説明

形状検査装置および形状検査方法

【課題】被検査体が所定の形状および寸法よりもわずかでも小さい場合には寸法不足を確実に検出して欠陥であると判定できる形状検査装置および形状検査方法を提供すること。
【解決手段】被検査体であるスパイダの素形材2の突起部22,23の形状を測定してその断面形状を示す「形状データ」を作成し、作成した「形状データ」からスパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を「基準形状」としてこの「基準形状」をデータ化した「基準形状データ」を作成し、「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出し、算出した差分に基づいてスパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状検査装置および形状検査方法に関するものであり、詳しくは、ある所定の加工が施されたワークについて、その後に他の所定の加工を施すことができる形状を有しているか(換言すると、他の所定の加工を施す場合であっても、当該他の所定の加工が施された部分に不良が発生しないようにできるか)をあらかじめ検査できる形状検査装置および形状検査方法に関するものである。たとえば、鍛造加工や鋳造加工によって形成されたワークを検査する形状検査装置および形状検査方法であって、その後に当該ワークに他の所定の加工(たとえば切削加工や研削加工などの除去加工)を施すことにより所定の形状に形成することができるか(=他の所定の加工を施すことにより、不良なく所定の形状を形成できるか)を検査する形状検査装置および形状検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品などの製造方法には、ワークを鍛造加工や鋳造加工などによって所定の形状に形成する工程と、その後、所定の形状に形成したワークに対してさらに切削加工や研削加工などの除去加工を施す工程とを有する方法が用いられることがある。たとえば、一般的に、鍛造加工や鋳造加工などにより所定の形状に形成されたワークは、寸法精度が低く、また、表面に凹凸(特に凹部)が形成されることがある。さらに、熱間鍛造や鋳造加工によれば、ワークの表面に酸化膜が形成されることがある。このため、鍛造加工や鋳造加工においては、ワークを最終的に形成される寸法および形状よりも大きい寸法および形状に形成し、その後、切削加工や研削加工などの除去加工を施すことによって、ワークを所定の寸法精度を有する形状に形成したり、凹凸を除去したり、表面に形成された酸化膜を除去したりする。
【0003】
たとえば、ユニバーサルジョイントに組み込まれるスパイダには、鍛造加工や鋳造加工により製造されるものがある。スパイダの四箇所の突起部は、ユニバーサルジョイントに組み込まれた状態において、ピボットとして機能するため、所定の寸法を有する略円柱形状に形成される。そこで、まず、鍛造加工や鋳造加工などによって、四箇所の突起部を有する略十字形状のワークを形成する。その後、各突起部の外周面に切削加工や研削加工を施すことにより、凹凸や酸化膜を除去するとともに、所定の寸法を有する略円柱形状に形成する。
【0004】
このように、鍛造加工や鋳造加工などによって、ワークを所定の形状に形成し、その後、ワークの所定の部分に切削加工や研削加工などの除去加工を施すことがある。そしてその場合には、除去加工により除去される寸法および体積(すなわち、加工しろ(加工代))を考慮し、最終的な寸法および形状よりも大きい寸法および形状に形成される。具体的には、鍛造加工や鋳造加工の後の除去加工において、除去加工後に凹部や酸化膜が残らないような寸法および形状に形成される。
【0005】
このため、鍛造加工や鋳造加工などによって所定の形状に形成されたワークは、その後に所定の部分に切削加工や研削加工などの除去加工を施す前に、当該所定の部分が所定の寸法および形状を有しているか(=必要な加工しろが存在するか)を検査する形状検査が行われることがある。
【0006】
特に、鍛造加工や鋳造加工などにおいては、形成されたワークの表面に凹部が形成されることがある。この凹部の深さが所定の寸法よりも大きいと、その後に切削加工や研削加工を施した場合であっても、この凹部が消滅せず、切削加工や研削加工の後の表面にも凹部が残ることがある。
【0007】
ワークの表面に形成された凹凸などを評価する方法としては、たとえば特許文献1のような方法が提案されている。特許文献1に開示される方法は、まず、ワーク(特許文献1中においては「被測定物」と記される)の表面の形状を形状測定器で測定し、この測定値から近似曲線を求める。そして、近似曲線に対する測定値の変動を算出し、この変動が所定の許容範囲を越えた場合には、この所定の許容範囲を越えた部分を欠陥部として判断する。その後、全体の測定値から欠陥部の測定値を除去し、除去した測定値から再び近似曲線を求め、近似値に対する測定値の変動を算出する。
【0008】
すなわち、特許文献1に開示の構成は、測定値から凹凸を除去した近似曲線を求め、求めた近似曲線を基準として測定値との差分を算出し、算出した差分が所定の許容範囲を越える場合には、当該部分を欠陥部と判定するものである。さらに、欠陥部を除去した近似曲線を求め、この近似曲線と欠陥部の測定値との差分を求めることにより、より正確な差分を求めることができるものである。
【0009】
前記のように、鍛造加工や鋳造加工によってワークを所定の形状に形成し、その後除去加工を施す場合には、前記のように、ワークが所定の形状よりも大きい形状である必要がある。そして、形状検査においては、ワークが所定の形状よりもわずかでも小さい場合には、欠陥として判定できる必要がある。すなわち、この形状検査においては、ワークが所定の形状よりも大きい場合には、高い検査精度は要求されない(または、検査する必要がない)が、ワークが所定の形状よりも小さい場合には、確実に検出できる必要がある。
【0010】
しかしながら、測定値から近似曲線を求め、求めた近似曲線を基準として差分を算出し、算出した差分に基づいて判定する構成では、次のような問題が生じることがある。測定値から求めた近似曲線は、ワークの表面に存在する凹凸を平均化や平滑化したものであるから、近似曲線は、ワークの表面の最も高い位置ではなく、それよりも低い位置に位置する。特に、ワークの表面に大きい凹部や深い凹部が存在すると、近似曲線はその影響を受けて、より低い位置(=ワークの表面から内側に沈みこんだ位置)に位置することになる。このように、近似曲線は、ワークの表面をよく表している曲線であるとはいえないことがある。このため、近似曲線と被検査体の表面との差分を算出すると、被検査体の表面に凹部が存在する場合、この凹部の深さは近似曲線からの深さとなり、被検査体の外周面からの深さとはならないことがある。その結果、被検査体の外周面に存在する凹部の深さを過小評価するおそれがある。
