説明

撮像装置及び撮像方法

【課題】本発明は、光電変換膜のハイライトキズの発生を効果的に抑制し、安定して撮像を行うことができる撮像装置及び撮像方法を提供することを目的とする。
【解決手段】撮像面に入射した光Lを電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜23を有し、該光電変換膜に蓄積された電荷を読み取ることにより撮像を行う撮像装置100、100a〜100cであって、
前記撮像を行う前に、前記光電変換膜の前記撮像面に紫外線を照射する紫外線照射手段50を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置及び撮像方法に関し、特に、撮像面に入射した光を電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜を撮像素子に用いた撮像装置及び撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セレン(Se)を主体とし且つアバランシェ増倍機能を持つ非晶質(アモルファス)半導体層と、セレンとテルル(Te)を含み且つ入射光の大部分を吸収して電荷に変換し得る機能を持つ非晶質光電変換層とを少なくとも有する光電変換膜と、光電変換膜で生成される信号電荷を読み出す電荷読み出し手段とを有する撮像装置であって、光電変換膜の温度を、非晶質光電変換層のガラス転移温度以上であって、ガラス転移温度+30℃以下に制御する温度制御手段と、光電変換層の電界が0.8×10〜1.1×10〔V/m〕となるように、電圧を印加する電圧印加手段と、を備えた撮像装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、セレンとテルルを含む光電変換膜においては、高輝度のスポット光を撮像することで発生するハイライトキズの発生を抑制することが困難であるが、上述の特許文献1に記載の撮像装置によれば、かかるハイライトキズの発生を抑制することが可能となることが知られている。
【特許文献1】特開2006−49974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の光電変換膜よりも、もっとハイライトキズの発生し易い光電変換膜が撮像装置に用いられる場合があり、例えば、ヒ素(As)を含んだ光電変換膜は、ヒ素を含まない光電変換膜よりもハイライトキズが発生し易い。このような、ハイライトキズが発生し易い光電変換膜を用いる場合には、上述の特許文献1に記載の構成では、ハイライトキズの発生を十分に抑制できない場合があるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、このようなよりハイライトキズが発生し易い光電変換膜も含めて、光電変換膜のハイライトキズの発生を効果的に抑制し、安定して撮像を行うことができる撮像装置及び撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る撮像装置は、撮像面に入射した光を電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜を有し、該光電変換膜に蓄積された電荷を読み取ることにより撮像を行う撮像装置であって、
前記撮像を行う前に、前記光電変換膜の前記撮像面に紫外線を照射する紫外線照射手段を有することを特徴とする。
【0007】
これにより、撮像前に光電変換膜に紫外線を照射することにより、光電変換膜にエネルギーを付与し、光電変換膜内で自然発生的に起こった電子の捕獲による内部の電界変動を是正することができ、良好な電荷状態で撮像を行うことができ、撮像時に発生するハイライトキズを効果的に防止することができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明に係る撮像装置において、
前記光電変換膜は、セレンを最も多く含み、ヒ素を含むことを特徴とする。
【0009】
これにより、ハイライトキズの発生が生じ易い光電変換膜を用いた場合であっても、ハイライトキズを効果的に防止することができるので、より高感度な種々の光電変換膜を適用可能な撮像装置とすることができる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る撮像装置において、
前記光電変換膜の温度を調整し、前記撮像を行っている間は、前記光電変換膜の温度を所定の温度に保つ温度制御手段を更に備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、撮像を行っている間は、温度制御により光電変換膜の保護を行うことができ、更にハイライトキズの発生を効果的に抑制することができる。
【0012】
第4の発明は、第3の発明に係る撮像装置において、
前記温度制御手段は、前記光電変換膜のガラス転移温度を中心として、±5℃の範囲内の所定温度に前記光電変換膜を調整することを特徴とする。
【0013】
これにより、温度制御による光電変換膜の保護をより効果的に行うことができ、ハイライトキズの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0014】
第5の発明に係る撮像方法は、撮像面に入射した光を電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜を有し、該光電変換膜に蓄積された電荷を読み取ることにより撮像を行う撮像方法であって、
前記撮像を行う前に、前記光電変換膜の前記撮像面に紫外線を照射する工程を有することを特徴とする。
【0015】
これにより、光電変換膜内で自然的に発生して捕獲された電子を、撮像前の紫外線エネルギーの付与により伝導帯に戻すことができ、良好な電荷状態で撮像を行うことにより、ハイライトキズの発生を効果的に抑制することができる。
【0016】
第6の発明は、第5の発明に係る撮像方法において、
前記光電変換膜は、セレンを最も多く含み、ヒ素を含むことを特徴とする。
【0017】
これにより、ハイライトキズの発生が起こりやすい光電変換膜も使用することができ、ハイライトキズに対する耐性に制約を受けず、用途に応じた適切な光電変換膜の選択が可能となる。
【0018】
第7の発明は、第5又は第6の発明に係る撮像方法において、
前記光電変換膜の温度を、所定の温度に保った状態で前記撮像を行うことを特徴とする。
【0019】
これにより、撮像中は光電変換膜の温度を適切に保って光電変換膜の保護を行うことができ、紫外線の利用と相俟って効果的にハイライトキズの発生を抑制できる。
【0020】
第8の発明は、第7の発明に係る撮像方法において、
前記温度は、前記光電変換膜のガラス転移温度を中心として、±5℃の範囲内の所定温度に保たれることを特徴とする。
