説明

成膜装置用構成部品およびその洗浄方法

成膜材料を用いて基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品において、付着膜が破壊・剥離しにくい表面構造を有する上記構成部品であっても、洗浄時には短時間で容易に付着膜を除去できるような構造を持つ構成部品及びその洗浄方法。成膜装置の構成部品と上記薄膜の形成時にこの構成部品の表面に付着した上記成膜材料からなる付着膜との界面に洗浄液を浸入させるために、構成部品の裏面から表面に至る多数の貫通孔を設けることにより、付着膜を表面のみから洗浄液で溶解させる場合に比べて、短時間で容易に付着膜を剥離して除去することができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、基板上に成膜材料による各種薄膜を形成する成膜装置の構成部品およびその洗浄方法に関する。
【背景技術】
LSI(大規模集積回路)、太陽電池、液晶プラズマディスプレイなどに使用されている半導体製品は、成膜材料から蒸着、スパッタリング、CVD、その他の方法によって、基板上に薄膜を形成する成膜装置内で製造される。
上記成膜材料は、薄膜形成時に成膜装置内の基板マスクなどの防着板やウェハの支持枠などの構成部品の表面にも付着膜を形成する。
上記付着膜は、同一成膜装置内で基板を交換して成膜処理を繰り返すことによって厚く堆積し、ある時点でその堆積膜が破壊したり剥離脱落して発塵などの原因となり、成膜途上の基板に塵埃が付着して目的とする膜の特性を害するおそれがあり、製造される半導体製品の歩留まりを低下させる。
そこで、上記付着膜を除去する方法として、例えば、付着膜が付いた構成部品を洗浄液に浸漬して付着膜を溶解させる洗浄方法が採用されている。
上記洗浄を行うためには、付着膜が破壊や剥離脱落する前に成膜装置の運転を停止して行わなければならないが、付着膜が破壊・剥離脱落する前の時点を見極めることは困難である。一方、破壊・剥離脱落する前の時点を見極めることなく頻繁に洗浄を行うと、成膜装置の稼動効率が低下するという問題が生じている。
従来、上記問題を解決するために、特開平8−277460号公報で開示されているように、付着膜が厚く付着しても破壊・剥離脱落しにくい図3記載の表面構造を有する構成部品が提供されてきた。この表面構造を有する構成部品を使用することによって、ある程度付着膜が厚く堆積しても破壊・剥離脱落することがなくなり、また、上記洗浄を頻繁に行う必要がなくなったため、成膜装置の稼動効率も改善されるようになった。
図3の(a)は、構成部品を構成する母材31の表面に小径の鋼球を噴射するショットブラストあるいはガラス玉を噴射するガラスビーズブラストなどのブラスト処理を施して凹凸を形成させたものである。この凹凸によって母材31の表面積が増大し、付着膜dの付着力が増大するため、付着膜dの破壊・剥離脱落が阻止される。
図3の(b)は、構成部品を構成する母材32の表面に切削加工やエンボス加工などの機械的加工方法により凹凸面を形成させたものである。この場合、付着膜dの剥離しようとする応力によって母材32の表面が変形されてこの応力を緩和するため、付着膜dの破壊・剥離脱落が阻止される。
図3の(c)は、母材33の表面を上記のようにブラスト処理した後、その上に柔らかい金属を被覆することによって母材33の表面に層34を設けたものである。この軟らかい層34によって、付着膜dの破壊・剥離応力を緩和させ、付着膜dの破壊・剥離脱落が阻止される。
上記従来技術の表面構造を有する構成部品であっても、成膜処理を繰り返すことによっていずれは付着膜が破壊・剥離脱落するため、構成部品を再生利用するためには洗浄する必要が生じる。
しかしながら、上記表面構造を有する構成部品は、そもそも付着膜が破壊・剥離脱落しにくい構造としてあるので、洗浄液で付着膜を完全に溶解、除去するためには、洗浄に多大な時間を要し、成膜装置の稼動効率を低下させていた。
