抗菌性ガラス及びガラスセラミック表面及びその製造方法
約0μmから約2μmの深さにおける金属イオン濃度、特にAg濃度が0.6質量%、好ましくは0.8質量%、最も好ましくは1質量%よりも高い抗菌面を有する製品に関する発明が開示されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌面特性を有するガラス及びガラスセラミック素材、グレーズ及びエナメル、そのような抗菌面の生成方法並びに抗菌素材の利用に関する。抗菌能力は、ガラス若しくはガラスセラミックの表面の上及び/又は内部に注入された1種類以上の金属イオンによって生じる。適用分野としては、例えば、食品に接する製品、台所用品、浴室用品、ディスプレイ、タッチディスプレイ、食品陳列、食品製造、医薬品製造、医薬用包装材、医療機器、淡水処理、貯蔵及び輸送、食品保存、まな板、カウンターの天板、冷蔵庫の棚、大型家電製品、食卓用品、病院用機器がある。
【背景技術】
【0002】
特開2001−192234号公報により、ソーダ石灰ガラスの表面に抗菌性又は撥水性を付与するために、銀又は亜鉛の塩を含む溶液を直列噴射する技術が公知である。Znは、ガラス素材に撥水性を付与するためにのみ塗布されるものであって、抗菌効果を付与するためではない。ガラス表面に抗菌性を付与するためにZnイオンとAgイオンを組み合わせて使用することについては言及されていない。当該明細書においては、Agを抗菌剤として、250℃で0.1重量%の水溶液を表面に噴霧することについてのみ言及がなされている。
【0003】
2001−192234号公報に開示された方法の噴霧技術のみでは、素材表面を抗菌剤で不完全にしか濡らすことができないので、表面の抗菌効果は完全に均一にはならない。
【0004】
特開特許第316320号明細書には、ソーダ石灰ガラスのための溶融塩を用いたイオン交換方法について記載されている。特許第316320号明細書に係る方法においては、素材として、ソーダ石灰ガラス又はアルカリ含有ガラスが用いられている。
【0005】
抗菌性のガラス粉末は、いくつかの特許出願から公知である。たとえば、国際公開第03/018498号明細書では、10ppmを上回る量のヨウ素を含有する抗菌性ガラス粉末が記載されている。国際公開第03/018499号明細書からは、ガラス組成物中のリンの含量が1重量%未満である抗菌性ガラス粉末が公知である。
【0006】
米国特許第5,290,544号明細書からは、0.5重量%を上回る濃度のAgを含有する水溶性ガラスが公知である。このガラスは、Agイオンがガラスマトリックスから放出されることにより抗菌性がもたらされる。このガラスでは、高い含量のB2O5と、低い含量のSiO2を有する。
【0007】
米国特許第6,143,318号明細書より、抗菌効果を備える銀を含有するリン酸ガラスが公知である。
【0008】
抗菌性ホウリン酸ガラス又はホウケイ酸ガラスが、特開平10−218637号公報、特開平8−245250号公報、特開平7−291654号公報、特開平3−146436号公報、特開2002−264674号公報、又は特開2002−203876号公報に記載されている。
【0009】
抗菌効果を有しており、リンの含量が1重量%を上回るガラスが、国際公開第01/03650号明細書から公知である。
【0010】
抗菌性を有する冷蔵庫の棚材用のコーティングについて、国際公開第02/40180号明細書において開示されている。国際公開第02/40180号明細書によると、エポキシ−アクリル酸樹脂のマトリックス、接着促進剤及びフリーラジアル光開始剤に抗菌剤が添加される。その後、抗菌剤を含有するマトリックスを、コーティングとしてガラス素材の上に付着させる。該コーティングは、約20ミクロンの厚さを有している。コーティングをより安定化し、特に耐摩耗性を付与するために、コーティングを、特にUV光により硬化させる。
【0011】
国際公開第02/40180号明細書による、冷蔵庫の棚材等の抗菌性の冷蔵庫用の内部部材は、製造に時間がかかり、さらに棚について硬化処理を行っても磨耗を完全に防ぐことはできないという欠点がある。
【0012】
国際公開第02/32824号明細書より、抗菌性の金属イオンを含有する抗菌性のグレーズが知られている。
【0013】
欧州特許第0942351号明細書では、タッチスクリーンセンサに用いられるガラス素材が開示されている。該ガラス素材の表面は、銀イオンを含有するコーティングによる抗菌効果を示す。
【0014】
欧州特許第1270527号明細書では、ガラス層を有する製品について開示されている。欧州特許第1270527号明細書に示されたガラス層においては、該ガラス層に含まれるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンをイオン交換することにより抗菌効果が得られる。欧州特許第1270527号明細書にはさらに、抗菌性を示す金属イオンは、材料中において、ガラス層の表面付近に高い金属イオン濃度を有する層を形成することが示されている。ガラス素材に関連するイオン交換反応の温度依存性は記述されていない。
【0015】
イオン交換処理において処理温度が低いと、処理時間が大変長くなり、かつ/又は銀イオンを長期間にわたって放出させることが困難になるという欠点を有する。Agイオンは、洗浄過程において表面から大変速く除去される。また、低温では銀がガラスの内部へ拡散するのにより長い時間を要するため、処理時間が大変長くなる。
【0016】
米国特許出願公開第2002/001604号明細書では、抗菌性、抗カビ性、又は抗藻類性の成分が、製品の表面から内部へ拡散したガラス製品が示されている。ソーダ石灰ガラスに銀成分を有する銀コロイドを分散させた場合、約500℃で30分間の熱処理後に、表面が抗菌性を示すことが見出された。当該出願明細書においては、ホウケイ酸ガラス等の他のガラスについて表面に抗菌性を備える方法や、金属イオンがどの程度の深さまで拡散するか、又はASTM 2180試験により、微生物数を対数値で2減少させる抗菌面を得るためには、処理条件をどのように選択しなければならないかについては示されていない。30分間という処理時間は大変長く、高速大量生産には適さない。また、異なる抗菌イオンを組み合わせて使用することについては記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来技術における、上述したものやそれ以外の制限や欠点に鑑みて、抗菌面を有する改良された製品及び抗菌性のガラス素材やガラス様の素材の改良された製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
微生物としては、例えばバクテリア、真菌類、酵母、カビ、藻類及びウイルスが挙げられる。
【0019】
本発明はさらに、Ag、Zn、Cu、Sn、I、Cr、Te、Ge等の所定の抗菌成分が、金属及び/又はイオンの状態で、素材、特にガラス素材の表面に、抗菌効果のある濃度で存在する材料を提供することを目的とする。該表面は、長期間にわたり有効性を維持すると共に、清浄及び洗浄後も有効である。
【0020】
好ましい実施形態において、Ag、Zn、Cu、Sn、I、Cr、Te、Ge等の所定の抗菌成分は、素材の少なくとも1つの表面において高い濃度を有する濃度プロファイルを有する。好ましくは、抗菌イオンの濃度は、素材の深さ方向に向かうにつれて減少する。
【0021】
特別な用途のためには、該材料は、素材の少なくとも1つの表面において、相対的に低い濃度のAg、Zn、Cuイオン等の抗菌成分が、直接その表面上にのみ存在するという濃度プロファイルを有する。こうした特別な場合には、抗菌イオンの濃度は、表面の直下の短い距離において増加し、その後ゼロに減少する。
【0022】
本発明は他に、少なくとも1つの選択された表面領域において抗菌効果を有する、透明で、実質的に無色の素材、特にガラス又素材、ガラス様の素材、またはガラスセラミックを生成する方法を提供することを目的とする。
【0023】
着色された抗菌性のガラス又はガラスセラミックを生成する方法を提供することも、本発明の他の目的である。
【0024】
接触致死性、非浸出性の抗菌効果を有する量の金属イオンを、平坦なガラス又はガラス様表面の面上に有する、少なくとも1つの略平坦な表面を有する製品を提供することが、本発明のさらに他の目的である。
【0025】
本出願において、「非浸出性」という用語は、ヘムホッフ試験(欧州規格(EN)1104)において、例えば、黒色アスペルギルス、枯草菌に対して有意な抗菌効果が検知されないことを意味する。
【0026】
ヘムホッフ試験は、欧州規格(EN)1104の規定による寒天拡散試験である。この試験では、所定濃度の細菌を含む寒天に試料を置く。試料の周囲で細菌の繁殖が起こっていない部分の距離を、mm単位で測定する。
【0027】
他の目的は、装置、特に食品に接する製品として使用される装置を提供することである。該装置は、食品に接する少なくとも1つの表面を有する。食品に接する表面は、少なくとも表面領域において抗菌効果のある濃度の金属イオンが存在する、透明で、基本的には無色のガラス又はガラス様の物質より成る。
【0028】
抗菌剤としてAgイオンを使用する場合、Agの量が一定ならば、着色が強くなると抗菌効果は減少する。着色効果は、金属銀のクラスターによるものである。銀イオンは抗菌効果を有するが、金属銀は抗菌効果を有しない。Agの量を一定に保ち、銀のクラスターの量が増大し着色が強くなると、銀イオンの量が減少し、したがって抗菌効果も減少する。
【0029】
抗菌素材が基本的に無色であれば、短期的な効果については有利である。抗菌素材が無色である場合には、該抗菌素材は、抗菌効果を有する銀イオンを多く含み、銀クラスターを僅かしか含まない。
【0030】
上で述べたとおり、素材の色は主に金属銀のクラスターに起因するものであり、これも上述したようにイオン性の銀のみが抗菌性を有する。素材の変色が起こると、上述したように、それは短期的な抗菌効果が減少したことを示す。
【0031】
特定の用途における長期的な抗菌効果のためには、銀イオンと共に金属銀がナノ粒子(「銀クラスター」等)としてガラスマトリックス中に存在することが有利である。この場合、ナノ粒子は、銀イオンを放出できるように表面の近傍に存在しなければならない。ナノ粒子は、銀イオンの放出システムとして作用する。銀イオンは、酸化等によって金属銀から得られる。
【0032】
レンジ上面、冷蔵庫の棚材、ガラス管等の特定の用途であっても、特定の色を有する素材が好ましい場合もある。
【0033】
こうした色が、イオンの拡散の発生や、銀の場合におけるようなナノ粒子の生成により引き起こされるものであるならば、ナノ粒子の数や粒径によって色を変化させることが可能である。銀の場合、ナノ粒子は通常30nm未満、好ましくは20nm未満、さらに好ましくは10nm未満、最も好ましくは5nm未満の粒径を有している。通常発色可能な色は、例えば、黄色及び赤の波長域の色である。
【0034】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法により、様々な種類の素材、特にガラス素材及びガラスセラミック素材について抗菌面を備えること、及び該方法が例えばフロートガラス素材のみに限定されないということである。
【0035】
本発明の方法によって、アルカリフリーガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製AF37又はAF45等)、アルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社(Mainz)製Fiolax、Illax等)、アルカリ土類−アルカリガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製B270、BK7、AF45等)、Li2O−Al2O3−SiO2−フロートガラスと同様に、ホウケイ酸ガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製Borofloat 33、Borofloat 40、Duran等)等のアルカリ含有フロートガラスも素材として用いることができ、より特殊な用途についてはソーダ石灰フロートガラスを素材として用いることができる。好ましい実施形態では、SCHOTT−DESAG社(Grunenplan)製D263等のディスプレイ用ガラスを素材として用いることができる。原理的には、本発明の方法では、全ての工業用及び光学用ガラスを素材材料として用いることができる。
【0036】
本発明の方法によると、リチウムアルミノケイ酸ガラスセラミック(SCHOTT GLAS社(Mainz)製Ceran、Rodax又はZerodur等)又はマグネシウムアルミノケイ酸ガラスセラミック又はマイカガラスセラミックについて、抗菌面を備えることができる。
【0037】
最も好ましい実施形態では、処理条件は、本発明の方法により提供される抗菌面が、ASTM E2180−01及び/又はJIS Z2801に従った抗菌性の要件を満たすように決定される。
【0038】
さらに好ましい実施形態においては、抗菌面は、ASTM E2180−01及び/又はJIS Z2801に規定される抗菌性の要件を満たし、欧州規格(EN)1104に従った「ヘムホッフ」の形成が見られず、かつ、非浸出性の結果は、食品に接する物質に関するドイツ法(LMBG)及び/又はAgの放出について0.08mg/lを最大許容値とするドイツ飲料水法(Trinkwasserverordnung)第11条の要件を満たす。
【0039】
素材は、例えば、平面ガラス、ガラス管、ガラスレンズ、アンプル、円筒アンプル、瓶、ジョッキ、ガラススクリーン及び他の不規則な形状のガラス部材であってよい。
【0040】
さらに、素材は、例えば平坦又は湾曲した形状のガラスセラミック又はガラス管であってもよい。
【0041】
本発明のさらなる目的は、抗菌性を有する、有色又は無色のガラスセラミックを提供することである。
【0042】
好ましくは、抗菌面を有するガラスが提供される。ガラスは、フロート法及びノンフロート法のいずれによって製造されるものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の第1の実施形態においては、抗菌面は、第1の工程において金属イオンの前駆体物質を、素材、特にガラス又はガラス様又はガラスセラミック素材の表面に、例えば、浸漬、噴霧、スクリーン印刷、ブラッシング等の任意の簡便な手法によって塗布することにより得られる。
【0044】
金属イオンの前駆体物質は、金属イオンの前駆体を適当な溶媒、液体又は希釈剤に分散又は溶解又は混合したものである。
【0045】
金属イオンの前駆体は、例えば、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、硫化物、又は酸化物等の無機物であってもよい。また、ナノ粒子等の有機金属又は金属性の前駆体物質を使用することもできる。これらの成分は、溶液中に溶解及び/又は分散したものであってもよい。
【0046】
好ましい実施形態においては、完全に可溶性の前駆体を使用して、ガラス表面に抗菌剤が最も均一に分布させることが可能になる。
【0047】
前駆体又は前駆体の組成物毎に、ガラス内に浸透する深さは異なる。例えば、銀塩に関しては、浸透する深さは、Ag2SO4、AgNO3、Ag2O、Ag3PO4の順に減少することを見出した。複数の前駆体を混合することにより、特有の拡散特性を得ることができる。塩の種類により色形成も異なる。通常、AgNO3及びAg2SO4は、Ag2O及びAg3PO4よりも強い色形成を示す。
【0048】
このように、前駆体の混合物を適宜選択することにより、長期的及び短期的な抗菌効果、表面層のイオン分布及び色形成を設計し最適化することが可能である。
【0049】
Ag、Zn、Cu、Cr、I、Te又はGeなどの金属イオン前駆体物質及び/又はこれらの金属の化合物等を含む金属イオン前駆体物質を、素材の少なくとも1つの表面に塗布した後、加熱処理の間に抗菌剤の前駆体及び溶媒が分解かつ/又は蒸発し、拡散及び/又はイオン交換により、例えばガラス表面又はガラスセラミック表面等の素材の中又は上に、浸透又は結合するのに好適な温度で加熱する。
【0050】
この方法は、一段階法又は多段階法として実施することが可能である。多段階法は、ガラス、ガラスセラミック又はガラス様材料において、特異な抗菌イオンの分布及びプロファイルが得られる点で有利である。抗菌性の前駆体及び/又は溶媒を分解かつ/又は蒸発させる、素材の加熱工程は、素材についての他の熱処理と同時に行ってもよい。素材についてのそのような熱処理の例としては、化学的な安定化処理、成形処理及び/又は構造強化処理及び/又はコーティング処理及び/又は装飾処理が挙げられる。
【0051】
他段階法の一例である二段階法においては、素材は、好ましくは非晶質ガラスであり、これを、抗菌性の金属イオン前駆体に含まれる全ての揮発性成分を除去するのに十分な第1の温度、溶媒や前駆体物質にもよるが第1の実施形態においては約30℃〜250℃の範囲内まで加熱する。次いで、得られた素材を、第1の実施形態においてはT(g)−300℃〜T(g)+250℃の範囲内の温度である第2の温度で、短時間、例えば第1の実施形態においては約1分〜約30分弱の時間だけ加熱する。ここで、T(g)はガラス転移温度であり、ガラス組成に依存する。好ましい実施形態においては、T(g)−200℃〜T(g)+200℃の範囲内の温度である。転移温度T(g)は、当業者には公知であり、例えば、VDI−Lexikon Werkstofftechnik(1993)の375〜376ページに記載されている。より好ましい実施形態においては、T(g)−100℃〜T(g)+150℃の範囲内の温度である。
【0052】
上述の方法によって、抗菌面を有する製品、特にガラス素材が得られる。抗菌イオンは、素材の表面層の内部に注入されている。表面層は、約10μmの厚さを有する。表面層内部の金属イオン濃度は、表面から素材内部に向かうにつれて減少し、表面層の金属イオン濃度は、表面層の表面から2μmにおいて0.05重量%を、好ましくは0.5重量%を、より好ましくは1.0重量%を、最も好ましくは2重量%を上回る。
【0053】
好ましい実施形態においては、表面層の表面から2μmにおける金属イオン濃度は、0.8重量%よりも高く、好ましくは1.0重量%よりも高く、最も好ましくは1.2重量%よりも高い。深さ約1μmにおける金属イオン濃度の、深さ10μmにおける濃度に対する比は5よりも大きく、好ましくは10よりも大きく、最も好ましくは100よりも大きい。
【0054】
本発明による抗菌面を生成するために使用される最も好ましい金属イオンは、銀(Ag)である。また、Zn又はCu又はSn又はCr又はI又はTe又はGe等の他のイオン又はこれらのイオンの組み合わせであってもよい。
【0055】
バクテリア、酵母及び真菌に対する広範な抗菌効果を達成させたい場合又は相乗効果を利用したい場合には、イオンを組み合わせることが有利である場合がある。
【0056】
例えば、Ag及びCu前駆体を組み合わせると、バクテリア及び真菌に対する抗菌効果が増大すると共に、さらに銀ナノ粒子による着色を避けることができるという利点を有する。
【0057】
ガラスの種類、前駆体のタイプ、表面処理、処理温度及び時間、及び表面の後処理を適宜選択することにより、抗菌イオンについて種々のプロファイルが得られる。用途や経時的な抗菌効果に応じて、例えば、以下のようなプロファイルが得られる。
a)表面からバルクに向かって一定の割合でイオン濃度が減少
b)表面からバルクに向かって一定の割合でイオン濃度が増加
c)a)及びb)の混合型、特にほぼ一定のプロファイル
【0058】
これらのプロファイルには、異なる種類の抗菌イオンを含むものであってもよい。通常、拡散速度及び/又はイオン交換速度の違いにより、抗菌イオンの種類に関するプロファイルはそれぞれ異なっている。
【0059】
より好ましい実施形態においては、抗菌イオンの長期放出を付与するには、抗菌性の金属イオンの、表面層の深さ約0.5μmでの平均濃度の、深さ約2μmから約5μmにおける濃度に対する比が0.5未満に、好ましくは0.1未満に、最も好ましくは0.01未満になるように、処理条件を選択する。
【0060】
比較的高い全金属イオン濃度において低い浸出性を有する好ましい実施形態において、表面から50nmにおける抗菌性の金属イオンの平均濃度が、深さ50nmから1μmの間の平均濃度に対して、約1%以上、好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上減少する。
【0061】
最も好ましい実施形態において、抗菌イオンの長期放出を達成するには、深さ約20nmにおける金属濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比が1:1.1よりも、好ましくは1:5よりも、最も好ましくは1:10よりも小さくなるように、処理条件を選択する。さらに、深さ約10μmにおける金属イオン濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比は、1:5未満に、好ましくは1:10未満に、最も好ましくは1:100未満になるように、処理条件を選択する。
【0062】
最も好ましい実施形態において、初期条件において高い抗菌効果を付与するためには、深さ約20nmにおける抗菌性の金属イオンの濃度の、深さ約1μmにおける金属イオンの濃度の比が、1.1:1よりも大きく、好ましくは5:1よりも大きく、最も好ましくは10:1よりも大きく、深さ約10μmにおける金属イオン濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比は、1:5未満に、好ましくは1:10未満に、最も好ましくは1:100未満になるように、処理条件を選択する。
【0063】
抗菌金属イオンの前駆体は、通常は塩、錯体等の金属化合物を含み、適合するキャリア物質中に溶解ないしは分散しており、ここで金属化合物は、抗菌性の金属イオンとイオン交換が可能である。
【0064】
前駆体は、例えば、抗菌イオンの硝酸塩(好ましくは硝酸銀)、塩化物等の無機塩又は酢酸塩等の有機塩及びこれらの混合物である。
【0065】
媒体は、金属化合物を溶解ないし分散又は懸濁させることが可能な液体又は液体が基となる物質である。キャリア物質は、水又はアルコールが基となるものであってもよい。
【0066】
