説明

抗菌性ポリマーナノ複合材料

【課題】抗菌特性の改善および/または殺生物剤要素浸出の低減となる新しいポリマーナノ複合材料を提供し、その複合材料を準備する方法を提供する。
【解決手段】抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法であって、(i)ポリマー抗菌剤を粘土に接触させ有機粘土を生成する工程と、(ii)その後有機粘土をポリマーマトリクスに分散する工程とを備えることを特徴とする。本発明の方法によって準備されたポリマーナノ複合材料は、混合物からポリマー抗菌剤が浸出しにくく、様々な応用例を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーナノ複合材料に関する。特に本発明は、抗菌特性を示しおよび本ナノ複合材料の抗菌性成分の浸出がほとんどないかまたはない、粘土状のポリマーナノ複合材料に関する。本発明は、その抗菌性ナノ複合材料準備のための新しい方法、および各種抗菌性応用製品への複合材料の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
現在抗菌性ポリマーは、無機または有機の抗菌剤(殺生物剤)をポリマーに添加することを含むいわゆる添加法か、またはポリマー構造に殺生物性部分を化学的に結合することにより製造されている。しかし添加法の問題点には、多くの殺生物剤と大半のポリマーとの親和性が乏しいこと、ならびに生成されたポリマーの機械的特性およびその他の重要な物理特性およびエンジニアリング特性が低下することが含まれる。別の大きな問題は、ポリマーからの殺生物剤の浸出、および重金属のような浸出した殺生物剤に起因し、その結果生ずる環境および健康へのリスクである。またこの浸出により、抗菌作用が次第に失われ、殺生物剤がポリマーから使い果たされると作用が完全に失われることになる。
【0003】
原理的には、殺生物剤をポリマー構造に化学的に結合すればこのような問題は克服されるはずである。しかし実際には、このようなアプローチでもポリマーに固定後、殺生物剤の抗菌作用が失われる結果となることがしばしばある。
【0004】
例えば微生物による感染(例としてMRSA)リスクが懸念される病院でのように、抗菌特性がある改善された材料には大きなニーズがある。さらに繊維産業および防衛産業では、微生物の感染を防ぐため生地素材を改善する必要がある。同様に携帯電話などの電子デバイスを含む多くの日常の消費財はバクテリアにより汚染されがちである。さらに食品包装産業では、例えばバクテリアの感染を防止するプラスチックのように、食品包装用の改良プラスチックを常に求めている。
【0005】
先行する開示には以下を含む。
【0006】
特許文献1では、抗菌挙動を有するナノ複合材料を製造するため、アンモニウム塩を使用する従来の粘土/ポリマーナノ複合材料技術の使用を開示している。しかし使用されるアンモニウム塩は、本来ポリマーではない小分子である。
【0007】
特許文献2は、キトサンの抗菌作用拡大に粘土を使用することに関する。
【0008】
銀を粘土に混和して抗菌性粘土/ポリマーナノ複合材料を製造する方法は特許文献3に記載されている。
【0009】
特許文献4では、アクリロニトリルと重合性の第四アンモニウム塩とを共重合させ、抗菌性粘土/ポリマーナノ複合材料を製造する方法を記載している。
【0010】
しかし従来の開示はいずれも、完全に満足できる特性を有する抗菌性粘土/ポリマーナノ複合材料を提供していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公報2006/136397号パンフレット
【特許文献2】中国特許公報1789312号明細書
【特許文献3】中国特許公報1970643号明細書
【特許文献4】中国特許公報1781983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の目的は、本発明またはその他のいずれかで明らかにされた先行技術の問題を克服または軽減し、抗菌特性の改善および/または殺生物剤要素浸出の低減となる新しいポリマーナノ複合材料を提供し、その複合材料を準備する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、そのようなナノ複合材料の新規の使用方法である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、無機粒状の粘土/ポリマーナノ複合材料技術に基づき、抗菌性ポリマーナノ複合材料を製造する新しい方法を考案した。図1はその新しい方法の概略を示すもので、ポリマー抗菌剤(つまり殺生物剤)を粘土に混和して有機粘土を形成し、その後に生成された有機粘土をポリマーマトリクスに分散させポリマー粘土ナノ複合材料を生成することを含む。本ナノ複合材料には殺生物剤化合物があるために抗菌特性があり、かつナノ複合材料からの殺生物剤の浸出は、(現在考えられている)殺生物剤化合物のポリマーの性質により、低減または完全になくなっている。
【0014】
それゆえ本発明の第1の観点は、抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備するための、以下を含む方法を提供する。
(i)ポリマー抗菌剤を粘土に接触させ有機粘土を生成し、かつ
(ii)その後、有機粘土をポリマーマトリクスに分散する。
【0015】
「ナノ複合材料」とは、少なくとも縦横高さのうちのいずれか1つがナノメートルの範囲にある充填剤を含むポリマー素材である。本発明においてその充填剤は粘土である。
【0016】
従来の粘土/ポリマーナノ複合材料技術を用いて得られたナノ複合材料は、抗菌特性を有していても、ナノ複合材料からの殺生物剤の浸出(またはマイグレーション(migration))という問題が生ずることもある。以下の図5に関して論じている実験結果が、従来の非ポリマー殺生物剤を使用したときの殺生物剤浸出の問題を示している。本発明は、粘土にマイグレーションを起こさないポリマー殺生物剤を混和することによりこの問題を克服する。殺生物剤の浸出防止は、殺生物剤のポリマー性次第であると考えられている。これは浸出した殺生物剤による環境および健康の問題を回避するばかりではなく、長期にわたる殺生物剤の活動がほとんど低下しないか全く低下しないことを意味する。
【0017】
本発明の方法のステップ(i)は、ポリマー抗菌剤を粘土と接触させることを含む。
【0018】
「粘土」の用語は、当業者によって天然アルミノケイ酸塩と理解される。粘土には結合した(Al,Si)O44面体の層とMg(OH)2またはAl(OH)3の層がある。
【0019】
粘土は、スメクタイト、イライト、およびクロライトを含む粘土のタイプのグループから選択することができる。
【0020】
本発明に使用可能な適切なスメクタイト粘土は、モンモリロナイト、ベントナイト、ノントロナイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、ソーコナイト、ソボカイト、およびスビンフォルダイトを含む。適切なスメクタイト粘土は、一般的には、
XSi8420(OH)4
の化学式で表わされ、Xは層間部位を表わし、YはAl、Mg、Cr、Ca、MnまたはLiを表わす。「層間部位」の用語は、ケイ酸塩の層の間にある水分およびNa+、Ca2+などのカチオンを意味する。
【0021】
適切なイライト粘土は雲母質粘土を含む。適切なイライトは、一般的には、
YZ2-3420(OH)4
の化学式で表わされ、Xは層間部位を表わし、YはAl、Mg、Cr、Ca、MnまたはLiを表わし、Zは四面体構造の元素、例えばSi、を表わす。
【0022】
粘土のうちのクロライトグループには、化学的に大きく異なる様々な鉱物を含む。
【0023】
「抗菌剤」および「殺生物剤」の用語は、ここでは同じ意味で用いられ、微生物を殺生、抑制、またはその成長を遅延する能力のある物質を意味する。殺生物剤または抗菌剤が有効な微生物には、バクテリア、ウイルス、菌類、および原生動物を含む。
【0024】
「ポリマー抗菌剤」の用語は、抗菌作用のある機能グループを含む分子構造を伴う、ポリマーまたは共重合体を意味する。このポリマーは単独重合体である場合があるが、より一般的には、かつ好ましくは、共重合体である。共重合体内の異なるモノマー残留物の割合の変動を最適化することにより、ポリマーの物理特性の最適化が可能となる。
【0025】
ポリマー抗菌剤はイオンであることが望ましい。これにより本方法のステップ(i)において本抗菌剤を粘土に混和することが可能になる。粘土表面は、例えば粘土が層状複水酸化物であればプラスに帯電しておくか、または例えば粘土がスメクタイトであればマイナスに帯電しておくことが好ましい。そこで態様によっては、例えばステップ(i)で本抗菌剤が接触する粘土の表面がプラスに帯電しているときには、本抗菌剤はアニオンであることがある。
【0026】
しかし好ましい態様では、例えば本方法のステップ(i)で使用される粘土の表面がマイナスに帯電しているときには、本抗菌剤はカチオンである。本抗菌剤は、ルイス酸タイプの抗菌剤であることがある。
