説明

排ガス浄化装置および排ガス浄化方法

【課題】希薄燃焼エンジンからの排ガス中に含まれるNOx量を低コストで低減することが可能な排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】希薄燃焼エンジン1に接続され複数の通路に分岐した排ガス通路と、前記排ガス通路の各通路内に配置された燃料添加手段5a、5bと、酸化触媒およびNOx吸着材を備える排ガス浄化触媒6a、6bと、NOx放出量検出手段7a、7bと、開閉バルブ8a、8bと、NOx放出量検出手段と開閉バルブとの間の各排ガス通路から取り出され切替バルブ9を備える排ガス還流用配管10と、排ガス通路のうちNOx吸着材の吸着量が閾値を超えた排ガス通路Aでは、燃料添加手段5aから燃料を添加し燃焼させてNOx吸着材からNOxを放出させ、放出されたNOxを含有する排ガスが希薄燃焼エンジン1に還流されるよう制御し、残りの通路では排ガスからNOx吸着材にNOxを吸着させ除去した後に排出する制御手段11を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化装置および排ガス浄化方法に関し、より詳しくは、排ガス中のNOxを除去するための排ガス浄化装置および排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの希薄燃焼エンジンは、燃料と空気との混合気を圧縮によって燃焼させて駆動させるものであるが、この時、エンジンの燃焼室内は高温となり、その結果、燃焼室に供給された空気中の窒素が酸化されてNOxが生成する。このため、希薄燃焼エンジンからの排ガスには、NOxが含まれ、大気汚染の原因となっていた。
【0003】
従来から、エンジンからのNOxの排出を抑制するために、エンジン排気管に設置した触媒によってNOxを還元して排ガスを浄化する方法が適用されている。しかしながら、ディーゼルエンジンなどの希薄燃焼エンジンにおいては、排ガス中に大量の酸素が含まれているため、触媒によりNOxを還元することは容易ではなかった。
【0004】
そこで、希薄燃焼エンジンにおいて、より効率的にNOxを除去することができる排ガス浄化装置として、炭化水素を添加して排ガスの温度を上昇させ、NOxを効率的に還元することができる排ガス浄化装置(例えば、特開平5−214926号公報(特許文献1))、還元剤を添加して触媒を還元したり、NOxを還元したりすることができる排ガス浄化装置(例えば、特開2007−23807号公報(特許文献2))などが提案されている。しかしながら、これらの方法においては、NOxを還元するために高価なNOx還元触媒が使用されており、装置コストが高くなるという問題があった。
【0005】
また、特開2005−256679号公報(特許文献3)には、NOxを低減する技術として、エンジンの排ガスを吸気通路に再循環してシリンダ内の燃焼を制御するEGR技術が開示されている。しかしながら、通常のEGR技術は、排ガスの一部をそのまま吸気通路に再循環させているため、未燃の燃料や一酸化炭素なども同時に循環され、不完全燃焼により粒子状物質(PM)や未燃の炭化水素が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−214926号公報
【特許文献2】特開2007−23807号公報
【特許文献3】特開2005−256679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、希薄燃焼エンジンからの排ガス中に含まれるNOx量を低コストで低減することが可能な排ガス浄化装置および排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、希薄燃焼エンジンからの排ガス中に含まれるNOxをNOx吸着材に吸着させ、その後、燃料を添加して排ガスの温度を高めて前記NOx吸着材からNOxを放出させてNOxを高濃度で含有する排ガスを調製し、この排ガスを前記希薄燃焼エンジンに還流させることによって、前記希薄燃焼エンジンの燃焼室内において前記NOxが分解されて希薄燃焼エンジンからの排ガスのNOx量が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の排ガス浄化装置は、希薄燃焼エンジンに接続され、複数の通路に分岐している排ガス通路と、
