説明

振動片および振動子

【課題】膜厚変化に伴う周波数温度特性の変化を利用して従来よりも良好な周波数温度特
性を得ることのできる振動片を提供する。
【解決手段】周波数温度依存性を有する振動体11の表面に、ヤング率または熱膨張係数
の温度特性曲線上に変曲点または極値を有する温度特性補正部24a,24bを設け、温
度特性補正部24a,24bにおけるヤング率が極値となる温度が、振動体11の動作温
度範囲内にあることを特徴とする。ここで、前記極値となる温度は、ネール温度とするこ
とが望ましい。また、温度特性補正部24a,24bは、CrまたはCr合金により構成
すると良い。さらに、振動体11に設けた温度特性補正部24a,24bは、それらのヤ
ング率が極値となる温度を互いに異ならせると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動片、およびこれを実装した振動子に係り、特に周波数温度特性の良好な振
動片および振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数温度依存性を有する振動体において、周波数温度特性を改善する事は長きに亙る
課題とされてきた。特に、周波数温度特性を示す曲線が2次関数的に変化することが知ら
れている水晶を用いた屈曲振動片では、その周波数温度特性を改善するための種々の技術
が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されている技術は、音叉型振動片に関する技術であり、振動腕
の屈曲方向をXY′面、Y′Z′面の2方向とし、1つの屈曲振動片により2つの屈曲振
動を生じさせ、これらを結合させることでいずれか1方の振動の周波数温度特性を改善さ
せるというものである。
【0004】
また、特許文献2に開示されている技術は、やはり音叉型振動片に関するものであり、
従来コンタクトメタルとしてAuやAgの下層に形成されていたCrの膜厚を所定の範囲
で厚くすることで、Cr形成部分に生ずる応力が振動特性に影響を与え、周波数温度特性
が改善されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−40589号公報
【特許文献2】特開2005−136499号公報
【非特許文献】
【0006】
図3の引用元は以下の通りです。
【非特許文献1】R.Street, ”Elasticity and Anelasticity of Chromium”, Physical Review Letters, Vol.10, No.6, pp.210-211, 1963. 図4の引用元は以下の通りです。
【非特許文献2】D.F.McMorrow, J.Jensen, H.M.Ronnow, ”Magnetism in Metals”, Mat.Fys.Medd.Dan.Vid.Selsk.45(1997). http://ntserv.fys.ku.dk/Jens/book/Allansympc.PDfから入手できます。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記技術によれば確かに、周波数温度特性の改善を見ることができる。しかし、特許文
献1に開示されている技術は2つの振動を結合するものであり、各振動の制御が困難であ
るという問題が生ずる。
【0008】
また、特許文献2に開示されている技術は、周波数温度特性が改善される原因が不明確
であり、さらなる温度特性改善への可能性を確認することができないといった問題があっ
た。
【0009】
そこで本発明では、金属膜の膜厚の変化により周波数温度特性が改善される要因を究明
し、膜厚変化に伴う周波数温度特性の変化を利用して従来よりも良好な周波数温度特性を
得ることのできる振動片、およびこれを実装した振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]周波数温度依存性を有する振動体の表面に、ヤング率と熱膨張係数の少な
くとも一方の温度特性曲線上に変曲点と極値の少なくとも一方を有する温度特性補正部が
設けられ、前記温度特性補正部におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点
となる温度と極値となる温度の少なくとも一方が、前記振動体の動作温度範囲内にあるこ
とを特徴とする振動片。
このような特徴を有する振動片であれば、膜厚変化に伴う周波数温度特性の変化を利用
して、従来よりも良好な周波数温度特性を持つ振動片を製造することが可能となる。
【0012】
[適用例2]適用例1に記載の振動片であって、前記変曲点の温度と前記極値となる温
度の少なくとも一方が、ネール温度であることを特徴とする振動片。
ネール温度は反強磁性体が常磁性状態へ転移する温度であるため、ヤング率の極値が現
れることとなり、周波数温度特性の改善を確実に成すことができる。
【0013】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の振動片であって、前記温度特性補正部が
