打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラム
【課題】刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、被加工物に対する所定の模様の描画及び/又は模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止する。
【解決手段】針棒ケース7の特定の一部の針棒8に、縫針9に代えて打刻針を装着可能とする。移送機構18のキャリッジ19に、シート状の被加工物を保持する保持体を取付可能とする。制御回路は、打刻データに基づいて、被加工物に対する小孔形成動作を実行させる制御を行う。制御回路は、被加工物に対し複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、被加工物に対し模様の輪郭に沿って複数の小孔を連続的に形成することにより輪郭を切断するためのカットデータを作成し、更にそれらデータを補正する。
【解決手段】針棒ケース7の特定の一部の針棒8に、縫針9に代えて打刻針を装着可能とする。移送機構18のキャリッジ19に、シート状の被加工物を保持する保持体を取付可能とする。制御回路は、打刻データに基づいて、被加工物に対する小孔形成動作を実行させる制御を行う。制御回路は、被加工物に対し複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、被加工物に対し模様の輪郭に沿って複数の小孔を連続的に形成することにより輪郭を切断するためのカットデータを作成し、更にそれらデータを補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に打刻針を装着し、移送機構によりシート状の被加工物を所定の二方向に移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば多色の刺繍糸による刺繍縫製動作を連続的に実行できる多針刺繍ミシンが供されている。この種の刺繍ミシンは、アーム部の先端に、例えば6本の針棒を備えた針棒ケースを備え、それら針棒のうち所定のものを針棒駆動機構に選択的に連結して上下駆動するように構成されている。刺繍ミシンの制御装置は、一針毎の針落ち位置(加工布の移動量)や色替え等を指示する模様データに基づいて、加工布を保持した刺繍枠を移送機構によりX,Yの二方向に移動させつつ、前記針棒駆動機構及びその他の駆動機構を制御して、多色の刺繍縫製動作を実行させる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
尚、特許文献1においては、ニードルパンチという手法を用いて、布地を装飾するために、一部の針棒に、縫製用の縫針に代えてニードルパンチ針を装着し、ニードルパンチ情報に基づいて加工布にニードルパンチを施すことが記載されている。
【0004】
また、刺繍ミシンにおいては、ワッペン作り等を可能とするために、こて先付きヒータを有するヒートカッター装置を、ミシン本体部のX―Y駆動部のキャリッジに着脱可能に取付け、模様データに基づいて、布や紙等の被カット体をカットして、絵や文字などの切抜き作業を行うことを可能にしたものが考えられている(例えば特許文献2参照)。これによれば、ユーザが鋏等を用いて手動で切取る場合と異なり、被カット体を、模様データに基づいて、所望の形状に正確に切抜くことができる。尚、カッター装置としては、レーザや超音波を用いるものも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172566号公報
【特許文献2】特開平5−96071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、上記した刺繍ミシンにおいて、複数本の針棒のうちの一部に、縫製用の縫針に代えて、小孔を形成するための打刻針を装着することによって、刺繍ミシンを、例えば紙等のシート状被加工物に模様を形成する装置として兼用できるのではないかと考えた。この場合、加工布を保持する刺繍枠に代えて、被加工物を固定的に保持する保持体を移送機構のキャリッジに取付けるようにし、打刻データに基づいて被加工物を移動させながら、打刻針が装着された針棒を上下動することにより、被加工物の表面に、多数個の小孔によって前記打刻データに応じた所定の模様を形成(描画)することが可能となる。
【0007】
また、ユーザが、紙等に多数個の小孔によって模様を描画した後、模様形成部分の外形輪郭を切取りたいと要望するケースも考えられる。この場合、ユーザが鋏などを用いて手作業で被加工物を綺麗に切断(裁断)するのは、非常に手間がかかる作業である。ここで、シート状の被加工物を、所定形状に切取るためには、上記特許文献2に記載されたような、オプションとしてのカッター装置をミシン本体に装着し、そのカッター装置を用いて切断作業を行うことが考えられる。或いは、ペーパークラフトの分野で供されている、カッティングプロッタと称される専用の紙裁断装置を用いて切断作業を行うことも考えられる。このカッティングプロッタでは、パソコン等で作成したデータに基づいて、シート状の被加工物を所望の形状に裁断することが可能となる。
【0008】
しかし、被加工物の切断のために、上記のようなオプションとしてのカッター装置をミシン本体に装着するもの、あるいは、カッティングプロッタを用いるものでは、ミシンに加えてそれらカッター装置やカッティングプロッタが別途必要となるので、相応の費用がかかるという問題がある。尚、上記のように、紙等の被加工物の表面に、多数個の小孔によって打刻データに応じた所定の模様を形成(描画)する場合、小孔を密に形成しすぎてそれら小孔が繋がって紙が破れるといったことを未然に防止することが望まれる。また、被加工物に対し所望の模様の輪郭形状に切込みを入れる場合は、その輪郭形状に沿って確実に切断できることが要望される。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又はその模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の打刻データ作成装置は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に、シート状の被加工物の表面をドット単位で突き当てて小孔を形成するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものであって、前記打刻データとして、前記被加工物に形成する前記複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、又は、前記被加工物に対し少なくとも前記模様の輪郭に沿って前記複数の小孔を連続的に形成することにより前記輪郭を切断可能とするカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、前記打刻データに基づいて前記被加工物に複数の小孔が形成される状態を変更するために、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正の少なくともいずれか一方の補正を行うデータ補正手段とを備えるところに特徴を有する。
【0011】
刺繍縫製可能なミシンにおいて、シート状の被加工物に小孔を形成することが可能な打刻針を針棒に装着し、その針棒を上下動させながら、打刻データに基づいて移送機構を制御して、被加工物を所定の二方向に移送させることにより、被加工物に対する小孔形成動作が実行される。このとき、打刻データ作成手段により作成された打刻データとしての描画データに基づいて、小孔形成動作が実行された場合には、被加工物には、複数個の小孔が形成されることによって、所定の模様が描画される。
【0012】
そして、打刻データ作成手段により作成された打刻データとしてのカットデータに基づいて、小孔形成動作が実行された場合には、被加工物には、少なくとも前記模様の輪郭に沿って複数の小孔が連続的に形成されるようになる。この場合、多数個の小孔が隣の小孔とつながるように形成されることにより、小孔の集合が輪郭に沿って延びる切込みとなり、この結果、被加工物が模様の輪郭に沿って切断されるようになる。これにより、シート状の被加工物を、所望の形状に切断することが可能となる。
【0013】
従って、刺繍縫製可能なミシンを、打刻針を用いて、シート状の被加工物に対して小孔により模様を描画する装置、及び/又は、被加工物を所望形状に切断する装置として兼用することが可能となる。被加工物の切断を、オプションとしてのカッター装置や、別途のカッティングプロッタを用いずに行うことが可能となり、安価に済ませることができる。しかも、データ補正手段により、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正が行われることにより、被加工物が連続する小孔によって切断され易いか、切断され難いかといった状態を調整することが可能となる。
【0014】
請求項2の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記模様の形状に対して特定部位が在るか否かを判断する判断手段を備え、前記判断手段が、特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記描画データの補正を行うところに特徴を有する。
【0015】
請求項3の打刻データ作成装置は、請求項2の発明において、前記特定部位は、前記描画データのうち連続する3個の打刻点を直線でつないだときに形成される角度が所定角度以下の鋭角である部位、又は、前記描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位であり、前記判断手段が、前記特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記特定部位の打刻点の一部を間引く補正を行うところに特徴を有する。
【0016】
請求項4の打刻データ作成装置は、請求項1から3のいずれか発明において、前記データ補正手段は、前記カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うところに特徴を有する。
【0017】
本発明の請求項5の打刻データ作成プログラムは、請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の打刻データ作成装置によれば、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、打刻データとしての描画データ又はカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、打刻データを補正するためのデータ補正手段とを備えるので、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又は、その模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができる。そして、データ補正手段により、描画データの補正又はカットデータの補正が行われることにより、被加工物が連続する小孔によって切断され易いか、切断され難いかといった状態を調整することが可能となる。従って、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を得ることができる。
【0019】
請求項2の打刻データ作成装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、判断手段が模様の形状に対して特定部位が在ると判断した場合に、データ補正手段が描画データの補正を行うように構成したので、判断手段の判断に基づいて、模様のうちの必要な部位に対する描画データの補正を確実に行なうことができる。
【0020】
請求項3の打刻データ作成装置によれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、特定部位として、模様が鋭角形状である部位、又は輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位に対して、描画データの打刻点の一部を間引く補正が行われる。ここで、上記特定部位は、模様のうち切断されやすい(破れやすい)部位であるので、その特定部位の打刻点の一部が間引かれる補正によって、より切断されにくくなり、模様の描画を行う際の被加工物の破れを効果的に防止することができる。
【0021】
請求項4の打刻データ作成装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加え、カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正が行われる。ここで、小孔形成動作の開始部分や終了部分は、ミシンモータによる縫製動作に加速、減速を伴うため、小孔形成動作が不十分となる場合があるが、その部分について二重の打刻が行われることによって、被加工物に確実に小孔が形成されて切断されやすくなり、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる。
【0022】
請求項5の打刻データ作成プログラムによれば、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを、請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として機能させるので、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又は、その模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、多針刺繍ミシンの外観構成を示す斜視図
【図2】針棒ケース部分の正面図
【図3】刺繍枠が装着された状態の枠ホルダ本体の平面図
【図4】保持体の平面図(a)及び正面図(b)
【図5】被加工物に小孔が形成された様子(a)及び輪郭が切離された様子(b)を示す平面図
【図6】多針刺繍ミシンの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図7】被加工物に形成される小孔のピッチの相違を示す図
【図8】ラインデータの構成の例を示すもので、打刻種類の設定当初のデータ(a)及び打刻種類がカットであるラインを統合した後のデータ(b)を示す図
【図9】打刻データを作成する対象となるキャラクタの例を示す図
【図10】被加工物に対し複数の小孔が形成される状態を液晶ディスプレイに表示した様子を示す図
【図11】被加工物に小孔が形成される様子を部分的に示す拡大図
【図12】制御回路が実行する打刻データ作成処理のメインルーチンを示すフローチャート
【図13】図12のステップS5の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図14】図13のステップS14の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図15】図13のステップS20の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図16】角度の計算方法を説明するための図
【図17】鋭角部分の打刻点の補正前(a)、及び補正後(b)の様子を示す図
【図18】交点部分の打刻点の補正前(a)、及び補正後(b)の様子を示す図
【図19】カットデータの補正前(a)及び補正後(b)の様子を示す図
【図20】本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置の外観を示す斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)第1の実施形態
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について、図1から図19を参照しながら説明する。尚、本実施形態では、刺繍縫製可能なミシンである多針刺繍ミシンが、打刻データ作成装置としての機能を内蔵して構成される場合を具体例としている。図1は、本実施形態に係る多針刺繍ミシン1の外観構成を概略的に示している。まず、この多針刺繍ミシン1の構成について説明する。以下の説明では、図1〜図3に示すように、多針刺繍ミシン1の左右方向をX方向とし、前後方向をY方向としている。
【0025】
図1に示すように、多針刺繍ミシン1は、図示しない載置台上に載置される支持台2、この支持台2の後端部から上方に延びる脚柱部3、この脚柱部3の上端部から前方に延びるアーム部4等を備えて構成される。前記支持台2は、左右部位に前方に延びる脚部2a,2aを有した、上面から見て前方が開放するほぼU字状に構成されている。また、この支持台2には、後部中央部から前方に延びるシリンダベッド5が一体的に設けられている。このシリンダベッド5の先端上部には、針穴6aを有する針板6が設けられ、図示はしないが、その内部には、糸捕捉釜や糸切り機構(及びピッカー)等が設けられている。
【0026】
