説明

描画支援装置、描画支援プログラム、描画支援方法

【課題】描画作業の効率の向上を図りながら当該描画作業を支援することができる装置等を提供する。
【解決手段】本発明の描画支援装置1によれば、エージェントにより動かされるポインタの位置軌道に応じて定まる要素の第1因子が、当該要素により表現される対象物の設計上不適切であるか否かが判定される。その判定結果がエージェントに通知される。これにより、エージェントは自らが描画した対象物が設計上適切であるか否かを検証しながら描画作業を進めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エージェントによる描画作業を支援する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
CAD装置等のオブジェクトベースの描画エディタにおいて、一般にオブジェクト入力は、液晶画面上のメニューまたはタブレット上のタブレットメニューを選択した後に電子ペン、デジタイザ、マウス等を用いて行なっている。これらの作業は手描きによる描画にはない余分な作業である。
【0003】
そこで、手描きされたオブジェクトが幾何学におけるどの図形に近似しているかが判断され、手描きされたオブジェクトが幾何学で定義された図形に変換されて液晶画面上に表示される描画方法が提案されている(特許文献1参照)。この描画方法によれば、メニューまたはタブレット上のタブレットメニューを選択することなく図形を入出力される。
【0004】
また、同様のインタラクション手法として容易に立体モデルを作成する描画方法が提案されている(特許文献2参照)。この描画手法によれば、図形を入力する毎に3次元空間を想定した座標入力およびコマンド入力することなく、利用者がイメージした図形を入力するのみで、立体モデルが生成される。
【0005】
さらに、手描きされたオブジェクト(要素)の形状と、データベースに登録されている複数種類の形状のそれぞれとのパターンマッチングにより、オブジェクトの形状を、登録形状のうち類似している形状に整形する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−168951号公報
【特許文献2】特開平08−194840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、描画作業の効率の向上を図りながら当該描画作業を支援することができる装置等を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の描画支援装置によれば、エージェントにより任意に動かされるポインタの位置軌道に応じて要素の第1因子が制限されることなく自由に定義されうる。
【0009】
なお、描画支援装置が、ペン様の描画ツールを備え、前記第1インターフェースが感圧式または接触感知式のパネルを備え、前記第1演算処理手段が、前記描画ツールの前記パネルに対する接触箇所の位置軌道を前記ポインタの位置軌道として認識してもよい。これにより、ユーザにペンで紙に要素を描く感覚で、対象物の描画作業を遂行させることができる。
【0010】
前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じた初期要素を整形し、当該整形後の前記初期要素を前記要素として認識してもよい。これにより、先に描画した要素の整形作業に要するエージェントの負担を解消しながら、このエージェントに描画作業を進行させることができる。
【0011】
また、要素の第1因子が、当該要素により表現される対象物の設計上不適切であるか否かが判定され、当該判定結果がエージェントに通知される。これにより、エージェントに、自らが描画した対象物を構成する要素が設計上適切であるか否かを検証させながら描画作業を進行させることができる。このため、事後的に設計上の不都合が発見され、再度の描画作業が必要になる可能性が著しく低減され、結果的に描画効率が向上されうる。
【0012】
なお、前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じて、評価対象となる前記指標値の種類を選定してもよい。
【0013】
前記第1演算処理手段が、前記対象物の部分的または全体的な高さ、幅および厚さ、前記対象物の折れ曲がり箇所の曲率または角度、一の対象物を構成する要素と他の対象物を構成する要素との間隔、ならびに、前記対象物を構成するとともに前記要素により画定される部品の数のうち一部または全部を前記指標値として評価してもよい。
【0014】
前記第2演算処理手段が、エージェントによる前記要素のリクエストの有無を判定し、前記リクエストがあったと判定されたことをさらなる要件として当該前記対象物がその設計上適切であるか否かを判定してもよい。
【0015】
前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じて、前記要素の第1因子を認識する、あるいは、前記要素の第1因子の変更態様を認識した上で、当該態様にしたがった変更後の前記要素の第2因子を認識してもよい。
【0016】
前記第2演算処理手段が、前記対象物の材料、種類、製造条件、組み付け条件および組み立て条件のうち一部または全部である第2因子に基づき、前記基準範囲を認識した上で、前記指標値が当該基準範囲に収まっているか否かを判定してもよい。
【0017】
当該構成の描画支援装置によれば、エージェントに、自らが描画した対象物を構成する要素が、当該対象物の第2因子に鑑みて設計上適切であるか否かを検証させながら描画作業を進行させることができる。
【0018】
なお、前記第2演算処理手段が、前記対象物の第1因子に基づいて前記対象物の第2因子を認識してもよい。また、描画支援装置が、前記エージェントにより指定される前記対象物の第2因子を認識するための第2インターフェースをさらに備え、前記第2演算処理手段が、前記第2インターフェースを通じて前記対象物の第2因子を認識してもよい。
【0019】
前記第2演算処理手段が、前記判定結果と、前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方と、前記第2因子とを対応付けてデータベースに保存し、新たな要素の前記第2因子に基づき、前記データベースから肯定的もしくは否定的な前記判定結果に応じた前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方、または、前記判定結果と前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方とを検索した上で、当該検索情報を前記エージェントに対して出力してもよい。
【0020】
当該構成の描画支援装置によれば、判定結果と、指標値および第1因子のうち一方または両方と、第2因子とが対応付けられてノウハウとしてデータベースに累積的に保存される。これにより、エージェントにノウハウ蓄積のための手間をかけさせることなく、このノウハウを有効利用しながら描画作業を行わせることができる。
【0021】
前記第2演算処理手段が、前記第1演算処理手段により前記新たな要素が認識されたことに応じて、前記検索情報として複数の前記指標値を出力した上で、前記複数の指標値のうち前記エージェントにより選択された1つの指標値を認識するとともに、当該選択指標値に整合するように前記新たな要素の前記第1因子を調節した上で、前記新たな要素を前記ディスプレイに表示してもよい。
【0022】
