説明

改善されたヘッドルームを有するCMOS電圧バンドギャップ基準

【課題】電圧バンドギャップ基準回路を提供する。
【解決手段】前記回路は増幅器を含み、該増幅器はその入力に接続された第1および第2トランジスタを有する。前記回路は、第1および第2トランジスタの間のΔVbeに実質的に等しい電圧を、増幅器の共通入力に加えられた電圧から差し引くことにより、より低いヘッドルームで動作するように適合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧バンドギャップ基準回路に関し、特に改善されたヘッドルーム容量を有する電圧バンドギャップ基準回路に関する。本明細書において、用語「ヘッドルーム」は、回路への電力供給電圧と該回路が供給する基準電圧の差として定義される。
【背景技術】
【0002】
バンドギャップ電圧基準回路は1970年代初めより当分野によく知られており、これはIEEE刊行物であるRobert Widlar(IEEE Journal of Solid State Circuits Vol. SC-6 No 1 February 1971)およびA. Paul Brokaw(IEEE Journal of Solid State Circuits Vol. SC-6 No 6 December 1974)からも明らかである。
【0003】
これらの回路は、安定したバンドギャップ電圧を実現するための構造を提供する。David A. Johns and Ken Martin “Analog Integrated Circuit Design”, John Wiley & Sons, 1997に考察されているように、これらの回路およびそれに対する他の変更は、負の温度定数を有するフォワードベースダイオード(forward based diode)(またはベース・エミッタ接合)の電圧を、絶対温度に比例する(PTAT)電圧から差し引くことに基づく。通常PTAT電圧は、異なる電流密度において動作する2個の順方向バイアスのベース・エミッタ接合の電圧差(ΔVbe)を増幅することにより生成される。
【0004】
かかる回路の1例が、図1に概略図で示されている。この図において、バンドギャップ電圧基準回路は、演算増幅器A、3個の抵抗器R1、R2およびR3、および、2個の寄生トランジスタQ1およびQ2を用いて実装されており、ここでQ2はQ1よりn倍大きいエミッタ領域を有する。増幅器Aの出力は、その反転端子へ、フィードバック抵抗器R3を介して接続される。増幅器の出力はまた、抵抗器R1を介してトランジスタQ1のエミッタに接続され、ここでQ1のベースは接地されている。Aの反転端子は、抵抗器R2を介してQ2のエミッタに接続され、Q2のベースもまた接地されている。Aの非反転端子は、Q1のエミッタに接続される。
【0005】
異なるコレクタ電流密度で動作する2個のバイポーラトランジスタのベース・エミッタ電圧の差は、絶対温度に比例することが知られている。図1において、Q2のエミッタ領域をQ1のエミッタ領域より「n」倍大きくすることにより、コレクタ電流密度の間の差が保証される。増幅器Aが、非反転(+)および反転(−)の2個の入力を実質的に等しい電圧レベルに維持する場合に、R2で生成される電圧は以下である:
ΔVbe=(kT/q)ln(nI1/I2) (1)
【0006】
基準電圧が、ΔVbeに係数Kを乗じて、大きい方の電流密度を有する接合点のベース・エミッタ電圧に加えた値に等しいことは知られており、容易に示すことができ、式2の通りである。
ref=VBE1+KΔVbe (2)
図1の回路について、基準電圧は次の式で示される。
ref=VBE1+(R3+R2)kT/q(ln(nR3/R1)) (3)
【0007】
この式は、特定の状況および実装に対する理論的基準電圧を決定するのに使用可能であることが理解される。
【0008】
他の実装において、図1の抵抗器R1およびR3を電流ミラーに置き換えることができる。図2はかかる変更の例である。図2の回路は図1の回路に類似しており、同じ要素が同じ参照番号で示されている。図2の回路において、演算増幅器Aの非反転端子は、抵抗器R2を介してQ2のエミッタに接続される。反転端子は、Q1のエミッタに接続される。Q1およびQ2両方のベースは接地される。Aの出力は、図1の抵抗器R1およびR3ではなく、PMOSデバイスM1およびM2のゲートに接続される。M1およびM2のソース端子は従って、図にVDDと示されている電源に接続されねばならない。M2のドレインは、増幅器Aの非反転端子に接続される。
