説明

搬送装置

【課題】搬送装置を昇降方向に制振し、搬送装置と移載相手との受渡で物品への衝撃を小さくすること、及び搬送装置と移載相手との受渡で物品への衝撃をさらに小さくすること。
【解決手段】昇降台の高さを検出し、プーリ昇降台間の固有振動数f2を求める。ドラムプーリ間の固有振動数とプーリ昇降台間の固有振動数f2とに対し、これらの周波数域での制御量を小さくするように制振制御する。昇降停止後の物品の振動に対し、停止後の固有振動とスライドフォークの進出によるたわみとを打ち消すように、昇降モータを駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスタッカークレーンや天井走行車などの搬送装置に関し、特に昇降台の制振に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッカークレーンなどの搬送装置では、走行方向の制振が検討されてきたが、昇降方向(高さ方向)の制振はほとんど検討されていない。昇降方向の制振が必要なのは、昇降時の揺れによって物品に大きな力が加わることがあり、特にパレット単位で物品を搬送している場合荷崩れの可能性があることである。次に昇降の完了から移載の実行までに、振動が収まるまで待機してサイクルタイムを長くするか、昇降台が振動したままで移載するかの問題が生じる。ここで昇降台の振動が収まる前に移載を開始し、スライドフォークやスカラアームなどの移載手段を用いる場合、伸長に伴って移載手段にたわみが生じることと昇降台の振動とが重なって振幅が増し、移載相手の棚やステーションなどと物品が衝突し、物品に衝撃が加わることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、搬送装置を昇降方向に効果的に制振することにある。
請求項2の発明での追加の課題は、搬送装置と移載相手との間で物品を受け渡す際の、物品への衝撃を小さくすることにある。
請求項3の発明での追加の課題は、搬送装置と移載相手との間で物品を受け渡す際の衝撃をさらに小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、昇降台に物品を支持させて、昇降制御部により昇降させる搬送装置において、前記昇降台の高さ位置を求めるための手段を設けると共に、求めた高さ位置に応じて制振対象の固有振動数を変更しながら制振制御を施しつつ昇降台を昇降させるように、前記昇降制御部を構成したことを特徴とする。
【0005】
好ましくは、前記昇降台を物品を受け渡す相手方の高さレベルへ昇降させた後に、該昇降で生じた振動を打ち消すように、前記昇降制御部で昇降台を昇降させて制振制御を施す。
【0006】
また好ましくは、昇降台で支持する物品が有る場合に、無い場合よりも制振制御の制御量を増す。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、昇降台の固有振動数がその高さ位置に応じて変化することに着目し、高さ位置に応じて制振対象の固有振動数を変更して制振制御するので、昇降台の高さ方向の振動を効果的に抑制できる。
【0008】
請求項2の発明では、物品を受け渡す相手方の高さレベルへ昇降台を昇降させた後に、該昇降で生じた固有振動を制振しながら物品を受け渡しするので、物品の受け渡し時に物品が相手方に衝突して衝撃が加わることを抑制できる。
【0009】
昇降台の振動の振幅は加重により変化し、加重が増すと振幅も増す。請求項3の発明では、昇降台に物品がある場合、無い場合よりも制振制御の制御量を増すので、より効率的に制振できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0011】
図1〜図7に、実施例のスタッカークレーン2を示す。スタッカークレーン2は走行レール4に沿って走行し、6は下部台車で、マスト8を支持すると共に走行モータ10、昇降モータ12を備えている。昇降モータ12はドラム14を回転させ、ベルトやワイヤ、ロープなどの吊持材18を巻き取りあるいは繰り出しして、昇降台20をマスト8に沿って昇降させる。16はプーリで、例えばマスト8の上部にあり、昇降台20の高さ方向(昇降方向)の振動は、ドラム14とプーリ16間の吊持材による振動、並びにプーリ16と昇降台20間の吊持材による振動、の2種類に大別できる。これらの振動は、吊持材18の弾性と、昇降台20や昇降台20上の物品24の重量とによるものである。昇降台20はスライドフォーク22などの移載手段を備え、スライドフォークに22にはストレインゲージなどの重量センサを設けて、移載時の物品24による重量変化を検出することが好ましい。またスライドフォーク22に代えて、スカラアームなどを用いても良い。
