微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物、改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ及び圧力センシングデバイス
【課題】所望形状の均質な微小構造体を形成することのできる微小構造物の製造方法等を提供する。
【解決手段】表面に複数の凸部5を有する基材1を、凸部5の先端部によって形成される基材1表面の凸部の向き4が蒸着粒子3の入射方向に対して対向する方向より偏向して基材1を設置して蒸着材料を成長させる。これにより、凸部5の先端部から蒸着材料の構造体を成長させて個々の構造体がギャップによって隔てられ物理的に独立した微小構造物2の集合体を形成する。
【解決手段】表面に複数の凸部5を有する基材1を、凸部5の先端部によって形成される基材1表面の凸部の向き4が蒸着粒子3の入射方向に対して対向する方向より偏向して基材1を設置して蒸着材料を成長させる。これにより、凸部5の先端部から蒸着材料の構造体を成長させて個々の構造体がギャップによって隔てられ物理的に独立した微小構造物2の集合体を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロンオーダーやナノオーダーの微小構造物を製造するための微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物及びこれらを利用した改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ、圧力センシングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
材料をミクロンオーダーやナノオーダーで微細加工する技術は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やセンサ、マイクロマシン等の適用拡大のためのキー技術である。これらの多くはフォトリソグラフィーやエッチングなどのLSI製作技術を基礎としており、これまでに様々な形状の微小構造物を作製することが可能となっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
しかし、従来の方法では、2次元的な積層構造物、若しくはこれらを層状に積み重ねた擬似的な3次元構造物の作製は可能であるが、より自由度の高い3次元構造物の作製は困難である。このため近年では、微小放電加工や光造形、X線リソグラフィー等の新しい技術が研究・開発されている。これらの微細加工法は加工の自由度は高いものの、被加工材料が、それぞれ金属や光硬化性樹脂、X線レジストに限られることなどの制約も多い。
【0004】
ところで近年、酸素イオン欠損を有する酸化物による電気伝導を利用した固体電界質や、圧電効果によるセンサやアクチュエータ等の機能性セラミックス材料の用途展開が著しい。このようなセラミックス材料は一般にはエッチングが難しく、融点なども高いことから、前述したような微細加工は困難である。また収束イオンビームのように表面の原子・分子を除去する方法もあるが、数マイクロメータ程度の加工は生産性の点から課題が多い。また。このような難加工材の超精密な切削や研削技術の開発も進められているが、精密な位置決めの難しさや、微小工具作製の難しさ、加工力が大きい等の問題点も指摘される。
【0005】
材料を高エネルギー源により溶融・蒸発させた状態で蒸着材料の蒸着粒子を基材に向けて入射させ、皮膜を成長させる物理蒸着(PVD)法は、材料の自己組織化によって構造体が形成されることから、従来法のような材料除去工程が不要であり、効率的に特異な構造体を作製できる方法として注目されている。また蒸着時の温度や基材運動の制御等によって、柱状構造や、C型やS型に湾曲した構造、螺旋構造などを形成できることが知られている。このため、Glancing Angle Deposition(GLAD)法と呼ばれる方法によって螺旋状の組織構造を形成し、光学的なデバイスへ応用する研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−276104号公報
【特許文献2】特開2006−247758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の物理蒸着法を用いた方法では、成長した皮膜の根元部と、先端部とで微構造が異なり、一般には根元部の方が緻密構造となるため、所望形状の均質な微小構造体が作製できず、十分な特性が得られないなどの問題点があった。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、所望形状の均質な微小構造体を形成することのできる微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物、改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ及び圧力センシングデバイスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る微小構造物の製造方法の一態様は、蒸着材料を溶融・蒸発させ、これにより形成された前記蒸着材料の蒸着粒子を基材に向けて入射させ、前記基材表面に前記蒸着材料を成長させる物理蒸着法により微小構造物を形成する方法であって、表面に複数の凸部を有する前記基材を、前記凸部の向いた方向が、前記蒸着粒子の入射方向に対して対向する方向から偏向するように前記基材を設置して前記蒸着材料を成長させることにより、前記凸部の先端部から前記蒸着材料を成長させて個々の隣接する微小構造物が間隙によって隔てられ物理的に独立した微小構造物の集合体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望形状の均質な微小構造体を形成することのできる微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物、及びこれらを利用した改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ及び圧力センシングデバイスを提供することができる。また、本発明によれば、多様な機能性材料の微小構造物の集合体の作製が可能であり、各種のマイクロデバイスの生産性や信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図2】図1に示した基材の要部を拡大して示す図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図4】本発明の第3実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図5】本発明の第4実施形態に係る微小構造物集の製造方法を説明するための図。