また、付着膜の除去に時間がかかることによって、構成部品自体も洗浄液に長時間浸漬しなければならず、構成部品が洗浄液によってダメージを受けるおそれがあった。
洗浄に時間がかかる場合には、新たな構成部品に交換することも考えられるが、近年、大規模液晶画面のニーズに応じて大型化している基板マスクなどの場合、頻繁に交換することが却ってコストと手間をかける結果となるため、洗浄によって付着膜を除去し、再生利用することが強く求められている。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、付着膜が破壊・剥離脱落しにくい上記表面構造を有する構成部品であっても、洗浄時には短時間で容易に付着膜を除去できるような構造を持つ成膜装置用構成部品を提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記問題点を解決するため、本発明にかかる成膜装置用構成部品は、成膜材料を用いて基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品において、この構成部品と上記薄膜の形成時にこの構成部品の表面に付着した上記成膜材料からなる付着膜との界面に、洗浄液を浸入させるために、構成部品の裏面から表面に至る多数の貫通孔を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、上記構成部品を洗浄液に浸漬した場合、この洗浄液は付着膜を表面から溶かすほか、上記貫通孔からも浸入して構成部品と付着膜との界面からも付着膜を溶かすため、付着膜が全部溶ける前に、構成部品から付着膜を剥離することが可能となる。
しかし、上記構成部品に付着膜が付着していない薄膜形成の初期段階では、上記貫通孔に、成膜材料粒子が進入し、あるいは成膜時に発生するプラズマが浸入して、構成部品を取り付けてある装置本体に付着膜が堆積してしまうおそれがある。
そこで、貫通孔に、成膜材料粒子が進入し、あるいはプラズマが浸入することを阻止するためには、上記貫通孔の径を、上記成膜材料粒子の進入若しくはプラズマの浸入ができない大きさにするか、上記貫通孔を上記構成部品の表面に対して光学的めくら状態、例えば鉛直方向に貫通させないように傾斜させて設ければよい。
ところで、上記構成部品の表面に、洗浄液に対して易溶性の性質を有する金属膜からなる層を溶射、蒸着、スパッタリング、メッキ、ラミネート等の方法で形成した場合、付着膜はこの層の上に堆積する。
この場合、洗浄液は、層の端部から浸透するほか、貫通孔からも層に浸透して層を溶かすため、付着膜を短時間で剥離することができる。
なお、成膜処理中は、この層が成膜材料粒子の進入やプラズマの浸入を阻止する蓋の役割を果たす。
本発明にかかる成膜装置用構成部品の洗浄方法は、表面に付着膜が形成された上記各構成部品、すなわち、構成部品の裏面から表面に至る多数の貫通孔を設けたもの、上記貫通孔の径を上記成膜材料粒子の進入若しくはプラズマの浸入ができない大きさにしたもの、上記貫通孔を上記構成部品の表面に対して鉛直方向に貫通させないように傾斜させて設けたもの、あるいは上記構成部品の表面に、洗浄液に対して易溶性の性質を有する金属膜からなる層を溶射、蒸着、スパッタリング、メッキ、ラミネート等の方法で形成したもののうちいずれかの構成部品を洗浄液に浸漬させたことを特徴とする。
この方法によれば、成膜装置用構成部品を浸漬した洗浄液は、付着膜の表面から溶解するほか、上記各貫通孔からも浸入して付着膜を溶解して付着膜を上記構成部品から剥離する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明にかかる構成部品を部分拡大した断面図である。
第2図は成膜材料粒子等が貫通孔に進入しない構造を有する構成部品を部分拡大した断面図であり、(a)は貫通孔の径を成膜材料粒子の進入もしくはプラズマの浸入ができない大きさにした場合の断面図、(b)は貫通孔を母材の表面から裏面へと鉛直方向に貫通させないように傾斜させた場合の断面図、(c)は母材の表面に洗浄液に対して易溶性の性質を有する金属膜からなる層を形成させた場合の断面図である。
