心筋梗塞の治療方法
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼタンパク質インヒビターの治療的有効量を哺乳動物に投与することにより哺乳動物における心筋梗塞を治療する。心筋梗塞の治療用の医薬の製造のための、そのようなインヒビター化合物の使用も提供する。該インヒビターの予防量を哺乳動物に投与することにより心筋梗塞を予防することが可能である。該インヒビターは好ましくは、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるSrcタンパク質のインヒビターである。特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを使用して、心筋梗塞の治療用の医薬を製造することが可能である。化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含有する製造物品も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、医薬の分野、特に、哺乳動物における心筋梗塞を治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
血管への損傷、疾患または他の外傷による血管透過性は、組織損傷に関連した血管の漏れ及び浮腫の主要原因である。例えば、脳血管発作(CVA)または脳もしくは脊髄組織における他の血管損傷に関連した脳血管疾患は神経障害の最主要原因であり、無能状態の主要原因である。典型的には、CVAの領域における脳または脊髄組織に対する損傷は血管の漏れ及び/又は浮腫を伴う。典型的には、CVAは、脳虚血、脳への正常な血流の遮断により引き起こされる障害;血流の一過性障害による脳機能不全;頭蓋内または頭蓋外動脈の塞栓または血栓による梗塞;出血;および動静脈形成異常が含まれうる。虚血性卒中および脳出血は突然発生しうる。その発生の影響は、一般には、損傷された脳領域を反映する(The Merck Manual,16th ed.Chp.123,1992を参照されたい)。
【0003】
CVAの他に、中枢神経系(CNS)感染症または疾患も脳および脊柱の血管を損なうことがあり、例えば細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎および脳膿瘍形成の場合のように、炎症および浮腫を伴いうる(The Merck Manual,16th ed.Chp.125,1992を参照されたい)。糖尿病、腎臓病、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞などの全身性疾患状態も血管を弱くすることがあり、血管の漏れ及び浮腫を招きうる。したがって、血管の漏れ及び浮腫は、癌とは異なる無関係な決定的に重要な病理であり、種々の損傷、外傷または病態に関連した有効な特異的治療介入を要する。
【0004】
心筋梗塞は心筋への血液供給の遮断による心臓組織の死である。心筋梗塞は、西洋諸国における入院患者に最もよく見られる診断例の1つである。米国においては毎年約110万人が急性心筋梗塞と診断されると報告されている。心筋梗塞による死亡率は53%を超えることがあり、生存した患者の66%もが完全な回復をなし得ない。死亡率における僅か1%の減少は毎年3400万人もの命を救いうるであろう。
【0005】
心筋梗塞およびそれに伴う浮腫は、一般には、冠状動脈が閉塞されて、遮断された動脈により供給される心臓組織への酸素の供給が遮断された場合に生じる。血液供給が遮断されると、遮断された動脈により通常は血液が供給される組織が虚血状態となる。最終的には、酸素を失った心臓組織が死に始める(壊死)。Honkanenらは、米国特許第5,914,242号において、心臓虚血の開始後の患者に或るセリン/トレオニンホスファターゼ酵素インヒビターならびに関連ポリペプチドを投与することを含む、心筋梗塞を軽減するための方法を記載している。そのような酵素およびポリペプチドは高価であり、医薬用途のために製造し精製するのが困難である。
【0006】
本発明者らは、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制が、冠状血管系の閉塞から通常は生じる冠状組織の浮腫およびそれにより生じる壊死を軽減して心筋梗塞の組織損傷効果を軽減することにより、心筋梗塞の有用な治療方法を提供することを見出した。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制による心筋梗塞(MI)の治療方法に関する。該方法は、冠状血管閉塞に罹患した哺乳動物の冠状組織をSrcファミリーチロシンキナーゼのインヒビターの有効量で治療することを含む。該哺乳動物はヒト患者または非ヒト哺乳動物でありうる。治療する冠状組織は、冠状血管閉塞による虚血(すなわち、血流の低下)に罹患した心臓の任意の部分でありうる。治療処置は、標的冠状組織を、化学的(すなわち、非ペプチド性)Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む所望の医薬組成物の有効量と接触させることにより達成される。有害な血管閉塞が生じている又は生じたことがある領域付近の罹患冠状組織を治療することが有用である。該方法は、冠状血管閉塞から通常は生じる組織壊死(梗塞)の軽減をもたらす。
【0008】
本発明のもう1つの態様は、包装(パッケージ)材と、該包装材中に含有された医薬組成物とを含む製造物品であり、ここで、該医薬組成物は、冠状血管閉塞による血流の低下に罹患した冠状組織における壊死を軽減しうる。該包装材は、該医薬組成物が心筋梗塞の治療に使用されうること、および医薬組成物が、医薬上許容される担体中にSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの治療的有効量を含むことを示すラベルを含む。
【0009】
本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1872)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1879)など;大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなど;ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばPD173955など;4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリル、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)など;およびそれらの混合物が含まれる。
【0010】
特に好ましいSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。そのようなインヒビターの具体例としては、4−メチルフェニル−および4−ハロフェニル−置換ピラゾロピリミジンクラスのインヒビター、例えばAGL1872、AGL1879など、ならびに4−(4−ハロアニリノ)−3−キノリンカルボニトリルクラスのインヒビター、例えばSKI−606などが挙げられる。
【0011】
本発明の方法は心筋梗塞の治療に有用である。特に、本発明の方法は、心臓の疾患、損傷または外傷による冠状血管遮断による心臓組織の壊死を改善するのに有用である。本発明の方法により小分子化学的Srcインヒビター(AGL1872またはSKI−606)で処理されたマウスにおいて、梗塞サイズにおける40〜60%の減少が観察された。
【0012】
発明の詳細な説明
A.定義
本明細書中で用いる「アミノ酸残基」なる語は、ポリペプチドのペプチド結合におけるポリペプチドの化学的消化(加水分解)に際して形成されるアミノ酸を意味する。本明細書に記載されているアミノ酸残基は、好ましくは、「L」異性体である。しかし、所望の機能特性が該ポリペプチドにおいて保有される限り、任意のLアミノ酸残基は「D」異性体中の残基により置換されうる。NH2は、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を意味する。COOHは、標準的なポリペプチド命名法(J.Biol.Chem.,243:3552−59(1969)に記載されており、37 CFR §1.822(b)(2)に採択されている)に従えば、ポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシル基を意味する。
【0013】
すべてのアミノ酸残基配列は、本明細書においては、左および右の配向がアミノ末端(N末端)からカルボキシル末端(C末端)への通常の向きである式により表されていることに注目すべきである。さらに、アミノ酸残基配列の開始部位および終結部位のダッシュは、1以上のアミノ酸残基の別の配列とのペプチド結合を示すことに注目すべきである。
【0014】
本明細書中で用いる「ポリペプチド」なる語は、連続的アミノ酸残基のαアミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合により互いに連結された一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0015】
本明細書中で用いる「ペプチド」なる語は、ポリペプチドの場合と同様に互いに連結されたせいぜい約50個の一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0016】
本明細書中で用いる「タンパク質」なる語は、ポリペプチドの場合と同様に互いに連結された50アミノ酸残基を超える一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0017】
B.一般的考慮事項
本発明は、全般的には、(1)VEGF誘発性血管透過性(VP)がSrcおよびYesのようなチロシンキナーゼタンパク質により特異的に媒介され、VPがSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制によりモジュレーションされうるという知見、および(2)Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターのインビボ投与が、血管透過性の疾患関連または損傷関連上昇による組織損傷を軽減するという知見に関する。
【0018】
この知見は、血管透過性が種々の疾患過程において果たしている役割を考慮すると重要である。本発明は、血管透過性がSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制により特異的にモジュレーションされ改善されうるという知見に関する。特に、本発明は、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターのインビボ投与が、癌または血管新生には通常は関連していない血管透過性における疾患関連または損傷関連上昇による組織損傷を軽減するという知見に関する。
【0019】
血管透過性は、血管への外傷によるVPの急激な増加により組織損傷が引き起こされる種々の疾患過程に関与している。したがって、VPを特異的にモジュレーションしうることは、卒中の有害な影響を軽減するための新規かつ有効な治療を可能とする。
【0020】
Srcファミリーキナーゼインヒビターを使用する特異的抑制性モジュレーションにより利益を受ける、疾患または損傷により誘発される血管の漏れ及び/又は浮腫に関連した組織には、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、炎症疾患、再発狭窄症、卒中、心筋梗塞などが含まれる。
【0021】
VEGF受容体IgG融合タンパク質を使用するVEGFタンパク質の全身性中和は脳虚血後の梗塞サイズを減少させることが報告されている。この効果はVEGF媒介性血管透過性の低下によるものであると考えられた(N.van Bruggenら,J.Clin.Inves.104:1613−1620(1999))。しかし、本発明においてSrcは血管透過性上昇の決定的に重要なメディエーターであることが見出されたが、VEGFは血管透過性上昇の決定的に重要なメディエーターではない。さらに、SrcはVEGF以外の刺激により活性化されうる。例えば、Erpelら,Cell Biology,7:176−182(1995)を参照されたい。
【0022】
本発明は特に、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcのインヒビターが、冠状血管閉塞による哺乳動物における冠状組織損傷を改善することにより心筋梗塞の治療に有用であるという知見に関する。
【0023】
C.Srcファミリーチロシンキナーゼタンパク質
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「Srcファミリーチロシンキナーゼタンパク質」なる語およびその文法的派生語は、特に、v−Srcに対するアミノ酸配列相同性、N末端ミリスチン酸化、N末端可変領域を有する保存ドメイン構造ならびにそれに続くSH3ドメイン、SH2ドメイン、チロシンキナーゼ触媒ドメインおよびC末端調節ドメインを有するタンパク質を意味する。「Srcタンパク質」および「Src」なる語は、60kDaの分子量、2個のPKCリン酸化部位と1個のPKAリン酸化部位とを含むN末端可変領域、他のSrcファミリー亜群の公知メンバー(例えば、Yes、Fyn、LckおよびLyn)より比較的高い、公知Srcタンパク質に対する全アミノ酸配列同一性を有する、配列番号2の416位のチロシンと等価であるチロシンのリン酸化により活性化されるチロシンキナーゼSrcタンパク質の種々の形態の総称である。「Yesタンパク質」および「Yes」なる語は、62kDaの分子量、いずれかのリン酸化部位を欠くN末端可変領域、他のSrcファミリー亜群の公知メンバー(例えば、Src、Fyn、LckおよびLyn)より比較的高い、公知Yesタンパク質に対する全アミノ酸配列同一性を有する、配列番号4の426位のチロシンと等価であるチロシンのリン酸化により活性化されるチロシンキナーゼYesタンパク質の種々の形態を総称するために用いられている。
【0024】
冠状虚血を測定するための好ましいアッセイは、冠状動脈の結紮によりラットにおいて虚血を誘発させ、本明細書中で後記に詳しく説明するとおり、時間経過と共にMRI、心エコーなどの技術により心筋梗塞のサイズを評価することを含む。
【0025】
D.心筋梗塞の治療および予防方法
本発明の方法は、虚血冠状組織を、少なくとも1つの化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物と接触させることを含む。
【0026】
本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、Srcの化学的インヒビター、例えば、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、および4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが含まれる。インヒビターの混合物も使用されうる。
【0027】
好ましいピラゾロピリミジンクラスのインヒビターには、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP1またはAGL1872と称されることもある)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP2またはAGL1879とも称される)などが含まれ、それらの製造の詳細はWaltenbergerら,Circ.Res.,85:12−22(1999)に記載されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。AGL1872およびAGL1879の化学構造を図8に示す。AGL1872(PP1)はPfizer,Inc.によるライセンスによりBiomol Research Laboratories,Inc.,Plymouth Meeting,Pennsylvania,USAから入手可能である。AGL1879(PP2)はPfizer,Inc.からのライセンスによりCalbiochemから入手可能である。AGL1872はLck、LynおよびSrcの酵素活性を5,6および170nMのIC50で抑制すると報告されている(Hankeら,J.Biol.Chem.271(2):695−701(1996)を参照されたい)。
【0028】
好ましい大環状ジエノンインヒビターには、例えば、ラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなどが含まれる。ラディシコルR2146、ゲルダナマイシン、ヘルビマイシンAを図9に示す。ゲルダナマイシンはLife Technologiesから入手可能である。ヘルビマイシンAはSigmaから入手可能である。ラディシコルは、種々の企業(例えば、Calbiochem、RBI、Sigma)により商業的に供給されており、非特異的タンパク質チロシンキナーゼインヒビターとしても作用する抗真菌大環状ラクトン抗生物質であり、Srcキナーゼ活性を抑制することが示されている。大環状ジエノンインヒビターは、大環状環の一部としてα、β、γ、δ−ビス−不飽和ケトン(すなわち、ジエノン)部分と酸素化アリール部分とを含有する炭素数12〜20の大環状ラクタムまたはラクトン環構造を含む。
【0029】
好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのインヒビターには、例えば、6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン(PD173955)などが含まれる。他の有用なピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのインヒビターはWisniewskiら,Cancer Res.2002;62:4244−4255に開示されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。Parke Davisにより開発されたインヒビターであるPD173955の構造を図10に示す。
【0030】
好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのインヒビターには、例えば、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリル、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606;Wyeth−Ayerst Researchから入手可能である)が含まれる。SKI−606は1.2nMでSrcを抑制すると報告されている(Boschelliら,J.Med.Chem.,2001,44:3965−3977)。本発明の方法において有用な4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターの具体例は米国特許公開第2001/0051520号および第2002/00260052号(それらの関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターはBoschelliら,J.Med.Chem.,2001,44:3965−3977(その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。特に好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターは、式(I)に示す一般構造を有する。
【0031】
式(I):
【0032】
【化4】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である;好ましくは、R1は−(CH2)n−Zであり、X1およびX2は共にクロロであり、X3はメトキシであり、nは3であり、Zは4−モルホリニルである(すなわち、SKI−606)]。
【0033】
本発明の方法および組成物において有用な他の具体的なSrcキナーゼインヒビターには、Parke Davisにより開発されたPD162531(Owensら,MoI.Biol.Cell 11:51−64(2000))が含まれるが、その構造は文献からは入手できない。
【0034】
1つの好ましい実施形態においては、Srcインヒビターはピラゾロピリミジンインヒビター、好ましくはAGL1872およびAGL1879、最も好ましくはAGL1872である。もう1つの好ましい実施形態においては、Srcインヒビターは4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル、好ましくは4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルまたは4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606として公知である)である。
【0035】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。該ATP模擬ヘテロ芳香族部分はSrcファミリーチロシンキナーゼのATP結合ポケットに結合し、一方、疎水性基は、ATP結合ポケットに隣接した疎水性ポケットに嵌まり込むサイズを有する。ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、例えば、Dalgarnoら,Curr.Opin.in Drug.Discovery andDevel,2000;3(5):549−564に記載されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0036】
