説明

成形材料およびそれを用いた成形品の製造方法

【課題】成形材料を製造する過程での経済性、生産性を損なうことなく、かつ、射出成形を行う際には強化繊維の成形品中への分散が良好であり、高い力学特性を有する成形品を容易に製造できる成形材料を提供する。
【解決手段】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)0.1〜40重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)10〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、さらに該複合体が、該成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)を含む成形材料、およびそれを用いた成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料およびそれを用いた成形品の製造方法に関する。さらに詳しくは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを用いた、生産性、取扱性および成形性に優れる成形材料と、それを用いた力学特性に優れる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を生かして成形が容易であったり、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。
【0006】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。
【0007】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになったことで、より成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、低分子量体の含浸性をより高めることで、工程上の負荷を低減したり、耐熱性をより高めた成形材料を提案したり、成形時の繊維分散性をより向上させることで繊維長をさらに上げて力学特性を高めたり、表面外観の更なる向上を図るなど、多種多様な技術開発が必要となってきた。
【0008】
特許文献2には、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。ポリアリーレンスルフィドプレポリマーは強化繊維束に容易に含浸するため成形材料の生産性を高め、さらに成形工程においてマトリクス樹脂に容易に分散あるいは相溶することで強化繊維の成形品への分散を高める優れた材料である。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーは低分子量である為に、その添加量と、得られる成形品の力学特性がトレードオフの関係となってしまう問題があった。この成形材料の生産性や成形性の更なる向上の為には、よりポリアリーレンスルフィドプレポリマーの使用量を増やすことが一つの方法として考えられるが、かかる状況においても力学特性の高い成形品が得られる技術が要望されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2008−231291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂からなる成形材料において、低分子量体を容易に重合可能とすることにより、生産性、取扱性および成形性に優れる成形材料と、それを用いた力学特性に優れる成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続した強化繊維束(A)1〜50重量%と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)0.1〜40重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)10〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、さらに該複合体が、該成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の0価遷移金属化合物(D)を含む成形材料。
(2)前記成分(D)が、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属を含む化合物である(1)に記載の成形材料。
(3)前記成分(D)が、パラジウムまたはニッケルを含む化合物である(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
(4)連続した強化繊維束(A)1〜50重量%と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)0.1〜40重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)10〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、さらに該複合体が、該成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の低原子価鉄化合物(E)を含む成形材料。
(5)前記成分(E)が、II価の鉄化合物である(4)に記載の成形材料。
(6)前記成分(B)が、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満である(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料。
(7)前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
(8)前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
(9)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(8)のいずれかに記載の成形材料。
(10)前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(D)または前記成分(E)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である(9)に記載の成形材料。
(11)成形材料の形態が、長繊維ペレットである(10)に記載の成形材料。
(12)前記成分(C)が、前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(D)または前記成分(E)からなる複合体と層状に配置され接着されている、(1)〜(9)のいずれかに記載の成形材料。
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の成形材料を成形して成形品を製造する際に、前記成分(B)を前記成分(D)または前記成分(E)存在下で加熱することで重合させてポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる成形品の製造方法。
(14)前記成分(B)の加熱による前記成分(B’)への転化率が70%以上である(13)に記載の成形品の製造方法。
(15)前記成分(B’)の重量平均分子量が10,000以上である(13)または(14)に記載の成形品の製造方法。
(16)前記成形材料を180℃〜400℃の温度で成形する(13)〜(15)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(17)前記成形材料を成形前に180℃〜400℃の温度で予熱する(13)〜(16)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
(18)前記成形に際して用いる方法が、プレス成形、スタンパブル成形、トランスファー成形、射出成形からなる群から選択される少なくとも1種である(13)〜(17)のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成形材料およびそれを用いた成形品の製造方法を用いることにより、経済性、生産性に優れる成形材料の使用において、力学特性に優れた成形品を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)、熱可塑性樹脂(C)、および0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)から構成される。まず各構成要素について説明する。
【0015】
<強化繊維束(A)>
本発明で用いられる強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0016】
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
【0017】
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0018】
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0019】
強化繊維束は、強化繊維の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単糸数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、本発明の効果である、成形材料を製造する過程での熱可塑性樹脂の含浸性に優れている点、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に対応できる。
【0020】
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明の成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
【0021】
本発明の成形材料に用いられる、連続した強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0022】
<ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)>
本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーが好ましく用いられる。ここで、環式ポリアリーレンスルフィドは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有する下記一般式(a)のごとき化合物である。Arとしては前記式(b)〜式(l)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(b)が特に好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
【0026】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(o)〜式(q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
また、本発明における環式ポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0029】
これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド(前記式(b)、式(c)、式(g)〜式(l))、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(e))、環式ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(d))、環式ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(f))、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0030】
【化4】

【0031】
を80重量%以上、特に90重量%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)
【0032】
【化5】

【0033】
が挙げられる。
【0034】
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(a)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示できる。mがこの好ましい範囲であると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなりすぎず、強化繊維基材への含浸が容易である。
【0035】
また、環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が、単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、強化繊維基材へ含浸しやすくなるので好ましい。
【0036】
本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)における環式ポリアリーレンスルフィド以外の成分は直鎖状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここで直鎖状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(b)〜式(l)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(b)が特に好ましい。直鎖状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(o)〜式(q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、直鎖状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0037】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドエーテルオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい直鎖状のポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する直鎖状のポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
【0038】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むことが好ましく、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上が挙げられる。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)における環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、溶融粘度が低く、成形材料の生産性の面で好ましい。
【0039】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000未満が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。重量平均分子量が上記好ましい上限値未満であると強化繊維束に対する含浸性が十分となり、生産性を損なわず、成形材料から強化繊維束が脱落し取扱性が低下したりすることもない。
【0040】
また、本発明の成形材料に用いられるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の融点については、成形材料の成形性の観点から100〜300℃が好ましく用いられ、さらに好ましくは130〜280℃、最も好ましくは150〜250℃である。
【0041】
上記範囲内に融点を有することで、室温では固形状として取り扱えるだけでなく、含浸ダイ、コーター、フィルマーなどで過酷なプロセス温度を必要とせずに、連続した強化繊維束(A)と複合体を形成することができる。
【0042】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を得る方法としては例えば以下の(1)、(2)の方法が挙げられる。
【0043】
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂、重合で生成したポリアリーレンスルフィド成分であって前記顆粒状ポリアリーレンスルフィド樹脂以外のポリアリーレンスルフィド成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
【0044】
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
【0045】
さらに、本発明におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、後述する0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することで重合させて、容易にポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させることが可能である。
【0046】
<ポリアリーレンスルフィド(B’)>
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては前記の式(b)〜式(l)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(b)が特に好ましい。
【0047】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記の式(o)〜式(q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0048】
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)は上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0049】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド(B’)としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80重量%以上、特に90重量以上%含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0050】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が上記好ましい下限値以上であると、得られる成形品の力学特性が十分となる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
【0051】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。分散度がこの好ましい範囲であると、ポリアリーレンスルフィド(B’)に含まれる低分子成分の量が少なく、得られる成形品の力学特性が十分となる。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は前記SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの一般的なGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0052】
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)の溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
【0053】
さらに、本発明におけるポリアリーレンスルフィド(B’)は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の存在下に加熱することによって得ることができ、この方法によれば、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)を用いない場合に対して、低温、高速で前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド(B’)を得ることができる。 本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の加熱によるポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では力学的特性に優れるポリアリーレンスルフィドを得ることができる。ここでのポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率とは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)中の環式ポリアリーレンスルフィドが高分子量のポリアリーレンスルフィドに転化した割合を示した物である。
【0054】
<0価遷移金属化合物(D)>
本発明において、種々の0価遷移金属化合物(D)が重合触媒として用いられる。0価遷移金属としては、好ましくは、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属が好ましく用いられる。例えば金属種として、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金が例示でき、パラジウムまたはニッケルが特に好ましく用いられる。0価遷移金属化合物(D)としては、各種錯体が適しているが、例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。具体的にはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウム、ドデカカルボニル三ルテニウムなどが例示できる。これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0055】