前記希薄燃焼エンジンに空気を供給するための空気供給配管内および前記希薄燃焼エンジンと前記排ガス通路とを接続する配管内に配置され、前記排ガス通路に流入する排ガス中のNOx量を検出するためのNOx流入量検出手段と、
前記排ガス通路の各通路内に配置され、前記排ガス中に燃料を添加するための燃料添加手段と、
前記各排ガス通路内の前記燃料添加手段より下流部分に配置され、前記燃料を燃焼させるための酸化触媒および前記排ガス中のNOxを吸着させるためのNOx吸着材を備える排ガス浄化触媒と、
前記各排ガス通路内の前記排ガス浄化触媒より下流部分に配置され、前記NOx吸着材から放出されるNOx量を検出するためのNOx放出量検出手段と、
前記各排ガス通路内の前記NOx放出量検出手段より下流部分に配置された開閉バルブと、
前記NOx放出量検出手段と前記開閉バルブとの間の各排ガス通路と前記空気供給配管とを接続している、切替バルブを備える排ガス還流用配管と、
前記NOx流入量検出手段、前記NOx放出量検出手段、前記燃料添加手段、前記開閉バルブおよび前記切替バルブとそれぞれ電気的に接続され、前記複数に分岐している排ガス通路のうち、前記NOx流入量から算出される前記NOx吸着材へのNOx吸着量が閾値を超えた排ガス通路においては、前記燃料添加手段を制御して所定量の前記燃料を排ガス中に添加し、前記酸化触媒の作用により前記燃料を燃焼させることによって前記NOx吸着材から所定量のNOxを放出させつつ、前記放出されたNOxを含有する排ガスが前記排ガス還流用配管を通して前記希薄燃焼エンジンに還流されるように前記開閉バルブおよび前記切替バルブを制御し、残りの排ガス通路においては、排ガスから前記NOx吸着材にNOxを吸着させて除去した後、前記排ガスが系外に排出されるように前記開閉バルブを制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
このような排ガス浄化装置において、前記排ガス浄化触媒としては、前記酸化触媒を上流側に、前記NOx吸着材を下流側に備えるものが好ましい。
【0011】
また、本発明の排ガス浄化方法は、希薄燃焼エンジンに接続され、複数の通路に分岐している排ガス通路と、前記排ガス通路の各通路内に配置された燃料添加手段と、前記各排ガス通路内の前記燃料添加手段より下流部分に配置された、前記燃料を燃焼させるための酸化触媒および前記排ガス中のNOxを吸着させるためのNOx吸着材を備える排ガス浄化触媒とを備える排ガス浄化装置を用いる排ガス浄化方法であって、
NOx流入量を検出しながら、希薄燃焼エンジンから排出される排ガスを前記排ガス通路に流入させて、前記NOx吸着材に前記排ガス中のNOxを吸着させ、
前記複数の通路に分岐している排ガス通路のうち、前記NOx流入量から算出される前記NOx吸着材へのNOx吸着量が閾値を超えた排ガス通路においては、前記燃料添加手段から所定量の前記燃料を排ガス中に添加し、前記酸化触媒の作用により前記燃料を燃焼させることによって前記NOx吸着材から所定量のNOxを放出させつつ、前記放出されたNOxを含有する排ガスを前記希薄燃焼エンジンに還流させ、
残りの排ガス通路においては、前記NOx吸着材にNOxを吸着させて排ガスから除去した後の排ガスを系外に排出することを特徴とする方法である。
【0012】
このような排ガス浄化方法において、前記燃料を添加した後の排ガスの空燃比はリーン状態であることが好ましい。
【0013】
なお、本発明の排ガス浄化方法によって、希薄燃焼エンジンから排出される排ガス中のNOx量が低減される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。希薄燃焼エンジンの燃焼室内は、燃料が燃焼することによって高温となるため、燃焼室内に供給された空気中の窒素と酸素などが反応してNOなどのNOxが生成する。このようなNOxの生成反応は、発熱反応であるとともに、下記式(1)〜(3):、
【0014】
【化1】

【0015】
などで表されるような平衡反応である。このような平衡反応において、高温下でNOx濃度が高くなると、平衡が前記式の左辺に移動するため、NOxの生成反応に比べてNOxの分解反応が進行しやすくなる。本発明の排ガス浄化方法は、このような平衡反応を利用するものである。
【0016】
