説明

成膜装置、成膜方法、圧電膜、および、液体吐出装置

【課題】プラズマ状態を安定させ、かつ、好適な成膜条件によって、良質な膜を成膜できる成膜装置および成膜方法、これらによって成膜した圧電膜、および、この圧電膜を用いる液体吐出装置を提供することにある。
【解決手段】真空容器と、ターゲットホルダと、基板ホルダと、アノードとを有し、前記アノードは、前記基板ホルダの外周を取り囲むように設けられた筒状部材と、前記筒状部材の内周面に、前記基板ホルダと直交する方向に互いに離間した状態で取り付けられ、かつ、前記成膜用基板よりも大きい中心開口を持つ環状である複数枚の板状部材とを有し、前記真空容器内に前記ガスを導入し、前記ターゲットホルダと基板ホルダとの間に、電圧をかけてプラズマを生成し、前記成膜用基板上に前記成膜材料の薄膜を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法、並びに、液体吐出装置に関するものであり、特に、プラズマを用いる気相成長法により成膜を行う成膜装置および成膜方法、ならびに、この成膜方法により形成された圧電膜を用いる液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電膜等の薄膜の成膜方法として、スパッタリング法等の気相成長法が知られている。スパッタリング法は、高真空中でプラズマ放電により生成される高エネルギーのArイオン等のプラズマイオンをターゲットに衝突させて、ターゲットの構成元素を放出させ、放出されたターゲットの構成元素を基板の表面に蒸着させる方法である。
【0003】
良質な膜を成膜するためには、種々の成膜条件を好適化する必要がある。例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系統のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合には、高温条件下で成膜を行うと、成膜した圧電膜からPbが抜けやすくなってしまう等の問題がある。そのため、Pb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合には、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶が良好に成長し、かつPb抜けが起こりにくい圧電膜の成膜を行うための成膜条件が模索されている。また、圧電膜の膜質が、プラズマ条件によっても影響を受けることも考えられている。
【0004】
これに対して、特許文献1には、ターゲットを保持するターゲットホルダの成膜基板側の外周を取り囲む位置にシールドを設け、このシールドによって、成膜容器(チャンバ)内のプラズマ電位とフローティング電位との差を調整および好適化して、良質な膜を成膜する成膜装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2008‐81803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、特許文献1に開示される成膜装置は、ターゲットを保持するターゲットホルダの成膜基板側の外周を取り囲む位置にシールドを設けることにより、真空容器内のプラズマ空間の電位状態を調整することができ、プラズマ状態を好適化することができ、さらに、上記シールドによって、チャンバ内のプラズマ電位とフローティング電位との差を調整および好適化することができ、これによって良質な膜を成膜することができる。
しかしながら、近年、成膜速度を向上させつつ、膜質をさらに向上させることが求められている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、プラズマ状態を安定させ、かつ、好適な成膜条件によって、良質な膜を成膜できる成膜装置および成膜方法、これらによって成膜した圧電膜、および、この圧電膜を用いる液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明は、ガスの導入と排気が可能な真空容器と、前記真空容器内に配置され、かつ、成膜材料となるターゲットを保持するターゲットホルダと、前記真空容器内に前記ターゲットホルダに対向して配置され、かつ、前記成膜材料の薄膜が形成される成膜用基板を保持する基板ホルダと、前記ターゲットホルダと前記基板ホルダとの間に、少なくとも前記基板ホルダの前記ターゲットホルダ側の外周を取り囲むように設けられたアノードとを有し、前記アノードは、前記基板ホルダの外周を取り囲むように設けられた筒状部材と、前記筒状部材の内周面に、前記基板ホルダと直交する方向に互いに離間した状態で取り付けられ、かつ、前記成膜用基板よりも大きい中心開口を持つ環状である複数枚の板状部材とを有し、前記真空容器内に前記ガスを導入し、前記ターゲットホルダと基板ホルダとの間に、電圧をかけてプラズマを生成し、前記成膜用基板上に前記成膜材料の薄膜を形成することを特徴とする成膜装置を提供するものである。
【0009】
本発明においては、前記筒状は、円筒状であり、前記環状は、円環状であることが好ましい。
【0010】
また、本発明においては、前記アノードは、前記中心開口同士が重なるように一体的に成形されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、前記アノードの前記複数枚の板状部材のうち、前記基板ホルダ側に位置する板状部材ほど、前記中心開口の中心から前記環状の内側面までの最短距離が小さいことが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記アノードの隣接する板状部材は、互いに、1.0mm〜15.0mm離間させて配置されることが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記アノードは、接地されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、前記アノードは、前記成膜用基板とは電気的に絶縁され、かつ、所定の電圧が印加できるようになっていても良い。
【0015】
また、上記課題を達成するために、本発明は、ターゲットと成膜用基板との間にプラズマを生成し、前記プラズマのイオンを前記ターゲットに衝突させて、前記成膜用基板上に前記ターゲットを成膜材料とする薄膜を形成する成膜方法であって、前記ターゲットホルダと前記基板ホルダとの間に、少なくとも前記基板ホルダの前記ターゲットホルダ側の外周を取り囲むように設けられた筒状部材と、前記筒状部材の内周面に、前記基板ホルダと直交する方向に互いに離間した状態で取り付けられ、かつ、前記成膜用基板よりも大きい中心開口を持つ環状である複数枚の板状部材とを有するアノードを設け、前記アノードにより、前記薄膜の形成時に、前記プラズマを前記基板に衝突させないようにして、前記薄膜の成膜速度を制御することを特徴とする成膜方法を提供するものである。