前記アーム部4の右側には、操作パネル16が設けられている。図6にも示すように、この操作パネル16には、ユーザ(オペレータ)が各種の指示や選択、入力の操作を行うための複数の操作スイッチ45や、ユーザに対して必要なメッセージ等の表示を行う液晶ディスプレイ(LCD)46等が設けられている。尚、後述するように、液晶ディスプレイ46には、打刻データによる模様及び輪郭の画像が表示されるようになっており、以て表示手段として機能する。また、図示は省略しているが、前記アーム部4の後側上部には、例えば6個の糸駒がセット可能な糸立て装置が設けられている。
【0027】
図2にも示すように、前記アーム部4の先端部には、針棒ケース7が左右方向(X方向)に移動可能に設けられている。この針棒ケース7は、前後方向に薄型の矩形箱状をなしている。そして、針棒ケース7の内部には、左右方向に並んで、複数本、本実施形態では例えば6本の針棒8が上下動可能に支持されている。これら各針棒8は、図示しないコイルばねのばね力により、常時上方(図2に示す上死点(針上位置))に向けて付勢されている。
【0028】
これら各針棒8は、その下端部が、針棒ケース7の下方に突出位置しており、その下端部には、刺繍用の縫針9が、着脱(交換)可能に取付けられている。尚、6本の針棒8を区別する場合には、右から順に、1番,2番‥と針棒番号が付される。このとき、本実施形態では、6本の針棒8のうち、左端に位置する特定の針棒8(針棒番号6番)には、縫針9に代えて打刻針10が装着されている。この打刻針10については後述する。
【0029】
また、各針棒8の下部には、当該針棒8の上下動に同期して上下動する刺繍用押え足11が設けられている。この場合、針棒番号6番の針棒8に、縫針9に代えて打刻針10が装着された状態では、刺繍用押え足11は取外される。また、詳しく図示はしないが、針棒ケース7の上部側には、6本の針棒8に対応して6個の天秤が設けられている。これら各天秤は、その先端部が、針棒ケース7の前面に上下に延びて形成された6個のスリット孔12を夫々通して前面側に突出しており、針棒8の上下動に同期して上下動(揺動)するように構成されている。また、図示はしないが、後述する針棒上下駆動機構により上下動される位置にある針棒8の後方にはワイパーが設けられている。
【0030】
図1に示すように、この針棒ケース7には、その上端から斜め後方に延びて上部カバー13が一体的に設けられている。この上部カバー13には、図示しない6個の糸調子器(取付用の穴のみを示す)が設けられていると共に、上端部に位置して6個の糸切れセンサ14が設けられている。これにて、糸立て装置にセットされた糸駒から、刺繍用の上糸が引出され、糸切れセンサ14、糸調子器、天秤等の所定の経路を順に通され、最後に縫針9の目孔(図示せず)に通されることにより、刺繍縫製が可能となる。このとき、6本(或いは針棒番号6番の針棒8を除く5本)の縫針9に、夫々異なる色の上糸を供給することにより、複数色の上糸による刺繍縫製動作を、自動で切替えながら連続的に行うことができる。
【0031】
詳しく図示はしないが、前記脚柱部3内には、ミシンモータ15(図6にのみ図示)が設けられている。前記アーム部4には、周知のように、前記ミシンモータ15により駆動される主軸や、この主軸の回転により前記針棒8等を上下動させる針棒上下駆動機構、針棒ケース7をX方向に移動させて針棒を選択する針棒選択機構などが設けられている。前記主軸の回転により、前記糸捕捉釜も前記針棒8の上下動と同期して駆動される。
【0032】
前記針棒上下駆動機構は、針棒8に設けられた針棒抱き(図示せず)に選択的に係合する上下動部材を備えている。前記針棒選択機構は、針棒選択用モータ17(図6にのみ図示)を駆動源として針棒ケース7をX方向に移動させ、いずれかの針棒8(前記針穴6aの真上位置の針棒8)を、上下動部材に係合させるように構成されている。これにて、針棒選択駆動機構が構成され、選択された1本の針棒8(及びその針棒8に対応した天秤)のみが、針棒上下駆動機構により上下駆動される。
【0033】
図1に示すように、前記支持台2上(脚柱部3の前方)には、前記シリンダベッド5のやや上部に位置して、移送機構18(図6参照)のキャリッジ19が設けられる。このキャリッジ19には、刺繍縫製を施すべき加工布を保持する刺繍枠20(図3参照)、或いは、後述する小孔形成動作に係る紙やプラスチック等のシート状の被加工物Wを保持する保持体21(図4、図5参照)が着脱可能に連結される。尚、詳しく図示はしないが、加工布を保持する刺繍枠20については、大きさや形状の相違する複数種類のものが付属品として備えられている。
【0034】
図1,図3に示すように、前記キャリッジ19は、Y方向キャリッジ22、このY方向キャリッジ22に設けられるX方向キャリッジ23、このX方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ本体24(図3にのみ図示)を備えている。詳しく図示はしないが、前記移送機構18は、前記支持台2内に設けられY方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させるY方向駆動機構と、このY方向キャリッジ22内に設けられ前記X方向キャリッジ23及び枠ホルダ本体24をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構とを含んでいる。刺繍枠20或いは保持体21は前記枠ホルダ本体24により保持され、移送機構18により所定の二方向であるX方向及びY方向に自在に移送される。
【0035】
前記Y方向キャリッジ22は、横長な(細幅の)箱状をなし、前記支持台2の左右の脚部2a,2a間に掛け渡されるようにして左右方向(X方向)に延びている。このとき、図1に示すように、支持台2の左右の脚部2a,2aの上面には、夫々前後方向(Y方向)に延びるガイド溝25が設けられている。図示はしないが、前記Y方向駆動機構は、これらガイド溝25を上下に貫通し、該ガイド溝25に沿ってY方向(前後方向)に移動可能に設けられた2個の移動体を備えている。前記Y方向キャリッジ22の左右両端部が、夫々移動体の上端部に連結されている。
【0036】
前記Y方向駆動機構は、ステッピングモータからなるY方向駆動モータ26(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成されている。前記Y方向駆動モータ26を駆動源として前記直線移動機構により前記移動体を自在に移動させることによって、Y方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させる。
【0037】
図1、図3に示すように、前記X方向キャリッジ23は、一部がY方向キャリッジ22の前面側下部から前方に突出する横長な板状をなし、該Y方向キャリッジ22にX方向(左右方向)にスライド移動可能に支持されている。Y方向キャリッジ22内に設けられるX方向駆動機構は、ステッピングモータからなるX方向駆動モータ27(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成され、X方向キャリッジ23をX方向(左右方向)に自在に移動させる。
【0038】
ここで、前記X方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ本体24、及び、この枠ホルダ本体24に着脱可能に装着される保持体(刺繍枠20及び保持体21)について述べる。まず、図3を参照して刺繍枠20について述べる。この刺繍枠20は、丸みを帯びた矩形枠状をなす内枠28と、この内枠28の外周に着脱可能に嵌合される外枠29と、内枠28の左右両端部に取付けられた一対の連結部30,30とを備えている。図示はしないが、刺繍が施される加工布は、内枠28と外枠29との間に挟まれ、内枠28の内側でピンと張った状態に保持される。
【0039】
前記左右一対の連結部30,30は、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部30には、枠ホルダ本体24への装着のための係合溝30a及び係合穴30bが形成されている。上記のように、前記刺繍枠20は、大きさ或いは形状(刺繍領域)の相違する複数種類が用意され、加工布の大きさや刺繍の大きさに応じて選択的に使用される。また、それら刺繍枠20の種類に応じて、左右の幅寸法L1(連結部30の外縁から連結部30の外縁までの間の寸法)が相違するように設定されており、それによって、後述する検出手段により刺繍枠20の種類(及び保持体21かどうか)の検出が可能である。図3では、この幅寸法が一番大きな刺繍枠20を例示している。
【0040】
次に、前記保持体21について述べる。図4及び図5(a)に示すように、保持体21は、角部に丸みを帯びた矩形板状をなす保持部31と、この保持部31の左右両端部に取付けられた一対の連結部32,32とを備えている。前記保持部31の板面には、周囲の枠状部分を除いて矩形状をなす有底状の保持凹部31aが設けられており、その保持凹部31a内に、弾性体31bが配設されている。この弾性体31bは、例えば発泡樹脂や発泡ゴム等から矩形薄板状に構成されている。シート状の被加工物Wは、予め前記保持凹部31aに対応した矩形板状に裁断されて供され、弾性体31bの上面に載置された状態で、例えば図示しない両面粘着テープ等の固定手段により固定される。
【0041】
また、前記左右一対の連結部32,32は、やはり、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部32には、枠ホルダ本体24への装着のための係合溝32a及び係合穴32bが形成されている。上記したように、この保持体21の左右の幅寸法L2(連結部32の外縁から連結部32の外縁までの間の寸法)は、前記いずれの種類の刺繍枠20の幅寸法L1とも相違するように設定されている。尚、この保持体21についても、被加工物Wの大きさや形状等に応じて複数種類を用意しておくようにしても良い。
【0042】
そして、上記した刺繍枠20や保持体21が装着(連結)される枠ホルダ本体24は、以下のように構成されている。即ち、図3に示すように、この枠ホルダ本体24は、前記X方向キャリッジ23の上面部に固定的に取付けられている。枠ホルダ本体24は、固定的に取付けられる固定腕部33と、枠ホルダ本体24に対して位置変更可能に取付けられる可動腕部34とを備えている。可動腕部34は、装着すべき刺繍枠20及び保持体21の種類つまり幅寸法L1(L2)に応じて、ユーザにより左右方向に位置変更されるものである。
【0043】
前記固定腕部33は、X方向に長く延びる板状をなす枠ホルダ本体24の主部24aの右端部の上面に重なるように取付けられ、ほぼ直角に折曲って前方に延びる右腕部33bを有している。この右腕部33bの上面には、先端に位置して係合ピン35が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね36が取付けられている。前記係合ピン35は、前記刺繍枠20の連結部30の係合溝30a、或いは、前記保持体21の連結部32の係合溝32aに係合する。
【0044】
前記可動腕部34は、前記右腕部33bとほぼ左右対称的な形状をなし、その基端部(後端部)が、前記枠ホルダ本体24の主部24aの左側部分の上面に重なるように取付けられる。この可動腕部34の上面には、先端に位置して係合ピン37が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね38が取付けられている。前記係合ピン37は、前記刺繍枠20の連結部30の係合孔30b、或いは、前記保持体21の連結部32の係合孔32bに係合する。
【0045】
この可動腕部34は、基端部に左右方向に長い案内溝34aを有し、前記枠ホルダ本体24の主部24aの上面に設けられた案内ピン39が、その案内溝34a内に係合することにより、前記枠ホルダ本体24の主部24aに対し、左右方向にスライド移動可能に設けられている。また、図示はしないが、前記枠ホルダ本体24の主部24aには、可動腕部34を複数の所定位置で選択的に固定するための位置決め固定機構が設けられている。ユーザがこの位置決め固定機構を操作することにより、可動腕部34の左右方向位置が変更可能である。
【0046】
これにて、ユーザは、装着すべき刺繍枠20或いは保持体21の種類即ち幅寸法L1、L2に応じて可動腕部34を適切な位置に固定した状態で、刺繍枠20或いは保持体21を枠ホルダ本体24に装着する。図3に例示するように、刺繍枠20を装着するにあたっては、刺繍枠20の左右の連結部30を、夫々、可動腕部34の板ばね38部分、及び、右腕部33bの板ばね36部分に挟み込まれるように前方から差込む。次いで、可動腕部34の係合ピン37に連結部30の係合孔30bを係合させると共に、右腕部33bの係合ピン35に連結部30の係合溝30aを係合させる。これにより、刺繍枠20は、枠ホルダ本体24に保持され、移送機構18によってX,Y方向に移動されるのである。保持体21の場合も、同様にして枠ホルダ本体24に装着することができる。
【0047】
このとき、前記X方向キャリッジ23には、図3、図6に示すように、可動腕部34の位置を検出することに基づいて、装着されている刺繍枠20(保持体21)の種類を検出するための枠種類検出センサ40が設けられている。図示はしないが、この枠種類検出センサ40は、例えば回転型ポテンショメータからなり、可動腕部34に設けられた例えば傾斜面からなる被検出部に当接する検出子を有し、可動腕部34の左右方向位置によってその検出子の回動位置(角度)が変動することに応じて、抵抗値(出力電圧値)が変動する。
【0048】
図6に示すように、この枠種類検出センサ40の出力信号は後述する制御回路41に入力され、この制御回路41にて刺繍枠20(保持体21)の種類を検出(判断)する。従って、これら枠種類検出センサ40及び制御回路41などから、保持体21が装着されているかどうかを検出する検出手段が構成される。
【0049】
さて、本実施形態では、多針刺繍ミシン1は、加工布に対する6色の刺繍糸を用いた通常の刺繍縫製動作の実行が可能であると共に、図7に示すように、保持体21を移送機構18によってX、Y方向に移動させながら、被加工物Wに対し、打刻針10をドット単位で突き当て(突き刺し)、被加工物Wに複数個の小孔Hを形成する小孔形成動作の実行が可能である。このとき、小孔形成動作によって、被加工物Wに対し所定の模様を描画したり、少なくともその模様の輪郭に沿って複数の小孔Hを連続的に形成して被加工物Wを所定形状に切断したりすることが可能とされている。
【0050】
上記したように、小孔形成動作を実行するにあたっては、図2に示すように、6本の針棒8のうち左端の針棒8(針棒番号6番)に、縫針9に代えて打刻針10が装着される。この打刻針10は、先端(下端)が被加工物Wに対して小孔Hを形成するに適した尖った形状をなし、縫針9よりも短く構成されている。即ち、この打刻針10は、針棒8の最下位置(下死点)において、保持体21に保持された被加工物Wに突き刺さって貫通し、その先端が、保持体21に設けられた弾性体31bの厚み方向途中部で止まる長さ寸法とされている。
【0051】
ちなみに、図7に示すように、本実施形態では、打刻針10を用いた小孔形成動作によって形成される1個の小孔Hの直径寸法φBは、例えば0.1mmとされている。尚、図2に示すように、打刻針10が装着された針棒8については、押え足11が取外される。針棒番号6番の針棒8に打刻針10が装着されている場合には、刺繍縫製動作は、残りの5本(針棒番号1番から5番)の針棒8を使用して(5色の刺繍糸で)行われることは勿論である。
【0052】
図6は、本実施形態に係る多針刺繍ミシンの電気的構成を、全体を制御する制御手段としての制御回路41を中心にして概略的に示している。この制御回路41は、コンピュータ(CPU)を主体として構成され、ROM42、RAM43、外部メモリ44が接続されている。前記ROM42には、刺繍縫製制御プログラム、小孔形成動作制御プログラム、打刻データ作成プログラム、各種制御用データ等が記憶されている。前記外部メモリ44には、多数種類の刺繍縫製用の模様データや、後述するラインデータ(図8参照)、打刻データ等が記憶されている。
【0053】
この制御回路41は、前記操作パネル16の各種操作スイッチ45の操作信号が入力されると共に、液晶ディスプレイ46の表示を制御する。このとき、ユーザは、液晶ディスプレイ46の表示を見ながら、各種操作スイッチ45を操作することによって、縫製のモード(刺繍縫製モード、小孔形成動作モード、打刻データ作成モード等)を選択したり、所望する刺繍模様や小孔による描画模様を選択指定したりする。
【0054】
また、制御回路41には、糸切れセンサ14の検出信号、前記移送機構18の枠種類検出センサ40の検出信号、主軸の回転位相(針棒8の上下位置)を検出するための主軸回転角検出センサ等を含む各種検出センサ47の検出信号が入力される。そして、制御回路41は、駆動回路48を介して前記ミシンモータ15を駆動制御すると共に、駆動回路49を介して前記針棒選択用モータ17を駆動制御する。
【0055】
そして、制御回路41は、駆動回路50を介して前記移送機構18のY方向駆動モータ26を駆動制御すると共に、駆動回路51を介して前記X方向駆動モータ27を駆動制御し、枠ホルダ本体24(刺繍枠20又は保持体21)を自在に移動させる。更に、制御回路41は、駆動回路52,53,54を夫々介して、ピッカー(図示せず)の駆動源となるピッカーモータ55、糸切り機構の駆動源となる糸切りモータ56、ワイパー(図示せず)の駆動源となるワイパーモータ57を制御し、以て糸切り動作を実行させる。
【0056】