【0021】
これにより、適切な温度設定として光電変換膜を保護することができ、光電変換膜のハイライトキズの発生を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光電変換膜のハイライトキズの発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0024】
図1は、本発明を適用した撮像装置の動作原理を説明するための図であり、光電変換膜103を含む部分を概略的に示した断面図である。図1において、撮像装置の光電変換膜103は、例えば非晶質セレンを主成分とする半導体層からなる。光電変換膜103の光入射面E、つまり撮像面には、正孔が光電変換膜103に注入されることを防止するバリア層102が形成されている。また、光電変換膜103の光入射面Eに対向する信号読み取り面Sには、電子が光電変換膜103に注入されることを防止するバリア層104が形成されている。
【0025】
バリア層102上には、電圧印加手段105に接続された透光性電極101が形成され、バリア層102を介して光電変換膜103に電圧を印加することが可能となっている。
【0026】
例えば、可視光などの入射光Lが、透光性電極101の側から光電変換膜103に入射すると、光電変換膜103内で、正孔と電子が発生する。光電変換膜103には、透光性電極101を介して、電圧印加手段105から正電圧が印加されているため、発生した電子は透光性電極101の方向へ、正孔はバリア層104方向へ移動する。
【0027】
このとき、バリア層104は、図示しない電子ビーム源より発する電子ビームEBによって走査され、バリア層104内に到達した正孔は、電子ビームEBの照射により供給される電子と再結合する。このようにして、入射光Lから変換された信号電荷の読み取りが行われ、入射光Lが画像信号に変換される。
【0028】
この場合、光電変換膜103に印加される電圧を、例えば光電変換膜103の電界が0.8×10〔V/m〕以上となる電圧付近まで上昇させると、入射光Lによって発生した電子と正孔のうち、特に正孔が、高い電圧で加速される。加速された正孔は、光電変換膜103内の半導体層の原子に衝突し、これにより衝突電離が生じ、電子と正孔の対が更に発生する現象が起きる。
【0029】
このような衝突電離により発生した電子と正孔のうち、特に正孔が高い速度で移動することにより、さらに新たな衝突電離が生じて電子と正孔を次々に発生させるというイオン化連鎖反応が生じる。この現象はアバランシェ増倍現象と呼ばれ、このアバランシェ増倍現象を利用することにより、高い電荷増倍率が得られ、撮像装置の感度を増大させることが可能となっている。
【0030】
撮像装置の感度をさらに上げるためには、アバランシェ増倍現象が生じる領域を大きくする、すなわち光電変換膜103の厚さTを大きくする必要がある。しかし、厚さTを大きくした光電変換膜103を撮像装置に用いると、例えば撮像装置により撮像された画像に、白キズが発生してしまう場合があった。このようなキズが発生する原因としては、以下のような現象が起きている可能性があると考えられる。
【0031】
図2は、図1において説明した光電変換膜103を含む概略構成を、光電変換膜103のエネルギー準位を考慮して示したバンドモデルの模式図である。図2において示された構成要素は、図1とほぼ同様であるが、光電変換膜103に非晶質セレン(a−Se)、バリア層102に酸化セリウム(CeO)、透光性電極101に酸化インジウムスズ(ITO、Indium Tin Oxide)、バリア層104に三硫化アンチモン(Sb)を適用した例が示されている。バリア層102は、外部から正孔を通さない正孔ブロッキング構造を有し、バリア層104は、外部から電子を通さない電子ブロッキング構造を有している。
【0032】
また、図2において、光電変換膜103を形成する非晶質セレンのエネルギー準位が、負電位が大きくなる程高くなり、正電位が大きくなる程小さくなるように示されている。つまり、電圧印加手段105から正電圧の供給を受ける光電変換膜103の左側(光入射面側)が、エネルギー準位が低くなり、右側の読み取り面側の、電子ビームEBによって走査される部分のエネルギー準位が高く示されている。光電変換膜103の傾斜は、光電変換膜103内の電界の大きさを示しており、傾斜が大きい程、光電変換膜103内に発生している電界が大きい状態を示している。
【0033】
かかる構成において、光電変換膜103を形成する主成分である非晶質セレンには、電子を捕獲する局在準位(捕獲準位)106が存在し、局在準位は光電変換膜103内の電子の移動を阻害し、その一部を捕獲すると考えられる。つまり、光電変換膜103内を電子が移動するためには、電子が上のエネルギー準位の伝導帯に存在することが必要であるが、捕獲準位で電子が捕獲されてしまうと、その電子は移動が出来なくなってしまう。また、光電変換膜103の厚さを増大させた場合、電子を捕獲する局在準位の数が多くなり、局在準位に捕獲される電子の数も増大してしまう。そして、局在準位に捕獲された電子は空間電荷として作用するため、光電変換膜103内の電荷分布を変化させ、光電変換膜103内の電界を変化させる。また、このような非晶質セレンによる電子の捕獲は、撮像中に限らず、何ら電源が入っていない待機中の非動作状態においても、自然光等から付与されるエネルギーにより、自然的に発生し、進行してしまうと考えられている。
【0034】
図3は、上述のような電子捕獲が発生し、光電変換膜103内の電界が変化した状態を模式的に示した図である。図3において、電界を示す光電変換膜103の傾斜が特に大きくなった部分が光電変換膜103の左側(光入射側)に生じ、電界バランスが本来の状態よりも崩れた状態を示している。そして、電子捕獲が特に多い部分では電界集中が生じて、この状態で撮像を行うと、例えば、高輝度の光が所定時間以上照射された場合には、バリア層102の正孔ブロッキング構造の限界を超えてこれを破壊し、電界集中が生じた位置で光電変換膜103の膜破壊を引き起こし、上述のような画像への白キズの発生となって現れると考えられている。
【0035】
図4は、光電変換膜103に発生した白キズ95の一例を示した図である。これらの白キズは、撮像中に高輝度の光を照射したときに生じるいわゆるハイライトキズであり、一旦発生すると、撮像を中止しても、画像中に白キズ95が永久的に残ってしまう。また、白キズ95が生じると、その部分は、光が入射されなくても常に電流が流れた状態となり、従って、撮像時に黒く表示されるべき時にも白い表示となってしまう。本実施形態に係る撮像装置及び撮像方法においては、このようなハイライトキズを効果的に防ぐことができる。なお、ハイライトキズとは異なり、光の照射と無関係に生じるキズは、ランニングキズと呼ばれている。
