説明

揺動軸受用外輪、揺動軸受、およびエアディスクブレーキ装置

【課題】ころおよび保持器の径方向への移動を規制する揺動軸受用外輪を提供する。
【解決手段】揺動軸受用外輪12は、内径面に軌道面13aを有する円弧形状の軌道部材13と、軌道部材13の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ軌道面13aに対して鋭角に延びる一対の鍔部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動軸受用外輪、揺動軸受、およびエアディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の揺動軸受は、例えば、WO2006/002905A1(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている揺動軸受は、内径面に軌道面を有する円弧形状である揺動軸受用外輪と、軌道面上に配置される複数のころと、複数のころを保持する保持器とを備える。また、ころおよび保持器の幅方向への移動を規制するために、揺動軸受用外輪の円周方向の全域にわたって幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部が形成されている。
【0003】
なお、同公報には、上記構成の揺動軸受が、大型商用車、トラック、またはバス等のエアディスクブレーキ装置に使用されると記載されている。
【特許文献1】WO2006/002905A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した揺動軸受用外輪は、ころおよび保持器の幅方向への移動を規制する。しかしながら、この揺動軸受用外輪は、ころおよび保持器の径方向への移動を規制することができないので、搬送時や組立て時にころおよび保持器が揺動軸受用外輪の径方向に分離したり、位置ずれが発生するおそれがある。これは、組立て工数の増加や不良品の流出の原因となる。
【0005】
そこで、この発明の目的は、ころおよび保持器の幅方向および径方向への移動を規制できる揺動軸受用外輪を提供することである。また、このような揺動軸受用外輪を採用することにより、ころおよび保持器が揺動軸受用外輪の幅方向および径方向に分離しない揺動軸受を提供することである。さらに、このような揺動軸受を採用することにより、生産性が良好なエアディスクブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る揺動軸受用外輪は、内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材と、軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ軌道面に対して鋭角に延びる一対の鍔部とを備える。これにより、ころおよび保持器が揺動軸受用外輪の幅方向および径方向に抜けるのを防止することができると共に、揺動軸受用外輪の製造工程を簡素化することができる。
【0007】
好ましくは、鍔部は、第1の鍔部と第1の鍔部と円周方向に隣接する位置に突出長さが相対的に小さい第2の鍔部とを含む。このように、鍔部の円周方向の一部について、その突出長さを減じることにより、揺動軸受用外輪の剛性が低下する。その結果、適切な予圧で揺動軸受用外輪をハウジングに密着させることができる。なお、本明細書中の「鍔部」には、第2の鍔部の突出長さが0mm、すなわち、第1の鍔部の円周方向に隣接する位置に第2の鍔部が形成されていない場合を含むものとする。
【0008】
この発明に係る揺動軸受は、上記記載の揺動軸受用外輪と、軌道面上に配置される複数のころと、複数のころを保持し、軌道面と一対の鍔部とで囲まれる領域に位置する保持器とを備える。そして、一対の鍔部の先端の距離は、保持器の最大幅寸法よりも短い。上記構成とすることにより、ころおよび保持器が揺動軸受用外輪の幅方向および径方向に抜けるのを防止することができる。
【0009】
好ましくは、保持器は、その幅方向端面に円周方向に連続する突条を有する。突条と鍔部とを係合させれば、保持器が揺動軸受用外輪の径方向に抜けるのを有効に防止することができる。
【0010】
好ましくは、鍔部は、曲げ加工によって形成される。これにより、鍔部を容易に形成することができる。
【0011】
好ましくは、保持器は、ポリアミド46と、5wt%〜20wt%の繊維状充填材とを含む樹脂製保持器である。ポリアミド46を母材とする樹脂製保持器を採用する場合、保持器に必要な機械的性質を得るためには、5wt%以上の繊維状充填材を添加する必要がある。一方、繊維状充填材の含有量が20wt%を超えると、保持器の靭性が低下して脆くなる。また、成形時の粘性が高くなり、金型等を用いて保持器を形成することが困難となる。なお、繊維状充填材としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維を採用することができる。
【0012】