【0016】
本発明においては、前記筒状は、円筒状であり、前記環状は、円環状であることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては、前記ターゲットは、絶縁体、圧電体、誘電体、または強誘電体であることが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、前記アノードは、前記中心開口同士が重なるように一体的に成形されていることが好ましい。
【0019】
また、本発明においては、前記アノードの前記複数枚の板状部材のうち、前記基板ホルダ側に位置する板状部材ほど、前記中心開口の中心から前記環状の内側面までの最短距離が小さいことが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、前記アノードの隣接する板状部材は、互いに、1.0mm〜15.0mm離間させて配置されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、前記アノードは、接地されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては、前記アノードは、前記成膜用基板とは電気的に絶縁され、かつ、所定の電圧が印加されていることが好ましい。
【0023】
また、上記課題を達成するために、本発明は、上記いずれかに記載の成膜装置を用いて、または上記いずれかに記載の成膜方法により、成膜されたことを特徴とする圧電膜を提供するものである。
【0024】
本発明においては、さらに、表面粗度が、自身が形成される基板の表面粗度の値に、50Åを足した値であることが好ましい。
【0025】
また、上記課題を達成するために、本発明は、上記に記載の圧電膜、およびこの圧電膜に電圧を印加するために、前記圧電膜の両面に形成された電極を備える圧電素子と、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記液体貯留室から外部に前記液体を吐出させる液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、真空容器(チャンバ)内にアーキングを発生させることなく、プラズマイオンによる成膜した膜のスパッタリング、すなわち、逆スパッタリングを抑制することができ、これにより、成膜速度および膜質を向上させることができる。
【0027】
また、本発明によれば、パーティクルが成膜基板に付着するのを防止することができ、また、真空容器からアノードを簡便に取り出すことができる。
【0028】
また、本発明によれば、アノードへ膜が付着する(着膜する)ことにより生じるチャンバ内のプラズマ状態の変化を減少させて、安定させることができる。これにより、成膜される膜の膜質も安定し、さらに、安定した膜質を長期的に成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の成膜装置、および、成膜方法、これらの成膜装置や成膜方法を用いて成膜された圧電膜、および、この圧電膜を用いた圧電素子を備えた液体吐出装置について、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の成膜方法を実施する成膜装置の一実施形態を概念的に示す概略構成図である。
以下では、薄膜として圧電膜を成膜し、この薄膜を用いた薄膜デバイスとして圧電素子を製造する成膜装置を代表例として説明するが、本発明は、これに限定されないのはいうまでもない。
【0030】
本発明の成膜装置は、絶縁膜、誘電体膜、強誘電体膜等の薄膜、特に、圧電膜を、プラズマを用いた気相成長法(スパッタリング)により、基板上に成膜し、圧電素子などの薄膜デバイスを製造する成膜装置である。
図1に示すように、本発明の成膜装置10は、ガス導入管12aおよびガス排出管12bを備える真空容器12と、この真空容器12の天井に配置され、かつ、スパッタリング用のターゲット材TGを保持し、カソードの役割を果たし、プラズマを発生させるターゲットホルダ14と、このターゲットホルダ14に接続され、ターゲットホルダ14に高周波を印加する高周波電源16と、真空容器12内の、ターゲットホルダ14と対向する位置に配置され、ターゲット材TGの成分による薄膜が成膜される基板SBを載置する載置台(基板ホルダ)18と、ターゲットホルダ14と載置台18との間に、少なくとも、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように設けられたアノード20とを有する。
【0031】
真空容器12は、スパッタリングを行うために所定の真空度を維持する、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器であって、図示例においては、接地され、その内部に成膜に必要なガスを導入するガス導入管12aおよび真空容器12内のガスの排気を行うガス排出管12bが取り付けられている。
真空容器12としては、スパッタ装置で利用される真空チャンバ、ベルジャー、真空槽などの種々の真空容器を用いることができる。
【0032】
真空容器12において、ガス導入管12aから真空容器12内に導入されるガスとしては、アルゴン(Ar)、または、アルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス等を用いることができる。
ガス導入管12aは、これらのガスの供給源(図示せず)に接続されている。
一方、ガス排出管12bは、真空容器12内を所定の真空度にすると共に、成膜中にこの所定の真空度に維持するために、真空容器12内のガスを排気するため、真空ポンプ等の排気手段に接続されている。
【0033】
ターゲットホルダ14は、カソード電極であり、真空容器12のその他の部分とは絶縁された状態で、真空容器12内部の上方に配置され、その表面上に成膜する圧電膜などの薄膜の組成に応じた組成のターゲット材TGを装着し、保持するようになっており、高周波電源16に接続されている。
【0034】
高周波電源16は、真空容器12内に導入されたArなどのガスをプラズマ化させるための高周波電力(負の高周波)をターゲットホルダ14に供給するためのものであり、その一方の端部がターゲットホルダ14に接続され、他方の端部が図示していないが接地されている。