制御回路41は、刺繍縫製制御プログラムの実行(刺繍縫製モード)により、例えば外部メモリ44に記憶されている刺繍縫製用の模様データの中から、ユーザが選択した模様データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、刺繍枠20に保持された加工布に対する刺繍縫製動作を自動で実行させる。このとき、周知のように、上記刺繍縫製用の模様データは、一針毎の針落ち位置(刺繍枠20のX、Y方向の移動量)を示す一針データ(移送データ)、刺繍糸の色(即ち駆動する針棒8)の切替えを指示する色替えデータ、糸切り動作を指示する糸切りデータ、縫製終了データ等を含んでいる。
【0057】
そして、本実施形態では、前記制御回路41は、そのソフトウエア構成(小孔形成動作制御プログラムの実行)により、打刻データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、保持体21に保持された被加工物Wに対する打刻針10による小孔形成動作を自動で実行させる(小孔形成動作モード)ことが可能に構成されている。
【0058】
この小孔形成動作は、針棒番号6番の針棒8を選択し当該針棒8(打刻針10)を上下動させながら、針棒8の上昇時に被加工物Wを次の小孔形成位置に移動させることを繰返すことにより行われる。このとき、前記打刻データは、打刻針10による一針毎の小孔形成位置(打刻点の位置)、即ち一針毎の被加工物W(保持体21)のX、Y方向の移動量を示す移送データの集合を主体として構成される。
【0059】
本実施形態では、制御回路41は、小孔形成動作を実行させるにあたり、前記枠種類検出センサ40により、前記枠ホルダ本体24に対する保持体21の装着が検出されていることを条件に、小孔形成動作を実行させる。つまり、保持体21の装着が検出されていないときには、ユーザにより小孔形成動作の実行が指示されても、ミシンモータ15の起動を禁止する。
【0060】
そして、本実施形態では、後の作用説明(フローチャート説明)で述べるように、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置としての機能を兼用している。この打刻データは、複数の小孔形成位置(打刻点の位置)を示すデータの集合からなり、被加工物Wに対し複数の小孔Hにより所定の模様を描画するための描画データと、当該被加工物Wに対し前記所定の模様の輪郭に沿って複数の小孔Hを連続的に形成することにより前記輪郭を切断するためのカットデータとの2種類を含んでいる。
【0061】
この打刻データの作成は、例えば、予め外部メモリ44に記憶されている模様の画像データから、模様を構成するライン(線画)を抽出し、そのラインデータから、それら各ラインに沿って複数個の小孔形成位置(打刻点)を設定することにより行われる。本実施形態では、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、打刻データ作成手段として機能し、描画データとカットデータとの双方を作成するようになっている。このとき、制御回路41は、打刻データを作成するにあたり、打刻データの種類が描画データである場合と、カットデータである場合との間で、小孔Hを形成するピッチを異ならせる、つまりカットデータにより形成される小孔Hの孔間ピッチの方が、描画データにより形成される小孔Hの孔間ピッチに比べて小さくなるように、打刻点の位置を設定する。
【0062】
具体的には、本実施形態では、打刻データの種類が描画データである場合には、図7(a)に示すように、ライン上に打刻点を設定する際の孔間ピッチTを、小孔Hの直径φBよりも大きい、例えば0.2mmとなるようにしている。また、カットデータである場合には、図7(b)に示すように、ライン上に打刻点を設定する際の孔間ピッチSを、小孔Hの直径φB以下、例えば0.1mmとするように構成されている。尚、上記各ラインに関して、描画データとカットデータとのどちらのデータを作成するかについては、ユーザがどちらかを指定する構成とすることができる。或いは、ラインが輪郭を構成するものである場合にはカットデータを作成し、それ以外の場合には描画データを作成するといったように、自動設定される構成としても良い。
【0063】
また、制御回路41は、上記のように打刻データを作成(或いは編集)するに際し、その打刻データに基づいて、被加工物Wに対し複数の小孔Hが形成される状態の画像を、前記液晶ディスプレイ46に表示させる(編集画面)ようになっており、液晶ディスプレイ46と共に表示手段として機能する。このとき、制御回路41は、前記描画データに基づく模様の画像と、前記カットデータに基づく輪郭の画像とを、異なる表示態様で表示させる。具体的には、本実施形態では、例えば図10に示すように、描画データに基づく模様の画像を、1本がある程度の長さを有する破線で表示し、カットデータに基づく輪郭の画像を、細かい点の集合で表示する。
【0064】
そして、これも後のフローチャート説明にて詳述するように、制御回路41は、上記打刻データの作成と共に、被加工物Wに複数の小孔Hが形成される状態を変更するために、必要に応じて、打刻データの補正、つまり描画データ及び/又はカットデータの補正を行うようになっている。このとき、制御回路41は、描画データを作成するに際し、模様の形状に対して特定部位があるかどうかを判断し、特定部位があると判断されたときに、描画データを補正する。特定部位が存在しないと判定された場合には、描画データの補正は行われない。
【0065】
より詳細には、本実施形態では、制御回路41は、描画データのうち連続する3個の打刻点を直線で順につないだときに形成される角度θを求め、所定角度(例えば角度45°)以下の鋭角である場合にその部位を第1特定部位と判断し、また、描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わる若しくは接する部位を第2特定部位と判断する。そして、制御回路41は、特定部位がある場合に、それら特定部位の打刻点を間引く補正を行う。
【0066】
更に、本実施形態では、制御回路41は、カットデータを作成するに際して、打刻種類がカットである複数のラインをまとめて一つの閉じた(ループ状の)ラインとし、その
カットデータのうち、小孔形成動作の開始部分に位置する最初のN個(例えば5個)の打刻点について、二重の打刻が行われるように打刻点を最後に追加する補正を行う。従って、制御回路41が、判断手段及びデータ補正手段としても機能するのである。
【0067】
次に、上記構成の作用について、図8から図19も参照して述べる。尚、ここでは、図9等に示すように、例えば、耳が大きなネズミの顔のキャラクタCについて、被加工物Wに対し、その内部の模様(両目、鼻、口の各パーツや顔と耳との境界線)を描画すると共に、その模様の輪郭(外形)を切断するための打刻データを作成する場合を具体例としてあげながら説明する。図8(a)は、図9のキャラクタCにおけるラインデータの構成の例を示している。このラインデータは、単位となるライン毎のライン番号、各ライン毎の打刻種類即ちカット(切断)か描画かの種別、各ラインを構成する複数の構成点(ラインを連続した直線線分に近似した場合の各線分の両端の点)の位置座標の集合からなる。
【0068】
例えば図9において、キャラクタCのうち、左耳の外形(輪郭のうち左耳部分)を構成するラインが、ライン番号1であり、打刻種類はカット(切断)であり、構成点は、点P0、P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7である。また、キャラクタCのうち、左耳と顔との境界を構成するラインが、ライン番号2であり、打刻種類は描画であり、構成点は、点P0、P7である。尚、小孔形成動作の動作順序は、描画データに基づく模様描画が先で、その後カットデータに基づく動作が行われる。またその中では、ライン番号の若い順に動作が行われる。
【0069】
さて、上記のように、制御回路41は、例えばユーザの選択指示により、外部メモリ44或いはROM42に記憶されている模様の画像データから、模様を構成するライン(線画)を抽出し、そのラインデータから、それら各ラインに沿って複数個の小孔形成位置(打刻点)を設定して打刻データを作成する処理を行う(打刻データ作成モード)。図12〜図15のフローチャートは、その際に制御回路41が実行する打刻データの作成処理の手順を示している。
【0070】
そのうち、図12のフローチャートは、メインルーチンを示し、図13のフローチャートは、図12のうちの打刻データ生成処理(ステップS5)の詳細な手順を示している。また、図14のフローチャートは、図13のうちの描画データ作成処理(ステップS14)の詳細な手順を示し、図15のフローチャートは、図13のうちのカットデータ作成処理(ステップS20)の詳細な手順を示している。
【0071】
即ち、図12に示すように、ステップS1では、上記ラインデータを得るべく、模様を構成するラインの構成点の入力処理が行われる。この処理は、例えば、模様(キャラクタC)の画像を液晶ディスプレイ46に表示し、ユーザがその画面上で各ラインの構成点を順次指定することにより行われる。或いは、制御回路41が自動で各ライン及びその構成点を抽出するようにしても良い。次のステップS2では、各ライン(ライン番号1〜10)に関する、打刻の種類の設定が行われる。この処理についても、ユーザの指示或いは自動により行うことができる。このステップS1及びS2の処理によって、図8(a)に示すようなラインデータが得られる。
【0072】
次のステップS3では、前記ラインデータ(図8(a)参照)のうち、打刻種類が「カット」である複数のラインを、まとめて一つの閉じたラインとする処理が行われる。これにより、図8(a)の段階では、ライン番号1,3,4,6の4つのラインであったものが、図8(b)に示すように、構成点P0から始まって輪郭(外形)全体に沿ってループを描くように延び、構成点P19から構成点P0に戻る1つのライン(ライン番号7)に集約されるのである。そのラインの変更に伴って、打刻種類が「描画」であった各ラインは、空いたライン番号に順に繰上がるようになる。
【0073】
ステップS4では、打刻種類が「描画」となるラインの、打刻種類が「カット」となるラインとの交点が計算され、RAM43内の交点メモリに記憶される。ここで、交点とは、打刻種類が「描画」となるラインが、打刻種類が「カット」となるライン(輪郭を構成するライン)と交わるもしくは接する部分のことをいい、これが第2特定部位となる。図9(図8のラインデータ)の例では、構成点P0、P7、P12、P19が、交点(第2特定部位)として交点メモリに記憶される。
【0074】
次のステップS5では、上記ラインデータから、打刻データを生成する処理が実行される。この処理の詳細については、図13のフローチャート説明において述べるが、このとき、小孔Hを形成する孔間ピッチが、打刻データの種類がカットデータである場合に、描画データである場合(例えば0.2mm)に比べて、より小さくなる(例えば0.1mm)ように、打刻点の位置が設定される。ステップS6では、ステップS5で作成された打刻データ(打刻点の位置座標のデータの集合)をステッチデータ、即ち、一針毎の保持枠21(被加工物W)のX及びY方向の移動データに変換する処理が実行され、打刻データの作成処理が終了する。
【0075】
次に、図13〜図15のフローチャートを参照しながら、上記の打刻データ生成処理の詳細について述べる。まず、図13において、ステップS11では、ライン番号を示すための変数iに1がセットされる。次のステップS12では、変数iがライン総数以下であるかどうかが判断される。図8(b)の例では、ラインの総数は7である。変数iがライン総数以下である場合には(ステップS12にてYes)、ステップS13に進み、i番目のラインの打刻種類が描画であるかどうかが判断される。打刻種類が切断(カット)である場合には(ステップS13にてNo)、そのままステップS16に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS12に戻る。これに対し、打刻種類が描画である場合には(ステップS13にてYes)、ステップS14に進み、i番目のラインに沿った描画データの作成処理が実行される。
【0076】
図14のフローチャートは、図13のステップS14におけるi番目のラインに関する描画データの作成処理の詳細を示している。即ち、まずステップS31では、i番目のラインの、構成点(何番目か)を示すための変数kに1がセットされると共に、描画データバッファがクリアされる。ステップS32では、変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下かどうかが判断される。図8(b)、図9の例においては、例えば、ライン番号1では、ラインの構成点の総数が2、ライン番号3では、ラインの構成点の総数7がとなっている。
【0077】
変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下である場合には(ステップS32にてYes)、ステップS33にて、i番目ラインのk番目構成点Pkと、k+1番目構成点Pk+1との間(両端を含む)を、孔間ピッチT(例えば0.2mm)で刻む各点(打刻点)の位置を計算し、描画データバッファに追加する処理が行われる。ステップS34では、変数kが1だけインクリメントされ、ステップS32に戻る。これにて、i番目ライン上に沿って孔間ピッチTで複数の小孔Hを順次形成するための打刻点の集合からなる描画データが得られる。
【0078】
変数kが、(i番目ラインの構成点の総数−1)を越えたときには(ステップS32にてNo)、ステップS35に進み、打刻点(何番目か)を示す変数jに3がセットされる。次のステップS36では、変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)以下かどうかが判断される。変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)以下である場合には(ステップS36にてYes)、ステップS37に進み、第1特定部位かどうかの判断及び補正の処理が行われる。
【0079】
このステップS37では、第1特定部位か否かの判断のために、図16にも示すように、j番目の打刻点Ejを中心とした連続する3点の打刻点、つまり、Ej‐1 、Ej、Ej+1 を直線でつないだときに形成される角度θを求め、その角度θが所定角度(例えば45°)以下かどうかが求められる。上記角度θを求めるに際しては、図16に示すように、点Ejを始点とし点Ej‐1 を終点としたベクトルを求めると共に、点Ejを始点とし点Ej+1 を終点としたベクトルを求める。これらベクトルは、次の(1),(2)式で表される。従って、cosθは、次の(3)式で求めることができる。
【数1】
【0080】
そして、角度θが所定角度45°以下である場合(第1特定部位と判断された場合)には、図17にも示すように、Ej‐1 及びEj+1 の2点の打刻点を間引く(描画データバッファから削除する)補正が行われる。これにより、例えば図17に示すように、描画データに、打刻点Eが鋭角をなして並ぶような第1特定部位が存在した場合(図9のキャラクタCでは鼻の上端部の部位等)、尖った角部部分における頂点(図17の例では構成点P32)に隣り合う2個の打刻点を間引く補正が行われる。次のステップS38では、変数jが1だけインクリメントされ、ステップS36,S37の処理が繰返される。
【0081】
そして、変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)を超えた場合には(ステップS36にてNo)、ステップS39に進み、第2特定部位かどうかの判断及び補正の処理が行われる。このステップS39の処理は、描画データバッファに記憶されている打刻点のうち、第2特定部位即ち輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部分の打刻点の一部を間引くことにより行われる。具体的には、図12のステップS4にて既に交点メモリに記憶されている交点のデータを読出し、その交点に近い打刻点を削除することが行われる。図18の例(左耳部分の例)では、構成点P0とP7とを結ぶライン上の両端の打刻点が削除される。これにて、i番目のラインに係る描画データの作成が完了し、この処理を終了する。
【0082】
図13に戻って、次のステップS15では、描画データバッファに書込まれた描画データ(複数の打刻点の位置)が、全て打刻点バッファに追加コピーされる。そして、ステップS16に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS12に戻る。ステップS12からの処理を繰返すことにより、打刻種類が描画である各ライン(図8(b)の例ではライン番号が1〜6)についての描画データが作成される。変数iがライン総数を越えた(8になった)ときに、ステップS12にてNoと判断され、描画データ作成に関する処理が終了する。以上の処理にて、描画データからは、第1特定部位及び第2特定部位に対する打刻点の一部を間引くような補正が行われている。
【0083】
