説明

成形用ガラス素材の製造方法、ガラス素材、及びガラス光学素子の製造方法

【課題】熱膨張率が高いガラス素材であっても、容量が小さい場合であっても、形状が一定で、ガラス容量も一定である複数のガラス素材またはガラス素材群を、高い生産効率で歩留よく製造する方法、このガラス素材または上記ガラス素材群を構成するガラス素材を用いて、ガラス光学素子を高い生産効率で製造する方法を提供する。
【解決手段】100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上である光学ガラスからなる溶融ガラスを流出パイプから順次受け型に滴下し、又は流下しつつ分離し、冷却して、複数の予備成形したガラス素球を調製し、このガラス素球を、(転移温度−80℃)〜(転移温度+50℃)の範囲に加熱し、冷却する加熱処理を行い、加熱処理後の複数のガラス素球の表面の少なくとも一部または全部を、機械的加工により除去して精密ガラス球とする成形用ガラス素材の製造方法。上記方法により製造したガラス素材を、加熱により軟化した状態で成形型によってプレス成形する、ガラス光学素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精密モールドプレスに供するガラス素材を製造する方法、該ガラス素材、及び該ガラス素材を用いて、精密モールドプレスによってガラスレンズ等のガラス光学素子を製造する方法に関する。特に、本発明は、低屈折、かつ低分散、又は高屈折、かつ高分散であるなど、従来の硝材に比べて特に付加価値の高い硝材を用いてレンズを量産するに際し、高い歩留と生産効率で、安定してレンズを製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特表平3-500162号公報(特許文献1)には、フツリン酸光学ガラスが記載されている。これによると、屈折率ndが1.53〜1.55、アッベ数νdが72.8〜73.5程度の、低屈折率、低分散の光学ガラスを得ることができる。
【0003】
また、特開2002-173336号公報(特許文献2)には、屈折率が1.7〜2.0、アッベ数νdが20〜32程度の高屈折、高分散のリン酸系光学ガラスが開示されている。
【0004】
特開2005-97099号公報(特許文献3)には、予備成形された所定体積の成形素材を加熱軟化した状態でプレス成形し、得られたプレス成形品の外周を除去する芯取り加工を施す方法が記載されている。
【0005】
特開平9-165226号公報(特許文献4)には、上型及び下型の円中部外径寸法を成形ガラスレンズの有効径寸法より所定量だけ大きく設定し、上型の成形面側には有効径より外方で、かつ光学機能面と連接するような位置における外縁部にテーパー状に面取仕上げを施して所定寸法の面取部を形成する方法が記載されている。このようにすることで、レンズ素材の体積ばらつきを許容し、レンズ成形後の芯取り作業を不要にするとしている。
【0006】
特許2746567号(特許文献5)には、溶融ガラスを流出パイプから滴下し、これを凹部を有する成形型で受け、気体により浮上させながら凹部の内面と実質的に非接触の状態で球形状に成形する方法が開示されている。
【0007】
特開昭61-261225号公報(特許文献6)には、ガラスゴブを研磨してガラス球を形成し、このガラス球を加圧加熱成形することによって所望の光学素子を得る方法が記載されている。
【特許文献1】特表平3-500162号公報
【特許文献2】特開2002-173336号公報
【特許文献3】特開2005-97099号公報
【特許文献4】特開平9-165226号公報
【特許文献5】特許2746567号
【特許文献6】特開昭61-261225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1に記載されているような、低屈折、低分散の光学ガラスは、撮像機器などの光学系に用いて色収差補正などに極めて適したレンズの材料として、極めて有用に用いられる。特に、フツリン酸塩光学ガラスは、こうした光学特性を達成するガラスとして用いられる高付加価値ガラスである。
【0009】
また、特許文献2に記載されているような、高屈折、高分散の光学ガラスもまた、同様に撮像機器等において重用され、そのような光学恒数を達成する成分を含有するリン酸ガラスのニーズも高い。
【0010】
一方、光学ガラスを精密モールドプレスによってプレス成形し、所望の光学特性を有するレンズを得ることが知られている。プレス成形によって得られた光学機能面は、研磨等の後加工を施すことなく、必要な光学精度を充足する。但し、得られたガラスレンズは、特許文献3に記載されたように、プレス成形後の成形体について芯取りを行い、又は光軸に垂直な面に含まれる平面部を形成する後加工を行って、光学機器に装着されることが一般的である。ここで芯取りとは、成形体の外周(多くの場合、成形によって形成された自由表面部)を研磨等によって除去するとともに、外径中心軸と光軸を一致させることをいう。
【0011】
現在、小型撮像機器や光ピックアップ、通信用に用いられる光学レンズは、小型化と光学性能の両立が求められ、要求精度は益々高くなっている。これらの用途に求められるガラスレンズとしては、小径(例えば、レンズ径1mm〜5mm程度)、薄肉(例えば肉厚最小部分において、0.1〜1mm)のものも必要である。こうしたレンズを、精密モールドプレスによって成形する場合、成形後に上記の後加工を行うことは、レンズが小さい為に扱いにくく、芯出し精度が得にくいうえ、芯取り装置に設置するための工数がかり、不都合である。更に、薄肉レンズの場合には、芯取り工程での破損が生じやすい。特に、芯出し精度が不十分である場合、外径中心と光軸の一致性が悪くなり、該レンズを搭載した機器の光学性能に影響するため、問題が大きい。このため、芯取り工程を省略し、プレス成形によって、光学機能面を形成するとともに、外径を画定する方法が有利である。例えばこの方法により、外径ばらつきは10μm以内とすることが可能であり、更に光軸と外径中心との一致性も数μm以内とすることができる。
【0012】
そこで、プレス成形に用いる成形型の形状を工夫することによって、プレス成形によってレンズの光学機能面と外形まで含めた最終形状を得ることが考えられる。しかしながらこの場合、例えば成形素材の容積ばらつきに起因し、プレス成形による成形体が不定形の自由表面を有していたり、個体間での不均一な形状であってはならず、レンズを搭載する機器の用途に応じた所望の形状に均一に製造されなければならない。
【0013】
特許文献4に記載の方法では、上型の外縁部にテーパー状の面取仕上げを施すことにより、プレス成形時にその部分にレンズ素材の体積ばらつきからくる余剰光学素材が流入することによって、体積ばらつきを吸収し、芯取り作業を不要にしている。しかしながら、成形されるレンズの外周が不定形の突起となるため、光学機器への取り付けが行いにくく、また該部分が欠けやすいという問題がある。従って、このように、レンズ体積のなかで、素材の体積ばらつきを吸収させることは好ましくない。
【0014】
芯取り加工を行わない(プレス成形によってレンズの光学機能面と外形まで含めた最終形状を得る)場合、プレス成形の際には、レンズの第一面(上型又は下型の被転写面を有する)、第二面(下型又は上型の被転写面を有する)とともに、外周面にも成形型の各部材が接触するようにプレス成形をすることで、レンズ形状を画定するが、この場合、プレス成形に用いるガラス素材の容積を、得ようとするレンズの容積と正確に一致させることが求められる。ガラス素材の容量が過大であると、所定肉厚に達するまで上下型を接近させたときに、型部材の隙間にガラスが侵入してバリとなり、ガラス素材の容量が不足するとレンズの形状が不定形になる。
【0015】
ところで、プレス成形に用いるガラス素材は、ブロック状の光学ガラスから所定の大きさに切り出し、研磨によって球形に予備成形したり、又は、溶融ガラスを受け型に滴下、又は流下しつつ適切な手段で分離し、受け型内で固化して予備成形(熱間成形)して作製することができる。但し前者によって小径のガラス球を予備成形するには工数がかかり、研磨によって廃棄されるガラスも相当量になることから、生産コストを上昇させ、量産には必ずしも適さない。
