説明

強化繊維成形体の製造装置および製造方法

【課題】成形速度の向上が可能で、かつ、繊維体積含有率を高くかつ均一にして高品質に保つことが可能な、長尺部材の効率のよい連続成形に好適な強化繊維成形体の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】搬送されてくる強化繊維基材の長手方向各部位に接触しながら順次賦形していく接触賦形手段を有する装置であって、強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの接触賦形手段を設け、該少なくとも二つの接触賦形手段間に、各接触賦形手段から櫛歯が強化繊維基材の幅方向に延び、櫛歯同士が強化繊維基材に接触するように互いに噛み合うことにより、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化を吸収可能な櫛歯機構を構成したことを特徴とする強化繊維成形体の製造装置、およびそれを用いた強化繊維成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維基材を所定の形状に賦形する強化繊維成形体の製造装置および製造方法に関し、とくに、賦形すべき形状に幅変化がある場合に用いて好適な強化繊維成形体の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。このFRPの成形方法としては、例えば強化繊維材を複数枚積層した積層体からなる強化繊維基材を、相対する金型で挟み加圧することにより所定の形状に賦形し、含浸樹脂を硬化させて所定の形状のFRPに成形する方法が知られている。
【0003】
強化繊維基材としては、例えば強化繊維をシート状に複数本引き揃え、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させ、シート状に成形したプリプレグシートが用いられている。このプリプレグシートを複数枚積層し、金型内で加圧・加熱してマトリックス樹脂を硬化させ所定形状のFRPに成形する。また、マトリックス樹脂が含浸されていない、ドライの強化繊維基材を用いたFRPの成形も行われている。これはResin Transfer Molding(以下、RTMという)成形方法や真空RTM成形方法などと呼ばれる成形方法であり、例えば層間接着樹脂が付加された強化繊維材を複数枚積層し、その積層体を金型で賦形してプリフォームと呼ばれる形態の中間成形品を製作した後、このプリフォームに低粘度の液状マトリックス樹脂を注入して硬化させるものである。
【0004】
これらFRPの成形においては、I形やH形の横断面形状を持つ部材を製造する装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。これは積層体を所定の断面形状に金型で賦形した後、金型を開き積層体を所定量移動させ、再度賦形するということを繰り返し、長尺の成形品を成形する装置である。あるいは、加圧ローラーを使用し、長尺の基材を長手方向に順次賦形していく装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。このような装置を用いることで、長手方向に一様な断面形状を持つ部材の成形を、その部材の全長分、大型の金型を用いることなく、小さな金型にて製造することができる。
【0005】
ところが、長手方向に一様な断面形状を持つ部材であれば、上記のような装置により、比較的小さな設備で効率よく基材を賦形していくことは可能であるが、長手方向において断面の幅や高さが変化する長尺の部材の成形には、基本的に上記のような装置は使用できない。
【0006】
したがって、長手方向において断面の幅や高さが変化する長尺の部材の成形においては、例えば、次のような基材の賦形方法を採用する。例えば、梁部材のプリフォーム(マトリックス樹脂含浸前の強化繊維基材を所定形状に賦形した成形体)の賦形において、横断面内に2カ所以上のコーナー部(屈曲部)がある梁部材の高さ(または幅)を変更する方法として、第1の屈曲部を基準にして、第2の屈曲部を曲げるように型の位相をずらして成形型を配置し、プリフォームを賦形する。例えば、(1)C形断面形状を有する部材の1つ目のコーナー部を成形後に、別の成形型で2つ目のコーナー部をプリフォーム成形する。(2)1つ目と2つ目の成形型の距離(相対位置関係)を変えながら開閉を繰り返し、積層体に送りを掛け、C形断面形状を連続的に形成していく。(1)と(2)により、高さや幅変化のある梁部材を連続成形するが、位相をずらして加熱成形を行うことで、2つ目コーナー部の成形で加熱されると、1つ目コーナー部成形時に成形した箇所の繊維体積含有率(Vf)が低下してしまうという問題がある。これを防ぐために、加熱型と冷却型で繰り返し成形すると、処理速度を高速化することが難しい。また、製品コストが上がってしまう。さらに、1つ目と2つ目のコーナー部用成形型を並列に配置し、両コーナー部を同時賦形してプリフォームを成形しようとすると、高さや幅変化の生じる際に基材の中央部に成形型で賦形されない箇所が生じ、横断面全体にわたって所望の形状に成形できないという問題が発生する。