この発明に係るエアディスクブレーキ装置は、上記のいずれかに記載の揺動軸受を備える。これにより、生産性が良好なエアディスクブレーキ装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ軌道面に対して鋭角に延びる一対の鍔部を設けることにより、ころおよび保持器の幅方向および径方向への移動を規制できる揺動軸受用外輪を得ることができる。また、このような揺動軸受用外輪を採用することにより、ころおよび保持器が揺動軸受用外輪の径方向に抜けるのを防止した揺動軸受を得ることができる。さらに、このような揺動軸受を採用することにより、生産性が良好なエアディスクブレーキ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図5を参照して、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を説明する。図1は図2のI−Iにおける断面図、図2は揺動軸受11の斜視図、図3は図2に示す揺動軸受用外輪12の斜視図、図4は図3の矢印IVの方向から見た矢視図、図5は図2に示す保持器16の斜視図である。
【0015】
まず、図2を参照して、揺動軸受11は、揺動軸受用外輪12と、揺動軸受用外輪12の軌道面上に配置される複数のころ15と、複数のころ15を保持する保持器16とを備える。
【0016】
次に、図1および図3を参照して、揺動軸受用外輪12は、内径面に軌道面13aを有する円弧形状の軌道部材13と、一対の鍔部14とを備える。鍔部14は、軌道部材13の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ軌道面13aに対して鋭角に延びている。また、軌道部材13には、その円周方向両端部に外向き突出片13bと、円周方向一方側端部(図3中の左側)に内向き突出片13cと、円周方向他方側端部(図3中の右側)に爪部13dとが形成されている。
【0017】
外向き突出片13bは、軌道部材13の円周方向両端面から径方向外側に向かって延びている。この外向き突出片13bは、ハウジング(図示省略)に係合して、揺動軸受用外輪12の円周方向の移動を規制する。
【0018】
また、内向き突出片13cは、外向き突出片13bの幅方向両側の2箇所から径方向内側に向かって延びている。この内向き突出片13cは、保持器16の円周方向端面に当接して保持器16が揺動軸受用外輪12の円周方向一方側に抜けるのを防止する。
【0019】
爪部13dは、軌道部材13の幅方向端面から径方向内側に向かって延びている。爪部13dは、保持器16の突条16dと係合して保持器16が揺動軸受用外輪12の円周方向他方側に抜けるのを防止する。
【0020】
次に、図4を参照して、鍔部14は、軌道部材13の円周方向端部の一部にのみ形成されている。具体的には、軌道部材13の円周方向の中央部領域(「揺動軸受11の揺動中心を含む領域」を指す。)に位置している。そして、軌道部材13の円周方向長さをL、鍔部14の円周方向長さをLとすると、0.2≦L/L≦0.8を満たすように、鍔部14の円周方向長さLを設定する。
【0021】
ここで、L/L≦0.8とすれば、揺動軸受用外輪12の剛性を十分に低下させることができる。一方、L/L<0.2とすれば、保持器16の円周方向の長さに対しして鍔部14の円周方向の長さが短すぎて、保持器16の幅方向への移動を適切に規制することができなくなる。その結果、揺動軸受11の円周方向に対する保持器16の傾きが大きくなり、ころ15および保持器16の挙動が不安定となる。
【0022】
そこで、上記構成のように鍔部14を軌道部材13の円周方向の一部に限定して形成することにより、適切な予圧で揺動軸受用外輪12をハウジングに密着させることができると共に、保持器16の幅方向への移動を適切に規制することができる。
【0023】
なお、図4においては、外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dの図示を省略している。また、爪部13dは鍔部14とは異なる役割を担っており、鍔部14の円周方向長さLには、爪部13dを含まないものとする。
【0024】
次に、図5を参照して、保持器16は、円周方向に所定の間隔を設けて複数配置される柱部16aと、柱部16aの長手方向両端部に配置される円弧形状をなす一対の連結部16bとを備える。また、隣接する柱部16aの間にころ15を保持するポケット16cが形成されている。さらに、連結部16bの幅方向端面(「揺動軸受用外輪12に組込んだときに鍔部14に対面する壁面」を指す。)には円周方向に連続する突条16dが形成されている。
【0025】
さらに、保持器16の円周方向両端部には、ポケット16cが形成されていない空白領域16eが設けられている。円周方向一方側(図2中の左側)の空白領域16eは、保持器16の円周方向の端面が内向き突出片13cに衝突したときに、ポケット16cの変形に伴うころ15の回転不良を防止する。一方、円周方向他方側(図2中の右側)の空白領域16eは、保持器16が円周方向他方側に最大限偏ったときに、揺動軸受用外輪12からはみ出す部分なので、ころ15を配置することができない。
