説明

接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルム

【課題】 ガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有する接着剤組成物、並びに該組成物を用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供する。
【解決手段】 (A)下記(B)成分以外のエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000以上であり、一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂、
(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(D)アミン系硬化剤、
(E)硬化促進剤、及び
(F)無機充填剤
を含有してなる接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化した場合、ガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができる接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、特に通信用・民生用の電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、これらの性能に対する要求がますます高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷回路基板(以下、FPCと記載する)は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
複数のFPCを貼り合わせて多層FPCを製造する場合や、FPCと補強板を貼り合わせる場合等には、接着材料として接着シートが使用される。この接着シートは離型基材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布したもの、或いは離型基材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布し、別の離型基材と貼り合わせたものであり、例えば、接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性、電気特性、保存性、ハンドリング性等の特性が求められる。
【0004】
また、FPCには、電気絶縁性の基材フィルムの片面に半硬化状態の接着剤を塗布したものと離型基材とを貼り合わせたカバーレイフィルムが用いられる。このカバーレイフィルムは、FPCの回路保護や屈曲性の向上等を目的とするものであり、例えば、接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性、電気特性、保存性、ハンドリング性等の特性が求められる。
【0005】
近年の電子機器の小型化、軽量化、及び高密度化に伴い、電子機器に内蔵されるFPCには多層FPCが多く用いられ、さらに補強板や電磁波シールド等を配備したり、多くの実装部品を搭載する必要がある。このためFPCは熱履歴を繰り返し受けることになり、FPCに使用される接着シート又はカバーレイフィルムには、これらの熱サイクルに対する優れた接着性、半田耐熱性および高いガラス転移温度が求められている。
【0006】
この要求に対して、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、およびこれらを組み合わせたものからなる接着シートやカバーレイフィルムが提案されているが(例えば、特許文献1、2、3、4)、いずれにおいても接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度を同時に十分満足するものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2001−291964
【特許文献2】特開2004−256682
【特許文献3】特開2004−323811
【特許文献2】特開2007−045882
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有する接着剤組成物、並びに該組成物を用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は第1に、
(A)下記(B)成分以外のエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000以上であり、一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂、
(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(D)アミン系硬化剤、
(E)硬化促進剤、及び
(F)無機充填剤
を含有してなる接着剤組成物を提供する。
【0010】
本発明は第2に、離型基材層と、該基材層の少なくとも片面に設けられた前記組成物からなる層とを有する接着シートを提供する。
【0011】
本発明は第3に、電気絶縁性フィルムと、該フィルムの少なくとも片面に設けられた前記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有するものである。従って、この組成物を用いて作製した接着シートおよびカバーレイフィルムも、ガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有するため、特にフレキシブル印刷回路基板等の分野で好適に利用及び応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性接着剤組成物であり、例えば、接着シート、カバーレイフィルムの製造等に用いられる。また、本発明の接着剤組成物は、上記の(A)〜(F)成分を有してなるものであり、必要に応じて、溶剤等の任意成分を有していてもよい。なお、本発明の接着剤組成物は場合によっては加えられる成分を更に含み得、該組成物が溶剤を含む場合には、通常、溶剤は有機樹脂成分に含めない。
以下、上記の(A)〜(F)成分について、詳しく説明する。
【0014】
〔(A)エポキシ樹脂〕
(A)成分であるエポキシ樹脂は、通常、重量平均分子量が10,000未満のエポキシ樹脂が好ましく、後記(B)成分以外のものである。具体的には、1分子中に2個又は3個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されてもよい。また、難燃性を付与させるために臭素化エポキシ樹脂を使用することも可能である。さらに、分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0015】
そのようなエポキシ樹脂のうち、1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベンゼン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、非臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、エピコート828、871、1001、1256(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシELA115、127(住友化学工業製)等が挙げられ、臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、エピコート5050、5048、5046(ジャパンエポキシレジン製)等が挙げられる。
