説明

接地壁絶縁体用の複合コーティング、その製造方法、及びそれから導かれる物品

【課題】一段階法で施工でき、多層材料から製造した絶縁体に比べて減少した厚さを有しながら、高い電圧に耐え得る絶縁層を備える電気物品を提供する。
【解決手段】電気絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有する金属酸化物ナノ粒子及びダイヤモンドナノ粒子からなる。熱硬化性ポリマーの好適な例は、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル樹脂等であるが、典型的な熱硬化性ポリマーはポリシロキサンポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、発電機などの電磁気装置における接地壁絶縁体用の複合コーティング、その製造方法、及びそれから導かれる物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気装置で使用される電気部品用の接地壁絶縁体は、一般に多層材料で製造されてきた。複数の層は、コロナ放電に対する高い抵抗性を容易にする。絶縁層はまた、電動機及び発電機のような電気装置の高電圧環境に耐え得るように高い破壊電圧値を有することが望ましい。複数の層は、一般に、ガラスから製造した繊維質裏材及び雲母から製造した追加層で構成されている。複数の層の使用は多大の時間及び費用を必要とする。加えて、複数の層の使用は一般に厚い絶縁体層を生じ、その結果として部品を大きくする。
【0003】
したがって、一段階法で施工でき、多層材料から製造した絶縁体に比べて減少した厚さを有しながら高い電圧に耐え得る絶縁層を使用することが一般に望ましい。
【特許文献1】米国特許第5650031号明細書
【特許文献2】米国特許第6632109号明細書
【特許文献3】米国特許第6778053号明細書
【特許文献4】米国特許第6864306号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0017351号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0265551号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0080175号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0161149号明細書
【特許文献9】国際公開第01/89827号パンフレット
【特許文献10】特開昭58−141222号公報
【非特許文献1】Colin Kydd Campbell.“Experimental and Theoretical Characterization of an Antiferroelectric Ceramic Capacitor for Power Electronics”.IEEE Transactions on Components and Packaging Technologies,Vol.25,No.2,pages 211−216,June 2002
【非特許文献2】Jianwen Xu and C.P.Wonga).“Low−loss percolative dielectric composite”Applied Physics Letters 87,082907,pages 082907−1,2,3,2005
【非特許文献3】Y.Bai,Z.−Y.Cheng,V.Gharti,H.S.Xu,and Q.M.Zhanga).“High−dielectric−constant ceramic−power polymer composites”Applied Physics Letters,Vol.76,No.25,pages 3804−3806,published April 28,2000
【非特許文献4】E.Aulagner,J.Guillet,G.Seytre,C.Hantoche,P.Le Gonidec,G.Terzulli.“(PVDF/BatiO3) AND (PP/BaTiO3) FILMS FOR ENERGY STORAGE CAPACITORS”1995 IEEE 5th International Conference on Conduction and Breakdown in Solid Dielectrics.Pages 423−427.1995
【非特許文献5】D.Dimos.“PEROVSKITE THIN FILMS FOR HIGH−FREQUENCY CAPACITOR APPLICATIONS1”.Annual Review of Materials Science.Vol.28:397−419(Volume publication date August 1998)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書中には、電気部品と、電気部品上に設けられた電気絶縁層とを含んでなる物品であって、電気絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる物品が開示される。
【0005】
本明細書中にはまた、電気部品上に電気絶縁層を設ける段階であって、電気絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる段階と、熱硬化性ポリマーを硬化させる段階とを含んでなる物品の製造方法も開示される。
【0006】
本明細書中にはまた、熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含んでなる組成物であって、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる組成物も開示される。
【0007】