また、有機油又はシリコーン油等の無機油も、キャリア物質又は媒体として使用可能な物質である。
【0067】
イオン交換及び/又は拡散加熱工程において分解も焼失もしない、前駆体物質の乾燥分に由来する全ての残留物は、抗菌のための焼き戻し工程において完全に除去され、又は洗浄により容易に除去することができる。
【0068】
前駆体物質における抗菌性の金属イオン源の濃度は、含まれる特定の化合物や特定のキャリア物質に若干依存して、広い範囲にわたって変化する場合がある。しかし、前駆体物質における金属イオン源及びキャリア物質の同一性並びに相対濃度は、前駆体が、本発明の処理工程の間に、抗菌効果を有する濃度の金属イオンを、素材の表面領域内へ交換ないし注入させることが可能である範囲にあることが重要である。通常、Ag、Cu、Zn、Cr、I、Te、Ge化合物の濃度が、金属化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01〜約10.0重量%、好ましくは約0.1〜5.0重量%、より好ましくは約0.25〜2重量%であることが、本発明によるガラス又はガラス様素材の表面領域に抗菌効果を有する濃度を付与する上、好適である。
【0069】
前駆体の濃度は、さらに選択した溶媒に対する溶解度によっても制限される。
【0070】
本発明のさらに好ましい実施形態において、本発明者らは、加熱工程の間に抗菌性の前駆体が拡散及び/又はイオン交換によりガラスの表面に浸透するため、温度時間プロファイル及びイオンの初期表面濃度に応じて、素材の表面から内部へ向かう異なる濃度プロファイルを生じさせることが可能であることを見出した。温度が高すぎ、時間が長すぎると、抗菌イオンは材料内へ深く浸透しすぎるため、表面における抗菌効果が低くなりすぎる。温度が低すぎ、時間が短すぎると、表面に固定された抗菌イオンの濃度が低くなりすぎるため、抗菌効果は、例えば水洗により除去されてしまう。
【0071】
特にフロートガラスの場合、Agイオンを抗菌剤として使用すると、金属銀ナノ粒子又はクラスターの形状により、さらに黄色く着色するおそれがある。銀ナノ粒子の形状は、Sn及び/鉄の不純物やガラス表面の上又は内部での全体的な酸化還元状態によって助長される。Fe2+、Sn3+等の酸化還元対を形成する種により、銀イオンは還元を受ける。還元型の銀は銀ナノ粒子を生成し、これが420nm付近の光を吸収するため、黄色を呈する。したがって、抗菌イオンとしてZn及び/又はCu又はAgとZn及び/又はCuとの混合物を使用することが、無色の抗菌性素材を得る必要がある場合には好ましい。異なるイオンによる抗菌性における相乗効果は、有利な効果である。有利な相乗効果は、例えばAg及びZnイオンの、反応構造及び反応場所の違いにより達成されうる。さらに、Ag及びCu塩を溶液中で組み合わせて使用することは、特にCuの方が高い拡散速度を有する高い処理温度において、変色を低減させる上で有利である。
【0072】
さらに改良された実施形態において、本発明者らは、二段階法において抗菌性の金属イオン前駆体に含まれる任意の揮発性成分を除去するのに好適な温度は、約40℃〜約250℃の範囲内にあることを見出した。この温度は、前駆体物質又は溶媒等に依存する。
【0073】
第1の実施形態において、第2の工程では、抗菌イオンは、ガラス表面の上又は内部に注入される。本発明者らは、さらに改良された実施形態において、第2の工程の温度は、抗菌面を製作するのに使用されたガラスの種類及びさらに抗菌イオンの温度依存性の拡散係数に依存することを見出した。本発明者らは、温度依存性のイオンの拡散係数は、イオンの種類のみならず使用する素材の種類にも依存することを見出した。従って、第2の工程に対する温度範囲もまた、素材依存である。第2の工程におけるイオン交換及び/又は拡散温度は、好ましくは、素材、特にガラス素材のガラス転移温度(Tg)よりも約200℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内に入るように選ばれる。より好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約100℃低い温度と、約100℃高い温度の間から選ばれ、最も好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約50℃低い温度と、約50℃高い温度までの温度の間から選ばれる。素材が、本発明のさらなる実施形態において、第2の工程で上に述べたイオン交換/拡散温度まで加熱されるまでの時間は、約1分〜約30分、より好ましくは約1分〜約15分、最も好ましくは約1分〜約5分である。
【0074】
本発明の改良された実施形態において、抗菌面を一段階法で生成することが可能である。一段階法では、素材は、抗菌イオンを素材、特にガラス又はガラス様の素材の表面の上及び/又は内部に注入するのに好適な温度に加熱する。この温度は、素材の種類、特に抗菌面の製造に使用されるガラスの種類及びさらに温度依存性の抗菌イオンの拡散係数に依存する。本発明者らは、温度依存性のイオンの拡散係数は、イオンの種類のみならず使用する素材の種類にも依存することを見出した。したがって、この方法を行う温度領域は素材に依存する。この方法におけるイオン交換及び/又は拡散温度は、好ましくは、素材、特にガラス素材のガラス転移温度よりも約200℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内に入るように選ばれる。より好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約100℃低い温度と、約100℃高い温度間での温度から選ばれ、最も好ましくは、素材のガラス転移温度(Tg)よりも約50℃低い温度と、約50℃高い温度までの温度から選ばれる。素材が、本発明のさらなる実施形態において、第2の工程で上に述べたイオン交換/拡散温度まで加熱されるまでの時間は、約1分〜約30分、より好ましくは約1分〜約15分、最も好ましくは約1分〜約5分である。また、素材をイオン交換温度まで加熱することにより、イオン前駆体物質の揮発性成分が素材から除去される。この一段階法は、二段階法に比べ、処理時間が短いという利点を有する。
【0075】
フロートガラスを素材として使用した場合には、表面層がスズを含有している場合等には、変色することなく、はるかに高濃度の銀をガラス内に注入することが可能である。スズ含有層は、フロートガラスの製造工程において導入される。スズ含有層の厚さは、フロート浴中における大気側で約10〜20nm、浴側で数μmである。さらに、鉄等の不純物がガラス全体に含まれる。多価イオンの酸化還元平衡(例えば、Fe2+とFe3+の間の平衡)は、特にガラス表面から1μmにおいては還元側に移動する。同様に、粘度(還元側では粘度がより低くなる)によってAg+の拡散速度も表面領域における酸化還元平衡に影響される。Ag+がガラス内部に深く拡散しない方が有利であるため、通常低い粘度を示す表面層を除去することが有利である。表面層の除去は、イオン性及び/又は金属性のスズの除去及び、変色が起こってはならない場合には、鉄、特にFe2+の除去という観点からも有利である。
【0076】
フロートガラスの場合、鉄の濃度は、深さ依存のスズの酸化還元状態及び濃度に直接影響を与える。ガラス中のFeの濃度が高くなると、材料内でスズの濃度が最大になったことを示す、いわゆる「スズのこぶ(tin hump)」が多く生成するようになる。この「スズのこぶ」は、変色という観点からは不利である。したがって、変色を伴わないフロートガラスを得るためには、鉄の濃度は1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、さらに好ましくは300ppm未満、最も好ましくは100ppm未満、さらには、50ppm未満でなければならない。
【0077】
抗菌性の層で処理される面に応じて、異なる除去法を使用しなければならない。
【0078】
表面層の除去及び洗浄は、例えば、化学的エッチング又は機械的除去により行うことができる。化学的エッチングは、種々の無機又は有機酸及び/又は塩基並びにそれらの組み合わせにより行うことができる。酸としては、例えばHF、HCl、HNO3が挙げられる。塩基としては、アルカリ水酸化物(NaOH等)又はアルカリ土類水酸化物が挙げられる。さらに、還元による変色作用を避けるために、例えばH2O2若しくはアルカリ土類金属の過酸化物塩(CaO2又はZnO2等)を用いた処理又はO2含有雰囲気下での加熱等の酸化処理を行ってもよい。
【0079】
フロートガラスの場合、酸素含有雰囲気下での酸化熱処理により、黄色化の効果を顕著に抑制することができる。これは、ガラス中におけるAgイオンの酸化還元電位及びAgイオンの拡散速度に影響を与えるガラス表面の酸化還元状態の変化によるものである。
【0080】
銀によって引き起こされる変色を避けるため、多価イオンを含み、ガラス表面に導入すされる化合物を、変色作用を減らすために使用してもよい。例えば、多価イオンの成分は、Ti、Cu、Ce、Cr、Mn、V、Bi、Mo、Nb、Co、Zn、As、Sbであってもよい。これらのイオンを例えばNO3塩で結合させる条件下において、拡散速度と構造強度を変化させて変色を減らすことが可能である。
【0081】
Pd、Pt及びAu等の貴金属を塩又は酸化物としてガラスに添加することが可能である。そのような、貴金属を組み合わせたことによる効果は、還元された銀の金属銀への酸化によって見ることができる。
【0082】
機械的な除去は、通常の研削及び研磨技術を用いて、インラインまたはオフライン処理により行うことができる。低コストの接触研磨処理が好ましい。
【0083】
フロート浴側の面については、スズ含有層の厚さは数μmに及ぶことがあるため、機械的な除去が好ましい。
【0084】
フロート浴側の面の、通常は200μm未満を、好ましくは100μmを、最も好ましくは10μm未満を、1μm未満を除去する。
【0085】
大気面側の、通常は50μm未満を、10μm未満を、1μm未満を、100nm未満を除去する。
【0086】
フロートガラスの表面層を除去すると、非常に高い濃度の銀を、表面に溶液及び/又は分散物によって塗布することができ、ガラスの変色を起こすことなく高い処理温度を実現することができる。表面濃度が15重量%を上回る付近まで変色は見られなかった。
【0087】
ガラス転移温度Tgが約525℃から約545℃の、ソーダ石灰フロートガラス等のアルカリ含有ガラスを素材として使用することが好ましいが、本方法はソーダ石灰ガラス又はアルカリ含有ガラス及び関連するイオン交換処理に限定されない。なぜなら様々な抗菌イオンの拡散定数は選択した処理温度及び時間において十分高く、これらの様々な抗菌イオンは、ホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製BF33、BF40等)、アルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社製FIOLAX、IIIax等)、アルカリフリーアルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社製AF37、AF45等)等の他のガラス表面にも浸透することができるからである。ホウケイ酸ガラスのガラス転移温度(Tg)は約460℃〜600℃の範囲内であり、アルミノケイ酸ガラスについては約550℃〜約700℃、アルカリフリーアルミノケイ酸ガラスについては約650℃〜約800℃である。
【0088】
驚くべきことに、本方法は、例えばナトリウム等と銀のイオン交換が銀イオンの表面内への移動を促進するアルカリ含有ガラスに限定されない。温度が十分高い場合には、明らかに通常の拡散プロセスによっても銀イオンは表面から浸透している。
【0089】
ガラスセラミックも素材として使用することができる。本発明者らは、ガラスセラミックを素材として使用する場合には、金属イオンをガラス表面に拡散させる工程の処理温度は、ガラスセラミックのセラミック化温度及び他のガラス層のガラス転移温度T(g)に依存することを見出した。好ましくは、処理温度は、結晶化温度よりも約300℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内にある。より好ましくは、結晶化温度よりも約200℃低い温度と、約100℃高い温度の範囲内にある。最も好ましくは、結晶化温度よりも約50℃低い温度と、結晶化温度よりも約50℃高い温度の範囲内にある。
【0090】
通常使用することのできるガラスセラミックには、CERAN、ROBAX、又はZerodur(いずれもSCHOTT−GLAS社(Mainz)の登録商標である)等のリチウムアルミノケイ酸(LAS)ガラスセラミック等のようなアルカリ含有ガラスセラミックのみならず、マグネシウムアルミニウムケイ酸(MAS)のようなアルカリフリーガラスセラミックも含まれる。
【0091】
抗菌性の前駆体の塗布は、セラミック化工程の前であっても後であってもよい。イオン交換処理又は拡散処理をセラミック化処理と一緒に行う場合には、イオン交換拡散及びセラミック化を1つの工程のみで行うことが必要である。
【0092】
イオン交換又は拡散後に素材を急冷(エアブロー等により)すると、ガラス素材の構造強度を高めることができる。工程は、上で述べた、ガラス素材を素材とした場合の工程と同じである。
【0093】
本発明の特殊な形態において、拡散工程における温度時間プロファイルを、急冷により構造強度の向上した素材が得られるように設定することは非常に有利である。温度プロファイルを、同一工程において表面の装飾処理を同時に行うことができるように設定することはさらに有利である。3つの処理(抗菌処理、装飾処理及び構造強化処理)を全て1つの工程で行うことができるようになれば、最も有利である。
【0094】
本発明の最も好ましい実施形態において、本発明者らは、Ag塩を金属イオン前駆体として使用する場合において、Ag塩を前駆体物質として他の多価イオンと組み合わせることにより、黄色化を抑制できることを見出した。例えば、Ag塩をCu塩等と組み合わせることで着色を抑制することができる。最も好ましい塩は、硝酸塩、過酸化物等の酸化能を有する塩である。
【0095】
他のイオン前駆体物質の組み合わせも可能である。これは、抗菌性と撥水性を組み合わせなければならない場合等に有利である。この場合には、Ag塩を前駆体物質として、そしてZn塩をさらなるイオン前駆体物質として組み合わせることが可能である。このように組み合わせて使用することは、例えば高い抗菌効果を、着色を伴わずに達成しなければならない場合等に最も好ましい。
【0096】
このような場合、高い抗菌効果を達成するためには、第1の金属イオン前駆体としてAg塩を、第2の金属イオン前駆体としてZn塩を組み合わせることが可能である。
【0097】
さらに、例えばAg、Cu、Zn、Sn、I、Te、Ge、Cr等の異なる抗菌イオンの組み合わせ等、異なる金属イオン前駆体の材料の組み合わせにより、相乗的に抗菌効果を向上させることが可能である。
【0098】
着色ガラス又はガラスセラミックの場合、変色効果の重要性は低い。
【0099】
抗菌イオンを含む溶液に特定の着色剤を添加することも可能である。
【0100】
改良された実施形態において、本発明者らは、金属イオンのキャリア物質として分散物を使用した場合、無機の抗菌性物質の粒子サイズが1μm未満、好ましくは0.5μm未満、最も好ましくは0.1μm未満であるべきことを見出した。これは、均一でムラのない表面を得るためには特に必要性が高い。
【0101】
金属イオン前駆体物質の素材、特にガラス素材上への塗布は、本発明の好ましい実施形態においては、室温又は室温よりもわずかに高い温度で行うことが好ましい。二段階法で行う場合には、塗布物を最初の焼き戻し工程の際に乾燥することができる。
【0102】
好ましい実施形態において、Ag金属化合物の濃度を、金属化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01重量%〜約4重量%の範囲内、好ましくは約0.25重量%〜約1.5重量%の範囲内とすることは、本発明によってガラス、ガラスセラミック又はガラス様素材の表面に抗菌効果のある濃度を付与する上で好適である。
【0103】
Zn金属又はCu金属化合物において、Zn金属又はCu金属化合物の濃度を、金属イオン前駆体における化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01重量%〜約20重量%の範囲内とすることは、本発明によるガラス、ガラスセラミック又はガラス様素材の表面に抗菌効果のある濃度を付与する上で好適である。
【0104】
「抗菌効果のある濃度」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合において、ガラス又はガラス様素材の表面領域に交換ないし注入された抗菌性金属のイオン、原子、分子及び/又はクラスターが、素材の表面領域に、接触した微生物を殺すか、少なくとも成長を阻害するのに十分な速度及び濃度で素材の表面から放出されるような濃度で存在することを意味する。このことを達成するために、好ましい実施形態においては、抗菌効果をもたらす金属イオンの放出速度が、LMBG(ドイツ食品法)の要件を満たし、「ヘムホッフ」を示さない。これは、黒色アスペルギルス及び枯草菌に対する寒天拡散試験(欧州規格(EN)1104によるいわゆる「ヘムホッフ」試験)において、抗菌面から放出や拡散が観測されないことを意味する。
【0105】
種々の工程において所定の温度に到達するための加熱法としては、以下に示す、標準的なローラー炉、バッチ炉、赤外線加熱、レーザー加熱、ガスバーナー加熱、マイクロ波加熱を使用することが可能である。素材の表面処理のみについては、素材の直接表面温度(昇温等)のみをモニターしながら行うことが好ましいため、この工程については、赤外線又はレーザー加熱等の特定の加熱法により行うことができる。
【0106】
特に、レーザー加熱法は、生物学的用途等における構造を有する抗菌面を作成するために使用することができる。それらは、通常の加熱法と組み合わせて使用することもできる。
【0107】
「非浸出性の抗菌性のガラス又はガラス様表面」という用語は、本明細書で使用される場合において、表面の抗菌効果をもたらし、同時にガラス表面の抗菌効果を、通常の皿洗い機等で洗浄した場合においても長期間にわたって維持するためにゆっくりと速度で放出される抗菌イオンを含むガラス又はセラミック若しくはガラスセラミック等のガラス様表面を表すことを意図するものである。
【0108】
好ましい実施形態においては、これらの表面はヘムホッフ試験に合格し、ドイツLMBG法に規定する浸出性の要件を満たすものである。
【0109】
最後の加熱処理の後、例えばドイツLMBG法の要件を満たすように調節するために、塗布溶液からの残留物をガラスから除去し、表面に直接存在する抗菌剤の濃度を、ガラス表面の洗浄工程を実施してもよい。このような工程は、長期にわたり抗菌効果を発揮させるためにガラス内部に高い濃度の抗菌剤を存在させなければならない場合に特に必要である。抗菌イオンの濃度が非常に高く、洗浄を行わなければ、外面から直接放出されるイオンが高すぎて、ヘムホッフ試験及び食品に接する物質に対するLMBG法の要件を満たすことができない場合には、溶液による加熱処理を行う。
【0110】
イオン濃度及び放出の他に、特定の表面領域も抗菌効果について重要な役割を果たす。表面領域は、例えば研削及び研磨処理により改質することができ、これらはイオンの放出に直接影響を与える。こうした処理により、「すりガラス」のような異なる光学的な外観を併せて付与することもできる。通常の研削法では、固定砥粒若しくは遊離砥粒又はサンドブラスト等を使用することができる。表面積を増大させることにより、同一の抗菌効果を発揮させるために必要な、表面における抗菌イオンの総量を減少させることもできる。この方法は、さらに変色効果を回避するためには特に有利である。
【0111】
表面粗さ(Ra)は、粗く研削した表面については5μm〜1μmの間、微細研削した表面については1μm〜0.2μmの間で、研磨することで2nm程度まで低下させることができる。表面粗さを変化させることにより、銀濃度、処理温度及び時定数等の他の処理条件を一定に保ったまま抗菌効果を変化させることができる。
【0112】
高温処理の間の雰囲気は、ガラス表面の上又は内部の酸化還元作用に影響を与える。酸素濃度を増大させると、例えば銀イオンの還元及び金属銀ナノ粒子の形成によりもたらされる変色を抑制する。この効果は、処理温度が高くなると、酸素がガラス内へ拡散する速度及び深さが増大するためにより強くなる。その反面、雰囲気中の酸素は、ガラス表面におけるAg2O等の金属酸化物の生成を促進する。これらの酸化物は非常に安定で、金属イオンの表面への拡散を抑制する。これらの酸化物は、表面における抗菌効果を増大させる。
【0113】
好ましい実施形態においては、これらの金属酸化物は、表面に均一に分散し表面層が肉眼で視認されることのないように制御される。さらに、酸化物は、拭き取りや通常の洗浄等の通常の清浄化処理によって除去されることのないよう表面に固定されている。さらに、濡れ特性や拡散特性に関する表面改質を同時に行ってもよい。
【0114】
本発明の他の実施形態において、抗菌面を塩浴からのイオン交換によって生成してもよい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素を含むガラスを用いて、液体塩浴中で、200℃からT(g)+100℃、好ましくはT(g)、さらに好ましくはT(g)−50℃、最も好ましくはT(g)−150℃の温度でのイオン交換により、Ag、Cu、Zn、Sn等のイオンの拡散が達成される。アルカリ成分を含まないガラスについては、さらに簡素化された拡散工程により抗菌面が得られる。液体塩浴の温度は、ガラスの融点に依存する。
【0115】
イオン交換後に素材の焼き戻しを行うことにより、抗菌イオンを材料内にさらに深く拡散させることができる。好ましい実施形態において、素材、特にガラス素材の着色が起こらず、素材が可視波長領域で高い透過率を有するように処理条件が選択される。
【0116】
所定量の抗菌イオンを含む表面層を有するガラス素材を、例えば塩浴内等で再度処理することにより、さらにもう1度抗菌イオンを、Naイオン等と交換することができる。残っているAgイオンを、材料内にさらに深く拡散させることができる。Agイオンは、その後素材内部に注入される。