【0016】
特許文献5の方法によって、予備成形されたガラス素材は、表面にキズや汚れ等の欠陥のない、重量精度の高いガラス素材を得ることができるとされている。しかしながら、溶融ガラスを所定の間隔又は流量で滴下/流下させる際には、ガラス素球の形状を一定にし、ガラス容量を常に一定とすることは容易ではない。殊に、容量が小さいものは、流出ノズルの振動や温度変化、気流などの外乱要因の影響を大きく受けるため、容量の一定化が更に困難であることを発明者らは見出した。
【0017】
特許文献6によると、表面精度の悪いガラスゴブを研磨して、均一な外径をもった球を得ることができるとされている。しかし、溶融ガラスをゴブ状にしたものは、急冷されたことに起因する為に大きな内部歪が残留している。そのようなゴブに対して研磨処理を行うと、研磨の衝撃によって破損しやすい。特に、熱膨張率の高いガラス素材を用いたときにこの傾向は著しく、歩留を下げる原因となることを発明者らは見出した。
【0018】
そこで本発明の目的は、熱膨張率が高いガラス素材であっても、さらには、容量が小さい場合であっても、形状が一定で、ガラス容量も一定である複数のガラス素材を、高い生産効率で歩留よく製造する方法を提供することにある。
【0019】
さらに本発明の目的は、熱膨張率が高いガラスからなり、形状が一定で、ガラス容量も一定であるガラス素材、およびそのようなガラス素材の複数からなるガラス素材群を提供することにある。
【0020】
加えて本発明の目的は、上記製造方法で製造したガラス素材または上記ガラス素材群を構成するガラス素材を用いて、ガラス光学素子を高い生産効率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する本発明は以下のとおりである。
[1]100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上である光学ガラスからなる溶融ガラスを流出パイプから順次受け型に滴下し、又は流下しつつ分離し、冷却して、複数の予備成形したガラス素球を調製し、
前記複数のガラス素球を、(転移温度−80℃)〜(転移温度+50℃)の範囲に加熱し、次いで冷却する加熱処理を行い、
前記加熱処理後の前記複数のガラス素球の表面の少なくとも一部または全部を、機械的加工により除去することによって複数の精密ガラス球とすることを特徴とする、
成形用ガラス素材の製造方法。
[2]前記加熱処理における冷却は、500℃/h以下の冷却速度で行うことを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3]前記光学ガラスは、フツリン酸ガラス、又はリン酸ガラスであることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記光学ガラス(以下、ガラスIという)は、フツリン酸ガラスであり、カチオン%表示で、
5+ 5〜50%、
Al3+ 0.1〜40%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜30%、
Li+ 0〜30%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜5%
Gd3+ 0〜5%
を含有することを特徴とする、[3]に記載の製造方法。
[5]前記光学ガラスは、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.95であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記光学ガラスは、ガラスの屈折率ndが1.40〜1.60、アッベ数(νd)が67以上であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記光学ガラス(以下、ガラスIIという)は、リン酸ガラスであって、
モル%表示で、P25 15〜45%、Nb25 3〜35%、Li2O 2〜35%、TiO2 0〜20%、WO3 0〜40%、Bi23 0〜20%、B230〜30%、BaO 0〜25%、ZnO 0〜25%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、Na2O 0〜30%、K2O 0〜30%(但し、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が45%以下)、Al230〜15%、SiO2 0〜15%、La23 0〜10%、Gd23 0〜10%、Yb23 0〜10%、ZrO2 0〜10%およびTa250〜10%を含むことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記光学ガラスは、ガラスの屈折率ndが1.65以上、アッベ数(νd)が35以下であることを特徴とする、[7]に記載の製造方法。
[9]前記予備成形は、滴下又は流下した溶融ガラスを受け型内で気体により浮上させながら行うことを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]フツリン酸塩光学ガラス、又はリン酸塩光学ガラスからなる球形状のガラス素材であり、表面に研磨による被加工面を有し、内部に歪が複屈折値で、20nm/cm以上残存している、モールドプレス用ガラス素材。
[11]体積が65mm3以下である[10]に記載のガラス素材。
[12]複数のガラス素材からなるガラス素材群であって、重量ばらつき幅が2.0%以下である、[10]又は[11]に記載のガラス素材。
[13][1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法により製造したガラス素材または[10]〜[12]のいずれかに記載のガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形することを特徴とする、ガラス光学素子の製造方法。
[14]前記ガラス光学素子は、光学機能面を有する第一面及び第二面と、外周面を有し、前記第一面、第二面及び外周面に、成形型の成形面を転写した被転写面を有することを特徴とする、[13]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱膨張率が高いガラス素材であっても、さらには、容量が小さい場合であっても、形状が一定で、ガラス容量も一定である複数のガラス素材を、高い生産効率で製造する方法を提供することができる。
【0023】
さらに本発明によれば、熱膨張率が高いガラスからなり、形状が一定で、ガラス容量も一定であるガラス素材、およびそのようなガラス素材の複数からなるガラス素材群を提供することができる。
【0024】
加えて本発明によれば、上記製造方法で製造したガラス素材または上記ガラス素材群を構成するガラス素材を用いて、ガラス光学素子を高い生産効率で製造する方法を提供することができる。これによって、本発明では、体積精度が所定範囲に管理された、精密モールドプレスによる光学素子の成形が、生産効率よく安定して行える。特に、光学素子に求められる光学恒数などの物性を充足するために選択されたガラス組成により、ガラス素材内部に残留しやすくなった歪や、機械的強度不足によって、生産工程途中で破壊が生じ易くなる問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の成形用ガラス素材の製造方法では、まず、100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上である光学ガラスからなる溶融ガラスを流出パイプから順次受け型に滴下し、又は流下しつつ分離して、冷却して、複数の予備成形したガラス素球を調製する。次いで、得られた複数のガラス素球を、(転移温度−80℃)〜(転移温度+50℃)の範囲に加熱し、次いで冷却する加熱処理を行う。最後に、加熱処理した複数のガラス素球の表面の少なくとも一部または全部を、機械的加工により除去することによって複数のガラス球とする。
