説明

攪拌装置及び攪拌装置を備えた分析装置

【課題】液体保持部に保持される液体の容量が微量になり、液体保持部が微小或いは細くなっても保持した液体中に滞留領域を生ずることがなく、保持した液体を均一に攪拌することが可能な攪拌装置と分析装置を提供すること。
【解決手段】音波を照射することによって液体を攪拌する攪拌装置20と分析装置。攪拌装置20は、液体を保持する液体保持部6aと、液体保持部を構成する壁6bの外側に配置され、壁6bに対して傾斜し、互いに面対称な二方向へ向かう音波Waを壁に入射させる表面弾性波素子22とを備え、表面弾性波素子22は、音波の対称面Psが液体保持部6aの中心軸Acから変位した位置から音波を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌装置及び攪拌装置を備えた分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて微小容器に保持された液体を効率良く攪拌するには、保持された液体内に先鋭的な音場を形成すると共に、超音波発生素子から液体まで減衰を抑えて超音波を伝達させる必要がある。このため、分析装置で使用され、液体を音波によって攪拌する攪拌装置として、例えば、液体を保持した容器の底部に10MHz以上の超音波を発生する少なくとも1つの音波発生手段を設け、超音波伝搬方向に配置される固形材料を介して液体中に超音波を入射させることにより音響流を生成し、この音響流によって液体を攪拌する攪拌装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第10325307号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された分析装置は、音波発生手段として圧電基板上に櫛型電極(IDT)を形成した表面弾性波(SAW)素子を用いている。櫛型電極は、電極中心から左右両方向に表面弾性波を出射することから、図26に示すように、表面弾性波素子Dacの櫛型電極TIDが発生した音波Waは、容器Cvの底壁内を伝搬した後、底壁内面に対して矢印で示すように傾斜した状態で液体Lq中に入射する。このため、容量が数十μL以下と微量になり、容器が微小或いは細くなった場合に、容器の底壁中央に表面弾性波素子Dacを配置すると、音波が内側壁で反射し、この反射に伴って音波によって生ずる音響流も内面で反射する。この結果、容器内の液体Lqは、側側壁で反射した対称な2つの音響流Fsが衝突して互いに相殺され、流れが滞留する滞留領域Aが生じ、音響流Fsによる液体の均一な攪拌が妨げられることがあった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液体保持部に保持される液体の容量が微量になり、液体保持部が微小或いは細くなっても保持した液体中に滞留領域を生ずることがなく、保持した液体を均一に攪拌することが可能な攪拌装置と分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る攪拌装置は、音波を照射することによって液体を攪拌する攪拌装置において、液体を保持する液体保持部と、前記液体保持部を構成する壁の外側に配置され、前記壁に対して傾斜し、互いに面対称な二方向へ向かう音波を前記壁に入射させる音波発生手段と、を備え、前記音波発生手段は、前記音波の対称面が前記液体保持部の中心軸から変位した位置から音波を発生させることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は複数設けられ、音波の伝搬方向に隣り合う前記音波発生手段が発生する音波の周波数は、互いに異なることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記複数の音波発生手段は、音波の伝搬方向に隣り合う二つの音波発生手段の中心周波数が互いに異なることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記液体保持部は複数設けられ、前記音波発生手段は、音波が発生する中心と、前記各液体保持部の中心軸との距離が総て異なることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段が発生する音波の周波数を設定する周波数設定手段をさらに備え、前記音波発生手段は、発生する音波の周波数を前記周波数設定手段によって経時的に変化させられることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記周波数設定手段は、攪拌対象の液体の性状又は液量に応じて前記音波発生手段が発生する音波の周波数を変化させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る攪拌装置は、上記の発明において前記周波数設定手段は、前記音波発生手段が発生する音波の変調、或いは前記音波発生手段が発生する音波の周波数のスイープ又は切り替えを行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記周波数設定手段は、前記音波発生手段が発生する音波の周波数を共振周波数と反共振周波数との間で変化させることを特徴とする。
【0014】
また、請求項9に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段と前記液体保持部との相対位置を変化させる位置制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項10に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記位置制御手段は、攪拌対象の液体の性状又は液量に応じて当該液体を保持した前記液体保持部と前記音波発生手段との相対位置を変化させることを特徴とする。
【0016】
また、請求項11に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記位置制御手段は、前記液体保持部の位置を前記音波発生手段に対して移動させることを特徴とする。
【0017】
また、請求項12に係る攪拌装置は、上記の発明において、前記音波発生手段は、前記音波として表面弾性波を発生する表面弾性波素子であることを特徴とする。
