説明

情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および情報記録媒体の製造方法

【課題】磁気ディスクの外周端面部分、内周端面部分から、その記録・再生面に異物が回り込むことに起因するヘッドクラッシュなどの弊害を回避可能な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提案すること。
【解決手段】ガラス基板の研磨工程および洗浄工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、洗浄工程として大気圧プラズマを用いたドライ洗浄工程を有している。ドライ洗浄工程では、発生した大気圧プラズマをガラス基板5の外周端面部分5bあるいは内周端面部分5cに吹き付け、ウエット洗浄では除去できない、これらの端面部分に付着している有機物などの異物を除去する。このガラス基板からなる磁気ディスクを用いた場合には、その端面部分から記録・再生面に異物が回り込むことに起因するヘッドクラッシュ、サーマルアスペリティ障害を確実に回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理機器の記録媒体として使用される情報記録媒体の製造に用いる、磁気ディスク用ガラス基板などの情報記録媒体用ガラス基板の製造方法、および当該情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気ディスクなどの情報記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理機器の記録媒体として使用される情報記録媒体の一つとして磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されたものであり、その基板としてはアルミニウム基板やガラス基板が用いられてきた。近年では、高記録密度化の追及に呼応して、アルミニウム基板と比べて磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隔をより狭くすることが可能なガラス基板の開発が急速に進められている。例えば、ガラス基板の表面を酸化セリウムで研磨した後、平均粒径の小さいコロイダルシリカで精密研磨することによって、表面粗さRaが0.3nm以下の超平滑なガラス基板を得ている。
【0003】
ここで、高記録密度化のために必要な低フライングハイト化を実現するためには、ガラス基板に高い平滑性が必要とされるが、もはや、高精度に基板表面を研磨するだけでは、十分な高い平滑性を得ることが難しくなってきている。つまり、いくら、高精度に研磨していても基板上に異物が付着していては高い平滑性を得ることはできず、精密研磨後の洗浄方法が大変重要になってきている。洗浄方法としては、ウエット洗浄とばれる洗浄方法とドライ洗浄と呼ばれる洗浄方法が知られている。
【0004】
情報記録媒体用ガラス基板の製造においては前者のウエット洗浄が採用されており、例えば、特許文献1(特開平10−241144号公報)に開示されている方法がある。ここに開示の洗浄法は、洗剤による超音波洗浄→純水による超音波洗浄(リンス)→純水による超音波洗浄→IPA(イソプロピルアルコール)による超音波洗浄→IPAの蒸気乾燥の各工程からなるものである。なお、研磨剤を効果的に除去するために、これらの洗浄の前に、硫酸などによる酸処理を行うことも提案されている(特許文献2:特開2000−348338号公報)。
【0005】
超音波洗浄以外に、洗浄用スポンジ(スクラブパッド)を回転運動させながら洗浄薬液をかけつつ回転したディスク基板に押し当てて強制的にディスク基板表面を洗浄するスクラブ洗浄という洗浄方法も知られている(特許文献3:特公平7−14509号公報)。
【0006】
一方、後者のドライ洗浄としては、エアジェット方式、エキシマUV方式と大気圧プラズマ方式などが知られている。ガラス基板の場合には、その表面に付着している微細な有機物を除去する必要があるので、紫外線とオゾンでの分解によるエキシマUV方式および、表面化学反応での分解による大気圧プラズマ方式が適している。エキシマUV方式は、ランニングコストが高いという問題点があり、近年においては大気圧プラズマ方式が注目されている。大気圧プラズマによる液晶ディスプレイ用ガラス基板の洗浄方法が特許文献4(特開2004−102271号公報)に開示されている。また、大気圧プラズマ発生室内で発生したプラズマを噴射ガスによって洗浄対象の基板表面に吹き付けて洗浄する方法が特許文献5(特開2006−159009号公報)に開示されている。
【特許文献1】特開平10−241144号公報
【特許文献2】特開2000−348338号公報
【特許文献3】特公平7−14509号公報
【特許文献4】特開2004−102271号公報
【特許文献5】特開2006−159009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、近年においては磁気ディスクの高密度化に伴い、磁気ヘッドの浮上量が8nm以下というような低フライングハイト化が要求されるようになってきている。このような浮上量の場合には、従来においては問題とされなかったガラス基板の内外周の端面に付着している異物に起因する弊害が無視できなくなるという新たな課題が見出された。
【0008】
すなわち、従来におけるガラス基板の洗浄方法では、ガラス基板の主表面については異物を十分に洗浄して除去することができるが、その外周端面部分および内周端面部分の洗浄を十分に行うことができず、これらの部分に異物が付着したままになることが多い。これらの部分に付着した異物は、磁気記録媒体の使用時に記録・再生面の側に回り込み、サーマルアスペリティ障害、ヘッドクラッシュの原因となる危険性が高い。