このように描画データ作成に関する処理が終了すると、以降において、カットデータの作成処理が行われる。まずステップS17では、ライン番号を示すための変数iに再び1がセットされ、ステップS18では、変数iがライン総数(この場合7)以下であるかどうかが判断される。変数iがライン総数以下である場合には(ステップS18にてYes)、ステップS19に進み、i番目のラインの打刻種類がカット(切断)であるかどうかが判断される。打刻種類が描画である場合には(ステップS19にてNo)、そのままステップS22に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS18に戻る。これに対し、打刻種類がカットである場合には(ステップS19にてYes)、ステップS20に進み、i番目のラインに沿ったカットデータの作成処理が実行される。
【0084】
図15のフローチャートは、ステップS20におけるi番目のラインに関するカットデータの作成処理の詳細を示している。即ち、まずステップS41では、i番目のラインの、構成点(何番目か)を示すための変数kに1がセットされると共に、カットデータバッファがクリアされる。ステップS42では、変数kが、(i番目ラインの構成点の総数−1)以下かどうかが判断される。図8(b)の例においては、ライン番号7では、ラインの構成点の総数が21となっている。
【0085】
変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下である場合には(ステップS42にてYes)、ステップS43にて、i番目ラインのk番目構成点Pkと、k+1番目構成点Pk+1との間(両端を含む)を、孔間ピッチS(例えば0.1mm)で刻む各点の位置を計算し、カットデータバッファに追加する処理が行われる。ステップS44では、変数kが1だけインクリメントされ、ステップS42に戻る。これにて、i番目ライン上に沿って孔間ピッチSで複数の小孔Hを順次形成するためのカットデータが得られる。変数kが、(ラインの構成点の総数−1)を越えたときには(ステップS42にてNo)、ステップS45に進み、カットデータの補正の処理が行われる。
【0086】
このカットデータの補正は、小孔形成動作の開始部分に、二重の打刻が行われるように、N個(例えば5個程度)の打刻点を、カットデータの最後に追加することにより行われる。具体例をあげると、図19(a)に示すように、カットデータの作成処理(ステップS43)では、最初の打刻点E1となり、E2、E3、E4、E5、E6‥の順に小孔形成動作が開始され、打刻点En-3 、En-2 、En-1 、En(打刻点E1に一致する)の順で動作が終了する。これに対し、補正により、図19(b)に示すように、打刻点En+1 、En+2 、En+3 、En+4 、En+5 、の5点(E2〜E6に夫々一致)が、カットデータの最後に追加されるのである。
【0087】
以上の処理が終了すると、図13に戻って、次のステップS21では、カットデータバッファに書込まれた補正後のカットデータ(複数の打刻点の位置)が、全て打刻点バッファに追加コピーされる。そして、ステップS22に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS18に戻る。ステップS18からの処理を繰返すことにより、打刻種類がカットである全てのライン(図8(b)の例ではラインは1つのみ)についてのカットデータが作成される。変数iがライン総数を越えた(8になった)ときに、ステップS18にてNoと判断され、カットデータ作成に関する処理が終了する。
【0088】
これにより、被加工物Wに対し、多数個の小孔Hを形成することによって、上記キャラクタCの内部の模様を描画し、且つ、キャラクタCの外形輪郭で切断(カット)するための、一針毎の打刻針10の打刻位置(保持体21のX、Y方向の移動量)を示すデータの集合からなる打刻データが作成されるのである。このとき、描画データとカットデータとの間では、夫々に適した小孔Hの形成ピッチで打刻データが作成される。
【0089】
また、上記した打刻データ作成の処理時においては、図10に例示するように、液晶ディスプレイ46の画面には、被加工物Wに対し複数の小孔Hが形成される状態のキャラクタCの画像が表示される。このとき、描画データに基づく模様の画像と、カットデータに基づく輪郭の画像とが、異なる表示態様で表示される。例えば、描画データに基づく模様の画像は、1本がある程度の長さを有する破線で表示され、カットデータに基づく輪郭の画像は、細かい点の集合で表示される。これにより、ユーザに対し、描画データとカットデータとを区別して、判りやすく表示することができる。
【0090】
本実施形態の多針刺繍ミシン1においては、通常の縫製動作に加えて、上記のように作成された打刻データを用いた、紙等の被加工物Wに対する小孔形成動作を実行させることができる。小孔形成動作を実行させるにあたっては、ユーザは、特定の針棒8(針棒番号6番)に打刻針10を装着すると共に、被加工物Wを保持させた保持体21を、枠ホルダ本体24に装着する。そして、所望の模様の打刻データの選択(読出し)を行って動作をスタートさせる。
【0091】
このとき、本実施形態では、多針刺繍ミシン1の制御回路41は、小孔形成動作を開始する(ミシンモータ15を起動する)にあたって、枠種類検出センサ40の検出に基づいて保持体21が装着されているかどうかを判断し、保持体21が装着されていることを条件に小孔形成動作を実行させる。つまり、刺繍枠20が装着されている状態では、小孔形成動作が禁止され、エラー報知が行われる。逆の場合、つまり保持体21が装着されている状態で刺繍縫製動作を実行させようとした場合も同様に、動作が禁止されると共に、エラー報知が行われる。
【0092】
制御回路41は、打刻データに基づいて、移送機構18を制御して保持体21ひいては被加工物WをX、Y方向に自在に移送させながら、針棒選択用モータ17により、打刻針10が装着された特定の針棒8(針棒番号6番)を選択的に駆動させることにより、打刻針10による小孔形成動作を実行する。これにて、打刻データに応じた被加工物Wの所定位置に打刻針10が順に突き当てられ、図5(a)に示すように、被加工物Wに多数個の小孔Hが形成される。
【0093】
このとき、図11に一部(左耳付近の部分)を拡大して例示するように、被加工物Wには、描画データに基づいて、キャラクタCの顔の所定の模様(両目、鼻、口の各パーツや顔と耳との境目)が描画されるように小孔Hが複数個形成される。次いで、カットデータに基づいて、キャラクタCの輪郭に沿って複数の小孔Hが連続的に形成されるようになる。この場合、描画模様と、輪郭とでは、小孔Hの大きさ(φB)は一定であるが、描画模様では、隣り合う小孔H間に一定の間隔があるのに対し、輪郭については、多数個の小孔Hが隣の小孔Hとつながるように形成される
【0094】
これにより、小孔Hの集合が輪郭に沿って延びる切込みとなり、この結果、図5(b)に示すように、被加工物WからキャラクタCの輪郭を切取ることができるようになる。ここで、カットデータに基づく小孔形成動作を行う場合、小孔形成動作の開始部分や終了部分は、ミシンモータ15による縫製動作に加速、減速を伴うため、打刻針10における打刻にいわば勢いが不足して小孔Hの形成が不十分となる虞がある。ところが、上述のように、カットデータに打刻点を追加する補正が行われており、小孔形成動作の開始部分について二重の打刻が行われる。従って、被加工物Wに確実に小孔Hが形成されて切断されやすくなり、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生が防止される。
【0095】
そして、描画データにおいては、小孔Hの形成間隔がカット(切断)の場合に比べて比較的大きくなるので、小孔H同士がつながることがなく、確実に描画作業が行われる。ところが、模様の局部的な形状によっては、模様が鋭角的な場合に、その尖った角部分において被加工物Wに切れ目(3個或いはそれ以上の小孔がつながった穴)が形成される虞があり、また、輪郭部分と連続する部分についてカット部分から切込みが生じたりする虞もある。これに対し、描画データにおいても、模様が鋭角形状である第1特定部位、及び、輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する第2特定部位の有無が判断され、それら特定部位については、打刻点の一部が間引かれる補正によって、より切断されにくくなり、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れを効果的に防止することができる。
【0096】
このように本実施形態によれば、多針刺繍ミシン1を、打刻針10を用いて、シート状の被加工物Wに対して小孔Hにより模様を描画する装置、及び、被加工物Wを所望形状に切断する装置として兼用することが可能となる。このとき、オプションとしてのカッター装置や、別途のカッティングプロッタを用いずに、被加工物Wの切断が可能となるので、安価に済ませることができる。被加工物Wを一旦取外すことなく、模様の描画と切断とを連続して、つまり一連の動作で同時に行うことができるので、模様と、切断される輪郭との間に位置ずれが生ずることなく済ませることができる。
【0097】
また、本実施形態では、多針刺繍ミシン1が打刻データ作成装置として機能し、描画データ及びカットデータの双方を作成する打刻データ作成手段の機能を備えるので、被加工物Wに対する所定の模様の描画と、その模様の輪郭に沿った被加工物Wのカット(切断)との双方を可能とする打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。このとき、カットデータにより形成される小孔Hの孔間ピッチSを、描画データにより形成される小孔の孔間ピッチTよりも小さく構成したので、切断を確実に行なうことができながら、1種類の打刻針10で済ませることができるメリットを得ることができる。
【0098】
そして、本実施形態では、カットデータに対し、小孔形成動作の開始部分について二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うようにしたので、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる。さらに、模様の形状に対して特定部位が在ると判断した場合に、描画データの打刻点の一部を間引く補正を行うように構成したので、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れを効果的に防止することができる。このとき、特定部位として、模様が鋭角形状である部位、及び、輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位の双方について、打刻点の一部を間引く補正を行うようにしたので、より効果的となる。
【0099】
(2)第2の実施形態、その他の実施形態
図20は、本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置71の外観構成を示している。この打刻データ作成装置71は、例えば汎用のパーソナルコンピュータシステム等からなり、多針刺繍ミシン1とは独立した装置として構成されている。打刻データ作成装置71により作成された打刻データが多針刺繍ミシン1に与えられる。この打刻データ作成装置71は、作成装置本体72に、例えばカラーCRTディスプレイからなる表示装置73、キーボード74及びマウス75、カラー画像の読取りが可能なイメージスキャナ76、例えばハードディスクドライブからなる外部記憶装置77を接続して構成されている。
【0100】
前記作成装置本体72は、パーソナルコンピュータ本体からなり、詳しく図示はしないが、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、例えばCDやDVD等の記録媒体(光ディスク)に対するデータの読込み及び書込みを行う光ディスクドライブ装置78などを備えている。打刻データ作成プログラムは、例えば外部記憶装置77に予め記憶されていたり、或いは、CDやDVD等の記録媒体に記録された状態で、その記録媒体が前記光ディスクドライブ装置78にセットされて読取られる。
【0101】
打刻データ作成プログラムの実行時には、前記表示装置73には、打刻データを作成するための模様や必要な情報が表示され、ユーザ(オペレータ)がキーボード74やマウス75を操作することにより、必要な入力,指示を行う。さらには、前記イメージスキャナ76により、打刻データを作成したい模様の原画の画像データを読込むことができる。尚、イメージスキャナ76に代えて、デジタルカメラ等においてデジタル化された画像データ(写真等)を取込むように構成しても良い。
【0102】
前記作成装置本体72は、打刻データ作成プログラムの実行により、ユーザが例えば前記イメージスキャナ76により読込ませた模様の原画の画像データから、前記多針刺繍ミシン1にて小孔形成動作を実行するための打刻データの作成処理を実行する。この場合も、作成装置本体72が、描画データ及びカットデータの双方を作成する打刻データ作成手段としての機能と、それら描画データ及びカットデータの双方を補正するデータ補正手段としての機能とを備える。これにより、被加工物Wに対する所定の模様の描画と、その模様の輪郭に沿った被加工物Wの切断との双方を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を奏する。
【0103】
尚、上記各実施形態では、打刻データとして、描画データ及びカットデータの双方を作成し、またデータ補正手段が双方のデータを補正する構成としたが、データ補正手段が、描画データ又はカットデータのいずれか一方の補正を行うようにしても良い。あるいは、打刻データとして描画データのみを作成する手段を備えていても良く、その場合、データ補正手段が描画データを補正する構成とすることができる。打刻データとしてカットデータのみを作成する手段を備えていても良く、その場合、データ補正手段がカットデータを補正する構成とすることができる。上記実施形態では、描画データを補正するにあたり、模様形状に、第1特定部位及び第2特定部位があるかどうかを判断したが、いずれか一方の特定部位の有無のみを判断して補正するようにしても良い。
【0104】
上記実施形態では、打刻データ作成装置を、多針刺繍ミシン1の制御回路41を兼用したり、汎用のパーソナルコンピュータを用いて構成したが、刺繍縫製可能なミシンに直接的に接続された、或いはネットワーク等を介して接続された装置として構成したり、打刻データ作成の専用機として構成したりしても良い。そして、上記各実施形態では、打刻データの作成を、コンピュータがほとんど自動で行う構成としたが、例えば、画像データからの模様や輪郭を構成する複数のラインの抽出や、種類の設定、小孔形成動作の順序の決定などをユーザ(オペレータ)の入力操作により行なうようにしても良い。
【0105】
その他、刺繍縫製可能なミシンの構成としても、種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、針棒ケース7に設けられる針棒8の本数についても、9本や12本などであっても良く、更には1本の針棒を備える刺繍ミシンであっても、縫針と打刻針とを付替えることにより、小孔形成動作の実行が可能である。多針刺繍ミシン1の全体構成や、移送機構18(キャリッジ19)の構成、保持体21の構成等についても、種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0106】
1 多針刺繍ミシン(打刻データ作成装置)
7 針棒ケース
8 針棒
10 打刻針
15 ミシンモータ
16 操作パネル
17 針棒選択用モータ
18 移送機構
19 キャリッジ
21 保持体
25 Y方向駆動モータ
26 X方向駆動モータ
40 枠種類検出センサ
41 制御回路(打刻データ作成手段、データ補正手段)
45 各種操作スイッチ
46 液晶ディスプレイ(表示手段)
71 打刻データ作成装置
72 作成装置本体(打刻データ作成手段、データ補正手段)
W 被加工物
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に打刻針を装着し、移送機構によりシート状の被加工物を所定の二方向に移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば多色の刺繍糸による刺繍縫製動作を連続的に実行できる多針刺繍ミシンが供されている。この種の刺繍ミシンは、アーム部の先端に、例えば6本の針棒を備えた針棒ケースを備え、それら針棒のうち所定のものを針棒駆動機構に選択的に連結して上下駆動するように構成されている。刺繍ミシンの制御装置は、一針毎の針落ち位置(加工布の移動量)や色替え等を指示する模様データに基づいて、加工布を保持した刺繍枠を移送機構によりX,Yの二方向に移動させつつ、前記針棒駆動機構及びその他の駆動機構を制御して、多色の刺繍縫製動作を実行させる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
尚、特許文献1においては、ニードルパンチという手法を用いて、布地を装飾するために、一部の針棒に、縫製用の縫針に代えてニードルパンチ針を装着し、ニードルパンチ情報に基づいて加工布にニードルパンチを施すことが記載されている。
【0004】
