説明

成膜装置、成膜基板製造方法、および成膜基板

【課題】LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層を成膜可能な成膜装置、成膜基板製造方法、及び成膜基板を提供することを目的とする。
【解決手段】成膜室11B内において基板搬送方向Dの上流側から下流側にかけて不活性ガスの圧力勾配が生じさせる。この圧力勾配は、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように形成する。このような圧力勾配が生じた成膜室11B内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配では、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配を形成する。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層を好適に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜基板の製造方法、および成膜基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に金属膜としてCuが成膜された成膜基板が知られている(特許文献1参照)。このような成膜基板では、図7(a)に示すように、基板直上に密度の低い膜領域101が薄く堆積され、この低密度膜領域の上に密度の高い膜領域102が厚く堆積されている。また、図7(b)に示すように、基板上に一定の密度の膜領域103が形成された成膜基板が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−315374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の成膜方法を用いて基板上にモリブデン層を成膜し、この成膜基板にLASERスクライブ法を適用してパターニングした場合には、除去したい膜厚領域が十分に除去されずに残渣が発生することがある。
【0005】
図6(b)では、従来の成膜基板にLASERスクライブ法を適用した後のSEM写真を示している。図6(b)に示すように、従来の成膜基板に、LASERスクライブ法を適用した場合には、残渣が発生してしまい、除去領域を挟んで隣接する成膜領域同士が導通するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層を成膜可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層を成膜可能な成膜基板の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層が成膜された成膜基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モリブデン層の膜厚方向において、金属密度勾配を設け、モリブデン層の表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるようにモリブデン層を成膜することで、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適にモリブデン層を除去することが可能であることを見出した。
【0010】
そこで、本発明による成膜装置は、基板にモリブデン層を成膜する成膜装置であって、モリブデン層を成膜するための成膜材料が設置され、基板上にモリブデン層を成膜する成膜室と、成膜室内に不活性ガスを導入すると共に、成膜室内の不活性ガスの圧力を、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配を形成可能な圧力勾配形成手段と、を備え、成膜室は、圧力勾配に沿って不活性ガスの圧力が低下する雰囲気で、第1の圧力状態で成膜した後に、第2の圧力状態で成膜することを特徴としている。
【0011】
このような成膜装置では、成膜室内の不活性ガスの圧力を、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配が生じる。圧力勾配は、搬送方向における位置に応じた圧力勾配でもよく、時間経過に応じた圧力勾配でもよい。このような圧力勾配が生じた成膜室内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配は、基板側から遠くなるにつれて、密度が高くなるものである。換言すれば、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成される。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層が好適に除去される。表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるため、LASERの強度が深さに応じて減衰しても好適にモリブデン層を除去することができ、良好なパターン形成が実現される。なお、ここでいう「モリブデン層の密度」とは、単位面積あたりのモリブデンの分布割合、または、単位体積あたりのモリブデンの質量を指すものである。以下、同じ。
【0012】
また、成膜装置は、成膜室内の基板を搬送する基板搬送手段を更に備え、圧力勾配形成手段は、基板搬送方向の上流側を第1の圧力状態とし、基板搬送方向の下流側を第2の圧力状態とする圧力勾配を形成することが好適である。
【0013】
このような成膜装置では、成膜室内において基板搬送方向の上流側から下流側にかけて不活性ガス(アルゴンガス)の圧力勾配が生じる。この圧力勾配は、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように形成される。このような圧力勾配が生じた成膜室内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配は、基板側から遠くなるにつれて、密度が高くなるものである。換言すれば、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成される。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層が好適に除去される。表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるため、LASERの強度が深さに応じて減衰しても好適にモリブデン層を除去することができ、良好なパターン形成が実現される。
【0014】