当該構成の描画支援装置によれば、新たな要素に応じた複数の指標値のうち1つを選択するという簡易な操作により、それまでに蓄積されているノウハウ、すなわち、当該選択された1つの指標値に応じた第1因子をエージェントに認識させることができる。その結果、当該新たな要素の第1因子をどのように設定するのが、当該要素により構成される対象物の設計の観点から適当であるかまたは不適当であるかをエージェントに認識させながら当該設計作業を進行させることができる。
【0023】
前記第2演算処理手段が、前記第1演算処理手段により前記新たな要素が認識されたことに応じて、前記検索情報として複数の前記第1因子を出力した上で、前記複数の第1因子のうち前記エージェントにより選択された1つの第1因子を認識するとともに、当該選択第1因子に合致するように前記新たな要素の前記第1因子を調節した上で、前記新たな要素を前記ディスプレイに表示してもよい。
【0024】
当該構成の描画支援装置によれば、それまでに蓄積されているノウハウ、すなわち、新たな要素の複数の第1因子をエージェントに認識させることができる。その結果、当該新たな要素の第1因子をどのように設定または選択するのが、当該要素により構成される対象物の設計の観点から適当であるかまたは不適当であるかをエージェントに認識させながら当該設計作業を進行させることができる。
【0025】
前記第2演算処理手段が、前記指標値が前記基準範囲から外れていると判定したことを要件として、前記指標値が前記基準範囲に収まるために必要な当該指標値の変化量を算定した上で、前記変化量または前記変化量を実現するための前記要素の第1因子を前記エージェントに対して通知してもよい。
【0026】
当該構成の描画支援装置によれば、新たな要素の第1因子をどのように変更するのが、当該要素により構成される対象物の設計の観点から適当であるかまたは不適当であるかをエージェントに認識させながら当該設計作業を進行させることができる。
【0027】
前記第2演算処理手段が、前記対象物がその設計上不適切であることを示すメッセージ、または、前記指標値が前記基準範囲から外れる原因となった要素を他の要素と識別可能な形態で前記ディスプレイに表示させてもよい。
【0028】
当該構成の描画支援装置によれば、エージェントに、自らが描画した対象物を構成する要素が設計上適切であるか否かを認識させながら、特に、対象物の設計上不適切であると判断された原因である要素を認識させることができる。そして、設計上不適切な要素の第1因子の変更等の処置をエージェントにとらせ、このエージェントに対象物の円滑な設計作業を進行させることができる。
【0029】
前記第2演算処理手段により前記対象物がその設計上不適切であると判定されてから、前記第1演算処理手段により前記要素の新たな第1因子が認識された後における前記判定結果が肯定的であることを要件として、前記第2演算処理手段が、新たな第1因子を有する前記対象物がその設計上不適切であることの通知を停止する、あるいは、新たな第1因子を有する前記対象物がその設計上適切であることを通知してもよい。
【0030】
当該構成の描画支援装置によれば、先に描画した要素が対象物の設計上不適切であるという判定結果に応じて、エージェントにより描き直されたまたは第1因子が変更された新たな要素が、この対象物の設計上適切になったか否かをエージェントに認識させながらその設計作業を進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態としての描画支援装置の構成説明図。
【図2】描画支援装置の描画モードにおける第1の機能を示すフローチャート。
【図3】描画モードにおける要素の認識形態に関する説明図。
【図4】描画モードにおける要素の認識形態に関する説明図。
【図5】描画支援装置の描画モードにおける第2の機能を示すフローチャート。
【図6】描画支援装置の描画モードにおける機能説明図。
【図7】描画支援装置の描画モードにおける機能説明図。
【図8】描画支援装置の描画モードにおける機能説明図。
【図9】編集モードにおける要素の認識形態に関する説明図。
【図10】編集モードにおける要素の認識形態に関する説明図。
【図11】確認モードにおける対象物の指標値の評価形態に関する説明図。
【図12】確認モードにおける対象物の指標値の評価形態に関する説明図。
【図13】要素および対象物の第1例示図。
【図14】要素および対象物の第2例示図。
【図15】要素および対象物の第3例示図。
【図16】描画支援装置の編集モードにおける機能説明図。
【図17】要素および対象物の第4例示図。
【図18】要素および対象物の第5例示図。
【図19】要素および対象物の第6例示図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の描画支援装置の実施形態について図面を用いて説明する。
【0033】
まず描画支援装置の構成について説明する。図1に示されている描画支援装置1は、ペン2と、液晶タッチ式のパネル3と、コントローラ4とを備えている。
【0034】
ペン2はエージェントにより保持される「描画ツール」に相当する。ペン2に代えてまたは加えてマウス等のポインティングデバイスが描画ツールとして採用されてもよい。ペン2は後述する種々の操作のための操作ボタン22を備えている。なお、描画支援装置1の構成要素である入力装置としてのキーボードを構成する一または複数のキーが操作ボタン22として割り当てられてもよい。
【0035】
パネル3は、このパネル3に対するペン2の接触箇所または先端部(ポインタ)の位置軌道を感知または認識するための「第1インターフェース」を構成する。「位置軌道」とは位置の時間変化態様を意味する。「位置」はたとえばパネル3において定義される直交座標軸における座標値により特定される。
【0036】
パネル3は「ディスプレイ」として、ポインタの位置軌道に応じた第1因子を有する要素を表示する。「第1因子」は形状、姿勢および配置のうち一部または全部を意味する。位置または配置が第1因子として定義される「点」、ならびに、形状、姿勢および配置(端位置、中心位置または重心位置など)が第1因子として定義される「線分」および点または線分の一塊の集合である「塗り潰し」などが「要素」に該当する。ディスプレイが第1インターフェースを構成するパネル3とは別個に設けられてもよい。
【0037】
描画支援装置1の本体には、パネル3の左右に配置されている複数の操作ボタン12が設けられている。操作ボタン12の少なくとも一部は、一または複数の要素により表現される対象物の、エージェントにより指定される第2因子を認識するための「第2インターフェース」を構成する。「第2因子」は材料、種類、製造条件、組み付け条件および組み立て条件のうち一部または全部を意味する。なお、第1インターフェースが、第2インターフェースとして構成されてもよい。
【0038】
また、操作ボタン12は「描画モード」、「編集モード」、「確認モード」および「メモモード」等のエージェントによる切り替え操作を可能としている。さらに、操作ボタン12はエージェントによる編集コマンドの切り替え操作を可能としている。操作ボタン12は、パネル3に配置される感圧式または接触感知式のボタンであってもよい。なお、描画支援装置1の構成要素である入力装置としてのキーボードを構成する一または複数のキーが操作ボタン12として割り当てられてもよい。
【0039】
コントローラ4は装置1の本体に内蔵されているコンピュータ(CPU、ROM、RAM、I/O回路、A/D回路等により構成されている。)により構成されている。コントローラ4を構成するCPUが、コントローラ4を構成するメモリまたは記憶装置から本発明の「描画支援プログラム」を読み出した上で、当該読み出したプログラムにしたがって後述する種々の演算処理を実行することにより、エージェントによる描画作業が支援される。