【0117】
イオン交換が起こったガラスの部分と、イオン交換が起こっていないガラスの部分との間で応力が発生する可能性がある。これを、抗菌面を有するケミカルプレストレスガラスの製造に利用することが可能である。
【0118】
ケミカルプレストレス用の材料の場合、ガラスを、抗菌イオンを含む組成物と混合することにより、抗菌面を有するプレストレスガラスが得られる。このような場合には、ガラスは、1段階で化学的にプレストレス処理され、抗菌面が付与される点で有利である。
【0119】
抗菌効果を達成するためには、イオン交換処理時間が、60分未満、好ましくは10分未満、最も好ましくは5分未満と大変短いことが適当である。
【0120】
溶融塩浴中でのイオン交換処理温度は、好ましくはT(g)+50℃未満である。塩浴の融点程度の低い温度で処理することも可能である。
【0121】
塩浴の他に、溶融ペーストを素材に塗布することも可能である。特に、AgCl、AgNO3、ZnCl又はZnNO3を含むペーストを素材の上に塗布し、あるいは素材に焼き付けることが可能である。ペーストは、焼き戻し後に素材からブラシで取り除くことができる。
【0122】
適当な融点又は適当な温度プロファイルを有する場合には、素材の表面においてほぼ100%のイオン交換率を達成することが可能である。
【0123】
金属化合物を素材の表面上に導入する他の可能な方法は、例えばフォイル状のポリマー素材の表面上に導入する方法である。レーザーによる加熱等の熱処理により、金属イオンを表面内に拡散させることが可能である。レーザーにより、素材の表面上に所定の構造を付与することができる。
【0124】
上に述べた方法によって、ガラスセラミックの表面に抗菌面を付与することも可能である。ガラスセラミックの処理は、セラミック化の前であっても後であってもよい。
【0125】
Ag、Zn又はCuを含む溶融物又はペーストは、例えば、下記の成分を含んでいてよい。
塩化銀
硝酸銀
酸化銀
銀
有機銀化合物
無機銀化合物
塩化銅
酸化亜鉛
硝酸亜鉛
塩化亜鉛
有機銅化合物又は有機亜鉛化合物
無機銅化合物又は無機亜鉛化合物
同様に、Ag、Cu、Sn、Zn等の抗菌イオンの全ての塩を含み、処理温度まで安定な任意の塩等の他の任意の化合物を含んでいてもよい。
【0126】
Znは素材、特にガラス素材を着色しないため、Zn化合物はAg化合物よりも有利である。
【0127】
抗菌面を付与する工程を、ガラスを処理する他の工程と組み合わせてもよい。特に有利な場合においては、ガラス素材を抗菌化する工程とガラスにプレストレスを付与する工程を組み合わせることが可能である。ガラス表面に抗菌性を付与するためには、ガラスにプレストレスを付与するための浴に例えば銀塩を添加すればよい。このような処理は、ハードディスク、眼鏡用ガラス、実験器具用の熱プレストレスガラスの製造に用いられる。
【0128】
抗菌効果を、素材の1つの面にのみ付与するためには、その面のみに例えば金属を含むペーストを塗布すればよい。
【0129】
本発明のさらなる態様によると、抗菌面を有する製品が本発明により製造される。具体的には、本発明による抗菌面を有する製品は、食品に接することを目的とする製品である。そのような製品としては、トレイ、棚、レンジ上面、飲食用品又はまな板等がある。
【0130】
抗菌面を有する医薬用包装製品又は医療用等の光学ガラスも、本発明により提供される。
【0131】
ガラス製品に抗菌効果を付与する技術の他の用途としては、タッチスクリーン等のディスプレイ用ガラス、乳幼児用ボトル、飲料用貯蔵水用の処理及び配管システム、窓、食品陳列台、光学レンズ、特にホウケイ酸ガラス製の実験器具用ガラスが挙げられる。最も好ましいのは、特に冷蔵庫の棚材用の抗菌性のガラス製の棚である。
【0132】
本発明の1つのさらなる態様は、従来技術における欠点を回避しうる抗菌性の冷蔵庫の棚等の抗菌性の冷蔵庫用の内部部材、特に製造が容易で、抗菌性皮膜が摩耗に対して高い抵抗性を示す冷蔵庫用の内部部材を提供することである。
【0133】
本発明のこうした態様は、ガラス部材よりなる冷蔵庫用の内部部材によって解決され、前記ガラス部材は抗菌面領域を有しており、前記抗菌面領域は、表面領域に抗菌効果を有する量の金属イオンによりもたらされる。
【0134】
好ましくは、冷蔵庫用の内部部材は、冷蔵庫の棚材である。
【0135】
本発明はさらに、ガラス素材又はガラスセラミック素材が抗菌性のガラス表面を有していれば、食品に接する製品、食品陳列用品、食品の製造、レンジ上面、病院用器具、医療機器、水処理、水の貯蔵、水の輸送、ヘルスケア、衛生用品、大型家電、台所及び浴室用品、食器類に適用することが可能である。本発明は、例えば抗菌性の歯科用品等の歯科用品の分野へ適用することも可能である。
【実施例】
【0136】
以下の実施例は、本発明を説明するためのもので、当業者に対し、本発明の方法及び製品の製造をどのようにして行い、評価することができるかについてより完全な理解をもたらすことを意図するものである。これらの実施例は純粋に例示的なものであり、発明者が自らの発明であると認識する範囲を限定するものではない。数値(量、温度等)等について正確性を担保するための努力は行っているが、誤差や偏差を含むものであることについて考慮するべきである。別途記載のない限り、部数及びパーセントは、重量部数及び重量パーセントであり、温度は摂氏(℃)単位で、かつ外気温度であり、圧力は大気圧又はその近傍の圧力である。
【0137】
抗菌性試験は、ASTM 2180−01規格に従い、以下の微生物、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、黒色アスペルギルス、カンジダ・アルビカンス、大腸菌及び豚コレラ菌について実施した。
【0138】
JIS Z2801による抗菌性試験は、大腸菌及び緑膿菌について実施した。
【0139】
微生物が対数値で2減少した場合に、試験は「合格」と記載した。
【0140】
さらに、抗菌性試験は、Bechertらが、Nature Medicine,Vol.6,2000,1053−1056.に記載した増殖試験によっても実施した。
【0141】
この試験では、試験対象の表面の微生物の増殖は、その表面と接触した溶液の光学密度を測定することにより検出される。増殖試験は、全ての場合において緑膿菌を用いて実施した。光学密度の測定によって、光学密度の増加の遅れが見られた場合には、増殖試験に合格ということになる。
【0142】
<素材の溶液又は懸濁液による処理の例>
最初の実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、10〜20μmであった。
【0143】
塗布した素材を、第1の温度550℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0144】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0145】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。
【0146】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、強い黄色の変色が見られた。
【0147】
次いで、ASTM2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0148】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当する、酸化カルシウムで研磨したソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約40μmであった。
【0149】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0150】
上述した試料について、銀の浸透を確認するためEDXプロファイルの測定を行った。深さ依存に関して、EDX測定よる測定値を重量%単位で表すと下記のとおりであった。
1μm 0.3重量%、3μm 0.4重量%、5μm 0.4重量%、
7μm 0.3重量%、9μm 0.3重量%、11μm 0.2重量%、
13μm 0.3重量%、15μm 0.2重量%、17μm 0.1重量%、
19μm 0.1重量%、21μm 検出限界である0.1重量%未満
【0151】
測定誤差は、0.1重量%の範囲内であった。
【0152】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0153】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスの大気に面している側を研磨(約1μmを除去)し、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。
【0154】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0155】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0156】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、5重量%のHF溶液で5分間洗浄し超音波処理した後、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。
【0157】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた後、空気冷却により急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。
【0158】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。ガラスは、十分に構造強化されていた。
【0159】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、5%のHNO3溶液で5分間洗浄し超音波処理した後、次いで10%のNaOH溶液で10分間処理した後、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。
【0160】
塗布した素材を、第1の温度550℃で10分間炉内に入れた後、空気冷却により急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。
【0161】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0162】
比較例として、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、単に150℃で10分間処理した後、水で1分間洗浄した。試料は、ASTM2180−01試験及びJIS Z2801試験に合格せず、有意な抗菌効果を示さなかった。この結果は、抗菌効果を有する表面を得るためには、適当な温度が必要であることを示している。
【0163】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスの大気に面した側を研磨した後、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。ガラスシートを赤外線炉で15分間乾燥した。次の工程で、無機装飾用ペーストを、スズ浴側にスクリーン印刷し、同じく赤外線炉で15分間乾燥した。次いで塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた後、エアーブローにより急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。ASTM 2180−1試験及び増殖試験に合格した。構造強度は、窓ガラス及びガラス棚に対する要件を満たすものであった。
【0164】
結果を表1に示したさらなる実施例において、硝酸銀を、媒体として用いるFerroC38油に添加し、表1中の「溶液のAg濃度」の列中に示した濃度の金属イオン前駆体を得た。金属イオン前駆体物質を、溶液として、表3の実施形態1に示されたガラス組成を有するフロートガラスの表面上にスクリーン印刷した。塗布膜の厚さは約10μmであった。次いで試料を第1の工程において80℃で30分間乾燥した。その後、試料を実験炉に入れた。実験炉中で、塗布後乾燥したガラス素材を、表1中の「温度/時間」の列中に示した第2の処理温度(単位℃)で、分単位で示した時間焼き戻しを行った。その後試料を炉から取り出し、空冷した。
【0165】
結果を表1に示す。表1には、EDX分析器付の表面電子顕微鏡で測定した、素材の深さ2μmにおける銀イオンの平均濃度を併せて示す。
【表1】
【0166】
表1において明らかなように、抗菌効果は、ガラス表面の銀イオン濃度又は拡散過程等により使用中に表面に到達することが可能なイオンの濃度に決定的に依存する。この「活性な」銀の濃度は、以下の処理条件に依存する。
・溶液中の銀前駆体の濃度
・ガラス素材上の溶液膜の厚さ
・全工程における温度/時間のパターン
温度が低すぎ、時間が短すぎると、少なすぎて十分でない量の抗菌イオンしか素材の表面に結合又は導入されず、簡単な洗浄工程で除去され、温度が高すぎ、時間が長すぎると、抗菌イオンが深く浸透し過ぎるためもはや活性ではなく、使用上十分な量のイオンが表面に存在しない。このため、温度/時間のパターンは非常に重要である。特別な場合には、製造上の理由(着色層や装飾層を焼くために追加の焼き戻しを行う等)により、焼き戻しを数回行う場合がある。このような場合には、全体の温度/時間経過の総和を考慮しなければならない。
【0167】
さらなる例において、濃度0.6重量%のAgNO3及び2重量%のZnNO3を、金属イオン前駆体の媒体としてC38油中にミキサーを用いて分散させた。金属イオン前駆体を、溶液として、フロートガラスの大気に面した側に、膜厚約10μmとなるようにスクリーン印刷した。フロートガラスは、この場合も表3の実施形態1に従った組成を有するソーダ石灰ガラスであった。
【0168】
他のソーダ石灰ガラス素材の試料について、それらは全て表3の実施形態1に記載のガラス組成を有しており、C38油を媒体として、種々の濃度のAgNO3を金属イオン源として含む金属イオン前駆体で処理後を行い、炉内において、650℃で種々の焼き戻し時間(15分間等)熱処理し、炉から取り出した後空冷し、深さ方向の銀濃度プロファイルの測定を行った。結果を表2に示す。
【表2】
【0169】
表2から明らかなように、表2に示した実験によると、抗菌効果又はいわゆるAM効果は、表面濃度が約0.8重量%あると、試験に合格する上で十分である。このことは、焼き戻し温度、焼き戻し時間も、前駆体物質の銀イオン濃度と同様に、本発明により、Agイオンの表面濃度が0.8重量%よりも大きくなるように選択されなければならないことを意味する。
【0170】
こうして、ASTM試験に合格するのに十分な抗菌効果が達成される。表1から明らかなように、0.8重量%を上回る表面濃度が、ASTM試験に合格する抗菌効果を得るためには必要である。表1に示した表面濃度は、表面から2μmにおける銀イオン濃度の平均値である。
【0171】
550〜740℃の種々の温度で焼き戻しを行ったフロートガラス試料の透過スペクトルを、図1に示す。フロートガラスの組成は、表3の実施形態1の記載のよるものである。金属イオン前駆体のAgNO3の濃度は、4重量%である。試料は種々の温度の炉内に10分間入れた後、再度取り出して空冷した。参照番号10は、処理温度500℃の試料を、14は、温度600℃を、16は、温度650℃を、18は、温度680℃を、20は、温度700℃を、22は、温度750℃を示す。図1から明らかなように、銀ナノ粒子の吸収によって、焼き戻し温度が高いほど、より顕著な吸収帯が見られる。
【0172】
本発明の手法により素材の表面に注入された、素材の焼き戻し温度に依存する銀イオンの濃度プロファイルを、図2に示す。測定はEDX分析計により行った。初期測定点は、ガラス表面から深さ約5μmの地点とした。Ag濃度は任意単位でプロットした。図2からわかるように、Agイオンは温度が高くなるほど深く浸透している。点100は650℃で焼き戻しを行った試料を、点110は550℃で焼き戻しを行った試料を、点120は740℃で焼き戻しを行った試料を示す。
【0173】
図2と同一の試料について、表面から5μmの深さにおいてWDX分析計により測定した銀イオン濃度を、図3に示す。WDX分析は、EDX分析よりも高い空間分解能を有する。2つの試料の材料表面におけるAgの拡散を示す。第1の試料は、0.6重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液を塗布したガラス素材である。第1の試料の測定点は、番号200により示されている。第2の試料は、2重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液を塗布したガラス素材である。第2の試料の測定点は、番号210により示されている。試料は両者とも650℃で15分間焼き戻しを行った。図3から明らかなように、2重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液から作成した試料の方が、0.6重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液から作成した試料よりも、銀の表面濃度が約3倍高い。両者の試料とも、ガラス素材は表3の実施形態1の記載によるソーダ石灰ガラスである。表面付近の銀イオン濃度について顕著な違いが見られる。
【0174】
上述のパラグラフで述べたことから明らかなように、ASTM試験に合格するためには、約0.8重量%より高い濃度のAgが表面に存在する必要がある。この濃度は、好ましくは、情報深さ約2μmのEDXにより測定される。
【0175】
溶液の銀イオン濃度は、銀塩の溶解度により制限される。濃度が銀塩の溶解度の範囲内であれば、SEMにより、平坦なガラス表面上に銀塩の粒子を観察することができる。例えば、C38油の場合、AgNO3の最大溶解度は3重量%付近である。銀の還元を避けるため、焼き戻しは酸化条件下で行う必要がある。
【0176】
上述の方法により生成された抗菌面を有するガラス素材からのイオンの放出量を決定するために、ガラス素材を3重量%の酢酸を含む水溶液で10日間、温度40℃で処理した。放出面積は100cm2であった。
【0177】
上に述べたことから明らかなように、Agの放出量は、ドイツの飲料水に関する法律(いわゆる“Trinkwasserverordnung”)における許容値である0.08mg/L未満である。
【0178】
表3の実施形態1による、未処理のソーダ石灰フロートガラス面(大気側)のTOF−SIMS測定の結果を、図4に示す。
【0179】
表面においてスズの濃度(Sn濃度)が増大していることがわかる。スズの濃度曲線を参照番号300で示している。
【0180】
表面から50nmにおけるAg濃度が低減しており、深さ約2μmまで銀濃度がほぼ一定である試料のTOF−SIMS測定の結果を、図5に示す。試料は、表1における、溶液中のAg濃度が2重量%、温度650℃及び焼き戻し時間10分にあたる。
【0181】
化学エッチングによるソーダ石灰ガラスの黄化の抑制について、図6に示す。ソーダ石灰フロートガラスを、4%HF水溶液中、超音波浴中で種々の時間前処理し、AgNO32%水溶液により処理した。試料を約650℃の炉中に10分間入れた。色指数b*は、黄色すなわち黄化の指数である。
【0182】
下記の表3に、本発明の実施に用いることができるさらなるガラスの組成を示す。
【表3】
【0183】
表3において、T(g)はガラス転移温度を示し、VAは加工温度を示す。
【0184】
表1の実施形態1は、上述の実施例に記載のソーダ石灰ガラスに相当する。他のガラスについても、抗菌効果及び濃度プロファイルが観測された。
【0185】
さらに、種々のガラスについて金属イオンを含む溶液による処理を行った。
【0186】
表3の「溶液」には、ガラス表面に塗布した溶液が記載されている。例えば「C38油」とあるのは、C38油溶液であることを示している。Ag、Cu、Znイオンの濃度は、「Ag濃度」、「Cu濃度」、「Zn濃度」の行に、重量%で記載されている。
【0187】
「温度」は、溶液を塗布したガラス素材を炉内で加熱した温度を示す。「時間」は、素材を炉内で、前述の温度でどれだけの時間加熱したかを示す。
【0188】
例えば、表3より、2重量%のAgNO3を含むC38油溶液により、温度550℃で10分間処理した実施形態7によるガラスは抗菌性増殖試験に合格したことがわかる。
【0189】
さらなる実施例において、表3の実施形態8に記載のアルカリフリーガラスに、2重量%のAgNO3を含むC38油をスクリーン印刷した。試料を800℃の炉内に20分間入れ、その後空気中で冷却した。試料は、抗菌性増殖試験及びJIS Z2080試験に合格した。
【0190】
表3に記載の所定の濃度の金属イオンを含む溶液をスクリーン印刷後、表3に記載の温度及び時間の間処理した、実施形態2、3、4、5、6、7、8、及び9によるガラスについての結果を、表4に示す。
【0191】
ガラスに金属イオンを含む溶液を塗布し、表3に記載の時間加熱した後、ガラス素材を空気中で冷却した。表3から明らかなように、表3に記載の種々のタイプのガラス、特に少量のアルカリ金属を含むタイプのガラス(実施形態8)について、抗菌効果が観測された。このことは、全てのガラスが抗菌性増殖試験、ASTM試験及びJIS Z2080試験に合格したという事実から結論付けられる。さらに、表3に記載された全てのガラスについてAgイオンの濃度(重量%)プロファイルを、表4に示す。
【表4】
【0192】
表4から明らかなように、全てのガラスが銀イオンプロファイルを含む。銀イオンの量は、表面から素材の内部へ深く向かうにつれ減少する。ガラスセラミックも、金属イオンを含む溶液又は懸濁液により処理することができる。ガラスセラミックについての例は、欧州特許第1,170,264号明細書、ドイツ特許第100,17,701号明細書、欧州特許第0,220,333号明細書の特許文献に記載されている。これらの文献の記載は、本出願に最大限組み込まれる。欧州特許第1,170,264号明細書によるガラスセラミックの緑色ガラスは、例えば、As2O3、Sb2O3、SnO2、CeO2及び/又は硫酸塩/塩化物等の改質剤と同様に、表5に示すような組成を有する。