これらの重合触媒は、上記のような0価遷移金属化合物(D)を添加してもよいし、系内で0価遷移金属化合物(D)を形成させてもよい。ここで後者のように系内で0価遷移金属化合物(D)を形成させるには、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物を添加することで、系内で遷移金属の錯体を形成させる方法、あるいは、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体を添加する方法などが挙げられる。以下に本発明で使用される遷移金属化合物と配位子、及び、遷移金属化合物と配位子で形成された錯体の例を挙げる。系内で0価遷移金属化合物(D)を形成させるための遷移金属化合物としては、例えば、種々の遷移金属の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示できる。ここで遷移金属種としては例えば、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示でき、具体的には酢酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫化パラジウム、塩化白金、臭化白金、酢酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、酢酸銀、塩化銀、臭化銀、酢酸金、塩化金、臭化金などが挙げられる。また、系内で0価遷移金属化合物(D)を形成させるために同時に添加する配位子としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と遷移金属化合物とを加熱した際に0価の遷移金属を生成するものであれば特に限定はされないが、塩基性化合物が好ましく、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、炭酸ナトリウム、エチレンジアミンなどが挙げられる。また、遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体としては、上記のような種々の遷移金属塩と配位子からなる錯体が挙げられる。具体的にはビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジアセタート、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)パラジウム、ビス(エチレンジアミン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)白金などが例示できる。これらの重合触媒及び配位子は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0056】
遷移金属化合物の価数状態は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる遷移金属化合物または遷移金属化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィドまたは遷移金属化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルを規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで把握できる。
【0057】
例えばパラジウム化合物の価数を評価する場合、L3端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、X線のエネルギーが3173eVの点を基準とし、3163〜3168eVの範囲内の平均吸収係数を0、3191〜3200eVの範囲内の平均吸収係数を1と規格化した際の吸収係数のピーク極大値を比較することで判断が可能である。パラジウムの例においては、2価のパラジウム化合物に対して、0価のパラジウム化合物では規格化した際の吸収係数のピーク極大値が小さい傾向があり、さらに、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進する効果が大きい遷移金属化合物ほどピーク極大値が小さい傾向がある。この理由は、XANESに関する吸収スペクトルは内殻電子の空軌道への遷移に対応しており、吸収ピーク強度はd軌道の電子密度に影響されるためと推測している。
【0058】
パラジウム化合物がポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化を促進するためには、規格化した際の吸収係数のピーク極大値が6以下であることが好ましく、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下であり、この範囲内では環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進することができる。
【0059】
具体的には、ピーク極大値は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進しない2価の塩化パラジウムでは6.32、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化を促進する0価のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム及びビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムではそれぞれ3.43及び2.99及び2.07である。
【0060】
<低原子価鉄化合物(E)>
本発明において、種々の低原子価鉄化合物(E)が重合触媒として用いられる。鉄原子は理論的に−II、−I、0、I、II、III、IV、V、VI価の価数状態を取りうることが知られており、ここで、低原子価鉄化合物とは、−II〜II価の価数を有する鉄化合物であることを指す。また、ここで述べる低原子価鉄化合物(E)とは、加熱による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の、反応系内における鉄化合物の価数が−II〜II価であることを指す。
【0061】
低原子価鉄化合物(E)としては、−II〜II価の価数を有する鉄化合物が挙げられるが、鉄化合物の安定性、取り扱いの容易さ、入手のしやすさ等から、本発明における低原子価鉄化合物(E)としては、0価、I価、II価の鉄化合物が好ましく用いられ、その中でも特にII価の鉄化合物が好ましい。
【0062】
II価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、II価の鉄のハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フェロセン化合物などが挙げられる。具体的には例えば塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、フッ化鉄、酢酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、硝酸鉄、硫化鉄、鉄メトキシド、フタロシアニン鉄、フェロセンなどが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
【0063】
I価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的には例えばシクロペンタジエニル鉄ジカルボニルニ量体、1,10−フェナントロリン硫酸鉄錯体などが例示できる。
【0064】
0価の鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、具体的にはドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄などが例示できる。
【0065】
これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0066】
これらの重合触媒は、上記のような低原子価鉄化合物(E)を添加してもよいし、III価以上の高原子価鉄化合物から系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させてもよい。ここで後者のように系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるには、加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドに高原子価鉄化合物と、高原子価鉄化合物に対して還元性を有する化合物を助触媒として添加することにより系内で低原子価鉄化合物を形成させる方法などが挙げられる。加熱により高原子価鉄化合物から低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法としては、例えば高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱により低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法などが挙げられる。なおここで、高原子価ハロゲン化鉄化合物の加熱の際には、これを構成するハロゲンの一部が脱離することで、低原子価鉄化合物(E)が形成すると推測している。
【0067】
本発明において、低原子価鉄化合物(E)が保存中に徐々に変質するような物質である場合は、より安定な高原子価鉄化合物の状態で添加しておき、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させるプロセスにおいて、系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させる方法が好ましく用いられる。かかるプロセスを用いることで、得られる成形材料の長期保管が可能であったり、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)をポリアリーレンスルフィド(B’)に転化率する際の添加率を高めることが可能となるため好ましい。
【0068】
以下に本発明で使用される高原子価鉄化合物の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるための高原子価鉄化合物としては、各種鉄化合物が適しているが、例えば、III価の鉄化合物として塩化鉄、臭化鉄、フッ化鉄、クエン酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトナート、鉄ベンゾイルアセトナートジエチルジチオカルバミン酸鉄、鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、アクリル酸鉄などが例示できる。中でも、鉄化合物を環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させるという観点から、環式ポリアリーレンスルフィド中での分散性の良好な鉄のハロゲン化物が好ましく、経済性の観点及び得られるポリアリーレンスルフィドの特性面から、塩化鉄がより好ましい。ここで述べるポリアリーレンスルフィドの特性としては、例えば1−クロロナフタレンへの溶解性が挙げられる。本発明の好ましい低原子価鉄化合物(E)を用いれば、1−クロロナフタレンへの不溶部の少ない、好ましくは不溶部のないポリアリーレンスルフィドが得られる傾向があり、これは、ポリアリーレンスルフィドの分岐単位または架橋単位が少ないことを意味し、このことは、高い成形加工性や成形品の高い機械強度などの特性が得られるという観点でポリアリーレンスルフィドとして望ましい特性といえる。
【0069】
以下に本発明で使用される助触媒の例を挙げる。系内で低原子価鉄化合物(E)を形成させるために添加する助触媒としては、環式ポリアリーレンスルフィドと高原子価鉄化合物とを加熱した際に高原子価鉄化合物と反応し低原子価鉄化合物を生成するものであれば特に限定はされないが、各種有機、無機の還元性を有する化合物が好ましく、例えば塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。中でも、塩化銅(I)、塩化スズ(II)、塩化チタン(III)が好ましく、固体状態で安全に取り扱いが可能な塩化銅(I)、塩化スズ(II)がより好ましい。
【0070】
