弁開閉時期調整システム
【課題】ロック機構部のロック解除動作が確実に行われるように従来の弁開閉時期制御を改善する。
【解決手段】弁開閉時期調整システムは、クランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで回転位相をロックするロック機構部と、変位機構部とロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットを備えている。油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部と、ロック解除行程において、ロックピンがロック凹部から係脱するまで回転位相を遅角位置に待機させる待機時間を特性情報に基づいて変更する待機時間変更部とが備えられている。
【解決手段】弁開閉時期調整システムは、クランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで回転位相をロックするロック機構部と、変位機構部とロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットを備えている。油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部と、ロック解除行程において、ロックピンがロック凹部から係脱するまで回転位相を遅角位置に待機させる待機時間を特性情報に基づいて変更する待機時間変更部とが備えられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相を制御する弁開閉時期調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相(以下、単に回転位相と称する)を所定の中間回転位相(ロック回転位相またはロック位置)に保持するために、従動側回転部材に形成されたロック凹部とこのロック凹部に対して出退可能なロック体とからなる油圧式のロック機構を備えた弁開閉時期制御装置が知られている。なお、ここでは、ロック体がロック凹部に挿入されることをロックまたはロック動作、ロック体がロック凹部から離脱することをロック解除またはロック解除動作と呼んでいる。このように構成された弁開閉時期制御装置では、ロック要求やロック解除要求が発生した場合、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相を変位させる動作及びロック動作やロック解除動作がスムーズに行われるように油圧制御弁を制御する必要がある。
【0003】
特許文献1には、1つの油圧制御弁で回転位相の変位と、ロックピンの動作の両方を制御する弁開閉時期制御装置が開示されている。この装置では、油圧制御弁への駆動信号(駆動電流)を制御する制御手段が、油圧制御弁に対する制御の制御領域を、複数の制御領域に区分すると共に、少なくとも1つの制御領域における駆動電流制御特性を他の制御領域における駆動電流制御特性と異ならせている。詳しくは、位相変位制御の精度・安定性の確保が要求される制御領域では、駆動電流制御の応答速度(時定数)をオーバーシュート・ハンチング防止可能な範囲内に設定し、一方、高応答化が要求される制御領域では、駆動電流制御の応答速度(時定数)を高応答化している。例えば、ロックピンをロック方向/ロック解除方向に駆動するロックピン制御領域では高応答化し、回転位相を運転条件に応じて設定した目標回転位相に変位制御する制御領域では、精度・安定性が確保できる低応答化する。
この装置では、ロック動作・ロック解除動作制御と回転位相変位制御とで異なる応答速度を設定することでそれぞれの動作が最適に行われることが意図されている。しかしながら、ロック要求またはロック解除要求を判定してから、ロック動作・ロック解除動作制御における応答速度の変更設定が行われるので、その判定タイミングが早すぎたり遅すぎたりすると、適正な弁開閉時期の制御ができないという不都合、特にロックピンがロック凹部から抜けないという不都合が生じる。
【0004】
特許文献2には、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更可能にした位相可変機構と、吸気弁のリフト量を連続的に変更可能にした可変バルブリフト機構とを備えた内燃機関の制御装置が開示されている。この装置では、低負荷側の運転領域と高負荷側の運転領域でモードを分けており、各モードによって、早閉じ動作と遅閉じ動作を分け、吸気弁閉タイミング設定や目標気筒空気量を変化させている。また、モードが移行する際に、気筒空気量を適切に調整し、異常燃焼を確実に防止することができるとともに、ポンプ損失を低減し、機関運転効率を高めることができる。しかしながら、この装置では、低負荷側と高負荷側で運転領域を分けているが、可変バルブの制御動作におけるモード分けに関する記載がなく、弁開閉時期制御における制御モードの調整に関しては考慮されていない。
【0005】
特許文献3には、クランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転部材と、カムシャフトに対して一体回転する従動側回転部材との相対位相(回転位相)を、可動する仕切りによって容積が相補的に可変する2種類の圧力室のそれぞれに対する作動流体の給排によって変位させる位相変換機構と、前記内燃機関の始動に適した中間ロック位相において前記相対位相を固定可能にするとともにその固定解除を作動流体によって行うロック機構とを備えた弁開閉時期制御装置が開示されている。回転位相変位のための作動油の供給を制御する第1制御弁と、ロック動作のための作動油の供給を制御する第2制御弁とが備えられている。制御ユニットには、エンジンの運転状態に応じた最適の相対位相を格納・記憶しており、別途検出される運転状態(エンジン回転数、冷却水温など)に対して、最適の相対位相が取得できるように構成されている。制御ユニットには、イグニッションキーのON/OFF情報、エンジン油温を検出する油温センサからの情報等も入力されている。この弁開閉時期制御装置は、運転状態に応じて最適な目標相対位相(目標回転位相)を算定する構成となっているが、算定された目標回転位相を実現するために油圧制御弁を駆動するための操作量の演算に関しては詳しく記載されていない。特に、回転位相を変位させる動作及びロック動作やロック解除動作がスムーズを行われるような油圧制御弁の制御に関しては特に考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011‐058444号公報(段落番号〔0002−0011〕〔0043−0049〕、図9)
【特許文献2】特開2009‐243372号公報(段落番号〔0029−0125〕、図5,12)
【特許文献3】特開2009‐074384号公報(段落番号〔0012−0040〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、ロック機構部の動作制御、特にロック解除動作が確実に行われるように従来の弁開閉時期制御を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の弁開閉時期調整システムは、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットとを含み、前記制御ユニットが、前記油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部を備え、前記ロックピンのロック解除行程において、前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を前記特性情報に基づいて変更する待機時間変更部が備えられている。
【0009】
前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間が固定されていると、油圧動特性の変動によってロック機構部と変位機構部とに付与される油圧の作用タイミングがずれてしまうことで、ロック解除不良が生じる可能性がある。上記本発明の構成では、油圧動特性の変動による油圧の作用タイミングずれによるロック解除不良の可能性は、特性取得部によって取得される油圧動特性に基づいて前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を適切に調整することで、低減される。
例えば、作動油の粘性や油圧の低下でロックピンをロック凹部から係脱する作用力の低下や遅れが生じた場合、待機時間を長くすることで、ロック解除動作が確実なものとなる。
【0010】
油圧動特性値を決定付ける特性情報としては、油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、その他、粘性と関連づけることができる油劣化度などが挙げられるので、前記特性情報が前記油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち少なくとも1つを含むような構成を採用するとよい。但し、付加的なコストを考慮するなら、油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち他の目的で既に取得されるものを利用すると好都合である。例えば、油圧を直接油圧回路に装着した油圧センサから得るのはコストがかかるので、油圧ポンプの回転数から推定することが好ましい。
【0011】
ロック解除不良は、十分でない待機時間によって引き起こされる可能性が高い。言い換えると、待機時間を長くすれば、ロック解除不良を防ぐことができる。しかしながら、必要以上に待機時間を長くすれば、制御系の時間応答性が悪化し、レスポンスの悪い操縦性につながる。従って、ロック解除不良が発生した場合、徐々に待機時間を長くして、ロック解除不良が発生しない最短の待機時間を見出すことが重要である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記ロック機構部におけるロック解除不良が検知された場合に前記待機時間を延長修正する修正部が前記待機時間変更部に備えられている。
【0012】
修正部による待機時間の延長修正を毎回繰り返すといった冗長問題を低減するため、さらに好適な実施形態では、前記修正部が複数回のロック解除不良の学習結果から前記待機時間の修正量を算定する学習型修正部として構築される。これにより、適切な待機時間を確実にかつ迅速に決定できる。
【0013】
ロック解除不良が発生に伴って待機時間が延長されていく場合、その延長時間に限界値を設ける必要がある。その限界値をロック機構部の異常発生のしきい値と連係させると、ロック機構部の故障を報知することができ、長期にわたって低燃費での走行や加速性のない走行を続けるという不都合が防止される。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記待機時間変更部によって延長された前記待機時間がしきい値を越えたとき、異常信号を出力する異常判定部が備えられている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の弁開閉時期調整システムの基本的な制御の流れを概略的に図解する模式図である。
【図2】弁開閉時期制御装置の全体構成を示す側断面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】規制機構及びロック機構の構成を示す分解図である。
【図5】エンジン始動時の規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図6】ロック状態を解除するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図7】規制状態を解除するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図8】規制解除状態及びロック解除状態を保持するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図9】通常運転状態における進角制御時の規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図10】通常運転状態における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図11】ロック動作開始時における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図12】規制状態を実現するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図13】ロック状態における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図14】制御ユニットの機能を示す機能ブロック図である。
【図15】待機時間変更部の機能を示す機能ブロック図である。
【図16】異常判定部の機能を示す機能ブロック図である。