【0026】
上記構成の保持器16は、例えば、樹脂材料を射出成形して形成される樹脂保持器とすることができる。具体的には、母材としてのポリアミド46と、強化材としての繊維状充填材とを含む繊維強化プラスチック(FRP)である。ここで、繊維状充填材としては、炭素繊維(CFRP)やガラス繊維(GFRP)を採用することができる。
【0027】
なお、保持器16に必要な機械的性質を得るためには、5wt%以上の繊維状充填材を添加する必要がある。一方、繊維状充填材の含有量が20wt%を超えると、保持器の靭性が低下して脆くなる。また、成形時の粘性が高くなり、金型等を用いて保持器16を形成することが困難となる。そこで、繊維状充填材の添加量は、5wt%〜20wt%の範囲内とするのが望ましい。
【0028】
次に、図1を参照して、保持器16は、軌道面13aと一対の鍔部14とで囲まれる領域に位置する。また、鍔部14の先端の距離は、保持器16の最大幅寸法よりも短く設定されている。具体的には、左右の突条16dの頂点を結んだ位置が保持器16の最大幅寸法となる。また、鍔部14の先端は突条16dよりも径方向内側に位置し、突条16dを径方向内側から保持している。上記構成とすることにより、保持器16が揺動軸受用外輪12の径方向に抜けるのを防止する。
【0029】
次に、上記構成の揺動軸受用外輪12の製造方法を説明する。
【0030】
上記構成の揺動軸受用外輪12は、例えば、鋼板をプレス加工して製造する。具体的には、まず、打ち抜き加工によって鋼板から略長方形状の平板を得る。次に、曲げ加工によって、軌道部材13および鍔部14を形成する。具体的には、平板の長手方向を所定の曲率に湾曲させることにより軌道部材13を形成することができる。また、平板の短手方向の両端部を起点として軌道面13aに対して鋭角に折り曲げることにより鍔部14を形成することができる。
【0031】
なお、軌道部材13の形成工程では複数回の曲げ加工を行い、徐々に所定の曲率に近づけていく。同様に、鍔部14の形成工程でも複数回の曲げ加工を行い、少しずつ折り曲げていく。また、軌道部材13を形成するための曲げ加工と、鍔部14を形成するための曲げ加工とを交互に行い、徐々に揺動軸受用外輪12の形状に近づけていくのが望ましい。このとき、鍔部14を軌道部材13の円周方向の一部に限定して形成するので、鍔部14を軌道部材13の円周方向全域に設ける場合と比較して、軌道部材13および鍔部14の形成が容易となる。
【0032】
さらに、曲げ加工によって外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dを形成する。
【0033】
次に、所定の機械的性質を付与するために揺動軸受用外輪12に熱処理を施す。具体的には、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行うのが望ましい。
【0034】
次に、軌道面13aとなる軌道部材13の内径面の表面粗さを所定値以下にするために、揺動軸受用外輪12にバレル研磨を施す。軌道面13aの表面粗さを所定値以下とすることにより、軌道面13aところ15との間の摩擦抵抗を低減して、揺動時のトルク損失や発熱を抑制することができる。その結果、長寿命で信頼性の高い揺動軸受11を得ることができる。
【0035】
次に、上記構成の揺動軸受11の組立て方法を説明する。
【0036】
まず、保持器16のポケット16cにころ15を組込む。そして、保持器16を揺動軸受用外輪12の軌道面13aに沿って挿入し、保持器16を軌道面13aと一対の鍔部14とで囲まれた領域に配置する。
【0037】
そして、予め揺動軸受用外輪12の曲率半径をハウジングの曲率半径より大きく設定し、揺動軸受用外輪12の曲率半径を小さくする方向に力(以下、「予圧」という。)を加えながら揺動軸受用外輪12をハウジングに組込む。
【0038】
ここで、上記の実施形態においては、鍔部14を軌道部材13の円周方向の一部にのみ形成することによって、揺動軸受用外輪12の剛性を低下させている。その結果、適切な予圧で揺動軸受用外輪12をハウジングに密着させることができる。
【0039】
なお、上記の実施形態においては、外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dを設けた例を示したが、これらはこの発明の必須の構成要素ではなく、省略することができる。
【0040】
また、上記の実施形態においては、軌道部材13の円周方向一方側端部に内向き突出片13cを、円周方向他方側端部に爪部13dを設けた例を示したが、これに限ることなく、爪部13dを省略して軌道部材13の円周方向両端部に内向き突出片13cを設けてもよいし、反対に、内向き突出片13cを省略して軌道部材13の円周方向両端部に爪部13dを設けてもよい。
【0041】
また、上記の実施形態においては、保持器16の幅方向端面に円周方向に連続する突条16dを設けた例を示したが、この発明の必須の構成要素ではなく、省略することができる。