【0026】
[ガラス素球の予備成形]
本発明では、溶融ガラスを流出パイプから順次受け型に滴下し、又は流下しつつ分離し、冷却して、複数の予備成形したガラス素球を調製する。
【0027】
溶融ガラスからガラス素球を予備成形するためには、例えば、図1又は図2に示す予備成形装置を用いることができる。
【0028】
図1の装置では、溶融ガラス2を白金などの流出パイプ1から自然滴下させ、又は流出パイプ1から流出した溶融ガラス2を切断刃で切断することによって所定単位に分離させて、ガラス滴として落下させ、受け型4の凹部5で受ける。流出パイプ1は、周囲に設けられたヒータ6によって適切に温度制御することができる。溶融ガラス滴を受け型の凹部5で受ける際には、凹部5に設けられた細孔7から気体を吹き出し、溶融ガラス滴3と凹部の間に気体の層と作る。このようにして、溶融ガラス滴3は浮上状態で、表面が軟化点以下の温度に達するまで、溶融ガラス滴3と凹部5とが実質的に非接触状態として保持されて予備成形されてガラス素球となる。
【0029】
図2の装置では、流出パイプ11から落下するガラス滴13を受け型14の受け部18によって受け、その後、ガラス滴13は受け型14の凹部15に収容される。この際、凹部15には気体を噴出す細孔17が設けられており、気体により収容されたガラス滴13が浮上し、凹部15内面と実質的に非接触の状態で、ガラス表面が軟化点以下となるまで保持されて予備成形されてガラス素球となる。
【0030】
上記いずれの装置の場合も、流出パイプの温度は適切に管理され、流出パイプから一定の流量でガラスが滴下するよう、粘度の調節を行う。上記浮上状態とは、受け型表面との接触を全く排除するものではなく、噴出するガスにより支えられながら受け型表面との瞬間的接触を繰り返す状態を含む。このようにして略球形に予備成形された複数のガラス素球は、上記浮上状態のまま、又は軟化点以下の温度で浮上状態を解除して、室温まで冷却される。
【0031】
ガラス素球は、上記冷却の間にほぼ球形状に予備成形されることが好ましい。球形状の指標としての長短径差は、100μm以下であることが好ましく、更には50μm以下が好ましい。また、体積に特に限定はないが、80mm3以下が好ましく、これを後述のとおり、機械加工によって65mm3以下とすることが好ましい。このような小体積の場合には、流出パイプからの滴下等の操作のみで、ガラス素球の体積精度を所定以上に制御することがより困難である。それに対して、本発明の方法によれば、このような小体積の場合も、ガラス素球の体積精度を所定以下に制御することは容易に行える。ガラス素球の体積の下限には特に制限はないが、実用上は、例えば、0.05mm3である。但し、これに限定する意図はなく、単なる例示である。
【0032】
略一定の体積のガラス素球を得るためには、略一定間隔(例えば、0.5〜3秒程度)で溶融ガラスを順次複数の受け型上に受け、そのそれぞれが数秒〜数十秒(例えば、5〜50秒)で室温まで冷却され、硬化することによってガラス素球が生産される。溶融ガラスが流出パイプから滴下又は流下を開始した時点から、溶融ガラスの冷却が始まるが、この段階での冷却速度を厳格に管理する必要はない。好ましくは、溶融状態から室温までの平均速度で、30〜100℃/秒とすることができる。このように予備成形された略球形状のガラス素球は、重量ばらつきが0.3〜2%程度の範囲で存在し、また、内部には急冷による大きな歪が残存した状態であることが多い。
【0033】
一般に、加熱されたガラスを冷却したときに、ガラス内部に残存する歪の大小は、冷却速度に依存するほか、該ガラスの組成にも依存する。すなわち、熱膨張率(線膨張係数αで評価)が大きいガラスにおいては、冷却に対する体積収縮が顕著である。急冷の際には、ガラス素球の表面から降温し固化して表面形状が画定してしまうが、ガラス素球内部はまだ高温状態にある。次いで、内部が降温して体積収縮するときに、既に固化した表面部分によってガラス素球形状がほぼ画定しているために、収縮することができず、内部に大きな引張り応力が生じ、これに対応して表面近傍に圧縮応力が残存した状態となる。
【0034】
ガラスがTgより高い温度にあるときには、内部に流動性が残っているが、Tg以下の温度域に入ると、発生した応力は解消されにくい。特にTgから歪点の範囲の温度は、内部応力、すなわち歪が最も発生しやすい領域である。従って、この領域におけるガラスの線膨張係数によって、冷却後のガラス素球の内部歪を評価できることに発明者らは注目した。
【0035】
ここで、ガラスの線膨張係数αhは、充分にアニールされ、内部歪が実質的に消失したガラス試料の温度変化に対する伸びの関係を示す熱膨張曲線において、毎分4℃の一定速度で加熱したときの100℃〜300℃までの平均膨張係数である。一般に膨張係数は、常温域αn(−30〜70℃)と高温域(100〜300℃)のαhで評価されるが、本発明では後者を用いる。Tgが300℃以上のガラスの場合であっても、上記膨張曲線において100℃〜Tgの範囲の温度ではほぼ直線的な増加を示すため、αhを指標として用いることにより、ガラス素球の残留歪量を評価できることになる。すなわち、この数値が大きいものほど、ガラス素球の残留歪が大きい傾向がある。
【0036】
発明者らの調査によると、光学ガラスの中で上記のように極めて有用な、フッ素含有ガラス(特にフツリン酸ガラス)およびリン酸塩ガラスにおいて、上記線膨張係数αが大きいものがある傾向が見られた。従って、これらαhの大きな光学ガラスを用いて、上記方法で予備成形したガラス素球は、その後に機械的加工を施すと、機械的加工の衝撃で破壊されやすく、また、機械的加工によって表面部を取り除くと、圧縮応力部分が除去されるため、更に破壊されやすくなる。
【0037】
後述するように、本発明の製造方法はこうしたαhの大きなガラスからなるガラス素材にたいして有効である。すなわち、本発明の製造方法が対象とする光学ガラスは、100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上のガラス、例えば、αhが、120×10-7/℃〜170×10-7/℃であるような光学ガラスである。特に特に線膨張係数αhが130×10-7/℃以上であるようなガラスについての製造において、本発明は特に顕著な効果が得られる。
【0038】
[ガラス素球の加熱処理]
本発明では、上記の予備成形過程によりTg以下、例えば室温程度に冷却されたガラス素球、又は冷却後、保管された上記ガラス素球に対し、所定の加熱処理を施す。上記工程によって得られた複数のガラス素球を一度に加熱処理することが、生産効率上好ましい。複数のガラス素球の数は、特に制限はないが、例えば、100〜1000個であることができる。但し、100個未満であっても良く、また、1000個を超えてもかまわない。生産のロットや装置の容量などを考慮して適宜決定できる。加熱処理は、(転移温度−80℃)〜(転移温度+50℃)の範囲の温度にガラス素球を加熱する工程を含む。加熱処理温度は、ガラス素球内部の歪を軽減できる程度であることが適切で、好ましくは、(転移温度−80℃)〜(転移温度+30℃)の範囲、更に好ましくは、(転移温度−50℃)〜(転移温度+30℃)の範囲の温度である。昇温速度は、例えば50〜200℃/hとすることができる。加熱後は、その温度で、例えば、15分〜5時間保持することが好ましい。
【0039】