【0009】
また、磁気ディスクの外周端面部分において膜剥離が生ずると、それによって発生した異物が磁気ディスクの主表面の側に回り込み、同様な弊害を引き起こす危険性がある。ガラス基板の外周端面部分の膜付着強度はその主表面部分に比べて低いので、磁気ディスクの使用環境条件が厳しい場合などにおいて膜剥離が発生しやすい。例えば、近年において磁気ディスクは小型化・モバイル化が進み、ノート型PCや自動車用のナビゲーションシステムなどのように、温度、気圧などの環境条件が厳しい場所で用いられることが多くなってきている。このような過酷な環境で使用すると、磁気ディスクの外周端面または内周端面において膜が剥離して不純物が発生しやすくなる。
【0010】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、磁気ディスクなどの情報記録媒体の外周端面部分、内周端面部分から、その記録・再生面に異物が回り込むことに起因する弊害を回避可能な情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、対向する2つの主表面とこの主表面の間に介在する端面を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、プラズマを前記端面部分に向かって噴射することにより、前記端面部分に付着した有機物を除去することを特徴としている。
【0012】
ガラス基板の端面部分は、主表面に比べて表面粗さが大きいので、主表面に比べて有機物(例えば有機系ガスなど)を吸着しやすい傾向にある。本発明では、プラズマをガラス基板の端面部分に噴射することとしたので、鏡面状態の主表面の表面状態を乱すことなく、端面部分の有機物を除去することができる。
【0013】
ここで、前記プラズマを前記ガラス基板の端面部分に対して選択的に噴射することが望ましい。
【0014】
また、大気圧の下で前記プラズマを前記ガラス基板の端面部分に噴射することが望ましい。大気圧の下でプラズマをガラス基板の端面部分に噴射すれば、プラズマの到達範囲を端面部分に制限することが可能である。この結果、プラズマの接触範囲をガラス基板の端面部分に制限することができるので、鏡面状態の主表面の表面状態を乱すことなく、端面部分の有機物を除去することができる。
【0015】
本発明において、前記ガラス基板の端面部分は鏡面であることが望ましい。また、当該ガラス基板の端面部分はイオン交換処理されていることが望ましい。
【0016】
次に、本発明は、ガラス基板の研磨工程および洗浄工程を含む、中心部に円孔を有するドーナツ状の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記洗浄工程として、液体を用いたウエット洗浄工程と、プラズマを用いたドライ洗浄工程とを有しており、前記ドライ洗浄工程では、前記ガラス基板の外周端面部分および内周端面部分のうち少なくとも一方の端面部分にプラズマを当てることを特徴としている。
【0017】
ウエット洗浄においてはガラス基板の外周端面部分および内周端面部分の洗浄が不十分となりやすく、これらの部分に付着している有機物などの異物を十分に除去することができない。本発明では、ガラス基板の外周端面部分、内周端面部分にプラズマを当てることにより、これらの部分をドライ洗浄している。したがって、ガラス基板の外周端面部分、内周端面部分に付着している異物が確実に除去される。
【0018】
ここで、前記プラズマとしては真空雰囲気を形成する必要のない大気圧プラズマを用いることが望ましい。特に、大気圧プラズマ発生室内に配置した対向電極間にプラズマ発生用のガスを送り込み、この対向電極間に発生した大気圧プラズマを、当該大気圧プラズマ発生室から噴射ガスによって送り出すようにすれば、前記ガラス基板の外周端面部分、内周端面部分に対してプラズマを集中的に当てることができ、効率良く、これらの部分をドライ洗浄することができる。また、大気圧プラズマ発生室内に洗浄対象のガラス基板を入れる必要がないので、大気圧プラズマ発生室の大きさによって洗浄対象のガラス基板の大きさが制限されることもない。
【0019】
この場合、前記プラズマ発生用のガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンおよび窒素からなる不活性ガス群から選ばれた少なくとも一つを主成分とし、これに、酸素または水素を含有した混合ガスを用いることができる。前記噴射ガスとしては、当該混合ガスと同一の成分のもの、あるいは圧縮空気を用いることができる。
【0020】
また、この場合には、前記ガラス基板に対する前記大気圧プラズマの吹き付け位置を、前記ガラス基板の前記端面部分に沿って相対的に移動させるようにすればよい。例えば、大気圧プラズマの吹き位置を固定しておき、ガラス基板をその中心回りに回転させることによって、その外周端面部分、内周端面部分の全周に亘って大気圧プラズマを当てることができる。勿論、ガラス基板を固定しておき、大気圧プラズマの噴出ノズルをガラス基板の外周端面部分、内周端面部分に沿って移動させてもよい。また、複数本の噴出ノズルを配置して、短時間で、ガラス基板の外周端面、内周端面の全周に亘って大気圧プラズマを当てることができるようにしてもよい。
【0021】
本発明において、ガラス基板の種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラス基板の材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノ珪酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどの多成分系ガラスが挙げられる。
【0022】