【0011】
前記のように、ワークに対して後に所定の加工を施すため、ワークが所定の形状よりも小さい場合には、それを確実に検出して欠陥であると判定できる必要がある。しかしながら、このような構成であると、凹部の深さを過小評価するおそれがあるため、後の切削加工や研削加工などにおいて消滅させることができないような深さの凹部が存在したとしても、欠陥であると判定できないおそれがある。また、前記のように近似曲線がワークの表面から沈みこんだ位置に位置することがあるから、近似曲線とワークの表面との差分を取る構成では、ワークの外形寸法および形状を過大評価するおそれがある。ワークの外形寸法および形状の過大評価は、換言すれば、いわゆる加工しろの寸法の過大評価である。このため、後の切削加工や研削加工において、所定の形状を形成できる寸法および形状に不足しており欠陥があると判定すべきにもかかわらず、必要な寸法および形状を有しており欠陥はないと判定されるおそれがある。
【0012】
このように、前記構成では、ワークが所定の形状よりも小さい場合であっても、それを確実に検出できないおそれがあり、その結果、最終的に製造される製品に欠陥が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−288763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ワークが所定の形状よりも小さい場合には、確実に検出して欠陥であると判定することができる形状検査装置および形状検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を検査する形状検査方法であって、前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を測定して形状を示す形状データを作成する段階と、前記形状データから前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を基準形状として該基準形状をデータ化した基準形状データを作成する段階と、前記基準形状データと前記形状データとの差分を算出する段階と、前記算出された差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定する段階と、を有することを要旨とするものである。
【0016】
前記算出された差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定するにおいては、前記基準形状データと前記形状データとの差分のヒストグラムを作成し、作成した前記ヒストグラムの最頻階級を選択し、選択した最頻階級の階級値に基づいて前記基準形状データと前記形状データとをフィッティングさせ、前記フィッティングさせた後における前記基準形状データと前記形状データとの差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定することが好ましい。
【0017】
前記被検査体としては、鍛造加工または鋳造加工により形成されるスパイダの素形材が適用され、前記断面形状が略均一な部分には前記スパイダの素形材の突起部が適用される。「スパイダの素形材」とは、スパイダの未完成品(所定の加工によって所定の形状に形成されたワークであり、その後に他の所定の施すことにより最終的なスパイダの完成品となるもの。詳細は後述)をいう。
【0018】
本発明は、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を検査できる形状検査装置であって、前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を測定する三次元形状スキャナと、前記三次元形状スキャナの測定結果に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を示す形状データを作成する三次元寸法取得手段と、前記形状データから前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を基準形状として該基準形状をデータ化した基準形状データを作成し、前記基準形状データと前記形状データとの差分を算出できる演算手段と、前記演算手段による算出結果に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定できる判定手段と、を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を「基準形状」として「基準形状データ」を作成し、この「基準形状データ」と、現実の断面形状を示す「形状データ」の差分に基づいて、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定する。「基準形状」は、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分(たとえば略柱状に形成される部分)の「断面形状の最大値」であるといえる。したがって、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の表面に凹部が存在したとしても、この凹部の深さを過小評価することを防止できる。また、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の外形寸法を過大評価することが防止でき、いわゆる加工しろの寸法を適正に評価できる。
【0020】
このように、ワークが所定の寸法および形状よりも小さい場合には、厳密に検出して判定を行うことができる。したがって、特に、後の加工において必要となる加工しろが不足することにより、最終的な製品に欠陥が発生することを防止できる。
【0021】
また、前記基準形状データと前記形状データとの差分のヒストグラムを作成し、作成した前記ヒストグラムの最頻階級を選択し、選択した最頻階級の階級値に基づいて前記基準形状データと前記形状データとをフィッティングさせ、前記フィッティングさせた後における前記基準形状データと前記形状データとの差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定する構成であれば、判定の精度の向上を図ることができる。
【0022】