加熱および加熱温度での保持の後、ガラス素球を冷却する。冷却速度は、5℃/h以上、500℃/h以下とすることが好ましい。より好ましくは、10〜200℃/hの冷却速度である。このようにすることで、本発明のガラス素球内部に過大な歪を残さずに、後工程に供することができる。但し、必ずしも内部歪を完全に解消する必要はなく、例えば、ガラス素球内の全域にわたり内部歪を100nm/cm程度以内残していても支障はない。むしろ、内部歪を完全に消失させるためには、冷却速度を小さくすることが必要であり生産効率を阻害する傾向がある。そのため、好ましくは、ガラス素材全域にわたり、内部歪を、複屈折で20〜100nm/cm程度残留しているものが、ガラス素材の割れ防止と生産効率の両立の点から好ましく、内部歪を上記範囲内とするように冷却速度を選択することが好ましい。
【0040】
尚、上記加熱処理において、Tg-80℃以上程度の温度、但し、Tg+50℃以下の温度、に昇温すれば、ガラス素球の急冷時に生じた個体間の密度ばらつきもほぼ一定に制御されるから、その重量(質量)も均一化することができ、この点でも、上記加熱処理を施すことは好ましい。
【0041】
[表面の機械加工]
次に、上記熱処理後のガラス素球表面に対し、機械加工を施す。機械加工としては、研削加工、および研磨加工が挙げられるが研磨加工がより好ましい。この機械加工によって、ガラス素球の表面形状を整え、ガラスの形状を精密な球とする。ここで、「精密な球」とは、真球度が高く、その結果、後述のように体積ばらつきが、一定範囲内に制御されたものである。
【0042】
容易に真球度の高い精密球を複数個同時に得るために、以下の方法が適用できる。ここで精度よく球の径を制御することができるため、精密ガラス球の体積が精度よく均一化できる。
【0043】
具体的な研磨方法としては、研磨盤を用いた転動加工を挙げることができる。転動研磨は、回転する2つの研磨盤に球体を挟み、球体を転がしながら研磨する方法である。研磨盤は2つの平面盤で挟む方式(両平面盤方式、図3参照)、もしくは、片側の研磨盤の表面に溝(例えば、図4ではV溝、V溝盤方式)を設けて、溝内側面ともう一方の研磨盤の平面部で挟み、溝内に素球(ここでは、略球形のガラス素球)を通らせる方式(図4参照)を用いることができる。後者の場合、素球は、平面盤と、溝内側面との3点で支持されながら、溝内を転動することで研磨される。そのため、球体は溝の中で自転しながら、その自転軸が変化し、球表面の凸部が主に研磨除去され、さらに、研磨が進むと、一様に研磨されるようになり、徐々に、球体の寸法精度および形状精度が高くなる。尚、研磨盤の表面に設ける溝は、V溝に限らず、溝内の2つの側面で素球を支持できる形状の溝であれば良い。
【0044】
研磨砥粒は、研磨速度や表面品質を高める上で、酸化アルミニウムや酸化セリウム、酸化ジルコニウムが好ましい。また、砥粒径が、0.01〜100μm程度のものを用いることができる。また、砥粒としては、コロイダルシリカや炭化ケイ素、ダイヤモンドなどを用いることもできる。
【0045】
研磨加工液は、これらの砥粒を水またはアルカリ水溶液と混合し、かつ懸濁し、スラリー状にしたものを用いることができる。加工液は、研磨盤上に、滴下または噴霧により適宜供給することができる。
【0046】
研磨条件は、球体1個あたりの研磨荷重5〜20gf/個の範囲とし、研磨盤の回転数を100〜300rpmの範囲とすることができる。これらの条件は、研磨するガラス素球の数量や寸法、ガラス組成に応じて、適宜調整を行うことができる。
【0047】
研磨速度は、例えば、1〜200μm/hr程度とすることができる。平面盤方式は、溝付研磨盤方式に比べ、研磨速度は大きいので、粗加工に適する。溝付研磨盤方式では、研磨速度を10μm/hr以内と小さくできるので、研磨時間により研磨量(寸法加工)を精密に制御できるという利点がある。さらに、溝付研磨盤方式は、球の形状精度を高精度に加工できるという利点もある。
【0048】
以上の工程により得られる複数の精密ガラス球の重量ばらつきは、所定重量に対して±1.0%以下であることが好ましい。ここで、「複数」とは、例えば50個以上、好ましくは100個以上である。上記の方法で得られた精密ガラス球は、モールドプレス用のガラス素材として用いることができるが、その場合、複数のガラス素材の個々のガラス重量(質量)が一定であれば、一定の光学素子を成形し得る。従って、精密ガラス球の重量ばらつきが所望値に対して、±1.0%以下であることが好ましい。より好ましくは、±0.5%以下である。特に、精密ガラス球の体積が30mm3以下である場合には、精密ガラス球の重量がより均一であることが求められ、±0.5%以下であることが好ましく、更には、±0.3%以下が好ましい。すなわち、重量ばらつきの評価にあたっては、ばらつき幅が2.0%以下、更には1.0%以下、精密ガラス球の体積が30mm3以下である場合には、1.0%以下、更には0.6%下が好ましい。このようにすることで、プレス成形によって得られる光学素子の、過剰容量によるバリの発生や、容量不足による形状不良が防止できる。
【0049】
前記複数の精密ガラス球の個々の体積は、0.05〜65mm3であることが好ましい。本発明は、溶融ガラスの予備成形(以下、熱間成形という)時に体積制御の困難な場合に、特に効果が顕著である。これは、得ようとする光学素子の体積が小さく、よってそのプレス成形に用いるガラス素子の体積が小さい場合には、熱間成形時の体積均一化が特に困難である上、熱間成形時に生じたわずかな体積ばらつきが光学素子体積に対して無視できない比率となる場合である。従って、精密ガラス球の体積は上記のように0.05〜65mm3である時に本発明の効果が顕著である。尚、撮像機器の光学系を構成するレンズとして所定性能を得やすい形状とするには、特に2〜30mm3とすることが好ましく、この場合、本発明の効果が顕著である。更には、2〜10mm3であるときに効果が高い。
【0050】
本発明では、上記のように調製した精密ガラス球を、ガラス素材としてプレス成形に供する。一定の内体積を有する成形型内に投入するガラス素材の重量(質量)を精密に一定にすることにより、プレス成形により所望のレンズの形状が得られる。即ち、はみ出しや外周稜部の丸まりがなく、面形状不良が防止され、高い肉厚精度で、所望のレンズの形状が得られる。
【0051】
尚、上記した加熱処理の工程を経ずに、ガラス素球の機械加工を行うと、既述のとおりガラス素球が破壊しやすい。特に、本発明で用いる10〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上である光学ガラスは、ガラス素球内部に大きな歪が残留しやすく、ガラス素球の表面近傍を研磨すると、その衝撃により、更には、圧縮応力の残留する表面近傍で除去されることによって、極めて破壊しやすい。換言すると、このような破壊耐性の低いガラス素球に対し、加熱処理を施して内部歪を緩和した上で、研磨加工することは、極めて有効である。
【0052】
[本発明の光学ガラス]
本発明の製造方法に適用する光学ガラスは、100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃以上の光学ガラスである。そのような光学ガラスとして、特に、フツリン酸塩ガラスからなる、低屈折、低分散のガラスI、および、リン酸塩ガラスからなる、高屈折、高分散のガラスIIが代表
として挙げられ、これらのガラスからのガラス素材の製造において、本発明の効果は顕著である。
【0053】
特に、主として撮像系を構成するレンズの材料として、フツリン酸塩系の光学ガラスIは、低屈折、低分散を達成することできる上で非常に有用である一方、フッ素を、相当量含有しており、熱線膨張係数が大きい。このような光学ガラスにおいて、特に本発明の効果が顕著である。
【0054】
例えば、本発明の光学ガラスは、アニオニック%表示で、F-を17%以上、好ましくは17〜80%含有する光学ガラスとすることができる。
【0055】
好ましくは、本発明の光学ガラスは以下の光学ガラスIである。
フツリン酸ガラスであり、かつ、カチオン%表示で、以下の成分を含有するガラス。
5+ 5〜50%、
Al3+ 0.1〜40%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜30%、
