ把持式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。さらに、縦、横の二方向に延伸する場合は、縦、横両方向を逐次に延伸しても、同時に延伸しても良い。
【0037】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(樹脂組成物のガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、未延伸原反に厚みのばらつきがある場合、薄い部分が延伸され易くなり過ぎ、延伸後には厚み斑がより誇張されてしまい、ひいては位相差のばらつきが大きくなってしまうことがある。
【0038】
(延伸倍率)
延伸倍率は、RMD>RTDまたはRTD>RMDであることが好ましい。RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率を示す。これは、RMDとRTDとが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。また、これは必ずしも二軸延伸のみを意味するものではなく、縦方向に一軸延伸することにより、横方向が実質的に収縮しRTDの値が1未満になる場合をも包含する。
延伸倍率は、さらに好ましくは、|RMD/RTD|または|RTD/RMD|が、1.0を超え5.0以下の範囲である。
【0039】
より具体的には、分子配向の主配向軸を形成させる方向の延伸倍率が1.2〜4.0倍の範囲であることが好ましく、更に好ましくは1.5〜2.8倍の範囲である。分子配向の主配向軸を形成させる方向の延伸倍率が小さすぎると所望の位相差が得られない場合があり、一方大きすぎると、フィルム面内方向および厚み方向それぞれの方向において所望の位相差特性を得られないことがある。
【0040】
また、分子配向の主配向軸に対して垂直方向の延伸倍率が1.0〜1.8倍の範囲であることが好ましく、更に好ましくは1.2〜1.6倍の範囲である。分子配向の主配向軸に対して垂直方向の延伸倍率が小さすぎると所望の位相差が得られない場合があり、一方大きすぎると、フィルム面内方向および厚み方向それぞれの方向において所望の位相差特性を得られないことがある。ここで、分子配向の主配向軸を形成させる方向は縦方向、横方向のいずれであってもよい。かかる延伸によって発現する光学特性上の遅相軸は、延伸倍率および共重合比率によって、分子配向の主配向軸と一致する場合と分子配向の主配向軸に垂直方向の場合とがある。
【0041】
(延伸速度)
延伸速度は5〜5000%/分であることが好ましい。
延伸したフィルムは、熱安定性向上などの必要に応じて、熱処理などの後加工を施しても良い。この後加工は、フィルム延伸工程に引き続き行っても良いし、別工程にて行っても良い。
【0042】
<延伸フィルム>
本発明の延伸フィルムは、偏光子支持基材としての偏光子保護性能と位相差機能とを兼ね備えることから、偏光板の偏光子支持基材として用いることができる。また、本発明の延伸フィルムは位相差機能を有することから位相差板として用いてもよい。
【0043】
<偏光板>
本発明は、延伸フィルム(X)からなる偏光子支持基材の片面に設けられた偏光子(P)を含む偏光板を包含する。偏光子は、ヨウ素または異方性染料を含有するポリビニルアルコールからなり、フィルム状である。異方性染料としては、コンゴーレッド、メチレンブルー、スチルベン染料および1,1’−ジエチル−2,2’−シアニンクロライド等が挙げられる。
延伸フィルムが適度な透湿度を有することから、偏光板の耐久性が良好なものとなる。
【0044】
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、液晶セル(LC)およびその両面に配置された上記偏光板からなる。その際、延伸フィルムを液晶セルに接するように配置することが好ましい。液晶表示装置には、プリズムシート(PS)、拡散フィルム(DF)をさらに積層することが好ましい。本発明の延伸フィルムを用いて得られた液晶表示装置は、IPSモードおよびOCBモードの液晶ディスプレイとして広い視野角特性を発現することができる。そこで液晶セルとしてはこれらの液晶表示装置に適したものを用いることが好ましい。
液晶表示装置は、以下の構成のものが例示される。
・P/X/LC/X/P
・P/X/LC/X/P/PS/DF
また延伸フィルムが偏光子保護性能と位相差機能とを兼ね備えることで、液晶表示装置用光学フィルム部材の複合化による減量化、製造工程簡略化が可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0046】
(1)樹脂組成物の同定および分子量
得られた樹脂組成物ペレットの一部を用い、溶媒として重クロロホルムを使用して、H、13C−NMR測定(日本電子製 装置名 JNM−alpha600)、およびGC/MS測定(横河アナリティカル製 装置名 HP5973)によって構成成分の同定および定量を行った。
【0047】
(2)フィルム面内方向の550nmにおける最大位相差
得られた延伸フィルムを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)を用い、550nm単色光をフィルム面に垂直に照射し、透過光を測定する。フィルムを固定した試料台を、光軸を中心に光軸に対して垂直な面内にて回転させながら透過光を測定し、測定値から計算される位相差が最大となる角度における位相差を、面内方向の最大位相差(nm)とした。
【0048】
(3)フィルム3方向の550nmにおける屈折率バランス
得られた延伸フィルムを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)を用い、550nm単色光の入射角度を変化させた透過光測定に供し、フィルムを固定した試料台を、光軸を中心に光軸に対して垂直な面内にて回転させて、面内方向の最大位相差が得られる回転角にて固定し、続いて、試料台を面内方向の最大位相差を与える配向主軸(遅相軸)と平行で、かつ光軸を通る直線を中心に、0゜(光軸に対して垂直な角度)〜50゜の範囲で回転させ(該角度を「あおり角」とする)、透過光を測定する。得られた位相差データを、あおり角に対してプロットし、下記式(4)に示すあおり角の関数でフィッティングすることで、遅相軸方向、遅相軸に垂直な方向、および厚み方向のそれぞれの屈折率を求めた。
【0049】
【数1】