すなわち、被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に凹部が存在しても、ヒストグラムの最頻階級は変化しない。このように、基準形状データと形状データとをフィッティングさせる量は凹部の影響を受けない。このため、凹部の深さを過小評価し、その結果として後の切削加工や研削加工によっても凹部を完全に消去できなくなることを防止できる。また、加工しろの寸法も適正に評価できるから、後の切削加工や研削加工において、所定の形状に形成するための加工しろが不足するものや、酸化膜を除去するのに加工しろが不充分なものを、良品として誤判定することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態にかかる形状検査方法(=本発明にかかる形状検査装置を用いた検査方法)において検査対象となるスパイダの素形材の構成を、模式的に示した図であり、(a)は、スパイダの素形材の平面図、(b)はスパイダの素形材の外観斜視図である。
【図2】本発明にかかる形状検査装置の構成を、模式的に示したブロック図である。
【図3】「形状データ」の内容を示したグラフである。
【図4】基準形状データの作成方法および基準形状データの内容を、模式的に示した図であり、(a)は、基準形状データの作成方法を模式的に示した外観斜視図であり、(b)は、基準形状データの作成方法と作成された基準形状データの内容を模式的に示した平面図である。
【図5】本発明にかかる形状検査方法の流れの概略を示したフローチャートである。
【図6】基準形状データと形状データとの差分を算出するステップおよび基準形状データと形状データとの差分の内容を模式的に示した平面図(グラフ)であり、(a)は、基準形状データと形状データとを重ね合わせて差分を算出する工程を示した図であり、(b)は、フィッティングステップの内容およびフィッティング後の基準形状データと形状データとの差分を算出するステップおよび算出された差分の内容を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
本発明の実施形態においては、被検査体として、ユニバーサルジョイント(「自在継手」と称することもある)に組み込まれるスパイダ(「十字形片」、「十字継手」などと称することもある)の素形材が適用される構成を示す。「スパイダの素形材」とは、スパイダの未完成品(所定の加工によって所定の形状に形成されたワークであり、その後に他の所定の施すべき部分を有しているもの。)をいう。
【0026】
図1は、本発明にかかる形状検査方法(=本発明にかかる形状検査装置を用いる形状検査方法)の被検査体であるスパイダの素形材2の構成を、模式的に示した図である。具体的には、図1(a)は、スパイダの素形材2の構成を示した平面図であり、図1(b)は、外観斜視図である。図1(a),(b)に示すように、被検査体であるスパイダの素形材2は、全体として略十字形状に形成される。具体的には、略直方体形状に形成される本体部21と、本体部の四つの側面のそれぞれから突起する四本の突起部22,23(基端部側に形成される外径が大きい突起部22と先端部側に形成される外形が小さい突起部23)とを有する。これらの四本の突起部22,23は、ユニバーサルジョイントに組み込まれた状態において、それぞれ、連結される軸の端部に設けられるフォークと係合してピボットとして機能する部分である。このため、各突起部22,23は、所定の外径を有する略円柱形状に形成される。このように、各突起部22,23は、断面形状および寸法が略均一で柱状に形成される。
【0027】
スパイダの製造方法の一例を簡単に説明すると、次のとおりである。まず、鍛造加工や鋳造加工などによって、略十字形状のワークを形成する。この時点におけるワークが、本発明の実施形態にかかる検査方法の被検査体である「スパイダの素形材」2)である。そしてその後、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に、切削加工や研削加工などの除去加工を施し、突起部22,23を所定の外径を有する略円柱形状に形成する。これにより、スパイダの完成品が得られる。すなわち、本発明にかかる形状検査方法の対象となるスパイダの素形材2は、鍛造加工や鋳造加工により突起部22,23を有する形状に形成されたワークであって、突起部22,23を所定の寸法精度や所定の表面精度を有する断面略円柱状に形成する前の段階のものをいう。なお、スパイダの製造方法は、他の所定の工程を有することがあるが、説明は省略する。
【0028】
鍛造加工により形成されるスパイダの素形材2の表面には、鍛造型が打ち付けられるために凹凸が形成されることがある(特に凹部、いわゆる鍛造型の「打痕」が形成されることがある)。また、鋳造加工により形成されるスパイダの素形材2の表面にも、気泡や引け巣などの凹凸が形成されることがある。また、鍛造加工や鋳造加工により形成されるスパイダの素形材2の表面には、酸化膜が形成されることがある。さらに、形成されたスパイダの素形材2は、所定の時間が経過すると、その表面に錆が発生することがある。
【0029】
このため、スパイダの完成品となった状態において所定の寸法精度や所定の表面性状が必要な部分や、表面に酸化膜や錆が存在してはいけない部分に対しては、鍛造加工や鋳造加工などによってスパイダの素形材2を形成した後、当該部分に対して切削加工や研削加工などの除去加工を施す。これにより、当該部分を所定の寸法精度や所定の表面精度を有する形状に形成する。また、当該部分の表層部を除去することにより、酸化膜や錆を除去する。前記のとおり、スパイダの完成品の突起部22,23は、ピボットとして機能する部分であるから、所定の寸法精度および所定の表面性状を有する所定の外径の円柱形状に形成される必要があり、また、酸化膜や錆は除去する必要がある。
【0030】
したがって、鍛造加工や鋳造加工により形成されたスパイダの素形材2の突起部22,23の外形(外径)は、スパイダの完成品の突起部の外形(外径)よりも大きい必要がある。具体的には、スパイダの素形材2の突起部22,23の断面形状の輪郭線と、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線(なお、必ずしも完成品である必要はなく、スパイダの素形材2の突起部22,23に対して切削加工や研削加工が施された後の断面形状の輪郭線であればよい。以下同じ)とを重ね合わせた場合、スパイダの素形材2の突起部22,23の断面形状の輪郭線が、所定の寸法だけ、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線よりも外側に位置する必要がある。また、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に凹部が存在する場合には、凹部の最深部が、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線の内側に入り込んでいない必要がある。
【0031】