Li+ 0〜30%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜5%
Gd3+ 0〜5%
【0056】
また、上記であって、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.95である光学ガラス。アニオン成分をこのようにすることにより、ガラスに低分散性を付与することができる。
【0057】
更に、Li+を2〜30カチオン%含む光学ガラス。これにより、ガラス素材のプレス温度を適正範囲にすることができる。
【0058】
更に、屈折率の値nd(1)が1.40〜1.60、アッベ数(νd)が67以上である、光学ガラス。
【0059】
各組成成分の意義については以下のとおりである。カチオン、アニオンのそれぞれにつき、モル比に基づく%表示で示す。
【0060】
5+はガラスのネットワークフォーマーとして重要なカチオン成分であり、5%未満
ではガラスの安定性が低下し、50%超とすると、酸化物原料中の酸素が全体比率中で大きくなるため目標とする光学特性を満たさない。より好ましくは5%〜40%とし、特に好ましくは5%〜35%とする。
【0061】
Al3+は0.1%の添加で、フツリン酸塩ガラスの安定性を向上させ、但し40%超ではガラス転移温度(Tg)が上昇するため、成形温度が上昇し表面揮発による脈理が生じやすい。より好ましくは5%〜40%とし、特に好ましくは10%〜35%とする。
【0062】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の適量の導入はガラスの安定性の向上に寄与する。Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+を次の範囲にすることが好ましい。
Mg2+の好ましい含有量は0〜20%、より好ましくは1〜20%、さらに好ましくは5〜15%、特に好ましくは5〜10%とする。
Ca2+の好ましい含有量は0〜25%、より好ましくは1〜25%、さらに好ましくは5〜20%、特に好ましくは5〜16%とする。
Sr2+の好ましい含有量は0〜30%、より好ましくは1〜30%、さらに好ましくは5〜25%、特に好ましくは10〜20%とする。
Ba2+の好ましい含有量は0〜30%、より好ましくは1〜30%、さらに好ましくは1〜25%、より一層好ましくは5〜25%、特に好ましくは8〜25%とする。
【0063】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+は、2種以上を導入することが好ましく、Ca2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上導入することがより好ましい。2価カチオン成分(R2+)の導入効果をより高める上から、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量を1カチオン%以上とすることが好ましい。
【0064】
Li+は安定性を損なわずにガラス転移温度(Tg)を下げる成分であり、30%以下とすればガラスの耐久性、加工性を損なわない。好ましい範囲は2〜30%、5〜25%にすることがより好ましく、5〜20%にすることがさらに好ましい。
【0065】
Na+、K+はそれぞれLi+と同様にガラス転移温度(Tg)を低下させる効果があるが同時に熱膨張率をLi+に比べてより大きくする傾向がある。またNaF、KFは水に対する溶解度がLiFに比べて非常に大きいことから耐水性の悪化ももたらすため、Na+、K+ともに好ましい範囲は0〜5%であり、導入しないのがより好ましい。
【0066】
3+、La3+、Gd3+はガラスの安定性、耐久性を向上させ、屈折率を上昇させる効果があるが、Y3+では10%超、La3+、Gd3+では5%超では安定性が逆に悪化し、ガラス転移温度(Tg)も上昇するため、その量を0〜10%または0〜5%とし、好ましい範囲は0〜3%である。
【0067】
なお、高品質な光学ガラスを安定して製造する上から、P5+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Li+およびY3+、La3+、Gd3+の合計量をカチオン%で95%超とすることが好ましく、98%超とすることがより好ましく、99%超とすることがさらに好ましく、100%とすることがより一層好ましい。
【0068】
上記光学ガラスは、上記カチオン成分以外にTi、Zr、Znなどのランタノイドなどのカチオン成分や、Bなどのカチオン成分を本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0069】
アニオン成分の割合は、所望の光学特性を実現しつつ、優れた安定性を有する光学ガラスを得るために、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)を0.25〜0.95とする。
【0070】
以下に、本発明に特に好適な光学ガラスIの組成を例示する。
必須のカチオン成分として、P5+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+から選ばれる2価カチオン成分(R2+)を2種以上、およびLi+を含み、カチオン%表示にて、
5+ 10〜45%、
Al3+ 5〜30%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜25%、
Li+ 2〜30%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜10%、
3+ 0〜5%、
3+ 0〜0.5%、
を含有するとともに、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85であるフツリン酸塩ガラス。
【0071】
更に、上記光学ガラスであって、屈折率(Nd)が1.40〜1.58、アッベ数(νd)が67〜90であることを特徴とする光学ガラス。
【0072】
2価カチオン成分(R2+)としてCa2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上を含む光学ガラス。
【0073】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が1カチオン%以上である、光学ガラス。
【0074】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の含有量がそれぞれ1カチオン%以上である、光学ガラス。
【0075】
ガラスIの各構成成分についての好ましい範囲を述べる。
【0076】
5+は、10〜45%とする。好ましい範囲は10〜40%、より好ましい範囲は20〜38%、さらに好ましい範囲は20〜30%である。
【0077】
また、Al3+は、5〜30%とする。好ましい範囲は7〜30%、より好ましい範囲は15〜25%である。
【0078】
2価カチオン成分(R2+)の導入効果をより高める上から、Ca2+、Sr2+およびBa2+のうち2種以上導入する。Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量を1カチオン%以上とすることが好ましい。
【0079】
Mg2+の量を0〜20%、特に好ましくは5〜10%とする。
また、Ca2+の量を0〜25%、好ましくは1〜25%、より好ましくは4〜20%、特に好ましくは5〜16%とし、Sr2+の量を0〜30%、好ましくは1〜30%、より好ましくは5〜25%、特に好ましくは10〜20%とし、Ba2+の量を0〜25%、好ましくは1〜20%、さらに好ましくは5〜15%、特に好ましくは8〜15%とする。
【0080】
Li+は2〜30%とする。好ましい範囲は5〜25%、より好ましい範囲は5〜20%である。Na+、K+ともに0〜10%とし、好ましい範囲は0〜5%であり、導入しないのがより好ましい。
【0081】