【図17】VVT機構に対する回転位相制御ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図18】待機時間算定処理ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図19】ロック不良判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図20】始動からロック解除までの回転位相変位行程を図解する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の弁開閉時期調整システムの具体的な実施形態を説明する前に、この発明の概略的な説明を図1の模式図を用いて説明する。このシステムは、ここではフィードバック制御部を含む電子制御系から出力される駆動信号によって油圧制御される弁開閉時期調整機構(以下、VVT機構と称する)1を備えている。VVT機構1は、後で詳しく説明されるが、内燃機関(エンジンとも表記する)のクランク軸に対するカム軸の回転位相を進角方向または遅角方向に変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相で前記回転位相をロックするロック機構部とを備えている。変位機構部とロック機構部とは駆動信号(例えばPWM信号)によって駆動制御される油圧制御弁(図1では図示されていない)によって動作する。
【0016】
全体的な制御の流れは、まず、エンジンECU11から与えられる回転位相の制御目標となる基本目標回転位相を補正して得られた目標回転位相と、制御量としての実回転位相(VVT機構1の実角度)との偏差に基づいて操作量を演算出力する。さらに、この操作量から駆動信号を生成して、油圧制御弁へ出力する。なお、図では、基本目標回転位相はθ0で、目標回転位相はθで、偏差はΔθで、操作量はSで、駆動信号はDで、実回転位相はθrで示されている。
【0017】
この発明の重要な特徴は、ロックピンのロック解除行程において、ロック機構部においてロック解除不良が生じた場合、遅角位置における回転位相を待機させる待機時間を延長することである。図1では、遅角位置における基本的な待機時間:t0が算定された修正量:Δtだけ延長された待機時間:twとなり、これは制御本体であるフィードバック制御に渡されることが図解されている。
待機時間の変更は、tw=t0+Δtで示されている。
【0018】
基本的な待機時間:t0は、油圧制御弁を含む油圧回路の油圧動特性に関する特性情報に基づいて算定される。特性情報としては、油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数(エンジン回転数で代用可能)、油劣化度などが利用可能である。待機時間に最も影響を与えるのは油圧であるが、ここでは油圧を推定することができるパラメータとして油温(図ではTで示されている)とエンジン回転数(図ではrpmで示されている)が採用されている。
さらに、ロック解除行程における油圧の作用状態からも待機時間の修正量を算定することができるという本願発明者の知見に基づき、実回転位相(実角度)の経時的変化、つまり変化率:rλも特性情報の1つとして採用されている。
このような特性情報を入力パラメータとして、一般にはマップ化される次の関係式:Mによって基本的な待機時間が算定可能である。
t0=M(T,rpm,λ)
あるいはt0=M(T,rpm)でもよいし、t0=M(λ)でもよい。
【0019】
修正量:Δtは、ロック解除不良が判定されると、所定量として、または不良度合いに応じて算定される量として与えることができる。ロック解除不良は、目標回転位相に対する実回転位相の経時的の挙動から判定可能である。
【0020】
さらに、図1では、待機時間:twがしきい値:tthを越えたとき、ロック機構部に故障が発生したとみなして異常信号を出力する機能も図解されている。この異常信号はエンジンECU11に与えられることで、運転者に対して故障を報知する異常報知がなされる。
【0021】
フィードバック制御自体は、よく知られた構成であり、VVT機構1における回転位相の測定値(回転位相の実際値)である実角度(図ではθrで示されている)と、目標値である目標角度(図ではθで示されている)の差である偏差(図ではΔθで示されている)に基づいて、操作量:Sを演算する。さらに、演算された操作量から駆動信号:Dが生成され、油圧制御弁に出力される。
【0022】
本発明に係る実施形態について図2から図13に基づいて説明する。まずは、図2及び図3に基づいて、VVT機構1の全体構成について説明する。
【0023】
(全体構成)
弁開閉時期制御機構(以下単にVVT機構と称する)1は、エンジンのクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転部材としての外部ロータ2と、外部ロータ2に対して同軸上に配置され、カムシャフト19と同期回転する従動側回転部材としての内部ロータ3とを備えている。
【0024】
外部ロータ2は、カムシャフト19が接続される側に取り付けられるリアプレート21と、カムシャフト19が接続される側とは反対側に取り付けられるフロントプレート22と、リアプレート21とフロントプレート22とで挟まれるハウジング23から構成される。外部ロータ2に内装される内部ロータ3は、カムシャフト19の先端部に一体的に組み付けられ、外部ロータ2に対して一定の範囲内で相対回転が可能である。
【0025】
クランクシャフトが回転駆動すると、動力伝達部材10を介してリアプレート21のスプロケット部21aにその回転駆動力が伝達され、外部ロータ2が図3に示すS方向に回転駆動する。外部ロータ2の回転駆動に伴い、内部ロータ3がRD方向に回転駆動してカムシャフト19が回転する。
【0026】
外部ロータ2のハウジング23には、径内方向に突出する複数個の突出部24を周方向に沿って互いに離間させて形成してある。この突出部24と内部ロータ3とにより油圧室4が形成される。本実施形態においては、油圧室4を3箇所に設けてあるが、これに限られるものではない。
【0027】
各油圧室4は、内部ロータ3の一部をなす仕切部31又は内部ロータ3に取り付けられるベーン32によって、進角室41と遅角室42とに二分されている。仕切部31に形成された規制部材収容部51とロック部材収容部61には、それぞれ規制部材5とロック部材(ロックピンとも称する)6が収容され、規制機構50及びロック機構部60を構成している。なお本発明では、進角方向及び遅角方向の回転変位を行う機構全般を変位機構部とも呼んでいる。この変位機構部に規制機構50も含まれている。これらの構成については後述する。
【0028】
内部ロータ3に形成された進角通路43は、進角室41に連通している。同様に、内部ロータ3に形成された遅角通路44は、遅角室42に連通している。進角通路43及び遅角通路44は、油圧回路7を介して、進角室41及び遅角室42に作動油を供給又は排出して、変位機構部の主要素である仕切部31又はベーン32に油圧を作用させる。このようにして、外部ロータ2に対する内部ロータ3の相対回転位相を、図3の進角方向D1又は遅角方向D2へ変位させ、或いは、任意の位相に保持する。なお、作動油としてはエンジンオイルが用いられるのが一般的である。
【0029】
外部ロータ2と内部ロータ3とが相対回転移動可能な一定の範囲は、油圧室4の内部で仕切部31又はベーン32が変位可能な範囲に対応する。進角室41の容積が最大となるのが最進角位相であり、遅角室42の容積が最大となるのが最遅角位相である。すなわち、相対回転位相は最進角位相と最遅角位相との間で変位可能である。
【0030】
内部ロータ3とフロントプレート22とに亘ってトーションスプリング8を設けてある。内部ロータ3及び外部ロータ2は、トーションスプリング8により、相対回転位相が進角方向D1に変位するよう付勢されている。
【0031】
次に、油圧回路7の構成について説明する。油圧回路7は、エンジンにより駆動されて作動油の供給を行う油圧ポンプ71と、進角通路43及び遅角通路44に対する作動油の供給及び排出を制御するソレノイド式油圧制御弁72と、油圧ポンプ71からの作動油を昇圧する昇圧機構73、作動油を貯留するタンク74とを備えている。
【0032】
油圧制御弁72は、制御ユニット9から出力される駆動信号に基づいて作動する。油圧制御弁72は、進角通路43への作動油の供給を許可し、遅角通路44からの作動油の排出を許可して進角制御を行う第1の位置72aと、進角通路43及び遅角通路44への作動油の給排を禁止して位相保持制御を行う第2の位置72bと、進角通路43からの作動油の排出を許可し、遅角通路44への作動油の供給を許可して遅角制御を行う第3の位置72cとを備えている。油圧制御弁72は、制御ユニット9から駆動信号に基づいて動作する。本実施形態の油圧制御弁72は、制御ユニット9からからの駆動信号のない状態においては、第1の位置72aで進角制御を行うよう構成されている。
【0033】
(規制機構)
相対回転位相を最遅角位相から中間ロック位相までの範囲(以下、「規制範囲Lr」と称する)に規制する規制機構50の構成について、図4に基づき説明する。中間ロック位相とは、後述のロック機構部60によってロックされるときの相対回転位相を指す。
【0034】
規制機構50は、主に段付き円筒形の規制部材5と、規制部材5を収容する規制部材収容部51と、規制部材5が突入可能となるようリアプレート21の表面に形成された長孔形状の規制凹部52とから構成される。
【0035】
規制部材5は、径が異なる円筒を4段積み重ねた形状である。この4段の円筒をリアプレート21の側から順に、第1段部5a、第2段部5b、第3段部5c及び第4段部5dと称する。第2段部5bは第1段部5aよりも径が小さくなるよう構成され、それよりフロントプレート22の側では、第2段部5b、第3段部5c、第4段部5dと順に径が大きくなるように構成されている。なお、第3段部5cは、第1油圧室55の容積を小さくして、第1油圧室55に作動油が供給されたときの規制部材5の動作性を向上させるために設けてある。
【0036】
第1段部5aは規制凹部52に突入可能に形成され、第1段部5aが規制凹部52に突入しているときは、相対回転位相が規制範囲Lr内に規制される。第4段部5dには円筒形の凹部5fが形成され、スプリング53が収容される。また、規制部材5が付勢方向に移動するときの作動油の抵抗を緩和し、動作性を向上させるため、規制部材5の中心部には貫通孔5gが形成されている。
【0037】
規制部材5とフロントプレート22との間には栓部材54を設け、この栓部材54と凹部5fの底面との間にスプリング53が取り付けられる。栓部材54に形成した切欠部54aは、規制部材5がフロントプレート22の側に移動する際に、作動油を不図示の排出流路によりVVT機構1の外部に排出可能とし、規制部材5の動作性の向上に寄与する。
【0038】
規制部材収容部51は、カムシャフト19の回転軸芯(以下、「回転軸芯」と称する)の方向に沿って内部ロータ3に形成され、フロントプレート22の側からリアプレート21の側に亘って内部ロータ3を貫通している。規制部材収容部51は、例えば径が異なる円筒状の空間を2段積み重ねた形状であって、規制部材5がその内部で移動可能なように形成してある。
【0039】
規制凹部52は、回転軸芯を中心とした円弧状であって、その径方向における位置は後述のロック凹部62とはわずかに異なるよう形成してある。規制凹部52は、規制部材5が第1端部52aと当接状態にあるときに、相対回転位相が中間ロック位相となるように、規制部材5が第2端部52bと当接状態にあるときには、相対回転位相が最遅角位相となるように構成されている。すなわち、規制凹部52は規制範囲Lrに対応している。
【0040】
規制部材5は、規制部材収容部51に収容されると共に、スプリング53によってリアプレート21の側に常時付勢されている。規制部材5の第1段部5aが規制凹部52に突入すると、相対回転位相が規制範囲Lr内に規制され、「規制状態」が作り出される。スプリング53による付勢力に抗して、第1段部5aが規制凹部52から退出すると、規制状態が解除され、「規制解除状態」となる。
【0041】
規制部材5を規制部材収容部51に収容すると、規制部材5と規制部材収容部51とによって第1油圧室55が形成される。第1油圧室55に作動油が供給され、油圧が第1受圧面5eに作用すると、規制部材5がスプリング53の付勢力に抗してフロントプレート
22の側に移動し、規制解除状態となる。第1油圧室55に作動油を給排する流路の構成については後述する。
【0042】
(ロック機構部)
相対回転位相を中間ロック位相にロックするロック機構部60の構成について、図4に基づき説明する。ロック機構部60は、主に段付き円筒形のロック部材6と、ロック部材6を収容するロック部材収容部61と、ロック部材6が突入可能となるようリアプレート21の表面に形成された円孔形状のロック凹部62とから構成される。
【0043】
ロック部材6は、例えば径が異なる円筒を3段積み重ねた形状である。この3段の円筒をリアプレート21の側から順に、第1段部6a、第2段部6b及び第3段部6cと称する。第1段部6a、第2段部6b、第3段部6cと順に径が大きくなるように構成されている。
【0044】
第1段部6aはロック凹部62に突入可能に形成され、第1段部6aがロック凹部62に突入している状態のときは、相対回転位相が中間ロック位相にロックされる。第3段部6cから第2段部6bの一部に亘って、円筒形の凹部6fが形成され、スプリング63が収容される。また、ロック部材6が付勢方向に移動するときの作動油の抵抗を緩和し、動作性を向上させるため、ロック部材6の中心部には貫通孔6gが形成されている。