【0042】
ただし、突条16dを省略した場合、保持器16の径方向への抜けを防止するためには、鍔部14の先端が保持器16より径方向内側に位置しなければならない。一方、図1に示すように、突条16dを保持器16の径方向外側に偏らせて設ければ、鍔部14の突出長さを短くすることができる。したがって、鍔部16の突出長さを短くする観点からは、保持器16の幅方向端面に突条16dを設けて、突出部14aと突条16dとを係合させるのが望ましい。
【0043】
また、上記の実施形態においては、保持器16をポリアミド46によって形成した例を示したが、これに限ることなく、他の樹脂を採用してもよい。また、樹脂製保持器に限ることなく、鋼板をプレス加工して製造する金属製保持器等であってもよい。
【0044】
上記の実施形態においては、鍔部14を軌道面13aに対して鋭角に曲げることにより、保持器16が揺動軸受用外輪12の径方向に抜けるのを防止する。ここで、保持器16が揺動軸受用外輪12の径方向に抜けるのを防止する他の方法を考える。
【0045】
具体的には、揺動軸受用外輪に軌道部材の幅方向端部から軌道面に対して直角に延びる鍔部と、鍔部の先端から軌道部材の幅方向内側に向かって延びる突出部とを設けて、突出部が保持器を径方向内側から保持するようにしてもよい。
【0046】
上記構成の揺動軸受用外輪の製造方法は、軌道部材の両端部を起点とする曲げ加工によって鍔部を形成する工程と、鍔部の先端部近傍を起点とする曲げ加工によって鍔部の先端に突出部を形成する工程とを含む。一方、この発明の一実施形態に係る揺動軸受用外輪12は、軌道部材13の両端部を起点とする曲げ加工のみによって同様の効果を得ることができる。したがって、加工性の観点からは、この発明に係る揺動軸受用外輪12を採用するのが望ましい。
【0047】
上記の実施形態においては、鍔部14を軌道部材13の円周方向中央部領域に配置した例を示したが、これに限ることなく、任意の位置に任意の個数だけ設けることができる。図6を参照して、この発明の他の実施形態に係る揺動軸受用外輪22を説明する。図6は揺動軸受用外輪22の図4に対応する図である。なお、図3および図4に示した揺動軸受用外輪12との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0048】
図6を参照して、揺動軸受用外輪22は、軌道部材23と、鍔部24a,24b(これらを総称して「鍔部24」という。)とを含む。鍔部24aは軌道部材23の円周方向一方側(図6中の左側)の端部領域に、鍔部24bは軌道部材23の円周方向他方側(図6中の右側)の端部領域にそれぞれ配置されている。
【0049】
このように、鍔部24a,24bを任意の位置に設けた場合でも、軌道部材23の円周方向長さLと、鍔部24の円周方向長さLとが0.2≦L/L≦0.8を満たしていれば、適切な予圧で揺動軸受用外輪22をハウジングに組込むことができる。なお、この場合における鍔部24の円周方向長さLは、鍔部24aの円周方向長さLと鍔部24bの円周方向長さLとの和に一致する。
【0050】
図7および図8を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る揺動軸受31を説明する。なお、揺動軸受11との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。また、図7は揺動軸受31の斜視図、図8は揺動軸受用外輪32の斜視図である。
【0051】
まず、図7を参照して、揺動軸受31は、揺動軸受用外輪32と、揺動軸受用外輪32の内径面に沿って配置される複数のころ35と、複数のころ35を保持する保持器36とを備える。なお、保持器36は図5に示す保持器16と共通するので、説明は省略する。
【0052】
次に、図8を参照して、揺動軸受用外輪32は、内径面に軌道面33aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材33と、軌道部材33の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ35および保持器36の幅方向の移動を規制する鍔部34とを含む。
【0053】
軌道部材33には、その円周方向両端部に外向き突出片33bと、円周方向一方側端部(図8中の左側)に内向き突出片33cと、円周方向他方側端部(図8中の右側)に爪部33dとが設けられている。
【0054】
なお、外向き突出片33b、内向き突出片33c、および爪部33dの構成および機能は、それぞれ外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dと共通するので、説明は省略する。また、図7のI−Iにおける断面図は図1と共通するので、説明は省略する。
【0055】