【図6】本発明の第5実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図7】本発明の第5実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図8】本発明の第6実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図9】本発明の第7実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図10】本発明の第8実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図11】本発明の第9実施形態に係る改質器の構成を説明するための図。
【図12】本発明の第10実施形態に係るマイクロプラズマ発生装置の構成を説明するための図。
【図13】本発明の第11実施形態に係る酸素ガスセンサの構成を説明するための図。
【図14】本発明の第12実施形態に係るアクチュエータの構成を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を、図面を参照して実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態の工程を説明するための図である。本第1実施形態では、図1に示すように、予め表面に所定形状(例えば円柱状あるいは角柱状)、所定大きさ(ミクロンオーダー又はナノオーダー)の凸部5を所定間隔で形成した基材1を用意する。そして、この基材1の凸部5の先端が向いている方向4(図中点線で示す)が、蒸着材料に高エネルギーを与えて溶融・蒸発させて形成された蒸発粒子3の入射方向に対して対向する方向から傾くように基材1を配置し、微小構造物2を成長させる。なお、図1は、縦断面構成を示しているため、基材1に凸部5が1次元的に配列されているように表わされているが、凸部5の配列方向は、1次元的であっても、2次元的であってもよい。また、凸部5の形状は柱状に限らず、例えば、フィン状に図1の紙面に垂直な方向に延在するものであってもよい。
【0014】
このようにして、基材1の凸部5に微小構造物2を成長させると、蒸着粒子3の陰になる凸部5の側面には蒸着粒子3がほとんど付着することなく(シャドーイング効果)、凸部5の先端部でのみ、微小構造物2の成長が生じる。このような成長様式を実現するにあたって蒸着プロセスは、物理蒸着であって蒸発粒子3同士の衝突による散乱が少なく、蒸着粒子3の入射方向が比較的揃ったいわゆるLine−of−sightのプロセスが好ましい。
【0015】
より好ましくは、蒸着粒子3同士が平均的に衝突する距離である平均自由行程λと蒸着源と基材1との距離Lとの比(λ/L)が0.01以上のプロセスであれば、微小構造物2の形成までにたかだか100回程度しか蒸着粒子3の衝突による散乱が生じないことから、蒸着粒子3の直線性がよく、凸部5に選択的に微小構造物2の形成が可能である。
【0016】
また、基材1表面の法線方向4の偏向角は、基材1に形成された凸部5間の間隔が狭いほど蒸着粒子3の入射方向に対向する向き(0°)に近づけることが可能である。しかし、基材1表面の法線方向4の偏向角が、あまり0°に近いと蒸着粒子3が凸部5間のギャップ部9に侵入してギャップ部9で皮膜成長が生じ、個々の微小構造物2が連結されてしまうため、物理的に独立した微小構造物2の集合体を形成できなくなる。
凸部の幅6をw、凸部の高さ7をh、凸部の間隔をd、偏向角θとした場合、ギャップ部9の最深部まで蒸着粒子が届かないための幾何学的な条件は、
θ>tan―1 {(d−w)/h}
で与えられる。もし、d=2w、h=wの凸部の形状を基材に形成した場合には、上式から偏向角は45°以上が好ましい。
【0017】
基材1表面に凸部5を形成する方法としては、フォトエッチング法や、マイクロブラスト加工、精密放電法などが挙げられるが、図2に示すように、凸部5の幅6に対して凸部5の間隔8が狭く、凸部5の高さ7が高く(ギャップ9の深さが深く)なるほど加工が困難になる。したがって、凸部5の幅6と間隔8を同程度とするのが実用上好ましく、このような幾何的なことを考慮すると、基材1の偏向角を45°以上に取れば、凸部5先端での優先的な微小構造物2の成長を促進することが可能である。
【0018】
また、凸部5の幅6は、50ミクロン以下とすることが好ましく、凸部5の幅6が50ミクロンを超えると凸部5の先端から複数の構造体が生じる可能性がある。また凸部5間の間隔8が広過ぎるとギャップ部9に容易に蒸着粒子3が侵入し、ギャップ部9で皮膜成長が生じることから500ミクロン以下であることが好ましい。しかし、ギャップ部9があまりに狭いと基材1の微細加工が困難であることから、10ミクロン以上程度とすることが実用的である。
【0019】
図3は、他の構造の基材1aを用いた第2実施形態を示している。図3に示すように、基材1aは、先端が先鋭な細線10の束から構成されている。細線10を束ねる方法としては図3に示すように結束バンド17を用いても良いが、細線10をロウ材等により直接、接合することも可能である。
【0020】
ここで利用する細線10の太さとしては、前述した図2に示した第1実施形態の基材1の凸部5の間隔8の場合と同様な理由から、500ミクロン以下であることが好ましく、これ以上になると細線10の先端部からの優先的な単一の微小構造物の成長が困難となる。また、先鋭な先端部については研磨等によって一定の平滑面を設け、この平滑面から微小構造物の成長を促すことも可能である。
【0021】
図4は、本発明の第3実施形態を示している。本第3実施形態では、凸部5を設けた基材1を、図4の紙面に垂直な回転軸11に対して、図4中矢印で示すように、一定の速度で回転させることによって、蒸着粒子3の入射方向を逐次変更すると同時に、凸部5が蒸着粒子3の入射方法の裏側に入るときに成長が途絶えることから、三日月形が連なったような組織を形成することができる。
【0022】
なお、回転速度を早くすることによって、三日月形の組織を無くし、基材1の法線方向4に対して略真っ直ぐに微小構造物2を成長させることも可能である。さらには紙面垂直方向の回転軸11に対して基材1を一定の角度で揺動させることによって、基材1の法線方向4の偏向角を時間的に変更しながら蒸着を行うと、凸部5の先端から波状の微小構造物2を形成することができる。
【0023】
また、回転軸11を図中紙面垂直方向から偏向させ、かつ回転軸11を中心に回転させることにより、螺旋状の微小構造物2を形成することも可能となる。このように本第3実施形態の微小構造物の製造方法によれば、基材1の蒸着時の運動を制御することによって、用途に応じた様々な構造を有する微小構造物2を作製することが可能となる。
【0024】
図5は、第4実施形態の構成を示すものである。この第4実施形態では、直流電源12を用いて基材1にマイナスのバイアス電圧を印加しながら微小構造物2の製造を行う。蒸着粒子3は正の電荷を持った分子として基材1に付着することから、負のバイアス電圧の印加によって成長速度を促進することが可能である。とりわけ凸部5の先端でこの効果が著しいことから、通常の方法ではギャップ部9で皮膜の成長が生じるような凸部5の間隔が広い場合でも、凸部5の先端での優先的な微小構造物2成長を促すことが実現される。