好ましいクラスのATP模擬へテロ芳香族部分には、5−フェニル−ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン化合物が含まれ、疎水性基は該フェニル基である。好ましいフェニル基には、4−メチルフェニル、4−ハロフェニル(例えば、4−クロロフェニル)などが含まれる。特に好ましい5−フェニル−ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、AGL1872(その疎水性基は4−メチルフェニルである)およびAGL1879(この場合の疎水性基は4−クロロフェニルである)が含まれる。
【0037】
もう1つのクラスのATP模擬へテロ芳香族部分には、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル化合物が含まれ、疎水性基は該アニリノ基である。好ましいアニリノ基には、4−ハロ−置換アニリノ基、例えば2,4−ジクロロアニリノ、2,4−ジフルオロアニリノ、4−クロロアニリノなどが含まれる。特に好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、SKI−606などが含まれる。
【0038】
他の適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、当技術分野で公知の標準的なアッセイを用いて同定し特徴づけることが可能である。例えば、Srcまたは他のチロシンキナーゼに対する強力かつ選択的なインヒビターに関する化合物のスクリーニングが行われており、Srcファミリーチロシンキナーゼの強力なインヒビターにおいて有用な化学的部分の同定がもたらされている。
【0039】
例えば、カテコールは、天然物由来の多数のチロシンキナーゼインヒビターにとって重要な結合要素として同定されており、c−Srcの選択的インヒビターに関するコンビナトリアル(組合せ)標的誘導選択により選択された化合物中で見出されている。Malyら,“Combinatorial target−guided ligand assembly:Identification of potent subtype−selective c−Src inhibitors”PNAS(USA)97(6):2419−2424(2000)を参照されたい。Srcの抑制に重要であることが知られている部分を出発点として使用する、候補インヒビター化合物の、コンビナトリアルケミストリーに基づくスクリーニングは、他のSrcファミリーチロシンキナーゼ化学的インヒビターを単離し特徴づけるための強力かつ有効な手段である。
【0040】
しかし、ポリペプチドおよび核酸上に存在する多種多様な官能性を模擬するための潜在性に基づく潜在的結合要素の注意深い選択が、活性インヒビターに関するコンビナトリアルスクリーニングを行うために用いられうる。例えば、O−メチルオキシムライブラリーは、このライブラリーがO−メチルヒドロキシルアミンと多数の商業的に入手可能な任意のアルデヒドとの縮合により容易に製造される場合には、この目的に特に適している。O−アルキルオキシムの形成は、生理的pHにおいて適した多種多様な官能性に適している。Malyら,前掲を参照されたい。
【0041】
本発明を例示する方法により治療されうる哺乳動物は、望ましくはヒトであるが、本発明の原理は、本発明が非ヒト哺乳動物にも有効であることを示していると理解されるべきである。この場合、哺乳動物は、ヒトだけでなく、血管の漏れ又は浮腫に関連した組織損傷の治療が望ましい任意の哺乳動物種、農業用および家畜用哺乳動物種をも含むと理解される。
【0042】
好ましい治療方法は、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcの化学的(すなわち、非ペプチド)インヒビターを含有する生理的に許容される組成物の治療的有効量を心筋梗塞に罹患した哺乳動物に投与することを含む。
【0043】
心筋梗塞の好ましい予防方法は、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcの化学的(すなわち、非ペプチド)インヒビターを含有する生理的に許容される組成物の予防量を、心筋梗塞のリスクのある哺乳動物に投与することを含む。
【0044】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばAGL1872またはSKI−606の投与のための投与量範囲は約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重の範囲、または医薬担体中の活性物質の溶解度の限界量でありうる。好ましい投与量は約1.5mg/kg体重である。本発明を例示する医薬組成物は経口的にも投与されうる。経口投与のための例示的な剤形には、カプセル剤、腸溶コーティングを伴う又は伴わない錠剤などが含まれる。
【0045】
急性の損傷または外傷の場合には、その出来事が生じた後、可能な限り早く治療投与を行うのが最善である。しかし、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの有効な投与のための時間は、急性の発生の場合には、損傷または外傷の発生から約48時間以内でありうる。発生から約24時間以内に投与を行うのが好ましく、6時間以内がより好ましい。最も好ましくは、損傷から約45分以内にSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを患者に投与する。最初の損傷の48時間後の投与は、更なる血管の漏れ又は浮腫による更なる組織損傷を改善するのに適切でありうる。しかし、そのような場合には、最初の組織損傷に対する有益な効果は低下しうる。
【0046】
外科的処置に関連した心筋梗塞を予防するために又は体質的診断基準の観点から予防投与を行う場合には、いずれかの実際の冠状血管閉塞の前またはそのような閉塞を誘発する事象(例えば経皮的心血管介入、例えば冠状血管形成術)中に投与を行うことが可能である。冠状血管閉塞を招く慢性状態の治療のためには、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの投与を連続的投与計画で行うことが可能である。
【0047】
一般に、投与量は、年齢、状態、性別および患者が罹患している損傷の程度によって異なることがあり、当業者により決定されうる。投与量は、いずれかの合併症の場合、個々の医師によっても調節されうる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、注射により、または時間経過と共に徐々に注入することにより、非経口投与される。治療すべき組織へは、典型的には、全身投与により体内で到達させることが可能であり、したがって、十中八九は、治療用組成物の静脈内投与により治療されうるが、標的組織が標的分子を含有する可能性がある場合には、他の組織および運搬手段が予想される。したがって、本発明の組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮的、経口的に投与されることが可能であり、蠕動性手段によっても運搬されうる。
【0049】
静脈内投与は、例えば、単位用量の注射により行われる。本発明の治療用組成物に関して用いる「単位用量」なる語は、対象への単位投与として適した物理的に分離した単位を意味し、各単位は、所望の治療効果が得られるよう計算された活性物質の所定量と、必要な希釈剤、すなわち、担体またはビヒクルとを含有する。
【0050】
1つの好ましい実施形態においては、1回の静脈内投与で活性物質を投与する。局所投与は、直接的な注射により、あるいは解剖学的に隔離された区画の利用、標的器官系の微小循環の隔離、循環系内の再潅流、または疾患組織に関連した血管系の標的領域の、カテーテルに基づく一過性閉塞により達成されうる。
【0051】
該医薬組成物は、投与製剤に適合した様態で、かつ、治療的有効量で投与される。医薬組成物に関して本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「治療的有効量」および「予防量」なる語は、臨床家が求めている対象の生物学的または医学的応答(例えば、組織損傷の改善または心筋梗塞の予防)を惹起する医薬組成物の量を意味する。
【0052】
投与すべき量および時機は、治療すべき対象、対象の系の有効成分利用能および所望の治療効果の程度によって異なる。投与すべき有効成分の厳密な量は臨床家の判断によって決定され、各個体に特有のものである。しかし、全身適用のための適当な投与量範囲は本明細書中に開示されており、投与経路によって異なる。適当な投与計画も多種多様であるが、典型的には、皮下注射または他の投与(例えば、経口投与)による、初回投与およびそれに続く1時間以上の間隔での反復投与によるものである。あるいは、インビボ療法用に定められた範囲内に血中濃度を維持するのに十分な連続的静脈内注入が意図される。
【0053】
種々の形態の冠状疾患に関連した冠状血管閉塞による又は心臓の損傷もしくは外傷による組織損傷を改善する本発明の方法は、該疾患の症状を改善し、該疾患に応じて、該疾患の治癒に寄与しうる。組織における壊死の度合、したがって、本方法により達成される抑制の度合は、種々の方法により評価されうる。特に、本発明の方法は心筋梗塞の治療に著しく良く適している。
【0054】
冠状血管閉塞による組織損傷の改善は、該治療用組成物の投与後の短時間のうちに生じうる。ほとんどの治療効果は、急性損傷または外傷の場合には投与の24時間後には可視化されうる。しかし、慢性投与の効果はそれほど容易には認識されないであろう。
【0055】
時間限定要因には、組織吸収の速度、細胞取り込み、タンパク質輸送または核酸翻訳(治療によって異なる)およびタンパク質標的化が含まれる。したがって、組織損傷モジュレーション効果は該インヒビターの投与の時点から僅か1時間のうちに生じうる。また、心臓組織は、適当な条件を用いてSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターに対する追加的な又は延長された暴露に付されうる。したがって、そのようなパラメーターを修飾することにより、種々の所望の治療時間枠が設計されうる。
【0056】
E.治療用組成物
本明細書に記載のSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは心筋梗塞の治療用の医薬を製造するために使用されうる。該インヒビターは、本明細書に記載の治療および予防方法を実施するのに有用な医薬組成物中に含まれうる。本発明の医薬組成物は、生理的に許容される担体を、有効成分としてそれに溶解または分散された本明細書に記載の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターと共に含有する。好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、ヒトのような哺乳動物患者に治療目的で投与された場合に免疫原性ではない。
【0057】
本明細書中で用いる「医薬上許容される」および「生理的に許容される」なる語ならびにそれらの文法的派生語は、それらが組成物、担体、希釈剤および試薬に関して用いられている場合には、互換的に用いられ、それらの物質が、悪心、眩暈、胃障害などのような望ましくない生理的作用の発生を伴うことなく哺乳動物に投与されうることを表す。
【0058】
それに溶解または分散された有効成分を含有する医薬組成物の製造は当技術分野でよく理解されており、製剤化に基づいて限定される必要はない。典型的には、そのような化合物は、注射剤、液体溶液剤または懸濁剤として好ましい。使用前に液体に加えられる、溶液剤(水剤)または懸濁剤に適した固体形態も製造されうる。また、該製剤は乳化されることが可能であり、あるいはリポソーム組成物として提供されうる。
【0059】
該有効成分は、本明細書に記載の治療方法における使用に適した量で、該有効成分に適合しうる医薬上許容される賦形剤と混合されうる。適当な賦形剤としては、例えば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びそれらの組合せが挙げられる。また、所望により、該組成物は、該有効成分の有効性を増強する例えば湿潤または乳化剤、pH緩衝化剤などのような、ある量の補助物質を含有しうる。本発明の治療用組成物は、それに含まれる活性成分の医薬上許容される塩を含みうる。医薬上許容される塩には、無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば酢酸、酒石酸、マンデル酸などと共に形成される酸付加塩(該ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)が含まれる。また、遊離カルボキシル基と共に形成される塩は、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄、および有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導されうる。
【0060】
生理的に許容される担体は当技術分野でよく知られている。液体担体の典型例としては、有効成分および水以外にはいずれの物質も含有しないか又は緩衝剤、例えば生理的pH値のリン酸ナトリウム、生理食塩水またはそれらの両方(例えば、リン酸緩衝食塩水)を含有する無菌水性溶液が挙げられる。さらに、水性担体は、2以上のバッファー塩、ならびに塩化ナトリウムおよびカリウム、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有しうる。
【0061】
液体組成物は、水に加えて又は水を除外して、液相をも含有しうる。そのような追加的な液相の典型例としては、グリセリン、植物油、例えば綿実油および水−油エマルションが挙げられる。
【0062】
本発明の化学的治療用組成物は、生理的に許容される担体を、有効成分としてそれに溶解または分散されたSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターと共に含有する。
【0063】
適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターはSrcファミリーチロシンキナーゼの生物学的チロシンキナーゼ活性を抑制する。より適当なSrcファミリーチロシンキナーゼは、Srcタンパク質の活性を抑制するための主要特異性を有し、副次的に、最も密接に関連したSrcファミリーチロシンキナーゼを抑制する。
【0064】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、前記のとおりATP模擬へテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。
【0065】
F.製造物品
本発明はまた、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの治療的有効量を提供するためのラベル付きの容器である製造物品を含む。該インヒビターは、単一の包装(パッケージ)された化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターまたは2以上のインヒビターの組合せでありうる。製造物品は、包装(パッケージ)材と、該包装材中に含有された医薬物質とを含む。該製造物品は、冠状血管閉塞による組織損傷の改善をもたらすよう一緒になって相乗的に作用する2以上の治療的有効量未満の医薬組成物をも含有しうる。
【0066】
本明細書中で用いる包装材なる語は、固定された手段内に医薬物質を保持しうる例えばガラス、プラスチック、紙、フォイルなどのような物質を意味する。したがって、例えば、該包装材は、該医薬物質を含む医薬組成物を含有させるために使用されるプラスチックまたはガラスバイアル、積層外囲容器(laminated envelope)などの容器でありうる。
【0067】
好ましい実施形態においては、該包装材は、該製造物品内の内容物およびそれに含有される医薬物質の用途を記載した明確な表示であるラベルを含む。
【0068】
製造物品内の医薬物質は、開示されている適応に応じて本明細書に記載の医薬上許容される形態に製剤化されたSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを提供するのに適した本発明の任意の組成物である。本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンなど;大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなど;ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばPD173955など;4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばSKI−606など;およびそれらの混合物が含まれる。該製造物品は、本明細書中に示されている状態の治療における使用に十分な量の医薬物質を単位投与量または複数投与量で含有する。
【0069】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、前記のとおりATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。
【0070】
該包装材は、それに含有される医薬物質の用途(例えば、本明細書に開示されている、血管透過性上昇の抑制により補助される状態などの治療)を示すラベルを含む。該ラベルは更に、販売に要求されうる、用途および関連情報に関する指示を含みうる。該包装材は該医薬物質の貯蔵のための容器を含みうる。
【0071】
実施例
本発明に関する以下の実施例は例示的なものであり、もちろん、本発明を特に限定するものと解釈されるべきではない。さらに、当業者の認識範囲内である、現在公知の又は後に開発される、本発明の変更は、特許請求されている本発明の範囲内に含まれるとみなされるべきである。
【実施例1】
【0072】
VEGF媒介性VP活性はSrcおよびYesに依存性であるがFynには依存性でない
Srcと同様に内皮細胞内で発現されることが知られている(Bullら,FEBS Letters,361:41−44(1994);Kieferら,Curr.Biol.4:100−109(1994))FynまたはYesのようなSFKに関連したVEGF誘発性VP活性を調べることにより、VPのSrc要求性の特異性を調べた。これらの3つのSFKは野生型マウスの大動脈内で同等に発現されることが確認された。src−/−マウスと同様に、Yesを欠損した動物もVEGF誘発性VPを欠損していた。しかし、驚くべきことに、Fynを欠くマウスは、対照動物と有意には異ならないVEGFに応答する高いVPを保有していた。src−/−またはyes−/−マウスにおけるVEGF誘発性VPの阻害は、特異的なSFKのキナーゼ活性が、血管新生ではなくVP活性を招くVEGF媒介性シグナリング事象に必須であることを示している。
【0073】
src+/−(図5A、左パネル)またはsrc−/−(図5A、右パネル)マウスの皮膚におけるVEGFの血管透過性特性を、エバン(Evan)青色色素を静脈内注射したマウスへの食塩水またはVEGF(400ng)の皮内注射により判定した。15分後、皮膚パッチを写真撮影した(縮尺を示す棒線:1mm)。星印は注射部位を示す。VEGF、bFGFまたは食塩水の注射部位を包囲する領域を解剖し、58℃で24時間にわたるホルムアミド中のエバン青色色素の溶出によりVPを定量的に測定し、500nmの吸光度を測定した(図5B、左グラフ)。炎症関連VPを誘発することが知られている炎症メディエーター(アリルイソチオシアナート)の能力をsrc+/−またはsrc−/−(図5B、右)において試験した。
【0074】
VPを誘発するVEGFの能力をsrc−/−、fyn−/−またはyes−/−マウスにおいてマイルス(Miles)アッセイで比較した(図5C)。該マイルスアッセイのそれぞれのデータは3通りの動物の平均±SDとして表されている。対照動物と比較したsrc−/−およびyes−/−VP欠損は統計的に有意であったが(*p<0.05、一対t検定)、VEGF処理fyn−/−マウスおよびアリルイソチオシアナート処理src+/−マウスのどちらのVP欠損も統計的に有意ではなかった(**p<0.05)。
【実施例2】
【0075】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター処理マウスおよびSrc−/−マウスは、未処理野生型マウスに比べて軽減した、血管に対する外傷または損傷に関連した組織損傷を示す
Srcファミリーキナーゼのインヒビターは、血管損傷または障害(例えば、卒中)の後の病的な血管の漏れ及び透過性を軽減する。血管内皮は、腫瘍の血管新生中の新たな血管の出芽のような過程を調節する多数の刺激、卒中誘発性浮腫および組織損傷中の血管壁の透過性の調節に応答する動的な細胞型である。
【0076】
2匹のマウス卒中モデルにおけるSrc経路の薬物抑制による血管透過性の低下は、虚血により誘発された血管の漏れを軽減することにより脳損傷を抑制するのに十分なものである。さらに、血管の漏れ/透過性の低下を伴う、Srcが遺伝的に欠損したマウスにおいては、梗塞体積も減少する。合成Src抑制データと、卒中および他の関連モデルにおける血管の漏れの低下を裏付ける遺伝的証拠との組合せは、卒中後の脳損傷の軽減におけるこのアプローチの生理的妥当性を示している。これらのシグナリングカスケードの、ある範囲の利用可能なSrcファミリーキナーゼインヒビターでの、これらの経路の抑制は、血管透過性関連組織損傷から生じる脳損傷を軽減するという治療的有益性を有する。
【0077】