【0018】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項13に係る分析装置は、複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液を分析する分析装置であって、前記攪拌装置を用いて前記複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液を分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる攪拌装置は、音波発生手段が、音波の対称面が前記液体保持部の中心軸から変位した位置から音波を発生させるので、液体保持部に保持した液体中に非対称な音響流が生じ、液体保持部に保持される液体の容量が微量になり、液体保持部が微小或いは細くなっても保持した液体中に滞留領域を生ずることがなく、保持した液体を均一に攪拌することができるという効果を奏する。また、本発明の分析装置はこの攪拌装置を有するので、液体保持部に保持される液体の容量が微量になり、液体保持部が微小或いは細くなっても保持した液体中に滞留領域を生ずることがなく、保持した液体を均一に攪拌することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態1)
以下、本発明の攪拌装置と分析装置に係る実施の形態1について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、実施の形態1に係る攪拌装置を備えた本発明の自動分析装置の概略構成図である。図2は、図1に示す自動分析装置のC−C線に沿った縦断面図である。図3は、本発明の攪拌装置を構成する表面弾性波素子の平面図である。図4は、音波の対称面を反応凹部の中心軸から変位させて底壁の外側に配置した表面弾性波素子を反応凹部と共に示す図2の拡大図である。図5は、図2に示す自動分析装置において攪拌装置の1構成単位の断面を駆動回路と共に示す図である。尚、本明細書で使用する図面は、本発明の構成の説明に重点を置いて作成しており、寸法は必ずしも正確ではない。
【0021】
自動分析装置1は、図1に示すように、作業テーブル2上に検体テーブル3、反応ホイール6、駆動機構7及び試薬テーブル13が互いに離間してそれぞれ周方向に沿って回転、かつ、位置決め自在に設けられている。また、自動分析装置1は、検体テーブル3と反応ホイール6との間に検体分注機構5が設けられ、反応ホイール6と試薬テーブル13との間には試薬分注機構12が設けられ、試薬分注機構12近傍の反応ホイール6下部には攪拌装置20が設置されている。
【0022】
検体テーブル3は、図1に示すように、駆動手段(図示せず)によって矢印で示す方向に回転され、外周には周方向に沿って等間隔で配置される収納室3aが複数設けられている。各収納室3aは、検体を収容した検体容器4が着脱自在に収納される。
【0023】
検体分注機構5は、検体を分注する手段であり、制御部16によって作動が制御され、検体テーブル3の複数の検体容器4から反応ホイール6の各反応凹部6aに順次検体を分注する。
【0024】
反応ホイール6は、図1に示すように、駆動手段によって矢印で示す方向に回転される容器を兼ねた透明素材からなるホイールであり、液体保持部となる複数の反応凹部6aが周方向に沿って等間隔に設けられている。各反応凹部6aは、反応ホイール6の半径方向に対向する側壁が平行であり、図2に示すように、周方向に対向する側壁が底に向かって接近するように傾斜している。また、反応ホイール6は、内側に光源8が設けられると共に、外周には排出装置11が設けられている。光源8は、試薬と検体とが反応した反応凹部6a内の反応液を分析するための分析光(340〜800nm)を出射する。光源8から出射された分析用の光ビームは、反応凹部6a内の反応液を透過し、光源8と対向する位置に設けた受光素子9によって受光される。一方、排出装置11は、制御部16によって作動が制御され、排出ノズルを備えており、反応凹部6aから測光終了後の反応液を前記排出ノズルによって吸引し、排出容器に排出する。ここで、排出装置11を通過した反応凹部6aは、反応ホイール6の回転によって図示しない洗浄装置に移送されて内部が洗浄された後、再度、新たな検体の分析に使用される。
【0025】
駆動機構7は、制御部16によって作動が制御され、反応ホイール6を回転駆動して反応凹部6aと表面弾性波素子22との相対位置を変化させる。駆動機構7は、反応ホイール6の回転位置を高精度に検出するエンコーダを有しており、制御部16と協働して反応凹部6aと表面弾性波素子22との相対位置を高精度に制御して変化させる位置制御部29を構成している。
【0026】
試薬分注機構12は、試薬を分注する手段であり、制御部16によって作動が制御され、試薬テーブル13の所定の試薬容器14から反応ホイール6の反応凹部6aに試薬を順次分注する。
【0027】
試薬テーブル13は、図1に示すように、図示しない駆動手段によって矢印で示す方向に回転され、扇形に成形された収納室13aが周方向に沿って複数設けられている。各収納室13aは、試薬容器14が着脱自在に収納される。複数の試薬容器14は、それぞれ検査項目に応じた所定の試薬が満たされ、外面には収容した試薬に関する情報を表示するバーコードラベル(図示せず)が貼付されている。
【0028】
ここで、試薬テーブル13の外周には、試薬容器14に貼付した前記バーコードラベルに記録された試薬の種類,ロット及び有効期限等の情報を読み取り、制御部16へ出力する読取装置15が設置されている。制御部16は、検体分注機構5、駆動機構7、受光素子9、排出装置11、試薬分注機構12、読取装置15、分析部17、入力部18及び表示部19等と接続されており、例えば、分析結果を記憶する記憶機能を備えたマイクロコンピュータ等が使用される。制御部16は、反応ホイール6の回転位置を始めとして、自動分析装置1の各部の作動を制御すると共に、前記バーコードラベルの記録から読み取った情報に基づき、試薬のロットや有効期限等が設置範囲外の場合、分析作業を規制するように自動分析装置1を制御し、或いはオペレータに警告を発する。
【0029】
分析部17は、制御部16を介して受光素子9に接続され、受光素子9が受光した光量に基づく反応凹部6a内の液体試料の吸光度から検体の成分濃度等を分析し、分析結果を制御部16に出力する。入力部18は、制御部16へ検査項目等を入力する操作を行う部分であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。表示部19は、分析内容や警報等を表示するもので、ディスプレイパネル等が使用される。
【0030】
攪拌装置20は、音波を照射することによって液体を攪拌する攪拌装置であって、図1,図2及び図5に示すように、反応ホイール6と、複数の表面弾性波素子22と、表面弾性波素子22を駆動する駆動回路23と、位置制御部29とを有している。複数の表面弾性波素子22は、ジェルや液体等の音響整合剤Lmを保持した液槽21内に配置されて反応ホイール6の底面側に配置されている。液槽21は、反応ホイール6下部の作業テーブル2上に固定されている。ここで、反応ホイール6と表面弾性波素子22との間に介在する音響整合剤Lmは、音波の反応ホイール6壁面への伝達効率を上げるため、表面弾性波素子22が発する周波数の波長λに対して厚みがλ/4の奇数倍となるように、または、できるだけ薄くなるように調整する。
【0031】