【0025】
図6,7は、第5実施形態の構成を示すものである。この第5実施形態では、基材1に細いガス流路13を設ける。ガス流路13の間に凸部は設けず、このガス流路13からガスを噴出しながら微小構造物を蒸着させるとガス流路13の部分での成長を抑制され、ガス流路13の間に微小構造物2が形成される。この時に利用するガスとしては、ArやHeなどの不活性ガスが、蒸着粒子3や微小構造物2との反応が無く好適であるが、蒸着時の反応を積極的に利用する場合には、酸素や窒素、水素、各種の炭化水素ガスなどを利用することも可能である。
【0026】
図8は、第6実施形態の構成を示すものである。この第6実施形態では、基材1に離間して形成された凸部5の間のギャップ部9に細いガス流路13を設け、蒸着時にこのガス流路13からガスを噴出してギャップ部9での成長を抑制する。
【0027】
図9は、第7実施形態の構成を示すものである。この第7実施形態は、微小構造物2が電気的に絶縁された集合体を製造するものである。図9に示すように、この第7実施形態では、図9(a)に示す基材1に対して前述した各実施形態に説明した方法で蒸着粒子3を蒸着させて図9(b)に示すように、微小構造物2を形成する。この後、図9(c)に示すように、絶縁樹脂14等をギャップ部9に含浸させることによって、個々の微小構造物2を電気的に絶縁する。そして、図9(d)に示すように、基材1を凸部5以外の部分(微小構造物2を連結する部分)を除去して、各微小構造物2が夫々電気的に絶縁された状態の集合体とする。なお、絶縁樹脂14の含浸行程を減圧雰囲気中で行ったほうが、絶縁樹脂14内部での欠陥の生成を抑制でき、微小構造物2間の絶縁抵抗が高く、かつ信頼性の高い集合体を製造することができる。
【0028】
図10は、第8実施形態の構成を示すものである。この第8実施形態は、微小構造物2が電気的に絶縁された集合体を作製するものである。図10に示すように、金属細線15を束ねた基材1aを利用する場合には、まず、図10(a)に示すように、金属細線15の表面に、例えばアルミナのような絶縁性セラミックス、若しくは絶縁性樹脂などの絶縁被膜16をコーティングする。次に、図10(b)に示すように、結束バンド17で金属細線15を結束して集合体を作製して基材1aとする。この後、図10(c)に示すように、基材1aの先端部を研磨によって平滑化して金属細線15を露出させる。しかる後、図10(d)に示すように、前述した各実施形態に説明した方法で所望の材料の微小構造物2を基材1a先端部から成長させる。
【0029】
このような方法によって、個々の微小構造物2は電気的に絶縁されていながら、個々の微小構造物2自体は電気伝導性を有する微小構造物2の集合体を形成することができる。この方法によれば、金属細線15からなる電極部と機能性を有する微小構造体2とを一連の工程で形成できることから、生産性の向上や製造コストの低減が可能である。また、微小構造体2を形成した後、結束バンド17を外すことによって、一度に多数の微小な機能性デバイスを形成することもできる。
【0030】
図11は、第9実施形態に係る改質器の構成を示すものである。この第9実施形態の改質器は、上記の各実施形態によって製造した微小構造物2の集合体を利用したものである。本第9実施形態では、微小構造物2の集合体を形成後、微小構造物2の表面に、例えば白金やパラジウム、ルテニウムなどの元素を主成分とした化学触媒や、チタン酸化物のような光触媒からなる触媒粒子19を担持させた後、ガス流路の壁面18を形成する。そして、触媒粒子19を担持させた微小構造物2の集合体の部分に、原料ガス20を供給して、触媒粒子19の作用によって改質ガス21を得る。
【0031】
触媒の担持体となる微小構造物2の材料としては、高温で化学的に安定な材料であれば特に限定されないが、産業上はコストが安く、特性に優れたアルミナセラミックスが好適である。以上述べたような方法によれば、流体抵抗を軽減し、かつ触媒性能に優れた構造を有するマイクロレベルの改質器を容易に製造することができる。特にこのような用途の場合には、改質ガス21の圧力損失との兼ね合いがあるが、表面積が大きい方が触媒性能が高くなることが予想されることから、前述した第3実施形態における湾曲した構造を有する微小構造物2の集合体や、螺旋状の構造を有する微小構造物2の集合体を好適に使用することができる。
【0032】
図12は第10実施形態に係るマイクロプラズマ発生装置の構成を示すものである。この第10実施形態のマイクロプラズマ発生装置は、上記の各実施形態によって製造した微小構造物2の集合体を利用したものである。凸部5に導電性を有する微小構造物2が形成された基材1と、この基材1から離れた位置に置かれた網目電極24との間に、プラズマ電源23から電圧を付与し、同時に基材1のギャップ部9に設けられたガス流路からプラズマガス22(例えばAr、He、水素、窒素など)を噴出させる。これによって、網目電極24と電極として作用する微小構造物2との間で、プラズマガス22の電離現象が生じ、マイクロプラズマ25が発生する。この発生したマイクロプラズマ25は、網目電極24の外部に引き出すことができる。なお、電極として作用する微小構造物2の材料としては、導電性と高温での耐久性の観点から、銅やタングステンと銅との合金などを好適に使用することができる。
【0033】
このようなマイクロプラズマ発生装置は、ナノ材料の創製や表面改質、廃棄物処理への応用が広く期待されているが、従来は単電極のものが多く、工業的な利用の観点では、生産性に問題があった。これに対して、本第10実施形態のマイクロプラズマ発生装置では、ある程度2次元的な広がりを持ったプラズマ流を発生させることが可能であることから、マイクロプラズマの処理能力を飛躍的に向上させることが可能となる。特に、前述した各実施形態の微小構造物2の製造方法を用いれば、従来困難であった電極アレイの製造を容易に行うことが可能であり、従来のマイクロ放電加工などに比べて飛躍的に生産性を向上させることができる。
【0034】
図13は、第11実施形態に係るガス検知用センシングデバイスとしての酸素ガスセンサの構成を示すものである。この第11実施形態の酸素ガスセンサは、上記の各実施形態によって製造した固体電解質の微小構造物2の集合体を利用したものである。本第11実施形態では、固体電解質からなる基材1の上に固体電解質からなる微小構造物2を前述した各実施形態に示した微小構造物2の製造方法によって形成した後、表面と裏面に網目電極24を接合する。この両網目電極24間の電圧と流れる電流を、電圧計27及び電流計26で計測することによって、固体電解質からなる基材1及び微小構造物2の内部を流れる酸素イオンの量を測定し、表面側での酸素ガスの濃度を計測することができる。
【0035】
