説明

後輪転舵装置

【課題】後輪舵角の中立位置の検出精度を向上させて、良好な車両直進性能を得る。
【解決手段】転舵ロッド31の軸線方向の移動によりロータが回転するレゾルバ60を設ける。レゾルバ60は、後輪舵角が中立位置となるときの電気角が0度、90度、180度、270度の何れかになるようにステータに対するロータの回転位置が設定されている。これにより、後輪舵角の中立位置において、レゾルバ60の2相検出信号から計算される電気角θeに誤差が発生しなくなり、後輪舵角を中立位置に維持することができる。この結果、車両の直進性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪とを転舵する4輪転舵車両に設けられる後輪転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、4輪転舵車両においては、操舵ハンドルの操舵操作により前輪を転舵するとともに、前輪の転舵に対応させて後輪を転舵する後輪転舵装置を備える。後輪転舵装置を備えた車両においては、後輪舵角の中立位置がずれてしまうと、ハンドル操舵角を0度としても、後輪が転舵している状態となるため、車両が直進しないという問題がある。そこで、例えば、特許文献1には、後輪転舵装置が失陥した場合に、車両のヨーレートの値に基づいて、電動パワーステアリング装置の制御上の舵角信号のゼロ点を補正する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−280027号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、後輪舵角を検出するセンサの舵角中立位置の検出精度が悪いと、その検出精度によるずれ分が車両直進性能に悪影響を与えてしまう。従って、舵角中立位置の検出精度の向上が望まれる。
【0005】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、後輪舵角の中立位置の検出精度を向上させることを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、後輪の転舵軸を軸線方向に移動させることにより後輪を転舵する転舵アクチュエータと、前記後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、前記舵角検出手段により検出された舵角に基づいて前記転舵アクチュエータを制御する転舵制御手段とを備えた後輪転舵装置において、
前記舵角検出手段は、前記転舵軸の軸線方向への移動に伴って回転するロータのステータに対する回転角度に応じた振幅のsin相検出信号とcos相検出信号とを出力するレゾルバを備え、前記レゾルバの出力するsin相検出信号とcos相検出信号とに基づいて後輪舵角を演算するものであり、前記レゾルバは、前記後輪舵角が中立位置となるときの電気角が90×K(K=0,1,2,3の任意の値)度になるように、前記ステータに対する前記ロータの回転位置が設定されていることにある。
【0007】
本発明の後輪転舵装置においては、舵角検出手段により検出された後輪舵角に基づいて、転舵制御手段が転舵アクチュエータを制御して、後輪の転舵軸を軸線方向に移動させて後輪を転舵する。例えば、転舵制御手段は、舵角検出手段により検出された後輪舵角が目標舵角になるように転舵アクチュエータを制御して後輪を転舵する。
【0008】
舵角検出手段としては、レゾルバが用いられる。レゾルバは、転舵軸の軸線方向への移動に伴って回転するロータを備え、ロータのステータに対する回転角度に応じた振幅のsin相検出信号とcos相検出信号とを出力する。つまり、ロータのステータに対する回転角度(電気角)のsin値に応じた電圧振幅のsin相検出信号と、ロータのステータに対する回転角度(電気角)のcos値に応じた電圧振幅のcos相検出信号とを出力する。従って、2相の検出信号の電圧振幅比の逆正接(アークタンジェント)を演算することで、ロータのステータに対する回転角度(回転位置角度)を検出することができる。
【0009】
この場合、sin相検出信号の振幅最大値とcos相検出信号の振幅最大値とが等しければ(あるいは、両者が予め設定された比に維持されていれば)、正確に回転角度を演算することができる。しかし、レゾルバの2相の出力電圧(2相の検出用コイルの出力電圧)の大きさの違い、あるいは、レゾルバの2相の出力電圧を検出する検出回路の個体差や温度特性によって生じるインピーダンスの違いにより、sin相検出信号の振幅最大値とcos相検出信号の振幅最大値とが相違してしまうと、演算した回転角度に誤差が生じる。