なお、高周波電源16がターゲットホルダ14に印加する高周波電力は、特に制限的ではなく、例えば13.65MHz、最大5kW、あるいは、最大1kWの高周波電力などを挙げることができるが、例えば50kHz〜2MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz、1kW〜10kWの高周波電力を用いるのが好ましい。
【0035】
ターゲットホルダ14は、高周波電源16からの高周波電力(負の高周波)の印加により放電して、真空容器12内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオン(プラズマイオン)を生成させる。したがって、ターゲットホルダ14は、カソード電極またはプラズマ電極と呼ぶこともできる。
こうして生成されたプラスイオンは、ターゲットホルダ14に保持されたターゲット材TGをスパッタリングする。このようにして、プラスイオンにスパッタリングされたターゲット材TGの構成元素は、ターゲット材TGから放出され、中性あるいはイオン化された状態で、対向離間配置された載置台18に保持された基板SB上に蒸着される。
このようにして、真空容器12の内部のターゲットホルダ14と載置台18との間に、Arイオン等のプラスイオンやターゲット材TGの構成元素やそのイオンなどを含むプラズマ空間が形成される。
【0036】
載置台18は、真空容器12の内部の下方に、ターゲットホルダ14と対向する位置に離間して配置され、ターゲットホルダ14に保持されたターゲット材TGの構成元素(成分)が蒸着され、圧電膜などの薄膜が成膜される基板SBを保持、すなわち図中下面から支持するためのものである。
なお、載置台18は、図示しないが、基板SBの成膜中に、基板SBを所定温度に、加熱しかつ維持するためのヒータ(図示せず)を備えている。
また、載置台18に装着される基板SBのサイズは、特に制限的ではなく、通常の6インチサイズの基板であっても、5インチや、8インチのサイズの基板であってもよいし、5cm角のサイズの基板であってもよい。
なお、本実施形態においては、基板SBは電気的に絶縁され、かつ、所定の電圧が印加される。
【0037】
アノード22は、図1に示すように、ターゲットホルダ14と載置台18との間に、載置台18(基板SB)のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように配置される。
アノード22は、円筒状部材24と、基板SBよりも大きい中心開口、すなわち、内径を持つ3枚の板状部材22a〜22cとが一体的に成形されたものであり、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように成形されているものである。
なお、アノード22は、図1に示すように、接地されている。
【0038】
板状部材22a〜22cは、基板SBよりも大きい中心開口、すなわち、内径を有する円環状の板状部材であり、円筒状部材24の内周面に取り付けられるため、それぞれ、外径は等しく、内径のみが、載置台18側に位置するに従って小さい。すなわち、板状部材22cの内径<板状部材22bの内径<板状部材22aの内径となっている。
【0039】
また、アノード22の板状部材22a〜22cのそれぞれの離間距離は、電子が入り込み、アノードとしての役割を十分に果たすことができるように、1.0mm以上とするのが好ましく、さらに、スパッタ粒子が容易に入り込みアノードを汚染することがないように、15.0mm以下とするのが好ましい。
【0040】
本発明において、アノード22の板状部材22の離間距離(間隙距離)とは、載置台18表面と直交する方向に重なるように配置された複数の板状部材22のうち、互いに載置台18表面と直交する方向で隣接する(上下関係にある)板状部材22において、上側(ターゲット側)に位置する板状部材の下面と、下側(基板側)に位置する板状部材の上面との距離であり、すなわち、本実施形態であれば、板状部材22aの図中下面と板状部材22bの図中上面との距離、および、板状部材22bの図中下面と板状部材22cの図中下面との距離である。
【0041】
ここで、本発明において、ターゲットホルダ14と載置台18との間に、成膜容器12内に生成するプラズマ中のイオンを補足するために、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように一体成形されたアノード20を設けた理由について詳述する。
【0042】
上記構成を有するような成膜装置、特に、RF(Radio Frequency)スパッタ装置においては、成膜時に、基板上に結晶(薄膜)が成長する一方で、Arイオン等のプラスイオンが、基板に向かって所定のエネルギーでぶつかることにより、基板上に形成された薄膜のスパッタリング、すなわち、逆スパッタリング(リスパッタリング)が行われてしまうという問題があった。
【0043】
そこから、本発明者は、成膜容器内において、基板を、プラズマ密度の高い部分(プラズマ発生領域に気体部分)に設置すると、ターゲットがスパッタリングされることにより生じるスパッタ粒子の基板への到達確率が非常に高いにも関らず、逆スパッタリングも活発に行われてしまうので、逆スパッタリングの正常なスパッタリングに対する影響が非常に大きくなり、成膜速度が大幅に落ちてしまうことを知見した。
【0044】
これに対して、ターゲットと基板との離間距離を離すことも試みたが、スパッタ粒子(飛来原子)が基板に到達する確率が下がってしまうため、有効に成膜レートを向上させることが難しかった。
【0045】
さらに、本発明者は、逆スパッタリングが活発に行われれば行われる程、成膜した薄膜の結晶性に対する悪影響も非常に大きく、特に、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)のような多組成の物質をスパッタリングする場合には、スパッタ率(プラスイオンにスパッタリングされたターゲットの原子/ターゲットに入射したプラスイオン)の高い原子が、優先的に逆スパッタリングされ、基板上に成膜する薄膜に取り込まれにくくなり、成膜する薄膜の膜質を低下させることも知見した。
【0046】
そのため、本発明者は、逆スパッタリングを抑えつつ、基板へのスパッタ粒子の到達確率を向上させることができれば、成膜する薄膜の成膜レートおよび膜質を大幅に改善させることが可能であると考えた。
【0047】
そこで、本発明者は、真空容器内でのアーキングの発生を抑制しつつ、基板SBへのプラスイオンの到達確率を低減させて、成膜中に逆スパッタリングが活発に行われることを防止して、成膜する膜の成膜レートおよび膜質を向上させるために、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように、アノード20を設けることを見出した。