【表5】
【0193】
表5に記載のガラスセラミック用の緑色ガラスについての好ましい組成を、表6に示す。
【表6】
【0194】
表6の実施形態GK1において、緑色ガラスからガラスセラミックを得るための種々の焼き戻し温度及び焼き戻し時間を表7に示す。
【表7】
【0195】
欧州特許第0,220,333号明細書に記載の、ガラスセラミックを得るために使用する緑色ガラスの例を表8に示す。
【表8】
【0196】
表8に記載の緑色ガラス組成の例を表9に示す。
【表9】
【0197】
独国特許第100,17,701号明細書には、表10に記載のガラスセラミック用の緑色ガラスの組成が示されている。
【表10】
【0198】
表10に示した組成を有する緑色ガラスの例並びに当該緑色ガラスの組成物からガラスセラミックを得るための焼き戻し温度及び焼き戻し条件を表11に示す。
【表11】
【0199】
表11において、αは熱膨張係数を示し、hQMKは、「Hochquartzmischkristal」の略で、高温石英混晶を示す。
【0200】
<素材を溶融又はペースト状態で処理する例>
平面ガラス又はガラスセラミックについて、融液又はペースト中でイオン交換処理して抗菌面を得る実施例について以下に述べる。
【0201】
融液中でのイオン交換及び/又は拡散により抗菌面を付与されるガラス組成の例を表11に示す。
【表12】
【0202】
実施形態M1は、高いイオン放出能を有する表面、すなわち水性溶媒中で非常に反応性の高い表面を有する平坦なガラス円板状のソーダ石灰ガラスを示す。
【0203】
実施形態M1に記載の組成を有するガラス円板のイオン交換は、硝酸銀含量100%の融解硝酸銀中で行った。イオン交換を行った温度T(℃)及び時間t(時間)を、素材の深さ0〜2μm及び2〜4μmにおけるAg2O濃度と共に表13に示した。
【表13】
【0204】
数種のバクテリアについて行ったヘムホッフ試験の結果を図7に示す。図7において、1000は未処理の試料を示し、1003は100重量%溶融AgNO3中240℃で2時間イオン交換を行った試料を示し、1005は295℃で2時間イオン交換を行った試料を示し、1007は対照試料を示す。ヘムホッフ試験の結果が示すように、反応性のガラス表面から、Agイオンが周囲の水性溶媒中に拡散し、そして、抗菌性のガラス表面から離れた位置でも抗菌効果が検出される。
【0205】
Ag及びNaの、深さ方向(単位μm)の濃度プロファイルを図8に示す。図8から明らかなように、Agは表面に豊富に存在する。表面は2100で示され、Agの濃度は参照番号2110で示され、Naの濃度は参照番号2120で示される。プロファイルは、電子線マイクロプローブ分析により測定した。図8において測定した試料は、実施形態M1に記載のソーダ石灰ガラスである。ソーダ石灰ガラスは、100重量%溶融硝酸銀中での、4時間、240℃でイオン交換処理により処理された。
【0206】
本発明のさらなる実施形態において、表12の実施形態M2に記載のガラスについて測定を行った。表12の実施形態M2に記載のガラスは高い化学安定性を有しており、水性溶媒中におけるイオン放出速度は低い。交換温度T(℃)及び交換時間t(時間)に依存する、深さ0〜2μm及び深さ2〜4μmにおけるAg2O濃度を表14に示す。ガラスは、100重量%溶融硝酸銀中で、所定の時間t(時間)及び所定の温度T(℃)の下で処理された。
【表14】
【0207】
ヘムホッフ試験の結果を図9に示す。図9から明らかなように、高い安定性を有するガラスでは、ガラス表面から離れた位置では、生命破壊効果は観測されなかった。生命破壊効果又は活性は、増殖試験の結果が示すように専ら表面に限られている。
【0208】
増殖試験の結果を図10a〜10dに示す。図10aは、未処理のソーダ石灰ガラスについての結果を示す。図10b〜10dは、処理済みソーダ石灰ガラスについての結果を示す。ガラスは、330℃の5重量%AgNO3/95%NaNO3融液中で7.5分間(図10b)、30分間(図10c)及び2時間(図10d)処理した。図10aに、イオン交換処理を行わなかった対照試料の結果を示す。図は、周囲の培養液の光学密度を示す。曲線の増大は細菌の成長と相関を有する。明らかに、交換時間が増大すると生命破壊効果がより強くなるという結果が得られた。生命破壊効果は、実質的に表面で起こっている。
【0209】
100重量%溶融硝酸銀中で4時間、温度240℃でイオン交換を行ったソーダ石灰ガラス試料の濃度プロファイルを図11に示す。銀及びNaの含有量は、表面2200から素材内部への深さに依存する。Agについての曲線を2210に示し、Naについての曲線を2220で示す。
【0210】
以上述べたのは、表12の実施形態M2による組成を有するソーダ石灰ガラスの平坦な円板について行ったイオン交換処理に関する。
【0211】
100重量%溶融硝酸銀中で100分間、温度250℃でイオン交換処理した後の、表12の実施形態M3〜M11によるガラスについての増殖試験の結果を表15に示す。
【表15】
【0212】
「Positive control」、「Negative control」、「MM Medium control sterile」という用語は、「T.Bechert,P.Steinbruecke,G.Guggenbichler,Nature Medicine,第6巻,第8号,2000年9月,1053−1056」に記載されている。この論文の記載は、完全に本出願に組み込まれている。
【0213】
溶融硝酸銀で処理していない実施形態M3〜M11に記載のガラスについての結果を表16に示す。これらの試料は、図15に示した結果の比較例である。
【表16】
【0214】
表16から明らかなように、処理をしていないガラスは抗菌効果を示さないが、溶融硝酸銀で処理したガラスは抗菌効果を示す。
【0215】
増殖試験により、表面の抗菌効果を決定することが可能である。
【0216】
「Onset OD」は周囲の培養液の光学密度を示す。増殖、すなわち娘細胞の生成及び表面から周囲の培養液中への細胞の放出により、周囲の培養液の透過率が低下する。所定の波長における吸収は、表面の抗菌効果と相関を有する。このことは、高いOnset OD値は表面における高い抗菌効果を示すことを意味する。
【0217】
ガラスセラミックについての以下の段落の記載より、ガラスセラミックを溶融硝酸銀中で処理すると、拡散処理により平坦なガラスセラミックに抗菌面を付与することができることを示す。原理上、上に述べた全てのガラスセラミック、特に欧州特許第1,170,264号明細書、独国特許第100,17,701号明細書、欧州特許第0,220,333号明細書に記載のガラスセラミックを、金属を含む融液中で処理されることにより、抗菌面を付与することができる。以下に示す実施例は単なる例示である。
【0218】
検討したガラスセラミックの緑色ガラスの酸化物組成を重量%で記載したものを表17に示す。
【表17】
【0219】
上に示した緑色ガラスの組成物から、この緑色ガラスを室温から840℃まで昇温速度11K/分で加熱することにより、シート状で厚さ4mmの緑色ガラスセラミックが得られた。温度840℃で、この材料を18分間保持した。その後材料を、昇音速度9.5K/分で1065℃まで加熱した。この温度で材料を23分間保持した。その後、材料を、冷却速度12K/分で950℃まで冷却した。材料を、950℃から特別な冷却速度によらずに室温まで冷却した。
【0220】
表17に記載の緑色ガラスの組成を有し、上に述べたようにして生成し、セラミック化後100重量%融解硝酸銀中で処理したシート状のガラスセラミックの表面における抗菌効果について表18に示す。表18中、試料(a)は、表17に記載の緑色ガラス組成物から製造し、100重量%融解硝酸銀中で10分間、試料(b)は、表17に記載のガラスセラミック組成物から製造し、100重量%融解硝酸銀中で100分間、温度250℃で処理したシート状ガラスセラミック試料についての抗菌効果を示す。
【0221】
試料(c)は、表17に記載の緑色ガラスから製造し、100重量%融解硝酸亜鉛中で100分間、温度250℃で処理したシート状ガラスセラミック試料についての抗菌効果を示す。表18から明らかなように、試料(a)、試料(b)、試料(c)の全ての試料について、これらの試料が、融液中で処理後に高い抗菌効果を有する表面を有することを示す、高いOnset ODが観測された。
【表18】
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】550〜740℃の種々の温度で焼き戻しを行ったフロートガラス試料の透過スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の手法により素材の表面に注入された、素材の焼き戻し温度に依存する銀イオンの濃度プロファイルを示す図である。
【図3】図2と同一の試料について、表面から5μmの深さにおいてWDX分析計により測定した銀イオン濃度を示す図である。
【図4】実施形態1による、未処理のソーダ石灰フロートガラス面(大気側)のTOF−SIMS測定の結果を示す図である。
【図5】表面から50nmにおけるAg濃度が低減しており、深さ約2μmまで銀濃度がほぼ一定である試料のTOF−SIMS測定の結果を示す図である。
【図6】化学エッチングによるソーダ石灰ガラスの黄化の抑制を示す図である。
【図7】実施形態M1におけるヘムホッフ試験の結果を示す図である。
【図8】Ag及びNaの、深さ方向(単位μm)の濃度プロファイルを示す図である。
【図9】実施形態M2におけるヘムホッフ試験の結果を示す図である。
【図10a】実施形態2における未処理のソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10b】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10c】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10d】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図11】100重量%溶融硝酸銀中で4時間、温度240℃でイオン交換を行ったソーダ石灰ガラス試料の濃度プロファイルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌面特性を有するガラス及びガラスセラミック素材、グレーズ及びエナメル、そのような抗菌面の生成方法並びに抗菌素材の利用に関する。抗菌能力は、ガラス若しくはガラスセラミックの表面の上及び/又は内部に注入された1種類以上の金属イオンによって生じる。適用分野としては、例えば、食品に接する製品、台所用品、浴室用品、ディスプレイ、タッチディスプレイ、食品陳列、食品製造、医薬品製造、医薬用包装材、医療機器、淡水処理、貯蔵及び輸送、食品保存、まな板、カウンターの天板、冷蔵庫の棚、大型家電製品、食卓用品、病院用機器がある。
【背景技術】
【0002】
特開2001−192234号公報により、ソーダ石灰ガラスの表面に抗菌性又は撥水性を付与するために、銀又は亜鉛の塩を含む溶液を直列噴射する技術が公知である。Znは、ガラス素材に撥水性を付与するためにのみ塗布されるものであって、抗菌効果を付与するためではない。ガラス表面に抗菌性を付与するためにZnイオンとAgイオンを組み合わせて使用することについては言及されていない。当該明細書においては、Agを抗菌剤として、250℃で0.1重量%の水溶液を表面に噴霧することについてのみ言及がなされている。
【0003】
2001−192234号公報に開示された方法の噴霧技術のみでは、素材表面を抗菌剤で不完全にしか濡らすことができないので、表面の抗菌効果は完全に均一にはならない。
【0004】
特開特許第316320号明細書には、ソーダ石灰ガラスのための溶融塩を用いたイオン交換方法について記載されている。特許第316320号明細書に係る方法においては、素材として、ソーダ石灰ガラス又はアルカリ含有ガラスが用いられている。
【0005】
抗菌性のガラス粉末は、いくつかの特許出願から公知である。たとえば、国際公開第03/018498号明細書では、10ppmを上回る量のヨウ素を含有する抗菌性ガラス粉末が記載されている。国際公開第03/018499号明細書からは、ガラス組成物中のリンの含量が1重量%未満である抗菌性ガラス粉末が公知である。
【0006】
米国特許第5,290,544号明細書からは、0.5重量%を上回る濃度のAgを含有する水溶性ガラスが公知である。このガラスは、Agイオンがガラスマトリックスから放出されることにより抗菌性がもたらされる。このガラスでは、高い含量のB2O5と、低い含量のSiO2を有する。
【0007】
米国特許第6,143,318号明細書より、抗菌効果を備える銀を含有するリン酸ガラスが公知である。
【0008】
抗菌性ホウリン酸ガラス又はホウケイ酸ガラスが、特開平10−218637号公報、特開平8−245250号公報、特開平7−291654号公報、特開平3−146436号公報、特開2002−264674号公報、又は特開2002−203876号公報に記載されている。
【0009】
抗菌効果を有しており、リンの含量が1重量%を上回るガラスが、国際公開第01/03650号明細書から公知である。
【0010】
抗菌性を有する冷蔵庫の棚材用のコーティングについて、国際公開第02/40180号明細書において開示されている。国際公開第02/40180号明細書によると、エポキシ−アクリル酸樹脂のマトリックス、接着促進剤及びフリーラジアル光開始剤に抗菌剤が添加される。その後、抗菌剤を含有するマトリックスを、コーティングとしてガラス素材の上に付着させる。該コーティングは、約20ミクロンの厚さを有している。コーティングをより安定化し、特に耐摩耗性を付与するために、コーティングを、特にUV光により硬化させる。
【0011】
国際公開第02/40180号明細書による、冷蔵庫の棚材等の抗菌性の冷蔵庫用の内部部材は、製造に時間がかかり、さらに棚について硬化処理を行っても磨耗を完全に防ぐことはできないという欠点がある。
【0012】
国際公開第02/32824号明細書より、抗菌性の金属イオンを含有する抗菌性のグレーズが知られている。
【0013】
欧州特許第0942351号明細書では、タッチスクリーンセンサに用いられるガラス素材が開示されている。該ガラス素材の表面は、銀イオンを含有するコーティングによる抗菌効果を示す。
【0014】
欧州特許第1270527号明細書では、ガラス層を有する製品について開示されている。欧州特許第1270527号明細書に示されたガラス層においては、該ガラス層に含まれるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンをイオン交換することにより抗菌効果が得られる。欧州特許第1270527号明細書にはさらに、抗菌性を示す金属イオンは、材料中において、ガラス層の表面付近に高い金属イオン濃度を有する層を形成することが示されている。ガラス素材に関連するイオン交換反応の温度依存性は記述されていない。
【0015】
イオン交換処理において処理温度が低いと、処理時間が大変長くなり、かつ/又は銀イオンを長期間にわたって放出させることが困難になるという欠点を有する。Agイオンは、洗浄過程において表面から大変速く除去される。また、低温では銀がガラスの内部へ拡散するのにより長い時間を要するため、処理時間が大変長くなる。
【0016】
米国特許出願公開第2002/001604号明細書では、抗菌性、抗カビ性、又は抗藻類性の成分が、製品の表面から内部へ拡散したガラス製品が示されている。ソーダ石灰ガラスに銀成分を有する銀コロイドを分散させた場合、約500℃で30分間の熱処理後に、表面が抗菌性を示すことが見出された。当該出願明細書においては、ホウケイ酸ガラス等の他のガラスについて表面に抗菌性を備える方法や、金属イオンがどの程度の深さまで拡散するか、又はASTM 2180試験により、微生物数を対数値で2減少させる抗菌面を得るためには、処理条件をどのように選択しなければならないかについては示されていない。30分間という処理時間は大変長く、高速大量生産には適さない。また、異なる抗菌イオンを組み合わせて使用することについては記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来技術における、上述したものやそれ以外の制限や欠点に鑑みて、抗菌面を有する改良された製品及び抗菌性のガラス素材やガラス様の素材の改良された製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
微生物としては、例えばバクテリア、真菌類、酵母、カビ、藻類及びウイルスが挙げられる。
【0019】
本発明はさらに、Ag、Zn、Cu、Sn、I、Cr、Te、Ge等の所定の抗菌成分が、金属及び/又はイオンの状態で、素材、特にガラス素材の表面に、抗菌効果のある濃度で存在する材料を提供することを目的とする。該表面は、長期間にわたり有効性を維持すると共に、清浄及び洗浄後も有効である。
【0020】
好ましい実施形態において、Ag、Zn、Cu、Sn、I、Cr、Te、Ge等の所定の抗菌成分は、素材の少なくとも1つの表面において高い濃度を有する濃度プロファイルを有する。好ましくは、抗菌イオンの濃度は、素材の深さ方向に向かうにつれて減少する。
【0021】
特別な用途のためには、該材料は、素材の少なくとも1つの表面において、相対的に低い濃度のAg、Zn、Cuイオン等の抗菌成分が、直接その表面上にのみ存在するという濃度プロファイルを有する。こうした特別な場合には、抗菌イオンの濃度は、表面の直下の短い距離において増加し、その後ゼロに減少する。
【0022】
本発明は他に、少なくとも1つの選択された表面領域において抗菌効果を有する、透明で、実質的に無色の素材、特にガラス又素材、ガラス様の素材、またはガラスセラミックを生成する方法を提供することを目的とする。
【0023】
着色された抗菌性のガラス又はガラスセラミックを生成する方法を提供することも、本発明の他の目的である。
【0024】
接触致死性、非浸出性の抗菌効果を有する量の金属イオンを、平坦なガラス又はガラス様表面の面上に有する、少なくとも1つの略平坦な表面を有する製品を提供することが、本発明のさらに他の目的である。
【0025】
本出願において、「非浸出性」という用語は、ヘムホッフ試験(欧州規格(EN)1104)において、例えば、黒色アスペルギルス、枯草菌に対して有意な抗菌効果が検知されないことを意味する。
【0026】
ヘムホッフ試験は、欧州規格(EN)1104の規定による寒天拡散試験である。この試験では、所定濃度の細菌を含む寒天に試料を置く。試料の周囲で細菌の繁殖が起こっていない部分の距離を、mm単位で測定する。
【0027】
他の目的は、装置、特に食品に接する製品として使用される装置を提供することである。該装置は、食品に接する少なくとも1つの表面を有する。食品に接する表面は、少なくとも表面領域において抗菌効果のある濃度の金属イオンが存在する、透明で、基本的には無色のガラス又はガラス様の物質より成る。
【0028】
抗菌剤としてAgイオンを使用する場合、Agの量が一定ならば、着色が強くなると抗菌効果は減少する。着色効果は、金属銀のクラスターによるものである。銀イオンは抗菌効果を有するが、金属銀は抗菌効果を有しない。Agの量を一定に保ち、銀のクラスターの量が増大し着色が強くなると、銀イオンの量が減少し、したがって抗菌効果も減少する。
【0029】
抗菌素材が基本的に無色であれば、短期的な効果については有利である。抗菌素材が無色である場合には、該抗菌素材は、抗菌効果を有する銀イオンを多く含み、銀クラスターを僅かしか含まない。
【0030】
上で述べたとおり、素材の色は主に金属銀のクラスターに起因するものであり、これも上述したようにイオン性の銀のみが抗菌性を有する。素材の変色が起こると、上述したように、それは短期的な抗菌効果が減少したことを示す。
【0031】
特定の用途における長期的な抗菌効果のためには、銀イオンと共に金属銀がナノ粒子(「銀クラスター」等)としてガラスマトリックス中に存在することが有利である。この場合、ナノ粒子は、銀イオンを放出できるように表面の近傍に存在しなければならない。ナノ粒子は、銀イオンの放出システムとして作用する。銀イオンは、酸化等によって金属銀から得られる。
【0032】
レンジ上面、冷蔵庫の棚材、ガラス管等の特定の用途であっても、特定の色を有する素材が好ましい場合もある。
【0033】
こうした色が、イオンの拡散の発生や、銀の場合におけるようなナノ粒子の生成により引き起こされるものであるならば、ナノ粒子の数や粒径によって色を変化させることが可能である。銀の場合、ナノ粒子は通常30nm未満、好ましくは20nm未満、さらに好ましくは10nm未満、最も好ましくは5nm未満の粒径を有している。通常発色可能な色は、例えば、黄色及び赤の波長域の色である。
【0034】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法により、様々な種類の素材、特にガラス素材及びガラスセラミック素材について抗菌面を備えること、及び該方法が例えばフロートガラス素材のみに限定されないということである。
【0035】
本発明の方法によって、アルカリフリーガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製AF37又はAF45等)、アルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社(Mainz)製Fiolax、Illax等)、アルカリ土類−アルカリガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製B270、BK7、AF45等)、Li2O−Al2O3−SiO2−フロートガラスと同様に、ホウケイ酸ガラス(SCHOTT AG社(Mainz)製Borofloat 33、Borofloat 40、Duran等)等のアルカリ含有フロートガラスも素材として用いることができ、より特殊な用途についてはソーダ石灰フロートガラスを素材として用いることができる。好ましい実施形態では、SCHOTT−DESAG社(Grunenplan)製D263等のディスプレイ用ガラスを素材として用いることができる。原理的には、本発明の方法では、全ての工業用及び光学用ガラスを素材材料として用いることができる。