【0040】
コントローラ4は「第1演算処理手段」および「第2演算処理手段」のそれぞれとして、後述するような演算処理を実行する。第1演算処理手段および第2演算処理手段は、コントローラ4を構成する物理的に一部または全部が共通するモジュールにより構成されてもよいし、物理的に別個のモジュールにより構成されてもよい。
【0041】
なお、描画支援装置1の構成要素が情報を「認識する」とは、構成要素が当該情報またはこれを表わすデータを記憶装置から読み出すことまたはデータベースから検索すること、データベースから検索等された基礎データまたはセンサの出力信号に対して演算処理を実行することにより、当該情報を測定、設定、算出または推定などすること、または、当該情報等を記憶装置(またはメモリ)に保存または格納すること等、当該情報等を利用する他の演算処理のために準備するためのあらゆる演算処理を実行することを意味する。
【0042】
前記構成の描画支援装置1の機能、すなわち、コントローラ4により実行される描画支援方法について説明する。
【0043】
(描画モードにおける第1の機能について)
【0044】
描画モードにおける描画支援装置1の第1の機能について説明する。描画モードにしたがって自動車の設計図等、さまざまな線画、線分または図形が描画される。
【0045】
まず、第1インターフェースを構成するパネル3を通じて、パネル3に対するペン2の接触箇所の位置軌道が、ポインタの位置軌道として認識される(図2/STEP102)。
【0046】
パネル3に接触するエージェントの指先等の身体部分の位置軌道が、ポインタの位置軌道として認識されてもよい。ペン2の先端部の位置軌道に代えてまたは加えて、マウス等のポインティングデバイスの動きにより変位する、パネル3に表示されているポインタの位置軌道が認識されてもよい。第1インターフェースを通じて認識されたポインタの位置軌道(ジェスチャー)に応じて後述する複数のモードが切り替えられてもよいし、コマンドキーまたはショートカットキーの操作に応じて当該複数のモードが切り替えられてもよい。
【0047】
また、ポインタの位置軌道に基づき、要素の「第1因子」が認識される(図2/STEP104)。
【0048】
「描画モード」において、「点」の位置または配置、「線分」、または、点もしくは線分の一塊の集合である「塗り潰し」の形状、姿勢および配置(端位置、中心位置または重心位置など)が第1因子として認識される。ポインタの位置がパネル座標系における座標値(X,Y)により表わされる場合、要素としての点の位置(配置)が同一または異なる座標系における座標値であることが認識される。ポインタの位置軌道そのもののほか、当該位置軌道が整形または位置または姿勢が若干変更された結果が要素として認識されうる。
【0049】
たとえば、図3(a)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道が所定値未満の長さの線分である場合、図3(a)右側に示されているように当該線分の始点が要素として認識される。
【0050】
図3(b)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道(初期要素)が既存要素(パネル3に表示されている要素を意味する。)としての点を囲む場合、図3(b)右側に示されているように当該点を中心とし、かつ、当該位置軌道との近接度が最も近い円が要素(整形後の初期要素)として認識される。
【0051】
図3(c)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道(初期要素)が既存要素としての線分に近接するまたは重なるように閉領域を画定する場合、図3(c)右側に示されているように当該閉領域の重心を中心とし、かつ、当該線分に接する円が要素(整形後の初期要素)として認識される。
【0052】
図3(d)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道(初期要素)が閉領域を画定する場合、図3(d)右側に示されているように当該閉領域の重心を中心とする円が要素(整形後の初期要素)として認識される。
【0053】
また、図4(a)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道(初期要素)が既存要素としての一の線分に大まかに平行な線分である場合、図4(a)右側に示されているように当該一の線分に平行な他の線分が要素(整形後の初期要素)として認識される。
【0054】
図4(b)左側に太線で示されているようにポインタの位置軌道(初期要素)が既存要素としての複数の点に重なるまたは近接する線分である場合、図4(b)右側に示されているように当該複数の点を通る線分が要素(整形後の初期要素)として認識される。
【0055】
対象物が3次元的に描画される場合、パネル3に表示される対象物を臨む光軸または視点を表わすベクトルに基づき、2次元のパネル座標系における直交座標値(X,Y)または極座標値(R,Θ)が仮想的な3次元座標系に座標変換された結果としての直交座標値(x,y,z)または極座標値(r,θ,φ)が認識されうる。
【0056】
当該3次元座標系における座標値は対象物の実空間におけるサイズに応じてスケーリングされてもよい。スケーリング比は後述するように指定される対象物の種類に応じて可変的に調節されてもよい。たとえば、実空間において比較的大きい対象物(車両ボディ全体等)のスケーリング比は、実空間において比較的小さい物体(車両のフロントパネル等)のスケーリング比よりも大きく設定される。ポインタの位置軌道の形状が直線状である場合、要素としての線分の形状が直線状であることが認識される。
【0057】
要素としての塗り潰しの形状が円形状、矩形状または三角形状等であることが認識される。要素により画定された閉領域が操作ボタン12の操作またはポインタの位置軌道により表わされるジェスチャーに応じて、当該要素および閉領域が要素としての塗り潰しとして認識されてもよい。
【0058】
ポインタの位置軌道に応じて、一の要素がたとえば「点」および「非常に短い線分」のうちいずれとしても解釈されうる等、一の要素が描画支援装置1によって複数種類の要素として解釈される可能性がある。この場合、描画支援装置1により、当該複数種類の要素のうち、ポインタの位置軌道にかんがみて最も尤度が高い一の要素が「第1候補」としてパネル3に表示される。
【0059】
一定時間の経過、または、エージェントによる操作ボタン12もしくは22を通じた確定操作に応じて、第1候補が要素として最終的に認識される。その一方、第n候補(n=1,2,‥)がパネル3に表示されているエージェントによる操作ボタン12または22を通じた次候補要求操作に応じて、描画支援装置1により、第n候補に次いで尤度が高い「第n+1候補」が第n候補に代えてパネル3に表示される。そして、一定時間の経過、または、エージェントによる操作ボタン12もしくは22を通じた確定操作に応じて、第n+1候補が要素として最終的に認識される。
【0060】
なお、同一のまたは類似するポインタの位置軌道に応じて、エージェントごとに異なる手書きの癖が考慮されたうえで尤度が算出されてもよい。たとえば、ポインタの位置軌道が極小である場合、一のエージェントについては「点」よりも「非常に短い線分」のほうが尤度が高く算出される一方、他のエージェントについては「非常に短い線分」よりも「点」の尤度が高く算出されてもよい。