【0027】
「ルイス酸」の用語は、一対の電子を受け入れ配位共有結合を形成する傾向を有する酸を意味する。従って本抗菌剤がルイス酸タイプであるときには、本方法のステップ(i)において粘土からのマイナスに帯電している種と相互に作用することが可能となり、それにより有機粘土を形成する。
【0028】
本粘土の表面は、正味のマイナス(負電荷)に帯電していることが望ましい。これによりカチオンの抗菌剤が、本方法のステップ(i)で粘土に接触したときに層間浸入することが可能になる。本態様の粘土は、スメクタイトであることが好ましい。本態様の粘土は、モンモリロナイトであることが最も好ましい。一般的に、モンモリロナイトの化学式は、
(Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si410(OH)2・nH2
である。
【0029】
モンモリロナイトなどのスメクタイト粘土は、各ケイ酸塩の層が2枚の四面体シリカおよび1枚の酸化アルミニウムを含む2:1タイプの層構造になっている。そのような構造は、層の間のファンデルワールス力による化学結合が弱いため、面に対して垂直方向に弱く、面に対して平行方向に強い。
【0030】
本発明の本方法のステップ(i)では、スメクタイト粘土の使用が望ましい。天然スメクタイト粘土は、八角形の構造内のアルミニウムカチオンAl3+の一部がMg2+およびCa2+などの原子価の小さいカチオンに置き換わることにより、表面がマイナスに帯電している。
【0031】
従って最も好ましい態様では、抗菌剤はカチオンになり、粘土構造の層間空間に包含され、本方法のステップ(i)で有機粘土を形成している。粘土には親水性があり、従ってほとんどのポリマーとは適合しないので、本方法のステップ(i)は、粘土を親水性のものから有機親和性のものに変換するためのイオン性界面活性剤の使用を含むことが望ましい。
【0032】
「有機親和性」の用語は、(粘土の)構造が部分的に親和性を有し、部分的に疎水性を有することを意味する。
【0033】
最も望ましくは本発明による方法には、界面活性剤として作用することもでき、従って粘土を有機親和性のものにすることが可能なポリマー抗菌剤の使用を含む。
【0034】
「界面活性剤」の用語は、分子構造に親水性および疎水性の両方の部分を含む両親媒性化合物を意味する。
【0035】
疎水性の部分は、例えばアルキルラジカルまたは疎水性ポリマーの断片を含むことがある。親水性の部分はカチオンであることが望ましい。
【0036】
ステップ(i)には、粘土をポリマー抗菌剤と接触させることにより粘土を抗菌性有機粘土に変換することを含む。
【0037】
「有機粘土」の用語は、界面活性を変質した粘土で、その表面特性が親水性から有機親和性に改質されたものを意味する。ステップ(i)で使用されるポリマー抗菌剤は、オニウム基を含むことが望ましい。
【0038】
「オニウム基」の用語は、窒素族(15族)、カルコゲン族(16族)、またはハロゲン族(17族)元素の単核母体水酸化物のプロトン化で誘導したカチオン、例えばテトラメチルアンモニウムなどの有機ラジカルまたはハロゲンなどのその他の基で前記の水素原子を置換して誘導した同様のカチオン、ならびにさらに誘導してイミニウムおよびニトリリウムなどの多価付加物を有する誘導体を意味する。そのようなカチオンはRx+の構造を有することがある。使用可能な適切なオニウム基は、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、クロロニウム、およびスルホニウムを含む。
【0039】
ステップ(i)に使用される抗菌剤は、ポリマーに結合した第4級アンモニウム基を含むことがある。ポリマー抗菌剤は、ランダム、ブロック、またはグラフト共重合体が可能である。
【0040】
ポリマー抗菌剤は、天然素材またはその誘導体であることが可能であるが、より普通で望ましいのは合成ポリマー材料である。
【0041】
ポリマールイス酸タイプの抗菌剤は、望ましくは化学式1で表わされる。
【化1】

【0042】
適切なモノマー残留物(A)および(B)の態様は、それぞれ随意に置換したアルキレン基を含む。例えば(A)または(B)が随意に置換したアルキレン基を表わすとき、それは好ましくはC1−C5アルキレン基であることがある。例えば(A)および/または(B)は、エチレン基を表わすことができ、図2(a)および図2(b)に示す通り最も望ましくは置換したエチレン基を表す。そのようなポリマーは、例えばスチレンおよび/または置換した誘導体またはその類似体などのビニルモノマーのポリマー化で得ることができる。
【0043】
R、R’および/またはR’’が随意に置換したアルキル基のとき、C1−C30アルキル基が最も望ましく、C1−C20アルキル基がさらに適している。
【0044】
Rは、望ましくは随意に置換したアルキル基、例えばC1−C30アルキル基、を表わし、より望ましくはC3−C30アルキル基を表わし、さらに好ましくはC6−C30アルキル基を表わし、最も好ましくはC10−C30アルキル基を表わす。
【0045】
望ましくは、R’およびR’’のいずれかまたは両方は、水素またはC1−C30アルキル基で、さらに好ましくはC1−C10アルキル基で、さらに望ましくはC1−C7アルキル基で、より一層望ましくはC1−C5アルキル基で、最も望ましくはC1−C3アルキル基である。
【0046】
最も望ましくは、Rは例えばC10−C30アルキル基などの比較的長いアルキル基で、R’およびR’’は同一または異なることができ、水素または例えばC1−C3アルキル基などの比較的短いアルキル基を表わす。短いラジカルがバクテリアの細胞膜に浸透することができないことから、殺菌作用を有するには少なくとも1本の長いラジカルが必要になると考えられる。
【0047】
R、R’および/またはR’’が置換されているとき、置換物は、アルキル、アリル、およびアシルを含みそれに限らず広い範囲から選択することができる。
【0048】

【0049】
適切な対イオンX-の態様は、Br-またはCl-を含む。
【0050】
その他の態様では、ポリマー抗菌剤は化学式2で表わすことができる。
【化2】

【0051】
R’’’は、随意に置換したアルキル基を表わし、望ましくはC3−C30アルキル基、さらに望ましくはC6−C20アルキル基、最も望ましくはC6−C16アルキル基である。
【0052】
R’’’が置換されているときには、置換物はアルキル、アリル、およびアシルを含みそれに限らず広い範囲から選択することができる。
【0053】
第4級窒素を含む複素環は、最も望ましくはピリジル基である。
【0054】
化学式1または2において、nおよびmは、それぞれ5〜400であることができ、より好ましくは10〜200、最も好ましくは20〜100である。
【0055】
本明細書において、文脈から別の意味に解釈されない限り、以下の用語は次の意味を有するものとする。
【0056】
「アルキル」は、別に定めない限り、直鎖または分岐鎖であることができ、適切に置換した脂肪族炭化水素基を意味する。
【0057】
「アシル」は、上記のアルキル基に含まれるH−CO−またはアルキル−CO−基を意味する。
【0058】
「アルキレン」は、上記のアルキル基が含まれる直鎖または分岐鎖アルキル基から誘導した2価の脂肪族ラジカルを意味する。例示的なアルキレンラジカルは、メチレンおよびエチレンである。
【0059】
基として、または基の一部としての「アリル」は、(i)随意に置換された、フェニルまたはナフチルなどの約6から約14の炭素原子を有する、単環または多環芳香族炭素の一部、または(ii)約5員から約10員環で、そのうちの1つ以上の環の元素が、例えば窒素、酸素、または硫黄(すなわち複素環またはヘテロアリル部分)などの炭素以外である、随意に置換した芳香族の単環または多環の有機質部分を指す。
【0060】
「アリーレン」は、アリル基から誘導された2価芳香族ラジカルで、アリル基は、上で説明したものを意味する。典型的なアルキレンラジカルにはフェニレンを含む。
【0061】
「アラルキレン」は、アリルおよびアルキル基から誘導した2価のラジカルで、アルキルおよびアリル基は、上で説明したものを意味する。典型的なアラルキレンラジカルは、フェニルメチレンを含む。
【0062】
「随意に置換した」と述べられている基については、存在する可能性のある置換基に1つ以上のアシル、アシルアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキレンジオキシ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アルキルチオ、アロイル、アロイルアミノ、アリル、アリールアルキルオキシ、アリールアルキルオキシカルボニル、アリールアルキルチオ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールスルフィニル、アリールスルホニル、アリールチオ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヘテロアロイル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキルオキシ、ヘテロアロイルアミノ、ヘテロアリールオキシ、ヒドロキシ、ニトロ、トリフルオロメチル、アミノ、およびアミドを含む。