【0048】
さらに、本発明者は、パーティクルが、ターゲット表面に落ちて、異常放電を引き起こしたり、基板表面に落ちて、成膜する膜の表面にピンホール等の欠陥を発生させたりすることを知見して、パーティクルがアノード20の図中側方側から通過することがないように、図中側方側を封止したアノード20、すなわち、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように一体的に成形されているアノード20を設けることを見出した。
【0049】
上記のようにして、本発明の成膜装置においては、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように一体的に成形されているアノード20を、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように設けることにより、Ar等のプラスイオン(プラズマイオン)が基板SBに当るのを防ぐことができる。すなわち、これにより、逆スパッタリングを抑制することができ、成膜基板へのスパッタ粒子の到達確率を向上させることができるので、成膜する膜の成膜速度および膜質を向上させることができる。
【0050】
また、上記構成を有するアノード20を設けることにより、アノード20の図中側方側からパーティクルが通過することがなくなるので、ターゲットの表面にパーティクルが付着し、異常放電を引き起こしたり、基板表面にパーティクルが付着し、成膜する膜にピンホール等の欠陥が生じたりすることを防止することができる。これにより、本発明の成膜装置で成膜する膜の膜質を向上させることができる。
【0051】
さらに、本発明の成膜装置は、板状部材に膜が付着することにより、アノード面積が減少してプラズマ状態が変化することを抑制することができ、常に、良質の薄膜を形成することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、アノード20は、載置台18側に位置する板状部材ほど、すなわち、板状部材22c、22b、22aの順に、板状部材22の内径が小さくなるように(中心開口の中心から板状部材の内側面までの最短距離が小さくなるように)構成されているため、基板SBのみにスパッタ粒子が付着しやすくなり、良質の膜を成膜することができる。
【0053】
なお、上記実施形態においては、アノード22は、成膜する膜の均一性を向上させるために、円筒状部材20と円環状の板状部材22とで構成されているが、本発明においては、特に限定はなく、筒状部材は、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むことができる形状のものであれば、四角形、楕円、その他どのような形状の筒状であってもよく、さらに、板状部材22は、成膜用基板よりも大きい開口中心をもち、互いに離間した状態で、筒状部材の内周面に取り付けられる形状のものを用いればよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、アノード22は、円筒状部材の内周面に、3枚の板状部材22を取り付ける構成としているが、本発明においては、これに限定されず、2枚以上の板状部材22を取り付ける構成にすれば、特に限定はない。
【0055】
また、本実施形態において、アノード20は、基板SB側に位置するに従って、板状部材22の中心開口の中心から板状部材の内側面までの最短距離が小さくなるように構成されているが、本発明においては、これに限定されず、例えば、外径および内径、共に、同一の板状部材22を用いてもよい。
なお、上記板状部材22の中心開口の中心から板状部材の22内側面までの最短距離とは、板状部材22が、例えば、円環状であれば、上述のように内径であり、長方形の環状であれば、長方形の中心から長方形の長辺の中心までの距離である。
【0056】
本発明の成膜装置は、基本的に以上のように構成されるものであり、以下に、その作用および本発明の成膜方法について説明する。
【0057】
まず、図1に示す成膜装置10において、真空容器12内に設けられたターゲットホルダ14に、スパッタリング用のターゲット材TGを装着して保持されるとともに、真空容器内において、ターゲットホルダ14と対向する位置に離間して配置された載置台18に圧電膜などの薄膜を成膜する基板SBを装着して保持させる。
なお、本発明において、ターゲット材TGには、特に限定はないが、絶縁体、圧電体、誘電体、または強誘電体が好ましく、特に、Pbを含む誘電体が好ましく用いられる。
【0058】
次いで、真空容器12内が所定に真空度になるまでガス排出管12bから排気し、所定の真空度を維持するように排気し続けながら、ガス導入管12aからアルゴンガス(Ar)などのプラズマ用ガスを所定量づつ供給し続ける。これと同時に、高周波電源16からターゲットホルダ14に高周波(負の高周波電力)を印加して、ターゲットホルダ14を放電させて、真空容器12内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラズマイオンを生成させ、プラズマ空間が形成される。
【0059】
この後、形成されたプラズマ空間内のプラスイオンは、ターゲットホルダ14に保持されたターゲット材TGをスパッタし、スパッタされたターゲット材TGの構成元素は、ターゲット材TGから放出され、中性あるいはイオン化された状態で、対向離間配置された載置台18に保持された基板SB上に蒸着され、成膜が開始される。
【0060】
このとき、本発明の成膜方法においては、上記構成を有するアノード20により、薄膜の成膜時に、成膜速度を制御する。
上述した通り、アノード20を用いることにより、成膜時に、逆スパッタリングが行われることを抑制することができるため、成膜速度を向上させることができる。
そこで、本発明の成膜方法においては、上記構成を有するアノード20により、薄膜の成膜時に、成膜速度を調整(制御)および好適化する。
【0061】
上記のような成膜装置または本発明の成膜方法で得られた本発明の圧電膜は、膜質のばらつきや組成ズレのない高品質な絶縁膜、誘電体膜、または、強誘電体膜、特に、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなり、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶が安定的に成長し、しかもPb抜けが安定的に抑制された圧電膜であり、インクジェットヘッドなどに用いるのに適した圧電素子として利用することができる。
【0062】