【0036】
本発明の方法によると、リチウムアルミノケイ酸ガラスセラミック(SCHOTT GLAS社(Mainz)製Ceran、Rodax又はZerodur等)又はマグネシウムアルミノケイ酸ガラスセラミック又はマイカガラスセラミックについて、抗菌面を備えることができる。
【0037】
最も好ましい実施形態では、処理条件は、本発明の方法により提供される抗菌面が、ASTM E2180−01及び/又はJIS Z2801に従った抗菌性の要件を満たすように決定される。
【0038】
さらに好ましい実施形態においては、抗菌面は、ASTM E2180−01及び/又はJIS Z2801に規定される抗菌性の要件を満たし、欧州規格(EN)1104に従った「ヘムホッフ」の形成が見られず、かつ、非浸出性の結果は、食品に接する物質に関するドイツ法(LMBG)及び/又はAgの放出について0.08mg/lを最大許容値とするドイツ飲料水法(Trinkwasserverordnung)第11条の要件を満たす。
【0039】
素材は、例えば、平面ガラス、ガラス管、ガラスレンズ、アンプル、円筒アンプル、瓶、ジョッキ、ガラススクリーン及び他の不規則な形状のガラス部材であってよい。
【0040】
さらに、素材は、例えば平坦又は湾曲した形状のガラスセラミック又はガラス管であってもよい。
【0041】
本発明のさらなる目的は、抗菌性を有する、有色又は無色のガラスセラミックを提供することである。
【0042】
好ましくは、抗菌面を有するガラスが提供される。ガラスは、フロート法及びノンフロート法のいずれによって製造されるものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の第1の実施形態においては、抗菌面は、第1の工程において金属イオンの前駆体物質を、素材、特にガラス又はガラス様又はガラスセラミック素材の表面に、例えば、浸漬、噴霧、スクリーン印刷、ブラッシング等の任意の簡便な手法によって塗布することにより得られる。
【0044】
金属イオンの前駆体物質は、金属イオンの前駆体を適当な溶媒、液体又は希釈剤に分散又は溶解又は混合したものである。
【0045】
金属イオンの前駆体は、例えば、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、硫化物、又は酸化物等の無機物であってもよい。また、ナノ粒子等の有機金属又は金属性の前駆体物質を使用することもできる。これらの成分は、溶液中に溶解及び/又は分散したものであってもよい。
【0046】
好ましい実施形態においては、完全に可溶性の前駆体を使用して、ガラス表面に抗菌剤が最も均一に分布させることが可能になる。
【0047】
前駆体又は前駆体の組成物毎に、ガラス内に浸透する深さは異なる。例えば、銀塩に関しては、浸透する深さは、Ag2SO4、AgNO3、Ag2O、Ag3PO4の順に減少することを見出した。複数の前駆体を混合することにより、特有の拡散特性を得ることができる。塩の種類により色形成も異なる。通常、AgNO3及びAg2SO4は、Ag2O及びAg3PO4よりも強い色形成を示す。
【0048】
このように、前駆体の混合物を適宜選択することにより、長期的及び短期的な抗菌効果、表面層のイオン分布及び色形成を設計し最適化することが可能である。
【0049】
Ag、Zn、Cu、Cr、I、Te又はGeなどの金属イオン前駆体物質及び/又はこれらの金属の化合物等を含む金属イオン前駆体物質を、素材の少なくとも1つの表面に塗布した後、加熱処理の間に抗菌剤の前駆体及び溶媒が分解かつ/又は蒸発し、拡散及び/又はイオン交換により、例えばガラス表面又はガラスセラミック表面等の素材の中又は上に、浸透又は結合するのに好適な温度で加熱する。
【0050】
この方法は、一段階法又は多段階法として実施することが可能である。多段階法は、ガラス、ガラスセラミック又はガラス様材料において、特異な抗菌イオンの分布及びプロファイルが得られる点で有利である。抗菌性の前駆体及び/又は溶媒を分解かつ/又は蒸発させる、素材の加熱工程は、素材についての他の熱処理と同時に行ってもよい。素材についてのそのような熱処理の例としては、化学的な安定化処理、成形処理及び/又は構造強化処理及び/又はコーティング処理及び/又は装飾処理が挙げられる。
【0051】
他段階法の一例である二段階法においては、素材は、好ましくは非晶質ガラスであり、これを、抗菌性の金属イオン前駆体に含まれる全ての揮発性成分を除去するのに十分な第1の温度、溶媒や前駆体物質にもよるが第1の実施形態においては約30℃〜250℃の範囲内まで加熱する。次いで、得られた素材を、第1の実施形態においてはT(g)−300℃〜T(g)+250℃の範囲内の温度である第2の温度で、短時間、例えば第1の実施形態においては約1分〜約30分弱の時間だけ加熱する。ここで、T(g)はガラス転移温度であり、ガラス組成に依存する。好ましい実施形態においては、T(g)−200℃〜T(g)+200℃の範囲内の温度である。転移温度T(g)は、当業者には公知であり、例えば、VDI−Lexikon Werkstofftechnik(1993)の375〜376ページに記載されている。より好ましい実施形態においては、T(g)−100℃〜T(g)+150℃の範囲内の温度である。
【0052】
上述の方法によって、抗菌面を有する製品、特にガラス素材が得られる。抗菌イオンは、素材の表面層の内部に注入されている。表面層は、約10μmの厚さを有する。表面層内部の金属イオン濃度は、表面から素材内部に向かうにつれて減少し、表面層の金属イオン濃度は、表面層の表面から2μmにおいて0.05重量%を、好ましくは0.5重量%を、より好ましくは1.0重量%を、最も好ましくは2重量%を上回る。
【0053】
好ましい実施形態においては、表面層の表面から2μmにおける金属イオン濃度は、0.8重量%よりも高く、好ましくは1.0重量%よりも高く、最も好ましくは1.2重量%よりも高い。深さ約1μmにおける金属イオン濃度の、深さ10μmにおける濃度に対する比は5よりも大きく、好ましくは10よりも大きく、最も好ましくは100よりも大きい。
【0054】
本発明による抗菌面を生成するために使用される最も好ましい金属イオンは、銀(Ag)である。また、Zn又はCu又はSn又はCr又はI又はTe又はGe等の他のイオン又はこれらのイオンの組み合わせであってもよい。
【0055】
バクテリア、酵母及び真菌に対する広範な抗菌効果を達成させたい場合又は相乗効果を利用したい場合には、イオンを組み合わせることが有利である場合がある。
【0056】
例えば、Ag及びCu前駆体を組み合わせると、バクテリア及び真菌に対する抗菌効果が増大すると共に、さらに銀ナノ粒子による着色を避けることができるという利点を有する。
【0057】
ガラスの種類、前駆体のタイプ、表面処理、処理温度及び時間、及び表面の後処理を適宜選択することにより、抗菌イオンについて種々のプロファイルが得られる。用途や経時的な抗菌効果に応じて、例えば、以下のようなプロファイルが得られる。
a)表面からバルクに向かって一定の割合でイオン濃度が減少
b)表面からバルクに向かって一定の割合でイオン濃度が増加
c)a)及びb)の混合型、特にほぼ一定のプロファイル
【0058】
これらのプロファイルには、異なる種類の抗菌イオンを含むものであってもよい。通常、拡散速度及び/又はイオン交換速度の違いにより、抗菌イオンの種類に関するプロファイルはそれぞれ異なっている。
【0059】
より好ましい実施形態においては、抗菌イオンの長期放出を付与するには、抗菌性の金属イオンの、表面層の深さ約0.5μmでの平均濃度の、深さ約2μmから約5μmにおける濃度に対する比が0.5未満に、好ましくは0.1未満に、最も好ましくは0.01未満になるように、処理条件を選択する。
【0060】
比較的高い全金属イオン濃度において低い浸出性を有する好ましい実施形態において、表面から50nmにおける抗菌性の金属イオンの平均濃度が、深さ50nmから1μmの間の平均濃度に対して、約1%以上、好ましくは5%以上、最も好ましくは10%以上減少する。
【0061】
最も好ましい実施形態において、抗菌イオンの長期放出を達成するには、深さ約20nmにおける金属濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比が1:1.1よりも、好ましくは1:5よりも、最も好ましくは1:10よりも小さくなるように、処理条件を選択する。さらに、深さ約10μmにおける金属イオン濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比は、1:5未満に、好ましくは1:10未満に、最も好ましくは1:100未満になるように、処理条件を選択する。
【0062】
最も好ましい実施形態において、初期条件において高い抗菌効果を付与するためには、深さ約20nmにおける抗菌性の金属イオンの濃度の、深さ約1μmにおける金属イオンの濃度の比が、1.1:1よりも大きく、好ましくは5:1よりも大きく、最も好ましくは10:1よりも大きく、深さ約10μmにおける金属イオン濃度の、深さ約1μmにおける金属イオン濃度に対する比は、1:5未満に、好ましくは1:10未満に、最も好ましくは1:100未満になるように、処理条件を選択する。
【0063】
抗菌金属イオンの前駆体は、通常は塩、錯体等の金属化合物を含み、適合するキャリア物質中に溶解ないしは分散しており、ここで金属化合物は、抗菌性の金属イオンとイオン交換が可能である。
【0064】
前駆体は、例えば、抗菌イオンの硝酸塩(好ましくは硝酸銀)、塩化物等の無機塩又は酢酸塩等の有機塩及びこれらの混合物である。
【0065】
媒体は、金属化合物を溶解ないし分散又は懸濁させることが可能な液体又は液体が基となる物質である。キャリア物質は、水又はアルコールが基となるものであってもよい。
【0066】
また、有機油又はシリコーン油等の無機油も、キャリア物質又は媒体として使用可能な物質である。
【0067】
イオン交換及び/又は拡散加熱工程において分解も焼失もしない、前駆体物質の乾燥分に由来する全ての残留物は、抗菌のための焼き戻し工程において完全に除去され、又は洗浄により容易に除去することができる。
【0068】
前駆体物質における抗菌性の金属イオン源の濃度は、含まれる特定の化合物や特定のキャリア物質に若干依存して、広い範囲にわたって変化する場合がある。しかし、前駆体物質における金属イオン源及びキャリア物質の同一性並びに相対濃度は、前駆体が、本発明の処理工程の間に、抗菌効果を有する濃度の金属イオンを、素材の表面領域内へ交換ないし注入させることが可能である範囲にあることが重要である。通常、Ag、Cu、Zn、Cr、I、Te、Ge化合物の濃度が、金属化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01〜約10.0重量%、好ましくは約0.1〜5.0重量%、より好ましくは約0.25〜2重量%であることが、本発明によるガラス又はガラス様素材の表面領域に抗菌効果を有する濃度を付与する上、好適である。
【0069】
前駆体の濃度は、さらに選択した溶媒に対する溶解度によっても制限される。
【0070】
本発明のさらに好ましい実施形態において、本発明者らは、加熱工程の間に抗菌性の前駆体が拡散及び/又はイオン交換によりガラスの表面に浸透するため、温度時間プロファイル及びイオンの初期表面濃度に応じて、素材の表面から内部へ向かう異なる濃度プロファイルを生じさせることが可能であることを見出した。温度が高すぎ、時間が長すぎると、抗菌イオンは材料内へ深く浸透しすぎるため、表面における抗菌効果が低くなりすぎる。温度が低すぎ、時間が短すぎると、表面に固定された抗菌イオンの濃度が低くなりすぎるため、抗菌効果は、例えば水洗により除去されてしまう。
【0071】
特にフロートガラスの場合、Agイオンを抗菌剤として使用すると、金属銀ナノ粒子又はクラスターの形状により、さらに黄色く着色するおそれがある。銀ナノ粒子の形状は、Sn及び/鉄の不純物やガラス表面の上又は内部での全体的な酸化還元状態によって助長される。Fe2+、Sn3+等の酸化還元対を形成する種により、銀イオンは還元を受ける。還元型の銀は銀ナノ粒子を生成し、これが420nm付近の光を吸収するため、黄色を呈する。したがって、抗菌イオンとしてZn及び/又はCu又はAgとZn及び/又はCuとの混合物を使用することが、無色の抗菌性素材を得る必要がある場合には好ましい。異なるイオンによる抗菌性における相乗効果は、有利な効果である。有利な相乗効果は、例えばAg及びZnイオンの、反応構造及び反応場所の違いにより達成されうる。さらに、Ag及びCu塩を溶液中で組み合わせて使用することは、特にCuの方が高い拡散速度を有する高い処理温度において、変色を低減させる上で有利である。
【0072】
さらに改良された実施形態において、本発明者らは、二段階法において抗菌性の金属イオン前駆体に含まれる任意の揮発性成分を除去するのに好適な温度は、約40℃〜約250℃の範囲内にあることを見出した。この温度は、前駆体物質又は溶媒等に依存する。
【0073】
第1の実施形態において、第2の工程では、抗菌イオンは、ガラス表面の上又は内部に注入される。本発明者らは、さらに改良された実施形態において、第2の工程の温度は、抗菌面を製作するのに使用されたガラスの種類及びさらに抗菌イオンの温度依存性の拡散係数に依存することを見出した。本発明者らは、温度依存性のイオンの拡散係数は、イオンの種類のみならず使用する素材の種類にも依存することを見出した。従って、第2の工程に対する温度範囲もまた、素材依存である。第2の工程におけるイオン交換及び/又は拡散温度は、好ましくは、素材、特にガラス素材のガラス転移温度(Tg)よりも約200℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内に入るように選ばれる。より好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約100℃低い温度と、約100℃高い温度の間から選ばれ、最も好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約50℃低い温度と、約50℃高い温度までの温度の間から選ばれる。素材が、本発明のさらなる実施形態において、第2の工程で上に述べたイオン交換/拡散温度まで加熱されるまでの時間は、約1分〜約30分、より好ましくは約1分〜約15分、最も好ましくは約1分〜約5分である。
【0074】
本発明の改良された実施形態において、抗菌面を一段階法で生成することが可能である。一段階法では、素材は、抗菌イオンを素材、特にガラス又はガラス様の素材の表面の上及び/又は内部に注入するのに好適な温度に加熱する。この温度は、素材の種類、特に抗菌面の製造に使用されるガラスの種類及びさらに温度依存性の抗菌イオンの拡散係数に依存する。本発明者らは、温度依存性のイオンの拡散係数は、イオンの種類のみならず使用する素材の種類にも依存することを見出した。したがって、この方法を行う温度領域は素材に依存する。この方法におけるイオン交換及び/又は拡散温度は、好ましくは、素材、特にガラス素材のガラス転移温度よりも約200℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内に入るように選ばれる。より好ましくは、素材のガラス転移温度よりも約100℃低い温度と、約100℃高い温度間での温度から選ばれ、最も好ましくは、素材のガラス転移温度(Tg)よりも約50℃低い温度と、約50℃高い温度までの温度から選ばれる。素材が、本発明のさらなる実施形態において、第2の工程で上に述べたイオン交換/拡散温度まで加熱されるまでの時間は、約1分〜約30分、より好ましくは約1分〜約15分、最も好ましくは約1分〜約5分である。また、素材をイオン交換温度まで加熱することにより、イオン前駆体物質の揮発性成分が素材から除去される。この一段階法は、二段階法に比べ、処理時間が短いという利点を有する。
【0075】
フロートガラスを素材として使用した場合には、表面層がスズを含有している場合等には、変色することなく、はるかに高濃度の銀をガラス内に注入することが可能である。スズ含有層は、フロートガラスの製造工程において導入される。スズ含有層の厚さは、フロート浴中における大気側で約10〜20nm、浴側で数μmである。さらに、鉄等の不純物がガラス全体に含まれる。多価イオンの酸化還元平衡(例えば、Fe2+とFe3+の間の平衡)は、特にガラス表面から1μmにおいては還元側に移動する。同様に、粘度(還元側では粘度がより低くなる)によってAg+の拡散速度も表面領域における酸化還元平衡に影響される。Ag+がガラス内部に深く拡散しない方が有利であるため、通常低い粘度を示す表面層を除去することが有利である。表面層の除去は、イオン性及び/又は金属性のスズの除去及び、変色が起こってはならない場合には、鉄、特にFe2+の除去という観点からも有利である。
【0076】
フロートガラスの場合、鉄の濃度は、深さ依存のスズの酸化還元状態及び濃度に直接影響を与える。ガラス中のFeの濃度が高くなると、材料内でスズの濃度が最大になったことを示す、いわゆる「スズのこぶ(tin hump)」が多く生成するようになる。この「スズのこぶ」は、変色という観点からは不利である。したがって、変色を伴わないフロートガラスを得るためには、鉄の濃度は1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、さらに好ましくは300ppm未満、最も好ましくは100ppm未満、さらには、50ppm未満でなければならない。
【0077】
抗菌性の層で処理される面に応じて、異なる除去法を使用しなければならない。
【0078】
表面層の除去及び洗浄は、例えば、化学的エッチング又は機械的除去により行うことができる。化学的エッチングは、種々の無機又は有機酸及び/又は塩基並びにそれらの組み合わせにより行うことができる。酸としては、例えばHF、HCl、HNO3が挙げられる。塩基としては、アルカリ水酸化物(NaOH等)又はアルカリ土類水酸化物が挙げられる。さらに、還元による変色作用を避けるために、例えばH2O2若しくはアルカリ土類金属の過酸化物塩(CaO2又はZnO2等)を用いた処理又はO2含有雰囲気下での加熱等の酸化処理を行ってもよい。
【0079】
フロートガラスの場合、酸素含有雰囲気下での酸化熱処理により、黄色化の効果を顕著に抑制することができる。これは、ガラス中におけるAgイオンの酸化還元電位及びAgイオンの拡散速度に影響を与えるガラス表面の酸化還元状態の変化によるものである。
【0080】
銀によって引き起こされる変色を避けるため、多価イオンを含み、ガラス表面に導入すされる化合物を、変色作用を減らすために使用してもよい。例えば、多価イオンの成分は、Ti、Cu、Ce、Cr、Mn、V、Bi、Mo、Nb、Co、Zn、As、Sbであってもよい。これらのイオンを例えばNO3塩で結合させる条件下において、拡散速度と構造強度を変化させて変色を減らすことが可能である。
【0081】
Pd、Pt及びAu等の貴金属を塩又は酸化物としてガラスに添加することが可能である。そのような、貴金属を組み合わせたことによる効果は、還元された銀の金属銀への酸化によって見ることができる。
【0082】
機械的な除去は、通常の研削及び研磨技術を用いて、インラインまたはオフライン処理により行うことができる。低コストの接触研磨処理が好ましい。
【0083】
フロート浴側の面については、スズ含有層の厚さは数μmに及ぶことがあるため、機械的な除去が好ましい。
【0084】
フロート浴側の面の、通常は200μm未満を、好ましくは100μmを、最も好ましくは10μm未満を、1μm未満を除去する。
【0085】
大気面側の、通常は50μm未満を、10μm未満を、1μm未満を、100nm未満を除去する。
【0086】
フロートガラスの表面層を除去すると、非常に高い濃度の銀を、表面に溶液及び/又は分散物によって塗布することができ、ガラスの変色を起こすことなく高い処理温度を実現することができる。表面濃度が15重量%を上回る付近まで変色は見られなかった。
【0087】
ガラス転移温度Tgが約525℃から約545℃の、ソーダ石灰フロートガラス等のアルカリ含有ガラスを素材として使用することが好ましいが、本方法はソーダ石灰ガラス又はアルカリ含有ガラス及び関連するイオン交換処理に限定されない。なぜなら様々な抗菌イオンの拡散定数は選択した処理温度及び時間において十分高く、これらの様々な抗菌イオンは、ホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製BF33、BF40等)、アルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社製FIOLAX、IIIax等)、アルカリフリーアルミノケイ酸ガラス(SCHOTT社製AF37、AF45等)等の他のガラス表面にも浸透することができるからである。ホウケイ酸ガラスのガラス転移温度(Tg)は約460℃〜600℃の範囲内であり、アルミノケイ酸ガラスについては約550℃〜約700℃、アルカリフリーアルミノケイ酸ガラスについては約650℃〜約800℃である。
【0088】
驚くべきことに、本方法は、例えばナトリウム等と銀のイオン交換が銀イオンの表面内への移動を促進するアルカリ含有ガラスに限定されない。温度が十分高い場合には、明らかに通常の拡散プロセスによっても銀イオンは表面から浸透している。
【0089】
ガラスセラミックも素材として使用することができる。本発明者らは、ガラスセラミックを素材として使用する場合には、金属イオンをガラス表面に拡散させる工程の処理温度は、ガラスセラミックのセラミック化温度及び他のガラス層のガラス転移温度T(g)に依存することを見出した。好ましくは、処理温度は、結晶化温度よりも約300℃低い温度と、約200℃高い温度の範囲内にある。より好ましくは、結晶化温度よりも約200℃低い温度と、約100℃高い温度の範囲内にある。最も好ましくは、結晶化温度よりも約50℃低い温度と、結晶化温度よりも約50℃高い温度の範囲内にある。
【0090】
通常使用することのできるガラスセラミックには、CERAN、ROBAX、又はZerodur(いずれもSCHOTT−GLAS社(Mainz)の登録商標である)等のリチウムアルミノケイ酸(LAS)ガラスセラミック等のようなアルカリ含有ガラスセラミックのみならず、マグネシウムアルミニウムケイ酸(MAS)のようなアルカリフリーガラスセラミックも含まれる。
