説明

延伸積層フィルム、位相差フィルム及び液晶表示装置

【課題】位相差フィルムとして良好に用いることができ安価に供給しうる延伸積層フィルムであって、位相差のばらつきが低減され、且つリワークに適した物性を有するもの、並びに安価に製造でき、光学的性能が良好であり、且つリワークが容易な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物Bの層blと、スチレン樹脂組成物Aの層aと、熱可塑性樹脂組成物Bの層b2とが積層され、それらのガラス転移温度(℃)をTg(A)及びTg(B)とし、中間点ガラス転移温度(℃)をTmg(A)及びTmg(B)とし、補外ガラス転移終了温度(℃)をTeg(A)及びTeg(B)としたとき、これらが式Tg(B)<Tg(A)<Tg(B)+17、Tmg(B)<Tmg(A)<Tmg(B)+20、Teg(B)+5<Teg(A)<Teg(B)+23を満たす延伸積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸積層フィルム、位相差フィルム及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置においては、その光学的性能の向上のため、装置を構成する積層構造の一部として、位相差フィルムを設けることが行なわれている。具体的には例えば、視認側から順に第1の偏光板/液晶セル/第2の偏光板/バックライト装置をこの順に備える液晶表示装置において、第2の偏光板とバックライト装置との間に、選択反射層と位相差フィルムとの積層体である輝度向上フィルムを設け、輝度を向上させることが行なわれている。このような輝度向上フィルムは、必要に応じて基板又はその他の層に貼付された状態で表示装置中に設けられる。
【0003】
かかる位相差フィルムのうち、多く用いられているものとして、透明な樹脂のフィルムを延伸してなる延伸フィルムがある。延伸フィルムからなる位相差フィルムは、比較的安価に供給しうる等の利点を有する一方、均質な延伸を行い位相差のばらつきを低減することが困難であるという問題点を有する。
【0004】
位相差のばらつきを低減させた延伸フィルムとして、複数種類の樹脂を積層したフィルムを延伸してなる延伸積層フィルムが提案されている。例えば特許文献1には、固有複屈折値が負の樹脂からなる層の少なくとも片面に他の樹脂が積層された積層フィルムを延伸してなる延伸積層フィルムが記載されている。しかしながら、依然として、さらに位相差のばらつきが低減された延伸積層フィルムが求められている。
【0005】
ところで、位相差フィルムを表示装置などに組み込んだ製品を製造する際には、位相差フィルムと基板またはその他の層とを貼付した後、不良が生じた製品については位相差フィルムを剥離して部品の一部を再利用するという、いわゆるリワークを行なうことが求められる場合がある。そのため装置を構成する各層は、リワークに適するよう容易に剥離しうることが好ましいが、従来位相差フィルムとして用いられている延伸積層フィルムは、容易に剥離することが困難であり、リワークに適さないという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−274725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、位相差フィルムとして良好に用いることができ安価に供給しうる延伸積層フィルムであって、位相差のばらつきが低減され、且つリワークに適した物性を有するものを提供することにある。
本発明の別の目的は、安価に製造でき、光学的性能が良好であり、且つリワークが容易な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、延伸積層フィルムにおいて、各層を構成する材料のガラス転移温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明によれば、以下の〔1〕〜〔11〕が提供される。
【0009】
〔1〕 熱可塑性樹脂組成物B1からなる層blと、スチレン重合体樹脂組成物Aからなる層aと、熱可塑性樹脂組成物B2からなる層b2とがこの順で積層され、組成物B1、A及びB2のガラス転移温度(℃)をそれぞれTg(B1)、Tg(A)及びTg(B2)とし、組成物B1、A及びB2の中間点ガラス転移温度(℃)をそれぞれTmg(B1)、Tmg(A)及びTmg(B2)とし、組成物B1、A及びB2の補外ガラス転移終了温度(℃)をそれぞれTeg(B1)、Teg(A)及びTeg(B2)としたとき、これらが下記式(1)〜(6):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+17 (1)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+17 (2)
Tmg(B1)<Tmg(A)<Tmg(B1)+20 (3)
Tmg(B2)<Tmg(A)<Tmg(B2)+20 (4)
Teg(B1)+5<Teg(A)<Teg(B1)+23 (5)
Teg(B2)+5<Teg(A)<Teg(B2)+23 (6)
を満たすことを特徴とする延伸積層フィルム。
〔2〕 前記スチレン重合体樹脂組成物Aに含まれるスチレン重合体樹脂が、(a1)成分10〜60質量%及び(a2)成分40〜90質量%からなる組成物であり、前記(a1)成分が、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位30〜79質量%、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位20〜60質量%、及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体に基づく重合単位1〜10質量%を含むマレイミド系共重合体であり、前記(a2)成分が、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位60〜80質量%及びシアン化ビニル単量体に基づく重合単位20〜40質量%を含むビニル共重合体である、前記延伸積層フィルム。
〔3〕 前記組成物Aの粘度が250℃、150(1/s)において300〜1000(Pa・s)である、前記延伸積層フィルム。
前記組成物B1、前記組成物A及び前記組成物B2のビカット軟化温度(℃)
をそれぞれVST(B1)、VST(A)及びVST(B2)としたとき、これらが下記式(7)〜(8):
VST(B1)+20<VST(A) (7)
VST(B2)+20<VST(A) (8)
を満たす、前記延伸積層フィルム。
〔5〕 前記組成物B1及びB2の少なくとも一方が、平均粒子径0.05〜0.3μmであるゴム粒子を1〜80質量%含む、前記延伸積層フィルム。
〔6〕 配向方向の引張破断伸度が>10%、引張弾性率が>2400MPaである、前記延伸積層フィルム。
〔7〕 延伸倍率が1.1〜10倍である、前記延伸積層フィルム。
〔8〕 前記Tg(B1)、Tg(A)、Tg(B2)、Tmg(B1)、Tmg(A)、Tmg(B2)、Teg(B1)、Teg(A)及びTeg(B2)が、下記式(1’)〜(6’):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+15 (1’)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+15 (2’)
Tmg(B1)+5<Tmg(A)<Tmg(B1)+15 (3’)
Tmg(B2)+5<Tmg(A)<Tmg(B2)+15 (4’)
Teg(B1)+10<Teg(A)<Teg(B1)+20 (5’)
Teg(B2)+10<Teg(A)<Teg(B2)+20 (6’)
を満たす、前記延伸積層フィルム。
〔9〕 前記組成物B1及びB2が、メタクリル酸エステル系共重合体を含む、前記延伸積層フィルム。
〔10〕 前記延伸積層フィルムを備えることを特徴とする位相差フィルム。
〔11〕 前記位相差フィルムを備えることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の延伸積層フィルムは、位相差のばらつきが低減され、且つリワークに適した物性を有するため、液晶表示装置等の光学機器用の安価に供給しうる位相差フィルムとして好適に用いることができる。