すなわち、スパイダの素形材2の突起部22,23の断面形状の輪郭線が、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線の外側に位置していないと、スパイダの素形材2が形成された時点で、突起部22,23の外形寸法は、すでにスパイダの完成品の突起部の外形寸法よりも小さいことになる。このため、後に切削加工や研削加工を施すことができる部分(いわゆる加工しろ)が存在せず、突起部22,23を所定の形状に形成することができない。また、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に凹部が存在する場合、凹部の最深部がスパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線よりも内側に入り込んでいると、スパイダの素形材2の突起部22,23に対して切削加工や研削加工を施しても、スパイダの完成品の突起部の表面に凹部が残ることになる。
【0032】
また、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に酸化膜や錆が存在する場合においては、スパイダの素形材2の突起部22,23の外形の輪郭線が、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線の外側に位置していても、それらの間の距離が所定の寸法(=切削加工や研削加工により除去される表層部の厚さ。いわゆる「加工しろ(加工代)」)よりも小さいと、その後に切削加工や研削加工などの除去加工を施しても、酸化膜や錆を完全に除去できない場合がある。すなわち、形成されたスパイダの素形材2の突起部22,23に、切削加工や研削加工のための加工しろが存在しないかまたは充分ではない場合がある。
【0033】
なお、スパイダの素形材2の突起部22,23の断面形状の輪郭線が、スパイダの完成品の突起部の断面形状の輪郭線の外側に位置している場合には、それらの間の距離(=加工しろ)が過大であったとしても、最終的に製造されるスパイダの完成品の品質の観点からは問題はない。すなわち、その後にスパイダの素形材2の突起部22,23に施す切削加工や研削加工などの加工量(除去加工における除去量)は大きくなるものの、スパイダの素形材2の突起部22,23を所定の形状に形成することができる。また、この場合には、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に凹部、酸化膜、錆などが存在しても、それらを完全に消去または除去することができる。
【0034】
このように、わずかであっても、前記所定の寸法および形状よりも小さく形成されると、スパイダの完成品の品質に問題が生じることがある。したがって、スパイダの素形材2が形成された後に、突起部22,23の断面の寸法および形状が、所定の寸法および形状(=最終的な寸法および形状に、所定の加工しろを加えた寸法および形状)よりも大きいかを厳密に検査する必要がある。
【0035】
本発明の実施形態にかかる形状検査装置および本発明の実施形態にかかる形状検査方法は、スパイダの素形材2の突起部22,23が、必要な加工しろを有しているかを検査することができる。具体的には、鍛造加工や鋳造加工により形成されたスパイダの素形材2の突起部22,23が、その後に切削加工や研削加工を施すことにより所定の寸法精度や表面性状を得ることができるかを検査することができる。また、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に凹部が存在する場合であっても、後の切削加工や研削加工などの除去加工によって、凹部を完全に消滅させることができるかを検査することができる。また、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に酸化膜が形成される場合であっても、後の切削加工や研削加工などの除去加工によって、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に形成される酸化膜を完全に除去し、かつ、突起部22,23を所定の寸法精度や所定の表面性状を有する所定の形状に形成できるかを検査することができる。
【0036】
図2は、本発明の実施形態にかかる形状検査装置1の構成を、模式的に示したブロック図である。図2に示すように、本発明の実施形態にかかる形状検査装置1は、三次元形状スキャナ11と、三次元寸法取得手段12と、記憶手段13と、演算手段14と、判定手段15と、出力手段16とを備える。
【0037】
三次元形状スキャナ11は、被検査体の被測定部分の外形(本発明の実施形態においては、スパイダの素形材2の突起部22,23の外形)を測定できる装置である。この三次元形状スキャナ11には、一般的な三次元レーザスキャナ(3Dレーザスキャナ)など、公知の各種三次元形状スキャナが適用できる。たとえば、次のような構成の三次元レーザスキャナが適用できる。本発明の実施形態にかかる形状検査装置1に適用される三次元形状スキャナ11は、被検査体を載置できるステージ113と、所定の波長のレーザ光を発することができるレーザ光源111と、被検査体の表面において反射したレーザ光を受光できる受光カメラ112とを有する。そして、レーザ光源111は、ステージ113に載置された被検査体の被測定部分に向かってレーザ光を照射し、受光カメラ112は、被検査体の被測定部分の表面において反射したレーザ光を受光する。このように、受光したレーザ光に基づいて、被検査体の被測定部分の形状を測定する。
【0038】
なお、このような構成の三次元形状スキャナ11を適用した場合には、一回の測定では、被検査体の被測定部分の上側半分(レーザ光源111に対向している側)を測定することができ、下側半分(ステージ113に対向している側)は測定することができない。このため、被検査体の被測定部分の全周にわたる形状を測定するためには、まず被検査体の被測定部分のある片側半分をレーザ光源111に対向させて当該ある片側半分の形状を測定し、次いで、被検査体の被測定部分を上下反転させ、他の片側半分をレーザ光源111に対向させて当該他の片側半分の形状を測定する。
【0039】
三次元寸法取得手段12は、三次元形状スキャナ11が取得したデータに基づいて、被検査体の被測定部分であるスパイダの素形材2の突起部22,23の現実の外形を示すデータ(以下、「形状データ」と称する)を作成することができる。三次元寸法取得手段12が作成する「形状データ」は、スパイダの素形材2の突起部22,23の現実の外形を示すデータであり、突起部22,23の軸線方向の各位置における断面形状(=軸線に対して略直角な方向に切断して得られた断面形状の輪郭線)を示すデータである。
【0040】