【0063】
化学式1および2のポリマー抗菌剤は新規性があると考えられ、本発明のさらなる観点をなす。
【0064】
ポリマー抗菌剤の分子量は、望ましくは1,500Da〜400,000Daであり、より望ましくは5,000Da〜150,000Daであり、最も望ましくは10,00Da〜60,000Daである。
【0065】
望ましくは、モノマーユニット(A)は、改質した粘土がポリマー/粘土ナノ複合材料にあるポリマーと適合するよう選択される。ポリマー抗菌剤中のモノマーユニット(B)の割合は、望ましくは5〜80モル%の範囲であり、より望ましくは7〜65モル%の範囲であり、最も望ましくは10〜50モル%の範囲である。そのような濃度であれば、共重合体は水に溶けにくくなり、本方法のステップ(ii)で接触したポリマーと改質した粘土との混和性が改善される。モノマーユニット(B)自体は、親水性でなくてもよい。しかしモノマーユニット(B)およびそれに関連するオニウム基は、親水性であることが望ましい。
【0066】
図2に示すように、このポリマー抗菌剤は、部分的にアミノ化したポリビニルベンジル塩化物(pVBzCl)または4級化したビニルピリジン−co−スチレン(qVP−co−St)を含むことが特に望ましい。ただしnおよびmは、それぞれ5〜400であることができ、より好ましくは10〜200であり、最も望ましくは20〜100である。
【0067】
本方法は望ましくは、ステップ(i)の前に、例えば粘土を水に漬けて粘土懸濁液を準備する最初のステップを含む。この懸濁液は、望ましくは周囲温度で一晩混合することが望ましい。従って粘土混濁液と本抗菌剤(アニオンまたはカチオン)が準備できたら、本方法のステップ(i)を実施できる。
【0068】
ステップ(i)は、本抗菌剤を常に混合し、望ましくは攪拌し、粘土懸濁液と接触させることを含むことが望ましい。望ましくは、この混合はSTP(標準環境温度および圧力:摂氏21度、1bar)で行われる。成分の混合を改善するため水を追加することができる。
【0069】
本方法のステップ(i)は、結合していない殺生物剤ポリマーおよび分離して改質した粘土を除去するための少なくとも1段階の精製ステップを含むことができる。精製ステップは遠心分離を含むことができる。
【0070】
ステップ(i)は、結合した抗菌剤を含む有機粘土を得るために、望ましくは水/テトラヒドロフラン混合液による洗浄工程を含むことがある。
【0071】
本方法のステップ(i)で生成された本有機粘土は、新規性があると考えられる。従って本発明の観点においてさらに、ポリマー抗菌剤を混和した粘土を含む有機粘土を提供する。ポリマー抗菌剤は、上で述べたいかなる形態であることもある。例えば望ましくは合成ポリマー材料で、化学式1または化学式2で表わされた構造をとることがある。
【0072】
有機粘土を生成後、ステップ(ii)を実施することがある。本方法のステップ(ii)は、ステップ(i)で生成した有機粘土を適合したポリマーマトリクスに分散させ、抗菌のポリマー粘土ナノ複合材料を生成することを含むことがある。
【0073】
ポリマーマトリクスは、望ましくは合成ポリマー材料を含み、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマー、またはエラストマー・ポリマーを含むことがある。
【0074】
例えばポリマーマトリクスは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルクロリド、ポリアミド(ナイロン:登録商標)、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリメチルメタクリラート、ポリカルボナート、ポリウレタン、エポキシ、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、アクリロニトル−ブタジエン−スチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−ビニルアセタート、ゴム、ブルカニゼドゴム、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサン、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエーテレテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンクロリド、ポリビニリデンフルオード、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリ(酸化p−フェニレン)、ポリ(硫化p−フェニレン)、熱硬化性ポリエステル、およびシアノアクリレートからなる群から選ばれることができる。
【0075】
最も望ましくは、ポリマーマトリクスは、例に示されているようにポリアミドまたはポリスルホンである。
【0076】
ステップ(ii)には、ポリマーナノ複合材料を得るため、本有機粘土のポリマーマトリクスへの分散が関わる。従ってポリマー抗菌剤を使用する利点は、それにより殺生物剤の浸出のリスクまたはその程度を低減することである。本発明者はいかなる仮説に拘束されることも望まないが、本発明のナノ複合材料からの殺生物剤の浸出が生じない3つの考えられる理由を挙げる。第1にポリマー抗菌剤が水溶性であること、第2にポリマー抗菌剤の分子量増大が浸出の拡散割合を低減すること、第3に粘土中のケイ酸塩の層との間で帯電したポリマー殺生物剤が共同的相互作用を生じ、その結果ポリマーが粘土の無機粒子の表面に結合したままとなることである。
【0077】
1つの態様では、本方法のステップ(ii)は、スクリュー押出および射出成型などの溶融加工技術を用いて実施することができる。この方法には、そのポリマーマトリクスが結晶であるかアモルファスであるかに応じて、本ポリマーマトリクスを有機粘土と共に、そのポリマーマトリクスの融点またはガラス転移温度よりも高く加熱することが関わる。アモルファスポリマーは、融点を持たないことが幸いし、ガラス転移温度を超えると柔らかになる。しかし結晶ポリマーは融点を超えて初めて溶ける。せん断応力にさらされたポリマーの溶融で生じる混和/剥離は、溶融過程で始まる。
【0078】
別の態様では、本方法のステップ(ii)をそのまま(in situ)でのポリマー化を利用して実施することができる。この態様では、ステップ(ii)で用いられるポリマーマトリクスのモノマー前駆体分子は、望ましくは本有機粘土の層間に挿入される。このステップの後にはさらに、ポリマー化によりマトリクス内での層の拡張および剥離のあることが望ましい。
【0079】
別の態様では、本方法のステップ(ii)において、溶剤を用いて分散を実施することができる。この態様には、ポリマーマトリクス内の有機粘土の分散に適合する溶剤を使用することが関わる。粘土の層間でのポリマーマトリクスの混和は、分散した有機粘土を含むポリマーマトリクスの溶剤の溶液を混合している間に生ずる。
【0080】
例としてポリマーは、ジメチルアセトアミド(DMAA)中の有機粘土(例えば重量比で約10:1)と接触することができる。その混合物は24時間混合して、STPにおいて均一な分散とすることができる。混合がいったん終了すると、その結果得られた複合材料は、望みどおりのいかなる形にも型入れまたは成型することができる。この複合材料は乾燥により硬化させることができる。
【0081】
本方法のステップ(ii)による最終生成物は、ポリマー粘土複合材料(またはポリマーナノ複合材料)である。望ましくは本発明の方法は、ポリマー殺生物剤で改質させた約0.1〜30重量%の有機粘土を含むポリマーナノ複合材料の準備を含む。生成されたナノ複合材料は、望ましくは約1〜20重量%、より望ましくは約2〜10重量%、最も望ましくは2〜6重量%のポリマー殺生物剤で改質した有機粘土を含む。
【0082】
本複合材料は望みの形状に成型することができる。本発明者は、そのような抗菌性ポリマー粘土ナノ複合材料を初めて作ったと考える。
【0083】
そこで本発明の他の観点に従い、本発明の第1の態様による方法で得られる抗菌性ポリマーナノ複合材料を提供する。
【0084】
本発明のさらなる観点に従い、粘土、ポリマー抗菌剤、およびポリマーマトリクスを含む抗菌性ポリマーナノ複合材料を提供する。
【0085】
本発明の第2および第3の観点によるナノ複合材料には、既知の抗菌性ポリマーに勝る点がある。従来の技術では抗菌性添加剤として銀またはその他の金属粒子が使用されている。これらの添加剤は高価で、構造と特性の点で疎水性ポリマーとは相性が悪い。従ってその利用は限られている。これに対して現在の発明によるポリマーナノ複合材料は、抗菌剤の運搬およびポリマーマトリクスの充填に粘土を利用し、安価である。抗菌性有機粘土の一般的ローディング濃度は5重量%未満である。この新技術は、抗菌特性をポリマーに与えるのみならず、機械特性、細菌耐性、溶剤耐性および難燃性などのエンジニアリング特性も向上できる。本発明の複合材料は好都合なことに、殺生物剤の浸出の問題なしにグラム陽性およびグラム陰性の両方のバクテリアの成長抑止または阻止に効果があることが明らかになっている。従ってナノ複合材料は、使用するのに活性と安全性で優り、様々な面で物理特性およびエンジニアリング特性が改善している。
