説明

成膜装置及び多面体並びに成膜方法

【課題】 生産性が良く、光学特性に優れた膜を形成すること。
【解決手段】 複数の成膜面を有する多面体1に対してスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜装置10であって、スッパタリングする板状のターゲット11、12と、該ターゲット11、12の表面に対して、成膜面の少なくとも2面が所定角度となるように多面体1を位置させるホルダ13と、ターゲット11、12とホルダ13との間に配され、ターゲット11、12から多面体1に向けて飛散する物質を通過させる開口14c、15cを有する開口板14、15とを備え、ホルダ13は、多角形状の外周面を有して軸方向に延びるよう形成されて軸回りに回転可能であると共に、外周面上に多面体1を複数固定可能である成膜装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用等に利用されるポリゴンミラーや、光学機器に利用されるプリズム等
の多面体に対して成膜を行う成膜装置及び多面体並びに成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリゴンミラー等の多面体に成膜を行う方法として、様々な方法が提供されている。例えば、特許文献1に記載される従来の技術によれば、蒸着によって、多面を有するポリゴンミラーの成膜において、所望の限られた面への成膜時に、蒸着流が他の面に回りこんで成膜されることを防止するマスクをポリゴンミラーに取り付けている。具体的には、蒸着流が、他の面に回りこんで成膜されると、回り込んで成膜された面の反射率等の光学特性に悪影響を与えるので、それを防止するために本来蒸着したい面の大きさに合わせた開口を有するマスクをポリゴンミラーに取り付けている。
【0003】
また、生産性を高めるために、一般的な方法として、カルーセル型のスパッタにより多面を同時に成膜する方法が知られている。一般にスパッタは、飛散する物質の回り込み性が蒸着に対して優れていて、スパッタリング用ターゲットに対して成膜される面が多少の角度を有していても、この角度を有した面にも十分な成膜が可能である。
この性質を利用して、カルーセル型のスパッタ装置の多角筒形のホルダに多数のポリゴンミラーを取り付け、真空槽内でホルダを回転させて、1度の成膜で全てのミラー面を形成するという方法が知られている。
【特許文献1】特開2000−8163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1記載の方法では、多面に対してマスクをしているために、全ての面にミラー面を形成するためには、1回成膜して取り出した後、次に成膜する面を準備するためマスクの位置を再調整して取り付ける工程を1つ1つの基板に対して行った後、再度真空槽内に投入して成膜を行うといった複数回の成膜を行う必要がある。従って、このような方法では、生産性が悪いという問題がある。
また、生産性を高めるために、上述したカルーセル型のスパッタ装置を利用して多面を同時に成膜した場合には、回転によってターゲットに対して深い角度のついた成膜状態となる斜めの成膜面が発生してしまう。スパッタは、回り込み性が良いので、このような斜めの成膜面にも成膜されてしまうが、この状態においては、成膜速度が極端に遅くなっている。即ち、それが原因で各面の膜厚ばらつきが発生するという問題がある。
また、成膜速度が遅くなると、成膜された膜の酸化が促進され、反射率等の光学特性が劣化するという問題も発生するものであった。
【0005】
この発明は、上記課題を考慮してなされたものであり、その目的は、生産性が良く、光学特性に優れた膜を形成することができる成膜装置及び多面体並びに成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
請求項1に係る発明は、複数の成膜面を有する多面体に対してスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜装置であって、スッパタリングする板状のターゲットと、該ターゲットの表面に対して、前記成膜面の少なくとも2面が所定角度となるように前記多面体を位置させるホルダと、前記ターゲットと前記ホルダとの間に配され、ターゲットから多面体に向けて飛散する物質を通過させる開口を有する開口板とを備え、前記ホルダは、多角形状の外周面を有して軸方向に延びるよう形成されて軸回りに回転可能であると共に、外周面上に前記多面体を複数固定可能である成膜装置を提供する。
【0007】
この発明に係る成膜装置においては、多面体がホルダの回転によって、ターゲットに対向する位置に近づき、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係においては、開口板がターゲットと多面体の成膜面との間に位置する。また、開口板は、多面体がターゲットに対向する位置に近づいて、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係においては、開口によりターゲットと多面体の成膜面との間を遮断しない。
【0008】
成膜中は、ホルダが、該ホルダの軸回りを回転しながら膜形成を行っている。ここで、多面体が、回転によりターゲット付近に位置した際、開口板により成膜面とターゲットとが所定角度以内になったときに成膜が行われる。つまり、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。
具体的には、深い角度、例えば、80度を超える角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。この不具合の1つとしては、膜厚ばらつきである。成膜速度が異なることにより、複数の成膜面に膜厚ばらつきが発生する。
【0009】
更に、上記不具合の1つとして、光学性能の劣化及びばらつきがある。成膜速度が極端に低下すると、真空槽内の雰囲気の酸素と反応して酸化膜が成膜されるという現象が発生する。
例えば、アルミターゲットを用いてアルミを成膜しようとした場合、ターゲットと深い角度のついた状態で成膜されたものは、酸化により透明なアルミナが形成される。一方、回転方向に鉛直な面は、ターゲットに対してそこまで深い角度にならないので、酸化がなくアルミが成膜される。そして、回転方向に対して斜めの方向を向いている面は、その中間的な角度になり、ある程度酸化が進み、アルミとアルミナとの混在した膜が形成される。これらが回転中に連続して成膜されることにより、組成の異なる膜が堆積して成膜されることになる。また、ターゲットと成膜面との角度の違いによって、堆積の様子も面ごとに異なる。