また、刺繍ミシンにおいては、ワッペン作り等を可能とするために、こて先付きヒータを有するヒートカッター装置を、ミシン本体部のX―Y駆動部のキャリッジに着脱可能に取付け、模様データに基づいて、布や紙等の被カット体をカットして、絵や文字などの切抜き作業を行うことを可能にしたものが考えられている(例えば特許文献2参照)。これによれば、ユーザが鋏等を用いて手動で切取る場合と異なり、被カット体を、模様データに基づいて、所望の形状に正確に切抜くことができる。尚、カッター装置としては、レーザや超音波を用いるものも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172566号公報
【特許文献2】特開平5−96071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、上記した刺繍ミシンにおいて、複数本の針棒のうちの一部に、縫製用の縫針に代えて、小孔を形成するための打刻針を装着することによって、刺繍ミシンを、例えば紙等のシート状被加工物に模様を形成する装置として兼用できるのではないかと考えた。この場合、加工布を保持する刺繍枠に代えて、被加工物を固定的に保持する保持体を移送機構のキャリッジに取付けるようにし、打刻データに基づいて被加工物を移動させながら、打刻針が装着された針棒を上下動することにより、被加工物の表面に、多数個の小孔によって前記打刻データに応じた所定の模様を形成(描画)することが可能となる。
【0007】
また、ユーザが、紙等に多数個の小孔によって模様を描画した後、模様形成部分の外形輪郭を切取りたいと要望するケースも考えられる。この場合、ユーザが鋏などを用いて手作業で被加工物を綺麗に切断(裁断)するのは、非常に手間がかかる作業である。ここで、シート状の被加工物を、所定形状に切取るためには、上記特許文献2に記載されたような、オプションとしてのカッター装置をミシン本体に装着し、そのカッター装置を用いて切断作業を行うことが考えられる。或いは、ペーパークラフトの分野で供されている、カッティングプロッタと称される専用の紙裁断装置を用いて切断作業を行うことも考えられる。このカッティングプロッタでは、パソコン等で作成したデータに基づいて、シート状の被加工物を所望の形状に裁断することが可能となる。
【0008】
しかし、被加工物の切断のために、上記のようなオプションとしてのカッター装置をミシン本体に装着するもの、あるいは、カッティングプロッタを用いるものでは、ミシンに加えてそれらカッター装置やカッティングプロッタが別途必要となるので、相応の費用がかかるという問題がある。尚、上記のように、紙等の被加工物の表面に、多数個の小孔によって打刻データに応じた所定の模様を形成(描画)する場合、小孔を密に形成しすぎてそれら小孔が繋がって紙が破れるといったことを未然に防止することが望まれる。また、被加工物に対し所望の模様の輪郭形状に切込みを入れる場合は、その輪郭形状に沿って確実に切断できることが要望される。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又はその模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる打刻データ作成装置及び打刻データ作成プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の打刻データ作成装置は、刺繍縫製可能なミシンの針棒に、シート状の被加工物の表面をドット単位で突き当てて小孔を形成するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものであって、前記打刻データとして、前記被加工物に形成する前記複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、又は、前記被加工物に対し少なくとも前記模様の輪郭に沿って前記複数の小孔を連続的に形成することにより前記輪郭を切断可能とするカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、前記打刻データに基づいて前記被加工物に複数の小孔が形成される状態を変更するために、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正の少なくともいずれか一方の補正を行うデータ補正手段とを備えるところに特徴を有する。
【0011】
刺繍縫製可能なミシンにおいて、シート状の被加工物に小孔を形成することが可能な打刻針を針棒に装着し、その針棒を上下動させながら、打刻データに基づいて移送機構を制御して、被加工物を所定の二方向に移送させることにより、被加工物に対する小孔形成動作が実行される。このとき、打刻データ作成手段により作成された打刻データとしての描画データに基づいて、小孔形成動作が実行された場合には、被加工物には、複数個の小孔が形成されることによって、所定の模様が描画される。
【0012】
そして、打刻データ作成手段により作成された打刻データとしてのカットデータに基づいて、小孔形成動作が実行された場合には、被加工物には、少なくとも前記模様の輪郭に沿って複数の小孔が連続的に形成されるようになる。この場合、多数個の小孔が隣の小孔とつながるように形成されることにより、小孔の集合が輪郭に沿って延びる切込みとなり、この結果、被加工物が模様の輪郭に沿って切断されるようになる。これにより、シート状の被加工物を、所望の形状に切断することが可能となる。
【0013】
従って、刺繍縫製可能なミシンを、打刻針を用いて、シート状の被加工物に対して小孔により模様を描画する装置、及び/又は、被加工物を所望形状に切断する装置として兼用することが可能となる。被加工物の切断を、オプションとしてのカッター装置や、別途のカッティングプロッタを用いずに行うことが可能となり、安価に済ませることができる。しかも、データ補正手段により、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正が行われることにより、被加工物が連続する小孔によって切断され易いか、切断され難いかといった状態を調整することが可能となる。
【0014】
請求項2の打刻データ作成装置は、請求項1の発明において、前記模様の形状に対して特定部位が在るか否かを判断する判断手段を備え、前記判断手段が、特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記描画データの補正を行うところに特徴を有する。
【0015】
請求項3の打刻データ作成装置は、請求項2の発明において、前記特定部位は、前記描画データのうち連続する3個の打刻点を直線でつないだときに形成される角度が所定角度以下の鋭角である部位、又は、前記描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位であり、前記判断手段が、前記特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記特定部位の打刻点の一部を間引く補正を行うところに特徴を有する。
【0016】
請求項4の打刻データ作成装置は、請求項1から3のいずれか発明において、前記データ補正手段は、前記カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うところに特徴を有する。
【0017】
本発明の請求項5の打刻データ作成プログラムは、請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の打刻データ作成装置によれば、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、打刻データとしての描画データ又はカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、打刻データを補正するためのデータ補正手段とを備えるので、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又は、その模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができる。そして、データ補正手段により、描画データの補正又はカットデータの補正が行われることにより、被加工物が連続する小孔によって切断され易いか、切断され難いかといった状態を調整することが可能となる。従って、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を得ることができる。
【0019】
請求項2の打刻データ作成装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、判断手段が模様の形状に対して特定部位が在ると判断した場合に、データ補正手段が描画データの補正を行うように構成したので、判断手段の判断に基づいて、模様のうちの必要な部位に対する描画データの補正を確実に行なうことができる。
【0020】
請求項3の打刻データ作成装置によれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、特定部位として、模様が鋭角形状である部位、又は輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位に対して、描画データの打刻点の一部を間引く補正が行われる。ここで、上記特定部位は、模様のうち切断されやすい(破れやすい)部位であるので、その特定部位の打刻点の一部が間引かれる補正によって、より切断されにくくなり、模様の描画を行う際の被加工物の破れを効果的に防止することができる。
【0021】
請求項4の打刻データ作成装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加え、カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正が行われる。ここで、小孔形成動作の開始部分や終了部分は、ミシンモータによる縫製動作に加速、減速を伴うため、小孔形成動作が不十分となる場合があるが、その部分について二重の打刻が行われることによって、被加工物に確実に小孔が形成されて切断されやすくなり、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる。
【0022】
請求項5の打刻データ作成プログラムによれば、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを、請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として機能させるので、刺繍縫製可能なミシンを用いてシート状の被加工物に対する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成するものにあって、被加工物に対する所定の模様の描画、及び/又は、その模様の輪郭に沿った被加工物の切断を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物の破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、多針刺繍ミシンの外観構成を示す斜視図
【図2】針棒ケース部分の正面図
【図3】刺繍枠が装着された状態の枠ホルダ本体の平面図
【図4】保持体の平面図(a)及び正面図(b)
【図5】被加工物に小孔が形成された様子(a)及び輪郭が切離された様子(b)を示す平面図
【図6】多針刺繍ミシンの電気的構成を概略的に示すブロック図
【図7】被加工物に形成される小孔のピッチの相違を示す図
【図8】ラインデータの構成の例を示すもので、打刻種類の設定当初のデータ(a)及び打刻種類がカットであるラインを統合した後のデータ(b)を示す図
【図9】打刻データを作成する対象となるキャラクタの例を示す図
【図10】被加工物に対し複数の小孔が形成される状態を液晶ディスプレイに表示した様子を示す図
【図11】被加工物に小孔が形成される様子を部分的に示す拡大図
【図12】制御回路が実行する打刻データ作成処理のメインルーチンを示すフローチャート
【図13】図12のステップS5の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図14】図13のステップS14の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図15】図13のステップS20の詳細な処理手順を示すフローチャート
【図16】角度の計算方法を説明するための図
【図17】鋭角部分の打刻点の補正前(a)、及び補正後(b)の様子を示す図
【図18】交点部分の打刻点の補正前(a)、及び補正後(b)の様子を示す図
【図19】カットデータの補正前(a)及び補正後(b)の様子を示す図
【図20】本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置の外観を示す斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)第1の実施形態
以下、本発明を具体化した第1の実施形態について、図1から図19を参照しながら説明する。尚、本実施形態では、刺繍縫製可能なミシンである多針刺繍ミシンが、打刻データ作成装置としての機能を内蔵して構成される場合を具体例としている。図1は、本実施形態に係る多針刺繍ミシン1の外観構成を概略的に示している。まず、この多針刺繍ミシン1の構成について説明する。以下の説明では、図1〜図3に示すように、多針刺繍ミシン1の左右方向をX方向とし、前後方向をY方向としている。
【0025】
図1に示すように、多針刺繍ミシン1は、図示しない載置台上に載置される支持台2、この支持台2の後端部から上方に延びる脚柱部3、この脚柱部3の上端部から前方に延びるアーム部4等を備えて構成される。前記支持台2は、左右部位に前方に延びる脚部2a,2aを有した、上面から見て前方が開放するほぼU字状に構成されている。また、この支持台2には、後部中央部から前方に延びるシリンダベッド5が一体的に設けられている。このシリンダベッド5の先端上部には、針穴6aを有する針板6が設けられ、図示はしないが、その内部には、糸捕捉釜や糸切り機構(及びピッカー)等が設けられている。
【0026】
前記アーム部4の右側には、操作パネル16が設けられている。図6にも示すように、この操作パネル16には、ユーザ(オペレータ)が各種の指示や選択、入力の操作を行うための複数の操作スイッチ45や、ユーザに対して必要なメッセージ等の表示を行う液晶ディスプレイ(LCD)46等が設けられている。尚、後述するように、液晶ディスプレイ46には、打刻データによる模様及び輪郭の画像が表示されるようになっており、以て表示手段として機能する。また、図示は省略しているが、前記アーム部4の後側上部には、例えば6個の糸駒がセット可能な糸立て装置が設けられている。
【0027】
図2にも示すように、前記アーム部4の先端部には、針棒ケース7が左右方向(X方向)に移動可能に設けられている。この針棒ケース7は、前後方向に薄型の矩形箱状をなしている。そして、針棒ケース7の内部には、左右方向に並んで、複数本、本実施形態では例えば6本の針棒8が上下動可能に支持されている。これら各針棒8は、図示しないコイルばねのばね力により、常時上方(図2に示す上死点(針上位置))に向けて付勢されている。
【0028】
これら各針棒8は、その下端部が、針棒ケース7の下方に突出位置しており、その下端部には、刺繍用の縫針9が、着脱(交換)可能に取付けられている。尚、6本の針棒8を区別する場合には、右から順に、1番,2番‥と針棒番号が付される。このとき、本実施形態では、6本の針棒8のうち、左端に位置する特定の針棒8(針棒番号6番)には、縫針9に代えて打刻針10が装着されている。この打刻針10については後述する。
【0029】
また、各針棒8の下部には、当該針棒8の上下動に同期して上下動する刺繍用押え足11が設けられている。この場合、針棒番号6番の針棒8に、縫針9に代えて打刻針10が装着された状態では、刺繍用押え足11は取外される。また、詳しく図示はしないが、針棒ケース7の上部側には、6本の針棒8に対応して6個の天秤が設けられている。これら各天秤は、その先端部が、針棒ケース7の前面に上下に延びて形成された6個のスリット孔12を夫々通して前面側に突出しており、針棒8の上下動に同期して上下動(揺動)するように構成されている。また、図示はしないが、後述する針棒上下駆動機構により上下動される位置にある針棒8の後方にはワイパーが設けられている。
【0030】
図1に示すように、この針棒ケース7には、その上端から斜め後方に延びて上部カバー13が一体的に設けられている。この上部カバー13には、図示しない6個の糸調子器(取付用の穴のみを示す)が設けられていると共に、上端部に位置して6個の糸切れセンサ14が設けられている。これにて、糸立て装置にセットされた糸駒から、刺繍用の上糸が引出され、糸切れセンサ14、糸調子器、天秤等の所定の経路を順に通され、最後に縫針9の目孔(図示せず)に通されることにより、刺繍縫製が可能となる。このとき、6本(或いは針棒番号6番の針棒8を除く5本)の縫針9に、夫々異なる色の上糸を供給することにより、複数色の上糸による刺繍縫製動作を、自動で切替えながら連続的に行うことができる。
【0031】
詳しく図示はしないが、前記脚柱部3内には、ミシンモータ15(図6にのみ図示)が設けられている。前記アーム部4には、周知のように、前記ミシンモータ15により駆動される主軸や、この主軸の回転により前記針棒8等を上下動させる針棒上下駆動機構、針棒ケース7をX方向に移動させて針棒を選択する針棒選択機構などが設けられている。前記主軸の回転により、前記糸捕捉釜も前記針棒8の上下動と同期して駆動される。