これらの重合触媒及び助触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0071】
反応系内における鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造は、X線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において触媒として用いられる鉄化合物、または、鉄化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、鉄化合物を含むポリアリーレンスルフィドにX線を照射し、その吸収スペクトルの形状を比較することで鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握できる。
【0072】
鉄化合物の価数を評価する場合、K端のX線吸収端近傍構造(XANES)に関する吸収スペクトルを比較することが有効であり、スペクトルが立ち上がるエネルギー及びスペクトル形状を比較することで判断が可能である。III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトル、さらには0価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークの立ち上がりがより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)、酸化鉄(III)などでは7120eV付近にメインピークの立ち上がりが、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物などでは7110〜7115eV付近にメインピークの立ち上がりが、0価の鉄化合物である鉄金属(0)などでは7110eV付近からスペクトルに肩構造が観察される。また、III価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルに対し、II価の鉄化合物の測定で得られるスペクトルは、メインピークのピークトップ位置もより低エネルギー側となる傾向がある。具体的には、III価の鉄化合物では7128〜7139eV付近に、II価の鉄化合物では7120〜7128eV付近にメインピークのピークトップが観察され、より具体的には、III価の鉄化合物である塩化鉄(III)では7128〜7134eV付近に、酸化鉄(III)では7132eV付近に、II価の鉄化合物である塩化鉄(II)では7120eV付近に、塩化鉄(II)四水和物では7123eV付近に、メインピークのピークトップが観察される。
【0073】
また、鉄化合物の鉄原子近傍の構造を評価する場合、K端の広域エックス線吸収微細構造(EXAFS)より得られた動径分布関数を比較することが有効であり、ピークが観察される距離を比較することで判断が可能である。鉄金属(0)では0.22nm付近及び0.44nm付近にFe−Fe結合に起因するピークが認められる。塩化鉄(III)では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)では0.21nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、塩化鉄(II)四水和物では0.16〜0.17nm付近にFe−Cl結合に起因するピークが、また0.21nm付近にも別のFe−Cl結合と考えられるサブピークが認められる。酸化鉄(III)では0.15〜0.17nm付近にFe−O結合に起因するピークが、0.26〜0.33nm付近にFe−Fe結合などに起因するピークが認められる。
【0074】
すなわち、反応中または反応生成物のX線吸収微細構造(XAFS)解析により得られたスペクトルと、各種鉄化合物のスペクトルを比較することにより、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造が把握可能である。
【0075】
前記鉄化合物の添加に際しては、水分を含まない条件下で添加することが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる好ましい水分量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、水分を実質的に含有しないことがよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分量の合計量の、添加した重合触媒に対するモル比は、9以下が好ましく、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、よりいっそう好ましくは0.1以下であり、水分を実質的に含有しないことがなおいっそう好ましい。この水分量以下であれば、低原子価鉄化合物(E)の酸化反応や加水分解反応などの副反応を防ぐことができる。このことから、添加する鉄化合物の形態は、水和物よりも無水物であることが好ましい。
【0076】
また、鉄化合物の添加に際し、環式ポリアリーレンスルフィド及び鉄化合物中に水分が含まれるのを防ぐためには、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加してもよい。乾燥剤としては、金属、中性乾燥剤、塩基性乾燥剤、酸性乾燥剤などがあるが、低原子価鉄化合物(E)の酸化を防ぐためには酸化性物質を系内に存在させないことが重要であることから、中性乾燥剤や塩基性乾燥剤が好ましい。これら乾燥剤としては、具体的には中性乾燥剤として塩化カルシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなど、塩基性乾燥剤として、炭酸カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどが例示できる。中でも、吸湿容量が比較的大きく、取り扱いが容易な塩化カルシウム、酸化アルミニウムが好ましい。なお、鉄化合物と乾燥剤を併せて添加する場合、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量、重合触媒中に水和物として含まれる水分子の合計量には、乾燥剤により脱水された水分量は含まないものとする。
【0077】
上記の水分量は、カール・フィッシャー法により定量が可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相に含まれる水分量は、気相の温度及び相対湿度からも算出できる。また、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる水分量、重合触媒中に含まれる水分量は、赤外線水分計を用いることや、ガスクロマトグラフィーによっても定量が可能であるし、環式ポリアリーレンスルフィド、重合触媒を100〜110℃程度の温度で加熱した際の、加熱前後の重量変化からも求めることができる。
【0078】
前記鉄化合物の添加に際しては、非酸化性雰囲気下で添加することが好ましい。ここで非酸化性雰囲気とは、環式ポリアリーレンスルフィド及び添加する鉄化合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、前記鉄化合物の添加に際しては、酸化性物質を含まない条件下で添加することが好ましい。ここで酸化性物質を含まないとは、環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる酸化性物質の、添加した重合触媒に対するモル比が1以下、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.1以下、よりいっそう好ましくは酸化性物質を実質的に含有しないことを指す。酸化性物質とは、前記重合触媒を酸化させ、触媒活性を有さない化合物、例えば酸化鉄(III)に変化させてしまうような物質のことを指し、例えば、酸素、有機過酸化物、無機過酸化物などが挙げられる。このような条件下であれば、低原子価鉄化合物の酸化反応などの副反応を防ぐことができる。
【0079】
使用する0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量ならびに0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の種類により異なるが、通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)中の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上ではポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)はポリアリーレンスルフィド(B’)へ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド(B’)を得ることができる。
【0080】
0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の添加に際しては、そのまま添加すればよいが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)に重合触媒を添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的にはポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を溶媒に溶解または分散し、これに0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、触媒の分散に際して、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)が固体である場合、より均一な分散が可能となるため0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
【0081】
本発明において、0価遷移金属化合物(D)を重合触媒として用いる成形材料は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高いことに特徴がある。0価遷移金属化合物(D)を重合触媒に用いることにより、ポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率が高く、力学特性や耐熱性に優れる成形品が容易に得られる。
【0082】
本発明において、低原子化鉄化合物(E)は、重合触媒として0価遷移金属化合物(D)に比べて低コストで入手できるという特徴がある。低原子化鉄化合物(E)を重合触媒に用いることにより、よりコストや生産性に優れた成形材料が得られる。
【0083】
<熱可塑性樹脂(C)>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(C)は、特に限定はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0084】
中でも、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂といったエンジニアプラスチック、あるいはスーパーエンジニアリングプラスチックが好ましく用いられ、かかる熱可塑性樹脂(C)を用いることにより、本発明における成形品の力学特性の改善効果をより一層引き出すことが可能となる。