【0045】
ロック部材6とフロントプレート22との間には栓部材64を設け、この栓部材64と凹部6fの底面との間にスプリング63が取り付けられる。栓部材64に形成した切欠部64aは、ロック部材6がフロントプレート22の側に移動する際に、作動油を不図示の排出流路によりVVT機構1の外部に排出可能とし、ロック部材6の動作性の向上に寄与する。
【0046】
ロック部材収容部61は、回転軸芯の方向に沿って内部ロータ3に形成され、フロントプレート22の側からリアプレート21の側に亘って内部ロータ3を貫通している。ロック部材収容部61は、径が異なる円筒状の空間を3段積み重ねた形状であって、ロック部材6がその内部で移動可能なように形成してある。
【0047】
ロック部材6は、ロック部材収容部61に収容されると共に、スプリング63によってリアプレート21の側に常時付勢されている。ロック部材6の第1段部6aがロック凹部62に突入すると、相対回転位相が中間ロック位相にロックされ、「ロック状態」が作り出される。スプリング63による付勢力に抗して、第1段部6aがロック凹部62から退出すると、ロック状態が解除され、「ロック解除状態」となる。
【0048】
ロック部材6をロック部材収容部61に収容すると、ロック部材6とロック部材収容部61によって第2油圧室65及び第3油圧室66が形成される。第2油圧室65に作動油が供給され、油圧が第2受圧面6dに作用すると、ロック部材6がスプリング63の付勢力に抗してフロントプレート22の側に移動し、ロック解除状態となる。また、第3油圧室66に作動油が供給され、油圧が第3受圧面6eに作用すると、ロック部材6のロック解除状態が保持される。第2油圧室65及び第3油圧室66に作動油を給排する流路の構成については後述する。
【0049】
次に、規制解除流路、ドレン流路、ロック解除流路及び連通流路について、図4と図5に基づき説明する。
【0050】
(規制解除流路)
規制解除状態を実現するための規制解除流路は、規制時連通路82と解除時連通路83
とを備えている。規制時連通路82は、後述するリアプレート通路84、第1貫通路85a及び供給路85cからなり、規制状態を解除するために第1油圧室55に作動油を供給する流路である。また、解除時連通路83は、規制部材5が規制凹部52から退出しているときに、規制解除状態を保持するために第1油圧室55に作動油を供給する流路である。
【0051】
リアプレート通路84は、リアプレート21の内部ロータ3の側の表面に形成された溝状の通路であり、進角室41と連通している。リアプレート通路84は、規制部材5が規制範囲Lr内における所定の進角側の範囲(以下、「規制解除可能範囲Lt」と称する)内にあるときにのみ、ロータ通路85の一部をなす第1貫通路85aと連通可能なように構成されている。なお、規制解除可能範囲Lt内に規制部材5があるとは、第1段部5aが完全に規制解除可能範囲Ltの領域に位置していることをいう。
【0052】
ロータ通路85は、内部ロータ3に形成される通路であり、第1貫通路85a、第2貫通路85b、供給路85c及び排出路85dからなる。第1貫通路85a及び第2貫通路85bは、内部ロータ3の径方向外側の側面に、回転軸芯の方向に沿って連続的に直線をなすように形成される。第1貫通路85aのリアプレート21の側の端部は、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときに、リアプレート通路84と連通するよう構成されている。また、第2貫通路85bのフロントプレート22の側の端部は、排出路85dと接続している。供給路85cは、第1貫通路85aと第2貫通路85bの境界部から分岐し、第1油圧室55に連通している。排出路85dは内部ロータ3のフロントプレート22の側の表面に平面視でL字状に形成されており、規制部材5が規制解除可能範囲Ltよりも進角側の所定の範囲にあるときにのみ、後述の排出孔87と連通するよう構成されている。
【0053】
上述のように、規制時連通路82は、リアプレート通路84、第1貫通路85a及び供給路85cからなる。したがって、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときに、リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通することにより、規制時連通路82は第1油圧室55に連通して作動油を供給し、第1受圧面5eに油圧を作用させて規制状態を解除する。
【0054】
解除時連通路83は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、進角室41と連通している。解除時連通路83は、規制部材5が規制凹部52から退出して規制解除状態となっているときに、第1油圧室55に連通して進角室41から作動油を供給し、第1受圧面5eに油圧を作用させて規制解除状態を保持する。
【0055】
なお、規制部材5がスプリング53の付勢力に抗してフロントプレート22の側に移動するとき、解除時連通路83が第1油圧室55と連通するタイミングで、供給路85cが第1段部5aによって第1油圧室55との連通を断たれるように構成してある。すなわち、第1油圧室55に作動油を供給する通路は、規制時連通路82或いは解除時連通路83の何れかとなるよう択一的に構成されている。この構成により、第1油圧室55から作動油を排出したい場合に、第1油圧室55から供給路85c(後述のドレン油路86の一部)を介して作動油を排出しつつ、解除時連通路83からの作動油の供給を断つことができる。
ただし厳密には、規制時連通路82と解除時連通路83との切換時においては、規制時連通路82及び解除時連通路83の何れからも作動油が第1油圧室55に供給されるように構成してある。これは、規制時連通路82と解除時連通路83との切換時に何れの連通路も第1油圧室55に接続されない状況が生じると、第1油圧室55が一時的に密閉状態となり、規制部材5の規制・解除動作の円滑性が損なわれてしまうのを防止するためである。
【0056】
(ドレン流路)
ドレン流路86は、規制部材5が規制凹部52に突入するときに、規制部材5の移動抵抗となる第1油圧室55内の作動油を速やかに排出するための流路である。ドレン流路86は、供給路85c、第2貫通路85b、排出路85d及び排出孔87からなる。排出孔87は、フロントプレート22を回転軸芯の方向に貫通するよう形成されている。
【0057】
ドレン流路86は、規制部材5が規制解除可能範囲Ltよりも進角側の所定の範囲にあるときにのみ連通し、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときには連通しないように構成してある。この構成により、リアプレート通路84と第1貫通路85aが連通しているときに、進角室41から供給された作動油が、そのままドレン流路86を経由して排出されるのを防止する。
【0058】
(ロック解除流路)
ロック解除流路88は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、遅角室42と連通している。ロック解除流路88は、第2油圧室65に遅角室42から作動油を供給して、第2受圧面6dに油圧を作用させ、ロック部材6をロック凹部62から退出させるための流路である。
【0059】
(連通流路)
連通流路89は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、規制解除状態かつロック部材6がフロントプレート22の側にある程度移動した状態で、第1油圧室55と第3油圧室66とを連通するように構成されている。解除時連通路83、第1油圧室55、連通流路89及び第3油圧室66が連通すると、進角室41から第1油圧室55に供給された作動油が第3油圧室66にも供給されるため、規制解除状態とロック解除状態を保持することができる。
【0060】
(ロック解除時及び規制解除時の動作)
以上説明した規制機構50、ロック機構部60及び各流路を用いて、ロック状態を解除する手順について、図5〜図8に基づき説明する。
【0061】
エンジン始動時の状態を図5に示す。エンジン始動時には、油圧制御弁72が第1の位置72aにあるため進角制御を行う。しかし、規制部材5は規制解除可能範囲Ltの範囲外にあるため、規制時連通路82からは第1油圧室55に作動油が供給されない。また、解除時連通路83も第1油圧室55と連通していないため、第1油圧室55に作動油が供給されない。よって、ロック状態が維持される。
【0062】
エンジン始動後、まずロック状態を解除するために、遅角制御に切り換えたときの状態を図6に示す。このとき、ロック解除流路88を介して遅角室42から第2油圧室65に作動油が供給され、ロック部材6がロック凹部62から退出してロック状態が解除される。ロック状態が解除されると、規制部材5は規制凹部52内で遅角方向に移動する。
【0063】
図示しない位相センサが、規制部材6が規制解除可能範囲Lt内に位置する相対回転位相となったことを検知すると、ECU73は進角制御に切り換える。このときの状態を図7に示す。リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通しているため、規制時連通路82から第1油圧室55に作動油が供給される。すると、規制部材5は規制凹部52から退出し、規制状態が解除される。
【0064】
進角制御によって、規制解除状態及びロック解除状態を保持しているときの状態を図8に示す。このとき、第1油圧室55と第3油圧室66とは連通流路89により連通するから、進角室41から第1油圧室55に供給される作動油は、第3油圧室にも供給されることになる。その結果、規制解除状態及びロック解除状態が保持される。
【0065】
(通常運転状態における動作)
次に、上述の手順により規制解除状態及びロック解除状態が実現され、通常の運転状態となったときの動作について、図9及び図10に基づき説明する。
【0066】
通常の運転状態において、進角制御を行ったときの状態を図9に示す。進角制御のときには上述のとおり、進角室41、解除時連通路83、第1油圧室55、連通流路89及び第3油圧室66が連通するから、規制解除状態及びロック解除状態が保持された状態で進角作動する。
【0067】
通常の運転状態において、遅角制御を行ったときの状態を図10に示す。このとき、遅角室42から第2油圧室65に作動油が供給されるので、ロック解除状態が保持される。一方、第1油圧室55には作動油が供給されないので、規制部材5はスプリング53によって付勢され、リアプレート21と当接する。しかし、規制部材5はリアプレート21の表面上を滑動するので、運転に支障をきたすことはない。また、規制凹部52とロック凹部62は径方向にずらした位置に形成しているため、規制部材5がロック凹部62に突入することはない。
【0068】
(規制時及びロック時の動作)
最後に、まず規制状態とした後、ロック状態とする手順について、図11〜図13に基づき説明する。
【0069】
進角制御により、排出路85dと排出孔87とが連通して、ドレン流路86が機能する位置するまで位相回転させた状態を図11に示す。このとき、進角室41から第1油圧室55及び第3油圧室66に作動油が供給されるため、規制解除状態及びロック解除状態を保持している。ドレン流路86が連通しているため、次の手順において規制部材5を規制凹部52に突入させるときに、第1油圧室55から作動油を排出し、速やかに規制状態とすることができる。
【0070】
遅角制御に切り換えて、規制状態が実現した状態を図12に示す。規制部材5が規制凹部52に突入してからも遅角制御を維持すると、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内に位置して、次に進角制御に切り換えたとき、規制状態が解除されてしまう。このため、規制状態となった後は、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内に位置して、リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通する前に進角制御に切り換える必要がある。
【0071】
規制部材5が規制解除可能範囲Ltに入る前に、進角制御に切り換えると、第1油圧室55には作動油が供給されないので、規制部材5は規制凹部52から退出せずに進角作動する。その結果、規制部材5が規制凹部52の第1端部52aに当接する。このとき、連通流路89への作動油供給が断たれているので、ロック部材6はスプリング63によって付勢され、ロック凹部62に突入し、図13に示したロック状態が実現される。
【0072】
上述したように構成されたVVT機構1の変位機構部とロック機構部とを、エンジンECU11からの動作指令に基づいて制御する制御ユニット9を、図14に示された機能ブロック図を用いて説明する。この実施形態では、エンジンECU11からの動作指令には、基本目標角度(回転位相)及びその動作行程におけるロック動作またはロック解除動作の有無情報が含まれているとする。ロック動作またはロック解除動作の有無情報は、基本目標角度から、制御ユニット9側で判定してもよい。
【0073】