CrまたはCr合金からなることを特徴とする振動片。
Crは、従来よりコンタクトメタルとして採用されてきているため、このような特徴を
有する振動片であれば、製造工程における負担が少ない。
【0014】
[適用例4]適用例1乃至適用例3のいずれか一項に記載の振動片であって、前記振動
体に、前記温度特性補正部を2つ有し、それらにおけるヤング率と熱膨張係数の少なくと
も一方が変曲点となる温度と極値となる温度の少なくとも一方を互いに異ならせることを
特徴とする振動片。
このような特徴を有する振動片によれば、各温度特性補正部における変曲点または極値
となる温度において周波数温度特性の補正効果を得ることができる。よって、周波数温度
特性をより向上させることができる。
【0015】
[適用例5]適用例4に記載の振動片であって、2つの前記温度特性補正部におけるヤ
ング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点となる温度または極値となる温度の相違は
、前記温度特性補正部を構成する金属の膜厚の違いにより生じさせることを特徴とする振
動片。
このような特徴を有する振動片によれば、温度特性補正部としての材質を1つとしつつ
、2つの温度帯において温度特性補正効果を得ることができる。よって、高い周波数温度
特性改善効果を得ることができる。
【0016】
[適用例6]適用例4に記載の振動片であって、前記温度特性補正部を合金または合金
と前記合金における主体となる金属から成るものとし、2つの前記温度特性補正部におけ
るヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点となる温度または極値となる温度の相
違は、合金を構成する主体となる金属に対する他の金属の含有率の違いまたは前記合金と
当該合金における主体となる金属とにより生じさせることを特徴とする振動片。
このような特徴を有する振動片であっても2つの温度帯において温度特性補正効果を得
ることができる。よって、高い周波数温度特性改善効果を得ることができる。
【0017】
[適用例7]適用例1乃至適用例6のいずれか一項に記載の振動片であって、一の振動
体の表面に形成した前記温度特性補正部の上面に他の振動体を接合し、2つの振動体によ
り前記温度特性補正部を挟み込んだことを特徴とする振動片。
このような特徴を有する振動片によれば、温度特性補正部が外部に晒されることとなら
ないため、経時変化による周波数温度特性の劣化等を抑制することができる。
【0018】
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれか一項に記載の振動片であって、前記振動
体の主振動を屈曲振動としたことを特徴とする振動片。
屈曲振動は、励振電極形成面に、当該励振電極を引っ張りあるいは圧縮する方向への歪
みを生じさせるため、膜応力の影響に伴う周波数温度特性の補正効果が大きい。
【0019】
[適用例9]適用例1乃至適用例7のいずれか一項に記載の振動片であって、前記振動
体の主振動を輪郭振動としたことを特徴とする振動片。
輪郭振動も、励振電極形成面に、当該励振電極に対して引っ張りと圧縮を同時に付加す
るような歪み、または滑り運動による歪を生じさせるため、膜応力の影響に伴う周波数温
度特性の補正効果が大きい。
【0020】
[適用例10]適用例1乃至適用例9のいずれか一項に記載の振動片であって、前記振
動体と前記温度特性補正部との間に絶縁膜を介在させたことを特徴とする振動片。
このような特徴を有する振動片であっても、ヤング率または熱膨張係数の変曲点または
極値を示す温度において生ずる圧縮応力や伸張応力が振動体表面に影響を与える。よって
、周波数温度特性の改善効果を得ることができる。
【0021】
[適用例11]適用例1乃至適用例10のいずれか一項に記載の振動片をパッケージ内
部に実装したことを特徴とする振動子。
このような特徴を有する振動子によれば、広い温度範囲において良好な周波数温度特性
を得ることができる信頼性の高い振動子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る振動片の構成を示す図である。
【図2】温度特性補正部としてのCrの膜厚変化に対する周波数温度特性の変化を示すグラフである。
【図3】Crのヤング率の変化と温度との関係を示すグラフである。
【図4】Crのネール温度の変化と合金化における金属の含有率との関係を示すグラフである。
【図5】第2の実施形態に係る振動片の特徴部分としての振動腕の構成を示す図である。
【図6】第3の実施形態に係る振動片の特徴部分を示す図である。
【図7】第4の実施形態に係る振動片の特徴部分としての振動腕の構成を示す図である。
【図8】厚み滑り振動を主振動とする振動片の例を示す図である。
【図9】弾性表面波を主振動とする振動片の第1の形態を示す図である。
【図10】弾性表面波を主振動とする振動片の第2の形態を示す図である。