【0085】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(C)の分子量は、成形材料を成形して得られる成形品の力学特性の観点から、重量平均分子量で好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、とりわけ好ましくは30,000以上である。これは重量平均分子量が大きいほど、マトリックス樹脂の強度や伸度が高くなる観点で有利である。一方、重量平均分子量の上限については特に制限は無いが、成形時の流動性の観点から好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは500,000以下を例示できる。なお、前記重量平均分子量は前記SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの一般的なGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0086】
上記群に例示された熱可塑性樹脂(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化剤、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0087】
<成形材料>
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)、熱可塑性樹脂(C)および0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)で構成される。
【0088】
このうち、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、強化繊維束(A)は1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましは10〜40重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0089】
また、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%である。この範囲内で用いることで、成形性と取扱性に優れた成形材料が得られる。(B)が0.1重量%未満では強化繊維束(A)への含浸が不十分となり、得られる成形材料の取扱性が不十分となる場合があり、40重量%を越えると得られる成形品の力学特性が不十分となる場合がある。
【0090】
さらに、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、熱可塑性樹脂(C)は10〜98.9重量%、好ましくは25〜94.5重量%、より好ましくは40〜89重量%であり、この範囲内で用いることで、成形性と取扱性に優れた成形材料が得られる。(C)が10重量%未満では射出成形の際に流動性が低下する場合があり、98.9重量%を越えると得られる成形品の力学特性が不十分となる場合がある。
【0091】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体に熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されて構成される成形材料である。
【0092】
強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、この3者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間にポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が満たされている。すなわち、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。
【0093】
さらに0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、重合触媒としての役割から、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の海中、および/又は強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)との界面に存在することが好ましい。
【0094】
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0095】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれは、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0096】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0097】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり熱可塑性樹脂(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0098】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、熱可塑性樹脂(C)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を熱可塑性樹脂(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0099】
複合体と熱可塑性樹脂(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が該複合体の一部に入り込み、複合体中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0100】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0101】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と熱可塑性樹脂(C)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は低分子量であることから、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体である場合が多い。このため、熱可塑性樹脂(C)を、複合体を保護するように配置し、成形までの材料の運搬、取り扱い時のショック、擦過などにより、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が破砕されて飛散したりしないようにすることが望ましい。
【0102】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体に対して、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体が芯構造であり、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。
【0103】
このような配置であれば、高分子量の熱可塑性樹脂(C)が破砕しやすいポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を包んでいたり、擦過しやすい面に配置されたりしているため、成形材料として形状が保持されやすい。また、熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0104】
前述したように、強化繊維束(A)はポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)からなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維束(A)の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は達成される。ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は20%以下である。ボイド率が上記好ましい範囲であると、含浸・繊維分散促進の効果に優れる。ボイド率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
【0105】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0106】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば航空機部材などに適用が可能である。
【0107】
<成形品の製造方法>
本発明では、前記した成形材料を成形して成形品を製造する際に、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することで重合させてポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる。
本発明において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、含浸性が高く強化繊維束(A)との複合体が容易に製造できることから、成形材料の生産性向上に効果がある。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、流動性にも優れることから、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、流動性の良いポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が熱可塑性樹脂(C)に拡散し、強化繊維束(A)が熱可塑性樹脂(C)に分散することを助ける。さらに、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、熱可塑性樹脂(C)と容易に置換されることで強化繊維束(A)をより容易に分散させることを可能としている。かかる効果から、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)は、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0108】
さらに、本発明において、0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の加熱によるポリアリーレンスルフィド(B’)への転化を促す、いわゆる重合触媒としての役割を持つ。本発明の成形材料を成形して成形品を製造する際に、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)を0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)存在下で加熱することで重合させてポリアリーレンスルフィド(B’)への転化させることができる。かかる0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)の効果により、例えば本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形工程におけるシリンダー内および金型内において、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の重合が進展し、力学特性に優れた成形品が得られる。
【0109】
本発明の成形材料は、加熱することで溶融させて所定の形状に成形することができる。成形材料を溶融させる温度は、選択する原料によって異なるが、好ましい範囲として180℃〜400℃、より好ましくは200℃〜380℃、さらに好ましくは230℃〜360℃を例示できる。上記好ましい温度とすると、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)および/または熱可塑性樹脂(C)が溶融し易く成形性に優れ、一方、熱可塑性樹脂(C)が熱分解して成形品物性の低下やボイドが生じることもない。