制御ユニット9は、データ入出力部91、特性取得部92、ロック解除命令部93、目標算定部94、待機時間変更部95、フィードバック制御部96、ロック解除不良判定部97、異常判定部98を含んでいる。データ入出力部91は、エンジンECU11から送られてくる基本目標角度やその他の図示されていないECU等からデータを受け取り、要求している制御ユニット9内の各機能部に転送する。エンジンECU11からの基本目標角度:θ0は目標算定部94に転送さら、基本目標角度:θ0から読み取られたロック動作またはロック解除動作の有無情報:Ron,Roffはロック解除命令部93に転送される。
【0074】
特性取得部92は、油圧回路7の油圧動特性に関する特性情報として、センサECU12からエンジン回転数や油温を取得する機能や、実角度(図ではθrで示されている)も取得する機能を備えることができる。この実施形態の特性取得部92は、図15に示すように、経時的に入ってくる実角度からVVT機構1の回転変位変化率:λを演算する微分器921と、この回転変位変化率:λから油圧を推定する油圧推定部922を備えている。
ロック解除命令部93は、ロック解除不良部97からのロック解除正常信号やロック解除不良及びロック動作またはロック解除動作の有無情報を入力し、ロック解除命令を出力する。
目標算定部94は、データ入出力部91から受け取った基本目標角度、ロック解除命令部93から受け取ったロック動作またはロック解除動作の有無情報、待機時間変更部95から受け取った待機時間などに基づいて、目標角度を算定する。なお、この実施形態の目標算定部94は、回転位相変位制御においてロック解除動作やロック動作を伴うかどうかによって油圧制御の応答性の変更するための信号(図ではHとLで示されている)も出力する。
【0075】
待機時間変更部95は、図15に詳しく図解されているように、待機時間算定部951と学習型修正部952を備えている。待機時間算定部951は、特性取得部92から得られた特性情報を入力パラメータとして油圧―待機時間マップを用いて基本待機時間を導出する。なお、この実施形態では複数の油圧―待機時間マップが用意されており、使用する油圧―待機時間マップは、学習型修正部952からのマップ選択情報に基づいて行われる。この油圧―待機時間マップの選択は、単に油圧推定部922からの推定油圧によって行ってもよい。学習型修正部952は、ロック解除不良判定部97から出力されるロック解除不良の回数をカウントし、そのカウントされたロック解除不良回数と推定油圧から修正出力部953が修正量を算出する。ここでも、修正量は、ロック解除不良回数だけで算出してもよい。その算出アルゴリズムは、よく知られた学習型で構築することができる。
ロック解除不良は、実角度が変化しないことで検知できるので、ロック解除不良判定部97には目標角度と実角度が入力されており、ロック解除不良判定部97は所定タイミングにおける実角度の無変化からロック解除不良を判定する。
【0076】
フィードバック制御部96は、偏差算出部961、PID制御器962、駆動制御部963を含んでいる。偏差算出部961は、目標算定部94から送られてきた目標角度と制御量である実角度との差から偏差を算出する。PID制御器962は、よく知られているように、偏差を入力として操作量を出力する。なお、PID制御器に代えて、他の形式の制御器を採用してもよい。駆動制御部963は、PID制御器962から出力された操作量に基づいて、VVT機構1の油圧制御弁72のソレノイドを駆動する駆動信号(この実施形態ではPWM信号)を生成して出力する。
【0077】
異常判定部98は、図16に示すように、待機時間変更部94で算定された待機時間が予め設定された所定時間を上回ったことで異常を検出するしきい値判定を採用している。異常が検知されると異常信号が正常信号に代えて出力される。この異常信号や正常信号は、一般には異常フラグまたは正常フラグの形態で実施される。
【0078】
上述したように構成された、本発明に係る弁開閉時期調整システムの実施形態における、VVT機構1に対する回転位相制御ルーチンの一例を図17から図19のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
このルーチンがスタートすると、まずエンジン始動後のVVT機構1に対する回転位相の最適角度(目標角度)が進角側かどうかチェックされる(#31)。このチェックで進角側であるなら(#31Yes分岐)、ロック解除が必要となるので、ロック解除命令が設定される(#32)。次のステップで、ロック解除命令が設定されているかどうかチェックされる(#33)。ロック解除命令が設定されていると(#33Yes分岐)、待機時間算定処理が実行される(#40)。この待機時間算定処理は以下に説明するが、この処理により、回転位相が中間位置(中間回転位相)であるロック位置より遅角側でロックピンがロック凹部から抜き出るまでその変位を中止する待機時間が算定され、回転位相変位の待機が実行される。
【0080】
図18に示されている待機時間算定処理(#40)に入ると、まず目標角度として遅角領域の所定角度が設定される(#41)。次いで、現状の制御量である実角度が読み込まれる(#42)。経時的に取得している実角度から実角度の微分値、つまり回転位相変位の変化量が演算される(#43)。演算された回転位相変位の変化量から油圧が推定され(#44)、この推定油圧から油圧・待機時間マップを用いて待機時間が導出される(#45)。ここで、ロック解除不良信号がでているかどうか、言い換えるとロック解除不良フラグがたっているかどうか、チェックされる(#46)。ロック解除不良信号が出ていなければ(#46No分岐)、そこでこの待機時間算定処理を終了し、ロック解除不良信号が出ていなれば(#46Yes分岐)、待機時間を延長すべく修正した後、この待機時間算定処理を終了する。
【0081】
待機時間算定処理から戻ると、待機時間算定処理で設定された遅角領域の所定角度位置(所定回転変位位置)での、同様に待機時間算定処理で算定された待機時間が既に経過しているかチェックされる(#51)。待機時間が経過していると(#51Yes分岐)、目標角度をVVT機構1の最適角度に設定する(#52)。さらに、以下に示すロック不良判定処理が実行される(#60)。ステップ#51のチェックでまだ待機時間になっていない場合(#51No分岐)、ステップ#52の目標角度の設定と#60のロック不良判定処理は省略される。
【0082】
図19に示されているロック不良判定処理(#60)に入ると、まず、設定されている目標角度が進角側であり、かつ実角度が「0」(中間回転位相位置、つまり中間ロック位置を意味する)の状態で所定時間経過しているがどうかがチェックされる(#61)。ここでは、このロック不良判定処理は、中間ロック位置から進角方向への回転位相変位行程において、所定時間がたってもロックが解除されずに回転位相が中間ロック位置のまま変位しなければ、ロック解除不良とみなすという処理となっている。このため、ステップ#61のチェックでYes分岐の場合、ロック解除不良とみなされ、ロック解除不良信号が出力され、またはロック解除不良フラグが立てられる(#62)。されに、ロック解除不良回数がカウントされ、このカウント値と推定油圧とから待機時間の修正量が算出され、この不良判定処理を終了する(#63)。
ステップ#61のチェックでNo分岐の場合、ロック解除不良が生じていないとみなされ、ロック解除命令がクリアされるとともに(#64)、ロック解除不良信号もクリアされる(#65)。さらに、待機時間修正量が「0」にリセットされ、この不良判定処理を終了する(#66)。
【0083】
ロック不良判定処理から戻ると、実角度が読み込まれ(#71)、目標角度と実角度の差分を入力としてPID制御による制御量の演算が行われる(#72)。さらに、制御量から駆動信号が生成され、油圧制御弁72に送信される(#73)。なお、ステップ#31やステップ#33でNo分岐した場合には、直接このステップ#71から#73までの実質的なフィードバック制御に移行する。最後に、VVT機構1に異常(故障等)が発生しているかどうかのチェックとして、その異常発生判定条件としてのしきい値と待機時間が比較される(#74)。待機時間がこのしきい値を上回った場合(#74Yes分岐)、異常発生とみなされ、異常発生信号が出力される(#74)。待機時間がこのしきい値以下の場合(#74No分岐)、ステップ#33に戻って、この回転位相制御ルーチンが続行される。
【0084】
上述した回転位相制御ルーチンを繰り返すことで、所望の回転位相変位が実現するが、その一行程(始動からロック解除まで)を図20の模式図を用いて説明する。
図示されていないがこの行程の出発点は、運転停止時であり、規制ピン5とロックピン6のそれぞれが規制凹部52とロック凹部62に突入している。
【0085】
ステップ(1)
図示されていないが、始動時には、一旦進角室41に油圧がかけられた後、遅角制御のために遅角室42に作動油が供給される。その際、遅角室42に供給された作動油がロック凹部62に進入して、ロックピン6を押し上げる。
ステップ(2)
ロックピン6がロック凹部62から持ち上げられると遅角室42にかけられた油圧により回転位相が遅角方向に変位する。
ステップ(3)
所定の回転位相まで変位すると、遅角室42への作動油の供給が停止され、次いで進角制御のために進角室41に作動油が供給される。進角室41に供給された作動油が規制ピン5を規制凹部52から持ち上げるためと、ロックピン6の持ち上げ(ロック解除)を保持するためにも利用される。
ステップ(4)
規制ピン5が規制凹部52から持ち上げられると進角室41にかけられた油圧により回転位相が進角方向に変位する。
ステップ(5)
さらに、回転位相の進角方向への変位が、ロックピン6の持ち上げ(ロック解除)が保持されているので、ロック位置を越えてさらに進む。これにより、加速に適した進角位置まで変位が続行する。
【0086】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、制御ユニット7の機能を分かりやすく説明するため、その構成を機能別にブロック化しているが、この機能ブロックは説明目的であり、本発明がこのように区画された機能ブロックに限定されるわけではない。例えば、特性取得部92、ロック解除命令部93、目標算定部94、待機時間変更部95、ロック解除不良判定部97、異常判定部98のいずれかを組み合わせて構築してもよい。また、制御ユニット7自体をエンジンECU11内に構築してもよい。逆に、制御ユニット7の機能を分割して、第2の制御ユニットに構築するようなしてもよい。
(2)制御ユニット7に導入されている種々の関数やマップは、便宜上使用された語句であり、入力パラメータに基づいて出力する演算器、テーブル、ニューラルネットワーク、データベースなど、種々の形態を含むものである。
(3)特性取得部92の微分器921で求められる変位変化率:λは、遅角方向の回転位相変位から求めてもよいし、または進角方向の回転位相変位から求めてもよい。
(4)上述した実施の形態での待機時間変更部96の構成は1つの実施形態であり、特性情報に基づいて待機時間を変更する機能を持つ構成であれば、任意の構成を採用することができる。特に複数の入力パラメータから待機時間を導出するマップの構築は好適な実施形態である。
(5)ここで用いられている油圧という言葉は、流体圧を意味しており、ここでの作動油は、本発明の枠内において種々の圧力を伝達する流体に置き換え可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相で前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットを備えた弁開閉時期調整システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1:VVT機構
31:仕切部(変位機構部)
32:ベーン(変位機構部)
41:進角室
42:遅角室
5:規制ピン
52:規制凹部
60:ロック機構部
6:ロック部材(ロックピン)
62:ロック凹部
7:油圧回路
71:油圧ポンプ
72:油圧制御弁
9:制御ユニット
92特性取得部
921:微分器
922:油圧推定部
94:目標算定部
95:待機時間変更部
951:修正時間算定部
952:学習型修正部(修正部)
96:フィードバック制御部
961:偏差算出部
962:PID制御器
963:駆動制御部
97:ロック解除不良判定部
98:異常判定分
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相を制御する弁開閉時期調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相(以下、単に回転位相と称する)を所定の中間回転位相(ロック回転位相またはロック位置)に保持するために、従動側回転部材に形成されたロック凹部とこのロック凹部に対して出退可能なロック体とからなる油圧式のロック機構を備えた弁開閉時期制御装置が知られている。なお、ここでは、ロック体がロック凹部に挿入されることをロックまたはロック動作、ロック体がロック凹部から離脱することをロック解除またはロック解除動作と呼んでいる。このように構成された弁開閉時期制御装置では、ロック要求やロック解除要求が発生した場合、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の相対回転位相を変位させる動作及びロック動作やロック解除動作がスムーズに行われるように油圧制御弁を制御する必要がある。
【0003】