本発明の液晶表示装置は、上記本発明の延伸積層フィルムを位相差フィルムとして備えるため、安価に製造でき、光学的性能が良好であり、且つリワークが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の延伸積層フィルムにおいては、熱可塑性樹脂組成物B1からなる層blと、スチレン重合体樹脂組成物Aからなる層aと、熱可塑性樹脂組成物B2からなる層b2とがこの順で積層されている。
【0012】
(樹脂組成物A)
本発明において、層aを構成するスチレン重合体樹脂組成物Aとは、芳香族ビニル単量体由来の構造を繰り返し単位の一部又は全部に有する重合体樹脂(本明細書では、説明の便宜上このような樹脂を「スチレン重合体樹脂」という。)を1種以上含む組成物である。
【0013】
かかる芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン(p−クロロスチレン等)、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン等のスチレン単量体及びその置換体が挙げられ、これらの中でスチレンが特に好ましい。これらと共重合しスチレン重合体樹脂を構成しうる他の単量体としては:
(I)不飽和ジカルボン酸イミド及びその誘導体(マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド等、好ましくはN−フェニルマレイミド)、
(II)不飽和ジカルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸等、好ましくは無水マレイン酸)、
(III)シアン化ビニル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等、好ましくはアクリロニトリル)、及び
(IV)他のビニル単量体
を挙げることができる。さらに、(IV)他のビニル単量体としては:
(IV−1)ビニルカルボン酸のエステル(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートを示す)
(IV−2)ビニルカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)、
(IV−3)ビニルカルボン酸のアミド(アクリル酸アミド及びメタクリル酸アミド等)
(IV−4)その他(エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等)
を挙げることができる。
【0014】
スチレン重合体樹脂組成物Aとしては、スチレン重合体樹脂として、下記(a1)成分及び(a2)成分を含むものが好ましい。
(a1)成分:芳香族ビニル単量体に基づく重合単位30〜79質量%、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位20〜60質量%、及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体に基づく重合単位1〜10質量%を含み、さらに任意にこれら以外のビニル単量体0〜40質量%を含むマレイミド系共重合体。
(a2)成分:芳香族ビニル単量体に基づく重合単位60〜80質量%及びシアン化ビニル単量体に基づく重合単位20〜40質量%を含み、さらに任意にこれら以外のビニル単量体0〜20質量%を含むビニル共重合体。
【0015】
(a1)成分の構成材料となる、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体としては上記(I)で挙げたものと同様のものを挙げることができ、不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては上記(II)で挙げたものと同様のものを挙げることができ、これら以外のビニル単量体としては上記(III)及び(IV)で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
(a1)成分において、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位、不飽和ジカルボン酸無水物単量体に基づく重合単位、及びこれら以外のビニル単量体の比率は、より好ましくは、それぞれ40〜60質量%、30〜60質量%、3〜7質量%及び0〜20質量%とすることができる。
【0016】
(a2)成分の構成材料となる、シアン化ビニル単量体としては、上記(III)で挙げたものと同様のものを挙げることができ、これら以外のビニル単量体としては、上記(I)、(II)、及び(IV)で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
(a2)成分において、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位、シアン化ビニル単量体に基づく重合単位、及びこれら以外のビニル単量体の比率は、より好ましくは、それぞれ65〜75質量%、15〜35質量%及び0〜10質量%とすることができる。
【0017】
スチレン重合体樹脂組成物Aに含まれる(a1)成分及び(a2)成分の組成比は、好ましくは(a1)成分10〜60質量%及び(a2)成分40〜90質量%、より好ましくは(a1)成分15〜40質量%及び(a2)成分60〜85質量%とすることができる。
【0018】
スチレン重合体樹脂組成物Aが、上記(a1)及び(a2)成分を含むことにより、良好に相溶し、所望のガラス転移温度を均一に発現することができ、且つ良好な耐熱性を発現することができ、且つ好ましくない白濁等の現象を防ぐことができる。
【0019】
スチレン重合体樹脂組成物Aは、耐久性を持たせるなどのために、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤などをさらに含有することができる。
【0020】
スチレン重合体樹脂は分子量によって特に制限されないが、重量平均分子量が、通常、10,000〜300,000、好ましくは15,000〜250,000、より好ましくは20,000〜200,000である。
【0021】
本発明に用いるスチレン重合体樹脂組成物Aのガラス転移温度Tg(A)は、好ましくは105℃以上、より好ましくは110〜180℃、特に好ましくは110〜130℃である。本発明において、ガラス転移温度とは、JIS K7121でいう補外ガラス転移開始温度(Tig)を意味する。
【0022】
本発明に用いるスチレン重合体樹脂組成物Aの溶融粘度は、250℃、150(1/s)において300〜1000(Pa・s)であることが好ましい。このような溶融粘度を有することにより、延伸時の破断などが起こりにくくなり、延伸時及び製品の使用時における強度をさらに向上させることができる。
【0023】
スチレン重合体樹脂の製造方法については特に制限はなく、例えば乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法等の重合方法が採用でき、またれらの重合法の複合化した技術によるものでも良いが、溶液重合法によるものが好ましい。また、回分法重合、連続重合どちらの重合法によるものでもよい。
【0024】
スチレン重合体樹脂のうち、上記(a1)成分のように不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位を含有するものは、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体を含む単量体組成物を共重合して製造することもでき、不飽和ジカルボン酸無水物を含む単量体組成物を共重合した後、その中の不飽和ジカルボン酸無水物に基づく重合単位をイミド化し、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位に相当する残基に変換することによっても製造することができる。製造の容易さ及び経済性の観点から、後者がより好ましい。かかる変換は、アンモニア及び/又は第1級アミンとの反応を行なうことにより達成しうる。かかる第1級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロへキシルアミン、デシルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン、クロロフェニルアミン、ジクロロフェニルアミン、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン等が挙げられる。