表面弾性波素子22は、音波の伝搬方向に位置する二つの反応凹部6aに音波を同時に照射する音波発生手段であり、図3に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電基板22a上に櫛型電極(IDT)からなる振動子22bが形成されている。振動子22bは、櫛歯状に形成された複数の電極指を有し、駆動回路23から送信された駆動信号を表面弾性波(音波)に変換する。振動子22bは、電気端子22cとの間が共通電極であるバスバー22dによって接続されている。このとき、振動子22bは、図3に矢印で示すように、中央から櫛型電極の配列方向に音波Waを双方向に出射する。このようにして振動子22bから双方向に出射された音波Waは、音響整合剤Lm中に漏れ出すと共に、音響整合剤Lm中を伝搬しながら底壁6bから反応ホイール6に入射する。このとき、表面弾性波素子22は、図4に示すように、音波Waの対称面Psを反応凹部6aの中心軸Acから変位させて底壁6bの外側に配置されている。このため、表面弾性波素子22が発生する音波Waは、例えば、図2の表面弾性波素子22−1について見ると、図4に示すように、底壁6bに対して傾斜し、互いに面対称な二方向から底壁6bに入射する。ここで、表面弾性波素子22が出射する音波Waは平面状をなし、底壁6bに平面状に入射するため、二方向から入射する中間点における底壁6bの法線が対称面Psとなる。
【0032】
駆動回路23は、表面弾性波素子22を駆動する駆動手段であり、図5に示すように、攪拌制御部24、発振部25及び増幅部26を備え、電気端子22cとの間が配線27によって接続されている。ここで、図5は、攪拌装置20の1構成単位である反応凹部6aの断面を駆動回路23と共に示しており、駆動回路23は、一つの表面弾性波素子22のみを駆動しているように描かれている。しかし、図2に示す複数の表面弾性波素子22は、駆動回路23と直列又は並列に接続され、或いは、駆動回路23とスイッチを介して接続されて駆動される。
【0033】
攪拌制御部24は、メモリとタイマを内蔵した電子制御手段(ECU)が使用され、表面弾性波素子22の駆動信号を制御する。攪拌制御部24は、発振部25を制御し、例えば、表面弾性波素子22が発する音波の特性(周波数,強度,位相,波の特性)、波形(正弦波,三角波,矩形波,バースト波等)或いは変調(振幅変調,周波数変調)等を制御する。また、攪拌制御部24は、内蔵したタイマに従って発振部25が発振する発振信号の周波数を経時的に変化させることにより、例えば、発振信号の周波数、従って表面弾性波素子22が発生する音波の周波数のスイープや切り替えを行うことができる。
【0034】
発振部25は、攪拌制御部24と共に周波数設定部28を形成している。発振部25は、攪拌制御部24からの制御信号に基づいて発振周波数をプログラマブルに変更可能な発振回路を有しており、数十MHz〜数百MHz程度の高周波の発振信号を増幅部26へ出力する。周波数設定部28は、表面弾性波素子22が発生する音波の周波数を設定すると共に、周波数を経時的に変化させ、例えば、共振周波数と反共振周波数との間で変化させる。このとき周波数は、攪拌対象の液体の粘性や比重等の性状又は液量に応じて変化させる。
【0035】
増幅部26は、発振部25から入力される発振信号を増幅し、駆動信号として表面弾性波素子22に出力する他、攪拌制御部24からの制御信号に基づいて駆動信号の駆動周波数を段階的に切り替えることができる。
【0036】
位置制御部29は、駆動機構7と制御部16を備え、攪拌対象の液体の粘性や比重等の性状又は液量に応じて当該液体を保持した反応凹部6aと表面弾性波素子22との相対位置を変化させる。
【0037】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転する反応テーブル6によって周方向に沿って搬送されてくる反応凹部6aに検体分注機構5が検体テーブル3の複数の検体容器4から検体を順次分注する。検体が分注された反応凹部6aは、反応ホイール6の回転によって試薬分注機構12の近傍へ搬送され、所定の試薬容器14から試薬が分注される。そして、試薬が分注された反応凹部6aは、反応ホイール6の回転によって周方向に沿って搬送される間に試薬と検体とが攪拌装置20によって攪拌されて反応し、光源8と受光素子9との間を通過する。このとき、反応凹部6a内の液体試料は、受光素子9によって測光され、分析部17によって成分濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応凹部6aは、排出装置11によって内部の反応液が排出された後、図示しない洗浄装置によって洗浄され、再度検体の分析に使用される。
【0038】
このとき、攪拌装置20は、図2に示したように、反応ホイール6の矢印方向への回転に伴って、各表面弾性波素子22が液槽21の上方に位置する隣接した二つの反応凹部6aへ同時に音波を照射する。このため、表面弾性波素子22が出射した音波は、反応ホイール6の回転に伴う反応凹部6aとの相対位置によって底壁から反応ホイール6に入射する位置が変化する。例えば、図2において、4つの表面弾性波素子22を左から表面弾性波素子22−1〜22−4とし、反応凹部6aを同様に左から反応凹部6a−1〜6a−5と表示することによって相互に区別することにする。
【0039】
このとき、図2において、表面弾性波素子22−1が出射し、底壁から反応ホイール6に入射した音波Waは、壁内を伝搬した後、反応凹部6a−1と反応凹部6a−2のそれぞれの側面から液体中に入射する。この場合、反応凹部6a−1に入射する音波Waは、壁内の伝搬距離が長いため減衰が大きく、反応凹部6a−2に入射する音波Waに比べて入射量が少ない。このため、表面弾性波素子22−1が同時に出射した音波Waによって反応凹部6a−1内の液体に反時計方向に生ずる音響流F11は、反応凹部6a−2内の液体に時計方向に生ずる音響流F12よりも流速が小さい。また、表面弾性波素子22−2が出射した音波Waによって、反応凹部6a−2内の液体に反時計方向に生ずる音響流F22は、反応凹部6a−3内の液体に時計方向に生じる音響流F23よりも流速が小さい。以下同様にして反応凹部6a−3〜6a−5内の液体に生ずる音響流を流速と共に図2に示す。
【0040】
従って、攪拌装置20は、表面弾性波素子22−1〜22−4を同時に駆動すると、図2に示すように、総ての反応凹部6a、例えば、反応凹部6a−2内の液体には反応凹部6a−2の中心に対して非対称な音響流F12と音響流F22が生ずる。このため、攪拌装置20、従って攪拌装置20を備えた自動分析装置1は、反応ホイール6に形成される反応凹部6aの容量が微量になっても保持した液体中に滞留領域を生ずることはない。この場合、反応ホイール6は、反応凹部6aの側壁が傾斜せず、鉛直であっても、表面弾性波素子22が出射した音波が底面に入射する位置が回転に伴って変化するので、上記と同様に非対称な音響流が生ずるので、反応凹部6aの容量が微量になっても保持した液体中に滞留領域を生ずることはない。
【0041】