このように、ターゲットとの角度に大きな差が生じることで、成膜速度にも大きな差が生じ、各面の酸化度合いにばらつきが発生して光学特性に必然的にばらつきが発生する。
【0010】
更に、上記不具合の1つとして、初期密着性、耐久性の劣化及びばらつきがある。ターゲットと深い角度のついた状態と、ターゲットの正面に位置したときに成膜される状態とでは、成膜速度や酸化の度合いが異なるために、膜が不均質な組成になっているという状態である。そのため、初期密着力が低下したり、耐久性が劣化するという不具合が発生する。
【0011】
本発明では、上述したように、各成膜面がターゲットに対して深い角度になる状態での成膜を防止するので、上記各不具合をなくすことができる。
【0012】
なお、ここで本発明と膜厚を補正する部材との違いを説明する。膜厚補正板は、成膜装置内に配列した基板間及び基板の面内において、蒸発源と基板との距離や蒸発の空間的な飛散分布やターゲットのエロージョン等の影響により生ずる膜厚分布を解消するために、蒸発源やターゲットと基板との間の一部分をマスクする部材である。これにより、基板間及び基板の面内に形成される膜厚を均一にしている。例えば、ドーム内のある位置の基板で膜厚が厚くなることを解消するために、その基板が回転により通過するところの一部分をマスクして、他の基板と同様の膜厚を得ようとするものである。一般的な膜厚補正板では、基板の成膜面が蒸発源やターゲットとなす角度については、なにも考慮されていない。
【0013】
これに対して、本発明では、基板の成膜面とターゲットとのなす角度が重要であり、その角度によって開口板の形状を最適化しているという特徴がある。従って、上述した膜厚補正部材では、本発明の効果は得られない。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の成膜装置において、前記開口板は、前記開口が前記ターゲットの正面に位置するように配されている成膜装置を提供する。
【0015】
この発明に係る成膜装置においては、開口板の開口が、ターゲットの正面に位置している。よって、多面体が、ターゲットの正面に位置したときに、成膜面とターゲットとのなす角度が浅い、例えば、80度以下(所定角度以下)であるので、開口板は多面体とターゲットとを遮断しない。そして、多面体がターゲットの左右に位置したときに、成膜面とターゲットとのなす角度が深い、例えば、80度以上であり、120度以下であるので、開口板は多面体とターゲットとを遮断する。なお、120度を超えると成膜されなくなるので、開口板により制限する必要がなくなる。
【0016】
成膜中は、ホルダが軸回りを回転しながら膜形成を行う。多面体が、回転により左ターゲットに対向する位置に近づいたときに、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止する。そして、多面体が、回転によりターゲットの正面に近づいたときに、開口板は遮断しない、即ち、開口を通してターゲットから物資を飛散させることが可能であるので、多面体の成膜面は成膜される。また、多面体が、回転によりターゲットから左右のどちらかに遠ざかったときに、開口板により回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止する。そして、回転により上述した工程を連続して成膜を行う。
【0017】
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。
具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の成膜装置において、前記開口板は、前記開口を所定間隔を開けて2つ有し、前記ターゲットの正面側を遮断する成膜装置を提供する。
【0019】
この発明に係る成膜装置においては、開口板の開口が、所定間隔を開けて2つ形成され、ターゲットの正面側が遮断されている。多面体が、ホルダに取り付けられた状態において、成膜面がホルダに対して所定角度以上の角度を持つような多面体に適用される。多面体が、ターゲットの正面に位置したときに、成膜面とターゲットとのなす角度が深い、例えば、80度を超える(所定角度以上)ので、開口板は多面体とターゲットとを遮断する。そして、多面体がターゲットの左右に位置したときに、成膜面とターゲットとのなす角度が浅い、例えば、80度以下である場合には、開口板は多面体とターゲットとを遮断しない。
【0020】
つまり、成膜中、多面体が回転によりターゲットの正面に位置したときに、成膜が遮断され、ターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止する。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。
具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項2記載の成膜装置において、前記多面体が、ポリゴンミラーである成膜装置を提供する。
【0022】
この発明に係る成膜装置においては、ターゲット正面側に開口を有し、左右を遮断する形状の開口板を利用する。つまり、ポリゴンミラーは、ホルダに取り付けられた状態では、成膜面が浅い角度、例えば、80度以下(所定角度以下)であるので、正面から成膜が可能であるが、斜めからでは深い角度、例えば、80度を超える角度をもった面が発生するためである。
この開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、膜の品質を向上することができる。
具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0023】
請求項5に係る発明は、請求項3記載の成膜装置において、前記多面体が、プリズムである成膜装置を提供する。
【0024】
この発明に係る成膜装置においては、ターゲットの正面を遮断して、ターゲットの左右に2つの開口を有する開口板を利用する。つまり、プリズムは、ホルダに取り付けられた状態では、成膜面が深い角度、例えば、80度を超える(所定角度以上)角度がついている。或いは、その状態では超えていなくても、少し斜めからになるだけで、片方の成膜面が略80度を超える角度がついているためである。
この開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、膜の品質を向上することができる。
具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、プリズムの材質に制約はなく、ガラス、プラスチック等を用いて構わない。また、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0025】