また、基板搬送方向において、複数の成膜材料が配置されており、成膜室内に不活性ガスを導入するガス導入口が、基板搬送方向における中央の成膜材料よりも、上流側に設けられていることが好適である。このように、複数の成膜材料が設けられている場合には、複数の成膜材料の基板搬送方向における中央より上流側に、不活性ガスを導入することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0015】
また、成膜室内に不活性ガスを導入するガス導入口が、成膜材料よりも上流側に設けられていることが好ましい。このように、成膜材料よりも上流側に、不活性ガスを導入することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0016】
また、ガス導入口を第1のガス導入口とし、当該第1のガス導入口よりも下流側には、第1のガス導入口を通じて導入されるガス量よりも少ないガス量の不活性ガスを成膜室内に導入する第2のガス導入口が設けられていることが好ましい。これにより、第1の導入口の下流側に、補助的な第2のガス導入口を設けることで、基板搬送方向の下流側の不活性ガスの圧力を補正することができる。
【0017】
また、成膜室内のガスを室外に排出するガス排出口が、基板搬送方向においてガス導入口の下流側に設けられていることが好適である。これにより、基板搬送方向の下流側に設けられたガス排出口によって、成膜室内のガスを排出することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0018】
また、圧力勾配形成手段は、時間経過に応じて、成膜室内の不活性ガスの圧力を低下させることで圧力勾配を形成する構成でもよい。これにより、基板を搬送させることなく、基板を静止させた状態で、成膜室内の圧力を第1の圧力状態から第2の圧力状態へ低下させる圧力勾配を、成膜時間の経過に応じて形成することができる。その結果、搬送手段を備え搬送方向の上流側から下流側へ圧力勾配を形成する場合と比較して、成膜室の長さを短くすることができ、成膜装置の小型化を図ることができる。また、成膜室に接続されるガス導入口を一つにすることができる。これにより、ガスを導入するための機構を簡素化することができる。
【0019】
また、圧力勾配形成手段は、成膜開始から徐々に不活性ガスの圧力を低下させることが好適である。これにより、モリブデン層として、基板の表面上から徐々に密度が高くなる密度勾配領域を形成することができる。
【0020】
また、本発明による成膜基板製造方法は、基板上にモリブデン層を成膜された成膜基板を製造する方法であって、モリブデン層を成膜するための成膜材料が設置された成膜室内で、基板上にモリブデン層を成膜する成膜工程と、成膜室内に不活性ガスを導入すると共に、成膜室内の不活性ガスの圧力を、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配を形成可能な圧力勾配形成工程と、を備え、成膜工程は、圧力勾配に沿って不活性ガスの圧力が低下する雰囲気で、第1の圧力状態で成膜した後に、第2の圧力状態で成膜することを特徴としている。
【0021】
このような成膜基板の製造方法では、成膜室内に不活性ガスを導入し、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配を生じさせる。圧力勾配は、位置に応じた圧力勾配でもよく、時間経過に応じた圧力勾配でもよい。このような圧力勾配が生じた成膜室内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配は、基板側から遠くなるにつれて、密度が高くなるものである。換言すれば、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成される。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層が好適に除去される。表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるため、LASERの強度が深さに応じて減衰しても好適にモリブデン層を除去することができ、良好なパターン形成が実現される。
【0022】
また、成膜基板製造方法は、成膜室内の基板を搬送する基板搬送工程を更に備え、圧力勾配形成工程は、基板搬送方向の上流側を第1の圧力状態とし、基板搬送方向の下流側を第2の圧力状態とする圧力勾配を形成することが好適である。
【0023】
このような成膜基板の製造方法では、成膜室内に不活性ガスを導入すると共に、基板搬送方向の上流側の不活性ガスの圧力が、基板搬送方向の下流側の不活性ガスの圧力よりも高くなるように圧力勾配を形成する。この圧力勾配は、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように形成される。このような圧力勾配が生じた成膜室内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配は、基板側から遠くなるにつれて、密度が高くなるものである。換言すれば、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成される。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層が好適に除去される。表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるため、LASERの強度が深さに応じて減衰しても好適にモリブデン層を除去することができ、良好なパターン形成が実現される。
【0024】
また、成膜室には、基板搬送方向において、複数の成膜材料が配置されており、圧力勾配形成工程は、基板搬送方向における中央の成膜材料よりも上流側に、不活性ガスを導入することが好適である。このように、複数の成膜材料が設けられている場合には、複数の成膜材料の基板搬送方向における中央より上流側に、不活性ガスを導入することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0025】
また、圧力勾配形成工程は、成膜室内において成膜材料よりも基板搬送方向の上流側に、不活性ガスを導入することが好ましい。このように、成膜材料よりも上流側に、不活性ガスを導入することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0026】
また、圧力勾配形成工程は、基板搬送方向において複数の異なる位置で不活性ガスを導入し、下流側の導入位置では、上流側の導入位置よりも少ないガス量の不活性ガスを導入することが好ましい。これにより、下流側の導入位置で補助的に不活性ガスを導入することで、下流側の不活性ガスの圧力を補正することができる。
【0027】