【0009】
任意のバンドギャップ電圧基準の1つの重要な仕様は、最小供給電圧である。知られているように、増幅器A(図1および図2)がPMOSトランジスタのペアを用いる差動段を有する場合、共通入力電圧はNMOS入力ペアによって供給されるものより低い。しかし、ノイズを考慮するとPMOSトランジスタの差動ペアが好ましい。PMOS入力ペアの場合、PMOSトランジスタの閾電圧および増幅器の入力共通モード電圧が、最小供給電圧を規定する。特定のプロセスの閾電圧が与えられる場合、最小供給電圧を低減する唯一の方法は、増幅器の共通入力電圧、すなわち図1および図2の回路のベース・エミッタ電圧を低減することである。
【0010】
抵抗再分割の方法はよく知られており、例えば、Ka Nang Leung et al., “A sub-1-V 15-ppm/C CMOS Bandgap Voltage Reference Without Requiring Low Threshold Voltage Device”, IEEE Journal Solid State Circuit, Vol. 37/4, pp. 526-530, April 2002に記載されている。これらの方法の基本的構成を図3に示す。図3の回路は2個の抵抗分割器を有し、それぞれが増幅器Aの入力端子の各々へ接続されている。抵抗器R2B1およびR2B2は、増幅器Aの反転端子の抵抗分割器として動作し、ここで反転端子の電圧は、示されるように、R2B1とR2B2の間である。同様に、抵抗器R2A1とR2A2は、増幅器Aの非反転端子の抵抗分割器として動作し、ここで非反転端子の電圧は、示されるように、R2A1とR2A2の間である。この回路において、増幅器Aの出力は、図2と同じ様式で、PMOSデバイスM1、M2およびM3のゲートに接続され、それらのソースは供給電圧VDDによって駆動される。M2のドレインはQ1のエミッタと抵抗器R2B1に接続される。M1のドレインは、抵抗器R1を介してQ2のエミッタと、および抵抗器R2A1の両方に接続される。Q2のエミッタ領域は、前の図に示すようにQ1よりn倍大きい。M3のドレインは、抵抗器R3を介して接地される。抵抗器R2A2およびR2B2と、Q1およびQ2のベースは全て同じ基準ポテンシャルに結合され、これは図3の概略図に接地として示されている。
【0011】
これらの構成を用いて、高い電流密度で動作するバイポーラトランジスタ(Q1)のベース・エミッタ電圧は、R2B1およびR2B2により再分割される。低い電流密度およびR1で動作する第2バイポーラトランジスタ(Q2)は、第2抵抗分割器R2A1とR2A2の比率が第1抵抗分割器と同じである場合は、R1上でPTAT電圧を生成する。この構成の主な欠点の1つは、増幅器Aのオフセットおよびノイズが再分割比で増幅されることである。その結果、増幅器Aの共通電圧が低下するに従って、出力のオフセットとノイズが増加する。
【0012】
低い電圧動作を許容する他の構成は、Giulio Ricotti et al.の米国特許第6307426号に記載されている。この構成の基本的なアイディアは、増幅器の入力バイポーラ差動段にオフセットを導入することである。このオフセット電圧は典型的なPTAT電圧である。低い温度定数の基準電圧は、このPTAT電圧を、拡大・縮小したCTAT電圧に加えることにより得られる。この構成の主な欠点は:
【0013】
1)3端子全てを有する純ラテラルトランジスタのみが利用可能なCMOSプロセスには、実装できないこと。
2)典型的なバイポーラプロセスにおいては、PTATオフセット電圧に付加される、除去不可能な他のオフセットが存在する。このため、実際のPTAT電圧および出力電圧は、デバイス間およびロット間で大きく広がる場合がある。
【0014】
従って、電圧バンドギャップ基準信号を供給できる回路であって、CMOS技術に実装可能であり、従来の回路より改善されたヘッドルームを供給できる前記回路を提供する必要性がある。また、低減された広がりを提供し、しかもヘッドルームの利用可能性の低い回路において実装可能な回路の必要性も存在する。