本明細書中にはまた、ダイの中心内腔に固定子バーを送り込む段階であって、中心内腔が固定子バー上でのダイの相対運動を許すのに十分な形状を有している段階と、絶縁層が固定子バーの両面上に同時に設けられるように絶縁層をダイ中に押し出す段階であって、絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる段階と、固定子バーの全長に沿ってダイを移動させる段階とを含んでなる方法も開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書中で使用する「第一」、「第二」などの用語は、いかなる順序、数量又は重要度も表すわけではなく、むしろある構成要素を別の構成要素から区別するために使用されることに注意すべきである。単数形で記載したものは、数量の制限を意味するわけではなく、むしろ記載されたものの1以上が存在することを意味する。数量に関して使用される「約」という修飾語は、記載された値を含むと共に、(例えば、特定の数量の測定に関連する誤差の程度を含め)前後関係から指示される意味を有する。本明細書中に開示されるすべての範囲は、両端を含むと共に独立して結合可能であることに注意すべきである。
【0009】
本明細書中には、電動機、発電機などの電気装置の電気部品を保護し絶縁するために使用できる絶縁層が開示される。本明細書中にはまた、電気装置で使用できる電気部品上に絶縁層を施工する方法も開示される。かかる電気部品の好適な例には、導電巻線、固定子バー、ステータピースの内面、などがある。絶縁層は、一般に熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含んでいる。一実施形態では、ナノサイズ充填材は金属酸化物とダイヤモンドとの組合せからなる。別の実施形態では、ナノサイズ充填材はダイヤモンドからなる。ナノサイズ充填材はまた、任意にはナノサイズ無機充填材及び/又はナノクレーを含んでいてもよい。
【0010】
この絶縁層は、一般に他の市販の絶縁層の厚さ以下である約30〜約300マイクロメートルの厚さで電気部品上に施工できる点で有利である。絶縁層は、有利には約250〜約1000メガパスカル(MPa)の圧縮力に耐えるのに有効な圧縮強さ及び硬さを有する。絶縁層を施工すれば、電気装置で一般に使用されている巻きテープ、雲母−ポリマー接地壁絶縁体、又はスロットライナー材料を排除する機会も得られる。絶縁層は、漬け塗り、吹付け塗装、押出し、共押出しなどの一段階法で容易に施工できる。それはまた、絶縁体層をさらに薄くする可能性を与えると共に、高電圧に耐える能力を有することでさらに丈夫な絶縁材料を与える。それはまた、ナノサイズ充填材を含まない他の比較絶縁材料に比べて顕著な耐コロナ性を示すと共に、向上した熱伝導性を示す。
【0011】
有利な一実施形態では、絶縁層は室温で約10ギガパスカル(GPa)以下の弾性率を有するエラストマーからなる。このエラストマーは、一般に熱硬化性ポリシロキサン樹脂及びナノサイズ充填材を含んでいる。エラストマー絶縁層は、有利には室温での引張試験で約200%以上の伸びを示すと同時に、発電機で普通に見られる温度で圧縮力又は引張力を受けた場合に実質的なクリープを示さない。
【0012】
熱硬化性ポリマーは、一般に、ホモポリマー、星形ブロックコポリマーやグラフトコポリマーや交互ブロックコポリマーやランダムコポリマーのようなコポリマー、イオノマー、デンドリマー、又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せであり、共有結合で架橋されていてもよいポリマーからなる。熱硬化性ポリマーの好適な例は、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリトイミド、ポリキノキサリン、ポリベンゾイミタゾール、ポリオキシンドール、ポリオキソイソインドリン、ポリジオキソイソインドリン、ポリトリアジン、ポリピリダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリカルボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリフタリド、ポリアセタール、ポリアンヒドリド、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ポリハロゲン化ビニル、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリチオエステル、ポリスルホンアミド、ポリウレア、ポリホスファゼン、ポリシラザン、ポリブタジエン、ポリイソプレンなど、又はこれらの熱硬化性ポリマーの1種以上を含む組合せである。熱硬化性ポリマーのブレンドも使用できる。典型的な熱硬化性ポリマーはシリコーンポリマーである。本明細書中で使用するポリマーという用語は、小分子(例えば、モノマー、ダイマー、トライマーなど)、ホモポリマー又はコポリマーを意味するために使用される。
【0013】
上述のように、熱硬化性ポリマーはエラストマーであってもよい。熱硬化性ポリマーの例は、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリシロキサン、ポリウレタンなど、又はこれらのエラストマーの1種以上を含む組合せである。典型的な熱硬化性ポリマーはポリシロキサンポリマー(以後はシリコーンポリマー)である。
【0014】
絶縁層の製造で使用できるシリコーンポリマーは、一般に、反応させて熱硬化樹脂を形成する前には下記の式(I)を有する。
【0015】
【化1】