圧力勾配形成工程は、基板搬送方向の下流側から成膜室内のガスを室外に排出することが好適である。これにより、基板搬送方向の下流側で、成膜室内のガスを排出することで、上流側の不活性ガスの圧力が高く、下流側の不活性ガスの圧力が低くなるように圧力勾配を形成することができる。
【0028】
また、圧力勾配形成工程は、時間経過に応じて、成膜室内の不活性ガスの圧力を低下させることで圧力勾配を形成する構成でもよい。これにより、基板を搬送させることなく、基板を静止させた状態で、成膜室内の圧力を第1の圧力状態から第2の圧力状態へ低下させる圧力勾配を、成膜時間の経過に応じて形成することができる。その結果、搬送工程を備え搬送方向の上流側から下流側へ圧力勾配を形成する場合と比較して、成膜室の長さを短くすることができ、成膜装置の小型化を図ることができる。また、成膜室に接続されるガス導入口を一つにすることができる。これにより、ガスを導入するための機構を簡素化することができる。
【0029】
また、圧力勾配形成工程は、成膜開始から徐々に不活性ガスの圧力を低下させることが好適である。これにより、モリブデン層として、基板の表面上から、徐々に、密度が低くなる密度勾配領域を形成することができる。
【0030】
また、本発明による成膜基板は、基板と、基板上に成膜されたモリブデン層と、を備え、モリブデン層は、膜厚方向において基板に近づくにつれて密度が低くなる密度勾配領域を有することを特徴としている。
【0031】
このような成膜基板では、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成されている。このような密度勾配を有するモリブデン層にLASERスクライブ法を適用すると、モリブデン層が好適に除去される。表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるため、LASERの強度が深さに応じて減衰しても好適にモリブデン層を除去することができ、良好なパターン形成が実現される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層を成膜可能な成膜装置を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層を成膜可能な成膜基板の製造方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、LASERスクライブ法を用いてパターニングする際に、好適に除去できるモリブデン層が成膜された成膜基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る太陽電池セルの断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置を示す概略断面構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る圧力勾配形成手段を示す概略構成図である。
【図4】成膜室における基板搬送方向の位置と、アルゴンガスの圧力との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る成膜基板の膜厚と膜密度との関係を示すグラフである。
【図6】LASERスクライブ法を適用した後の成膜基板を撮影したSEM写真である。
【図7】従来の実施形態に係る成膜基板の膜厚と膜密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明による成膜装置、成膜基板の製造方法、および成膜基板の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明の成膜基板は、例えば、太陽電池セルの裏面電極として使用されるものである。図1は、本発明の実施形態に係る太陽電池セルの断面図である。なお、図面の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
(成膜基板)
図1に示す太陽電池セル1は、CIGS系の太陽電池であり、ガラス基板2上に、裏面電極層3、CIGS層4、バッファ層5、透明電極層6が順に積層されている。
【0038】
ガラス基板2は、ナトリウム(Na)を含むソーダガラスである。CIGS層4は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を含む半導体からなる発電層である。
【0039】
裏面電極層3は、ガラス基板2の表面に成膜された密着層3aと、この密着層3aの表面に成膜されたモリブデン層3bとを備えている。
【0040】
密着層3aは、酸素を含有する第1の雰囲気中で成膜されたものであり、酸化モリブデンを有するものである。密着層3aには、微量の酸素が添加されている。密着層3aの膜厚は、例えば10nm〜100nm程度である。また、密着層3aのシート抵抗値は、例えば10Ω/□〜100Ω/□程度である。なお、第1の雰囲気中に含まれるガスは、酸素以外のガスでもよく、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、スチーム(HO)、三酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)、オゾン(O)などのプラズマ中で酸化性ガスとして作用するガスでもよい。
【0041】
モリブデン層3bは、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気で成膜されたモリブデン層である。モリブデン層3bの膜厚は、例えば400nm〜900nm程度である。また、モリブデン層3bのシート抵抗値は、例えば0.2Ω/□〜0.5Ω/□程度である。
【0042】
そして、密着層3aは、ガラス基板2とモリブデン層(モリブデン主層)3bとの間に配置された密着層として機能する。モリブデン層3bは、密着層3aよりも膜厚が厚くなるように形成されている。また、モリブデン層3bのシート抵抗値は、第1のモリブデン3aのシート抵抗値より低くなるように形成されている。
【0043】
ここで、成膜基板1のモリブデン層3bは、膜厚方向において、ガラス基板2に近づくにつれて密度が低くなる密度勾配領域を有する構成とされている。なお、本実施形態の成膜基板1は、密着層となる密着層3aを備える構成であるが、単一のモリブデン層を備え、当該モリブデン層において、密度勾配領域を有する構成でもよい。
【0044】
成膜基板1は、モリブデン層において、密度勾配領域を有する構成であればよく、膜厚方向に密度が均一な領域を有する構成でもよい。一般に、金属膜(モリブデン層)の結晶粒と粒界とを比較すると、結晶粒の方が密度が高く、モリブデン層の密度と結晶粒の大きさとは、1対1の相関関係となる。すなわち、モリブデン層の密度が高くなるほど、結晶粒が大きくなる傾向にある。これにより、モリブデン層の断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を観察し、膜厚方向の結晶粒の大きさ(断面積の割合)を確認することで、モリブデン層の密度の変化(密度勾配領域の有無)を確認することが可能である。