【図11】弾性表面波を主振動とする振動片の第3の形態を示す図である。
【図12】発明に係る振動子の断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の振動片および振動子に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細
に説明する。
まず、図1を参照して、本発明の振動片に係る第1の実施形態について説明する。なお
、図1において、図1(A)は振動片の平面図であり、図1(B)は同じ(A)における
A−A断面を示す図である。
【0024】
本実施形態に係る振動片10は、周波数温度依存性を有する振動体を構成する素子片と
して水晶を例に挙げて説明する。また、振動モードとしては、屈曲振動を主振動とする音
叉型の形態を例に挙げて説明することとする。
【0025】
本実施形態に係る振動片10は、振動体11と、この振動体11に形成された金属膜1
6とより成る。振動体11は圧電効果を奏する水晶で構成され、基部12と、この基部1
2から延設された一対の振動腕14a,14bとを有する、いわゆる音叉型の体を成す。
金属膜16は、下地層となる温度特性補正部24a,24bと、表面層となる電極部とよ
り成る。なお電極部は、振動を励起するための励振電極、18a,18b、駆動信号や検
出信号を入出力するための入出力電極22a,22b、および励振電極18a,18bと
入出力電極22a,22bとを接続する引出し電極20a,20bとから成る。
【0026】
本実施形態では、温度特性補正部24a,24bをクロム(Cr)で構成し、電極部は
金(Au)で構成している。Crは、振動体11として採用する水晶に対する密着性が良
好で、コンタクトメタルとしても優れているからである。また、金(Au)は電気抵抗が
極めて低く、安定しており、酸化等の影響を受け難く、経年劣化による性質変化が少ない
からである。
【0027】
Crが温度特性補正部24a,24bとしての役割を果たす事は、実験により得られた
図2からも読み取ることができる。実験は、図2に示すように、Auの膜厚を一定(50
0Å)としてCrの膜厚を1500Å(図2(A))、2000Å(図2(B))、25
00Å(図2(C))と変化させることにより、振動子としての周波数温度特性がどのよ
うに変化するかを記録したものである。周波数温度特性の変化の様子としては、Crの膜
厚を厚くして行くことにより、頂点温度の左側、すなわち頂点温度よりも低い温度側にお
いて、周波数変動量が少なくなっていることが読み取れる。
【0028】
ここで、振動子の共振周波数は、振動体11における振動部の長さ、幅、厚さ、振動体
11を構成する物質の密度、境界条件、および弾性定数等の要素から算出することができ
る。そして、振動部に形成した金属膜の膜厚の変化に起因して振動子の共振周波数が変動
する要素としては、弾性定数を挙げることができる。弾性定数を構成する要素のうち、温
度変化により振動子の共振周波数が変動する要素としてヤング率や熱膨張係数が存在する
。このため、振動子の共振周波数の温度依存は、ヤング率や熱膨張係数の変化によっても
、もたらされるものであることが考えられる。
【0029】
以下、Crの膜厚の変化に伴う低温側における周波数温度特性の改善に関して考察する

図3は、固体Crのヤング率の変化を示すグラフである。図3からも読み取れるように
、Crのヤング率は、120K(スピンフリップ温度:ヤング率が変曲点になる温度)と
310K(ネール温度:ヤング率が極値になる温度)において急激な変化を示すことが解
る。なお、Crのヤング率は、120Kのスピンフリップ温度において変曲点を有し、3
10Kのネール温度において極値を有する。
【0030】
振動子の動作温度範囲を−55℃〜+125℃、好適には−40℃〜+85℃とした場
合、120Kは−153℃であり、310Kは+37℃であるから、Crにおいてはネー
ル温度が振動子の動作温度範囲内に存在するといえる。ここでネール温度とは、反強磁性
体が常磁性体状態へ転移する温度をいう。なお、反強磁性とは、隣り合うスピンがそれぞ
れ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持たない物性の磁性である。ま
た、常磁性とは、外部磁場がないときには磁化を持たず、磁場を印加するとその方向に弱
く磁化する磁性である。つまり、ヤング率の急激な変化は、磁性体の状態転移に伴って生
ずるものであるといえる。
【0031】
そして、反強磁性体は、ネール温度において常磁性体からの転移を受けることで磁気モ
ーメントが消失することにより、大きな体積変化を生じさせることが知られていることよ
り、反強磁性体におけるネール温度では、熱膨張係数にも変化がもたらされるということ
ができる。
【0032】
Crは、膜厚の相違による圧縮応力、および伸張応力の変化に伴い、ネール温度が変化
することが知られている。具体的には、固体Crに比して薄膜化されたCrのネール温度
は、数十℃の範囲で低温側へシフトするのである。しかしながら図2を参酌すると、図2