【0010】
しかし、そうした場合でも、レゾルバの電気角が0度、90度、180度、270度、360度(=0度)となる回転位置においては、演算した回転角度に誤差が生じない。例えば、sin相検出信号の出力電圧がゼロで、cos相検出信号の出力電圧の振幅が最大値となるロータの回転位置(電気角0度)を基準位置とすれば、この基準位置、および、基準位置からロータが電気角で(90×K(K=1,2,3))度回転した位置においては、sin相検出信号とcos相検出信号の何れか一方の出力電圧がゼロになるため、演算した回転角度に誤差が生じない。
【0011】
そこで、本発明において用いられるレゾルバは、後輪舵角が中立位置となるときの電気角が90×K(K=0,1,2,3の任意の値)度になるように、ステータに対するロータの回転位置が設定されている。つまり、後輪舵角が中立位置となるときにsin相検出信号あるいはcos相検出信号の出力電圧がゼロとなるようにステータに対するロータの回転位置(組み付け位置)が設定されている。これにより、後輪舵角の中立位置の検出精度を向上させることができ、良好な車両の直進性能を得ることができる。
【0012】
本発明の他の特徴は、前記レゾルバは、前記転舵軸が左右一方の最大転舵位置から左右他方の最大転舵位置まで移動したときに、電気角の変化量が360度を超えないように設定されていることにある。
【0013】
本発明によれば、後輪を右最大舵角(左最大舵角)から左最大舵角(右最大舵角)まで転舵してもレゾルバの電気角の変化量が360度を超えないため、レゾルバの電気角から一義的に後輪舵角を演算することができる。従って、電気角が360度を超えた分の積算をする必要が無く、舵角計算が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】4輪転舵車両の転舵装置の概略構成図である。
【図2】転舵アクチュエータの断面図である。
【図3】レゾルバの概略構成図である。
【図4】レゾルバおよびレゾルバコンバータの概略電気回路構成図である。
【図5】レゾルバの出力するsin相検出信号とcos相検出信号の電圧振幅波形を表すグラフである。
【図6】転舵係数設定マップを表すグラフである。
【図7】2相の電圧出力が同じ場合の、電圧検出回路で検出される電圧振幅波形を表すグラフ(a)と、電気角誤差特性を表すグラフ(b)である。
【図8】2相の電圧出力が異なる場合の、電圧検出回路で検出される電圧振幅波形を表すグラフ(a)と、電気角誤差特性を表すグラフ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係る4輪転舵車両の転舵装置を概略的に表している。
【0016】
この転舵装置10は、左前輪Wfl,右前輪Wfrを転舵するための前輪転舵装置20と、左後輪Wrl,右後輪Wrrを転舵するための後輪転舵装置30とを備えている。前輪転舵装置20は、運転者によって操舵操作される操舵ハンドル21を備えている。操舵ハンドル21は、ステアリングシャフト22の上端に、ステアリングシャフト22と一体回転可能に接続されている。ステアリングシャフト22の下端にはピニオンギヤ23がステアリングシャフト22と一体回転可能に接続されている。ピニオンギヤ23は、ラックバー24に設けたラック歯24aに噛み合っており、その回転によりラックバー24を軸線方向に駆動する。ラックバー24は、その両端にて、図示しないタイロッドおよびナックルアームを介して左前輪Wfl,右前輪Wfrを転舵可能に接続する転舵軸であり、軸線方向の変位により左前輪Wfl,右前輪Wfrを転舵する。
【0017】
ステアリングシャフト22には、ステアリングシャフト22の回転角度に基づいて操舵ハンドル21の操舵角を検出する操舵角センサ25が設けられる。以下、操舵角センサ25により検出された操舵ハンドル21の操舵角をハンドル舵角θhと呼ぶ。操舵角センサ25は、後輪転舵装置30の一部を構成するものであり、検出したハンドル舵角θhを表す検出信号を後述する後輪転舵ECU40に出力する。尚、ハンドル舵角θhは、符号により操舵方向が識別され、例えば、中立位置に対して左方向に回転した操舵角度を正の値を用いて表し、右方向に回転した操舵角度を負の値を用いて表す。
【0018】
尚、前輪転舵装置20は、運転者の行う操舵操作をアシストする電動パワーステアリング装置や、ステアリングギヤ比を変更するステアリングギヤ比可変装置等を適宜備えることができるが、本発明とは特に関係するものではないため、本実施形態においては、そうした装置を省略した構成にて示している。