【発明の概要】
【0015】
これらの必要性その他は本発明の回路により提供することができ、該回路は、増幅器の入力電圧を低減しまた該増幅器まわりの1つのループを正から負へと変更することによって、低い供給電圧での動作が可能な電圧基準を供給でき、また所望の出力からの低減された出力の広がりもしくは偏差を有する。バンドギャップ回路の増幅器入力電圧を低下することにより、本発明は、従来利用可能なものよりも改善された電力供給除去比(PSRR)および、改善された起動時間を提供する。
【0016】
本発明の第1の態様により、改善されたヘッドルームバンドギャップ基準電圧回路が提供される。該回路は演算増幅器を含み、前記演算増幅器は、反転入力ノード、非反転入力ノード、および電圧基準ノードに接続された出力を有し、ここで反転入力ノードおよび非反転入力ノードは、それぞれ第1および第2トランジスタに接続され、これらのトランジスタは異なる電流密度で動作するよう適合されている。前記演算増幅器の共通入力ノードは、低い方の電流密度で動作するトランジスタのベース・エミッタ電圧から供給され、それによって、前記演算増幅器の共通入力ノードを低減させて前記回路の動作ヘッドルームを減少させる。
【0017】
電圧基準ノードの電圧は、典型的にはPTAT電圧およびCTAT電圧の組み合わせである。CTAT電圧は、増幅器の出力に接続された第3トランジスタのベース・エミッタ電圧から供給されるのが好ましい。
【0018】
第1の構成においては、演算増幅器はその出力においてPTAT電流を生成し、該PTAT電流は、基準ノードにおいて、電圧基準ノードと接地との間に接続されたインピーダンス負荷の供給により、PTAT電圧に変換される。演算増幅器の出力ノードは、少なくとも1個の電流ミラーに接続することができ、該電流ミラーは、演算増幅器の出力において生成されるPTAT電流をミラーリングし、該電流ミラーは、演算増幅器の出力と電圧基準ノードとの間に設けられる。
【0019】
演算増幅器の共通入力ノード電圧は、典型的には、第1トランジスタと第2トランジスタのベース・エミッタ電圧の差から得られる。
増幅器の入力ノードと高い方の電流密度で動作するトランジスタとの間に抵抗器を接続することができ、それによって、第1トランジスタと第2トランジスタのベース・エミッタ電圧に差を生じさせることができる。
【0020】
演算増幅器の共通入力ノードは、抵抗器上で生成される、第1および第2トランジスタの間の電圧差と実質的に等しい量だけ低い電圧で動作する。
本発明のこれらおよび他の性質、目的および利点は、以下の図を参照してよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】バンドギャップ基準回路の従来技術の実装を示す図である。
【図2】さらなる従来技術の実装を示す図である。
【図3】従来技術の実装のさらなる例を示す図である。
【図4】本発明の第1の態様による基準回路を示す図である。
【図5】本発明の第2の態様による基準回路を示す図である。
【図6】本発明の第3の態様による基準回路を示す図である。
【図7】−55℃において、従来技術による回路の増幅器と本発明による回路の同じ増幅器における、入力電圧を比較したシミュレーションを示すグラフである。
【図8】従来技術および本発明による、シミュレーションで得た基準電圧出力の比較を示す。
【図9】従来技術および本発明による回路に対する、シミュレーションで得た起動時間の比較を示す。
【0022】
図面の詳細な説明
本発明により、従来技術より改善されたヘッドルームを有し、従来技術の実装に対して明確な利点を提供する、バンドギャップ電圧基準回路が提供される。
【0023】
「背景技術」の節で前に述べたように、既知のバンドギャップ電圧基準回路は、大きな出力値の広がりを含む多くの欠点を有していた。従って前に詳細に記したように、従来技術の構成での必要性に対処する、改善された回路を提供する必要性が存在する。図4〜図6は、本発明による解決方法の例である。本発明は特定の態様を参照して記載されているが、添付のクレームに照らして必要であると考えられる場合を除き、本発明を、組み合わせた完全体(integer)の任意のセットに限定する意図は無いと理解されることは、当業者には明らかである。