式中、R、R、R、R、R及びRは同一の又は相異なるものであり、R、R、R、R、R及びRの1以上は架橋に先立って反応性官能基であり、m及びnは0を含む任意の整数であるが、m及びnの両方が同時に0である場合を除く。一般的には、R、R、R、R、R及びRの1以上が反応性を有することが好ましいが、R、R、R、R、R及びRの2つ又は好ましくは3つが化学的反応性を有することが一般に望ましい。m及びnの和は約1〜約50000であることが一般に望ましい。式(I)中にR、R、R、R、R又はRとして存在し得る基の好適な例は、アルキル、アリール、アラルキル、フルオロアルキル、ビニルアルキル、アミノアルキル、ビニル、エポキシ、ヒドリド、シラノール、アミン、カルビノール(ヒドロアルキル)、メタクリレート、アクリレート、メルカプト、ハロアルキル、ハロゲン、カルボキシレート、アセトキシ、アルコキシなどである。典型的な反応性官能基はビニル又はエポキシである。典型的な非反応性官能基はアルキル、フルオロアルキル又はフェニルである。典型的なシリコーンポリマーは、メチル、フェニル及びヒドロキシル官能基を有する縮合硬化シリコーンである。市販のシリコーンポリマーの1種は、General Electric Silicones社(ウォーターフォード、米国ニューヨーク州)から市販のMC550BKH(登録商標)である。MC550BKH(登録商標)は、78wt%の補強材を含んでいる。この補強材はナノサイズでなく、80:20の重量比の溶融シリカ及びガラス繊維からなっている。本発明の対象であるナノサイズ充填材は、次いでこの材料に添加される。
【0016】
熱硬化性ポリマーは、反応させて熱硬化ポリマーを形成する前には約75〜約500000グラム/モル(g/モル)の数平均分子量を有することが一般に望ましい。一実施形態では、熱硬化性ポリマーは、反応させて熱硬化ポリマーを形成する前には約150〜約100000g/モルの数平均分子量を有することが一般に望ましい。別の実施形態では、熱硬化性ポリマーは、反応させて熱硬化ポリマーを形成する前には約300〜約75000g/モルの数平均分子量を有することが一般に望ましい。さらに別の実施形態では、熱硬化性ポリマーは、反応させて熱硬化ポリマーを形成する前には約450〜約50000g/モルの数平均分子量を有することが一般に望ましい。熱硬化性ポリマーの典型的な数平均分子量は、反応させて熱硬化ポリマーを形成する前には約75〜約5000g/モルである。
【0017】
熱硬化性ポリマーは、絶縁層の総重量を基準にして約50〜98wt%の量で使用することが一般に望ましい。一実施形態では、熱硬化性ポリマーは、絶縁層の総重量を基準にして約55〜約90wt%の量で使用することが望ましい。別の実施形態では、熱硬化性ポリマーは、絶縁層の総重量を基準にして約60〜約85wt%の量で使用することが望ましい。さらに別の実施形態では、熱硬化性ポリマーは、絶縁層の総重量を基準にして約65〜約80wt%の量で使用することが望ましい。
【0018】
熱硬化性ポリマーは、架橋密度を高めるため、シランのような反応性前駆体と任意に混合できる。好適なシランは、クロロシラン、ビニルシラン、ビニルアルコキシシラン、アルキルアセトキシシランなどである。クロロシランの好適な例は、メチルトリクロロシラン及びジメチルジクロロシランである。ジメチルジクロロシランは、約1〜約35モル%のヒドロキシル基を有することが一般に望ましい。一実施形態では、ジメチルジクロロシランは約2〜約15モル%のヒドロキシル基を有することが望ましい。一実施形態では、ジメチルジクロロシランは約4〜約8モル%のヒドロキシル基を有することが望ましい。
【0019】
反応性前駆体は、熱硬化性ポリマーの総重量を基準にして約0.1〜50wt%の量で使用することが一般に望ましい。一実施形態では、反応性前駆体は、熱硬化性ポリマーの総重量を基準にして約0.5〜約40wt%の量で使用することが望ましい。別の実施形態では、反応性前駆体は、熱硬化性ポリマーの総重量を基準にして約1〜約30wt%の量で使用することが望ましい。さらに別の実施形態では、反応性前駆体は、熱硬化性ポリマーの総重量を基準にして約1.2〜約25wt%の量で使用することが望ましい。
【0020】
絶縁層は、ナノサイズでない補強材を任意に含んでいてもよい。この補強材は、約500ナノメートル(nm)以上の粒子寸法を有する充填材である。好適な補強材は、溶融シリカや結晶性シリカや天然ケイ砂や各種のシラン被覆シリカのようなシリカ粉末、タルク(繊維状タルク、モジュラータルク、針状タルク及び層状タルクを含む)、ガラス球(中空及び中実)及び表面処理ガラス球、カオリン(硬質カオリン、軟質カオリン及びか焼カオリンを含む)、雲母(金属化雲母及び配合ブレンドに良好な物理的性質を付与するためにアミノシラン、アクリロイルシラン、ヘキサメチレンジシラザン又は熱硬化性ポリマーに類似した化学組成のコーティングで表面処理した雲母を含む)、長石及びカスミ石閃長岩、ケイ酸塩球、セノスフィア、フィライト、アルミノケイ酸塩(アルモスフィア)(シラン化及び金属化アルミノケイ酸塩を含む)、石英、ケイ石、パーライト、トリポリ、けいそう土、炭化ケイ素、硫化モリブデン、硫化亜鉛、ケイ酸アルミニウム(ムライト)、合成ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、亜鉄酸バリウム、硫酸バリウム及び重晶石、ガラスフレークやフレーク状炭化ケイ素や二ホウ化アルミニウムのようなフレーク状充填材及び補強材、ケイ酸アルミニウムや酸化アルミニウムや酸化マグネシウムや硫酸カルシウム半水塩の1種以上を含むブレンドから導かれるもののような加工無機繊維、合成補強繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維のようなポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ホウ素繊維、炭化ケイ素のようなセラミック繊維、アルミニウムやホウ素やケイ素の混合酸化物からの繊維を含む)、単結晶繊維又は「ホイスカー」(炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、炭化ホウ素繊維を含む)、ガラス繊維(Eガラス、Aガラス、Cガラス、ECRガラス、Rガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラスのような紡織ガラス繊維、ガラス繊維及び石英を含む)など、又はこれらの補強材の1種以上を含む組合せである。
【0021】
典型的な補強材は溶融シリカ及びガラス繊維である。溶融シリカとガラス繊維との重量比は、約1:5〜約10:1であることが一般に望ましい。一実施形態では、溶融シリカとガラス繊維との重量比は約1:3〜約8:1である。別の実施形態では、溶融シリカとガラス繊維との重量比は、約1:1〜約6:1である。溶融シリカとガラス繊維との典型的な重量比は、約4:1である。