(式中、d:フィルム厚み、α:あおり角、
R(α):あおり角=αにおける位相差測定値、
Δn(α):あおり角=αにおける複屈折、
nx:550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、
ny:550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、
nz:550nmにおける厚み方向の屈折率、をそれぞれ示す。)
【0050】
なお、上記方法において直接測定されるのは、位相差(すなわち複屈折)であり、屈折率絶対値の導出には、下記の方法で導出した平均屈折率値を用いた。
(フィルム平均屈折率(navg))
波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光にて、屈折率計を用いて測定された平均屈折率を、下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
n(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、n(λ):波長λ(nm)における平均屈折率、a、b、c:定数、をそれぞれ示す。)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求め、しかる後に550nmにおける平均屈折率(n(550))を算出した。
得られた屈折率から、下記式(5)にしたがって、3者のバランス評価パラメーターNzを導出した。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) ・・・(5)
【0051】
(4)フィルムの透湿度
得られたフィルムを用い、JIS Z-0208に準拠して測定した。透湿面積は30cm、40℃、相対湿度90%の雰囲気下での透湿度を測定した。
【0052】
(5)フィルム厚み
マイクロメーターを用いて測定した。アンリツ製K-402B型試料台にフィルムを載せて触針を押し当て、該触針の変位データをアンリツ製KG3001型インジケーターにて厚み(μm)データとした。
【0053】
(6)偏光板の耐久性
各偏光板を、80℃、相対湿度90%の雰囲気下に1000時間放置した。処理前後の偏光度の変化から、下記に従って評価した。
○: 処理後の偏光度が処理前の95%以上
×: 処理後の偏光度が処理前の95%未満
【0054】
(7)視野角特性測定
視野角拡大偏光板を液晶セルの両面に、以下のように配置して貼合し、パネルで評価した。即ち、本発明の偏光板は液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交するように貼合した。液晶セルは、市販のIPSモードLCDモニターのあらかじめ貼合されていた光学補償フィルムおよび偏光板を剥がしたものを使用した。こうして得られた液晶表示装置を、ELDIM社製EZ−contrastにより視野角を測定した。測定された視野角から、下記に従って評価した。
○: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに60°以上
×: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに60°未満
【0055】
[実施例1]
1Lセパラブルフラスコ内を窒素置換したのち、フラスコ内に溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)120部を入れ、90℃に昇温した。その後、滴下系1として単量体成分のフェニルマレイミド(PMI)36部、ジエチレングリコールジメチルエーテル36部の60℃溶液、滴下系2として単量体成分のメタクリル酸メチル(MMA)84部、開始剤としてパーブチルO(商品名 日本油脂製)2部を、3時間かけて連続的に供給した。供給終了後30分間反応液を90℃に保持したのち、110℃に昇温して2時間反応を継続した後、室温まで冷却しポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液の一部をサンプリングし、アセトンで希釈した。この希釈したポリマー溶液を多量のヘキサン中に投入し共重合体を析出させた。析出物をろ過乾燥し、共重合体(1)を得た。得られた共重合体(1)の諸特性について、表1にまとめた。
【0056】
得られた共重合体(1)のペレットを110℃で10時間乾燥後、押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、単層ダイから押出した。
この溶融物を、表面温度を樹脂Tgより低くした回転冷却ドラム上に押出し、厚み275μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを同時二軸延伸ステンターに供給し、155℃にて縦方向に10%/分の延伸速度で1.1倍に、横方向に150%/分の延伸速度で2.5倍に延伸し、100μm厚みの二軸延伸フィルム(1)を得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様にして、厚み275μmの未延伸フィルムを得たのち、未延伸フィルムを130℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱して、縦方向に200%/分の延伸速度で1.1倍に延伸した。続いてステンターに供給し、延伸温度155℃、横方向に150%/分の延伸速度で2.5倍に逐次延伸し、100μm厚みの二軸延伸フィルム(2)を得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
原料として、共重合体(1)の代わりに、単量体成分として、PMI31部、MMA75部、インデン(Ind)9部を用いた以外は共重合体(1)と同様に作成した共重合体(2)からなるペレットを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み100μmの二軸延伸フィルム(3)を得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
原料として、共重合体(1)の代わりに、市販のCOP樹脂(日本ゼオン製、ゼオネックス)を用いた以外は、実施例1と同様の手法にて、延伸条件を調節することで、厚み100μmの二軸延伸フィルム(CE1)を得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0060】
[参考例]
市販のTACフィルム(富士写真フィルム製、フジタック、厚み80μm)を、フィルム(R)とした。
【0061】
【表1】