【0024】
図4〜図6の回路の検討から、本発明が、PTAT電圧を生成する増幅器の共通入力電圧を、高い方の電流密度において動作するトランジスタのベース・エミッタ電圧としてでなく、むしろ、低い方の電流密度において動作するトランジスタのベース・エミッタ電圧として供給することが理解される。これは、好ましい態様において、高い電流密度において動作するトランジスタのベース・エミッタ電圧から、ベース・エミッタ電圧間の差を差し引くことにより提供される。従来技術の実装を本発明と比較すると、同じ条件に対して、本発明の態様における増幅器の入力電圧は、ΔVbeの値だけ従来技術の構成より低くなっていることが理解される。この電圧差が、この回路にヘッドルームゲインを提供する。増幅器への入力値の低減は、本発明の回路により提供される場合、多数の異なる方式によって提供することができ、例示の態様を参照して以下に記載される。
【0025】
図4において、増幅器Aの出力は、PMOSデバイスM1、M2、M3およびM4のゲートに接続され、これらデバイスのソースはVDDに接続される。M1のドレインは、Q2のエミッタに接続される。M2のドレインは、Q1のエミッタに接続される。M3のドレインは、抵抗器R2を介してQ3のエミッタに接続される。M4のドレインは、ダイオードが接続されたNMOSトランジスタM5のドレインに接続される。増幅器Aの非反転端子は、トランジスタQ2のエミッタに接続される。反転端子は、抵抗器R1を介してQ1のエミッタに接続され、またNMOSトランジスタM6のドレインにも接続される。M5およびM6のゲートは一緒に接続されて、電流ミラーを形成する。Q1、Q2およびQ3のベース、およびM5およびM6のソースは、図4では接地として示されている共通の基準ポテンシャルに全て結合されるが、任意の基準ポテンシャルが使用可能であることが理解される。
【0026】
図4の回路は以下のように動作する。初期セトリング(整定)時間の後、増幅器Aの出力は、M1の共通ゲート電圧をM4に引き付ける電圧レベルに到達し、それによってこれらのPMOSトランジスタを介して電流を生成し、増幅器の2つの入力が同じ電圧を有することを保証し、トランジスタのベース・エミッタ電圧が同じ低い電流密度で動作するようにする。M1は電流I3をQ2のエミッタへ強制的に伝送する;M2は、R1およびM6を介してI2と他の電流に分割される電流I1を、Q1のエミッタへと強制的に伝送する;M3は電流I4を、R2を介してQ3のエミッタへ強制的に伝送し、M4は電流I2を、ダイオードが接続されたNMOSトランジスタM5へと強制的に伝送する。M5とM6が同一であれば、M6は電流I2を、I1からR1を介して引きつけることが理解される。電流I2は、増幅器Aをバランスさせて、2つの入力(+)、(−)が同じ電圧レベルとなるように、R1において必要な電圧降下を生成する。
【0027】
R1での電圧降下は以下であることが理解される:
ΔVbe=(kT/q)ln(n(I1−I2)/I3)=I2R1 (4)
式4は、I2とI1、I3およびI4が、同じゲートソース電圧から生成されているためにPTAT電流であることを示す。それらは、アスペクト比(W/L)に対応する倍率の値だけ異なる。
基準電圧は、Q3のベース・エミッタ電圧をR2でのI4の電圧降下に加えたものである:
REF=ΔVbeQ3+I4R2 (5)
【0028】
電流およびΔVbeは、必要に応じて拡大縮小してもよいことが理解される。例えば以下の場合:
I1=I4=2I2=2I3 (6)
基準電圧は以下から計算できる:
REF=ΔVbeQ3+2R2/R1KT/qln(n) (7)
従って、抵抗器の比率(R2/R1)の特定の組み合わせおよびエミッタ比率(n)は、最小温度係数を有する基準電圧を提供することが理解される。
【0029】