特許文献1には、1つの油圧制御弁で回転位相の変位と、ロックピンの動作の両方を制御する弁開閉時期制御装置が開示されている。この装置では、油圧制御弁への駆動信号(駆動電流)を制御する制御手段が、油圧制御弁に対する制御の制御領域を、複数の制御領域に区分すると共に、少なくとも1つの制御領域における駆動電流制御特性を他の制御領域における駆動電流制御特性と異ならせている。詳しくは、位相変位制御の精度・安定性の確保が要求される制御領域では、駆動電流制御の応答速度(時定数)をオーバーシュート・ハンチング防止可能な範囲内に設定し、一方、高応答化が要求される制御領域では、駆動電流制御の応答速度(時定数)を高応答化している。例えば、ロックピンをロック方向/ロック解除方向に駆動するロックピン制御領域では高応答化し、回転位相を運転条件に応じて設定した目標回転位相に変位制御する制御領域では、精度・安定性が確保できる低応答化する。
この装置では、ロック動作・ロック解除動作制御と回転位相変位制御とで異なる応答速度を設定することでそれぞれの動作が最適に行われることが意図されている。しかしながら、ロック要求またはロック解除要求を判定してから、ロック動作・ロック解除動作制御における応答速度の変更設定が行われるので、その判定タイミングが早すぎたり遅すぎたりすると、適正な弁開閉時期の制御ができないという不都合、特にロックピンがロック凹部から抜けないという不都合が生じる。
【0004】
特許文献2には、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更可能にした位相可変機構と、吸気弁のリフト量を連続的に変更可能にした可変バルブリフト機構とを備えた内燃機関の制御装置が開示されている。この装置では、低負荷側の運転領域と高負荷側の運転領域でモードを分けており、各モードによって、早閉じ動作と遅閉じ動作を分け、吸気弁閉タイミング設定や目標気筒空気量を変化させている。また、モードが移行する際に、気筒空気量を適切に調整し、異常燃焼を確実に防止することができるとともに、ポンプ損失を低減し、機関運転効率を高めることができる。しかしながら、この装置では、低負荷側と高負荷側で運転領域を分けているが、可変バルブの制御動作におけるモード分けに関する記載がなく、弁開閉時期制御における制御モードの調整に関しては考慮されていない。
【0005】
特許文献3には、クランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転部材と、カムシャフトに対して一体回転する従動側回転部材との相対位相(回転位相)を、可動する仕切りによって容積が相補的に可変する2種類の圧力室のそれぞれに対する作動流体の給排によって変位させる位相変換機構と、前記内燃機関の始動に適した中間ロック位相において前記相対位相を固定可能にするとともにその固定解除を作動流体によって行うロック機構とを備えた弁開閉時期制御装置が開示されている。回転位相変位のための作動油の供給を制御する第1制御弁と、ロック動作のための作動油の供給を制御する第2制御弁とが備えられている。制御ユニットには、エンジンの運転状態に応じた最適の相対位相を格納・記憶しており、別途検出される運転状態(エンジン回転数、冷却水温など)に対して、最適の相対位相が取得できるように構成されている。制御ユニットには、イグニッションキーのON/OFF情報、エンジン油温を検出する油温センサからの情報等も入力されている。この弁開閉時期制御装置は、運転状態に応じて最適な目標相対位相(目標回転位相)を算定する構成となっているが、算定された目標回転位相を実現するために油圧制御弁を駆動するための操作量の演算に関しては詳しく記載されていない。特に、回転位相を変位させる動作及びロック動作やロック解除動作がスムーズを行われるような油圧制御弁の制御に関しては特に考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011‐058444号公報(段落番号〔0002−0011〕〔0043−0049〕、図9)
【特許文献2】特開2009‐243372号公報(段落番号〔0029−0125〕、図5,12)
【特許文献3】特開2009‐074384号公報(段落番号〔0012−0040〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、ロック機構部の動作制御、特にロック解除動作が確実に行われるように従来の弁開閉時期制御を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の弁開閉時期調整システムは、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットとを含み、前記制御ユニットが、前記油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部を備え、前記ロックピンのロック解除行程において、前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を前記特性情報に基づいて変更する待機時間変更部が備えられている。
【0009】
前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間が固定されていると、油圧動特性の変動によってロック機構部と変位機構部とに付与される油圧の作用タイミングがずれてしまうことで、ロック解除不良が生じる可能性がある。上記本発明の構成では、油圧動特性の変動による油圧の作用タイミングずれによるロック解除不良の可能性は、特性取得部によって取得される油圧動特性に基づいて前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を適切に調整することで、低減される。
例えば、作動油の粘性や油圧の低下でロックピンをロック凹部から係脱する作用力の低下や遅れが生じた場合、待機時間を長くすることで、ロック解除動作が確実なものとなる。
【0010】
油圧動特性値を決定付ける特性情報としては、油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、その他、粘性と関連づけることができる油劣化度などが挙げられるので、前記特性情報が前記油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち少なくとも1つを含むような構成を採用するとよい。但し、付加的なコストを考慮するなら、油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち他の目的で既に取得されるものを利用すると好都合である。例えば、油圧を直接油圧回路に装着した油圧センサから得るのはコストがかかるので、油圧ポンプの回転数から推定することが好ましい。
【0011】
ロック解除不良は、十分でない待機時間によって引き起こされる可能性が高い。言い換えると、待機時間を長くすれば、ロック解除不良を防ぐことができる。しかしながら、必要以上に待機時間を長くすれば、制御系の時間応答性が悪化し、レスポンスの悪い操縦性につながる。従って、ロック解除不良が発生した場合、徐々に待機時間を長くして、ロック解除不良が発生しない最短の待機時間を見出すことが重要である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記ロック機構部におけるロック解除不良が検知された場合に前記待機時間を延長修正する修正部が前記待機時間変更部に備えられている。
【0012】
修正部による待機時間の延長修正を毎回繰り返すといった冗長問題を低減するため、さらに好適な実施形態では、前記修正部が複数回のロック解除不良の学習結果から前記待機時間の修正量を算定する学習型修正部として構築される。これにより、適切な待機時間を確実にかつ迅速に決定できる。
【0013】
ロック解除不良が発生に伴って待機時間が延長されていく場合、その延長時間に限界値を設ける必要がある。その限界値をロック機構部の異常発生のしきい値と連係させると、ロック機構部の故障を報知することができ、長期にわたって低燃費での走行や加速性のない走行を続けるという不都合が防止される。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記待機時間変更部によって延長された前記待機時間がしきい値を越えたとき、異常信号を出力する異常判定部が備えられている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の弁開閉時期調整システムの基本的な制御の流れを概略的に図解する模式図である。
【図2】弁開閉時期制御装置の全体構成を示す側断面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】規制機構及びロック機構の構成を示す分解図である。
【図5】エンジン始動時の規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図6】ロック状態を解除するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図7】規制状態を解除するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図8】規制解除状態及びロック解除状態を保持するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図9】通常運転状態における進角制御時の規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図10】通常運転状態における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図11】ロック動作開始時における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図12】規制状態を実現するときの規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図13】ロック状態における規制機構及びロック機構の状態を示す(a)平面図と(b)断面図である。
【図14】制御ユニットの機能を示す機能ブロック図である。
【図15】待機時間変更部の機能を示す機能ブロック図である。
【図16】異常判定部の機能を示す機能ブロック図である。
【図17】VVT機構に対する回転位相制御ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図18】待機時間算定処理ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図19】ロック不良判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート図である。
【図20】始動からロック解除までの回転位相変位行程を図解する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の弁開閉時期調整システムの具体的な実施形態を説明する前に、この発明の概略的な説明を図1の模式図を用いて説明する。このシステムは、ここではフィードバック制御部を含む電子制御系から出力される駆動信号によって油圧制御される弁開閉時期調整機構(以下、VVT機構と称する)1を備えている。VVT機構1は、後で詳しく説明されるが、内燃機関(エンジンとも表記する)のクランク軸に対するカム軸の回転位相を進角方向または遅角方向に変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相で前記回転位相をロックするロック機構部とを備えている。変位機構部とロック機構部とは駆動信号(例えばPWM信号)によって駆動制御される油圧制御弁(図1では図示されていない)によって動作する。
【0016】
全体的な制御の流れは、まず、エンジンECU11から与えられる回転位相の制御目標となる基本目標回転位相を補正して得られた目標回転位相と、制御量としての実回転位相(VVT機構1の実角度)との偏差に基づいて操作量を演算出力する。さらに、この操作量から駆動信号を生成して、油圧制御弁へ出力する。なお、図では、基本目標回転位相はθ0で、目標回転位相はθで、偏差はΔθで、操作量はSで、駆動信号はDで、実回転位相はθrで示されている。
【0017】
この発明の重要な特徴は、ロックピンのロック解除行程において、ロック機構部においてロック解除不良が生じた場合、遅角位置における回転位相を待機させる待機時間を延長することである。図1では、遅角位置における基本的な待機時間:t0が算定された修正量:Δtだけ延長された待機時間:twとなり、これは制御本体であるフィードバック制御に渡されることが図解されている。
待機時間の変更は、tw=t0+Δtで示されている。
【0018】
基本的な待機時間:t0は、油圧制御弁を含む油圧回路の油圧動特性に関する特性情報に基づいて算定される。特性情報としては、油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数(エンジン回転数で代用可能)、油劣化度などが利用可能である。待機時間に最も影響を与えるのは油圧であるが、ここでは油圧を推定することができるパラメータとして油温(図ではTで示されている)とエンジン回転数(図ではrpmで示されている)が採用されている。