第3図は、付着膜が破壊・剥離脱落しにくい表面構造を有する従来の構成部品を部分拡大した断面図であり、(a)は表面をブラスト処理した場合の断面図、(b)は表面に切削加工やエンボス加工などの機械的加工方法により凹凸面を形成させた場合の断面図、(c)は表面に柔らかい金属を形成させた場合の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1を参照して、1は成膜装置用構成部品を構成する母材を拡大したものである。母材1によって構成される構成部品としては、例えば成膜装置内の基板マスクやウェハの支持枠などがある。
成膜装置内で成膜材料によって基板上に薄膜を形成させると、基板以外の上記構成部品にも付着膜dが付着する。
この付着膜dは、上記成膜装置内で基板を交換して成膜処理を繰り返すことによって厚く堆積し、ある時点で破壊・剥離脱落して発塵の原因となり、成膜途上の基板に付着して目的とする膜の特性を害するおそれがある。
この付着膜dを取り除くためには、例えば、母材1を洗浄液Sに浸漬して除去すればよいが、従来は上記洗浄液Sが上記付着膜dを表面からのみ溶かしていたため、付着膜dの除去には時間がかかっていた。特に付着膜dが剥離しにくいように母材1の表面構造を工夫している場合、洗浄液Sを付着膜dの表面からのみ溶かしていたのでは、洗浄の途中で付着膜dが剥離することはほとんどないので、付着膜dの除去のためには、付着膜dが洗浄液Sによってすべて溶けるのを待つしかなかった。
また、付着膜dがすべて溶けるのを待つために、母材1を洗浄液Sに長時間浸漬すると、洗浄液Sによって母材1もダメージを受けるおそれがあった。
そこで、本発明では、母材1に多数の貫通孔2を設けることによって、母材1を洗浄液Sに浸漬した場合、洗浄液Sが、母材1の表面や端面から付着膜dを溶かすとともに、上記多数の貫通孔2から洗浄液Sが浸入し、付着膜dと母材1との界面も溶かすようにした。
母材1に多数の貫通孔2を設けることによって、洗浄液Sが付着膜dをすべて溶かす前に、付着膜dと母材1との界面から付着膜dを溶かして剥離することができるため、付着膜dの表面からのみ溶かす従来の洗浄に比べ、短時間で容易に付着膜dを除去することができる効果が得られる。
また、従来に比べ、短時間で付着膜dを除去できるので、母材1が洗浄液Sに浸漬される時間も短縮され、洗浄液Sによる母材1のダメージも軽減される。
なお、貫通孔2の数は母材1の強度を損ねない範囲であれば、特に限定されるものでないが、例えば隣接する2つの貫通孔2の間隔が3cm〜5cmであれば上記効果は得られる。
ところで、貫通孔2に、付着膜dを形成する成膜材料粒子が進入し、あるいはプラズマが浸入すると、構成部品を取り付けている装置本体に付着膜dを堆積してしまうおそれある。
そこで、貫通孔2を、成膜材料粒子の進入やプラズマの浸入を阻止する構造にする必要がある。
図2の(a)〜(c)は、貫通孔2を、成膜材料粒子の進入やプラズマの浸入を阻止する構造にした実施形態の例を拡大した断面図であるが、本発明の趣旨に逸脱しない範囲であれば、これらの実施形態に限定されるものではない。
なお、図2の(a)の母材11及び(b)の母材12の表面構造は、ブラスト処理したものであるが、他の表面構造であってもよい。
図2の(a)では、母材11に設けられた貫通孔21の径を、上記プラズマPが浸入及び通過できない0.8mmφにした。
貫通孔21の径を上記の大きさにすることによって、プラズマPが貫通孔21に浸入及び通過することを阻止することができる。
図2の(b)では、貫通孔22を母材12の表面から裏面へと鉛直方向に貫通させないように傾斜させて光学的にめくら状態にした孔を設けた。
貫通孔22を有する母材12から成る構成部品を使用すれば、基板の成膜処理中には、成膜材料粒子やプラズマは、貫通孔22の表面側の開口部から貫通孔22の内壁に衝突し、貫通孔22の内部に進入若しくは浸入することがほとんどできないため、構成部品を取り付けている装置本体に付着膜dが堆積することを阻止することができる。