鍔部34は、第1の鍔部34aと、第1の鍔部34aと円周方向に隣接する位置に第1の鍔部34aより突出長さが相対的に小さい第2の鍔部(図示せず)とを含む。ただし、この実施形態においては、第2の鍔部の突出長さが0mm、すなわち、第2の鍔部が設けられていない。また、第1の鍔部34aは、軌道部材33の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ軌道面33aに対して鋭角に延びている。
【0056】
上記構成としても、この発明の効果を得ることができる。また、鍔部34の円周方向の一部について、その突出長さを減じることにより、揺動軸受用外輪32の剛性を低下させることができる。その結果、適切な予圧で揺動軸受用外輪32をハウジングに密着させることができる。
【0057】
揺動軸受用外輪32の製造方法は揺動軸受用外輪12と共通するので、詳しい説明は省略する。なお、この実施形態においては、鍔部34を軌道部材33の円周方向の一部に限定して形成する(隣接する第1の鍔部34aの間には鍔部の形成されていない領域が存在する)ので、鍔部を軌道部材の円周方向全域に設ける場合と比較して、軌道部材33および鍔部34の形成が容易となる。
【0058】
なお、上記の実施形態においては、複数の第1の鍔部34aを円周方向に所定の間隔を空けて配置した(第2の鍔部の突出長さが0mm)例を示したが、これに限ることなく、第1の鍔部34aと円周方向に隣接する位置に第2の鍔部を設けてもよい。第2の鍔部の突出長さを第1の鍔部34aより小さくすれば、従来の揺動軸受用外輪と比較して剛性を低下させることができる。
【0059】
さらには、上記の各実施形態においては、鍔部14,24,34を軌道部材13,23,33の一部にのみ形成した例を示したが、これに限ることなく、鍔部を軌道部材の円周方向全域に設けてもこの発明の効果を得ることができる。
【0060】
次に、図9および図10を参照して、この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置71を説明する。なお、図9はエアディスクブレーキ装置71の概略断面図、図10は制動機構80の部分拡大図である。
【0061】
まず、図9を参照して、エアディスクブレーキ装置71は、タイヤ(図示省略)と一体回転するブレーキディスク72(「ロータ」ともいう)と、一対のブレーキパッド73,74と、ブレーキシリンダ75と、制動機構80とを主に備える。
【0062】
一対のブレーキパッド73,74は、ブレーキディスク72の軸方向に隣接する位置に配置されている。また、ブレーキディスク72とブレーキパッド73,74との間には、非制動状態(ブレーキペダルを踏み込んでいない状態を指す)において、所定の隙間が設けられている。
【0063】
ブレーキシリンダ75は、容積が可変の空気室76と、空気室76への空気の供給および排出を行う吸排気口77と、空気室76の容積の変化に伴って軸方向(「図9中の矢印Aの方向およびその反対方向」を指す)に移動するアクチュエータロッド78と、アクチュエータロッド78を空気室76の容積を減じる方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね79とを含む。
【0064】
制動機構80は、一方側端部に揺動部材81を有し、他方側端部でアクチュエータロッド78と連結し、揺動部材81の揺動中心Gを中心として回動する回動レバー82と、揺動部材81を揺動自在に支持するこの発明の一実施形態に係る揺動軸受11と、揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられて、軸方向(「図9中の矢印Bの方向およびその反対方向」を指す)に移動するトラバース83と、トラバース83をブレーキパッド73,74から遠ざける方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね84とを含む。
【0065】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71は、例えば、大型商用車、トラック、またはバス等の大型で大きな制動力を必要とする車両等に採用される。
【0066】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71の動作を説明する。まず、ブレーキペダル(図示省略)を踏み込むと、吸排気口77から空気室76に空気が供給され、空気室76の容積が増大する。空気室76の容積の増大に伴って、アクチュエータロッド78がコイルばね79の弾性力に逆らって矢印Aの方向に移動する。アクチュエータロッド78に押された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを反時計回りに回動する(回動後の回動レバー82の位置を図10に一点鎖線で示す)。揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられたトラバース83は、コイルばね84の弾性力に逆らって矢印Bの方向に移動する。これにより、ブレーキパッド73,74がブレーキディスク72に押し付けられて、タイヤの回転が制動される。