【0022】
存在する場合、補強材は絶縁層の総重量を基準にして約20〜約90wt%の量で使用される。一実施形態では、補強材は絶縁層の総重量を基準にして約30〜約85wt%の量で使用されることが望ましい。別の実施形態では、補強材は絶縁層の総重量を基準にして約50〜約80wt%の量で使用されることが望ましい。補強材の典型的な量は、絶縁層の総重量を基準にして約78wt%である。
【0023】
上述の通り、絶縁層はナノサイズ充填材を含んでいる。ナノサイズ充填材は、粒子の1以上の代表長さの平均最大寸法が約200nm以下であるものである。代表長さは、直径、面の一辺、長さなどがある。ナノサイズ充填材は、整数で定義される次元を有する形状を有していてもよい。例えば、粒子は一次元、二次元又は三次元の形状を有する。これらはまた、整数で定義されない次元を有する形状を有していてもよい(例えば、これらはフラクタルの形態で存在し得る)。ナノサイズ充填材は、球、フレーク、繊維、ホイスカーなどの形態、又は上述の形態の1以上を含む組合せで存在し得る。これらの充填材の断面形状は、円形、楕円形、三角形、長方形、多角形、又はこれらの形状の1以上を含む組合せでよい。市販の充填材は、絶縁層中への配合前に又は絶縁層中への配合後にも、凝集体又は集合体の形態で存在し得る。凝集体は2以上の充填材粒子が互いに物理的に接触したものからなる一方、集合体は2以上の凝集体が互いに物理的に接触したものからなる。
【0024】
一実施形態では、ナノサイズ充填材は約200ナノメートル以下の平均粒度を有するダイヤモンドナノ粒子からなる。別の実施形態では、ダイヤモンドナノ粒子は約75ナノメートル以下の平均粒度を有する。さらに別の実施形態では、ダイヤモンドナノ粒子は約50ナノメートル以下の平均粒度を有する。さらに別の実施形態では、ダイヤモンドナノ粒子は約25ナノメートル以下の平均粒度を有する。典型的なナノサイズ充填材は、約50ナノメートルの平均粒度を有するダイヤモンドナノ粒子である。
【0025】
ダイヤモンドナノ粒子は、絶縁層の総重量を基準にして約1〜約50wt%の量で添加できる。別の実施形態では、ダイヤモンドナノ粒子は、絶縁層の総重量を基準にして約3〜約40wt%の量で添加できる。さらに別の実施形態では、ダイヤモンドナノ粒子は、絶縁層の総重量を基準にして約5〜約30wt%の量で添加できる。ダイヤモンドナノ粒子の典型的な量は、絶縁層の総重量を基準にして約15wt%の量である。
【0026】
上述の通り、ナノサイズ充填材は、ダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子(ナノサイズ金属酸化物)とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる。一実施形態では、ナノサイズ金属酸化物はセラミック(即ち、化学的又は機械化学的に合成した金属酸化物粉末)の形態を有していてもよい。絶縁層中で使用できるナノサイズ金属酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び他の商業的に使用される金属の金属酸化物である。金属酸化物の好適な例は、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化銅、酸化アルミニウム(例えば、アルミナ及び/又はヒュームドアルミナ)、二酸化ケイ素(例えば、シリカ及び/又はヒュームドシリカ)など、或いはこれらの金属酸化物の1種以上を含む組合せである。炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化鉄など、又はこれらの金属炭化物の1種以上を含む組合せのようなナノサイズ金属炭化物も、絶縁層に使用できる。典型的な金属酸化物は、ヒュームドアルミナ、アルミナ、ヒュームドシリカ、シリカ、及びこれらの金属酸化物の1種以上を含む組合せである。
【0027】
金属酸化物及び炭化物は、一般に約1〜約1000平方メートル/グラム(m/g)の範囲内の表面積を有する粒子である。この範囲内では、金属酸化物及び炭化物は約5m/g以上、具体的には約10m/g以上、さらに具体的には約15m/g以上の表面積を有することが一般に望ましい。やはりこの範囲内では、約950m/g以下、具体的には約900m/g以下、さらに具体的には約875m/g以下の表面積が望ましい。
【0028】
ナノサイズ金属酸化物及び炭化物粒子は、約0.2〜約2.5グラム/立方センチメートルの範囲内のかさ密度、約3〜約7グラム/立方センチメートルの真密度、及び約10〜約250オングストロームの平均細孔径を有することが一般に望ましい。
【0029】
市販のナノサイズ金属酸化物の例は、いずれもNanoScale Materials Incorporatedから市販のNANOACTIVE(商標)酸化カルシウム、NANOACTIVE(商標)酸化カルシウムプラス、NANOACTIVE(商標)酸化セリウム、NANOACTIVE(商標)酸化マグネシウム、NANOACTIVE(商標)酸化マグネシウムプラス、NANOACTIVE(商標)酸化チタン、NANOACTIVE(商標)酸化亜鉛、NANOACTIVE(商標)酸化ケイ素、NANOACTIVE(商標)酸化銅、NANOACTIVE(商標)酸化アルミニウム及びNANOACTIVE(商標)酸化アルミニウムプラスである。市販のナノサイズ金属炭化物の例は、いずれもPred Materials International Incorporatedから市販の炭窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ケイ素−窒化ケイ素及び炭化タングステンである。
【0030】
典型的な種類のナノサイズ充填材は、下記の式(II)で表されるフェライト系ナノサイズ粒子である。
(MeO)(Fe)100−x (II)