【0032】
前記針棒上下駆動機構は、針棒8に設けられた針棒抱き(図示せず)に選択的に係合する上下動部材を備えている。前記針棒選択機構は、針棒選択用モータ17(図6にのみ図示)を駆動源として針棒ケース7をX方向に移動させ、いずれかの針棒8(前記針穴6aの真上位置の針棒8)を、上下動部材に係合させるように構成されている。これにて、針棒選択駆動機構が構成され、選択された1本の針棒8(及びその針棒8に対応した天秤)のみが、針棒上下駆動機構により上下駆動される。
【0033】
図1に示すように、前記支持台2上(脚柱部3の前方)には、前記シリンダベッド5のやや上部に位置して、移送機構18(図6参照)のキャリッジ19が設けられる。このキャリッジ19には、刺繍縫製を施すべき加工布を保持する刺繍枠20(図3参照)、或いは、後述する小孔形成動作に係る紙やプラスチック等のシート状の被加工物Wを保持する保持体21(図4、図5参照)が着脱可能に連結される。尚、詳しく図示はしないが、加工布を保持する刺繍枠20については、大きさや形状の相違する複数種類のものが付属品として備えられている。
【0034】
図1,図3に示すように、前記キャリッジ19は、Y方向キャリッジ22、このY方向キャリッジ22に設けられるX方向キャリッジ23、このX方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ本体24(図3にのみ図示)を備えている。詳しく図示はしないが、前記移送機構18は、前記支持台2内に設けられY方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させるY方向駆動機構と、このY方向キャリッジ22内に設けられ前記X方向キャリッジ23及び枠ホルダ本体24をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構とを含んでいる。刺繍枠20或いは保持体21は前記枠ホルダ本体24により保持され、移送機構18により所定の二方向であるX方向及びY方向に自在に移送される。
【0035】
前記Y方向キャリッジ22は、横長な(細幅の)箱状をなし、前記支持台2の左右の脚部2a,2a間に掛け渡されるようにして左右方向(X方向)に延びている。このとき、図1に示すように、支持台2の左右の脚部2a,2aの上面には、夫々前後方向(Y方向)に延びるガイド溝25が設けられている。図示はしないが、前記Y方向駆動機構は、これらガイド溝25を上下に貫通し、該ガイド溝25に沿ってY方向(前後方向)に移動可能に設けられた2個の移動体を備えている。前記Y方向キャリッジ22の左右両端部が、夫々移動体の上端部に連結されている。
【0036】
前記Y方向駆動機構は、ステッピングモータからなるY方向駆動モータ26(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成されている。前記Y方向駆動モータ26を駆動源として前記直線移動機構により前記移動体を自在に移動させることによって、Y方向キャリッジ22をY方向(前後方向)に自在に移動させる。
【0037】
図1、図3に示すように、前記X方向キャリッジ23は、一部がY方向キャリッジ22の前面側下部から前方に突出する横長な板状をなし、該Y方向キャリッジ22にX方向(左右方向)にスライド移動可能に支持されている。Y方向キャリッジ22内に設けられるX方向駆動機構は、ステッピングモータからなるX方向駆動モータ27(図6参照)や、タイミングプーリやタイミングベルト等からなる直線移動機構を備えて構成され、X方向キャリッジ23をX方向(左右方向)に自在に移動させる。
【0038】
ここで、前記X方向キャリッジ23に取付けられる枠ホルダ本体24、及び、この枠ホルダ本体24に着脱可能に装着される保持体(刺繍枠20及び保持体21)について述べる。まず、図3を参照して刺繍枠20について述べる。この刺繍枠20は、丸みを帯びた矩形枠状をなす内枠28と、この内枠28の外周に着脱可能に嵌合される外枠29と、内枠28の左右両端部に取付けられた一対の連結部30,30とを備えている。図示はしないが、刺繍が施される加工布は、内枠28と外枠29との間に挟まれ、内枠28の内側でピンと張った状態に保持される。
【0039】
前記左右一対の連結部30,30は、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部30には、枠ホルダ本体24への装着のための係合溝30a及び係合穴30bが形成されている。上記のように、前記刺繍枠20は、大きさ或いは形状(刺繍領域)の相違する複数種類が用意され、加工布の大きさや刺繍の大きさに応じて選択的に使用される。また、それら刺繍枠20の種類に応じて、左右の幅寸法L1(連結部30の外縁から連結部30の外縁までの間の寸法)が相違するように設定されており、それによって、後述する検出手段により刺繍枠20の種類(及び保持体21かどうか)の検出が可能である。図3では、この幅寸法が一番大きな刺繍枠20を例示している。
【0040】
次に、前記保持体21について述べる。図4及び図5(a)に示すように、保持体21は、角部に丸みを帯びた矩形板状をなす保持部31と、この保持部31の左右両端部に取付けられた一対の連結部32,32とを備えている。前記保持部31の板面には、周囲の枠状部分を除いて矩形状をなす有底状の保持凹部31aが設けられており、その保持凹部31a内に、弾性体31bが配設されている。この弾性体31bは、例えば発泡樹脂や発泡ゴム等から矩形薄板状に構成されている。シート状の被加工物Wは、予め前記保持凹部31aに対応した矩形板状に裁断されて供され、弾性体31bの上面に載置された状態で、例えば図示しない両面粘着テープ等の固定手段により固定される。
【0041】
また、前記左右一対の連結部32,32は、やはり、平面的に見て180度の回転対称的な構造を備えており、これら連結部32には、枠ホルダ本体24への装着のための係合溝32a及び係合穴32bが形成されている。上記したように、この保持体21の左右の幅寸法L2(連結部32の外縁から連結部32の外縁までの間の寸法)は、前記いずれの種類の刺繍枠20の幅寸法L1とも相違するように設定されている。尚、この保持体21についても、被加工物Wの大きさや形状等に応じて複数種類を用意しておくようにしても良い。
【0042】
そして、上記した刺繍枠20や保持体21が装着(連結)される枠ホルダ本体24は、以下のように構成されている。即ち、図3に示すように、この枠ホルダ本体24は、前記X方向キャリッジ23の上面部に固定的に取付けられている。枠ホルダ本体24は、固定的に取付けられる固定腕部33と、枠ホルダ本体24に対して位置変更可能に取付けられる可動腕部34とを備えている。可動腕部34は、装着すべき刺繍枠20及び保持体21の種類つまり幅寸法L1(L2)に応じて、ユーザにより左右方向に位置変更されるものである。
【0043】
前記固定腕部33は、X方向に長く延びる板状をなす枠ホルダ本体24の主部24aの右端部の上面に重なるように取付けられ、ほぼ直角に折曲って前方に延びる右腕部33bを有している。この右腕部33bの上面には、先端に位置して係合ピン35が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね36が取付けられている。前記係合ピン35は、前記刺繍枠20の連結部30の係合溝30a、或いは、前記保持体21の連結部32の係合溝32aに係合する。
【0044】
前記可動腕部34は、前記右腕部33bとほぼ左右対称的な形状をなし、その基端部(後端部)が、前記枠ホルダ本体24の主部24aの左側部分の上面に重なるように取付けられる。この可動腕部34の上面には、先端に位置して係合ピン37が設けられていると共に、その後側に、連結部30,32の挟持用の板ばね38が取付けられている。前記係合ピン37は、前記刺繍枠20の連結部30の係合孔30b、或いは、前記保持体21の連結部32の係合孔32bに係合する。
【0045】
この可動腕部34は、基端部に左右方向に長い案内溝34aを有し、前記枠ホルダ本体24の主部24aの上面に設けられた案内ピン39が、その案内溝34a内に係合することにより、前記枠ホルダ本体24の主部24aに対し、左右方向にスライド移動可能に設けられている。また、図示はしないが、前記枠ホルダ本体24の主部24aには、可動腕部34を複数の所定位置で選択的に固定するための位置決め固定機構が設けられている。ユーザがこの位置決め固定機構を操作することにより、可動腕部34の左右方向位置が変更可能である。
【0046】
これにて、ユーザは、装着すべき刺繍枠20或いは保持体21の種類即ち幅寸法L1、L2に応じて可動腕部34を適切な位置に固定した状態で、刺繍枠20或いは保持体21を枠ホルダ本体24に装着する。図3に例示するように、刺繍枠20を装着するにあたっては、刺繍枠20の左右の連結部30を、夫々、可動腕部34の板ばね38部分、及び、右腕部33bの板ばね36部分に挟み込まれるように前方から差込む。次いで、可動腕部34の係合ピン37に連結部30の係合孔30bを係合させると共に、右腕部33bの係合ピン35に連結部30の係合溝30aを係合させる。これにより、刺繍枠20は、枠ホルダ本体24に保持され、移送機構18によってX,Y方向に移動されるのである。保持体21の場合も、同様にして枠ホルダ本体24に装着することができる。
【0047】
このとき、前記X方向キャリッジ23には、図3、図6に示すように、可動腕部34の位置を検出することに基づいて、装着されている刺繍枠20(保持体21)の種類を検出するための枠種類検出センサ40が設けられている。図示はしないが、この枠種類検出センサ40は、例えば回転型ポテンショメータからなり、可動腕部34に設けられた例えば傾斜面からなる被検出部に当接する検出子を有し、可動腕部34の左右方向位置によってその検出子の回動位置(角度)が変動することに応じて、抵抗値(出力電圧値)が変動する。
【0048】
図6に示すように、この枠種類検出センサ40の出力信号は後述する制御回路41に入力され、この制御回路41にて刺繍枠20(保持体21)の種類を検出(判断)する。従って、これら枠種類検出センサ40及び制御回路41などから、保持体21が装着されているかどうかを検出する検出手段が構成される。
【0049】
さて、本実施形態では、多針刺繍ミシン1は、加工布に対する6色の刺繍糸を用いた通常の刺繍縫製動作の実行が可能であると共に、図7に示すように、保持体21を移送機構18によってX、Y方向に移動させながら、被加工物Wに対し、打刻針10をドット単位で突き当て(突き刺し)、被加工物Wに複数個の小孔Hを形成する小孔形成動作の実行が可能である。このとき、小孔形成動作によって、被加工物Wに対し所定の模様を描画したり、少なくともその模様の輪郭に沿って複数の小孔Hを連続的に形成して被加工物Wを所定形状に切断したりすることが可能とされている。
【0050】
上記したように、小孔形成動作を実行するにあたっては、図2に示すように、6本の針棒8のうち左端の針棒8(針棒番号6番)に、縫針9に代えて打刻針10が装着される。この打刻針10は、先端(下端)が被加工物Wに対して小孔Hを形成するに適した尖った形状をなし、縫針9よりも短く構成されている。即ち、この打刻針10は、針棒8の最下位置(下死点)において、保持体21に保持された被加工物Wに突き刺さって貫通し、その先端が、保持体21に設けられた弾性体31bの厚み方向途中部で止まる長さ寸法とされている。
【0051】
ちなみに、図7に示すように、本実施形態では、打刻針10を用いた小孔形成動作によって形成される1個の小孔Hの直径寸法φBは、例えば0.1mmとされている。尚、図2に示すように、打刻針10が装着された針棒8については、押え足11が取外される。針棒番号6番の針棒8に打刻針10が装着されている場合には、刺繍縫製動作は、残りの5本(針棒番号1番から5番)の針棒8を使用して(5色の刺繍糸で)行われることは勿論である。
【0052】
図6は、本実施形態に係る多針刺繍ミシンの電気的構成を、全体を制御する制御手段としての制御回路41を中心にして概略的に示している。この制御回路41は、コンピュータ(CPU)を主体として構成され、ROM42、RAM43、外部メモリ44が接続されている。前記ROM42には、刺繍縫製制御プログラム、小孔形成動作制御プログラム、打刻データ作成プログラム、各種制御用データ等が記憶されている。前記外部メモリ44には、多数種類の刺繍縫製用の模様データや、後述するラインデータ(図8参照)、打刻データ等が記憶されている。
【0053】
この制御回路41は、前記操作パネル16の各種操作スイッチ45の操作信号が入力されると共に、液晶ディスプレイ46の表示を制御する。このとき、ユーザは、液晶ディスプレイ46の表示を見ながら、各種操作スイッチ45を操作することによって、縫製のモード(刺繍縫製モード、小孔形成動作モード、打刻データ作成モード等)を選択したり、所望する刺繍模様や小孔による描画模様を選択指定したりする。
【0054】
また、制御回路41には、糸切れセンサ14の検出信号、前記移送機構18の枠種類検出センサ40の検出信号、主軸の回転位相(針棒8の上下位置)を検出するための主軸回転角検出センサ等を含む各種検出センサ47の検出信号が入力される。そして、制御回路41は、駆動回路48を介して前記ミシンモータ15を駆動制御すると共に、駆動回路49を介して前記針棒選択用モータ17を駆動制御する。
【0055】
そして、制御回路41は、駆動回路50を介して前記移送機構18のY方向駆動モータ26を駆動制御すると共に、駆動回路51を介して前記X方向駆動モータ27を駆動制御し、枠ホルダ本体24(刺繍枠20又は保持体21)を自在に移動させる。更に、制御回路41は、駆動回路52,53,54を夫々介して、ピッカー(図示せず)の駆動源となるピッカーモータ55、糸切り機構の駆動源となる糸切りモータ56、ワイパー(図示せず)の駆動源となるワイパーモータ57を制御し、以て糸切り動作を実行させる。
【0056】
制御回路41は、刺繍縫製制御プログラムの実行(刺繍縫製モード)により、例えば外部メモリ44に記憶されている刺繍縫製用の模様データの中から、ユーザが選択した模様データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、刺繍枠20に保持された加工布に対する刺繍縫製動作を自動で実行させる。このとき、周知のように、上記刺繍縫製用の模様データは、一針毎の針落ち位置(刺繍枠20のX、Y方向の移動量)を示す一針データ(移送データ)、刺繍糸の色(即ち駆動する針棒8)の切替えを指示する色替えデータ、糸切り動作を指示する糸切りデータ、縫製終了データ等を含んでいる。
【0057】
そして、本実施形態では、前記制御回路41は、そのソフトウエア構成(小孔形成動作制御プログラムの実行)により、打刻データに基づいて、ミシンモータ15、針棒選択用モータ17、移送機構18のY方向駆動モータ26及びX方向駆動モータ27等を制御し、保持体21に保持された被加工物Wに対する打刻針10による小孔形成動作を自動で実行させる(小孔形成動作モード)ことが可能に構成されている。
【0058】
この小孔形成動作は、針棒番号6番の針棒8を選択し当該針棒8(打刻針10)を上下動させながら、針棒8の上昇時に被加工物Wを次の小孔形成位置に移動させることを繰返すことにより行われる。このとき、前記打刻データは、打刻針10による一針毎の小孔形成位置(打刻点の位置)、即ち一針毎の被加工物W(保持体21)のX、Y方向の移動量を示す移送データの集合を主体として構成される。
【0059】
本実施形態では、制御回路41は、小孔形成動作を実行させるにあたり、前記枠種類検出センサ40により、前記枠ホルダ本体24に対する保持体21の装着が検出されていることを条件に、小孔形成動作を実行させる。つまり、保持体21の装着が検出されていないときには、ユーザにより小孔形成動作の実行が指示されても、ミシンモータ15の起動を禁止する。
【0060】
そして、本実施形態では、後の作用説明(フローチャート説明)で述べるように、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置としての機能を兼用している。この打刻データは、複数の小孔形成位置(打刻点の位置)を示すデータの集合からなり、被加工物Wに対し複数の小孔Hにより所定の模様を描画するための描画データと、当該被加工物Wに対し前記所定の模様の輪郭に沿って複数の小孔Hを連続的に形成することにより前記輪郭を切断するためのカットデータとの2種類を含んでいる。
【0061】
この打刻データの作成は、例えば、予め外部メモリ44に記憶されている模様の画像データから、模様を構成するライン(線画)を抽出し、そのラインデータから、それら各ラインに沿って複数個の小孔形成位置(打刻点)を設定することにより行われる。本実施形態では、制御回路41は、打刻データ作成プログラムの実行により、打刻データ作成手段として機能し、描画データとカットデータとの双方を作成するようになっている。このとき、制御回路41は、打刻データを作成するにあたり、打刻データの種類が描画データである場合と、カットデータである場合との間で、小孔Hを形成するピッチを異ならせる、つまりカットデータにより形成される小孔Hの孔間ピッチの方が、描画データにより形成される小孔Hの孔間ピッチに比べて小さくなるように、打刻点の位置を設定する。
【0062】