限局性(focal)脳虚血を誘発するための2つの異なる方法を用いた。限局性脳虚血のどちらの動物モデルも十分に確立されており、卒中の研究に広く使用されている。どちらのモデルも、脳虚血の病態生理を調べるために及び新規抗卒中薬を試験するために既に使用されている。
【0078】
(a)マウスを2,2,2−トリブロモエタノール(AVERTIN(商標))で麻酔し、該動物を加熱パッド上に置くことにより体温を維持した。右耳と右眼との間に切開を施した。側頭筋の退縮により頭蓋を露出させ、中大脳動脈(MCA)の上方の領域にドリルで小さなバー孔を開けた。髄膜を除去し、加熱フィラメントを使用する凝固により右MCAを閉塞させた。該動物を回復させ、それらの檻に戻した。24時間後、脳を潅流に付し、摘出し、1mmの横断切片に切断した。該切片を2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)の2%溶液に浸漬した。可視化された(赤色)組織により包囲された未染色(白色)組織として梗塞脳領域が確認された。該切片の未染色面積の和にそれらの厚さを掛け算したものとして、梗塞体積を定義した。
【0079】
脳虚血におけるSrcの役割を調べるために、Src欠損マウス(Src−/−)を使用した。Src+/−マウスを対照として使用した。本発明者らは、Src−/−マウスにおいては、該発作の24時間後に梗塞体積が26±10mm3から対照における16±4mm3へと減少することを見出した。血管閉塞の30分後にC57B16野生型マウスに1.5mg/kgのAGL1872を腹腔内(i.p.)注射した場合に、該効果はより一層顕著であった。梗塞サイズは未処理群における31±12mm3からAGL1872処理群における8±2mm3へと減少した。
【0080】
(b)限局性(focal)脳虚血の第2のモデルにおいては、MCAの起点部に塞栓を配置することによりMCAを閉塞させた。単一の無傷のフィブリンに富む24時間が経過した均一な血餅を、改造されたPE−50カテーテルを使用して、MCAの起点部に配置した。対側性半球と比較した場合の同側半球における脳血流の低下により、脳虚血の誘発が証明された。24時間後、脳を摘出し、連続切片を調製し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色した。連続HE切片中の梗塞面積に各切片間の距離を掛け算したものを足し合わせることにより、梗塞体積を求めた。
【0081】
この研究に用いたAGL1872の投与量(1.5mg/kg i.p.)は実験により選択された。VEGFは、脳内で脳虚血の約3時間後(最大で12〜24時間後)に最初に発現されることが公知である。この研究においては、VEGF誘発性血管透過性上昇を完全に阻止するために、梗塞の発生の30分後にAGL1872を投与した。典型的なVEGF発現の時間経過に従えば、Srcインヒビターの投与のための可能な治療的好機は卒中後の12時間まででありうる。血管透過性の持続的増加を伴う疾患においては、Src抑制薬の慢性投与が適している。
【0082】
図6は、損傷後のマウス脳における平均梗塞体積(mm3)の比較結果を示すグラフであり、この場合、マウスは、ヘテロSrc(Src+/−)、ドミナントネガティブSrc突然変異体(Src−/−)、野生型マウス(WET)、または1.5mg/kgのAGL1872で処理された野生型マウスであった。
【0083】
図7は、CNS損傷を誘発するための処理の後の隔離された潅流マウス脳の連続的MRIスキャンの実例を示し、この場合、AGL1872処理動物(右)におけるスキャンの進行は、対照未処理動物(左)におけるスキャンの進行より軽度の脳梗塞を明らかに示している。
【実施例3】
【0084】
梗塞周囲領域における血管の完全性および筋細胞生存度に対するMIの効果
VEGF注射後または虚血の3〜24時間後の8〜12週齢のマウスから心臓組織を調製し、梗塞、梗塞周囲および遠隔領域を切片化した。組織を、4%パラホルムアルデヒド+1.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1M ナトリウムカコジラートバッファー(pH7.3)中で2時間固定し、5%グルタルアルデヒドに一晩、ついで1%オスミウムテトラオキシドに1時間移した。断片を洗浄し、脱水し、プロピレンオキシド中できれいにし、Epon/Aralditeに浸透させ、樹脂中に包埋した。極薄切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色し、Philips CM−100透過型電子顕微鏡を使用して観察した。
【0085】
表1は、透過型電子顕微鏡検査を用いて検査した250個/群の血管の観察の要約を示す。正常心筋組織とは対照的に、梗塞罹患組織においては梗塞周囲領域内に多数の損傷例が観察された。周辺血管から流出したらしい血管外遊出血液細胞(RBC、血小板および好中球)が間質に存在した。いくつかの内皮細胞(EC)は膨張し、血管内腔の一部を閉塞させ、しばしば、電子光を示し、多数の小胞を含有していた。内皮には大きな丸い空胞が存在し、それらはしばしば、ECの厚さより数倍大きかった。筋細胞損傷はMI後の時間と共に増加し、ミトコンドリア破裂、異常なミトコンドリアクリスタ、細胞内浮腫および筋フィラメント崩壊として確認され、隣接細胞間で様々であった。最も損なわれた筋細胞は、しばしば、損傷血管または遊離血液細胞に隣接していた。本発明者らはしばしば、24時間後に好中球をMIの観察した。好中球は損傷に対する急性応答に関与し、VEGF産生に寄与しうる。
【0086】
【表1】
【0087】
各群について、透過型電子顕微鏡上で左心室組織を4時間にわたって(約250個の微小血管)検査し、観察結果を計数し、以下のとおりに分類した。
【0088】
(a)EC関門機能不全: 間隙、穿孔、血管外遊出血液細胞;
(b)血小板活性化/接着: 血小板、脱顆粒血小板、血小板集塊、ECMへの血小板接着;
(c)EC損傷: 電子光、膨張したEC、大きなEC空胞、血管内腔の閉塞;および
(d)心臓損傷: ミトコンドリア膨張、異常クリスタ、筋フィラメント崩壊。
【0089】
MIの3時間後、隣接EG間に間隙がしばしば観察された。これは周辺間質腔への血液細胞の血管外遊出を説明しうるものであろう。驚くべきことに、該間隙の多くは血小板により塞がれていた。いくつかの血小板は、EC間に露出した基底板に接触し、一方、他の場合には、基底板が破壊されているようであった。血小板のいくつかは脱顆粒し、循環血小板の更なる活性化、接着および凝集を増強していた可能性がある。これらの血小板プラグは更なる血管の漏れを自然に防いでいた可能性があるが、それらは、微小血栓により、小さな血管における潅流の低下を引き起こしていた可能性があり、これは、更なる虚血関連組織疾患を招きうるであろう。
【実施例4】
【0090】
MIおよび全身VEGF注射は同様の血管応答をもたらす
複雑な病理またはMIに対するVEGFの寄与を確認するために、VEGFを正常マウスに筋肉内注射し、30分後に超微細構造レベルで心臓組織を評価した。驚くべきことに、VEGF誘発性内皮関門機能不全および血管損傷の度合は、MI後に梗塞周囲領域で見られるものと比較しうるものであった(表1)。EC基底膜に対する相当な血小板接着および筋細胞損傷が観察された。全身VEGF注射後にも脳における損傷の同様の証拠が見出された。このことは、これらの効果が全身性でありうることを示唆している。これらの結果は、VEGF媒介性VPがMI後の血管への影響の多くに対応していることを示している。
【0091】
VEGFが、MIに関連した、より長期の病理を媒介するのに十分であるかどうかを確認するために、VEGFを2時間にわたってマウスに4回注射した。この処理は、MIの24時間後に観察されるのに類似した損傷を引き起こした。血小板接着、好中球および有意な筋細胞損傷ならびに多数の電子光輝EC(それらの多くは膨張していて血管内壁を閉塞していた)が見出された。総合すると、VEGFに対する30分間の暴露は、MIの3時間後(その時点までに梗塞周囲領域におけるVEGFの発現は有意に上昇した)に観察されるものに類似した超微細構造を誘導するのに十分なものであった。より長期のVEGF暴露は、MIの24時間後に組織において見られるものに類似した血管リモデリングを惹起した。
【0092】
Src欠損マウスがMI後に防御され、局所VEGF注射後に皮膚および脳においてVPを欠いていたという事実は、Src欠損マウスが心臓におけるVEGF誘発性VPから免れたことを示唆している。Srcインヒビターの結果と一致して、pp60Src−/−マウスにおいては、野生型マウスにおける間隙、血小板活性、損なわれたECおよび血管外遊出血液細胞と比較して、VEGF注射後に血管応答の徴候は何ら見られなかった(表1)。すべての応答の完全な遮断は、VEGF媒介性Src活性が、虚血疾患中にVP誘発性損傷を招くカスケードを始動させることを示唆している。
【実施例5】
【0093】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター処理ラットおよびSrc−/−マウスは、未処理野生型マウスの場合と比較して軽減された、冠状血管に対する外傷または損傷に関連した組織損傷を示す
虚血モデル
梗塞サイズ、心筋水含量、磁気共鳴画像、心エコー機能および線維症組織実験の分析のために、本発明者らは、記載されているとおりに左前下行(LAD)冠状動脈の永久的閉塞を有する急性MIのラットモデルを使用した。永久的LAD閉塞後の梗塞サイズ、浮腫および組織超微細構造に対するSrc遮断の効果を評価するために、MIの同様のマウスモデルを使用した。すべての研究に、8〜12週齢の成体雄マウスを使用した。ただし、生存に対するSrc抑制の効果を試験するための重症MIのモデルとしては、2歳のC57/ByJマウスを使用した。一過性虚血中の梗塞サイズに対するSrc抑制の効果を、60(SKI−606)または45(AGL1872)分間の一過性LAD閉塞を有するラット虚血/再潅流モデルを使用して試験した。60分後に試験物質を投与し、24時間後に梗塞サイズを測定した。成体雄Sprague−Dawleyラット(Harlan,Indianapolis,Indiana,USA)およびC57/ByJ pp60Src−/−およびpp60Src+/−マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Maine,USA)を維持し、承認されている動物対象(Animal Subjects)プロトコールに基づいて使用した。
【0094】
梗塞サイズ
24時間後、10%エバンス(Evans)ブルー(Sigma,St.Louis,Missouri,USA)を、犠死させる前に静脈内注射した。心臓を摘出し、閉塞LAD縫合の遠位に3つの同等の切片に、そして近位に1つの切片を切断した。リスクのある非潅流領域を評価するために、NIH Imageソフトウェアを使用して、遠位切片をデジタル化した。虚血領域を描くために、切片を2%トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma,St.Louis,Missouri,USA)で染色した。この方法は組織学的測定と良く相関する。可変性を排除するために、梗塞サイズは、リスクを有する領域の割合(%)として表される。
【0095】
水含量および心臓機能
この研究においては、MIの24時間後の麻酔されたラットに対して連続的に行う、4.7−TMRスキャナー(Bruker,Billerica,Massachusetts,USA)を使用するMRIを用いて、インビボ水含量を評価した。永久的LAD閉塞の45分後、成体雄ラットにAGL1872(5.0mg/kg i.p.)、SKI−606(5.0mg/kg i.v.)またはビヒクルを投与した。ECGおよび呼吸誘発性マルチエコー・スピン・エコー配列(エコー数,8;エコー時間,6.6ms;スライスの厚さ,1.0mm;平面内分解能,430μm2;総スライス,6〜7)を適用することにより心筋層のT2値を定量するためのMRI実験を行った。誘発遅延(trigger delay)は、エコー間の運動アーチファクトを除去するために完全拡張中のすべてのエコーが捕捉されるように選択した。通常に潅流された心筋層のT2値は約27±6.3msである。スピンエコー配列の関心評価領域に関する血液/心筋層境界を明らかに描くために、対応する勾配エコーイメージを各スライスについて得た。T2>40ms(通常に潅流された心筋層の平均を超える2つの標準偏差)を有する領域を描き、全LV心筋体積に対する比率(%)として体積を計算した。また、近位心臓切片のエクスビボ心筋水含量を、80℃で24時間のインキュベーションの後の初期湿潤および乾燥重量間の差(%)として測定した。MIの前(ベースライン)および4週間後のLV機能を評価するために、経胸的心エコー法(SONOS 5500,Agilent Technologies,Palo Alto,California,USA)を行った。この分析のために、ラットを0.6ml/kgのケタミンで腹腔内に麻酔した。Schillerら J.Am.Soc.Echocardiogr.1989,2:358−367に既に記載されているとおりに、局部的壁運動スコアを計算した。
【0096】
線維症組織
線維症組織の組織病理学的分析のために、機能的分析後に心臓を摘出し、弾性三色(elastic trichrome)で染色しコンピューターに基づく面積測定を行うことにより線維症組織の体積および外周を測定した。群間の末端拡張期径および肥大における相違の寄与を除外するために、LV面積の割合(%)およびLV外周の割合(%)として、線維症組織の量を測定した。
【0097】
インビボ透過性モデル
8〜12週齢の成体マウスに、100μlのVEGFまたはbFGF(PBS中、0.2mg/kg;PeproTech,Rocky Hill,New Jersey,USA)の注射の5分前に、50μlのSrcインヒビターAGL1872(PBS/DMSO中、1.5mg/kg)をi.v.注射した。適当な時点で、心臓を迅速に切開し、3mlのRIPA細胞溶解バッファー中でホモジナイズし、タンパク質濃度を測定した(BCA Protein Assay;Pierce,Rockford,Illinois,USA)。
【0098】
免疫沈降および免疫ブロット法
Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,California,USA)またはBiosource,International(Camarillo,California,USA)からの抗体:Flk(sc315)、VE−カドヘリン(sc6458)、β−カテニン(sc7963)、P−チロシン(sc7020またはsc508)、P−Src−Y418(B44−660)およびP−FAK−Y861(B44−626)での免疫沈降および免疫ブロット法(Eliceiriら Mol Cell 1999,4:915−924に記載されているとおり)のために、組織ライセートを調製した。少なくとも3つの別々の実験からの代表的なデータを記載する。
【0099】
データは平均±SEMとして示されており、統計的有意性はStudent(商標)t検定により測定した(P<0.05)。
【0100】
図11は、エオシン色素で染色(生体染色)されたAGL1872処理ラット心臓組織(左)および対照ラット心臓組織(右)の光学顕微鏡イメージを示す。対照組織(右上イメージ)は該組織の周辺に大きな壊死領域を示す。これとは対照的に、処理組織(左上イメージ)は壊死組織をほとんど示していない。
【0101】
図12は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての、処理の24時間後の梗塞サイズ(単位は組織のmg)の棒グラフを示す。約1.5mg/kgの投与量で抑制の最適レベルが達成された。約3mg/kgの投与量は梗塞サイズにおける有意な減少を引き起こさなかった。
【0102】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター(AGL1872)での処理は術後24時間以内に用量依存的に梗塞サイズおよびリスク領域の減少を引き起こした。虚血の誘発の約45分後に投与した該インヒビターの約1.5mg/kgの投与量で梗塞サイズにおける約68%(p<0.05)の最大抑制が達成された(図13)。該インヒビターは、虚血の誘発の約6時間後に投与した場合にも有効であり、この場合、梗塞サイズにおける約42%の減少を引き起こした(p<0.05)。免疫組織化学的分析による測定では、AGL1872によるSrc抑制は虚血組織におけるVEGF発現を妨げなかった。梗塞サイズの減少は心筋水含量の減少(約5%+/−1.3%;p<0.05)および浮腫組織の体積の減少(MRIでの検出による)を伴っており、このことは、Src抑制の有益な効果がVEGF媒介性VPの阻害に関連していることを示している(図14)。術後約4週間後に心エコーにより評価した場合の駆出短縮(fractional shortening)は、対照においては約29%、処理ラットにおいては約34%であった(p<0.05)。重要なことに、その4週間における生存率は処理ラットでは意外に高く(100%)、一方、対照ラットでは約63%であった。
【0103】
浮腫をインビボで厳密にモニターするために、高分解能MRIを用いて、永久的な左前下行(LAD)閉塞後にSrcインヒビターAGL1872もしくはSKI−606で処理された又は処理されていないラットの心臓組織を評価した。それらの水含量の増加のため、浮腫領域は一般には、非浮腫領域より長いT2緩和時間を有する。浮腫を定量するために、T2>49ms(通常に潅流された心筋層の平均を超える2つの標準偏差より大きい)を有する領域を描いた。虚血の発生の1時間後、T2強調シグナリングにより示されるSrc抑制は初期細胞毒性浮腫に影響を及ぼさなかった。しかし、24時間後、コンピューター化T2地図は、ビヒクルの場合と比較して、AGL1872による梗塞関連心筋浮腫における47%の減少を示した(n=2 AGL1872群、n=1 ビヒクル群)。この結果は、非虚血心筋層の湿潤/乾燥重量を使用してエクスビボでコンピューター化された心筋水含量に相関している。AGL1872は浮腫および梗塞サイズにおける用量依存的減少をもたらし、最大減少は1.5mg/kgで生じた(各群n>5、P<0.001)。SKI−606も、マウスおよびラットにおいて永久的閉塞後に投与した場合に梗塞サイズにおける有意な減少をもたらした。この応答の速度論を評価するために、AGL1872を閉塞後の種々の時点で投与した。最大の効果(50%小さい梗塞サイズ)は閉塞の45分後の投与により達成されたが、6時間後の処理は尚も25%の防御をもたらした(各群n=5、P<0.05)。
【0104】
心エコーは、Src抑制が、未処理ラットと比較して、駆出短縮(fractional shortening)および拡張期左心室(LV)直径の有意な維持を4週間にわたってもたらすことを示しており、このことは、救われた組織における収縮機能が長期にわたって維持されたことを示している。Src抑制は収縮期LV直径および局部的壁運動にも好ましい効果を示した(表2)。また、SKI−606 Srcインヒビターでの処理は、駆出短縮および局部的壁運動スコアに好ましい影響を及ぼした(各群n=7、P<0.01)。MI後の生存度を評価するために、LAD結紮後に相当な致死性(>40%)により特徴づけられるモデルとして2歳のC57黒色マウスを使用した。MIの45分後のAGL1872(1.5mg/kg)の投与は、最初の4週間以内で、対照と比較して生存度を上昇させ(処理群91.7%、対照群58.3%、各群n=12)、このことはSrc抑制の長期的な療法効果を示している。
【0105】
【表2】
【0106】
SKI−606での処理は、24時間後にも駆出短縮および局部的壁運動スコアに好ましい影響を及ぼした(各群n=7、P,0.01)。
【0107】
慢性心筋線維症は梗塞後に生じ、MI後の組織壊死の度合を直接的に反映する。ラットにおけるMIの4週間後の線維症に対するSrc抑制の効果を評価するために、弾性三色(elastic trichrome)染色を用いて線維症組織の組織病理学的分析を行った。Src抑制は、対照と比較して、LV線維症組織における52%の減少をもたらした(19.1±2.2%対40.0±3.0%、各群n=4、P<0.01)。Srcインヒビターを投与したサンプルにおいては、心筋線維およびLV構造の、一貫して、より良好な維持が観察された。このことは、Src抑制が、MI後の心筋層に対して長期的な予防効果をもたらすことを示している。
【0108】
一過性虚血後のSrc抑制の有効性を確認するために、ラットを閉塞に付し、ついで再潅流に付し、ついで24時間後に心室機能および梗塞サイズに関して評価した。AGL1872によるSrc抑制は、対照と比較して、左心室(LV)駆出短縮および梗塞サイズの減少を維持した(各群n=4、P<0.05)。虚血再潅流後の梗塞サイズにおける18%の減少は、VEGF発現を導く低酸素刺激が維持される永久的閉塞後の50%の減少に匹敵する。また、SKI−606(5mg/kg)は虚血−再潅流モデルの梗塞サイズにおける43%の減少をもたらした(各群n=5、P<0.01)。総合すると、このデータは一過性虚血後のSrc抑制の有益な効果を示している。
【0109】
考察