【0012】
図2に、スタッカークレーン2の制御系を昇降制御を中心に示すと、高さセンサ30は昇降台20の高さ位置を求め、これはプーリ16などに設けたエンコーダや、昇降台20に設けたレーザ高さセンサなどである。なお高さセンサ30で昇降台20の高さを求める代わりに、昇降モータ12の駆動量から高さ位置を推測しても良い。さらに昇降台20に加速度センサ31を設けて、昇降方向の加速度を検出しても良い。
【0013】
制振制御データ記憶部32は、昇降台20の高さ位置を、プーリと昇降台間の吊持材による固有振動数f2に変換する。昇降台20の固有振動にはこれ以外にドラム14とプーリ16間の吊持材の弾性による振動があり、その固有振動数はほぼ一定である。さらに昇降台20の固有振動の振幅は、昇降台20の加減速度により変化する。そこで制振制御データ記憶部32は、加減速度により制御量の大小を補正するデータを記憶している。さらに昇降台20の加減速度の正負により、昇降台20の振動の位相が180°反転する。また制振制御データ記憶部32は、昇降台20への物品24の有無により制御量を補正するためのデータを記憶している。ここでは物品24の有無により制御量を変更するが、昇降台20に加わる荷重により制御量をさらに多数の段階に補正してもよい。
【0014】
昇降速度パターン発生部33は、昇降開始時の昇降台20の位置と物品24の受け渡しを行う高さレベルとの間で、昇降速度のパターンを発生させる。この昇降はストロークの大きい本昇降である。これ以外の昇降台20の昇降として、物品の受け渡しを行う際に、昇降台20を僅かに下降させて物品24をスライドフォーク22上からステーションや棚受けへ積み下ろすものや、逆にスライドフォーク22を伸長した状態で、昇降台20を微上昇させてステーションや棚受けから物品24を受け取ることがある。これらはストロークが短くかつ低速の微昇降である。そして微昇降の速度パターン自体は一定である。
【0015】
プリシェイピング部34は、昇降速度パターン発生部33で発生させた本昇降の速度パターンを整形し、固有振動数f1,f2の周囲の周波数領域で制御量を小さくする。プリシェイピング部34は、本昇降での固有振動数領域での振動を抑制するためのフィルタで、本昇降時の荷崩れや本昇降時の振動が微昇降時に持ち越されることを防止する。動的制振部35は、昇降台の高さ方向の振動を打ち消すように、これと逆位相の振動を加えて動的に制振する。動的制振部35は本昇降の間も微昇降の間も制振のため動作するが、少なくとも微昇降の段階で動作して、スライドフォークを伸長させた状態で、スライドフォークやスライドフォーク上の物品への制振を行う。動的制振部35とプリシェイピング部34の動作には共通する部分があり、プリシェイピング部34は設けなくても良い。
【0016】
昇降モータ制御部36は、昇降モータを制御して昇降台を昇降させる。本昇降では昇降速度パターン発生部33で発生させた昇降速度パターンをプリシェイピング部34により修正し、これに動的制振部35による制御量を加えて昇降モータを駆動する。本昇降の終了後は、動的制振部35のデータにより本昇降時に生じた固有振動を打ち消すように、これと逆位相の制御を昇降モータに加え、かつ物品をラックやステーションと受け渡しするための微昇降を行うように昇降モータを制御する。微昇降では物品の受け渡しにより昇降台の荷重が変化し、これによって固有振動の振幅が変化するので、物品の有無により制御量を変更する。即ち物品がある場合には物品が無い場合に比べて、より強い制振制御を行う。
【0017】
走行モータ制御部40は前記の走行モータ10を制御し、また走行方向の制振を行うために制振制御を行う。移載制御部41はスライドフォーク22を制御し、昇降モータ制御部36はスライドフォーク22の動作に同期して微昇降を行う。
【0018】