【0045】
図5は、本発明の実施形態に係る成膜基板の膜厚と膜密度との関係を示すグラフである。図5では、横軸にモリブデン層の膜厚を示し、縦軸に膜密度を示している。膜厚方向の位置Fは、モリブデン層3bの最もガラス基板2側の位置であり、膜厚方向の位置Fは、モリブデン層3bの最も表面側(CIGS層4側)の位置である。図5に示すように、成膜基板1のモリブデン層3bでは、膜厚方向において、ガラス基板2に近づくにつれて密度が低くなる密度勾配が形成されている。
【0046】
(成膜装置)
次に、図2を参照して、ガラス基板2にモリブデン層を成膜する成膜装置10について説明する。図2に示す成膜装置10は、スパッタリング法による成膜を行う装置であり、真空中の希薄アルゴン雰囲気下でプラズマを発生させて、プラズマ中のプラスイオンを成膜材料(Moターゲット)21に衝突させることで金属原子をはじき出し、基板上に付着させて成膜を行うものである。
【0047】
成膜装置10は、成膜処理が行われる第1及び第2成膜室(真空チャンバ)11A,11Bを備え、第1成膜室11Aの入口側に基板仕込室(排気室)12Aが連結され、第2成膜室11Bの出口側に基板取出室(ベント室)12Bが連結されている。また、第1成膜室11Aと第2成膜室11Bとの間には、ガス分離室12Cが連結されている。第1成膜室11Aの出口側にガス分離室12Cの入口側が連結され、ガス分離室12Cの出口側に第2成膜室11Bの入口側が連結されている。
【0048】
基板仕込室12Aは、大気圧下にある基板を装置内に取り込み、室内を真空とするためのチャンバである。基板取出室12Bは、真空中にある成膜基板(モリブデン層が成膜されたガラス基板)を大気圧環境下へ取り出すためのチャンバである。ガス分離室12Cは、ガス置換による酸素ガスとアルゴンガスとの分圧比変更を行うためのチャンバである。
【0049】
以下、基板仕込室12A、第1成膜室11A、ガス分離室12C、第2成膜室11B、基板取出室12Bを区別しない場合には、チャンバ11,12と記すこともある。これらのチャンバ11,12は、真空容器によって構成され、チャンバ11,12の出入口には、ゲートバルブGVが設けられている。ゲートバルブGVは、真空環境と大気圧環境とを隔てるための比較的大きな弁体を備えたバルブである。ゲートバルブGVの両側の圧力が等しいときにゲートバルブGVを開放することで隣接するチャンバ11,12を連通させ、基板2を通過させる。
【0050】
また、各チャンバ11,12内には、基板2を搬送するための基板搬送ローラ14(基板搬送手段)が設置されていると共に、基板2を加熱するためのヒータ15が設置されている。ヒータ15は、基板温度が例えば70℃〜350℃の範囲で一定となるように加熱する。
【0051】
さらに、基板仕込室12Aおよび基板取出室12Bには、ロータリポンプ16が接続され、チャンバ11,12には、TMP(ターボ分子ポンプ)17が接続されている。ロータリポンプ16は、大気圧から1Paまでの粘性流領域で排気をするために使用されるポンプであり、TMP17は、1Pa以下の分子流領域で排気をするために使用されるポンプである。
【0052】
また、成膜装置10は、第1及び第2成膜室11A,11B内にスパッタリングターゲットを保持する図示しないスパッタリングカソード(保持部)を有する。スパッタリングターゲットであるMoターゲット21は、第1及び第2成膜室11A,11B上部に配置されている。第2成膜室11Bでは、基板2の搬送方向に沿って複数のMoターゲット21が配置されている。Moターゲット21は、DC電源23に電気的に接続されている。DC電源23は、直流電力を供給する電源である。
【0053】
ここで、第1の成膜室11Aは、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に密着層3aを成膜する成膜室である。第2の成膜室11Bは、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、密着層3aの表面にモリブデン層3bを成膜する成膜室である。
【0054】
そして、成膜装置10は、第1成膜室11A内を、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気とし、第2成膜室11B内を、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気とするガス濃度調整装置(酸素濃度制御部)30A,30Bを備えている。
【0055】
ガス濃度調整装置30Aは、第1成膜室11A内にガスを供給すると共に、第1成膜室11A内の酸素濃度を調整するものである。ガス濃度調整装置30Aは、第1成膜室11A内への酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31、第1成膜室11A内へのアルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32、第1成膜室11Aに接続されて酸素ガス及び/又はアルゴンガスを導入するガス供給経路33、第1成膜室11A内の酸素濃度を検出する酸素濃度計34、第1成膜室11A内の酸素濃度を調整すべくマスフローコントローラ31を制御する制御部35を備えている。
【0056】
ガス濃度調整装置(ガス濃度調整装置)30Bは、第2成膜室11B内にガスを供給すると共に、第2成膜室11B内の酸素濃度を調整するものである。ガス濃度調整装置30Bは、第2成膜室11B内への酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31、第2成膜室11B内へのアルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32、第2成膜室11Bに接続されて酸素ガス及び/又はアルゴンガスを導入するガス供給経路33、第2成膜室11B内の酸素濃度を検出する酸素濃度計34、第2成膜室11B内の酸素濃度を調整すべくマスフローコントローラ31を制御する制御部35を備えている。
【0057】
ガス濃度調整装置30Cは、ガス分離室12C内に酸素ガス及び/又はアルゴンガスを供給すると共に、ガス分離室12Cに隣接するゲートバルブGVの状態によって酸素濃度を調整するものである。すなわち、第1成膜室11A側のゲートバルブGVが開いているときは第1成膜室11A内と同じ酸素濃度に調整し、第2成膜室11B側のゲートバルブGVが開いているときは第2成膜室11B内と同じ酸素濃度に調整する。なお、第1成膜室11A側のゲートバルブGVと第2成膜室11B側のゲートバルブGVとが、同時に開かないように制御される。