図3は、「形状データ」の内容を示したグラフである。スパイダの素形材2の突起部22,23のある片側半分の形状と他の片側半分の形状とが別々に測定される構成であれば、ある片側半分の「形状データ」と、他の片側半分の「形状データ」とを別々に作成する。すなわち、各「形状データ」は、図3に示すように、横軸にスパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向に直角な方向の位置(=断面方向位置)をとり、縦軸に所定の基準面からスパイダの素形材2の突起部22,23のある片側半分の表面までの距離(=高さ)をとるグラフとなる。そして、グラフのプロットの形状が、スパイダの素形材2の突起部22,23のある片側半分の表面の形状(=輪郭線)または他の片側半分の表面の形状を示す。「形状データ」には、このようなグラフ(または、このようなグラフを作成できるデータ)が、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって含まれる。
【0041】
演算手段14は、三次元寸法取得手段12が作成した「形状データ」に基づいて、「基準形状データ」を作成することができる。「基準形状データ」は、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があるか否かを判定するために用いる形状(以下、「基準形状」と称する)をデータ化したものである。
【0042】
図4は、「基準形状データ」の作成方法および内容を、模式的に示した図である。それぞれ図4(a)は、「基準形状データ」の作成方法を模式的に示した外観斜視図であり、図4(b)は、基準形状データの作成方法と作成された基準形状データの内容を模式的に示した平面図である。
【0043】
「基準形状データ」の作成方法および内容は次のとおりである。まず、スパイダの素形材2の突起部22,23を、その軸線方向に直角な面である仮想切断面で切断し、仮想切断面に現れる断面形状の輪郭線を取得する。そして、このような断面形状の輪郭線を、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって取得する。図4(a)においては、三つの仮想切断面P,P,Pに現れる断面形状の輪郭線L,L,Lを取得する構成を示す。そして、図4(b)に示すように、取得した断面形状の輪郭線L,L,Lのすべてを、一枚の平面状に重ねて描く。そして、すべての断面形状の輪郭線L,L,Lが重ねて描かれることによって得られる図形の輪郭線(=最も外側の輪郭線)を抽出する。すなわち、すべての断面形状の輪郭線L,L,Lが重ねて描かれると、各輪郭線L,L,Lのうち、所定の一部が最も外側に位置する。そして、各輪郭線L,L,Lのうち、最も外側に位置する一部を抽出して結合する。このようにして得られる形状が「基準形状」となる。図4(b)においては、「基準形状」を実線で示し、各輪郭線L,L,Lを破線で示す。
【0044】
この「基準形状」は、たとえば、スパイダの素形材2の突起部22,23に、その軸線方向に平行な光軸を有する光を照射し、スパイダの素形材2の突起部22,23を、この光によって軸線方向に直角な平面に投影した場合に得られる図形に等しい。このように、「基準形状」は、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって、最も外側に位置する部分(たとえば、中心線から最も遠い距離ある点)を抽出し、抽出した部分を繋げることによって得られる図形であり、スパイダの素形材2の各突起部22,23の断面形状の最大値であるといえる。したがって、この「基準形状」の輪郭線と、スパイダの素形材2の突起部22,23を、その軸線方向に直角な仮想切断面で切断して得られる断面形状の輪郭線とを重ね合わせて描画した場合、スパイダの素形材2の突起部22,23を仮想切断面で切断して得られる断面形状の輪郭線は、この「基準形状」の輪郭線から突出することなく内側に収まる。
【0045】
「基準形状データ」は、「基準形状」をデータ化したものである。図4(b)においては、スパイダの素形材2の突起部22,23の断面形状の全周が一つの「基準形状データ」に含まれる構成を示したが、実際には、スパイダの素形材2の突起部22,23のある片側半分と他の片側半分とで別々の「基準形状データ」が作成される。すなわち、「基準形状データ」は、図3に示す「形状データ」のグラフと同様の構成を有するグラフ(またはこのようなグラフを作成できるデータ)である。なお、「形状データ」は、図3に示すようなグラフを、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって有するが、「基準形状データ」は、スパイダの素形材2の突起部22,23のある片側半分と他の片側半分とで一枚ずつのグラフを有する。
【0046】
判定手段15は、「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出することができる。具体的には、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向に直角な方向に沿って、所定の基準位置から「基準形状」の表面までの距離と、所定の基準位置からスパイダの素形材2の突起部22,23の表面までの距離との差を算出することができる。また、この判定手段15は、算出した「基準形状データ」と「形状データ」との差分に基づいて、「基準形状データ」と「形状データ」とをフィッティングさせるためのシフト量を算出することができる。そして、判定手段15は、算出したシフト量に基づいて、「基準形状データ」または「形状データ」をシフトさせることにより、「基準形状データ」と「形状データ」とをフィッティングさせることができる。なお、フィッティングについては後述する。そして、判定手段15は、フィッティング後の「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出し、算出したこの差分に基づいて、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があるか否かを判定することができる。
【0047】
出力手段16は、判定手段15による判定結果を出力することができる。
【0048】
記憶手段13は、三次元寸法取得手段12が作成した「形状データ」と、演算手段14が作成した「基準形状データ」とを記憶することができる。
【0049】
三次元寸法取得手段12、記憶手段13、演算手段14、判定手段15は、パーソナルコンピュータやワークステーションなどにより実現できる。出力手段16には、パーソナルコンピュータやワークステーションの表示装置(たとえばディスプレイ)や印刷装置などが適用できる。
【0050】
次に、本発明の実施形態にかかる形状検査方法(=本発明の実施形態にかかる形状検査装置を用いた形状検査方法)について説明する。
【0051】
図5は、本発明の実施形態にかかる形状検査方法の工程の流れの概略を示したフローチャートである。図5に示すように、本発明の実施形態にかかる形状検査方法は、三次元データ取得ステップ(S−1)と、外形演算ステップ(S−2)と、基準形状データ作成ステップ(S−3)と、差分データ算出ステップ(S−4)と、フィッティングステップ(S−5)と、判定ステップ(S−6)と、判定結果出力ステップ(S−7)とを有する。