図3に昇降台の昇降速度パターンを示す。昇降台の加減速度が変化するのは図3のA〜Dの4箇所であり、これらの箇所で昇降速度の変化をなるべく滑らかにし、かつプリシェイピング部により固有振動数領域での制御を避け、動的制振部により固有振動を打ち消すように制御する。また領域Dでは、昇降台の本昇降後にスライドフォークを伸長し、物品の受け渡しを行ってスライドフォークを復帰させる。そこで領域Dでは、昇降台の停止前から動的制振部35による制御を行い、スライドフォークを伸長させている間や物品の受け渡しのための微昇降、並びにその後の復帰の間も、動的制振部35による制振を続行する。
【0019】
図4に昇降台の固有振動を示す。昇降台20はドラム14とプーリ16間の吊持材による振動数f1での振動と、プーリ16と昇降台20間の吊持材による振動数f2による2つの固有振動モードを有している。そして固有振動数f2は昇降台20の高さで定まり、2つの固有振動モードの振幅は物品24の有無により変化し、昇降台20に加わる荷重が大きい程振幅が大きくなる。そこでプリシェイピング部34では、図3の領域A〜Dで昇降速度パターンの加減速度を例えばフーリエ変換し、振動数f1,f2の成分を除くように図4の制御ゲインを乗算し、逆フーリエ変換する。プーリ16と昇降台20間の吊持材による固有振動は、ドラム14とプーリ16間の吊持材による固有振動よりも振幅が大きいので、固有振動数f1に対するプリシェイピングは省略しても良い。
【0020】
図5に実施例の制振モデルを示す。昇降台を昇降させると振動が生じ、極端な場合、昇降中に荷崩れが生じるので、昇降台の振動を抑制する必要がある。ラックやステーションとの間で物品を受け渡しするために昇降台が停止しても、昇降台の固有振動が収まるまでには時間がかかる。この間充分待機できればよいが、それではサイクルタイムが長くなる。そこで振動が収まる前にスライドフォークを伸長すると、スライドフォーク上の物品は高さ方向に振動する。スライドフォークを伸長すると、物品からの重力によりスライドフォークはたわみ、振動の中心位置が変化する。またスライドフォークがたわむということは、スライドファークが不安定な状態(たわみ前の状態)から安定な状態(たわんだ状態)へ移行することなので、この間に解放される重力エネルギーにより、スライドフォークの固有振動が生じる。この固有振動数は物品が無い場合に大きく、物品があると小さくなり、通常の場合物品の重量はほぼ一定である。そこでたわみを考慮していない位置で昇降台を停止させ、昇降台の固有振動が収まる前に受け渡しを行うと、昇降台の固有振動、及びスライドフォークのたわみと固有振動により、物品が棚受けやステーションと衝突し、物品を損傷する。昇降台の固有振動による振幅は、スライドフォークに加わる重力により変化し、荷重が大きい程、振幅が大きい。このため棚受けやステーションと物品を受け渡しすると、荷重変化により振幅が変化する。
【0021】
実施例では本昇降時の昇降台の振動を抑制すると共に、物品を受け渡しする際の振動も抑制する。物品を受け渡しする際の振動の抑制は、動的制振部35による逆位相制御により行い、昇降台停止後の固有振動の位相は測定して記憶するか、高さセンサや加速度センサなどにより、その都度固有振動の位相を測定する。そしてスライドフォーク上の物品の固有振動は昇降台の固有振動にスライドフォークの固有振動を重ねたもので、それぞれの固有振動を打ち消すように逆位相の制御を昇降モータに加える。さらに移載手段としてのスライドフォークの伸長によるたわみを打ち消すように昇降モータを駆動し、あるいは移載手段のたわみ分、本来の受け渡し位置よりも高い位置で、昇降台を停止させる。物品を受け渡しすると、昇降台の固有振動の振幅と、スライドフォークの固有振動数が変化するので、それに応じて逆位相制御の制御量を変更する。さらに物品を受け渡しした直後のスライドフォークの変形を吸収するように、昇降モータを駆動する。例えば物品を荷下ろしする場合、荷下ろしを実行するとたわみが減少するので、これを打ち消すように昇降台を下降させる。物品を荷積みするとスライドフォークのたわみが増加するので、これを補正するように昇降台を上昇させる。なお荷積み時のたわみ補正用の制御は省略しても良い。またスライドフォークの固有振動数を制振するための逆位相制御は省略しても良い。
【0022】
