説明

接着剤組成物

【課題】半導体素子の常温での超音波によるワイヤボンディング方式による接続を可能とする接着剤組成物を提供する。
【解決手段】半導体素子支持部材上に、常温で超音波によるワイヤボンディング方式により電気的接続がなされる電極を有する半導体素子を接着するために使用される接着剤組成物であって、数平均粒径5〜40μm、圧縮弾性率1〜4GPaの(メタ)アクリル樹脂からなる樹脂ビーズを0.01〜1質量%含有する接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC、LSIなどの半導体素子(以下、半導体チップまたは単にチップとも称する)をリードフレームなどに接着するために使用される接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC、LSIなどの半導体素子は、リードフレームと称する金属片にマウントし、Au/Si共晶法あるいはダイボンディングペーストと称する接着剤を用いて固定した後、リードフレームのリード部と半導体素子上の電極とを細線ワイヤ(ボンディングワイヤ)により接続し、次いでこれらをパッケージに収納して半導体製品とすることが一般的であった。ボンディングワイヤとリード部または電極との接合は熱圧着によって行われる。
【0003】
しかし、近年、半導体素子は集積度の増大に伴い大型化が進んでおり、一方、これらを搭載するリードフレームには、コストダウンを図る目的で、銅フレームが、従来の高価な42合金フレームに代わって広く用いられるようになってきた。その結果、半導体素子と銅フレームとの熱膨張率の差に起因して半導体素子にクラックや反りが発生するという問題が生じてきた。
【0004】
この問題は、半導体素子のマウント工程にAu/Si共晶法を用いた場合に特に顕著であるが、ダイボンディングペーストを用いた場合であっても、従来のペーストは、熱硬化性樹脂を主成分としているため、硬化物の弾性率が高く、半導体素子と銅フレームとの歪を吸収することはできなかった。
【0005】
このため、硬化物の弾性率を低減させるなど、上記問題を解決すべく様々なダイボンディングペーストが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、接着強度が低下したり、作業性が低下するなどの新たな問題が発生し、未だ満足し得る特性を備えたものは得られていない。
【0006】
一方、最近、ワイヤボンディング工程において、作業時間の短縮および製品のコストダウンのために、常温で超音波にて行う方式が提案されている(例えば、特許文献2、3参照。)。この方式は、加熱が不要であるため、加熱によるフレームおよびワイヤの酸化を防ぐことができ、また、上記のような熱膨張率の差に起因する問題を回避することができる。しかし、超音波を印加することにより発生する機械的応力により、ペースト接合部にクラックや剥がれなどが発生するおそれがあった。
【特許文献1】特開2001−106767号公報
【特許文献2】特開平8−125111号公報
【特許文献3】特開2002−222826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題に対処してなされたもので、応力緩和性に優れた硬化物を与え、したがって、半導体素子の常温での超音波ワイヤボンディング方式による電気的接続が可能であり、しかも、接着強度が良好で、作業性にも優れる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(メタ)アクリル樹脂からなる特定の物性を有する樹脂ビーズを含有する接着剤組成物により、上記の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、半導体素子支持部材上に、常温で超音波によるワイヤボンディング方式により電気的接続がなされる電極を有する半導体素子を接着するために使用される接着剤組成物であって、数平均粒径5〜40μm、圧縮弾性率1〜4GPaの(メタ)アクリル樹脂からなる樹脂ビーズを0.01〜1質量%含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、応力緩和性に優れた硬化物を与え、半導体素子の常温での超音波ワイヤボンディング方式による電気的接続が可能であり、しかも、接着強度が良好で、作業性にも優れる接着剤組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の接着剤組成物に使用する樹脂ビーズは、数平均粒径が5〜40μm、圧縮弾性率1〜4GPaの(メタ)アクリル樹脂からなるものである。
【0013】
樹脂ビーズの数平均粒径が5μm未満では、応力緩和効果が小さく、超音波ワイヤボンディングの際にチップを損傷させるおそれがあり、また、接着力も低下する。逆に、数平均粒径が40μmを越えると、その硬化物である接着剤層に空隙(ボイド)が発生しやすくなる。樹脂ビーズの数平均粒径は、5〜20μmであることが好ましい。樹脂ビーズの数平均粒径は、フロー式画像解析装置により測定することができる。
【0014】
一方、樹脂ビーズの圧縮弾性率が1GPaに満たないと、半導体素子のダイボンディングマウント時に変形し、接着剤層の層厚にバラツキが生じ、超音波ワイヤボンディングに対する耐性や接着力が低下するおそれがある。逆に、圧縮弾性率が4GPaを超えると、組成物硬化時の収縮に追従できず密着性が低下し、また、体積の収縮により空隙が発生しやすくなる。樹脂ビーズの圧縮弾性率は、3〜4GPaであることが好ましい。圧縮弾性率は、JIS K 7181(プラスチック−圧縮特性の試験方法)に準拠して測定される。
【0015】
なお、樹脂ビーズを構成する(メタ)アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、メタクリル酸エチル樹脂(PEMA)、メタクリル酸ブチル樹脂(PBMA)、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体およびこれらの混合物などが挙げられ、なかでも、メタクリル酸メチル樹脂が好ましい。