【0025】
イミド化反応は、オートクレーブを用いて溶液状態、塊状状態あるいは懸濁状態で反応を行うことができる。また、スクリュー押出機等の溶融混練装置を用いて、溶融状態で反応を行うことも可能である。イミド化における溶液反応に用いられる溶媒は任意であり、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0026】
イミド化の反応温度は50〜350℃の範囲が好ましく、100〜300℃の範囲が特に好ましい。イミド化反応は触媒の存在を必ずしも必要としないが、用いるならばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の第3級アミンが好適である。
【0027】
前記樹脂組成物Aは、上記(a1)成分10〜60質量%及び(a2)成分40〜90質量%からなる組成物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で通常の添加剤、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、有機系染料、顔料、無機系色素、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、熱安定剤、光安定剤、などを含有してもよい。
【0028】
(樹脂組成物B)
層b1を構成する熱可塑性樹脂組成物B1及び層b2を構成する熱可塑性樹脂組成物B2は、熱可塑性樹脂を含む組成物である。なお、熱可塑性樹脂組成物B1と熱可塑性樹脂組成物B2は同じ組成のものであってもよいし、異なった組成のものであってもよい。下記において、樹脂組成物B1及びB2に共通する、好ましい組成物の態様の説明では、これらを合わせて、単に「樹脂組成物B」という。
【0029】
樹脂組成物Bを構成する熱可塑性樹脂としては、後述する特定のガラス転移温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度を有する層を構成しうるものを適宜用いることができるが、メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂を用いることが特に好ましい。
【0030】
メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂は、メタクリル酸アルキルエステルに基づく重合単位を含む重合体樹脂である。
具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;アルキル基の水素がOH基、COOH基もしくはNH2基などの官能基によって置換された炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;またはメタクリル酸アルキルエステルと、スチレン、酢酸ビニル、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステルなどのメタクリル酸アルキルエステル以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体を挙げることができる。これらは一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちアクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸アルキルエステルとの共重合に好適である。
好適なメタクリル酸アルキルエステル共重合体樹脂では、官能基によって置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜99.5重量%含有し、アクリル酸アルキルエステルを好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは0.5〜50重量%含有する。
【0031】
メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂は、その製造方法によって、特に制限されず、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法などで得ることができる。好適なガラス転移温度を持ち、フィルム成形性に優れたメタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂を得るために、連鎖移動剤を重合時に使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成に応じて適宜決定する。
【0032】
本発明に用いる樹脂組成物Bのガラス転移温度Tg(B)は、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。なお、低いガラス転移温度を有する重合体、例えばゴム粒子を配合して成るメタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物では2以上のガラス転移温度を示す場合がある。樹脂組成物Bが2以上のガラス転移温度を示す場合には、高い方の値をTg(B)とする。
【0033】
樹脂組成物Bは、熱可塑性樹脂に加えて、ゴム粒子を含有することができる。ゴム粒子は、数平均粒子径が0.05〜0.3μmであることが好ましく、0.05〜0.25μmであることがより好ましい。数平均粒子径が大きいと、ヘイズが高くなりすぎ、光線透過率が低くなる。また、数平均粒子径が小さくなりすぎると接着性が低下する傾向にある。
【0034】
前記ゴム粒子は、好ましくは熱可塑性樹脂組成物Bと同じ材質からなる外層および架橋構造を有するゴムからなる内層を有する。この場合、前記内層の粒径が、前記ゴム粒子の粒子径となるよう、粒子径を調整することができる。即ち、当該内層の平均粒径を0.05〜0.3μm、好ましくは0.05μm〜0.25μmとすることができる。ゴム粒子内層の平均粒子径がこの範囲にあると、フィルムの製膜性が安定するとともに、フィルム自体の柔軟性や取扱い性の面で優れる。ゴム粒子の内層の平均粒径があまり小さいと、フィルムに必要な柔軟性が欠如し、取扱い性が低下する傾向になり、一方、その平均粒径があまり大きいと、表面平滑性が低下し、透明感が損なわれるため好ましくない。なお、メタクリル樹脂からなる外層をも含めたゴム粒子の平均粒径は、好ましくは0.07〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.45μmとすることができる。なお、外層及び内層を「有する」とは、ゴム粒子が外層及び内層のみからなることを意味するものではなく、それ以外の層をさらに有していてもよい。例えば後述するように内層の内側にさらに芯内層をも有することができる。
【0035】
前記外層を構成する樹脂の具体例としては、好ましくは、前記メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物を構成する重合体と同様のものを挙げることができる。
【0036】
前記内層を構成する架橋構造を有するゴムとしては、各種の弾性共重合体からなるものを用いることができるが、より好ましくは、アクリル酸アルキル単量体(m1)50〜99.9重量%と、炭素−炭素二重結合を1個有する単官能単量体(m2)0〜49.9重量%と、炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体(m3)0.1〜10重量%との共重合体(i−1)であることが好ましい。
【0037】