(A)では周波数変動量の改善は見ることができず、図2(B)、図2(C)と膜厚を厚
くする毎に周波数変動量の改善される温度範囲の中心が頂点温度に近づいているように読
み取れる。この事は、薄膜化したCrの膜厚を厚くすることにより、ネール温度が高温側
へシフトしているとも読み取ることができる。つまり、Crの膜厚を1500Å以下とし
た場合には、ネール温度は振動子の動作温度範囲よりも低温側へ急激にシフトしていると
考えられる。
【0033】
そして、Crの薄膜化に伴うネール温度の急激な低下には、以下のような現象も起因し
ていると考える。ここで、CrとAuの間、すなわち温度特性補正部24a,24bと電
極部(図1(B)の場合は励振電極18a,18b)との間には、AuがCr層に拡散し
た合金層が存在する。ここで図4に示すCrの合金化に伴うネール温度の変化を参酌する
と、Auの含有率の増加は、Crのネール温度の低下を招くことを読み取ることができる

【0034】
つまり、Crの膜厚が薄い場合には、拡散するAuの割合、すなわち合金層におけるA
uの含有率が高くなるため、単純にCrを薄膜化した場合よりもネール温度が低下したと
考えられる。そして、Crの膜厚を厚くした場合には、Auの含有率は当然に下がり、合
金化されない層も生ずることとなるため、ネール温度が上昇し、Crの膜厚を2500Å
とした場合には、ネール温度が0℃近傍に至ったものと考えられる。なお、上記実験から
は、Crの膜厚を2000Å以上とすることで、温度特性補正部としての効果、すなわち
周波数温度特性改善効果を奏するということが言える。
【0035】
以上の点より、温度特性補正部24a,24bは、膜厚の変化や合金化によりヤング率
が極値となる温度(Crの場合はネール温度)が変化することが解る。そこで本実施形態
に係る振動片10では図1(B)に示すように、振動腕14a,14bの表裏面と側面、
すなわち電圧を印加する際に電位が異なることとなる金属膜16において、温度特性補正
部24a,24bの膜厚を異ならせる構成とした。
【0036】
このような構成とすることにより、1つの振動体11に対してネール温度の異なる2つ
(2種類)の温度特性補正部24a,24bを備えることとなる。これにより、振動子の
周波数温度特性の改善は、それぞれの温度特性補正部24a,24bにおけるネール温度
にて成されることとなる。よって、動作温度範囲内における周波数変動量は、1種類の温
度特性補正部により補正される場合よりもさらに小さくなり、周波数温度特性を示す曲線
をよりフラットなものとすることができる。
【0037】
また、本発明によれば、上記のように周波数温度特性が改善される原因が明確となった
ため、シミュレーションによる振動特性の解析が可能となり、開発コストの削減を図るこ
とが可能となる。
【0038】
次に、本発明の振動片に係る第2の実施形態について、図5を参照して説明する。なお
、本実施形態に係る振動片の殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係る振動片と同様
である。よって、その機能を同一とする箇所については図面に同一符号を付して詳細な説
明を省略すると共に、振動片の全体構造については、図1(A)に示した図を援用するこ
ととする。
【0039】
本実施形態に係る振動片10は、屈曲部において電位の異なる電極部の下地層を構成す
る温度特性補正部24a,26を、異なる種類の金属により構成したことを特徴としてい
る。
【0040】
ここで、2種類の温度特性補正部24a,26は、ヤング率の極値が振動子における周
波数温度特性の頂点温度よりも高温側に位置するものと、低温側に位置するものとするこ
とが望ましい。第1の実施形態で温度特性補正部として使用したCrは、ヤング率の極値
であるネール温度が周波数温度特性の頂点温度よりも低温側に位置していた。このため、
周波数温度特性はもっぱら、頂点温度よりも低温側で改善されることとなっていた。この
ため、ヤング率の極値が周波数温度特性の頂点温度よりも高温側に位置する部材を温度特
性補正部材の1つとして採用することによれば、周波数温度特性の頂点温度よりも高温側
においても、周波数温度特性の改善を図ることができると考えられるからである。
【0041】
具体的には、振動腕14aの表裏面に形成される励振電極18aの下地層を構成する温
度特性補正部24aをCrとした場合、振動腕14aの側面に形成される励振電極18b
の下地層を構成する温度特性補正部26は二酸化クロム(CrO)とするのである。
【0042】
ここで、CrOは、強磁性体であるため、ヤング率が極値を示す温度はキュリー温度
と称される。なお、キュリー温度とは、強磁性体が常磁性体に変化する転移温度である。
CrOのキュリー温度は386K(113℃)であるため、図2に示した周波数温度特
性の頂点温度(約30℃)よりも高温側に位置し、かつ振動子の動作温度範囲を−55℃
〜+125℃としたならば、その範囲内に入る温度である。よって、このような組み合わ
せで温度特性補正部24a,26を構成した場合、周波数温度特性における頂点温度の高