【0036】
このように、捕獲準位による電子捕獲が生じた場合には、エネルギーを付与しないと、電子は移動可能なエネルギー準位にある伝導帯に移動できず、上述のようなハイライトキズを発生させる要因となってしまう。そこで、本発明においては、撮像前に光電変換膜103に紫外線を照射してエネルギーを付与し、捕獲準位で捕獲されている電子を伝導帯に移動させ、電子の移動を可能にすることにより、ハイライトキズを抑制することを行う。
【0037】
<実施形態1>
次に、図5を用いて、本発明を適用した実施形態1に係る撮像装置の構成の一例について説明する。図5は、実施形態1に係る撮像装置100の全体構成の一例を示した断面図である。
【0038】
図5において、実施形態1に係る撮像装置100は、主要構成要素として、撮像管10と、紫外線照射手段50とを備える。また、本実施形態に係る撮像装置100は、関連構成要素として、レンズ15を備える。撮像管10は、受光部20と、電子ビーム発生部30とを備え、必要に応じて温度制御手段40を備えてよい。撮像管10は、更にその他の構成要素として、信号ピン12、負荷抵抗13、電源14等を備えてよい。
【0039】
紫外線照射手段50は、図5においては、受光部20を覆う状態で示されているが、撮像開始前には図5に示すような状態となり、撮像を開始する際には移動して取り除かれる。よって、撮像時には、本実施形態に係る撮像装置100は、例えば、可視光などからなる入射光Lがレンズ15を介して、さらに透光性面板11を通過して光電変換膜23を含む受光部20に入射する構造になっている。なお、紫外線照射手段50の移動機能の構成については、後述する。
【0040】
受光部20は、入射光Lを受光し、入射光Lに応じて電荷を発生し、電荷を増倍させるための手段である。受光部20は、例えば、透光性電極21、バリア層22、光電変換膜23、増し付け層24およびバリア層25を含むが、この構成の詳細については、後述する。
【0041】
受光部20のバリア層25は、電荷読み取り手段である電子ビーム発生部30から発する電子ビームEBによって走査され、入射光から変換された信号電荷の読み取りが行われる構造になっている。つまり、電子ビーム発生部30は、電荷読み取り手段の機能を有する。
【0042】
電子ビーム発生部30は、例えば、電子銃筐体36、カソード電極35、集束偏向電極34、メッシュ電極33、インジウムリング32、金属リング31を含む。集束偏向電極34は、カソード電極35より射出される電子ビームEBを集束偏向するために設けられたものである。
【0043】
透光性電極21には、負荷抵抗13を介して電源14が接続され、光電変換膜23に電圧が印加される構造になっている。本実施形態に係る撮像装置100によって撮像が行われる場合には、電圧が印加された光電変換膜23に発生した信号電荷を、電子ビーム発生部30によって走査された電子ビームEBによって読み取り、信号電荷は信号ピン12を介して転送される構造になっている。
【0044】
紫外線照射手段50は、撮像前に、受光部20に紫外線を照射する手段である。図2〜4において説明したように、光電変換膜23の主成分である非晶質セレンによる電子捕獲は、通常の待機状態で進行する。よって、紫外線照射手段50は、撮像を開始する前に、光電変換膜23に紫外線を照射し、電子捕獲状態が多数発生している光電変換膜23に紫外線エネルギー付与し、捕獲された電子を放出させて伝導帯に移動させ、電子捕獲状態を抑制する。つまり、紫外線照射手段50は、光電変換膜23内で発生した電子捕獲状態を、電子が捕獲準位に捕獲されておらず、伝導帯に存在する元の状態に戻す機能を有する。
【0045】
紫外線照射手段50は、紫外線源51を備える。紫外線源51は、紫外線を発生させる手段であり、例えば、紫外線を発する蛍光灯が適用されてもよいし、紫外線LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)が適用されてもよい。紫外線源51は、用途に応じて適切な種類の紫外線光源が用いられてよい。また、光電変換膜23に照射する紫外線は、エネルギーが高い程、電子捕獲された電子を伝導帯に引き上げる効果が高いので、より波長の短い、エネルギーの高い紫外線源51が用いられることが好ましい。なお、この点の詳細については、後述する。
【0046】
また、本実施形態においては、光電変換膜23の温度制御を行う温度制御手段40が設けられ、光電変換膜23の温度制御を可能とする構成になっていてもよい。温度制御手段40は、例えば、ペルチェ素子からなる温度制御素子44と、透光性面板11に取り付けられた温度測定手段41と、制御装置43とを含んでもよい。
【0047】
温度測定手段41によって測定された温度データは、フィードバック回路42を介して制御装置43に送られ、制御装置43は、温度データに応じて温度制御素子44を制御する。温度制御素子44は、例えば電子銃筐体36の外壁に、金属リング31を覆うように設置されてもよい。
【0048】
温度制御素子44に、例えばペルチェ素子を用いた場合には、前記光電変換膜23を冷却することと加熱することの双方が可能になる。なお、ペルチェ素子の構造については後述する。また、前記温度制御素子44は、ペルチェ素子に限定されるものではなく、通常のヒータを用いることも可能であり、また送風機とヒータを組み合わせたものを用いることも可能である。
【0049】
次に、受光部20の構造について、図6(A)、(B)を用いて説明する。図6は、実施形態1における撮像管10の受光部20の概略構成を示した図である。図6(A)は、受光部20を電子ビーム走査側から見た平面図であり、図6(B)は、受光部20の概略断面図である。図6(A)、(B)においては、図5とは上下の位置関係が逆に示されていることになる。
【0050】
図6(A)、(B)において、受光部20は、透光性面板11の、入射光Lが入射する面と対向する面に形成されている。透光性面板11上には透光性電極21が形成され、透光性電極21上には、バリア層22が形成され、更にバリア層22上には、非晶質セレンを主成分とする光電変換膜23が形成されている。光電変換膜23は、非晶質セレンを主成分とするので、当然に非晶質セレンの含有量が構成成分の中で最も多いが、例えば、耐熱性強化のためにヒ素が数%、例えば1〜2%程度添加されていてもよい。光電変換膜23は、ヒ素を含むと、更に電子捕獲が発生し易くなり、その使用が難しくなるが、本実施形態に係る撮像装置100では、電子捕獲に対する十分な対策がなされているので、ヒ素を含む光電変換膜23も問題無く適用できる。また、光電変換膜23は、赤色増感のためのテルルを含まない光電変換膜23が適用されてもよいし、テルルを含む光電変換膜23が適用されてもよい。一般的に、テルルを含むと、電子捕獲準位が増加するため、更に電子捕獲が発生し易くなり、ハイライトキズの防止が困難となる。本実施形態に係る撮像装置100によれば、紫外線照射や温度制御の条件を調整することにより、そのようなヒ素及び/又はテルルを含んだハイライトキズの発生し易い光電変換膜23を使用した場合も、ハイライトキズの発生を抑制することができる。