【0052】
三次元データ取得ステップ(S−1)においては、三次元形状スキャナ11が、スパイダの素形材2の突起部22,23の外形を測定する。三次元形状スキャナ11として前記構成を有する三次元レーザスキャナが適用される場合には、ステージ113の上面から、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面のうちレーザが照射される部分(=上側半分)までの距離が測定される。すなわち、一回のスキャンによって、ある片側半分の形状が測定される。このため、スパイダの素形材2の突起部22,23の全周にわたる形状を測定するには、ある片側半分を測定した後、ステージ113上に載置されたスパイダの素形材2の上下を反転させ、他の片側半分について測定を行う。
【0053】
外形演算ステップ(S−2)においては、三次元形状スキャナ11の測定結果に基づいて、三次元寸法取得手段12が、スパイダの素形材2の突起部22,23の形状を示す「形状データ」を作成する。「形状データ」の内容および構成は前記のとおりである。そして、作成された「形状データ」は、記憶手段13に記憶される。
【0054】
基準形状データ作成ステップ(S−3)においては、記憶手段13に記憶される「形状データ」に基づいて、演算手段14が、「基準形状データ」を作成する。「基準形状データ」の内容および作成方法は、前記のとおりである。
【0055】
差分データ算出ステップ(S−4)においては、演算手段14は、「基準形状データ」と「形状データ」とを重ね合わせ、「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出する。図6は、「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出するステップおよび基準形状データと形状データとの差分の内容を模式的に示した平面図(グラフ)であり、特に図6(a)は、基準形状データと形状データとを重ね合わせて差分を算出する工程を示した図である。
【0056】
具体的には、演算手段14は、記憶手段13に記憶される「形状データ」からスパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向のある位置における断面形状を抽出し、「基準形状データ」から「形状データ」のうちの軸線方向のある位置における断面形状を示すデータを減算する。そして、このような減算を、スパイダの素形材2のすべての突起部22,23について、軸線方向の全長にわたって行う。また、スパイダの素形材2の各突起部22,23のある片側半分と他の片側半分の両方について行う。
【0057】
記憶手段13に記憶される「形状データ」は、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の各位置において、所定の基準位置から突起部22,23の表面までの距離(高さ)を数値化したデータである。すなわち、図6(a)に示すように、突起部22,23の軸線方向の各位置において、断面方向位置に対応する高さの値を有する。「基準形状データ」も、断面方向位置に対応する高さの値を有する。そこで、まず、図6(a),(b)に示すように、「基準形状データ」と「形状データ」とを重ね合わせた一つのグラフを作成する。そして、断面方向の各位置において、「基準形状データ」が示す高さの値と、「形状データ」が示す高さの値との差分を算出する。「基準形状データ」および「形状データ」が、断面方向に沿ってN個(Nは所定の値を有する整数)の数値を有する場合には、N個の数値のすべてにおいて差分D,D,D,・・・,D,・・・Dを算出する。
【0058】
次に、演算手段14は、算出した差分D,D,D,・・・,D,・・・Dに基づいて、次のフィッティングステップ(S−5)における「基準形状データ」または「形状データ」のシフト量を決定する。具体的には次のとおりである。
【0059】
まず、算出した差分D,D,D,・・・,D,・・・D(N個のデータ)のヒストグラム(histogram:分布関数のグラフ表示。横軸は観測値の領域を分割した区間を示し、その高さは各区間に現われた観測回数を示す)を作成する。このヒストグラムは、横軸に「基準形状データ」と「形状データ」の差の値(具体的には、「基準形状データ」と「形状データ」との間の距離を示す階級)をとり、縦軸に観測回数(出現回数)をとる。そして、作成したヒストグラムから、最頻階級(=統計の分布において、他のどの階級よりも多くの個体を含む階級)を選択する。この階級値は、「基準形状データ」と「形状データ」とが高さ方向にどの程度離れているかを示す指標となる。この選択した階級の階級値を、フィッティングステップにおける「基準形状データ」または「形状データ」のシフト量とする。
【0060】
フィッティングステップ(S−5)においては、決定したシフト量に基づいて、「基準形状データ」と「形状データ」をフィッティングさせる。図6(b)は、フィッティングステップの内容およびフィッティング後の基準形状データと形状データとの差分を算出するステップおよび算出された差分の内容を模式的に示した図である。
【0061】
具体的には、「基準形状データ」または「形状データ」を、差分データ算出ステップ(S−4)において決定したシフト量だけ、高さ方向にシフトさせる。すなわち、「基準形状データ」からシフト量を減算するか、「形状データ」にシフト量を加算する。図6(b)においては、「基準形状データ」からシフト量を減算した構成を示す。
【0062】
判定ステップ(S−6)においては、判定手段15は、算出された差分に基づいて、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があるかを判定する。具体的には、図6(b)に示すように、判定手段15は、フィッティング後における「基準形状データ」と「形状データ」の差分E,E,E,・・・,E,・・・Eを算出する。そして、算出された差分E,E,E,・・・,E,・・・E(N個のデータ)に、所定の閾値よりも大きいものが含まれるか否かを検査する。このような検査を、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって行う。さらに、スパイダの素形材2のすべての突起部22,23について行う。
【0063】
前記のように、本発明の実施形態にかかる形状検査方法においては、鍛造加工や鋳造加工により形成されたスパイダの素形材2の突起部22,23が、その後に切削加工や研削加工を施して所定の寸法精度や表面性状を得るのに必要な寸法および形状を有しているかを検査する。したがって、ここでいう所定の閾値は、後の切削加工や研削加工における加工しろの寸法に相当する。したがって、所定の閾値は、この加工しろなどに基づいて設定される。