【0091】
抗菌性の前駆体の塗布は、セラミック化工程の前であっても後であってもよい。イオン交換処理又は拡散処理をセラミック化処理と一緒に行う場合には、イオン交換拡散及びセラミック化を1つの工程のみで行うことが必要である。
【0092】
イオン交換又は拡散後に素材を急冷(エアブロー等により)すると、ガラス素材の構造強度を高めることができる。工程は、上で述べた、ガラス素材を素材とした場合の工程と同じである。
【0093】
本発明の特殊な形態において、拡散工程における温度時間プロファイルを、急冷により構造強度の向上した素材が得られるように設定することは非常に有利である。温度プロファイルを、同一工程において表面の装飾処理を同時に行うことができるように設定することはさらに有利である。3つの処理(抗菌処理、装飾処理及び構造強化処理)を全て1つの工程で行うことができるようになれば、最も有利である。
【0094】
本発明の最も好ましい実施形態において、本発明者らは、Ag塩を金属イオン前駆体として使用する場合において、Ag塩を前駆体物質として他の多価イオンと組み合わせることにより、黄色化を抑制できることを見出した。例えば、Ag塩をCu塩等と組み合わせることで着色を抑制することができる。最も好ましい塩は、硝酸塩、過酸化物等の酸化能を有する塩である。
【0095】
他のイオン前駆体物質の組み合わせも可能である。これは、抗菌性と撥水性を組み合わせなければならない場合等に有利である。この場合には、Ag塩を前駆体物質として、そしてZn塩をさらなるイオン前駆体物質として組み合わせることが可能である。このように組み合わせて使用することは、例えば高い抗菌効果を、着色を伴わずに達成しなければならない場合等に最も好ましい。
【0096】
このような場合、高い抗菌効果を達成するためには、第1の金属イオン前駆体としてAg塩を、第2の金属イオン前駆体としてZn塩を組み合わせることが可能である。
【0097】
さらに、例えばAg、Cu、Zn、Sn、I、Te、Ge、Cr等の異なる抗菌イオンの組み合わせ等、異なる金属イオン前駆体の材料の組み合わせにより、相乗的に抗菌効果を向上させることが可能である。
【0098】
着色ガラス又はガラスセラミックの場合、変色効果の重要性は低い。
【0099】
抗菌イオンを含む溶液に特定の着色剤を添加することも可能である。
【0100】
改良された実施形態において、本発明者らは、金属イオンのキャリア物質として分散物を使用した場合、無機の抗菌性物質の粒子サイズが1μm未満、好ましくは0.5μm未満、最も好ましくは0.1μm未満であるべきことを見出した。これは、均一でムラのない表面を得るためには特に必要性が高い。
【0101】
金属イオン前駆体物質の素材、特にガラス素材上への塗布は、本発明の好ましい実施形態においては、室温又は室温よりもわずかに高い温度で行うことが好ましい。二段階法で行う場合には、塗布物を最初の焼き戻し工程の際に乾燥することができる。
【0102】
好ましい実施形態において、Ag金属化合物の濃度を、金属化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01重量%〜約4重量%の範囲内、好ましくは約0.25重量%〜約1.5重量%の範囲内とすることは、本発明によってガラス、ガラスセラミック又はガラス様素材の表面に抗菌効果のある濃度を付与する上で好適である。
【0103】
Zn金属又はCu金属化合物において、Zn金属又はCu金属化合物の濃度を、金属イオン前駆体における化合物及びキャリア物質の全質量に対して約0.01重量%〜約20重量%の範囲内とすることは、本発明によるガラス、ガラスセラミック又はガラス様素材の表面に抗菌効果のある濃度を付与する上で好適である。
【0104】
「抗菌効果のある濃度」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合において、ガラス又はガラス様素材の表面領域に交換ないし注入された抗菌性金属のイオン、原子、分子及び/又はクラスターが、素材の表面領域に、接触した微生物を殺すか、少なくとも成長を阻害するのに十分な速度及び濃度で素材の表面から放出されるような濃度で存在することを意味する。このことを達成するために、好ましい実施形態においては、抗菌効果をもたらす金属イオンの放出速度が、LMBG(ドイツ食品法)の要件を満たし、「ヘムホッフ」を示さない。これは、黒色アスペルギルス及び枯草菌に対する寒天拡散試験(欧州規格(EN)1104によるいわゆる「ヘムホッフ」試験)において、抗菌面から放出や拡散が観測されないことを意味する。
【0105】
種々の工程において所定の温度に到達するための加熱法としては、以下に示す、標準的なローラー炉、バッチ炉、赤外線加熱、レーザー加熱、ガスバーナー加熱、マイクロ波加熱を使用することが可能である。素材の表面処理のみについては、素材の直接表面温度(昇温等)のみをモニターしながら行うことが好ましいため、この工程については、赤外線又はレーザー加熱等の特定の加熱法により行うことができる。
【0106】
特に、レーザー加熱法は、生物学的用途等における構造を有する抗菌面を作成するために使用することができる。それらは、通常の加熱法と組み合わせて使用することもできる。
【0107】
「非浸出性の抗菌性のガラス又はガラス様表面」という用語は、本明細書で使用される場合において、表面の抗菌効果をもたらし、同時にガラス表面の抗菌効果を、通常の皿洗い機等で洗浄した場合においても長期間にわたって維持するためにゆっくりと速度で放出される抗菌イオンを含むガラス又はセラミック若しくはガラスセラミック等のガラス様表面を表すことを意図するものである。
【0108】
好ましい実施形態においては、これらの表面はヘムホッフ試験に合格し、ドイツLMBG法に規定する浸出性の要件を満たすものである。
【0109】
最後の加熱処理の後、例えばドイツLMBG法の要件を満たすように調節するために、塗布溶液からの残留物をガラスから除去し、表面に直接存在する抗菌剤の濃度を、ガラス表面の洗浄工程を実施してもよい。このような工程は、長期にわたり抗菌効果を発揮させるためにガラス内部に高い濃度の抗菌剤を存在させなければならない場合に特に必要である。抗菌イオンの濃度が非常に高く、洗浄を行わなければ、外面から直接放出されるイオンが高すぎて、ヘムホッフ試験及び食品に接する物質に対するLMBG法の要件を満たすことができない場合には、溶液による加熱処理を行う。
【0110】
イオン濃度及び放出の他に、特定の表面領域も抗菌効果について重要な役割を果たす。表面領域は、例えば研削及び研磨処理により改質することができ、これらはイオンの放出に直接影響を与える。こうした処理により、「すりガラス」のような異なる光学的な外観を併せて付与することもできる。通常の研削法では、固定砥粒若しくは遊離砥粒又はサンドブラスト等を使用することができる。表面積を増大させることにより、同一の抗菌効果を発揮させるために必要な、表面における抗菌イオンの総量を減少させることもできる。この方法は、さらに変色効果を回避するためには特に有利である。
【0111】
表面粗さ(Ra)は、粗く研削した表面については5μm〜1μmの間、微細研削した表面については1μm〜0.2μmの間で、研磨することで2nm程度まで低下させることができる。表面粗さを変化させることにより、銀濃度、処理温度及び時定数等の他の処理条件を一定に保ったまま抗菌効果を変化させることができる。
【0112】
高温処理の間の雰囲気は、ガラス表面の上又は内部の酸化還元作用に影響を与える。酸素濃度を増大させると、例えば銀イオンの還元及び金属銀ナノ粒子の形成によりもたらされる変色を抑制する。この効果は、処理温度が高くなると、酸素がガラス内へ拡散する速度及び深さが増大するためにより強くなる。その反面、雰囲気中の酸素は、ガラス表面におけるAg2O等の金属酸化物の生成を促進する。これらの酸化物は非常に安定で、金属イオンの表面への拡散を抑制する。これらの酸化物は、表面における抗菌効果を増大させる。
【0113】
好ましい実施形態においては、これらの金属酸化物は、表面に均一に分散し表面層が肉眼で視認されることのないように制御される。さらに、酸化物は、拭き取りや通常の洗浄等の通常の清浄化処理によって除去されることのないよう表面に固定されている。さらに、濡れ特性や拡散特性に関する表面改質を同時に行ってもよい。
【0114】
本発明の他の実施形態において、抗菌面を塩浴からのイオン交換によって生成してもよい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素を含むガラスを用いて、液体塩浴中で、200℃からT(g)+100℃、好ましくはT(g)、さらに好ましくはT(g)−50℃、最も好ましくはT(g)−150℃の温度でのイオン交換により、Ag、Cu、Zn、Sn等のイオンの拡散が達成される。アルカリ成分を含まないガラスについては、さらに簡素化された拡散工程により抗菌面が得られる。液体塩浴の温度は、ガラスの融点に依存する。
【0115】
イオン交換後に素材の焼き戻しを行うことにより、抗菌イオンを材料内にさらに深く拡散させることができる。好ましい実施形態において、素材、特にガラス素材の着色が起こらず、素材が可視波長領域で高い透過率を有するように処理条件が選択される。
【0116】
所定量の抗菌イオンを含む表面層を有するガラス素材を、例えば塩浴内等で再度処理することにより、さらにもう1度抗菌イオンを、Naイオン等と交換することができる。残っているAgイオンを、材料内にさらに深く拡散させることができる。Agイオンは、その後素材内部に注入される。
【0117】
イオン交換が起こったガラスの部分と、イオン交換が起こっていないガラスの部分との間で応力が発生する可能性がある。これを、抗菌面を有するケミカルプレストレスガラスの製造に利用することが可能である。
【0118】
ケミカルプレストレス用の材料の場合、ガラスを、抗菌イオンを含む組成物と混合することにより、抗菌面を有するプレストレスガラスが得られる。このような場合には、ガラスは、1段階で化学的にプレストレス処理され、抗菌面が付与される点で有利である。
【0119】
抗菌効果を達成するためには、イオン交換処理時間が、60分未満、好ましくは10分未満、最も好ましくは5分未満と大変短いことが適当である。
【0120】
溶融塩浴中でのイオン交換処理温度は、好ましくはT(g)+50℃未満である。塩浴の融点程度の低い温度で処理することも可能である。
【0121】
塩浴の他に、溶融ペーストを素材に塗布することも可能である。特に、AgCl、AgNO3、ZnCl又はZnNO3を含むペーストを素材の上に塗布し、あるいは素材に焼き付けることが可能である。ペーストは、焼き戻し後に素材からブラシで取り除くことができる。
【0122】
適当な融点又は適当な温度プロファイルを有する場合には、素材の表面においてほぼ100%のイオン交換率を達成することが可能である。
【0123】
金属化合物を素材の表面上に導入する他の可能な方法は、例えばフォイル状のポリマー素材の表面上に導入する方法である。レーザーによる加熱等の熱処理により、金属イオンを表面内に拡散させることが可能である。レーザーにより、素材の表面上に所定の構造を付与することができる。
【0124】
上に述べた方法によって、ガラスセラミックの表面に抗菌面を付与することも可能である。ガラスセラミックの処理は、セラミック化の前であっても後であってもよい。
【0125】
Ag、Zn又はCuを含む溶融物又はペーストは、例えば、下記の成分を含んでいてよい。
塩化銀
硝酸銀
酸化銀
銀
有機銀化合物
無機銀化合物
塩化銅
酸化亜鉛
硝酸亜鉛
塩化亜鉛
有機銅化合物又は有機亜鉛化合物
無機銅化合物又は無機亜鉛化合物
同様に、Ag、Cu、Sn、Zn等の抗菌イオンの全ての塩を含み、処理温度まで安定な任意の塩等の他の任意の化合物を含んでいてもよい。
【0126】
Znは素材、特にガラス素材を着色しないため、Zn化合物はAg化合物よりも有利である。
【0127】
抗菌面を付与する工程を、ガラスを処理する他の工程と組み合わせてもよい。特に有利な場合においては、ガラス素材を抗菌化する工程とガラスにプレストレスを付与する工程を組み合わせることが可能である。ガラス表面に抗菌性を付与するためには、ガラスにプレストレスを付与するための浴に例えば銀塩を添加すればよい。このような処理は、ハードディスク、眼鏡用ガラス、実験器具用の熱プレストレスガラスの製造に用いられる。
【0128】
抗菌効果を、素材の1つの面にのみ付与するためには、その面のみに例えば金属を含むペーストを塗布すればよい。
【0129】
本発明のさらなる態様によると、抗菌面を有する製品が本発明により製造される。具体的には、本発明による抗菌面を有する製品は、食品に接することを目的とする製品である。そのような製品としては、トレイ、棚、レンジ上面、飲食用品又はまな板等がある。
【0130】
抗菌面を有する医薬用包装製品又は医療用等の光学ガラスも、本発明により提供される。
【0131】
ガラス製品に抗菌効果を付与する技術の他の用途としては、タッチスクリーン等のディスプレイ用ガラス、乳幼児用ボトル、飲料用貯蔵水用の処理及び配管システム、窓、食品陳列台、光学レンズ、特にホウケイ酸ガラス製の実験器具用ガラスが挙げられる。最も好ましいのは、特に冷蔵庫の棚材用の抗菌性のガラス製の棚である。
【0132】
本発明の1つのさらなる態様は、従来技術における欠点を回避しうる抗菌性の冷蔵庫の棚等の抗菌性の冷蔵庫用の内部部材、特に製造が容易で、抗菌性皮膜が摩耗に対して高い抵抗性を示す冷蔵庫用の内部部材を提供することである。
【0133】
本発明のこうした態様は、ガラス部材よりなる冷蔵庫用の内部部材によって解決され、前記ガラス部材は抗菌面領域を有しており、前記抗菌面領域は、表面領域に抗菌効果を有する量の金属イオンによりもたらされる。
【0134】
好ましくは、冷蔵庫用の内部部材は、冷蔵庫の棚材である。
【0135】
本発明はさらに、ガラス素材又はガラスセラミック素材が抗菌性のガラス表面を有していれば、食品に接する製品、食品陳列用品、食品の製造、レンジ上面、病院用器具、医療機器、水処理、水の貯蔵、水の輸送、ヘルスケア、衛生用品、大型家電、台所及び浴室用品、食器類に適用することが可能である。本発明は、例えば抗菌性の歯科用品等の歯科用品の分野へ適用することも可能である。
【実施例】
【0136】
以下の実施例は、本発明を説明するためのもので、当業者に対し、本発明の方法及び製品の製造をどのようにして行い、評価することができるかについてより完全な理解をもたらすことを意図するものである。これらの実施例は純粋に例示的なものであり、発明者が自らの発明であると認識する範囲を限定するものではない。数値(量、温度等)等について正確性を担保するための努力は行っているが、誤差や偏差を含むものであることについて考慮するべきである。別途記載のない限り、部数及びパーセントは、重量部数及び重量パーセントであり、温度は摂氏(℃)単位で、かつ外気温度であり、圧力は大気圧又はその近傍の圧力である。
【0137】
抗菌性試験は、ASTM 2180−01規格に従い、以下の微生物、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、黒色アスペルギルス、カンジダ・アルビカンス、大腸菌及び豚コレラ菌について実施した。
【0138】
JIS Z2801による抗菌性試験は、大腸菌及び緑膿菌について実施した。
【0139】
微生物が対数値で2減少した場合に、試験は「合格」と記載した。
【0140】
さらに、抗菌性試験は、Bechertらが、Nature Medicine,Vol.6,2000,1053−1056.に記載した増殖試験によっても実施した。
【0141】
この試験では、試験対象の表面の微生物の増殖は、その表面と接触した溶液の光学密度を測定することにより検出される。増殖試験は、全ての場合において緑膿菌を用いて実施した。光学密度の測定によって、光学密度の増加の遅れが見られた場合には、増殖試験に合格ということになる。
【0142】
<素材の溶液又は懸濁液による処理の例>
最初の実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、10〜20μmであった。
【0143】
塗布した素材を、第1の温度550℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0144】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0145】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。
【0146】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、強い黄色の変色が見られた。
【0147】
次いで、ASTM2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0148】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当する、酸化カルシウムで研磨したソーダ石灰フロートガラスに、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約40μmであった。
【0149】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0150】
上述した試料について、銀の浸透を確認するためEDXプロファイルの測定を行った。深さ依存に関して、EDX測定よる測定値を重量%単位で表すと下記のとおりであった。
1μm 0.3重量%、3μm 0.4重量%、5μm 0.4重量%、
7μm 0.3重量%、9μm 0.3重量%、11μm 0.2重量%、
13μm 0.3重量%、15μm 0.2重量%、17μm 0.1重量%、
19μm 0.1重量%、21μm 検出限界である0.1重量%未満
【0151】
測定誤差は、0.1重量%の範囲内であった。
【0152】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0153】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスの大気に面している側を研磨(約1μmを除去)し、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。
【0154】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、有意の変色は見られなかった。
【0155】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0156】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、5重量%のHF溶液で5分間洗浄し超音波処理した後、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。
【0157】
塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた後、空気冷却により急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。
【0158】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。ガラスは、十分に構造強化されていた。
【0159】
さらに異なる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、5%のHNO3溶液で5分間洗浄し超音波処理した後、次いで10%のNaOH溶液で10分間処理した後、油を媒体とし、2重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。
【0160】
塗布した素材を、第1の温度550℃で10分間炉内に入れた後、空気冷却により急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。
【0161】
次いで、ASTM 2180−01試験及びJIS Z2801試験を実施し、どちらについても合格した。
【0162】
比較例として、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスを、単に150℃で10分間処理した後、水で1分間洗浄した。試料は、ASTM2180−01試験及びJIS Z2801試験に合格せず、有意な抗菌効果を示さなかった。この結果は、抗菌効果を有する表面を得るためには、適当な温度が必要であることを示している。
【0163】
さらなる実施例において、組成物全体に対する下記の組成を重量%単位で有する、
SiO2 72.00重量%
Al2O3 0.30重量%
Na2O 14.50重量%
MgO 2.80重量%
CaO 10.40重量%
T(g)565℃の、表3の「実施形態1」に相当するソーダ石灰フロートガラスの大気に面した側を研磨した後、油を媒体とし、1重量%のAgNO3を金属イオンとする金属イオン前駆体を、通常のスクリーン印刷法により塗布した。塗布膜の厚さは、約15μmであった。ガラスシートを赤外線炉で15分間乾燥した。次の工程で、無機装飾用ペーストを、スズ浴側にスクリーン印刷し、同じく赤外線炉で15分間乾燥した。次いで塗布した素材を、第1の温度650℃で10分間炉内に入れた後、エアーブローにより急冷した。試料を洗浄後、水で1分間濯いだ。ガラス試料について、変色は見られなかった。ASTM 2180−1試験及び増殖試験に合格した。構造強度は、窓ガラス及びガラス棚に対する要件を満たすものであった。
【0164】
結果を表1に示したさらなる実施例において、硝酸銀を、媒体として用いるFerroC38油に添加し、表1中の「溶液のAg濃度」の列中に示した濃度の金属イオン前駆体を得た。金属イオン前駆体物質を、溶液として、表3の実施形態1に示されたガラス組成を有するフロートガラスの表面上にスクリーン印刷した。塗布膜の厚さは約10μmであった。次いで試料を第1の工程において80℃で30分間乾燥した。その後、試料を実験炉に入れた。実験炉中で、塗布後乾燥したガラス素材を、表1中の「温度/時間」の列中に示した第2の処理温度(単位℃)で、分単位で示した時間焼き戻しを行った。その後試料を炉から取り出し、空冷した。