【0016】
上記条件を満足するメタクリル酸メチル樹脂からなる樹脂ビーズ(数平均粒径10μm、圧縮弾性率3GPa)は、例えば綜研化学(株)よりMX−1000という商品名で市販されており、本発明で用いる樹脂ビーズとして好適である。
【0017】
本発明の目的のためには、この樹脂ビーズは接着剤組成物全体の0.01〜1質量%含有させる必要があり、好ましくは0.01〜0.2質量%である。すなわち、組成物中の樹脂ビーズの含有量が0.01質量%未満では、チップマウント時にチップが傾くおそれがあり、逆に、1質量%を超えると、接着力が低下する。
【0018】
本発明において、上記樹脂ビーズが配合されるベースとなる接着剤組成物としては、(a)熱硬化性樹脂、(b)硬化剤および(c)フィラーを含有するものが挙げられる。
【0019】
(a)熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン‐ホルマリン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、キシレン樹脂などが挙げられるが、なかでもエポキシ樹脂、またはエポキシ樹脂と他の熱硬化性樹脂との併用が好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されることなく使用され、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、特殊多官能型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。熱伝導性を高める観点からは、常温(23℃)で結晶性のあるエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂と他の熱硬化性樹脂とを併用する場合、他の熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂100質量部に対して0〜50重分の範囲で配合することが好ましい。
【0021】
また、(b)硬化剤は、(a)熱硬化性樹脂の種類に応じて従来より一般に使用されているものの中から適宜選択すればよく、例えば(a)熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビニルフェノールの重合物(ポリ−p−ビニルフェノールなど)、ビスフェノール樹脂、フェノールビフェニレン樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂などのフェノール樹脂;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族アミン;芳香族アミン;ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸などの酸無水物;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビニルフェノールの重合物(ポリ−p−ビニルフェノールなど)、ビスフェノール樹脂、フェノールビフェニレン樹脂などのフェノール樹脂;ジシアンアミド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン酸、イソフタル酸、p−オキシ安息香酸などの潜在性硬化剤;イミダゾール類;イソシアネート化合物;カチオン系硬化剤などが挙げられる。これらの硬化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。熱伝導性を高める観点からは、エポキシ樹脂の硬化剤として、なかでも数平均分子量が500以上で、かつ常温(23℃)で結晶性のあるフェノール樹脂が好ましい。また、この場合、フェノール樹脂は、エポキシ樹脂が有するエポキシ基数1.0に対し、フェノール性水酸基数が0.5〜1.5となる範囲が好ましい。
【0022】
(a)熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、(b)硬化剤とともに、さらに硬化促進剤を使用することが好ましい。硬化促進剤としては、従来、エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されているものであれば特に制限されることなく使用することができるが、なかでもイミダゾール系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤が好ましく、イミダゾール系硬化促進剤がより好ましい。
【0023】
イミダゾール系硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−n−プロピルイミダゾール、2−ウンデシル−1H−イミダゾール、2−ヘプタデシル−1H−イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−1H−イミダゾール、4−メチル−2−フェニル−1H−イミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジシアノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(2−シアノエトキシ)メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール塩酸塩、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイトなどが挙げられる。
【0024】