【0064】
そして、算出された差分E,E,E,・・・,E,・・・Eに、所定の閾値よりも大きい値のものが含まれる場合には、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があると判定する。含まれない場合には、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥がないと判定する。
【0065】
判定結果出力ステップ(S−7)においては、出力手段16は、判定手段15による判定結果を出力する。前記のとおり、出力手段16としてディスプレイが適用される構成であれば、ディスプレイは判定手段15による判定結果を画面上に表示する。出力手段16としてプリンタが適用される構成であれば、プリンタは判定手段15による判定結果をプリントアウトする。
【0066】
フィッティングステップ(S−5)において、「基準形状データ」と「形状データ」とをフィッティングさせる理由は次のとおりである。三次元形状スキャナ11でスパイダの素形材2の突起部22,23の形状を測定する際に、その軸線がステージ113に対して平行ではなく傾斜していると、作成される「形状データ」は、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向に沿って高さが変化する。したがって、「基準形状データ」と「形状データ」との差分を算出する際に、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の位置によって、「基準形状データ」と「形状データ」との差分の値が、軸線の傾斜に応じて変化する。このため、正確な差分を算出できなくなる。
【0067】
そこで、フィッティングステップ(S−5)において、「基準形状データ」と「形状データ」をとフィッティングさせることによって、正確な差分を算出できるようになる。
【0068】
また、次のような理由も有する。「基準形状」は、スパイダの素形材2の突起部22,23の外形のうち、最も外側の位置を抽出して作成した形状である。このため、スパイダの素形材2の突起部22,23の現実の断面形状の輪郭線と、「基準形状」の輪郭線とを重ね合わせて描いた場合、スパイダの素形材2の突起部22,23の現実の断面形状の輪郭線が、「基準形状」の輪郭線から内側に離れることがある。そして、スパイダの素形材2の突起部22,23の現実の断面形状の輪郭線が、「基準形状」の輪郭線から離れると、スパイダの素形材2の突起部22,23の現実の寸法および断面形状が、「基準形状」に比較して過小に評価されることがある。そして過小に評価されると、いわゆる加工しろが現実の寸法よりも小さい寸法であると判断されるため、実際には、必要な加工しろを有しているにかかわらず、加工しろが所定の値よりも小さく、欠陥であると判定されることがある。そこで、フィッティングを行うことにより、判定の精度の向上を図るものである。
【0069】
フィッティングステップ(S−5)において、「基準形状データ」の高さのシフト量または「形状データ」の高さのシフト量として、作成したヒストグラムの最頻階級の階級値を適用する理由は次のとおりである。
【0070】
「基準形状データ」のシフト量または「形状データ」のシフト量としては、この他にたとえば、「基準形状データ」と「形状データ」との差分の平均値が適用される構成が挙げられる。しかしながら、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に凹部が存在すると、「基準形状データ」と「形状データ」の差分は、この凹部の影響を受け、実際よりも大きい値となる。特に、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に大きい凹部や深い凹部が存在すると、平均値は大きな影響を受ける。このため、シフト量が過大に設定されることになり、「基準形状データ」から減算されるシフト量が過大となるか、「形状データ」に加算されるシフト量が過大となる。すなわち、「基準形状データ」と「形状データ」とが接近しすぎるか、または「形状データ」の一部が「基準形状データ」を超えることがあり、この結果、フィッティング後に算出される「基準形状データ」と「形状データ」との差分が小さくなる。このため、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に存在する凹部の深さを過小評価することになるほか、スパイダの素形材2の突起部22,23の加工しろの寸法を過大評価することになる。
【0071】
スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に存在する凹部の深さを過小評価すると、現実の凹部の深さが所定の閾値を越えており、欠陥と判定すべきものであるにもかかわらず、所定の閾値未満であって欠陥とは判定されないおそれがある。そうすると、その後の研削加工や切削加工において、凹部を完全に消滅させることができなくなるおそれがあり、不良品となるおそれがある。また、加工しろの寸法を過大評価すると、たとえば、その後の切削加工や研削加工によって、所定の形状に所定の寸法精度で形成することができなくなるおそれがあるものを良品として判定することや、突起部の表面に酸化膜が形成される場合において、酸化膜を完全に除去できなくなるおそれがあるものを良品として判定することがある。
【0072】
これに対して、シフト量として、作成したヒストグラムの最頻階級の階級値を適用すると、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に凹部が存在しても、凹部の大小や深さにかかわらず(すなわち、大きな凹部や深い凹部が存在したとしても)、シフト量は凹部の影響を受けない。このため、シフト量を過大に設定することがなくなり、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に存在する凹部の深さを過小評価することや、加工しろを過大評価することを防止できる。このように、スパイダの素形材2の突起部22,23の外周面に凹部が存在しても、凹部の深さを適正に評価できる。このため、深い凹部を過小評価し、その結果として後の切削加工や研削加工によっても凹部を完全に消滅させることができなくなることを防止できる。また、加工しろの寸法も適正に評価できるから、後の切削加工や研削加工において、所定の形状に形成するための加工しろが不足するものや、酸化膜を除去するのに加工しろが不充分なものを、良品として誤判定することを防止できる。
【0073】