請求項6に係る発明は、複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットでのスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間に配された開口板の開口を通して、ターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、前記成膜工程の際、前記多面体を取り付けた前記ホルダが軸の回りを回転して、多面体がターゲットに対向する位置を通り過ぎる際に、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内の位置関係になったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えた位置関係になったときに、前記開口板により成膜を遮断する成膜方法を提供する。
【0026】
この発明に係る成膜方法においては、回転工程により、多面体を取り付けたホルダを回転させ、該回転工程中に成膜工程を行う。つまり、回転工程中に、多面体がターゲットに対向する位置を通過する際に、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係においては、開口板により成膜を遮断すると共に、多面体がターゲットに対向する前後を通過する際に、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係においては、ターゲットから開口を通して物質が飛散されて成膜を行える。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0027】
請求項7に係る発明は、複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットによるスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間で、且つ、ターゲットの正面に配置された開口板の開口を通してターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、前記成膜工程の際、前記多面体が前記ターゲットの正面を通過し、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内となったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えたときに、前記開口板により成膜を遮断する成膜方法を提供する。
【0028】
この発明に係る成膜方法においては、回転工程により、多面体を取り付けたホルダを回転させ、該回転工程中に成膜工程を行う。つまり、回転工程中に、多面体がターゲットに対向する位置を通過する際に、開口板により、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係においては成膜を遮断すると共に、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係であるターゲット正面においては、開口を通して物質が飛散されて成膜を行える。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0029】
請求項8に係る発明は、複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットによるスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間で、開口板の2つの開口を通してターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、前記成膜工程の際、前記多面体が前記ターゲットの正面の前後を通過し、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内となったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えたときに、前記開口板により成膜を遮断する成膜方法を提供する。
【0030】
この発明に係る成膜方法においては、回転工程により、多面体を取り付けたホルダを回転させ、該回転工程中に成膜工程を行う。つまり、回転工程中に、多面体がターゲットに対向する位置を通過する際に、開口板により、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係であるターゲット正面の位置では成膜を遮断すると共に、多面体の成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係であるターゲット正面の前後では、開口を通して物質が飛散されて成膜を行える。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0031】
請求項9に係る発明は、請求項7記載の成膜方法において、前記多面体が、ポリゴンミラーである成膜方法を提供する。
【0032】
この発明に係る成膜方法においては、回転工程により、ポリゴンミラーを取り付けたホルダを回転させ、該回転工程中に成膜工程を行う。つまり、回転工程中に、ポリゴンミラーがターゲットに対向する位置を通過する際に、開口板により、ポリゴンミラーの成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係においては成膜を遮断すると共に、ポリゴンミラーの成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係であるターゲット正面においては、開口を通して物質が飛散されて成膜を行える。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0033】
請求項10に係る発明は、請求項8記載の成膜方法において、前記多面体が、プリズムである成膜方法を提供する。
【0034】
この発明に係る成膜方法においては、回転工程により、プリズムを取り付けたホルダを回転させ、該回転工程中に成膜工程を行う。つまり、回転工程中に、プリズムがターゲットに対向する位置を通過する際に、開口板により、プリズムの成膜面とターゲットとが所定角度(深い角度)、例えば、80度を超える角度をもった状態になる位置関係であるターゲット正面の位置では成膜を遮断すると共に、プリズムの成膜面とターゲットとが所定角度(浅い角度)、例えば、80度以下をもった状態になる位置関係であるターゲット正面の前後では、開口を通して物質が飛散されて成膜を行える。