3+は0〜5%とし、好ましくは0〜3%である。B3+はBF3として溶解中に揮発しやすく、脈理の原因となるため、その量を0〜0.5%とするが、導入しないことが好ましい。
【0082】
なお、上記同様、高品質な光学ガラスを安定して製造する上から、P5+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Li+およびY3+の合計量をカチオン%で95%超とすることが好ましく、98%超とすることがより好ましく、99%超とすることがさらに好ましく、100%とすることがより一層好ましい。
【0083】
また、本発明の光学ガラスは、アルカリ金属イオンのうちLi+を積極的に含有させたため、比較的優れた耐水性を示す。したがって、ガラスを加熱処理の後、研磨してプレス成形用のガラス素材に予備加工して高品質に仕上げることができる。
【0084】
アニオン成分の割合は、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)を0.25〜0.85、好ましくは0.5〜0.85とする。また、アニオン中におけるF-とO2-の合計量を100%にすることが好ましい。
【0085】
本発明の光学ガラスIは、その屈折率(Nd)が1.40〜1.58であり、アッベ数(νd)
は67〜90、好ましくは70〜90、さらに好ましくは75〜90、特に好ましくは78〜89である。
【0086】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)は470℃以下、好ましくは430℃以下とすることが好ましい。
【0087】
以下に本発明の光学ガラスIIについて説明する。
光学ガラスIIは、屈折率(nd)1.65以上で、アッベ数(νd)35以下であって、P25、Nb25およびLi2Oを含む光学ガラスであることができる。このガラスは、ガラス網目構造形成成分としてP25を含み、高屈折率高分散付与成分としてNb25を含む。また低温軟化性付与成分としてLi2Oを含む。
【0088】
更には、前記ガラスが、モル%表示で、P2515〜45%、Nb253〜35%、Li2O 2〜35%、TiO2 0〜20%、WO3 0〜40%、Bi23 0〜20%、B23 0〜30%、BaO 0〜25%、ZnO 0〜25%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、Na2O 0〜30%、K2O 0〜30%(但し、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が45%以下)、Al23 0〜15%、SiO2 0〜15%、La230〜10%、Gd230〜10%、Yb230〜10%、ZrO2 0〜10%およびTa250〜10%を含む光学ガラスであることができる。
【0089】
25は、上記のようにガラスの網目構造の形成物であり、ガラスに製造可能な安定性を持たせる。P25の含有量が45モル%を超えると、ガラスの転移温度や屈伏点が上昇し、耐候性が悪化する傾向がある。また15モル%未満では、ガラスの失透傾向が強くなりガラスが不安定となりやすいので、15〜45モル%の範囲が好ましく、17〜40モル%の範囲とするのがより好ましい。
【0090】
Nb25は、高屈折率・高分散などの特性を持たせる。導入量が35%を超えると、ガラス転移温度や屈伏点が高くなり、安定性、高温溶解性も悪くなり、精密プレス時に発泡や着色しやすくなるという傾向がある。その導入量が3%未満では、ガラスの耐久性が悪化し、所要の高屈折率を得にくくなるため、3〜35%の範囲にするのが好ましく、5〜30%の範囲にするのがより好ましい。
【0091】
Li2Oは、ガラス転移温度を下げるのに効果的な成分であり、他のアルカリに比べ、屈折率を低下させにくく、耐久性を悪化させにくい。導入量が2%未満では転移温度の低下が難しく、35%を超えると、ガラスの耐久性が悪化しやすいため、導入量を2〜35%の範囲にするのが好ましい。より好ましくは5〜30%の範囲である。
【0092】
次に任意に導入することができる成分について説明する。
TiO2は、高屈折率高分散性を付与し、失透安定性を向上させる。含有量が20%を超えると、ガラスの失透安定性や透過率が悪化しやすく、屈伏点や液相温度も上昇し、精密プレス成形時にガラスが着色しやすくなる為、0〜20%にするのが好ましく、0〜15%にするのがより好ましい。
【0093】
WO3は、高屈折率・高分散特性と低温軟化性を付与する上で効果的な成分である。WO3はアルカリ金属酸化物と同様にガラス転移温度や屈伏点を下げる働きや、屈折率を上げる働きをする。そして、ガラスとプレス成形型との濡れ性を抑制する効果があるため、精密プレス成形の際にガラスの離型性が良くなるという効果を奏する。WO3の過剰導入、例えば40%を超えて導入すると、ガラスが着色しやすくなる一方、ガラスの高温粘性も低くなるので、ガラス素球の熱間成形が難しくなる。したがって、その含有量を0〜40%とすることが好ましく、0〜35%の範囲とすることがより好ましい。
【0094】
Bi23は、高屈折率・高分散性を付与する成分であり、ガラスの生成領域を大幅に拡大し、安定化させる効果がある。また、ガラスの耐候性を高める。したがって、Bi23を導入することにより、P25の含有量の少ないガラスでもガラス化を可能にする。その導入量が20%超えると、ガラスは逆に失透しやすくなると同時に着色しやすくなる恐れがあるため、Bi23の含有量は0〜20%とすることが好ましく、0〜15%とすることがより好ましい。なお、Bi23導入により上記効果を得るには、上記範囲内において、Bi23の量を0.2%以上とするのが好ましく、0.5%以上とするのがより好ましい。
【0095】
23は、ガラスの溶融性の向上やガラスの均質化に有効であると同時に、少量の導入でガラス内部にあるOHの結合性を変え、精密プレス成形時におけるガラスの発泡を抑制する効果が得られる。B23を30%より多く導入すると、ガラスの耐候性が悪化したり、ガラスが不安定になりやすいため、0〜30%のとすることが好ましい。より好ましい範囲は0〜25%である。
【0096】
BaOは、高屈折率を付与し、失透安定性を向上させ、液相温度を低下させる効果のある成分である。WO3を導入する場合、特に多量のWO3を導入する場合、BaOの導入でガラスの着色を抑え、失透安定性を高める効果が大きく、P25含有量の少ない場合、ガラスの耐候性を高める効果もある。BaOの導入量が25%を超えると、ガラスが不安定となり、転移温度、屈伏点が高くなるので、BaOの導入量を0〜25%にするのが好ましく、0〜20%にするのがより好ましい。
【0097】
ZnOはガラスの屈折率や分散を高めるために導入し得る成分で、少量のZnOの導入でガラス転移温度や屈伏点、液相温度を低下させる効果もある。しかし、過剰に導入すると、ガラスの失透安定性が著しく悪化し、液相温度も逆に高くなる恐れがある。したがって、ZnO導入量を0〜25%にすることが好ましく、0〜20%の範囲がより好ましく、0〜15%の範囲がさらに好ましい。
【0098】
MgO、CaO、SrOはガラスの安定性や耐候性を調整するために導入された成分であるが、過剰に導入すると、ガラスが不安定となるので、導入量をそれぞれ0〜20%にするのが好ましく、0〜15%がより好ましい。
【0099】
Na2O、K2Oは、いずれもガラスの耐失透性を向上させるとともに、ガラス転移温度、屈伏点、液相温度を低下させ、ガラスの溶融性を改善するために導入し得る成分である。しかし、Na2OとK2Oのいずれかが30%より多いと、あるいはLi2O、Na2O及びK2Oの合計量が45%よりも多いと、ガラスの安定性が悪くなるばかりでなく、ガラスの耐候性や耐久性が悪くなる恐れがあるため、Na2OとK2Oの導入量をそれぞれ0〜30%にするのが好ましく、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量を0〜45%にするのが好ましい。より好ましくは、Na2Oを0〜20%、K2Oを0〜25%であり、Na2Oを0〜5重量%にするのがさらに好ましい。