式中、「MeO」は任意の二価フェライト生成金属酸化物又は2種以上の二価金属酸化物を含む組合せであり、「x」は50モル%未満である。フェライト生成二価金属酸化物の好適な例は、酸化鉄(FeO)、酸化マンガン(MnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化コバルト(CoO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、セリア(Ce)などである。単一金属酸化物、多重金属酸化物及びドープト酸化物も、絶縁層中で使用するために想定されている。
【0031】
市販のフェライト生成金属酸化物の好適な例は、30〜80nmの平均最大寸法を有する酸化亜鉛である。上述の市販のフェライト生成金属酸化物のすべては、セントウェルシュプール(オーストリア)を本拠地とするAdvanced Powder Technology社から得ることができる。
【0032】
市販の金属酸化物の他の例は、約20nm以下の粒度を有するセリア、約20nm以下の粒度を有するガドリニウムドープトセリア、約20nm以下の粒度を有するサマリウムドープトセリアなど、又は上述の市販の金属酸化物の1種以上を含む組合せである。セリアを含む上述の市販のフェライト生成金属酸化物のすべては、アトランタ(米国、ジョージア州)を本拠地とするMicrocoating Technologies社から得ることができる。
【0033】
市販のフェライト系ナノサイズ充填材の好適な例は、NanoProducts,Inc.から製造販売されているNi0.5Zn0.5Feである。Ni0.5Zn0.5Feに関する微結晶サイズは12nmであり、比表面積は45平方メートル/グラム(m/g)であり、相当球直径は47nmである。
【0034】
フェライト系ナノサイズ充填材を使用する場合、これらは絶縁層の総重量を基準にして約2〜約15wt%の量で使用できる。一実施形態では、フェライト系ナノサイズ充填材は絶縁層の総重量を基準にして約3〜約12wt%の量で使用される。別の実施形態では、フェライト系ナノサイズ充填材は絶縁層の総重量を基準にして約4〜約12wt%の量で使用される。典型的な実施形態では、フェライト系ナノサイズ充填材は絶縁層の総重量を基準にして約5wt%の量で使用される。
【0035】
他のナノサイズ充填材の好適な例は、石綿、粉砕ガラス、カオリンや他の粘土鉱物、シリカ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム(白亜)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム(バライト)、雲母、タルク、アルミナ三水塩、石英及びウォラストナイト(ケイ酸カルシウム)のようなナノサイズ無機充填材である。雲母が典型的なナノサイズ無機充填材である。
【0036】
使用できる雲母の例は、アナンダイト、アンナイト、バイオタイト(黒雲母)、バイタイト、ボロムスコバイト、セラドナイト、チェルニカイト、クリントナイト(脆雲母)、エフェサイト、フェリアンナイト、グラウコナイト(海緑石)、ヘンドリックサイト、キノシタライト、レピドライト(リシア雲母)、マストミライト、ムスコバイト(白雲母)、ナンピンガイト、パラゴナイト(ソーダ雲母)、フロゴパイト(金雲母)、ポリリチオナイト、プライスウェルカイト、ロスコウライト(バナジン雲母)、シデロフィライト、ソジウムフロゴパイト、テニオライト(縞状雲母)、バーミキュライト(ヒル石)、ウォネサイト及びチンワルダイトである。
【0037】
典型的な形態の雲母は、フロゴパイト(KMgAlSi10(OH))又はムスコバイト(KAl[SiAl20](OH,F))である。フロゴパイト又はムスコバイト或いはその両方には、これらを約500〜約850℃の加熱する操作が施される。この加熱により、雲母結晶は部分的に脱水され、結晶中に天然に結合した水の一部を放出する。これが起こる場合、雲母は部分的に剥離して小さな粒子を生じる。次いで、雲母を粉砕することで小さなナノサイズ充填材粒子が得られる。好適な形態の市販の雲母は、VonRoll Isola社からの雲母ダストである。
【0038】
ナノクレー(ナノサイズ粘土)のようなナノサイズ充填材も、絶縁物に使用できる。ナノクレーは一般に板状物質であり、粘土鉱物は一般にスメクタイト、バーミキュライト及びハロイサイト粘土から選択される。スメクタイト粘土自体は、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ヘクトライトなど、及びこれらの粘土の1種以上を含む組合せから選択できる。典型的な粘土鉱物は、多層アルミノケイ酸塩であるモンモリロナイト粘土である。ナノクレー小板は、一般に、約3〜約3000オングストロームの厚さ及び平面方向で約0.01〜約100マイクロメートルのサイズを有している。ナノクレーのアスペクト比は、一般に約10〜約10000程度である。それぞれの粘土小板は、ギャラリー(即ち、小板同士を結合する様々なイオンを含む粘土小板の平行層間の空間)で隔離されている。かかる物質の1つは、Southern Clay Products社から市販のCLOISITE(登録商標)10Aであり、その小板は約0.001マイクロメートル(10オングストローム)の厚さ及び平面方向で約0.15〜約0.20マイクロメートルのサイズを有している。
【0039】
一実施形態では、ナノサイズ充填材、ナノサイズ無機充填材及び/又はナノクレーの組合せを絶縁層に使用できる。かかる組合せを使用する場合、それは絶縁層の総重量を基準にして約1〜約80wt%の量で絶縁層に添加できる。一実施形態では、ナノサイズ充填材、ナノサイズ無機充填材及び/又はナノクレーの組合せは、絶縁層の総重量を基準にして約2〜約75wt%の量で絶縁層に添加できる。別の実施形態では、ナノサイズ充填材、ナノサイズ無機充填材及び/又はナノクレーの組合せは、絶縁層の総重量を基準にして約3〜約70wt%の量で絶縁層に添加できる。典型的な絶縁層は、絶縁層の総重量を基準にして約5wt%の量で金属酸化物ナノサイズ充填材を含むものである。別の典型的な絶縁層は、絶縁層の総重量を基準にして約20wt%の量で雲母ダストを含むものである。
【0040】