また、アミン系硬化促進剤の具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ペンタンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、ペンタメチルジエチレントリアミン、アルキル−t−モノアミン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン(トリエチレンジアミン)、N,N,N′,N′−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、ジメチルアミノヘキサノールなどの脂肪族アミン類;ピペリジン、ピペラジン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、N,N′,N″−トリス(ジアミノプロピル)ヘキサヒドロ−s−トリアジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキシスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、N−アミノエチルピペラジン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、N,N′−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(4,5,0)ウンデセン−7などの脂環式および複素環式アミン類;o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−キシレンジアミン、ピリジン、ピコリン等の芳香族アミン類;エポキシ化合物付加ポリアミン、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、チオ尿素付加ポリアミン、ケトン封鎖ポリアミン等の変性ポリアミン類;ジシアンジアミド;グアニジン;有機酸ヒドラジド;ジアミノマレオニトリル;アミンイミド;三フッ化ホウ素−ピペリジン錯体;三フッ化ホウ素−モノエチルアミン錯体などが挙げられる。
【0025】
これらの硬化促進剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。イミダゾール系硬化促進剤としては、なかでも、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジシアノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物が好ましい。また、アミン系硬化促進剤としては、なかでもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンが好ましい。硬化促進剤としては、特に、2,4−ジシアノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物が好ましい。
【0026】
上記硬化促進剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.2〜7.0質量部の範囲がより好ましい。0.1質量部未満では、十分な硬化促進効果が得られず、10質量部を超えると、硬化促進効果はさほど変わらずに、耐熱性が低下する。
【0027】
(c)フィラーは、本組成物に良好な接着性、熱伝導性などを付与する成分であり、例えば銀粉末、金粉末、銅粉末などの金属粉末、アルミナ粉末、シリカ粉末などが挙げられる。銀粉末などの金属粉末は、本組成物にさらに導電性を付与する成分であり、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオンなどのイオン性不純物の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0028】
フィラーの形状は特に限定されるものではなく、鱗片状、フレーク状、球状など、任意の形状であってよい。
【0029】
また、フィラーの粒径は、要求される組成物の粘度によっても異なるが、金属粉末では、通常、平均粒径1〜15μmであり、好ましくは、平均粒径1〜10μmである。金属粉末の平均粒径が1μm以上であれば、組成物は適度な粘度を有し、平均粒径が15μm以下であれば、組成物の塗付時または硬化時における樹脂成分のブリードが抑制される。また、シリカ粉末では、通常、平均粒径1〜25μm、好ましくは1〜10μmである。シリカ粉末の平均粒径が1μm以上であれば、組成物は適度な粘度を有し、平均粒径が25μm以下であれば、組成物の塗付時または硬化時における樹脂成分のブリードが抑制される。さらに、金属粉末もシリカ粉末も、最大粒径が50μmを大幅に超えると、ディスペンサで組成物を塗付する際に、ニードルの出口を閉塞して長時間の連続適用ができなくなることから、最大粒径が50μm以下であることが好ましい。また、金属粉末もシリカ粉末も、比較的粒径の大きいものと粒径の小さいものを混合して用いてもよい。なお、これらのフィラーの粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0030】
(c)フィラーの配合量は、(a)熱硬化性樹脂100質量部に対して、100〜5000質量部の範囲が好ましく、100〜4000質量部の範囲がより好ましく、300〜1000質量部の範囲がよりいっそう好ましい。配合量が100質量部未満では、硬化物の膨張係数が大きくなって、接続の信頼性が低下するおそれがある。逆に、5000質量部を超えると、粘度が高くなり、作業性が低下するおそれがある。
【0031】
熱伝導性、拡がり性、糸引き性などの観点からは、(c)フィラーとして銀粉末が好ましく、比表面積(SA)が1.3m/g以下で、かつタップ密度(TD)が4.0〜7.0g/cmのものが特に好ましい。比表面積(SA)は0.2〜0.7m/gであることがより好ましく、また、タップ密度(TD)は4.0〜7.0g/cmのなかでも7.0g/cmに近い範囲がより好ましい。銀粉末の配合量は(a)〜(c)の総質量に対して90質量%以上となる範囲が好ましく、また、この場合、銀粉末以外のフィラーをフィラー全体の20質量%以下含んでいてもよい。