【0019】
後輪転舵装置30は、左右前輪Wfl,Wfrとは独立して、操舵ハンドル21の操舵操作に応じて左後輪Wrl,右後輪Wrrを電動で転舵するものである。後輪転舵装置30は、転舵ロッド31を備える。転舵ロッド31は、図2に示すように、車体に組み付けられるハウジング32に対して回転不能で軸線方向(ロッド軸線方向)に移動可能に支持される。転舵ロッド31は、その両端にて、タイロッド33およびナックルアーム(図示略)を介して左後輪Wrl,右後輪Wrrを転舵可能に連結する転舵軸であり、軸線方向の変位により左後輪Wrl,右後輪Wrrを転舵する。
【0020】
転舵ロッド31の外周には、転舵アクチュエータ40が組み付けられる。転舵アクチュエータ40は、電動モータ41と、電動モータ41の回転を減速する遊星歯車式の減速機42と、減速機42の回転運動を転舵ロッド31の軸線方向の運動に変換する変換機構43とを備えている。
【0021】
電動モータ41は、図2に示すように、転舵ロッド31の外周に同軸的かつ回転可能に設けられるロータ41aと、ロータ41aを回転駆動するステータ41bとを備えている。変換機構43は、転舵ロッド31の中間部に設けられるネジ機構44と、スプライン機構45とを備えている。
【0022】
ネジ機構44は、ハウジング32に対して回転可能かつ軸線方向への移動が規制されて組み付けられたナット44aと、転舵ロッド31の外周面に形成されナット44aの雌ネジに螺合する雄ネジ44bとを備えている。ナット44aの雌ネジおよび転舵ロッド31に形成された雄ネジ44bは、台形ネジで構成されている。ナット44aは、減速機42を介して電動モータ41により回転駆動される。
【0023】
スプライン機構45は、転舵ロッド31に軸線方向に沿って形成されたスプライン突起45aと、ハウジング32に軸線方向に沿って形成されたスプライン溝45bとを備え、スプライン突起45aがスプライン溝45b内に収納されることにより、転舵ロッド31をハウジング32に対して回転不能で軸線方向に移動可能に支持する。
【0024】
このように構成された転舵アクチュエータ40においては、電動モータ41の回転が減速機42により減速されてナット44aに伝達され、ネジ機構44によりナット44aの回転が転舵ロッド31の軸線方向の移動に変換される。従って、電動モータ41の回転および回転方向を制御することにより左右後輪Wrl,Wrrの舵角を制御することができる。
【0025】
後輪転舵装置30は、後輪舵角を検出する後輪舵角検出装置50を備えている。後輪舵角検出装置50は、1相励磁2相出力型のレゾルバ60と、レゾルバ60から出力される検出信号を回転位置角度信号に変換するレゾルバコンバータ70とを備える。レゾルバ60は、図3に示すように、円筒状のケーシング61内に固定されるドーナツ状のステータ62と、ステータ62の中央開口62a内に回転可能に設けられるロータ63とを備えている。レゾルバ60のケーシング61は、転舵ロッド31を支持するハウジング32に組み付け固定される。ロータ63は、ケーシング61に回転可能に支持された回転軸64に固定される。回転軸64は、ステータ62の中心軸線上に沿って設けられているため、ロータ63は、ステータ62に対して同軸状に回転可能に設けられることになる。
【0026】
ロータ63を支持する回転軸64は、ケーシング61の外にまで延設され、その先端にピニオンギヤ65(図1参照)が設けられている。転舵ロッド31には、このピニオンギヤ65と噛合するラック歯34が形成されている。従って、転舵ロッド31がロッド軸線方向に移動すると、その移動にあわせて回転軸64が回転する、つまり、ロータ63が回転して、ロータ63のステータ62に対する回転位置が変化するように構成されている。
【0027】
ロータ63は、磁性材料からなり、図3に示すように、ステータ62の内周面(円筒内壁面)と向かい合う外周面の形状が、回転軸64の回転により、ステータ62との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化するような曲線になっている。
【0028】