一実施形態では、特定の化学組成のナノサイズ充填材を同じ化学組成のマイクロメートルサイズ充填材と共に絶縁層に添加することが望ましい場合がある。一般に、マイクロメートルサイズ充填材は約500nm以上の平均最大寸法を有する。例えば、約200nm以下の平均最大寸法のナノサイズ粒子を有する雲母ダストを、約50マイクロメートルの平均粒度を有するマイクロメートルサイズ充填材と共に絶縁層に添加することができる。
【0041】
一般に、同じ化学組成を有するマイクロメートルサイズ充填材と共にナノサイズ充填材を使用する場合、ナノサイズ充填材は、ナノサイズ及びマイクロメートルサイズ充填材の組合せの総重量を基準にして約50wt%以下、さらに具体的には約60wt%以下、さらに一段と具体的には70wt%以下を占めることが一般に望ましい。
【0042】
上述の通り、ナノサイズ充填材の形状は特に限定されず、例えば、球状、不規則形状、板状又はホイスカー状などであってもよい。ナノサイズ充填材は、一般に1以上の代表長さについて約200nm以下の平均最大寸法を有する。一実施形態では、ナノサイズ充填材は約150nm以下の平均最大寸法を有する。別の実施形態では、ナノサイズ充填材は約100nm以下の平均最大寸法を有する。さらに別の実施形態では、ナノサイズ充填材は約75nm以下の平均最大寸法を有する。さらに別の実施形態では、ナノサイズ充填材は約50nm以下の平均最大寸法を有する。
【0043】
上述の通り、ナノサイズ充填材は一般に約200nm以下の平均最大寸法を有する。一実施形態では、ナノサイズ充填材の90%超が約200nm以下の平均最大寸法を有する。別の実施形態では、ナノサイズ充填材の95%超が約200nm以下の平均最大寸法を有する。さらに別の実施形態では、ナノサイズ充填材の99%超が約200nm以下の平均最大寸法を有する。二モード又はさらに高次モードの粒度分布も使用できる。
【0044】
ナノサイズ充填材は、絶縁層の総重量を基準にして約1〜約80wt%の量で使用できる。一実施形態では、ナノサイズ充填材は絶縁層の総重量を基準にして約3〜約75wt%の量で使用できる。別の実施形態では、ナノサイズ充填材粒子は絶縁層の総重量を基準にして約5〜約70wt%の量で使用できる。さらに別の実施形態では、ナノサイズ充填材粒子は絶縁層の総重量を基準にして約6〜約60wt%の量で使用できる。典型的な実施形態では、ナノサイズ充填材粒子は絶縁層の総重量を基準にして約20wt%の量で使用できる。
【0045】
一実施形態では、ナノサイズ充填材は、熱硬化性ポリマーとの結合を容易にするためにシランカップリング剤で被覆できる。硬化性ポリマー樹脂コーティングに使用する充填材は、テトラメチルクロロシラン、ヘキサジメチレンジシラザン、γ−アミノプロポキシシランなど、又はこれらのシランカップリング剤の1種以上を含む組合せのようなシランカップリング剤で処理することが一般に望ましい。シランカップリング剤は、一般にナノサイズ充填材と熱硬化性ポリマーとの相容性を高めて絶縁層の機械的性質を向上させる。
【0046】
絶縁層中には溶媒を任意に使用できる。溶媒は粘度調整剤として使用でき、或いはナノサイズ充填材の分散及び/又は懸濁を容易にするために使用できる。液状非プロトン性極性溶媒(例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなど、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せ)が一般に望ましい。極性プロトン性溶媒(例えば、特に限定されないが、水、メタノール、アセトニトリル、ニトロメタン、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど、又はこれらの極性プロトン性溶媒の1種以上を含む組合せ)も使用できる。他の無極性溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、四塩化炭素、ヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど、又はこれらの溶媒の1種以上を含む組合せ)も使用できる。1種以上の非プロトン性極性溶媒及び1種以上の無極性溶媒を含む共溶媒も使用できる。典型的な溶媒はキシレン又はN−メチルピロリドンである。
【0047】
溶媒を使用する場合、それは絶縁層の総重量の約1〜約50wt%の量で使用できる。一実施形態では、溶媒を使用する場合、それは絶縁層の総重量の約3〜約30wt%の量で使用できる。さらに別の実施形態では、溶媒を使用する場合、それは絶縁層の総重量の約5〜約20wt%の量で使用できる。熱硬化性ポリマーの硬化前、硬化中及び/又は硬化後に溶媒を蒸発させることが一般に望ましい。
【0048】
絶縁層を製造する一方法では、混合を容易にするため、高レベルの剪断作用下で熱硬化性ポリマーをナノサイズ充填材とブレンドする。熱硬化性ポリマーとナノサイズ充填材との混合物に加えられる剪断作用のレベルは、熱硬化性ポリマー中への充填材の分散を容易にするのに有効なものである。剪断操作中に付与されるエネルギーは、約0.001〜約10キロワット時/キログラム(kWhr/kg)である。一実施形態では、剪断操作中に付与されるエネルギーは約0.01〜約8kWhr/kgである。別の実施形態では、剪断操作中に付与されるエネルギーは約0.1〜約6kWhr/kgである。さらに別の実施形態では、剪断操作中に付与されるエネルギーは約0.5〜約4kWhr/kgである。
【0049】
剪断作用は、メルトブレンディング操作中に加えることができ、或いは混合物への超音波エネルギーの適用のような他の手段で加えることもできる。メルトブレンディング装置の好適な例は、一軸押出機や二軸押出機などの押出機、バスニーダー、ロールミル、ペイントミル、ヘリコーン、ワーリングブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーなど、又はこれらのメルトブレンダーの1以上を含む組合せである。熱硬化性ポリマー中へのナノサイズ充填材の懸濁及び/又は分散を容易にするため、超音波ブレンディングも実施できる。ナノサイズ充填材の懸濁を容易にするためには、凝集体及び集合体の両方を破壊して小さな粒子にすることが望ましい。