【0061】
また、同一または類似するポインタの位置軌道に応じて、描画状況が考慮された上で尤度が算出されてもよい。たとえば、種類Aの部品の設計のための描画作業中である場合と、種類Aとは異なる種類Bの部品の設計のための描画作業中である場合とで、同一の一軌道であっても、各要素候補の尤度が異なって算出されてもよい。
【0062】
ポインタの位置軌道に応じて前記のように。パネル3に順次表示されうる候補の数が過多とならないように、尤度がある基準値以上であることが候補として選定される条件とされてもよい。要素の候補数が制限されることにより、エージェントによる直感的操作性が損なわれることが回避されうる。
【0063】
尤度の算出、尤度に応じた候補の表示およびエージェントの意思表示に応じた候補の最終確定という一連の処理により。エージェントに候補選択のわずらわしさを覚えさせることなく、複数種類の候補の選択によって簡易に要素を確定させることができるというメリットが生じる。
【0064】
(描画モードにおける第2の機能について)
【0065】
描画モードにおける描画支援装置1の第2の機能について説明する。
【0066】
まず、第1インターフェースを構成するパネル3を通じて、パネル3に対するペン2の接触箇所(ポインタ)の位置軌道が感知され、この位置軌道に応じた要素が「第1要素」として認識または感知される(図5/STEP202)。
【0067】
これにより、たとえば図6に示されているようにパネル3において既存の第2要素L2の下方に、当該位置軌道に応じた第1要素L1が表示される。
【0068】
続いて第2要素のうち、第1要素と指定配置関係にあるという要件を満たす第2要素が基準要素として指定される(図5/STEP204)。ここで、第1要素との平行度合が閾値以上であることが「指定配置関係」として設定されている場合を考える。
【0069】
この場合、図6に示されているように第1要素L1における各サンプリングポイントpi(i=1,2,‥,n)における第1要素L1と第2要素L2との間隔Diの平均値A(=Σii/n)と、当該間隔Diの最大値B(=max{Di})と、当該間隔Diの最小値C(=min{Di})とにより表わされる条件式(1)および(2)を満たす第2要素L2が基準要素L0として指定される。
【0070】
(B−A)/A≦α(αはたとえば「0.5」) ‥(1)
(A−C)/A≦β(βはたとえば「0.5」) ‥(2)
【0071】
また、第1要素と指定配置関係にある第2要素が複数存在する場合、当該複数の第2要素のうち、第1要素に最も近い第2要素、または、第1要素との並行度合が最も高い(間隔Diの分散が最も小さい)第2要素が基準要素として設定される。
【0072】
たとえば図6に示されている第1要素L1および基準要素L0の距離の長短は隣り合うサンプリングポイントpiおよびpi+1の間隔Liと、サンプリングポイントpiにおける基準要素(=第2要素L2)との間隔Diとの積の平均値(=ΣDii/n)の大小によって評価される。
【0073】
これにより、たとえば図7(a)において第1要素(破線)L1の下方にある第2要素L21およびL22がともに第1要素L1と指定配置関係にある場合、第1要素L1に最も近い上側の第2要素L21が基準要素L0として指定される。
【0074】
さらに、基準要素の第1因子に基づいて第1要素(初期要素)の第1因子が変更される(図5/STEP206)。具体的には、第1要素L1のサンプリングポイントpiにおける基準要素L0との間隔Di(図3参照)がすべて等しくなるように第1要素L1が整形される。
【0075】
これにより、図7(b)に示されているように第1要素L1が基準要素L0=L21に平行になるように整形され、当該整形後の第1要素L1(L0=L21)(整形後の初期要素)がパネル3に表示される。L1(L)は、要素Lの形状等に基づいて形状等が変更された第1要素Lを意味する。
【0076】
また、指定操作の有無が判定され(図5/STEP208)、指定操作があった場合(図5/STEP208‥YES)、指定操作の対象となった第2要素が新たな基準要素として指定され(図5/STEP204)、この基準要素の形状等に基づいて第1要素の形状等があらためて変更される(図5/STEP206)。
【0077】
たとえば、図7(b)に示されている状態でペン2を用いた指定操作(ペン2の操作ボタン22の押し操作またはパネル3上におけるペン2の所定の位置軌道生成操作等)があった場合、それまで基準要素L0として指定されていた第2要素L21に代えて、前記のように第1要素L1と指定配置関係があるもう1つの第2要素L22が新たな基準要素L0として指定される。
【0078】
そして、図7(c)に示されているように新たな基準要素L0=L22に平行になるように第1要素L1(L21)(初期要素)が整形され、当該整形後の第1要素L1(L0=L22)(整形後の初期要素)がパネル3に表示される。
【0079】
図7(c)に示されている状態で指定操作があった場合、図7(d)に示されているように第1要素L1I(初期要素)が自身の形状に基づいて整形され、当該整形後の第1要素L1(L1)(整形後の初期要素)がパネル3に表示される。
【0080】
図7(d)に示されている状態で指定操作があった場合、最初の第2要素L21が再び基準要素L0として指定され、図7(b)に示されているように当該基準要素L0に平行になるように整形された第1要素L1(L0=L21)(整形後の初期要素)がパネル3に再び表示される。
【0081】
なお、図7(c)に示されている状況で指定操作があった場合、ただちに最初の第2要素L21が再び基準要素L0として指定され、図7(b)に示されているように当該基準要素L0に平行になるように整形された第1要素L1(L0=L21)(整形後の初期要素)がパネル3に再び表示されてもよい。コントローラ4により整形された第1要素L1(L0)の近傍範囲におけるペン2の先端部の上下左右の動きが検知され、この検知された動きに応じてパネル3における当該第1要素L1の表示位置が上下左右に変更されてもよい。
【0082】
第1要素と基準要素との間隔が、コントローラ4により間隔調節操作があったことが感知されたことに応じて調節されてもよい。「間隔調節操作」としては、パネル3の所定箇所へのペン2の接触または摺動操作、または、ペン2の操作スイッチ22の押し操作のほか、描画支援装置1に設けられているその他の操作スイッチ(図示略)の操作等が採用される。さらに、基準要素と、この基準要素と平行な第1要素との間隔が、ペン2の動きによりコントローラ4により感知される数値、または、その他の操作スイッチによりコントローラ4に入力された数値に一致するように調節されてもよい。
【0083】
一定期間内に指定操作がないと判定された場合(図5/STEP208‥NO)、凍結操作の有無が判定される(図5/STEP210)。ペン2を用いた凍結操作(ペン2の操作ボタン22の押し操作またはパネル3上におけるペン2の所定の位置軌道生成操作)があった場合(図5/STEP210‥YES)、凍結操作の対象とされた第1要素が第2要素として認識される(図5/STEP212)。これにより、それまで第1要素として認識されていた要素の形状等がコントローラ4を構成する記憶装置に保存され、描画モードにおいては形状等が変更されない状態になる。
【0084】