すなわち、希薄燃焼エンジンから排出される排ガス中のNOxをNOx吸着材に吸着させ、NOx吸着量が閾値を超えた場合にNOx吸着材からNOxを放出させることによってNOxを高濃度で含有する排ガスを得ることができる。このNOxを高濃度で含有する排ガスを希薄燃焼エンジンに還流すると、希薄燃焼エンジンの燃焼室内は、NOxが高濃度の雰囲気となる。エンジン運転時の燃焼室内は高温であるため、NOxが高濃度の雰囲気である燃焼室内においては、上述したように、NOxが分解され、希薄燃焼エンジンから排出される排ガス中のNOx量が低減されると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希薄燃焼エンジンからの排ガス中に含まれるNOx量を低コストで低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の排ガス浄化装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の排ガス浄化方法における開閉バルブ、燃料添加手段および切替バルブの制御方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の排ガス浄化方法にかかる開閉バルブ、燃料添加手段および切替バルブのタイミングチャートを示すグラフである。
【図4】エンジンのトルクとエンジン燃焼室内におけるNOx低減率との関係を示すグラフである。
【図5】エンジン燃焼室へのNOx供給量とエンジン燃焼室内におけるNOx低減率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の排ガス浄化装置の好適な一実施態様を示す概略模式図である。なお、図1には、本発明の排ガス浄化装置に接続されている希薄燃焼エンジン1も示してある。また、矢印は排ガスの流れを示す。
【0021】
図1に示す排ガス浄化装置は、希薄燃焼エンジン1に接続され、複数の通路AおよびBに分岐している排ガス通路と、空気供給配管2内および希薄燃焼エンジン1と前記排ガス通路とを接続する配管内に配置されたNOx流入量検出手段3および4と、排ガス通路AおよびB内にそれぞれ配置された燃料添加手段5aおよび5bと、排ガス通路AおよびB内の燃料添加手段5aおよび5bより下流部分にそれぞれ配置された排ガス浄化触媒6aおよび6bと、排ガス通路AおよびB内の排ガス浄化触媒6aおよび6bより下流部分にそれぞれ配置されたNOx放出量検出手段7aおよび7bと、排ガス通路AおよびB内のNOx放出量検出手段7aおよび7bより下流部分にそれぞれ配置された開閉バルブ8aおよび8bと、前記NOx放出量検出手段と前記開閉バルブとの間の各排ガス通路と空気供給配管2とを接続している、切替バルブ9を備える排ガス還流用配管10と、NOx流入量検出手段3および4、NOx放出量検出手段7aおよび7b、燃料添加手段5aおよび5b、開閉バルブ8aおよび8b、ならびに切替バルブ9とそれぞれ電気的に接続された制御手段11とを備えるものである。
【0022】
本発明に用いられる希薄燃焼エンジン1としては、例えば、ディーゼルエンジン、希薄燃焼ガソリンエンジンなどが挙げられる。空気供給配管2は、この希薄燃焼エンジン1に空気を供給するための配管であり、排ガス還流用配管10が接続された部分と希薄燃焼エンジン1との間に過給器12を備えていることが好ましい。過給器12を設けることによって、希薄燃焼エンジン1の負荷が高くなり、燃焼室内でのNOxの分解反応が進行しやすく、希薄燃焼エンジン1から排出される排ガス中のNOx濃度をより低減することができる。また、このような観点から、過給圧としては30kPa以上が好ましい。前記過給器としては、ターボ過給器などが挙げられる。
【0023】
本発明にかかるNOx流入量検出手段3および4は、前記排ガス通路に流入する排ガス中のNOx量を検出するためのものであり、例えば、流入空気量センサーやNOx濃度センサーが挙げられる。前記排ガス通路へのNOx流入量は、流入空気量、過給圧、ディーゼルエンジンの回転数、スロットル開度、エンジン負荷(例えば、トルク)に依存するため、予め、これらのパラメータとNOx流入量との関係を求めておき、流入空気量とNOx濃度を測定することによって、過給圧、ディーゼルエンジンの回転数、スロットル開度の設定値を用いて、前記排ガス通路へのNOx流入量を検出することができる。