前記アクリル酸アルキル(m1)としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜8のものが挙げられる。なかでも、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのような、アルキル基の炭素数4〜8のものが好ましい。これらの物質は、それぞれ単独で、又は必要により2種以上組み合わせて使用することができる。
所望に応じて用いられる、前記炭素−炭素二重結合を一分子中に1個有する単官能化合物(m2)としては、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルのようなメタクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが、好適なものとして挙げられる。これらの物質は、それぞれ単独で、又は必要により2種以上組み合わせて使用することができる。
前記炭素−炭素二重結合を一分子中に少なくとも2個有する多官能化合物(m3)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような多塩基酸のポリアルケニルエステル、トリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。なかでも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましい。これらの物質は、それぞれ単独で、又は必要により2種以上組み合わせて使用することができる。また、多官能化合物(m3)は、架橋性を有することが好ましい。
【0038】
前記ゴム粒子は、好ましくは、前記架橋構造を含むゴムを少なくとも表層に有する芯粒子(R−1)100重量部の存在下で、前記メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物を与えうる単量体組成物(ii)10〜400重量部を重合して調製することができる。(なお、芯粒子(Rー1)は、その全てが前記架橋構造を含むゴムから形成されていてもよい。)具体的には、芯粒子(R−1)100重量部の存在下に、前記単量体組成物(ii)10〜400重量部、好ましくは20〜400重量部、より好ましくは20〜200重量部を重合させることにより、単量体組成物(ii)による重合層を芯粒子(R−1)の表面に少なくとも1層結合させた構成にすることができる。単量体組成物(ii)の量が上記範囲内であると、芯粒子(R−1)の凝集が生じにくくなり、フィルムとした際の透明性が良好となる。単量体組成物(ii)の量が上記範囲から外れると、ゴム粒子を分散させたメタクリル酸エステル重合体の組成物全体の流動性の低下が起こり、フィルム成膜が困難となるおそれがある。また、この重合の際、反応条件を調節して、ゴム粒子の内層の平均粒子径が0.05μm以上0.3μm以下となるようにすることができる。
【0039】
ゴム粒子は、例えば、前記共重合体(i−1)を構成する上記単量体成分(m1〜m3)を乳化重合法等により、少なくとも一段の反応で重合させて、共重合体(i−1)を少なくともその表層に有する芯粒子(R−1)を得、この芯粒子(R−1)の存在下、上記した単量体組成物(ii)を乳化重合法等により、少なくとも一段の反応で重合させて製造することができる。このような複数段階の重合により、単量体組成物(ii)は芯粒子(R−1)にグラフト共重合され、グラフト鎖を有する架橋弾性共重合体となったゴム粒子を製造することができる。すなわち、このゴム粒子は、アクリル酸アルキルをゴムの主成分として含む多層構造を有するグラフト共重合体となる。
【0040】
前記ゴム粒子は、前記内層の内側に芯内層をさらに有し、該芯内層が、メタクリル酸エステル(M4)70〜100重量%と、ビニル基を有する化合物(M5)0〜30重量%との(共)重合体(i−2)からなることがさらに好ましい。ゴム粒子が3層以上の構造を有すると、フィルムとしたときの弾性率や表面平滑性、表面硬度などの点で、特に好ましい。このように3層以上の構造を有するゴム粒子は、前記(共)重合体(i−2)を構成する単量体を最初に重合させ、得られる重合体の存在下で上記の共重合体(i−1)を構成する単量体を重合させ、さらに得られる芯粒子(R−1)の存在下で、上記の単量体組成物(ii)を重合させることにより、得ることができる。
【0041】
前記(共)メタクリル酸エステル(M4)としては、メタクリル酸アルキル、特にメタクリル酸メチルが有利である。任意に用いられるビニル基を有する化合物(M5)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシルのようなアクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが挙げられる。また、前記化合物(M5)は、共重合性の架橋性物質であることが好ましい。このような物質としては、前記共重合体(i−1)を構成する成分である多官能化合物(m3)と同様の化合物を用いることができる。このような3層構造のゴム粒子は、例えば、特公昭55−27576号公報(=USP 3,793,402)に開示されている。特に同公報の実施例3に記載のものは、好ましい組成の一つである。ゴム粒子をこのような少なくとも3層からなる多層構造の粒子とする場合、外層としてグラフトさせる単量体組成物(ii)は、前記共重合体(i−1)及び前記(共)重合体(i−2)の合計100重量部に対して、10〜400重量部用いることが好ましい。
【0042】
本発明において、ゴム粒子の内層の平均粒径は、乳化重合における乳化剤の添加量や単量体の仕込み量などを調節することによって、0.05〜0.3μm の範囲で適当な値に設定することができる。なお、ゴム粒子の内層の平均粒径は、ゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面を酸化ルテニウムにより染色させ、染色されたゴム粒子の直径を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。すなわち、ゴム粒子は、外層のメタクリル樹脂が、混合するメタクリル樹脂と混和して染色されず、架橋構造を有するゴムからなる内層のみが染色されるので、電子顕微鏡などで観察することで、ゴム粒子の内層の粒子径を求めることができる。
【0043】
熱可塑性樹脂Bとゴム粒子とを含有する前記樹脂組成物Bは、組成物全量を100重量%とした場合に、前記ゴム粒子を、好ましくは1〜80重量%、より好ましくは5〜35重量%、さらにより好ましくは10〜25重量%含有する。ゴム粒子の量がこのような範囲であると、フィルムが脆くなることがなくなり、本発明の延伸積層フィルムの製膜性を向上させることができたり、本発明の延伸積層フィルムの調製において破断無く延伸を行うことができたりする。ゴム粒子の量が少なすぎると、フィルム化するのが困難になるおそれがあり、またその量が多すぎると、フィルムの透明性や表面硬度が失われるおそれがある。熱可塑性樹脂の割合は、20〜99重量%とすることができるが、熱可塑性樹脂及びゴム粒子以外の他の添加剤を含む場合は、その割合を適宜調整することができる。
【0044】
前記樹脂組成物Bは、通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、有機系染料、顔料、無機系色素、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、熱安定剤、光安定剤、などを含有してもよい。これらを含有することにより、耐光性、耐熱性等の特性を得ることができる。なかでも紫外線吸収剤は、より優れた耐候性を与える点で好ましく用いられる。
紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、延伸積層フィルムの耐久性を向上し得る。紫外線吸収剤としては、例えば、一般に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤などが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として具体的には、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、などが例示される。