図5は、図4に記載されたものとは異なる本発明の態様を示す。図5において増幅器Aの出力は、NMOSデバイスM5およびM6のゲートに接続される。M6のドレインは、Aの非反転端子に接続して戻される。M5のドレインは、ダイオードが接続されたトランジスタM4のドレインに接続される。M4のゲートは、PMOSデバイスM1、M2およびM3のゲートに接続され、全PMOSデバイスのソース端子はVDDに接続される。M1のドレインは、回路のトランジスタQ2およびQ3よりn倍大きいエミッタ領域を有するトランジスタQ1のエミッタに接続される。M2のドレインは、トランジスタQ2のエミッタに接続される。M3のドレインは、抵抗器R2を介してトランジスタQ3のエミッタに接続される。この図において、増幅器Aの非反転入力は、抵抗器R1を介してQ2のエミッタに接続され、反転端子は、Q1のエミッタに接続される。Q1、Q2およびQ3のベース、およびM5およびM6のソースは、全て接地ポテンシャルに接続される。
【0030】
図4から図5への違いは、PTAT電流が如何にミラーリングされるかにある。図4を参照して記述したように、増幅器Aは、M5およびM6の共通ゲートに、対応するΔVbe電圧がR1上で生成されることを保証するのに十分な電圧レベルを強制する。M5の出力電流は、ダイオード接続トランジスタM4によってミラーされ、対応する倍率でM1、M2、M3およびM6に対して繰り返される。
図5の回路に対する基準電圧は、図4の回路に対するのと同じ方法で導出することができる。
【0031】
図4および図5の構成は、図1および図2の回路に対してさらなる利点を有することが理解される。1つのかかる利点は、特定のΔVbeを生成するのに必要な供給電流およびシリコン面積に関する。大きなΔVbeを生成することが有利であることが理解され、なぜならば、この電圧と関連する誤差が共に、増幅により基準電圧に反映されるからである。図1および図2の態様において、ΔVbeは、Q2に対してより大きなシリコン面積をとるか、またはQ1のエミッタに、より大きな電流を導入するかにより、拡大することができる。本発明の態様においては、同じR2に対して、I2を減少することによりΔVbeを増加することができる。この技術の効果は、より大きなΔVbeに対してより少ない電力を用いて増分を提供できることである。この利点はまた、シリコン面積を減少させるためにも用いることができる。
【0032】
図4の構成の1つのさらなる利点は、増幅器周りの2つのループが、回路をより安定にするネガティブフィードバックループであることである。非反転入力における電圧が、種々の理由により反転入力より増加した場合、増幅器の出力は高くなる。その結果、M1からM4を通る電流は減少され、非反転入力電圧が低下する。反転入力電圧が増加した場合、増幅器の出力は低くなり、そのためより大きな電流がM1からM4に流される。電流I2が増加すると、R1での電圧降下も増加し、反転入力電圧は低下する。
【0033】
図6は、図5と同じ要素を全て含み、さらに2個のPMOSトランジスタM7およびM8、ならびに2個のバイポーラトランジスタQ4およびQ5が追加されている。トランジスタQ4は、トランジスタQ1と1つのトランジスタスタック内に配置されており、Q1のベースはここではQ4のエミッタに接続され、Q1と同じエミッタ領域を有する。Q4のエミッタはまた、PMOSデバイスM7のドレインに接続されている。同様にして、Q2のベースはここではQ5のエミッタに接続され、Q5はまた、Q2と同じエミッタ領域を有する。Q5のエミッタは、PMOSM8のドレインに接続される。Q4およびQ5のベースは接地される。M7およびM8のソースは、予想通りVDDに接続される。
【0034】
バンドギャップ電圧基準回路によくあるように、基準電圧は、ベース・エミッタ電圧を1ペアのトランジスタにより生成されたΔVbeに加えて生成される。しかし図6に示す本発明の実装によれば、増幅器の入力共通モードの範囲は、ΔVbeの値だけ低められる。これは、増幅器の入力ペアがPMOSトランジスタのセットであり、基準電圧が低い電圧供給を必要とする場合、および/または、温度およびプロセスの広がりから生じるような極端な条件などのシナリオにおいて、特定の用途を有する。4個のバイポーラトランジスタ(2個は高い電流密度、2個は低い電流密度でスタックされた)の使用は、生成されるΔVbeが非スタックの配置の場合より大きくなるため、実装がより容易になる。
【0035】
与えられたワット損(power dissipation)および入力バイアス電流に対して、pチャネルペアに対するノイズは、等価のnチャネル入力ペアに比べて約5倍低い。このスタックされたバイポーラトランジスタおよびpチャネル入力ペアの実装は、しかし、利用可能なヘッドルームが非常に小さいために、極端な条件のシナリオにおいて問題点を有する。その結果、図6の回路は増幅器入力電圧の低減をもたらす。