【0032】
本接着剤組成物には、良好な接着性を得る観点から、さらにシランカップリング剤を配合することが好ましい。その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ系シランカップリング剤、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ系シランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系シランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤のなかでも、エポキシ系シランカップリング剤が好ましく、特に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。シランカップリング剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
シランカップリング剤の配合量は、樹脂ビーズを含む接着剤組成物全体の0.01〜2.0質量%となる範囲が好ましく、0.1〜1.5質量%となる範囲がより好ましい。配合量が0.01質量%未満では、接着性を改善する効果が小さく、逆に、2.0質量%を超えると、本剤に起因する気泡が発生するおそれがある。
【0034】
また、本接着剤組成物には、作業性を改善する目的で、反応性希釈剤を配合することができる。その具体例としては、n−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。反応性希釈剤としては、特に、エポキシ基を含有するクレジルグリシジルエーテルの使用が好ましい。この反応性希釈剤の配合量は、樹脂ビーズを含む接着剤組成物全体の0.1〜10質量%となる範囲が好ましい。
【0035】
本接着剤組成物には、以上の各成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合される、粘度調整剤、酸無水物などの接着力向上剤、消泡剤、着色剤、難燃剤などを、必要に応じて配合することができる。粘度調整剤としては、例えば酢酸セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
本発明の接着剤組成物は、硬化後の25℃における引張弾性率が3〜20GPaであることが好ましく、3〜15GPaであることがより好ましい。硬化後の25℃における引張弾性率が3GPa未満では、応力緩和性は十分であるものの、接続強度が不十分になり、逆に、20GPaを超えると、応力緩和性が不十分で、その硬化物である接着剤層にクラックなどが生じやすくなる。なお、接着剤組成物の硬化後の25℃における引張弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて測定することにより求められる。
【0037】
本発明の接着剤組成物は、糸引き性やブリードアウトが少なく作業性に優れている。また、超音波ワイヤボンディングの際に接合部にクラックや剥離などが発生することもない。すなわち、本発明の接着剤組成物は、応力緩和性に優れた硬化物を与え、また、接着強度が大きく、作業性も良好である。さらに、硬化物においてボイドが発生することもない。
【0038】
半導体装置は、例えば、本発明の接着剤組成物を介して半導体素子をリードフレームにマウントし、接着剤組成物を加熱硬化させた後、リードフレームのリード部と半導体素子上の電極とを常温で超音波によるワイヤボンディングにより接続し、次いで、これらを封止樹脂を用いて封止することにより製造することができる。ボンディングワイヤとしては、例えば銅、金、アルミ、金合金、アルミ−シリコンなどからなるワイヤが例示される。また、ボンディングの際の超音波の出力、荷重などの条件は、特に限定されるものではなく、常法の範囲で適宜選択されてよい。
【0039】
図1は、このようにして得られた半導体装置の一例を示したものであり、銅フレームなどのリードフレーム1と半導体素子2の間に、本発明の接着剤組成物の硬化物である接着剤層3が介在されている。また、半導体素子2上の電極4とリードフレーム1のリード部5とがボンディングワイヤ6により接続されており、さらに、これらが封止樹脂7により封止されている。なお、接着剤層3の厚さとしては、10〜30μm程度が好ましい。
【0040】
本発明の接着剤組成物を用いて得られる半導体装置は、応力緩和性に優れた硬化物を与え、しかも、接着強度が良好で、作業性にも優れる接着剤組成物により、半導体素子が接着固定されているので、高い信頼性を具備している。
【0041】
本発明の接着剤組成物は、半導体素子を半導体素子支持部材上に接着するための接着剤として広く使用することができるが、電極の電気的接続に常温での超音波ワイヤボンディング方式を用いる半導体素子の接着剤に適用した場合に特に有用である。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。以下の記載において単に「部」とあるのはいずれも「質量部」を表す。各例で用いた成分は以下のとおりである。
【0043】
・樹脂ビーズA:アクリル樹脂
綜研化学(株)製 商品名 MX−1000
(数平均粒径10μm、圧縮弾性率3GPa、熱膨張係数7〜8×10-5/℃)
・樹脂ビーズB:ジビニルベンゼン系樹脂
積水化学ファインケミカル(株)製 商品名 SP−210
(平均粒径10μm、圧縮弾性率5GPa、熱膨張係数9.8×10-5/℃)
・樹脂ビーズC:アクリル樹脂
綜研化学(株)製 商品名 MX−100
(数平均粒径1μm、圧縮弾性率3GPa、熱膨張係数7〜8×10-5/℃)
・樹脂ビーズD:ポリメチルシルセスキオキサン樹脂
GE東芝シリコーン(株)製 商品名 トスパール3120
(平均粒径12μm、圧縮弾性率0.3〜0.5GPa、熱膨張係数3〜5×10-5/℃)