【0016】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリフェニルメタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、非臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、エピコート604(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシESCN195X、ELM120(住友化学工業製)、EOCN103S、EPPN502H(日本化薬製)等が挙げられ、臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、BREN−S(日本化薬製)等が挙げられる。
【0017】
1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、柔軟性及び接着性の向上に効果があり、一方、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、耐熱性及び硬化後の接着剤のガラス転移温度の向上に効果がある。これらの特徴を考慮した上でエポキシ樹脂は使用されるが、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
〔(B)一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂〕
(B)成分であるフェノキシ樹脂は、一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上のものである。ビスフェノールS(4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン)骨格は構造中に高極性のスルホン基(−SO−)を有し、樹脂と被着体界面の引力的相互作用が増加するため、接着力向上に効果がある。また、ビフェニル骨格は、その剛直性より、耐熱接着性の向上に効果がある他、優れた難燃性も兼ね備えている。
【0019】
上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、通常、10,000〜90,000、好ましくは20,000〜80,000であり、より好ましくは30,000〜60,000である。この重量平均分子量が10,000未満である場合には、硬化物の接着性、耐熱性、柔軟性に劣る場合があり、90,000を超える場合には他の成分との相溶性が悪化し、後述の有機溶剤を用いる場合には特に、本成分の溶剤への溶解性が低下することがある。なお、この重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0020】
上記フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、好ましくは50〜200℃、より好ましくは100℃〜180℃である。ガラス転移温度が50℃未満である場合には、硬化物のガラス転移温度が低下することがあり、200℃を超える場合には接着性が低下することがある。
【0021】
上記フェノキシ樹脂はその分子鎖両末端にエポキシ基を有するものが好ましく、エポキシ基を有しない場合には、硬化物の耐溶剤性、半田耐熱性、特に吸湿時の半田耐熱性が低下することがある。
【0022】
本成分のフェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールS型とビフェニル型の共重合フェノキシ樹脂、あるいは、これらの分子中に臭素原子を含むフェノキシ樹脂等が挙げられる。その市販品としては、例えば、商品名で、YX8100(ジャパンエポキシレジン製)等が挙げられる。
【0023】
(B)成分であるフェノキシ樹脂の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して、通常、1〜100質量部であり、好ましくは、5〜80質量部、より好ましくは10〜50質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、耐熱接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、耐溶剤性がより良好なものとなる。
【0024】
(B)成分であるフェノキシ樹脂は、一種単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0025】
〔(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム〕
(C)成分であるカルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、「カルボキシル基含有NBR」という)は、本成分中のアクリロニトリル含有量が好ましくは20〜50質量%、更に好ましくは25〜45質量%であり、かつ、カルボキシル基含有量が好ましくは0.005〜5質量%、更に好ましくは0.001〜1質量%である。アクリロニトリル含有量が20質量%未満である場合には、硬化物の接着性が低下することがあり、50質量%を超える場合には、硬化物の電気特性が著しく低下し、さらに、他成分(特に樹脂、および、場合により配合される有機溶剤)との相溶性が悪くなるため、硬化物の保存性が悪くなることがある。カルボキシル基含有量が0.005質量%未満である場合には、組成物の反応性が低下するため、硬化物の耐溶剤性、半田耐熱性が劣ることがあり、5質量%を超える場合には、硬化物の接着性および電気特性が低下することがある。カルボキシル基は、通常、分子鎖末端に存在する。また、本成分のカルボキシル基含有NBRは、ガラス転移温度が、通常、室温(25℃)未満の高分子化合物である。
【0026】
前記カルボキシル基含有NBRとしては、例えば、アクリロニトリルとブタジエンとを共重合させた共重合ゴムの分子鎖末端をカルボキシル化したもの、または、アクリロニトリルと、ブタジエンと、重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーとの三元共重合ゴム等が挙げられる。このカルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。また、前記カルボキシル化にも、これらのカルボン酸モノマーとして例示したものを用いることができる。
【0027】
上記三元共重合ゴムとしては、例えば、アクリロニトリルと、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等の炭素原子数3〜5の共役ジオレフィンと、アクリル酸もしくはメタクリル酸等のカルボキシル基含有重合性単量体との三元共重合ゴムが挙げられ、その市販品としては、例えば、商品名で、ニポール1072、同1072B、同1072J、同DN631、同DN601(日本ゼオン社製)、ハイカーCTBN(グッドリッチ社製)等が挙げられる。
【0028】
(C)成分であるカルボキシル基含有NBRの配合量は、前記(A)成分100質量部に対して、通常、5〜200質量部であり、好ましくは、10〜150質量部、より好ましくは10〜100質量部である。この配合量が5質量部未満である場合には、カバーレイフィルムおよび接着シートを加工する際に接着剤層(硬化物)に折れ・欠け等が生じやすくなり、200質量部を超える場合には、硬化物のガラス転移点が低下することがある。
【0029】
(C)成分であるカルボキシル基含有NBRは、一種単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0030】