【0100】
Al23、SiO2、La23、Gd23、Yb23、ZrO2、Ta23は、ガラスの安定性や光学恒数を調整するときに導入し得る成分である。しかし、これらの成分のすべてはガラス転移温度を高めるので、精密プレス成形性を低下させる恐れがある。したがって、その導入量を、Al23、SiO2についてはそれぞれ15%以下、La23、Gd23、Yb23、ZrO2、Ta23についてはそれぞれ0〜10%に抑えることが望ましく、Al23、SiO2についてはそれぞれ0〜12%、La23、Gd23、Yb23、ZrO2、Ta23についてはそれぞれ0〜8%にするのがより好ましい。
【0101】
本発明において、光学ガラスは、更に物理的強度が小さいものである場合に発明の効果が大きい。例えば、ヌープ硬さHkが450以下のものについては、本発明の効果が特に顕著である。
【0102】
本発明は、フツリン酸塩光学ガラス、又はリン酸塩光学ガラスからなる球形状のガラス素材であり、表面に研磨による被加工面を有し、内部に歪が複屈折値で、20nm/cm以上残存している、モールドプレス用ガラス素材を包含する。
【0103】
本発明のモールドプレス用のガラス素材は、上記の本発明の製造方法の工程を経て用意され、表面に機械加工(好ましくは研磨加工)による被加工面を有し、内部に歪が複屈折値で、20nm/cm以上、好ましくは20〜100nm/cm残存している、球形状のモールドプレス用ガラス素材である。
【0104】
さらに、このガラス素材は、フツリン酸塩光学ガラス、又はリン酸塩光学ガラスからなる。また、ガラス素材の体積は65mm3以下であること、さらには0.05〜65mm3であることが好ましい。そして、このようなガラス素材の複数個からなるガラス素材群(50個以上、好ましくは100個以上)として、重量ばらつき幅が2.0%以下であるようなガラス素材であることが好ましい。ガラス素材群を構成するガラス素材の個数の上限は、特に制限されないが、例えば、5000個であることができる。
【0105】
[プレス成形方法]
以下、本発明のガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形してガラス光学素子を製造する方法について説明する。
【0106】
この製造方法において得られるガラス光学素子は、光学機能面を有する第一面及び第二面と、外周面を有し、前記第一面、第二面及び外周面に、成形型の成形面を転写した被転写面を有する。
【0107】
本発明では、ガラス素材として、重量ばらつき幅が2.0%以下であるようなガラス素材群を用いることが好ましい。このようなガラス素材群をプレス成形することで得られた光学素子に対しては、いわゆる芯取り加工を省略することができる。すなわち、プレス成形によって得られた成形体の外周部に研削、などを施すことなく、光学素子としての最終形状とすることができる。これは、複数のガラス素材の間の重量ばらつきが小さいからである。
【0108】
プレス成形は、図5のような成形型を用い、公知の方法で行うことができるが、このとき、プレス成形によって光学素子の外周部分を含んだ外形を実質的に画定する。
【0109】
本発明の光学素子の用途には特に限定されない。但し、小径、薄肉の小重量レンズの場合に、本発明の効果が顕著である。例えば、携帯撮像機器などに搭載する小型撮像系用レンズ、通信用レンズ、光ピックアップ用の対物レンズ、コリメータレンズなどである。尚、本発明の方法により得られるガラス光学素子および本発明のガラス光学素子は、第一面、第二面の光学機能面の周囲に、光軸と垂直な平坦部を有することが好ましい。上記用途のレンズの多くは、光学機能面の周囲に取り付け基準面となる平坦部を備えることが有用であるが、本発明の方法によれば、プレス成形によってレンズの最終形状を画定でき、上記平坦部を精度高く形成できる(不定形の突起の形成や、充填不測によるレンズ外周形状のくずれが防止できる)ため、本発明の効果が顕著である。
【0110】
本発明におけるプレス成形は、公知のプレス成形装置を用い、図5に示すような成形型を適用して行うことができる。上型、下型の素材は、金属のほか、超硬合金、酸化ケイ素、窒化ケイ素などを用いることができる。成形面には、ガラスとの融着を防止し、滑り性を向上させるため、公知の離型膜を形成することが好ましい。また、本発明のガラス光学素子の製造方法では、プレス成形に形成された外周の被転写面がそのままレンズ外周となるため、胴型内周面とガラスの間に融着を生じないように、胴型内周面に離型膜を施しておくことが好ましい。
【0111】
プレス成形にあたっては、成形型(上型、下型、胴型を含む)とガラス素材をプレスに適した温度域に昇温する。例えば、ガラス素材と成形型が、ガラス素材の粘度が105〜1010dPa・sになる温度域にあるときプレス成形を行うことが好ましい。例えば、ガラス素材を成形型に導入し、ガラス素材と成形型をともに上記温度範囲に昇温してもよく、又はガラス素材と成形型をそれぞれ上記温度範囲に昇温してから、ガラス素材を成形型内に配置してもよい。更に、ガラス素材を105〜109dPa・s粘度相当、成形型をガラス粘度で109〜1012dPa・s相当の温度にそれぞれ昇温し、ガラス素材を成形型に配置して直ちにプレス成形する工程を採用してもよい。この場合、成形型温度を相対的に低くすることができるため、成形装置の昇温/降温サイクルタイムを短縮できるとともに、成形型の熱による劣化を抑制できる効果があり、好ましい。いずれの場合も、プレス成形開始後に冷却を開始し、適切な荷重スケジュールを適用しつつ、成形面とガラス素子の密着を維持しながら、ガラス粘度で1013dPa・s相当に温度まで降温する。この後、離型して成形体を取り出す。離型温度は、1012.5〜1013.5dPa・s相当で行うことが好ましい。
【0112】
上記成形体は、必要に応じて、アニールを行って、光学素子の除歪、屈折率調整を行っても良い。また、更に必要に応じて光学機能面への光学薄膜の成膜を行っても良い。
【0113】
[本発明の光学素子の用途]
本発明のガラス光学素子は、小径、薄肉の小重量レンズ、例えば、携帯撮像機器などに搭載する小型撮像系用レンズ、通信用レンズ、光ピックアップ用の対物レンズ、コリメータレンズ等として好適である。
【実施例】
【0114】
フツリン酸塩光学ガラスA(ガラスA:カチオン%表示で、P5+ 27%、Al3+ 21%、Mg2+ 4%、Ca2+ 14%、Sr2+ 17%、Ba2+ 12%、Li+ 4%、Y3+ 1%、F-/(O2-+F-)= 0.628(F-とO2-の合計でアニオンの100%とする)、nd 1.50、νd 81、Tg 30℃)を用いてガラス素球を予備成形した上で、プレス成形により、両凸形状の両非球面レンズを成形した。
【0115】
まず、溶融状態のガラスをパイプから流出させ、図1に示す装置を用い、滴下したガラス塊を、底面からガスを噴出する受け型で受け、気流上で浮上させながら、球形状に予備成形して、ガラス素球とした。滴下成形するガラス素球の寸法を、最終仕上げ寸法φ2.700mmより、直径で0.300mmほど大きな寸法のφ3mmになるように滴下するガラスの量を調整した。 得られたガラス素球200個に対して、同時に、熱処理を施した。熱処理は、380℃に加熱した電気炉中に30分保持した後、80℃/hで250℃まで降温し、その後放冷した。
【0116】
次に、熱処理後のガラス素球の表面を研磨除去した。すなわち、(1)粗研磨、(2)精研磨、(3)V溝研磨盤方式による仕上げ研磨の3つの工程により、ガラス素球表面を除去し、精密ガラス球とした。
まず、粗研磨では、平面研磨盤方式で行った。直径φ3mmのガラス素球を2つの平面研磨盤で挟持して研磨装置(図3)にセットした。研磨液は、炭化ケイ素を水に混合したものを用いた。研磨速度は研磨盤回転数や研磨荷重を調整し、100μm/hrとした。研磨除去量は球半径あたり0.1mmになるように研磨時間を制御した。その結果、ガラス素球寸法(直径)は、粗研磨前φ3.0mmであったものが、研磨後、平均φ2.8mmとなった。