【0024】
本発明にかかる燃料添加手段5aおよび5bは、排ガス通路AおよびBに流入した排ガス中に燃料を添加するためのものであり、その種類としては特に制限はないが、燃料を微細化して添加できるという観点から、流体噴霧ノズルが好ましく、噴霧粒子径がより細かくなり、後述する酸化触媒の作用により燃料が燃焼しやすく、高温の排ガスが得られやすいという観点から、燃料と空気(特に好ましくは加圧された空気)を混合することができる二流体噴霧ノズルがより好ましいが、排ガスの温度によっては一流体噴霧ノズルを使用してもよい。また、添加される燃料は希薄燃焼エンジンの種類に応じて適宜設定され、例えば、希薄燃焼エンジン1がディーゼルエンジンの場合には軽油を添加し、希薄燃焼ガソリンエンジンの場合にはガソリンを添加する。
【0025】
本発明に用いられる排ガス浄化触媒6aおよび6bは、前記燃料を燃焼させるための酸化触媒および排ガス中のNOxを吸着するためのNOx吸着材を備えるものである。前記酸化触媒の作用により前記燃料を速やかに燃焼させることによって、排ガスの温度を上昇させることができる。この高温の排ガスをNOxが吸着した前記NOx吸着材に接触させることによって、前記NOx吸着材からNOxが放出され、NOxを高濃度で含有する排ガスを得ることが可能となる。排ガス浄化触媒6aおよび6bにおいては、より高温の排ガスを前記NOx吸着材に接触させることができるという観点から、上流側に前記酸化触媒が、下流側に前記NOx吸着材が配置されていることが好ましい。
【0026】
前記酸化触媒としては、前記燃料を燃焼させるためのものであれば特に制限はなく、公知の燃料酸化用触媒を用いることができるが、より効率的に燃料を燃焼させるという観点から、Pt族の金属触媒が好ましく、Pt触媒がより好ましい。このような触媒は、通常、コーディエライト製ハニカムといった公知の触媒担体に担持して使用される。Pt触媒の担持量としては特に制限はないが、多くなりすぎるとPt粒子が粗大化して触媒活性が低下するため、触媒担体の容量1L当たり5g以下が好ましい。また、前記NOx吸着材としては、NOxを吸着できるものであれば特に制限はなく、公知のNOx吸着材を用いることができるが、低温ではNOx吸着性能が高く且つ高温ではNOx放出性能が高いものが好ましい。このようなNOx吸着材としては塩基性で且つ塩基量が多い材料が好ましく、例えば、セリア、ジルコニアなどの金属酸化物がより好ましく、これらの金属酸化物にアルカリ金属、アルカリ土類金属などのNOx吸収剤を担持したものが特に好ましく、アルカリ金属、アルカリ土類金属などのNOx吸収剤がNOを効果的に吸着することから、金属酸化物にはさらにPt族の金属が担持されていることが特に好ましい。また、ゼオライト、アルミナも高比表面積を有するものであれば、本発明にかかるNOx吸着材として使用することができ、これらにAgを担持したものが好ましい。
【0027】
本発明にかかるNOx放出量検出手段7aおよび7bは、前記NOx吸着材から放出されるNOx量を検出するためのものであり、例えば、温度センサーが挙げられる。前記NOx吸着材からのNOx放出量は、前記NOx吸着材に接触させる排ガスの温度に依存するため、予め、排ガスの温度とNOx放出量との関係を求めておき、前記温度センサーを用いて排ガスの温度を測定することによって、前記NOx吸着材からのNOx放出量を検出することができる。また、前記排ガスの温度は、燃料の添加量に依存するため、予め、排ガスの温度と燃料の添加量との関係を求めておき、前記温度センサーを用いて排ガスの温度を測定することによって、前記関係に基づいて燃料の添加量を制御することができる。なお、この温度センサーは、排ガス浄化触媒6aおよび6bの異常温度上昇防止装置として機能させることもできる。
【0028】
本発明にかかる開閉バルブ8aおよび8bとしては、排ガスを流通させたり、遮断したりできるものであれば特に制限はなく、例えば、公知の流量調整バルブやストップバルブなどを用いることができる。
【0029】
本発明にかかる排ガス還流用配管10は、前記NOx吸着材から放出されたNOxを高濃度で含有する排ガスを希薄燃焼エンジン1に還流させるためのものであり、切替バルブ9を備えている。この切替バルブ9を切り替えることによって、所定の排ガス通路からNOxを高濃度で含有する排ガスを希薄燃焼エンジン1に還流させることができる。このような切替バルブ9としては、排ガスの還流通路を切り替えることができるものであれば特に制限はなく、三方バルブなどの公知の多方バルブを用いることができる。