図6,図7に、高さ方向の昇降台の制振制御アルゴリズムを示す。制振制御は図3のA〜Dの4つの制振エリアで実行し、各エリアで昇降台の高さを固有振動数f2へ変換し、加減速度と荷重とから制御量を決定する。なお加減速度が正の時と負の時とでは、固有振動の位相が180°異なっている。次に加減速度のパターンを図4のプリシェイピング用のフィルタで処理し、固有振動数f1,f2付近の成分をカットし、昇降速度パターンを補正する。これに固有振動を打ち消すための逆位相制御の制御量を付加し、昇降モータを駆動する。移載位置に達すると本昇降を停止させ、例えば本昇降停止後の固有振動が収まるのを待たずに移載手段を伸長する。そして停止後の昇降台の上下方向の振動や、移載手段(スライドフォーク)の伸長によるたわみと固有振動を打ち消すように、昇降台を昇降させる。次いで移載のために、あるいはスライドフォークの伸長と同時に昇降台を微昇降させ、移載を実行すると、荷重の変化に応じてたわみが変化し、かつ昇降台の固有振動の振幅が変化するので、これを補正するように昇降モータを駆動する。ここで移載を行った瞬間を正確に検出するため、スライドフォーク22に図示しないストレインゲージなどを設けることが好ましい。次いで移載手段を復帰させ、復帰が終了すると制振制御も終了する。
【0023】
実施例では以下の効果が得られる。
1) 昇降台の昇降方向の制振を行い、本昇降中の荷崩れなどを防止できる。
2) 本昇降時の固有振動を、逆位相制御により速やかに解消し、物品の受け渡しを実行するまでの待ち時間を短縮できる。
3) 物品の受け渡しを行う際に、逆位相制御により固有振動を打ち消すので、物品が棚受けやステーションなどと衝突するのを防止できる。
4) スライドフォークのたわみによる、物品と棚受けやステーションとの衝突を防止できる。
5) 昇降台やスライドフォークへの荷重変化による固有振動の振幅変化に応じて、逆位相制御の強さを変更できる。特に物品を受け渡した際の振幅変化に対応した制振制御ができる。
【0024】
実施例ではスタッカークレーン2の制振制御を説明したが、吊持材で昇降台を昇降させる天井走行車等にも、同様の制振制御を行うことができる。逆位相制御に必要な昇降台やスライドフォークの固有振動の位相は、例えばテスト昇降やテスト移載などで求めることができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例のスタッカークレーンの側面図
【図2】実施例のスタッカークレーンの昇降制御系を示すブロック図
【図3】実施例のスタッカークレーンでの昇降パターンを示す模式図
【図4】実施例での昇降に対するプリシェイピング制御を示す模式図
【図5】実施例での、昇降方向の制振制御のモデルを示す図
【図6】実施例での昇降方向の制振制御アルゴリズムを示すフローチャート
【図7】図6の結合子A以降の制振制御アルゴリズムを示すフローチャート
【符号の説明】
【0026】
2 スタッカークレーン
4 走行レール
6 下部台車
8 マスト
10 走行モータ
12 昇降モータ
14 ドラム
16 プーリ
18 吊持材
20 昇降台
22 スライドフォーク
24 物品
30 高さセンサ
31 加速度センサ
32 制振制御データ記憶部
33 昇降速度パターン発生部
34 プリシェイピング部
35 動的制振部
36 昇降モータ制御部
40 走行モータ制御部
41 移載制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降台に物品を支持させて、昇降制御部により昇降させる搬送装置において、
前記昇降台の高さ位置を求めるための手段を設けると共に、求めた高さ位置に応じて制振対象の固有振動数を変更しながら制振制御を施しつつ昇降台を昇降させるように、前記昇降制御部を構成したことを特徴とする、搬送装置。
【請求項2】
前記昇降台を物品を受け渡す相手方の高さレベルへ昇降させた後に、該昇降で生じた振動を打ち消すように、前記昇降制御部で昇降台を昇降させて制振制御を施すことを特徴とする、請求項1の搬送装置。
【請求項3】
昇降台で支持する物品が有る場合に、無い場合よりも制振制御の制御量を増すことを特徴とする請求項1または2の搬送装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−276962(P2007−276962A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106419(P2006−106419)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】