図2の(c)では、母材13の表面に洗浄液に対して易溶性の性質を有する金属膜からなる層14を溶射して形成したものである。
成膜処理中は、この層14が成膜材料粒子の進入やプラズマの浸入を阻止する蓋の役割を果たす。
なお、付着膜dは、上記層14の上に堆積する。この層14は、基板への成膜処理中は、付着膜dの破壊・剥離応力を緩和させ、付着膜dの破壊・剥離脱落を防止する役割を果たすが、洗浄液Sに浸漬した場合は、母材13よりも速く洗浄液Sに反応して溶解し、付着膜dを母材13から剥離させる機能を有する。
従来、洗浄液Sはこの層14の両端からのみ浸透していたが、貫通孔23を設けることにより、層14の各所に洗浄液Sが到達し、従来に比べて短時間で付着膜を剥離することができる。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかる成膜装置用構成部品およびその洗浄方法は、この構成部品と上記薄膜の形成時にこの構成部品の表面に付着した上記成膜材料からなる付着膜との界面に洗浄液を浸入させるために、構成部品の裏面から表面に至る多数の貫通孔を設けることにより、付着膜の表面のみから洗浄液で溶解させる場合に比べて、短時間で容易に付着膜を剥離して除去することができるで、この構成部品は、基板マスクなどの防着板やウェハの支持枠など、成膜材料から蒸着、スパッタリング、CVD、その他の方法によって、基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品などに用いるのに適している。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を用いて基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品において、この構成部品と上記薄膜の形成時にこの構成部品の表面に付着した上記成膜材料からなる付着膜との界面に、洗浄液を浸入させるために、構成部品の裏面から表面に至る多数の貫通孔を設けたことを特徴とする成膜装置用構成部品。
【請求項2】
上記貫通孔の径を、上記成膜材料粒子の進入若しくはプラズマの浸入ができない大きさにしたことを特徴とする請求項1記載の成膜装置用構成部品。
【請求項3】
上記貫通孔を上記構成部品の表面に対して鉛直方向に貫通させないように傾斜させて設けたことを特徴とする請求の範囲1又は請求の範囲2記載の成膜装置用構成部品。
【請求項4】
上記構成部品の表面に、洗浄液に対して易溶性の性質を有する金属膜からなる層を溶射、蒸着、スパッタリング、メッキ、ラミネート等の方法で形成したことを特徴とする請求の範囲1記載の成膜装置用構成部品。
【請求項5】
請求の範囲1記載の構成部品に形成された付着膜を剥離するために、この構成部品を洗浄液に浸漬させたことを特徴とする成膜装置用構成部品の洗浄方法。
【請求項6】
請求の範囲2記載の構成部品に形成された付着膜を剥離するために、この構成部品を洗浄液に浸漬させたことを特徴とする成膜装置用構成部品の洗浄方法。
【請求項7】
請求の範囲3記載の構成部品に形成された付着膜を剥離するために、この構成部品を洗浄液に浸漬させたことを特徴とする成膜装置用構成部品の洗浄方法。
【請求項8】
請求の範囲4記載の構成部品に形成された付着膜を剥離するために、この構成部品を洗浄液に浸漬させたことを特徴とする成膜装置用構成部品の洗浄方法。

【国際公開番号】WO2004/065654
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508116(P2005−508116)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000540
【国際出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】