また、時間t1経過し、反応ホイール6が、図2に示す位置から回転して図6に示す位置に移動すると、反応凹部6aと表面弾性波素子22との相対位置が変化する。図6に示す場合、表面弾性波素子22は、音波Waを二方向へ面対称に出射するが、出射した面対称な音波Waの一方は、反応凹部6aの傾斜した側壁と並行に壁内を伝搬し、他方は反応凹部6aの底壁内を伝搬した後、底面から液体中に入射する。このため、攪拌装置20は、表面弾性波素子22−1〜22−4を同時に駆動すると、図6に示すように、総ての反応凹部6aに反時計方向の音響流F12〜F45が生ずる。
【0042】
そして、更に時間t2経過し、反応ホイール6が、図6に示す位置から回転して図7に示す位置に移動すると、反応凹部6aと表面弾性波素子22との相対位置が更に変化する。この場合、前述の場合と同様に、表面弾性波素子22が出射した音波Waの一方が、反応凹部6aの傾斜した側壁と並行に壁内を伝搬する。このため、他方の音波Waのみが底面から液体中に入射するので、攪拌装置20は、表面弾性波素子22−1〜22−4を同時に駆動すると、図7に示すように、総ての反応凹部6aに時計方向の音響流F12〜F45が生ずる。
【0043】
このように、攪拌装置20及び自動分析装置1は、反応ホイール6の回転位置に応じて反応凹部6a内の液体に生ずる音響流の向きが切り替わるので、反応凹部6aに保持した液体の攪拌効果が向上し、液体を均一に攪拌することができる。また、攪拌装置20及び自動分析装置1は、音波の伝搬方向に位置する少なくとも二つの反応凹部6aへ液槽21内に配置した複数の表面弾性波素子22が音波を同時に照射する。このため、攪拌装置20及び自動分析装置1は、反応凹部6aよりも少ない数の表面弾性波素子22によって反応凹部6aに保持して搬送される液体を均一に攪拌することができる。
【0044】
この場合、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6aの配置間隔が振動子22bの配置間隔が等しいと、反応ホイール6の回転によって表面弾性波素子22が反応凹部6aの直下或いは隣り合う反応凹部6aの中央直下に位置する場合、各反応凹部6aの液体には大きさが等しく向きの異なる音波Waが入射する。このため、反応凹部6a内の液体中には、流速が同じで向きの異なる音響流が生じ、これらが衝突して互いに相殺される結果、流れが滞留してしまう場合が発生するが、このような流れの滞留は一時的なもので問題にはならない。
【0045】
但し、表面弾性波素子22は、駆動回路23の攪拌制御部24によって発振部25を制御し、振動子22bを駆動する周波数を共振周波数と反共振周波数との間で変えると、反応凹部6aの底面において液体中に入射する音波の間隔が変化する。例えば、共振周波数frと反共振周波数faとの間の中心周波数f0{=(fr+fa)/2}で振動子22bを駆動した場合、図8に示すように、液体中に入射する音波の間隔が最も広くなる。そして、中心周波数f0から離れるのに従って音波の間隔が狭くなり、例えば、周波数f1,f2(f1<f0<f2,|f0−f1|<|f2−f0|)で振動子22bを駆動した場合には、図8に示すように、周波数f2で振動子22bを駆動した場合に、液体中に入射する音波の間隔が最も狭くなる。
【0046】
このとき、図9に示すように、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6aの配置間隔の二分の一及び振動子22bの中心から反応凹部6aの中心までの距離をそれぞれDa,Db(Da≠Db)とし、表面弾性波素子22を異なる周波数f0,f1,f2で駆動する。すると、反応凹部6a−1〜6a−3の液体中に入射する音波の間隔は、周波数f0,f1,f2に応じて変化し、反応凹部6a−2には非対称な音響流F12,F22が発生し、表面弾性波素子22の駆動周波数によって攪拌効率を改善することができる。
【0047】
このため、攪拌装置20は、駆動回路23によって隣り合う振動子22bの駆動周波数を変えると、反応ホイール6の回転位置に応じて反応凹部6a内の液体に生ずる音響流の向きが切り替わるのに加え、液体中に入射する音波の間隔を変化させることができる。この結果、隣り合う振動子22bの駆動周波数を変えると、攪拌装置20は、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6aと振動子22bの配置間隔が等しい場合における、一時的な流れの滞留の影響を最小に抑えることができるうえ、反応凹部6aに保持した液体中に生ずる音響流の非対称性が更に増し、反応凹部6aに保持した液体の攪拌効率をより高めることができる。また、振動子22bの駆動周波数は、反応凹部6aに保持した液体の量が多い場合には、中心周波数f0から離れた周波数f2とし、液体の量が少ない場合には、中心周波数f0に近い周波数とする。
【0048】
従って、攪拌装置20は、例えば、図10に示すように、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6a−1〜6a−3の配置間隔の二分の一(Da)と振動子22bの中心から反応凹部6aの中心までの距離Dbとを等しく設定する(Da=Db)。また、表面弾性波素子22−1は、例えば、中心周波数をf3、駆動周波数をf0,f1,f2とし、表面弾性波素子22−2は、中心周波数をf0、駆動周波数をf3,f4,f5(f5<f3<f2<f4<f0<f1)とするように、隣り合う表面弾性波素子22の駆動周波数を異なった周波数に設定する。このように、隣り合う表面弾性波素子22の駆動周波数を異なった周波数に設定すると、攪拌装置20は、一時的な流れの滞留の影響を最小に抑えることができると共に、反応凹部6aに保持した液体中に生ずる音響流の非対称性が更に強くなり、反応凹部6aに保持した液体の攪拌効率が向上する。
【0049】
ここで、攪拌装置20は、図2に示すように、液槽21内に複数の表面弾性波素子22を配置した。しかし、攪拌装置20は、図11に示すように、表面弾性波素子22を単一の圧電基板22aに複数の振動子22bを設けた構成とし、単一の圧電基板22aを液槽21内に配置すると、複数の表面弾性波素子22をハンドリングする必要がなくなり、単一の圧電基板22aをハンドリングすればよくなるので、表面弾性波素子の取り扱いが容易となる。
【0050】
(実施の形態2)
次に、本発明の攪拌装置と分析装置にかかる実施の形態2について、図面を参照しつつ詳細に説明する。実施の形態1の攪拌装置は、表面弾性波素子が反応ホイール6の底面側に配置されていたのに対し、実施の形態2の攪拌装置では表面弾性波素子が反応ホイール6の側面側に配置されている。図12は、実施の形態2に係る攪拌装置を備えた本発明の自動分析装置の概略構成図である。図13は、図12の自動分析装置の反応ホイール及び液槽の部分における水平方向の断面図である。実施の形態2の自動分析装置は、攪拌装置の配置を除き実施の形態1と同一の自動分析装置を使用しており、以下の説明においては、実施の形態1の自動分析装置及び攪拌装置と同一の構成部分には同一の符号を付して説明している。
【0051】