特に本第11実施形態では、固体電解質からなる微小構造物2の部分の表面積が一般的な焼結体に比べて極めて大きいことから、感度良く酸素ガスの濃度を計測することが可能となる。なお、基材1や微小構造物2の材料としては、材料内部に酸素イオン欠陥を有し、酸素イオンの導電性に優れるイットリア安定化ジルコニアをはじめとするジルコニアセラミックスやセリアセラミックスなどが好適である。
【0036】
図14は、第12実施形態に係るアクチュエータの構成を示すものである。この第12実施形態のアクチュエータは、上記の各実施形態によって製造した電歪効果を有する材料の微小構造物2の集合体を利用したものである。本第12実施形態では、前述した各実施形態の微小構造物2の製造方法によって電歪効果を有する材料の微小構造物2を作製した後、この表面に弾性振動体となるステータ金属29を接合する。また、それぞれの微小構造物2には、隣接する微小構造物2を対として電極28を形成する。
【0037】
そして、電極28とステータ金属29との間で、隣り合う電極28に位相が90°異なる交流を交流電源31から印加すると、ステータ金属29表面に進行波が生じて、ステータ金属29表面に密着させたロータ30を進行波と逆方向に移動させることが可能となる。また、上記のアクチュエータとは逆に、電歪効果を有する材料の微小構造物2の集合体に加わる圧力に基づく起電力を検知することによって圧電センサを構成することもできる。このように本第12実施形態発明によれば、容易に圧電材料のマイクロアレイを製造することが可能であり、超音波モータやアクチュエータ、あるいは圧電センサの生産性を飛躍的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1……基材、2……微小構造物、3……蒸着粒子、4……凸部の向き、5……凸部、6……凸部の幅、7……凸部の高さ、8……凸部の間隔、9……ギャップ部、10……細線、11……回転軸、12……直流電源、13……ガス流路、14……絶縁性樹脂、15……金属細線、16……絶縁皮膜、17……結束バンド、18……壁面、19……触媒粒子、20……原料ガス、21……改質ガス、22……プラズマガス、23……プラズマ電源、24……網目電極、25……マイクロプラズマ、26……電流計、27……電圧計、28……電極、29……ステータ金属、30……ロータ、31……交流電源。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロンオーダーやナノオーダーの微小構造物を製造するための微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物及びこれらを利用した改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ、圧力センシングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
材料をミクロンオーダーやナノオーダーで微細加工する技術は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やセンサ、マイクロマシン等の適用拡大のためのキー技術である。これらの多くはフォトリソグラフィーやエッチングなどのLSI製作技術を基礎としており、これまでに様々な形状の微小構造物を作製することが可能となっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
しかし、従来の方法では、2次元的な積層構造物、若しくはこれらを層状に積み重ねた擬似的な3次元構造物の作製は可能であるが、より自由度の高い3次元構造物の作製は困難である。このため近年では、微小放電加工や光造形、X線リソグラフィー等の新しい技術が研究・開発されている。これらの微細加工法は加工の自由度は高いものの、被加工材料が、それぞれ金属や光硬化性樹脂、X線レジストに限られることなどの制約も多い。
【0004】
ところで近年、酸素イオン欠損を有する酸化物による電気伝導を利用した固体電界質や、圧電効果によるセンサやアクチュエータ等の機能性セラミックス材料の用途展開が著しい。このようなセラミックス材料は一般にはエッチングが難しく、融点なども高いことから、前述したような微細加工は困難である。また収束イオンビームのように表面の原子・分子を除去する方法もあるが、数マイクロメータ程度の加工は生産性の点から課題が多い。また。このような難加工材の超精密な切削や研削技術の開発も進められているが、精密な位置決めの難しさや、微小工具作製の難しさ、加工力が大きい等の問題点も指摘される。
【0005】
材料を高エネルギー源により溶融・蒸発させた状態で蒸着材料の蒸着粒子を基材に向けて入射させ、皮膜を成長させる物理蒸着(PVD)法は、材料の自己組織化によって構造体が形成されることから、従来法のような材料除去工程が不要であり、効率的に特異な構造体を作製できる方法として注目されている。また蒸着時の温度や基材運動の制御等によって、柱状構造や、C型やS型に湾曲した構造、螺旋構造などを形成できることが知られている。このため、Glancing Angle Deposition(GLAD)法と呼ばれる方法によって螺旋状の組織構造を形成し、光学的なデバイスへ応用する研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−276104号公報
【特許文献2】特開2006−247758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の物理蒸着法を用いた方法では、成長した皮膜の根元部と、先端部とで微構造が異なり、一般には根元部の方が緻密構造となるため、所望形状の均質な微小構造体が作製できず、十分な特性が得られないなどの問題点があった。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、所望形状の均質な微小構造体を形成することのできる微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物、改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ及び圧力センシングデバイスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る微小構造物の製造方法の一態様は、蒸着材料を溶融・蒸発させ、これにより形成された前記蒸着材料の蒸着粒子を基材に向けて入射させ、前記基材表面に前記蒸着材料を成長させる物理蒸着法により微小構造物を形成する方法であって、表面に複数の凸部を有する前記基材を、前記凸部の向いた方向が、前記蒸着粒子の入射方向に対して対向する方向から偏向するように前記基材を設置して前記蒸着材料を成長させることにより、前記凸部の先端部から前記蒸着材料を成長させて個々の隣接する微小構造物が間隙によって隔てられ物理的に独立した微小構造物の集合体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望形状の均質な微小構造体を形成することのできる微小構造物の製造方法、微小構造物集合体、微小構造物、及びこれらを利用した改質器、マイクロプラズマ発生装置、ガス検知用センシングデバイス、アクチュエータ及び圧力センシングデバイスを提供することができる。また、本発明によれば、多様な機能性材料の微小構造物の集合体の作製が可能であり、各種のマイクロデバイスの生産性や信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図2】図1に示した基材の要部を拡大して示す図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図4】本発明の第3実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図5】本発明の第4実施形態に係る微小構造物集の製造方法を説明するための図。