このように、開口板により、回転中にターゲットと深い角度をもった成膜面に成膜がされることを防止でき、これにより膜の品質を向上することができる。具体的には、深い角度をもった成膜面に成膜される場合、成膜速度が極端に低下することに起因する不具合を防止している。具体的には、膜厚ばらつきの解消、光学特性の向上、耐久性の向上である。
なお、例えば、ターゲットと成膜面とのなす角度が70度、60度といった80度以下であっても、開口板により成膜を遮断しても良い。この場合でも、より品質のよい成膜面を形成することができる。しかしながら、成膜速度が低下することにより生産性が低下するので、必要な生産性及び要求品質により開口板を決めることが必要である。
【0035】
請求項11に係る発明は、請求項6から10のいずれか1項に記載の成膜方法により成膜された多面体を提供する。
この発明に係る多面体においては、膜厚ばらつきがなく、光学特性及び耐久性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る成膜装置及び成膜方法によれば、生産性が良く、光学特性及び耐久性に優れた品質の良い膜を成膜面に成膜することができる。特に、斜めの成膜面を有する多面体に好適である。また、本発明に係る多面体によれば、膜厚ばらつきがなく、光学特性及び耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明係る成膜装置及び成膜方法の第1実施形態を、図1から図5を参照して説明する。本実施形態の成膜装置は、複数の成膜面を有する多面体に対してスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する装置である。
本実施形態においては、図1に示すように、上記多面体としてポリゴンミラー1を用いた場合を例として説明する。なお、図1(a)はポリゴンミラー1の上部図、図1(b)はポリゴンミラー1の斜視図、図1(c)はポリゴンミラー1の背面図である。
上記ポリゴンミラー1は、樹脂により、上記成膜面である面2a、2b、2c、2d、2e及び2fからなる6つの反射面2を持つ六角形状(六角錐の頭部を切断した切頭六角錐台形状ともいう)に形成されている。また、ポリゴンミラー1の中心部には、開口3が形成されている。この開口3は、ポリゴンミラー1を利用して動作回転させる際の回転軸を通すために使用される。また、各面2a、2b、2c、2d、2e及び2fは、互いに角度をなし、上方より見たときに水平方向となす角度(各面と図1における紙面との倒れ角)が約60度となっている。
【0038】
図2及び図3に、本実施形態の成膜装置10を示す。なお、図2は成膜装置10の上面図、図3は成膜装置10の側面図である。
本実施形態の成膜装置10は、図2及び図3に示すように、スパッタリングする板状のターゲット、即ち、アルミターゲット11及びシリコンターゲット12と、該両ターゲット11、12の表面に対して、ポリゴンミラー1の各面(各成膜面)2a、2b、2c、2d、2e及び2fの少なくとも2面が所定角度になるように該ポリゴンミラー1を位置させる回転筒体(ホルダ)13と、両ターゲット11、12と回転筒体13との間に配され、両ターゲット11、12からポリゴンミラー1に向けて飛散する物質のうち、上記所定角度以内の角度で出射される物質を通過させる開口を有する開口板、即ち、第1の開口板14及び第2の開口板15と、これら各構成品を内部に収納する真空槽16とを備えている。
【0039】
上記真空槽16には、図示しない真空排気装置が接続されている。また、真空槽16の内部には、中央位置に上下に貫く軸17があり、この軸17を回転軸として、断面が8角形の筒形状に形成された上記回転筒体13が設置されている。即ち、回転筒体13は、多角形状の外周面を有して鉛直方向に延びるように形成されて軸回り(鉛直軸回り)に回転可能であると共に、外周面上にプレート13aを介して上記ポリゴンミラー1を複数固定可能とされている。また、回転筒体13は、図示しない駆動装置により回転操作(各図における矢印A方向)されるようになっている。
また、プレート13a及びポリゴンミラー1の対向する位置に、上記アルミターゲット11とシリコンターゲット12とが取り付けられている。
【0040】
このアルミターゲット11及びシリコンターゲット12は、上記回転筒体13を間にして真空槽16の両側に対峙して配置され、また、回転筒体13の長手方向に沿って長尺な縦に長い長方形に形成されている。
また、アルミターゲット11は、マグネトロンを有した電極18に取り付けられている。この電極18は、真空槽16の外部に設けられた電源19から電力が供給されている。また、シリコンターゲット12も同様に、マグネトロンを有した電極20に取り付けられ、該電極20は真空槽16の外部に設けられた電源21から電力を供給されている。
また、アルミターゲット11と回転筒体13との間には、ガス供給管22が真空槽16外部よりアルミターゲット11付近まで配置されていて、Arガスを供給するようになっている。また、シリコンターゲット12と回転筒体13との間には、ガス供給管23、24が真空槽16外部よりシリコンターゲット12付近まで配置されていて、Arガス及びOガスを供給するようになっている。
【0041】
アルミターゲット11と回転筒体13との間(ガス供給管22より回転筒体13側)には、アルミターゲット11からスパッタリングにより飛散する物質を開口により制限するために、開口板14a及び開口板14bからなる開口制限としての上記第1の開口板14が設置されていて、真空槽16内に固定されている。また、開口板14aと開口板14bとで挟まれた開口14cの開口幅は、アルミターゲット11の幅と同じである。
つまり、第1の開口板14は、上記開口14cがアルミターゲット11の正面に位置するようになっている。
また、同様に、シリコンターゲット12と回転筒体13との間(ガス供給管23、24より回転筒体13側)には、シリコンターゲット12からスパッタリングにより飛散する物質を開口により制限するために、開口板15a及び開口板15bからなる開口制限としての上記第2の開口板15が設置されていて、真空槽16内に固定されている。また、開口板15aと開口板15bとで挟まれた開口15cの開口幅は、シリコンターゲット12の幅と同じである。
つまり、第2の開口板15は、上記開口15cがシリコンターゲット12の正面に位置するようになっている。