【0086】
本発明のナノ複合材料には抗菌特性があることが証明された。望ましくは、本発明のナノ複合材料は、抗バクテリア複合材料である。本複合材料によりその成長が阻止または抑止されるバクテリアは、グラム陽性またはグラム陰性のバクテリアであることがある。例えば本発明の複合材料が効果を有し得るバクテリアには、桿菌(Bacilli)または例えばボツリヌス菌(Clostridium botulinum)などのクロストリジウム(Clostridia)であることがあるグラム陽性細菌門(Firmicutes)を含む。望ましい態様では、本複合材料が効果を有し得るバクテリアには、バチルス菌、望ましくはブドウ球菌を含む。望ましくは本複合材料が効果を有し得るバクテリアには、例に示すように黄色ブドウ球菌がある。当然のことながら黄色ブドウ球菌はMRSA(すなわちMethicillin(メチシリン)耐性S.aureus(黄色ブドウ球菌))の前駆体である。
【0087】
本複合材料が効果を有し得るバシラス目(Bacillales)としてはさらに、例えば化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)または肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)などの連鎖球菌属(Streptococci)を含む。本発明による複合材料が効果を有し得るバクテリアの例としてはさらに、シュードモナス目(Pseudomonadales)、望ましくは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含む。本複合材料が効果を有し得るバクテリアの例としてはさらに、腸内細菌(Enterobacteriales)、プロテウス属(Proteus)、セラチア属(Serratai)、パスツレラ科(Pasteurellales)、およびビブリオ科(Vibrionales)からなるグループから選択できるγ[ガンマ]プロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)を含む。腸内細菌(Enterobacteriales)には、例に示すように例えば大腸菌(Escherichia coli)などのエシェリキア属(Escherichia)を含む。プロテウス属(Proteus)には、ミラビリス変形菌(Proteus mirabilis)を含む。セラチア属(Serratai)には、霊菌(Serratia marcescens)を含む。パスツレラ科(Pasteurellales)には、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)を含む。ビブリオ科(Vibrionales)には、コレラ菌(Vibrio cholerae)を含む。
【0088】
本発明による複合材料が効果を有し得るバクテリアの例としてはさらに、例えば淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などのナイセリア(Neisseriales)を含むβプロテオバクテリア(Betaproteobacteria)を含む。本複合材料が効果を有し得るバクテリアの例にはさらに、例えばヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)などのカンピロバクター(Campylobacter)を含むδ/ε再分割プロテオバクテリア(Proteobacteria)を含む。さらに本複合材料が効果を有し得るバクテリアの例には、例えばヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)およびノカルジア・アステロイデス(Nocardia asteroides)などの放線菌門(Actinobacteria)を含む。
【0089】
本発明の複合材料は、抗ウイルス複合材料であることがある。本複合材料は、いずれのウイルス、かつ特にエンベロープを持つウイルス、に有効である可能性がある。ウイルスの例は、ポックスウイルス、イリドウイルス、トガウイルス、またはトロウイルス、フィロウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス、またはラブドウイルス、パラミクソウイルスまたはオルトミクソウイルス、肝炎ウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、またはレトロウイルス、ヘルペスウイルスまたはレンチウイルスである。
【0090】
本発明の複合材料は、抗真菌性複合材料となることがある。例えば本発明の複合材料が効果を有し得る菌類には、例えば子嚢菌(Ascomycete)などの糸状菌を含む。さらに、本発明の複合材料が効果を有し得る菌類の例としては、アスペルギルス(Aspergillus)、うどんこ病菌(Blumeria)、カンジダ菌(Candida)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、エンセファリトゾーン属(Encephalitozoon)、フザリウム属(Fusarium)、子嚢菌類(Leptosphaeria)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、疫病菌(Phytophthora)、べと病菌(Plasmopara)、ニューモシスチス(Pneumocystis)、イモチ菌(Pyricularia)、フハイカビ(Pythium)、さび病類(Puccinia)、リゾクトニア属(Rhizoctonia)、トリコフィトン(Trichophyton)、およびウスチラゴ属(Ustilago)からなる属のグループから選択する。菌類は、黄色コウジ菌(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、偽巣性コウジ菌(Aspergillus nidulans)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、アスペルギルス・パラシティカス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、うどんこ病菌(Blumeria graminis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・クルゼイ(Candida cruzei)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・パラプローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)(、エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)、にんじんの乾腐病(Fusarium solani)、ふ枯病(Leptosphaerianodorum)、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)、カボチャ疫病菌(Phytophthora capsici)、ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)、ブドウべと病(Plasmopara viticola)、ヒトニューモシスチス肺炎原因菌(Pneumocystis jiroveci)、冠さび病菌(Puccinia coronata)、黒さび病(Pucciniagraminis)、イネいもち病菌(Pyricularia oryzae)、ピシウムウルティマム(Pythium ultimum)、イネ紋枯病病原体(Rhizoctonia solani)、トリコフィトン・インテルジキターレ(Trichophytoninterdigitale)、紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)、およびトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)からなる種のグループから選択できる。さらに菌類の例には、例えば、人に感染することが知られている、出芽酵母(S.cerevisiae)などのコウボキン種(Saccharomyces spp)、または例えばカンジダ・アルビカンス(C.albicans)などのカンジダ種(Candida spp)などの酵母を含む。
【0091】