【0110】
また、本発明の成形材料は、成形前に予熱してもよい。成形材料を予熱する温度は、選択する原料によって異なるが、180℃〜400℃、より好ましくは200℃〜380℃、さらに好ましくは230℃〜360℃を例示できる。かかる温度範囲で予熱することにより、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化が進行し、成形時間の短縮に効果がある。なお、生産性の観点から、かかる予熱工程を経た成形材料を直接成形機に投入しても良い。
【0111】
また、本発明の成形材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記予熱工程とは別に、前処理を行っても良い。これらの例としては、乾燥、脱脂、脱気、裁断、賦形、積層、配列、あるいは、接着が挙げられる。
【0112】
本発明の成形材料は、各種成形方法によって最終的な形状の成形品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、スタンパブル成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。
【0113】
本発明の成形材料はリブ、ボス、歯車といった複雑形状の成形品や平板、角板、丸板といった幅広の成形品といった多様な形状に成形することが可能である。複雑形状の成形品の場合、射出成形およびトランスファー成形が好ましく用いられ、生産性の面から射出成形がより好ましく用いられる。幅広の成形品にはプレス成形、スタンピング成形が好ましく用いられる。
【0114】
本発明の成形材料を射出成形に用いる場合は、ペレット形状とした成形材料を用いることが好ましい。射出成形においては、ペレット状の成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられることから、本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【0115】
また、本発明の成形材料を成形して得られた成形品をさらに加熱処理してもよい。成形品を加熱する温度は、成形材料に用いた原料によって異なるが、180℃〜400℃、より好ましくは200℃〜380℃、さらに好ましくは230℃〜360℃を例示できる。かかる温度範囲で加熱処理することにより、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化が進行し、成形品の力学特性の向上に効果がある場合がある。
【0116】
また、本発明で得られる成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記加熱工程とは別に、後処理を行っても良い。これらの例としては、アニール、研磨、裁断、研削、接着、あるいは、塗装が挙げられる。
【0117】
<成形品>
成形品としては、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、レンチ、スパナ、ドライバー等の工具類、歯車などの小型部品が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0119】
本発明に使用した評価方法を下記する。
【0120】
(1)融点測定
JIS K7121(1987)に準拠し、DSCシステムTA3000(メトラー社製)を用い、昇温速度10℃/分で測定し、融解ピーク温度を融点とした。
【0121】
(2)成形材料を用いて得られた成形品に含まれる強化繊維の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、300℃で加熱プレスし、30μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを光学顕微鏡にて150倍に拡大観察し、フィルム内で分散した繊維を観察した。その長さを1μm単位まで測定して、次式により重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)を求めた。
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
【0122】
(3)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112(1999)の5に記載のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から1cm×1cmの試験片を切り出し、耐熱性ガラス容器に投入し、この容器を80℃の温度で12時間真空乾燥し、吸湿しないようにデシケーターで室温まで冷却した。浸漬液にはエタノールを用いた。
【0123】
(4)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点4mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度2.8mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0124】
(5)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0125】
(6)ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量
ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/min
カラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
【0126】
ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量は、成形品のGPC測定と、その成形品に用いたものと同種の熱可塑性樹脂(C)のGPC測定を個別に実施し、成型品のGPCチャートから、熱可塑性樹脂(C)のGPCチャート分のピークを除外して求めた。評価結果は、以下の2段階で評価し、○以上が合格である。
○:ポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量が10,000以上である。
×:ポリアリーレンスルフィド(B’)の分子量が10,000未満である。
【0127】
(7)ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
【0128】
成形品50mgを250℃で1−クロロナフタレン約25gに溶解させた。得られた溶液を、室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリアリーレンスルフィドを定量し、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)のポリアリーレンスルフィド(B’)への転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
評価結果は、以下の4段階で評価し、○以上が合格である。
○○○:ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が90%以上である。
○○ :ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が80%以上、90%未満である。
○ :ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が70%以上、80%未満である。
× :ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が70%未満である。
【0129】
(8)<X線吸収微細構造(XAFS)の測定
鉄化合物のX線吸収微細構造の測定は下記条件で行った。
実験施設:高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設
分光器:Si(111)2結晶分光器
ミラー:集光ミラー
吸収端:Fe K (7113eV) 吸収端
使用検出器:イオンチャンバー及びライトル検出器。
【0130】
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、及びイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0131】
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を376kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。80℃に加熱したスラリー(Sb)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(Sc)を10kg得た。スラリー(Sc)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。
【0132】
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
【0133】
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
【0134】
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィド(PAS)であることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
【0135】
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの重量比は9:1であることがわかった。
【0136】
(参考例2)
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.96kg(71.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.44kg(116モル)、酢酸ナトリウム1.72kg(21.0モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水14.8kg及びNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0137】
次に、p−ジクロロベンゼン10.3kg(70.3モル)、NMP9.00kg(91.0モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水1.26kg(70モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(Sa)を得た。このスラリー(Sa)を20.0kgのNMPで希釈しスラリー(Sb)を得た。
【0138】
80℃に加熱したスラリー(Sb)10kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(Sc)を約7.5kg得た。
【0139】
得られたスラリー(Sc)1000gをロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。
【0140】