【図6】本発明の第5実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図7】本発明の第5実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図8】本発明の第6実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図9】本発明の第7実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図10】本発明の第8実施形態に係る微小構造物の製造方法を説明するための図。
【図11】本発明の第9実施形態に係る改質器の構成を説明するための図。
【図12】本発明の第10実施形態に係るマイクロプラズマ発生装置の構成を説明するための図。
【図13】本発明の第11実施形態に係る酸素ガスセンサの構成を説明するための図。
【図14】本発明の第12実施形態に係るアクチュエータの構成を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を、図面を参照して実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態の工程を説明するための図である。本第1実施形態では、図1に示すように、予め表面に所定形状(例えば円柱状あるいは角柱状)、所定大きさ(ミクロンオーダー又はナノオーダー)の凸部5を所定間隔で形成した基材1を用意する。そして、この基材1の凸部5の先端が向いている方向4(図中点線で示す)が、蒸着材料に高エネルギーを与えて溶融・蒸発させて形成された蒸発粒子3の入射方向に対して対向する方向から傾くように基材1を配置し、微小構造物2を成長させる。なお、図1は、縦断面構成を示しているため、基材1に凸部5が1次元的に配列されているように表わされているが、凸部5の配列方向は、1次元的であっても、2次元的であってもよい。また、凸部5の形状は柱状に限らず、例えば、フィン状に図1の紙面に垂直な方向に延在するものであってもよい。
【0014】
このようにして、基材1の凸部5に微小構造物2を成長させると、蒸着粒子3の陰になる凸部5の側面には蒸着粒子3がほとんど付着することなく(シャドーイング効果)、凸部5の先端部でのみ、微小構造物2の成長が生じる。このような成長様式を実現するにあたって蒸着プロセスは、物理蒸着であって蒸発粒子3同士の衝突による散乱が少なく、蒸着粒子3の入射方向が比較的揃ったいわゆるLine−of−sightのプロセスが好ましい。
【0015】
より好ましくは、蒸着粒子3同士が平均的に衝突する距離である平均自由行程λと蒸着源と基材1との距離Lとの比(λ/L)が0.01以上のプロセスであれば、微小構造物2の形成までにたかだか100回程度しか蒸着粒子3の衝突による散乱が生じないことから、蒸着粒子3の直線性がよく、凸部5に選択的に微小構造物2の形成が可能である。
【0016】
また、基材1表面の法線方向4の偏向角は、基材1に形成された凸部5間の間隔が狭いほど蒸着粒子3の入射方向に対向する向き(0°)に近づけることが可能である。しかし、基材1表面の法線方向4の偏向角が、あまり0°に近いと蒸着粒子3が凸部5間のギャップ部9に侵入してギャップ部9で皮膜成長が生じ、個々の微小構造物2が連結されてしまうため、物理的に独立した微小構造物2の集合体を形成できなくなる。
凸部の幅6をw、凸部の高さ7をh、凸部の間隔をd、偏向角θとした場合、ギャップ部9の最深部まで蒸着粒子が届かないための幾何学的な条件は、
θ>tan―1 {(d−w)/h}
で与えられる。もし、d=2w、h=wの凸部の形状を基材に形成した場合には、上式から偏向角は45°以上が好ましい。
【0017】
基材1表面に凸部5を形成する方法としては、フォトエッチング法や、マイクロブラスト加工、精密放電法などが挙げられるが、図2に示すように、凸部5の幅6に対して凸部5の間隔8が狭く、凸部5の高さ7が高く(ギャップ9の深さが深く)なるほど加工が困難になる。したがって、凸部5の幅6と間隔8を同程度とするのが実用上好ましく、このような幾何的なことを考慮すると、基材1の偏向角を45°以上に取れば、凸部5先端での優先的な微小構造物2の成長を促進することが可能である。
【0018】
また、凸部5の幅6は、50ミクロン以下とすることが好ましく、凸部5の幅6が50ミクロンを超えると凸部5の先端から複数の構造体が生じる可能性がある。また凸部5間の間隔8が広過ぎるとギャップ部9に容易に蒸着粒子3が侵入し、ギャップ部9で皮膜成長が生じることから500ミクロン以下であることが好ましい。しかし、ギャップ部9があまりに狭いと基材1の微細加工が困難であることから、10ミクロン以上程度とすることが実用的である。
【0019】
図3は、他の構造の基材1aを用いた第2実施形態を示している。図3に示すように、基材1aは、先端が先鋭な細線10の束から構成されている。細線10を束ねる方法としては図3に示すように結束バンド17を用いても良いが、細線10をロウ材等により直接、接合することも可能である。
【0020】
ここで利用する細線10の太さとしては、前述した図2に示した第1実施形態の基材1の凸部5の間隔8の場合と同様な理由から、500ミクロン以下であることが好ましく、これ以上になると細線10の先端部からの優先的な単一の微小構造物の成長が困難となる。また、先鋭な先端部については研磨等によって一定の平滑面を設け、この平滑面から微小構造物の成長を促すことも可能である。
【0021】
図4は、本発明の第3実施形態を示している。本第3実施形態では、凸部5を設けた基材1を、図4の紙面に垂直な回転軸11に対して、図4中矢印で示すように、一定の速度で回転させることによって、蒸着粒子3の入射方向を逐次変更すると同時に、凸部5が蒸着粒子3の入射方法の裏側に入るときに成長が途絶えることから、三日月形が連なったような組織を形成することができる。
【0022】
なお、回転速度を早くすることによって、三日月形の組織を無くし、基材1の法線方向4に対して略真っ直ぐに微小構造物2を成長させることも可能である。さらには紙面垂直方向の回転軸11に対して基材1を一定の角度で揺動させることによって、基材1の法線方向4の偏向角を時間的に変更しながら蒸着を行うと、凸部5の先端から波状の微小構造物2を形成することができる。