このように、本発明の実施形態によれば、スパイダの素形材2の突起部22,23の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を「基準形状」として「基準形状データ」を作成し、この「基準形状データ」と、現実の断面形状を示す「形状データ」の差分に基づいて、スパイダの素形材2の突起部22,23に欠陥があるかを判定する。「基準形状」は、スパイダの素形材2の各突起部22,23の「断面形状の最大値」であるといえる。したがって、スパイダの素形材2の突起部22,23の表面に凹部が存在したとしても、この凹部の深さを過小評価することを防止できる。また、スパイダの素形材2の突起部22,23の外形寸法を過大評価することが防止でき、いわゆる加工しろの寸法を適正に評価できる。
【0074】
このように、スパイダの素形材2の突起部22,23が所定の寸法および形状よりも小さい場合には、それを厳密に検出して欠陥であると判定を行うことができる。したがって、特に、後の加工において必要となる加工しろが不足することにより、最終的なスパイダの完成品に欠陥が発生することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能であることはいうまでもない。
【0076】
たとえば、前記実施形態においては、被検査体としてスパイダの素形材2を示し、被検査部分として、スパイダの素形材2の突起部22,23を示したが、被検査体や被検査部分は、前記実施形態に限定されるものではない。すなわち、鍛造加工や鋳造加工により所定の形状のワークを形成し、その後、形成したワークの所定の部分に切削加工や研削加工などを施す工程を有する製造方法により製造される製品であれば、ワークの種類を問わずに適用できる。たとえば、クランクシャフトやその他の各種軸部材などにも適用できる。
【0077】
また、本発明の実施形態においては、鍛造加工や鋳造加工によりワークを所定の形状に形成し、その後切削加工や研削加工などの除去加工を行う工程を有する製造方法により製造される製品について、鍛造加工や鋳造加工の後に行う構成を示したが、加工の種類は限定されるものではない。すなわち、ワークをある所定の加工において所定の形状に形成し、その後他の所定の加工においてさらに所定の形状に形成する工程を有する製造方法により製造される製品であれば、加工の種類を問わずに適用できる。この場合には、ワークを前記ある所定の加工により所定の形状に形成した後、本発明にかかる形状検査装置を用いた検査または本発明にかかる形状検査法方法を用いた検査を行うことにより、その後の他の所定の加工において、ワークの所定の部分を所定の形状に形成できるかを検査することができる。
【0078】
また、本発明の実施形態においては、三次元形状寸法取得手段として三次元レーザスキャナが適用される構成を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば、接触式の三次元形状スキャナなど、公知の各種三次元スキャナ(3Dスキャナ)が適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 本発明にかかる形状検査装置
11 三次元形状スキャナ
111 レーザ光源
112 受光カメラ
113 ステージ
12 三次元寸法取得手段
13 記憶手段
14 演算手段
15 判定手段
16 出力手段
2 被検査体としてのスパイダの素形材
21 本体部
22 突起部
23 突起部

,P,P 仮想切断面
,L,L 仮想切断面における突起部の輪郭線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を検査する形状検査方法であって、
前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を測定して形状を示す形状データを作成する段階と、
前記形状データから前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を基準形状として該基準形状をデータ化した基準形状データを作成する段階と、
前記基準形状データと前記形状データとの差分を算出する段階と、
前記算出された差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定する段階と、
を、有することを特徴とする形状検査方法。
【請求項2】
前記算出された差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定するにおいては、
前記基準形状データと前記形状データとの差分のヒストグラムを作成し、
作成した前記ヒストグラムの最頻階級を選択し、
選択した最頻階級の階級値に基づいて前記基準形状データと前記形状データとをフィッティングさせ、
前記フィッティングさせた後における前記基準形状データと前記形状データとの差分に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定することを特徴とする請求項1に記載の形状検査方法。
【請求項3】
前記被検査体は、鍛造加工により形成されるスパイダの素形材であり、前記断面形状が略均一な部分は前記スパイダの素形材の突起部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の形状検査方法。
【請求項4】
被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を検査できる形状検査装置であって、
前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を測定する三次元形状スキャナと、
前記三次元形状スキャナの測定結果に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の形状を示す形状データを作成する三次元寸法取得手段と、
前記形状データから前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分の軸線方向の全長にわたって最も外側に位置する部分の抽出することにより得られる形状を基準形状として該基準形状をデータ化した基準形状データを作成し、前記基準形状データと前記形状データとの差分を算出できる演算手段と、
前記演算手段による算出結果に基づいて前記被検査体に形成される断面形状が略均一な部分に欠陥があるかを判定できる判定手段と、
を、有することを特徴とする形状検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21885(P2011−21885A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164327(P2009−164327)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】