実施の形態2の攪拌装置30は、反応ホイール6と、複数の表面弾性波素子22と、表面弾性波素子22を駆動する駆動回路23とを有しており、複数の表面弾性波素子22は、ジェルや液体等の音響整合剤Lmを保持した液槽31内に配置されて反応ホイール6の外側面側に配置されている。ここで、音響整合剤Lmは、音波の反応ホイール6壁面への伝達効率を高めるため、表面弾性波素子22が発する周波数の波長λに対して厚みがλ/4の奇数倍になるように、又は、できるだけ薄くなるように調整する。このとき、表面弾性波素子22は、図13に示すように、音波Waの対称面Psを反応凹部6aの中心軸Acから変位させて側壁6cの外側に配置されている。液槽31は、反応ホイール6外側の作業テーブル2上に固定されている。また、攪拌装置30は、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6aの配置間隔が振動子22bの配置間隔が等しく設定されている。
【0052】
従って、攪拌装置30を備えた自動分析装置1は、回転する反応テーブル6によって周方向に沿って搬送されてくる反応凹部6aに検体分注機構5が検体テーブル3の複数の検体容器4から検体を順次分注する。検体が分注された反応凹部6aは、反応ホイール6の回転によって試薬分注機構12の近傍へ搬送され、所定の試薬容器14から試薬が分注される。そして、試薬が分注された反応凹部6aは、反応ホイール6の回転によって周方向に沿って搬送される間に試薬と検体とが攪拌装置30によって攪拌されて反応し、光源8と受光素子9との間を通過する。このとき、反応凹部6a内の液体試料は、受光素子9によって測光され、分析部17によって成分濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応凹部6aは、排出装置11によって内部の反応液が排出された後、図示しない洗浄装置によって洗浄され、再度検体の分析に使用される。
【0053】
このとき、攪拌装置30は、図13に示すように、反応ホイール6の矢印方向への回転に伴って、各表面弾性波素子22が液槽21の上方に位置する隣接した二つの反応凹部6aへ同時に音波を照射する。このため、表面弾性波素子22が出射した音波は、反応ホイール6の回転に伴う反応凹部6aとの相対位置によって側壁から反応ホイール6に入射する位置が変化する。例えば、図13において、4つの表面弾性波素子22を左から表面弾性波素子22−1〜22−4とし、反応凹部6aを同様に左から反応凹部6a−1〜6a−5と表示することによって相互に区別することにする。
【0054】
ここで、図13に示すように、表面弾性波素子22−1が出射し、側壁から反応ホイール6に入射した音波Waは、壁内を伝搬した後、反応凹部6a−1と反応凹部6a−2のそれぞれの側面から液体中に入射し、他の表面弾性波素子22−2〜22−4においても同様である。このとき、例えば、表面弾性波素子22−1が出射した音波Waは、側壁6cに対して傾斜し、互いに面対称な二方向から側壁6cに入射する。ここで、表面弾性波素子22が出射する音波Waは平面状をなし、側壁6cに平面状に入射するため、二方向から入射する中間点における側壁6cの法線が対称面Psとなる。また、表面弾性波素子22−1〜22−4は、隣り合う反応凹部6a−1〜6a−5の中間に位置している。このため、図13に示すように、反応凹部6a−1内の液体には時計方向の音響流Fcwが発生し、反応凹部6a−5内の液体には反時計方向の音響流Fccが発生する。
【0055】
一方、これらの間に位置する反応凹部6a−2〜6a−4内の液体中には、図13に示すように、隣接する表面弾性波素子22−1〜22−4から大きさが等しく向きの異なる音波Waが入射する。このため、反応凹部6a−2〜6a−4内の液体中には、音響流Fccと音響流Fcwとが発生し、これらが衝突して互いに相殺される結果、流れが滞留してしまう。
【0056】
しかし、例えば、反応ホイール6が、図13に示す位置よりも少し前の位置においては、図14に示すように、反応凹部6a−1〜6a−5内の液体中には、反時計方向の音響流Fccが発生する。例えば、反応凹部6a−3には、表面弾性波素子22−2が右斜め上方に照射した音波Waと表面弾性波素子22−3が左斜め上方に照射した音波Waとが、図中右下隅に入射する。このとき、表面弾性波素子22−2が右斜め上方に照射した音波Waは、反応凹部6a−3に入射後、内壁面で反射して表面弾性波素子22−3が左斜め上方に照射した音波Waと一体となり、反時計方向の音響流Fccが発生する。
【0057】
一方、反応ホイール6が、図13に示す位置から図15に示す位置に更に回転すると、反応凹部6a−1〜6a−5内の液体中には、時計方向の音響流Fcwが発生する。例えば、反応凹部6a−3には、表面弾性波素子22−2が右斜め上方に照射した音波Waと表面弾性波素子22−3が左斜め上方に照射した音波Waとが、図中左下隅に入射する。このとき、表面弾性波素子22−3が左斜め上方に照射した音波Waは、反応凹部6a−3に入射後、内壁面で反射して表面弾性波素子22−2が右斜め上方に照射した音波Waに重畳され、時計方向の音響流Fcwが発生する。
【0058】
従って、前述した流れの滞留は一時的なものであり、実施の形態1で説明したように、隣り合う振動子22bの駆動周波数を変えると、攪拌装置30は、反応ホイール6の周方向に沿った反応凹部6aと振動子22bの配置間隔が等しい場合における、一時的な流れの滞留の影響を最小に抑えることができる。
【0059】
このように、攪拌装置30及び自動分析装置1は、反応ホイール6の回転位置に応じて反応凹部6a内の液体に生ずる音響流の向きが切り替わるので、実施の形態1の攪拌装置20及び自動分析装置1と同様に、反応凹部6aに保持した液体の攪拌効果が向上し、液体を均一に攪拌することができる。また、攪拌装置30は、音波の伝搬方向に位置する少なくとも二つの反応凹部6aへ液槽31内に配置した複数の表面弾性波素子22が音波を照射する。このため、攪拌装置30及び自動分析装置1は、反応凹部6aよりも少ない数の表面弾性波素子22によって反応凹部6aに保持して搬送される液体を均一に攪拌することができる。
【0060】
ここで、攪拌装置30は、反応ホイール6の外側面側に配置したが、配置上の問題がなければ内側面側に配置してもよい。また、反応ホイール6は、周方向に沿って反応凹部6aを1列設けたが、2列設けてもよい。この場合、自動分析装置1は、反応ホイール6の外側面側と内側面側の両側に攪拌装置30を配置し、試薬と検体とが攪拌されて反応した各反応凹部6a内の反応液を、2つの反応ホイール6間に設けた光源8と受光素子9とで検出分析する。このとき、反応凹部6aの一面をミラーとし、光源8から2つに分岐した交線を側方から反応凹部6aに入射させ、入射面と対向するミラー面で反射させて受光素子9で検出して分析を行う。もしくは、光源8と受光素子9に代えて、反応ホイール6の上方に配置したCCDカメラ等の撮像手段によって撮像し、得られる画像データを用いて検体の成分濃度等を分析する。
【0061】
(実施の形態3)