【0117】
続いて、精研磨工程を行った。直径φ2.8mmのガラス素球を下盤のV溝にセットし、平面研磨盤を上盤に乗せ、で挟持して研磨装置(図4)にセットした。研磨液は、酸化アルミニウムを水に混合したものを用いた。研磨速度は、研磨盤回転数や研磨荷重を調整し、30μm/hrとした。精研磨では、研磨後の寸法がφ2.710mm(最終仕上げ寸法より0.01mmほど大きい)にした。よって、研磨除去量は、球半径あたり0.045mmになるように研磨時間を制御した。その結果、ガラス素球寸法(直径)は、粗研磨前φ3.0mmであったものが、研磨後では、φ2.710mmとなった。
【0118】
さらに、仕上げ研磨工程を行った。研磨液は、酸化セリウムを水に混合し、V溝に注液した。研磨速度は、研磨盤回転数や研磨荷重を調整し、5μm/hrとした。仕上げ研磨では、研磨後の寸法が、最終仕上げ寸法φ2.700mm±0.001mm以内になるようにする必要がある。よって、研磨除去量が球半径あたり0.005mmになるように研磨時間を制御した。研磨時間を精密に制御した。その結果、ガラス素球寸法(直径)は、粗研磨前φ2.710mmであったもの(体積は10.416mm3)が、研磨後では、最大φ2.7002mm、最小φ2.7000mm、平均φ2.7001mmの高精度なガラス球(体積は10.302mm3)が得られた。
【0119】
このようにして得た精密ガラス球をガラス素材としてプレス成形を行った。成形装置の上下型には、SiC製の型材に非球面を精密加工し、グラファイトを用いたスパッタ法により炭素膜を成膜して成形面を形成した。
【0120】
プレス成形には図5の装置を用いた。但し、上型、下型ともに凹型とした。下型凹面上に、ガラス素材を配置し、上下型を組み立てた状態で、型を加熱し、プレス温度に達したところでプレス荷重を加え、型面形状を転写成形した。ガラスが十分伸展することにより、型成形面と密着し、型内体積に対し所定のガラス充填させた後、型をガラス転移点付近以下になるまで冷却した。最後に、成形したレンズを離型し、型から取り出した。
【0121】
プレス成形に用いたガラス素球200個は、精密球状であり、重量ばらつきが0.3%以下であり、成形されたレンズは、レンズ外周が360℃形成され、バリの発生はみられなかった。
【0122】
比較の目的で、上記加熱処理を施さないガラス素球を、研磨に供したところ、粗研磨時にガラス素球の割れが生じた。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】ガラス素球の予備成形装置の一例。
【図2】ガラス素球の予備成形装置の一例および成形スキーム。
【図3】ガラス素球研磨のための平面盤方式の説明図。
【図4】ガラス素球研磨のためのV溝盤方式の説明図。
【図5】プレス成形に使用する成形型の一例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100〜300℃の平均線膨張係数αhが120×10-7/℃ 以上である光学ガラスからなる溶融ガラスを流出パイプから順次受け型に滴下し、又は流下しつつ分離し、冷却して、複数の予備成形したガラス素球を調製し、
前記複数のガラス素球を、(転移温度−80℃)〜(転移温度+50℃)の範囲に加熱し、次いで冷却する加熱処理を行い、
前記加熱処理後の前記複数のガラス素球の表面の少なくとも一部または全部を、機械的加工により除去することによって複数の精密ガラス球とすることを特徴とする、
成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理における冷却は、500℃/h以下の冷却速度で行うことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記光学ガラスは、フツリン酸ガラス、又はリン酸ガラスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記光学ガラス(以下、ガラスIという)は、フツリン酸ガラスであり、カチオン%表示で、
5+ 5〜50%、
Al3+ 0.1〜40%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜30%、
Li+ 0〜30%、
Na+ 0〜10%、
+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜5%
Gd3+ 0〜5%
を含有することを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記光学ガラスは、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.95であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記光学ガラスは、ガラスの屈折率ndが1.40〜1.60、アッベ数(νd)が67以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記光学ガラス(以下、ガラスIIという)は、リン酸ガラスであって、
モル%表示で、P25 15〜45%、Nb25 3〜35%、Li2O 2〜35%、TiO2 0〜20%、WO3 0〜40%、Bi23 0〜20%、B230〜30%、BaO 0〜25%、ZnO 0〜25%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、Na2O 0〜30%、K2O 0〜30%(但し、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計量が45%以下)、Al230〜15%、SiO2 0〜15%、La23 0〜10%、Gd23 0〜10%、Yb23 0〜10%、ZrO2 0〜10%およびTa250〜10%を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記光学ガラスは、ガラスの屈折率ndが1.65以上、アッベ数(νd)が35以下であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記予備成形は、滴下又は流下した溶融ガラスを受け型内で気体により浮上させながら行うことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
フツリン酸塩光学ガラス、又はリン酸塩光学ガラスからなる球形状のガラス素材であり、表面に研磨による被加工面を有し、内部に歪が複屈折値で、20nm/cm以上残存している、モールドプレス用ガラス素材。
【請求項11】
体積が65mm3以下である請求項10に記載のガラス素材。
【請求項12】
複数のガラス素材からなるガラス素材群であって、重量ばらつき幅が2.0%以下である、請求項10又は11に記載のガラス素材。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により製造したガラス素材または請求項10〜12のいずれか1項に記載のガラス素材を、加熱により軟化した状態で、成形型によってプレス成形することを特徴とする、ガラス光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記ガラス光学素子は、光学機能面を有する第一面及び第二面と、外周面を有し、前記第一面、第二面及び外周面に、成形型の成形面を転写した被転写面を有することを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−197283(P2007−197283A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20150(P2006−20150)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】