最も望ましい態様では、本発明のナノ複合材料は、グラム陽性(Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌))およびグラム陰性(Escherichia coli(大腸菌))の両方のバクテリアの成長を阻止または抑制することに効果があると判明している。粘土/ポリマーナノテクノロジーが、ポリマーの物理特性およびエンジニアリング特性を拡大するのに効果的な方法であると明らかになっていることから、本発明者は、本発明の方法とナノ複合材料によって、強化された物理特性およびエンジニアリング特性を備えた低コストの抗菌ポリマーの開発が可能になると考える。本発明の複合材料と組合せが可能な微生物が様々あることから、本発明者は、本発明が微生物の感染が問題となる家庭、ヘルスケア、包装、エンジニアリング用品といった広い範囲で応用できると考える。
【0092】
本発明のナノ複合材料には、数多くの抗菌性の用途がある。
【0093】
従ってさらに本発明の観点では、ある物体に微生物が感染することを阻止または抑制する方法を提供し、その方法はポリマーマトリクスに分散された有機粘土を含むポリマーナノ複合材料の中にその対象物を成型するか、またはその物体の表面にポリマーナノ複合材料を被覆するものであり、ただし有機粘土はポリマー抗菌剤を含む。
【0094】
例えば本ナノ複合材料は、微生物の感染または汚染の防止のため表面および物体を被覆するために使用できる。薬剤に対し強力な耐性を有する病院の「スーパーバグ」は保健衛生システムにおける重大な問題で、抗菌製品はこの問題を克服するための効果的解決法となる可能性がある。本発明のナノ複合材料は、MRSAの前駆体となる黄色ブドウ球菌(S.aureus)などのグラム陽性のバクテリアの成長を防止することに有効であることが明らかになっている。本技術は、ナイロン(登録商標)およびポリエステル繊維に応用することが可能で、それらは患者用衣類およびベッドリネンの作成に使用できる。その他の応用としては、医療用機器、家具、電気および電子製品、窓枠および室内装飾材料が可能である。
【0095】
本発明のその他の観点では、ポリマーマトリクスに分散された有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を含む物体がある。ただし有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含む。
【0096】
この物体は、ナノ複合材料を成型するか、ナノ複合材料で被覆することができる。使用されるナノ複合材料の量は、微生物を殺菌するかまたはその成長を防止するのに効果が十分であることが望ましい。本発明の複合材料は、無菌にする必要がある表面または物体を被覆するときに特に有用であることが理解される。上で述べたように、本複合材料には抗菌性という利点がある。さらに以下の詳細を述べるように、ある物体またはその表面を被覆し、または例えば成型によりその複合材料から直接に物体を作成するため、本複合材料を使用することが可能である。本物体はスクリュー押出、または回転成型、または射出成型によることができる。ナノ複合材料である物体を被覆するのに適した技術も、当業者には良く知られており、液状のナノ複合材料を物体表面にスプレーし、その液体を硬化させてから放置して、物体を被覆することを含むことがある。
【0097】
微生物による感染または汚染は、患者の感染につながり、それを防止することが重要となる生物学的または医学的な状況または環境で使用される物体を成型により成形するため、または物体もしくは機器を被覆するために、本複合材料を使用することができる。その物体は、医療用機器とすることができる。本発明の複合材料を使用して被覆するか成形することができる医療用機器の例には、カテーテル、ステント、創傷ドレッシング、避妊具、外科用インプラントおよび代替関節、コンタクトレンズ等を含む。この複合材料は、バイオ材料およびそれから作られた物体および機器を被覆するのに特に有用である。微生物によるバイオ材料の汚染/感染は、微生物がそのような材料を生育の基質として利用する可能性があることから、特に問題となる。例えばバイオ材料(例えばコラーゲンおよびその他生物学的ポリマー)は、人工関節の表面をカバーするのに使用されることがある。
【0098】
本複合材料は、無菌であることが必要な環境で、表面を被覆するために使用することができる。例えば本複合材料は、医学環境で使用することができる。本複合材料は、病棟を清潔に保つために利用可能で、病棟のほとんどの部分を本発明の複合材料で被覆しまたはその複合材料で成形することができる。本複合材料は、手術室内の器具(例えば手術台)の表面、ならびに手術室の壁および床の感染防止に使用することが可能で、従ってこれらに本発明の複合材料で被覆するか、またはこれらをその複合材料で成形することが可能である。
【0099】
また本発明のナノ複合材料は、微生物が感染しがちな様々な家庭用品の製造にも使用することが可能である。それらの製品は、本複合材料で被覆するか本複合材料で成形することが可能で、例えば台所のまな板、便座、またはカーペット等の様々なタイプの製品である可能性がある。カーペットは、通常ナイロン(登録商標)、ポリエステル、およびポリプロピレン繊維でできており、それらは単純に本発明のナノ複合材料で改質することができる。しかしさらに多くの分野に応用可能であると理解され、本発明の複合材料が応用できる物体および表面についての上記リストは、すべてを網羅するものではない。そこで本複合材料は、例えば台所および浴室の表面および製品のように、微生物の感染または汚染しやすいどのような表面にも、応用することができる。
【0100】
また本発明のナノ複合材料は、消費財の製造にも有用である。特に、手に持って使用する製品、例えば携帯電話およびパーソナルオーディオプレーヤー、およびキーボードまたはマウスなどのコンピューター端末などのポータブル電子デバイスである。
【0101】
本発明のナノ複合材料は、抗菌性繊維または生地の製造に使用することができ、それらはベッド用品、ならびに衣料およびファッション業界で使用することが可能である。
【0102】
従って別の観点として、ポリマーマトリクスに分散した有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を含む繊維を提供する。ただしその有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含む。
【0103】
この繊維は、例えば病院および手術室でのベッド用品、例えば枕カバー、ベッドシーツ、および上掛けカバーに応用できる。この織物は衣料、例えば下着および履物など微生物が感染しやすい衣料の製造に使用することができる。
【0104】
従って別の観点として、ポリマーマトリクスに分散した有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を含む繊維を含む衣料品を提供する。ただしその有機粘土はポリマー抗菌剤を含む。
【0105】
本衣料品は、下着とすることができる。本衣料品は、履物とすることができる。またこの抗菌性ナノ複合材料は、防衛に応用することもできる。特に戦闘中の兵士は、頻繁な入浴ができず、従って微生物に感染しやすい。さらに粘土/ポリマーナノ複合材料は、優れた難燃性特性を示すことが知られている。抗菌特性と難燃性の組合せにより、本発明のナノ複合材料を使用することは、軍事用ユニフォームへ応用するのに理想的である。そこで衣料品は、ユニフォーム、例えば軍事用ユニフォームとすることができる。
【0106】
さらに本発明のナノ複合材料の優れた防御特性および抗菌性機能から、このナノ複合材料は食品包装に適している。
【0107】
それゆえ本発明の観点としてさらに、ポリマーナノ複合材料を含む包装材料を提供し、そのナノ複合材料は、ポリマーマトリクスに分散した有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を含む。ただしその有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含む。
【0108】
望ましくは、本包装材料は、傷みやすい製品、すなわち賞味期限が限られているかまたは微生物の感染リスクのある製品の包装に使用される。望ましくは、本包装材料は、食品包装に使用される。例えば本包装材料は、肉、パン、ビスケット、または野菜の包装に使用することが可能である。
【0109】
本明細書(添付の請求項、要約、図面を含めて)に記載される全ての特徴のおよび/または開示された任意の方法また処理のステップは、任意の組み合わせで、上記の観点のいずれかと結合することができるが、但し、このような特徴および/またはステップの少なくとも幾つかが、相互に排他的である組合せは除く。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態による改質粘土/ポリマーナノ複合材料ナノ技術を使って抗菌ポリマーナノ複合材料を生成する方法を説明する説明図である。
【図2】2つのポリマー抗菌剤または殺生物剤の分子構造を示し、(a)は、部分的にアミノ化したポリビニルベンジル塩化物(pVBzCl)を示し、(b)は、4級化したビニルピリジン−co−スチレン(qVP−co−St)を示す。