温側と低温側の双方で周波数変動量の減少を促すことができ、動作温度範囲内の全範囲に
おいて周波数温度特性を改善することができる。
【0043】
なお、CrOのキュリー温度は、膜厚の調整、およびAuとの合金化により低温化し
た場合には、−40℃〜+85℃の動作温度範囲内に入れることもできると考えられる。
また、本実施形態に係る2種類の温度特性補正部24a,26は、Crを主体とした合
金であって、その合金の含有率を異ならせた物質であっても良い。図4に示すように、金
属の含有率の違いにより、ヤング率が極値を示す温度が変化するからである。
【0044】
次に、本発明の振動片に係る第3の実施形態について、図6を参照して説明する。なお
、本実施形態に係る振動片もその殆どの構成を上述した第1、第2の実施形態に係る振動
片と同一とする。よってその機能を同一とする箇所には図1と同一符号を付して詳細な説
明は省略することとする。また、図6は、図1における金属膜を省略して示している。
【0045】
本実施形態に係る振動片10は、温度特性補正部24a,24bの配置範囲に特徴を有
する。具体的には、本実施形態に係る振動片10は、屈曲部である振動腕14a,14b
における最も歪みの大きい箇所のみに温度特性補正部24a,24bとしてのCr、ある
いはCrを主体とした合金を設けた点を特徴とする。
【0046】
Crは電気抵抗が大きいため、コンタクトメタルとして採用する場合にはできるだけ薄
く形成することが望ましい。共振回路の抵抗が小さい方が、振動子としてのQ値を高くす
ることができるからである。これに対し上述したように、従来コンタクトメタルとして用
いてきたCrは、その膜厚を厚くすることにより周波数温度特性の改善に寄与することと
なる。
【0047】
これらの事象を参酌した場合、Q値の向上と周波数温度特性の改善との双方に最も効果
的と考えられる構成は、最も歪みの大きな箇所のみに温度特性補正部24a,24bを配
置し、その他の箇所には薄膜のCr、あるいはCrを主体とした合金を設けるようにする
ことである。よって本実施形態では、音叉型振動片において最も歪みの大きくなる箇所で
ある振動腕14a,14bの基部12側端部のみに温度特性補正部24a,24bを配置
する構成とした。
【0048】
なお、金属膜を構成する電極部(励振電極18a,18b、引き出し電極20a,20
b、入出力電極22a,22b)として、振動体11である水晶との密着性の良い部材、
例えばアルミ(Al)等を採用する場合には、コンタクトメタルを形成する必要性は無く
なる。このような場合には、図6のように温度特性補正部24a,24bを形成した後、
電極部を直接形成すれば良い。
【0049】
次に、本発明の振動片に係る第4の実施形態について、図7を参照して説明する。なお
、図7には、本実施形態に係る振動片の特徴部分を示す振動腕の断面形状のみを示し、他
の構成要素については図1(A)の符号を援用することとする。
【0050】
本実施形態に係る振動片10は、温度特性補正部28の配置形態に特徴を有する。具体
的には、上記実施形態ではいずれも温度特性補正部を電極部の下地層として形成していた
。これに対し本実施形態に係る振動片10では、振動腕14a(14b)を構成する一方
の振動体11aと他方の振動体11bの中間層として温度特性補正部28を配置している

【0051】
図7に示すように、本実施形態に係る振動片10では、振動腕14a,14bを構成す
る一方の振動体11aと他方の振動体11bの間に、温度特性補正部28を形成している
。形成方法としては、薄肉化した2つの振動体11a,11bの対向面のいずれか一方に
温度特性補正部28を形成し、2つの振動体11a,11bを接合し、外表面に金属膜1
6を形成するというものである。
【0052】
2つの振動体11a,11bの接合方法としては、直接接合や金属接合などによれば良
い。なお、振動腕14a(14b)のみを薄肉化し、薄肉化した振動腕14a(14b)
に温度特性補正部28を形成し、振動腕14a(14b)と同じ形状の水晶片を接合する
という構成としても良い。
【0053】
このように、一方の振動体11aの表面に形成した温度特性補正部28を、他方の振動
体11bで挟み込んだ場合であっても、温度特性補正部28としての機能を発揮し、周波
数温度特性を改善することができる。なお、温度特性補正部を一方の振動体11aまたは
他方の振動体11bの対向面全面に亙って設ける場合には、短絡を防止するために温度特
性補正部の外周にSiO等による絶縁膜を形成すると良い。
【0054】
上記実施形態ではいずれも、主振動を屈曲振動とし、振動片の形態を音叉型として説明
した。しかしながら本発明に係る振動片の形態はこれに限られるものでは無い。
【0055】
例えば、主振動を厚み滑り振動とした場合には、図8に示すような振動片とすれば良い
。具体的には、ATカットと呼ばれるカット角で切り出された平板状の振動体41と、金
属膜42とから構成される。金属膜42は、電極部と電極部の下地層を成す温度特性補正