【特許文献1】特開2001−191418号公報
【特許文献2】特開2005−324513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような問題に関し、基材を加熱を伴う賦形のみで成形する場合には、高さや幅変化のある部材のプリフォーム成形に際して、成形型を上述の如く並列に配置しコーナー部となる箇所に同時に加熱と加圧を加えて成形し、その際に、並列配置の成形型の距離を変更し、高さや幅変化のある部材を成形することが可能であるが、基材中央部の成形できない型間の中間部に対しては、基材を搬送する送り機構等の制御を介して、例えば上記加熱成形前に事前に中央部を成形しておく方法が考えられる。
【0008】
しかし、本発明者らの知見によれば、例えばプリフォーム成形の速度を増大し、かつプリフォームの繊維体積含有率(Vf)が一定に保たれた品質の高い部材を連続成形するには、加熱成形後の成形体をその下流にて冷却プレスすることが極めて有効であり、それによって成形体のVfを高めながら成形体を目標賦形形状に固めてプリフォーム成形することが可能になる。
【0009】
ところが、このような冷却プレス工程を設ける場合、加熱成形後の成形体はその全体にわたって迅速に冷却されることが望まれる。冷却部位によって冷却速度が大きくばらつくと、目標とした高Vf部位が一様に分布した高品質の成形体が得られにくくなる。冷却は、徐冷でよいが、少なくとも冷却開始時点や冷却速度の均一化が求められる。この冷却プレス工程を、加熱成形工程と同様に、単に冷却プレスする成形型を並列に配置して成形するだけでは、基材の高さや幅変化で生じる中央部の押さえられない被成形部では、目標とする高Vf化や、品質の均一化が得られにくいという問題が残る。
【0010】
そこで本発明の課題は、上述したような、高さや幅変化のある長尺基材を賦形する場合の種々の問題点に着目し、成形速度の向上が可能で、かつ、繊維体積含有率(Vf)を高くかつ均一にして高品質に保つことが可能な、長尺部材の効率のよい連続成形に好適な強化繊維成形体の製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る強化繊維成形体の製造装置は、間欠的に搬送されてくる強化繊維基材の長手方向各部位を、該各部位に接触しながら順次賦形していく接触賦形手段を有する強化繊維成形体の製造装置において、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの接触賦形手段を設け、該少なくとも二つの接触賦形手段間に、各接触賦形手段から櫛歯が強化繊維基材の幅方向に延び、櫛歯同士が強化繊維基材に接触するように互いに噛み合うことにより、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化を吸収可能な櫛歯機構を構成したことを特徴とするものからなる。なお、本発明においては、櫛歯機構により吸収される、強化繊維基材の変化する接触賦形領域を、強化繊維基材の横断面において強化繊維基材の「幅方向」に変化する領域として表現しているが、この領域は、成形体の実際の使用形態においては上下方向に延びるように配置されることもあるので、そのような場合には強化繊維基材の変化する接触賦形領域を、強化繊維基材の横断面において強化繊維基材の「高さ」が変化する領域と表現する方が適切と思われる場合もある。いずれの場合も技術的には同じ意味であり、上記少なくとも二つの接触賦形手段が配列される方向に延びる接触賦形領域を意味している。
【0012】
上記接触賦形手段は、接触とともに加圧により強化繊維基材を賦形する手段として構成することもできる。
【0013】
このような本発明に係る強化繊維成形体の製造装置においては、相対移動可能な接触賦形手段間に、互いに噛み合う櫛歯を有する櫛歯機構が設けられているので、強化繊維基材の幅方向に接触賦形すべき領域の幅が変化する場合には、接触賦形手段の相対移動に伴って、接触賦形領域に両側から延びてくる櫛歯同士の噛み合い状態(オーバーラップ代)が適切に変更される。噛み合い状態が変更されても、いずれかの櫛歯が常時強化繊維基材に接触する状態に維持されるので、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化があっても、接触賦形手段が全く接触しない箇所は、この装置内における接触賦形領域には発生しないことになる。したがって、接触賦形が必要とされるすべての強化繊維基材部位で、一つの装置内にて実際に接触賦形が行われることになる。その結果、一つの装置内で望ましい賦形動作を行うことが可能になり、成形速度の向上が可能で、かつ、高繊維体積含有率(Vf)を均一な状態で実現することが可能となる。
【0014】