【0023】
また、回転軸11を図中紙面垂直方向から偏向させ、かつ回転軸11を中心に回転させることにより、螺旋状の微小構造物2を形成することも可能となる。このように本第3実施形態の微小構造物の製造方法によれば、基材1の蒸着時の運動を制御することによって、用途に応じた様々な構造を有する微小構造物2を作製することが可能となる。
【0024】
図5は、第4実施形態の構成を示すものである。この第4実施形態では、直流電源12を用いて基材1にマイナスのバイアス電圧を印加しながら微小構造物2の製造を行う。蒸着粒子3は正の電荷を持った分子として基材1に付着することから、負のバイアス電圧の印加によって成長速度を促進することが可能である。とりわけ凸部5の先端でこの効果が著しいことから、通常の方法ではギャップ部9で皮膜の成長が生じるような凸部5の間隔が広い場合でも、凸部5の先端での優先的な微小構造物2成長を促すことが実現される。
【0025】
図6,7は、第5実施形態の構成を示すものである。この第5実施形態では、基材1に細いガス流路13を設ける。ガス流路13の間に凸部は設けず、このガス流路13からガスを噴出しながら微小構造物を蒸着させるとガス流路13の部分での成長を抑制され、ガス流路13の間に微小構造物2が形成される。この時に利用するガスとしては、ArやHeなどの不活性ガスが、蒸着粒子3や微小構造物2との反応が無く好適であるが、蒸着時の反応を積極的に利用する場合には、酸素や窒素、水素、各種の炭化水素ガスなどを利用することも可能である。
【0026】
図8は、第6実施形態の構成を示すものである。この第6実施形態では、基材1に離間して形成された凸部5の間のギャップ部9に細いガス流路13を設け、蒸着時にこのガス流路13からガスを噴出してギャップ部9での成長を抑制する。
【0027】
図9は、第7実施形態の構成を示すものである。この第7実施形態は、微小構造物2が電気的に絶縁された集合体を製造するものである。図9に示すように、この第7実施形態では、図9(a)に示す基材1に対して前述した各実施形態に説明した方法で蒸着粒子3を蒸着させて図9(b)に示すように、微小構造物2を形成する。この後、図9(c)に示すように、絶縁樹脂14等をギャップ部9に含浸させることによって、個々の微小構造物2を電気的に絶縁する。そして、図9(d)に示すように、基材1を凸部5以外の部分(微小構造物2を連結する部分)を除去して、各微小構造物2が夫々電気的に絶縁された状態の集合体とする。なお、絶縁樹脂14の含浸行程を減圧雰囲気中で行ったほうが、絶縁樹脂14内部での欠陥の生成を抑制でき、微小構造物2間の絶縁抵抗が高く、かつ信頼性の高い集合体を製造することができる。
【0028】
図10は、第8実施形態の構成を示すものである。この第8実施形態は、微小構造物2が電気的に絶縁された集合体を作製するものである。図10に示すように、金属細線15を束ねた基材1aを利用する場合には、まず、図10(a)に示すように、金属細線15の表面に、例えばアルミナのような絶縁性セラミックス、若しくは絶縁性樹脂などの絶縁被膜16をコーティングする。次に、図10(b)に示すように、結束バンド17で金属細線15を結束して集合体を作製して基材1aとする。この後、図10(c)に示すように、基材1aの先端部を研磨によって平滑化して金属細線15を露出させる。しかる後、図10(d)に示すように、前述した各実施形態に説明した方法で所望の材料の微小構造物2を基材1a先端部から成長させる。
【0029】
このような方法によって、個々の微小構造物2は電気的に絶縁されていながら、個々の微小構造物2自体は電気伝導性を有する微小構造物2の集合体を形成することができる。この方法によれば、金属細線15からなる電極部と機能性を有する微小構造体2とを一連の工程で形成できることから、生産性の向上や製造コストの低減が可能である。また、微小構造体2を形成した後、結束バンド17を外すことによって、一度に多数の微小な機能性デバイスを形成することもできる。
【0030】
図11は、第9実施形態に係る改質器の構成を示すものである。この第9実施形態の改質器は、上記の各実施形態によって製造した微小構造物2の集合体を利用したものである。本第9実施形態では、微小構造物2の集合体を形成後、微小構造物2の表面に、例えば白金やパラジウム、ルテニウムなどの元素を主成分とした化学触媒や、チタン酸化物のような光触媒からなる触媒粒子19を担持させた後、ガス流路の壁面18を形成する。そして、触媒粒子19を担持させた微小構造物2の集合体の部分に、原料ガス20を供給して、触媒粒子19の作用によって改質ガス21を得る。
【0031】
触媒の担持体となる微小構造物2の材料としては、高温で化学的に安定な材料であれば特に限定されないが、産業上はコストが安く、特性に優れたアルミナセラミックスが好適である。以上述べたような方法によれば、流体抵抗を軽減し、かつ触媒性能に優れた構造を有するマイクロレベルの改質器を容易に製造することができる。特にこのような用途の場合には、改質ガス21の圧力損失との兼ね合いがあるが、表面積が大きい方が触媒性能が高くなることが予想されることから、前述した第3実施形態における湾曲した構造を有する微小構造物2の集合体や、螺旋状の構造を有する微小構造物2の集合体を好適に使用することができる。
【0032】
図12は第10実施形態に係るマイクロプラズマ発生装置の構成を示すものである。この第10実施形態のマイクロプラズマ発生装置は、上記の各実施形態によって製造した微小構造物2の集合体を利用したものである。凸部5に導電性を有する微小構造物2が形成された基材1と、この基材1から離れた位置に置かれた網目電極24との間に、プラズマ電源23から電圧を付与し、同時に基材1のギャップ部9に設けられたガス流路からプラズマガス22(例えばAr、He、水素、窒素など)を噴出させる。これによって、網目電極24と電極として作用する微小構造物2との間で、プラズマガス22の電離現象が生じ、マイクロプラズマ25が発生する。この発生したマイクロプラズマ25は、網目電極24の外部に引き出すことができる。なお、電極として作用する微小構造物2の材料としては、導電性と高温での耐久性の観点から、銅やタングステンと銅との合金などを好適に使用することができる。
【0033】
このようなマイクロプラズマ発生装置は、ナノ材料の創製や表面改質、廃棄物処理への応用が広く期待されているが、従来は単電極のものが多く、工業的な利用の観点では、生産性に問題があった。これに対して、本第10実施形態のマイクロプラズマ発生装置では、ある程度2次元的な広がりを持ったプラズマ流を発生させることが可能であることから、マイクロプラズマの処理能力を飛躍的に向上させることが可能となる。特に、前述した各実施形態の微小構造物2の製造方法を用いれば、従来困難であった電極アレイの製造を容易に行うことが可能であり、従来のマイクロ放電加工などに比べて飛躍的に生産性を向上させることができる。