なお、本発明の圧電膜は、上述の通り、本発明の成膜装置または成膜方法で得られたものであれば、特に限定はないが、膜の緻密さを示す尺度として、「圧電膜を形成する基板SBの表面粗度+50Å未満」であるのが好ましく、特に、100Å未満であるのが好ましい。ただし、スパッタ膜の粗度は、成膜条件に加えて下部電極の粗度も反映する。
【0063】
次に、本発明の液体吐出装置(以下、インクジェットヘッドともいう)の構造について説明する。
図2は、本発明に係る圧電素子の一実施形態を用いたインクジェットヘッドの一実施形態の要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。なお、視認しやすくするために、構成要素の縮尺は、実際のものとは適宜異ならせてある。
【0064】
図2に示すように、本発明のインクジェットヘッド50は、本発明の圧電膜を有する圧電素子52と、インク貯留吐出部材54と、圧電素子52とインク貯留吐出部材54との間に設けられる振動板56と、ノズル(液体吐出口)70とを有する。
【0065】
本発明に係る圧電素子52は、基板58と、基板58上に順次積層された下部電極60、圧電膜62および上部電極64とからなる素子であり、圧電膜62に対して、下部電極60と上部電極64とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
【0066】
基板58としては、特に制限的ではなく、シリコン、ガラス、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板を挙げることができる。なお、基板58として、シリコン基板の表面にSiO酸化膜が形成されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
また、下部電極60は、基板58の略全面に形成されており、この上に図中手前側から奥側に延びるライン状の凸部62aがストライプ状に配列したパターンの圧電膜62が形成され、各凸部62aの上に上部電極64が形成されている。
圧電膜62のパターンは、図示するものに限定されず、適宜設計される。なお、圧電膜62は、連続膜でも構わないが、圧電膜62を、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部62aからなるパターンで形成することで、個々の凸部62aの伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0067】
下部電極60の主成分としては、特に制限的ではなく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,およびSrRuO等の金属または金属酸化物、およびこれらの組合せが挙げられる。
上部電極64の主成分としては、特に制限的ではなく、下部電極60で例示した材料、Al,Ta,Cr,およびCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、およびこれらの組合せが挙げられる。
圧電膜62は、上述の本発明のスパッタ方法を適用する成膜方法により成膜された膜である。圧電膜62は、好ましくは、ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜である。
下部電極60と上部電極64の厚みは、例えば200nm程度である。圧電膜62の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。
【0068】
図2に示すインクジェットヘッド50は、概略、上記構成の圧電素子52の基板58の下面に、振動板56を介して、インクが貯留されるインク室(インク貯留室)68およびインク室68から外部にインクが吐出されるインク吐出口(ノズル)70を有するインク貯留吐出部材54が取り付けられたものである。インク室68は、圧電膜62の凸部62aの数およびパターンに対応して、複数設けられている。すなわち、インクジェットヘッド50は、複数の吐出部を72を有し、圧電膜62、上部電極64、インク室68およびインクノズル70は、各吐出部72毎に設けられている。一方、下部電極60、基板58および振動板56は、複数の吐出部に共通に設けられているが、これに制限されず、個々に、または幾かずつまとめて設けられていても良い。
インクジェットヘッド50では、従来公知の駆動方法により、圧電素子52の凸部62aに印加する電界強度を凸部62a毎に増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室68からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
本発明のインクジェットヘッドは、基本的に以上のように構成されている。
【0069】
以上、本発明に係る成膜方法および成膜装置、ならびにこれらによって成膜された本発明の圧電膜を有する圧電素子を具備するインクジェットヘッド(液体吐出装置)について種々の実施形態および実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例には限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や設計の変更を行ってもよいのは、勿論である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、さらに、添付の図を用いて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0071】
(実施例1)
図1に示す成膜装置10として、市販の成膜装置(Oerlikоn社製 CLN2000型)を用いた。
ターゲット材TGは、300mmφのPb1.3(Zr0.46Ti0.42Nb0.12)O組成の焼結体を用いた。
基板SBには、予め、Siウエハ上に、Irを150nm形成した、基板サイズ6inchφの基板を用いた。
ターゲット材TGと基板SBとの間の距離は、50mmとした。
また、外径300mmφ、内径260mmφのステンレス鋼(SUS)製の板状部材22aが、最もターゲット材TG側に、外形300mmφ、内径220mmφのSUS製の板状部材22bが、板状部材22aの図中下側に、外径300mmφ、内径180mmφのステンレス鋼(SUS)製の板状部材22cが、最も基板SB側に位置する、アノード20を、基板SBのターゲット材TG側の外周を取り囲むように設けた。
【0072】
基板温度を500℃として、真空容器12内に、Ar+O(2.5%)のガスを導入し、0.5Paにて、高周波電源16に3kWを印加して、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)膜の成膜を3回行った。