ステータ62は、磁性材料からなり、ドーナツ状平面の内周部から複数のティース66a〜66h(これらを特定しない場合には、単に、ティース66と呼ぶ)が等間隔で軸線方向に立設されている。このティース66には、励磁用コイル67と2相の検出用コイル(sin相検出用コイル68とcos相検出用コイル69)とが巻回される。励磁用コイル67は、隣接するティース66の巻線方向が互いに反対方向となるように全てのティース66に巻回される。また、2相の検出用コイルの一方(例えば、sin相検出用コイル68)は、ティース66aから反時計回りにティース66gまで、1つおきにティース66a,66c,66e,66gに巻回される。また、2相の検出用コイルの他方(例えば、cos相検出用コイル69)は、ティース66bから反時計回りにティース66hまで、1つおきにティース66b,66d,66f,66hに巻回される。
【0029】
このように構成されたレゾルバ60においては、ロータ63が回転すると、ロータ63を介して隣接するティース66間で磁気回路が形成される。この場合、隣接するティース66を通る磁束の向きが反対方向となるように励磁用コイル67が巻回されているため、ロータ63の回転によって、ロータ63とティース66との間のギャップパーミアンスの変化に応じて、各ティース66に巻回される2相の検出用コイル68,69に発生する電流波形を正弦波状にすることができる。
【0030】
レゾルバコンバータ70は、図4に示すように、励磁ライン81と、sin相検出ライン82と、cos相検出ライン83と、グランドライン84とを介してレゾルバ60と接続される。レゾルバコンバータ70は、マイクロコンピュータを主要部として備えた集積回路であって、励磁信号発生回路71と、sin相電圧検出回路72と、cos相電圧検出回路73と、回転角度演算回路74とを備えている。
【0031】
励磁信号発生回路71は、励磁用コイル67の両端に交流電圧を印加するための励磁電圧を生成する回路である。励磁用コイル67に印加する交流励磁電圧を励磁信号と呼び、その電圧値を励磁電圧Vと呼ぶ。励磁電圧Vは、振幅をEとすると次式(1)にて表される。
V=E・sin(ωt) ・・・(1)
励磁信号発生回路71は、励磁ライン81を介して励磁信号を励磁用コイル67に供給する。
ここで、ωは角速度(=2πf)[rad/sec]、fは励磁周波数[Hz]、tは時間[秒]である。
【0032】
レゾルバ60の励磁用コイル67に励磁信号が通電されると、sin相検出用コイル68およびcos相検出用コイル69で交流電圧が発生する。sin相検出用コイル68から出力される交流電圧信号をsin相検出信号と呼び、その電圧値をsin相検出電圧Esと呼ぶ。また、cos相検出用コイル69から出力される交流電圧信号をcos相検出信号と呼び、その電圧値をcos相検出電圧Ecと呼ぶ。sin相検出電圧Es、および、cos相検出電圧Ecは次式(2),(3)にて表される。
Es=K・E・sin(N・θ)・sin(ωt) ・・・(2)
Ec=K・E・cos(N・θ)・sin(ωt) ・・・(3)
ここで、Kは変圧比、θはロータ63のステータ62に対する回転角度[deg]、Nはレゾルバ60の軸倍角(本実施形態においてはN=3)を表す。θは機械角であるため、レゾルバ60の電気角は(N・θ)で表される。
【0033】
この式から分かるように、sin相検出信号は、振幅がK・E・sin(N・θ)で表される周波数f(=ω/2π)の交流電圧信号となり、cos相検出信号は、振幅がK・E・cos(N・θ)で表される周波数f(=ω/2π)の交流電圧信号となる。つまり、sin相検出電圧Esは、レゾルバ60の電気角(N・θ)のsin値に応じた振幅の交流電圧となり、cos相検出電圧Ecは、レゾルバ60の電気角のcos値に応じた振幅の交流電圧となる。
【0034】
図5は、レゾルバ60の電気角θe(=N・θ)に対するsin相検出電圧Es、および、cos相検出電圧Ecの振幅の変化を表すグラフである。縦軸の電圧は、励磁信号と同相の場合に正の値で表し、逆相の場合に負の値で表している。図示するように、sin相検出電圧Esの振幅は、電気角θeが0度,180度,360度(=0度)のときゼロとなり、90度のとき正の最大値、270度のとき負の最大値となる。また、cos相検出電圧Ecの振幅は、電気角θeが90度,270度のときゼロとなり、0度のとき正の最大値、180度のとき負の最大値となる。この場合、sin相検出電圧Esの振幅波形とcos相検出電圧Ecの振幅波形とは、位相が90度ずれるだけであって、その形状は同じになる。
【0035】
sin相電圧検出回路72は、レゾルバ60のsin相検出用コイル68の出力するsin相検出信号をsin相検出ライン82を介して入力して増幅し、sin相検出電圧Esを表すデジタル値を出力する。同様に、cos相電圧検出回路73は、レゾルバ60のcos相検出用コイル69の出力するcos相検出信号をcos相検出ライン83を介して入力して増幅し、cos相検出電圧Ecを表すデジタル値を出力する。