2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては具体的には、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロロベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが例示される。またサリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤として具体的には、p−tert−ブチルフェニルサリチル酸エステル、p−オクチルフェニルサリチル酸エステルなどが例示される。これらの中でも、特に2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が好ましい。
【0045】
これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。紫外線吸収剤を配合する場合、その量は、滅可塑性樹脂及びゴム粒子の合計100重量部を基準に、通常0.1重量部以上であり、好ましくは0.3重量部以上、また好ましくは2重量部以下である。紫外線吸収剤の濃度は、波長370nm以下の透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。紫外線吸収剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤を予め熱可塑性樹脂中に配合する方法;溶融押出成形時に直接供給する方法などが挙げられ、いずれの方法が採用されてもよい。
紫外線吸収剤の量は、紫外線吸収剤の種類によってその効果が異なるので、フィルムの色調を悪化させること無く紫外線を効率的に遮断することができる量に適宜調整すればよい。
【0046】
ゴム粒子は、波長380nm〜780nmにおける屈折率np(λ)が、マトリックスとなる熱可塑性樹脂の波長380nm〜780nmにおける屈折率nm(λ)との間に、|np(λ)-nm(λ)| ≦ 0.05の関係を満たすことが好ましい。特に、|np(λ)-nm(λ)| ≦ 0.045であることがより好ましい。なお、np(λ)及びnm(λ)は、波長λにおける主屈折率の平均値である。|np(λ)-nm(λ)|の値が上記値を超える場合には、界面での屈折率差によって生じる界面反射により、透明性を損なうおそれがある。
【0047】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂組成物Bは、温度250℃、せん断速度150sec-1における溶融粘度が400〜1000Pa・sのものが好ましく、450〜900Pa・sのものがより好ましい。このような溶融粘度を有することにより、延伸時の破断などが起こりにくくなり、延伸時及び製品の使用時における強度をさらに向上させることができる。
【0048】
(樹脂組成物A及びBの関係)
本発明の延伸積層フィルムにおいて組成物B1、A及びB2のガラス転移温度(℃)をそれぞれTg(B1)、Tg(A)及びTg(B2)とし、組成物B1、A及びB2の中間点ガラス転移温度(℃)をそれぞれTmg(B1)、Tmg(A)及びTmg(B2)とし、組成物B1、A及びB2の補外ガラス転移終了温度(℃)をそれぞれTeg(B1)、Teg(A)及びTeg(B2)としたとき、これらは下記式(1)〜(6):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+17 (1)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+17 (2)
Tmg(B1)<Tmg(A)<Tmg(B1)+20 (3)
Tmg(B2)<Tmg(A)<Tmg(B2)+20 (4)
Teg(B1)+5<Teg(A)<Teg(B1)+23 (5)
Teg(B2)+5<Teg(A)<Teg(B2)+23 (6)
を満たし、好ましくは下記式(1’)〜(6’):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+15 (1’)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+15 (2’)
Tmg(B1)+5<Tmg(A)<Tmg(B1)+15 (3’)
Tmg(B2)+5<Tmg(A)<Tmg(B2)+15 (4’)
Teg(B1)+10<Teg(A)<Teg(B1)+20 (5’)
Teg(B2)+10<Teg(A)<Teg(B2)+20 (6’)
を満たす。
前記、ガラス転移温度Tg、中間点ガラス転移温度Tmg、補外ガラス転移終了温度Tegは、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。なお、ガラス転移温度Tgは、JIS K7121でいう補外ガラス転移開始温度Tigを意味する。
【0049】
これらの関係を有することにより、均一な屈折率等の良好な光学的性能を得ることができ、且つリワークの容易性を高めることができる。特に、組成物A及びBのガラス転移温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度が、上記(1)〜(6)、好ましくは上記(1’)〜(6’)の関係を満たす場合、組成物Aのガラス転移の開始から終了までの温度範囲が組成物Bのそれより適度に広いことに基づき、製品を均質に延伸することが可能になり、高い加工の自由度を得ることができ、結果として良好な光学的性能を得ることができ、且つリワークの際の層間の剥離をも低減することができる。
【0050】
また、組成物B1、組成物A及び組成物B2のビカット軟化温度(℃)をそれぞれVST(B1)、VST(A)及びVST(B2)としたとき、これらが下記式(7)〜(8):
VST(B1)+20<VST(A) (7)
VST(B2)+20<VST(A) (8)
を満たすことが好ましい。
ビカット軟化温度は、JIS K7206(B50)に準拠して測定した値である。
組成物B1、組成物A及び組成物B2のビカット軟化温度(℃)が上記関係式を満たすことにより、耐久性が高く且つ延伸加工性に優れた延伸積層フィルムとすることができる。
【0051】
(層a及び層b)
本発明の延伸積層フィルムにおいては、熱可塑性樹脂組成物B1からなる層blと、スチレン重合体樹脂組成物Aからなる層aと、熱可塑性樹脂組成物B2からなる層b2とがこの順で積層されてなる。
【0052】
本発明の延伸積層フィルムにおいては、前記A層と前記B層の間の層間剥離強度が、1.0N/25mm以上であることが好ましい。ここで、層間剥離強度は、JIS K−6854−2に準拠して、引張速度100mm/分で180度剥離により測定された値である。このような層間剥離強度を有することにより、耐久性が高く且つリワーク性に優れる延伸積層フィルムとすることができる。
【0053】
本発明の延伸積層フィルムは、層b1又は層b2の少なくとも一方の配向度ΔPが0.1×10-4以上9.0×10-4以下であることが好ましく、0.3×10-4以上6.0×10-4以下であることがより好ましい。前記ΔPは、層b1及び層b2の両方とも上記範囲であることが特に好ましい。前記ΔPが上記範囲にあることによって、偏光板との接着性がより良好となる。なお、配向度は式〔1〕で定義される値である。
ΔP=(nx+ny)/2-nz 〔1〕
ここで、nx:面内の遅相軸方向の屈折率、
y:面内の遅相軸に直交する方向の屈折率、
z:厚さ方向の屈折率である。
【0054】
本発明の延伸積層フィルムは、層b1又は層b2の少なくとも一方の、面内方向レターデーションが1nm超10nm未満であることが好ましく、層b1及び層b2の両方の面内方向レターデーションが1nm超10nm未満であることがより好ましい。前記面内方向レターデーションが上記範囲を満たすことにより、本発明の延伸積層フィルムを位相差フィルム等に用いた場合、良好な光学特性を得ることができる。前記面内レタデーションReの測定は、幅方向に50mm間隔、流れ方向に長さ1000mmの範囲で50mm間隔で自動複屈折計にて行う。そして全測定結果を平均して各層の面内レタデーションとする。後述する厚さ方向レターデーションRthも、前記面内レターデーションReと同様の方法で測定できる。