このときに得られた膜の膜厚から、成膜レートを求めたところ、3回とも、約2500nm/hであった。この結果を、図7に黒丸(●)で表す。
なお、図7は、真空容器12内におけるターゲット材TGおよび基板SBの離間距離と成膜レートとの関係を表すグラフである。
【0073】
また、上記のようにして得られた膜を用いて、1.1mm開口のオープンプール構造を作製し、30Vの電圧で駆動させて変位量から、得られた膜の圧電定数を求めた。結果を、表1に記す。
【0074】
さらに、上記のようにして得られた膜の表面粗度を、Veeco社製のDecktak 6M型を用いて測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約25Åであった。
なお、PZT膜を成膜する前のウエハ、すなわち、Siウエハ上にIrを形成したウエハの表面粗さの平均値(約20Å)であった。
【0075】
また、上記のようにして得られた膜の5μm以上のパーティクルを、KLA社製欠陥/異物検査装置を用いて測定した。その結果、得られた膜のパーティクルの平均個数は、21個であった。この結果を表2に記す。
【0076】
(実施例2)
ターゲット材TGと基板SBとの間の距離を、80mmとした以外は、全く同様にして、成膜を3回行った。
このときに得られた膜の成膜レートは、3回とも、約3500nm/hであった。この結果も、図7に黒丸(●)で表し、さらに、実施例1と同様にして、得られた膜の圧電定数を求めたので、この結果も、表1に記した。
【0077】
また、PANalytical社製のX’spertPRO X線回折装置を用いて、このとき得られた膜のX線回析(XRD)を実施した。得られた主な膜のXRDのパターンを図3に示す。
【0078】
さらに、このときに日立製作所社製の走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られた膜の表面および断面を撮影した。得られた主な膜の表面のSEM写真を図4(a)に、断面のSEM写真を図4(b)に示す。
また、リガク社製の蛍光X線分析装置ZSXPrimusを用いて、蛍光X線分光法(XRF)によって、得られた膜のPbのAサイト割合を測定すると、1.11であった。
【0079】
また、上記のようにして得られた膜の5μm以上のパーティクルを、実施例1と同様にして測定した。その結果、得られた膜のパーティクルの平均個数は、18個であった。この結果を表2に記す。
上記のようにして得られた膜の表面粗度を、Veeco社製のDecktak 6M型を用いて測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約27Åであった。
【0080】
(実施例3)
ターゲット材TGと基板SBとの間の距離を、110mmとした以外は、実施例1と全く同様にして、成膜を3回行った。
このときに得られた膜の成膜レートは、3回とも、約2500nm/hであったので、図7に黒丸(●)で表し、さらに、実施例1と同様にして圧電定数を求め、結果を表1に記した。
【0081】
また、このようにして得られた膜の5μm2以上のパーティクルを、実施例1と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜のパーティクルの平均個数は、19個であった。この結果を表2に記す。
上記のようにして得られた膜の表面粗度を、Veeco社製のDecktak 6M型を用いて測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約26Åであった。
【0082】
(比較例1)
アノード20を用いなかったこと以外は、実施例1と全く同様にして、3回成膜を行った。このときに得られた薄膜の成膜レートは、3回とも、約500nm/hであったので、図7に白丸(○)で表し、さらに、実施例1と同様にして圧電定数を求め、結果を表1に記した。
また、このときに得られた膜の表面粗度を、実施例1と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約155Åであった。
【0083】
また、このときに得られた膜の5μm2以上のパーティクルを、実施例1と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜のパーティクルの平均個数は、381個であった。この結果を表2に記す。
【0084】
(比較例2)
アノードを用いなかったこと以外は、実施例2と全く同様にして、3回成膜を行った。
このときに得られた膜の成膜レートは、3回とも、約1400nm/hであったので、図7に白丸(○)で表し、さらに、実施例1と同様にして圧電定数を求め、結果を表1に記した。
【0085】
また、実施例2と同様にして、得られた膜のX線回析(XRD)を実施した。得られた主な膜のXRDのパターンを図5に示す。
さらに、実施例2と同様にして、得られた膜の表面および断面を撮影した。得られた主な膜の表面のSEM写真を図6(a)に、断面のSEM写真を図6(b)に示す。
さらに、蛍光X線分光法(XRF)によって、得られた膜のPbのAサイト割合を測定すると、0.90であった。
【0086】
また、このときに得られた膜の5μm2以上のパーティクルを、実施例1と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均のパーティクルの個数は、251個であった。この結果を表2に記す。
また、このときに得られた膜の表面粗度を、実施例と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約170Åであった。
【0087】
(比較例3)
アノードを用いなかったこと以外は、実施例3と全く同様にして、3回成膜を行った。 このときに成膜した薄膜の成膜レートは、3回とも、約600nm/hであったので、図7に白丸(○)で表し、さらに、実施例1と同様にして圧電定数を求め、結果を表1に記した。
【0088】
また、このときに得られた膜の5μm2以上のパーティクルを、実施例1と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均のパーティクルの個数は、321個であった。この結果を表2に記す。
また、このときに得られた膜の表面粗度を、実施例と同様にして測定した。その結果、3回の成膜で得られた膜の平均表面粗度は、約210Åであった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