【図3】成長板の外観を示し、(a)は、汚染されていないポリスルホン板を示し、(b)は、大腸菌を使ったバクテリア成長試験後の10重量%のpVBzClで改質された有機粘土を含有するそのナノ複合材料の板を示す。
【図4】黄色ブドウ球菌の成長を示し、(1)は、ナイロン−6の対照試験板を示し、(2)は、(5重量%の粘土の含有量を有する)pVBzClポリマー殺生物剤を使って改質した粘土/ナイロン−6ナノ複合材料の試験板を示す。
【図5】イオン性非ポリマー抗菌剤がナイロン−6ナノ複合材料からの浸出を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0111】
(実施例1)
<アミノ化したpVBzClの合成>
40グラムのポリビニルベンジル塩化物(pVBzCl)(分子量:55,000)を500ミリリットルのテトラヒドロフラン内に溶解させ、その結果、ポリマー溶液を生成した。26.5ミリリットル(78.6ミリモル)のN,N−ジメチルヘキサデシルアミンをポリマー溶液に添加した。これによって、ビニルベンジル塩化物ユニット対3級アミンのモル比が3:1になった。これを摂氏60度の温度で24時間に渡って絶えず攪拌しながら混合液内で反応させた。反応終了後、高分子製品を溶液から分離させずに粘土改質のために直接使用した。
【0112】
(実施例2)
<qVP−co−Stの合成>
20グラムのポリ(4−ビニルピリジン−co−スチレン)(分子量:400,000;10モル%スチレン)を200ミリリットルのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その結果、共重合体溶液を生成した。60ミリリットル(0.25モル)の1−ブロモドデカンを溶液に添加した。これを摂氏80度の温度で24時間に渡って絶えず攪拌しながら混合液内で反応させた。反応終了後、高分子製品を溶液から分離させずに粘土改質のために直接使用した。
【0113】
(実施例3)
<粘土改質>
4グラムのNa−モンモリロナイトを250ミリリットルの蒸留水に添加し、その結果、粘土懸濁液を生成した。懸濁液を周囲温度で一晩攪拌した。(200ミリリットルのテトラヒドロフランを使用した)25グラムの殺生物剤溶液の希釈溶液によって各ポリマー殺生物剤用の有機粘土が生成された。粘土懸濁液を絶えず攪拌しながら希釈されたポリマー溶液にゆっくり添加した。その後、50ミリリットルの水をさらに反応混合液に添加した。反応混合液を周囲温度で24時間に渡って攪拌し、その後、遠心分離処理を繰り返し行い、(50対50の)水/テトラヒドロフラン混合液で3回洗浄した。その結果、PVBzClまたはqVP−co−St改質有機粘土が得られた。
【0114】
(実施例4)
<粘土改質>
8グラムのNa−モンモリロナイト(商品名:クロイザイト(Cloisite)Na+)を250ミリリットルの蒸留水に添加し、その結果、粘土懸濁液を生成した。懸濁液を周囲温度で一晩攪拌した。40グラムの殺生物剤ポリマー溶液(実施例1または実施例2にて準備された)を、THF(テトラヒドロフラン)を使って200ミリリットルに希釈した。粘土懸濁液を絶えず攪拌しながら希釈されたポリマー溶液にゆっくり添加した。その後、50ミリリットルの水をさらに反応混合液に添加した。反応混合液を周囲温度で24時間に渡って攪拌し、その後、遠心分離処理を繰り返し行い、有機粘土を凍結乾燥する前に50対50の水/テトラヒドロフラン混合液を純粋で3回洗浄した。準備された殺生物剤有機粘土は、33重量%の殺生物剤ポリマーを含有していた。
【0115】
(実施例5)
<溶剤を用いた分散によるナノ複合材料の形成>
図1を参照して、抗菌性ナノ複合材料を準備するための概略処理が示される。この方法は、本発明の抗菌性ナノ複合材料の様々な実施形態を準備するために使用され、かつ以下のステップを含む。
(1)ポリマー抗菌剤1を粘土2に混和し、有機粘土3を形成し、かつ
(2)有機粘土3を適切なポリマー4に分散し、抗菌性ナノ複合材料5を形成する。
【0116】
ステップ(2)は、様々な方法によって実施されても良いが、その方法には、(i)溶融混錬法(例えば,Vaia、 R A、 Ishii、 H & Giannelis、E P著、「Synthesis and properties of two−dimensional nanostructures by direct intercalation of polymer melts in layered silicates」、Chem Mater誌の5号、1694〜1696ページ(1993年)を参照)、(ii)現場重合(in situ polymerization)(例えば、Okada、 A、 Kawasumi、 M, Usuki、 A、 Kojima、 Y、 Kurauchi、 T & Kamigaito、O著、「Nylon 6−clay hybrid」、Mater Res Soc Proc誌の171号、45〜50ページ(1990年)を参照)、(iii)溶剤を用いた分散(例えば,Yano、K、Usuki、A、Okada、A、Kurauchi、T&Kamigaito、O著、「Synthesis and properties of polyimide−clay hybrid」、J Polym,Sci、パートA:Polym Chem誌,31号、2493〜2498ページ(1993年)を参照)が含まれる。
【0117】
スメクタイト粘土の各層の表面は、八角形の構造内のアルミニウムカチオンAl3+の一部がMg2+およびCa2+などの原子価の小さいカチオンに置き換わることにより、正味のマイナス(負電荷)に帯電されている。従って、マイナスに帯電された粘土表面があるために、カチオンまたはルイス酸状の抗菌剤は、本方法のステップ(1)における粘土層の間のスペースに混和できる。これによって、層拡大が起こり、かつ粘土の表面特性が親和性から有機親和性へと変化する。このように形成された有機粘土は、疎水性ポリマーと適合する。従って、結合された抗菌剤を有するこれらの各粘土層をポリマーマトリックスに剥離することができるので、均一な分散を達成でき、かつ抗菌性分子が外部表面に露出されるので、ナノ複合材料を生成できる。
【0118】
粘土−殺生物剤化合物をポリマーマトリックスに分散する処理が図1に示され、該処理は、溶剤を用いた混和/剥離法を施すことによって、ジメチルアセトアミド(DMAA)内で実施された。その結果、各対応する有機粘土が10重量%含有する2種類の粘土/ポリサルホンのナノ複合材料が生成された。
【0119】
10グラムのポリサルホンと1グラムの有機粘土(実施例3に従って準備された)とをジメチルアセトアミド(DMAA)内に添加した。混合液を24時間に渡って攪拌し、その結果、均一な分散を得た。成形用混合液は、粘土沈殿を一切示さず安定するまでに1週間を要した。その後、混合液は、ガラス板上に、滑り台付き金型を使って、100マイクロメータ厚の膜の層として成形された。この板を真空で摂氏11度の温度で乾燥し、その結果、乾燥ナノ複合材料膜を得た。
【0120】
(実施例6)
<ナノ複合材料の微生物学的試験>
ナノ複合剤膜(実施例5に従って準備された)を40ミリリットルの大腸菌または黄色ブドウ球菌の懸濁液(106CFU/mlの細胞を含有)に浸した。試料は、24時間に渡って摂氏37度の温度でバクテリア懸濁液中に保たれた。培養後、室温で試料を乾燥させ、寒天の固体培地の層を加えながらペトリ皿に置いて試料を素早く覆った。対照ポリサルホン試料を同じ手順を使って準備した。ポリマー表面上のバクテリアコロニーの成長を、(生存可能な細胞のパーセンテージを単位とする)細胞の生存能力として、対照試料と比べてカウントした。
【0121】
正方形板に成形されたナノ複合材料を、変形方法を使って、大腸菌または黄色ブドウ球菌に対しても試験した。106CFU/mlの細胞を含有するバクテリア懸濁液を、薄層(10ミリリットル)クロマトグラフィー噴霧機を使って、ヒュームフード内で、細かく板に対して吹き付けた。細胞懸濁液によって覆われた板を摂氏37度で3時間に渡って乾燥させた。同様に、有機粘土を含有しないポリマーの対照試料もバクテリア懸濁液に対して処理を施した。乾燥後、対照試料および試験試料を(その側面を寒天の培地に面したバクテリア層で覆った)ペトリ皿内の寒天の固体培地に置いた。この板を摂氏37度で3時間に渡って寒天の上に保持した。その後、板を寒天から取り除いた。その結果、寒天表面に細胞が残った。ペトリ皿を24時間に渡って摂氏37度で培養した。ポリマー表面のバクテリアコロニーの成長を各段階に分けて分類した。つまり、(+++)は、高バクテリア成長、(+)は、成長コロニーが離散している、そして(−)は成長がなかった、である。
【0122】
2つのナノ複合材料の抗菌特性は、成形ナノ複合材料膜上の黄色ブドウ球菌および大腸菌の成長を、純粋または汚染されてないポリサルホン膜対照試料と比べて、観察すれば、特徴が分かる。その結果を図3(a)、図3(b)および表1に示す。
【0123】
図3(a)は、元のポリサルホン膜上の大腸菌バクテリア成長を示し、図3(b)は、pVBzCl高分子界面活性剤によって改質された、10重量%の有機粘土を含有するナノ複合材料膜上のバクテリア成長の程度を示す。バクテリアは、図3(b)に示すナノ複合材料では成長しないが、図3(a)の汚染されていないポリマーでは、相当量のバクテリア成長が観察されることが分かる。