具体的には、本実施形態では、打刻データの種類が描画データである場合には、図7(a)に示すように、ライン上に打刻点を設定する際の孔間ピッチTを、小孔Hの直径φBよりも大きい、例えば0.2mmとなるようにしている。また、カットデータである場合には、図7(b)に示すように、ライン上に打刻点を設定する際の孔間ピッチSを、小孔Hの直径φB以下、例えば0.1mmとするように構成されている。尚、上記各ラインに関して、描画データとカットデータとのどちらのデータを作成するかについては、ユーザがどちらかを指定する構成とすることができる。或いは、ラインが輪郭を構成するものである場合にはカットデータを作成し、それ以外の場合には描画データを作成するといったように、自動設定される構成としても良い。
【0063】
また、制御回路41は、上記のように打刻データを作成(或いは編集)するに際し、その打刻データに基づいて、被加工物Wに対し複数の小孔Hが形成される状態の画像を、前記液晶ディスプレイ46に表示させる(編集画面)ようになっており、液晶ディスプレイ46と共に表示手段として機能する。このとき、制御回路41は、前記描画データに基づく模様の画像と、前記カットデータに基づく輪郭の画像とを、異なる表示態様で表示させる。具体的には、本実施形態では、例えば図10に示すように、描画データに基づく模様の画像を、1本がある程度の長さを有する破線で表示し、カットデータに基づく輪郭の画像を、細かい点の集合で表示する。
【0064】
そして、これも後のフローチャート説明にて詳述するように、制御回路41は、上記打刻データの作成と共に、被加工物Wに複数の小孔Hが形成される状態を変更するために、必要に応じて、打刻データの補正、つまり描画データ及び/又はカットデータの補正を行うようになっている。このとき、制御回路41は、描画データを作成するに際し、模様の形状に対して特定部位があるかどうかを判断し、特定部位があると判断されたときに、描画データを補正する。特定部位が存在しないと判定された場合には、描画データの補正は行われない。
【0065】
より詳細には、本実施形態では、制御回路41は、描画データのうち連続する3個の打刻点を直線で順につないだときに形成される角度θを求め、所定角度(例えば角度45°)以下の鋭角である場合にその部位を第1特定部位と判断し、また、描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わる若しくは接する部位を第2特定部位と判断する。そして、制御回路41は、特定部位がある場合に、それら特定部位の打刻点を間引く補正を行う。
【0066】
更に、本実施形態では、制御回路41は、カットデータを作成するに際して、打刻種類がカットである複数のラインをまとめて一つの閉じた(ループ状の)ラインとし、その
カットデータのうち、小孔形成動作の開始部分に位置する最初のN個(例えば5個)の打刻点について、二重の打刻が行われるように打刻点を最後に追加する補正を行う。従って、制御回路41が、判断手段及びデータ補正手段としても機能するのである。
【0067】
次に、上記構成の作用について、図8から図19も参照して述べる。尚、ここでは、図9等に示すように、例えば、耳が大きなネズミの顔のキャラクタCについて、被加工物Wに対し、その内部の模様(両目、鼻、口の各パーツや顔と耳との境界線)を描画すると共に、その模様の輪郭(外形)を切断するための打刻データを作成する場合を具体例としてあげながら説明する。図8(a)は、図9のキャラクタCにおけるラインデータの構成の例を示している。このラインデータは、単位となるライン毎のライン番号、各ライン毎の打刻種類即ちカット(切断)か描画かの種別、各ラインを構成する複数の構成点(ラインを連続した直線線分に近似した場合の各線分の両端の点)の位置座標の集合からなる。
【0068】
例えば図9において、キャラクタCのうち、左耳の外形(輪郭のうち左耳部分)を構成するラインが、ライン番号1であり、打刻種類はカット(切断)であり、構成点は、点P0、P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7である。また、キャラクタCのうち、左耳と顔との境界を構成するラインが、ライン番号2であり、打刻種類は描画であり、構成点は、点P0、P7である。尚、小孔形成動作の動作順序は、描画データに基づく模様描画が先で、その後カットデータに基づく動作が行われる。またその中では、ライン番号の若い順に動作が行われる。
【0069】
さて、上記のように、制御回路41は、例えばユーザの選択指示により、外部メモリ44或いはROM42に記憶されている模様の画像データから、模様を構成するライン(線画)を抽出し、そのラインデータから、それら各ラインに沿って複数個の小孔形成位置(打刻点)を設定して打刻データを作成する処理を行う(打刻データ作成モード)。図12〜図15のフローチャートは、その際に制御回路41が実行する打刻データの作成処理の手順を示している。
【0070】
そのうち、図12のフローチャートは、メインルーチンを示し、図13のフローチャートは、図12のうちの打刻データ生成処理(ステップS5)の詳細な手順を示している。また、図14のフローチャートは、図13のうちの描画データ作成処理(ステップS14)の詳細な手順を示し、図15のフローチャートは、図13のうちのカットデータ作成処理(ステップS20)の詳細な手順を示している。
【0071】
即ち、図12に示すように、ステップS1では、上記ラインデータを得るべく、模様を構成するラインの構成点の入力処理が行われる。この処理は、例えば、模様(キャラクタC)の画像を液晶ディスプレイ46に表示し、ユーザがその画面上で各ラインの構成点を順次指定することにより行われる。或いは、制御回路41が自動で各ライン及びその構成点を抽出するようにしても良い。次のステップS2では、各ライン(ライン番号1〜10)に関する、打刻の種類の設定が行われる。この処理についても、ユーザの指示或いは自動により行うことができる。このステップS1及びS2の処理によって、図8(a)に示すようなラインデータが得られる。
【0072】
次のステップS3では、前記ラインデータ(図8(a)参照)のうち、打刻種類が「カット」である複数のラインを、まとめて一つの閉じたラインとする処理が行われる。これにより、図8(a)の段階では、ライン番号1,3,4,6の4つのラインであったものが、図8(b)に示すように、構成点P0から始まって輪郭(外形)全体に沿ってループを描くように延び、構成点P19から構成点P0に戻る1つのライン(ライン番号7)に集約されるのである。そのラインの変更に伴って、打刻種類が「描画」であった各ラインは、空いたライン番号に順に繰上がるようになる。
【0073】
ステップS4では、打刻種類が「描画」となるラインの、打刻種類が「カット」となるラインとの交点が計算され、RAM43内の交点メモリに記憶される。ここで、交点とは、打刻種類が「描画」となるラインが、打刻種類が「カット」となるライン(輪郭を構成するライン)と交わるもしくは接する部分のことをいい、これが第2特定部位となる。図9(図8のラインデータ)の例では、構成点P0、P7、P12、P19が、交点(第2特定部位)として交点メモリに記憶される。
【0074】
次のステップS5では、上記ラインデータから、打刻データを生成する処理が実行される。この処理の詳細については、図13のフローチャート説明において述べるが、このとき、小孔Hを形成する孔間ピッチが、打刻データの種類がカットデータである場合に、描画データである場合(例えば0.2mm)に比べて、より小さくなる(例えば0.1mm)ように、打刻点の位置が設定される。ステップS6では、ステップS5で作成された打刻データ(打刻点の位置座標のデータの集合)をステッチデータ、即ち、一針毎の保持枠21(被加工物W)のX及びY方向の移動データに変換する処理が実行され、打刻データの作成処理が終了する。
【0075】
次に、図13〜図15のフローチャートを参照しながら、上記の打刻データ生成処理の詳細について述べる。まず、図13において、ステップS11では、ライン番号を示すための変数iに1がセットされる。次のステップS12では、変数iがライン総数以下であるかどうかが判断される。図8(b)の例では、ラインの総数は7である。変数iがライン総数以下である場合には(ステップS12にてYes)、ステップS13に進み、i番目のラインの打刻種類が描画であるかどうかが判断される。打刻種類が切断(カット)である場合には(ステップS13にてNo)、そのままステップS16に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS12に戻る。これに対し、打刻種類が描画である場合には(ステップS13にてYes)、ステップS14に進み、i番目のラインに沿った描画データの作成処理が実行される。
【0076】
図14のフローチャートは、図13のステップS14におけるi番目のラインに関する描画データの作成処理の詳細を示している。即ち、まずステップS31では、i番目のラインの、構成点(何番目か)を示すための変数kに1がセットされると共に、描画データバッファがクリアされる。ステップS32では、変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下かどうかが判断される。図8(b)、図9の例においては、例えば、ライン番号1では、ラインの構成点の総数が2、ライン番号3では、ラインの構成点の総数7がとなっている。
【0077】
変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下である場合には(ステップS32にてYes)、ステップS33にて、i番目ラインのk番目構成点Pkと、k+1番目構成点Pk+1との間(両端を含む)を、孔間ピッチT(例えば0.2mm)で刻む各点(打刻点)の位置を計算し、描画データバッファに追加する処理が行われる。ステップS34では、変数kが1だけインクリメントされ、ステップS32に戻る。これにて、i番目ライン上に沿って孔間ピッチTで複数の小孔Hを順次形成するための打刻点の集合からなる描画データが得られる。
【0078】
変数kが、(i番目ラインの構成点の総数−1)を越えたときには(ステップS32にてNo)、ステップS35に進み、打刻点(何番目か)を示す変数jに3がセットされる。次のステップS36では、変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)以下かどうかが判断される。変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)以下である場合には(ステップS36にてYes)、ステップS37に進み、第1特定部位かどうかの判断及び補正の処理が行われる。
【0079】
このステップS37では、第1特定部位か否かの判断のために、図16にも示すように、j番目の打刻点Ejを中心とした連続する3点の打刻点、つまり、Ej‐1 、Ej、Ej+1 を直線でつないだときに形成される角度θを求め、その角度θが所定角度(例えば45°)以下かどうかが求められる。上記角度θを求めるに際しては、図16に示すように、点Ejを始点とし点Ej‐1 を終点としたベクトルを求めると共に、点Ejを始点とし点Ej+1 を終点としたベクトルを求める。これらベクトルは、次の(1),(2)式で表される。従って、cosθは、次の(3)式で求めることができる。
【数1】
【0080】
そして、角度θが所定角度45°以下である場合(第1特定部位と判断された場合)には、図17にも示すように、Ej‐1 及びEj+1 の2点の打刻点を間引く(描画データバッファから削除する)補正が行われる。これにより、例えば図17に示すように、描画データに、打刻点Eが鋭角をなして並ぶような第1特定部位が存在した場合(図9のキャラクタCでは鼻の上端部の部位等)、尖った角部部分における頂点(図17の例では構成点P32)に隣り合う2個の打刻点を間引く補正が行われる。次のステップS38では、変数jが1だけインクリメントされ、ステップS36,S37の処理が繰返される。
【0081】
そして、変数jの値が、(i番目ラインに係る打刻点の総数−2)を超えた場合には(ステップS36にてNo)、ステップS39に進み、第2特定部位かどうかの判断及び補正の処理が行われる。このステップS39の処理は、描画データバッファに記憶されている打刻点のうち、第2特定部位即ち輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部分の打刻点の一部を間引くことにより行われる。具体的には、図12のステップS4にて既に交点メモリに記憶されている交点のデータを読出し、その交点に近い打刻点を削除することが行われる。図18の例(左耳部分の例)では、構成点P0とP7とを結ぶライン上の両端の打刻点が削除される。これにて、i番目のラインに係る描画データの作成が完了し、この処理を終了する。
【0082】
図13に戻って、次のステップS15では、描画データバッファに書込まれた描画データ(複数の打刻点の位置)が、全て打刻点バッファに追加コピーされる。そして、ステップS16に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS12に戻る。ステップS12からの処理を繰返すことにより、打刻種類が描画である各ライン(図8(b)の例ではライン番号が1〜6)についての描画データが作成される。変数iがライン総数を越えた(8になった)ときに、ステップS12にてNoと判断され、描画データ作成に関する処理が終了する。以上の処理にて、描画データからは、第1特定部位及び第2特定部位に対する打刻点の一部を間引くような補正が行われている。
【0083】
このように描画データ作成に関する処理が終了すると、以降において、カットデータの作成処理が行われる。まずステップS17では、ライン番号を示すための変数iに再び1がセットされ、ステップS18では、変数iがライン総数(この場合7)以下であるかどうかが判断される。変数iがライン総数以下である場合には(ステップS18にてYes)、ステップS19に進み、i番目のラインの打刻種類がカット(切断)であるかどうかが判断される。打刻種類が描画である場合には(ステップS19にてNo)、そのままステップS22に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS18に戻る。これに対し、打刻種類がカットである場合には(ステップS19にてYes)、ステップS20に進み、i番目のラインに沿ったカットデータの作成処理が実行される。
【0084】
図15のフローチャートは、ステップS20におけるi番目のラインに関するカットデータの作成処理の詳細を示している。即ち、まずステップS41では、i番目のラインの、構成点(何番目か)を示すための変数kに1がセットされると共に、カットデータバッファがクリアされる。ステップS42では、変数kが、(i番目ラインの構成点の総数−1)以下かどうかが判断される。図8(b)の例においては、ライン番号7では、ラインの構成点の総数が21となっている。
【0085】
変数kが、(ラインの構成点の総数−1)以下である場合には(ステップS42にてYes)、ステップS43にて、i番目ラインのk番目構成点Pkと、k+1番目構成点Pk+1との間(両端を含む)を、孔間ピッチS(例えば0.1mm)で刻む各点の位置を計算し、カットデータバッファに追加する処理が行われる。ステップS44では、変数kが1だけインクリメントされ、ステップS42に戻る。これにて、i番目ライン上に沿って孔間ピッチSで複数の小孔Hを順次形成するためのカットデータが得られる。変数kが、(ラインの構成点の総数−1)を越えたときには(ステップS42にてNo)、ステップS45に進み、カットデータの補正の処理が行われる。
【0086】
このカットデータの補正は、小孔形成動作の開始部分に、二重の打刻が行われるように、N個(例えば5個程度)の打刻点を、カットデータの最後に追加することにより行われる。具体例をあげると、図19(a)に示すように、カットデータの作成処理(ステップS43)では、最初の打刻点E1となり、E2、E3、E4、E5、E6‥の順に小孔形成動作が開始され、打刻点En-3 、En-2 、En-1 、En(打刻点E1に一致する)の順で動作が終了する。これに対し、補正により、図19(b)に示すように、打刻点En+1 、En+2 、En+3 、En+4 、En+5 、の5点(E2〜E6に夫々一致)が、カットデータの最後に追加されるのである。
【0087】
以上の処理が終了すると、図13に戻って、次のステップS21では、カットデータバッファに書込まれた補正後のカットデータ(複数の打刻点の位置)が、全て打刻点バッファに追加コピーされる。そして、ステップS22に進み、変数iの値が1だけインクリメントされた上で、ステップS18に戻る。ステップS18からの処理を繰返すことにより、打刻種類がカットである全てのライン(図8(b)の例ではラインは1つのみ)についてのカットデータが作成される。変数iがライン総数を越えた(8になった)ときに、ステップS18にてNoと判断され、カットデータ作成に関する処理が終了する。
【0088】
これにより、被加工物Wに対し、多数個の小孔Hを形成することによって、上記キャラクタCの内部の模様を描画し、且つ、キャラクタCの外形輪郭で切断(カット)するための、一針毎の打刻針10の打刻位置(保持体21のX、Y方向の移動量)を示すデータの集合からなる打刻データが作成されるのである。このとき、描画データとカットデータとの間では、夫々に適した小孔Hの形成ピッチで打刻データが作成される。