【0055】
層aの平均厚さは、好ましくは5〜300μm、より好ましくは8〜90μmである。
層b1及び/又は層b2の平均厚さは、好ましくは3〜400μm、より好ましくは4〜90μmである。各層の厚さは、以下の手順で測定する。まず、延伸積層フィルムの幅方向に50mm間隔で反射分光膜厚計を操作して、積層フィルムの各層の厚さを測定する。次に、この操作を延伸積層フィルムの流れ方向に50mm間隔で、長さ1000mmに亙って行う。そして全測定結果を平均して各層の厚さとする。
層b1の平均厚さ/層aの平均厚さ/層b2の平均厚さの比は、好ましくは5/1/5〜1/5/1である。なお、層b1と層b2とは同じ平均厚さでなくても良いが、反りなどを防止するためにほぼ同じ平均厚さにするのが好ましい。
【0056】
本発明の延伸積層フィルムは、層aの面内方向レターデーション、及び厚さ方向レターデーションによって、特に制限されない。本発明の延伸積層フィルムを光学補償フィルムとして使用する場合に、延伸積層フィルムは、面内方向レターデーションReが、好ましくは20〜600nm、より好ましくは30〜400nmであり、厚さ方向レターデーションが、好ましくは−600〜−20nm、より好ましくは−400〜−30nmである。
【0057】
本発明の延伸積層フィルムは、層b1又は層b2の一方又は両方の外表面に、突起を設けることができる。
該突起の直径は、0.001〜0.1μmとすることができる。突起の個数割合は、好ましくは50〜500個/30μm2、より好ましくは100〜450個/30μm2とすることができる。なお、突起の直径及び個数割合は、フィルム表面に白金を蒸着させ、それを走査型電子顕微鏡(例えば、SEM、FE-SEM等)で観察し、観察された突起像から求めることができる。このような突起は、後述する条件で共押出成形し延伸することにより得ることができる。
【0058】
本発明の延伸積層フィルムを、IPS(インプレーンスイッチング)液晶表示装置用の光学補償フィルムとして使用する場合には、厚さ方向レターデーションRth/面内方向レターデーションReの比が−3〜−0.5であることが好ましい。また本発明の延伸積層フィルムを、VA(バーチカルアラインメント)液晶表示装置用の光学補償フィルムとして使用する場合には、厚さ方向レターデーションRth/面内方向レターデーションReの比が−1.3〜−1であることが好ましい。なお、面内方向レターデーションは、(n−n)×dによって定義される値であり、厚さ方向レターデーションは((n+n)/2−n)×dによって定義される値である。なお、dはフィルム又は層の平均厚さである。
【0059】
本発明の延伸積層フィルムは、ヘイズが1.1〜20.0%であることが好ましい。ヘイズがこの範囲にあることによって、偏光板との接着性がより良好となる。ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、市販のヘイズメーターで測定する。
【0060】
本発明の延伸積層フィルムは、熱可塑性樹脂組成物B1、スチレン重合体樹脂組成物A及び熱可塑性樹脂組成物B2を共押出して原反フィルムを得た後、当該原反フィルムをさらに延伸することにより得ることができる。より具体的には、樹脂組成物B1、スチレン重合体樹脂組成物A及び樹脂組成物B2を共押出して、速度V1(m/min)でダイスリップを通過させて溶融フィルムを得、該溶融フィルムを前記V1の2.5〜20倍の周速度V2(m/min)で回転する第一冷却ロールで引き取って原反フィルムを得、次いで該原反フィルムを延伸する工程を含む製造方法とすることができる。前記速度V1は押出レートQ1〔kg/min〕を加工温度での比容積v1〔m3/kg〕で割り、得られた数値をダイスリップギャップ〔m2〕で割ることにより得られる。
【0061】
樹脂組成物B1、スチレン重合体樹脂組成物A及び樹脂組成物B2は、先ず、余分な水分や有機揮発分が、真空乾燥等によって除去され、それぞれ別々に、一軸押出機や二軸押出機等によって溶融され、共押出成形用のダイに供給される。ダイとしては、フィードブロック方式や、マルチマニホールド方式などがあり、適宜選択することができる。
樹脂の溶融温度は、押出成形ができる温度であれば、特に制限されず、通常180〜350℃である。
【0062】
ダイに供給された溶融樹脂は、ダイスリップを通過し、溶融フィルムとして押し出される。ダイから押し出された溶融フィルムは、第一冷却ロール(キャストロールとも言うことがある。)で引き取られ、冷やされ、原反フィルムになる。
本発明においては、第一冷却ロールの周速度V2/前記ダイスリップを通過する溶融樹脂の速度V1の比を、2.5〜20、好ましくは3〜17にする。V2/V1を、この範囲にすることによって、層b1又はb2の外表面に、前に述べた突起を形成することができる。
【0063】
得られた原反フィルムを延伸する際の条件は特に制限されず、1.1〜10倍の延伸倍率での延伸を行うことができる。より好ましくは延伸温度を樹脂組成物B1及び樹脂組成物B2のガラス転移温度Tg(B)よりも20℃〜60℃高い温度にし、延伸倍率1.1〜6倍で延伸を行うことができる。
このような条件で延伸を行うと、層b1及び層b2の配向度及び面内方向レターデーションを上記した範囲に調整することができる。延伸方向は、フィルム流れ方向(MD方向)、フィルム幅方向(TD方向)、フィルム流れ方向に平行でも直交でもない斜め方向のいずれでも良い。また同時又は逐次の二軸延伸を行ってもよい。
【0064】
本発明の延伸積層フィルムは、その配向方向の引張破断伸度が>10%、好ましくは>15%である。引張弾性率が>2400MPa、好ましくは>2500MPaである。かかる物性を有することにより、リワーク性に優れたフィルムを得ることが出来る。ここで延伸積層フィルムの配向方向とは、一軸延伸の場合は延伸の方向、二軸延伸の場合は、より高倍率で延伸した方向をいう。上記引張破断伸度及び引張弾性率を有する延伸積層フィルムは、上記組成物A及び組成物Bを用い、前記層b1の平均厚さ/層aの平均厚さ/層b2の平均厚さの比を5/1/5〜1/5/1とすることにより達成することができる。
【0065】
(位相差フィルム)
本発明の位相差フィルムは、前記本発明の延伸積層フィルムを備える。本発明の位相差フィルムは、偏光子又は偏光板と貼り合わせ、液晶表示装置に用いることができる。
偏光板は、偏光子の両面に保護層がそれぞれ積層されているものである。偏光子に保護層を積層する方法に格別な制限はなく、例えば、保護層となる保護フィルムを、必要に応じてアクリル系接着剤などを介して偏光子に積層する一般的な方法を採用すればよい。
偏光子としては、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって得られるものや、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって得られるものなど、を挙げることができる。また、偏光子として、グリッド偏光子、多層偏光子、コレステリック液晶偏光子などの偏光を反射光と透過光に分離する機能を有する偏光子を用いることもできる。この中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光子が好ましい。偏光子の偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。偏光子の厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0066】
