説明

成形製品の作製方法

【課題】本発明は、金属またはその合金の層が表面または内部に適用された成形製品の作製方法を提供する。
【解決手段】この方法では、成形型が使用され、この方法は、成形工程および金属化工程から構成され、成形工程および金属化工程は、両方とも、成形型内で行われ、該金属化工程は、無電解プロセスよりなり、本発明は、さらに、該方法により得られた成形製品を含むデバイスに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属またはその合金の層が適用された成形製品の作製方法、および該方法を用いて作製された成形製品を含むデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形製品の表面に金属パターンを設けることは、当技術分野で公知である。そのような成形製品は、成形プロセスから得られた製品を、湿式電気化学プロセス方式の金属化工程に供して成形製品の表面に金属パターンを設けることにより作製することが可能である。明らかに、そのような一連のプロセス工程は、スピードおよびとコストが重要な役割を果たす大量生産の用途では、あまり魅力的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願第07115730.9
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Electroless Plating Fundamentals & Applications, edited by Glenn O. Mallory and Juan B. Hajdu, New York (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外部および/または内部(たとえば、キャビティーまたはチャネル)の表面に金属パターンを有する成形製品の改良された作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、成形工程および金属化工程の両方を1つの同じ成形型内で行うことにより、これを実現しうることを見いだした。
【0007】
すなわち、本発明は、金属、その合金、または金属化合物の層が表面または内部に適用された成形製品の作製方法に関するものであり、この方法では、成形型が使用され、この方法は、成形工程および金属化工程より構成され、成形工程および金属化工程は、両方とも、成形型内で行われ、かつ金属化工程は、無電解プロセスよりなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る方法は、より高スピードで、かつより低コストで金属パターンを有する成形製品を製造することを可能にするので、公知の方法よりも一層魅力的である。さらに、より大きい設計の自由度を有して、内部の金属化表面を形成することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態では、最初に、成形工程を成形型内で行い、続いて、そうして得られた成形製品は、成形型内で金属化工程に供される。
【0010】
金属化工程では、無電解メッキのような無電解プロセスが使用される。無電解メッキプロセスでは、溶液中でイオンの形で利用可能な金属を、好適な表面上で、還元剤によって還元することが可能であるという原理が使用される。さらに、金属自体が還元反応の触媒としても作用することになり、したがって、上記方法を自己触媒的にさせる。無電解メッキプロセスに関する概説については、たとえば、Electroless Plating Fundamentals & Applications, edited by Glenn O. Mallory and Juan B. Hajdu, New York (1990)を参照することができる。
【0011】
本発明の他の好適な実施形態では、金属ペースト、すなわち、金属粒子とバインダー材料とよりなるペースト、または導電性の塗料もしくはインクが使用される。
【0012】
金属化工程は、無電解メッキのような無電解プロセスより構成される。
【0013】
本発明による好適な金属化工程では、金属イオンおよび金属イオンを金属または合金に還元するための還元剤とを含む無電解溶液を成形製品に接触させ、それにより、成形製品の少なくとも表面は、溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有するか、または温度(T1)に加熱される。そのような実施形態では、T1は、好適には50−200℃の範囲内であることができる。また、T2は、好適には15−90℃の範囲内であることができる。これは、金属化方法を開始し、触媒するために基材表面に金属触媒を適用する必要がないという利点を有している。さらに、高温が適用されるので、金属の析出は、迅速である。
【0014】
したがって、好ましくは、金属化工程では、金属イオンおよび金属イオンを金属に還元するための還元剤とよりなる溶液を使用することにより、作製される製品の表面に金属を析出させることが可能となる。
【0015】
本発明の他の実施形態では、最初に、金属イオンおよび還元剤よりなる溶液が成形型内に導入され、続いて、成形製品を作製する材料が成型内に導入される。
【0016】
そのような実施形態では、成形製品を、成形型の内壁から少なくとも部分的に離型させて、金属イオンおよび還元剤とよりなる溶液を、成形製品の少なくとも一部分と成形型の内壁との間に流入させることが重要である。
【0017】
特定の金属パターンを成形型の表面の少なくとも一部分上で析出させるために、成形型のさまざまなキャビティーを介して、金属イオンおよび還元剤よりなる溶液を成形製品の表面の特定の部分に接触した状態にする。このようにして、さまざまな金属パターンを実現することが可能となる。そのような技術自体は、マルチコンポーネント成形技術、ガスアシスト射出成形技術、およびコア引抜き技術の分野で公知のものである。
【0018】
一つの実験構成では、チューブを介して金属化流体を成形型内に移動させるために、ポンプを用いて、金属化流体を容器から成形型内に移動させることができる。金属化流体による成形型表面の損傷を防止するために、好適には、成形型部分にコーティングを施すことができる。より特異的には、DLC(ダイヤモンド様炭素)コーティングが、この目的に好適であることが分かった。