【0034】
図13は、第11実施形態に係るガス検知用センシングデバイスとしての酸素ガスセンサの構成を示すものである。この第11実施形態の酸素ガスセンサは、上記の各実施形態によって製造した固体電解質の微小構造物2の集合体を利用したものである。本第11実施形態では、固体電解質からなる基材1の上に固体電解質からなる微小構造物2を前述した各実施形態に示した微小構造物2の製造方法によって形成した後、表面と裏面に網目電極24を接合する。この両網目電極24間の電圧と流れる電流を、電圧計27及び電流計26で計測することによって、固体電解質からなる基材1及び微小構造物2の内部を流れる酸素イオンの量を測定し、表面側での酸素ガスの濃度を計測することができる。
【0035】
特に本第11実施形態では、固体電解質からなる微小構造物2の部分の表面積が一般的な焼結体に比べて極めて大きいことから、感度良く酸素ガスの濃度を計測することが可能となる。なお、基材1や微小構造物2の材料としては、材料内部に酸素イオン欠陥を有し、酸素イオンの導電性に優れるイットリア安定化ジルコニアをはじめとするジルコニアセラミックスやセリアセラミックスなどが好適である。
【0036】
図14は、第12実施形態に係るアクチュエータの構成を示すものである。この第12実施形態のアクチュエータは、上記の各実施形態によって製造した電歪効果を有する材料の微小構造物2の集合体を利用したものである。本第12実施形態では、前述した各実施形態の微小構造物2の製造方法によって電歪効果を有する材料の微小構造物2を作製した後、この表面に弾性振動体となるステータ金属29を接合する。また、それぞれの微小構造物2には、隣接する微小構造物2を対として電極28を形成する。
【0037】
そして、電極28とステータ金属29との間で、隣り合う電極28に位相が90°異なる交流を交流電源31から印加すると、ステータ金属29表面に進行波が生じて、ステータ金属29表面に密着させたロータ30を進行波と逆方向に移動させることが可能となる。また、上記のアクチュエータとは逆に、電歪効果を有する材料の微小構造物2の集合体に加わる圧力に基づく起電力を検知することによって圧電センサを構成することもできる。このように本第12実施形態発明によれば、容易に圧電材料のマイクロアレイを製造することが可能であり、超音波モータやアクチュエータ、あるいは圧電センサの生産性を飛躍的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1……基材、2……微小構造物、3……蒸着粒子、4……凸部の向き、5……凸部、6……凸部の幅、7……凸部の高さ、8……凸部の間隔、9……ギャップ部、10……細線、11……回転軸、12……直流電源、13……ガス流路、14……絶縁性樹脂、15……金属細線、16……絶縁皮膜、17……結束バンド、18……壁面、19……触媒粒子、20……原料ガス、21……改質ガス、22……プラズマガス、23……プラズマ電源、24……網目電極、25……マイクロプラズマ、26……電流計、27……電圧計、28……電極、29……ステータ金属、30……ロータ、31……交流電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着用材料からの粒子を基材部に向けて入射させ、前記基材部表面に前記蒸着用材料を蒸着成長させる方法により微小構造物を形成する方法であって、前記基材部表面に個々に離間して形成された複数の凸部に対し、前記凸部の向いた方向と対向する方向から前記粒子を所定の角度偏向させて入射させ、前記凸部の先端部から前記蒸着用材料を蒸着成長させて個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする微小構造物の製造方法。
【請求項2】
前記所定の偏向角度を変化させることによって、前記凸部先端部に直線以外の形状が形成された微小構造物の集合体を形成することを特徴とする請求項1記載の微小構造物の製造方法。
【請求項3】
前記蒸着用材料は、溶融・蒸発させた物理蒸着法により成長させることを特徴とする請求項1又は2記載の微小構造物の製造方法。
【請求項4】
前記基材部にバイアス電圧を印加することにより、前記蒸着用材料の成長速度を制御することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項5】
蒸着用材料からの粒子を基材部に向けて入射させ、前記基材部表面に前記蒸着用材料を蒸着成長させる方法により微小構造物を形成する方法であって、前記基材部表面に個々に離間して形成された流路を前記基材内部に設け、前記蒸着材料を成長させる際に、前記流路より基材表面にガスを噴出させることによって個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする微小構造物の製造方法。
【請求項6】
前記基材部表面に個々に離間して形成された複数の凸部に対し、前記凸部の間のギャップ部に、前記基材内部に通じる流路を設け、前記蒸着材料を成長させる際に、前記流路より前記ギャップ部にガスを噴出させることによって前記凸部の先端部から前記蒸着用材料を蒸着成長させて個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする請求項5記載の微小構造物の製造方法。
【請求項7】
前記基材の前記凸部が、当該基材に、フォトエッチング法、マイクロブラスト加工、精密放電法のいずれかを行うことによって形成されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、先端部が先鋭な細線を複数束ねて構成され、前記凸部は各々離間した前記先端部であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造されたことを特徴とする微小構造物集合体。
【請求項10】
請求項1〜4,6〜8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、前記基材の凸部の側面に絶縁性の被膜が設けられ、隣接する微小構造物同士が電気的に絶縁していることを特徴とする微小構造物集合体。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された微小構造物の集合体を分離することによって製造されたことを特徴とする微小構造物。
【請求項12】
請求項1〜4,6〜8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された微小構造物の集合体を分離することによって製造され、かつ、前記基材の凸部の側面に絶縁性の被膜が設けられていることを特徴とする微小構造物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、その表面に触媒活性を有する材料を付着させた微小構造物の集合体を備えたことを特徴とする改質器。