この固形物にイオン交換水1200g(スラリー(Sc)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。ラジオライト#800S(昭和化学工業株式会社製)3gをイオン交換水10gに分散させた分散液を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過することで、フィルター上にラジオライトを積層し、これを用いてスラリーを固液分離した。得られた褐色のケークにイオン交換水1200gを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物を14.0g得た。
【0141】
得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10g分取し、溶剤としてクロロホルム240gを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により5時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いて約200gのクロロホルムを留去した後、これをメタノール500gに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過して回収し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を3.0g得た。白色粉末の収率は用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して31%であった。
【0142】
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜12の環式化合物を重量分率で約94%含むことがわかった。
【0143】
(実施例1)
参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるよう添加し、250℃の溶融バス中で溶融させ、ギアポンプにてキスコーターに供給する。260℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成した。
【0144】
このロール上に炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した。
【0145】
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した炭素繊維を、260℃に加熱されたベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、成分(B)を成分(A)に十分含浸した。
【0146】
続いて、成分(C)である“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製ポリフェニレンスルフィド樹脂、融点278℃)を330℃で単軸押出機にて溶融し、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0147】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。
【0148】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥させた。乾燥させた長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:320℃、金型温度:150℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表1に記載した。
【0149】
(実施例2)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0150】
(実施例3)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0151】
(実施例4)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%の酢酸パラジウムと、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して2モル%のトリフェニルホスフィンとを併用して系内で錯体を形成させた以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0152】
(実施例5)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%の塩化パラジウムと、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%の1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンとを併用して系内で錯体を形成した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0153】
(実施例6)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0154】
(実施例7)
0価遷移金属化合物(D)としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えてポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%の塩化ニッケルと、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して2モル%の1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンとを併用して系内で錯体を形成した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0155】
(比較例1)
0価遷移金属化合物(D)を含まない以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0156】
(比較例2)
0価遷移金属化合物(D)の代わりにジフェニルスルフィドを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%とし、炉内温度を260℃から300℃となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0157】
(比較例3)
0価遷移金属化合物(D)であるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えて塩化パラジウムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0158】
(比較例4)
0価遷移金属化合物(D)であるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代えて塩化ニッケルを用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%とし、炉内温度を260℃から300℃となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0159】
【表1】

【0160】
表1の実施例及び比較例より以下のことが明らかである。実施例1〜3、および6の成形材料を用いた成形品は、0価遷移金属化合物(D)を含むために、比較例1〜4にくらべ、ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量、およびポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、得られる成形品の力学特性において優位であることがわかる。また実施例4、5および7の成形材料を用いた成形品は、0価遷移金属化合物(D)を系内で形成するために、比較例1〜4にくらべ、ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量、およびポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、得られる成形品の力学特性において優位であることがわかる。
【0161】
(実施例8)
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの組成を得られる成形材料全体の20質量%とし、熱可塑性樹脂(C)の組成を得られる成形材料全体の60質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
【0162】
(実施例9)
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの組成を得られる成形材料全体の30質量%とし、熱可塑性樹脂(C)の組成を得られる成形材料全体の50質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
【0163】
(比較例5)
0価遷移金属化合物(D)を含まない以外は、実施例8と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例8と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
【0164】
(比較例6)
0価遷移金属化合物(D)を含まない以外は、実施例9と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例9と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表2に記載した。
【0165】
【表2】

【0166】
表2の実施例及び比較例より以下のことが明らかである。実施例8および9の成形材料を用いた成形品は、0価遷移金属化合物(D)を含むために、比較例5および6にくらべ、ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量、およびポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、得られる成形品の力学特性において優位であることがわかる。特に実施例9が比較例6にくらべて力学特性が著しく高いことから、成形材料中のポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の組成比が大きい場合ほど、0価遷移金属化合物(D)の添加が、成形品の力学特性向上に顕著に影響することがわかる。
【0167】
(実施例10)
熱可塑性樹脂(C)として、ポリフェニレンスルフィドに代えて、“アミラン”(登録商標)CM3001(東レ(株)製ナイロン66樹脂、融点265℃)を用い、成形材料製造時の熱可塑性樹脂(C)の押出温度を280℃とし、成形材料の射出成形温度を300℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
【0168】
(実施例11)
熱可塑性樹脂(C)として、ポリフェニレンスルフィドに代えて、“ウルテム”(登録商標)1000R(日本ジーイープラスチックス(株)製PEI樹脂、加重たわみ温度200℃、非晶性樹脂)を用い、成形材料製造時の熱可塑性樹脂(C)の押出温度を360℃とし、成形材料の射出成形温度を380℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で、本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表3に記載した。
【0169】
【表3】

【0170】