さらに、ロック解除行程における油圧の作用状態からも待機時間の修正量を算定することができるという本願発明者の知見に基づき、実回転位相(実角度)の経時的変化、つまり変化率:rλも特性情報の1つとして採用されている。
このような特性情報を入力パラメータとして、一般にはマップ化される次の関係式:Mによって基本的な待機時間が算定可能である。
t0=M(T,rpm,λ)
あるいはt0=M(T,rpm)でもよいし、t0=M(λ)でもよい。
【0019】
修正量:Δtは、ロック解除不良が判定されると、所定量として、または不良度合いに応じて算定される量として与えることができる。ロック解除不良は、目標回転位相に対する実回転位相の経時的の挙動から判定可能である。
【0020】
さらに、図1では、待機時間:twがしきい値:tthを越えたとき、ロック機構部に故障が発生したとみなして異常信号を出力する機能も図解されている。この異常信号はエンジンECU11に与えられることで、運転者に対して故障を報知する異常報知がなされる。
【0021】
フィードバック制御自体は、よく知られた構成であり、VVT機構1における回転位相の測定値(回転位相の実際値)である実角度(図ではθrで示されている)と、目標値である目標角度(図ではθで示されている)の差である偏差(図ではΔθで示されている)に基づいて、操作量:Sを演算する。さらに、演算された操作量から駆動信号:Dが生成され、油圧制御弁に出力される。
【0022】
本発明に係る実施形態について図2から図13に基づいて説明する。まずは、図2及び図3に基づいて、VVT機構1の全体構成について説明する。
【0023】
(全体構成)
弁開閉時期制御機構(以下単にVVT機構と称する)1は、エンジンのクランクシャフトに対して同期回転する駆動側回転部材としての外部ロータ2と、外部ロータ2に対して同軸上に配置され、カムシャフト19と同期回転する従動側回転部材としての内部ロータ3とを備えている。
【0024】
外部ロータ2は、カムシャフト19が接続される側に取り付けられるリアプレート21と、カムシャフト19が接続される側とは反対側に取り付けられるフロントプレート22と、リアプレート21とフロントプレート22とで挟まれるハウジング23から構成される。外部ロータ2に内装される内部ロータ3は、カムシャフト19の先端部に一体的に組み付けられ、外部ロータ2に対して一定の範囲内で相対回転が可能である。
【0025】
クランクシャフトが回転駆動すると、動力伝達部材10を介してリアプレート21のスプロケット部21aにその回転駆動力が伝達され、外部ロータ2が図3に示すS方向に回転駆動する。外部ロータ2の回転駆動に伴い、内部ロータ3がRD方向に回転駆動してカムシャフト19が回転する。
【0026】
外部ロータ2のハウジング23には、径内方向に突出する複数個の突出部24を周方向に沿って互いに離間させて形成してある。この突出部24と内部ロータ3とにより油圧室4が形成される。本実施形態においては、油圧室4を3箇所に設けてあるが、これに限られるものではない。
【0027】
各油圧室4は、内部ロータ3の一部をなす仕切部31又は内部ロータ3に取り付けられるベーン32によって、進角室41と遅角室42とに二分されている。仕切部31に形成された規制部材収容部51とロック部材収容部61には、それぞれ規制部材5とロック部材(ロックピンとも称する)6が収容され、規制機構50及びロック機構部60を構成している。なお本発明では、進角方向及び遅角方向の回転変位を行う機構全般を変位機構部とも呼んでいる。この変位機構部に規制機構50も含まれている。これらの構成については後述する。
【0028】
内部ロータ3に形成された進角通路43は、進角室41に連通している。同様に、内部ロータ3に形成された遅角通路44は、遅角室42に連通している。進角通路43及び遅角通路44は、油圧回路7を介して、進角室41及び遅角室42に作動油を供給又は排出して、変位機構部の主要素である仕切部31又はベーン32に油圧を作用させる。このようにして、外部ロータ2に対する内部ロータ3の相対回転位相を、図3の進角方向D1又は遅角方向D2へ変位させ、或いは、任意の位相に保持する。なお、作動油としてはエンジンオイルが用いられるのが一般的である。
【0029】
外部ロータ2と内部ロータ3とが相対回転移動可能な一定の範囲は、油圧室4の内部で仕切部31又はベーン32が変位可能な範囲に対応する。進角室41の容積が最大となるのが最進角位相であり、遅角室42の容積が最大となるのが最遅角位相である。すなわち、相対回転位相は最進角位相と最遅角位相との間で変位可能である。
【0030】
内部ロータ3とフロントプレート22とに亘ってトーションスプリング8を設けてある。内部ロータ3及び外部ロータ2は、トーションスプリング8により、相対回転位相が進角方向D1に変位するよう付勢されている。
【0031】
次に、油圧回路7の構成について説明する。油圧回路7は、エンジンにより駆動されて作動油の供給を行う油圧ポンプ71と、進角通路43及び遅角通路44に対する作動油の供給及び排出を制御するソレノイド式油圧制御弁72と、油圧ポンプ71からの作動油を昇圧する昇圧機構73、作動油を貯留するタンク74とを備えている。
【0032】
油圧制御弁72は、制御ユニット9から出力される駆動信号に基づいて作動する。油圧制御弁72は、進角通路43への作動油の供給を許可し、遅角通路44からの作動油の排出を許可して進角制御を行う第1の位置72aと、進角通路43及び遅角通路44への作動油の給排を禁止して位相保持制御を行う第2の位置72bと、進角通路43からの作動油の排出を許可し、遅角通路44への作動油の供給を許可して遅角制御を行う第3の位置72cとを備えている。油圧制御弁72は、制御ユニット9から駆動信号に基づいて動作する。本実施形態の油圧制御弁72は、制御ユニット9からからの駆動信号のない状態においては、第1の位置72aで進角制御を行うよう構成されている。
【0033】
(規制機構)
相対回転位相を最遅角位相から中間ロック位相までの範囲(以下、「規制範囲Lr」と称する)に規制する規制機構50の構成について、図4に基づき説明する。中間ロック位相とは、後述のロック機構部60によってロックされるときの相対回転位相を指す。
【0034】
規制機構50は、主に段付き円筒形の規制部材5と、規制部材5を収容する規制部材収容部51と、規制部材5が突入可能となるようリアプレート21の表面に形成された長孔形状の規制凹部52とから構成される。
【0035】
規制部材5は、径が異なる円筒を4段積み重ねた形状である。この4段の円筒をリアプレート21の側から順に、第1段部5a、第2段部5b、第3段部5c及び第4段部5dと称する。第2段部5bは第1段部5aよりも径が小さくなるよう構成され、それよりフロントプレート22の側では、第2段部5b、第3段部5c、第4段部5dと順に径が大きくなるように構成されている。なお、第3段部5cは、第1油圧室55の容積を小さくして、第1油圧室55に作動油が供給されたときの規制部材5の動作性を向上させるために設けてある。
【0036】
第1段部5aは規制凹部52に突入可能に形成され、第1段部5aが規制凹部52に突入しているときは、相対回転位相が規制範囲Lr内に規制される。第4段部5dには円筒形の凹部5fが形成され、スプリング53が収容される。また、規制部材5が付勢方向に移動するときの作動油の抵抗を緩和し、動作性を向上させるため、規制部材5の中心部には貫通孔5gが形成されている。
【0037】
規制部材5とフロントプレート22との間には栓部材54を設け、この栓部材54と凹部5fの底面との間にスプリング53が取り付けられる。栓部材54に形成した切欠部54aは、規制部材5がフロントプレート22の側に移動する際に、作動油を不図示の排出流路によりVVT機構1の外部に排出可能とし、規制部材5の動作性の向上に寄与する。
【0038】
規制部材収容部51は、カムシャフト19の回転軸芯(以下、「回転軸芯」と称する)の方向に沿って内部ロータ3に形成され、フロントプレート22の側からリアプレート21の側に亘って内部ロータ3を貫通している。規制部材収容部51は、例えば径が異なる円筒状の空間を2段積み重ねた形状であって、規制部材5がその内部で移動可能なように形成してある。
【0039】
規制凹部52は、回転軸芯を中心とした円弧状であって、その径方向における位置は後述のロック凹部62とはわずかに異なるよう形成してある。規制凹部52は、規制部材5が第1端部52aと当接状態にあるときに、相対回転位相が中間ロック位相となるように、規制部材5が第2端部52bと当接状態にあるときには、相対回転位相が最遅角位相となるように構成されている。すなわち、規制凹部52は規制範囲Lrに対応している。
【0040】
規制部材5は、規制部材収容部51に収容されると共に、スプリング53によってリアプレート21の側に常時付勢されている。規制部材5の第1段部5aが規制凹部52に突入すると、相対回転位相が規制範囲Lr内に規制され、「規制状態」が作り出される。スプリング53による付勢力に抗して、第1段部5aが規制凹部52から退出すると、規制状態が解除され、「規制解除状態」となる。
【0041】
規制部材5を規制部材収容部51に収容すると、規制部材5と規制部材収容部51とによって第1油圧室55が形成される。第1油圧室55に作動油が供給され、油圧が第1受圧面5eに作用すると、規制部材5がスプリング53の付勢力に抗してフロントプレート
22の側に移動し、規制解除状態となる。第1油圧室55に作動油を給排する流路の構成については後述する。
【0042】
(ロック機構部)
相対回転位相を中間ロック位相にロックするロック機構部60の構成について、図4に基づき説明する。ロック機構部60は、主に段付き円筒形のロック部材6と、ロック部材6を収容するロック部材収容部61と、ロック部材6が突入可能となるようリアプレート21の表面に形成された円孔形状のロック凹部62とから構成される。
【0043】
ロック部材6は、例えば径が異なる円筒を3段積み重ねた形状である。この3段の円筒をリアプレート21の側から順に、第1段部6a、第2段部6b及び第3段部6cと称する。第1段部6a、第2段部6b、第3段部6cと順に径が大きくなるように構成されている。
【0044】
第1段部6aはロック凹部62に突入可能に形成され、第1段部6aがロック凹部62に突入している状態のときは、相対回転位相が中間ロック位相にロックされる。第3段部6cから第2段部6bの一部に亘って、円筒形の凹部6fが形成され、スプリング63が収容される。また、ロック部材6が付勢方向に移動するときの作動油の抵抗を緩和し、動作性を向上させるため、ロック部材6の中心部には貫通孔6gが形成されている。
【0045】
ロック部材6とフロントプレート22との間には栓部材64を設け、この栓部材64と凹部6fの底面との間にスプリング63が取り付けられる。栓部材64に形成した切欠部64aは、ロック部材6がフロントプレート22の側に移動する際に、作動油を不図示の排出流路によりVVT機構1の外部に排出可能とし、ロック部材6の動作性の向上に寄与する。
【0046】
ロック部材収容部61は、回転軸芯の方向に沿って内部ロータ3に形成され、フロントプレート22の側からリアプレート21の側に亘って内部ロータ3を貫通している。ロック部材収容部61は、径が異なる円筒状の空間を3段積み重ねた形状であって、ロック部材6がその内部で移動可能なように形成してある。
【0047】
ロック部材6は、ロック部材収容部61に収容されると共に、スプリング63によってリアプレート21の側に常時付勢されている。ロック部材6の第1段部6aがロック凹部62に突入すると、相対回転位相が中間ロック位相にロックされ、「ロック状態」が作り出される。スプリング63による付勢力に抗して、第1段部6aがロック凹部62から退出すると、ロック状態が解除され、「ロック解除状態」となる。
【0048】
ロック部材6をロック部材収容部61に収容すると、ロック部材6とロック部材収容部61によって第2油圧室65及び第3油圧室66が形成される。第2油圧室65に作動油が供給され、油圧が第2受圧面6dに作用すると、ロック部材6がスプリング63の付勢力に抗してフロントプレート22の側に移動し、ロック解除状態となる。また、第3油圧室66に作動油が供給され、油圧が第3受圧面6eに作用すると、ロック部材6のロック解除状態が保持される。第2油圧室65及び第3油圧室66に作動油を給排する流路の構成については後述する。
【0049】
次に、規制解除流路、ドレン流路、ロック解除流路及び連通流路について、図4と図5に基づき説明する。
【0050】
(規制解除流路)
規制解除状態を実現するための規制解除流路は、規制時連通路82と解除時連通路83
とを備えている。規制時連通路82は、後述するリアプレート通路84、第1貫通路85a及び供給路85cからなり、規制状態を解除するために第1油圧室55に作動油を供給する流路である。また、解除時連通路83は、規制部材5が規制凹部52から退出しているときに、規制解除状態を保持するために第1油圧室55に作動油を供給する流路である。
【0051】
リアプレート通路84は、リアプレート21の内部ロータ3の側の表面に形成された溝状の通路であり、進角室41と連通している。リアプレート通路84は、規制部材5が規制範囲Lr内における所定の進角側の範囲(以下、「規制解除可能範囲Lt」と称する)内にあるときにのみ、ロータ通路85の一部をなす第1貫通路85aと連通可能なように構成されている。なお、規制解除可能範囲Lt内に規制部材5があるとは、第1段部5aが完全に規制解除可能範囲Ltの領域に位置していることをいう。