また、開口板14a及び開口板14bにより、アルミターゲット11とポリゴンミラー1の各面(成膜面)2a、2b、2c、2d、2e及び2fのなす角度θ1は、成膜中に回転筒体13が回転する状態において、70度(所定角度)以上の角度になる状態を遮断するようになっている。なお、角度θ1は、より望ましくは60度以下が良い。
【0042】
また、アルミターゲット11と第1の開口板14との間には、第1のシャッタ25がアルミターゲット11を覆うように真空槽16内に設置されている。この第1のシャッタ25は、成膜中は図示しない移動機構により横方向(図2において、ガス供給管22側)に移動して、アルミターゲット11からポリゴンミラー1の各面に成膜可能な位置に移動するようになっている。
同様に、シリコンターゲット12と第2の開口板15との間には、第2のシャッタ26がシリコンターゲット12を覆うように真空槽16内に設置されている。この第2のシャッタ26は、成膜中は図示しない移動機構により横方向(図2において、ガス供給管23側)に移動して、シリコンターゲット12からポリゴンミラー1の各面に成膜可能な位置に移動するようになっている。
【0043】
このように構成された成膜装置10により、ポリゴンミラー1の各面(成膜面)2a、2b、2c、2d、2e及び2fに成膜を行う場合について以下に説明する。
本実施形態の成膜方法は、回転筒体13にポリゴンミラー1を固定し、回転筒体13を鉛直軸回りに回転させる回転工程と、回転工程中に、アルミターゲット11又はシリコンターゲット12の正面に配置された第1の開口板14の開口14c又は第2の開口板15の開口15cを通してポリゴンミラー1に物質を飛散させて各面2a、2b、2c、2d、2e及び2fに成膜を行う成膜工程とを有している。また、成膜工程の際、ポリゴンミラー1がアルミターゲット11又はシリコンターゲット12の正面を通過し、各面2a、2b、2c、2d、2e及び2fと、アルミターゲット11又はシリコンターゲット12とが所定角度内となったときに、上記物質が開口14c、15cを通過して成膜が行われる。以下に詳細に説明する。
【0044】
まず、図示しない排気装置を動作させて、真空槽16内を5×10−4Paまで排気する。排気後、図示しない回転機構を動作させて、回転筒体13を矢印Aの方向に回転させる回転工程を行う。このときの回転速度は、40rpmである。次いで、ガス供給管23よりArガスを導入して、真空槽16内を5×10−1Paにする。
続いてガス供給管24よりOガスを導入して真空槽16内を6×10−1Paにする。そして、電源21より、13.56MHzで1000WのRFを電極20に印加して、シリコンターゲット12上にプラズマを発生させ、プレスパッタを行う。2分ほどプレスパッタを行った後、第2のシャッタ26を開けて、回転筒体13上のポリゴンミラー1の各成膜面(面2a、2b、2c、2d、2e及び2f)に成膜を開始する。
そして、10分後に第2のシャッタ26を閉じて、RFの印加を止めると共にArガス及びOガスのガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、ポリゴンミラー1上には、SiOの膜が45nmの厚さで形成される。この膜は、樹脂であるポリゴンミラー1とアルミ膜との密着力を向上させる密着層として形成される。
【0045】
次に、ガス供給管22からArガスを導入して真空槽16内を5×10−1Paにする。そして、電源19より1200WのDCを電極18に印加して、アルミターゲット11上にプラズマ30を発生させ、プレスパッタを行う。2分ほどプレスパッタを行った後、図4に示すように、第1のシャッタ25を開けて成膜を開始する。なお、図4において、第1のシャッタ25は、アルミ成膜中は退避しているので、図示しない。
そして、8分後に、第1のシャッタ25を閉じて、DCの印加を止めると共にArガスのガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、ポリゴンミラー1に形成したSiO膜上には、アルミの膜が70nmの厚さで形成される。
【0046】
ここで、上述したアルミターゲット11付近の様子を図5に示す。アルミターゲット11上には、プラズマ30が形成されている。回転筒体13が回転により図5に示す位置に達した際、アルミターゲット11に近づくポリゴンミラー1の成膜面の1つである面2bに着目する。
このとき、面2bは、アルミターゲット11に対して極端に角度のついた位置である。この位置では、開口板14aにより、プラズマ30からスパッタされて飛散した物質であるアルミは遮断され、面2bには成膜されない。
【0047】
これに対して、仮に開口板14aを取り外して成膜を行った結果、スパッタで飛散した物質は回り込み性に優れるために、面2bには成膜速度はかなり遅いが、アルミが形成される。
このような極端な角度のついた状態で面2bに成膜されるアルミの膜厚は、真空槽16内の真空の雰囲気等に左右されやすく不安定であり、成膜速度も安定しない。このとき、他の面も成膜されているが、例えば、面2aは面2bに比べ、アルミターゲット11に対して深い角度のついた状態ではないために、成膜速度は面2bと比較すると速い。こうした成膜速度の差が、最終的に膜厚バラツキとなる。
また、開口板14aがないと仮定した場合には、面2bのようにアルミターゲット11に対して深い角度のついた状態で成膜速度が遅い場合においては、真空槽16の雰囲気中の残留酸素が、アルミが成膜される際に膜中に混入することがある。すると、面2bにおいては、光学的に反射率が低下したり、密着性が劣化したりする等の不具合が発生してしまう。
【0048】
本実施形態では、開口板14aにより、成膜速度が遅くなる状態を排除しているので、上述した不具合はない。このことは、開口板14bでも同様であり、面2bで発生する不具合を面2bに対して解消することができる。
【0049】
次に、ガス供給管23より、Arガスを導入して真空槽16内を5×10−1Paにする。続いて、ガス供給管24より、Oガスを導入して真空槽16内を6×10−1Paにする。そして、電源21より13.56MHzで1000WのRFを電極20に印加してシリコンターゲット12上にプラズマを発生させ、プレスパッタを行う。2分ほどプレスパッタを行った後、第2のシャッタ26を開けて、成膜を開始する。そして、15分後に第2のシャッタ26を閉じて、RFの印加を止めると共にArガス及びOガスのガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、ポリゴンミラー1上には、SiOの膜が40nmの厚さで形成される。この膜は、アルミの保護膜として形成される。
【0050】