【0036】
回転角度演算回路74は、次式(4)に示すように、sin相検出電圧Esをcos相検出電圧Ecで除算した値の逆正接を求めることにより、レゾルバ60の電気角θe(=N・θ)を計算する。
θe=tan−1(Es/Ec) ・・・(4)
【0037】
回転角度演算回路74は、計算したレゾルバ60の電気角θeを後輪転舵制御ユニット100(以下、後輪転舵ECU100と呼ぶ)に出力する。レゾルバ60のロータ63の回転角度は、転舵ロッド31の軸線方向のストローク位置に対応したものとなる。従って、回転角度演算回路74の出力する電気角θeは、後輪Wrl,Wrrの舵角δrに対応するものとなる。尚、後輪舵角δrは、符号により転舵方向が識別され、例えば、後輪Wrl,Wrrが中立位置に対して左方向に向くときの角度を正の値を用いて表し、右方向に向くときの角度を負の値を用いて表す。
【0038】
レゾルバ60は、後輪Wrl,Wrrが右最大舵角(左最大舵角)となる状態から左最大舵角(右最大舵角)まで転舵したときに、電気角θeがちょうど360度変化するようにピニオンギヤ65の外径が設定されている。本実施形態においては、レゾルバ60の軸倍角Nが「3」であるため、ロータ63が機械角で最大120deg(=360/3)回転するように構成されている。従って、レゾルバ60の電気角θeから後輪舵角が一義的に決まるようになっている。
【0039】
後輪転舵ECU100は、マイクロコンピュータを主要部として備え、後輪舵角が目標舵角になるように電動モータ41を駆動制御する。後輪転舵ECU100には、レゾルバコンバータ70、操舵角センサ25、車速センサ90、モータドライバ95が接続される。
【0040】
車速センサ90は、車両の走行速度である車速を検出し、車速vを表す信号を出力する。モータドライバ95は、例えば、図示しないスイッチング素子で構成したインバータ回路やHブリッジ回路であって、後輪転舵ECU100からの制御信号(例えば、PWM制御信号)によりスイッチング素子のオン/オフ状態が制御され、電動モータ41に対して制御信号に応じた電力を供給する。
【0041】
後輪転舵ECU100は、低速走行時においては、後輪Wrl,Wrrを前輪Wfl,Wfrの転舵方向に対して反対方向(逆相と呼ぶ)に転舵して車両の小回り性を向上させ、高速走行時においては、後輪Wrl,Wrrの転舵方向を前輪Wfl,Wfrの転舵方向と同じ方向(同相と呼ぶ)に転舵して走行安定性を向上させる。例えば、後輪転舵ECU100は、図6に示すような転舵係数設定マップを記憶しており、車速センサ90により検出される車速vに基づいて転舵係数K(v)を演算し、次式のように、操舵角センサ25により検出されるハンドル舵角θhに転舵係数K(v)を乗算することで目標後輪舵角δr*を算出する。
δr*=K(v)・θh
【0042】
転舵係数K(v)は、図6に示すように、低速走行時には、後輪Wrl,Wrrが前輪Wfl,Wfrの転舵方向とは逆相(前輪転舵方向が左であれば後輪転舵方向を右とし、前輪転舵方向が右であれば後輪転舵方向を左とする)となり、高速時には、後輪Wrl,Wrrが前輪Wfl,Wfrの転舵方向と同相となるように車速vに応じた値に設定されている。
【0043】
後輪転舵ECU100は、レゾルバコンバータ70の出力するレゾルバ60の電気角θeに対応する後輪舵角δrが目標後輪舵角δr*に追従するように、両者の偏差(δr*−δr)に応じた制御量で電動モータ41を駆動制御する。これにより、後輪舵角δrが目標後輪舵角δr*に追従し、低速走行時における車両の小回り性能と、高速走行時における安定性能とを両立することができる。尚、高速走行時においては、目標後輪舵角δr*を中立位置に固定するものであってもよい。
【0044】
次に、後輪舵角の検出精度について説明する。上述したように、後輪転舵ECU100は、ハンドル舵角θhに応じた目標後輪舵角δr*を設定し、後輪舵角検出装置50により検出されるレゾルバ60の電気角θeに応じた後輪舵角δrが目標後輪舵角δr*に追従するように電動モータ41を駆動制御する。従って、後輪舵角検出装置50により検出される電気角θeの検出精度が悪いと、適正に後輪舵角を制御することができない。特に、車両を直進走行させる場合には、電気角θeの検出誤差の影響が走行性能に大きな影響を及ぼす。これは、車両を直進走行させるためにドライバーがハンドル舵角θhをゼロにしても(前輪舵角が中立位置になっても)、後輪舵角が電気角θeの検出誤差分だけ中立位置から外れてしまい、直進走行することができなくなるからである。一方、車両を旋回走行させる場合には、電気角θeの検出誤差の影響はほとんど現れない。