【0052】
ロータ通路85は、内部ロータ3に形成される通路であり、第1貫通路85a、第2貫通路85b、供給路85c及び排出路85dからなる。第1貫通路85a及び第2貫通路85bは、内部ロータ3の径方向外側の側面に、回転軸芯の方向に沿って連続的に直線をなすように形成される。第1貫通路85aのリアプレート21の側の端部は、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときに、リアプレート通路84と連通するよう構成されている。また、第2貫通路85bのフロントプレート22の側の端部は、排出路85dと接続している。供給路85cは、第1貫通路85aと第2貫通路85bの境界部から分岐し、第1油圧室55に連通している。排出路85dは内部ロータ3のフロントプレート22の側の表面に平面視でL字状に形成されており、規制部材5が規制解除可能範囲Ltよりも進角側の所定の範囲にあるときにのみ、後述の排出孔87と連通するよう構成されている。
【0053】
上述のように、規制時連通路82は、リアプレート通路84、第1貫通路85a及び供給路85cからなる。したがって、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときに、リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通することにより、規制時連通路82は第1油圧室55に連通して作動油を供給し、第1受圧面5eに油圧を作用させて規制状態を解除する。
【0054】
解除時連通路83は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、進角室41と連通している。解除時連通路83は、規制部材5が規制凹部52から退出して規制解除状態となっているときに、第1油圧室55に連通して進角室41から作動油を供給し、第1受圧面5eに油圧を作用させて規制解除状態を保持する。
【0055】
なお、規制部材5がスプリング53の付勢力に抗してフロントプレート22の側に移動するとき、解除時連通路83が第1油圧室55と連通するタイミングで、供給路85cが第1段部5aによって第1油圧室55との連通を断たれるように構成してある。すなわち、第1油圧室55に作動油を供給する通路は、規制時連通路82或いは解除時連通路83の何れかとなるよう択一的に構成されている。この構成により、第1油圧室55から作動油を排出したい場合に、第1油圧室55から供給路85c(後述のドレン油路86の一部)を介して作動油を排出しつつ、解除時連通路83からの作動油の供給を断つことができる。
ただし厳密には、規制時連通路82と解除時連通路83との切換時においては、規制時連通路82及び解除時連通路83の何れからも作動油が第1油圧室55に供給されるように構成してある。これは、規制時連通路82と解除時連通路83との切換時に何れの連通路も第1油圧室55に接続されない状況が生じると、第1油圧室55が一時的に密閉状態となり、規制部材5の規制・解除動作の円滑性が損なわれてしまうのを防止するためである。
【0056】
(ドレン流路)
ドレン流路86は、規制部材5が規制凹部52に突入するときに、規制部材5の移動抵抗となる第1油圧室55内の作動油を速やかに排出するための流路である。ドレン流路86は、供給路85c、第2貫通路85b、排出路85d及び排出孔87からなる。排出孔87は、フロントプレート22を回転軸芯の方向に貫通するよう形成されている。
【0057】
ドレン流路86は、規制部材5が規制解除可能範囲Ltよりも進角側の所定の範囲にあるときにのみ連通し、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内にあるときには連通しないように構成してある。この構成により、リアプレート通路84と第1貫通路85aが連通しているときに、進角室41から供給された作動油が、そのままドレン流路86を経由して排出されるのを防止する。
【0058】
(ロック解除流路)
ロック解除流路88は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、遅角室42と連通している。ロック解除流路88は、第2油圧室65に遅角室42から作動油を供給して、第2受圧面6dに油圧を作用させ、ロック部材6をロック凹部62から退出させるための流路である。
【0059】
(連通流路)
連通流路89は、内部ロータ3内に形成された管状の通路であり、規制解除状態かつロック部材6がフロントプレート22の側にある程度移動した状態で、第1油圧室55と第3油圧室66とを連通するように構成されている。解除時連通路83、第1油圧室55、連通流路89及び第3油圧室66が連通すると、進角室41から第1油圧室55に供給された作動油が第3油圧室66にも供給されるため、規制解除状態とロック解除状態を保持することができる。
【0060】
(ロック解除時及び規制解除時の動作)
以上説明した規制機構50、ロック機構部60及び各流路を用いて、ロック状態を解除する手順について、図5〜図8に基づき説明する。
【0061】
エンジン始動時の状態を図5に示す。エンジン始動時には、油圧制御弁72が第1の位置72aにあるため進角制御を行う。しかし、規制部材5は規制解除可能範囲Ltの範囲外にあるため、規制時連通路82からは第1油圧室55に作動油が供給されない。また、解除時連通路83も第1油圧室55と連通していないため、第1油圧室55に作動油が供給されない。よって、ロック状態が維持される。
【0062】
エンジン始動後、まずロック状態を解除するために、遅角制御に切り換えたときの状態を図6に示す。このとき、ロック解除流路88を介して遅角室42から第2油圧室65に作動油が供給され、ロック部材6がロック凹部62から退出してロック状態が解除される。ロック状態が解除されると、規制部材5は規制凹部52内で遅角方向に移動する。
【0063】
図示しない位相センサが、規制部材6が規制解除可能範囲Lt内に位置する相対回転位相となったことを検知すると、ECU73は進角制御に切り換える。このときの状態を図7に示す。リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通しているため、規制時連通路82から第1油圧室55に作動油が供給される。すると、規制部材5は規制凹部52から退出し、規制状態が解除される。
【0064】
進角制御によって、規制解除状態及びロック解除状態を保持しているときの状態を図8に示す。このとき、第1油圧室55と第3油圧室66とは連通流路89により連通するから、進角室41から第1油圧室55に供給される作動油は、第3油圧室にも供給されることになる。その結果、規制解除状態及びロック解除状態が保持される。
【0065】
(通常運転状態における動作)
次に、上述の手順により規制解除状態及びロック解除状態が実現され、通常の運転状態となったときの動作について、図9及び図10に基づき説明する。
【0066】
通常の運転状態において、進角制御を行ったときの状態を図9に示す。進角制御のときには上述のとおり、進角室41、解除時連通路83、第1油圧室55、連通流路89及び第3油圧室66が連通するから、規制解除状態及びロック解除状態が保持された状態で進角作動する。
【0067】
通常の運転状態において、遅角制御を行ったときの状態を図10に示す。このとき、遅角室42から第2油圧室65に作動油が供給されるので、ロック解除状態が保持される。一方、第1油圧室55には作動油が供給されないので、規制部材5はスプリング53によって付勢され、リアプレート21と当接する。しかし、規制部材5はリアプレート21の表面上を滑動するので、運転に支障をきたすことはない。また、規制凹部52とロック凹部62は径方向にずらした位置に形成しているため、規制部材5がロック凹部62に突入することはない。
【0068】
(規制時及びロック時の動作)
最後に、まず規制状態とした後、ロック状態とする手順について、図11〜図13に基づき説明する。
【0069】
進角制御により、排出路85dと排出孔87とが連通して、ドレン流路86が機能する位置するまで位相回転させた状態を図11に示す。このとき、進角室41から第1油圧室55及び第3油圧室66に作動油が供給されるため、規制解除状態及びロック解除状態を保持している。ドレン流路86が連通しているため、次の手順において規制部材5を規制凹部52に突入させるときに、第1油圧室55から作動油を排出し、速やかに規制状態とすることができる。
【0070】
遅角制御に切り換えて、規制状態が実現した状態を図12に示す。規制部材5が規制凹部52に突入してからも遅角制御を維持すると、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内に位置して、次に進角制御に切り換えたとき、規制状態が解除されてしまう。このため、規制状態となった後は、規制部材5が規制解除可能範囲Lt内に位置して、リアプレート通路84と第1貫通路85aとが連通する前に進角制御に切り換える必要がある。
【0071】
規制部材5が規制解除可能範囲Ltに入る前に、進角制御に切り換えると、第1油圧室55には作動油が供給されないので、規制部材5は規制凹部52から退出せずに進角作動する。その結果、規制部材5が規制凹部52の第1端部52aに当接する。このとき、連通流路89への作動油供給が断たれているので、ロック部材6はスプリング63によって付勢され、ロック凹部62に突入し、図13に示したロック状態が実現される。
【0072】
上述したように構成されたVVT機構1の変位機構部とロック機構部とを、エンジンECU11からの動作指令に基づいて制御する制御ユニット9を、図14に示された機能ブロック図を用いて説明する。この実施形態では、エンジンECU11からの動作指令には、基本目標角度(回転位相)及びその動作行程におけるロック動作またはロック解除動作の有無情報が含まれているとする。ロック動作またはロック解除動作の有無情報は、基本目標角度から、制御ユニット9側で判定してもよい。
【0073】
制御ユニット9は、データ入出力部91、特性取得部92、ロック解除命令部93、目標算定部94、待機時間変更部95、フィードバック制御部96、ロック解除不良判定部97、異常判定部98を含んでいる。データ入出力部91は、エンジンECU11から送られてくる基本目標角度やその他の図示されていないECU等からデータを受け取り、要求している制御ユニット9内の各機能部に転送する。エンジンECU11からの基本目標角度:θ0は目標算定部94に転送さら、基本目標角度:θ0から読み取られたロック動作またはロック解除動作の有無情報:Ron,Roffはロック解除命令部93に転送される。
【0074】
特性取得部92は、油圧回路7の油圧動特性に関する特性情報として、センサECU12からエンジン回転数や油温を取得する機能や、実角度(図ではθrで示されている)も取得する機能を備えることができる。この実施形態の特性取得部92は、図15に示すように、経時的に入ってくる実角度からVVT機構1の回転変位変化率:λを演算する微分器921と、この回転変位変化率:λから油圧を推定する油圧推定部922を備えている。
ロック解除命令部93は、ロック解除不良部97からのロック解除正常信号やロック解除不良及びロック動作またはロック解除動作の有無情報を入力し、ロック解除命令を出力する。
目標算定部94は、データ入出力部91から受け取った基本目標角度、ロック解除命令部93から受け取ったロック動作またはロック解除動作の有無情報、待機時間変更部95から受け取った待機時間などに基づいて、目標角度を算定する。なお、この実施形態の目標算定部94は、回転位相変位制御においてロック解除動作やロック動作を伴うかどうかによって油圧制御の応答性の変更するための信号(図ではHとLで示されている)も出力する。
【0075】
待機時間変更部95は、図15に詳しく図解されているように、待機時間算定部951と学習型修正部952を備えている。待機時間算定部951は、特性取得部92から得られた特性情報を入力パラメータとして油圧―待機時間マップを用いて基本待機時間を導出する。なお、この実施形態では複数の油圧―待機時間マップが用意されており、使用する油圧―待機時間マップは、学習型修正部952からのマップ選択情報に基づいて行われる。この油圧―待機時間マップの選択は、単に油圧推定部922からの推定油圧によって行ってもよい。学習型修正部952は、ロック解除不良判定部97から出力されるロック解除不良の回数をカウントし、そのカウントされたロック解除不良回数と推定油圧から修正出力部953が修正量を算出する。ここでも、修正量は、ロック解除不良回数だけで算出してもよい。その算出アルゴリズムは、よく知られた学習型で構築することができる。
ロック解除不良は、実角度が変化しないことで検知できるので、ロック解除不良判定部97には目標角度と実角度が入力されており、ロック解除不良判定部97は所定タイミングにおける実角度の無変化からロック解除不良を判定する。
【0076】