シリコンターゲット12側にも、開口板15aと開口板15bとからなる第2の開口板15がある。アルミ成膜と同様にSiO成膜においても開口板15aと開口板15bとにより、面2bに形成される膜厚バラツキ、或いは、面2eに形成される膜厚バラツキを抑える効果がある。また、アルミ成膜と同様に、過剰な酸素の混入を防止している。SiO膜に過剰な酸素が混入すると密着性が劣化する等の不具合があるが、開口板15a及び開口板15bは、そうした不具合を防止している。
【0051】
本実施形態では、各ポリゴンミラー1の面2aから面2fまでの6面について、3層合わせた膜厚のバラツキが160nm±15nmである膜が、1度の成膜プロセスで形成された。500nmにおける6面での反射率バラツキも±3%と光学的な特性も十分であった。また、テープ薄利試験(ニチバン製テープを用いて成膜面に貼り付け、90度の角度に一気に剥す)においても剥離が見られず、密着性も良好であった。
【0052】
ここで、比較として、第1の開口板14及び第2の開口板15がない第1実施例と同様の成膜装置を用いて成膜する。全く同様の動作により、ポリゴンミラー1にアルミを成膜したところ、各ポリゴンミラー1の面2aから面2fまでの6面について、3層合わせた膜厚のバラツキが160m±20nmである膜が1度の成膜プロセスで形成された。
ところが、光学的に500nmにおける6面での反射率バラツキが±7%と大きく、外観でも成膜面にくもりが確認された。また、面2bでは、ポリゴンミラー1と膜との密着性が劣化した面が確認された。
【0053】
上述したように、本実施形態の成膜装置10及び成膜方法により、6面について1度の成膜プロセスでミラー面を形成でき、生産性も良く、膜厚バラツキが少なく、全ての面2a、2b、2c、2d、2e及び2fで安定した反射率を有する膜を得ることができた。
つまり、光学特性に優れた品質の良い膜を成膜面に成膜することができる。
【0054】
なお、第1実施形態では、第1のシャッタ25と第1の開口板14とが別体であるが、一体に構成することも可能である。即ち、第1の開口板14を構成する開口板14aと開口板14bとの少なくとも一方に動作機構を設けて、成膜時以外は第1のシャッタ25のようにアルミターゲット11を覆うように閉じていて、成膜時にはアルミターゲット11の正面に、アルミターゲット11の幅と同じ幅となる開口14cが位置するように、開口板14aと開口板14bとの少なくとも一方が動作して開く構成にしても構わない。
【0055】
次に、本発明に係る成膜装置及び成膜方法の第2実施形態を、図6から図10を参照して以下に説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態の成膜装置10は、ポリゴンミラー(多面体)1に成膜を行ったのに対し、第2実施形態の成膜装置50は、プリズム(多面体)40に成膜を行う点である。更に、第1実施形態の成膜装置10は、アルミターゲット11及びシリコンターゲット12の正面に開口14c、15cを有する第1の開口板14及び第2の開口板15を備えていたが、第2実施形態の成膜装置50は、アルミターゲット11及びシリコンターゲット12の正面を遮断すると共に、左右に2つの開口を有する第1の開口板51及び第2の開口板52を備えている点である。
【0056】
上記プリズム40は、図6に示すように、樹脂により成膜面の頂角が20度である面41a、41bからなる2つの反射面41を持つ三角柱形状に形成されている。なお、図6は、プリズム40の斜視図(斜め上方より見る)である。
次に、図7及び図8に本実施形態の上記成膜装置10を示す。なお、図7は成膜装置50の上面図、図8は成膜装置50の側面図である。
【0057】
本実施形態においては、複数の上記プリズム40は、成膜される面41a、41bがアルミターゲット11又はシリコンターゲット12に向くようにプレート13aに取り付けられている。
また、上記第1の開口板51は、第1実施形態と同様に、アルミターゲット11と回転筒体13との間に設けられ、真空槽16に固定されている。この第1の開口板51は、開口板51a、開口板51b及び開口板51cからなり、開口板51aと開口板51cとの間及び開口板51bと開口板51cとの間が、上述した開口51dとされている。また、この2つの開口51dの開口幅は、アルミターゲット11の幅の半分に設定されている。更に、開口板51cの幅は、アルミターゲット11の幅と同じであり、これによりアルミターゲット11の正面を遮断している。
開口板51a、開口板51b及び開口板51cにより、アルミターゲット11とプリズム40の成膜面の角度θ2が、成膜中に回転筒体13が回転する状態において、80度(所定角度)以上の角度になる状態を遮断するようになっている。なお、角度θ2は、より望ましくは60度以下が良い。
【0058】
また、上記第2の開口板52は、第1実施形態と同様に、シリコンターゲット12と回転筒体13との間に設けられ、真空槽16に固定されている。この第2の開口板52は、開口板52a、開口板52b及び開口板52cからなり、開口板52aと開口板52cとの間及び開口板52bと開口板52cとの間が、上述した開口52dとされている。また、この2つの開口52dの開口幅は、シリコンターゲット12の幅の半分に設定されている。更に、開口板52cの幅は、シリコンターゲット12の幅と同じであり、これによりアルミターゲット12の正面を遮断しておる。
【0059】
このように構成された成膜装置50により、プリズム40の各面(成膜面)41a、41bに成膜を行う場合について以下に説明する。
本実施形態の成膜方法は、回転筒体13にプリズム40を固定し、回転筒体13を鉛直軸回りに回転させる回転工程と、回転工程中に、アルミターゲット11又はシリコンターゲット12の正面に配置された第1の開口板51の開口51d又は第2の開口板52の開口52dを通してプリズム40に物質を飛散させて各面41a、41bに成膜を行う成膜工程とを有している。また、成膜工程の際、プリズム40がアルミターゲット11又はシリコンターゲット12の正面の前後を通過し、各面41a、41bと、アルミターゲット11又はシリコンターゲット12とが所定角度内となったときに、上記物質が開口51d、52dを通過して成膜が行われる。以下に詳細に説明する。
【0060】
まず、図示しない排気装置を動作させて、真空槽16内を5×10−4Paまで排気する。排気後、図示しない回転機構を動作させて、回転筒体13を矢印Aの方向に回転させる回転を行う。このときの回転速度は、50rpmである。次いで、ガス供給管23よりArガスを導入して、真空槽16内を5×10−1Paにする。