【0036】
従って、図6に提供されたような本発明の好ましい実装の回路は、PTAT電流においてバイアスされた4個のトランジスタQ1、Q2、Q4およびQ5を含む。トランジスタQ1およびQ4には大きなエミッタ領域が設定され、単位エミッタ領域を有し高い電流密度で動作するトランジスタQ2およびQ5より、低い電流密度で動作する。この差の結果、異なるVBEがそれらの上に確立され、その結果生じたΔVbeが抵抗器R1に現れることが理解される。この電圧は、絶対温度(PTAT)に比例する。
【0037】
増幅器Aは、「+」および「−」両入力における電圧が等しくなることを強制するような方式で動作する。これにより、Q1およびQ4のVbeが、図6の両方の入力において現れることになる。ΔVbeはR1上に現れる。PTAT電流であるフィードバック電流は、増幅器Aによるフィードバックを介して生成され、電流ミラーM1〜M8によってミラーされる。電流ミラーM2は、R1に電圧降下ΔVbeを強制する。
【0038】
フィードバック電流IがPTAT電流である(すなわち、絶対温度に比例する)と仮定すると、Q2、Q5は同一エミッタ領域バイポーラトランジスタであり、Q1とQ4は、Q2とQ5よりn倍広いエミッタ領域を有し、違いは、図6の増幅器Aに対する共通入力電圧が、図1の増幅器Aの対応する電圧より、ΔVbeの値だけ低いことのみであることがわかる。この電圧差が図6の回路のヘッドルームゲインを提供する。付加的補償フィードバックR−C回路を図6の回路に導入して、回路に存在する2つのループに対する補償を供給するようにできることが理解される。
【0039】
図7は、本発明による1つの実装に対する増幅器入力電圧を、最悪ケースの条件である−55℃での従来技術の実装において得られた値と比較したものである。この特定の例において、本発明の回路中の増幅器Aの入力電圧は、従来技術の実装におけるトランジスタの同じ入力電圧より約150mV低いことが理解される。
【0040】
この増幅器入力の差の結果、本発明の回路によって供給される基準電圧は、従来技術の実装のそれよりも低い電圧において低下し始める。最悪条件(−55℃)に対するヘッドルームのこの改善は、図8に示される。
【0041】
図9は、本発明による回路に対する起動時間を、同じ増幅器に対する図1および2の従来技術のそれと比較して示す;これより、本発明の回路は、従来技術と比較して、より少ない振動リング(oscillation ring)およびより短い起動時間を有することがわかる。同時に、周波数補償のために必要な全面積は従来技術で必要な面積の約1/2であり、本発明の回路はより早く起動することが理解される。
【0042】
本発明の回路は、従来技術の実装と比べて多くの点で有利であり、それらには、起動が早い、より低いヘッドルームでかつより少ない供給電圧において作動できる、PSRRがより優れている、より小さな補償キャパシタを必要とするためより小さなダイ面積が必要である、などである。
【0043】
本明細書に、従来技術と比べて改善されたヘッドルームを有するバンドギャップ電圧基準回路が記載されている。当業者には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく変更できることが理解される。従って、添付のクレームの観点から必要とされる可能性のあるものを除き、いかなる方法でも本発明を限定する意図はないことが理解される。
【0044】
本明細書中で本発明を参照して用いる場合、用語「含む/含んでいる」、および「有する/含む」は、述べられた特徴、完全体、ステップまたは要素の存在を特定するために用いるが、1つまたは2つ以上の他の特徴、完全体、ステップ、要素またはこれらの群が存在するかまたは付加されることを除外するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善されたヘッドルームバンドギャップ基準電圧回路であって、ヘッドルームが、前記回路への電力供給電圧と前記回路が供給する基準電圧の差によって規定され、前記回路は、
反転入力ノード、非反転入力ノードおよび出力を有する演算増幅器を含み、該出力は電圧基準ノードに接続されており、