このような本発明に係る櫛歯機構は、強化繊維成形体の製造装置が加熱賦形手段を有する場合には、その加熱賦形手段に対して適用することも可能であるが、加熱賦形後の冷却賦形に対して適用することがより好ましい。すなわち、強化繊維基材を加熱を伴って所定形状に賦形する加熱賦形手段と、該加熱賦形手段の強化繊維基材搬送方向下流側に設けられ、該加熱賦形手段による強化繊維基材の賦形形状を接触による冷却を伴って所定形状に固定するように賦形する冷却賦形手段とを有し、該冷却賦形手段に対し、前記櫛歯機構が構成されている強化繊維成形体の製造装置である。このように、とくに冷却賦形手段に対し櫛歯機構を構成することにより、加熱成形後の成形体をその全体にわたって迅速にかつ均一に冷却することが可能になり、冷却部位によって冷却速度が大きくばらつくことが防止され、目標とする高繊維体積含有率(高Vf)の部位が一様に分布した高品質の成形体が容易に得られるようになる。冷却自体は、徐冷でもよい。
【0015】
加熱賦形手段としては、強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの加熱型を有する形態に構成できる。この場合、前述したように、賦形すべき強化繊維基材の幅の変化に対応して、間隔が広げられた二つの加熱型間において、強化繊維基材の幅方向中央部に加熱賦形されない箇所が生じるのを防止するために、上記少なくとも二つの加熱型の強化繊維基材搬送方向上流側に、強化繊維基材の幅方向中央部を加圧賦形可能な中央部賦形手段が設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る強化繊維成形体の製造装置においては、長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材が、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる形態を採用できる。複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体とすることにより、比較的複雑な横断面形状への賦形にも(例えば、C形横断面形状や、I形やH形の横断面形状への賦形にも)、容易に対応できるようになる。また、この場合、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、いずれかのシート状強化繊維基材間に、シート状強化繊維基材間に形成される隙間を埋める、または/および、シート状強化繊維基材同士を接着する、フィラー材が介挿されている形態を採用することもできる。
【0017】
また、本発明に係る強化繊維成形体の製造装置は、とくに、長手方向各部位が順次賦形されていく上記強化繊維基材の賦形目標形状が、屈曲部を有する形状の場合に好適なものである。例えば、一つの屈曲部から、あるいは二つの屈曲部間において、ウエブ状に延びる部分を有する形状に賦形する場合であって、そのウエブ状部分の延設長さが変化する場合に好適なものである。このように賦形目標形状が、強化繊維基材の幅方向に配置された少なくとも二つの屈曲部を有する場合には、該屈曲部間に、上記櫛歯機構が構成されればよい。
【0018】
また、本発明に係る強化繊維成形体の製造装置においては、上記強化繊維基材は、例えば、強化繊維を含むシート材の積層体から形成できる。強化繊維を含むシート材としては、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグから形成することもできるし、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材から形成することもできる。ドライの強化繊維材の場合には、その表面に、強化繊維材同士を接着する樹脂が散在されて付与されているものを使用でき、それによって安定して所定の積層形態、さらには賦形後の形態を維持できるようになる。
【0019】
本発明に係る強化繊維成形体の製造方法は、強化繊維基材を長手方向に間欠的に搬送し、強化繊維基材の長手方向各部位に接触しながら順次賦形していく強化繊維成形体の製造方法において、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの接触賦形手段を設け、該少なくとも二つの接触賦形手段間に、各接触賦形手段から櫛歯が互いに噛み合うように強化繊維基材の幅方向に延設された櫛歯機構を構成し、搬送されてくる強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化に対応して、強化繊維基材に接触するように、前記少なくとも二つの接触賦形手段間距離を制御することを特徴とする方法からなる。
【0020】
上記接触賦形手段は、強化繊維基材に接触するとともに強化繊維基材を加圧するようにすることもできる。
【0021】
また、好ましい形態として、強化繊維基材を加熱を伴って所定形状に賦形した後、その強化繊維基材搬送方向下流側にて、加熱賦形による強化繊維基材の賦形形状を接触による冷却を伴って所定形状に固定するように賦形し、該冷却賦形に対し、前記櫛歯機構を用いた接触賦形を行うことができる。
【0022】