【0051】
光電変換膜23上には、電子ビームEBによって走査される、走査領域20Aと、電子ビームEBが走査されない非走査領域20Bが存在する。非走査領域上には、非走査領域の表面電位を安定させるための増し付け層24が形成され、増し付け層24及び光電変換膜23を覆うように、バリア層25が形成されて、受光部20を構成している。また、増し付け層24は、省略した構造とすることも可能である。
【0052】
光入射面側のバリア層22は、正孔が光電変換膜23に注入されることを防止する正孔注入阻止層であり、正孔ブロッキング構造を有し、光電変換によって発生する以外の正孔が光電変換膜23に注入されることを防止している。
【0053】
電荷読み取り手段30側のバリア層25は、電子ビームEBのランディング層であると共に、電子が光電変換膜23に注入されることを防止する電子注入阻止層であり、光電変換によって発生する以外の電子が光電変換膜23に注入されることを防止している。つまり、バリア層25は、電子ブロッキング構造を有している。
【0054】
光電変換膜23中では、透光性面板11側から入射する入射光Lによって電子と正孔が発生する。光電変換膜23には、透光性電極21を介して電源14により電圧が印加されているため、図1で説明したように、アバランシェ増倍現象が起こる。そして、アバランシェ増倍現象を利用することにより、高い電荷増倍率が得られ、撮像装置100の感度を増大させることができる。
【0055】
また、光電変換膜23に印加する電圧を大きくすると、電荷増倍率は大きくなるが、過大な電圧を印加すると光電変換膜23がブレークダウンしてしまうため、撮像を行う場合には、アバランシュ増倍を生じさせて、かつ光電変換膜がブレークダウンしない適正な電圧値とすることが必要である。例えば、電圧印加によって光電変換膜にかかる電界を、0.8×108〜1.1×108〔V/m〕とすることが好ましい。
【0056】
受光部20は、例えば、以下に示す製造方法によって製造される。以下の製造方法は、増し付け層24を省略した構造の場合の製造方法について示している。まず、透光性ガラスからなる透光性面板11の片面に高周波スパッタリング蒸着法を使用して、直径14〔mm〕、厚さ30〔nm〕の酸化インジウムスズを主体とする透光性電極21を形成する。
【0057】
次に、透光性電極21上に真空蒸着法によって、直径14〔mm〕、厚さ20〔nm〕の酸化セリウムからなる、正孔注入阻止層となるバリア層22を形成する。そして、形成したバリア層22上に、一例として、非晶質セレンを最も多く成分として含む厚さ35〔μm〕の光電変換膜23を形成する。光電変換膜23には、必要に応じてヒ素を添加してもよい。
【0058】
次に、真空蒸着法によって、電子ビーム走査側表面の全域に、圧力0.3〔Torr(0.3×1.33322×10Pa)〕の不活性ガス雰囲気中で、三硫化アンチモンからなる直径14〔mm〕、厚さ0.2〔μm〕のバリア層25を形成し、受光部20を得る。
【0059】
このようにして得られた受光部20は、インジウムリング32、金属リング31を使用して電子銃筐体36に装着し、内部を真空封止して撮像管10を得る。
【0060】
また、温度制御に用いる温度制御素子44には、例えばペルチェ素子など加熱と冷却の双方の機能を有する素子を用いることにより、例えば寒冷地での使用や、高温化での過酷な条件での使用など加熱と冷却が必要な双方の場合において、光電変換層の温度を保持することが可能となる効果を奏する。
【0061】
次に、図7乃至図9を用いて、実施形態1に係る撮像装置100の紫外線照射手段50の具体的な態様について説明する。
【0062】
図7は、実施形態1に係る撮像装置100の紫外線照射手段50の一例について示した概略構成図である。図7において、実施形態1に係る撮像装置100は、図5において説明した撮像管10と、レンズ15と、紫外線照射手段50とを有する他、撮像装置筐体110を備える。そして、紫外線照射手段50は、撮像装置筐体110に設置されている。
【0063】
撮像装置筐体110は、撮像管10を収容するとともに、レンズ15を支持し、撮像装置100を実用的なカメラとして利用するための筐体である。
【0064】
紫外線照射手段50は、例えば、図7に示すように、撮像装置筐体110に設置され、撮像を開始する前には撮像管10を光入射面側から覆って、紫外線を光電変換膜23に受光面側から照射し、撮像を行うときには、撮像装置筐体110の側部に固定し、撮像管10の受光面を開放するようにしてもよい。図7においては、紫外線照射手段50は、回転機構52により撮像装置筐体110に固定され、回転移動可能に設置されている。また、紫外線照射手段50は、紫外線源51を中央部に備え、撮像管10の正面から紫外線照射が可能なように構成されている。
【0065】
なお、図7の態様においては、紫外線の光電変換膜23への照射を行うときにはレンズ15を取り外し、撮像を行うときに、レンズ15を取り付けるようにしてもよい。図7の態様の場合には、紫外線源51の大きさを、必ずしも小型にすることに拘る必要は無いので、例えば、紫外線用の蛍光灯等、消費電力が大きく、波長の短い高エネルギーの光源を紫外線源51として用いるようにしてもよい。照射する紫外線の波長は、例えば、300〔nm〕台以下であることが好ましく、照射時間は、1時間前後行うことが好ましい。但し、これらの照射する紫外線の特性は、種々の波長の紫外線を照射でき、また照射時間も用途等に応じて適宜調整してよい。
【0066】
このように、図7に係る撮像装置100によれば、高エネルギーの紫外線を確実に光電変換膜23に照射して十分な保護効果を果たすことができる。
【0067】
図8は、実施形態1の第1変形例に係る撮像装置100aの概略構成を示した図である。図8において、実施形態1の第1変形例に係る撮像装置100aは、撮像管10が撮像装置筐体110内に収容され、レンズ15が撮像装置筐体110に支持されている点で図7に係る撮像装置100と同様であるが、紫外線照射手段50aが、複数の紫外線源51aから構成され、撮像装置筐体110内に設けられている点で、図7に係る撮像装置100と異なっている。
【0068】
このように、紫外線照射手段50aを、撮像装置筐体110内に設けるようにしてもよい。これにより、撮像装置100aを省スペースで構成できるとともに、撮像前後でレンズ15の取り外し及び設置を行う必要が無くなり、撮像のための準備を簡素化することができる。
【0069】