【0030】
本発明にかかる制御手段11は、NOx流入量検出手段3および4により検出された前記排ガス通路へのNOx流入量、NOx放出量検出手段7aおよび7bにより検出された前記NOx吸着材からのNOx放出量に基づいて、図2に示すフローチャートに従って、燃料添加手段5aおよび5b、開閉バルブ8aおよび8b、ならびに切替バルブ9を制御するためのものである。また、図3は、このようにして制御した場合の開閉バルブ8aおよび8b、燃料添加手段5aおよび5b、ならびに切替バルブ9のタイミングチャートの一例である。
【0031】
具体的には、先ず、開閉バルブ8aを開き、開閉バルブ8bを閉じ、切替バルブ9の通路B側を開放した状態で、所定の運転条件で希薄燃焼エンジン1を運転して、希薄燃焼エンジン1からの排ガスを排ガス通路Aに流入させる。これにより、排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材にNOxが吸着して排ガスが浄化され、系外へ排出することが可能となる。
【0032】
また、このとき、排ガス通路AへのNOx流入量を検出し、これを積算することによって前記NOx吸着材に吸着したNOx量を決定する。このNOx吸着量が予め設定した閾値を超えた場合には、開閉バルブ8aを閉じ、開閉バルブ8bを開き、切替バルブ9の排ガス通路A側を開放し、燃料添加手段5aから所定量の燃料を添加する。これにより、排ガス浄化触媒6a中の酸化触媒の作用により燃料が速やかに燃焼されて排ガス通路A内の排ガス温度が上昇する。このようにして高温となった排ガスを排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材に接触させることによって、前記NOx吸着材に吸着したNOxが放出され、NOxを高濃度で含有する排ガスを得ることができる。なお、燃料の添加はNOxの放出が完了した時点で停止させる。また、燃料の添加量は、所望の排ガス温度に応じて適宜決定されるが、燃料を添加した後の排ガスの空燃比がリーン状態となるように添加量を調整することが好ましい。さらに、NOxを高濃度で含有する前記排ガス中に酸素が残存する程度に燃料を添加する必要がある。酸素が残存しないほどの大量の燃料を添加すると、排ガス浄化触媒6aおよび6bの内部に燃料が吸着し、希薄燃焼エンジン1からの排ガスを流入させた場合に、この排ガスに含まれる大量の酸素と反応して排ガス浄化触媒6aおよび6bが異常高温となる場合がある。
【0033】
また、前記NOx吸着量の閾値としては特に制限はないが、前記NOx吸着材に吸着されずにNOxが系外に排出されることを防ぐために、前記NOx吸着材の最大NOx吸着量の90%以下の値が好ましく、80%以下の値がより好ましい。
【0034】
このようにして得られたNOxを高濃度で含有する排ガスを排ガス還流用配管10を通して空気供給配管2に還流させ、空気と混合して希薄燃焼エンジン1に供給する。運転中のエンジンの燃焼室内のNOx濃度が高くなると、上述したように、NOxの分解反応が進行するため、希薄燃焼エンジン1から排出される排ガス中のNOx濃度が低減される。排ガスの還流比率としては特に制限はないが、希薄燃焼エンジン1から排出された排ガスの1/100〜1/2を還流させることが好ましい。これにより、NOxを高濃度で含有する排ガスを還流させることが可能となる。
【0035】
一方、排ガス通路Aにおいて前記NOx吸着材からNOxを放出させている間、排ガス通路Bには、希薄燃焼エンジン1からの排ガスが流入する。その結果、排ガス浄化触媒6b中のNOx吸着材にNOxが吸着して排ガスが浄化され、系外へ排出することが可能となる。そして、この状態を継続すると、前記NOx吸着材へのNOx吸着量が増大する。このNOx吸着量が予め設定した閾値を超えた場合には、上記の排ガス通路Aの場合と同様に、開閉バルブ8bを閉じ、開閉バルブ8aを開き、切替バルブ9の排ガス通路B側を開放し、燃料添加手段5bから所定量の燃料を添加して、前記NOx吸着材からNOxを放出させ、NOxを高濃度で含有する排ガスを希薄燃焼エンジン1に還流させる。これにより、希薄燃焼エンジン1から排出される排ガス中のNOx濃度が低減される。