【0050】
上述の通り、絶縁層は導電巻線又は固定子バーのような電気部品上或いはステータピースの内面上に設けられ、硬化が施される。一実施形態では、電気部品は銅からなる。巻線上への絶縁層の配設前又は配設中に、熱硬化性ポリマーとナノサイズ充填材との混合物に開始剤及び/又は架橋触媒を添加できる。絶縁層は、漬け塗り、吹付け塗り、静電塗装、はけ塗り、スピンコーティング、射出成形、共押出しなど、又はこれらの方法の1以上を含む組合せで巻線上に施工できる。
【0051】
一実施形態では、絶縁層は導電巻線又はステータのような電気部品上或いはステータピースの内面上に複数の段階で配設できる。例えば、第一の段階で一定厚さの絶縁層を電気部品上に設ける一方、第二の段階で別の厚さの第二の絶縁層を第一の層上に配設できる。一実施形態では、第一の絶縁層は第二の絶縁層と異なる組成を有していてもよい。次いで、一層有効な架橋を容易にするため、絶縁層に熱処理を施すか、或いはUV硬化及び/又はマイクロ波硬化のような電磁放射処理を施すことができる。
【0052】
例示的な一実施形態では、熱硬化性樹脂を含む絶縁層を固定子バーのような複雑な賦形品上に押し出すことができる。上述の通り、絶縁層は熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材は約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有する金属酸化物ナノ粒子及びダイヤモンドナノ粒子からなる。この方法は、長さ及び2以上の側面を有する複雑な賦形品をダイの中心内腔に送り込む段階を含んでいて、中心内腔は複雑な賦形品に沿ってのダイの移動又はダイを通しての複雑な賦形品の移動を許すのに十分な形状を有している。上述のナノ粒子を含む1種以上の熱硬化性材料をダイを通して押し出すことで、複雑な賦形品の両面上に熱硬化性材料を同時に設ける。一実施形態では、複雑な賦形品の全長に沿ってダイを移動させる。別の実施形態では、ダイを通して複雑な賦形品の全長を移動させる結果、それが絶縁層で被覆される。
【0053】
絶縁層を施工するための例示的な装置は、米国特許第5650031号(Bolonら)に記載されている。その開示内容全体は援用によって本明細書の内容の一部をなす。ただし、本発明の言葉が引用文献の言葉と矛盾することがあるが、そのような場合には本発明の言葉が引用文献の矛盾する言葉に優先する。この装置は中心内腔を有するダイを含んでいて、中心内腔は複数の側面及び長さを有する複雑な賦形品に沿ってのダイの移動及びダイを通しての複雑な賦形品の送りを許すのに十分な形状を有している。この装置はまた、複雑な賦形品の長さに沿って押出ダイを移動させる手段、及びたわみ継手手段でダイに連結された1以上の押出機も含んでいる。
【0054】
一実施形態では、絶縁層中の熱硬化性ポリマーを約100〜約250℃の温度で硬化させることができる。別の実施形態では、絶縁層を約120〜約220℃の温度で硬化させることができる。さらに別の実施形態では、絶縁層を約140〜約200℃の温度で硬化させることができる。典型的な実施形態では、絶縁層を約180℃の温度で硬化させることができる。
【0055】
絶縁層は約25〜約300マイクロメートル(μm)の厚さを有することが一般に望ましい。一実施形態では、絶縁層は約30〜約275μmの厚さを有することが望ましい。別の実施形態では、絶縁層は約40〜約250μmの厚さを有することが望ましい。さらに別の実施形態では、絶縁層は約50〜約225μmの厚さを有することが望ましい。
【0056】
絶縁層は、約25〜約300μmの厚さで約0.75キロボルト(kV)以上の破壊電圧を有する点で有利である。一実施形態では、絶縁層に関する破壊電圧は約2kV以上である。さらに別の実施形態では、絶縁層に関する破壊電圧は約3kV以上である。さらに別の実施形態では、絶縁層に関する破壊電圧は約4kV以上である。
【0057】
一実施形態では、絶縁層は約1キロボルト以上の絶縁破壊強さを有すると共に、100分を超える時間にわたる3キロヘルツの周波数で5000ボルトの印加電圧に対して耐コロナ性を有する。別の実施形態では、絶縁層は約1キロボルト以上の絶縁破壊強さを有すると共に、200分を超える時間にわたる3キロヘルツの周波数で5000ボルトの印加電圧に対して耐コロナ性を有する。
【0058】
絶縁層は、一般に他の市販の絶縁層の厚さ以下である約30〜約300マイクロメートルの厚さで電気部品上に施工できる点で有利である。絶縁層は、有利には約250〜約1000メガパスカル(MPa)の圧縮力に耐えるのに有効な圧縮強さ及び硬さを有する。絶縁層を施工すれば、電気装置で一般に使用されている巻きテープ、雲母−ポリマー接地壁絶縁体又はスロットライナー材料を排除する機会も得られる。
【0059】
上述の通り、有利な一実施形態では、絶縁層は室温でエラストマー挙動を示す熱硬化性ポリマーを含んでいてもよい。室温でエラストマー挙動を示す熱硬化性ポリマーを絶縁材に使用する場合、絶縁層は室温での引張試験で測定して約10GPa以下の弾性率を有することが望ましい。絶縁層は、約200%以上の破断点伸びを有する。一実施形態では、絶縁層は約300%以上の破断点伸びを有する。別の実施形態では、絶縁層は約500%以上の破断点伸びを有する。さらに別の実施形態では、絶縁層は約700%以上の破断点伸びを有する。
【0060】
絶縁層は、略室温(23℃)以上の温度で約2000時間までの時間にわたり引張応力又は圧縮応力を受けた場合に実質的にクリープを示さないことが望ましい。一実施形態では、絶縁層は室温で約2000時間までの時間にわたり約100キログラム/平方センチメートル以上の引張力又は圧縮力を受けた場合にその原長の10%未満のクリープを示す。別の実施形態では、絶縁層は室温で約2000時間までの時間にわたり約100キログラム/平方センチメートル以上の引張力又は圧縮力を受けた場合にその原長の15%未満のクリープを示す。
【0061】