〔(D)アミン系硬化剤〕
(D)成分であるアミン系硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものでよい。かかる硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤等が挙げられ、好ましくは、脂肪族アミン系硬化剤、又は芳香族アミン系硬化剤、特に好ましくは、芳香族アミン系硬化剤が挙げられる。
【0031】
(D)成分であるアミン系硬化剤の配合量は、(A)成分および(B)成分のエポキシ当量および接着剤の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜50質量部であり、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、耐熱接着性、半田耐熱性、耐溶剤性、ガラス転移点、電気特性がより良好なものとなる。
【0032】
(D)成分であるアミン系硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0033】
〔(E)硬化促進剤〕
(E)成分である硬化促進剤は、(A)エポキシ樹脂と(D)アミン系硬化剤との反応を促進するものであれば、特に限定されない。この硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、トリオルガノホスフィン、ホスホニウム塩、第三級アミン、ホウフッ化物、オクチル酸塩等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記トリオルガノホスフィンとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のトリオルガノホスフィン類等が挙げられる。上記ホスホニウム塩としては、例えば、第四級ホスホニウム塩等が挙げられる。上記第三級アミンとしては、例えば、トリエチレンアンモニウム・トリフェニルボレート等、およびそのテトラフェニルホウ素酸塩が挙げられる。上記ホウフッ化物としては、例えば、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化錫、ホウフッ化ニッケル等が挙げられる。上記オクチル酸塩としては、例えば、オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化錫、ホウフッ化ニッケル、オクチル酸錫、及びオクチル酸亜鉛、特に好ましくは、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、これらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、及びホウフッ化錫が挙げられる。
【0034】
(E)成分である硬化促進剤の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜30質量部であり、好ましくは1〜20質量部であり、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0035】
(E)成分である硬化促進剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0036】
〔(F)無機充填剤〕
(F)成分である無機充填剤は、硬化物の難燃性の補助、剥離状態の安定性(接着剤の凝集剥離)の向上、耐吸湿性の安定化等を目的として配合される成分である。この無機充填剤は、従来、カバーレイフィルムまたは接着シートに使用されているものであれば特に限定されない。無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、およびホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物であり、特に好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびホウ酸亜鉛である。これらの無機充填剤の樹脂マトリックスへの密着性や耐水性を向上させ、硬化物の耐熱性、耐吸湿性等を向上させるために、該無機充填剤の表面が、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等により疎水化処理されていることが好ましい。
【0037】
(F)成分である無機充填剤の配合量は、(A)〜(E)成分の合計に対して、通常、5〜50質量%となる量であり、好ましくは10〜40質量%となる量、より好ましくは15〜35質量%となる量である。この配合量がかかる範囲にあると、硬化物の接着性、耐熱接着性、ハンダ耐熱性、及び耐吸湿性がより良好なものとなる。
【0038】
(F)成分である無機充填剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0039】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(F)成分以外にも、必要に応じて、接着剤組成物およびそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムの特性を低下させない範囲で、溶剤、難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、イオン吸着剤等の任意成分を添加しても良い。
【0040】
本発明の接着剤組成物に用いられる溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N, N-ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N-メチル2-ピロリドン、ジオキソラン等が挙げられ、好ましくは、MEK、トルエン、N, N-ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノンが挙げられる。これらの溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
【0041】
熱硬化性接着剤溶液の固形成分濃度は20〜50質量%であればよく、さらに好ましくは25〜40質量%である。固形分濃度が20質量%未満では接着剤の塗工時に厚みムラが生じる可能性が高く、50質量%を超えると接着剤の粘度が高いために塗工性が悪くなる、という問題が生じる。
【0042】
以上の各成分を混合する場合には、その順序は特に限定されないが、添加される成分の溶解性や得られる接着剤溶液の粘度を考慮して、適宜決められる。混合には、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いることができる。
【0043】
<接着シート>
[構成]
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シートの構成は、離型基材層と、該離型基材層に設けられた該接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、離型基材層と接着剤層とを有する2層構造、もしくは接着剤層と、該接着剤層の両面に設けられた離型基材層とを有する3層構造等が挙げられる。接着シートの2層構造および3層構造は、フレキシブル印刷配線板製造時の加工方法等により、適宜、選択すればよい。この接着剤層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で通常、10〜50μmであり、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0044】