【0045】
そこで、本実施形態においては、後輪舵角が中立位置になるときのレゾルバ60の電気角θeの検出精度を向上させることにより、車両直進性能を良好にする。
【0046】
図7(a),図8(a)は、それぞれ、sin相電圧検出回路72で検出されるsin相検出信号の電圧振幅波形と、cos相電圧検出回路73で検出されるcos相検出信号の電圧振幅波形とを表すグラフであり、図7(b),図8(b)は、それぞれ、回転角度演算回路74にて演算される電気角θeの誤差を表す電気角誤差特性を表すグラフである。各グラフにおける横軸は、理想電気角(正しい電気角)を表している。
【0047】
図7(a)に示すように、sin相電圧検出回路72で検出されるsin相検出信号の電圧振幅波形と、cos相電圧検出回路73で検出されるcos相検出信号の電圧振幅波形とが位相の90度ずれた同一波形であれば(最大電圧値が等しい場合には)、図7(b)に示すように、回転角度演算回路74にて演算される電気角θeには誤差が発生しない。
【0048】
一方、図8(a)に示すように、sin相電圧検出回路72で検出されるsin相検出信号の電圧振幅波形と、cos相電圧検出回路73で検出されるcos相検出信号の電圧振幅波形とが、その大きさ(振幅の最大値)が異なってしまうと、図8(b)に示すように、回転角度演算回路74で演算される電気角θeには、理想電気角に応じた大きさの誤差が含まれる。この図8は、cos相電圧検出回路73で検出されるcos相検出信号の電圧振幅の最大値が、sin相電圧検出回路72で検出されるsin相検出信号の電圧振幅の最大値の半分になった場合の例である。
【0049】
例えば、レゾルバ60自身の出力が適正でない場合、つまり、レゾルバ60の出力するsin相検出信号の電圧振幅の最大値とcos相検出信号の電圧振幅の最大値とが相違してしまう場合には、レゾルバコンバータ70で演算された電気角θeに誤差が発生する。また、レゾルバ60の出力が適正であっても、レゾルバコンバータ70において、sin相電圧検出回路72、cos相電圧検出回路73に使用される素子の個体差や温度特性によって生じるインピーダンスの違いが生じると、上述したように、回転角度演算回路74で演算される電気角θeに誤差が発生する。
【0050】
この電気角誤差は、図8(b)に示すように、レゾルバ60の回転位置(ロータ63の回転位置)によって変化する。この特性図からわかるように、レゾルバ60の回転位置が電気角で45度、135度、225度、315度近傍となる場合には、大きな電気角誤差が発生するが、レゾルバ60の回転位置が電気角で0度、90度、180度、270度、360度(=0度)となる場合には、電気角誤差が発生しない。これは、電気角が0度、90度、180度、270度、360度となる回転位置においては、レゾルバ60の出力するsin相検出信号とcos相検出信号の何れか一方の電圧が必ずゼロになり、これに伴って、sin相電圧検出回路72の検出するsin相検出電圧Esとcos相電圧検出回路73の検出するcos相検出電圧Esの何れか一方が必ずゼロになるからである。この場合、レゾルバコンバータ70により演算されるレゾルバ60の電気角θeは理想電気角と等しくなる。
【0051】
そこで、本実施形態においては、後輪舵角が中立位置となるときに、レゾルバ60の電気角が0度、90度、180度、270度の何れか(以下、特定角度と呼ぶ)になるように、ステータ62に対するロータ63の回転位置を設定する。この場合、例えば、レゾルバ60のケーシング61と、回転軸64のケーシング61から外に露出した部分とに、位置合わせ用のマークをそれぞれ施す。このマークは、電気角が特定角度となる状態において、2つのマークの位置が一致する(例えば、向かい合う)ように設けられる。これにより、2つのマークをあわせることで、ステータ62に対するロータ63の回転位置を特定角度に設定することができる。そして、後輪舵角を中立位置に設定した状態で(転舵ロッド31のストローク位置を中立位置に設定した状態で)、特定角度に設定されたレゾルバ60を後輪転舵装置30のハウジング32に組み付け固定すればよい。これにより、後輪舵角が中立位置となるときに、常に、レゾルバ60の電気角が特定角度になる。尚、レゾルバ60にケーシング61を設けない場合には、回転軸64またはロータ63と、ステータ62とにマークを施して、2つのマークを使って位置合わせするようにしてもよいし、ロータ63とステータ62との外観形状から特定角度に設定できる場合には、マークを施す必要はない。