部50とから成る。なお電極部は、励振電極44、入出力電極48、および引出し電極4
6とに分別することができ、励振電極44は振動体41の表裏における主面の対応する位
置に形成される。また、温度特性補正部50は、励振電極44を構成する電極部の下地層
のみに設ける構成としても良い。
【0056】
このような構成の振動片40において温度特性補正部50を構成する部材としては、上
記種々の実施形態と同様に、Cr、あるいはCrを主体とした合金とすれば良い。また、
電極部を構成する部材としては、Auとすれば良い。なおこのような構成の振動片40に
おいて、温度特性補正部50は、振動体41の表裏面において0異なるネール温度、ある
いはキュリー温度を示す材質としても良い。
【0057】
また、主振動を弾性表面波とした場合には、図9に示すような振動片(弾性表面波素子
片)とすれば良い。なお、図9において、図9(A)は弾性表面波素子片を示す平面図で
あり、図9(B)は同図(A)におけるA−A断面を示す図である。
【0058】
弾性表面波素子片60は、例えばSTカットと呼ばれる素子片を振動体61とし、当該
振動体61の一方の主面に、励振電極としてのIDT64や入出力電極68、および反射
器66としての役割を担う金属膜62を構成する。金属膜は、下地層をCr、あるいはC
rを主体とした合金により構成した温度特性補正部70とし、表面層をAlで構成すれば
良い。
【0059】
また、弾性表面波素子片60における第2の形態としては、図10に断面形状を示すよ
うなものを挙げることができる。具体的には、IDT64や反射器66等をAlで形成し
、Alで形成した電極指64a間、あるいは反射器66におけるストリップ66a間にC
r、あるいはCrを主体とした合金膜を配置し、これを温度特製補正部70とするという
ものである。なおCr膜とAl膜との間には、短絡を防止するための隙間を設ける必要が
ある。
【0060】
さらに、弾性表面波素子片60における第3の形態としては、図11に断面形状を示す
ものを挙げることができる。具体的には、IDT64や反射器等66をAlで形成し、A
lにより構成した金属膜上にSiO膜72を形成することで電極指64a間における短
絡防止を図る。そして、形成したSiO膜72上にCr、あるいはCrを主体とした合
金により構成される膜を温度特性補正部70とするというものである。このような構成と
した場合であっても、ネール温度、あるいはキュリー温度における圧縮応力、および伸張
応力の変化は、SiO膜72を介して振動体61に影響を与え、周波数温度特性の改善
に寄与することができる。
【0061】
また、輪郭振動であるラーメモードの振動を主振動とする振動片の構成については、振
動体としてLQ1TカットやLQ2Tカットと呼ばれるカット角で切り出された水晶片を
用いれば、金属膜の形成形態として厚み滑り振動を主振動とする振動片と同様な形態を採
ることで、本発明の振動片の一部とすることができる。
【0062】
なお、このような振動モードを主振動とする振動片の他にも、捻り振動や境界波(スト
ンリー波やメルフェル・ツルヌワ波)などを主振動とする振動片も、上記のようにして金
属膜を構成することで、本発明の一部とみなすことができる。
【0063】
また、上記実施形態では振動体として水晶を用いたが、周波数温度特性の改善に関し、
上記実施形態と同様な効果を得ることができるものであれば、チタン酸ジルコン酸鉛(P
bZrTiO)やニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTa
)、リチウムトリボレート(LiB)、硝酸カリウム(KNO)等の圧電体
や、半導体であっても良い。
【0064】
また上記実施形態では、温度特性補正部を構成する金属としてCrやCrを主体とした
合金を例に挙げて説明したが、キュリー温度やネール温度が振動子の動作温度範囲内にあ
るものであれば、他の部材を用いても良い。
【0065】
次に、本発明に係る振動子について、図12を参照して説明する。
本実施形態に係る振動子100は、上述した振動片10(40,60)のいずれかと、
この振動片10を収容するパッケージ110、およびパッケージ110の開口部を封止す
るリッド120とを主な構成要素としている。
【0066】
パッケージ110は、セラミックグリーンシート等を積層して焼成した箱体であり、凹
状に形成されたキャビティ内部には、振動片10を実装するための内部実装電極112が
形成されている。パッケージ110の外部には、底面に、外部実装端子114が形成され
ている。外部実装端子114は、図示しないスルーホール等を介して、内部実装電極11
2と電気的に接続されている。
【0067】
リッド120は、本実施形態の場合には平板状を成す。構成部材としては、金属または
ガラスが採用されることが多い。いずれの部材を採用する場合であっても、線膨張係数が
パッケージ110の構成部材と近似したものを採用することが望ましい。
【0068】
上記のような構成のパッケージ110に対し、振動片10を実装する。振動片10の実