マウスにおいては、VE−カドヘリン抗体の全身投与は、心臓および肺におけるVP、間質浮腫ならびに露出基底膜の局所性斑点(これらは、VEGF投与後に観察される損傷と超微細構造レベルで類似していると思われる)を引き起こした。マウス胚においては、β−カテニン−ヌル血管は、頻繁な出血に関連した、穿孔を有する平坦な内皮細胞を含有する。これまでのインビトロ研究はVEGFをVE−カドヘリン機能の調節に関連づけている。流動条件下のECにおいては、VE−カドヘリンはFlkと複合体を形成している。VE−カドヘリン−VEGF複合体をインビボで評価するために、VEGFを注射した又は注射しなかったマウスから心臓ライセートを調製した。これらのライセートを抗Flkでの免疫沈降、およびそれに続く、VE−カドヘリンおよびβ−カテニンに関する免疫ブロット法に付した。対照マウスにおいては、血管内のFlk、β−カテニンおよびVE−カドヘリンの既存複合体が観察された。この複合体はVEGF刺激の2〜5分以内に急速に破壊され、15分までには血管内でインビボで再集合していた。該複合体の解離に関する時間スケールはFlk、β−カテニンおよびVE−カドヘリンリン酸化ならびにVE−カドヘリンからのβ−カテニンの解離の時間スケールと完全に合致した。これらのVEGF媒介事象はSrc依存的であった。なぜなら、Srcインヒビターで予め処理されたVEGF刺激マウスにおいては、該Flk−カドヘリン−カテニンシグナリング複合体は無傷のままであり、β−カテニンおよびVE−カドヘリンのリン酸化は生じなかったからである。これらの事象は、血管透過性を促進しない同様の血管新生増殖因子である塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の注射後には観察されなかった。
【0110】
1回のVEGF注射は、15分までにベースラインに戻る可逆的で迅速で一過性のシグナリング応答を引き起こしたが、4回のVEGF注射(30分ごと)は長期的なシグナリング応答を引き起こした。例えば、Flk−カテニンおよびErkリン酸化の解離は長期的なVEGF暴露の後に持続した。このモデルは、VEGF発現が低酸素により増強され数日間続くMI後の生理的状況に適用可能でありうる。
【0111】
Srcは、急性MIまたは全身VEGF投与後のVPにおいて生理的および分子的役割を果たしている。MI後の不良な結果は、1つには、梗塞領域を包囲する潅流心臓微小血管の過剰透過性によるものと思われる。これらの血管はVEGFにより悪影響を受け、VPのSrc依存的上昇を被り、これが血管閉塞または破壊を招き、最終的には周辺筋細胞の損傷を招く。これは、再潅流中に血管が開いているにもかかわらずMI後に確認された不良な組織潅流の持続および高い死亡率と合致する。MIの6時間も後のSrc抑制は尚もVEGF誘発性VPに対する有意な防御をもたらし、このことは臨床場面におけるこのアプローチの妥当性を示している。MI後のSrcインヒビターの投与は、内皮関門機能を維持するFlk−カドヘリン−カテニン複合体の解離を妨げることにより、VPを抑制するらしい。
【0112】
超微細構造データは、MI後のVEGFの初期効果が、内皮基底膜を露出させる内皮結合部の開口を伴うことを示唆している。これらの部位には血小板(その多くは脱顆粒され活性化される)が接着した。これは興味深いことである。なぜなら、血小板はVEGFを含有し、VEGFは、血小板の活性化に際して局所的に放出されると、VP応答を増強しうるからである。実際、Src抑制の有益な効果のいくつかは血小板活性化に対するその効果によるものでありうる。MI後の初期事象は、浮腫の蓄積、組織損傷を引き起こすカスケードを始動させ、ついでこれは心臓組織の線維症およびリモデリングを招くことが本データから明らかである。線維症リモデル化心臓組織は正常心臓組織より機能的に劣ることを指摘することは重要である。したがって、損傷の影響を早期に抑制することにより、心臓組織のリモデリングが少なくて済むようにすることによる長期的な利益が予想されうる。単一冠状血管の遮断は、梗塞領域の拡大、線維症およびいくつかの場合には死を招く急性損傷を促進するため、この過程への早期の有効な介入は長期的な防御および利益をもたらすであろう。
【0113】
本データは、Srcインヒビターがそのような役割を果たしうることを示している。Src抑制はFlk−カドヘリン−カテニン複合体を維持し、内皮結合部を、VEGFの透過性促進作用に対して不応性にする。
【0114】
驚くべきことに、VEGFの全身注射は、MI後に見られる心臓血管に対する超微細構造的効果の多くを引き起こした。インビボで内皮関門機能不全および血管損傷を誘発するには、VEGFのみで十分であった。同様に、SrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターでのSrcの遮断を伴う本発明の方法は、これらの事象をMI後に抑制するだけでなく、全身VEGF注射後にも抑制する。Src抑制は、VEGF刺激にもかかわらずFlk−カドヘリン−カテニン複合体を安定化する。VEGF誘発性VPに対する他の寄与因子には、キャベオラまたは小胞−液胞オルガネラ(VVO)および穿孔が含まれうる。これらの透過性様態もSrc依存的でありうるであろう。なぜなら、pp60Src−/−マウスはVEGF注射後の透過性の徴候を示さないからである。あるいは、内皮間隙、血管外遊出血液細胞および露出基底膜が穿孔およびVVOを誘発しうる。
【0115】
VEGFは、種々の因子(サイトカイン、発癌遺伝子、低酸素)に応答してインビボで発現され、透過性および血管新生、ならびに内皮細胞の増殖、遊走、およびアポトーシスからの防御を誘発するよう作用する。腫瘍は、血流内で検出されうる多量のVEGFを産生する。実際、腫瘍内または腫瘍付近の血管は、VEGF注射後に本研究において見られた特徴(例えば、穿孔内皮、開いた内皮間結合部および塊化融合キャベオラ)の多くを共有する。種々の癌を有する患者におけるVEGFの血清レベルは100〜3000pg/mlの範囲であることがあり、一方、局所細胞または組織VEGFレベルはそれより10〜100倍高いことがある。MI後の患者においては、100〜400pg/mlの血清VEGFレベルが報告されており、急性MIの患者では安定型狭心症の患者より高い。いくつかの原発性および転移性腫瘍の場合と同様に、梗塞周囲領域における局所VEGFレベルは血清レベルを超えるであろう。本データは、癌患者のなかには血栓性疾患を増進させている者がいるという知見を説明しうるものである。なぜなら、循環中のVEGF蓄積の増加はVP応答を扇動し、これは血小板を誘引し、血流の喪失を招く。また、最近報告された観察は、末期癌に伴う胸水および全身浮腫を説明しうるものである。したがって、Srcの遮断は癌関連浮腫疾患に対して顕著な効果をもたらしうる。
【0116】
AGL1872は、Srcファミリーチロシンキナーゼを抑制する一方で、ある範囲の他のキナーゼを破壊する。一方、SKI−606は、SrcおよびYesに対して、より選択的であると報告されている。これらのインヒビターの両方は、類似した生物活性パターンを示したが、SKI−606は、有意に、より低い投与量で、有効であった。AGL1872はマウスにおいて22〜133nM(0.5〜3mg/kg)で有効であったが、SKI−606はマウスにおいて12〜118nM(0.5〜5mg/kg)で有効であった。野生型動物に投与された薬理学的Srcインヒビターが、ノックアウトマウスで見られたものと同じ、心臓血管の組織損傷、生化学および超微細構造に対する影響を及ぼしたことは、該効果が、主として、ECにより生じる漏れによるものであり、これらの動物における遺伝的素因には関連していないことを示唆している。SrcおよびYesは脳における虚血損傷後のVEGF媒介性VP応答および梗塞組織の拡大に必須であるが、Fynは必須ではない。総合すると、このデータは、MI後のSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの投与の有益な効果が、実際に、Srcキナーゼ抑制によってもたらされるものであり、pp60Srcおよびpp62Yesを、十中八九関連しているSrcキナーゼとして関連づけるものであることを示唆している。
【0117】
MI後または直接VEGF注射後に、実質的に同じ超微細構造変化が観察された。VEGFが主として内皮に作用し、他の細胞型には作用しないという事実は、EC内のSrcの遮断が該超微細構造観察を説明するものであることを示唆している。さらに、観察された変化のほとんどは、EC細胞−細胞接触および血管の完全性における変化に直接的に関連しており、それらはいずれも、Srcノックアウト動物においても、Srcインヒビターで処理された野生型動物においても見られなかった。重要なことに、VPにおけるSrcの役割は、VE−カドヘリンおよびβ−カテニンをリン酸化しVEGF受容体Flkとのこれらの結合タンパク質間の複合体の解離を促進するその能力によると考えられうる。
【0118】
ホスホ−Src−Y418抗体およびSrc基質ホスホ−FAK−Y861の両方を使用して評価した場合、Srcインヒビターでの処理は用量依存的にVEGF誘発性Src活性をインビボで遮断する。この生化学的プロフィールは、Src抑制がMI後の浮腫および梗塞サイズに関して防御をもたらすという本発明者らの知見と強く相関する。
【0119】
本発明の方法はVP誘発性組織損傷(特に、心筋梗塞により生じたもの)の特異的改善に良く適している。なぜなら、Srcファミリーチロシンキナーゼ作用の標的化抑制は、損傷からの回復に有益でありうる他のVEGF誘発性応答に長期的な影響を及ぼすことなく、抑制をVPに集中させるからである。
【0120】
Srcは、VEGF媒介性血管透過性に影響を及ぼすことにより組織損傷を調節するようであり、したがって心筋虚血の病態生理学における新規治療標的に相当する。冠状動脈閉塞後の心筋損傷の度合はSrcファミリーチロシンキナーゼの急性薬理学的抑制により有意に軽減されうる。
【0121】
比較的小さな分子の合成化学的インヒビターの使用は一般に、比較的大きなタンパク質の使用より安全であり、より扱いやすい。したがって、治療的に活性な物質としては前者が好ましい。
【0122】
前記の説明は、当業者が本発明を実施することを可能にするものである。実際には、本明細書に示され記載されているものに加えて、本発明の種々の修飾が、前記の説明から当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1−1】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図1−2】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図1−3】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図2】図2は、図1に示すコード配列のヒトc−Srcのコード化アミノ酸残基配列(配列番号2)である。
【図3−1】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−2】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−3】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−4】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図4−1】図4はc−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4−2】図4はc−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図5】図5は、Src、FynおよびYesを欠損したマウスの皮膚におけるVEGFのVPに関する、修飾されたマイルス(Miles)アッセイからの結果を示す。図5Aは、処理された耳の写真である。図5Bは、種々の欠損マウスの刺激に関する実験結果のグラフである。図5Cは、該処理組織から溶出したエバン(Evan’s)青色色素の量をプロットしている。
【図6】図6は、Src+/−、Src−/−、野生型(WET)およびAGL1872(すなわち、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン)処理野生型マウスにおける脳梗塞の相対サイズを示すグラフである。
【図7】図7は、対照およびAGL1872処理マウスの脳の連続的MRIスキャンを示し、これは、AGL1872処理動物(右)においては、対照動物(左)の場合より軽度の脳梗塞を示している。
【図8】図8は、本発明の好ましいピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図9】図9は、本発明の好ましい大環状ジエノンSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図10】図10は、本発明の好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図11】図11は、心筋梗塞を誘発するよう外傷を受けた生体染色ラット心臓組織の光学顕微鏡イメージを示す。右側のイメージは、有意なレベルの壊死を示す対照であり、左側のイメージは、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター(AGL1872)で処理された組織であり、壊死のレベルの劇的な減少を示している。
【図12】図12は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての心筋梗塞のサイズの棒グラフを示す。
【図13】図13は、インヒビター(AGL1872)での処理の後の時間の関数としての心筋梗塞のサイズの棒グラフを示す。
【図14】図14は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての心筋水含量の棒グラフを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、医薬の分野、特に、哺乳動物における心筋梗塞を治療するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
血管への損傷、疾患または他の外傷による血管透過性は、組織損傷に関連した血管の漏れ及び浮腫の主要原因である。例えば、脳血管発作(CVA)または脳もしくは脊髄組織における他の血管損傷に関連した脳血管疾患は神経障害の最主要原因であり、無能状態の主要原因である。典型的には、CVAの領域における脳または脊髄組織に対する損傷は血管の漏れ及び/又は浮腫を伴う。典型的には、CVAは、脳虚血、脳への正常な血流の遮断により引き起こされる障害;血流の一過性障害による脳機能不全;頭蓋内または頭蓋外動脈の塞栓または血栓による梗塞;出血;および動静脈形成異常が含まれうる。虚血性卒中および脳出血は突然発生しうる。その発生の影響は、一般には、損傷された脳領域を反映する(The Merck Manual,16th ed.Chp.123,1992を参照されたい)。
【0003】
CVAの他に、中枢神経系(CNS)感染症または疾患も脳および脊柱の血管を損なうことがあり、例えば細菌性髄膜炎、ウイルス性脳炎および脳膿瘍形成の場合のように、炎症および浮腫を伴いうる(The Merck Manual,16th ed.Chp.125,1992を参照されたい)。糖尿病、腎臓病、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞などの全身性疾患状態も血管を弱くすることがあり、血管の漏れ及び浮腫を招きうる。したがって、血管の漏れ及び浮腫は、癌とは異なる無関係な決定的に重要な病理であり、種々の損傷、外傷または病態に関連した有効な特異的治療介入を要する。
【0004】
心筋梗塞は心筋への血液供給の遮断による心臓組織の死である。心筋梗塞は、西洋諸国における入院患者に最もよく見られる診断例の1つである。米国においては毎年約110万人が急性心筋梗塞と診断されると報告されている。心筋梗塞による死亡率は53%を超えることがあり、生存した患者の66%もが完全な回復をなし得ない。死亡率における僅か1%の減少は毎年3400万人もの命を救いうるであろう。
【0005】
心筋梗塞およびそれに伴う浮腫は、一般には、冠状動脈が閉塞されて、遮断された動脈により供給される心臓組織への酸素の供給が遮断された場合に生じる。血液供給が遮断されると、遮断された動脈により通常は血液が供給される組織が虚血状態となる。最終的には、酸素を失った心臓組織が死に始める(壊死)。Honkanenらは、米国特許第5,914,242号において、心臓虚血の開始後の患者に或るセリン/トレオニンホスファターゼ酵素インヒビターならびに関連ポリペプチドを投与することを含む、心筋梗塞を軽減するための方法を記載している。そのような酵素およびポリペプチドは高価であり、医薬用途のために製造し精製するのが困難である。
【0006】
本発明者らは、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制が、冠状血管系の閉塞から通常は生じる冠状組織の浮腫およびそれにより生じる壊死を軽減して心筋梗塞の組織損傷効果を軽減することにより、心筋梗塞の有用な治療方法を提供することを見出した。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、Srcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制による心筋梗塞(MI)の治療方法に関する。該方法は、冠状血管閉塞に罹患した哺乳動物の冠状組織をSrcファミリーチロシンキナーゼのインヒビターの有効量で治療することを含む。該哺乳動物はヒト患者または非ヒト哺乳動物でありうる。治療する冠状組織は、冠状血管閉塞による虚血(すなわち、血流の低下)に罹患した心臓の任意の部分でありうる。治療処置は、標的冠状組織を、化学的(すなわち、非ペプチド性)Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む所望の医薬組成物の有効量と接触させることにより達成される。有害な血管閉塞が生じている又は生じたことがある領域付近の罹患冠状組織を治療することが有用である。該方法は、冠状血管閉塞から通常は生じる組織壊死(梗塞)の軽減をもたらす。
【0008】
本発明のもう1つの態様は、包装(パッケージ)材と、該包装材中に含有された医薬組成物とを含む製造物品であり、ここで、該医薬組成物は、冠状血管閉塞による血流の低下に罹患した冠状組織における壊死を軽減しうる。該包装材は、該医薬組成物が心筋梗塞の治療に使用されうること、および医薬組成物が、医薬上許容される担体中にSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの治療的有効量を含むことを示すラベルを含む。
【0009】
本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1872)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(AGL1879)など;大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなど;ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばPD173955など;4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリル、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)など;およびそれらの混合物が含まれる。
【0010】
特に好ましいSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。そのようなインヒビターの具体例としては、4−メチルフェニル−および4−ハロフェニル−置換ピラゾロピリミジンクラスのインヒビター、例えばAGL1872、AGL1879など、ならびに4−(4−ハロアニリノ)−3−キノリンカルボニトリルクラスのインヒビター、例えばSKI−606などが挙げられる。
【0011】
本発明の方法は心筋梗塞の治療に有用である。特に、本発明の方法は、心臓の疾患、損傷または外傷による冠状血管遮断による心臓組織の壊死を改善するのに有用である。本発明の方法により小分子化学的Srcインヒビター(AGL1872またはSKI−606)で処理されたマウスにおいて、梗塞サイズにおける40〜60%の減少が観察された。
【0012】
発明の詳細な説明
A.定義
本明細書中で用いる「アミノ酸残基」なる語は、ポリペプチドのペプチド結合におけるポリペプチドの化学的消化(加水分解)に際して形成されるアミノ酸を意味する。本明細書に記載されているアミノ酸残基は、好ましくは、「L」異性体である。しかし、所望の機能特性が該ポリペプチドにおいて保有される限り、任意のLアミノ酸残基は「D」異性体中の残基により置換されうる。NH2は、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を意味する。COOHは、標準的なポリペプチド命名法(J.Biol.Chem.,243:3552−59(1969)に記載されており、37 CFR §1.822(b)(2)に採択されている)に従えば、ポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシル基を意味する。
【0013】
すべてのアミノ酸残基配列は、本明細書においては、左および右の配向がアミノ末端(N末端)からカルボキシル末端(C末端)への通常の向きである式により表されていることに注目すべきである。さらに、アミノ酸残基配列の開始部位および終結部位のダッシュは、1以上のアミノ酸残基の別の配列とのペプチド結合を示すことに注目すべきである。
【0014】
本明細書中で用いる「ポリペプチド」なる語は、連続的アミノ酸残基のαアミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合により互いに連結された一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0015】
本明細書中で用いる「ペプチド」なる語は、ポリペプチドの場合と同様に互いに連結されたせいぜい約50個の一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0016】