表3の実施例より以下のことが明らかである。実施例10および11の成形材料を用いた成形品は、実施例1同様に容易に生産、成形することが可能であり、さらに0価遷移金属化合物(D)を含むために、ポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量、およびポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)の転化率が高く、得られる成形品の力学特性において優位であることがわかる。
【0171】
(実施例12)
参考例2で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、低原子価鉄化合物源として塩化鉄(III)無水物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%となるよう添加し、250℃の溶融バス中で溶融し、ギアポンプにてキスコーターに供給した。260℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成した。
【0172】
このロール上に炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着させた。
【0173】
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着した炭素繊維を、260℃に加熱されたベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、成分(B)を成分(A)に十分含浸した。
【0174】
続いて、成分(C)である“トレリナ”(登録商標)A900(東レ(株)製ポリフェニレンスルフィド樹脂、融点278℃)を330℃で単軸押出機にて溶融し、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0175】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して本発明の成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。
【0176】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥した。乾燥した長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:320℃、金型温度:150℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表4に記載した。
【0177】
成形に際して、シリンダーからパージした吐出物から出るガス成分を検知管で調べた結果、塩素成分が確認された。得られた成形品を250℃の1−クロロナフタレンに溶融させたところ、不溶部として炭素繊維と鉄化合物が得られた。この不溶部から鉄化合物を単離し、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、塩化鉄(III)に近いスペクトル形状を有しており、動径分布関数からも0.16nm付近に塩化鉄(III)と同様のメインピークが認められ、塩化鉄(III)が主成分であることが確認されたが、XANESに関する吸収ピークにおいて、塩化鉄(II)のメインピークのピークトップが認められるエネルギー領域である7120eV付近にわずかに肩ピークが認められることから、加熱中に塩化鉄(II)成分が生成していたことがわかった。
【0178】
(比較例7)
低原子価鉄化合物(E)の代わりに酸化鉄(III)を用い、その添加量をポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%となるように変更した以外は、実施例12と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを、実施例12と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
【0179】
得られた成形品を250℃の1−クロロナフタレンに溶融させたところ、不溶部として炭素繊維と鉄化合物が得られた。この不溶部から鉄化合物を単離し、XAFS測定を行い、鉄化合物の価数状態及び鉄原子近傍の構造を解析した。その結果、XANESに関する吸収スペクトルにおいて、酸化鉄(III)と同様のスペクトル形状を有しており、動径分布関数では0.15nm付近及び0.26nm付近に酸化鉄(III)と同様のFe−O結合やFe−Fe結合などに起因するものと考えられるピークが認められ、酸化鉄(III)が主成分であることがわかった。
【0180】
(比較例8)
低原子価鉄化合物(E)を含まない以外は、実施例12と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例12と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表4に記載した。
【0181】
(比較例9)
低原子価鉄化合物(E)の代わりにチオフェノールナトリウム塩を用いた以外は、実施例12と同様の方法で、成形材料である柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。この柱状ペレットは芯鞘構造を有していた。得られた長繊維ペレットを、実施例12と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表10に記載した。
【0182】
【表4】

【0183】
表4の実施例および比較例より以下のことが明らかである。
実施例12の本発明の成形材料は、低原子価鉄化合物(E)を含むため、比較例7〜9の成形材料に比べ、得られる成形品中のポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量が大きいことがわかる。さらに、実施例12の本発明の成形材料中のポリアリーレンスルフィド(B’)の重量平均分子量が大きいため、成形品の力学特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の成形材料は、流動性、取扱性に優れ、また、射出成形を行う際には強化繊維の成形品中への分散が良好であり、力学特性に優れた成形品を容易に製造することができるため、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、インサート成形などの成形方法に限らず、プランジャー成形、プレス成形、スタンピング成形など幅広い成形方法にも応用することができるが、その応用範囲がこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0185】
1 強化繊維束(A)
2 ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)
3 強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)と0価遷移金属化合物(D)または低原子価鉄化合物(E)
からなる複合体
4 熱可塑性樹脂(C)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)0.1〜40重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)10〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、さらに該複合体が、該成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の0価遷移金属化合物(D)を含む成形材料。
【請求項2】
前記成分(D)が、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属を含む化合物である請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記成分(D)が、パラジウムまたはニッケルを含む化合物である請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%と、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー(B)0.1〜40重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)10〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、さらに該複合体が、該成分(B)中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の低原子価鉄化合物(E)を含む成形材料。
【請求項5】
前記成分(E)が、II価の鉄化合物である請求項4に記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(B)が、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満である請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜8のいずれかに記載の成形材料。
【請求項10】
前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(D)または前記成分(E)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
成形材料の形態が、長繊維ペレットである請求項10に記載の成形材料。
【請求項12】
前記成分(C)が、前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(D)または前記成分(E)からなる複合体と層状に配置され接着されている、請求項1〜9のいずれかに記載の成形材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の成形材料を成形して成形品を製造する際に、前記成分(B)を前記成分(D)または前記成分(E)存在下で加熱することで重合させてポリアリーレンスルフィド(B’)に転化させる成形品の製造方法。
【請求項14】
前記成分(B)の加熱による前記成分(B’)への転化率が70%以上である請求項13に記載の成形品の製造方法。
【請求項15】
前記成分(B’)の重量平均分子量が10,000以上である請求項13または14に記載の成形品の製造方法。
【請求項16】
前記成形材料を180℃〜400℃の温度で成形する請求項13〜15のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項17】
前記成形材料を成形前に180℃〜400℃の温度で予熱する請求項13〜15のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項18】
前記成形に際して用いる方法が、プレス成形、スタンパブル成形、トランスファー成形、射出成形からなる群から選択される少なくとも1種である請求項13〜17のいずれかに記載の成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−158746(P2012−158746A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−4771(P2012−4771)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】