【0067】
一方、ブレーキペダルを緩めると、空気室76内の空気が吸排気口77から排出され、空気室76の容積が減少する。空気室76の容積の減少に伴って、コイルばね79がアクチュエータロッド78を矢印Aと反対方向に移動させる。アクチュエータロッド78に連結された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを時計回りに回動する。そして、コイルばね84がトラバース83を矢印Bと反対方向に移動させる。これにより、ブレーキディスク72とブレーキパッド73,74との間に所定の隙間が形成されて、タイヤの制動が解除される。
【0068】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71において、揺動部材81を揺動自在に支持する軸受として、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を採用することにより、生産性が良好なエアディスクブレーキ装置71を得ることができる。
【0069】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
この発明は、揺動軸受用外輪、揺動軸受、およびエアディスクブレーキ装置に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図2のI−Iにおける断面図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図3】図2に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図4】図3の矢印IVの方向から見た矢視図である。
【図5】図2に示す保持器の斜視図である。
【図6】図4の他の実施形態を示す図である。
【図7】この発明の他の実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図8】図7に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図9】この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置を示す図である。
【図10】図9の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0072】
11,31 揺動軸受、12,22,32 揺動軸受用外輪、13,23,33 軌道部材、13a,33a 軌道面、13b,33b 外向き突出片、13c,33c 内向き突出片、13d,33d 爪部、14,24a,24b,34,34a 鍔部、15,35 ころ、16,36 保持器、16a,36a 柱部、16b,36b 連結部、16c,36c ポケット、16d,36d 突条、16e,36e 空白領域、71 エアディスクブレーキ装置、72 ブレーキディスク、73,74 ブレーキパッド、75 ブレーキシリンダ、76 空気室、77 吸排気口、78 アクチュエータロッド、79,84 コイルばね、80 制動機構、81 揺動部材、82 回転レバー、83 トラバース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材と、
前記軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に向かって、かつ前記軌道面に対して鋭角に延びる一対の鍔部とを備える、揺動軸受用外輪。
【請求項2】
前記鍔部は、第1の鍔部と、前記第1の鍔部と円周方向に隣接する位置に突出長さが相対的に小さい第2の鍔部とを含む、請求項1に記載の揺動軸受用外輪。
【請求項3】
請求項1または2に記載の揺動軸受用外輪と、
前記軌道面上に配置される複数のころと、
前記複数のころを保持し、前記軌道面と前記一対の鍔部とで囲まれる領域に位置する保持器とを備え、
前記一対の鍔部の先端の距離は、前記保持器の最大幅寸法よりも短い、揺動軸受。
【請求項4】
前記保持器は、その幅方向端面に円周方向に連続する突条を有する、請求項3に記載の揺動軸受。
【請求項5】
前記鍔部は、曲げ加工によって形成される、請求項3または4に記載の揺動軸受。
【請求項6】
前記保持器は、ポリアミド46と、5wt%〜20wt%の繊維状充填材とを含む樹脂製保持器である、請求項3〜5のいずれかに記載の揺動軸受。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の揺動軸受を備える、エアディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−19672(P2009−19672A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181949(P2007−181949)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】