上記加熱賦形としては、強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの加熱型を用いて行うことができる。この場合、上記少なくとも二つの加熱型の強化繊維基材搬送方向上流側で、強化繊維基材の幅方向中央部を加圧賦形することもできる。
【0023】
また、本発明に係る強化繊維成形体の製造方法においては、長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材が、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる形態を採用できる。この場合、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、いずれかのシート状強化繊維基材間に、形成される隙間を埋める、または/および、シート状強化繊維基材同士を接着する、フィラー材を介挿することもできる。
【0024】
また、本発明に係る強化繊維成形体の製造方法は、長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材の賦形目標形状が、屈曲部を有する場合にも適用できる。例えば、上記賦形目標形状が、強化繊維基材の幅方向に配置された少なくとも二つの屈曲部を有する場合には、該屈曲部間に、前記櫛歯機構を構成すればよい。
【0025】
また、本発明に係る強化繊維成形体の製造方法においては、上記強化繊維基材は、例えば、強化繊維を含むシート材の積層体から形成できる。強化繊維を含むシート材としては、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグから形成することもできるし、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材から形成することもできる。ドライの強化繊維材から形成する場合には、該ドライの強化繊維材の表面に、強化繊維材同士を接着する樹脂が散在されて付与されているものを使用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る強化繊維成形体の製造装置および製造方法によれば、高さや幅変化のある長尺基材を長手方向に順次賦形していく場合に、高さや幅の変化に一つの装置内で迅速かつ適切に効率よく対応でき、それによって成形速度の向上が可能になるとともに、目標とする高繊維体積含有率(高Vf)を賦形領域全体にわたって均一に達成でき、高品質な強化繊維成形体を実質的に連続成形することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る強化繊維成形体の製造装置および製造方法において賦形対象とするのは、強化繊維を含む強化繊維基材であり、代表的には、強化繊維を含むシート材が積層された長尺の積層体からなる強化繊維基材であり、とくに長手方向において賦形すべき領域の幅や高さ(以下、「幅」で代表する)が変化する強化繊維基材である。本発明における「強化繊維」としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などが挙げられる。強化繊維はその形態としては、織物、編み物、組み物、不織布、一方向に引き揃えられた強化繊維シートなどが挙げられる。強化繊維を含むシート材としては、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグの形態のもの、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材の形態のもののいずれも使用可能である。上記「積層体」は、このようなプリプレグの形態のシート材を複数枚積層したもの、あるいはドライの強化繊維材の形態のシート材を複数枚積層したものからなる。ドライの強化繊維材の積層体を賦形する場合には、強化繊維材間に、マトリックス樹脂とは別の、強化繊維材を接着して積層形態を保持するための樹脂、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ナイロン、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂を散在させて付与しておいてもよい。
【0028】
図1〜図8は、本発明の一実施態様に係る強化繊維成形体の製造装置および製造方法を示している。図1において、1は強化繊維成形体の製造装置全体を示しており、横断面形状がH形の強化繊維成形体を製造する場合を示している。この強化繊維成形体の製造装置1においては、長手方向X−Xに長尺の部材として延びる4枚のシート状強化繊維基材2a、2b、3a、3bを搬送方向Aに間欠的に搬送しながら、組み合わせ体として順次賦形していくことにより、最終的に横断面H形の強化繊維成形体4が実質的に連続成形されていくようになっている。後述の図4、図7に示すように、強化繊維基材2a、2bは横断面C形に賦形されて背中合わせに積層され、その横断面C形の強化繊維基材2a、2bの両側面に、平板状の強化繊維基材3a、3bが積層され、全体として横断面H形に賦形されるとともに、強化繊維基材2a、2bと強化繊維基材3a、3bの間に形成される略三角形状の隙間を埋めるフィラー材5a、5bがこれらの間に介挿されている。