図7に示す結果より、本発明の成膜装置で成膜を実施した場合(実施例1〜3)には、アノードを設置していない場合(比較例1〜3)と比較して、2.6〜5.0倍もの成膜レートを実現していることがわかった。
【0092】
また、実施例2で得られた膜は、図3に示すように、ペロブスカイト(100)方向に配向しており、さらに、図4(a)および(b)に示すように、基板SBから垂直方向に向かって伸びる緻密な柱状構造であることが分る。また、比較例2で得られた膜は、図5に示すように、(100)方向に、(110)方向が混じる多結晶配向であり、図6(a)および(b)に示すように、膜の表面、断面、共に荒れている。このように膜の緻密性が失われると、成膜中または後に、クラックを生じる可能性が非常に高くなる。
【0093】
また、実施例2のPbのAサイトの割合が、1.11であるのに対し、比較例2のPbのAサイトの割合が、0.90であったことから、比較例2によって得た膜は、成膜中のArイオンダメージによって、すなわち、逆スパッタリングによって、スパッタ率の高いPbが優先的に再蒸発していることがわかった。
【0094】
さらに、表1に示す結果より、通常、圧電定数が、170pm/V以上であれば、十分な圧電効果を得ることができるので、実施例1〜3によって得られた膜は、圧電膜としての十分な特性を備えていることがわかる。
他方、比較例1〜3によって得られた膜は、剥離してしまった膜は勿論のこと、圧電定数が、通常の値より低いことから、圧電膜として十分な特性を備えていないことがわかる。これは、図6(a)および(b)に示すように、比較例1〜3で得た膜の表面および断面は、共に荒れていることから、結晶が一方向へ配向するのが妨げられて、圧電特性を低くしていると考えられる。
【0095】
また、表2に示す結果より、この場合、5μm2以上のパーティクルが50個未満であれば、製品を製造するための後のプロセスに悪影響を与えることがないので、実施例1〜3によって得られた膜は、製品に用いる膜として十分な特性を備えていることがわかる。
他方、比較例1〜3によって得られた膜は、パーティクルの個数が通常の値と比較して著しく多いことから、製品に用いる膜として十分な特性を備えていないことがわかる。
【0096】
以上の結果をさらに考察すると、まず、図7に示すように、アノードを設置していない成膜装置によって成膜した場合(比較例1〜3)もアノードを設定している成膜装置によって成膜した場合(実施例1〜3)も、成膜レートは、ターゲット材TGと基板SBとの距離が80mmの時がピークで、そこから離れるに従って下がっている。これは、ターゲット材TGと基板SBとの距離が80mmより小さい場合には、スパッタ粒子が基板SBに到達する確率は高くなるが、基板SBが、プラズマ密度の高い部分に位置するために、プラスイオンによる逆スパッタリングが激しくなり成膜レートが減少すると考えられる。逆に、前記距離が80mmより大きくなった場には、成膜中の逆スパッタリングは低減されるが、スパッタ粒子が基板SBに到達しなくなるので、成膜レートが低下すると考えられる。
【0097】
しかしながら、ターゲット材TGと基板SBとの距離による成膜レートの変化は、実施例1〜3と比較例1〜3とで同様の傾向を示すものの、実施例1〜3、すなわち、アノードを設置した成膜装置によって成膜した場合は、比較例1〜3、すなわち、アノードを設置せずに成膜した場合と比較して、上述の通り、2.6〜5.0倍もの成膜レートを実現している。
これは、浮遊電位に設定されている基板SBと比較して、接地電位であるため、プラズマ中におけるアノードの電位が低いアノードを設置することにより、逆スパッタリングに起因するプラスイオンが基板SBよりもアノードに衝突する確率が高くなるため、成膜中の逆スパッタリングを低減していると考えられる。
【0098】
また、上述したように、図6(a)および(b)の結果からは、比較例1〜3は、成膜中に、逆スパッタリングが活発に起こったために、膜のモフォロジの悪化を招いたと考えられる。
【0099】
従って、実施例1〜3および比較例1〜3の結果から、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように一体的に成形されているアノード20を、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように設けることにより、Arイオン等のプラスイオンが基板SBに到達して、逆スパッタリングを発生させることを抑制し、これにより、成膜する膜の成膜レートが向上することがわかった。さらに、このようにして得られた膜は、パーティクルの個数が少なく、膜質がよく、優れた圧電特性を有することもわかった。
【0100】
また、円筒状部材24の内周面に、板状部材22a〜22cを、載置台18表面と直交する方向に互いに離間した状態で、かつ、それぞれの中心開口同士が重なるように一体的に成形されているアノード20を、載置台18のターゲットホルダ14側の外周を取り囲むように設けることにより、成膜条件を変更しても、成膜したPZT膜の表面粗度は、PZT膜を形成したウエハ(Siウエハ上にIrを形成したウエハ)の表面粗度+50Å未満になり、後のプロセスに影響を与えないPZT膜を形成できることがわかった。
【0101】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明成膜装置、成膜方法、圧電膜、および、液体吐出装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の成膜装置および成膜方法は、スパッタリングなどのプラズマを用いる気相成長法により、圧電膜、絶縁膜、誘電体膜などの薄膜を成膜する場合に適用することができ、本発明の圧電膜は、圧電素子、圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド、強誘電体メモリ(FRAM)、および圧力センサ等に用いられる圧電膜等の成膜に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の成膜方法を実施する成膜装置の一実施形態を概念的に示す概略構成図である。
【図2】本発明のインクジェットヘッドの一実施形態の構造を示す断面図である。
【図3】実施例2で得られた主な圧電膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図4】(a)は、実施例2で得られた主な膜の表面のSEM写真であり、(b)は、同様の膜の断面のSEM写真である。
【図5】比較例2で得られた主な圧電膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図6】(a)は、比較例2で得られた主な膜の表面のSEM写真であり、(b)は、同様の膜の断面のSEM写真である。