中でも硫酸に対して比較的耐性の強く、化学強化のしやすさなどから、アルミノシリケートガラスが良い。例えば、アルミノシリケートガラスとしては、SiO2:58〜75重量%、Al23:5〜23重量%、Li2O:3〜10重量%、Na2O:4〜13重量%を主成分として含有するガラスや、TiO2:5〜30モル%、CaO:1〜45モル%、MgO+CaO:10〜45モル%、Na2O+Li2O:3〜30モル%、Al23:0〜15モル%、SiO2:35〜60モル%を含有するガラス等を用いることができる。このような組成のアルミノシリケートガラスは、化学強化することによって、抗折強度が増加し、圧縮応力層の深さも深く、ヌープ硬度にも優れる。
【0023】
本発明では、耐衝撃性や耐振動性等の向上を目的として、ガラス基板の表面に化学強化処理を施すことがある。化学強化方法としては、公知の化学強化法であれば特に制限されないが、例えば、ガラス転移点の観点から転移温度を超えない領域でイオン交換を行う低温型化学強化などが好ましい。化学強化に用いるアルカリ溶融塩としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、あるいは、それらを混合した硝酸塩などが挙げられる。化学強化する際のガラス基板の保持手段としては、種々の形態が考えられるが、要は、ガラス基板に化学強化処理液が所定の状態で接触することが可能であり、液ダレを起こさないものが好ましい。
【0024】
なお、本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、磁気ディスク用ガラス基板、光ディスク用ガラス基板、光磁気ディスク用ガラス基板などの製造方法として用いることができるが、特に、高い平滑性が要求されている磁気ディスク用ガラス基板の製造方法として用いると有効である。
【0025】
次に、本発明の情報記録媒体の製造方法は、上記の製造方法によって得られた情報記録媒体用ガラス基板上に少なくとも磁性層等の記録層を形成することを特徴とする。
【0026】
本発明では、特に、磁気ディスクの場合、サーマルアスペリティ障害あるいはヘッドクラッシュの原因となる異物がガラス基板の主表面および端面部分に残留することを防止できるので、ガラス基板上に磁性層等を形成した磁気記録媒体を高歩留まりで製造することができる。また、磁気ディスクの記録・再生面に、端部分に残留している異物が回り込みサーマルアスペリティ障害、ヘッドクラッシュが発生することを防止できる。さらに、鏡面仕上げされた端面部分の膜剥離強度が高いので、当該端面部分における膜剥離を抑制できる。よって、膜剥離によって発生した異物が記録・再生面に回り込み、サーマルアスペリティ障害、ヘッドクラッシュなどの原因となることを防止できる。
【0027】
ここで、磁気ディスクは、通常、所定の平坦度、表面粗さを有し、必要に応じ表面の化学強化処理を施した磁気ディスク用ガラス基板上に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層を順次積層して製造する。
【0028】
磁気ディスクにおける下地層は磁性層に応じて選択される。下地層としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Alなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料からなる下地層等が挙げられる。Coを主成分とする磁性層の場合には、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造とすることもできる。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、CrV/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層等が挙げられる。
【0029】
磁気ディスクにおける磁性層の材料は特に制限されない。磁性層としては、例えば、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPtや、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiOなどの磁性薄膜が挙げられる。磁性層は、磁性膜を非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割してノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)としても良い。磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)又は大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)対応の磁性層としては、Co系合金に、Y、Si、希土類元素、Hf、Ge、Sn、Znから選択される不純物元素、又はこれらの不純物元素の酸化物を含有させたものなども含まれる。
【0030】
また、磁性層としては、上記の他、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO2、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子が分散された構造のグラニュラーなどであっても良い。また、磁性層は、面内型、垂直型のいずれの記録形式であっても良い。
【0031】
磁気ディスクにおける保護層は特に制限されない。保護層としては、例えば、Cr膜、Cr合金膜、カーボン膜、ジルコニア膜、シリカ膜等が挙げられる。これらの保護膜は、下地層、磁性層等とともにインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護膜は、単層としても良く、あるいは、同一又は異種の膜からなる多層構成としても良い。