この場合、例えば、紫外線源51aは、撮像装置筐体110の前方(撮像面側)にコンパクトに設置する必要があるので、より省スペース化に適した紫外線発光LEDを用いるようにしてもよい。また、図8においては、紫外線源51aが2個だけ示された例が挙げられているが、必要に応じて、更に多くの紫外線源51aを設置するようにしてもよい。
【0070】
このように、実施形態1の第1変形例に係る撮像装置100aによれば、省スペースかつ容易な撮像操作で光電変換膜23の保護を行いつつ、撮像を行うことができる。
【0071】
図9は、実施形態1の第2変形例に係る撮像装置100bの概略構成を示した図である。図9において、実施形態1の第2の変形例に係る撮像装置100bにおいては、紫外線照射手段50bが撮像装置筐体110内に収容されている点では、図8の第1変形例に係る撮像装置100aと同様であるが、紫外線源51bが撮像管10の後方に設置され、紫外線照射手段50bが鏡で構成されている点で、第1変形例に係る撮像装置100aとは異なっている。このように、紫外線源51bを撮像管10の後方に設け、鏡を利用して、鏡の反射光により、光電変換膜23に紫外線を照射するようにしてもよい。
【0072】
図9に係る実施形態1の第2変形例に係る撮像装置100bにおいては、撮像前に紫外線を光電変換膜23に照射する場合には、鏡で構成された紫外線照射手段50bを撮像管10の前方に移動させ、撮像時には、紫外線照射手段50bは、側方に移動させ、レンズ15と撮像管10の入射面との間を遮らないようにするとよい。この場合、移動は、モータ等の駆動源を用いて、スイッチ53により紫外線照射手段50bである鏡の位置移動を行うようにしてもよい。
【0073】
図9の態様においては、紫外線源51bを、比較的スペースのある撮像装置筐体110内の中央付近に設置することができるので、省スペース等にあまり配慮せず、高エネルギーの紫外線発射が可能な紫外線源51bを適用することができる。また、全体としては、紫外線照射手段50bは、撮像装置筐体110の内部に設置されているので、撮像装置100bを省スペースに構成することができるとともに、撮像前後におけるレンズ15の着脱も行わなくてよく、簡単な操作が可能となる。
【0074】
このように、図7乃至図9において説明したように、紫外線照射手段50、50a、50bの設置方法及び紫外線源51、51a、51bの種類は種々の形態が考えられ、用途に応じて適切な形態を適用するようにしてもよい。
【0075】
次に、図10を用いて、実施形態1に係る撮像装置100の温度制御手段40の温度制御素子44に適用され得るペルチェ素子の構成の一例について説明する。図10は、ペルチェ素子の構造を模式的に示した図である。
【0076】
図10において、P型半導体46aと、N型半導体46bを図のように電極45、47a、47bで接続し、電源48を用いて電極47a側から電流を流すと、電極45側では発熱作用が、電極47a、47b側では吸熱作用が起こる。また、電圧の正負を逆にすると、発熱作用と吸熱作用が生じる部分が入れ替わる。
【0077】
そのため、本実施形態では、例えばこのようなペルチェ素子を用いることで、光電変換層の冷却と加熱の双方を可能としており、広範囲な外気条件のもとで撮像素子を使用することが可能となる。
【実施例】
【0078】
次に、図11乃至図14を用いて、実施形態1に係る撮像装置に近似した条件で実験を行った実施例について説明する。
【0079】
図11は、本実施例で用いた撮像管10の概略寸法を示した図である。図11に示すように、直径2〔cm〕、厚さ10〔cm〕の撮像管10を使用した。これに用いられた光電変換膜23は、35〔μm〕の厚さTを有するものである。また、光電変換膜23は、非晶質セレンを主成分とし、テルルは含まれておらず、ヒ素が2%含まれているものである。
【0080】
図12は、光電変換膜23を含む撮像管10に、紫外線照射手段50を用いて紫外線を照射した状態を示した平面図である。図12に示すように、光電変換膜23の入射面側から、紫外線照射手段50により、紫外線を照射した。紫外線源51には、20Wの紫外線蛍光灯を用い、100〔V〕の電圧を印加した。また、紫外線の照射時間は1時間とした。
【0081】
図13は、紫外線照射後に、ハイライト光を照射した場合の撮像画像を示した図である。ハイライト光は、図13に示すように、3×4=12個の白色光を、10分間照射した。このとき、光電変換膜23は、増倍率が1000になるようにターゲット電圧を調整した。このようなハイライト光の入射を行った場合、撮像装置100で取得した撮像画像には、暗い画像に小さな12個の白点90が表示されることになる。また、ハイライトキズが発生する瞬間、小さな白点90が破裂したようになり、白キズ95のように面積が拡大し、入射光L(被写体)の変化に関わらず、その後永続的に表示されて、常に画像に残った状態となる。
【0082】
図14は、図11乃至図13において説明した実験の結果を示す図である。横軸は光電変換膜23の動作温度〔℃〕、縦軸はハイライトキズの発生確率〔%〕が示されている。つまり、紫外線を1時間照射した後、光電変換膜23の温度を上昇させ、温度を一定温度に保った結果が図14に示されている。
【0083】
図14において、紫外線照射の無い結果を、黒丸を結んだ特性A、365〔nm〕の波長の紫外線を照射した結果を、四角形を結んだ特性B、312〔nm〕の波長の紫外線を照射した結果を、三角形を結んだ特性Cで示している。図14より、紫外線の照射が無かった場合の特性Aは、いずれの温度においてもハイライトキズの発生確率は100〔%〕となっている。一方、365〔nm〕の波長の紫外線を光電変換膜23に照射した場合の特性Bは、温度が35〔℃〕ではハイライトキズの発生確率が100〔%〕であるが、温度が高い状態となるにつれてハイライトキズの発生確率が減少し、温度40〔℃〕で発生確率が約40〔%〕となり、温度42.5〔℃〕で発生確率0〔%〕に達している。また、312〔nm〕の波長の紫外線を光電変換膜23に照射した場合の特性Cでは、温度が35〔℃〕ではハイライトキズの発生確率が100〔%〕であるが、温度が高い状態となるにつれてハイライトキズ発生確率が減少し、温度37.5〔℃〕のときには発生確率が約40〔%〕に達し、温度40〔℃〕のときに発生確率0〔%〕に達している。同一温度で比較すると、365〔nm〕の特性Bよりも312〔nm〕の特性Cの方がハイライトキズの発生確率が低くなっている。
【0084】
このように、特性A、B、Cの比較により、紫外線の照射を撮像前に行うことにより、ハイライトキズの発生を抑制できることが分かる。また、紫外線の波長が短い程、つまり紫外線のエネルギーが大きい程、ハイライトキズの発生を効果的に抑制できることが分かる。また、温度に着目すると、光電変換膜23の温度が高く保たれている方が、ハイライトキズの発生確率が減少することが、特性B、Cの各々が示す傾向から分かる。