離型基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム;シリコーン離型剤付きPEフィルムおよびPPフィルム;PE樹脂コート紙、PP樹脂コート紙およびTPX樹脂コート紙等が挙げられる。この離型基材の厚さは、必要に応じて適宜の厚さでよいが、フィルムでは13〜75μm、コート紙では50〜200μmが好ましい。
【0045】
[製造方法]
次に、本発明の接着シートの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて離型基材片面に塗布する。この接着剤組成物を塗布した離型基材をインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とし、2層構造の接着シートとする。さらに、この接着シートの接着剤組成物の塗布面に別の離型基材を、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、3層構造の接着シートとする。離型基材は使用に際して剥離される。
【0046】
<カバーレイフィルム>
[構成]
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有するカバーレイフィルムは、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層に設けられた接着剤層とを有するである。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルム層と接着剤層と離型基材層とを有する3層構造が挙げられる。この接着剤層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、10〜50μmであり、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0047】
電気絶縁性フィルム層を構成する電気絶縁性フィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維やアラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスとなるエポキシ樹脂や、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂を含浸させて、フィルム状またはシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられ、耐熱性、寸法安定性、機械特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0048】
この電気絶縁性フィルム層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択してよいが、通常、12.5〜75μmであり、好ましくは12.5〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤層との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面または両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。
【0049】
離型基材層を構成する材料は、前記接着シートの項で説明したとおりである。
【0050】
[製造方法]
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
【0051】
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて電気絶縁性フィルム片面に塗布する。この接着剤組成物を塗布したフィルムをインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とする。次いで、このフィルムの接着剤組成物の塗布面と離型基材とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、カバーレイフィルムとする。離型基材は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態、乃至、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をなんら限定するものではない。
実施例および比較例で用いた(A)〜(F)成分およびその他成分としては、具体的には以下のものを用いた。
【0053】
<接着剤組成物の成分>
(A)エポキシ樹脂
・エピコート604(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約500、ガラス転移温度:30℃未満、一分子中のエポキシ基:4個)
・エピコート828(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約300、ガラス転移温度:30℃未満、一分子中のエポキシ基:2個)
・エピコート1001(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約1,000、ガラス転移温度:約70℃、一分子中のエポキシ基:2個)
・エピコート5050(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約800、臭素含有率:約50質量%、ガラス転移温度:約70℃、一分子中のエポキシ基:2個)
(B)フェノキシ樹脂
・YX8100(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約38,000、ガラス転移温度:約150℃)
(C)カルボキシル基含有NBR
・ニポール1072B(商品名)(日本ゼオン製、アクリロニトリル含有量:約27.0質量%、カルボキシル基含有量:約0.075質量%、ガラス転移温度:0℃以下)
・DN631(商品名)(日本ゼオン製、アクリロニトリル含有量:約33.5質量%、カルボキシル基含有量:約0.075質量%、ガラス転移温度:0℃以下)
(D)アミン系硬化剤
・DDS(4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、ガラス転移温度:30℃以上)
(E)硬化促進剤
・2E4MZ−CN(商品名)(四国化成製、ガラス転移温度:30℃未満)
・ホウフッ化錫45質量%水溶液(ガラス転移温度:30℃以上)
(F)無機充填剤
・H43STE(商品名)(昭和電工製、水酸化アルミニウム)
・キスマ5A(商品名)(協和化学製、水酸化マグネシウム)
その他成分
・エピコート1256(商品名)(ジャパンエポキシレジン製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、重量平均分子量:約53,000、ガラス転移温度:約95℃)
・ニポール1043(商品名)(日本ゼオン製NBR、アクリロニトリル含有量:約29.0質量%、ガラス転移温度:0℃以下)
【0054】
<使用材料>
・カプトン100H(商品名)(東レデュポン製、ポリイミドフィルム、厚さ:25μm)
・Y7TF(商品名)(リンテック製、離型紙、厚さ:約130μm)
・PET38X(商品名)(リンテック製、離型フィルム、厚さ:約38μm)
・HTE(商品名)(三井金属製、電解銅箔)
・RAS22S47(商品名)(信越化学製、フレキシブル印刷配線用基板、カプトン50H/接着剤層の厚さ:13μm/圧延銅箔1/2oz(オンス))
【0055】
<実施例1〜5、比較例1〜5>
表1に示す配合比(重量部)で、接着剤組成物の各成分を混合し、混合物を調製した。この混合物を、MEK/トルエンの混合溶剤(MEK:トルエン=80:20(質量比))に溶解させ、均一になるようにボールミルを用いて十分に攪拌し、不揮発性成分の合計濃度が35質量%の接着剤組成物(溶液状態)を調製した。