本明細書中で用いる「タンパク質」なる語は、ポリペプチドの場合と同様に互いに連結された50アミノ酸残基を超える一連の直鎖状のアミノ酸残基を意味する。
【0017】
B.一般的考慮事項
本発明は、全般的には、(1)VEGF誘発性血管透過性(VP)がSrcおよびYesのようなチロシンキナーゼタンパク質により特異的に媒介され、VPがSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制によりモジュレーションされうるという知見、および(2)Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターのインビボ投与が、血管透過性の疾患関連または損傷関連上昇による組織損傷を軽減するという知見に関する。
【0018】
この知見は、血管透過性が種々の疾患過程において果たしている役割を考慮すると重要である。本発明は、血管透過性がSrcファミリーチロシンキナーゼ活性の抑制により特異的にモジュレーションされ改善されうるという知見に関する。特に、本発明は、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターのインビボ投与が、癌または血管新生には通常は関連していない血管透過性における疾患関連または損傷関連上昇による組織損傷を軽減するという知見に関する。
【0019】
血管透過性は、血管への外傷によるVPの急激な増加により組織損傷が引き起こされる種々の疾患過程に関与している。したがって、VPを特異的にモジュレーションしうることは、卒中の有害な影響を軽減するための新規かつ有効な治療を可能とする。
【0020】
Srcファミリーキナーゼインヒビターを使用する特異的抑制性モジュレーションにより利益を受ける、疾患または損傷により誘発される血管の漏れ及び/又は浮腫に関連した組織には、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、炎症疾患、再発狭窄症、卒中、心筋梗塞などが含まれる。
【0021】
VEGF受容体IgG融合タンパク質を使用するVEGFタンパク質の全身性中和は脳虚血後の梗塞サイズを減少させることが報告されている。この効果はVEGF媒介性血管透過性の低下によるものであると考えられた(N.van Bruggenら,J.Clin.Inves.104:1613−1620(1999))。しかし、本発明においてSrcは血管透過性上昇の決定的に重要なメディエーターであることが見出されたが、VEGFは血管透過性上昇の決定的に重要なメディエーターではない。さらに、SrcはVEGF以外の刺激により活性化されうる。例えば、Erpelら,Cell Biology,7:176−182(1995)を参照されたい。
【0022】
本発明は特に、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcのインヒビターが、冠状血管閉塞による哺乳動物における冠状組織損傷を改善することにより心筋梗塞の治療に有用であるという知見に関する。
【0023】
C.Srcファミリーチロシンキナーゼタンパク質
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「Srcファミリーチロシンキナーゼタンパク質」なる語およびその文法的派生語は、特に、v−Srcに対するアミノ酸配列相同性、N末端ミリスチン酸化、N末端可変領域を有する保存ドメイン構造ならびにそれに続くSH3ドメイン、SH2ドメイン、チロシンキナーゼ触媒ドメインおよびC末端調節ドメインを有するタンパク質を意味する。「Srcタンパク質」および「Src」なる語は、60kDaの分子量、2個のPKCリン酸化部位と1個のPKAリン酸化部位とを含むN末端可変領域、他のSrcファミリー亜群の公知メンバー(例えば、Yes、Fyn、LckおよびLyn)より比較的高い、公知Srcタンパク質に対する全アミノ酸配列同一性を有する、配列番号2の416位のチロシンと等価であるチロシンのリン酸化により活性化されるチロシンキナーゼSrcタンパク質の種々の形態の総称である。「Yesタンパク質」および「Yes」なる語は、62kDaの分子量、いずれかのリン酸化部位を欠くN末端可変領域、他のSrcファミリー亜群の公知メンバー(例えば、Src、Fyn、LckおよびLyn)より比較的高い、公知Yesタンパク質に対する全アミノ酸配列同一性を有する、配列番号4の426位のチロシンと等価であるチロシンのリン酸化により活性化されるチロシンキナーゼYesタンパク質の種々の形態を総称するために用いられている。
【0024】
冠状虚血を測定するための好ましいアッセイは、冠状動脈の結紮によりラットにおいて虚血を誘発させ、本明細書中で後記に詳しく説明するとおり、時間経過と共にMRI、心エコーなどの技術により心筋梗塞のサイズを評価することを含む。
【0025】
D.心筋梗塞の治療および予防方法
本発明の方法は、虚血冠状組織を、少なくとも1つの化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物と接触させることを含む。
【0026】
本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、Srcの化学的インヒビター、例えば、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、および4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが含まれる。インヒビターの混合物も使用されうる。
【0027】
好ましいピラゾロピリミジンクラスのインヒビターには、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP1またはAGL1872と称されることもある)、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン(PP2またはAGL1879とも称される)などが含まれ、それらの製造の詳細はWaltenbergerら,Circ.Res.,85:12−22(1999)に記載されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。AGL1872およびAGL1879の化学構造を図8に示す。AGL1872(PP1)はPfizer,Inc.によるライセンスによりBiomol Research Laboratories,Inc.,Plymouth Meeting,Pennsylvania,USAから入手可能である。AGL1879(PP2)はPfizer,Inc.からのライセンスによりCalbiochemから入手可能である。AGL1872はLck、LynおよびSrcの酵素活性を5,6および170nMのIC50で抑制すると報告されている(Hankeら,J.Biol.Chem.271(2):695−701(1996)を参照されたい)。
【0028】
好ましい大環状ジエノンインヒビターには、例えば、ラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなどが含まれる。ラディシコルR2146、ゲルダナマイシン、ヘルビマイシンAを図9に示す。ゲルダナマイシンはLife Technologiesから入手可能である。ヘルビマイシンAはSigmaから入手可能である。ラディシコルは、種々の企業(例えば、Calbiochem、RBI、Sigma)により商業的に供給されており、非特異的タンパク質チロシンキナーゼインヒビターとしても作用する抗真菌大環状ラクトン抗生物質であり、Srcキナーゼ活性を抑制することが示されている。大環状ジエノンインヒビターは、大環状環の一部としてα、β、γ、δ−ビス−不飽和ケトン(すなわち、ジエノン)部分と酸素化アリール部分とを含有する炭素数12〜20の大環状ラクタムまたはラクトン環構造を含む。
【0029】
好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのインヒビターには、例えば、6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン(PD173955)などが含まれる。他の有用なピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのインヒビターはWisniewskiら,Cancer Res.2002;62:4244−4255に開示されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。Parke Davisにより開発されたインヒビターであるPD173955の構造を図10に示す。
【0030】
好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのインヒビターには、例えば、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリル、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606;Wyeth−Ayerst Researchから入手可能である)が含まれる。SKI−606は1.2nMでSrcを抑制すると報告されている(Boschelliら,J.Med.Chem.,2001,44:3965−3977)。本発明の方法において有用な4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターの具体例は米国特許公開第2001/0051520号および第2002/00260052号(それらの関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターはBoschelliら,J.Med.Chem.,2001,44:3965−3977(その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。特に好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルSrcインヒビターは、式(I)に示す一般構造を有する。
【0031】
式(I):
【0032】
【化4】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である;好ましくは、R1は−(CH2)n−Zであり、X1およびX2は共にクロロであり、X3はメトキシであり、nは3であり、Zは4−モルホリニルである(すなわち、SKI−606)]。
【0033】
本発明の方法および組成物において有用な他の具体的なSrcキナーゼインヒビターには、Parke Davisにより開発されたPD162531(Owensら,MoI.Biol.Cell 11:51−64(2000))が含まれるが、その構造は文献からは入手できない。
【0034】
1つの好ましい実施形態においては、Srcインヒビターはピラゾロピリミジンインヒビター、好ましくはAGL1872およびAGL1879、最も好ましくはAGL1872である。もう1つの好ましい実施形態においては、Srcインヒビターは4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル、好ましくは4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルまたは4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606として公知である)である。
【0035】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。該ATP模擬ヘテロ芳香族部分はSrcファミリーチロシンキナーゼのATP結合ポケットに結合し、一方、疎水性基は、ATP結合ポケットに隣接した疎水性ポケットに嵌まり込むサイズを有する。ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、例えば、Dalgarnoら,Curr.Opin.in Drug.Discovery andDevel,2000;3(5):549−564に記載されており、その関連した開示を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0036】
好ましいクラスのATP模擬へテロ芳香族部分には、5−フェニル−ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン化合物が含まれ、疎水性基は該フェニル基である。好ましいフェニル基には、4−メチルフェニル、4−ハロフェニル(例えば、4−クロロフェニル)などが含まれる。特に好ましい5−フェニル−ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、AGL1872(その疎水性基は4−メチルフェニルである)およびAGL1879(この場合の疎水性基は4−クロロフェニルである)が含まれる。
【0037】
もう1つのクラスのATP模擬へテロ芳香族部分には、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリル化合物が含まれ、疎水性基は該アニリノ基である。好ましいアニリノ基には、4−ハロ−置換アニリノ基、例えば2,4−ジクロロアニリノ、2,4−ジフルオロアニリノ、4−クロロアニリノなどが含まれる。特に好ましい4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、SKI−606などが含まれる。
【0038】
他の適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、当技術分野で公知の標準的なアッセイを用いて同定し特徴づけることが可能である。例えば、Srcまたは他のチロシンキナーゼに対する強力かつ選択的なインヒビターに関する化合物のスクリーニングが行われており、Srcファミリーチロシンキナーゼの強力なインヒビターにおいて有用な化学的部分の同定がもたらされている。
【0039】
例えば、カテコールは、天然物由来の多数のチロシンキナーゼインヒビターにとって重要な結合要素として同定されており、c−Srcの選択的インヒビターに関するコンビナトリアル(組合せ)標的誘導選択により選択された化合物中で見出されている。Malyら,“Combinatorial target−guided ligand assembly:Identification of potent subtype−selective c−Src inhibitors”PNAS(USA)97(6):2419−2424(2000)を参照されたい。Srcの抑制に重要であることが知られている部分を出発点として使用する、候補インヒビター化合物の、コンビナトリアルケミストリーに基づくスクリーニングは、他のSrcファミリーチロシンキナーゼ化学的インヒビターを単離し特徴づけるための強力かつ有効な手段である。
【0040】
しかし、ポリペプチドおよび核酸上に存在する多種多様な官能性を模擬するための潜在性に基づく潜在的結合要素の注意深い選択が、活性インヒビターに関するコンビナトリアルスクリーニングを行うために用いられうる。例えば、O−メチルオキシムライブラリーは、このライブラリーがO−メチルヒドロキシルアミンと多数の商業的に入手可能な任意のアルデヒドとの縮合により容易に製造される場合には、この目的に特に適している。O−アルキルオキシムの形成は、生理的pHにおいて適した多種多様な官能性に適している。Malyら,前掲を参照されたい。
【0041】
本発明を例示する方法により治療されうる哺乳動物は、望ましくはヒトであるが、本発明の原理は、本発明が非ヒト哺乳動物にも有効であることを示していると理解されるべきである。この場合、哺乳動物は、ヒトだけでなく、血管の漏れ又は浮腫に関連した組織損傷の治療が望ましい任意の哺乳動物種、農業用および家畜用哺乳動物種をも含むと理解される。
【0042】
好ましい治療方法は、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcの化学的(すなわち、非ペプチド)インヒビターを含有する生理的に許容される組成物の治療的有効量を心筋梗塞に罹患した哺乳動物に投与することを含む。
【0043】
心筋梗塞の好ましい予防方法は、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、特にSrcの化学的(すなわち、非ペプチド)インヒビターを含有する生理的に許容される組成物の予防量を、心筋梗塞のリスクのある哺乳動物に投与することを含む。
【0044】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばAGL1872またはSKI−606の投与のための投与量範囲は約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重の範囲、または医薬担体中の活性物質の溶解度の限界量でありうる。好ましい投与量は約1.5mg/kg体重である。本発明を例示する医薬組成物は経口的にも投与されうる。経口投与のための例示的な剤形には、カプセル剤、腸溶コーティングを伴う又は伴わない錠剤などが含まれる。
【0045】
急性の損傷または外傷の場合には、その出来事が生じた後、可能な限り早く治療投与を行うのが最善である。しかし、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの有効な投与のための時間は、急性の発生の場合には、損傷または外傷の発生から約48時間以内でありうる。発生から約24時間以内に投与を行うのが好ましく、6時間以内がより好ましい。最も好ましくは、損傷から約45分以内にSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを患者に投与する。最初の損傷の48時間後の投与は、更なる血管の漏れ又は浮腫による更なる組織損傷を改善するのに適切でありうる。しかし、そのような場合には、最初の組織損傷に対する有益な効果は低下しうる。
【0046】
外科的処置に関連した心筋梗塞を予防するために又は体質的診断基準の観点から予防投与を行う場合には、いずれかの実際の冠状血管閉塞の前またはそのような閉塞を誘発する事象(例えば経皮的心血管介入、例えば冠状血管形成術)中に投与を行うことが可能である。冠状血管閉塞を招く慢性状態の治療のためには、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの投与を連続的投与計画で行うことが可能である。
【0047】
一般に、投与量は、年齢、状態、性別および患者が罹患している損傷の程度によって異なることがあり、当業者により決定されうる。投与量は、いずれかの合併症の場合、個々の医師によっても調節されうる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、注射により、または時間経過と共に徐々に注入することにより、非経口投与される。治療すべき組織へは、典型的には、全身投与により体内で到達させることが可能であり、したがって、十中八九は、治療用組成物の静脈内投与により治療されうるが、標的組織が標的分子を含有する可能性がある場合には、他の組織および運搬手段が予想される。したがって、本発明の組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮的、経口的に投与されることが可能であり、蠕動性手段によっても運搬されうる。
【0049】
静脈内投与は、例えば、単位用量の注射により行われる。本発明の治療用組成物に関して用いる「単位用量」なる語は、対象への単位投与として適した物理的に分離した単位を意味し、各単位は、所望の治療効果が得られるよう計算された活性物質の所定量と、必要な希釈剤、すなわち、担体またはビヒクルとを含有する。
【0050】
1つの好ましい実施形態においては、1回の静脈内投与で活性物質を投与する。局所投与は、直接的な注射により、あるいは解剖学的に隔離された区画の利用、標的器官系の微小循環の隔離、循環系内の再潅流、または疾患組織に関連した血管系の標的領域の、カテーテルに基づく一過性閉塞により達成されうる。
【0051】
該医薬組成物は、投与製剤に適合した様態で、かつ、治療的有効量で投与される。医薬組成物に関して本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「治療的有効量」および「予防量」なる語は、臨床家が求めている対象の生物学的または医学的応答(例えば、組織損傷の改善または心筋梗塞の予防)を惹起する医薬組成物の量を意味する。
【0052】
投与すべき量および時機は、治療すべき対象、対象の系の有効成分利用能および所望の治療効果の程度によって異なる。投与すべき有効成分の厳密な量は臨床家の判断によって決定され、各個体に特有のものである。しかし、全身適用のための適当な投与量範囲は本明細書中に開示されており、投与経路によって異なる。適当な投与計画も多種多様であるが、典型的には、皮下注射または他の投与(例えば、経口投与)による、初回投与およびそれに続く1時間以上の間隔での反復投与によるものである。あるいは、インビボ療法用に定められた範囲内に血中濃度を維持するのに十分な連続的静脈内注入が意図される。
【0053】
種々の形態の冠状疾患に関連した冠状血管閉塞による又は心臓の損傷もしくは外傷による組織損傷を改善する本発明の方法は、該疾患の症状を改善し、該疾患に応じて、該疾患の治癒に寄与しうる。組織における壊死の度合、したがって、本方法により達成される抑制の度合は、種々の方法により評価されうる。特に、本発明の方法は心筋梗塞の治療に著しく良く適している。
【0054】