続いてガス供給管24よりOガスを導入して真空槽16内を6×10−1Paにする。そして、電源21より、13.56MHzで1000WのRFを電極20に印加して、シリコンターゲット12上にプラズマを発生させ、プレスパッタを行う。2分ほどプレスパッタを行った後、第2のシャッタ26を開けて成膜を開始する。そして、10分後に、第2シャッタ26を閉じて、RFの印加を止めると共にガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、プリズム40上には、SiOの膜が45nmの厚さで形成される。この膜は、樹脂であるプリズム40とアルミ膜との密着力を向上させる密着層として形成される。
【0061】
次に、ガス供給管22からArガスを導入して真空槽16内を5×10−1Paにする。そして、電源19より1200WのDCを電極18に印加して、アルミターゲット11上にプラズマ30を発生させ、プレスパッタを行う。2分プレスパッタを行った後、図9に示すように、第1のシャッタ25を開けて成膜を開始する。なお、図9において、第1のシャッタ25は、アルミ成膜中は退避しているので、図示しない。
そして、8分後に、第1のシャッタ25を閉じて、DCの印加を止めると共にガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、プリズム40に形成したSiO膜上には、アルミの膜が70nmの厚さで形成される。
【0062】
ここで、上述したアルミターゲット11付近の様子を図10に示す。アルミターゲット11上には、プラズマ30が形成されている。回転筒体13が回転により図10に示す位置に達した際、アルミターゲット11に近づくプリズム40の成膜面のある面41a、41bに着目する。
面41bは、開口板51aと開口板51cとの間にあり、アルミターゲット11に正対しているので成膜される。一方、面41aは、アルミターゲット11に対してほぼ反対を向いているため、回り込み性が良いスパッタであってもここまで角度はつくと成膜されない。続く短い時間の間にプリズム40は、アルミターゲット11の正面に回転移動してくる。この場合には、プリズム40は、開口板51cによりプラズマ30から遮断され、面41a、41bは共に成膜されない。そして、続く短い時間の間にプリズム40は、アルミターゲット11の正面から開口板51b側に移動してくる。このとき、アルミターゲット11に向いている面41aが成膜されて、アルミターゲット11と反対を向いている面41bは成膜されない。
【0063】
このようにして、面41a、41bは、アルミターゲット11と極端に角度のついた状態で成膜されることなく、アルミ膜の形成がされる。
仮に、第1の開口板51がないと仮定した場合には、プリズム40がアルミターゲット11の正面に位置した状態において、面41a、41bは共にアルミターゲット11に対して極端に角度のついた状態となる。このような状態では、成膜速度が遅くなり、真空槽16の雰囲気中の残留酸素が、アルミが成膜される際に膜中に混入することがある。すると、光学的に反射率が低下したり、密着性が劣化したりする等の不具合が発生する。
【0064】
次に、ガス供給管23より、Arガスを導入して真空槽16内を5×10−1Paにする。続いて、ガス供給管24より、Oガスを導入して真空槽16内を6×10−1Paにする。そして、電源21より、13.56MHzで1100WのRFを電極20に印加して、シリコンターゲット12上にプラズマを発生させ、プレスパッタを行う。2分ほどプレスパッタを行った後、第2のシャッタ26を開けて、成膜を開始する。そして、15分後に、第2のシャッタ26を閉じて、RFの印加を止めると共にガス供給を停止し、成膜を終了する。この成膜工程により、プリズム401上には、SiOの膜が40nmの厚さで形成される。この膜は、アルミの保護膜として形成される。
【0065】
シリコンターゲット12側にも、開口板51a、52b、52cからなる第2の開口板52がある。アルミ成膜と同様にSiO成膜においても膜厚バラツキを抑える効果がある。また、アルミ成膜と同様に、過剰な酸素の混入を防止している。SiO膜に過剰な酸素が混入すると密着性が劣化する等の不具合があるが、開口板51a、52b、52cは、そうした不具合を防止している。
本実施形態の成膜装置50及び成膜方法によって得られた膜は、第1実施形態と同様に、反射率特性も良好で、また、密着性も良好であった。
【0066】
ここで、比較として、従来の一般的なカルーセル型スパッタリング装置による成膜の結果を示す。第1の開口板51及び第2の開口板52がない、第2実施形態と同様の装置を用いて成膜する。全く同様の動作により、プリズム40にアルミを成膜したところ、各プリズム40の面41a、41bの反射率が第2実施形態と比較して5%程度低い特性であった。また、密着性が劣化した面が確認された。
【0067】
上述したように、本実施形態の成膜方法により、1度の成膜プロセスで各面41a、41bにミラー面を形成でき、生産性も良く、光学的にも特性の良い、密着性が良好な膜を得ることができた。
【0068】
なお、上記第2実施形態では、樹脂のプリズムを用いたが、これに限らず、樹脂に代えてBK7のガラスプリズムを用いても同様の効果が得られた。
【0069】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態では、回転筒体を鉛直軸回りに回転させたが、回転軸は水平であっても良い。また、回転筒体は、多角形状の外周面を有していれば良く、六角形でも八角形でも構わない。また、筒状でも柱状でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る第1実施形態の成膜装置により成膜を行うポリゴンミラーの外観図であって、(a)は上面図、(b)は斜視図、(c)は側面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の成膜装置の全体構成を示す上面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態の成膜装置の全体構成を示す側面図である。
【図4】図2及び図3に示す成膜装置によりポリゴンミラーに成膜を行っている状態を示す図であって、回転筒体を回転させると共にアルミターゲット側のシャッタを開けてスパッタを行っている状態を示す上面図である。
【図5】図4に示す状態におけるアルミターゲット側付近の拡大図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態の成膜装置により成膜を行うプリズムの外観斜視図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態の成膜装置の全体構成を示す上面図である。
【図8】本発明に係る第2実施形態の成膜装置の全体構成を示す側面図である。