【0056】
次に、この接着剤組成物を、離型フィルム(商品名:PET38X)上に、乾燥後の接着剤層の厚さが25μmとなるようにリバースロールコーターを用いて塗布した。その後、140℃、10分の加熱乾燥条件でMEKおよびトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態にした。この半硬化状態の接着剤組成物の付いたフィルムの接着剤面に、離型紙(商品名:Y7TF)を温度70℃、線圧2kg/cmの条件でロールラミネーターを用いて圧着し、接着シートを作製した。
【0057】
また、離型フィルムをポリイミドフィルム(商品名:カプトン100H、厚さ:25μm)に変更した以外は、接着シートの作製と同様の工程により、カバーレイフィルムを作製した。
【0058】
これらの接着シートおよびカバーレイフィルムについて、下記の評価・測定方法に従って、物性の評価・測定を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
<評価・測定方法>
(評価用サンプルの構成)
以下のサンプル1〜3を、160℃、5.0MPa、50分のプレス加工条件で加熱圧着し、剥離強度、半田耐熱性およびガラス転移温度の評価用サンプルとして用いた。なお、離型基材は剥離してからサンプルの作製に用いた。
サンプル1:接着シートの両面を2枚のRAS22S47のフィルム面で被覆したもの
サンプル2:カバーレイフィルムの接着剤層とHTE箔1oz(1オンス)の光沢面とを接着したもの
サンプル3:接着シートの両面を2枚のHTE箔1oz(1オンス)の光沢面で被覆したもの
【0060】
(物性評価・測定方法)
1.剥離強度(JIS C6471に準ずる)
・剥離強度A:サンプル1を10mm幅にカットして試験片1を作製し、該試験片1について、25℃の条件下でRAS22S47を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
・剥離強度B:サンプル2を10mm幅にカットして試験片2を作製し、該試験片2について、25℃の条件下でHTE箔を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
2.半田耐熱性(JIS C6471に準ずる)
・常態半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片3を作製し、該試験片3を80℃で10分間乾燥した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、該試験片3の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度を測定した。
・吸湿半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片4を作製し、該試験片4を40℃、90%RHで1時間静置した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、常態半田耐熱性の項と同様にして最高温度を測定した。
3.ガラス転移点温度(Tg)
サンプル3のHTE箔を塩化第二鉄水溶液で除去して接着シートを作製し、この接着シートをカットして試験片5(10mm×50mm)を作製した。試験片5を用いて、粘弾性測定装置(商品名:RSAIII、レオメトリック社製)により、昇温条件を5℃/分に設定して、接着剤のTgを測定した。なお、Tgはtanδのピーク(極大値)とした。
4.耐熱剥離強度(JIS C6471に準ずる)
接着シートの両面を2枚のRAS22S47のフィルム面で被覆したものを、160℃、5.0MPa、50分のプレス加工条件で加熱圧着し、これを5回繰り返すことで、耐熱剥離強度測定用サンプルを得た。このサンプルを10mm幅にカットして試験片6を作製し、該試験片6について、25℃の条件下でRAS22S47を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、耐熱剥離強度とした。
5.加工性
接着剤シートから離型基材を除去した後、該接着剤シートを180度方向に折り曲げて開いて、接着剤層の折れ、欠けを目視により確認した。接着剤層に折れおよび欠けが認められなかった場合を加工性が良好と評価して○と示し、接着剤層に折れまたは欠けの少なくとも一方が認められた場合を加工性が不良と評価して×と示した。
【0061】
<評価結果>
実施例で調製した組成物は、本発明の要件を満足するものであって、ガラス転移温度が高く、優れた接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性を有していた。
【0062】
一方、比較例で調製した組成物は、本発明の要件を満足しないものであって、ガラス転移温度、接着性、耐熱接着性、半田耐熱性および加工性の少なくとも一つの特性が、実施例で調製したものに比べて劣っていた。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記(B)成分以外のエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000以上であり、一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂、
(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(D)アミン系硬化剤、
(E)硬化促進剤、及び
(F)無機充填剤
を含有してなる接着剤組成物。
【請求項2】
(A)下記(B)成分以外のエポキシ樹脂 100質量部、
(B)重量平均分子量が10,000〜90,000であり、一分子中にビスフェノールS骨格およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂 1〜100質量部、
(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム 5〜200質量部、
(D)アミン系硬化剤 0.1〜50質量部、
(E)硬化促進剤 0.1〜30質量部、及び
(F)無機充填剤 (A)〜(E)成分の合計に対して5〜50質量%となる量、
を含有してなる請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記(C)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴムのアクリロニトリル含有量が20〜50質量%であり、カルボキシル基含有量が0.005〜5質量%である、請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
離型基材層と、該基材層に設けられた請求項1に記載の組成物からなる接着剤層とを有する接着シート。
【請求項5】
電気絶縁性フィルムと、該フィルムに設けられた請求項1に記載の組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項6】
前記電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項5に記載のカバーレイフィルム。

【公開番号】特開2009−7424(P2009−7424A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168400(P2007−168400)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】