冠状血管閉塞による組織損傷の改善は、該治療用組成物の投与後の短時間のうちに生じうる。ほとんどの治療効果は、急性損傷または外傷の場合には投与の24時間後には可視化されうる。しかし、慢性投与の効果はそれほど容易には認識されないであろう。
【0055】
時間限定要因には、組織吸収の速度、細胞取り込み、タンパク質輸送または核酸翻訳(治療によって異なる)およびタンパク質標的化が含まれる。したがって、組織損傷モジュレーション効果は該インヒビターの投与の時点から僅か1時間のうちに生じうる。また、心臓組織は、適当な条件を用いてSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターに対する追加的な又は延長された暴露に付されうる。したがって、そのようなパラメーターを修飾することにより、種々の所望の治療時間枠が設計されうる。
【0056】
E.治療用組成物
本明細書に記載のSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは心筋梗塞の治療用の医薬を製造するために使用されうる。該インヒビターは、本明細書に記載の治療および予防方法を実施するのに有用な医薬組成物中に含まれうる。本発明の医薬組成物は、生理的に許容される担体を、有効成分としてそれに溶解または分散された本明細書に記載の化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターと共に含有する。好ましい実施形態においては、該医薬組成物は、ヒトのような哺乳動物患者に治療目的で投与された場合に免疫原性ではない。
【0057】
本明細書中で用いる「医薬上許容される」および「生理的に許容される」なる語ならびにそれらの文法的派生語は、それらが組成物、担体、希釈剤および試薬に関して用いられている場合には、互換的に用いられ、それらの物質が、悪心、眩暈、胃障害などのような望ましくない生理的作用の発生を伴うことなく哺乳動物に投与されうることを表す。
【0058】
それに溶解または分散された有効成分を含有する医薬組成物の製造は当技術分野でよく理解されており、製剤化に基づいて限定される必要はない。典型的には、そのような化合物は、注射剤、液体溶液剤または懸濁剤として好ましい。使用前に液体に加えられる、溶液剤(水剤)または懸濁剤に適した固体形態も製造されうる。また、該製剤は乳化されることが可能であり、あるいはリポソーム組成物として提供されうる。
【0059】
該有効成分は、本明細書に記載の治療方法における使用に適した量で、該有効成分に適合しうる医薬上許容される賦形剤と混合されうる。適当な賦形剤としては、例えば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びそれらの組合せが挙げられる。また、所望により、該組成物は、該有効成分の有効性を増強する例えば湿潤または乳化剤、pH緩衝化剤などのような、ある量の補助物質を含有しうる。本発明の治療用組成物は、それに含まれる活性成分の医薬上許容される塩を含みうる。医薬上許容される塩には、無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば酢酸、酒石酸、マンデル酸などと共に形成される酸付加塩(該ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)が含まれる。また、遊離カルボキシル基と共に形成される塩は、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄、および有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導されうる。
【0060】
生理的に許容される担体は当技術分野でよく知られている。液体担体の典型例としては、有効成分および水以外にはいずれの物質も含有しないか又は緩衝剤、例えば生理的pH値のリン酸ナトリウム、生理食塩水またはそれらの両方(例えば、リン酸緩衝食塩水)を含有する無菌水性溶液が挙げられる。さらに、水性担体は、2以上のバッファー塩、ならびに塩化ナトリウムおよびカリウム、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有しうる。
【0061】
液体組成物は、水に加えて又は水を除外して、液相をも含有しうる。そのような追加的な液相の典型例としては、グリセリン、植物油、例えば綿実油および水−油エマルションが挙げられる。
【0062】
本発明の化学的治療用組成物は、生理的に許容される担体を、有効成分としてそれに溶解または分散されたSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターと共に含有する。
【0063】
適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターはSrcファミリーチロシンキナーゼの生物学的チロシンキナーゼ活性を抑制する。より適当なSrcファミリーチロシンキナーゼは、Srcタンパク質の活性を抑制するための主要特異性を有し、副次的に、最も密接に関連したSrcファミリーチロシンキナーゼを抑制する。
【0064】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、前記のとおりATP模擬へテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。
【0065】
F.製造物品
本発明はまた、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの治療的有効量を提供するためのラベル付きの容器である製造物品を含む。該インヒビターは、単一の包装(パッケージ)された化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターまたは2以上のインヒビターの組合せでありうる。製造物品は、包装(パッケージ)材と、該包装材中に含有された医薬物質とを含む。該製造物品は、冠状血管閉塞による組織損傷の改善をもたらすよう一緒になって相乗的に作用する2以上の治療的有効量未満の医薬組成物をも含有しうる。
【0066】
本明細書中で用いる包装材なる語は、固定された手段内に医薬物質を保持しうる例えばガラス、プラスチック、紙、フォイルなどのような物質を意味する。したがって、例えば、該包装材は、該医薬物質を含む医薬組成物を含有させるために使用されるプラスチックまたはガラスバイアル、積層外囲容器(laminated envelope)などの容器でありうる。
【0067】
好ましい実施形態においては、該包装材は、該製造物品内の内容物およびそれに含有される医薬物質の用途を記載した明確な表示であるラベルを含む。
【0068】
製造物品内の医薬物質は、開示されている適応に応じて本明細書に記載の医薬上許容される形態に製剤化されたSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを提供するのに適した本発明の任意の組成物である。本発明の目的のための適当なSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターには、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えば4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンなど;大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばラディシコル(Radicicol)R2146、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)Aなど;ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばPD173955など;4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、例えばSKI−606など;およびそれらの混合物が含まれる。該製造物品は、本明細書中に示されている状態の治療における使用に十分な量の医薬物質を単位投与量または複数投与量で含有する。
【0069】
特に好ましい実施形態においては、Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、前記のとおりATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである。
【0070】
該包装材は、それに含有される医薬物質の用途(例えば、本明細書に開示されている、血管透過性上昇の抑制により補助される状態などの治療)を示すラベルを含む。該ラベルは更に、販売に要求されうる、用途および関連情報に関する指示を含みうる。該包装材は該医薬物質の貯蔵のための容器を含みうる。
【0071】
実施例
本発明に関する以下の実施例は例示的なものであり、もちろん、本発明を特に限定するものと解釈されるべきではない。さらに、当業者の認識範囲内である、現在公知の又は後に開発される、本発明の変更は、特許請求されている本発明の範囲内に含まれるとみなされるべきである。
【実施例1】
【0072】
VEGF媒介性VP活性はSrcおよびYesに依存性であるがFynには依存性でない
Srcと同様に内皮細胞内で発現されることが知られている(Bullら,FEBS Letters,361:41−44(1994);Kieferら,Curr.Biol.4:100−109(1994))FynまたはYesのようなSFKに関連したVEGF誘発性VP活性を調べることにより、VPのSrc要求性の特異性を調べた。これらの3つのSFKは野生型マウスの大動脈内で同等に発現されることが確認された。src−/−マウスと同様に、Yesを欠損した動物もVEGF誘発性VPを欠損していた。しかし、驚くべきことに、Fynを欠くマウスは、対照動物と有意には異ならないVEGFに応答する高いVPを保有していた。src−/−またはyes−/−マウスにおけるVEGF誘発性VPの阻害は、特異的なSFKのキナーゼ活性が、血管新生ではなくVP活性を招くVEGF媒介性シグナリング事象に必須であることを示している。
【0073】
src+/−(図5A、左パネル)またはsrc−/−(図5A、右パネル)マウスの皮膚におけるVEGFの血管透過性特性を、エバン(Evan)青色色素を静脈内注射したマウスへの食塩水またはVEGF(400ng)の皮内注射により判定した。15分後、皮膚パッチを写真撮影した(縮尺を示す棒線:1mm)。星印は注射部位を示す。VEGF、bFGFまたは食塩水の注射部位を包囲する領域を解剖し、58℃で24時間にわたるホルムアミド中のエバン青色色素の溶出によりVPを定量的に測定し、500nmの吸光度を測定した(図5B、左グラフ)。炎症関連VPを誘発することが知られている炎症メディエーター(アリルイソチオシアナート)の能力をsrc+/−またはsrc−/−(図5B、右)において試験した。
【0074】
VPを誘発するVEGFの能力をsrc−/−、fyn−/−またはyes−/−マウスにおいてマイルス(Miles)アッセイで比較した(図5C)。該マイルスアッセイのそれぞれのデータは3通りの動物の平均±SDとして表されている。対照動物と比較したsrc−/−およびyes−/−VP欠損は統計的に有意であったが(*p<0.05、一対t検定)、VEGF処理fyn−/−マウスおよびアリルイソチオシアナート処理src+/−マウスのどちらのVP欠損も統計的に有意ではなかった(**p<0.05)。
【実施例2】
【0075】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター処理マウスおよびSrc−/−マウスは、未処理野生型マウスに比べて軽減した、血管に対する外傷または損傷に関連した組織損傷を示す
Srcファミリーキナーゼのインヒビターは、血管損傷または障害(例えば、卒中)の後の病的な血管の漏れ及び透過性を軽減する。血管内皮は、腫瘍の血管新生中の新たな血管の出芽のような過程を調節する多数の刺激、卒中誘発性浮腫および組織損傷中の血管壁の透過性の調節に応答する動的な細胞型である。
【0076】
2匹のマウス卒中モデルにおけるSrc経路の薬物抑制による血管透過性の低下は、虚血により誘発された血管の漏れを軽減することにより脳損傷を抑制するのに十分なものである。さらに、血管の漏れ/透過性の低下を伴う、Srcが遺伝的に欠損したマウスにおいては、梗塞体積も減少する。合成Src抑制データと、卒中および他の関連モデルにおける血管の漏れの低下を裏付ける遺伝的証拠との組合せは、卒中後の脳損傷の軽減におけるこのアプローチの生理的妥当性を示している。これらのシグナリングカスケードの、ある範囲の利用可能なSrcファミリーキナーゼインヒビターでの、これらの経路の抑制は、血管透過性関連組織損傷から生じる脳損傷を軽減するという治療的有益性を有する。
【0077】
限局性(focal)脳虚血を誘発するための2つの異なる方法を用いた。限局性脳虚血のどちらの動物モデルも十分に確立されており、卒中の研究に広く使用されている。どちらのモデルも、脳虚血の病態生理を調べるために及び新規抗卒中薬を試験するために既に使用されている。
【0078】
(a)マウスを2,2,2−トリブロモエタノール(AVERTIN(商標))で麻酔し、該動物を加熱パッド上に置くことにより体温を維持した。右耳と右眼との間に切開を施した。側頭筋の退縮により頭蓋を露出させ、中大脳動脈(MCA)の上方の領域にドリルで小さなバー孔を開けた。髄膜を除去し、加熱フィラメントを使用する凝固により右MCAを閉塞させた。該動物を回復させ、それらの檻に戻した。24時間後、脳を潅流に付し、摘出し、1mmの横断切片に切断した。該切片を2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)の2%溶液に浸漬した。可視化された(赤色)組織により包囲された未染色(白色)組織として梗塞脳領域が確認された。該切片の未染色面積の和にそれらの厚さを掛け算したものとして、梗塞体積を定義した。
【0079】
脳虚血におけるSrcの役割を調べるために、Src欠損マウス(Src−/−)を使用した。Src+/−マウスを対照として使用した。本発明者らは、Src−/−マウスにおいては、該発作の24時間後に梗塞体積が26±10mm3から対照における16±4mm3へと減少することを見出した。血管閉塞の30分後にC57B16野生型マウスに1.5mg/kgのAGL1872を腹腔内(i.p.)注射した場合に、該効果はより一層顕著であった。梗塞サイズは未処理群における31±12mm3からAGL1872処理群における8±2mm3へと減少した。
【0080】
(b)限局性(focal)脳虚血の第2のモデルにおいては、MCAの起点部に塞栓を配置することによりMCAを閉塞させた。単一の無傷のフィブリンに富む24時間が経過した均一な血餅を、改造されたPE−50カテーテルを使用して、MCAの起点部に配置した。対側性半球と比較した場合の同側半球における脳血流の低下により、脳虚血の誘発が証明された。24時間後、脳を摘出し、連続切片を調製し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色した。連続HE切片中の梗塞面積に各切片間の距離を掛け算したものを足し合わせることにより、梗塞体積を求めた。
【0081】
この研究に用いたAGL1872の投与量(1.5mg/kg i.p.)は実験により選択された。VEGFは、脳内で脳虚血の約3時間後(最大で12〜24時間後)に最初に発現されることが公知である。この研究においては、VEGF誘発性血管透過性上昇を完全に阻止するために、梗塞の発生の30分後にAGL1872を投与した。典型的なVEGF発現の時間経過に従えば、Srcインヒビターの投与のための可能な治療的好機は卒中後の12時間まででありうる。血管透過性の持続的増加を伴う疾患においては、Src抑制薬の慢性投与が適している。
【0082】
図6は、損傷後のマウス脳における平均梗塞体積(mm3)の比較結果を示すグラフであり、この場合、マウスは、ヘテロSrc(Src+/−)、ドミナントネガティブSrc突然変異体(Src−/−)、野生型マウス(WET)、または1.5mg/kgのAGL1872で処理された野生型マウスであった。
【0083】
図7は、CNS損傷を誘発するための処理の後の隔離された潅流マウス脳の連続的MRIスキャンの実例を示し、この場合、AGL1872処理動物(右)におけるスキャンの進行は、対照未処理動物(左)におけるスキャンの進行より軽度の脳梗塞を明らかに示している。
【実施例3】
【0084】
梗塞周囲領域における血管の完全性および筋細胞生存度に対するMIの効果
VEGF注射後または虚血の3〜24時間後の8〜12週齢のマウスから心臓組織を調製し、梗塞、梗塞周囲および遠隔領域を切片化した。組織を、4%パラホルムアルデヒド+1.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1M ナトリウムカコジラートバッファー(pH7.3)中で2時間固定し、5%グルタルアルデヒドに一晩、ついで1%オスミウムテトラオキシドに1時間移した。断片を洗浄し、脱水し、プロピレンオキシド中できれいにし、Epon/Aralditeに浸透させ、樹脂中に包埋した。極薄切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色し、Philips CM−100透過型電子顕微鏡を使用して観察した。
【0085】
表1は、透過型電子顕微鏡検査を用いて検査した250個/群の血管の観察の要約を示す。正常心筋組織とは対照的に、梗塞罹患組織においては梗塞周囲領域内に多数の損傷例が観察された。周辺血管から流出したらしい血管外遊出血液細胞(RBC、血小板および好中球)が間質に存在した。いくつかの内皮細胞(EC)は膨張し、血管内腔の一部を閉塞させ、しばしば、電子光を示し、多数の小胞を含有していた。内皮には大きな丸い空胞が存在し、それらはしばしば、ECの厚さより数倍大きかった。筋細胞損傷はMI後の時間と共に増加し、ミトコンドリア破裂、異常なミトコンドリアクリスタ、細胞内浮腫および筋フィラメント崩壊として確認され、隣接細胞間で様々であった。最も損なわれた筋細胞は、しばしば、損傷血管または遊離血液細胞に隣接していた。本発明者らはしばしば、24時間後に好中球をMIの観察した。好中球は損傷に対する急性応答に関与し、VEGF産生に寄与しうる。
【0086】
【表1】
【0087】
各群について、透過型電子顕微鏡上で左心室組織を4時間にわたって(約250個の微小血管)検査し、観察結果を計数し、以下のとおりに分類した。
【0088】
(a)EC関門機能不全: 間隙、穿孔、血管外遊出血液細胞;
(b)血小板活性化/接着: 血小板、脱顆粒血小板、血小板集塊、ECMへの血小板接着;
(c)EC損傷: 電子光、膨張したEC、大きなEC空胞、血管内腔の閉塞;および
(d)心臓損傷: ミトコンドリア膨張、異常クリスタ、筋フィラメント崩壊。
【0089】
MIの3時間後、隣接EG間に間隙がしばしば観察された。これは周辺間質腔への血液細胞の血管外遊出を説明しうるものであろう。驚くべきことに、該間隙の多くは血小板により塞がれていた。いくつかの血小板は、EC間に露出した基底板に接触し、一方、他の場合には、基底板が破壊されているようであった。血小板のいくつかは脱顆粒し、循環血小板の更なる活性化、接着および凝集を増強していた可能性がある。これらの血小板プラグは更なる血管の漏れを自然に防いでいた可能性があるが、それらは、微小血栓により、小さな血管における潅流の低下を引き起こしていた可能性があり、これは、更なる虚血関連組織疾患を招きうるであろう。
【実施例4】
【0090】
MIおよび全身VEGF注射は同様の血管応答をもたらす
複雑な病理またはMIに対するVEGFの寄与を確認するために、VEGFを正常マウスに筋肉内注射し、30分後に超微細構造レベルで心臓組織を評価した。驚くべきことに、VEGF誘発性内皮関門機能不全および血管損傷の度合は、MI後に梗塞周囲領域で見られるものと比較しうるものであった(表1)。EC基底膜に対する相当な血小板接着および筋細胞損傷が観察された。全身VEGF注射後にも脳における損傷の同様の証拠が見出された。このことは、これらの効果が全身性でありうることを示唆している。これらの結果は、VEGF媒介性VPがMI後の血管への影響の多くに対応していることを示している。
【0091】
VEGFが、MIに関連した、より長期の病理を媒介するのに十分であるかどうかを確認するために、VEGFを2時間にわたってマウスに4回注射した。この処理は、MIの24時間後に観察されるのに類似した損傷を引き起こした。血小板接着、好中球および有意な筋細胞損傷ならびに多数の電子光輝EC(それらの多くは膨張していて血管内壁を閉塞していた)が見出された。総合すると、VEGFに対する30分間の暴露は、MIの3時間後(その時点までに梗塞周囲領域におけるVEGFの発現は有意に上昇した)に観察されるものに類似した超微細構造を誘導するのに十分なものであった。より長期のVEGF暴露は、MIの24時間後に組織において見られるものに類似した血管リモデリングを惹起した。
【0092】
Src欠損マウスがMI後に防御され、局所VEGF注射後に皮膚および脳においてVPを欠いていたという事実は、Src欠損マウスが心臓におけるVEGF誘発性VPから免れたことを示唆している。Srcインヒビターの結果と一致して、pp60Src−/−マウスにおいては、野生型マウスにおける間隙、血小板活性、損なわれたECおよび血管外遊出血液細胞と比較して、VEGF注射後に血管応答の徴候は何ら見られなかった(表1)。すべての応答の完全な遮断は、VEGF媒介性Src活性が、虚血疾患中にVP誘発性損傷を招くカスケードを始動させることを示唆している。
【実施例5】
【0093】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター処理ラットおよびSrc−/−マウスは、未処理野生型マウスの場合と比較して軽減された、冠状血管に対する外傷または損傷に関連した組織損傷を示す