別の実施形態では、絶縁層は155℃で1000時間にわたり10キロポンド/平方インチ(10kpsi)(約700キログラム重/平方センチメートル)の変形力を受けた場合にその原長の約10%以下のクリープを示す。さらに別の実施形態では、絶縁層は155℃で1000時間にわたり10キロポンド/平方インチ(10kpsi)(約700キログラム重/平方センチメートル)の変形力を受けた場合に約6%以下のクリープを示す。さらに別の実施形態では、絶縁層は155℃で1000時間にわたり10キロポンド/平方インチ(10kpsi)(約700キログラム重/平方センチメートル)の変形力を受けた場合に約3%以下のクリープを示す。
【0062】
エラストマーを含む絶縁層は、24時間超の時間にわたり運転された発電機で普通に見られる温度で普通に見られる引張応力又は圧縮応力を受けた場合に実質的にクリープを示さない。このように絶縁層が高温でクリープを回避できることにより、それは発電機で使用される固定子バー及び他の部品上で有用である。
【0063】
以上、例示的な実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び同等物による構成要素の置換をなし得ることが理解されよう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるため、本発明の本質的な範囲から逸脱せずに多くの修正を行うことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために想定される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気部品と、
電気部品上に設けられた電気絶縁層と
を含んでなる物品であって、電気絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる、物品。
【請求項2】
電気部品が銅からなる、請求項1記載の物品。
【請求項3】
絶縁層が室温での引張試験で測定して約200%以上の伸びを有する、請求項1記載の物品。
【請求項4】
熱硬化性ポリマーが下記の構造(I)を有する、請求項1記載の物品。
【化1】

(式中、R、R、R、R、R及びRは同一の又は相異なるものであり、R、R、R、R、R及びRの1以上は架橋に先立って反応性官能基であり、m及びnは0を含む任意の整数であるが、m及びnの両方が同時に0である場合を除く。)
【請求項5】
、R、R、R、R及び/又はRが反応性官能基であり、アルキル、アリール、アラルキル、フルオロアルキル、ビニルアルキル、アミノアルキル、ビニル、エポキシ、ヒドリド、シラノール、アミン、カルビノール、メタクリレート、アクリレート、メルカプト、ハロアルキル、ハロゲン、カルボキシレート、アセトキシ、アルコキシ、又はこれらの官能基の1種以上を含む組合せからなる、請求項4記載の物品。
【請求項6】
絶縁層が、室温で約24時間までの時間にわたり約100キログラム/平方センチメートル以上の引張力又は圧縮力を受けた場合にその原長の10%未満のクリープを示す、請求項1記載の物品。
【請求項7】
金属酸化物ナノ粒子が下記の式(II)を有する、請求項1記載の物品。
(MeO)(Fe)100−x (II)
(式中、MeOは任意の二価フェライト生成金属酸化物又は2種以上の二価金属酸化物を含む組合せであり、「x」は50モル%未満である。)
【請求項8】
Meが金属を表し、該金属が鉄、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マグネシウム、カルシウム、又はこれらの金属の1種以上を含む組合せである、請求項7記載の物品。
【請求項9】
金属酸化物ナノ粒子が式Ni0.5Zn0.5Feを有する、請求項1記載の物品。
【請求項10】
ダイヤモンドナノ粒子が約50ナノメートル以下の平均粒度を有する、請求項1記載の物品。
【請求項11】
電気絶縁層が、約25〜約300マイクロメートルの厚さ及び約0.75キロボルト以上の絶縁破壊強さを有する、請求項1記載の物品。
【請求項12】
絶縁層が、約1キロボルト以上の絶縁破壊強さを有すると共に、100分を超える時間にわたる3キロヘルツの周波数で5000ボルトの印加電圧に対して耐コロナ性を有する、請求項1記載の物品。
【請求項13】
絶縁層が、155℃で1000時間にわたり約700キログラム重/平方センチメートルの変形力を受けた場合にその原長の約10%以下のクリープを示す、請求項12記載の物品。
【請求項14】
物品の製造方法であって、
電気部品上に電気絶縁層を設ける段階であって、電気絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる段階と、
熱硬化性ポリマーを硬化させる段階と
を含んでなる方法。
【請求項15】
絶縁層が、漬け塗り、吹付け塗り、静電塗装、はけ塗り、スピンコーティング、又はこれらの方法の1以上を含む組合せで電気部品上に設けられる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ダイの中心内腔に固定子バーを送り込む段階であって、中心内腔が固定子バー上でのダイの相対運動を許すのに十分な形状を有している段階と、
絶縁層が固定子バーの両面上に同時に設けられるように絶縁層をダイ中に押し出す段階であって、絶縁層が熱硬化性ポリマー及びナノサイズ充填材を含み、ナノサイズ充填材が約200ナノメートル以下の平均最大寸法を有するダイヤモンドナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子とダイヤモンドナノ粒子との組合せからなる段階と、
固定子バーの全長に沿ってダイを移動させる段階と
を含んでなる方法。
【請求項17】
固定子バーが発電機固定子バーである、請求項16記載の方法。

【公開番号】特開2007−181814(P2007−181814A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−317221(P2006−317221)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】