続いて、解凍操作の有無が判定される(図5/STEP214)。なお、凍結操作が無いと判定された場合(図5/STEP210‥NO)、第1要素が第2要素として認識されることなく、基準要素の指定以降の処理が繰り返される(図5/STEP204等参照)。ペン2の操作ボタン22の押し操作またはパネル3上におけるペン2の所定の位置軌道生成操作等が解凍操作として採用される。
【0085】
解凍操作があったと判定された場合(図5/STEP214‥YES)、解凍操作の対象とされた第2要素が第1要素として認識される(図5/STEP216)。そして、新たな第1要素を対象として基準要素の指定以降の処理が再び実行される(図5/STEP204等参照)。
【0086】
解凍操作がないと判定された場合(図5/STEP214‥NO)、ペン2の新たな位置軌道の認識以降の処理が繰り返される(図5/STEP202等参照)。
【0087】
描画モードにおいて図8(a)に示されているように2つの第2要素L21およびL22の交点に近似し、かつ、両端が当該2つの第2要素L21およびL22のそれぞれに含まれる第1要素(破線)L1が認識された場合、第2要素L21およびL22が基準要素として指定され、図8(b)に示されているように第2要素L21およびL22に両端が接触する1つの円弧に第1要素L1が整形され、当該整形後の第1要素L1(L21,L22)がパネル3に表示される。
【0088】
(編集モードにおける機能について)
【0089】
「編集モード」において、ポインタの位置軌道に基づき、対象要素および第1因子の変更態様(ジェスチャー)が認識された上で、この態様にしたがって変更された後における当該対象要素の新たな第1因子が認識される。たとえば、ジェスチャーが対象要素としての線分の長さを変更することを表わしている場合、3次元座標系における当該線分の変更後の長さを含む新たな第1因子が認識される。
【0090】
ジェスチャーが対象要素としての線分の中心位置を変化させることを表わしている場合、3次元座標系における当該線分の変更後の中心位置を含む新たな第1因子が認識される。ジェスチャーが対象要素としての線分の姿勢(曲率中心の位置等により特定される。)を変化させることを表わしている場合、3次元座標系における変更後の姿勢を含む新たな第1因子が認識される。
【0091】
たとえば、図9(a)左側に示されているようにポインタの位置軌道が既存要素としての線分をチョップ所定値未満の長さの線分である場合、図9(a)右側に示されているように当該線分が当該チョップ箇所において切断された2つの線分が新たな要素として認識される。
【0092】
図9(b)左側に示されているように三角形状の閉領域を画定する3つの線分および当該3つの線分のうち2つに接する円が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が円に接していない1つの線分をチョップする場合、図9(b)中央に示されているようにこの円に接するように平行移動された当該1つの線分が新たな要素として認識される。
【0093】
図9(b)中央に示されているように三角形状の閉領域を画定する3つの線分および当該3つの線分のすべてに接する円が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が当該3つの線分のうち1つの線分をチョップする場合、図9(b)右側に示されているようにこの円から離れるように平行移動された当該1つの線分が新たな要素として認識される。
【0094】
図9(c)左側に示されているように複数の点および当該複数の点を通る線分が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が複数の点のうち1つの点に重なる場合、図9(c)右側に示されているように当該複数の点のうち当該1つの点を除く点を通る線分が新たな要素として認識される。
【0095】
また、図10(a)左側に示されているように線分、当該線分上の点および当該線分から離れた点が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が線分から離れた点に重なる場合、図10(a)右側に示されているように線分上の点および当該線分から離れた点のすべての近似直線状の線分、または、当該すべての点を通る蛇行線分が新たな要素として認識される。
【0096】
図10(b)左側に示されているように線分および当該線分上の複数の点が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が当該複数の点のうち1つの点に重なる場合、図10(b)右側に示されているように当該複数の点から当該1つの点を除いた点を通る線分、および、当該1つの点が新たな要素として認識される。
【0097】
図10(c)左側に示されているように相互に離れている2つの線分が既存要素として認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が2つの線分の中間点を結ぶ曲線状である場合、図10(c)右側に示されているように2つの線分のそれぞれのうち中間点までいたる部分が当該曲線により接続されたような1つの連続した線分が新たな要素として認識される。
【0098】
なお、基礎となる既存要素はポインタの位置軌道ではなく、描画支援装置1の外部からDVD等の記録媒体またはインターネット等を通じて得られたデータに基づいて認識されてもよい。
【0099】
さらに、認識された第1因子を有する要素がパネル(ディスプレイ)3に表示される(図2/STEP106)。
【0100】
これにより、たとえば図13に示されているような蛇行した閉領域を画定する形状の線分が追加または変更された新たな要素として認識される。
【0101】
また、図14に示されているように、既存要素としての複数の線分(破線)により3次元的に表現されている対象物を構成する部品を画定するための複数の線分(実線)が新たな要素として認識される。
【0102】
さらに、図15(a)に示されているように、既存要素としての複数の線分(破線)により3次元的に表現されている物体に重ねて、ポインタの位置が矢印で示すように変化するとともに、左下に示されているような多角形が指定された場合、図15(b)に示されているように当該指定多角形により表わされる断面形状を有し、ポインタの位置軌道に沿った補強リブを表現する線分(実線)が新たな要素として認識される。
【0103】
対象物が要素により3次元的に表現される場合、当該対象物を臨む視点(またはパネル3に表示される3次元対象物を見る方向)が、ポインタの位置軌道またはエージェントによる操作ボタン12の操作に応じて変更されてもよい。
【0104】
また、第2インターフェースを構成する操作ボタン12またはパネル3を通じて、エージェントにより指定された対象物の「第2因子」が認識される(図2/STEP108)。
【0105】
たとえば、車両のフロントパネル、ボディ、ドア、ハンドル、オーナメントまたは座席等、対象物の種類が第2因子として認識される。また、対象物の種類に応じて樹脂または金属等、当該対象物を構成する材料の種類、製造に際して用いられる工具、金型または工作機械などの様式等の製造条件が、第1因子または部品識別番号等に基づくデータベースの検索等によって第2因子として認識されうる。
【0106】
なお、対象物の第1因子に基づいて第2因子が認識されてもよい。たとえば、要素により表現される対象物の外形に基づき、データベースにおいて対象物の各種類に対応付けられて保存されている外形パターンが参照されることにより、当該対象物が車両のフロントパネルである等、対象物の種類が認識されうる。
【0107】