本発明の位相差フィルムと偏光板又は偏光子との貼り合わせに接着剤(粘着剤を含む)を用いる場合、接着剤からなる接着層の平均厚さは、通常0.01μm〜30μm、好ましくは0.1μm〜15μmである。この接着層を構成する接着剤としては、アクリル接着剤、ウレタン接着剤、ポリエステル接着剤、ポリビニルアルコール接着剤、ポリオレフィン接着剤、変性ポリオレフィン接着剤、ポリビニルアルキルエーテル接着剤、ゴム接着剤、塩化ビニル・酢酸ビニル接着剤、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS共重合体)接着剤、その水素添加物(SEBS共重合体)接着剤、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン-スチレン共重合体などのエチレン接着剤、および、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、およびエチレン・アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル接着剤などを挙げることができる。
本発明の位相差フィルムと、偏光子又は偏光板とを貼り合わせる場合、位相差フィルムの遅相軸と、偏光子又は偏光板の吸収軸とが、略垂直又は略平行となるように貼り合わせることが好ましい。略垂直とは、垂直方向から、±5°の範囲内にあることをいい、略平行とは、平行方向から±5°の範囲内にあることをいう。
【0067】
本発明の延伸積層フィルムを位相差フィルムとして用いて本発明の液晶表示装置を製造することができる。液晶表示装置は、通常、光源と、入射側偏光子と、液晶セルと、出射側偏光子とがこの順に、配置されてなるものである。本発明の延伸積層フィルムは、入射側偏光子又は出射側偏光子に貼り合わせられ、偏光子と液晶セルとの間に配置される。すなわち、液晶表示装置は、光源、入射側偏光子、延伸積層フィルム、液晶セル、及び出射側偏光子の構成;光源、入射側偏光子、液晶セル、延伸積層フィルム、及び出射側偏光子の構成;又は、光源、入射側偏光子、延伸積層フィルム、液晶セル、延伸積層フィルム、及び出射側偏光子の構成を有する。
なお、液晶表示装置には、さらに、本発明の位相差フィルム以外の位相差板、輝度向上フィルム、導光板、光拡散板、光拡散シート、集光シート、反射板などを備えていてもよい。
【0068】
本発明の液晶表示装置は、透過型や反射型、あるいは透過・反射両用型等の従来に準じた適宜な構造を有するものとして形成することができる。液晶セルに使用する液晶モードとしては、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。これらの中で、インプレーンスイッチングモードに特に好適に適用することができる。本発明の液晶表示装置のより具体的な例としては、第1の偏光子と、液晶セルと、前記本発明の位相差フィルムと、第2の偏光子とをこの順に備える、インプレーンスイッチングモードの液晶表示装置を挙げることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下において「部」及び「%」は別に断らない限り質量比を表す。実施例及び比較例において、諸物性の測定は下記の通り行なった。
(A)ビカット軟化温度
JIS K7206(B50)に準拠して測定した。
(B)粘度測定
キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所社製 製品名キャピログラフ)を用い、キャピラリー長;10mm、キャピラリー径;1.0mm、バレル直径;9.55mm、温度;250℃、せん断速度;150s−1の条件下で測定した。
(C)ガラス転移温度Tg、中間点ガラス転移温度Tmg、補外ガラス転移終了温度Teg
JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株) DSC−6200)を用いて示差走査熱量測定(DSC)により昇温速度10℃/minで測定した。
【0071】
<実施例1>
(1−1:スチレン重合体樹脂組成物A)
(共重合体(a1)(スチレン−不飽和ジカルボン酸イミド系共重合体)の製造)
撹拌機を備えたオートクレーブ中にメチルエチルケトン15部、スチレン10部、及びα−メチルスチレンダイマー0.014部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度80℃に加熱した。
無水マレイン酸6.2部、及びベンゾイルパーオキサイド0.04部をメチルエチルケトン9部に溶解した溶液を調製した。この溶液を、上記反応系に、上記加熱開始から10時間後に添加した。添加後、更に2時間、温度80℃に保ち、反応液1を得た。
この反応液1にメチルエチルケトン20部を加え室温まで冷却した。これを激しく撹拌しながらメタノール120部に注ぎ、濾別後乾燥し白色粉末状の重合体を得た。
この重合体10部及びトリエチルアミン0.1部をオートクレーブ中でメチルエチルケトン23部に溶解し、これにアニリン3.6部を加え、130℃で7時間イミド化反応を行い、反応液2を得た。
この反応液2を室温まで冷却し、激しく撹拌したメタノール100部に注ぎ、濾別後乾燥し、共重合体(a1)(スチレン−不飽和ジカルボン酸イミド系共重合体)を得た。
得られたスチレン−不飽和ジカルボン酸イミド系共重合体の組成を13C−NMR、熱分解ガスクロマトグラフィーにて測定したところ、スチレン残基47.3質量%、N−フェニルマレイミド残基50.5質量%、無水マレイン酸残基2.2質量%であった。
【0072】
(共重合体(a2)(スチレン−アクリロニトリル系共重合体)の製造)
撹拌機を備えた反応缶中にスチレン70部、アクリロニトリル30部、第三リン酸カルシウム2.5部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、ベンゾイルパーオキサイド0.2部および水250部を仕込み、100℃に昇温し重合を開始させた。
重合開始から7時間後に温度を120℃に昇温して3時間保ち重合を完結させた。重合率は97%に達した。得られた反応液を塩酸にて中和し、脱水、乾燥後白色ビーズ状の共重合体を得た。これを共重合体(a2)とした。
【0073】
(樹脂組成物Aの製造)
共重合体(a2)75部と共重合体(a1)25部と滑剤としてSt−Zn(ステアリン酸亜鉛)50ppmとを混合して、スクリュー直径40mmの単軸押出し機にてシリンダー温度220℃、スクリュー回転数100rpmで押し出し、樹脂組成物Aのペレットとした。
得られた樹脂組成物Aについて、ガラス転移温度Tg、中間点ガラス転移温度Tmg、補外ガラス転移終了温度Teg、ビカット軟化温度及び粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(1−2:熱可塑性樹脂組成物Bの製造)
(ゴム粒子)
特公昭55−27576号公報の実施例3に記載の方法で、ゴム粒子を製造した。ゴム粒子は、球形三層構造を有し、芯層が、メタクリル酸メチルおよび少量のメタクリル酸アリルからなる架橋重合体であり、中間層が、アクリル酸ブチル、スチレンおよび少量のメタクリル酸アリルからなる架橋重合体であり、殻層が、メタクリル酸メチルおよび少量のアクリル酸エチルからなる重合体である。ゴム粒子の数平均粒子径は0.19μmであった。
【0075】
(樹脂組成物B)
メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(質量比)=97.8/2.2、Tg(B)=105℃、Tmg(B)=114℃、Teg(B)=120℃)70部と、前記ゴム粒子30部とを混練して、熱可塑性樹脂組成物Bとしての、メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物Bについて、ガラス転移温度Tg、中間点ガラス転移温度Tmg、補外ガラス転移終了温度Teg、ビカット軟化温度及び粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
(1−3:積層フィルムの押し出し成形)
上記(1−1)で得たスチレン重合体樹脂組成物Aと、上記(1−2)で得た熱可塑性樹脂組成物Bを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、組成物B/組成物A/組成物Bの三層構造を有する、長尺の延伸前積層フィルムに成形された。得られた延伸前積層フィルムの厚みは、70μm/40μm/70μmとした。
【0077】
(1−4:積層フィルムの延伸)
上記(1−3)で得た積層フィルムを、延伸温度134℃、延伸速度10m/分、MD(流れ方向)延伸倍率1.6倍、TD(幅方向)延伸倍率1.2倍で同時二軸延伸した。