【0052】
以上説明した本実施形態の後輪転舵装置によれば、後輪舵角が中立位置となるときに、レゾルバ60の電気角が0度、90度、180度、270度の何れかになるように、ステータ62に対するロータ63の組み付け位置(回転位置)が設定されている。従って、後輪舵角の中立位置における電気角θeの検出誤差が抑えられ、後輪舵角を中立位置に維持することができる。このため、4輪転舵車両において良好な直進性能が得られる。
【0053】
また、レゾルバ60は、後輪Wrl,Wrrが右最大舵角(左最大舵角)から左最大舵角(右最大舵角)まで転舵されたときに、電気角θeがちょうど360度変化するように設定されているため、レゾルバ60の電気角θeから一義的に後輪舵角δrを演算することができる。例えば、電気角の変化量が360度を超えてしまうと、その超えた分を積算する必要があるが、本実施形態においてはそうした演算が不要となり、舵角計算が容易となる。
【0054】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0055】
例えば、本実施形態においては、軸倍角Nが3のレゾルバ60について説明したが、任意の軸倍角Nのレゾルバを採用することができる。また、本実施形態においては、ロータにコイルを備えないタイプのレゾルバを用いているが、ロータに、励磁コイルにより非接触で通電されるロータコイルを設け、このロータコイルの磁束によりsin相検出用コイル、cos相検出用コイルに交流電圧を発生させるタイプのレゾルバ等、種々のものを採用することができる。
【0056】
また、例えば、レゾルバコンバータ70の機能を後輪転舵ECU100内に組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…転舵装置、20…前輪転舵装置、21…操舵ハンドル、25…操舵角センサ、30…後輪転舵装置、31…転舵ロッド、32…ハウジング、33…タイロッド、34…ラック歯、40…転舵アクチュエータ、41…電動モータ、42…減速機、43…変換機構、44…ネジ機構、45…スプライン機構、50…後輪舵角検出装置、60…レゾルバ、61…ケーシング、62…ステータ、63…ロータ、64…回転軸、65…ピニオンギヤ、66…ティース、67…励磁用コイル、68…sin相検出用コイル、69…cos相検出用コイル、70…レゾルバコンバータ、71…励磁信号発生回路、72…sin相電圧検出回路、73…cos相電圧検出回路、74…回転角度演算回路、100…後輪転舵ECU、Wfl,Wfr…前輪、Wrl,Wrr…後輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪の転舵軸を軸線方向に移動させることにより後輪を転舵する転舵アクチュエータと、
前記後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、
前記舵角検出手段により検出された舵角に基づいて前記転舵アクチュエータを制御する転舵制御手段と
を備えた後輪転舵装置において、
前記舵角検出手段は、
前記転舵軸の軸線方向への移動に伴って回転するロータのステータに対する回転角度に応じた振幅のsin相検出信号とcos相検出信号とを出力するレゾルバを備え、前記レゾルバの出力するsin相検出信号とcos相検出信号とに基づいて後輪舵角を演算するものであり、
前記レゾルバは、前記後輪舵角が中立位置となるときの電気角が90×K(K=0,1,2,3の任意の値)度になるように、前記ステータに対する前記ロータの回転位置が設定されていることを特徴とする後輪転舵装置。
【請求項2】
前記レゾルバは、前記転舵軸が左右一方の最大転舵位置から左右他方の最大転舵位置まで移動したときに、電気角の変化量が360度を超えないように設定されていることを特徴とする請求項1記載の後輪転舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254747(P2012−254747A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129759(P2011−129759)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】