次に、本発明の攪拌装置にかかる実施の形態3について、図面を参照しつつ詳細に説明する。実施の形態1,2は、複数の液体保持部が容器を兼ねる反応ホイール6に設けられていたのに対し、実施の形態3は複数の液体保持部が容器であるマイクロタイタープレートに設けられている。図16は、実施の形態3の攪拌装置を示す斜視図である。図17は、図16に示す攪拌装置のマイクロタイタープレートを表面弾性波素子の振動子と共に示した裏面図である。図18は、図16に示すマイクロタイタープレートで使用する表面弾性波素子を拡大した斜視図である。図19は、マイクロタイタープレートの長手方向に沿ってウェルの中心で切断した部分断面図である。
【0062】
攪拌装置40は、音波を照射することによって液体を攪拌する攪拌装置であり、図16及び図17に示すように、マイクロタイタープレート(以下、単に「マイクロプレート」という)45と、マイクロプレート45底面に設けられる表面弾性波素子43とを有し、液体保持部となる複数のウェル45bに保持された液体試料を攪拌する。
【0063】
マイクロプレート45は、図16及び図17に示すように、矩形に形成された本体45aの上面に液体試料の保持部となる複数のウェル45bがマトリクス状に形成されている。マイクロプレート45は、各ウェル45bに試薬と血液や体液等の検体とを分注して反応させ、反応液を光学的に測定することで検体の成分濃度等を分析するための反応容器である。ここで、図示したマイクロプレート45は、ウェル45bの数が4×6であるが、ウェル45bの数は種々の数のものを使用することができ、以下に説明する他のマイクロプレートにおいても同様である。
【0064】
送電体41は、マイクロプレート45に対する距離並びにマイクロプレート45の板面に沿った2次元方向の位置を制御する位置制御部材(図示せず)に支持されており、図16に示すように、複数の表面弾性波素子43と対向配置されるRF送信アンテナ41a、駆動回路41b及びコントローラ41cを有している。駆動回路41bは、表面弾性波素子43を駆動する駆動手段であり、実施の形態1の駆動回路23の発振部25及び増幅部26を備えている。コントローラ41cは、実施の形態1の攪拌制御部24が使用されている。送電体41は、マイクロプレート45の板面に沿った2次元方向に移動しながら交流電源から供給される電力をRF送信アンテナ41aから電波として表面弾性波素子43に発信する。このとき、送電体41は、表面弾性波素子43に電力を送電する送電時に、RF送信アンテナ41aと表面弾性波素子43の後述するアンテナ43cとが対向するように前記位置制御部材によって相対位置が調整される。
【0065】
表面弾性波素子43は、マイクロプレート45の底壁45c下面にエポキシ樹脂等の音響整合層(図示せず)を介して取り付けられる音波発生手段であり、図18に示すように、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等の圧電基板43aの表面に櫛型電極(IDT)からなる振動子43bが受電手段となるアンテナ43cと共に一体に設けられている。表面弾性波素子43は、図19に示すように、音波Waの対称面Psをウェル45bの中心軸Acから変位させてマイクロプレート45の底壁45c下面に取り付けられる。このため、表面弾性波素子43が発生する音波Waは、図示のように、底壁45cに対して傾斜し、互いに面対称な二方向から底壁45cに入射する。ここで、表面弾性波素子43が出射する音波Waは平面状をなし、底壁45cに平面状に入射するため、二方向から入射する中間点における底壁45cの法線が対称面Psとなる。但し、表面弾性波素子43は、隣り合う二つのウェル45b間の中心から変位させて設ける。
【0066】
以上のように構成される攪拌装置40は、RF送信アンテナ41aとアンテナ43cとが対向したときに、コントローラ41cの制御の下に、送電体41がRF送信アンテナ41aから電波を発信する。すると、送電体41と対向配置された表面弾性波素子43のアンテナ43cがこの電波を受信し、共振作用によって起電力が発生する。攪拌装置40は、この起電力によって振動子43bに表面弾性波(超音波)が発生し、前記音響整合層からマイクロプレート45の本体45a内へと伝搬し、音響インピーダンスが近い液体試料中へ漏れ出してゆく。
【0067】
このとき、攪拌装置40は、音波Waの対称面Psをウェル45bの中心軸Acから変位させて表面弾性波素子43がマイクロプレート45の底壁45c下面に取り付けられている。このため、マイクロプレート45は、隣接する表面弾性波素子43が出射した音波のうち、同一のウェル45bに入射する音波の壁内における伝搬距離、従って音波の減衰量が異なるので、同一のウェル45bに入射する音波の量に差が生ずる。
【0068】
この結果、ウェル45bに保持した液体試料中には、図19に示すように、時計方向の音響流Fcwと音響流Fcwよりも流速の小さい反時計方向の音響流Fccとが非対称に生じ、各ウェル45bに分注された試薬と検体とが滞留領域を生ずることがなく均一に攪拌される。このとき、RF送信アンテナ41aからアンテナ43cに発信する電波の周波数を共振周波数frと反共振周波数faとの間で変えると、ウェル45bに保持された液体試料中に入射する音波の間隔が変化するので、液体試料中に生ずる音響流の非対称性が増し、ウェル45bに保持した液体の攪拌効率を高めることができる。
【0069】
そして、試薬と検体とが攪拌されて反応した液体試料は、マイクロプレート45の上方からCCDカメラ等の撮像手段によって撮像され、得られる画像データを用いて検体成分の分析が行われる。
【0070】
攪拌装置40は、上述のようにRF送信アンテナ41aとアンテナ43cとを利用して送電体41からマイクロプレート45に取り付けた表面弾性波素子43に非接触で電力を送電し、複数のウェル45bに分注された試薬と検体とを攪拌する。このとき、攪拌装置40は、音波Waの対称面Psをウェル45bの中心軸Acから変位させて表面弾性波素子43がマイクロプレート45の底壁45c下面に取り付けられている。このため、攪拌装置40は、液体試料が微量になり、ウェル45bが微小或いは細くなっても、保持した液体中に滞留領域を生ずることなく、保持した液体をウェル45bの数よりも少ない数の表面弾性波素子43によって均一に攪拌することができる。
【0071】
ここで、攪拌装置40で使用するマイクロプレート45は、音波Waの対称面Psがウェル45bの中心軸Acから変位していれば、複数のウェル45bの配置間隔や表面弾性波素子43とウェル45bとの距離は必ずしも一定でなくてもよい。例えば、図17に示すマイクロプレート45において、長手方向をX軸方向、長手方向に直交する方向をY軸方向とする。このとき、マイクロプレート45は、図20に示すように、隣接するウェル45bのX軸方向の配置間隔をX1,X2と異ならせる他、各振動子43bの音波が発生する中心Ciと各ウェル45bの中心間距離L1,L2,L3、……を総て異ならせてもよい。
【0072】