【0032】
上記の保護層上に、あるいは上記の保護層に代えて、他の保護層を形成しても良い。例えば、上記の保護層に代えて、Cr膜の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO2)膜を形成しても良い。
【0033】
磁気ディスクにおける潤滑層は特に制限されない。潤滑層は、例えば、液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテルをフレオン系などの溶媒で希釈し、媒体表面にディップ法、スピンコート法、スプレイ法によって塗布し、必要に応じ加熱処理を行って形成する。
【発明の効果】
【0034】
本発明では、磁気ディスク用ガラス基板などの情報記録媒体用ガラス基板の製造に当り、ガラス基板の外周端面部分あるいは内周端面部分にプラズマを噴射することにより、当該端面部分に付着した有機物などの異物を確実に除去できる。よって、本発明により製造されたガラス基板を用いて磁気ディスクなどの情報記録媒体を製造すれば、その端面部分から記録・再生面の側に残留異物が回り込み、ヘッドクラッシュ、エラーなどが発生するという弊害を防止できる。また、このような異物に起因して磁気ディスクの場合に発生するサーマルアスペリティ障害も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、本発明を適用した磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、および当該ガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法の実施の形態を説明する。
【0036】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造]
アルミノシリケートガラスとして、SiO2:58〜75重量%、Al23:5〜23重量%、Li2O:3〜10重量%、Na2O:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化用ガラス(例えば、SiO2:63.5重量%、Al23:14.2重量%、Na2O:10.4重量%、Li2O:5.4重量%、ZrO2:6.0重量%、Sb23:0.4重量%、As23:0.1重量%含有するアルミノシリケートガラス)を使用した。
【0037】
アルミノシリケートガラスはソーダライムガラスに比べて耐蝕性がある。このアルミノシリケートガラスをディスク状に加工すると共に、中心部に円孔を形成し、ドーナツ状のガラス基板を作成した。
【0038】
このガラス基板の内周側端面と外周側端面を鏡面研磨することにより、その表面をRmaxで1μm以下、Raを0.1μmである鏡面とした。また、このガラス基板の表裏面(対向する主表面)を鏡面研磨することにより、その表面をRmaxで3nm以下、Raで0.3nm以下である鏡面とした。
【0039】
このガラス基板を界面活性剤を含む洗浄液、純水、イソプロピルアルコールに順次浸漬して洗浄し、イソプロピルアルコール蒸気に接触させて乾燥した(ウエット洗浄工程)。
【0040】
次に、ガラス基板に化学強化を施した。化学強化は、化学強化処理液を化学強化処理槽に入れ、保持部材で保持したガラス基板を化学強化処理液に浸漬して行う。なお、ガラス基板の保持部材は、ガラス基板の配列方向に等間隔でV溝を複数個形成した3本の支柱を、その両端面で連結部材で連結して形成されている。複数のガラス基板は、各ガラス基板が3本の支柱の同一平面内にあるV溝によって3点支持されて保持され、支柱の延在する方向に複数枚配列されている。
【0041】
本実施例の保持部材の各支柱と連結部材は化学強化の際必要となる高温域での耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス合金であるSUS316で構成している。また、化学強化処理槽は,オーステナイト系ステンレス合金のSUS304で構成している。化学強化処理槽と保持手段の材料は、同種でも異種でも良い。他のステンレス合金としては、例えば、SUS316Lなどが好適である。また、本実施例の化学強化処理液は、フィルターを通して循環しているので、化学強化処理液が清浄に保たれている。
【0042】
化学強化の具体的方法は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を400℃に加熱し、300℃に予熱された洗浄済みのガラス基板を約3時間浸漬して行った。この浸漬の際に、ガラス基板の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板が端面で保持されるように保持部材で保持して行った。
【0043】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板表層のリチウムイオン、ナトリウムイオンは、化学強化溶液中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換されガラス基板は強化される。ガラス基板の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100〜200μmであった。化学強化を終えたガラス基板を、20℃の水槽に浸漬して急冷し約10分間維持した。これにより、微小クラックが入った不良品を除去できる。
【0044】
上記の工程を経て得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)で測定したところ、Rmaxで3nm、Raで0.3nmであった。さらに、ガラス表面を精密検査したところサーマルアスペリティ障害の原因となる異常突起は観察されなかった。