第2因子はエージェントによりキーボード等の入力装置により入力された部品識別番号等に基づき、認識されてもよい。また、前記のように認識された対象物の種類に基づき、データベースにおいて対象物の各種類に対応付けられて保存されている当該対象物の材料が参照されることにより、当該対象物がある合成樹脂により構成される等、対象物の材料が認識されてもよい。
【0108】
さらに、要素の第1因子の認識結果に基づき、当該要素により表現される対象物の設計上の適切性を表わす一または複数の指標値が評価される(図2/STEP112)。
【0109】
具体的には、対象物の部分的または全体的な高さ、幅および厚さ、対象物の折れ曲がり箇所の曲率または角度、一の対象物を構成する要素と他の対象物を構成する要素との間隔、ならびに、対象物を構成するとともに要素により画定される部品の数のうち一部または全部が指標値として評価される。
【0110】
(確認モードにおける機能について)
【0111】
「確認モード」において、第1インターフェースを通じて認識されたポインタの位置軌道(ジェスチャー)に応じて、評価対象となる要素および指標値の種類が選定されうる。
【0112】
たとえば、図11(a)左側に示されているように交わっている2つの線分が既存要素として認識されている状態で、ポインタの位置が太線で示されているように当該2つの線分にまたがるように変化した場合、図11(a)右側に示されているように当該2つの線分が2次元または3次元座標系においてなす角度が指標値として決定される。
【0113】
図11(b)左側に示されているように円が既存要素として認識されている状態で、ポインタの位置が太線で示されているように当該円およびその中心にまたがるように変化した場合、図11(b)右側に示されているように当該円の直径が指標値として決定される。
【0114】
図11(c)左側に示されているように点が既存要素として認識されている状態で、ポインタの位置が太線で示されているように当該点にまたがるように変化した場合、図11(c)右側に示されているように当該点の2次元または3次元座標系における座標値が指標値として決定される。
【0115】
図12(a)左側に示されているように線分が既存要素として認識されている状態で、ポインタの位置が太線で示されているように当該線分の脇に沿って変化した場合、図12(a)右側に示されているように当該線分の2次元または3次元座標系における長さが指標値として決定される。
【0116】
図12(b)左側に示されているように多角形が既存要素として認識されている状態で、ポインタの位置軌道が太線で示されているように当該多角形の1つの頂点および1つの辺を通る場合、図12(b)右側に示されているように当該位置軌道に応じた近似直線による、当該1つの頂点における多角形の頂角の分割角と、当該1つの辺の長さの分割比とが指標値として決定される。
【0117】
なお、1つのジェスチャーに応じて1つの対象物の複数種類の指標値が認識されてもよい。また、1つのジェスチャーに応じて1つの対象物の複数個所における指標値が認識されてもよい。たとえば、図13に示されているように閉領域を画定する既存要素としての線分が認識されている状況で、太線で示されているようにポインタの位置軌道が当該線分をチョップする場合、当該線分により形状等が定まる対象要素の複数個所における厚さt1〜t5および複数の折れ曲がり箇所における折れ曲がり角度θ1〜θ2のそれぞれが指標値として計算される。
【0118】
また、図14に示されているように、既存要素としての複数の線分(破線)により3次元的に表現されている対象物を分割する複数の線分(実線)が新たな要素として認識された場合、当該分割線分により定まる当該対象物の構成部品数が指標値として認識されうる。
【0119】
さらに、図15(b)に示されているように、既存要素としての複数の線分(破線)により3次元的に表現されている対象物に取り付けられたリブを表現する複数の線分(実線)が新たな要素として認識された場合、当該リブの数もしくは断面積、リブのある部分の厚さ、または、リブの有無に応じた対象物の厚さの偏差等が指標値として認識されうる。
【0120】
要素が不足している等の原因により指標値が評価されえない場合、当該指標値が評価されうる状態になるまでポインタの位置軌道の認識等の処理が繰り返される(図2/STEP102〜STEP108参照)。また、エージェントによる要素の評価リクエストの有無が判定され、当該リクエストがあったと判定されたことを要件として指標値が評価されてもよい。たとえば、ペン2の操作ボタン22による確認モードへの切り替え操作の有無に応じて、当該評価リクエストの有無が判定されうる。
【0121】
また、対象物の第2因子に基づき、基準範囲が認識される(図2/STEP114)。具体的には、設計基準または過去の設計図面データが保存されているデータベースが、第2因子に基づいて検索されることにより基準範囲が検索される。
【0122】
たとえば、対象物の材料に鑑みて、当該対象物の強度または耐用性を維持する観点から定まる、当該対象物の局所的な厚さまたは全体的な平均厚さの許容範囲、当該対象物の折れ曲がり箇所における折れ曲がり角度の許容範囲、当該対象物を構成する部品数の許容範囲、または、対象物を補強するためのリブの本数の許容範囲等が基準範囲として認識される。
【0123】
さらに、指標値が基準範囲に収まっているかが判定される(図2/STEP116)。
【0124】
そして、当該判定結果が肯定的である場合(図2/STEP116‥YES)、第1通知制御処理が実行される(図2/STEP118)。これにより、対象物がその設計上不適切であることのエージェントに対する通知が省略または停止される。なお、対象物がその設計上適切であることがエージェントに通知されてもよい。
【0125】
その一方、当該判定結果が否定的である場合(図2/STEP116‥NO)、第2通知制御処理が実行される(図2/STEP118)。これにより、対象物がその設計上不適切であることがエージェントに対して通知される。
【0126】
たとえば、メッセージがパネル3に表示されることにより、エージェントにより視覚的に知覚されうる形態で、対象物がその設計上不適切であることが通知される。また、対象物の設計上不適切であると判定される原因となった要素が、他の要素と色彩または点滅の有無等の表示形態の相違により視覚的に識別可能な形態で表示されてもよい。
【0127】
そのほか、対象物がその設計上不適切であることを示す音声が、本体に設けられているスピーカ(図示略)を通じて発せられることにより、エージェントにより聴覚的に知覚されうる形態で、対象物がその設計上不適切であることが通知されてもよい。さらに、ペン2に設けられた発振回路(図示略)に通電してペン2を振動させることにより、エージェントにより触覚的に知覚されうる形態で、対象物がその設計上不適切であることが通知されてもよい。
【0128】
(メモモードにおける機能について)
【0129】
メモモードにおいてはコントローラ4が、ペン2の先端部の位置軌道により表わされるメモ(文字、数字、記号、符号等により構成される。)を認識し、このメモをパネル3に表示させる。
【0130】
前記機能を発揮する描画支援装置1によれば、ペン2の先端部の一連の位置軌道に応じた要素がパネル3に表示されるので、手描き感覚での描画作業が可能となる(図5/STEP202,図6/第1要素L1参照)。さらに、パネル3に表示されている要素のうち形状等の変更対象である「第1要素」の形状等が、当該対象から除外されている「第2要素」の中から選択された「基準要素」の形状等に基づいて変更されるので、第1要素の形状等の調整作業の負担が軽減されうる(図5/STEP206,図7(b)(c)参照)。