【0036】
また、排ガス通路Bにおいて前記NOx吸着材からNOxを放出させている間、排ガス通路Aには、希薄燃焼エンジン1からの排ガスが流入し、排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材にNOxが吸着して排ガスが浄化され、系外へ排出することが可能となる。
【0037】
このように、本発明においては、複数の通路に分岐している排ガス通路において、上記のような制御を交互に行うことによって、希薄燃焼エンジン1から排出される排ガス中のNOx濃度を継続的に低減することができ、また、浄化された排ガスを継続的に系外に排出することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の排ガス浄化装置の好適な実施形態について説明したが、本発明の排ガス浄化装置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す排ガス浄化装置においては、排ガス通路は2経路であるが、本発明の排ガス浄化装置はこれに限定されず、3経路以上に分岐している排ガス通路を有するものであってもよい。この場合、各排ガス通路に、燃料添加手段、排ガス浄化触媒、NOx放出量検出手段および開閉バルブが配置され、各排ガス通路と切替バルブとの間に排ガス還流用配管が接続されている。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例)
図1に示す排ガス浄化装置を用いた。希薄燃焼エンジン1としては、ディーゼルエンジン(排気量2L、直列4気筒、過給器付、コモンレール仕様)を使用した。排ガス通路としては、通路Aと通路Bの2経路に分岐しているものを使用した。
【0041】
排ガス浄化触媒6aおよび6bとしては、4角セルのコーディエライト製ハニカム800ccにTiO系酸化物120gをコーティングし、次いで、Pt溶液(田中貴金属工業(株)製)を用いて4gのPtを担持した酸化触媒を上流側に、6角セルのコーディエライト製ハニカム2000ccにアルミナ300gをコーティングし、次いで、Pt溶液(田中貴金属工業(株)製)を用いて4gのPtを担持した後、0.4モルの酢酸バリウムを担持したNOx吸着材を下流側に配置したものを使用した。
【0042】
NOx流入量検出手段3としては、流入空気量センサーを使用し、NOx流入量検出手段4としては、NOx濃度センサーを使用した。前記流入空気量センサーにより検出された流入空気量、前記NOx濃度センサーにより検出されたNOx濃度、過給圧、ディーゼルエンジンの回転数、スロットル開度から、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中のNOx量(すなわち、排ガス通路へのNOx流入量)を算出し、このNOx流入量の積算値を前記NOx吸着材へのNOx吸着量とした。
【0043】
燃料添加手段5aおよび5bとしては、空気混合型の二流体噴霧ノズル(エバーロイ商事(株)より入手)を使用した。この二流体噴霧ノズルは、燃料タンクと過給器に接続されており、過給器より供給される加圧空気に燃料を添加することによって微細化された燃料を排ガスに添加することができ、加圧空気の供給を停止することによって排ガスへの燃料の添加を停止することができるものである。また、燃料としては軽油を使用した。
【0044】
NOx放出量検出手段7aおよび7bとしては、温度センサーを使用した。この温度センサーにより、排ガス浄化触媒6aおよび6bを通過した排ガスの温度を測定し、排ガス温度が300℃以上となった場合に前記NOx吸着材からNOxが放出されていると判断し、さらに、排ガス温度が300℃以上である状態が50秒間持続した場合には前記NOx吸着材からのNOxの放出が完了したものと判断した。また、この温度センサーにより測定された排ガスの温度が700℃以上となった場合には、燃料の添加を停止した。
【0045】