【0045】
次に、ガラス基板の外周端面部分および内周端面部分に大気圧プラズマを吹き付けて、これらの部分をドライ洗浄して有機物などの異物を除去した。このドライ洗浄工程は、上記のウエット洗浄工程の前に行うこともでき、ウエット洗浄工程の前に行うと、ウエット洗浄工程において洗剤とガラス基板表面との濡れ性が良くなり、付着している異物の除去が容易になる。
【0046】
図1は、大気圧プラズマを利用したドライ洗浄装置を示す概略正面図および概略側面図である。ドライ洗浄装置1は、不図示のプラズマ処理室を備え、その内部に、不図示の大気圧プラズマ発生室と、ここで発生した大気圧プラズマを噴出する噴出ノズル3、4と、ガラス基板5をその中心回りに回転させるためのスピンドル6とを備えている。大気圧プラズマ発生室2の内部には高圧交流電流が印加される対向電極(図示せず)が配置されており、プラズマ発生用のガスが不図示のガス供給部から対向電極間に送り込まれて、大気圧プラズマが発生する。対向電極間で発生した大気圧プラズマは、不図示の噴射ガス供給部から当該対向電極間に高速で吹き込まれた噴射ガスによって噴出ノズル3、4から噴出する。これら噴射ガス供給部および噴射ノズル3、4によってプラズマ噴射部が構成されている。
【0047】
スピンドル6は支持部7から水平に延びており、その先端部分に、主表面5aが垂直となるようにガラス基板5が取り付けられる。スピンドル6に取り付けたガラス基板5の外周端面部分5bに対して、その直径方向の両側から噴出ノズル3、4が対峙している。スピンドル6によってガラス基板5を回転させながら噴出ノズル3、4から大気圧プラズマを外周端面部分5bに吹き付けることにより、当該外周端面部分5bに付着している有機物などの異物が分解除去される。
【0048】
ガラス基板5の内周端面部分5cに大気圧プラズマを当ててドライ洗浄するためには、例えば、図2に示すドライ洗浄装置を用いることができる。このドライ洗浄装置10では、主表面5aが垂直となるようにガラス基板5の外周端面部分5bを把持するステンレススチール製などからなる複数の把持爪11と、これらの把持爪11によって把持されたガラス基板5をその中心回りに回転させるための回転駆動機構(図示せず)を備えている。ガラス基板5の内周端面部分5cには、その直径方向の両側から噴出ノズル13、14が対峙しており、これらの噴出ノズル13、14から大気圧プラズマが噴出されるようになっている。ガラス基板5を回転させながら大気圧プラズマを噴出することにより、ガラス基板5の内周端面部分5cの全周に亘って大気圧プラズマが当り、当該内周端面部分5cがドライ洗浄される。
【0049】
ここで、プラズマ発生用のガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンおよび窒素のうちの少なくとも一つの不活性ガスに、酸素または水素を混合した混合ガスを用いることができる。また、噴射ガスとしては、この混合ガスと同一の成分のもの、あるいは圧縮空気を用いることができる。
【0050】
大気圧の下で端面へのプラズマ噴射処理を行った。このガラス基板の主表面の表面粗さを測定したところ、Rmaxで3nm、Raで0.3の鏡面状態を維持していた。端面部分を分析したところ、有機物の付着は認められなかった。
【0051】
[磁気ディスクの製造]
上述した工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板の両面に、インライン型スパッタリング装置を用いて、NiAlのシード層、CrMo下地層、CoCrPtTa磁性層、水素化カーボン保護層を順次成膜し、ディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜して磁気ディスクを得た。
【0052】
得られた磁気ディスクについてグライドテストを実施したところ、異常突起によるヒット(ヘッドが磁気ディスク表面の突起にかすること)やクラッシュ(ヘッドが磁気ディスクの表面の突起に衝突すること)は認められなかった。また、サーマルアスペリティ障害の原因となる突起によって磁性層等の膜に欠陥が発生していないことも確認できた。
【0053】
また、磁気ディスクの外周端面部分、内周端面部分から記録・再生面に回り込んだ異物に起因するヘッドクラッシュやサーマルアスペリティ障害も発生しないことが確認された。さらに、磁気ディスクの外周端面部分の膜剥離も発生せず、膜剥離に起因して発生した異物が記録・再生面に回り込むことによる、ヘッドクラッシュやサーマルアスペリティ障害も発生しないことが確認された。
【0054】
端面部分は、主表面に比べて表面粗さが大きいので、主表面に比べて有機物(例えば有機系ガスなど)を吸着しやすい傾向にある。本発明では、プラズマをガラス基板の端面部分に対して選択的に噴射することとしたので、鏡面状態の主表面の表面状態を乱すことなく、端面部分の有機物を除去することができることが判った。
【0055】
本発明では、大気圧の下でプラズマをガラス基板の端面部分に噴射することにしたので、プラズマの到達範囲を端面部分に制限することが可能である。本発明によれば、プラズマの接触範囲をガラス基板の端面部分に制限することができるので、鏡面状態の主表面の表面状態を乱すことなく、端面部分の有機物を除去することができることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による大気圧プラズマを用いたドライ洗浄を実施するためのドライ洗浄装置を示す概略正面図および概略側面図である。
【図2】ドライ洗浄装置の別の例を示すドライ洗浄装置の概略正面図および概略側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1、10 ドライ洗浄装置