【0131】
また、指定操作の対象とされた第2要素が基準要素として指定されるが、指定操作に際してペン2が用いられるので、要素の手描き作業との連続性が損なわれずに済む(図5/STEP208参照)。さらに、基準要素は指定操作の対象とされた第2要素に限定されるので、形状等が異なる態様で変更された多数の第1要素が描画媒体に表示されてしまい、凍結操作が煩雑になる事態が回避されうる(図7(b)(c)参照)。また、基準要素の形状等に基づいて第1要素の形状等が指定操作に応じた任意のタイミングで変更されるので、第1要素の形状等の調整作業の負荷が軽減されうる(図5/STEP206,図7(b)(c)参照)。
【0132】
さらに、凍結操作の対象とされた第1要素が第2要素として認識されるが、凍結操作に際してペン2が用いられるので、要素の手描き作業との連続性が損なわれることなく第1要素の変更後の形状等が保存されうる(図5/STEP212参照)。また、基準要素は第1要素と指定配置関係にある第2要素に限定されるので、形状等が異なる態様で変更された多数の第1要素がパネル3に表示されてしまい凍結操作が煩雑になる事態が回避される(図5/STEP204参照)。
【0133】
また、解凍操作の対象とされた第2要素が第1要素として認識されることにより、任意の第2要素の形状等が解凍操作に応じた任意のタイミングで変更されうるので、第1要素として認識された第2要素の形状等の調整作業の負荷が軽減されうる(図5/STEP216,STEP206参照)。また、解凍操作に際してペン2が用いられるので、要素の手描き作業との連続性が損なわれることなくパネル3に表示されている任意の第2要素の形状等が変更される。
【0134】
よって、前記機能を発揮する描画支援装置1によれば、ペン2を用いた描画作業がその連続性の向上が図られながら支援されうる。
【0135】
さらに、メモモードにおいて、要素に関するメモをパネル3に表示させることができる。このため、メモの内容確認による要素の配置の仕方、または、要素の追加もしくは削除の要否などの方針決定を容易とすることにより、描画作業がその連続性の向上が図られながら支援されうる。また、編集モードにおいて、ペン2を用いた手描き感覚の操作によって既存の要素の消去が可能であるため、描画作業がその連続性の向上が図られながら支援されうる。
【0136】
特に、エージェントにより動かされるポインタの位置軌道に応じて定まる要素の第1因子が、当該要素により表現される対象物の設計上不適切であるか否かが判定され、その判定結果に応じた情報がエージェントに通知される(図2/STEP118およびSTEP120参照)。
【0137】
これにより、エージェントは自らが描画した対象物が設計上適切であるか否かを検証しながら描画作業を進めることができる。このため、描画による対象物の設計作業の終了後に当該設計上の不具合が発見され、再度の描画作業が必要になる可能性が著しく低減され、結果的に描画効率が向上されうる。
【0138】
また、指標値が前記基準範囲から外れる原因となった要素が他の要素と識別可能な形態でパネル(ディスプレイ)3に表示される。このため、エージェントは設計上不適切であると判定された対象物を構成する要素の第1因子(形状または配置など)の具体的な補正または変更指針を知ることができる。
【0139】
そして、当該指針にしたがって、たとえば線分により表現されている対象物の指定箇所における厚さが基準範囲に収まるように、当該線分の位置または姿勢等が変更される。その結果、事後的に再度の描画作業が必要になる可能性が著しく低減され、結果的に描画効率が向上されうる。
【0140】
さらに、対象物がその設計上不適切であると判定され(図2/STEP116‥NO参照)、その後、ポインタの位置軌道に応じた要素の新たな第1因子が認識された場合(図2/STEP102〜STEP104参照)、新たな判定結果に応じた情報が出力される(図2/STEP118参照)。これにより、要素の第1因子の補正または変更が、当該要素により表現される対象物の設計上適切であったことを適宜認識しながら描画による設計作業を進行させることができる。
【0141】
なお、コントローラ4により前記判定結果が否定的であることを要件として(図2/STEP116‥NO参照)、指標値が基準範囲に収まるために必要な当該指標値の変化量が算定された上で、この変化量または変化量を実現するための要素の第1因子がエージェントに対して通知されてもよい。
【0142】
これにより、エージェントは設計上不適切であると判定された対象物を構成する要素の第1因子(形状または配置など)の具体的な補正または変更指針を知ることができる。そして、当該指針にしたがって、たとえば線分により表現されている対象物の指定箇所における厚さが基準範囲に収まるように、当該線分の位置または姿勢等が変更されうる。
【0143】
第2演算処理手段は要素に応じた第2因子(図2/STEP108参照)に基づき、データベースから肯定的もしくは否定的な判定結果に応じた指標値および第1因子のうち一方または両方を検索した上で、当該検索情報をディスプレイ3に表示する等の形態でエージェントに対して出力してもよい。
【0144】
また、第2演算処理手段は判定結果(肯定的な判定結果および否定的な判定結果が区別されている。)と、指標値および第1因子のうち一方または両方とを検索した上で、当該検索情報をエージェントに対して出力してもよい。
【0145】
これにより、たとえば、対象とする要素(板状部品の上面および底面を表わす一対の線分など)に応じた第2因子(板状部品の製造条件など)に基づき、当該第2因子に対応付けられている複数の第1因子(一対の線分の間隔(板厚)など)の候補がデータベースから検索され、ディスプレイ3にリスト表示される。
【0146】
さらに、第2演算処理手段は検索情報として複数の指標値を出力した上で、複数の指標値のうち前記エージェントにより選択された1つの指標値を認識するとともに、当該選択指標値に整合するように新たな要素の第1因子を調節した上で、この新たな要素をディスプレイ3に表示してもよい。
【0147】
また、第2演算処理手段は、検索情報として複数の第1因子を出力した上で、複数の第1因子のうちエージェントにより選択された1つの第1因子を認識するとともに、当該選択第1因子に合致するように新たな要素記第1因子を調節した上で、新たな要素をディスプレイ3に表示してもよい。
【0148】
なお、要素の第1因子が、対象物の製造条件等の第2因子に基づいて認識されてもよい。
【0149】
また、前記実施形態では指定操作に応じて、第1要素との間に指定配置関係がある第2要素の中から基準要素が選択されたが(図7(b)(c)参照)、他の実施形態として指定操作に応じて、指定配置関係の有無とは無関係に任意の第2要素が基準要素として指定されてもよい。
【0150】
「指定操作」としては、ペン2がパネル3に接触したまま、指定対象である第2要素の一部を囲うようにループ状に動かされる操作、または、ペン2の先端部が指定対象である第2要素の近傍で描画媒体に接触した状態で操作スイッチ22が押される等の操作が採用される。指定操作は任意の要素を対象とし、かつ、第1要素が認識された後の任意のタイミングでコントローラ4により認識されうる。このため、任意の第2要素が任意のタイミングで基準要素として指定されうる。
【符号の説明】
【0151】