【0062】
[実施例4]
実施例1にて得られたフィルム(1)、および、参考例のTACフィルム(R)、さらに、ポリビニルアルコール偏光膜を貼合せ、偏光板を得た。
なお、ポリビニルアルコール偏光膜は、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部、ヨウ化カリウム2部、ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸することにより得た。
【0063】
また、この偏光膜に上述のフィルム(1)およびフィルム(R)を貼合せ、偏光板を得る手順は、下記のとおりである。
(1)保護フィルムとして30cm×18cmの長方形の形状に切り取った、上述のフィルム(1)の表面に、コロナ放電処理(処理電力=800W(200V、4A)、電極〜フィルム間距離=1mm、処理速度=12m/min)を施す。
(2)フィルム(1)と同様に切り取ったフィルム(R)にアルカリ処理を施す。すなわち、フィルムを2mol/lの水酸化ナトリウム溶液に60℃の温度条件下で1分間浸漬後、水洗して乾燥させることで、フィルムに表面処理を施す。
(3)フィルム(1)およびフィルム(R)と同じサイズに調整した上記の偏光膜(偏光子)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬する。
(4)偏光膜(偏光子)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、偏光子をフィルム(1)およびフィルム(R)が挟みこむ状態となるよう、フィルム(1)のコロナ処理面上にのせ、更にフィルム(R)のアルカリ処理面と接着剤とが接する様に積層し配置する。フィルム(1)およびフィルム(R)の溶融押出製膜時の押出方向と偏光子の延伸方向は平行である。
(5)ハンドローラで、偏光膜、フィルム(1)およびフィルム(R)からなる積層体の端部から過剰の接着剤及び気泡を取り除き貼合せる。ハンドローラは、20〜30N/cmの圧力をかけて、ローラスピードは約2m/分とした。
(6)80℃の乾燥器中に得られた試料を2分間放置し、偏光板を作製した。
【0064】
次いで、偏光板(視野角拡大偏光板1)を液晶セルの両面に、液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し、偏光板のフィルム(1)と液晶セルとが接するように貼合し、液晶表示装置を作製した。表示装置としての特性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例5〜6、比較例2]
フィルム(1)の代わりに、表2に記載した各フィルムを用いてポリビニルアルコール偏光膜の両側に貼合わせた以外は、実施例4と同様にして偏光板を得た。なお、表中、表面コロナ処理、アルカリ処理は、それぞれ実施例4と同じ条件で処理を施した。
【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によって得られた延伸フィルムは、光学異方性が適正なものに制御され、適度の透湿度を有するので、位相差機能つき偏光子支持基材などの光学部材に好適に使用される。また本発明の延伸フィルムを用いた光学部材は、IPSモードおよびOCBモードの液晶セルを有する液晶表示装置に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰り返し単位(a)1〜99モル%、ならびにアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー成分(b)1〜99モル%を含む共重合体を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸されてなるフィルムであり、
【化1】

(式中、Arは、1価の芳香族残基を示す)
かかるフィルムが下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする延伸フィルム。
10nm≦Rp≦400nm ・・・(1)
ny<nz<nx ・・・(2)
0.3≦{(nx−nz)/(nx−ny)}≦0.9 ・・・(3)
(式中、Rpはフィルム面内方向の550nmにおける最大位相差、nxは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nyは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nzは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ示す)
【請求項2】
下記式(II)で表される繰り返し単位(c)1〜50モル%をさらに含有する請求項1に記載の延伸フィルム。
【化2】

(式中、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数1〜12の1価のアルキル基、または1価のアリール基、X、Xは、それぞれ2価の特性基または炭素数1〜5の2価の炭化水素基、Yは二重結合を含む2価の脂肪族残基または2価の芳香族残基、n、m、oはそれぞれ0または1の整数を示す)
【請求項3】
透湿度が5〜250g/(m・日)であり、厚みが0.5〜400μmである請求項1または2に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
偏光子支持基材として用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムからなる偏光子支持基材および偏光子を含む偏光板。
【請求項6】
液晶セルおよびその両面に配置された請求項5に記載の偏光板を含む液晶表示装置。

【公開番号】特開2007−31537(P2007−31537A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215628(P2005−215628)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】