【0124】
大腸菌と黄色ブドウ球菌との両方に対するナノ複合材料に関する定量データを、同じ実験方法を使って得た。この場合、元のポリマーと比べて、細胞の生存能力を生存可能細胞のパーセンテージで表して計った。該データを表1に示す。抗菌挙動が顕著になるのは、複合材料中の有機粘土の含有量が2.5重量%まで下がったときであり、バクテリア成長がおよそ50%減ったことが観察された。有機粘土を10重量%ローディングした場合、pVBzClとqVP−co−Stとの両方から生成される複合材料は、バクテリアの成長を効果的に防いだ。
【0125】
表1は、試料を大腸菌と黄色ブドウ球菌との(106CFU/mlの細胞を含有する)懸濁液に摂氏37度で24時間に渡って浸した後、生存可能細胞を対照試料と比べたときのパーセンテージを用いて表した細胞の生存能力を示す。大腸菌との微生物学的実験後の、10重量%のpVBzClの改質有機粘土を有する、汚染されていないポリサルホンとそのナノ複合材料の対応する画像を図3に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
このデータが示すのは、両ナノ複合材料とも黄色ブドウ球菌および大腸菌の成長を著しく抑制できることである。ナノ複合材料は、グラム陽性のバクテリア(大腸菌)の成長を抑止するよりもグラム陰性のバクテリア(黄色ブドウ球菌)の成長を若干効果的に抑止する。qVP−co−St改質有機粘土から生成された複合材料は、両タイプのバクテリアの成長を抑止することに関して、pVBzCl有機粘土から生成された複合材料よりも優れている。
【0128】
(実施例7)
<メルト法によるナノ複合材料の準備>
ナイロン−6/粘土ナノ複合材料を16ミリの二軸スクリュー押出機を使って生成した。なお、その際の動作条件は、L/D比が24/1、温度が摂氏240度、スクリュー速度が400rpm、そして、送り量が25%である。押出しの前に、ナイロン−6(商品名:BASF B3)と有機粘土(実施例4に従って準備された)を予備乾燥し混合した。ナノ複合材料中の最終的な粘土含有量は、Cloisite Na+の含有量に基づいて、5重量%であった。生成されたナノ複合材料ペレットは、さらに、射出成形処理を施し、その結果、25ミリ対25ミリ対1ミリの寸法を有する正方形板の試料が生成された。なお、本試料は微生物学的試験に用いた。
【0129】
(実施例8)
<微生物学的試験>
手順:抗菌作用は、グラム陰性(大腸菌BE、緑膿菌CCM 1961)およびグラム陽性(黄色ブドウ球菌CCM 209)に対して決定した。バクテリア培養体は、ウクライナ・コレクションズ・オブ・マイクロオーガニズム(Ukrainian Collections of Microorganism)から購入した。
【0130】
新鮮な採取バクテリアを試験用に使用した。〜106cell/mlを含有する400マイクロリットルのバクテリア懸濁液を、25×25ミリメートルの寸法を有するポリマー試料の表面に塗布した。ポリマー試料を他の試料で即覆い、懸濁液をポリマー表面に均一に分布させるためいくらかの圧力を加えた。そのような2つのポリマー片の集合体を摂氏30度の温度で24時間に渡って保持した。その後、ポリマー試料を剥離させ、側面がバクテリアで覆われた固体の栄養培地に置いた。40分後、ポリマー試料を取り除いて、バクテリア細胞を固体の寒天の表面に放置した。そのように種入れした寒天の入ったペトリ皿を摂氏30度の温度で24時間に渡って培養した。培養後、バクテリア成長があるかペトリ皿を調べた。
【0131】
図4に、微生物学的試験後の対照複合材料とナノ複合材料上との両方における黄色ブドウ球菌に対する有機粘土のバクテリア成長の画像を示す。なお、該ナノ複合材料は、5重量%の粘土含有量を有するpVBzClポリマー殺生物剤を使って改質した有機粘土を有する。バクテリアコロニーは、このナノ複合材料試料上では、目には見えない。黄色ブドウ球菌、大腸菌、および緑膿菌に対する試料の定量データを表2に示す。表2には、ポリマー表面上のバクテリアコロニーの成長を各段階に分けて分類した。つまり、(++++)は非常に広範囲なバクテリア成長、(+++)は高いバクテリア成長、(+)は成長コロニーが離散している、そして(−)は成長がなかった、である。元のナイロン−6試料の表面に広範囲のバクテリア成長が発生したことが分かる。しかし、ナノ複合材料試料の表面には、ほとんど目に見えるバクテリアコロニーが観察されない。換言すれば、pVBzCl−改質された粘土から作成された抗菌性粘土/ポリマーナノ複合材料は、これら3つ全てのバクテリアの進行を抑制する効果がある。
【0132】
【表2】

【0133】
(実施例9)
<引張り降伏強度試験>
複合材料および元のナイロン−6に対する引張り降伏強度を引張荷重機により試験した。試料は、ASTM 1708−06aによって特定される試料配置を使って、射出成形した。本試験でのクロスヘッド速度は、15ミリメートル/分である。5つの試料を各材料のタイプごとに試験した。そのデータを表3に示す。元のナイロン−6と比較して、引張り降伏強度に関して、45%および38%の改善がおのおのpVBzClおよびqVP−co−Stから生成された5重量%粘土をローディングされたナノ複合材料に見られた。
【0134】
【表3】

【0135】
(実施例10)
<浸出試験>
2枚の高分子板(寸法:20×20×1ミリメートル)を試験管に入った20ミリリットルの蒸留水に浸した。このシステムを周囲温度に保って2カ月間保持した。試験管内の水の電気伝導率を周期的に計測した。その際、CDC745伝導度セルを備える電導率計(Conductivity Meter)CDM210(ラジオメーター・アナリティカル(Radiometer Analytical)社製,フランス)を使用した。
【0136】
図5を参照して、2か月の実験後に得られた、水中のナノ複合材料からの浸出オニウムカチオンの電気伝導率を示す。当該グラフに示される、5つの異なるナノ複合材料は、ナイロン−6と、(商用利用される有機粘土である)5重量%のCloisite 1OA、15A、2OA、3OB、および93A、つまり、非ポリマー四級アンモニウム塩を含有する有機粘土、とから生成されたものである。溶液の伝導性は、各対応する複合材料からの浸出オニウムの濃度を示す尺度である。図5から、水の伝導性が各試験済み複合材料に対して時間経過するごとに増加することが分かる。ナノ複合材料からのオニウム浸出を示すものとなる。
【0137】
同様の試験を実施例7に従って生成されたナノ複合材料を使い、かつ実施例1および2のポリマー抗菌剤を使って行った。その結果、複合材料を1カ月間水中に浸した後は、水の伝導性にほとんど変化が見られないことが示された。このことは、ナノ複合材料中のポリマー殺生物剤は水の周辺環境に対して浸出しないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法であって、
(i)ポリマー抗菌剤を粘土に接触させ有機粘土を生成する工程と、
(ii)その後前記有機粘土をポリマーマトリクスに分散する工程と、
を備えることを特徴とする抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項2】
前記粘土は、スメクタイト、イライト、およびクロライトを含む粘土のタイプのグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項3】
前記粘土は、スメクタイトを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項4】
前記粘土は、モンモリロナイト、ベントナイト、ノントロナイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ヘクトライト、サポナイト、スチーブンサイト、ソーコナイト、ソボカイト、またはスビンフォルダイトを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項5】
前記粘土は、モンモリロナイトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項6】
前記ポリマー抗菌剤は、イオン化されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項7】
前記ポリマー抗菌剤は、カチオン化されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項8】
前記ポリマー抗菌剤は、ルイス酸タイプの抗菌剤であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項9】
前記ポリマー抗菌剤は、オニウム基を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項10】