1‥描画支援装置、2‥ペン(描画ツール)、3‥パネル(描画媒体)、4‥コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エージェントにより動かされるポインタの位置軌道を認識するための第1インターフェースと、ディスプレイと、前記ポインタの位置軌道に応じた形状、姿勢もしくは配置またはこれらの組み合わせである第1因子を有する要素を前記ディスプレイに表示させるためのコントローラとを備えている描画支援装置であって、
前記コントローラが、
前記要素の第1因子を認識した上で、当該認識結果に基づいて前記要素により表現される対象物の設計上の適切性を表わす一または複数の指標値を評価する第1演算処理手段と、
前記第1演算処理手段により評価された前記指標値が、前記対象物の設計上の適切性に応じて定まる基準範囲に収まっているか否かを判定し、当該判定結果に応じた情報を前記エージェントに対して通知する第2演算処理手段とを備えていることを特徴とする描画支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記対象物の材料、種類、製造条件、組み付け条件および組み立て条件のうち一部または全部である第2因子に基づき、前記基準範囲を認識した上で、前記指標値が当該基準範囲に収まっているか否かを判定することを特徴とする描画支援装置。
【請求項3】
請求項2記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記判定結果と、前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方と、前記第2因子とを対応付けてデータベースに保存し、
新たな要素の前記第2因子に基づき、前記データベースから肯定的もしくは否定的な前記判定結果に応じた前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方、または、前記判定結果と前記指標値および前記第1因子のうち一方または両方とを検索した上で、当該検索情報を前記エージェントに対して出力することを特徴とする描画支援装置。
【請求項4】
請求項3記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記第1演算処理手段により前記新たな要素が認識されたことに応じて、前記検索情報として複数の前記指標値を出力した上で、前記複数の指標値のうち前記エージェントにより選択された1つの指標値を認識するとともに、当該選択指標値に整合するように前記新たな要素の前記第1因子を調節した上で、前記新たな要素を前記ディスプレイに表示することを特徴とする描画支援装置。
【請求項5】
請求項3記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記第1演算処理手段により前記新たな要素が認識されたことに応じて、前記検索情報として複数の前記第1因子を出力した上で、前記複数の第1因子のうち前記エージェントにより選択された1つの第1因子を認識するとともに、当該選択第1因子に合致するように前記新たな要素の前記第1因子を調節した上で、前記新たな要素を前記ディスプレイに表示することを特徴とする描画支援装置。
【請求項6】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じた初期要素を整形し、当該整形後の前記初期要素を前記要素として認識することを特徴とする描画支援装置。
【請求項7】
請求項2記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記対象物の第1因子に基づいて前記対象物の第2因子を認識することを特徴とする描画支援装置。
【請求項8】
請求項2記載の描画支援装置において、
前記エージェントにより指定される前記対象物の第2因子を認識するための第2インターフェースをさらに備え、
前記第2演算処理手段が、前記第2インターフェースを通じて前記対象物の第2因子を認識することを特徴とする描画支援装置。
【請求項9】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記指標値が前記基準範囲から外れていると判定したことを要件として、前記指標値が前記基準範囲に収まるために必要な当該指標値の変化量を算定した上で、前記変化量または前記変化量を実現するための前記要素の第1因子を前記エージェントに対して通知することを特徴とする描画支援装置。
【請求項10】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、前記対象物がその設計上不適切であることを示すメッセージ、または、前記指標値が前記基準範囲から外れる原因となった要素を他の要素と識別可能な形態で前記ディスプレイに表示させることを特徴とする描画支援装置。
【請求項11】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じて、評価対象となる前記指標値の種類を選定することを特徴とする描画支援装置。
【請求項12】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段により前記対象物がその設計上不適切であると判定されてから、前記第1演算処理手段により前記要素の新たな第1因子が認識された後における前記判定結果が肯定的であることを要件として、前記第2演算処理手段が、新たな第1因子を有する前記対象物がその設計上不適切であることの通知を停止する、あるいは、新たな第1因子を有する前記対象物がその設計上適切であることを通知することを特徴とする描画支援装置。
【請求項13】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第1演算処理手段が、前記対象物の部分的または全体的な高さ、幅および厚さ、前記対象物の折れ曲がり箇所の曲率または角度、一の対象物を構成する要素と他の対象物を構成する要素との間隔、ならびに、前記対象物を構成するとともに前記要素により画定される部品の数のうち一部または全部を前記指標値として評価することを特徴とする描画支援装置。
【請求項14】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第2演算処理手段が、エージェントによる前記要素のリクエストの有無を判定し、前記リクエストがあったと判定されたことをさらなる要件として当該前記対象物がその設計上適切であるか否かを判定することを特徴とする描画支援装置。
【請求項15】
請求項1記載の描画支援装置において、
前記第1演算処理手段が、前記第1インターフェースを通じて認識された前記ポインタの位置軌道に応じて、前記要素の第1因子を認識する、あるいは、前記要素の第1因子の変更態様を認識した上で、当該態様にしたがった変更後の前記要素の第2因子を認識することを特徴とする描画支援装置。
【請求項16】
請求項1記載の描画支援装置において、
ペン様の描画ツールを備え、
前記第1インターフェースが感圧式または接触感知式のパネルを備え、
前記第1演算処理手段が、前記描画ツールの前記パネルに対する接触箇所の位置軌道を前記ポインタの位置軌道として認識することを特徴とする描画支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−118048(P2010−118048A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239294(P2009−239294)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(507311186)カーネギーメロン大学 (2)
【Fターム(参考)】