ここで該反転入力ノードおよび該非反転入力ノードは、それぞれ第1および第2トランジスタに接続され、これらのトランジスタは異なる電流密度で動作するよう適合されており、ここで前記演算増幅器の共通入力ノードは、低い方の電流密度で動作するトランジスタのベース・エミッタ電圧から供給され、それによって、前記演算増幅器の共通入力電圧を低減させて前記回路の動作ヘッドルームを減少させる、
前記回路。
【請求項2】
電圧基準ノードの電圧が、PTAT電圧およびCTAT電圧の組み合わせである、請求項1に記載の回路。
【請求項3】
CTAT電圧が、演算増幅器の出力に接続された第3トランジスタのベース・エミッタ電圧から供給される、請求項2に記載の回路。
【請求項4】
演算増幅器がその出力においてPTAT電流を生成し、該PTAT電流は、基準ノードにおいて、電圧基準ノードと接地との間に接続されたインピーダンス負荷の供給によりPTAT電圧に変換される、請求項2に記載の回路。
【請求項5】
演算増幅器の出力ノードが少なくとも1個の電流ミラーに接続され、該電流ミラーは前記演算増幅器の出力において生成されるPTAT電流をミラーリングする、請求項4に記載の回路。
【請求項6】
演算増幅器の共通入力ノード電圧が、第1トランジスタと第2トランジスタのベース・エミッタ電圧の差から得られる、請求項1に記載の回路。
【請求項7】
抵抗器が、演算増幅器の入力ノードと高い方の電流密度で動作するトランジスタの間に接続され、それによって、第1トランジスタと第2トランジスタのベース・エミッタ電圧の間の電圧差を生じさせる、請求項6に記載の回路。
【請求項8】
演算増幅器の共通入力ノードが、抵抗器上に生成された、第1トランジスタと第2トランジスタの電圧差に等しい量だけ低い電圧で動作する、請求項7に記載の回路。
【請求項9】
演算増幅器を有するバンドギャップ基準電圧回路であって、前記演算増幅器はその第1および第2入力に接続された第1および第2トランジスタを有し、第1および第2トランジスタは異なる電流密度を有し、ここで前記演算増幅器の第1入力と低い方の電流密度を有するトランジスタとの間に抵抗器が設置され、前記演算増幅器への共通入力における電圧が、高い方の電流密度を有するトランジスタのベース・エミッタ電圧より、2つのトランジスタにおけるベース・エミッタ電圧の間の差と実質的に同じ量だけ低くなっている、前記回路。
【請求項10】
スタック配置で設置される1ペアのトランジスタが増幅器の各入力に接続され、該スタック配置は、第1のペアトランジスタが、第2のペアトランジスタより低い電流密度で動作することを規定している、請求項1に記載の回路。
【請求項11】
増幅器の出力が電流ミラーに接続され、該電流ミラーは、該増幅器の出力において供給されるPTAT電流を、該増幅器の入力へとミラーリングするように適合されている、請求項9に記載の回路。
【請求項12】
改善されたヘッドルームを有する電圧バンドギャップ回路を提供する方法であって、前記方法は、ステップ:
その入力に接続されたトランジスタ要素を有する増幅器を提供すること、ここで該トランジスタ要素は異なる電流密度を有して提供され、そして前記増幅器の共通入力においてバンドギャップ電圧を生成するよう構成されており、
共通入力に印加される電圧を、前記増幅器の入力に接続されたトランジスタ要素におけるベース・エミッタ電圧の間の差に実質的に等しい量だけ低減させること、ここで該低減は、前記増幅器の第1入力と低い方の電流密度を有するトランジスタ要素との間に抵抗器を設置することによってもたらされる、
を含む、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−23014(P2011−23014A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173957(P2010−173957)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【分割の表示】特願2004−565701(P2004−565701)の分割
【原出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(501144003)アナログ・デバイシズ・インコーポレーテッド (51)
【Fターム(参考)】