前記オニウム基は、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、クロロニウム、またはスルホニウムであることを特徴とする請求項9に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項11】
前記ポリマー抗菌剤は、第4級オニウム基を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項12】
前記ポリマー抗菌剤は、合成ポリマー材料であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項13】
前記ポリマー抗菌剤は、第4級アンモニウム基を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項14】
前記ポリマー抗菌剤は、化学式1で表わされることを特徴とする請求項13に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【化1】

【請求項15】
前記ポリマー抗菌剤は、化学式2で表わされることを特徴とする請求項13に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【化2】

【請求項16】
前記第1の形態のモノマー残留物および第2の形態のモノマー残留物は、それぞれ随意に置換したアルキレン基を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項17】
前記第1の形態のモノマー残留物と第2の形態のモノマー残留物とは、それぞれ随意に置換したエチレン基を表すことを特徴とする請求項16に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項18】
R、R’、R’’および/またはR’’’は、C1−C30アルキル基を表すことを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項19】
前記対イオンX-は、Br-またはCl-であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項20】
化学式1または化学式2にけるnおよびmは、それぞれ5〜400であり、より好ましくは10〜200であることを特徴とする請求項14〜19のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項21】
前記ポリマー抗菌剤の分子量は、1,500Da〜400,000Daであり、好ましくは10,000Da〜60,000Daであることを特徴とする請求項14〜20のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項22】
前記ポリマー抗菌剤は、部分的にアミノ化したポリビニルベンジル塩化物または4級化したビニルピリジン−co−スチレンを含むことを特徴とする請求項14〜21のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項23】
前記ポリマーマトリックスは、合成ポリマー材料を含むことを特徴とする請求項1〜22のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項24】
前記ポリマーマトリクスは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルクロリド、ポリアミド(ナイロン:登録商標)、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリメチルメタクリラート、ポリカルボナート、ポリウレタン、エポキシ、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、アクリロニトル−ブタジエン−スチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−ビニルアセタート、ゴム、ブルカニゼドゴム、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリジメチルシロキサン、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエーテレテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンクロリド、ポリビニリデンフルオード、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリ(酸化p−フェニレン)、ポリ(硫化p−フェニレン)、熱硬化性ポリエステル、およびシアノアクリレートからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜23のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項25】
前記ポリマーマトリックスは、ポリアミドまたはポリスルホンであることを特徴とする請求項1〜24のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項26】
前記ポリマーナノ複合材料は、0.1〜30重量%の、ポリマー殺生物剤で改質した有機粘土を含み、さらに好ましくは、2〜10重量%含み、最も好ましくは、2〜6重量%の、ポリマー殺生物剤で改質した有機粘土を含むことを特徴とする請求項1〜25のいずれか一項に記載の抗菌特性を有するポリマーナノ複合材料を準備する方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる抗菌ポリマーナノ複合材料。
【請求項28】
粘土と、
ポリマー抗菌剤と、
ポリマーマトリックスと、
を含むことを特徴とする抗菌ポリマーナノ複合材料。
【請求項29】
ポリマーマトリクスに分散された有機粘土を含むポリマーナノ複合材料の中に対象物を形成するか、または物体の表面にポリマーナノ複合材料を被覆することを備え、
前記有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含むことを特徴とする物体の微生物感染を阻止または抑制する方法。
【請求項30】
ポリマーマトリクスに分散された有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を備え、
前記有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含むことを特徴とする物体。
【請求項31】
前記物体は、医療機器であることを特徴とする請求項30に記載の物体。
【請求項32】
前記医療機器は、カテーテル、ステント、創傷ドレッシング、避妊具、外科用インプラントまたは代替関節、またはコンタクトレンズを含むことを特徴とする請求項31に記載の物体。
【請求項33】
前記物体は、微生物が感染しがちな家庭用品または消費財であることを特徴とする請求項30に記載の物体。
【請求項34】
ポリマーマトリクスに分散された有機粘土を含むポリマーナノ複合材料を備え、
前記有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含むことを特徴とする繊維。
【請求項35】
請求項34に記載の繊維を含む衣料品。
【請求項36】
下着、履物、またはユニフォームであることを特徴とする請求項35に記載の衣料品。
【請求項37】
ポリマーマトリクスに分散した有機粘土を含むナノ複合材料を含み、
前記有機粘土は、ポリマー抗菌剤を含むことを特徴とするポリマーナノ複合材料を含む包装材料。
【請求項38】
傷みやすい製品の包装に使用されることを特徴とする請求項37に記載の包装材料。
【請求項39】
化学式1によって表わされるポリマー抗菌剤。
【化1】

【請求項40】
化学式2によって表わされるポリマー抗菌剤。
【化2】

【請求項41】
ポリマー抗菌剤を混和した粘土を含むことを特徴とする有機粘土。
【請求項42】
前記ポリマー抗菌剤は、合成ポリマー材料であることを特徴とする請求項41に記載の有機粘土。
【請求項43】
前記ポリマー抗菌剤は、請求項39または40に記載のポリマー抗菌剤であることを特徴とする請求項41に記載の有機粘土。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−529276(P2010−529276A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511727(P2010−511727)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050426
【国際公開番号】WO2008/152417
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509343356)ノッティンガム トレント ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】