【0165】
結果を表1に示す。表1には、EDX分析器付の表面電子顕微鏡で測定した、素材の深さ2μmにおける銀イオンの平均濃度を併せて示す。
【表1】
【0166】
表1において明らかなように、抗菌効果は、ガラス表面の銀イオン濃度又は拡散過程等により使用中に表面に到達することが可能なイオンの濃度に決定的に依存する。この「活性な」銀の濃度は、以下の処理条件に依存する。
・溶液中の銀前駆体の濃度
・ガラス素材上の溶液膜の厚さ
・全工程における温度/時間のパターン
温度が低すぎ、時間が短すぎると、少なすぎて十分でない量の抗菌イオンしか素材の表面に結合又は導入されず、簡単な洗浄工程で除去され、温度が高すぎ、時間が長すぎると、抗菌イオンが深く浸透し過ぎるためもはや活性ではなく、使用上十分な量のイオンが表面に存在しない。このため、温度/時間のパターンは非常に重要である。特別な場合には、製造上の理由(着色層や装飾層を焼くために追加の焼き戻しを行う等)により、焼き戻しを数回行う場合がある。このような場合には、全体の温度/時間経過の総和を考慮しなければならない。
【0167】
さらなる例において、濃度0.6重量%のAgNO3及び2重量%のZnNO3を、金属イオン前駆体の媒体としてC38油中にミキサーを用いて分散させた。金属イオン前駆体を、溶液として、フロートガラスの大気に面した側に、膜厚約10μmとなるようにスクリーン印刷した。フロートガラスは、この場合も表3の実施形態1に従った組成を有するソーダ石灰ガラスであった。
【0168】
他のソーダ石灰ガラス素材の試料について、それらは全て表3の実施形態1に記載のガラス組成を有しており、C38油を媒体として、種々の濃度のAgNO3を金属イオン源として含む金属イオン前駆体で処理後を行い、炉内において、650℃で種々の焼き戻し時間(15分間等)熱処理し、炉から取り出した後空冷し、深さ方向の銀濃度プロファイルの測定を行った。結果を表2に示す。
【表2】
【0169】
表2から明らかなように、表2に示した実験によると、抗菌効果又はいわゆるAM効果は、表面濃度が約0.8重量%あると、試験に合格する上で十分である。このことは、焼き戻し温度、焼き戻し時間も、前駆体物質の銀イオン濃度と同様に、本発明により、Agイオンの表面濃度が0.8重量%よりも大きくなるように選択されなければならないことを意味する。
【0170】
こうして、ASTM試験に合格するのに十分な抗菌効果が達成される。表1から明らかなように、0.8重量%を上回る表面濃度が、ASTM試験に合格する抗菌効果を得るためには必要である。表1に示した表面濃度は、表面から2μmにおける銀イオン濃度の平均値である。
【0171】
550〜740℃の種々の温度で焼き戻しを行ったフロートガラス試料の透過スペクトルを、図1に示す。フロートガラスの組成は、表3の実施形態1の記載のよるものである。金属イオン前駆体のAgNO3の濃度は、4重量%である。試料は種々の温度の炉内に10分間入れた後、再度取り出して空冷した。参照番号10は、処理温度500℃の試料を、14は、温度600℃を、16は、温度650℃を、18は、温度680℃を、20は、温度700℃を、22は、温度750℃を示す。図1から明らかなように、銀ナノ粒子の吸収によって、焼き戻し温度が高いほど、より顕著な吸収帯が見られる。
【0172】
本発明の手法により素材の表面に注入された、素材の焼き戻し温度に依存する銀イオンの濃度プロファイルを、図2に示す。測定はEDX分析計により行った。初期測定点は、ガラス表面から深さ約5μmの地点とした。Ag濃度は任意単位でプロットした。図2からわかるように、Agイオンは温度が高くなるほど深く浸透している。点100は650℃で焼き戻しを行った試料を、点110は550℃で焼き戻しを行った試料を、点120は740℃で焼き戻しを行った試料を示す。
【0173】
図2と同一の試料について、表面から5μmの深さにおいてWDX分析計により測定した銀イオン濃度を、図3に示す。WDX分析は、EDX分析よりも高い空間分解能を有する。2つの試料の材料表面におけるAgの拡散を示す。第1の試料は、0.6重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液を塗布したガラス素材である。第1の試料の測定点は、番号200により示されている。第2の試料は、2重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液を塗布したガラス素材である。第2の試料の測定点は、番号210により示されている。試料は両者とも650℃で15分間焼き戻しを行った。図3から明らかなように、2重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液から作成した試料の方が、0.6重量%のAgNO3を含む金属イオン前駆体溶液から作成した試料よりも、銀の表面濃度が約3倍高い。両者の試料とも、ガラス素材は表3の実施形態1の記載によるソーダ石灰ガラスである。表面付近の銀イオン濃度について顕著な違いが見られる。
【0174】
上述のパラグラフで述べたことから明らかなように、ASTM試験に合格するためには、約0.8重量%より高い濃度のAgが表面に存在する必要がある。この濃度は、好ましくは、情報深さ約2μmのEDXにより測定される。
【0175】
溶液の銀イオン濃度は、銀塩の溶解度により制限される。濃度が銀塩の溶解度の範囲内であれば、SEMにより、平坦なガラス表面上に銀塩の粒子を観察することができる。例えば、C38油の場合、AgNO3の最大溶解度は3重量%付近である。銀の還元を避けるため、焼き戻しは酸化条件下で行う必要がある。
【0176】
上述の方法により生成された抗菌面を有するガラス素材からのイオンの放出量を決定するために、ガラス素材を3重量%の酢酸を含む水溶液で10日間、温度40℃で処理した。放出面積は100cm2であった。
【0177】
上に述べたことから明らかなように、Agの放出量は、ドイツの飲料水に関する法律(いわゆる“Trinkwasserverordnung”)における許容値である0.08mg/L未満である。
【0178】
表3の実施形態1による、未処理のソーダ石灰フロートガラス面(大気側)のTOF−SIMS測定の結果を、図4に示す。
【0179】
表面においてスズの濃度(Sn濃度)が増大していることがわかる。スズの濃度曲線を参照番号300で示している。
【0180】
表面から50nmにおけるAg濃度が低減しており、深さ約2μmまで銀濃度がほぼ一定である試料のTOF−SIMS測定の結果を、図5に示す。試料は、表1における、溶液中のAg濃度が2重量%、温度650℃及び焼き戻し時間10分にあたる。
【0181】
化学エッチングによるソーダ石灰ガラスの黄化の抑制について、図6に示す。ソーダ石灰フロートガラスを、4%HF水溶液中、超音波浴中で種々の時間前処理し、AgNO32%水溶液により処理した。試料を約650℃の炉中に10分間入れた。色指数b*は、黄色すなわち黄化の指数である。
【0182】
下記の表3に、本発明の実施に用いることができるさらなるガラスの組成を示す。
【表3】
【0183】
表3において、T(g)はガラス転移温度を示し、VAは加工温度を示す。
【0184】
表1の実施形態1は、上述の実施例に記載のソーダ石灰ガラスに相当する。他のガラスについても、抗菌効果及び濃度プロファイルが観測された。
【0185】
さらに、種々のガラスについて金属イオンを含む溶液による処理を行った。
【0186】
表3の「溶液」には、ガラス表面に塗布した溶液が記載されている。例えば「C38油」とあるのは、C38油溶液であることを示している。Ag、Cu、Znイオンの濃度は、「Ag濃度」、「Cu濃度」、「Zn濃度」の行に、重量%で記載されている。
【0187】
「温度」は、溶液を塗布したガラス素材を炉内で加熱した温度を示す。「時間」は、素材を炉内で、前述の温度でどれだけの時間加熱したかを示す。
【0188】
例えば、表3より、2重量%のAgNO3を含むC38油溶液により、温度550℃で10分間処理した実施形態7によるガラスは抗菌性増殖試験に合格したことがわかる。
【0189】
さらなる実施例において、表3の実施形態8に記載のアルカリフリーガラスに、2重量%のAgNO3を含むC38油をスクリーン印刷した。試料を800℃の炉内に20分間入れ、その後空気中で冷却した。試料は、抗菌性増殖試験及びJIS Z2080試験に合格した。
【0190】
表3に記載の所定の濃度の金属イオンを含む溶液をスクリーン印刷後、表3に記載の温度及び時間の間処理した、実施形態2、3、4、5、6、7、8、及び9によるガラスについての結果を、表4に示す。
【0191】
ガラスに金属イオンを含む溶液を塗布し、表3に記載の時間加熱した後、ガラス素材を空気中で冷却した。表3から明らかなように、表3に記載の種々のタイプのガラス、特に少量のアルカリ金属を含むタイプのガラス(実施形態8)について、抗菌効果が観測された。このことは、全てのガラスが抗菌性増殖試験、ASTM試験及びJIS Z2080試験に合格したという事実から結論付けられる。さらに、表3に記載された全てのガラスについてAgイオンの濃度(重量%)プロファイルを、表4に示す。
【表4】
【0192】
表4から明らかなように、全てのガラスが銀イオンプロファイルを含む。銀イオンの量は、表面から素材の内部へ深く向かうにつれ減少する。ガラスセラミックも、金属イオンを含む溶液又は懸濁液により処理することができる。ガラスセラミックについての例は、欧州特許第1,170,264号明細書、ドイツ特許第100,17,701号明細書、欧州特許第0,220,333号明細書の特許文献に記載されている。これらの文献の記載は、本出願に最大限組み込まれる。欧州特許第1,170,264号明細書によるガラスセラミックの緑色ガラスは、例えば、As2O3、Sb2O3、SnO2、CeO2及び/又は硫酸塩/塩化物等の改質剤と同様に、表5に示すような組成を有する。
【表5】
【0193】
表5に記載のガラスセラミック用の緑色ガラスについての好ましい組成を、表6に示す。
【表6】
【0194】
表6の実施形態GK1において、緑色ガラスからガラスセラミックを得るための種々の焼き戻し温度及び焼き戻し時間を表7に示す。
【表7】
【0195】
欧州特許第0,220,333号明細書に記載の、ガラスセラミックを得るために使用する緑色ガラスの例を表8に示す。
【表8】
【0196】
表8に記載の緑色ガラス組成の例を表9に示す。
【表9】
【0197】
独国特許第100,17,701号明細書には、表10に記載のガラスセラミック用の緑色ガラスの組成が示されている。
【表10】
【0198】
表10に示した組成を有する緑色ガラスの例並びに当該緑色ガラスの組成物からガラスセラミックを得るための焼き戻し温度及び焼き戻し条件を表11に示す。
【表11】
【0199】
表11において、αは熱膨張係数を示し、hQMKは、「Hochquartzmischkristal」の略で、高温石英混晶を示す。
【0200】
<素材を溶融又はペースト状態で処理する例>
平面ガラス又はガラスセラミックについて、融液又はペースト中でイオン交換処理して抗菌面を得る実施例について以下に述べる。
【0201】
融液中でのイオン交換及び/又は拡散により抗菌面を付与されるガラス組成の例を表11に示す。
【表12】
【0202】
実施形態M1は、高いイオン放出能を有する表面、すなわち水性溶媒中で非常に反応性の高い表面を有する平坦なガラス円板状のソーダ石灰ガラスを示す。
【0203】
実施形態M1に記載の組成を有するガラス円板のイオン交換は、硝酸銀含量100%の融解硝酸銀中で行った。イオン交換を行った温度T(℃)及び時間t(時間)を、素材の深さ0〜2μm及び2〜4μmにおけるAg2O濃度と共に表13に示した。
【表13】
【0204】
数種のバクテリアについて行ったヘムホッフ試験の結果を図7に示す。図7において、1000は未処理の試料を示し、1003は100重量%溶融AgNO3中240℃で2時間イオン交換を行った試料を示し、1005は295℃で2時間イオン交換を行った試料を示し、1007は対照試料を示す。ヘムホッフ試験の結果が示すように、反応性のガラス表面から、Agイオンが周囲の水性溶媒中に拡散し、そして、抗菌性のガラス表面から離れた位置でも抗菌効果が検出される。
【0205】
Ag及びNaの、深さ方向(単位μm)の濃度プロファイルを図8に示す。図8から明らかなように、Agは表面に豊富に存在する。表面は2100で示され、Agの濃度は参照番号2110で示され、Naの濃度は参照番号2120で示される。プロファイルは、電子線マイクロプローブ分析により測定した。図8において測定した試料は、実施形態M1に記載のソーダ石灰ガラスである。ソーダ石灰ガラスは、100重量%溶融硝酸銀中での、4時間、240℃でイオン交換処理により処理された。
【0206】
本発明のさらなる実施形態において、表12の実施形態M2に記載のガラスについて測定を行った。表12の実施形態M2に記載のガラスは高い化学安定性を有しており、水性溶媒中におけるイオン放出速度は低い。交換温度T(℃)及び交換時間t(時間)に依存する、深さ0〜2μm及び深さ2〜4μmにおけるAg2O濃度を表14に示す。ガラスは、100重量%溶融硝酸銀中で、所定の時間t(時間)及び所定の温度T(℃)の下で処理された。
【表14】
【0207】
ヘムホッフ試験の結果を図9に示す。図9から明らかなように、高い安定性を有するガラスでは、ガラス表面から離れた位置では、生命破壊効果は観測されなかった。生命破壊効果又は活性は、増殖試験の結果が示すように専ら表面に限られている。
【0208】
増殖試験の結果を図10a〜10dに示す。図10aは、未処理のソーダ石灰ガラスについての結果を示す。図10b〜10dは、処理済みソーダ石灰ガラスについての結果を示す。ガラスは、330℃の5重量%AgNO3/95%NaNO3融液中で7.5分間(図10b)、30分間(図10c)及び2時間(図10d)処理した。図10aに、イオン交換処理を行わなかった対照試料の結果を示す。図は、周囲の培養液の光学密度を示す。曲線の増大は細菌の成長と相関を有する。明らかに、交換時間が増大すると生命破壊効果がより強くなるという結果が得られた。生命破壊効果は、実質的に表面で起こっている。
【0209】
100重量%溶融硝酸銀中で4時間、温度240℃でイオン交換を行ったソーダ石灰ガラス試料の濃度プロファイルを図11に示す。銀及びNaの含有量は、表面2200から素材内部への深さに依存する。Agについての曲線を2210に示し、Naについての曲線を2220で示す。
【0210】
以上述べたのは、表12の実施形態M2による組成を有するソーダ石灰ガラスの平坦な円板について行ったイオン交換処理に関する。
【0211】
100重量%溶融硝酸銀中で100分間、温度250℃でイオン交換処理した後の、表12の実施形態M3〜M11によるガラスについての増殖試験の結果を表15に示す。
【表15】
【0212】
「Positive control」、「Negative control」、「MM Medium control sterile」という用語は、「T.Bechert,P.Steinbruecke,G.Guggenbichler,Nature Medicine,第6巻,第8号,2000年9月,1053−1056」に記載されている。この論文の記載は、完全に本出願に組み込まれている。
【0213】
溶融硝酸銀で処理していない実施形態M3〜M11に記載のガラスについての結果を表16に示す。これらの試料は、図15に示した結果の比較例である。
【表16】
【0214】
表16から明らかなように、処理をしていないガラスは抗菌効果を示さないが、溶融硝酸銀で処理したガラスは抗菌効果を示す。
【0215】
増殖試験により、表面の抗菌効果を決定することが可能である。
【0216】
「Onset OD」は周囲の培養液の光学密度を示す。増殖、すなわち娘細胞の生成及び表面から周囲の培養液中への細胞の放出により、周囲の培養液の透過率が低下する。所定の波長における吸収は、表面の抗菌効果と相関を有する。このことは、高いOnset OD値は表面における高い抗菌効果を示すことを意味する。
【0217】
ガラスセラミックについての以下の段落の記載より、ガラスセラミックを溶融硝酸銀中で処理すると、拡散処理により平坦なガラスセラミックに抗菌面を付与することができることを示す。原理上、上に述べた全てのガラスセラミック、特に欧州特許第1,170,264号明細書、独国特許第100,17,701号明細書、欧州特許第0,220,333号明細書に記載のガラスセラミックを、金属を含む融液中で処理されることにより、抗菌面を付与することができる。以下に示す実施例は単なる例示である。
【0218】
検討したガラスセラミックの緑色ガラスの酸化物組成を重量%で記載したものを表17に示す。
【表17】
【0219】
上に示した緑色ガラスの組成物から、この緑色ガラスを室温から840℃まで昇温速度11K/分で加熱することにより、シート状で厚さ4mmの緑色ガラスセラミックが得られた。温度840℃で、この材料を18分間保持した。その後材料を、昇音速度9.5K/分で1065℃まで加熱した。この温度で材料を23分間保持した。その後、材料を、冷却速度12K/分で950℃まで冷却した。材料を、950℃から特別な冷却速度によらずに室温まで冷却した。
【0220】
表17に記載の緑色ガラスの組成を有し、上に述べたようにして生成し、セラミック化後100重量%融解硝酸銀中で処理したシート状のガラスセラミックの表面における抗菌効果について表18に示す。表18中、試料(a)は、表17に記載の緑色ガラス組成物から製造し、100重量%融解硝酸銀中で10分間、試料(b)は、表17に記載のガラスセラミック組成物から製造し、100重量%融解硝酸銀中で100分間、温度250℃で処理したシート状ガラスセラミック試料についての抗菌効果を示す。
【0221】
試料(c)は、表17に記載の緑色ガラスから製造し、100重量%融解硝酸亜鉛中で100分間、温度250℃で処理したシート状ガラスセラミック試料についての抗菌効果を示す。表18から明らかなように、試料(a)、試料(b)、試料(c)の全ての試料について、これらの試料が、融液中で処理後に高い抗菌効果を有する表面を有することを示す、高いOnset ODが観測された。
【表18】
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】550〜740℃の種々の温度で焼き戻しを行ったフロートガラス試料の透過スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の手法により素材の表面に注入された、素材の焼き戻し温度に依存する銀イオンの濃度プロファイルを示す図である。
【図3】図2と同一の試料について、表面から5μmの深さにおいてWDX分析計により測定した銀イオン濃度を示す図である。
【図4】実施形態1による、未処理のソーダ石灰フロートガラス面(大気側)のTOF−SIMS測定の結果を示す図である。
【図5】表面から50nmにおけるAg濃度が低減しており、深さ約2μmまで銀濃度がほぼ一定である試料のTOF−SIMS測定の結果を示す図である。
【図6】化学エッチングによるソーダ石灰ガラスの黄化の抑制を示す図である。
【図7】実施形態M1におけるヘムホッフ試験の結果を示す図である。
【図8】Ag及びNaの、深さ方向(単位μm)の濃度プロファイルを示す図である。
【図9】実施形態M2におけるヘムホッフ試験の結果を示す図である。
【図10a】実施形態2における未処理のソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10b】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10c】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図10d】実施形態2における処理済みソーダ石灰ガラスについての増殖試験の結果を示す図である。
【図11】100重量%溶融硝酸銀中で4時間、温度240℃でイオン交換を行ったソーダ石灰ガラス試料の濃度プロファイルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から約0μmから約2μmの深さにおいて測定した金属イオン濃度、特にAg濃度が、0.6重量%、好ましくは0.8重量%、最も好ましくは1重量%よりも高い抗菌面を有する製品。
【請求項2】
深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が10より大きい、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が5より大きい、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
深さ約5μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が0.5より小さく、深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約5μmにおける前記金属イオン濃度に対する比が10より大きい、請求項1に記載の製品。
【請求項5】
深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約30nmにおける前記金属イオン濃度の比が0.5よりも小さく、深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が0.2よりも小さい、請求項1に記載の製品。
【請求項6】
表面から10μmよりも深い位置において測定した前記金属イオン濃度が0.1重量%よりも小さい、請求項1から5のいずれか記載の製品。
【請求項7】
前記金属イオン濃度が、JIS Z2801規格試験において微生物数が対数値で2以上減少するような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項8】
前記金属イオン濃度が、ASTM 2180規格試験において前記微生物数が対数値で2以上減少するような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項9】
前記金属イオン濃度が、増殖試験において光学密度パラメータが15よりも大きくなるような濃度である、請求項1から6いずれか記載の製品。