【0058】
酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31には、酸素ガスを供給する酸素ボンベが接続され、アルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32には、アルゴンガスを供給するアルゴンガスボンベが接続されている。マスフローコントローラ31,32によって流量が調整された酸素ガス及びアルゴンガスは、ガス供給経路33を通過して第1成膜室11A,第2成膜室11B内に導入され、成膜室11A,11B内の酸素分圧が一定に保たれる。酸素ガス導入量、アルゴンガス導入量を調節する流量調節器として、サーマルバルブ式、電磁弁式、ピエゾバルブ式の流量調整器を用いることができる。
【0059】
また、ガス濃度調整装置30A,30Bの制御部35は、酸素濃度計34によって検出された第1成膜室11A,第2成膜室11B内の酸素濃度に基づいて、マスフローコントローラ31,32を制御することができる。制御部35は、例えば、アルゴンガスの導入量を一定として、酸素ガス導入量を制御することで、成膜室11内の酸素濃度を調整する。例えば、第1成膜室11A内の酸素分圧は、0.003Pa〜0.05Pa程度に制御されることが好ましく、第2成膜室11B内の酸素分圧は、0〜0.002Pa程度に制御されることが好ましい。
【0060】
(圧力勾配形成手段)
本発明の実施形態に係る成膜装置10は、モリブデン層3bを成膜する第2成膜室11B内にアルゴンガス(不活性ガス)を導入すると共に、第2成膜室11B内において、基板搬送方向の上流側のアルゴンガスの圧力が、基板搬送方向の下流側のアルゴンガスの圧力よりも高くなるように圧力勾配を形成する圧力勾配形成手段を備えている。圧力勾配形成手段は、第2成膜室11B内のアルゴンガスの圧力を、第1の圧力状態から第2の圧力状態へ低下させる圧力勾配を形成可能な構成とされている。
【0061】
本実施形態のガス濃度調整装置30Bは、圧力勾配形成手段として機能するものである。図3は、本発明の実施形態に係る圧力勾配形成手段を示す概略図である。圧力勾配形成手段は、第2成膜室11B内にアルゴンガスを導入するガス導入部41A,41B、およびTMP17A,17Bを備えている。
【0062】
図3に示すように、第2成膜室11B内には、基板搬送方向Dに沿って例えば3つのMoターゲット21A〜21Cが配置されている。圧力勾配形成手段は、アルゴンガス導入部として、基板搬送方向Dの最も上流側のMoターゲット21よりも上流側に設けられた第1のガス導入部(ガス導入口)41Aと、この第1のガス導入部41Aの下流側に設けられた第2のガス導入部41Bとを備えている。
【0063】
第1のガス導入部41A及び第2のガス導入部41Bは、例えば筒状を成し、その長手方向が、基板搬送方向Dと交差する方向に配置されている。筒状のガス導入部の周面には、アルゴンガスを室内に導入するための複数の導入口が形成されている。第1のガス導入部41A及び第2のガス導入部41Bは、上下方向において、例えば、基板が搬送される位置より上方(基板よりもMoターゲット側)に配置されている。
【0064】
第1のガス導入部41Aは、メインのガス導入部として機能するものであり、第1のガス導入部41Aのアルゴンガスの供給流量は、例えば500sccm程度である。第2のガス導入部41Bは、第1のガス導入部41Aによって導入されるガス量よりも少ないガス量を導入するものであり、第2のガス導入部41Bのアルゴンガスの供給量は、例えば50sccm程度である。
【0065】
なお、第1のガス導入部41Aは、基板搬送方向Dにおける中央のMoターゲット21Bよりも上流側に設けられていてもよい。また、第1のガス導入部41Aは、基板搬送方向Dにおいて、最も上流側のMoターゲット21と最も下流側のMoターゲット21の中間位置よりも上流側に設けられていてもよい。また、第2のガス導入部41Bを備えていない圧力勾配形成手段としてもよい。
【0066】
また、第2成膜室11Bのガスを室外に排出するガス排出部(ガス排出口)が、基板搬送方向Dにおいて、第1のガス導入部41Aよりも下流側に設けられている。本実施形態の圧力勾配形成手段では、ガス排出部として、上流側に配置されたTMP17Aと、下流側に配置されたTMP17Bとを備えている。TMP17Aは、第1のガス導入部41Aよりも上流側の排出口からガスを排出し、TMP17Bは、最も下流側のMoターゲット21Cの下流側の排出口からガスを排出する。TMP17A,17Bによる排出ガス量を調整することで、室内における基板搬送方向Dの圧力勾配を調節することができる。
【0067】
(成膜装置の動作、及び成膜基板の製造方法)
次に、成膜装置10の動作、及び成膜基板の製造方法について説明する。本実施形態に係る成膜基板の製造方法は、ガラス基板2上にモリブデンが成膜された成膜基板を製造する方法であって、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に密着層3aを成膜する第1成膜工程と、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、密着層3aの表面にモリブデン層3bを成膜する第2の成膜工程と、を備えている。第1成膜工程は、成膜装置10の第1成膜室11Aで実施され、第2成膜工程は、成膜装置10の第2成膜室11Bで実施される。
【0068】
まず、第1成膜工程及び第2成膜工程の前処理として、ロータリポンプ16及びTMP17を用いて、第1成膜室11A及び第2成膜室11B内の排気を行い真空状態とする。第1成膜室11A、第2成膜室11B内の圧力は、例えば、5×10−4Pa以下とすることが好ましい。
【0069】
次に、各ヒータ15をON状態として、その後各チャンバ11〜13内に導入される基板2の温度が70℃〜350℃の範囲内で一定となるように、ヒータ15における設定値を安定させる。ヒータ15の温度が、常温から設定値(例えば200℃)に上昇すると、ヒータ15自体及び真空チャンバ11,12内に付着しているHOやCO等のガスが脱離してチャンバ11,12の圧力が一時的に上昇する。
【0070】
第1成膜室11A内の圧力が所望の真空圧力(5×10−4Pa以下)であることが確認された後に、ガス濃度調整装置30Aの制御部35は、マスフローコントローラ31,32を駆動して、第1成膜室11A内への酸素ガス及びアルゴンガスの供給を開始する。マスフローコントローラ31,32は、第1成膜室11A内の圧力を0.1Pa〜1Paの範囲内で任意の値に維持する。第1成膜工程では、酸素の含有率が0.3%〜5.0%となるように、酸素ガス及びアルゴンガスの供給量を調整する。
【0071】