【0085】
図14においては、撮像前に光電変換膜23に照射する紫外線の波長が、312〔nm〕、365〔nm〕の場合が例として挙げられているが、これを目安として、用途に応じて種々の波長の紫外線を適用することができる。例えば、より電子捕獲抑制及びハイライトキズの効果を強くしたい場合には、紫外線の波長をもっと短くし、例えば、200〔nm〕台の波長の紫外線を用いれば、更に高いハイライトキズ抑制効果を期待できる。例えば、光電変換膜23の主成分が非晶質セレンであり、ヒ素が添加され、更にテルルが添加されているような場合には、このようなより短波長の紫外線を用いることにより、ハイライトキズを抑制することができると考えられる。また、逆に、非晶質セレンにヒ素もテルルも添加されておらず、図14よりも弱い紫外線の照射でハイライトキズを防止できる場合には、例えば、365〔nm〕よりも波長の長い300〔nm〕台後半、又は400〔nm〕台の波長を適用してもハイライトキズ抑制の効果を奏し得ると考えられる。このように、紫外線の波長、更に照射強度、照射時間等の諸条件は、用途に応じて適宜変化させてよく、適切な条件で紫外線照射工程を行うようにしてよい。
【0086】
また、光電変換膜23の温度については、非晶質セレンのガラス転移温度は31〔℃〕であることが知られており、ヒ素を添加すると、ガラス転移温度がヒ素添加濃度1原子%当り5〔℃〕上昇することが知られている。よって、本実施例の実験においては、ヒ素は2〔%〕添加されているから、光電変換膜23のガラス転移温度は、41〔℃〕となる。また、図14より、ハイライトキズ抑制の効果が発生し始めるのが、35〔℃〕よりも高い略36〔℃〕の付近からであり、温度が高くなるにつれてハイライトキズの発生確率は抑制され、特性Cでは40〔℃〕、特性Bでは42.5〔℃〕で発生確率が0〔%〕となっている。温度は、更に高くても問題無いと考えられるが、光電変換層103のガラス転移温度+30〔℃〕程度の温度以上で、当該光電変換膜23が波状に変形する、いわゆる膜しわが発生し、正常な画像信号が得られなくなってしまう場合がある。よって、光電変換膜23の温度は、光電変換膜23のガラス転移温度+30〔℃〕未満とした方がよい。また、図14の実験結果によれば、特性Bでは42.5〔℃〕以上、特性Cでは40〔℃〕以上でその効果は変わらないことになるので、無用な温度上昇エネルギー消費を低減し、また光電変換膜23に余分な負担を与えない観点からも、ハイライトキズの発生確率が0〔%〕となる温度を確実に超えるレベルであれば十分である。よって、例えば、光電変換膜23の温度は、ガラス転移温度±5〔℃〕の範囲内にあれば、十分なハイライトキズ抑制の効果が得られると考えられる。図14の場合であれば、41〔℃〕±5〔℃〕、つまり36〔℃〕以上46〔℃〕以下の範囲でハイライトキズ抑制の効果が得られることになる。この場合、紫外線の波長がもっと長い場合には、ハイライトキズの発生確率が0〔%〕となる温度は更に高くなることが予想されるので、温度の上限については、例えば、ガラス転移温度+10〔℃〕としてもよい。
【0087】
このように、撮像時の光電変換膜23の設定温度については、紫外線の波長との関係から、用途に応じて適宜変更するようにしてよい。なお、撮像中に光電変換膜23の温度を上昇させた状態に保つことにより、ハイライトキズの発生を抑制できるのは、光電変換膜23の主成分である、非晶質セレンが、非晶質セレンのガラス転移温度以上になると、ガラス転移温度未満の温度では束縛されていた原子の状態が変化し、光電変換膜23内部の電子の走行性が向上して捕獲される電子の数が減少するためと考えられる。
【0088】
なお、本実施例で説明した紫外線の照射は、実施形態1における紫外線照射手段50、50a、50bで実現されてよく、温度制御は、温度制御手段40により実現されてよい。
【0089】
次に、図15を用いて、実施形態1に係る撮像装置100、100a、100bを用いた撮像方法について説明する。図15は、実施形態1に係る撮像方法の処理フローを示した図である。
【0090】
ステップ100では、撮像を行う前に、撮像管10の光電変換膜23を含む受光部20に、紫外線照射手段50を用いて紫外線が照射される、紫外線照射工程が行われる。紫外線の照射は、紫外線源51を用いて、実施例において説明したように、例えば、300〔nm〕台の波長の紫外線を1時間程度照射してもよい。紫外線の照射強度、波長、照射時間等の条件は、用途に応じて適宜適切な条件が定められてよい。例えば、照射強度の高い紫外線を発生させる紫外線源51や、波長が短い高エネルギーの紫外線源51を用いることにより、照射時間をより短くすることができると考えられるので、単位時間当たりの紫外線照射のエネルギー量又は照射量を高め、より短い時間で紫外線照射工程を終えるようにしてもよい。
【0091】
紫外線照射工程を終了したら、紫外線照射手段50、50a、50bは、撮像管10での撮像が可能な撮像面を遮らない位置に移動される。また、紫外線源51の点灯も終了してよい。
【0092】
ステップ110では、光電変換膜23の温度が温度制御手段40により制御され、光電変換膜23が適切な設定温度となるように調整される温度調整工程が行われる。図14で説明したように、例えば、光電変換膜23の設定温度は、光電変換膜23のガラス転移温度の±5〔℃〕程度の範囲で設定してもよいし、ガラス転移温度−5〔℃〕〜ガラス転移温度+10〔℃〕の範囲で設定してもよい。ステップ100で照射された紫外線の特性に応じて、ハイライトキズを防ぐのに適切な温度に調整されてよい。通常、温度調整は、温度制御素子44にペルチェ素子を用いた場合には、30〔秒〕〜1〔分〕というレベルで調整が可能であり、また、他の手段によった場合でも、数分間で調整が可能である。
【0093】
ステップ120では、光電変換膜23が所定の温度に到達したか否かが判定される。光電変換膜23の温度の測定は、温度測定手段41により行われてよい。また、温度測定手段41によって測定された温度データは、フィードバック回路42を介して制御装置43に送られ、制御装置43は、温度データに応じて温度制御素子44を制御する。そして、光電変換膜23が所定温度に到達した場合には、ステップ130に進む。一方、所定温度に到達しなければ、ステップ110に戻り、所定温度に到達するまで上述のフィードバック制御が繰り返される。
【0094】
ステップ130では、撮像が開始され、撮像工程が行われる。撮像中は、ステップ110及びステップ120において調整及び設定された温度を保ち、温度一定の状態で撮像を行う。撮像前の紫外線照射及び撮像中の温度制御により、光電変換膜23は、電子捕獲が少なく、ハイライトキズが発生し難い状態に保たれ、安定して撮像を行うことができる。そして、撮像が終了したら、図15の処理フローを終了する。