【0019】
本発明の一実施形態では、流体バッファーと、ポンプおよびチューブとは、成形型内で物理的に一体化される。
【0020】
使用されるコンポーネントの適正な設計および材料選択により、金属化流体流路系(チューブ、ポンプ、キャビティー)の閉塞を防止することが可能である。より特異的には、流体系の定期的な清浄化工程(たとえば、濃硝酸を用いて浄化することにより)が流体系の閉塞を防止するのに好適であることが分かった。たとえば、鋼製の成形型を銅金属化と組み合わせて使用した場合、硝酸溶液中で、銅は迅速に溶解し、かつ鋼は不動態化するので、濃硝酸を用いて浄化することが有利になる。
【0021】
金属化工程は、触媒種晶添加工程を含むことができる。金属化工程が触媒種晶添加工程を含む場合、触媒種晶添加材料は、射出成形材料中に組込み可能であるか、または成形型内での無電解プロセスの前に、流体を介して追加的に内部に適用可能であるか、のいずれかである。これは、金属化に使用されるのと同一の流体流路系内で実施することが可能である。
【0022】
未公開の欧州特許出願第07115730.9号明細書に記載されているように、触媒種晶添加を省略して、無電解析出反応を熱的に引き起こすことが可能である。この場合、成形製品を製造する材料中においても触媒の必要性はない。
【0023】
成形材料と金属との間の良好な接着を達成するために、場合により、(任意の)触媒の適用およびそれに続く無電解金属化の前に、湿式エッチング工程を実施することが有利である。エッチングにより、射出成形材料、たとえばプラスチックを活性化および/または粗面化して、緻密な触媒表面および/または良好に接着した金属膜を得ることができる。エッチング流体は、金属化流体と同一のチューブを介して適用することが可能である。
【0024】
成形製品を製造する材料は、熱可塑性材料、熱硬化性材料、およびセラミック材料から選択することが可能である。好ましくは、成形製品を製造する材料は、熱可塑性材料よりなる。熱可塑性材料の好適な例としては、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA6、PA6,6、PA4,6、またはPA12)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクティックポリスチレン(SPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、PC/ABS、ポリプロピレン(PP)、およびポリエチレン(PE)が挙げられる。好ましくは、熱可塑性材料は、LCP、ポリアミド、PEI、PET、ABS、またはPC/ABSよりなる。
【0025】
好適な熱硬化性材料の例としては、エポキシ、メラミン、ベークライト、およびポリエステルが挙げられる。好適なセラミック材料の例としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、およびガラスが挙げられる。
【0026】
成形製品上に適用される金属または合金は、好適には、銅、ニッケル、スズ、銀、金、またはそれらの任意の合金、ならびにニッケル−リンおよびニッケル−ホウ素よりなる群から選択することが可能である。
【0027】
好ましくは、金属は、銅である。
【0028】
好ましくは、合金は、ニッケル−リンまたはニッケル−ホウ素である。
【0029】
本発明によって使用される還元剤は、好ましくは、ホルムアルデヒド、次亜リン酸塩、ジメチルアミノボラン、または水素化ホウ素ナトリウムよりなる群から選択される。より好ましくは、還元剤は、ホルムアルデヒドである。
【0030】
成形製品上に適用される金属または合金の層は、好適には、100−10000nm、たとえば1000−10000nmの厚さを有することができる。
【0031】
成形製品の表面および金属化溶液(すなわち、金属イオンおよび還元剤よりなる溶液)との接触温度は、好適には、50−150℃の範囲内である。
【0032】
好適には、金属化溶液は、20−80℃の範囲内の温度に予備加熱される。
【0033】
本発明によれば、成形工程は、1秒間から1分間の範囲内の時間をかけて行われる。
【0034】
好適には、金属化工程は、1秒間から30秒間の範囲内の時間をかけて行われる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る方法を利用して、金属パターンが適用された広範にわたるさまざまな成形製品を作製することが可能である。そのような製品の好適な例としては、三次元の電気回路、および、たとえば、浴室用品、反射装置、宝石、反射器、玩具、または装飾用品のような物品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
さらに、本発明は、また、本方法に従って得られた成形製品を含むデバイスに関するものである。
【0037】
好ましくは、本発明は、また、本発明に係る方法を用いて作製された成形製品を含む電気デバイスを提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属またはその合金の層が表面または内部に適用された成形製品の作製方法であって、該方法において、成形型が使用され、該方法は、成形工程および金属化工程より構成され、該成形工程および該金属化工程が両方とも該成形型内で行われ、かつ該金属化工程が無電解プロセスよりなる、上記作製方法。
【請求項2】
最初に、前記成形工程が行われ、それに続いて、そうして得られた成形製品が、前記金属化工程に供される、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記金属化工程で、金属イオンおよび該金属イオンを金属に還元するための還元剤よりなる溶液を使用することにより、作製される前記製品の表面に該金属を析出させる、請求項1に記載の作製方法。
【請求項4】
最初に、前記溶液が前記成形型内に導入され、それに続いて、前記成形製品を作製する材料が前記成形型内に導入される、請求項3に記載の作製方法。
【請求項5】
前記成形製品を製造する材料が、熱可塑性材料、熱硬化性材料、またはセラミック材料よりなる、請求項1−4のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項6】