また、攪拌装置40で使用するマイクロプレートは、音波の対称面がウェルの中心軸から変位していれば、図21に示すマイクロプレート46のように、マトリクス状に配置された複数のウェル46bの各ウェル46bに対して二つの振動子43bが各ウェル46bの中心軸Acから変位し、かつ、中心軸Acを挟んで対向するように複数取り付けてもよい。このとき、表面弾性波素子は、エポキシ樹脂等の音響整合層(図示せず)を介して底壁46cに取り付ける。この場合、図21のA部を拡大した図22に示すように、ウェル46b−1は、中心軸Acを挟んで対向配置された振動子43b−1,43b−2から出射される音波Waによって保持した液体が攪拌される。
【0073】
このとき、図22に示すように、振動子43b−1が出射した音波Waは半分近くがウェル46b−1に入射する。これに対し、振動子43b−2が出射した音波Waは、振動子43b−1が出射した音波Waと出射方向が180°異なるうえ、半分近くがウェル46b−2入射するうえ、残りの半分近くが底壁内を伝搬し、振動子43b−1が出射した音波Waに比べると、僅かの量だけがウェル46b−1に入射する。このため、ウェル46b−1内の液体には、図示のように、時計方向の音響流Fcwが発生する。
【0074】
一方、ウェル46b−2は、図22に示すように、振動子43b−3から入射する音波Waに比べて、振動子43b−2から入射する音波Waの量が多いので、反時計方向の音響流Fccが発生する。このとき、図22に示すように、振動子43b−4も音波Waを出射するが、この音波Waはウェル46b−3に入射するものが殆どであり、ウェル46b−1側に出射した音波Waは、ウェル46b−1迄の距離があることから、壁内を伝搬する間に減衰してウェル46b−1に入射するエネルギーは相対的に非常に小さいものとなる。同様に、振動子43b−5が出射した音波もウェル46b−1やウェル46b−2に入射するエネルギーも相対的に小さいものとなる。この結果、マイクロプレート46は、図21に示すように、列毎に方向が異なる音響流Fが発生する。
【0075】
従って、攪拌装置40は、マイクロプレート46を使用すると、液体試料が微量になり、ウェル46bが微小或いは細くなっても、保持した液体中に滞留領域を生ずることなく、保持した液体を表面弾性波素子43によって均一に攪拌することができる。
【0076】
ここで、マイクロプレート46は、表面弾性波素子の振動子43bを底壁46cに取り付ける位置を変えることにより、図23に示すように、中心軸Ac(図22参照)を挟んで対向配置される二つの振動子43bが出射する音波のウェル46bに入射する入射幅W1,W2を任意に変更することができる。このため、マイクロプレート46は、各ウェル46bに生ずる音響流の流速を調整することができる。
【0077】
また、攪拌装置40で使用するマイクロプレートは、音波の対称面がウェルの中心軸から変位していれば、図24に示すマイクロプレート48のように、四角柱状のウェル48bをマトリクス状に配置すると共に、振動子43bが複数のウェル48bに跨り、かつ、隣り合う二つのウェル45bの中心から変位するように、表面弾性波素子を底面45cにエポキシ樹脂等の音響整合層(図示せず)を介して複数取り付けてもよい。
【0078】
従って、マイクロプレート48を使用した攪拌装置40は、表面弾性波素子43が駆動すると、図24のB部を拡大した図25に示すように、各振動子43bの中心Ciから音波Waが対称に出射されるが、音波Waの対称面Psをウェル48bの中心軸Acから変位させ、各振動子43bを隣り合う二つのウェル48bの中心から変位させて設けたことから、壁内を伝搬する音波の伝搬距離、従って音波の減衰量が異なる。このため、マイクロプレート48は、複数の振動子43bが出射した音波Waの壁内の伝搬距離に応じて流速の異なる音響流Faが各ウェル48bに保持した液体中に非対称に生じる。このため、攪拌装置40は、液体試料が微量になり、ウェル48bが微小或いは細くなっても、保持した液体中に滞留領域を生ずることなく、保持した液体をウェル48bの数よりも少ない数の表面弾性波素子43によって均一に攪拌することができる。
【0079】
ここで、各ウェル48bに保持した液体中には、隣接する表面弾性波素子43が出射した音波が漏れ出すことによって、図示した音響流Fa以外にも流速が更に小さい音響流が発生するが、これらは流速が小さいことから液体の攪拌に殆ど寄与しないので図示を省略している。
【0080】
ここで、実施の形態1〜3の攪拌装置は、音波の対称面が複数の液体保持部の中心軸から変位した位置から音波を発生させて各液体保持部に保持された液体を攪拌するものについて説明した。しかし、本発明の攪拌装置は、音波の対称面が前記液体保持部の中心軸から変位した位置から音波を発生させる攪拌装置であれば、液体保持部及び音波発生手段は一つであってもよい。
【0081】
従って、本発明の攪拌装置は、例えば、図26に示す攪拌装置40のように、本体49aに液体保持部となる凹部49bが1つ形成された攪拌容器49を用いていてもよい。この場合、攪拌容器49は、振動子43bの中心Ciを凹部49bの中心軸Acから変位させて表面弾性波素子43を底面に音響整合層を介して取り付ける。これにより、攪拌容器49は、表面弾性波素子43は、音波Waの対称面Psが凹部49bの中心軸Acから変位した位置から音波Waを発生する。このとき、対称面Psに対して振動子43bの中心から左右2方向に出射された音波のうち、凹部49b側に向かう一方の音波Waは、中心軸Acから離れた位置で液体L中に入射する。これに対して、側壁49c側に向かう他方の音波Waは、側壁49cで反射した後、凹部49bの液体L中に入射するが、液体Lが存在しない空間部分には入射できない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施の形態1に係る攪拌装置を備えた本発明の自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す自動分析装置のC−C線に沿った縦断面図である。
【図3】本発明の攪拌装置を構成する表面弾性波素子の平面図である。
【図4】音波の対称面を反応凹部の中心軸から変位させて底壁の外側に配置した表面弾性波素子を反応凹部と共に示す図2の拡大図である。
【図5】図2に示す自動分析装置において攪拌装置の1構成単位の断面を駆動回路と共に示す図である。
【図6】図2の位置から時間t1経過し、反応ホイールが回転した後の縦断面図である。
【図7】図2の位置から時間t2経過し、反応ホイールが回転した後の縦断面図である。
【図8】表面弾性波素子の駆動周波数を変化させたときの、反応ホイールの反応凹部底面から液体中に入射する音波の間隔の変化を説明する断面図である。
【図9】表面弾性波素子の駆動周波数を変化させたときの反応凹部底面から液体中に入射する音波の間隔の変化と、反応凹部に発生する非対称な音響流を示す断面図である。
【図10】隣り合う表面弾性波素子の駆動周波数を異なった周波数に設定したときの反応凹部底面から液体中に入射する音波の間隔の変化と、反応凹部に発生する非対称な音響流を示す断面図である。