第2成膜室11B内の圧力が所望の真空圧力(5×10−4Pa以下)であることが確認された後に、ガス濃度調整装置30Bの制御部35は、マスフローコントローラ31,32を駆動して、第2成膜室11B内への酸素ガス及び/又はアルゴンガスの供給を開始する。マスフローコントローラ31,32は、第2成膜室11B内の圧力を0.1Pa〜1Paの範囲内で任意の値に維持する。第2成膜工程では、酸素の含有率が0.0%〜0.2%となるように、酸素ガス及び/又はアルゴンガスの供給量を調整する。
【0072】
その後、DC電源23をON状態として、成膜室11内にプラズマを発生させる。
【0073】
第1成膜室11A内のプラズマ放電が開始されると、Moターゲット21のスパッタリングが始まる。このとき、DC電源23は、Moターゲット21に対する電力密度を、1W/cm〜5W/cmの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0074】
第2成膜室11B内のプラズマ放電が開始されると、Moターゲット21のスパッタリングが始まる。このとき、DC電源23は、Moターゲット21に対する電力密度を、5W/cm〜30W/cmの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0075】
ここで、ガス濃度調整装置30A,30Bの制御部35は、マスフローコントローラ31を制御して、酸素ガスの導入流量が、アルゴンガスの導入流量に対して、例えば1/1000から1/10までの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0076】
被成膜基板であるガラス基板2は、基板仕込室12A内に導入される。基板仕込室12A内にガラス基板2が導入されると、ロータリポンプ16及びTMP17による排気が行われ、基板仕込室12A内が真空状態となる。基板仕込室12A内が真空状態となると、基板仕込室12Aと第1成膜室11Aとの間に配置されたゲートバルブGVが開放され、基板仕込室12A及び第1成膜室11Aが連通し、ガラス基板2が第1成膜室11A内に導入される。
【0077】
第1成膜室11A内では、基板搬送ローラ14による基板搬送速度を一定の値に制御し、ガラス基板2上に成膜される密着層3aの膜厚が制御される。第1成膜室11Aでは、Moターゲット21の直下にモリブデンがスパッタリングされる空間が形成されている。そして、スパッタリング空間内にガラス基板2を通過させることで、ガラス基板2上に密着層3aが成膜される。第1成膜工程を行う第1成膜室11Aでは、密着層3aの膜厚の平均値が例えば10nm以上となるように、搬送速度が制御されることが好ましい。
【0078】
第1成膜工程による成膜の完了後のガラス基板2は、ガス分離室12Cに搬送される。ガス分離室12Cでは、ガス置換による酸素ガスとアルゴンガスとの分圧比変更が行われ、ガラス基板2が第2成膜室11B内へ搬送される。
【0079】
第2成膜室11B内では、基板搬送ローラ14による基板搬送速度を一定の値に制御し(基板搬送工程)、ガラス基板2上に成膜されるモリブデン層3bの膜厚が制御される。第2成膜室11Bでは、Moターゲット21の直下にモリブデンがスパッタリングされる空間が形成されている。そして、スパッタリング空間内にガラス基板2を通過させることで、ガラス基板2上にモリブデン層3bが成膜される。第2成膜工程を行う第2成膜室11Bでは、モリブデン層3bの膜厚の平均値が例えば400nm以上となるように、搬送速度が制御されることが好ましい。
【0080】
第2成膜工程による成膜の完了後のガラス基板2は、基板取出室12Bに搬送される。基板取出室12Bでは、空気の室内への導入が行われ、室内の圧力が真空から大気圧となったところで、ガラス基板2が基板取出室12B外へ搬送される。ガラス基板2が取り出された後の基板取出室12B内は、成膜完了後の次のガラス基板2が導入されることに備えるため、ロータリポンプ16及びTMP17による排気が行われ、真空状態とされる。なお、成膜装置10は、上記成膜基板の製造方法における各種工程が、自動で順次進むようにシーケンスが組み込まれている構成でもよい。
【0081】
(圧力勾配形成工程)
本実施形態に係る成膜基板製造方法は、第2の成膜室11B内にアルゴンガスを導入すると共に、第2の成膜室11B内において、基板搬送方向Dの上流側のアルゴンガスの圧力P(図4参照)が、基板搬送方向Dの下流側のアルゴンガスの圧力Pよりも高くなるように圧力勾配を形成する圧力勾配形成工程を備えている。この圧力勾配形成工程では、最も上流側のMoターゲット21Aよりも上流側でアルゴンガスを室内に導入し、圧力勾配を形成する。圧力勾配形成工程では、第2の成膜室11B内のアルゴンガスの圧力を、第1の圧力状態(圧力P)から、第1の圧力状態より低い第2の圧力状態(圧力P)へ低下させる圧力勾配を形成する。
【0082】
圧力勾配形成工程では、その他の位置でアルゴンガスを導入して、圧力勾配を形成してもよい。例えば、基板搬送方向Dにおける中央のMoターゲット21Bよりも上流側に、アルゴンガスを導入してもよい。また、最も上流側のMoターゲットと最も下流側のMoターゲットの中間位置よりも上流側で、アルゴンガスを導入してもよい。
【0083】
また、圧力勾配形成工程では、基板搬送方向Dにおいて複数の異なる位置でアルゴンガスを導入し、下流側の導入位置では、上流側の導入位置よりも少ないガス量のアルゴンガスを導入する。なお、アルゴンガスの導入位置は、基板搬送方向Dにおいて、1箇所でもよく、複数でもよい。アルゴンガスの導入位置が複数である場合には、メインの導入位置は、上流側に設ける。また、圧力勾配形成工程では、アルゴンガスの導入位置の下流側から第2の成膜室11B内のガスを室外に排出する。
【0084】
図4は、成膜室における基板搬送方向の位置と、アルゴンガスの圧力との関係を示すグラフである。図4では、横軸に第2成膜室11Bにおける搬送方向の位置を示し、縦軸に第2成膜室11Bにおけるアルゴンガスの圧力を示している。位置Dは、第2の成膜室11Bの最も上流側の位置であり、位置Dは、第1のガス導入部の位置であり、位置Dは、最も下流側の位置である。図4に示すように、位置Dから位置Dにかけてアルゴンガスの圧力が、圧力Pから圧力Pへ上昇し、位置Dから位置Dにかけてアルゴンガスの圧力が、圧力Pから圧力Pへ下降するように、圧力勾配が形成されている。
【0085】