そして、図2に示すフローチャートおよび図3に示すタイミングチャートに従って、希薄燃焼エンジン1からの排ガスの浄化を行なった。すなわち、回転数が1000rpm、トルクが0〜120Nm、過給圧30kPaの条件でディーゼルエンジンを運転した。このディーゼルエンジンの排ガスは、NOxとしてNOを含有するものであった。開閉バルブ8aを開き、開閉バルブ8bを閉じ、切替バルブ9の通路B側を開放して、ディーゼルエンジンからの排ガスを排ガス通路Aに流入させ、排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材にNOxを吸着させて排ガスを浄化し、系外へ排出した。
【0046】
次に、上述した方法により、排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材へのNOx吸着量を算出し、これが閾値(最大吸着量の50%)を超えた時点で、開閉バルブ8aを閉じ、開閉バルブ8bを開き、切替バルブ9の排ガス通路A側を開放し、燃料添加手段5aから所定量の燃料を添加した。燃料の添加量は、予め求めた燃料の添加量と排ガス温度との関係並びに排ガス温度とNOx吸着材からのNOx放出量との関係に基づいて、NOx放出量が所定の値となるように決定した。これにより、排ガス浄化触媒6a中の酸化触媒の作用により燃料を燃焼させて排ガス通路A内の排ガス温度を上昇させ、NOx吸着材に吸着したNOxが放出させた。そして、放出されたNOxを含む排ガスを、排ガス還流用配管を通して空気供給配管2に還流させ、空気と混合してディーゼルエンジンに供給した。一方、排ガス通路Bにおいては、流入した排ガス中のNOxを排ガス浄化触媒6b中のNOx吸着材に吸着させて排ガスを浄化し、系外へ排出した。
【0047】
次に、前記排ガス通路Aの場合と同様に、排ガス浄化触媒6b中のNOx吸着材へのNOx吸着量を算出し、これが閾値(最大吸着量の50%)を超えた時点で、開閉バルブ8bを閉じ、開閉バルブ8aを開き、切替バルブ9の排ガス通路B側を開放し、燃料添加手段5bから所定量の燃料を添加した。これにより、前記排ガス通路Aの場合と同様に、排ガス浄化触媒6b中のNOx吸着材からNOxを放出させ、これを含む排ガスを排ガス還流用配管を通して空気供給配管2に還流させ、空気と混合してディーゼルエンジンに供給した。一方、排ガス通路Aにおいては、流入した排ガス中のNOxを排ガス浄化触媒6a中のNOx吸着材に吸着させて排ガスを浄化し、系外へ排出した。
【0048】
以上の操作を繰り返して定常運転を行い、この状態におけるディーゼルエンジンの燃焼室内のNOx量を求め、NOxの還流を行わなかった場合のディーゼルエンジンの燃焼室内のNOx量に対する割合(NOx低減率)を算出した。
【0049】
図4には、ディーゼルエンジンのトルクとNOx低減率との関係を示す。この結果から明らかなように、ディーゼルエンジンから排出された排ガス中のNOxをディーゼルエンジンに還流させることによって、ディーゼルエンジンの燃焼室内でNOxは分解され、排出されるNOx量が低減されることが確認された。また、NOx低減率、すなわち、NOxの分解率は、ディーゼルエンジンの運転条件に依存し、特に、エンジン負荷が大きくなるとNOxの分解率が高くなることがわかった。
【0050】
図5には、ディーゼルエンジンの燃焼室へのNOx供給量(NOx吸着材からのNOx放出量)とNOx低減率との関係を示す。この結果から明らかなように、排ガス中への燃料の添加量が変化してNOx吸着材からのNOx放出量が変化しても、NOx低減率、すなわち、NOxの分解率は、一定となることがわかった。
【0051】
また、回転数が1000rpm、トルクが120Nm、過給圧30kPa、NOx放出量0.35mmol/sの条件で定常運転を行なった場合に系外に排出される排ガス中のNOx量を求め、排ガスの浄化率を求めたところ、80%以上であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、希薄燃焼エンジンからの排ガス中に含まれるNOx量を、高価な触媒などを使用することなく、効果的に低減することが可能となる。また、エンジンの燃焼室内に還流される排ガスには、未燃軽油や一酸化炭素が殆ど含まれないため、大気汚染物質の放出も抑制することができる。
【0053】