装には、導電性接着剤116を用いる。導電性接着剤116を内部実装電極112に塗布
し、塗布した導電性接着剤116に対して振動片10の入出力電極を接合させるのである

【0069】
振動片10を実装したパッケージ110の開口部を封止する際、リッド120は接合部
材118を介して接合される。接合部材118は、リッド120を構成する部材により異
なる。例えばリッド120が金属であった場合、接合部材118には低融点金属で構成さ
れたシールリングを用いる。一方、リッドがガラスであった場合、接合部材118には低
融点ガラスを採用する。
このような構成の振動子は、周波数温度特性が改善され、広い温度範囲において高い信
頼性を持つ振動子とすることができる。
【符号の説明】
【0070】
10………振動片、11………振動体、12………基部、14a,14b………振動腕
、16………金属膜、18a,18b………励振電極、20a,20b………引き出し電
極、22a,22b………入出力電極、24a,24b………温度特性補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数温度依存性を有する振動体の表面に、ヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方の
温度特性曲線上に変曲点と極値の少なくとも一方を有する温度特性補正部が設けられ、
前記温度特性補正部におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点となる温
度と極値となる温度の少なくとも一方が、前記振動体の動作温度範囲内にあることを特徴
とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片であって、
前記変曲点となる温度または前記極値となる温度が、ネール温度であることを特徴とす
る振動片。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動片であって、
前記温度特性補正部がCrまたはCr合金からなることを特徴とする振動片。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の振動片であって、
前記振動体に、前記温度特性補正部を2つ有し、それらにおけるヤング率と熱膨張係数
の少なくとも一方が変曲点となる温度と極値となる温度の少なくとも一方を互いに異なら
せることを特徴とする振動片。
【請求項5】
請求項4に記載の振動片であって、
2つの前記温度特性補正部におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点と
なる温度または極値となる温度の相違は、前記温度特性補正部を構成する金属の膜厚の違
いにより生じさせることを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項4に記載の振動片であって、
前記温度特性補正部を合金または合金と前記合金における主体となる金属から成るもの
とし、
2つの前記温度特性補正部におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点と
なる温度または極値となる温度の相違は、合金を構成する主体となる金属に対する他の金
属の含有率の違いまたは前記合金と当該合金における主体となる金属とにより生じさせる
ことを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の振動片であって、
一の振動体の表面に形成した前記温度特性補正部の上面に他の振動体を接合し、2つの
振動体により前記温度特性補正部を挟み込んだことを特徴とする振動片。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の振動片であって、
前記振動体の主振動を屈曲振動としたことを特徴とする振動片。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の振動片であって、
前記振動体の主振動を輪郭振動としたことを特徴とする振動片。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の振動片であって、
前記振動体と前記温度特性補正部との間に絶縁膜を介在させたことを特徴とする振動片

【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の振動片をパッケージ内部に実装したこ
とを特徴とする振動子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−220193(P2010−220193A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291926(P2009−291926)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】