フィードバック制御部96は、偏差算出部961、PID制御器962、駆動制御部963を含んでいる。偏差算出部961は、目標算定部94から送られてきた目標角度と制御量である実角度との差から偏差を算出する。PID制御器962は、よく知られているように、偏差を入力として操作量を出力する。なお、PID制御器に代えて、他の形式の制御器を採用してもよい。駆動制御部963は、PID制御器962から出力された操作量に基づいて、VVT機構1の油圧制御弁72のソレノイドを駆動する駆動信号(この実施形態ではPWM信号)を生成して出力する。
【0077】
異常判定部98は、図16に示すように、待機時間変更部94で算定された待機時間が予め設定された所定時間を上回ったことで異常を検出するしきい値判定を採用している。異常が検知されると異常信号が正常信号に代えて出力される。この異常信号や正常信号は、一般には異常フラグまたは正常フラグの形態で実施される。
【0078】
上述したように構成された、本発明に係る弁開閉時期調整システムの実施形態における、VVT機構1に対する回転位相制御ルーチンの一例を図17から図19のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
このルーチンがスタートすると、まずエンジン始動後のVVT機構1に対する回転位相の最適角度(目標角度)が進角側かどうかチェックされる(#31)。このチェックで進角側であるなら(#31Yes分岐)、ロック解除が必要となるので、ロック解除命令が設定される(#32)。次のステップで、ロック解除命令が設定されているかどうかチェックされる(#33)。ロック解除命令が設定されていると(#33Yes分岐)、待機時間算定処理が実行される(#40)。この待機時間算定処理は以下に説明するが、この処理により、回転位相が中間位置(中間回転位相)であるロック位置より遅角側でロックピンがロック凹部から抜き出るまでその変位を中止する待機時間が算定され、回転位相変位の待機が実行される。
【0080】
図18に示されている待機時間算定処理(#40)に入ると、まず目標角度として遅角領域の所定角度が設定される(#41)。次いで、現状の制御量である実角度が読み込まれる(#42)。経時的に取得している実角度から実角度の微分値、つまり回転位相変位の変化量が演算される(#43)。演算された回転位相変位の変化量から油圧が推定され(#44)、この推定油圧から油圧・待機時間マップを用いて待機時間が導出される(#45)。ここで、ロック解除不良信号がでているかどうか、言い換えるとロック解除不良フラグがたっているかどうか、チェックされる(#46)。ロック解除不良信号が出ていなければ(#46No分岐)、そこでこの待機時間算定処理を終了し、ロック解除不良信号が出ていなれば(#46Yes分岐)、待機時間を延長すべく修正した後、この待機時間算定処理を終了する。
【0081】
待機時間算定処理から戻ると、待機時間算定処理で設定された遅角領域の所定角度位置(所定回転変位位置)での、同様に待機時間算定処理で算定された待機時間が既に経過しているかチェックされる(#51)。待機時間が経過していると(#51Yes分岐)、目標角度をVVT機構1の最適角度に設定する(#52)。さらに、以下に示すロック不良判定処理が実行される(#60)。ステップ#51のチェックでまだ待機時間になっていない場合(#51No分岐)、ステップ#52の目標角度の設定と#60のロック不良判定処理は省略される。
【0082】
図19に示されているロック不良判定処理(#60)に入ると、まず、設定されている目標角度が進角側であり、かつ実角度が「0」(中間回転位相位置、つまり中間ロック位置を意味する)の状態で所定時間経過しているがどうかがチェックされる(#61)。ここでは、このロック不良判定処理は、中間ロック位置から進角方向への回転位相変位行程において、所定時間がたってもロックが解除されずに回転位相が中間ロック位置のまま変位しなければ、ロック解除不良とみなすという処理となっている。このため、ステップ#61のチェックでYes分岐の場合、ロック解除不良とみなされ、ロック解除不良信号が出力され、またはロック解除不良フラグが立てられる(#62)。されに、ロック解除不良回数がカウントされ、このカウント値と推定油圧とから待機時間の修正量が算出され、この不良判定処理を終了する(#63)。
ステップ#61のチェックでNo分岐の場合、ロック解除不良が生じていないとみなされ、ロック解除命令がクリアされるとともに(#64)、ロック解除不良信号もクリアされる(#65)。さらに、待機時間修正量が「0」にリセットされ、この不良判定処理を終了する(#66)。
【0083】
ロック不良判定処理から戻ると、実角度が読み込まれ(#71)、目標角度と実角度の差分を入力としてPID制御による制御量の演算が行われる(#72)。さらに、制御量から駆動信号が生成され、油圧制御弁72に送信される(#73)。なお、ステップ#31やステップ#33でNo分岐した場合には、直接このステップ#71から#73までの実質的なフィードバック制御に移行する。最後に、VVT機構1に異常(故障等)が発生しているかどうかのチェックとして、その異常発生判定条件としてのしきい値と待機時間が比較される(#74)。待機時間がこのしきい値を上回った場合(#74Yes分岐)、異常発生とみなされ、異常発生信号が出力される(#74)。待機時間がこのしきい値以下の場合(#74No分岐)、ステップ#33に戻って、この回転位相制御ルーチンが続行される。
【0084】
上述した回転位相制御ルーチンを繰り返すことで、所望の回転位相変位が実現するが、その一行程(始動からロック解除まで)を図20の模式図を用いて説明する。
図示されていないがこの行程の出発点は、運転停止時であり、規制ピン5とロックピン6のそれぞれが規制凹部52とロック凹部62に突入している。
【0085】
ステップ(1)
図示されていないが、始動時には、一旦進角室41に油圧がかけられた後、遅角制御のために遅角室42に作動油が供給される。その際、遅角室42に供給された作動油がロック凹部62に進入して、ロックピン6を押し上げる。
ステップ(2)
ロックピン6がロック凹部62から持ち上げられると遅角室42にかけられた油圧により回転位相が遅角方向に変位する。
ステップ(3)
所定の回転位相まで変位すると、遅角室42への作動油の供給が停止され、次いで進角制御のために進角室41に作動油が供給される。進角室41に供給された作動油が規制ピン5を規制凹部52から持ち上げるためと、ロックピン6の持ち上げ(ロック解除)を保持するためにも利用される。
ステップ(4)
規制ピン5が規制凹部52から持ち上げられると進角室41にかけられた油圧により回転位相が進角方向に変位する。
ステップ(5)
さらに、回転位相の進角方向への変位が、ロックピン6の持ち上げ(ロック解除)が保持されているので、ロック位置を越えてさらに進む。これにより、加速に適した進角位置まで変位が続行する。
【0086】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、制御ユニット7の機能を分かりやすく説明するため、その構成を機能別にブロック化しているが、この機能ブロックは説明目的であり、本発明がこのように区画された機能ブロックに限定されるわけではない。例えば、特性取得部92、ロック解除命令部93、目標算定部94、待機時間変更部95、ロック解除不良判定部97、異常判定部98のいずれかを組み合わせて構築してもよい。また、制御ユニット7自体をエンジンECU11内に構築してもよい。逆に、制御ユニット7の機能を分割して、第2の制御ユニットに構築するようなしてもよい。
(2)制御ユニット7に導入されている種々の関数やマップは、便宜上使用された語句であり、入力パラメータに基づいて出力する演算器、テーブル、ニューラルネットワーク、データベースなど、種々の形態を含むものである。
(3)特性取得部92の微分器921で求められる変位変化率:λは、遅角方向の回転位相変位から求めてもよいし、または進角方向の回転位相変位から求めてもよい。
(4)上述した実施の形態での待機時間変更部96の構成は1つの実施形態であり、特性情報に基づいて待機時間を変更する機能を持つ構成であれば、任意の構成を採用することができる。特に複数の入力パラメータから待機時間を導出するマップの構築は好適な実施形態である。
(5)ここで用いられている油圧という言葉は、流体圧を意味しており、ここでの作動油は、本発明の枠内において種々の圧力を伝達する流体に置き換え可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相で前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットを備えた弁開閉時期調整システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1:VVT機構
31:仕切部(変位機構部)
32:ベーン(変位機構部)
41:進角室
42:遅角室
5:規制ピン
52:規制凹部
60:ロック機構部
6:ロック部材(ロックピン)
62:ロック凹部
7:油圧回路
71:油圧ポンプ
72:油圧制御弁
9:制御ユニット
92特性取得部
921:微分器
922:油圧推定部
94:目標算定部
95:待機時間変更部
951:修正時間算定部
952:学習型修正部(修正部)
96:フィードバック制御部
961:偏差算出部
962:PID制御器
963:駆動制御部
97:ロック解除不良判定部
98:異常判定分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットとを含み、
前記制御ユニットが、前記油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部を備え、前記ロックピンのロック解除行程において、前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を前記特性情報に基づいて変更する待機時間変更部が備えられている弁開閉時期調整システム。
【請求項2】
前記特性情報は、前記油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち少なくとも1つを含む請求項1に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項3】
前記ロック機構部におけるロック解除不良が検知された場合に前記待機時間を延長修正する修正部が前記待機時間変更部に備えられている請求項1または2に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項4】
前記修正部が複数回のロック解除不良の学習結果から前記待機時間の修正量を算定する学習型修正部である請求項3に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項5】
前記待機時間変更部によって延長された前記待機時間がしきい値を越えたとき、異常信号を出力する異常判定部が備えられている請求項1から4のいずれか一項に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項1】
内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相を遅角位置と進角位置との間で変位させる変位機構部と、前記回転位相の変位範囲内に位置する中間ロック位相でロックピンをロック凹部に係入することで前記回転位相をロックするロック機構部と、前記変位機構部と前記ロック機構部とを油圧駆動する油圧制御弁を含む油圧回路と、前記油圧制御弁の動作を制御する制御系を有する制御ユニットとを含み、
前記制御ユニットが、前記油圧回路の油圧動特性に関する特性情報を取得する特性取得部を備え、前記ロックピンのロック解除行程において、前記ロックピンが前記ロック凹部から係脱するまで前記回転位相を前記遅角位置に待機させる待機時間を前記特性情報に基づいて変更する待機時間変更部が備えられている弁開閉時期調整システム。
【請求項2】
前記特性情報は、前記油圧回路の油温、油圧、油圧ポンプの回転数、油劣化度のうち少なくとも1つを含む請求項1に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項3】
前記ロック機構部におけるロック解除不良が検知された場合に前記待機時間を延長修正する修正部が前記待機時間変更部に備えられている請求項1または2に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項4】
前記修正部が複数回のロック解除不良の学習結果から前記待機時間の修正量を算定する学習型修正部である請求項3に記載の弁開閉時期調整システム。
【請求項5】
前記待機時間変更部によって延長された前記待機時間がしきい値を越えたとき、異常信号を出力する異常判定部が備えられている請求項1から4のいずれか一項に記載の弁開閉時期調整システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−19353(P2013−19353A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154142(P2011−154142)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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