図6は、LASERスクライブ法を適用した後の成膜基板を撮影したSEM写真である。図6(a)は、本発明の実施形態に係る成膜基板のSEM写真であり、図6(b)は、従来例の成膜基板のSEM写真である。図6(a)に示すように、本実施形態の成膜基板にLASERスクライブ法を適用した場合には、残渣が生じることなく、好適にモリブデン層3bが除去されていることが分かる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態の成膜装置及び成膜基板製造方法では、成膜室内において基板搬送方向の上流側から下流側にかけてアルゴンガスの圧力勾配が生じている。この圧力勾配は、上流側のアルゴンガスの圧力が高く、下流側のアルゴンガスの圧力が低くなるように形成されている。このような圧力勾配が生じた成膜室内でモリブデン層の成膜を実施することで、基板側から表面側にかけて、金属密度勾配が形成されたモリブデン層を成膜することができる。この金属密度勾配は、基板側から遠くなるにつれて、密度が高くなるものである。換言すれば、モリブデン層の膜厚方向において、表面側から基板側へ近づくにつれて、密度が低くなるように密度勾配が形成されている。
【0087】
また、成膜室内にアルゴンガスを導入する導入口が、成膜材料より上流側に設けられているため、基板搬送方向において好適な圧力勾配を形成することができる。
【0088】
本実施形態の成膜基板では、表面側から深くなるにつれて、モリブデン層の密度が低くなるように密度勾配が形成されている。これにより、成膜基板に対してLASERスクライブ法を適用した際に、LASER強度が膜厚方向の深さに応じて減衰しても、好適にモリブデン層を除去することができる。その結果、良好なパターン形成が実現される。
【0089】
また、本実施形態の成膜基板では、ガラス基板2の表面に酸素を含有する密着層3aが成膜され、ガラス基板2と密着層3aとが強固に密着されている。そして、この密着層3aの表面に、密着層3aよりも酸素の含有量が少ないモリブデン層3bが成膜され、密着層3aとモリブデン層3bとが強固に密着されている。すなわち、モリブデン層3bは、密着層3aを介してガラス基板2上に成膜され、モリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られている。その結果、太陽電池セルを製造する際の歩留まりの低下を抑えることができる。また、太陽電池セルの品質の向上を図ることができる。
【0090】
ここで、モリブデン層3bのシート抵抗値は、密着層3aのシート抵抗値よりも低いことが好適であり、密着層3aの表面に、密着層3aのシート抵抗値よりも低いシート抵抗値のモリブデン層3bを成膜することで、低抵抗とし電極膜としての機能を向上させつつ、密着力の向上を図ることができる。
【0091】
また、モリブデン層3bは、密着層3aよりも厚いことが好ましく、膜厚が密着層3aよりも厚いモリブデン層3bを成膜することで、シート抵抗値の低いモリブデン層を形成することができる。そのため、成膜基板を備えた太陽電池セル1では、低抵抗かつ高変換率を実現することができる。またシート抵抗の高い密着層3aをモリブデン層3bよりも薄くすることで、ガラス基板2と密着層3aとの密着力を高めつつ、成膜基板全体の抵抗値の増加を抑制することができる。
【0092】
また、本実施形態の成膜装置10では、ガラス基板2の表面に密着層3aを成膜する第1成膜室11Aを備え、この第1成膜室11A内を、酸素を含有する第1の雰囲気として、ガラス基板2上に密着層3aを成膜することができる。これにより、ガラス基板2と密着層3aとを強固に密着させることができる。また、成膜装置10は、密着層3aの表面にモリブデン層3bを成膜する第2成膜室11Bを備え、この第2成膜室11B内を、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気として、密着層3aの表面にモリブデン層3bを成膜することができる。これにより、密着層3aとモリブデン層3bとを強固に密着させることができる。すなわち、モリブデン層3bは、密着層3aを介してガラス基板2上に成膜され、モリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られている。なお、第1成膜室11Aと第2成膜室11Bとを兼用する成膜室を備える成膜装置としてもよい。
【0093】
また、本実施形態の成膜基板の製造方法では、酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に密着層3aが成膜され、密着層3aがガラス基板2に強固に密着する。そして、この密着層3aの表面にモリブデン層3bが成膜され、モリブデン層3bが密着層3bに強固に密着する。すなわち、モリブデン層3bは、密着層3aを介してガラス基板上に成膜され、モリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られる。
【0094】
本実施形態の成膜基板を太陽電池セルに利用した場合には、モリブデンの成膜工程後の他の工程において、高温(例えば600℃)に晒されても、モリブデン層3a,3bの剥離を防止することができる。また、成膜基板にLASERスクライビングを実施した場合のモリブデン層3a,3bの剥離を防止することができる。従って、モリブデン層の密着性の向上を図ることが可能である。
【0095】
また、本実施形態の成膜基板では、モリブデン層の密着力が向上されているため、ガラス基板2中のナトリウム分がモリブデン層を好適に通過し、モリブデン層に密着するCIGS層4に到達し、CIGS層4における発電効率の向上を図ることができる。
【0096】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、スパッタリング法による成膜を行っているが、例えば、物理蒸着法、イオンプレーティング法を適用してもよく、その他の成膜方法を用いて成膜を行ってもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、本発明の成膜基板をCIGS型の太陽電池に適用しているが、例えば、色素増感型など、その他の太陽電池に本発明の成膜基板を適用してもよい。さらに、タッチパネル、液晶ディスプレイ(液晶表示素子)、有機EL素子などに使用される基板に、本発明の成膜基板を適用してもよい。
【0098】
なお、上記実施形態では、成膜室11Bの長手方向(基板搬送方向)において、成膜室11B内の不活性ガスの圧力を低下させる圧力勾配を形成する構成としているが、成膜室11B内で基板を静止させた状態で、成膜室11B内の不活性ガスの圧力を成膜時間の経過に応じて低下させることで、圧力勾配を形成してもよい。これにより、成膜室11Bの長手方向に圧力勾配を形成する必要がなくなるため、成膜室11Bを短くすることが可能となり、成膜装置10を小型化することが可能となる。
【0099】
また、時間経過に応じて不活性ガスの圧力を低下させる圧力勾配を形成する場合には、成膜開始から徐々に不活性ガスの圧力を低下させることが好ましい。これにより、モリブデン層として、基板の表面上から徐々に密度が高くなる密度勾配領域を形成することができる。
【0100】