3、4、13、14 噴出口
5 ガラス基板
5a 主表面
5b 外周端面部分
5c 内周端面部分
6 スピンドル
7 支持部
11 把持爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主表面とこの主表面の間に介在する端面を備えた磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
プラズマを前記端面部分に向かって噴射することにより、前記端面部分に付着した有機物を除去することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマを前記ガラス基板の端面部分に対して選択的に噴射することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
大気圧の下で前記プラズマを前記ガラス基板の端面部分に噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板の端面部分は鏡面であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかの項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板の端面部分はイオン交換処理されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかの項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
ガラス基板の研磨工程および洗浄工程を含む、中心部に円孔を有するドーナツ状の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、
前記洗浄工程として、液体を用いたウエット洗浄工程と、プラズマを用いたドライ洗浄工程とを有しており、
前記ドライ洗浄工程では、前記ガラス基板の外周端面部分および内周端面部分のうち少なくとも一方の端面部分にプラズマを当てることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記プラズマとして大気圧プラズマを用いることを特徴とする請求項6に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
大気圧プラズマ発生室内に配置した対向電極間にプラズマ発生用のガスを送り込み、この対向電極間に発生した大気圧プラズマを、当該大気圧プラズマ発生室から噴射ガスによって送り出して前記ガラス基板の前記端面部分に向けて吹き付けることを特徴とする請求項7に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記プラズマ発生用のガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンおよび窒素からなる不活性ガス群から選ばれた少なくとも一つを主成分とし、これに、酸素または水素を含有した混合ガスであり、
前記噴射ガスは、当該混合ガスと同一の成分のもの、あるいは圧縮空気であることを特徴とする請求項8に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス基板に対する前記大気圧プラズマの吹き付け位置を、前記ガラス基板の前記端面部分に沿って相対的に移動させることを特徴とする請求項8または9に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス基板は多成分系ガラスからなることを特徴とする請求項6ないし10のうちのいずれかの項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項12】
前記ガラス基板はアルミノシリケートガラスからなることを特徴とする請求項6ないし10のうちのいずれかの項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項13】
前記ガラス基板を化学強化する化学強化工程を含むことを特徴とする請求項6ないし12のうちのいずれかの項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項14】
請求項6ないし13のうちのいずれかの項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されたガラス基板上に少なくとも記録層を形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【請求項15】
中心部に円孔を有するドーナツ状の情報記録媒体用ガラス基板のドライ洗浄装置であって、
大気圧プラズマ発生室と、
この大気圧プラズマ発生室内に配置した対向電極と、
この対向電極間にプラズマ発生用のガスを送り込むガス供給部と、
この対向電極間に発生した大気圧プラズマを、噴射ガスによって前記大気圧プラズマ室外に送り出して、前記情報記録媒体用ガラス基板の端面部分に向けて吹き付けるプラズマ噴射部とを有していることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板のドライ洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−90899(P2008−90899A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269285(P2006−269285)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】