虚血モデル
梗塞サイズ、心筋水含量、磁気共鳴画像、心エコー機能および線維症組織実験の分析のために、本発明者らは、記載されているとおりに左前下行(LAD)冠状動脈の永久的閉塞を有する急性MIのラットモデルを使用した。永久的LAD閉塞後の梗塞サイズ、浮腫および組織超微細構造に対するSrc遮断の効果を評価するために、MIの同様のマウスモデルを使用した。すべての研究に、8〜12週齢の成体雄マウスを使用した。ただし、生存に対するSrc抑制の効果を試験するための重症MIのモデルとしては、2歳のC57/ByJマウスを使用した。一過性虚血中の梗塞サイズに対するSrc抑制の効果を、60(SKI−606)または45(AGL1872)分間の一過性LAD閉塞を有するラット虚血/再潅流モデルを使用して試験した。60分後に試験物質を投与し、24時間後に梗塞サイズを測定した。成体雄Sprague−Dawleyラット(Harlan,Indianapolis,Indiana,USA)およびC57/ByJ pp60Src−/−およびpp60Src+/−マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Maine,USA)を維持し、承認されている動物対象(Animal Subjects)プロトコールに基づいて使用した。
【0094】
梗塞サイズ
24時間後、10%エバンス(Evans)ブルー(Sigma,St.Louis,Missouri,USA)を、犠死させる前に静脈内注射した。心臓を摘出し、閉塞LAD縫合の遠位に3つの同等の切片に、そして近位に1つの切片を切断した。リスクのある非潅流領域を評価するために、NIH Imageソフトウェアを使用して、遠位切片をデジタル化した。虚血領域を描くために、切片を2%トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma,St.Louis,Missouri,USA)で染色した。この方法は組織学的測定と良く相関する。可変性を排除するために、梗塞サイズは、リスクを有する領域の割合(%)として表される。
【0095】
水含量および心臓機能
この研究においては、MIの24時間後の麻酔されたラットに対して連続的に行う、4.7−TMRスキャナー(Bruker,Billerica,Massachusetts,USA)を使用するMRIを用いて、インビボ水含量を評価した。永久的LAD閉塞の45分後、成体雄ラットにAGL1872(5.0mg/kg i.p.)、SKI−606(5.0mg/kg i.v.)またはビヒクルを投与した。ECGおよび呼吸誘発性マルチエコー・スピン・エコー配列(エコー数,8;エコー時間,6.6ms;スライスの厚さ,1.0mm;平面内分解能,430μm2;総スライス,6〜7)を適用することにより心筋層のT2値を定量するためのMRI実験を行った。誘発遅延(trigger delay)は、エコー間の運動アーチファクトを除去するために完全拡張中のすべてのエコーが捕捉されるように選択した。通常に潅流された心筋層のT2値は約27±6.3msである。スピンエコー配列の関心評価領域に関する血液/心筋層境界を明らかに描くために、対応する勾配エコーイメージを各スライスについて得た。T2>40ms(通常に潅流された心筋層の平均を超える2つの標準偏差)を有する領域を描き、全LV心筋体積に対する比率(%)として体積を計算した。また、近位心臓切片のエクスビボ心筋水含量を、80℃で24時間のインキュベーションの後の初期湿潤および乾燥重量間の差(%)として測定した。MIの前(ベースライン)および4週間後のLV機能を評価するために、経胸的心エコー法(SONOS 5500,Agilent Technologies,Palo Alto,California,USA)を行った。この分析のために、ラットを0.6ml/kgのケタミンで腹腔内に麻酔した。Schillerら J.Am.Soc.Echocardiogr.1989,2:358−367に既に記載されているとおりに、局部的壁運動スコアを計算した。
【0096】
線維症組織
線維症組織の組織病理学的分析のために、機能的分析後に心臓を摘出し、弾性三色(elastic trichrome)で染色しコンピューターに基づく面積測定を行うことにより線維症組織の体積および外周を測定した。群間の末端拡張期径および肥大における相違の寄与を除外するために、LV面積の割合(%)およびLV外周の割合(%)として、線維症組織の量を測定した。
【0097】
インビボ透過性モデル
8〜12週齢の成体マウスに、100μlのVEGFまたはbFGF(PBS中、0.2mg/kg;PeproTech,Rocky Hill,New Jersey,USA)の注射の5分前に、50μlのSrcインヒビターAGL1872(PBS/DMSO中、1.5mg/kg)をi.v.注射した。適当な時点で、心臓を迅速に切開し、3mlのRIPA細胞溶解バッファー中でホモジナイズし、タンパク質濃度を測定した(BCA Protein Assay;Pierce,Rockford,Illinois,USA)。
【0098】
免疫沈降および免疫ブロット法
Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,California,USA)またはBiosource,International(Camarillo,California,USA)からの抗体:Flk(sc315)、VE−カドヘリン(sc6458)、β−カテニン(sc7963)、P−チロシン(sc7020またはsc508)、P−Src−Y418(B44−660)およびP−FAK−Y861(B44−626)での免疫沈降および免疫ブロット法(Eliceiriら Mol Cell 1999,4:915−924に記載されているとおり)のために、組織ライセートを調製した。少なくとも3つの別々の実験からの代表的なデータを記載する。
【0099】
データは平均±SEMとして示されており、統計的有意性はStudent(商標)t検定により測定した(P<0.05)。
【0100】
図11は、エオシン色素で染色(生体染色)されたAGL1872処理ラット心臓組織(左)および対照ラット心臓組織(右)の光学顕微鏡イメージを示す。対照組織(右上イメージ)は該組織の周辺に大きな壊死領域を示す。これとは対照的に、処理組織(左上イメージ)は壊死組織をほとんど示していない。
【0101】
図12は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての、処理の24時間後の梗塞サイズ(単位は組織のmg)の棒グラフを示す。約1.5mg/kgの投与量で抑制の最適レベルが達成された。約3mg/kgの投与量は梗塞サイズにおける有意な減少を引き起こさなかった。
【0102】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター(AGL1872)での処理は術後24時間以内に用量依存的に梗塞サイズおよびリスク領域の減少を引き起こした。虚血の誘発の約45分後に投与した該インヒビターの約1.5mg/kgの投与量で梗塞サイズにおける約68%(p<0.05)の最大抑制が達成された(図13)。該インヒビターは、虚血の誘発の約6時間後に投与した場合にも有効であり、この場合、梗塞サイズにおける約42%の減少を引き起こした(p<0.05)。免疫組織化学的分析による測定では、AGL1872によるSrc抑制は虚血組織におけるVEGF発現を妨げなかった。梗塞サイズの減少は心筋水含量の減少(約5%+/−1.3%;p<0.05)および浮腫組織の体積の減少(MRIでの検出による)を伴っており、このことは、Src抑制の有益な効果がVEGF媒介性VPの阻害に関連していることを示している(図14)。術後約4週間後に心エコーにより評価した場合の駆出短縮(fractional shortening)は、対照においては約29%、処理ラットにおいては約34%であった(p<0.05)。重要なことに、その4週間における生存率は処理ラットでは意外に高く(100%)、一方、対照ラットでは約63%であった。
【0103】
浮腫をインビボで厳密にモニターするために、高分解能MRIを用いて、永久的な左前下行(LAD)閉塞後にSrcインヒビターAGL1872もしくはSKI−606で処理された又は処理されていないラットの心臓組織を評価した。それらの水含量の増加のため、浮腫領域は一般には、非浮腫領域より長いT2緩和時間を有する。浮腫を定量するために、T2>49ms(通常に潅流された心筋層の平均を超える2つの標準偏差より大きい)を有する領域を描いた。虚血の発生の1時間後、T2強調シグナリングにより示されるSrc抑制は初期細胞毒性浮腫に影響を及ぼさなかった。しかし、24時間後、コンピューター化T2地図は、ビヒクルの場合と比較して、AGL1872による梗塞関連心筋浮腫における47%の減少を示した(n=2 AGL1872群、n=1 ビヒクル群)。この結果は、非虚血心筋層の湿潤/乾燥重量を使用してエクスビボでコンピューター化された心筋水含量に相関している。AGL1872は浮腫および梗塞サイズにおける用量依存的減少をもたらし、最大減少は1.5mg/kgで生じた(各群n>5、P<0.001)。SKI−606も、マウスおよびラットにおいて永久的閉塞後に投与した場合に梗塞サイズにおける有意な減少をもたらした。この応答の速度論を評価するために、AGL1872を閉塞後の種々の時点で投与した。最大の効果(50%小さい梗塞サイズ)は閉塞の45分後の投与により達成されたが、6時間後の処理は尚も25%の防御をもたらした(各群n=5、P<0.05)。
【0104】
心エコーは、Src抑制が、未処理ラットと比較して、駆出短縮(fractional shortening)および拡張期左心室(LV)直径の有意な維持を4週間にわたってもたらすことを示しており、このことは、救われた組織における収縮機能が長期にわたって維持されたことを示している。Src抑制は収縮期LV直径および局部的壁運動にも好ましい効果を示した(表2)。また、SKI−606 Srcインヒビターでの処理は、駆出短縮および局部的壁運動スコアに好ましい影響を及ぼした(各群n=7、P<0.01)。MI後の生存度を評価するために、LAD結紮後に相当な致死性(>40%)により特徴づけられるモデルとして2歳のC57黒色マウスを使用した。MIの45分後のAGL1872(1.5mg/kg)の投与は、最初の4週間以内で、対照と比較して生存度を上昇させ(処理群91.7%、対照群58.3%、各群n=12)、このことはSrc抑制の長期的な療法効果を示している。
【0105】
【表2】
【0106】
SKI−606での処理は、24時間後にも駆出短縮および局部的壁運動スコアに好ましい影響を及ぼした(各群n=7、P,0.01)。
【0107】
慢性心筋線維症は梗塞後に生じ、MI後の組織壊死の度合を直接的に反映する。ラットにおけるMIの4週間後の線維症に対するSrc抑制の効果を評価するために、弾性三色(elastic trichrome)染色を用いて線維症組織の組織病理学的分析を行った。Src抑制は、対照と比較して、LV線維症組織における52%の減少をもたらした(19.1±2.2%対40.0±3.0%、各群n=4、P<0.01)。Srcインヒビターを投与したサンプルにおいては、心筋線維およびLV構造の、一貫して、より良好な維持が観察された。このことは、Src抑制が、MI後の心筋層に対して長期的な予防効果をもたらすことを示している。
【0108】
一過性虚血後のSrc抑制の有効性を確認するために、ラットを閉塞に付し、ついで再潅流に付し、ついで24時間後に心室機能および梗塞サイズに関して評価した。AGL1872によるSrc抑制は、対照と比較して、左心室(LV)駆出短縮および梗塞サイズの減少を維持した(各群n=4、P<0.05)。虚血再潅流後の梗塞サイズにおける18%の減少は、VEGF発現を導く低酸素刺激が維持される永久的閉塞後の50%の減少に匹敵する。また、SKI−606(5mg/kg)は虚血−再潅流モデルの梗塞サイズにおける43%の減少をもたらした(各群n=5、P<0.01)。総合すると、このデータは一過性虚血後のSrc抑制の有益な効果を示している。
【0109】
考察
マウスにおいては、VE−カドヘリン抗体の全身投与は、心臓および肺におけるVP、間質浮腫ならびに露出基底膜の局所性斑点(これらは、VEGF投与後に観察される損傷と超微細構造レベルで類似していると思われる)を引き起こした。マウス胚においては、β−カテニン−ヌル血管は、頻繁な出血に関連した、穿孔を有する平坦な内皮細胞を含有する。これまでのインビトロ研究はVEGFをVE−カドヘリン機能の調節に関連づけている。流動条件下のECにおいては、VE−カドヘリンはFlkと複合体を形成している。VE−カドヘリン−VEGF複合体をインビボで評価するために、VEGFを注射した又は注射しなかったマウスから心臓ライセートを調製した。これらのライセートを抗Flkでの免疫沈降、およびそれに続く、VE−カドヘリンおよびβ−カテニンに関する免疫ブロット法に付した。対照マウスにおいては、血管内のFlk、β−カテニンおよびVE−カドヘリンの既存複合体が観察された。この複合体はVEGF刺激の2〜5分以内に急速に破壊され、15分までには血管内でインビボで再集合していた。該複合体の解離に関する時間スケールはFlk、β−カテニンおよびVE−カドヘリンリン酸化ならびにVE−カドヘリンからのβ−カテニンの解離の時間スケールと完全に合致した。これらのVEGF媒介事象はSrc依存的であった。なぜなら、Srcインヒビターで予め処理されたVEGF刺激マウスにおいては、該Flk−カドヘリン−カテニンシグナリング複合体は無傷のままであり、β−カテニンおよびVE−カドヘリンのリン酸化は生じなかったからである。これらの事象は、血管透過性を促進しない同様の血管新生増殖因子である塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)の注射後には観察されなかった。
【0110】
1回のVEGF注射は、15分までにベースラインに戻る可逆的で迅速で一過性のシグナリング応答を引き起こしたが、4回のVEGF注射(30分ごと)は長期的なシグナリング応答を引き起こした。例えば、Flk−カテニンおよびErkリン酸化の解離は長期的なVEGF暴露の後に持続した。このモデルは、VEGF発現が低酸素により増強され数日間続くMI後の生理的状況に適用可能でありうる。
【0111】
Srcは、急性MIまたは全身VEGF投与後のVPにおいて生理的および分子的役割を果たしている。MI後の不良な結果は、1つには、梗塞領域を包囲する潅流心臓微小血管の過剰透過性によるものと思われる。これらの血管はVEGFにより悪影響を受け、VPのSrc依存的上昇を被り、これが血管閉塞または破壊を招き、最終的には周辺筋細胞の損傷を招く。これは、再潅流中に血管が開いているにもかかわらずMI後に確認された不良な組織潅流の持続および高い死亡率と合致する。MIの6時間も後のSrc抑制は尚もVEGF誘発性VPに対する有意な防御をもたらし、このことは臨床場面におけるこのアプローチの妥当性を示している。MI後のSrcインヒビターの投与は、内皮関門機能を維持するFlk−カドヘリン−カテニン複合体の解離を妨げることにより、VPを抑制するらしい。
【0112】
超微細構造データは、MI後のVEGFの初期効果が、内皮基底膜を露出させる内皮結合部の開口を伴うことを示唆している。これらの部位には血小板(その多くは脱顆粒され活性化される)が接着した。これは興味深いことである。なぜなら、血小板はVEGFを含有し、VEGFは、血小板の活性化に際して局所的に放出されると、VP応答を増強しうるからである。実際、Src抑制の有益な効果のいくつかは血小板活性化に対するその効果によるものでありうる。MI後の初期事象は、浮腫の蓄積、組織損傷を引き起こすカスケードを始動させ、ついでこれは心臓組織の線維症およびリモデリングを招くことが本データから明らかである。線維症リモデル化心臓組織は正常心臓組織より機能的に劣ることを指摘することは重要である。したがって、損傷の影響を早期に抑制することにより、心臓組織のリモデリングが少なくて済むようにすることによる長期的な利益が予想されうる。単一冠状血管の遮断は、梗塞領域の拡大、線維症およびいくつかの場合には死を招く急性損傷を促進するため、この過程への早期の有効な介入は長期的な防御および利益をもたらすであろう。
【0113】
本データは、Srcインヒビターがそのような役割を果たしうることを示している。Src抑制はFlk−カドヘリン−カテニン複合体を維持し、内皮結合部を、VEGFの透過性促進作用に対して不応性にする。
【0114】
驚くべきことに、VEGFの全身注射は、MI後に見られる心臓血管に対する超微細構造的効果の多くを引き起こした。インビボで内皮関門機能不全および血管損傷を誘発するには、VEGFのみで十分であった。同様に、SrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターでのSrcの遮断を伴う本発明の方法は、これらの事象をMI後に抑制するだけでなく、全身VEGF注射後にも抑制する。Src抑制は、VEGF刺激にもかかわらずFlk−カドヘリン−カテニン複合体を安定化する。VEGF誘発性VPに対する他の寄与因子には、キャベオラまたは小胞−液胞オルガネラ(VVO)および穿孔が含まれうる。これらの透過性様態もSrc依存的でありうるであろう。なぜなら、pp60Src−/−マウスはVEGF注射後の透過性の徴候を示さないからである。あるいは、内皮間隙、血管外遊出血液細胞および露出基底膜が穿孔およびVVOを誘発しうる。
【0115】
VEGFは、種々の因子(サイトカイン、発癌遺伝子、低酸素)に応答してインビボで発現され、透過性および血管新生、ならびに内皮細胞の増殖、遊走、およびアポトーシスからの防御を誘発するよう作用する。腫瘍は、血流内で検出されうる多量のVEGFを産生する。実際、腫瘍内または腫瘍付近の血管は、VEGF注射後に本研究において見られた特徴(例えば、穿孔内皮、開いた内皮間結合部および塊化融合キャベオラ)の多くを共有する。種々の癌を有する患者におけるVEGFの血清レベルは100〜3000pg/mlの範囲であることがあり、一方、局所細胞または組織VEGFレベルはそれより10〜100倍高いことがある。MI後の患者においては、100〜400pg/mlの血清VEGFレベルが報告されており、急性MIの患者では安定型狭心症の患者より高い。いくつかの原発性および転移性腫瘍の場合と同様に、梗塞周囲領域における局所VEGFレベルは血清レベルを超えるであろう。本データは、癌患者のなかには血栓性疾患を増進させている者がいるという知見を説明しうるものである。なぜなら、循環中のVEGF蓄積の増加はVP応答を扇動し、これは血小板を誘引し、血流の喪失を招く。また、最近報告された観察は、末期癌に伴う胸水および全身浮腫を説明しうるものである。したがって、Srcの遮断は癌関連浮腫疾患に対して顕著な効果をもたらしうる。
【0116】
AGL1872は、Srcファミリーチロシンキナーゼを抑制する一方で、ある範囲の他のキナーゼを破壊する。一方、SKI−606は、SrcおよびYesに対して、より選択的であると報告されている。これらのインヒビターの両方は、類似した生物活性パターンを示したが、SKI−606は、有意に、より低い投与量で、有効であった。AGL1872はマウスにおいて22〜133nM(0.5〜3mg/kg)で有効であったが、SKI−606はマウスにおいて12〜118nM(0.5〜5mg/kg)で有効であった。野生型動物に投与された薬理学的Srcインヒビターが、ノックアウトマウスで見られたものと同じ、心臓血管の組織損傷、生化学および超微細構造に対する影響を及ぼしたことは、該効果が、主として、ECにより生じる漏れによるものであり、これらの動物における遺伝的素因には関連していないことを示唆している。SrcおよびYesは脳における虚血損傷後のVEGF媒介性VP応答および梗塞組織の拡大に必須であるが、Fynは必須ではない。総合すると、このデータは、MI後のSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの投与の有益な効果が、実際に、Srcキナーゼ抑制によってもたらされるものであり、pp60Srcおよびpp62Yesを、十中八九関連しているSrcキナーゼとして関連づけるものであることを示唆している。
【0117】
MI後または直接VEGF注射後に、実質的に同じ超微細構造変化が観察された。VEGFが主として内皮に作用し、他の細胞型には作用しないという事実は、EC内のSrcの遮断が該超微細構造観察を説明するものであることを示唆している。さらに、観察された変化のほとんどは、EC細胞−細胞接触および血管の完全性における変化に直接的に関連しており、それらはいずれも、Srcノックアウト動物においても、Srcインヒビターで処理された野生型動物においても見られなかった。重要なことに、VPにおけるSrcの役割は、VE−カドヘリンおよびβ−カテニンをリン酸化しVEGF受容体Flkとのこれらの結合タンパク質間の複合体の解離を促進するその能力によると考えられうる。
【0118】
ホスホ−Src−Y418抗体およびSrc基質ホスホ−FAK−Y861の両方を使用して評価した場合、Srcインヒビターでの処理は用量依存的にVEGF誘発性Src活性をインビボで遮断する。この生化学的プロフィールは、Src抑制がMI後の浮腫および梗塞サイズに関して防御をもたらすという本発明者らの知見と強く相関する。
【0119】
本発明の方法はVP誘発性組織損傷(特に、心筋梗塞により生じたもの)の特異的改善に良く適している。なぜなら、Srcファミリーチロシンキナーゼ作用の標的化抑制は、損傷からの回復に有益でありうる他のVEGF誘発性応答に長期的な影響を及ぼすことなく、抑制をVPに集中させるからである。
【0120】