【請求項14】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された導電性を有する微小構造物の集合体を電極として備え、当該電極に対向する対向電極との間でプラズマ放電を生じさせることを特徴とするマイクロプラズマ発生装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として酸素イオン欠損を有する酸化物を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とするガス検知用センシングデバイス。
【請求項16】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として電歪効果を有する材料を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項17】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として電歪効果を有する材料を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とする圧力センシングデバイス。
【請求項18】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された導電性を有する微小構造物の集合体を一部品として搭載した装置。
【請求項1】
蒸着用材料からの粒子を基材部に向けて入射させ、前記基材部表面に前記蒸着用材料を蒸着成長させる方法により微小構造物を形成する方法であって、前記基材部表面に個々に離間して形成された複数の凸部に対し、前記凸部の向いた方向と対向する方向から前記粒子を所定の角度偏向させて入射させ、前記凸部の先端部から前記蒸着用材料を蒸着成長させて個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする微小構造物の製造方法。
【請求項2】
前記所定の偏向角度を変化させることによって、前記凸部先端部に直線以外の形状が形成された微小構造物の集合体を形成することを特徴とする請求項1記載の微小構造物の製造方法。
【請求項3】
前記蒸着用材料は、溶融・蒸発させた物理蒸着法により成長させることを特徴とする請求項1又は2記載の微小構造物の製造方法。
【請求項4】
前記基材部にバイアス電圧を印加することにより、前記蒸着用材料の成長速度を制御することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項5】
蒸着用材料からの粒子を基材部に向けて入射させ、前記基材部表面に前記蒸着用材料を蒸着成長させる方法により微小構造物を形成する方法であって、前記基材部表面に個々に離間して形成された流路を前記基材内部に設け、前記蒸着材料を成長させる際に、前記流路より基材表面にガスを噴出させることによって個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする微小構造物の製造方法。
【請求項6】
前記基材部表面に個々に離間して形成された複数の凸部に対し、前記凸部の間のギャップ部に、前記基材内部に通じる流路を設け、前記蒸着材料を成長させる際に、前記流路より前記ギャップ部にガスを噴出させることによって前記凸部の先端部から前記蒸着用材料を蒸着成長させて個々の隣接する微小構造物からなる集合体を形成することを特徴とする請求項5記載の微小構造物の製造方法。
【請求項7】
前記基材の前記凸部が、当該基材に、フォトエッチング法、マイクロブラスト加工、精密放電法のいずれかを行うことによって形成されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、先端部が先鋭な細線を複数束ねて構成され、前記凸部は各々離間した前記先端部であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の微小構造物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造されたことを特徴とする微小構造物集合体。
【請求項10】
請求項1〜4,6〜8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、前記基材の凸部の側面に絶縁性の被膜が設けられ、隣接する微小構造物同士が電気的に絶縁していることを特徴とする微小構造物集合体。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された微小構造物の集合体を分離することによって製造されたことを特徴とする微小構造物。
【請求項12】
請求項1〜4,6〜8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された微小構造物の集合体を分離することによって製造され、かつ、前記基材の凸部の側面に絶縁性の被膜が設けられていることを特徴とする微小構造物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、その表面に触媒活性を有する材料を付着させた微小構造物の集合体を備えたことを特徴とする改質器。
【請求項14】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された導電性を有する微小構造物の集合体を電極として備え、当該電極に対向する対向電極との間でプラズマ放電を生じさせることを特徴とするマイクロプラズマ発生装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として酸素イオン欠損を有する酸化物を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とするガス検知用センシングデバイス。
【請求項16】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として電歪効果を有する材料を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項17】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造され、かつ、蒸着材料として電歪効果を有する材料を用いた微小構造物の集合体を用いたことを特徴とする圧力センシングデバイス。
【請求項18】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の微小構造物の製造方法によって製造された導電性を有する微小構造物の集合体を一部品として搭載した装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−189690(P2010−189690A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33839(P2009−33839)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]