また、成膜時間に応じて圧力勾配を形成する場合には、一つのガス導入部を用いて圧力勾配を形成することが可能であるため、ガス導入部を減らすことができ、不活性ガスを成膜室11B内に供給するためのガス供給機構を簡素化することができる。
【0101】
なお、上記実施形態では、ガラス基板にモリブデン層を成膜する場合について説明しているが、モリブデン層が成膜される基板は、ガラス基板に限定されず、その他の基板でもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、不活性ガスをアルゴンガスとしているが、その他の不活性ガスを用いる構成でもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…太陽電池セル、2…ガラス基板、3…裏面電極層、3a…密着層、3b…モリブデン層、10…成膜装置(スパッタリング装置)、11A…第1成膜室、11B…第2成膜室、30A,30B,30C…ガス濃度調整装置、31,32…マスフローコントローラ、35…制御部、41A…第1のガス導入部(導入口)、41B…第2のガス導入部(導入口)、D…基板搬送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にモリブデン層を成膜する成膜装置であって、
前記モリブデン層を成膜するための成膜材料が設置され、前記基板上に前記モリブデン層を成膜する成膜室と、
前記成膜室内に不活性ガスを導入すると共に、前記成膜室内の不活性ガスの圧力を、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配を形成可能な圧力勾配形成手段と、
を備え、
前記成膜室は、前記圧力勾配に沿って前記不活性ガスの圧力が低下する雰囲気で、前記第1の圧力状態で成膜した後に、前記第2の圧力状態で成膜することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記成膜室内の前記基板を搬送する基板搬送手段を更に備え、
前記圧力勾配形成手段は、基板搬送方向の上流側を前記第1の圧力状態とし、基板搬送方向の下流側を前記第2の圧力状態とする前記圧力勾配を形成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板搬送方向において、複数の前記成膜材料が配置されており、
前記成膜室内に不活性ガスを導入するガス導入口が、前記基板搬送方向における中央の前記成膜材料よりも、上流側に設けられていることを特徴とする請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記成膜室内に不活性ガスを導入するガス導入口が、前記成膜材料よりも上流側に設けられていることを特徴とする請求項2記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ガス導入口を第1のガス導入口とし、当該第1のガス導入口よりも下流側には、前記第1のガス導入口を通じて導入されるガス量よりも少ないガス量の不活性ガスを前記成膜室内に導入する第2のガス導入口が設けられていることを特徴と請求項3又は4記載の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜室内のガスを室外に排出するガス排出口が、前記基板搬送方向において前記ガス導入口の下流側に設けられていることを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記圧力勾配形成手段は、時間経過に応じて、前記成膜室内の不活性ガスの圧力を低下させることで前記圧力勾配を形成することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項8】
前記圧力勾配形成手段は、成膜開始から徐々に不活性ガスの圧力を低下させることを特徴とする請求項7記載の成膜装置。
【請求項9】
基板上にモリブデン層を成膜された成膜基板を製造する方法であって、
前記モリブデン層を成膜するための成膜材料が設置された成膜室内で、前記基板上に前記モリブデン層を成膜する成膜工程と、
前記成膜室内に不活性ガスを導入すると共に、前記成膜室内の不活性ガスの圧力を、第1の圧力状態から当該第1の圧力状態より低い第2の圧力状態へ、低下させる圧力勾配を形成可能な圧力勾配形成工程と、
を備え、
前記成膜工程は、前記圧力勾配に沿って前記不活性ガスの圧力が低下する雰囲気で、前記第1の圧力状態で成膜した後に、前記第2の圧力状態で成膜することを特徴とする成膜基板製造方法。
【請求項10】
前記成膜室内の前記基板を搬送する基板搬送工程を更に備え、
前記圧力勾配形成工程は、基板搬送方向の上流側を前記第1の圧力状態とし、基板搬送方向の下流側を前記第2の圧力状態とする前記圧力勾配を形成する請求項9に記載の成膜基板製造方法。
【請求項11】
前記成膜室には、前記基板搬送方向において、複数の成膜材料が配置されており、
前記圧力勾配形成工程は、前記基板搬送方向における中央の前記成膜材料よりも上流側に、不活性ガスを導入することを特徴とする請求項10記載の成膜基板製造方法。
【請求項12】
前記圧力勾配形成工程は、前記成膜室内において成膜材料よりも基板搬送方向の上流側に、不活性ガスを導入することを特徴とする請求項11記載の成膜基板製造方法。
【請求項13】
前記圧力勾配形成工程は、前記基板搬送方向において複数の異なる位置で不活性ガスを導入し、下流側の導入位置では、上流側の導入位置よりも少ないガス量の不活性ガスを導入することを特徴とする請求項11又は12記載の成膜基板製造方法。
【請求項14】
前記圧力勾配形成工程は、不活性ガスの導入位置の下流側から前記成膜室内のガスを室外に排出することを特徴とする請求項10〜13の何れか一項に記載の成膜基板製造方法。
【請求項15】
前記圧力勾配形成工程は、時間経過に応じて、前記成膜室内の不活性ガスの圧力を低下させることで前記圧力勾配を形成することを特徴とする請求項9記載の成膜基板製造方法。
【請求項16】
前記圧力勾配形成工程は、成膜開始から徐々に不活性ガスの圧力を低下させることを特徴とする請求項15記載の成膜基板製造方法。
【請求項17】
基板と、
前記基板上に成膜されたモリブデン層と、を備え、
前記モリブデン層は、膜厚方向において、前記基板に近づくにつれて密度が低くなる密度勾配領域を有することを特徴とする成膜基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117127(P2012−117127A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269552(P2010−269552)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】