【0095】
なお、図15においては、紫外線照射と光電変換膜23の温度制御の双方を実行した処理フローが示されているが、紫外線の照射のみで良い場合には、ステップ100を実行したら、ステップ110とステップ120を行わずに、直接ステップ130の撮像工程に入るようにすればよい。
【0096】
また、図15の処理フローにおいては、ステップ100の紫外線照射工程を終えてから、ステップ110の温度調整工程に入っているが、ステップ100の紫外線照射工程の後半からステップ110の温度調整工程を同時に開始し、迅速にステップ130の撮像工程に移れるような処理を行うようにしてもよい。
【0097】
実施形態1に係る撮像方法によれば、撮像前に光電変換膜23に紫外線を照射する紫外線工程を設けたことにより、光電変換膜23内の電子捕獲状態を減少させ、電子の走行性を高め、ハイライトキズの発生を抑制することができる。また、更に、必要に応じて、撮像中には温度制御を行うことにより、撮像中においても電子捕獲状態を減少させ、ハイライトキズの発生を防止することができる。
【0098】
<実施形態2>
実施形態1においては、光電変換膜で発生した信号電荷の読み取り手段として電子ビーム発生部30を用いた場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、固体基板を用いた平板型の撮像装置を形成することが可能である。実施形態2においては、本発明を、固体基板を用いた撮像装置100cの実施形態に適用した例について説明する。
【0099】
図16は、実施形態2に係る撮像装置100cの構成を示した図である。図16(A)は、電荷読み取り手段に固体素子を用いた平板型の撮像装置100cの構成を概略的に示した斜視図であり、図16(B)はその1画素の等価回路を示した図である。なお、実施形態2において、実施形態1と同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0100】
図16(A)および図16(B)において、撮像装置100cは、紫外線照射手段50と、受光部20aと、受光部20aの信号電荷の読み取り手段である、基板に素子が形成された固体素子部60と、光電変換膜23の温度制御を行う温度制御手段40とを有する。但し、紫外線照射手段50は、撮像前は受光部20aの前方に設けられるが、撮像時には受光部20aの前方からは除去される。実施形態2においては、光電変換膜23より下方の奥側の構成が実施形態1と異なるだけであり、実施形態1で説明した紫外線照射手段50の構成及び機能、温度制御手段40の構成及び機能と同様であり、そのまま実施形態2に適用することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0101】
受光部20aは、図5及び図6に示した受光部20と略同一の構造をしており、信号電荷の読み取りを固体素子で行うために、受光部20の増し付け層24を省略した構造になっている。受光部20aは、バリア層22、25に挟まれるように形成される光電変換膜23と、バリア層22上に形成される透光性電極21を備える。
【0102】
撮像装置100cは、実施形態1に係る撮像装置100、100a、100bの場合と同様に、温度制御機構40により、受光部の光電変換膜の温度制御を行う事が可能な構成となっている。
【0103】
受光部20aで発生した信号電荷を読み取るための固体素子部60は、基板上に形成された素子形成部61と、素子形成部61に形成された素子を走査するための回路である垂直画素選択回路62及び水平画素選択回路63と、画像信号を増幅する出力アンプ64とを有する。
【0104】
素子形成部61には複数の、信号読み取りのための素子が配列されているが、図16(A)中のX部の1画素の等価回路を例にとって、図16(B)に示す。これは、信号読み取りのための素子にMOSトランジスタ61Aを使用した例で、図中、接続aは前記受光部20aに、接続bは垂直画素選択回路62に、接続cは前記水平画素選択回路63に接続される構造になっている。受光部20aで発生した信号電荷は、MOSトランジスタ61Aのドレイン部分(蓄積ダイオード)に蓄積され、垂直画素選択回路62と水平画素選択回路63によって読み出し対象となる画素が選択されると、信号電荷が読み出される構造になっている。
【0105】
図17は、受光部20aと、MOSトランジスタ61Aが接続された状態を模式的に示した断面図である。但し、図中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略するものとする。
【0106】
MOSトランジスタ61Aは、P型基板71に形成され、N型不純物拡散層であるドレイン拡散層74aとソース拡散層74bを有する。ドレイン拡散層74a及びソース拡散層74bに挟まれるように形成されるチャネル領域上には、ゲート絶縁膜72が形成され、ゲート絶縁膜72上にはゲート電極73が形成されて、信号電荷の読み出しゲート部が形成されている。
【0107】
ドレイン拡散層74a及びソース拡散層74bには、例えばタングステン(W)などからなるコンタクトプラグ75a、75bが接続され、コンタクトプラグ75aは、画素電極76を介して受光部20aのバリア層25に接続される構造になっている。また、前記MOSトランジスタ61Aと受光部20aの間は、シリコン酸化膜(SiO2膜)などからなる絶縁膜77で絶縁されている。
【0108】
本実施形態の場合、信号電荷の読み出し回路に、例えばMOSトランジスタ61Aなどの固体素子を用いている。そのため、S/N(Signal/Noise)が大きくなり、高画質でかつ高感度な撮像装置を実現することが可能となる。本実施形態の動作の概要は概ね以下のようになる。
【0109】
まず、入射光Lが光電変換膜23に入射し、光電変換膜23には、電源14より電圧が印加され、アバランシュ増倍現象を発生させる動作は、実施形態1に係る撮像装置100、100a、100bの場合と同一である。
【0110】
増幅された正孔は、OFF状態のMOSトランジスタ61Aのドレイン拡散層74aに移動し、電子と結合してドレイン拡散層74aの電位が上昇する。図17に示した画素が、水平画素選択回路63及び垂直画素選択回路62によって選択され、画素スイッチ65が閉じられると、ドレイン拡散層74aで結合して失われた電子を補うための電流が負荷抵抗66に流れ、信号を取り出すことができる構造になっている。
【0111】
そして、実施形態2に係る撮像装置100cにおいては、光電変換膜23の下方の構造が異なるだけであるので、図16に示したように、撮像前には紫外線照射手段50により光電変換膜23の入射光側の面から紫外線を照射し、必要により温度制御装置40により光電変換膜23の温度制御が可能な構成となっている。
【0112】