【0089】
また、上記した打刻データ作成の処理時においては、図10に例示するように、液晶ディスプレイ46の画面には、被加工物Wに対し複数の小孔Hが形成される状態のキャラクタCの画像が表示される。このとき、描画データに基づく模様の画像と、カットデータに基づく輪郭の画像とが、異なる表示態様で表示される。例えば、描画データに基づく模様の画像は、1本がある程度の長さを有する破線で表示され、カットデータに基づく輪郭の画像は、細かい点の集合で表示される。これにより、ユーザに対し、描画データとカットデータとを区別して、判りやすく表示することができる。
【0090】
本実施形態の多針刺繍ミシン1においては、通常の縫製動作に加えて、上記のように作成された打刻データを用いた、紙等の被加工物Wに対する小孔形成動作を実行させることができる。小孔形成動作を実行させるにあたっては、ユーザは、特定の針棒8(針棒番号6番)に打刻針10を装着すると共に、被加工物Wを保持させた保持体21を、枠ホルダ本体24に装着する。そして、所望の模様の打刻データの選択(読出し)を行って動作をスタートさせる。
【0091】
このとき、本実施形態では、多針刺繍ミシン1の制御回路41は、小孔形成動作を開始する(ミシンモータ15を起動する)にあたって、枠種類検出センサ40の検出に基づいて保持体21が装着されているかどうかを判断し、保持体21が装着されていることを条件に小孔形成動作を実行させる。つまり、刺繍枠20が装着されている状態では、小孔形成動作が禁止され、エラー報知が行われる。逆の場合、つまり保持体21が装着されている状態で刺繍縫製動作を実行させようとした場合も同様に、動作が禁止されると共に、エラー報知が行われる。
【0092】
制御回路41は、打刻データに基づいて、移送機構18を制御して保持体21ひいては被加工物WをX、Y方向に自在に移送させながら、針棒選択用モータ17により、打刻針10が装着された特定の針棒8(針棒番号6番)を選択的に駆動させることにより、打刻針10による小孔形成動作を実行する。これにて、打刻データに応じた被加工物Wの所定位置に打刻針10が順に突き当てられ、図5(a)に示すように、被加工物Wに多数個の小孔Hが形成される。
【0093】
このとき、図11に一部(左耳付近の部分)を拡大して例示するように、被加工物Wには、描画データに基づいて、キャラクタCの顔の所定の模様(両目、鼻、口の各パーツや顔と耳との境目)が描画されるように小孔Hが複数個形成される。次いで、カットデータに基づいて、キャラクタCの輪郭に沿って複数の小孔Hが連続的に形成されるようになる。この場合、描画模様と、輪郭とでは、小孔Hの大きさ(φB)は一定であるが、描画模様では、隣り合う小孔H間に一定の間隔があるのに対し、輪郭については、多数個の小孔Hが隣の小孔Hとつながるように形成される
【0094】
これにより、小孔Hの集合が輪郭に沿って延びる切込みとなり、この結果、図5(b)に示すように、被加工物WからキャラクタCの輪郭を切取ることができるようになる。ここで、カットデータに基づく小孔形成動作を行う場合、小孔形成動作の開始部分や終了部分は、ミシンモータ15による縫製動作に加速、減速を伴うため、打刻針10における打刻にいわば勢いが不足して小孔Hの形成が不十分となる虞がある。ところが、上述のように、カットデータに打刻点を追加する補正が行われており、小孔形成動作の開始部分について二重の打刻が行われる。従って、被加工物Wに確実に小孔Hが形成されて切断されやすくなり、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生が防止される。
【0095】
そして、描画データにおいては、小孔Hの形成間隔がカット(切断)の場合に比べて比較的大きくなるので、小孔H同士がつながることがなく、確実に描画作業が行われる。ところが、模様の局部的な形状によっては、模様が鋭角的な場合に、その尖った角部分において被加工物Wに切れ目(3個或いはそれ以上の小孔がつながった穴)が形成される虞があり、また、輪郭部分と連続する部分についてカット部分から切込みが生じたりする虞もある。これに対し、描画データにおいても、模様が鋭角形状である第1特定部位、及び、輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する第2特定部位の有無が判断され、それら特定部位については、打刻点の一部が間引かれる補正によって、より切断されにくくなり、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れを効果的に防止することができる。
【0096】
このように本実施形態によれば、多針刺繍ミシン1を、打刻針10を用いて、シート状の被加工物Wに対して小孔Hにより模様を描画する装置、及び、被加工物Wを所望形状に切断する装置として兼用することが可能となる。このとき、オプションとしてのカッター装置や、別途のカッティングプロッタを用いずに、被加工物Wの切断が可能となるので、安価に済ませることができる。被加工物Wを一旦取外すことなく、模様の描画と切断とを連続して、つまり一連の動作で同時に行うことができるので、模様と、切断される輪郭との間に位置ずれが生ずることなく済ませることができる。
【0097】
また、本実施形態では、多針刺繍ミシン1が打刻データ作成装置として機能し、描画データ及びカットデータの双方を作成する打刻データ作成手段の機能を備えるので、被加工物Wに対する所定の模様の描画と、その模様の輪郭に沿った被加工物Wのカット(切断)との双方を可能とする打刻データを作成することができるという優れた効果を得ることができる。このとき、カットデータにより形成される小孔Hの孔間ピッチSを、描画データにより形成される小孔の孔間ピッチTよりも小さく構成したので、切断を確実に行なうことができながら、1種類の打刻針10で済ませることができるメリットを得ることができる。
【0098】
そして、本実施形態では、カットデータに対し、小孔形成動作の開始部分について二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うようにしたので、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができる。さらに、模様の形状に対して特定部位が在ると判断した場合に、描画データの打刻点の一部を間引く補正を行うように構成したので、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れを効果的に防止することができる。このとき、特定部位として、模様が鋭角形状である部位、及び、輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位の双方について、打刻点の一部を間引く補正を行うようにしたので、より効果的となる。
【0099】
(2)第2の実施形態、その他の実施形態
図20は、本発明の第2の実施形態を示すもので、打刻データ作成装置71の外観構成を示している。この打刻データ作成装置71は、例えば汎用のパーソナルコンピュータシステム等からなり、多針刺繍ミシン1とは独立した装置として構成されている。打刻データ作成装置71により作成された打刻データが多針刺繍ミシン1に与えられる。この打刻データ作成装置71は、作成装置本体72に、例えばカラーCRTディスプレイからなる表示装置73、キーボード74及びマウス75、カラー画像の読取りが可能なイメージスキャナ76、例えばハードディスクドライブからなる外部記憶装置77を接続して構成されている。
【0100】
前記作成装置本体72は、パーソナルコンピュータ本体からなり、詳しく図示はしないが、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、例えばCDやDVD等の記録媒体(光ディスク)に対するデータの読込み及び書込みを行う光ディスクドライブ装置78などを備えている。打刻データ作成プログラムは、例えば外部記憶装置77に予め記憶されていたり、或いは、CDやDVD等の記録媒体に記録された状態で、その記録媒体が前記光ディスクドライブ装置78にセットされて読取られる。
【0101】
打刻データ作成プログラムの実行時には、前記表示装置73には、打刻データを作成するための模様や必要な情報が表示され、ユーザ(オペレータ)がキーボード74やマウス75を操作することにより、必要な入力,指示を行う。さらには、前記イメージスキャナ76により、打刻データを作成したい模様の原画の画像データを読込むことができる。尚、イメージスキャナ76に代えて、デジタルカメラ等においてデジタル化された画像データ(写真等)を取込むように構成しても良い。
【0102】
前記作成装置本体72は、打刻データ作成プログラムの実行により、ユーザが例えば前記イメージスキャナ76により読込ませた模様の原画の画像データから、前記多針刺繍ミシン1にて小孔形成動作を実行するための打刻データの作成処理を実行する。この場合も、作成装置本体72が、描画データ及びカットデータの双方を作成する打刻データ作成手段としての機能と、それら描画データ及びカットデータの双方を補正するデータ補正手段としての機能とを備える。これにより、被加工物Wに対する所定の模様の描画と、その模様の輪郭に沿った被加工物Wの切断との双方を可能とする打刻データを作成することができ、しかも、模様の描画を行う際の被加工物Wの破れや、模様の輪郭形状を切断する際の未切断部の発生を効果的に防止することができるという優れた効果を奏する。
【0103】
尚、上記各実施形態では、打刻データとして、描画データ及びカットデータの双方を作成し、またデータ補正手段が双方のデータを補正する構成としたが、データ補正手段が、描画データ又はカットデータのいずれか一方の補正を行うようにしても良い。あるいは、打刻データとして描画データのみを作成する手段を備えていても良く、その場合、データ補正手段が描画データを補正する構成とすることができる。打刻データとしてカットデータのみを作成する手段を備えていても良く、その場合、データ補正手段がカットデータを補正する構成とすることができる。上記実施形態では、描画データを補正するにあたり、模様形状に、第1特定部位及び第2特定部位があるかどうかを判断したが、いずれか一方の特定部位の有無のみを判断して補正するようにしても良い。
【0104】
上記実施形態では、打刻データ作成装置を、多針刺繍ミシン1の制御回路41を兼用したり、汎用のパーソナルコンピュータを用いて構成したが、刺繍縫製可能なミシンに直接的に接続された、或いはネットワーク等を介して接続された装置として構成したり、打刻データ作成の専用機として構成したりしても良い。そして、上記各実施形態では、打刻データの作成を、コンピュータがほとんど自動で行う構成としたが、例えば、画像データからの模様や輪郭を構成する複数のラインの抽出や、種類の設定、小孔形成動作の順序の決定などをユーザ(オペレータ)の入力操作により行なうようにしても良い。
【0105】
その他、刺繍縫製可能なミシンの構成としても、種々の変更が可能であることは勿論である。例えば、針棒ケース7に設けられる針棒8の本数についても、9本や12本などであっても良く、更には1本の針棒を備える刺繍ミシンであっても、縫針と打刻針とを付替えることにより、小孔形成動作の実行が可能である。多針刺繍ミシン1の全体構成や、移送機構18(キャリッジ19)の構成、保持体21の構成等についても、種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【符号の説明】
【0106】
1 多針刺繍ミシン(打刻データ作成装置)
7 針棒ケース
8 針棒
10 打刻針
15 ミシンモータ
16 操作パネル
17 針棒選択用モータ
18 移送機構
19 キャリッジ
21 保持体
25 Y方向駆動モータ
26 X方向駆動モータ
40 枠種類検出センサ
41 制御回路(打刻データ作成手段、データ補正手段)
45 各種操作スイッチ
46 液晶ディスプレイ(表示手段)
71 打刻データ作成装置
72 作成装置本体(打刻データ作成手段、データ補正手段)
W 被加工物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍縫製可能なミシンの針棒に、シート状の被加工物の表面をドット単位で突き当てて小孔を形成するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、
前記打刻データとして、前記被加工物に形成する前記複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、又は、前記被加工物に対し少なくとも前記模様の輪郭に沿って前記複数の小孔を連続的に形成することにより前記輪郭を切断可能とするカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、
前記打刻データに基づいて前記被加工物に複数の小孔が形成される状態を変更するために、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正の少なくともいずれか一方の補正を行うデータ補正手段と
を備えることを特徴とする打刻データ作成装置。
【請求項2】
前記模様の形状に対して特定部位が在るか否かを判断する判断手段を備え、
前記判断手段が、特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記描画データの補正を行うことを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項3】
前記特定部位は、前記描画データのうち連続する3個の打刻点を直線でつないだときに形成される角度が所定角度以下の鋭角である部位、又は、前記描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位であり、
前記判断手段が、前記特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記特定部位の打刻点の一部を間引く補正を行うことを特徴とする請求項2記載の打刻データ作成装置。
【請求項4】
前記データ補正手段は、前記カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の打刻データ作成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるための打刻データ作成プログラム。
【請求項1】
刺繍縫製可能なミシンの針棒に、シート状の被加工物の表面をドット単位で突き当てて小孔を形成するための打刻針を装着し、移送機構により前記被加工物を所定の二方向に関して移送させながら、前記打刻針を上下動させることにより前記被加工物の複数の打刻点に対して小孔を形成する小孔形成動作を実行するための打刻データを作成する打刻データ作成装置であって、
前記打刻データとして、前記被加工物に形成する前記複数の小孔により所定の模様を描画するための描画データ、又は、前記被加工物に対し少なくとも前記模様の輪郭に沿って前記複数の小孔を連続的に形成することにより前記輪郭を切断可能とするカットデータの少なくともいずれか一方を作成する打刻データ作成手段と、
前記打刻データに基づいて前記被加工物に複数の小孔が形成される状態を変更するために、前記描画データの補正、又は、前記カットデータの補正の少なくともいずれか一方の補正を行うデータ補正手段と
を備えることを特徴とする打刻データ作成装置。
【請求項2】
前記模様の形状に対して特定部位が在るか否かを判断する判断手段を備え、
前記判断手段が、特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記描画データの補正を行うことを特徴とする請求項1記載の打刻データ作成装置。
【請求項3】
前記特定部位は、前記描画データのうち連続する3個の打刻点を直線でつないだときに形成される角度が所定角度以下の鋭角である部位、又は、前記描画データのうち打刻点が連続するラインが前記輪郭を構成するラインと交わるもしくは接する部位であり、
前記判断手段が、前記特定部位が在ると判断した場合に、前記データ補正手段は、前記特定部位の打刻点の一部を間引く補正を行うことを特徴とする請求項2記載の打刻データ作成装置。
【請求項4】
前記データ補正手段は、前記カットデータに対して、小孔形成動作の開始部分及び/又は終了部分に、二重の打刻が行われるように打刻点を追加する補正を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の打刻データ作成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の打刻データ作成装置の各種処理手段として、打刻データ作成装置に内蔵されたコンピュータを機能させるための打刻データ作成プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−87696(P2011−87696A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242358(P2009−242358)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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