【図9】図7及び図8に示す成膜装置によりプリズムに成膜を行っている状態を示す図であって、回転筒体を回転させると共にアルミターゲット側のシャッタを開けてスパッタを行っている状態を示す上面図である。
【図10】図9に示す状態におけるアルミターゲット側付近の拡大図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ポリゴンミラー(多面体)
2a、2b、2c、2d、2e、2f、41a、41b 面(成膜面)
10、50 成膜装置
11 アルミターゲット(ターゲット)
12 シリコンターゲット(ターゲット)
13 回転筒体(ホルダ)
14、51 第1の開口板(開口板)
14c、15c、51d、52d 開口
15、52 第2の開口板(開口板)
40 プリズム(多面体)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成膜面を有する多面体に対してスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜装置であって、
スッパタリングする板状のターゲットと、
該ターゲットの表面に対して、前記成膜面の少なくとも2面が所定角度となるように前記多面体を位置させるホルダと、
前記ターゲットと前記ホルダとの間に配され、ターゲットから多面体に向けて飛散する物質を通過させる開口を有する開口板とを備え、
前記ホルダは、多角形状の外周面を有して軸方向に延びるよう形成されて軸回りに回転可能であると共に、外周面上に前記多面体を複数固定可能であることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1記載の成膜装置において、
前記開口板は、前記開口が前記ターゲットの正面に位置するように配されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1記載の成膜装置において、
前記開口板は、前記開口を所定間隔を開けて2つ有し、前記ターゲットの正面側を遮断することを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項2記載の成膜装置において、
前記多面体が、ポリゴンミラーであることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項3記載の成膜装置において、
前記多面体が、プリズムであることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットでのスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、
多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、
回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間に配された開口板の開口を通して、ターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、
前記成膜工程の際、前記多面体を取り付けた前記ホルダが軸の回りを回転して、多面体がターゲットに対向する位置を通り過ぎる際に、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内の位置関係になったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えた位置関係になったときに、前記開口板により成膜を遮断することを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットによるスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、
多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、
回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間で、且つ、ターゲットの正面に配置された開口板の開口を通してターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、
前記成膜工程の際、前記多面体が前記ターゲットの正面を通過し、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内となったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えたときに、前記開口板により成膜を遮断することを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
複数の成膜面を有する多面体に対してターゲットによるスパッタリングにより成膜を行い、複数の成膜面に同時にミラー面を形成する成膜方法であって、
多角形状の外周面を有するホルダに前記多面体を固定し、該ホルダを軸回りに回転させる回転工程と、
回転工程中に、前記ターゲットと前記ホルダとの間で、開口板の2つの開口を通してターゲットから多面体に向けて物質を飛散させて前記成膜面に成膜を行う成膜工程とを備え、
前記成膜工程の際、前記多面体が前記ターゲットの正面の前後を通過し、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度以内となったときに、前記物質が前記開口を通過して成膜が行われ、前記成膜面とターゲットの表面とが所定角度を超えたときに、前記開口板により成膜を遮断することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項7記載の成膜方法において、
前記多面体が、ポリゴンミラーであることを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
請求項8記載の成膜方法において、
前記多面体が、プリズムであることを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
請求項6から10のいずれか1項に記載の成膜方法により成膜されたことを特徴とする多面体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−9049(P2006−9049A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183590(P2004−183590)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】