前記成形製品の表面と前記金属化溶液との接触温度が、50−150℃の範囲内である、請求項3−5のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項7】
前記金属化溶液が20−80℃の範囲内の温度に予備加熱される、請求項3−6のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項8】
前記成形工程が、1秒間から1分間の範囲内の時間をかけて行われる、請求項1−7のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項9】
前記金属化工程が、1秒間から30秒間の範囲内の時間をかけて行われる、請求項1−8のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項10】
前記金属化工程が、前記無電解プロセスの前における触媒の種晶添加を含む、請求項1−9のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項11】
前記成形製品を製造する材料が、触媒を含む、請求項1−10のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項12】
前記無電解プロセスが、熱的に引き起こされる、請求項1−11のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項13】
前記金属化工程の前に、湿式エッチング工程をさらに含む、請求項1−12のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項14】
前記熱可塑性材料が、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA6、PA6,6、PA4,6、またはPA12)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクティックポリスチレン(SPS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、PC/ABS、ポリプロピレン(PP)、およびポリエチレン(PE)よりなる群から選択される、請求項5−13のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項15】
前記熱可塑性材料が、LCP、ポリアミド、PEI、PET、ABS、またはPC/ABSよりなる、請求項14に記載の作製方法。
【請求項16】
前記熱硬化性材料が、エポキシ、メラミン、ベークライト、およびポリエステルよりなる群から選択される、請求項5−13のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項17】
前記セラミック材料が、アルミナ、ジルコニア、シリカ、およびガラスよりなる群から選択される、請求項5−13のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項18】
前記金属または前記合金が、銅、ニッケル、スズ、銀、金、またはそれらの任意の合金、ならびにニッケル−リンおよびニッケル−ホウ素よりなる群から選択される、請求項1−17のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項19】
前記金属が、銅である、請求項18に記載の作製方法。
【請求項20】
前記合金が、ニッケル−リンまたはニッケル−ホウ素である、請求項18に記載の作製方法。
【請求項21】
前記還元剤が、ホルムアルデヒド、次亜リン酸塩、ジメチルアミノボラン、または水素化ホウ素ナトリウムよりなる群から選択される、請求項3−20のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項22】
前記還元剤が、ホルムアルデヒドである、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記金属またはその合金の層が、100−10000nm、好ましくは1000−10000nmの厚さを有する、請求項1−22のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項24】
前記成形型が、ダイヤモンド様炭素コーティングで被覆されている、請求項1−23のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項25】
連続方法であって、前記溶液を前記成形型内に導入するための流体流路系が、濃硝酸を用いて浄化することにより、定期的に清浄化される、請求項3−24のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項26】
前記溶液を前記成形製品に接触させ、それにより、前記成形製品の少なくとも表面が、前記溶液の温度(T2)よりも高い温度(T1)を有するか、または温度(T1)に加熱される、請求項3−25のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項27】
請求項1−26のいずれか1項に記載の作製方法を用いて作製された成形製品を含む、デバイス。
【請求項28】
前記デバイスが、電気デバイスである、請求項27に記載のデバイス。

【公表番号】特表2010−537863(P2010−537863A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523973(P2010−523973)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050585
【国際公開番号】WO2009/031894
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(509232980)
【氏名又は名称原語表記】NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPAST−NATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEK TNO
【住所又は居所原語表記】Schoemakerstraat 97 NL−2628 VK Delft The Netherlands
【Fターム(参考)】