延伸に際しては、延伸時のフィルムの状況を目視で観察し、破断・穴あきなどの有無を評価した。結果を表3に示す。
【0078】
(1−5:評価)
上記(1−4)で得られた延伸積層フィルムを、下記の評価方法に従って評価した。結果を表3に示す。
(i)Re測定及びばらつき
自動複屈折計(王子計測機器(株) KOBLA−21ADH)を用いて、波長590nmで延伸積層フィルムの幅方向に50mm間隔で測定し、この測定を延伸積層フィルムの流れ方向に50mm間隔で長さ1000mmにわたって行った。全測定結果を平均してRe値とした。また、Re値の最大値と最小値の差をRe値のばらつきとした。
(ii)延伸積層フィルムの引張弾性率及び引張破断伸度
株式会社島津製作所製オートグラフAGS−Jを用い、引張速度200mm/minで測定した。
(iii)IPSモードにおける表示特性
上記(1−4)で得られた延伸積層フィルムと透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥロール法により積層した巻状体から切り出した光学素子を、市販のIPSモードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、得られた液晶表示装置の画面を正面及び斜め方向(画面に対し垂直方向から45°の角度)から目視で観察し、色むらが確認されたものを×、確認されなかったものを○として評価した。
(iv)リワーク性
上記(1−4)で得られた延伸積層フィルムを15cm×15cmに切り出し後、粘着剤(日東電工社製 DS9621)を用いて無アルカリガラス基板に貼り付けた。延伸積層フィルムを、コーナー部から中心方向に向かって(即ち、延伸積層フィルムの辺に対して45°の角度で)、基板面に対し鉛直方向に引きはがし、ガラスに対して糊残りなしに完全に剥がれたものを○、途中で破れが生じたものを×とした。
【0079】
<実施例2及び比較例1〜4>
樹脂組成物中の重合単位の組成及び樹脂の組成を表1及び2に示す通り変更した他は、実施例1と同様に操作し、延伸積層フィルムを調製し評価した。結果を表3に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表1〜3の結果から明らかな通り、組成物A及びBのガラス転移温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度の関係が本発明の規定の範囲内である実施例1及び2においては、延伸加工を良好に行うことができ、Reのばらつきが小さく、正面及び斜めから観察した場合のいずれにおいても優れた表示特性を示し、且つリワークも容易であった。これに対し、組成物A及びBのガラス転移温度、中間点ガラス転移温度及び補外ガラス転移終了温度の関係の一つ以上が本発明の規定の範囲外であった比較例1〜6においては、延伸加工性が不良である、Reのばらつきが大きい、斜めから観察した場合の表示特性が不良である、リワークの容易性が低いなどの現象が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物B1からなる層blと、スチレン重合体樹脂組成物Aからなる層aと、熱可塑性樹脂組成物B2からなる層b2とがこの順で積層され、
組成物B1、A及びB2のガラス転移温度(℃)をそれぞれTg(B1)、Tg(A)及びTg(B2)とし、
組成物B1、A及びB2の中間点ガラス転移温度(℃)をそれぞれTmg(B1)、Tmg(A)及びTmg(B2)とし、
組成物B1、A及びB2の補外ガラス転移終了温度(℃)をそれぞれTeg(B1)、Teg(A)及びTeg(B2)としたとき、これらが下記式(1)〜(6):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+17 (1)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+17 (2)
Tmg(B1)<Tmg(A)<Tmg(B1)+20 (3)
Tmg(B2)<Tmg(A)<Tmg(B2)+20 (4)
Teg(B1)+5<Teg(A)<Teg(B1)+23 (5)
Teg(B2)+5<Teg(A)<Teg(B2)+23 (6)
を満たすことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項2】
前記スチレン重合体樹脂組成物Aに含まれるスチレン重合体樹脂が、(a1)成分10〜60質量%及び(a2)成分40〜90質量%からなる組成物であり、
前記(a1)成分が、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位30〜79質量%、不飽和ジカルボン酸イミド又はその誘導体に基づく重合単位20〜60質量%、及び不飽和ジカルボン酸無水物単量体に基づく重合単位1〜10質量%を含むマレイミド系共重合体であり、
前記(a2)成分が、芳香族ビニル単量体に基づく重合単位60〜80質量%及びシアン化ビニル単量体に基づく重合単位20〜40質量%を含むビニル共重合体である、請求項1に記載の延伸積層フィルム。
【請求項3】
前記組成物Aの粘度が250℃、150(1/s)において300〜1000(Pa・s)である、請求項1又は2に記載の延伸積層フィルム。
【請求項4】
前記組成物B1、前記組成物A及び前記組成物B2のビカット軟化温度(℃)をそれぞれVST(B1)、VST(A)及びVST(B2)としたとき、これらが下記式(7)〜(8):
VST(B1)+20<VST(A) (7)
VST(B2)+20<VST(A) (8)
を満たす、請求項1〜3のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項5】
前記組成物B1及びB2の少なくとも一方が、平均粒子径0.05〜0.3μmであるゴム粒子を1〜80質量%含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項6】
配向方向の引張破断伸度が>10%、引張弾性率が>2400MPaである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項7】
延伸倍率が1.1〜10倍である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項8】
前記Tg(B1)、Tg(A)、Tg(B2)、Tmg(B1)、Tmg(A)、Tmg(B2)、Teg(B1)、Teg(A)及びTeg(B2)が、下記式(1’)〜(6’):
Tg(B1)<Tg(A)<Tg(B1)+15 (1’)
Tg(B2)<Tg(A)<Tg(B2)+15 (2’)
Tmg(B1)+5<Tmg(A)<Tmg(B1)+15 (3’)
Tmg(B2)+5<Tmg(A)<Tmg(B2)+15 (4’)
Teg(B1)+10<Teg(A)<Teg(B1)+20 (5’)
Teg(B2)+10<Teg(A)<Teg(B2)+20 (6’)
を満たす、請求項1〜7のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項9】
前記組成物B1及びB2が、メタクリル酸エステル系共重合体を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の延伸積層フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の延伸積層フィルムを備えることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項11】
請求項10の位相差フィルムを備えることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−178899(P2009−178899A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19153(P2008−19153)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】