【図11】表面弾性波素子の変形例を示す断面図である。
【図12】実施の形態2に係る攪拌装置を備えた本発明の自動分析装置の概略構成図である。
【図13】図12の自動分析装置の反応ホイール及び液槽の部分における水平方向の断面図である。
【図14】図13に示す位置よりも少し前の位置における図12の自動分析装置の反応ホイール及び液槽の部分における水平方向の断面図である。
【図15】図13に示す位置から回転した後の位置における図12の自動分析装置の反応ホイール及び液槽の部分における水平方向の断面図である。
【図16】実施の形態3の攪拌装置を示す斜視図である。
【図17】図16に示す攪拌装置のマイクロプレートを表面弾性波素子の振動子と共に示した裏面図である。
【図18】図16に示すマイクロプレートで使用する表面弾性波素子を拡大した斜視図である。
【図19】マイクロプレートの長手方向に沿ってウェルの中心で切断した部分断面図である。
【図20】マイクロプレートに設けるウェルの配置間隔並びに表面弾性波素子とウェルとの中心間距離を説明する模式図である。
【図21】実施の形態3の攪拌装置で使用するマイクロプレートの第一の変形例を示す底面図である。
【図22】図21のマイクロプレートのA部を拡大した拡大図である。
【図23】図21に示すマイクロプレートにおける振動子の取付位置の違いによる音波のウェルへの入射幅の変更を説明する図である。
【図24】実施の形態3の攪拌装置で使用するマイクロプレートにおける、ウェルと表面弾性波素子の振動子の配置を示す底面図である。
【図25】図24のB部を拡大した拡大図である。
【図26】本発明の攪拌装置の変形例を示す断面図である。
【図27】従来の攪拌装置における容器への表面弾性波素子の櫛型電極の配置と、容器内の液体中に生ずる対称な音響流による流れの滞留領域を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 自動分析装置
2 作業テーブル
3 検体テーブル
3a 収納室
4 検体容器
5 検体分注機構
6 反応ホイール
6a 反応凹部
7 駆動機構
8 光源
9 受光素子
11 排出装置
12 試薬分注機構
13 試薬テーブル
13a 収納室
14 試薬容器
15 読取装置
16 制御部
17 分析部
18 入力部
19 表示部
20 攪拌装置
21 液槽
22 表面弾性波素子
22a 圧電基板
22b 振動子
22c 電気端子
22d バスバー
23 駆動回路
24 攪拌制御部
25 発振部
26 増幅部
27 配線
28 周波数設定部
29 位置制御部
30 攪拌装置
31 液槽
40 攪拌装置
41 送電体
41a RF送信アンテナ
41b 駆動回路
41c コントローラ
43 表面弾性波素子
43a 圧電基板
43b 振動子
43c アンテナ
45,46 マイクロプレート
45a 本体
45b,46b ウェル
45c,46c 底面
48 マイクロプレート
48b ウェル
48c 底面
49 攪拌容器
49a 本体
49b 凹部
49c 側壁
Ci 振動子の中心
F11〜F45 音響流
Fa 音響流
Fcc,Fcw 音響流
Lm 音響整合剤
Ps 対称面
W1,W2 入射幅
Wa 音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を照射することによって液体を攪拌する攪拌装置において、
液体を保持する液体保持部と、
前記液体保持部を構成する壁の外側に配置され、前記壁に対して傾斜し、互いに面対称な二方向へ向かう音波を前記壁に入射させる音波発生手段と、
を備え、
前記音波発生手段は、前記音波の対称面が前記液体保持部の中心軸から変位した位置から音波を発生させることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記音波発生手段は複数設けられ、音波の伝搬方向に隣り合う前記音波発生手段が発生する音波の周波数は、互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記複数の音波発生手段は、音波の伝搬方向に隣り合う二つの音波発生手段の中心周波数が互いに異なることを特徴とする請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記液体保持部は複数設けられ、
前記音波発生手段は、音波が発生する中心と、前記各液体保持部の中心軸との距離が総て異なることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記音波発生手段が発生する音波の周波数を設定する周波数設定手段をさらに備え、
前記音波発生手段は、発生する音波の周波数を前記周波数設定手段によって経時的に変化させられる
ことを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項6】
前記周波数設定手段は、攪拌対象の液体の性状又は液量に応じて前記音波発生手段が発生する音波の周波数を変化させることを特徴とする請求項5に記載の攪拌装置。
【請求項7】
前記周波数設定手段は、前記音波発生手段が発生する音波の変調、或いは前記音波発生手段が発生する音波の周波数のスイープ又は切り替えを行うことを特徴とする請求項5に記載の攪拌装置。
【請求項8】
前記周波数設定手段は、前記音波発生手段が発生する音波の周波数を共振周波数と反共振周波数との間で変化させることを特徴とする請求項5に記載の攪拌装置。
【請求項9】
前記音波発生手段と前記液体保持部との相対位置を変化させる位置制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項10】
前記位置制御手段は、攪拌対象の液体の性状又は液量に応じて当該液体を保持した前記液体保持部と前記音波発生手段との相対位置を変化させることを特徴とする請求項9に記載の攪拌装置。
【請求項11】
前記位置制御手段は、前記液体保持部の位置を前記音波発生手段に対して移動させることを特徴とする請求項9に記載の攪拌装置。
【請求項12】
前記音波発生手段は、前記音波として表面弾性波を発生する表面弾性波素子であることを特徴とする請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項13】
複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液を分析する分析装置であって、請求項1〜12のいずれか一つに記載の攪拌装置を用いて前記複数の異なる液体を攪拌して反応させ、反応液を分析することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−40846(P2007−40846A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225868(P2005−225868)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】