このように、実施形態2に係る撮像装置100cによれば、固体素子を適用して光電変換膜23に蓄積された電荷の読み取りを行う撮像装置100cについても、紫外線照射手段50により撮像前に電子捕獲の電子を伝導帯に移動させ、必要に応じて撮像中に光電変換膜23の温度を温度制御手段40により制御することにより、電子の走行性を向上させ、ハイライトキズを効果的に抑制することができる。また、実施形態1において説明した図15の撮像方法についても、当然に実施形態2に係る撮像装置100cに適用することができる。
【0113】
更に、本実施形態の場合と同様にして、信号電荷読み出し手段として電界放出素子を2次元に配列した平面電子源を用いた平板型撮像装置や、X線検出用の撮像装置、さらには非晶質セレンを用いたその他のデバイスを形成して、本発明を広く適用することが可能となることは明らかである。
【0114】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0115】
特に、本発明においては、光電変換膜23が、非晶質セレンを主成分とする場合について説明したが、電子捕獲が発生し易い光電変換膜23であれば、総ての光電変換膜23について、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の撮像装置の動作原理を説明する光電変換膜103を含む断面図である。
【図2】光電変換膜103のバンドモデルの模式図である。
【図3】電子捕獲により光電変換膜103内の電界が変化した状態を示した模式図である。
【図4】光電変換膜103に発生した白キズの一例を示した図である。
【図5】実施形態1に係る撮像装置100の全体構成の一例を示した断面図である。
【図6】実施形態1における撮像管10の受光部20の概略構成を示した図である。図6(A)は、受光部20を電子ビーム走査側から見た平面図である。図6(B)は、受光部20の概略断面図である。
【図7】実施形態1の紫外線照射手段50の一例を示した概略構成図である。
【図8】実施形態1の第1変形例に係る撮像装置100aの概略構成を示した図である。
【図9】実施形態1の第2変形例に係る撮像装置100bの概略構成を示した図である。
【図10】ペルチェ素子の構造を模式的に示した図である。
【図11】本実施例で用いた光電変換膜23の条件を示した図である。
【図12】光電変換膜23に紫外線を照射した状態を示した平面図である。
【図13】紫外線照射後に、ハイライト光を照射した場合の撮像画像を示した図である。
【図14】図11乃至図13において説明した実験の結果を示す図である。
【図15】実施形態1に係る撮像方法の処理フローを示した図である。
【図16】実施形態2に係る撮像装置100cの構成図である。図16(A)は、実施形態2に係る撮像装置100cの構成を概略的に示した斜視図である。図16(B)は1画素の等価回路を示した図である。
【図17】受光部20aと、MOSトランジスタ61Aを示した断面図である。
【符号の説明】
【0117】
10 撮像管
11 透光性面板
12 信号ピン
13、66 負荷抵抗
14 電源
15 レンズ
20、20a 受光部
20A 走査領域
20B 非走査領域
21 透光性電極
22、25 バリア層
23、103 光電変換膜
24 増し付け層
30 電子ビーム発生部(電荷読み取り手段)
31 金属リング
32 インジウムリング
33 メッシュ電極
34 集束偏向電極
35 カソード電極
36 電子銃筐体
40 温度制御手段
41 温度測定手段
42 フィードバック回路
43 制御装置
44 温度制御素子
45、47a、47b 電極
46a、46b 半導体
48 電源
50、50a、50b 紫外線照射手段
51、51a、51b 紫外線源
52 回転機構
53 スイッチ
60 固体素子部(電荷読み取り手段)
61 素子形成部
61A MOSトランジスタ
62 垂直画素選択回路
63 水平画素選択回路
64 出力アンプ
65 画素スイッチ
71 P型基板
72 ゲート絶縁膜
73 ゲート電極
74a、74b 拡散層
75a、75b コンタクトプラグ
76 画素電極
77 絶縁膜
90 白点
95 白キズ
100、100a、100b、100c 撮像装置
106 局在準位
110 撮像装置筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像面に入射した光を電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜を有し、該光電変換膜に蓄積された電荷を読み取ることにより撮像を行う撮像装置であって、
前記撮像を行う前に、前記光電変換膜の前記撮像面に紫外線を照射する紫外線照射手段を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光電変換膜は、セレンを最も多く含み、ヒ素を含むことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記光電変換膜の温度を調整し、前記撮像を行っている間は、前記光電変換膜の温度を所定の温度に保つ温度制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記温度制御手段は、前記光電変換膜のガラス転移温度を中心として、±5℃の範囲内の所定温度に前記光電変換膜を調整することを特徴とする請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
撮像面に入射した光を電荷に変換するとともに、該電荷をアバランシェ増倍作用により増加させる光電変換膜を有し、該光電変換膜に蓄積された電荷を読み取ることにより撮像を行う撮像方法であって、
前記撮像を行う前に、前記光電変換膜の前記撮像面に紫外線を照射する工程を有することを特徴とする撮像方法。
【請求項6】
前記光電変換膜は、セレンを最も多く含み、ヒ素を含むことを特徴とする請求項5に記載の撮像方法。
【請求項7】
前記光電変換膜の温度を、所定の温度に保った状態で前記撮像を行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の撮像方法。
【請求項8】
前記温度は、前記光電変換膜のガラス転移温度を中心として、±5℃の範囲内の所定温度に保たれることを特徴とする請求項7に記載の撮像方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−123544(P2010−123544A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298725(P2008−298725)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】