【請求項10】
前記金属イオン濃度が、欧州規格EN1104によるヘムホッフ試験において、微生物の成長の抑制が観測されないような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項11】
前記金属イオン濃度が、ドイツ食品法の規定による試験において、金属イオンの浸出速度が0.08mg/ml未満であるような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項12】
前記金属イオン濃度が、ドイツ飲料水法の規定による試験において、金属イオンの浸出速度が0.08mg/ml未満であるような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項13】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項1から12のいずれか記載の製品。
【請求項14】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項13に記載の製品。
【請求項15】
前記製品が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択され、
前記製品は、表面から深さ10μm以内において、前記製品に抗菌面を生成するのに十分な量の抗菌イオン濃度を有する、請求項1から12のいずれか記載の製品。
【請求項16】
前記抗菌イオンが、Ag基、Zn基、Cu基、Sn基,I基、Te基、Ge基、Cr基から選択される、請求項1から15のいずれか記載の製品。
【請求項17】
前記抗菌イオンが、Ag、または、AgとZn、Cu、Sn,I、Te、Ge、Crとの組み合わせである、請求項1から16のいずれか記載の製品。
【請求項18】
波長約420nmにおける透過率が60%よりも高く、好ましくは70%よりも高く、より好ましくは80%よりも高く、さらに好ましくは85%よりも高く、前記製品の厚さが約4mmである、請求項1から17のいずれか記載の製品。
【請求項19】
オーブンのドアと、
冷蔵庫の棚と、
フリーザーの棚と、
ガラス製のレンジ上面と、
電子レンジのドアと、
フードと、
ガラスパネルと、
タッチパネルと、
ガラスセラミック製のレンジ上面と、への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項20】
ガラス板と、
シャワーキャビネットと、
壁及び床用タイルと、
飲料用グラスと、
衛生用付属品と、
個人用体重計と、への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項21】
医薬包装用途への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項22】
抗菌面を有する製品の製造方法であって、
a)少なくとも1種類の抗菌効果を有するイオンまたはこれらのイオンの前駆体を含む液体、溶液、分散物、エマルジョンを、前記製品の表面の少なくとも一部に、噴霧、圧延、スクリーン印刷、印刷、浸漬またはキャスティングにより付着させる工程と、
b)前記製品を、前記製品の原料のガラス転移温度より約200℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、約2分から約30分の間加熱し、前記抗菌効果を有する量の金属イオンを、前記前駆体が付着した素材表面に導入する工程と、を含む方法。
【請求項23】
前記製品の原料のガラス転移温度より約200℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、600℃から650℃の温度範囲を含まない、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記金属イオンの前記前駆体を前記製品上に付着させる工程と、前記製品を加熱する工程との間に、揮発成分が蒸発する温度よりも高い温度で前記製品を加熱し、該揮発成分を表面から除去する工程をさらに含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記b)において、前記製品の原料を、前記製品の原料のガラス転移温度より約50℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、約2分から約15分の間加熱し、前記抗菌効果を有する量の金属イオンを、前記前駆体が付着した素材表面に導入する、請求項22から24のいずれか記載の方法。
【請求項26】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項22から25のいずれか記載の方法。
【請求項27】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ソーダ石灰フロートガラスについて、スズを含む表面層を、素材上に前記金属イオンの前駆体を付着させる前に機械的に除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ソーダ石灰フロートガラスについて、スズを含む表面層を、素材上に前記金属イオンの前駆体を付着させる前に化学的に除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
ガラス表面を機械的に研削または研磨することにより表面積を増大または減少させ、前記抗菌効果をコントロールする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項31】
ガラス表面を化学的研磨または化学的処理することにより表面積を増大または減少させ、前記抗菌効果をコントロールする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項32】
ガラスの表面、特に前記フロートガラスの表面を、着色を避けるために機械的に研削かつ/または研磨する、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項33】
ガラスの表面、特に前記フロートガラスの表面を、着色を避けるために化学的にエッチングする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項34】
抗菌面を有する製品を製造する方法であって、
(a)前記製品を融液中に浸漬する工程と、
(b)融液を前記製品と共に、抗菌効果を有する量のイオンが前記製品の表面に導入されるのに好適な温度及び時間において加熱する工程と、を含み、
前記(a)において、前記融液は、少なくとも1種類の抗菌効果を有する金属イオンを含む方法。
【請求項35】
前記温度は200℃より高く、前記時間は10分よりも長い、好ましくは30分よりも長い、より好ましくは60分よりも長い、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
抗菌面を有する製品を製造する方法であって、
(a)少なくとも1種類の抗菌効果を有するイオンまたはこれらのイオンの前駆体を含むペーストを、前記製品の表面の少なくとも一部に、噴霧、圧延、スクリーン印刷、印刷、浸漬またはキャスティングにより付着させる工程と、
(b)前記製品を、前記抗菌効果を有する量のイオンが前記製品の表面に導入されるのに十分な温度及び時間において加熱する工程と、を含む方法。
【請求項37】
前記抗菌効果を有するイオンが、Agイオン、Znイオン、Cuイオン、Snイオン、Iイオン、Teイオン、Geイオン、Crイオンのうち少なくとも1種である、請求項22から36のいずれか記載の方法。
【請求項38】
前記Ag、前記Znまたは前記Cuを含む溶液、分散物、融液またはペーストが、
塩化銀と、硝酸銀と、酸化銀と、銀と、有機銀化合物と、無機銀化合物と、
塩化銅と、酸化亜鉛と、硝酸亜鉛と、塩化亜鉛と、有機銅化合物と、有機亜鉛化合物と、無機銅化合物と、無機亜鉛化合物と、
Ag、Cu、Sn、Zn等の、処理温度まで安定な抗菌イオン塩から成る他の化合物と、を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項34から38のいずれか記載の方法。
【請求項40】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
抗菌効果を与えるのに十分な濃度の金属イオン有する少なくとも1つの表面を備えたガラスセラミック。
【請求項42】
前記金属イオンが、Agイオン、Znイオン、Cuイオン、Snイオン、Iイオン、Teイオン、Geイオン、Crイオンのうち少なくとも1種である、請求項41に記載のガラスセラミック。
【請求項43】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項44】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項45】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項46】
前記ガラスセラミックは、側面を有するガラスセラミックシートであり、少なくとも1つの側面は、前記抗菌効果を与えるのに十分な濃度の前記金属イオンを有する、請求項41から45のいずれか記載のガラスセラミック。
【請求項47】
鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスを含む、金属イオンが濃縮された抗菌表面を有する製品。
【請求項1】
表面から約0μmから約2μmの深さにおいて測定した金属イオン濃度、特にAg濃度が、0.6重量%、好ましくは0.8重量%、最も好ましくは1重量%よりも高い抗菌面を有する製品。
【請求項2】
深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が10より大きい、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が5より大きい、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
深さ約5μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が0.5より小さく、深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約5μmにおける前記金属イオン濃度に対する比が10より大きい、請求項1に記載の製品。
【請求項5】
深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約30nmにおける前記金属イオン濃度の比が0.5よりも小さく、深さ約10μmにおける前記金属イオン濃度に対する、深さ約1μmにおける前記金属イオン濃度の比が0.2よりも小さい、請求項1に記載の製品。
【請求項6】
表面から10μmよりも深い位置において測定した前記金属イオン濃度が0.1重量%よりも小さい、請求項1から5のいずれか記載の製品。
【請求項7】
前記金属イオン濃度が、JIS Z2801規格試験において微生物数が対数値で2以上減少するような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項8】
前記金属イオン濃度が、ASTM 2180規格試験において前記微生物数が対数値で2以上減少するような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項9】
前記金属イオン濃度が、増殖試験において光学密度パラメータが15よりも大きくなるような濃度である、請求項1から6いずれか記載の製品。
【請求項10】
前記金属イオン濃度が、欧州規格EN1104によるヘムホッフ試験において、微生物の成長の抑制が観測されないような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項11】
前記金属イオン濃度が、ドイツ食品法の規定による試験において、金属イオンの浸出速度が0.08mg/ml未満であるような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項12】
前記金属イオン濃度が、ドイツ飲料水法の規定による試験において、金属イオンの浸出速度が0.08mg/ml未満であるような濃度である、請求項1から6のいずれか記載の製品。
【請求項13】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項1から12のいずれか記載の製品。
【請求項14】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項13に記載の製品。
【請求項15】
前記製品が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択され、
前記製品は、表面から深さ10μm以内において、前記製品に抗菌面を生成するのに十分な量の抗菌イオン濃度を有する、請求項1から12のいずれか記載の製品。
【請求項16】
前記抗菌イオンが、Ag基、Zn基、Cu基、Sn基,I基、Te基、Ge基、Cr基から選択される、請求項1から15のいずれか記載の製品。
【請求項17】
前記抗菌イオンが、Ag、または、AgとZn、Cu、Sn,I、Te、Ge、Crとの組み合わせである、請求項1から16のいずれか記載の製品。
【請求項18】
波長約420nmにおける透過率が60%よりも高く、好ましくは70%よりも高く、より好ましくは80%よりも高く、さらに好ましくは85%よりも高く、前記製品の厚さが約4mmである、請求項1から17のいずれか記載の製品。
【請求項19】
オーブンのドアと、
冷蔵庫の棚と、
フリーザーの棚と、
ガラス製のレンジ上面と、
電子レンジのドアと、
フードと、
ガラスパネルと、
タッチパネルと、
ガラスセラミック製のレンジ上面と、への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項20】
ガラス板と、
シャワーキャビネットと、
壁及び床用タイルと、
飲料用グラスと、
衛生用付属品と、
個人用体重計と、への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項21】
医薬包装用途への請求項1から18のいずれか記載の製品の使用。
【請求項22】
抗菌面を有する製品の製造方法であって、
a)少なくとも1種類の抗菌効果を有するイオンまたはこれらのイオンの前駆体を含む液体、溶液、分散物、エマルジョンを、前記製品の表面の少なくとも一部に、噴霧、圧延、スクリーン印刷、印刷、浸漬またはキャスティングにより付着させる工程と、
b)前記製品を、前記製品の原料のガラス転移温度より約200℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、約2分から約30分の間加熱し、前記抗菌効果を有する量の金属イオンを、前記前駆体が付着した素材表面に導入する工程と、を含む方法。
【請求項23】
前記製品の原料のガラス転移温度より約200℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、600℃から650℃の温度範囲を含まない、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記金属イオンの前記前駆体を前記製品上に付着させる工程と、前記製品を加熱する工程との間に、揮発成分が蒸発する温度よりも高い温度で前記製品を加熱し、該揮発成分を表面から除去する工程をさらに含む、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記b)において、前記製品の原料を、前記製品の原料のガラス転移温度より約50℃低く、または、約200℃高い温度範囲において、約2分から約15分の間加熱し、前記抗菌効果を有する量の金属イオンを、前記前駆体が付着した素材表面に導入する、請求項22から24のいずれか記載の方法。
【請求項26】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項22から25のいずれか記載の方法。
【請求項27】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ソーダ石灰フロートガラスについて、スズを含む表面層を、素材上に前記金属イオンの前駆体を付着させる前に機械的に除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ソーダ石灰フロートガラスについて、スズを含む表面層を、素材上に前記金属イオンの前駆体を付着させる前に化学的に除去する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
ガラス表面を機械的に研削または研磨することにより表面積を増大または減少させ、前記抗菌効果をコントロールする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項31】
ガラス表面を化学的研磨または化学的処理することにより表面積を増大または減少させ、前記抗菌効果をコントロールする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項32】
ガラスの表面、特に前記フロートガラスの表面を、着色を避けるために機械的に研削かつ/または研磨する、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項33】
ガラスの表面、特に前記フロートガラスの表面を、着色を避けるために化学的にエッチングする、請求項22から29のいずれか記載の方法。
【請求項34】
抗菌面を有する製品を製造する方法であって、
(a)前記製品を融液中に浸漬する工程と、
(b)融液を前記製品と共に、抗菌効果を有する量のイオンが前記製品の表面に導入されるのに好適な温度及び時間において加熱する工程と、を含み、
前記(a)において、前記融液は、少なくとも1種類の抗菌効果を有する金属イオンを含む方法。
【請求項35】
前記温度は200℃より高く、前記時間は10分よりも長い、好ましくは30分よりも長い、より好ましくは60分よりも長い、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
抗菌面を有する製品を製造する方法であって、
(a)少なくとも1種類の抗菌効果を有するイオンまたはこれらのイオンの前駆体を含むペーストを、前記製品の表面の少なくとも一部に、噴霧、圧延、スクリーン印刷、印刷、浸漬またはキャスティングにより付着させる工程と、
(b)前記製品を、前記抗菌効果を有する量のイオンが前記製品の表面に導入されるのに十分な温度及び時間において加熱する工程と、を含む方法。
【請求項37】
前記抗菌効果を有するイオンが、Agイオン、Znイオン、Cuイオン、Snイオン、Iイオン、Teイオン、Geイオン、Crイオンのうち少なくとも1種である、請求項22から36のいずれか記載の方法。
【請求項38】
前記Ag、前記Znまたは前記Cuを含む溶液、分散物、融液またはペーストが、
塩化銀と、硝酸銀と、酸化銀と、銀と、有機銀化合物と、無機銀化合物と、
塩化銅と、酸化亜鉛と、硝酸亜鉛と、塩化亜鉛と、有機銅化合物と、有機亜鉛化合物と、無機銅化合物と、無機亜鉛化合物と、
Ag、Cu、Sn、Zn等の、処理温度まで安定な抗菌イオン塩から成る他の化合物と、を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記製品が、ガラス素材またはガラスセラミック素材またはガラス様素材を含む、請求項34から38のいずれか記載の方法。
【請求項40】
前記ガラス素材または前記ガラス様素材が、
・アルカリ含有フロートガラスと、
・アルカリフリーガラスと、
・アルカリ土類ガラスと、
・ソーダ石灰フロートガラスと、
・ディスプレイ用ガラスと、
・ガラスセラミックと、
・ホウケイ酸ガラスと、
・Li2O‐Al2O3‐SiO2‐フロートガラスと、
・鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスと、のいずれかより選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
抗菌効果を与えるのに十分な濃度の金属イオン有する少なくとも1つの表面を備えたガラスセラミック。
【請求項42】
前記金属イオンが、Agイオン、Znイオン、Cuイオン、Snイオン、Iイオン、Teイオン、Geイオン、Crイオンのうち少なくとも1種である、請求項41に記載のガラスセラミック。
【請求項43】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項44】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項45】
前記ガラスセラミックの緑色ガラスが、下表に示されるような酸化物組成(重量%)を有する、請求項41または42に記載のガラスセラミック。
【請求項46】
前記ガラスセラミックは、側面を有するガラスセラミックシートであり、少なくとも1つの側面は、前記抗菌効果を与えるのに十分な濃度の前記金属イオンを有する、請求項41から45のいずれか記載のガラスセラミック。
【請求項47】
鉄の容積濃度が700ppm未満、好ましくは200ppm未満である変色フロートガラスを含む、金属イオンが濃縮された抗菌表面を有する製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11】
【公表番号】特表2007−507407(P2007−507407A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530051(P2006−530051)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010922
【国際公開番号】WO2005/030665
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010922
【国際公開番号】WO2005/030665
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]