・エポキシ樹脂:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
日本化薬(株)製 商品名 EOCN4500
・硬化剤:クレゾールノボラック樹脂
大日本インキ化学工業(株)製 商品名 KA−1165
・硬化促進剤:2,4-ジシアノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物
四国化成(株)製 商品名 2MA−OK
・シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・銀粉末:(鱗片状、タップ密度4.2g/cm3、比表面積0.6m2/g)
・粘度調整剤:ブチルカルビトールアセテート
【0044】
実施例1〜3、比較例1〜5
エポキシ樹脂2.0部、硬化剤3.0部、硬化促進剤0.1部、シランカップリング剤0.2部、銀粉86.0部および粘度調整剤9.0部を十分に混合し、さらに三本ロールで混練して樹脂ペースト(不揮発分88%)を調製した。
次いで、得られた樹脂ペーストに樹脂ビーズA〜Dを表1に示す配合割合で添加し均一に混合して接着剤組成物を得た。
【0045】
上記各実施例および各比較例で得られた接着剤組成物について、下記に示す方法で各種特性を評価した。
(1)粘度(η0.5rpm
東機産業社製のE型粘度計(3°コーン)を用い、25℃、0.5rpmの条件で測定した。
(2)チキソ性
東機産業社製のE型粘度計(3°コーン)を用い、25℃、5rpmの条件で粘度(η5rpm)を測定し、上記(1)で測定された粘度(η0.5rpm)との比η0.5rpm/η5rpmmを算出した。
(3)ポットライフ
25℃で24時間保管後、上記(1)と同様にして粘度を測定し、初期粘度に対する変化率(%)を算出した。
(4)ボイド(空隙)
得られた接着剤組成物をCuフレーム上に20μm厚に塗布し、その上に2mm×2mmの半導体チップをマウントし、200℃で120分間加熱硬化させ、接続サンプルを作製した後、軟X線透過法により接着剤組成物の硬化物内のボイドの有無を調べた。
(5)引張弾性率
得られた接着剤組成物を200℃で120分間加熱硬化させたサンプル(20mm×5mm×0.03mm)について、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の粘弾性スペクトロメータDMS200を用い、25℃および260℃における引張弾性率を求めた(昇温速度10℃/分)。
(6)吸水率
得られた接着剤組成物を200℃で120分間加熱硬化させたサンプル(100mm×20mm×0.03mm)を85℃、85%RHの雰囲気中に24時間放置した後の質量変化率を測定した。
(7)ダイシェア強度
上記(4)で作成した接続サンプルについて、沖エンジニアリング社製のダイシェア強度測定装置を用い、25℃で測定した。Cuフレームを、Cu/Agフレーム、Pd−PPFフレームに代えて同様にして測定した。
(8)ワイヤボンディング性
得られた接着剤組成物をPd−PPFフレーム上に20μm厚に塗布し、その上に2mm×2mmの半導体チップをマウントし、180℃で120分間加熱硬化させた後、半導体チップ上に設けられたAl電極とPd−PPFフレームとをアルミ線を用い、25℃の雰囲気下、2W、4Wおよび8Wの超音波を印加してワイヤボンディングを行い、半導体チップの剥離の有無を調べた。
【0046】
これらの結果を表1に併せ示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1からも明らかなように、実施例の接着剤組成物は、ボイドの発生がなく、また、低吸湿で、かつ、常温での超音波によるワイヤボンディング性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、常温での超音波によるワイヤボンディングを可能とし、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の接着剤組成物による半導体装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…リードフレーム、2…半導体素子、3…接着剤層、4…電極、5…リード部、6…ボンディングワイヤ、7…封止樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子支持部材上に、常温で超音波によるワイヤボンディング方式により電気的接続がなされる電極を有する半導体素子を接着するために使用される接着剤組成物であって、
数平均粒径5〜40μm、圧縮弾性率1〜4GPaの(メタ)アクリル樹脂からなる樹脂ビーズを0.01〜1質量%含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記ワイヤボンディング方式は、銅、金、アルミ、金合金およびアルミ−シリコンのいずれかからなるワイヤを用いるものであることを特徴する請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
硬化後の25℃における引張弾性率が3〜20GPaであることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記樹脂ビーズが、メタクリル酸メチル樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の接着剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−177067(P2009−177067A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16268(P2008−16268)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】