したがって、本発明の排ガス浄化装置は、低コストで効率よく、環境負荷が少ない排ガス浄化装置として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1:希薄燃焼エンジン、2:空気供給配管、3、4:NOx流入量検出手段、5a、5b:燃料添加手段、6a、6b:排ガス浄化触媒、7a、7b:NOx放出量検出手段、8a、8b:開閉バルブ、9:切替バルブ、10:排ガス還流用配管、11:制御手段、12:過給器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希薄燃焼エンジンに接続され、複数の通路に分岐している排ガス通路と、
前記希薄燃焼エンジンに空気を供給するための空気供給配管内および前記希薄燃焼エンジンと前記排ガス通路とを接続する配管内に配置され、前記排ガス通路に流入する排ガス中のNOx量を検出するためのNOx流入量検出手段と、
前記排ガス通路の各通路内に配置され、前記排ガス中に燃料を添加するための燃料添加手段と、
前記各排ガス通路内の前記燃料添加手段より下流部分に配置され、前記燃料を燃焼させるための酸化触媒および前記排ガス中のNOxを吸着させるためのNOx吸着材を備える排ガス浄化触媒と、
前記各排ガス通路内の前記排ガス浄化触媒より下流部分に配置され、前記NOx吸着材から放出されるNOx量を検出するためのNOx放出量検出手段と、
前記各排ガス通路内の前記NOx放出量検出手段より下流部分に配置された開閉バルブと、
前記NOx放出量検出手段と前記開閉バルブとの間の各排ガス通路と前記空気供給配管とを接続している、切替バルブを備える排ガス還流用配管と、
前記NOx流入量検出手段、前記NOx放出量検出手段、前記燃料添加手段、前記開閉バルブおよび前記切替バルブとそれぞれ電気的に接続され、前記複数に分岐している排ガス通路のうち、前記NOx流入量から算出される前記NOx吸着材へのNOx吸着量が閾値を超えた排ガス通路においては、前記燃料添加手段を制御して所定量の前記燃料を排ガス中に添加し、前記酸化触媒の作用により前記燃料を燃焼させることによって前記NOx吸着材から所定量のNOxを放出させつつ、前記放出されたNOxを含有する排ガスが前記排ガス還流用配管を通して前記希薄燃焼エンジンに還流されるように前記開閉バルブおよび前記切替バルブを制御し、残りの排ガス通路においては、排ガスから前記NOx吸着材にNOxを吸着させて除去した後、前記排ガスが系外に排出されるように前記開閉バルブを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記排ガス浄化触媒が、前記酸化触媒を上流側に、前記NOx吸着材を下流側に備えるものであることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
希薄燃焼エンジンに接続され、複数の通路に分岐している排ガス通路と、前記排ガス通路の各通路内に配置された燃料添加手段と、前記各排ガス通路内の前記燃料添加手段より下流部分に配置された、前記燃料を燃焼させるための酸化触媒および前記排ガス中のNOxを吸着させるためのNOx吸着材を備える排ガス浄化触媒とを備える排ガス浄化装置を用いる排ガス浄化方法であって、
NOx流入量を検出しながら、希薄燃焼エンジンから排出される排ガスを前記排ガス通路に流入させて、前記NOx吸着材に前記排ガス中のNOxを吸着させ、
前記複数の通路に分岐している排ガス通路のうち、前記NOx流入量から算出される前記NOx吸着材へのNOx吸着量が閾値を超えた排ガス通路においては、前記燃料添加手段から所定量の前記燃料を排ガス中に添加し、前記酸化触媒の作用により前記燃料を燃焼させることによって前記NOx吸着材から所定量のNOxを放出させつつ、前記放出されたNOxを含有する排ガスを前記希薄燃焼エンジンに還流させ、
残りの排ガス通路においては、前記NOx吸着材にNOxを吸着させて排ガスから除去した後の排ガスを系外に排出することを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項4】
前記燃料を添加した後の排ガスの空燃比がリーン状態であることを特徴とする請求項3に記載の排ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215080(P2012−215080A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79575(P2011−79575)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】