【図7】実施例1〜3および比較例1〜3の基板およびターゲットの離間距離と成膜レートとの関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0104】
10 成膜装置
12 真空容器
12a ガス導入管
12b ガス排出管
14 ターゲットホルダ
16 高周波電源
18 載置台
20 アノード
22 板状部材
24 円筒状部材
50 インクジェットヘッド
52 圧電素子
54 インク貯留吐出部材
56 振動板
58 基板(支持基板)
60、64 電極
62 圧電膜
68 インク室
70 インク吐出口
SB 基板(成膜基板)
TG ターゲット材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの導入と排気が可能な真空容器と、
前記真空容器内に配置され、かつ、成膜材料となるターゲットを保持するターゲットホルダと、
前記真空容器内に前記ターゲットホルダに対向して配置され、かつ、前記成膜材料の薄膜が形成される成膜用基板を保持する基板ホルダと、
前記ターゲットホルダと前記基板ホルダとの間に、少なくとも前記基板ホルダの前記ターゲットホルダ側の外周を取り囲むように設けられたアノードとを有し、
前記アノードは、
前記基板ホルダの外周を取り囲むように設けられた筒状部材と、
前記筒状部材の内周面に、前記基板ホルダと直交する方向に互いに離間した状態で取り付けられ、かつ、前記成膜用基板よりも大きい中心開口を持つ環状である複数枚の板状部材とを有し、
前記真空容器内に前記ガスを導入し、前記ターゲットホルダと基板ホルダとの間に、電圧をかけてプラズマを生成し、前記成膜用基板上に前記成膜材料の薄膜を形成することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記筒状は、円筒状であり、前記環状は、円環状であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記アノードは、前記中心開口同士が重なるように一体的に成形されていることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記アノードの前記複数枚の板状部材のうち、前記基板ホルダ側に位置する板状部材ほど、前記中心開口の中心から前記環状の内側面までの最短距離が小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記アノードの隣接する板状部材は、互いに、1.0mm〜15.0mm離間させて配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記アノードは、接地されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記アノードは、前記成膜用基板とは電気的に絶縁され、かつ、所定の電圧が印加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
ターゲットと成膜用基板との間にプラズマを生成し、前記プラズマのイオンを前記ターゲットに衝突させて、前記成膜用基板上に前記ターゲットを成膜材料とする薄膜を形成する成膜方法であって、
前記ターゲットホルダと前記基板ホルダとの間に、少なくとも前記基板ホルダの前記ターゲットホルダ側の外周を取り囲むように設けられた筒状部材と、前記筒状部材の内周面に、前記基板ホルダと直交する方向に互いに離間した状態で取り付けられ、かつ、前記成膜用基板よりも大きい中心開口を持つ環状である複数枚の板状部材とを有するアノードを設け、
前記アノードにより、前記薄膜の形成時に、前記プラズマを前記基板に衝突させないようにして、前記薄膜の成膜速度を制御することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
前記筒状は、円筒状であり、前記環状は、円環状であることを特徴とする請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記ターゲットは、絶縁体、圧電体、誘電体、または強誘電体であることを特徴とする請求項8または9に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記アノードは、前記中心開口同士が重なるように一体的に成形されている請求項8〜10のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項12】
前記アノードの前記複数枚の板状部材のうち、前記基板ホルダ側に位置する板状部材ほど、前記中心開口の中心から前記環状の内側面までの最短距離が小さい請求項8〜11のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項13】
前記アノードの隣接する板状部材は、互いに、1.0mm〜15.0mm離間させて配置されていることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項14】
前記アノードは、接地されていることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項15】
前記アノードは、前記成膜用基板とは電気的に絶縁され、かつ、所定の電圧が印加されていることを特徴とする請求項8〜14のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれかに記載の成膜装置を用いて、または請求項8〜15のいずれかに記載の成膜方法により、成膜されたことを特徴とする圧電膜。
【請求項17】
さらに、表面粗度が、自身が形成される基板の表面粗度の値に、50Åを足した値であることを特徴とする請求項16に記載の圧電膜。
【請求項18】
請求項16または17に記載の圧電膜、およびこの圧電膜に電圧を印加するために、前記圧電膜の両面に形成された電極を備える圧電素子と、
液体が貯留される液体貯留室と、
前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記液体貯留室から外部に前記液体を吐出させる液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43330(P2010−43330A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208571(P2008−208571)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】