Srcは、VEGF媒介性血管透過性に影響を及ぼすことにより組織損傷を調節するようであり、したがって心筋虚血の病態生理学における新規治療標的に相当する。冠状動脈閉塞後の心筋損傷の度合はSrcファミリーチロシンキナーゼの急性薬理学的抑制により有意に軽減されうる。
【0121】
比較的小さな分子の合成化学的インヒビターの使用は一般に、比較的大きなタンパク質の使用より安全であり、より扱いやすい。したがって、治療的に活性な物質としては前者が好ましい。
【0122】
前記の説明は、当業者が本発明を実施することを可能にするものである。実際には、本明細書に示され記載されているものに加えて、本発明の種々の修飾が、前記の説明から当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1−1】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図1−2】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図1−3】図1は、Braeuningerら,Proc.Natl Acad.Sci,USA,88:10411−10415(1991)に最初に記載されたヒトc−SrcのcDNA配列(配列番号1)である。該配列は、GenBankアクセッション番号X59932 X71157により入手可能である。該配列は2187ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド134位から始まり、1486位で終わる。
【図2】図2は、図1に示すコード配列のヒトc−Srcのコード化アミノ酸残基配列(配列番号2)である。
【図3−1】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−2】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−3】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図3−4】図3は、ヒトc−Yesタンパク質をコードするcDNAの核酸配列(配列番号3)を示す。該配列はGenBankアクセッション番号M15990により入手可能である。該配列は4517ヌクレオチドを含有し、タンパク質コード部分はヌクレオチド208位から始まり1839位で終わり、図4に示すアミノ酸配列に翻訳される。
【図4−1】図4はc−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図4−2】図4はc−Yesのアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図5】図5は、Src、FynおよびYesを欠損したマウスの皮膚におけるVEGFのVPに関する、修飾されたマイルス(Miles)アッセイからの結果を示す。図5Aは、処理された耳の写真である。図5Bは、種々の欠損マウスの刺激に関する実験結果のグラフである。図5Cは、該処理組織から溶出したエバン(Evan’s)青色色素の量をプロットしている。
【図6】図6は、Src+/−、Src−/−、野生型(WET)およびAGL1872(すなわち、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン)処理野生型マウスにおける脳梗塞の相対サイズを示すグラフである。
【図7】図7は、対照およびAGL1872処理マウスの脳の連続的MRIスキャンを示し、これは、AGL1872処理動物(右)においては、対照動物(左)の場合より軽度の脳梗塞を示している。
【図8】図8は、本発明の好ましいピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図9】図9は、本発明の好ましい大環状ジエノンSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図10】図10は、本発明の好ましいピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターの構造を示す。
【図11】図11は、心筋梗塞を誘発するよう外傷を受けた生体染色ラット心臓組織の光学顕微鏡イメージを示す。右側のイメージは、有意なレベルの壊死を示す対照であり、左側のイメージは、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビター(AGL1872)で処理された組織であり、壊死のレベルの劇的な減少を示している。
【図12】図12は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての心筋梗塞のサイズの棒グラフを示す。
【図13】図13は、インヒビター(AGL1872)での処理の後の時間の関数としての心筋梗塞のサイズの棒グラフを示す。
【図14】図14は、インヒビター(AGL1872)濃度の関数としての心筋水含量の棒グラフを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞に罹患した哺乳動物の治療方法。
【請求項2】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)A、ラディシコル(Radicicol)R2146およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる大環状ジエノンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オンである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが、一般式(I):
【化1】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
腹腔内注射により該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
静脈内注射により該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
心筋梗塞後約6時間以内に該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
心筋梗塞後約24時間以内に該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞に罹患した哺乳動物の治療方法。
【請求項18】
ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが5−(4−メチルフェニル)置換ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが5−(4−ハロフェニル)置換ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが4−(4−ハロアニリノ)−3−キノリンカルボニトリル化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
包装材と、該包装材中に含有された医薬組成物とを含む製造物品であって、該医薬組成物が、血液供給の障害を被った冠状組織における壊死を軽減しうる量で存在し、該包装材が、該医薬組成物が心筋梗塞の治療に使用されうることを示すラベルを含み、該医薬組成物が、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターとその医薬上許容される担体とを含む、製造物品。
【請求項22】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項21記載の製造物品。
【請求項23】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項24】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)A、ラディシコル(Radicicol)R2146およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる大環状ジエノンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項25】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項26】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、一般式(I):
【化2】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項21記載の製造物品。
【請求項27】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項26記載の製造物品。
【請求項28】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルおよび4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)よりなる群から選ばれる4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項21記載の製造物品。
【請求項29】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである、請求項21記載の製造物品。
【請求項30】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の予防量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞のリスクを有する哺乳動物の予防処置のための方法。
【請求項31】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
哺乳動物がヒトである、請求項30記載の方法。
【請求項33】
該医薬組成物を該哺乳動物に経口投与する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
該医薬組成物を該哺乳動物に非経口投与する、請求項30記載の方法。
【請求項35】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項30記載の方法。
【請求項36】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項30記載の方法。
【請求項37】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、一般式(I):
【化3】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項30記載の方法。
【請求項38】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルおよび4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)よりなる群から選ばれる4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項30記載の方法。
【請求項40】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである、請求項30記載の方法。
【請求項1】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞に罹患した哺乳動物の治療方法。
【請求項2】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)A、ラディシコル(Radicicol)R2146およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる大環状ジエノンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オンである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが、一般式(I):
【化1】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルが4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
腹腔内注射により該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
静脈内注射により該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
心筋梗塞後約6時間以内に該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
心筋梗塞後約24時間以内に該医薬組成物を該哺乳動物に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞に罹患した哺乳動物の治療方法。
【請求項18】
ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが5−(4−メチルフェニル)置換ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが5−(4−ハロフェニル)置換ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが4−(4−ハロアニリノ)−3−キノリンカルボニトリル化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
包装材と、該包装材中に含有された医薬組成物とを含む製造物品であって、該医薬組成物が、血液供給の障害を被った冠状組織における壊死を軽減しうる量で存在し、該包装材が、該医薬組成物が心筋梗塞の治療に使用されうることを示すラベルを含み、該医薬組成物が、化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターとその医薬上許容される担体とを含む、製造物品。
【請求項22】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項21記載の製造物品。
【請求項23】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項24】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ゲルダナマイシン(Geldanamycin)、ヘルビマイシン(Herbimycin)A、ラディシコル(Radicicol)R2146およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる大環状ジエノンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項25】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−メチルスルファニルフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オンである、請求項21記載の製造物品。
【請求項26】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、一般式(I):
【化2】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項21記載の製造物品。
【請求項27】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項26記載の製造物品。
【請求項28】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルおよび4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)よりなる群から選ばれる4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項21記載の製造物品。
【請求項29】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである、請求項21記載の製造物品。
【請求項30】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターを含む医薬組成物の予防量を哺乳動物に投与することを含んでなる、心筋梗塞のリスクを有する哺乳動物の予防処置のための方法。
【請求項31】
哺乳動物が非ヒト哺乳動物である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
哺乳動物がヒトである、請求項30記載の方法。
【請求項33】
該医薬組成物を該哺乳動物に経口投与する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
該医薬組成物を該哺乳動物に非経口投与する、請求項30記載の方法。
【請求項35】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ピラゾロピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、大環状ジエノンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、ピリド[2,3−d]ピリミジンクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビター、4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルクラスのSrcファミリーチロシンキナーゼインヒビターおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる、請求項30記載の方法。
【請求項36】
化学的Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジン、4−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d−]ピリミジンおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれるピラゾロピリミジンである、請求項30記載の方法。
【請求項37】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、一般式(I):
【化3】
[式中、R1はメチルまたは−(CH2)n−Zである;X1はF、Cl、Br、Iおよびメチルである;X2はH、F、Cl、Br、Iおよびメチルである;X3はHまたはメトキシである;nは2、3、4または5である;ならびにZは4−モルホリニル、4−(1−メチルピペルジニル)、4−(1−エチルピペルジニル)、4−(1−プロピルピペルジニル)、1−(シス−3,4,5−トリメチルピペルジニル)、1−ピペラジニル、1−(4−メチルホモピペラジニル)、1−ピペリジニル、4−(1−ヒドロキシピペリジニル)、2−(1,2,3−トリアゾリル)、1−(1,2,3−トリアゾリル)、1−イミダゾリル、−NHCH2CH2−1−モルホリニルおよび−N(CH3)−CH2CH2−N(CH3)2である]
を有する4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項30記載の方法。
【請求項38】
R1が−(CH2)n−Zであり、X1およびX2が共にクロロであり、X3がメトキシであり、nが3であり、Zが4−モルホリニルである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシ−3−キノリンカルボニトリルおよび4−[(2,4−ジクロロフェニル)アミノ]−6−メトキシ−7−[3−(モルホリン−4−イル)プロポキシ]−3−キノリンカルボニトリル(SKI−606)よりなる群から選ばれる4−アニリノ−3−キノリンカルボニトリルである、請求項30記載の方法。
【請求項40】
Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターが、ATP模擬ヘテロ芳香族部分に隣接して位置する約6オングストローム未満のサイズの疎水性基を有するATP競合性Srcファミリーチロシンキナーゼインヒビターである、請求項30記載の方法。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図3−4】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図3−4】
【図4−1】
【図4−2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−532483(P2007−532483A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504057(P2007−504057)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/008719
【国際公開番号】WO2005/089366
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/008719
【国際公開番号】WO2005/089366
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】
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