【0029】
強化繊維基材2a、2bは、図1に示すように、上下から挟持して所定量ずつ間欠的に搬送する搬送装置6により搬送方向Aに送られ、C形形成装置7によって横断面C形に予備形成された後、加熱賦形手段としての加熱賦形装置8に導入される。この搬送装置6は、強化繊維基材2a、2bの幅方向中央部を上下から加圧できるようになっており、強化繊維基材2a、2bの幅方向中央部に対する加圧賦形手段としても機能している。フィラー材5a、5bは、加熱賦形装置8に導入される前に、フィラー形成装置9によって、後述の図4、図7に示したような断面形状となるように成形される。
【0030】
図1、図2に示すように、加熱賦形装置8の搬送方向Aの直下流側には冷却賦形手段としての冷却賦形装置10が配置されており、加熱賦形装置8と冷却賦形装置10は一組の装置としてアクチュエータ11によりレール12上を往復動される。加熱賦形装置8、冷却賦形装置10は、それらの各型が閉じられた状態で搬送方向Aに移動されることにより、強化繊維成形体4(または、その直前賦形体)が搬送方向Aに搬送され、各型が開かれた状態で搬送方向Aとは反対方向に移動されることにより、元の位置へと戻される。この往復動作に対して、搬送された強化繊維成形体4が搬送方向Aとは反対方向に戻らないように、強化繊維成形体4を挟持可能な戻り防止装置13が設けられている。なお、本実施態様では、各強化繊維基材2a、2b、3a、3bおよびフィラー材5a、5bを加熱賦形装置8に導入する前に予備加熱するために、加熱オーブン14が設けられている。この予備加熱により、全体の成形速度の向上が可能である。
【0031】
4枚のシート状強化繊維基材2a、2b、3a、3bから最終的に横断面H形の強化繊維成形体4が成形されるが、この横断面H形の強化繊維成形体4の幅は、長手方向X−Xに変化される。例えば図3に示すように、横断面H形の両側のフランジ部15a、15b間の距離W、換言すれば、両フランジ部15a、15b間に位置するウエブ部16の幅Wが、長手方向X−Xにおいて変化するように、賦形、成形動作が行われる。この幅Wの変化は、本実施態様では、幅が変化するシート状の強化繊維基材2a、2bを供給し、その強化繊維基材2a、2bを横断面C形に賦形する際に、そのC形のウエブ部の幅を変化させることによって達成されている。このような幅の変化に対応した賦形は、加熱賦形装置8と冷却賦形装置10を用いて行われる。
【0032】
加熱賦形装置8は、本実施態様では、図4に示すように構成されている。加熱賦形装置8は所定の賦形温度に加熱可能な、上型21a、21b、下型22a、22b、側面型23a、23bを有しており、これら金型が装置筐体24a、24bによって囲まれる加熱空間内で、アクチュエータ25a、25b、26a、26bによって型締めされることにより、加熱賦形装置8内に導入されてきた強化繊維基材2a、2b、3a、3bが前述のような横断面H形の強化繊維成形体4に加熱、加圧賦形される。このとき、図3に示したようなウエブ部16の幅Wの変化に対応して、金型21a、22a、23aのセットと金型21b、22b、23bのセットとの間隔が変化できるように、本実施態様では、金型21a、22a、23aのセットが金型21b、22b、23bのセットに対し装置筐体24aごと、幅変更アクチュエータ27を有するスライド装置28によって移動され、位置が制御されるようになっている。この場合、図4に示すように、上型21aと上型21bの間および下型22aと下型22bの間、つまり、横断面C形に賦形される強化繊維基材2a、2bの幅方向中央部が、加熱、加圧賦形されない場合も生じる。しかし、前述したように、この中央部部位は、事前に加圧賦形手段としても機能する搬送装置6によって所定形状に賦形されているので、別段問題は生じない。なお、図3に示したようなウエブ部16の幅Wのテーパー状変化にも良好に追従できるように、アクチュエータ26a、26bと側面型23a、23bとの間の連結機構には、例えば側面型23a、23bを回動可能に支持するピン連結機構(例えば、図5の45)等を採用することが好ましい。
【0033】
本実施態様では、図5〜図8に示すように、本発明に係る櫛歯機構が冷却賦形装置10内に構成されている。冷却賦形装置10には、図5に示すように、接触により冷却賦形可能な接触賦形手段として、所定の冷却温度(例えば、強化繊維基材を徐冷可能な温度)に制御された上型31a、31b、下型32a、32b、側面型33a、33bが設けられており、強化繊維基材の幅方向に配列され該幅方向に互いに相対移動可能な上型31aと上型31bとの間および下型32aと下型32bとの間に、櫛歯機構34a、34bが構成されている。櫛歯機構34aは、上型31a、31bにそれぞれ図6に示すように締結手段35(例えば、ボルト)により固定された櫛歯形成部材36a、36bによって構成され、櫛歯形成部材36a、36bには、強化繊維基材の幅方向に延び互いに相対移動可能に噛み合う櫛歯37a、37bが設けられ、図7に示すように、いずれかの櫛歯37a、37bが常時強化繊維基材に接触するように櫛歯37a、37b同士が互いに噛み合わされている。図8に示すように、櫛歯形成部材36a、36bの相対位置関係が強化繊維基材の幅方向Bに変更されることにより、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化が、接触賦形領域全体にわたる接触賦形状態が維持されつつ、吸収されるようになっている。
【0034】
同様に、櫛歯機構34bは、下型32a、32bにそれぞれ図6に示すように締結手段35により固定された櫛歯形成部材38a、38bによって構成され、櫛歯形成部材38a、38bには、強化繊維基材の幅方向に延び互いに相対移動可能に噛み合う櫛歯39a、39bが設けられ、図7に示すように、いずれかの櫛歯39a、39bが常時強化繊維基材に接触するように櫛歯39a、39b同士が互いに噛み合わされている。図8に示したのと同様に、櫛歯形成部材38a、38bの相対位置関係が強化繊維基材の幅方向Bに変更されることにより、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化が、接触賦形領域全体にわたる接触賦形状態が維持されつつ、吸収されるようになっている。
【0035】
上記幅変化の吸収のための櫛歯機構34a、34bの作動は、本実施態様では、上型31a、31b、下型32a、32b、側面型33a、33b間の間隔制御とともに行われるようになっている。図7に示すように、冷却賦形装置10には、上型31a、31b、側面型33a、33bに対して、加圧/開放作動可能なアクチュエータ40a、40b、41a、41bが設けられており、各金型が装置筐体42a、42bによって囲まれる冷却空間内で、アクチュエータ40a、40b、41a、41bによって型締めされることにより、冷却賦形装置10内に導入されてきた強化繊維基材2a、2b、3a、3bが前述のような横断面H形の強化繊維成形体4に冷却、加圧賦形される。このとき、図3に示したようなウエブ部16の幅Wの変化に対応して、金型31a、32a、33aおよび櫛歯形成部材36a、38aのセットと金型31b、32b、33bおよび櫛歯形成部材36b、38bのセットとの間隔が変化できるように、本実施態様では、金型31a、32a、33aおよび櫛歯形成部材36a、38aのセットが金型31b、32b、33bおよび櫛歯形成部材36b、38bのセットに対し装置筐体42aごと、幅変更アクチュエータ43を有するスライド装置44によって移動され、位置が制御されるようになっている。なお、図3に示したようなウエブ部16の幅Wのテーパー状変化にも良好に追従できるように、アクチュエータ41a、41bと側面型33a、33bとの間の連結機構には、例えば側面型33a、33bを回動可能に支持するピン連結機構45等を採用することが好ましい。
【0036】
このように冷却賦形装置10を構成することで、接触冷却を伴う賦形プレス工程においては、接触賦形領域の幅変化に対応して櫛歯機構34a、34bにおける櫛歯の噛み合い幅が制御され、接触賦形すべき領域全体にわたって、非接触部が生じない所望の接触賦形状態が保たれ、接触賦形領域の幅変化(賦形すべき強化繊維基材の幅変化)が良好に吸収されて、幅変化のある強化繊維成形体4が目標とする形状に精度よく賦形、成形されることになる。とくに、加熱賦形工程の直後に、接触冷却を伴う賦形プレス工程を設けることで、賦形されるべき成形体を望ましい条件で均一に徐冷することが可能になり、それによって高繊維体積含有率(高Vf)を達成した状態での成形が可能になる。また、櫛歯機構34a、34bにより接触賦形領域全体にわたって冷却時間のばらつきなく均一に冷却できるので、強化繊維成形体4全体にわたって均一に高Vf化することが可能になる。本実施態様では、本発明に係る櫛歯機構は冷却賦形装置10内に構成されている。ただし、加熱賦形装置8に対しても櫛歯機構を構成することはでき、加熱賦形装置8と冷却賦形装置10の両方に櫛歯機構を設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る強化繊維成形体の製造装置および製造方法は、幅変化のあるあらゆる強化繊維成形体の製造に適用でき、とくに長尺の部材の成形に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施態様に係る強化繊維成形体の製造装置の斜視図である。
【図2】図1の装置の拡大部分斜視図である。
【図3】図1の装置で成形される強化繊維成形体の一例を示す概略平面図である。
【図4】図1の装置における加熱賦形装置の概略縦断面図である。
【図5】図1の装置における冷却賦形装置の概略斜視図である。
【図6】図5の冷却賦形装置の部分縦断面図である。
【図7】図5の冷却賦形装置における冷却賦形の一例を示す概略縦断面図である。
【図8】図5の冷却賦形装置における幅変更の様子を示す概略部分平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 強化繊維成形体の製造装置
2a、2b、3a、3b 強化繊維基材
4 強化繊維成形体
5a、5b フィラー材
6 搬送装置
7 C形形成装置
8 加熱賦形手段としての加熱賦形装置
9 フィラー形成装置
10 冷却賦形手段としての冷却賦形装置
11 アクチュエータ
12 レール
13 戻り防止装置
14 加熱オーブン
15a、15b フランジ部
16 ウエブ部
21a、21b 上型
22a、22b 下型
23a、23b 側面型
24a、24b 装置筐体
25a、25b、26a、26b アクチュエータ
27 幅変更アクチュエータ
28 スライド装置
31a、31b 上型
32a、32b 下型
33a、33b 側面型
34a、34b、 櫛歯機構
35 締結手段
36a、36b、38a、38b 櫛歯形成部材
37a、37b、39a、39b 櫛歯
40a、40b、41a、41b アクチュエータ
42a、42b 装置筐体
43 幅変更アクチュエータ
44 スライド装置
45 ピン連結機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠的に搬送されてくる強化繊維基材の長手方向各部位を、該各部位に接触しながら順次賦形していく接触賦形手段を有する強化繊維成形体の製造装置において、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの接触賦形手段を設け、該少なくとも二つの接触賦形手段間に、各接触賦形手段から櫛歯が強化繊維基材の幅方向に延び、櫛歯同士が強化繊維基材に接触するように互いに噛み合うことにより、強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化を吸収可能な櫛歯機構を構成したことを特徴とする強化繊維成形体の製造装置。
【請求項2】
前記接触賦形手段が、接触とともに加圧により強化繊維基材を賦形する手段からなる、請求項1に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項3】
強化繊維基材を加熱を伴って所定形状に賦形する加熱賦形手段と、該加熱賦形手段の強化繊維基材搬送方向下流側に設けられ、該加熱賦形手段による強化繊維基材の賦形形状を接触による冷却を伴って所定形状に固定するように賦形する冷却賦形手段とを有し、該冷却賦形手段に対し、前記櫛歯機構が構成されている、請求項1または2に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項4】
前記加熱賦形手段が、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの加熱型を有する、請求項3に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項5】
前記少なくとも二つの加熱型の強化繊維基材搬送方向上流側に、強化繊維基材の幅方向中央部を加圧賦形可能な中央部賦形手段が設けられている、請求項4に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項6】
長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材が、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項7】
複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材の賦形目標形状が、屈曲部を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項8】
複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、いずれかのシート状強化繊維基材間に、形成される隙間を埋める、または/および、シート状強化繊維基材同士を接着する、フィラー材が介挿されている、請求項7に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項9】
前記賦形目標形状が、強化繊維基材の幅方向に配置された少なくとも二つの屈曲部を有し、該屈曲部間に、前記櫛歯機構が構成されている、請求項8に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項10】
前記強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなる、請求項1〜9のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項11】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる、請求項10に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項12】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる、請求項10に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項13】
前記ドライの強化繊維材の表面に、強化繊維材同士を接着する樹脂が散在されて付与されている、請求項12に記載の強化繊維成形体の製造装置。
【請求項14】
強化繊維基材を長手方向に間欠的に搬送し、強化繊維基材の長手方向各部位に接触しながら順次賦形していく強化繊維成形体の製造方法において、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの接触賦形手段を設け、該少なくとも二つの接触賦形手段間に、各接触賦形手段から櫛歯が互いに噛み合うように強化繊維基材の幅方向に延設された櫛歯機構を構成し、搬送されてくる強化繊維基材の接触賦形領域の幅変化に対応して、強化繊維基材に接触するように、前記少なくとも二つの接触賦形手段間距離を制御することを特徴とする強化繊維成形体の製造方法。
【請求項15】
前記接触賦形手段は、強化繊維基材に接触するとともに強化繊維基材を加圧する、
請求項14に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項16】
強化繊維基材を加熱を伴って所定形状に賦形した後、その強化繊維基材搬送方向下流側にて、加熱賦形による強化繊維基材の賦形形状を接触による冷却を伴って所定形状に固定するように賦形し、該冷却賦形に対し、前記櫛歯機構を用いた接触賦形を行う、請求項14または15に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項17】
前記加熱賦形を、前記強化繊維基材の幅方向に配列され、該幅方向において互いに相対移動可能な少なくとも二つの加熱型を用いて行う、請求項16に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項18】
前記少なくとも二つの加熱型の強化繊維基材搬送方向上流側で、強化繊維基材の幅方向中央部を加圧賦形する、請求項17に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項19】
長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材が、複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる、請求項14〜18のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項20】
複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、長手方向各部位が順次賦形されていく前記強化繊維基材の賦形目標形状が、屈曲部を有する、請求項14〜19のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項21】
複数のシート状強化繊維基材の組み合わせ体からなる強化繊維基材の、いずれかのシート状強化繊維基材間に、形成される隙間を埋める、または/および、シート状強化繊維基材同士を接着する、フィラー材を介挿する、請求項20に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項22】
前記賦形目標形状が、強化繊維基材の幅方向に配置された少なくとも二つの屈曲部を有し、該屈曲部間に、前記櫛歯機構を構成する、請求項21に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項23】
前記強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなる、請求項14〜22のいずれかに記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項24】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる、請求項23に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項25】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる、請求項23に記載の強化繊維成形体の製造方法。
【請求項26】
前記ドライの強化繊維材の表面に、強化繊維材同士を接着する樹脂が散在されて付与されている、請求項25に記載の強化繊維成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−234211(P2009−234211A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86563(P2008−86563)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】